説明

硬化性組成物

【課題】高い透明性を有し、かつ、耐熱変色性に優れた低アッベ数の光学材料に適した硬化性組成物並びに硬化物を提供することである。
【解決手段】(A)SiH基と反応性を有する炭素−炭素二重結合を1分子中に少なくとも2個有する有機系化合物
(B)SiH基と反応性を有する炭素−炭素二重結合を1分子中に少なくとも2個有するフルオレン化合物(α)と、1分子中に少なくとも2個のSiH基を有する鎖状及び/又は環状のポリオルガノシロキサン(β)をヒドロシリル化反応して得ることができるSiH基を1分子中に少なくとも2個有するフルオレン骨格含有ケイ素化合物
(C)ヒドロシリル化触媒
を必須成分として含有することを特徴とする硬化性組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は低比重で高い屈折率且つ低アッベ数の光学材料に適した硬化性組成物並びに硬化物を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
プラスチックレンズは、無機レンズに比べ軽量で割れ難く、染色が可能なため近年、眼鏡レンズ、カメラレンズ等の光学素子に急速に普及してきている。これらプラスチックレンズに要求され続けている性能は高屈折率、高い及び/または低いアッベ数、高耐熱性、低比重である。
【0003】
高屈折率はレンズの薄肉化を可能とし、高いアッベ数と低いアッベ数の材料を組み合わせることにより、レンズの色収差を低減し、高耐熱性は二次加工を容易できることから重要である。また低比重であればレンズの軽量化につながる。この為、高屈折率、高い及び/または低いアッベ数、高耐熱性、低比重を備えた樹脂は利用価値が高い。一般的に高屈折率化するにはハロゲン原子や硫黄原子の導入が考えられるが、ハロゲンについては環境問題及び耐熱性の観点から、硫黄原子については比重が重くなるという点で問題がある。
【0004】
例えば、特許文献1では有機樹脂に無機粒子を添加した組成物が開示され、透明性を維持し、屈折率やアッベ数を制御できる硬化物が提案されている。しかし組成物の粘度が高く、操作性の観点から問題となる場合がある。さらに、曇度が数%程度あり、透明性の観点から、撮像系には十分でなかった。またハンダ実装の高温化に伴い、耐熱性も改良の余地を残している。上記の観点からも耐熱性の高いレンズ材料の低アッベ数化は必要不可欠な技術である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−001841号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで本発明の課題は、低比重で高い屈折率且つ低アッベ数の光学材料に適した硬化性組成物並びに硬化物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは鋭意検討の結果、
(A)SiH基と反応性を有する炭素−炭素二重結合を1分子中に少なくとも2個有する有機系化合物
(B)SiH基と反応性を有する炭素−炭素二重結合を1分子中に少なくとも2個有するフルオレン化合物(α)と、1分子中に少なくとも2個のSiH基を有する鎖状及び/又は環状のポリオルガノシロキサン(β)をヒドロシリル化反応して得ることができるSiH基を1分子中に少なくとも2個有するフルオレン骨格含有ケイ素化合物
(C)ヒドロシリル化触媒
を必須成分として含有し、(A)成分中の1wt%以上、下記一般式(I)を含有し、且つ(A)成分中の1wt%〜99wt%の範囲で下記一般式(II)〜(IV)の少なくとも一つを含有することを特徴とする硬化性組成物。
(但し、式中のR1はエチレン性の不飽和結合を有する基を示し、それぞれ同じでも異なっていても良い。)
【0008】
【化1】

【0009】
により、上記課題を解決できることを見出した。
すなわち本発明は以下の構成よりなる。
【0010】
1).(A)SiH基と反応性を有する炭素−炭素二重結合を1分子中に少なくとも2個有する有機系化合物
(B)SiH基と反応性を有する炭素−炭素二重結合を1分子中に少なくとも2個有するフルオレン化合物(α)と、1分子中に少なくとも2個のSiH基を有する鎖状及び/又は環状のポリオルガノシロキサン(β)をヒドロシリル化反応して得ることができるSiH基を1分子中に少なくとも2個有するフルオレン骨格含有ケイ素化合物
(C)ヒドロシリル化触媒
を必須成分として含有し、(A)成分中の1wt%以上、一般式(I)を含有し、且つ(A)成分中の1wt%〜99wt%の範囲で一般式(II)〜(IV)の少なくとも一つを含有することを特徴とする硬化性組成物。
(但し、式中のR1はエチレン性の不飽和結合を有する基を示し、それぞれ同じでも異なっていても良い。)
【0011】
【化2】

【0012】
2).硬化性組成物の1H−NMR(水素原子を観測核とした核磁気共鳴スペクトル法)測定において、テトラメチルシラン(TMS)を基準とした場合に、化学シフトが7.6から7.8ppmの範囲にピークを示すフルオレン骨格由来の水素原子のシグナル強度Xと5.5から7.0ppmの範囲にピークを示す(A)成分中の一般式(I)で表されるフルオレン化合物の炭素−炭素二重結合の一つの水素原子のシグナル強度Yが、0.8>Y/X>0.05を満たすことを特徴とする1)に記載の硬化性組成物。
【0013】
【化3】

【0014】
3).SiH基と反応性を有する炭素−炭素二重結合を1分子中に少なくとも2個有するフルオレン化合物(α)が、前記記載の(A)成分の下記一般式(I)から選ばれる少なくとも一つの化合物である1)または2)に記載の硬化性組成物。(但し、式中のR1はエチレン性の不飽和結合を有する基を示し、それぞれ同じでも異なっていても良い。)
【0015】
【化4】

【0016】
4).1分子中に少なくとも2個のSiH基を有する鎖状及び/又は環状のポリオルガノシロキサン(β)が、環状のポリオルガノシロキサンである1)に記載の硬化性組成物。
【0017】
5).1分子中に少なくとも2個のSiH基を有する鎖状及び/又は環状のポリオルガノシロキサン(β)が、1,3,5,7−テトラメチルテトラシクロシロキサンである4)に記載の硬化性組成物。
【0018】
6).1)〜5)のいずれか一項に記載の硬化性組成物を硬化してなる光学部品。
【発明の効果】
【0019】
本発明の光学材料用硬化性樹脂によれば、低比重で高屈折率且つ低アッベ数の光学材料に適した硬化物が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0021】
[(A)成分]
本発明の(A)成分はSiH基と反応性を有する炭素−炭素二重結合を1分子中に少なくとも2個含有する有機系化合物であれば特に限定されない。
【0022】
(A)成分について、有機骨格部分と、その有機骨格部分に共有結合するSiH基と反応性を有する炭素−炭素二重結合を有する基とからなるものが好ましい。上記SiH基と反応性を有する炭素−炭素二重結合を有する基は、有機骨格のどの部位に共有結合していてもよい。
【0023】
まず、SiH基と反応性を有する炭素−炭素二重結合について述べる。(A)成分が有する炭素−炭素二重結合を有する基は、SiH基と反応性を有するものであれば特に制限されない。SiH基と反応性を有する炭素−炭素二重結合を有する基とは、例えば、下記一般式(V):
【0024】
【化5】

【0025】
(式中R2は水素原子又はメチル基を表す。)で示されるアルケニル基が、原料の入手の容易さから好適である。
【0026】
また反応性が高いことからは、
【0027】
【化6】

【0028】
が特に好ましい。
【0029】
硬化物の耐熱性が高いという点では、上記炭素−炭素二重結合を有する基としては、下記一般式(VI):
【0030】
【化7】

【0031】
(式中R3、R4は、同一又は異なって、水素原子又はメチル基を表す。)で示されるアルケニル基が、好適である。
【0032】
上記(A)成分中の前述した一般式(I)の炭素−炭素二重結合を有する基の具体例としては、ビニル基、アリル基、アクリル基、フェノキシエチルアクリル基、フェノキシエチルビニル基、フェノキシエチルアリル基、フェノキシアクリル基、フェノキシビニル基、フェノキシアリル基が好ましい。
【0033】
さらに前述した一般式(I)については、反応性の観点からビニル基、アリル基、フェノキシエチルビニル基、フェノキシエチルアリル基、フェノキシビニル基、フェノキシアリル基などが特に好ましい。
【0034】
前述した一般式(II)、(III)、(IV)の炭素−炭素二重結合を有する基の具体例としてはビニル基、アリル基、メタリル基、アクリル基、メタクリル基などが好ましい。
【0035】
さらに前述した一般式(II)、(III)、(IV)については、反応性の観点からビニル基、アリル基、メタリル基などが特に好ましい。
【0036】
分子量についても特に限定はないが、取扱い性の観点から、分子量5万以下のものが好ましい。本特許において、分子量とは、GPCによるスチレン換算の数平均分子量を示す。
【0037】
次に(A)成分の(I)〜(IV)の具体例について説明する。
(I)については屈折率及びアッベ数の観点からジビニルフルオレン、ジアリルフルオレン、フルオレンビスフェノキシエチルアクリレート、フルオレンビスフェノキシエチルビニルエーテル、フルオレンビスフェノキシエチルアリルエーテル、フルオレンビスフェノキシアクリレート、フルオレンビスフェノキシビニル、フルオレンビスフェノキシアリル等が挙げられる。
【0038】
また反応性の観点からジビニルフルオレン、ジアリルフルオレン、フルオレンビスフェノキシエチルビニルエーテル、フルオレンビスフェノキシエチルアリルエーテル、フルオレンビスフェノキシビニル、フルオレンビスフェノキシアリルが特に好ましい。
【0039】
(II)については耐熱性の観点からトリアリルイソシアヌレート、ジアリルモノグリシジルイソシアヌレート、トリス(2-アクリロイルオキシエチル)イソシアヌレート等に代表されるイソシアヌレート誘導体、例えば下記構造式を例示することができる。
【0040】
【化8】

【0041】
また入手性の観点からトリアリルイソシアヌレート、ジアリルモノグリシジルイソシアヌレートが特に好ましい。
【0042】
(III)については入手性という観点からビスフェノールFジアリルエーテル、ビスフェノールAジアリルエーテル、ビスフェノールSジアリルエーテルに代表されるビスフェノール誘導体、例えば下記構造式を例示することができる。
【0043】
【化9】

【0044】
また耐熱性という観点からはビスフェノールAジアリルエーテル、ビスフェノールSジアリルエーテルが特に好ましい。
【0045】
(IV)については相溶性の観点からジビニルベンゼン類(純度50−100%のもの、好ましくは純度80〜100%のもの)、ジビニルナフタレン等が挙げられる。
【0046】
また屈折率及びアッベ数という観点からはジビニルベンゼン類(純度80〜100%のもの)、ジビニルナフタレンが特に好ましい。
【0047】
次に(A)成分の前述した一般式(I)〜(IV)の含有量について説明する。(A)成分中の含有量について、(A)成分中の1wt%以上が下記一般式(I)であり、下記一般式(II)及び/または(III)及び/または(IV)
を1wt%〜99wt%の範囲内で含有することができる。
【0048】
【化10】

【0049】
(但し、式中のR1はエチレン性の不飽和基を示し、それぞれ同じでも異なっていても良い。)で表される有機化合物である。
【0050】
(A)成分中の上述した一般式(I)の含有量について屈折率及び/または低アッベ数の観点から一般式(I)は10wt%〜99wt%の範囲で含有していることが好ましく、耐熱性の観点からは60wt%〜99wt%の範囲で含有していることが好ましい。
【0051】
(A)成分中の上述した一般式(II)の含有量について耐熱性の観点から一般式(II)は10wt%〜60wt%の範囲で含有していることが好ましく、高屈折率及び/または低アッベ数の観点からは10wt%〜35wt%の範囲で含有していることが好ましい。
【0052】
(A)成分中の上述した一般式(III)及び/または(IV)の含有量について一般式(I)との相溶性という観点から(A)成分中に上述した一般式(III)及び/または(IV)は10wt%〜90wt%の範囲で含有していることが好ましく、高屈折率及び/または低アッベ数の観点からは10〜80wt%の範囲で含有していることが好ましい。
【0053】
特に(A)成分中の一般式(I)〜(IV)における各含有量の割合については硬化性組成物の相溶性の観点から(I)が60wt%〜90wt%、(II)及び/または(III)及び/または(IV)が10wt%〜30wt%の範囲で含有していることが好ましい。
【0054】
(A)成分としては、耐熱性をより向上し得るという観点からは、SiH基と反応性を有する炭素−炭素二重結合を(A)成分1gあたり0.1mmol以上含有するものが好ましく、1gあたり0.5mmol以上含有するものがより好ましく、1mmol以上含有するものがさらに好ましい。
【0055】
(A)成分のSiH基と反応性を有する炭素−炭素二重結合の数は、平均して1分子当たり少なくとも2個あればよいが、耐熱性をより向上したい場合には2を越えることが好ましく、3個以上であることがより好ましい。(A)成分のSiH基と反応性を有する炭素−炭素二重結合の数が1分子内当たり1個以下の場合は、(B)成分と反応してもグラフト構造となるのみで架橋構造とならない。
【0056】
(A)成分としては反応性が良好であるという観点からは、1分子中にビニル基を1個以上含有していることが好ましく、1分子中にビニル基を2個以上含有していることがより好ましい。また貯蔵安定性が良好となりやすいという観点からは、1分子中にビニル基を6個以下含有していることが好ましく、1分子中にビニル基を4個以下含有していることがより好ましい。
【0057】
(A)成分としては、力学的耐熱性が高いという観点および原料液の糸引き性が少なく成形性、取扱い性、塗布性が良好であるという観点からは、100℃以下の温度において流動性があるものが好ましく、線状でも枝分かれ状でもよい。分子量の下限は50、上限は100,000の任意のものが使用できるが、好ましい下限は54、好ましい上限は70,000、さらに好ましい下限は68、さらに好ましい上限は50,000である。分子量が50より低いものは揮発性が大であり、分子量が100,000を越えるものでは一般に原料が高粘度となり作業性に劣るとともに、アルケニル基とSiH基との反応による架橋の効果が発現し難い。
【0058】
(A)成分としては、他の成分との均一な混合、および良好な作業性を得るためには、粘度としては23℃において3000Pa・s未満のものが好ましく、2000Pa・s未満のものがより好ましく、1000Pa・s未満のものがさらに好ましい。粘度はE型粘度計によって測定することができる。
【0059】
[(B)成分]
次に、(B)成分について説明する。
(B)成分は、SiH基と反応性を有する炭素−炭素二重結合を1分子中に少なくとも2個有するフルオレン化合物(α)と、1分子中に少なくとも2個のSiH基を有する鎖状及び/又は環状のポリオルガノシロキサン(β)をヒドロシリル化反応して得ることができるSiH基を1分子中に少なくとも2個有するフルオレン骨格含有ケイ素化合物であれば特に限定されない。
【0060】
ただし(A)成分が、SiH基と反応性を有する炭素−炭素二重結合を1分子中に少なくとも2個含有する有機化合物である場合、(A)成分と良好な相溶性を有するという観点から、シロキサン骨格のみからなる化合物以外のものが好ましい。ここで、シロキサン骨格とは、
(R5SiO3/2)p(R52SiO2/2)q(R53SiO3/2)r(SiO4/2)t(R5はそれぞれ同一または異種の非置換または置換の1価炭化水素基を示し、p、q、r及びtは各シロキサン単位のモル数を示し、p、q、r、tは0または正数であり、p+q+r+t=1である)のように、主鎖がSiO結合の連続のみからなる骨格をいう。
【0061】
(A)成分が、SiH基と反応性を有する炭素−炭素二重結合を1分子中に少なくとも2個含有する有機化合物である場合、(A)成分と良好な相溶性を有するという観点、および(B)成分の揮発性が低くなり得られる組成物からのアウトガスの問題が生じ難いという観点からは、(B)成分は、SiH基と反応性を有する炭素−炭素二重結合を1分子中に2個以上含有するフルオレン化合物(α)と、1分子中に少なくとも2個のSiH基を有するポリオルガノシロキサン(β)を、ヒドロシリル化反応させて得ることができる化合物であることが好ましい。
【0062】
(B)成分の分子量は特に制約はなく任意のものが好適に使用できるが、硬化性組成物の流動性をより制御しやすいという観点からは低分子量のものが好ましく用いられる。この場合、好ましい分子量の下限は50であり、好ましい分子量の上限は100,000、より好ましくは10,000、さらに好ましくは2,000である。
【0063】
[(α)成分]
ここで(α)成分は、上記した(A)成分の下記一般式(I)である、SiH基と反応性を有する炭素−炭素二重結合を1分子中に少なくとも2個含有するフルオレン化合物と同じものを(α)成分として用いることができる。
【0064】
[(β)成分]
本発明に使用できる1分子中に少なくとも2個のSiH基を有するポリオルガノシロキサンについては、特に制限がなく、具体的な例としては、下記一般式(VII)
【0065】
【化11】

【0066】
(式中、それぞれのR6、R7は、水素あるいは炭素数1−50の一価の有機基を表し、それぞれのR6、R7は異なっていても同一であってもよいが、少なくとも2個は水素である。nは1〜1000の数を表す。)で表される化合物が挙げられる。
6、R7としては、得られる硬化物の耐熱性がより高くなりうるという観点からは、炭素数1〜20の一価の有機基であることが好ましく、炭素数1〜15の一価の有機基であることがより好ましく、炭素数1〜10の一価の有機基であることがさらに好ましい。これらの好ましいR9、R10の例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、フェニル基、ベンジル基、フェネチル基、メトキシ基、エトキシ基、ビニル基、アリル基、グリシジル基等が挙げられる。
【0067】
上記環状ポリオルガノシロキサンとしては、例えば、下記一般式(VIII)
【0068】
【化12】

【0069】
(式中、R8は水素あるいは炭素数1〜6の有機基を表し、それぞれのR8は異なっていても同一であってもよいが、少なくとも2個は水素である。nは2〜10の数を表す。)で表される、1分子中に少なくとも2個のSiH基を有する環状ポリオルガノシロキサン等が挙げられる。なお、上記一般式(VIII)におけるR8は、C、H、Oから構成される炭素数1〜6の有機基であることが好ましく、炭素数1〜6の炭化水素基であることがより好ましく、炭素数1〜6のアルキル基であることがさらに好ましい。また、nは3〜10の数であることが好ましい。
【0070】
これらのうち、入手性の面からは、1分子中に少なくとも2個のSiH基を有する鎖状及び/又は環状及び/又は網目状ポリオルガノシロキサンが好ましい。また、(A)成分との相溶性の面からは、1分子中に少なくとも2個のSiH基を有する環状のポリオルガノシロキサン、又は分子量が10000以下の直鎖状のポリオルガノシロキサンが好ましい。また耐熱性の観点からは1分子中に少なくとも3個のSiH基を有する環状のポリオルガノシロキサンが好ましい。
【0071】
一般式(VIII)で表される環状ポリオルガノシロキサンの好ましい具体例としては、1,3,5−トリメチルシクロトリシロキサン、1,3,5,7−テトラメチルシクロテトラシロキサン、1,3,5,7,9−ペンタメチルシクロペンタシロキサン等が挙げられる。
【0072】
上記したような各種(β)成分は単独もしくは2種以上のものを混合して用いることが可能である。
【0073】
((α)成分と(β)成分の反応)
上述した一般式(I)の骨格を有する1分子中に少なくとも2個のSiH基を含有するフルオレン骨格含有ケイ素化合物を得るための反応について説明する。
【0074】
SiH基と反応性を有する炭素−炭素二重結合を1分子中に少なくとも2個含有するフルオレン化合物(α)と1分子中に少なくとも2個のSiH基を有するポリオルガノシロキサン(β)とをヒドロシリル化反応させる場合の、(α)成分と(β)成分の混合比率は、ヒドロシリル化反応した後に1分子中に少なくとも2個のSiH基が残る範囲であれば、特に限定されない。
【0075】
得られる硬化物の強度を考えた場合、(α)成分中のSiH基との反応性を有する炭素−炭素二重結合のモル数(X)と、(β)成分中のSiH基のモル数(Y)との比は、Y/X≧2であることが好ましく、Y/X≧3であることがより好ましい。
【0076】
ヒドロシリル化させる場合には適当な触媒を用いてもよい。触媒としては、例えば後述する(C)成分を用いることができる。
【0077】
触媒の添加量は特に限定されないが、十分な硬化性を有し、かつ硬化性組成物のコストを比較的低く抑えるため好ましい添加量の下限は、SiH基を有するポリオルガノシロキサン(β)成分のSiH基1モルに対して10-10モル、より好ましくは10-8モルであり、好ましい添加量の上限はSiH基を有するポリオルガノシロキサン(β)成分のSiH基1モルに対して10-1モル、より好ましくは10-3モルである。
【0078】
また、上記触媒には助触媒を併用することが可能であり、例としてトリフェニルホスフィン等のリン系化合物、ジメチルマレート等の1、2−ジエステル系化合物、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−ブチン等のアセチレンアルコール系化合物、単体の硫黄等の硫黄系化合物、トリエチルアミン等のアミン系化合物等が挙げられる。助触媒の添加量は特に限定されないが、ヒドロシリル化触媒1モルに対しての好ましい添加量の下限は、10-2モル、より好ましくは10-1モルであり、好ましい添加量の上限は102モル、より好ましくは10モルである。
【0079】
反応時の触媒混合方法としては、各種方法をとることができるが、(α)成分にヒドロシリル化触媒(C)を混合したものを、(β)成分に混合する方法が好ましい。(α)成分と(β)成分との混合物にヒドロシリル化触媒(C)を混合する方法では反応の制御が困難な場合がある。また、(β)成分とヒドロシリル化触媒(C)を混合したものに(α)成分を混合する方法では、ヒドロシリル化触媒(C)の存在下(β)成分が混入している水分と反応性を有するため、変質することがある。
【0080】
反応温度としては種々設定できるが、好ましい温度範囲の下限は30℃、より好ましくは50℃であり、好ましい温度範囲の上限は200℃、より好ましくは150℃である。反応温度が低いと十分に反応させるための反応時間が長くなる傾向があり、反応温度が高いと工業的に不利な場合がある。反応は一定の温度で行ってもよく、また必要に応じて多段階あるいは連続的に温度を変化させてもよい。
【0081】
反応時間、反応時の圧力も必要に応じ種々設定できる。反応時間については特に限定されない。経済的な面からは、好ましくは20時間以内、さらに好ましくは10時間以内である。圧力も特に限定されないが、特殊な装置が必要になったり、操作が煩雑になったりする、という面から、好ましくは大気圧−5MPa、さらに好ましくは大気圧−2MPaである。
【0082】
ヒドロシリル化反応の際に溶媒を使用してもよい。使用できる溶剤はヒドロシリル化反応を阻害しない限り特に限定されるものではなく、具体的に例示すれば、ベンゼン、トルエン、ヘキサン、ヘプタン等の炭化水素系溶媒、テトラヒドロフラン、1, 4−ジオキサン、1,3−ジオキソラン、ジエチルエーテル等のエーテル系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン系溶媒、クロロホルム、塩化メチレン、1, 2−ジクロロエタン等のハロゲン系溶媒を好適に用いることができる。溶媒は2種類以上の混合溶媒として用いることもできる。溶媒としては、トルエン、テトラヒドロフラン、1,3−ジオキソラン、1,4−ジオキサン、クロロホルムが好ましい。使用する溶媒量も適宜設定できる。
【0083】
溶媒の使用量は、特に限定されないが、反応を均一、かつ、促進させるためには、(α)成分を完全に溶解できる量が好ましい。(α)成分100重量部に対して20重量部以上500重量部以下が好ましく、50重量部以上300重量部以下がより好ましい。
その他、反応性を制御する目的等のために種々の添加剤を用いてもよい。
【0084】
ヒドロシリル化反応後に、溶媒並びに/または未反応のSiH基と反応性を有する炭素−炭素二重結合を1分子中に1個含有する有機系化合物(α)と1分子中に少なくとも3個のSiH基を有するポリオルガノシロキサン(β)を除去することもできる。これらの揮発分を除去することにより、得られる(B)成分が揮発分を有さないため、硬化の場合に揮発分の揮発によるボイド、クラックの問題が生じにくい。除去する方法としては例えば、減圧脱揮の他、活性炭、ケイ酸アルミニウム、シリカゲル等による処理等が挙げられる。減圧脱揮する場合には低温で処理することが好ましい。この場合の好ましい温度の上限は120℃であり、より好ましくは100℃である。高温で処理すると増粘等の変質を伴いやすい。
【0085】
以上のような、(B)成分の例としては、ビスフェノールフルオレンジアリルエーテルと1,3,5,7−テトラメチルシクロテトラシロキサンの反応物、フルオレンジアリルと1,3,5,7−テトラメチルシクロテトラシロキサンの反応物がより好ましい。
【0086】
本発明では、(B)成分は単独又は2種以上のものを混合して用いることが可能である。
【0087】
[(C)成分]
次に、(C)成分であるヒドロシリル化触媒について説明する。
ヒドロシリル化触媒としては、ヒドロシリル化反応の触媒活性があれば特に限定されないが、例えば、白金の単体;アルミナ、シリカ、カーボンブラック等の担体に固体白金を担持させたもの;塩化白金酸;塩化白金酸とアルコール、アルデヒド、ケトン等との錯体;白金−オレフィン錯体(例えば、Pt(CH2=CH22(PPh32、Pt(CH2=CH22Cl2);白金−ビニルシロキサン錯体(例えば、Pt(ViMe2SiOSiMe2Vi)a、Pt[(MeViSiO)4b);白金−ホスフィン錯体(例えば、Pt(PPh34、Pt(PBu34);白金−ホスファイト錯体(例えば、Pt[P(OPh)34、Pt[P(OBu)34)(式中、Meはメチル基、Buはブチル基、Viはビニル基、Phはフェニル基を表し、a、bは、整数を示す。);ジカルボニルジクロロ白金;カールシュテト(Karstedt)触媒;アシュビー(Ashby)の米国特許第3159601号及び第3159662号明細書中に記載された白金−炭化水素複合体;ラモロー(Lamoreaux)の米国特許第3220972号明細書中に記載された白金アルコラート触媒等が挙げられる。さらに、モディック(Modic)の米国特許第3516946号明細書中に記載された塩化白金−オレフィン複合体も本発明において有用である。
【0088】
また、白金化合物以外の触媒の例としては、RhCl(PPh)3、RhCl3、RhAl23、RuCl3、IrCl3、FeCl3、AlCl3、PdCl2・2H2O、NiCl2、TiCl4等が挙げられる。
【0089】
これらの中では、触媒活性の点から、塩化白金酸、白金−オレフィン錯体、白金−ビニルシロキサン錯体等が好ましい。また、これらの触媒は単独で使用してもよく、2種以上併用してもよい。
【0090】
また、上記触媒には助触媒を併用することが可能である。助触媒の例としては、トリフェニルホスフィン等のリン系化合物、ジメチルマレート等の1、2−ジエステル系化合物、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−ブチン等のアセチレンアルコール系化合物、単体の硫黄等の硫黄系化合物、トリエチルアミン等のアミン系化合物、水等が挙げられる。
【0091】
助触媒の添加量は特に限定されないが、上記ヒドロシリル化触媒1モルに対して、下限10-5モル、上限102モルの範囲が好ましく、より好ましくは下限10-3モル、上限10モルの範囲である。
上記触媒には助触媒を併用することができる。
【0092】
[その他の添加物]
本発明の硬化性組成物の基材との接着性を向上させる目的でシラノール縮合触媒を使用することができる。使用できるシラノール縮合触媒としては、特に限定されるものではないが、具体的に例示すれば、ほう酸トリ−2−エチルヘキシル、ほう酸ノルマルトリオクタデシル、ほう酸トリノルマルオクチル、ほう酸トリフェニル、トリメチレンボレート、トリス(トリメチルシリル)ボレート、ほう酸トリノルマルブチル、ほう酸トリ−sec−ブチル、ほう酸トリ−tert−ブチル、ほう酸トリイソプロピル、ほう酸トリノルマルプロピル、ほう酸トリアリル、ほう酸トリエチル、ほう酸トリメチル、ほう素メトキシエトキサイド等を好適に用いることができる。
【0093】
本発明の硬化性組成物は、溶剤を添加して粘度を調整し、作業性を向上させることも可能である。使用できる溶剤としては、特に限定されるものではないが、具体的に例示すれば、ベンゼン、トルエン、ヘキサン、ヘプタン等の炭化水素系溶剤;テトラヒドロフラン、1, 4−ジオキサン、ジエチルエーテル等のエーテル系溶剤;アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶剤;酢酸n−ブチル、エチルセロソルブアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のエステル系溶剤;クロロホルム、塩化メチレン、1, 2−ジクロロエタン等のハロゲン系溶剤等を好適に用いることができる。また、当該溶剤は単独で使用してもよく、2種類以上の混合溶剤として用いることもできる。
【0094】
使用する溶剤量は、[(A)成分+(B)成分]100重量部に対して、下限0.1重量部、上限100重量部の範囲で用いるのが好ましく、下限0.5重量部、上限50重量部の範囲で用いるのがより好ましく、下限1重量部、上限30重量部の範囲で用いるのがさらに好ましい。使用量が0.1重量部より少ないと、低粘度化の効果が得られにくくなる傾向があり、使用量が100重量部より多いと、材料に溶剤が残留して耐熱性の低下等の問題となり易く、またコスト的にも不利になり易い傾向がある。
【0095】
本発明の硬化性組成物の保存安定性を改良する目的、又は、製造過程でのヒドロシリル化反応の反応性を調整する目的で、硬化遅延剤を使用することができる。硬化遅延剤としては、例えば、脂肪族不飽和結合を含有する化合物、有機リン化合物、有機硫黄化合物、窒素含有化合物、スズ系化合物、有機過酸化物等が挙げられる。これらは、単独で使用してもよく、2種以上併用してよい。
【0096】
脂肪族不飽和結合を含有する化合物としては、プロパルギルアルコール類、エン−イン化合物類、マレイン酸エステル類等が例示される。有機リン化合物としては、トリオルガノフォスフィン類、ジオルガノフォスフィン類、オルガノフォスフォン類、トリオルガノフォスファイト類等が例示される。有機硫黄化合物としては、オルガノメルカプタン類、ジオルガノスルフィド類、硫化水素、ベンゾチアゾール、チアゾール、ベンゾチアゾールジサルファイド等が例示される。窒素含有化合物としては、アンモニア、1−3級アルキルアミン類、アリールアミン類、尿素、ヒドラジン等が例示される。スズ系化合物としては、ハロゲン化第一スズ2水和物、カルボン酸第一スズ等が例示される。有機過酸化物としては、ジ−tert−ブチルペルオキシド、ジクミルペルオキシド、ベンゾイルペルオキシド、過安息香酸tert−ブチル等が例示される。
【0097】
これらの硬化遅延剤のうち、遅延活性が良好で原料入手性がよいという観点からは、ベンゾチアゾール、チアゾール、ジメチルマレート、3−ヒドロキシ−3−メチル−1−ブチン、1−エチニル−1−シクロヘキサノールが好ましい。
【0098】
硬化遅延剤の添加量は、使用するヒドロシリル化触媒1モルに対して、下限10-1モル、上限103モルの範囲が好ましく、より好ましくは下限1モル、上限50モルの範囲である。
【0099】
次に、本発明の硬化性組成物の特性を改質する目的で添加することが可能な種々の樹脂について説明する。当該樹脂としては、ポリカーボネート樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリアリレート樹脂、エポキシ樹脂、シアナート樹脂、フェノール樹脂、アクリル樹脂、ポリイミド樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂等が例示されるが、これらに限定されるものではない。
【0100】
本発明の硬化性組成物には、必要に応じて無機フィラーを添加してもよい。無機フィラーを添加すると、材料の高強度化や難燃性向上などに効果がある。無機フィラーとしては、微粒子状のものが好ましく、超微粉無定型シリカ、疎水性超微粉シリカ等を挙げることができる。
【0101】
フィラーを添加する方法としては、例えば、アルコキシシラン、アシロキシシラン、ハロゲン化シラン等の加水分解性シランモノマー又はオリゴマーや、チタン、アルミニウム等の金属のアルコキシド、アシロキシド又はハロゲン化物等を、本発明の硬化性組成物に添加して、組成物中あるいは組成物の部分反応物中で反応させ、組成物中で無機フィラーを生成させる方法等も挙げることができる。
【0102】
本発明で得られる硬化性組成物には老化防止剤を添加してもよい。老化防止剤としては、ヒンダートフェノール系等一般に用いられている老化防止剤の他、クエン酸やリン酸、硫黄系老化防止剤等が挙げられる。
【0103】
ヒンダートフェノール系老化防止剤としては、チバスペシャリティーケミカルズ社から入手できるイルガノックス1010をはじめとして、各種のものが用いられる。
【0104】
硫黄系老化防止剤としては、メルカプタン類、メルカプタンの塩類、スルフィドカルボン酸エステル類や、ヒンダードフェノール系スルフィド類を含むスルフィド類、ポリスルフィド類、ジチオカルボン酸塩類、チオウレア類、チオホスフェイト類、スルホニウム化合物、チオアルデヒド類、チオケトン類、メルカプタール類、メルカプトール類、モノチオ酸類、ポリチオ酸類、チオアミド類、スルホキシド類等が挙げられる。
【0105】
また、これらの老化防止剤は単独で使用してもよく、2種以上併用してもよい。
【0106】
本発明で得られる硬化性組成物にはラジカル禁止剤を添加してもよい。ラジカル禁止剤としては、例えば、2,6−ジ−t−ブチル−3−メチルフェノール(BHT)、2,2’−メチレン−ビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、テトラキス(メチレン−3(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート)メタン等のフェノール系ラジカル禁止剤や、フェニル−β−ナフチルアミン、α−ナフチルアミン、N,N’−第二ブチル−p−フェニレンジアミン、フェノチアジン、N,N’−ジフェニル−p−フェニレンジアミン等のアミン系ラジカル禁止剤等が挙げられる。
【0107】
また、これらのラジカル禁止剤は単独で使用してもよく、2種以上併用してもよい。
【0108】
本発明で得られる硬化性組成物には紫外線吸収剤を添加してもよい。紫外線吸収剤としては、例えば2(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−t−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジン)セバケート等が挙げられる。
【0109】
また、これらの紫外線吸収剤は単独で使用してもよく、2種以上併用してもよい。
【0110】
本発明の硬化性組成物には、その他、難燃剤、界面活性剤、消泡剤、乳化剤、レベリング剤、はじき防止剤、アンチモン−ビスマス等のイオントラップ剤、チクソ性付与剤、粘着性付与剤、オゾン劣化防止剤、光安定剤、増粘剤、可塑剤、酸化防止剤、熱安定剤、加工安定剤、反応性希釈剤、帯電防止剤、放射線遮断剤、核剤、リン系過酸化物分解剤、滑剤、顔料、金属不活性化剤、接着性付与剤、物性調整剤等を、本発明の目的及び効果を損なわない範囲において添加することができる。
【0111】
本発明の硬化性組成物は、上記各成分を混合等することにより得られる。
【0112】
次に1H−NMR(水素原子を観測核とした核磁気共鳴スペクトル法)測定について説明する。本測定は硬化性組成物の1H−NMRを測定し、テトラメチルシラン(TMS)を基準とした場合に、化学シフトが7.6から7.8ppmの範囲にピークを示すフルオレン骨格由来の水素原子のシグナル強度Xと5.5から7.0ppmの範囲にピークを示す(A)成分中の一般式(I)で表されるフルオレン化合物の炭素−炭素二重結合の一つの水素原子のシグナル強度Yの強度比を算出することにより、(A)成分の一般式(I)の含有量と(B)成分であるフルオレン骨格含有ケイ素化合物の配合比率を求めることができる。
【0113】
得られる硬化物が低アッベ数であるという観点からはシグナル強度比Y/Xは0.8>Y/X>0.05を満たすことが好ましく、さらに好ましくは0.8>Y/X>0.1である。また硬化組成物の粘度の観点から好ましくは0.8>Y/X>0.2である。
【0114】
[硬化方法]
本発明の硬化性組成物を硬化させる方法としては、特に限定されないが、各成分を単に混合するだけで硬化させることもできるし、加熱して硬化させることもできる。硬化反応が速く、一般に耐熱性の高い材料が得られ易いという観点から、加熱して硬化させる方法が好ましい。
【0115】
硬化温度としては種々設定できるが、下限25℃、上限300℃の温度範囲が好ましく、下限50℃、上限280℃がより好ましく、下限100℃、上限260℃がさらに好ましい。硬化温度が25℃より低いと十分に硬化させるための時間が長くなる傾向があり、硬化温度が300℃より高いと製品の熱劣化が生じ易くなる傾向がある。
【0116】
硬化は一定の温度で行ってもよいが、必要に応じて多段階あるいは連続的に温度を変化させてもよい。一定の温度で行うより、多段階的あるいは連続的に温度を上昇させながら反応させた方が、歪のない均一な硬化物が得られ易いという点で好ましい。
【0117】
硬化時の圧力も必要に応じて種々設定でき、常圧、高圧又は減圧状態で反応させることもできる。
【0118】
[硬化物の特性]
本発明の上記(C)成分の好ましい添加量は[(A)成分+(B)成分]100重量部に対して0.00001〜10重量部である。(C)成分が3重量部以下で、それ以外は本発明の硬化性組成物と同じとしたときの硬化性組成物を硬化させてなる硬化物のガラス転移温度が低いと耐熱性が低く、また硬化物の材料強度が低くなる恐れがある。硬化物の材料強度が低いとクラックが発生しやすくなる。
【0119】
本発明はレンズや光ファイバ等の光学部品の接着剤やコーティング剤や、LEDや受光素子などの光半導体の保護・封止材といった光学材料用高分子材料として使用することができる。
【実施例】
【0120】
以下に、本発明の実施例および比較例を示すが、本発明は以下によって限定されるものではない。
【0121】
(合成例1)
500mLフラスコにビスフェノールフルオレン70.1g、炭酸カリウム60.8g、アセトン140gを仕込み、攪拌しながら50℃まで加熱した後、臭化アリルを1時間かけて滴下した。滴下後、60℃に昇温し、7時間反応させた。反応後、トルエン200gを加えて残渣をろ過した。その後、アセトン、トルエン、臭化アリルを減圧留去して再度トルエン200gに溶解した。その溶液を1N水酸化ナトリウム水溶液50mL、1N塩酸50mL、純水50mLで3回洗浄し、炭酸ナトリウムで脱水した後、トルエンを留去した。反応生成物をヘキサンにより再結晶してフルオレンビスフェノキシジアリルエーテルの白色固体50gを得た。(反応物A1と称す)
【0122】
【化13】

【0123】
(合成例2)
500mLフラスコにフルオレン49.8g及びメチルイソブチルケトン200g、テトラ−n−ブチルアンモニウムブロミド2.91g(9×10-3モル)、ハイドロキノン0.73g、50質量%NaOH水溶液96gを仕込み、攪拌しながら60℃まで昇温して均一の溶液にした。この溶液にアリルクロライド53.5g(0.7モル)を20分かけて滴下し、その後60℃で7時間反応させた。得られた反応生成物に200mLのトルエンを追加してから、溶液を2N塩酸で中和した後、純水で3回洗浄し、トルエンを減圧留去後、得られた黄色液体をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製し、9,9'−ジアリルフルオレンの無色液体50g得た。(反応物A2と称す)
【0124】
【化14】

【0125】
(合成例3)
500mLフラスコにトルエン80.0 g 及び1 , 3 , 5 , 7 − テトラメチルシクロテトラシロキサン130.0 g を加えて、内温が90 ℃ になるように加熱した。そこに、ビスフェノールSジアリルエーテル33.0 g 、白金ビニルシロキサン錯体のキシレン溶液(白金として3 w t % 含有) 0.65 g及びトルエン33.0 g のスラリー溶液を5分割して30分間隔で添加した。最終添加から2 時間加熱還流させた。未反応の1 , 3 , 5 , 7 − テトラメチルシクロテトラシロキサンおよびトルエンを減圧留去した。1 H − N M R によりこのものは1 , 3 , 5 , 7 − テトラメチルシクロテトラシロキサンのS i H 基の一部がビスフェノールSジアリルエーテルと反応したもの(下記化学式、反応物B1と称す)、S i H 価: 6.8 m m o l / g )であることがわかった。
【0126】
【化15】

【0127】
(合成例4)
200mLフラスコにトルエン13.0 g 及び1 , 3 , 5 , 7 − テトラメチルシクロテトラシロキサン26.0 g を加えて、内温が105 ℃ になるように加熱した。そこに、ビスフェノールフルオレンジアリルエーテル8.6 g 、白金ビニルシロキサン錯体のキシレン溶液(白金として3 w t % 含有) 0.21 g及びトルエン25.8 g のスラリー溶液を5分割して30分間隔で添加した。最終添加から2 時間加熱還流させた。未反応の1 , 3 , 5 , 7 − テトラメチルシクロテトラシロキサンおよびトルエンを減圧留去した。1 H − N M R によりこのものは1 , 3 , 5 , 7 − テトラメチルシクロテトラシロキサンのS i H 基の一部がビスフェノールフルオレンジアリルエーテルと反応したもの(下記化学式、反応物B2と称す)、S i H 価: 7.6 m m o l / g )であることがわかった。
【0128】
【化16】

【0129】
(実施例1および比較例1、2)
下記表1に従い配合した。実施例については(A)成分としてA1、トリアリルイソシアヌレート、(B)成分として合成例4の合成物B2を用い、(C)成分として白金−ジビニルテトラメチルジシロキサン錯体のキシレン溶液(白金3重量%含有)を用い、表1に示した配合割合(重量)で硬化性組成物を作製した。比較例については(A)成分としてA1、A2、トリアリルイソシアヌレート、下式で示される市販のビニルジメチルシロキシ末端ポリジメチルシロキサン(数平均分子量770)、(B)成分として合成例3の合成物B1もしくは1 , 3 , 5 , 7 − テトラメチルシクロテトラシロキサンを用い、(C)成分として白金−ジビニルテトラメチルジシロキサン錯体のキシレン溶液(白金3重量%含有)を用い、表1に示した配合割合(重量)で硬化性組成物を作製した。
【0130】
【化17】

【0131】
(評価方法)
以下の評価を実施し表1に結果を示した。
【0132】
実施例1及び比較例1については配合物を攪拌、脱泡したものを硬化性組成物とした。この硬化性組成物を、2枚のガラス板に1mm厚みのシリコーンゴムシートをスペーサーとして挟み込んで作製したセルに流し込み、室温から130℃まで6℃/minで昇温し、130℃40分、180℃15分で加熱し硬化物を得た。比較例2については上記と同様にガラスセルに流し込み、室温から150℃まで昇温した後、3時間加熱し硬化物を得た。
【0133】
得られた各硬化物について、硬化物の光学特性、耐熱性、比重を以下に述べる試験方法により測定した。
【0134】
(硬化物の光学特性)
Metoricon社製、プリズムカプラ2010/Mを用いて硬化物の404、594、827nmでの屈折率をhalfモードで5回連続測定し、平均値を各波長の屈折率とした。内蔵ソフトのCauchyの近似式により486、589、656nmでの屈折率(n)を求め、アッベ数を算出した。
【0135】
(硬化物の耐熱性)
島津社製TGA50熱重量分析装置で測定した。上記硬化物を木製ハンマーで砕くか、もしくはカッターナイフで削りTGA用測定サンプルとした。このサンプルのうち6〜8mgを計量し、TGA分析に用いた。測定条件は空気雰囲気下、室温〜500℃まで昇温速度10℃/minで昇温した。
【0136】
(硬化物比重)
上記硬化条件で得られた硬化物(1mm厚)を1.5cm×1.5cmの正方形に切削し、硬化物の比重を自動比重測定装置にて測定した。
【0137】
(硬さ試験)
硬化物(1mm厚)をJIS K6253により、タイプDデュロ−メータによって硬さを測定した。
【0138】
(離型性試験)
離型剤(FREKOTE 700−NC)を吹き付け、150℃で2時間以上加熱処理したスライドガラスを、ホットプレート上で表面温度150℃に加熱し、樹脂を付着させた底面φ4mmの分銅を置き、10分間加熱、硬化させた。室温まで冷却後、プッシュプルゲージで離型にかかった力を測定した。
【0139】
【表1】

【0140】
これらの硬化性組成物を光学部品として成形することを考慮すると、例えば光学用レンズ用途において、レンズの軽量化という観点から、比重は1.2以下、望ましくは1.1以下である。レンズの低背化という観点からは屈折率は1.50以上、望ましくは1.57以上である。また色収差の課題を解決する為にアッベ数差のあるレンズ材料を組み合わせるという観点からは低アッベ数の材料は27以下であることが望ましい。また成形後、リフロー工程を経ることを想定すると耐熱性という観点から5%重量減少温度は450℃以上が望ましい。成形体に傷がつきにくいという点ではショアD硬度は80より大きく、望ましくは85以上である。また成形時の生産性という観点からは硬化物が離型しやすい方が望ましく、離型時にかかる荷重は20N未満が望ましい。硬化性組成物が低アッベ数且つ高屈折率であるという観点からは硬化性組成物の1H−NMRを測定結果より、テトラメチルシラン(TMS)を基準とした場合に、化学シフトが7.6から7.8ppmの範囲にピークを示すフルオレン骨格由来の水素原子のシグナル強度Xと5.5から7.0ppmの範囲にピークを示す(A)成分中の一般式(I)で表されるフルオレン化合物の炭素−炭素二重結合の一つの水素原子のシグナル強度Yのシグナル強度比Y/Xは0.8>Y/X>0.05を満たすことが好ましく、さらに好ましくは0.8>Y/X>0.1である。また硬化組成物の粘度の観点から好ましくは0.8>Y/X>0.2である。
【0141】
本発明の硬化性組成物を用いた硬化物は比較例1と比べて、比重が低いにも関わらず、屈折率が高く、低アッベ数であり、さらに耐熱性が高いことが示された。また硬度についても比較例1に比べて高く、離型性評価からガラス基材への離型性が良いことから、成形時の離型のしやすさという点でも期待できる。またフルオレン化合物を含有した比較例2と比べても屈折率が高く、低アッベ数であり、また耐熱性に優れ、硬度が高いことが示された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)SiH基と反応性を有する炭素−炭素二重結合を1分子中に少なくとも2個有する有機系化合物
(B)SiH基と反応性を有する炭素−炭素二重結合を1分子中に少なくとも2個有するフルオレン化合物(α)と、1分子中に少なくとも2個のSiH基を有する鎖状及び/又は環状のポリオルガノシロキサン(β)をヒドロシリル化反応して得ることができるSiH基を1分子中に少なくとも2個有するフルオレン骨格含有ケイ素化合物
(C)ヒドロシリル化触媒
を必須成分として含有し、(A)成分中の1wt%以上、下記一般式(I)を含有し、且つ(A)成分中の1wt%〜99wt%の範囲で下記一般式(II)〜(IV)の少なくとも一つを含有することを特徴とする硬化性組成物。
(但し、式中のR1はエチレン性の不飽和結合を有する基を示し、それぞれ同じでも異なっていても良い。)
【化1】

【請求項2】
硬化性組成物の1H−NMR(水素原子を観測核とした核磁気共鳴スペクトル法)測定において、テトラメチルシラン(TMS)を基準とした場合に、化学シフトが7.6から7.8ppmの範囲にピークを示すフルオレン骨格由来の水素原子のシグナル強度Xと5.5から7.0ppmの範囲にピークを示す(A)成分中の下記一般式(I)で表されるフルオレン化合物の炭素−炭素二重結合の一つの水素原子のシグナル強度Yが、0.8>Y/X>0.05を満たすことを特徴とする請求項1に記載の硬化性組成物。
【化2】

【請求項3】
SiH基と反応性を有する炭素−炭素二重結合を1分子中に少なくとも2個有するフルオレン化合物(α)が、前記記載の(A)成分の下記一般式(I)から選ばれる少なくとも一つの化合物である請求項1または2に記載の硬化性組成物。(但し、式中のR1はエチレン性の不飽和結合を有する基を示し、それぞれ同じでも異なっていても良い。)
【化3】

【請求項4】
1分子中に少なくとも2個のSiH基を有する鎖状及び/又は環状のポリオルガノシロキサン(β)が、環状のポリオルガノシロキサンである請求項1に記載の硬化性組成物。
【請求項5】
1分子中に少なくとも2個のSiH基を有する鎖状及び/又は環状のポリオルガノシロキサン(β)が、1,3,5,7−テトラメチルテトラシクロシロキサンである請求項4に記載の硬化性組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の硬化性組成物を硬化してなる光学部品。

【公開番号】特開2012−229356(P2012−229356A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−99474(P2011−99474)
【出願日】平成23年4月27日(2011.4.27)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】