硬化状態測定装置および硬化状態測定方法
【課題】紫外線硬化樹脂に対する硬化反応に係る要因を考慮した適切な判断基準を容易に設定できる硬化状態測定装置および硬化状態測定方法を提供する。
【解決手段】CPUは、投光駆動回路に制御指令を与え、励起紫外線を相対的に短時間だけ照射させる(ステップS104)。CPUは、この励起紫外線の照射を受けて紫外線硬化樹脂から発生する蛍光量を、アナログデジタル変換部から取得し(ステップS106)、その値を初期蛍光量として表示部に表示する(ステップS108)。ユーザは、初期蛍光量の表示中に、設定値変更ボタンを操作して初期蛍光量に対する相対値としてしきい値を設定する。
【解決手段】CPUは、投光駆動回路に制御指令を与え、励起紫外線を相対的に短時間だけ照射させる(ステップS104)。CPUは、この励起紫外線の照射を受けて紫外線硬化樹脂から発生する蛍光量を、アナログデジタル変換部から取得し(ステップS106)、その値を初期蛍光量として表示部に表示する(ステップS108)。ユーザは、初期蛍光量の表示中に、設定値変更ボタンを操作して初期蛍光量に対する相対値としてしきい値を設定する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は紫外線硬化樹脂の硬化状態を測定する硬化状態測定装置および硬化状態測定方法に関し、特に紫外線硬化樹脂の特性や対象物などに応じて適切な測定を行なうための装置および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、多くの産業分野において、接着剤やコーティング剤の硬化方法として紫外線硬化法(Ultra Violet Curing)が利用されている。紫外線硬化法は、熱エネルギーを利用する熱硬化方法に比較して、有害物質を大気中に放散しない、硬化時間が短い、熱に弱い製品にも適用できるなどの多くの利点を有している。
【0003】
紫外線硬化法では、紫外線照射前においては主に液体である一方、紫外線照射後においては固体に変化する、紫外線硬化樹脂が用いられる。このような紫外線硬化樹脂は、主剤としてモノマーおよびオリゴマーの少なくとも一方を含み、さらに光重合開始剤を含む。光重合開始剤は、照射される紫外線を受けてラジカルやカチオンを発生し、発生したラジカルやカチオンがモノマーやオリゴマーと重合反応を生じる。この重合反応に伴いモノマーやオリゴマーはポリマーに変化し、分子量が極めて大きくなるとともに、融点が低下する。この結果、紫外線硬化樹脂は液体状態を維持できなくなって固体に変化する。
【0004】
一方、目視による紫外線硬化樹脂の硬化度や品質異常有無の判断は困難であり、紫外線硬化樹脂の硬化反応状態を容易に判断する方法が要望されている。そこで、たとえば特許第2651036号公報(特許文献1)には、硬化可能材料の硬化度の関数として変化するように発光するプローブを紫外線硬化樹脂に添加することで、硬化可能コーティング材料の硬化程度を監視する方法が開示されている。しかしながら、上述のプローブのように特別な材料を添加することはコスト的に不利であり、また品質上の観点からそのようなプローブを添加することが許容されない場合も多いため、汎用的ではない。
【0005】
これに対して、本願発明者らは、紫外線硬化樹脂に対する紫外線照射に応じて、紫外線硬化樹脂に含まれる光重合開始剤自体が紫外線硬化樹脂の硬化状態(たとえば、硬化度)と相関のある観測可能な蛍光を放射する事実を見出し、この事実を利用した紫外線硬化樹脂の状態推定方法を特願2006−071580号として出願した。
【特許文献1】特許第2651036号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述の紫外線硬化樹脂の状態推定方法によれば、紫外線光源で発生した紫外線を対象物である紫外線硬化樹脂に照射するとともに、この紫外線によって生じた蛍光を受光部で検出し、この受光部で検出される蛍光量に基づいて硬化状態が判断される。
【0007】
ところで、この紫外線硬化樹脂から放射される蛍光の量は、紫外線硬化樹脂の種類やその劣化状態(品質)、および紫外線の照射条件などに依存する。そのため、紫外線硬化樹脂の硬化度や品質異常有無をより正確に判断しようとする場合には、このような要因を考慮した適切な判断基準を予め取得しておく必要がある。
【0008】
しかしながら、このような要因を正確に特定することは容易ではなく、適切な判断基準を決定することは困難であった。
【0009】
そこで、この発明は、かかる問題を解決するためになされたものであり、その目的は、紫外線硬化樹脂に対する硬化反応に係る要因を考慮した適切な判断基準を容易に設定できる硬化状態測定装置および硬化状態測定方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明のある局面に従えば、モノマーおよびオリゴマーの少なくとも一方からなる主剤と光重合開始剤とを含む紫外線硬化樹脂の硬化状態を測定する硬化状態測定装置を提供する。硬化状態測定装置は、紫外線硬化樹脂を活性化するための紫外線を発生する投光部と、紫外線を受けて光重合開始剤から放射される蛍光を受光する受光部と、制御部と、表示部と、操作部とを備える。制御部は、操作部からの設定操作に応じて設定モードおよび検査モードのいずれかを選択可能なモード切替手段と、設定モードにおいて紫外線が紫外線硬化樹脂に照射されたときに、受光部で受光される蛍光の量を初期値として表示部に表示する初期値表示手段と、設定モードにおける初期値の表示中に、操作部からの設定操作に応じて判断基準を設定する判断基準設定手段と、検査モードにおいて紫外線が紫外線硬化樹脂に照射されたときに、受光部で受光される蛍光の量に基づいて、紫外線硬化樹脂で判断基準に沿った硬化反応が生じているか否かを判断する判断手段とを含む。
【0011】
この発明によれば、紫外線硬化樹脂で硬化反応が生じる前に、予め紫外線を紫外線硬化樹脂へ照射して蛍光量の初期値を取得し、その初期値を表示部に表示する。そして、この初期値の表示中に、ユーザからの設定操作に応じて判断基準が設定される。これにより、ユーザは、初期値を参照しながら判断基準を設定できるので、さまざまな要因によって変動する初期値に応じた判断基準を設定できる。したがって、紫外線硬化樹脂に対する硬化反応に係る要因を考慮した適切な判断基準を容易に設定できる。
【0012】
好ましくは、制御部は、初期値に基づいて、予め定められた演算式に従って判断基準の候補を算出する判断基準候補算出手段をさらに含む。
【0013】
好ましくは、硬化状態測定装置は、記憶部をさらに備え、制御部は、操作部からの設定操作に応じて紫外線硬化樹脂の種別を設定する種別設定手段と、紫外線硬化樹脂の種別に対応付けて、設定された判断基準を記憶部に格納する判断基準格納手段とをさらに含む。
【0014】
好ましくは、制御部は、初期値と、紫外線硬化樹脂の硬化反応の完了後に紫外線を照射して得られる蛍光の量である最終値とに基づいて、判断基準を算出するティーチング手段をさらに含む。
【0015】
さらに好ましくは、ティーチング手段は、紫外線硬化樹脂の硬化反応を促進するための他の紫外線が紫外線硬化樹脂に継続的に照射される場合において、紫外線を紫外線硬化樹脂に継続的に照射して得られる蛍光の量の時間的変化に基づいて、初期値および最終値を取得する。
【0016】
好ましくは、制御部は、紫外線を紫外線硬化樹脂に照射して得られる蛍光の量に基づいて、紫外線硬化樹脂の良否を判断する。
【0017】
好ましくは、判断基準は、しきい値である。
この発明の別の局面に従えば、硬化状態測定装置を用いて、モノマーおよびオリゴマーの少なくとも一方からなる主剤と光重合開始剤とを含む紫外線硬化樹脂の硬化状態を測定する硬化状態測定方法を提供する。硬化状態測定装置は、紫外線を発生する投光部と、蛍光を受光する受光部と、表示部と、操作部とを備える。硬化状態測定方法は、操作部からの設定操作に応じて設定モードおよび検査モードのいずれかを選択するステップと、設定モードにおいて、投光部から紫外線を紫外線硬化樹脂へ照射するステップと、設定モードにおいて、紫外線を受けて光重合開始剤から放射される蛍光を受光部で受光するステップと、設定モードにおいて、受光部で受光される蛍光の量を初期値として表示部に表示するステップと、設定モードにおける初期値の表示中に、操作部からの設定操作に応じて判断基準を設定するステップと、検査モードにおいて、投光部から紫外線を紫外線硬化樹脂へ照射するステップと、検査モードにおいて、受光部で受光される蛍光の量に基づいて、紫外線硬化樹脂で判断基準に沿った硬化反応が生じているか否かを判断するステップとを備える。
【発明の効果】
【0018】
この発明によれば、紫外線硬化樹脂に対する硬化反応に係る要因を考慮した適切な判断基準を容易に設定できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
この発明の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中の同一または相当部分については、同一符号を付してその説明は繰返さない。
【0020】
(紫外線照射システムの概略構成)
図1は、この発明の実施の形態に従う硬化状態測定装置を備える紫外線照射システム1の概略構成図である。
【0021】
図1を参照して、紫外線照射システム1は、紫外線硬化樹脂12の硬化状態を測定する硬化状態測定装置100(以下、「測定装置100」とも称す)と、紫外線硬化樹脂12の硬化反応を促進するための硬化用紫外線54を照射する光源装置200とを備える。そして、紫外線照射システム1は、一例として、基材6の上に被着体8を配置し、紫外線硬化樹脂12を用いて両者を接着するような製造ラインに配置される。なお以下では、基材6と、被着体8と、紫外線硬化樹脂12とを一体として「ワーク」とも称す。紫外線硬化樹脂12は、モノマーおよびオリゴマーの少なくとも一方からなる主剤と、光重合開始剤とを含み、紫外線を受けて硬化反応を生じる。
【0022】
光源装置200は、硬化用紫外線54を発生する照射ヘッド部204と、照射ヘッド部204を制御するための光源部202とからなる。
【0023】
照射ヘッド部204は、硬化用紫外線54を発生する紫外線光源を含み、紫外線光源は、代表的に紫外線LED(Light Emitting Diode)や紫外線ランプなどを含む。また、発生した硬化用紫外線54が紫外線硬化樹脂12に照射されるように、照射ヘッド部204は、たとえばワークの垂直上部に配置される。
【0024】
光源部202は、照射ヘッド部204と電気的に接続され、ユーザや外部装置などからの外部指令に応答して、照射ヘッド部204における硬化用紫外線54の発生を制御する。具体的には、光源部202は、硬化用紫外線54の照射指令(図示しない)に応答して、硬化用紫外線54の発生を開始するとともに、測定装置100などからの硬化用紫外線54の照射終了指示に応答して、硬化用紫外線54の発生を停止する。
【0025】
また、測定装置100の照射動作を硬化用紫外線54の照射状態に同期させるために、光源部202は硬化用紫外線54の照射状態信号、たとえば照射開始信号や照射終了信号を測定装置100へ送出する。
【0026】
一方、この発明の実施の形態に従う測定装置100は、蛍光測定ヘッド部104と、蛍光測定ヘッド部104を制御するための制御部102とを備える。
【0027】
蛍光測定ヘッド部104は、制御部102から受けた制御指令に従って、対象となる紫外線硬化樹脂12を活性化させるための励起紫外線50を発生し、紫外線硬化樹脂12に向けて照射するとともに、励起紫外線50を受けて紫外線硬化樹脂12から放射される蛍光52を受光し、その蛍光の量を示す信号を制御部102へ出力する。すなわち、蛍光測定ヘッド部104は、励起紫外線50を発生する紫外線LEDなどの投光部と、励起紫外線50から放射される蛍光52を受光する受光部とを備える。
【0028】
一方、制御部102は、蛍光測定ヘッド部104と電気的に接続され、光源装置200の照射状態に応じて蛍光測定ヘッド部104における励起紫外線50の発生を制御するとともに、蛍光測定ヘッド部104から出力される蛍光量を示す信号を取得する。また、制御部102は、操作部44(図2)からの設定操作に応じて、「設定モード」および「検査モード」のいずれかを選択可能に構成される。「設定モード」は、紫外線硬化樹脂に硬化用紫外線54が照射される前に、代表的にしきい値などの判断基準を設定するためのモードである。「検査モード」は、紫外線硬化樹脂に硬化用紫外線54が照射して硬化反応を促進するとともに、当該紫外線硬化樹脂で所定の判断基準に沿った硬化反応が生じているか否かを判断するモードである。
【0029】
そして、制御部102は、設定モードにおいて、励起紫外線50が紫外線硬化樹脂12に照射されたときに、蛍光測定ヘッド部104から出力される蛍光量を初期値(以下、「初期蛍光量」とも称す)として表示部42(図2)に表示する。この初期蛍光量の表示中に、ユーザはこの初期蛍光量を参照して、判断基準を設定する。ここで、初期蛍光量は、後述するように、紫外線硬化樹脂の種類やその状態、紫外線の照射条件、およびワークの材質といった種々の要因に依存した値となっている。そのため、この初期蛍光量に基づいて判断基準を設定することで、対象とするワークに適した判断基準を適切に設定することができる。
【0030】
このように判断基準が設定された後、ユーザは、検査モードを選択した上で、照射ヘッド部204からの硬化用紫外線54の照射が開始させる。この硬化用紫外線54の照射中において、蛍光測定ヘッド部104からは励起紫外線50が継続的に照射され、紫外線硬化樹脂12の硬化状態が継続的に測定される。制御部102は、この蛍光測定ヘッド部104で検出される蛍光量に基づいて、紫外線硬化樹脂で予め設定した判断基準に沿った硬化反応が生じているか否かを判断する。さらに、制御部102は、紫外線硬化樹脂12における硬化反応が完了したと判断すると、照射終了指示を光源部202に与えるとともに、励起紫外線50の発生を停止して紫外線硬化樹脂12の硬化状態の測定を終了する。
【0031】
(紫外線硬化樹脂)
まず、本実施の形態に従う紫外線照射システム1において使用される紫外線硬化樹脂12について説明する。紫外線硬化樹脂12は、紫外線照射前においては主に液体である一方、紫外線照射後においては固体に変化(硬化)する。なお、本明細書において、「紫外線硬化樹脂」とは、その状態(紫外線照射前の液体状態、もしくは紫外線照射後における固体状態)にかかわらず総称的な意味で使用する。
【0032】
紫外線照射前(硬化前)における紫外線硬化樹脂は、モノマーおよびオリゴマーの少なくとも一方と、光重合開始剤と、各種添加剤とを含む。モノマーおよびオリゴマーは主剤であり、紫外線を受けて光重合開始剤が発生するラジカルやカチオンにより重合反応(主鎖反応や架橋反応など)を生じる。そして、この重合反応に伴いモノマーおよびオリゴマーは、ポリマーに変化して分子量が極めて大きくなるとともに融点が低下する。この結果、紫外線硬化樹脂は液体から固体へ変化する。
【0033】
モノマーおよびオリゴマーは、一例として、ポリエステルアクリレートや、ウレタンアクリレート、ポリブタジエンアクリレート、シリコンアクリレート、エポキシアクリレートなどからなる。モノマーは、単量体とも呼ばれ、重合反応によって重合体を合成する場合の原料となる状態である。一方、オリゴマーは、低重合体とも呼ばれ、重合度が2〜20程度の比較的重合度の低い状態である。
【0034】
光重合開始剤は、紫外線を受けてラジカルを発生するラジカル重合開始剤と、紫外線を受けてカチオンを発生するカチオン重合開始剤とに大別される。なお、ラジカル重合開始剤は、アクリル系のモノマーおよびオリゴマーに対して使用され、カチオン重合開始剤は、エポキシ系やビニールエーテル系のモノマーおよびオリゴマーに対して使用される。さらに、ラジカル重合開始剤およびカチオン重合開始剤の混合物からなる光重合開始剤を用いてもよい。
【0035】
ラジカル重合開始剤は、ラジカルの発生過程に応じて、水素引抜型および分子内開裂型に大別される。水素引抜型は、一例として、ベンゾフェノンおよびオルソベンゾイル安息香酸メチルなどからなる。一方、分子内開裂型は、一例として、ベンゾインエーテルや、ベンジルジメチルケタール、α−ヒドロキシアルキルフェノン、α−アミノアルキルフェノン、オキソベンゾイル安息香酸メチル(OBM)、4−ベンゾイル−4’−メチルジフェニルサルファイド(BMS)、イソプロピルチオキサントン(IPTX)、ジエチルチオキサントン(DETX)、エチル4−(ジエチルアミノ)ベンゾエート(DAB)、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−オン、ベンジルジメチルケタール(BDK)、1,2αヒドロキシアルキルフェノンなどからなる。
【0036】
また、カチオン重合開始剤は、一例として、ジフェニルヨードニウム塩などからなる。
なお、本明細書において、「光重合開始剤」とは、光重合反応を開始させる能力が残存しているものに限らず、当初の光重合開始剤が光重合反応に寄与することによって変化したり光重合反応の対象となるモノマーやオリゴマーが周囲に存在しなかったりすることにより、もはや光重合反応の開始に寄与しない物質となったものをも含む意味で使用する。ここで、光重合開始反応に寄与した後の光重合開始剤は、多くの場合、ほぼ当初の分子の大きさを保持したまま、あるいは2つまたはそれ以上の数の分子に分裂した状態で、ポリマーの末端に結合している。
【0037】
上述したように、本願発明者らは、この紫外線硬化樹脂12に含まれる光重合開始剤自体が紫外線照射に応じて、紫外線硬化樹脂12の状態(たとえば、硬化度)と相関のある観測可能な蛍光を放射することを見出した。
【0038】
より詳細には、本願発明者らは、代表的な紫外線硬化樹脂(合計22種類)の各々に対して、波長365nmをもつ励起紫外線50を照射した場合に放射される光の波長について、スペクトルアナライザーを用いて調査した。この結果、いずれの紫外線硬化樹脂からも、励起紫外線50の波長より長い波長をもつ光(蛍光)が放射されていることを確認した。
【0039】
ここで、紫外線硬化樹脂に含まれる光重合開始剤は、以下のような性質を有する。
(1)重合反応を開始させるための活性種(ラジカルや酸など)を生成する能力(量子収率、モル吸光係数)が高い。
【0040】
(2)反応性の高い活性種を生成する。
(3)活性種の生成能力を発揮するための励起エネルギーのスペクトル域が紫外線領域である。
【0041】
すなわち、光重合開始剤は、紫外線を吸収しやすい分子構造のものが採用され、紫外線吸収したことによるエネルギー(電子)を他の分子に与えやすいものとなっている。
【0042】
一方、紫外線硬化樹脂の主剤であるモノマーおよびオリゴマーは、キャリア(電子)が分子内をスムーズに動きにくい構造をとるため、蛍光をほとんど発しないと考えられる。
【0043】
したがって、本願発明者らは、本質的に光重合開始材が紫外線を受けて蛍光を放射する性質を有する物質であると結論付けた。本実施の形態に従う紫外線照射システムは、この光重合開始材から放射される蛍光を測定し、測定結果から紫外線硬化樹脂12の硬化状態を測定するものである。
【0044】
(測定装置の構成)
図2は、この発明の実施の形態に従う測定装置100の概略構成図である。
【0045】
図2を参照して、制御部102は、CPU(Central Processing Unit)40と、パネル部38と、記憶部46と、インターフェイス部(I/F)48とからなる。パネル部38は、同一面に配置された表示部42および操作部44を含む。
【0046】
CPU40は、測定装置100の全体処理を司る制御装置であって、予めROMなどに格納されるプログラムを読込んで実行することで、以下に示す処理を実現する。具体的には、CPU40は、操作部44を介してユーザなどから与えられる指令に応じて、励起紫外線50を紫外線硬化樹脂12に照射させ、この励起紫外線50の照射によって得られる蛍光52の量を初期値として表示部42に表示させる。なお、この初期蛍光量の測定は、紫外線硬化樹脂12への硬化用紫外線54の照射前に実行される。
【0047】
この表示部42に表示される初期蛍光量を参照して、ユーザは、操作部44を操作して、対象となる紫外線硬化樹脂12についての判断基準を設定する。CPU40は、このユーザからの判断基準を記憶部46に格納する。そして、CPU40は、紫外線硬化樹脂12への硬化用紫外線54の照射開始後、検出される蛍光52の量(強度)に基づいて、紫外線硬化樹脂12で所定の判断基準に沿った硬化反応が生じているか否かを判断する。そして、CPU40は、この判断結果および取得される蛍光52の量などを表示部42に表示させる。
【0048】
なお、CPU40は、インターフェイス部48を介して光源部202(図1)から与えられる照射状態信号(照射開始信号や照射終了信号)に基づいて、硬化用紫外線54の照射状態(照射ON/OFF)を判断する。
【0049】
表示部42は、ユーザに対して硬化反応に係る情報を表示するための表示装置であり、一例として、LCD(Liquid Crystal Display)やCRT(Cathode-Ray Tube)などのディスプレイを含んで構成される。
【0050】
操作部44は、ユーザからの操作指令を受付ける指令入力装置であり、一例として、スイッチ、タッチパネルもしくはマウスなどから構成され、ユーザ操作に応じた操作指令をCPU40へ出力する。
【0051】
記憶部46は、CPU40で実行されるプログラムや過去の時間的挙動を不揮発的に格納可能な装置であり、一例として、ハードディスクやフラッシュメモリなどを含んで構成される。
【0052】
インターフェイス部48は、外部装置とCPU40との間の通信を仲介するための装置であり、一例として、デジタルアナログ変換部(DAC)、USB(Universal Serial Bus)もしくはイーサネット(登録商標)などで構成される。
【0053】
一方、蛍光測定ヘッド部104は、投光駆動回路20と、投光素子22と、ハーフミラー24と、光フィルタ26と、受光素子28と、ハイパスフィルタ回路(HPF:High Pass Filter)30と、増幅回路32と、サンプルホールド回路(S/H:Sample and Hold)34と、アナログデジタル変換部(ADC)36とからなる。
【0054】
投光駆動回路20は、CPU40からの制御指令に応じて、投光素子22で励起紫外線50を発生させるための駆動電力を供給する。励起紫外線50は、光重合開始剤から放射される蛍光量をより正確に測定できるように、その強度が周期的に変化することが望ましい。そこで、投光駆動回路20は、CPU40から照射を指示する制御指令が与えられる期間において、所定周期で変化する駆動電力を投光素子22へ供給する。
【0055】
投光素子22は、励起紫外線50を発生する紫外線光源であって、代表的に紫外線LEDからなる。なお、投光素子22で発生する励起紫外線50の主発光ピークは365nmが好ましい。
【0056】
投光駆動回路20から供給される駆動電力を受けて投光素子22が発生する励起紫外線50は、ハーフミラー24を通過して所定の照射位置に集束する。この励起紫外線50を受けて、紫外線硬化樹脂12(図1)では、その硬化状態に応じた蛍光52が発生する。発生した蛍光52の一部は、励起紫外線50の伝播経路と実質的に同一の伝播経路を励起紫外線50とは逆方向に伝播し、ハーフミラー24に入射する。
【0057】
ハーフミラー24は、この蛍光52の伝搬方向を紙面下方向に変化させる。すると、蛍光52は、光フィルタ26を通過して受光素子28へ入射する。すなわち、ハーフミラー24は、投光素子22からの励起紫外線50と、紫外線硬化樹脂12から放射される蛍光52とを分離する。このように、ハーフミラー24が同一の光学経路上を伝播する励起紫外線50と蛍光52とを分離することによって、微弱な強度を有する蛍光52を受光素子28によって確実に検出できる。
【0058】
光フィルタ26は、投光素子22から放射される励起紫外線50が直接的に受光素子28へ入射することを抑制するために配置されたものであり、紫外領域の光を減衰させる一方で可視領域の光を透過するように構成される。一例として、光フィルタ26は、波長が410nm以上の光を透過する誘電体多層膜のフィルタからなる。
【0059】
受光素子28は、一例としてフォトダイオードからなり、ハーフミラー24および光フィルタ26を通過して入射する蛍光の強度に応じた電気信号を発生する。
【0060】
本実施の形態に従う紫外線照射システム1では、図1に示すように、紫外線硬化樹脂12に対して光源装置200から硬化用紫外線54が同時に放射される場合がある。そのため、紫外線硬化樹脂12に含まれる光重合開始剤で発生する蛍光は、励起紫外線50を受けて生じる蛍光と、硬化用紫外線54を受けて生じる蛍光とが含まれると考えられる。そこで、本実施の形態では、それぞれの紫外線を周波数領域上で分離する。すなわち、主として直流(DC)成分の強度を有する硬化用紫外線54と、その強度に交流成分(一例として、パルス状変化)を含む励起紫外線50とを照射し、この照射によって測定される蛍光量を示す信号のうち、励起紫外線50の強度変化周期に対応する周期成分を抽出して、励起紫外線50によって生じた蛍光量として測定する。
【0061】
ハイパスフィルタ回路30は、受光素子28で検出される蛍光量のうち、周期成分(励起紫外線50に起因する成分)を抽出するためのフィルタであり、励起紫外線50の強度変化周期に対応する周期成分より高周波の成分を通過させる。
【0062】
増幅回路32は、HPF30からの出力信号を所定の増幅率(電流電圧変換率)で増幅してサンプルホールド回路34へ出力する。そして、サンプルホールド回路34は、投光素子22から照射される励起紫外線50のパルス周期に同期してHPF30からの出力信号をサンプリングし、サンプリングした信号値を次回のサンプリング時まで保持する。これにより、各パルスの最大振幅値に応じた値がサンプルホールド回路34から出力される。このサンプルホールド回路34から出力される信号(アナログの電圧信号)はアナログデジタル変換部36によってデジタル値に変換されて、蛍光量の測定値としてCPU40へ出力される。
【0063】
上述した図1および図2と本願発明との対応関係については、投光素子22が「投光部」に相当し、受光素子28が「受光部」に相当し、CPU40が「制御部」に相当し、表示部42が「表示部」に相当し、操作部44が「操作部」に相当し、記憶部46が「記憶部」に相当し、硬化用紫外線54が「紫外線」に相当し、励起紫外線50が「他の紫外線」に相当する。
【0064】
(初期蛍光量)
上述したように、励起紫外線50を受けて紫外線硬化樹脂12から放射される蛍光52の初期蛍光量は、紫外線硬化樹脂12の種類やその劣化状態(品質)、紫外線の照射条件、およびワークの材質などを様々な要因によって変化し得る。
【0065】
図3は、紫外線照射前の紫外線硬化樹脂からの蛍光発生量の測定例を示す図である。なお、図3は、励起紫外線50の照射条件を同一とした上で、スリーボンド社製の10種類の紫外線硬化樹脂から照射される蛍光の量を測定したものである。なお、測定対象の紫外線硬化樹脂のうち、6種類がアクリルを主材質としたものであり、4種類がエポキシを主材質としたものである。
【0066】
図3を参照して、紫外線硬化樹脂の材質によって、蛍光量にばらつきが生じていることがわかる。また、全体的に見ると、アクリルを主材質とする紫外線硬化樹脂の方に比較して、エポキシを主材質とする紫外線硬化樹脂から発生する蛍光量は大きいが、一部の紫外線硬化樹脂(たとえば、「3164」)には例外もある。
【0067】
このように、紫外線硬化樹脂から照射される蛍光の量は、その種類に応じて大きく変化する。
【0068】
また、一般的に紫外線硬化樹脂は、劣化によってもその発生する蛍光量が変化する。一般的に、紫外線硬化樹脂は、嫌気性接着剤であり、大気中に長時間(たとえば、数週間)放置されると大気中の酸素と光重合開始剤とが結合することで劣化を生じる。この劣化反応は、硬化反応の一種であり、紫外線硬化樹脂に硬化が進行すると、発生する蛍光量も相対的に大きくなる。
【0069】
さらに、励起紫外線50の照射対象であるワークから蛍光が発生する場合もある。そのため、紫外線硬化樹脂12の単体から発生する蛍光量と、基材6や被着体8に塗布された状態の紫外線硬化樹脂12から発生する蛍光量とでは、差異を生じ得る。
【0070】
図4は、励起紫外線50の照射による蛍光の発生状態を概略的に示す図である。
図4を参照して、基材6または被着体8の上に紫外線硬化樹脂12が塗布された状態を簡略的にモデル化する。このモデルにおいて、蛍光測定ヘッド部104が紫外線硬化樹脂12の垂直上方に配置され、この蛍光測定ヘッド部104から励起紫外線50が照射される。この照射された励起紫外線50の一部は、紫外線硬化樹脂12に吸収され、そのエネルギーによって蛍光52が発生する。一方、紫外線硬化樹脂12で吸収されなかった励起紫外線50aは、基材6または被着体8へ到達する。ここで、基材6または被着体8の材質によっては、励起紫外線50aを受けて蛍光を発するものもあり、基材6または被着体8から発生した蛍光52aも蛍光測定ヘッド部104に入射する。
【0071】
したがって、蛍光測定ヘッド部104で受光される蛍光の量は、紫外線硬化樹脂12から発生する蛍光と、基材6または被着体8から発生する蛍光との合計となる。そのため、励起紫外線50の強度、紫外線硬化樹脂12の量(厚さ)、紫外線硬化樹脂12の劣化状態(品質)、紫外線の照射条件などによって、初期蛍光量も変化する。
【0072】
図5は、ワーク別に測定した初期蛍光量の例を示す図である。なお、図5は、基材として電子基板(材質:ガラスエポキシ)または鉄板を用いた場合において、所定量の紫外線硬化樹脂を塗布した状態で受光される蛍光量をそれぞれ測定したものである。図5に示す基準点(ゼロ点)は、紫外線硬化樹脂を塗布していない基材単体に励起紫外線を照射した場合に測定される蛍光量に相当する値としており、図5に示す値は各基準点に対する相対値となっている。
【0073】
図5を参照して、基材と紫外線硬化樹脂との組合せによっては、紫外線硬化樹脂を塗布することで、発生する蛍光が増大する場合、減少する場合、ほとんど変化しない場合のいずれの場合も生じていることがわかる。これは、基材自体からの蛍光の発光量と、紫外線硬化樹脂からの蛍光の発光量との相対的な関係に依存するものと考えられる。
【0074】
以上のように、基材上に塗布された紫外線硬化樹脂から発生する初期蛍光量は、さまざまな要因によって変化する。そのため、本発明では、このように変化の大きな初期蛍光量を予め取得し、この初期蛍光量に基づいた判断基準の設定を可能にする。
【0075】
(処理手順)
図6は、この発明の実施の形態に従う硬化状態測定装置100における処理手順を示すフローチャートである。
【0076】
図6を参照して、まず、ユーザはワークを所定位置にセットする。一方、電源投入状態にある制御部102のCPU40は、選択中のモードを判断する(ステップS100)。ここで、ユーザは操作部44を操作して「設定モード」を選択する。
【0077】
図7は、この発明の実施の形態に従う硬化状態測定装置100のパネル部38の「設定モード」における表示例を示す図である。図8は、この発明の実施の形態に従う硬化状態測定装置100のパネル部38の「検査モード」における表示例を示す図である。
【0078】
パネル部38は、代表的に、タッチパネルが付加されたディスプレイから構成される。図7に示すように、「設定モード」においては、表示部として機能する表示領域421,422,423と、操作部として機能する操作領域441,442,443,444,445とがディスプレイ上に配置される。なお、本発明は、表示部および操作部が同一面に配置されていればよい。あるいは、表示部としてセグメント表示器などを用いてもよく、操作部としてボタンなどを用いてもよい。また、図8に示すように、「検査モード」においては、表示部として機能する表示領域422,450と、操作部として機能する操作領域445とがディスプレイ上に配置される。
【0079】
図7および図8に示すように、いずれのモードにおいても、ユーザがパネル部38の操作領域445を操作することで、他方のモードへの切替が可能となっている。
【0080】
再度、図6を参照して、「設定モード」が選択されると(ステップS100において「設定モード」)、CPU40は、初期蛍光量の測定指令が与えられたか否かを判断する(ステップS102)。ここで、ユーザが「初期蛍光量測定」のボタン(操作領域441)を選択すると、CPU40は、投光駆動回路20(図2)に制御指令を与え、励起紫外線50を相対的に短時間だけ照射させる(ステップS104)。CPU40は、この励起紫外線50の照射を受けて紫外線硬化樹脂12から発生する蛍光量を、アナログデジタル変換部36から取得し(ステップS106)、その値を初期蛍光量として表示部42に表示する(ステップS108)。より具体的には、図7に示すように、パネル部38の表示領域421に初期蛍光量が表示される。
【0081】
ユーザは、このパネル部38の表示領域421の表示中に、設定値変更ボタン(操作領域443および444)を操作して、判断基準の一例であるしきい値を設定する。このしきい値は、紫外線硬化樹脂12において適切な硬化反応が生じているか否か、もしくは紫外線硬化樹脂12において十分な硬化反応が完了したか否かを判断するための基準値である。
【0082】
図9は、硬化前後における紫外線硬化樹脂から発生する蛍光量の変化を示す例である。なお、図9は、紫外線硬化樹脂としてスリーボンド社製の型式「3042」を用いた場合の紫外線硬化樹脂から発生する蛍光量の変化を基材別に示したものである。
【0083】
図9を参照して、ガラスエポキシからなる電子基板を基材として用いた場合には、紫外線硬化樹脂を塗布することで初期蛍光量は減少し、さらに硬化用紫外線54を照射して硬化反応が完了すると、さらに発生する蛍光量は減少することがわかる。すなわち、硬化反応完了時に発生する蛍光量は、初期蛍光量に比較して減少することになる。
【0084】
一方、鉄板を基材として用いた場合には、紫外線硬化樹脂を塗布することで初期蛍光量は増加し、さらに硬化用紫外線54を照射して硬化反応が完了すると、さらに発生する蛍光量は増加することがわかる。すなわち、硬化反応完了時に発生する蛍光量は、初期蛍光量に比較して増加することになる。
【0085】
そこで、図7に示すように、ユーザは、設定値変更ボタン(操作領域443および444)を操作して、初期蛍光量に対する相対値としてしきい値を設定する。このしきい値は、上述したようなワークの特性に応じて、正方向(+)および負方向(−)のいずれにも設定可能である。
【0086】
このユーザのしきい値の設定に先だって、CPU40は、しきい値の候補を予め定められた演算式によって算出し、表示領域422にその算出した値を表示する(ステップS110)。この演算式としては、初期蛍光量に対して所定比率を乗じるような演算式や、初期蛍光量に所定値を加算または減算するような演算式を用いることができる。
【0087】
このしきい値の設定とともに、ユーザは、紫外線硬化樹脂の種別を設定する。具体的には、表示領域423に表示される紫外線硬化樹脂の候補の一覧に対して、ユーザがカーソル(操作領域445)を操作して、対象の紫外線硬化樹脂の種別を選択する。
【0088】
このしきい値および種別の設定が完了し、ユーザが確定ボタン(操作領域442)を選択すると、CPU40は、このときに表示領域422に表示されているしきい値を設定する(ステップS112)とともに、設定されたしきい値と紫外線硬化樹脂の種別とを対応付けて、記憶部46に格納する(ステップS114)。この記憶部46に格納したしきい値は、紫外線硬化樹脂の種別を指定して読出すこともできる。
【0089】
以上で、判断基準であるしきい値の設定が完了し、処理はステップS100へ戻る。
続いて、ユーザは、ユーザがパネル部38の操作領域445を操作して「検査モード」を選択する。すると、パネル部38の表示は図8に示す表示態様に切替わる。その後、CPU40は、光源装置200からの照射開始信号に基づいて、ワークに対して硬化用紫外線56の照射が開始されたか否かを判断する(ステップS116)。硬化用紫外線56の照射が開始されていなければ(ステップS116においてNO)、CPU40は、硬化用紫外線56の照射が開始されるまで待つ。
【0090】
硬化用紫外線56の照射が開始されると(ステップS116においてYES)、CPU40は、投光駆動回路20(図2)に制御指令を与え、励起紫外線50の継続的な照射を開始させる(ステップS118)。CPU40は、この励起紫外線50の照射を受けて紫外線硬化樹脂12から発生する蛍光量を、アナログデジタル変換部36から継続的に取得し(ステップS120)、取得された蛍光量が設定されたしきい値まで到達したか否かを判断する(ステップS122)。なお、しきい値までの到達とは、正のしきい値に対しては取得された蛍光量が当該しきい値と一致または超過することを意味し、負のしきい値に対しては取得された蛍光量が当該しきい値と一致または下回ることを意味する。
【0091】
この蛍光量の取得過程において、パネル部38では、図8に示すような取得された蛍光量の時間波形451が表示領域450に表示される。この蛍光量の時間波形451は、時間の経過とともに更新される。また、この表示領域450には、設定モードにおいて設定された判断基準の代表例であるしきい値を示す表示領域422、およびこのしきい値に対応する位置にしきい値線452が表示される。
【0092】
取得された蛍光量が設定されたしきい値まで到達していれば(ステップS122においてYES)、CPU40は、紫外線硬化樹脂12における硬化反応が適切であると判断し(ステップS124)、その旨を表示部42またはインターフェイス部48を介して外部装置へ出力する。
【0093】
これに対して、取得された蛍光量が設定されたしきい値まで到達していなければ(ステップS122においてNO)、CPU40は、光源装置200からの照射終了信号に基づいて、硬化用紫外線56の照射が終了したか否かを判断する(ステップS126)。硬化用紫外線56の照射が終了していなければ(ステップS126においてNO)、CPU40は、硬化用紫外線56の照射開始から所定時間が経過したか否かを判断する(ステップS128)。硬化用紫外線56の照射開始から所定時間が経過していなければ(ステップS128においてNO)、CPU40は、ステップS122以下の処理を再度実行する。
【0094】
一方、硬化用紫外線56の照射が終了していれば(ステップS126においてYES)、または硬化用紫外線56の照射開始から所定時間が経過していれば(ステップS128においてYES)、CPU40は、紫外線硬化樹脂12における硬化反応が不適切であると判断し(ステップS130)、その旨を表示部42またはインターフェイス部48を介して外部装置へ出力する。そして、処理は終了する。
【0095】
この発明の実施の形態によれば、紫外線硬化樹脂で硬化反応が生じる前、すなわち硬化用紫外線の照射前に、予め励起紫外線を紫外線硬化樹脂へ照射して初期蛍光量を取得し、その初期蛍光量を表示部に表示する。そして、この初期蛍光量の表示中に、ユーザからの設定操作に応じて判断基準の一例であるしきい値が設定される。これにより、ユーザは、初期蛍光量を参照しながらしきい値を設定できるので、さまざまな要因によって変動する初期蛍光量に応じた判断基準を設定できる。したがって、紫外線硬化樹脂に対する硬化反応に係る要因を考慮した適切な判断基準を容易に設定できる。
【0096】
また、この発明の実施の形態によれば、初期蛍光量に基づいて所定の演算式によってしきい値の候補が算出されるので、ユーザは予めしきい値の目安を確認しつつ、しきい値を設定することができる。これにより、しきい値設定をより迅速に行なうことができる。
【0097】
(第1変形例)
図6に示すフローチャートでは、紫外線硬化樹脂の硬化反応についての適否を判断する構成について例示したが、同様の手法を用いて、紫外線硬化樹脂自体の劣化を判断することもできる。具体的には、予め正常な紫外線硬化樹脂の初期蛍光量を測定しておき、この初期蛍光量と対象の紫外線硬化樹脂の初期蛍光量との比較、または硬化用紫外線54の照射直後の蛍光量の変化特性に基づいて、対象の紫外線硬化樹脂の劣化状態を判断することもできる。
【0098】
すなわち、初期蛍光量に基づいて設定される判断基準と測定される蛍光量との比較を、硬化用紫外線54の照射開始前もしくは、照射開始直後の相対的に短い期間において行なうことで、紫外線硬化樹脂自体が良品であるか不良品であるかを判断することができる。
【0099】
この発明の実施の形態の第1変形例によれば、嫌気性接着剤である紫外線硬化樹脂の劣化状態(いわゆる、ポットライフ)をより適切に管理できる。
【0100】
(第2変形例)
図6に示すフローチャートでは、紫外線硬化樹脂の硬化反応についての適否をしきい値に基づいて判断する構成について例示したが、予め最適な硬化反応状態を示す時間的挙動を取得しておき、この時間的挙動に基づいて、紫外線硬化樹脂に対する照射条件についての適否を判断するようにしてもよい。
【0101】
一般的に、紫外線硬化樹脂の硬化反応における硬化用紫外線の照射強度の大きさによって、紫外線硬化樹脂の硬化速度や仕上がりなどが影響を受ける。具体的には、硬化用紫外線の照射強度が適正値より低ければ、硬化完了までの時間が長くなるとともに、その表面にタック(べたつき)を生じる場合がある。これに対して、硬化用紫外線の照射強度が適正値より高ければ、硬化完了までの時間が短くなるとともに、その表面に焼け(劣化)が残る場合がある。
【0102】
図10は、紫外線硬化樹脂の硬化反応状態の時間的挙動の一例を示す図である。図10は、同一の紫外線硬化樹脂に対して、照射する硬化用紫外線の照射強度を、最適値を中心として5種類(最適値を含む)に変化させた場合における蛍光量の時間的挙動を示したものである。
【0103】
図10を参照して、硬化用紫外線の照射強度を相対的に大きくすることにより、硬化用紫外線の照射開始直後における蛍光量の立ち上がり(時間的変化量)は相対的に大きくなる。そこで、硬化用紫外線の照射開始直後における蛍光量の時間的挙動を、図10に示す最適な時間的挙動と比較することで、紫外線硬化樹脂に対する照射条件についての適否を判断することができる。
【0104】
ここで、上述したように、初期蛍光量はさまざまな要因によって変化するので、この初期蛍光量を「オフセット」として予め取得された基準の時間的挙動に反映した上で、その時間的挙動に基づいて紫外線硬化樹脂に対する照射条件についての適否を判断することが好ましい。
【0105】
図11は、紫外線硬化樹脂に対する照射条件についての適否を判断する場合の処理を説明するための図である。
【0106】
図11を参照して、予め取得された最適な硬化反応状態に対応する時間的挙動に対して、硬化用紫外線の照射前に取得された初期蛍光量をオフセットとして反映する。すなわち、図11に示すように、基準となる蛍光量の時間的変化特性を初期蛍光量に相当する値だけシフトすることで、対象となる紫外線硬化樹脂に対して基準となる時間的挙動が設定される。この対象となる紫外線硬化樹脂の各々について設定される基準となる時間的挙動と、実測される蛍光量とを比較して、紫外線硬化樹脂に対する照射条件についての適否を判断する。
【0107】
この発明の実施の形態の第2変形例によれば、初期蛍光量を反映した上で、紫外線硬化樹脂に対する照射条件の正常性について適切に判断できる。
【0108】
(第3変形例)
上述の実施の形態では、ユーザがしきい値を設定する場合や、初期蛍光量に基づいて所定の演算式によってしきい値の候補を算出する場合について例示したが、実測の蛍光量の時間的特性に基づいてしきい値を算出してもよい。すなわち、ティーチング処理を行なうことで、しきい値を算出してもよい。このティーチング処理は、制御部102によって実行される。
【0109】
図12は、しきい値を算出するためのティーチング処理を説明するための図である。
図12を参照して、制御部102のCPU40は、硬化用紫外線の照射中に、励起紫外線50を継続的に対象の紫外線硬化樹脂へ照射するとともに、その照射によって測定される蛍光量を継続的に取得する。そして、CPU40は、この蛍光量の時間的変化(時間プロフィール)を記憶部46へ順次格納する。そして、CPU40は、対象の紫外線硬化樹脂の初期蛍光量INTと、硬化反応完了後の最終蛍光量ENDとの差をしきい値Thとして算出する。そして、CPU40は、ユーザが予め選択した紫外線硬化樹脂の種別とともに、この算出したしきい値Thを記憶部46へ格納する。この格納されたしきい値Thは、それ以降の処理において、ユーザが選択する紫外線硬化樹脂の種別の選択に応じて読出される。なお、このティーチング処理の対象となる紫外線硬化樹脂は、劣化のない正常なものであることが確認された上で実行される。
【0110】
この発明の実施の形態の第3変形例によれば、ティーチング処理によってしきい値を算出することで、実際の照射条件などを考慮したしきい値を設定することができる。
【0111】
(第4変形例)
一般的に、紫外線硬化樹脂から発生する蛍光量は、温度依存性を有する。そのため、初期蛍光量についても、その取得された時の温度を考慮して補正することが好ましい。
【0112】
図13は、紫外線硬化樹脂から発生する蛍光量の温度依存性の一例を示す図である。
図13を参照して、それぞれの紫外線硬化樹脂は、負の温度依存性(温度が高くなるにつれて、発光量が減少する特性)を有している。そのため、初期蛍光量の測定時に、対象の紫外線硬化樹脂の温度が低く、十分に励起していなければ、測定される初期蛍光量は相対的に小さい値となる。そのため、このような状態で測定された初期蛍光量を補正する必要がある。
【0113】
図14は、この発明の実施の形態の第4変形例に従う測定装置100Aの概略構成図である。
【0114】
図14を参照して、測定装置100Aは、図2に示す測定装置100に、対象となる紫外線硬化樹脂の温度またはその雰囲気温度を測定するための温度検出部60をさらに加えたものである。温度検出部60は、対象となる紫外線硬化樹脂およびその周辺の温度を検出し、その検出結果をCPU40へ出力する。CPU40は、この検出された温度に基づいて、上述と同様の手順によって測定された初期蛍光量を補正し、補正後の初期蛍光量を記憶部46に格納する。
【0115】
なお、この温度補正は、図13のような紫外線硬化樹脂の種類別に予め取得された温度依存性のうちから、CPU40がユーザの種別選択に応じたものを選択し、この選択された温度依存性に従って行なわれる。
【0116】
この発明の実施の形態の第4変形例によれば、初期蛍光量の測定後の温度要因による外乱の影響を抑制することができる。
【0117】
(第5変形例)
上述の実施の形態では、紫外線硬化樹脂の硬化状態を測定する硬化状態測定装置と、紫外線硬化樹脂の硬化反応を促進するための硬化用紫外線を照射する光源装置とを別々に設けた紫外線照射システムについて説明したが、単一の光源を用いて励起紫外線および硬化用紫外線の効果を発揮させるようにしてもよい。すなわち、硬化状態測定装置に光源装置の機能を取込むようにしてもよい。
【0118】
図15は、この発明の実施の形態の第5変形例に従う測定装置100Bの概略構成図である。
【0119】
図15を参照して、測定装置100Bは、励起紫外線50および硬化用紫外線54に相当する照射強度の紫外線を照射する。この構成によれば、測定装置100Bから照射される紫外線の強度が相対的に大きいので、初期蛍光量を測定するための紫外線を照射すると、紫外線硬化樹脂に対して硬化反応を生じさせる可能性がある。そのため、本来の紫外線の照射条件とは異なった照射条件になってしまうおそれがある。
【0120】
そこで、初期蛍光量の測定時の照射する紫外線は、紫外線硬化樹脂において硬化反応を生じない程度に抑制する必要がある。このように照射強度を抑制する構成としては、一例として、所定周期で間欠的に紫外線を照射することが好ましい。
【0121】
図16は、この発明の実施の形態の第5変形例に従う測定装置100Bにおける初期蛍光量の測定時における紫外線の照射パターンを説明する図である。
【0122】
図16を参照して、CPU40(図15)は、対象の紫外線硬化樹脂の初期蛍光量を測定する場合には、所定のデューティー(Δt/T)で紫外線が間欠的に照射されるように、制御指令を投光駆動回路20へ出力する。このような間欠的な照射によって、実質的に紫外線硬化樹脂に照射される照射強度は、最大の照射強度の(Δt/T)倍に抑制される。
【0123】
この発明の実施の形態の第5変形例によれば、共通の紫外線源を用いてより簡素化された紫外線照射システムにおいても、適切に初期蛍光量を測定することができる。
【0124】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した説明ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0125】
【図1】この発明の実施の形態に従う硬化状態測定装置を備える紫外線照射システムの概略構成図である。
【図2】この発明の実施の形態に従う測定装置の概略構成図である。
【図3】紫外線照射前の紫外線硬化樹脂からの蛍光発生量の測定例を示す図である。
【図4】励起紫外線50の照射による蛍光の発生状態を概略的に示す図である。
【図5】ワーク別に測定した初期蛍光量の例を示す図である。
【図6】この発明の実施の形態に従う硬化状態測定装置における処理手順を示すフローチャートである。
【図7】この発明の実施の形態に従う硬化状態測定装置のパネル部の「設定モード」における表示例を示す図である。
【図8】この発明の実施の形態に従う硬化状態測定装置のパネル部の「検査モード」における表示例を示す図である。
【図9】硬化前後における紫外線硬化樹脂から発生する蛍光量の変化を示す例である。
【図10】紫外線硬化樹脂の硬化反応状態の時間的挙動の一例を示す図である。
【図11】紫外線硬化樹脂に対する照射条件についての適否を判断する場合の処理を説明するための図である。
【図12】しきい値を算出するためのティーチング処理を説明するための図である。
【図13】紫外線硬化樹脂から発生する蛍光量の温度依存性の一例を示す図である。
【図14】この発明の実施の形態の第4変形例に従う測定装置の概略構成図である。
【図15】この発明の実施の形態の第5変形例に従う測定装置の概略構成図である。
【図16】この発明の実施の形態の第5変形例に従う測定装置における初期蛍光量の測定時における紫外線の照射パターンを説明する図である。
【符号の説明】
【0126】
1 紫外線照射システム、6 基材、8 被着体、12 紫外線硬化樹脂、20 投光駆動回路、22 投光素子、24 ハーフミラー、26 光フィルタ、28 受光素子、30 ハイパスフィルタ回路、32 増幅回路、34 サンプルホールド回路、36 アナログデジタル変換部、38 パネル部、42 表示部、44 操作部、46 記憶部、48 インターフェイス部、50,50a 励起紫外線、52,52a 蛍光、54 硬化用紫外線、60 温度検出部、100,100A,100B 硬化状態測定装置(測定装置)、102 制御部、104 蛍光測定ヘッド部、200 光源装置、202 光源部、204 照射ヘッド部、421,422,423 表示領域、441,442,443,444,445 操作領域。
【技術分野】
【0001】
この発明は紫外線硬化樹脂の硬化状態を測定する硬化状態測定装置および硬化状態測定方法に関し、特に紫外線硬化樹脂の特性や対象物などに応じて適切な測定を行なうための装置および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、多くの産業分野において、接着剤やコーティング剤の硬化方法として紫外線硬化法(Ultra Violet Curing)が利用されている。紫外線硬化法は、熱エネルギーを利用する熱硬化方法に比較して、有害物質を大気中に放散しない、硬化時間が短い、熱に弱い製品にも適用できるなどの多くの利点を有している。
【0003】
紫外線硬化法では、紫外線照射前においては主に液体である一方、紫外線照射後においては固体に変化する、紫外線硬化樹脂が用いられる。このような紫外線硬化樹脂は、主剤としてモノマーおよびオリゴマーの少なくとも一方を含み、さらに光重合開始剤を含む。光重合開始剤は、照射される紫外線を受けてラジカルやカチオンを発生し、発生したラジカルやカチオンがモノマーやオリゴマーと重合反応を生じる。この重合反応に伴いモノマーやオリゴマーはポリマーに変化し、分子量が極めて大きくなるとともに、融点が低下する。この結果、紫外線硬化樹脂は液体状態を維持できなくなって固体に変化する。
【0004】
一方、目視による紫外線硬化樹脂の硬化度や品質異常有無の判断は困難であり、紫外線硬化樹脂の硬化反応状態を容易に判断する方法が要望されている。そこで、たとえば特許第2651036号公報(特許文献1)には、硬化可能材料の硬化度の関数として変化するように発光するプローブを紫外線硬化樹脂に添加することで、硬化可能コーティング材料の硬化程度を監視する方法が開示されている。しかしながら、上述のプローブのように特別な材料を添加することはコスト的に不利であり、また品質上の観点からそのようなプローブを添加することが許容されない場合も多いため、汎用的ではない。
【0005】
これに対して、本願発明者らは、紫外線硬化樹脂に対する紫外線照射に応じて、紫外線硬化樹脂に含まれる光重合開始剤自体が紫外線硬化樹脂の硬化状態(たとえば、硬化度)と相関のある観測可能な蛍光を放射する事実を見出し、この事実を利用した紫外線硬化樹脂の状態推定方法を特願2006−071580号として出願した。
【特許文献1】特許第2651036号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述の紫外線硬化樹脂の状態推定方法によれば、紫外線光源で発生した紫外線を対象物である紫外線硬化樹脂に照射するとともに、この紫外線によって生じた蛍光を受光部で検出し、この受光部で検出される蛍光量に基づいて硬化状態が判断される。
【0007】
ところで、この紫外線硬化樹脂から放射される蛍光の量は、紫外線硬化樹脂の種類やその劣化状態(品質)、および紫外線の照射条件などに依存する。そのため、紫外線硬化樹脂の硬化度や品質異常有無をより正確に判断しようとする場合には、このような要因を考慮した適切な判断基準を予め取得しておく必要がある。
【0008】
しかしながら、このような要因を正確に特定することは容易ではなく、適切な判断基準を決定することは困難であった。
【0009】
そこで、この発明は、かかる問題を解決するためになされたものであり、その目的は、紫外線硬化樹脂に対する硬化反応に係る要因を考慮した適切な判断基準を容易に設定できる硬化状態測定装置および硬化状態測定方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明のある局面に従えば、モノマーおよびオリゴマーの少なくとも一方からなる主剤と光重合開始剤とを含む紫外線硬化樹脂の硬化状態を測定する硬化状態測定装置を提供する。硬化状態測定装置は、紫外線硬化樹脂を活性化するための紫外線を発生する投光部と、紫外線を受けて光重合開始剤から放射される蛍光を受光する受光部と、制御部と、表示部と、操作部とを備える。制御部は、操作部からの設定操作に応じて設定モードおよび検査モードのいずれかを選択可能なモード切替手段と、設定モードにおいて紫外線が紫外線硬化樹脂に照射されたときに、受光部で受光される蛍光の量を初期値として表示部に表示する初期値表示手段と、設定モードにおける初期値の表示中に、操作部からの設定操作に応じて判断基準を設定する判断基準設定手段と、検査モードにおいて紫外線が紫外線硬化樹脂に照射されたときに、受光部で受光される蛍光の量に基づいて、紫外線硬化樹脂で判断基準に沿った硬化反応が生じているか否かを判断する判断手段とを含む。
【0011】
この発明によれば、紫外線硬化樹脂で硬化反応が生じる前に、予め紫外線を紫外線硬化樹脂へ照射して蛍光量の初期値を取得し、その初期値を表示部に表示する。そして、この初期値の表示中に、ユーザからの設定操作に応じて判断基準が設定される。これにより、ユーザは、初期値を参照しながら判断基準を設定できるので、さまざまな要因によって変動する初期値に応じた判断基準を設定できる。したがって、紫外線硬化樹脂に対する硬化反応に係る要因を考慮した適切な判断基準を容易に設定できる。
【0012】
好ましくは、制御部は、初期値に基づいて、予め定められた演算式に従って判断基準の候補を算出する判断基準候補算出手段をさらに含む。
【0013】
好ましくは、硬化状態測定装置は、記憶部をさらに備え、制御部は、操作部からの設定操作に応じて紫外線硬化樹脂の種別を設定する種別設定手段と、紫外線硬化樹脂の種別に対応付けて、設定された判断基準を記憶部に格納する判断基準格納手段とをさらに含む。
【0014】
好ましくは、制御部は、初期値と、紫外線硬化樹脂の硬化反応の完了後に紫外線を照射して得られる蛍光の量である最終値とに基づいて、判断基準を算出するティーチング手段をさらに含む。
【0015】
さらに好ましくは、ティーチング手段は、紫外線硬化樹脂の硬化反応を促進するための他の紫外線が紫外線硬化樹脂に継続的に照射される場合において、紫外線を紫外線硬化樹脂に継続的に照射して得られる蛍光の量の時間的変化に基づいて、初期値および最終値を取得する。
【0016】
好ましくは、制御部は、紫外線を紫外線硬化樹脂に照射して得られる蛍光の量に基づいて、紫外線硬化樹脂の良否を判断する。
【0017】
好ましくは、判断基準は、しきい値である。
この発明の別の局面に従えば、硬化状態測定装置を用いて、モノマーおよびオリゴマーの少なくとも一方からなる主剤と光重合開始剤とを含む紫外線硬化樹脂の硬化状態を測定する硬化状態測定方法を提供する。硬化状態測定装置は、紫外線を発生する投光部と、蛍光を受光する受光部と、表示部と、操作部とを備える。硬化状態測定方法は、操作部からの設定操作に応じて設定モードおよび検査モードのいずれかを選択するステップと、設定モードにおいて、投光部から紫外線を紫外線硬化樹脂へ照射するステップと、設定モードにおいて、紫外線を受けて光重合開始剤から放射される蛍光を受光部で受光するステップと、設定モードにおいて、受光部で受光される蛍光の量を初期値として表示部に表示するステップと、設定モードにおける初期値の表示中に、操作部からの設定操作に応じて判断基準を設定するステップと、検査モードにおいて、投光部から紫外線を紫外線硬化樹脂へ照射するステップと、検査モードにおいて、受光部で受光される蛍光の量に基づいて、紫外線硬化樹脂で判断基準に沿った硬化反応が生じているか否かを判断するステップとを備える。
【発明の効果】
【0018】
この発明によれば、紫外線硬化樹脂に対する硬化反応に係る要因を考慮した適切な判断基準を容易に設定できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
この発明の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中の同一または相当部分については、同一符号を付してその説明は繰返さない。
【0020】
(紫外線照射システムの概略構成)
図1は、この発明の実施の形態に従う硬化状態測定装置を備える紫外線照射システム1の概略構成図である。
【0021】
図1を参照して、紫外線照射システム1は、紫外線硬化樹脂12の硬化状態を測定する硬化状態測定装置100(以下、「測定装置100」とも称す)と、紫外線硬化樹脂12の硬化反応を促進するための硬化用紫外線54を照射する光源装置200とを備える。そして、紫外線照射システム1は、一例として、基材6の上に被着体8を配置し、紫外線硬化樹脂12を用いて両者を接着するような製造ラインに配置される。なお以下では、基材6と、被着体8と、紫外線硬化樹脂12とを一体として「ワーク」とも称す。紫外線硬化樹脂12は、モノマーおよびオリゴマーの少なくとも一方からなる主剤と、光重合開始剤とを含み、紫外線を受けて硬化反応を生じる。
【0022】
光源装置200は、硬化用紫外線54を発生する照射ヘッド部204と、照射ヘッド部204を制御するための光源部202とからなる。
【0023】
照射ヘッド部204は、硬化用紫外線54を発生する紫外線光源を含み、紫外線光源は、代表的に紫外線LED(Light Emitting Diode)や紫外線ランプなどを含む。また、発生した硬化用紫外線54が紫外線硬化樹脂12に照射されるように、照射ヘッド部204は、たとえばワークの垂直上部に配置される。
【0024】
光源部202は、照射ヘッド部204と電気的に接続され、ユーザや外部装置などからの外部指令に応答して、照射ヘッド部204における硬化用紫外線54の発生を制御する。具体的には、光源部202は、硬化用紫外線54の照射指令(図示しない)に応答して、硬化用紫外線54の発生を開始するとともに、測定装置100などからの硬化用紫外線54の照射終了指示に応答して、硬化用紫外線54の発生を停止する。
【0025】
また、測定装置100の照射動作を硬化用紫外線54の照射状態に同期させるために、光源部202は硬化用紫外線54の照射状態信号、たとえば照射開始信号や照射終了信号を測定装置100へ送出する。
【0026】
一方、この発明の実施の形態に従う測定装置100は、蛍光測定ヘッド部104と、蛍光測定ヘッド部104を制御するための制御部102とを備える。
【0027】
蛍光測定ヘッド部104は、制御部102から受けた制御指令に従って、対象となる紫外線硬化樹脂12を活性化させるための励起紫外線50を発生し、紫外線硬化樹脂12に向けて照射するとともに、励起紫外線50を受けて紫外線硬化樹脂12から放射される蛍光52を受光し、その蛍光の量を示す信号を制御部102へ出力する。すなわち、蛍光測定ヘッド部104は、励起紫外線50を発生する紫外線LEDなどの投光部と、励起紫外線50から放射される蛍光52を受光する受光部とを備える。
【0028】
一方、制御部102は、蛍光測定ヘッド部104と電気的に接続され、光源装置200の照射状態に応じて蛍光測定ヘッド部104における励起紫外線50の発生を制御するとともに、蛍光測定ヘッド部104から出力される蛍光量を示す信号を取得する。また、制御部102は、操作部44(図2)からの設定操作に応じて、「設定モード」および「検査モード」のいずれかを選択可能に構成される。「設定モード」は、紫外線硬化樹脂に硬化用紫外線54が照射される前に、代表的にしきい値などの判断基準を設定するためのモードである。「検査モード」は、紫外線硬化樹脂に硬化用紫外線54が照射して硬化反応を促進するとともに、当該紫外線硬化樹脂で所定の判断基準に沿った硬化反応が生じているか否かを判断するモードである。
【0029】
そして、制御部102は、設定モードにおいて、励起紫外線50が紫外線硬化樹脂12に照射されたときに、蛍光測定ヘッド部104から出力される蛍光量を初期値(以下、「初期蛍光量」とも称す)として表示部42(図2)に表示する。この初期蛍光量の表示中に、ユーザはこの初期蛍光量を参照して、判断基準を設定する。ここで、初期蛍光量は、後述するように、紫外線硬化樹脂の種類やその状態、紫外線の照射条件、およびワークの材質といった種々の要因に依存した値となっている。そのため、この初期蛍光量に基づいて判断基準を設定することで、対象とするワークに適した判断基準を適切に設定することができる。
【0030】
このように判断基準が設定された後、ユーザは、検査モードを選択した上で、照射ヘッド部204からの硬化用紫外線54の照射が開始させる。この硬化用紫外線54の照射中において、蛍光測定ヘッド部104からは励起紫外線50が継続的に照射され、紫外線硬化樹脂12の硬化状態が継続的に測定される。制御部102は、この蛍光測定ヘッド部104で検出される蛍光量に基づいて、紫外線硬化樹脂で予め設定した判断基準に沿った硬化反応が生じているか否かを判断する。さらに、制御部102は、紫外線硬化樹脂12における硬化反応が完了したと判断すると、照射終了指示を光源部202に与えるとともに、励起紫外線50の発生を停止して紫外線硬化樹脂12の硬化状態の測定を終了する。
【0031】
(紫外線硬化樹脂)
まず、本実施の形態に従う紫外線照射システム1において使用される紫外線硬化樹脂12について説明する。紫外線硬化樹脂12は、紫外線照射前においては主に液体である一方、紫外線照射後においては固体に変化(硬化)する。なお、本明細書において、「紫外線硬化樹脂」とは、その状態(紫外線照射前の液体状態、もしくは紫外線照射後における固体状態)にかかわらず総称的な意味で使用する。
【0032】
紫外線照射前(硬化前)における紫外線硬化樹脂は、モノマーおよびオリゴマーの少なくとも一方と、光重合開始剤と、各種添加剤とを含む。モノマーおよびオリゴマーは主剤であり、紫外線を受けて光重合開始剤が発生するラジカルやカチオンにより重合反応(主鎖反応や架橋反応など)を生じる。そして、この重合反応に伴いモノマーおよびオリゴマーは、ポリマーに変化して分子量が極めて大きくなるとともに融点が低下する。この結果、紫外線硬化樹脂は液体から固体へ変化する。
【0033】
モノマーおよびオリゴマーは、一例として、ポリエステルアクリレートや、ウレタンアクリレート、ポリブタジエンアクリレート、シリコンアクリレート、エポキシアクリレートなどからなる。モノマーは、単量体とも呼ばれ、重合反応によって重合体を合成する場合の原料となる状態である。一方、オリゴマーは、低重合体とも呼ばれ、重合度が2〜20程度の比較的重合度の低い状態である。
【0034】
光重合開始剤は、紫外線を受けてラジカルを発生するラジカル重合開始剤と、紫外線を受けてカチオンを発生するカチオン重合開始剤とに大別される。なお、ラジカル重合開始剤は、アクリル系のモノマーおよびオリゴマーに対して使用され、カチオン重合開始剤は、エポキシ系やビニールエーテル系のモノマーおよびオリゴマーに対して使用される。さらに、ラジカル重合開始剤およびカチオン重合開始剤の混合物からなる光重合開始剤を用いてもよい。
【0035】
ラジカル重合開始剤は、ラジカルの発生過程に応じて、水素引抜型および分子内開裂型に大別される。水素引抜型は、一例として、ベンゾフェノンおよびオルソベンゾイル安息香酸メチルなどからなる。一方、分子内開裂型は、一例として、ベンゾインエーテルや、ベンジルジメチルケタール、α−ヒドロキシアルキルフェノン、α−アミノアルキルフェノン、オキソベンゾイル安息香酸メチル(OBM)、4−ベンゾイル−4’−メチルジフェニルサルファイド(BMS)、イソプロピルチオキサントン(IPTX)、ジエチルチオキサントン(DETX)、エチル4−(ジエチルアミノ)ベンゾエート(DAB)、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−オン、ベンジルジメチルケタール(BDK)、1,2αヒドロキシアルキルフェノンなどからなる。
【0036】
また、カチオン重合開始剤は、一例として、ジフェニルヨードニウム塩などからなる。
なお、本明細書において、「光重合開始剤」とは、光重合反応を開始させる能力が残存しているものに限らず、当初の光重合開始剤が光重合反応に寄与することによって変化したり光重合反応の対象となるモノマーやオリゴマーが周囲に存在しなかったりすることにより、もはや光重合反応の開始に寄与しない物質となったものをも含む意味で使用する。ここで、光重合開始反応に寄与した後の光重合開始剤は、多くの場合、ほぼ当初の分子の大きさを保持したまま、あるいは2つまたはそれ以上の数の分子に分裂した状態で、ポリマーの末端に結合している。
【0037】
上述したように、本願発明者らは、この紫外線硬化樹脂12に含まれる光重合開始剤自体が紫外線照射に応じて、紫外線硬化樹脂12の状態(たとえば、硬化度)と相関のある観測可能な蛍光を放射することを見出した。
【0038】
より詳細には、本願発明者らは、代表的な紫外線硬化樹脂(合計22種類)の各々に対して、波長365nmをもつ励起紫外線50を照射した場合に放射される光の波長について、スペクトルアナライザーを用いて調査した。この結果、いずれの紫外線硬化樹脂からも、励起紫外線50の波長より長い波長をもつ光(蛍光)が放射されていることを確認した。
【0039】
ここで、紫外線硬化樹脂に含まれる光重合開始剤は、以下のような性質を有する。
(1)重合反応を開始させるための活性種(ラジカルや酸など)を生成する能力(量子収率、モル吸光係数)が高い。
【0040】
(2)反応性の高い活性種を生成する。
(3)活性種の生成能力を発揮するための励起エネルギーのスペクトル域が紫外線領域である。
【0041】
すなわち、光重合開始剤は、紫外線を吸収しやすい分子構造のものが採用され、紫外線吸収したことによるエネルギー(電子)を他の分子に与えやすいものとなっている。
【0042】
一方、紫外線硬化樹脂の主剤であるモノマーおよびオリゴマーは、キャリア(電子)が分子内をスムーズに動きにくい構造をとるため、蛍光をほとんど発しないと考えられる。
【0043】
したがって、本願発明者らは、本質的に光重合開始材が紫外線を受けて蛍光を放射する性質を有する物質であると結論付けた。本実施の形態に従う紫外線照射システムは、この光重合開始材から放射される蛍光を測定し、測定結果から紫外線硬化樹脂12の硬化状態を測定するものである。
【0044】
(測定装置の構成)
図2は、この発明の実施の形態に従う測定装置100の概略構成図である。
【0045】
図2を参照して、制御部102は、CPU(Central Processing Unit)40と、パネル部38と、記憶部46と、インターフェイス部(I/F)48とからなる。パネル部38は、同一面に配置された表示部42および操作部44を含む。
【0046】
CPU40は、測定装置100の全体処理を司る制御装置であって、予めROMなどに格納されるプログラムを読込んで実行することで、以下に示す処理を実現する。具体的には、CPU40は、操作部44を介してユーザなどから与えられる指令に応じて、励起紫外線50を紫外線硬化樹脂12に照射させ、この励起紫外線50の照射によって得られる蛍光52の量を初期値として表示部42に表示させる。なお、この初期蛍光量の測定は、紫外線硬化樹脂12への硬化用紫外線54の照射前に実行される。
【0047】
この表示部42に表示される初期蛍光量を参照して、ユーザは、操作部44を操作して、対象となる紫外線硬化樹脂12についての判断基準を設定する。CPU40は、このユーザからの判断基準を記憶部46に格納する。そして、CPU40は、紫外線硬化樹脂12への硬化用紫外線54の照射開始後、検出される蛍光52の量(強度)に基づいて、紫外線硬化樹脂12で所定の判断基準に沿った硬化反応が生じているか否かを判断する。そして、CPU40は、この判断結果および取得される蛍光52の量などを表示部42に表示させる。
【0048】
なお、CPU40は、インターフェイス部48を介して光源部202(図1)から与えられる照射状態信号(照射開始信号や照射終了信号)に基づいて、硬化用紫外線54の照射状態(照射ON/OFF)を判断する。
【0049】
表示部42は、ユーザに対して硬化反応に係る情報を表示するための表示装置であり、一例として、LCD(Liquid Crystal Display)やCRT(Cathode-Ray Tube)などのディスプレイを含んで構成される。
【0050】
操作部44は、ユーザからの操作指令を受付ける指令入力装置であり、一例として、スイッチ、タッチパネルもしくはマウスなどから構成され、ユーザ操作に応じた操作指令をCPU40へ出力する。
【0051】
記憶部46は、CPU40で実行されるプログラムや過去の時間的挙動を不揮発的に格納可能な装置であり、一例として、ハードディスクやフラッシュメモリなどを含んで構成される。
【0052】
インターフェイス部48は、外部装置とCPU40との間の通信を仲介するための装置であり、一例として、デジタルアナログ変換部(DAC)、USB(Universal Serial Bus)もしくはイーサネット(登録商標)などで構成される。
【0053】
一方、蛍光測定ヘッド部104は、投光駆動回路20と、投光素子22と、ハーフミラー24と、光フィルタ26と、受光素子28と、ハイパスフィルタ回路(HPF:High Pass Filter)30と、増幅回路32と、サンプルホールド回路(S/H:Sample and Hold)34と、アナログデジタル変換部(ADC)36とからなる。
【0054】
投光駆動回路20は、CPU40からの制御指令に応じて、投光素子22で励起紫外線50を発生させるための駆動電力を供給する。励起紫外線50は、光重合開始剤から放射される蛍光量をより正確に測定できるように、その強度が周期的に変化することが望ましい。そこで、投光駆動回路20は、CPU40から照射を指示する制御指令が与えられる期間において、所定周期で変化する駆動電力を投光素子22へ供給する。
【0055】
投光素子22は、励起紫外線50を発生する紫外線光源であって、代表的に紫外線LEDからなる。なお、投光素子22で発生する励起紫外線50の主発光ピークは365nmが好ましい。
【0056】
投光駆動回路20から供給される駆動電力を受けて投光素子22が発生する励起紫外線50は、ハーフミラー24を通過して所定の照射位置に集束する。この励起紫外線50を受けて、紫外線硬化樹脂12(図1)では、その硬化状態に応じた蛍光52が発生する。発生した蛍光52の一部は、励起紫外線50の伝播経路と実質的に同一の伝播経路を励起紫外線50とは逆方向に伝播し、ハーフミラー24に入射する。
【0057】
ハーフミラー24は、この蛍光52の伝搬方向を紙面下方向に変化させる。すると、蛍光52は、光フィルタ26を通過して受光素子28へ入射する。すなわち、ハーフミラー24は、投光素子22からの励起紫外線50と、紫外線硬化樹脂12から放射される蛍光52とを分離する。このように、ハーフミラー24が同一の光学経路上を伝播する励起紫外線50と蛍光52とを分離することによって、微弱な強度を有する蛍光52を受光素子28によって確実に検出できる。
【0058】
光フィルタ26は、投光素子22から放射される励起紫外線50が直接的に受光素子28へ入射することを抑制するために配置されたものであり、紫外領域の光を減衰させる一方で可視領域の光を透過するように構成される。一例として、光フィルタ26は、波長が410nm以上の光を透過する誘電体多層膜のフィルタからなる。
【0059】
受光素子28は、一例としてフォトダイオードからなり、ハーフミラー24および光フィルタ26を通過して入射する蛍光の強度に応じた電気信号を発生する。
【0060】
本実施の形態に従う紫外線照射システム1では、図1に示すように、紫外線硬化樹脂12に対して光源装置200から硬化用紫外線54が同時に放射される場合がある。そのため、紫外線硬化樹脂12に含まれる光重合開始剤で発生する蛍光は、励起紫外線50を受けて生じる蛍光と、硬化用紫外線54を受けて生じる蛍光とが含まれると考えられる。そこで、本実施の形態では、それぞれの紫外線を周波数領域上で分離する。すなわち、主として直流(DC)成分の強度を有する硬化用紫外線54と、その強度に交流成分(一例として、パルス状変化)を含む励起紫外線50とを照射し、この照射によって測定される蛍光量を示す信号のうち、励起紫外線50の強度変化周期に対応する周期成分を抽出して、励起紫外線50によって生じた蛍光量として測定する。
【0061】
ハイパスフィルタ回路30は、受光素子28で検出される蛍光量のうち、周期成分(励起紫外線50に起因する成分)を抽出するためのフィルタであり、励起紫外線50の強度変化周期に対応する周期成分より高周波の成分を通過させる。
【0062】
増幅回路32は、HPF30からの出力信号を所定の増幅率(電流電圧変換率)で増幅してサンプルホールド回路34へ出力する。そして、サンプルホールド回路34は、投光素子22から照射される励起紫外線50のパルス周期に同期してHPF30からの出力信号をサンプリングし、サンプリングした信号値を次回のサンプリング時まで保持する。これにより、各パルスの最大振幅値に応じた値がサンプルホールド回路34から出力される。このサンプルホールド回路34から出力される信号(アナログの電圧信号)はアナログデジタル変換部36によってデジタル値に変換されて、蛍光量の測定値としてCPU40へ出力される。
【0063】
上述した図1および図2と本願発明との対応関係については、投光素子22が「投光部」に相当し、受光素子28が「受光部」に相当し、CPU40が「制御部」に相当し、表示部42が「表示部」に相当し、操作部44が「操作部」に相当し、記憶部46が「記憶部」に相当し、硬化用紫外線54が「紫外線」に相当し、励起紫外線50が「他の紫外線」に相当する。
【0064】
(初期蛍光量)
上述したように、励起紫外線50を受けて紫外線硬化樹脂12から放射される蛍光52の初期蛍光量は、紫外線硬化樹脂12の種類やその劣化状態(品質)、紫外線の照射条件、およびワークの材質などを様々な要因によって変化し得る。
【0065】
図3は、紫外線照射前の紫外線硬化樹脂からの蛍光発生量の測定例を示す図である。なお、図3は、励起紫外線50の照射条件を同一とした上で、スリーボンド社製の10種類の紫外線硬化樹脂から照射される蛍光の量を測定したものである。なお、測定対象の紫外線硬化樹脂のうち、6種類がアクリルを主材質としたものであり、4種類がエポキシを主材質としたものである。
【0066】
図3を参照して、紫外線硬化樹脂の材質によって、蛍光量にばらつきが生じていることがわかる。また、全体的に見ると、アクリルを主材質とする紫外線硬化樹脂の方に比較して、エポキシを主材質とする紫外線硬化樹脂から発生する蛍光量は大きいが、一部の紫外線硬化樹脂(たとえば、「3164」)には例外もある。
【0067】
このように、紫外線硬化樹脂から照射される蛍光の量は、その種類に応じて大きく変化する。
【0068】
また、一般的に紫外線硬化樹脂は、劣化によってもその発生する蛍光量が変化する。一般的に、紫外線硬化樹脂は、嫌気性接着剤であり、大気中に長時間(たとえば、数週間)放置されると大気中の酸素と光重合開始剤とが結合することで劣化を生じる。この劣化反応は、硬化反応の一種であり、紫外線硬化樹脂に硬化が進行すると、発生する蛍光量も相対的に大きくなる。
【0069】
さらに、励起紫外線50の照射対象であるワークから蛍光が発生する場合もある。そのため、紫外線硬化樹脂12の単体から発生する蛍光量と、基材6や被着体8に塗布された状態の紫外線硬化樹脂12から発生する蛍光量とでは、差異を生じ得る。
【0070】
図4は、励起紫外線50の照射による蛍光の発生状態を概略的に示す図である。
図4を参照して、基材6または被着体8の上に紫外線硬化樹脂12が塗布された状態を簡略的にモデル化する。このモデルにおいて、蛍光測定ヘッド部104が紫外線硬化樹脂12の垂直上方に配置され、この蛍光測定ヘッド部104から励起紫外線50が照射される。この照射された励起紫外線50の一部は、紫外線硬化樹脂12に吸収され、そのエネルギーによって蛍光52が発生する。一方、紫外線硬化樹脂12で吸収されなかった励起紫外線50aは、基材6または被着体8へ到達する。ここで、基材6または被着体8の材質によっては、励起紫外線50aを受けて蛍光を発するものもあり、基材6または被着体8から発生した蛍光52aも蛍光測定ヘッド部104に入射する。
【0071】
したがって、蛍光測定ヘッド部104で受光される蛍光の量は、紫外線硬化樹脂12から発生する蛍光と、基材6または被着体8から発生する蛍光との合計となる。そのため、励起紫外線50の強度、紫外線硬化樹脂12の量(厚さ)、紫外線硬化樹脂12の劣化状態(品質)、紫外線の照射条件などによって、初期蛍光量も変化する。
【0072】
図5は、ワーク別に測定した初期蛍光量の例を示す図である。なお、図5は、基材として電子基板(材質:ガラスエポキシ)または鉄板を用いた場合において、所定量の紫外線硬化樹脂を塗布した状態で受光される蛍光量をそれぞれ測定したものである。図5に示す基準点(ゼロ点)は、紫外線硬化樹脂を塗布していない基材単体に励起紫外線を照射した場合に測定される蛍光量に相当する値としており、図5に示す値は各基準点に対する相対値となっている。
【0073】
図5を参照して、基材と紫外線硬化樹脂との組合せによっては、紫外線硬化樹脂を塗布することで、発生する蛍光が増大する場合、減少する場合、ほとんど変化しない場合のいずれの場合も生じていることがわかる。これは、基材自体からの蛍光の発光量と、紫外線硬化樹脂からの蛍光の発光量との相対的な関係に依存するものと考えられる。
【0074】
以上のように、基材上に塗布された紫外線硬化樹脂から発生する初期蛍光量は、さまざまな要因によって変化する。そのため、本発明では、このように変化の大きな初期蛍光量を予め取得し、この初期蛍光量に基づいた判断基準の設定を可能にする。
【0075】
(処理手順)
図6は、この発明の実施の形態に従う硬化状態測定装置100における処理手順を示すフローチャートである。
【0076】
図6を参照して、まず、ユーザはワークを所定位置にセットする。一方、電源投入状態にある制御部102のCPU40は、選択中のモードを判断する(ステップS100)。ここで、ユーザは操作部44を操作して「設定モード」を選択する。
【0077】
図7は、この発明の実施の形態に従う硬化状態測定装置100のパネル部38の「設定モード」における表示例を示す図である。図8は、この発明の実施の形態に従う硬化状態測定装置100のパネル部38の「検査モード」における表示例を示す図である。
【0078】
パネル部38は、代表的に、タッチパネルが付加されたディスプレイから構成される。図7に示すように、「設定モード」においては、表示部として機能する表示領域421,422,423と、操作部として機能する操作領域441,442,443,444,445とがディスプレイ上に配置される。なお、本発明は、表示部および操作部が同一面に配置されていればよい。あるいは、表示部としてセグメント表示器などを用いてもよく、操作部としてボタンなどを用いてもよい。また、図8に示すように、「検査モード」においては、表示部として機能する表示領域422,450と、操作部として機能する操作領域445とがディスプレイ上に配置される。
【0079】
図7および図8に示すように、いずれのモードにおいても、ユーザがパネル部38の操作領域445を操作することで、他方のモードへの切替が可能となっている。
【0080】
再度、図6を参照して、「設定モード」が選択されると(ステップS100において「設定モード」)、CPU40は、初期蛍光量の測定指令が与えられたか否かを判断する(ステップS102)。ここで、ユーザが「初期蛍光量測定」のボタン(操作領域441)を選択すると、CPU40は、投光駆動回路20(図2)に制御指令を与え、励起紫外線50を相対的に短時間だけ照射させる(ステップS104)。CPU40は、この励起紫外線50の照射を受けて紫外線硬化樹脂12から発生する蛍光量を、アナログデジタル変換部36から取得し(ステップS106)、その値を初期蛍光量として表示部42に表示する(ステップS108)。より具体的には、図7に示すように、パネル部38の表示領域421に初期蛍光量が表示される。
【0081】
ユーザは、このパネル部38の表示領域421の表示中に、設定値変更ボタン(操作領域443および444)を操作して、判断基準の一例であるしきい値を設定する。このしきい値は、紫外線硬化樹脂12において適切な硬化反応が生じているか否か、もしくは紫外線硬化樹脂12において十分な硬化反応が完了したか否かを判断するための基準値である。
【0082】
図9は、硬化前後における紫外線硬化樹脂から発生する蛍光量の変化を示す例である。なお、図9は、紫外線硬化樹脂としてスリーボンド社製の型式「3042」を用いた場合の紫外線硬化樹脂から発生する蛍光量の変化を基材別に示したものである。
【0083】
図9を参照して、ガラスエポキシからなる電子基板を基材として用いた場合には、紫外線硬化樹脂を塗布することで初期蛍光量は減少し、さらに硬化用紫外線54を照射して硬化反応が完了すると、さらに発生する蛍光量は減少することがわかる。すなわち、硬化反応完了時に発生する蛍光量は、初期蛍光量に比較して減少することになる。
【0084】
一方、鉄板を基材として用いた場合には、紫外線硬化樹脂を塗布することで初期蛍光量は増加し、さらに硬化用紫外線54を照射して硬化反応が完了すると、さらに発生する蛍光量は増加することがわかる。すなわち、硬化反応完了時に発生する蛍光量は、初期蛍光量に比較して増加することになる。
【0085】
そこで、図7に示すように、ユーザは、設定値変更ボタン(操作領域443および444)を操作して、初期蛍光量に対する相対値としてしきい値を設定する。このしきい値は、上述したようなワークの特性に応じて、正方向(+)および負方向(−)のいずれにも設定可能である。
【0086】
このユーザのしきい値の設定に先だって、CPU40は、しきい値の候補を予め定められた演算式によって算出し、表示領域422にその算出した値を表示する(ステップS110)。この演算式としては、初期蛍光量に対して所定比率を乗じるような演算式や、初期蛍光量に所定値を加算または減算するような演算式を用いることができる。
【0087】
このしきい値の設定とともに、ユーザは、紫外線硬化樹脂の種別を設定する。具体的には、表示領域423に表示される紫外線硬化樹脂の候補の一覧に対して、ユーザがカーソル(操作領域445)を操作して、対象の紫外線硬化樹脂の種別を選択する。
【0088】
このしきい値および種別の設定が完了し、ユーザが確定ボタン(操作領域442)を選択すると、CPU40は、このときに表示領域422に表示されているしきい値を設定する(ステップS112)とともに、設定されたしきい値と紫外線硬化樹脂の種別とを対応付けて、記憶部46に格納する(ステップS114)。この記憶部46に格納したしきい値は、紫外線硬化樹脂の種別を指定して読出すこともできる。
【0089】
以上で、判断基準であるしきい値の設定が完了し、処理はステップS100へ戻る。
続いて、ユーザは、ユーザがパネル部38の操作領域445を操作して「検査モード」を選択する。すると、パネル部38の表示は図8に示す表示態様に切替わる。その後、CPU40は、光源装置200からの照射開始信号に基づいて、ワークに対して硬化用紫外線56の照射が開始されたか否かを判断する(ステップS116)。硬化用紫外線56の照射が開始されていなければ(ステップS116においてNO)、CPU40は、硬化用紫外線56の照射が開始されるまで待つ。
【0090】
硬化用紫外線56の照射が開始されると(ステップS116においてYES)、CPU40は、投光駆動回路20(図2)に制御指令を与え、励起紫外線50の継続的な照射を開始させる(ステップS118)。CPU40は、この励起紫外線50の照射を受けて紫外線硬化樹脂12から発生する蛍光量を、アナログデジタル変換部36から継続的に取得し(ステップS120)、取得された蛍光量が設定されたしきい値まで到達したか否かを判断する(ステップS122)。なお、しきい値までの到達とは、正のしきい値に対しては取得された蛍光量が当該しきい値と一致または超過することを意味し、負のしきい値に対しては取得された蛍光量が当該しきい値と一致または下回ることを意味する。
【0091】
この蛍光量の取得過程において、パネル部38では、図8に示すような取得された蛍光量の時間波形451が表示領域450に表示される。この蛍光量の時間波形451は、時間の経過とともに更新される。また、この表示領域450には、設定モードにおいて設定された判断基準の代表例であるしきい値を示す表示領域422、およびこのしきい値に対応する位置にしきい値線452が表示される。
【0092】
取得された蛍光量が設定されたしきい値まで到達していれば(ステップS122においてYES)、CPU40は、紫外線硬化樹脂12における硬化反応が適切であると判断し(ステップS124)、その旨を表示部42またはインターフェイス部48を介して外部装置へ出力する。
【0093】
これに対して、取得された蛍光量が設定されたしきい値まで到達していなければ(ステップS122においてNO)、CPU40は、光源装置200からの照射終了信号に基づいて、硬化用紫外線56の照射が終了したか否かを判断する(ステップS126)。硬化用紫外線56の照射が終了していなければ(ステップS126においてNO)、CPU40は、硬化用紫外線56の照射開始から所定時間が経過したか否かを判断する(ステップS128)。硬化用紫外線56の照射開始から所定時間が経過していなければ(ステップS128においてNO)、CPU40は、ステップS122以下の処理を再度実行する。
【0094】
一方、硬化用紫外線56の照射が終了していれば(ステップS126においてYES)、または硬化用紫外線56の照射開始から所定時間が経過していれば(ステップS128においてYES)、CPU40は、紫外線硬化樹脂12における硬化反応が不適切であると判断し(ステップS130)、その旨を表示部42またはインターフェイス部48を介して外部装置へ出力する。そして、処理は終了する。
【0095】
この発明の実施の形態によれば、紫外線硬化樹脂で硬化反応が生じる前、すなわち硬化用紫外線の照射前に、予め励起紫外線を紫外線硬化樹脂へ照射して初期蛍光量を取得し、その初期蛍光量を表示部に表示する。そして、この初期蛍光量の表示中に、ユーザからの設定操作に応じて判断基準の一例であるしきい値が設定される。これにより、ユーザは、初期蛍光量を参照しながらしきい値を設定できるので、さまざまな要因によって変動する初期蛍光量に応じた判断基準を設定できる。したがって、紫外線硬化樹脂に対する硬化反応に係る要因を考慮した適切な判断基準を容易に設定できる。
【0096】
また、この発明の実施の形態によれば、初期蛍光量に基づいて所定の演算式によってしきい値の候補が算出されるので、ユーザは予めしきい値の目安を確認しつつ、しきい値を設定することができる。これにより、しきい値設定をより迅速に行なうことができる。
【0097】
(第1変形例)
図6に示すフローチャートでは、紫外線硬化樹脂の硬化反応についての適否を判断する構成について例示したが、同様の手法を用いて、紫外線硬化樹脂自体の劣化を判断することもできる。具体的には、予め正常な紫外線硬化樹脂の初期蛍光量を測定しておき、この初期蛍光量と対象の紫外線硬化樹脂の初期蛍光量との比較、または硬化用紫外線54の照射直後の蛍光量の変化特性に基づいて、対象の紫外線硬化樹脂の劣化状態を判断することもできる。
【0098】
すなわち、初期蛍光量に基づいて設定される判断基準と測定される蛍光量との比較を、硬化用紫外線54の照射開始前もしくは、照射開始直後の相対的に短い期間において行なうことで、紫外線硬化樹脂自体が良品であるか不良品であるかを判断することができる。
【0099】
この発明の実施の形態の第1変形例によれば、嫌気性接着剤である紫外線硬化樹脂の劣化状態(いわゆる、ポットライフ)をより適切に管理できる。
【0100】
(第2変形例)
図6に示すフローチャートでは、紫外線硬化樹脂の硬化反応についての適否をしきい値に基づいて判断する構成について例示したが、予め最適な硬化反応状態を示す時間的挙動を取得しておき、この時間的挙動に基づいて、紫外線硬化樹脂に対する照射条件についての適否を判断するようにしてもよい。
【0101】
一般的に、紫外線硬化樹脂の硬化反応における硬化用紫外線の照射強度の大きさによって、紫外線硬化樹脂の硬化速度や仕上がりなどが影響を受ける。具体的には、硬化用紫外線の照射強度が適正値より低ければ、硬化完了までの時間が長くなるとともに、その表面にタック(べたつき)を生じる場合がある。これに対して、硬化用紫外線の照射強度が適正値より高ければ、硬化完了までの時間が短くなるとともに、その表面に焼け(劣化)が残る場合がある。
【0102】
図10は、紫外線硬化樹脂の硬化反応状態の時間的挙動の一例を示す図である。図10は、同一の紫外線硬化樹脂に対して、照射する硬化用紫外線の照射強度を、最適値を中心として5種類(最適値を含む)に変化させた場合における蛍光量の時間的挙動を示したものである。
【0103】
図10を参照して、硬化用紫外線の照射強度を相対的に大きくすることにより、硬化用紫外線の照射開始直後における蛍光量の立ち上がり(時間的変化量)は相対的に大きくなる。そこで、硬化用紫外線の照射開始直後における蛍光量の時間的挙動を、図10に示す最適な時間的挙動と比較することで、紫外線硬化樹脂に対する照射条件についての適否を判断することができる。
【0104】
ここで、上述したように、初期蛍光量はさまざまな要因によって変化するので、この初期蛍光量を「オフセット」として予め取得された基準の時間的挙動に反映した上で、その時間的挙動に基づいて紫外線硬化樹脂に対する照射条件についての適否を判断することが好ましい。
【0105】
図11は、紫外線硬化樹脂に対する照射条件についての適否を判断する場合の処理を説明するための図である。
【0106】
図11を参照して、予め取得された最適な硬化反応状態に対応する時間的挙動に対して、硬化用紫外線の照射前に取得された初期蛍光量をオフセットとして反映する。すなわち、図11に示すように、基準となる蛍光量の時間的変化特性を初期蛍光量に相当する値だけシフトすることで、対象となる紫外線硬化樹脂に対して基準となる時間的挙動が設定される。この対象となる紫外線硬化樹脂の各々について設定される基準となる時間的挙動と、実測される蛍光量とを比較して、紫外線硬化樹脂に対する照射条件についての適否を判断する。
【0107】
この発明の実施の形態の第2変形例によれば、初期蛍光量を反映した上で、紫外線硬化樹脂に対する照射条件の正常性について適切に判断できる。
【0108】
(第3変形例)
上述の実施の形態では、ユーザがしきい値を設定する場合や、初期蛍光量に基づいて所定の演算式によってしきい値の候補を算出する場合について例示したが、実測の蛍光量の時間的特性に基づいてしきい値を算出してもよい。すなわち、ティーチング処理を行なうことで、しきい値を算出してもよい。このティーチング処理は、制御部102によって実行される。
【0109】
図12は、しきい値を算出するためのティーチング処理を説明するための図である。
図12を参照して、制御部102のCPU40は、硬化用紫外線の照射中に、励起紫外線50を継続的に対象の紫外線硬化樹脂へ照射するとともに、その照射によって測定される蛍光量を継続的に取得する。そして、CPU40は、この蛍光量の時間的変化(時間プロフィール)を記憶部46へ順次格納する。そして、CPU40は、対象の紫外線硬化樹脂の初期蛍光量INTと、硬化反応完了後の最終蛍光量ENDとの差をしきい値Thとして算出する。そして、CPU40は、ユーザが予め選択した紫外線硬化樹脂の種別とともに、この算出したしきい値Thを記憶部46へ格納する。この格納されたしきい値Thは、それ以降の処理において、ユーザが選択する紫外線硬化樹脂の種別の選択に応じて読出される。なお、このティーチング処理の対象となる紫外線硬化樹脂は、劣化のない正常なものであることが確認された上で実行される。
【0110】
この発明の実施の形態の第3変形例によれば、ティーチング処理によってしきい値を算出することで、実際の照射条件などを考慮したしきい値を設定することができる。
【0111】
(第4変形例)
一般的に、紫外線硬化樹脂から発生する蛍光量は、温度依存性を有する。そのため、初期蛍光量についても、その取得された時の温度を考慮して補正することが好ましい。
【0112】
図13は、紫外線硬化樹脂から発生する蛍光量の温度依存性の一例を示す図である。
図13を参照して、それぞれの紫外線硬化樹脂は、負の温度依存性(温度が高くなるにつれて、発光量が減少する特性)を有している。そのため、初期蛍光量の測定時に、対象の紫外線硬化樹脂の温度が低く、十分に励起していなければ、測定される初期蛍光量は相対的に小さい値となる。そのため、このような状態で測定された初期蛍光量を補正する必要がある。
【0113】
図14は、この発明の実施の形態の第4変形例に従う測定装置100Aの概略構成図である。
【0114】
図14を参照して、測定装置100Aは、図2に示す測定装置100に、対象となる紫外線硬化樹脂の温度またはその雰囲気温度を測定するための温度検出部60をさらに加えたものである。温度検出部60は、対象となる紫外線硬化樹脂およびその周辺の温度を検出し、その検出結果をCPU40へ出力する。CPU40は、この検出された温度に基づいて、上述と同様の手順によって測定された初期蛍光量を補正し、補正後の初期蛍光量を記憶部46に格納する。
【0115】
なお、この温度補正は、図13のような紫外線硬化樹脂の種類別に予め取得された温度依存性のうちから、CPU40がユーザの種別選択に応じたものを選択し、この選択された温度依存性に従って行なわれる。
【0116】
この発明の実施の形態の第4変形例によれば、初期蛍光量の測定後の温度要因による外乱の影響を抑制することができる。
【0117】
(第5変形例)
上述の実施の形態では、紫外線硬化樹脂の硬化状態を測定する硬化状態測定装置と、紫外線硬化樹脂の硬化反応を促進するための硬化用紫外線を照射する光源装置とを別々に設けた紫外線照射システムについて説明したが、単一の光源を用いて励起紫外線および硬化用紫外線の効果を発揮させるようにしてもよい。すなわち、硬化状態測定装置に光源装置の機能を取込むようにしてもよい。
【0118】
図15は、この発明の実施の形態の第5変形例に従う測定装置100Bの概略構成図である。
【0119】
図15を参照して、測定装置100Bは、励起紫外線50および硬化用紫外線54に相当する照射強度の紫外線を照射する。この構成によれば、測定装置100Bから照射される紫外線の強度が相対的に大きいので、初期蛍光量を測定するための紫外線を照射すると、紫外線硬化樹脂に対して硬化反応を生じさせる可能性がある。そのため、本来の紫外線の照射条件とは異なった照射条件になってしまうおそれがある。
【0120】
そこで、初期蛍光量の測定時の照射する紫外線は、紫外線硬化樹脂において硬化反応を生じない程度に抑制する必要がある。このように照射強度を抑制する構成としては、一例として、所定周期で間欠的に紫外線を照射することが好ましい。
【0121】
図16は、この発明の実施の形態の第5変形例に従う測定装置100Bにおける初期蛍光量の測定時における紫外線の照射パターンを説明する図である。
【0122】
図16を参照して、CPU40(図15)は、対象の紫外線硬化樹脂の初期蛍光量を測定する場合には、所定のデューティー(Δt/T)で紫外線が間欠的に照射されるように、制御指令を投光駆動回路20へ出力する。このような間欠的な照射によって、実質的に紫外線硬化樹脂に照射される照射強度は、最大の照射強度の(Δt/T)倍に抑制される。
【0123】
この発明の実施の形態の第5変形例によれば、共通の紫外線源を用いてより簡素化された紫外線照射システムにおいても、適切に初期蛍光量を測定することができる。
【0124】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した説明ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0125】
【図1】この発明の実施の形態に従う硬化状態測定装置を備える紫外線照射システムの概略構成図である。
【図2】この発明の実施の形態に従う測定装置の概略構成図である。
【図3】紫外線照射前の紫外線硬化樹脂からの蛍光発生量の測定例を示す図である。
【図4】励起紫外線50の照射による蛍光の発生状態を概略的に示す図である。
【図5】ワーク別に測定した初期蛍光量の例を示す図である。
【図6】この発明の実施の形態に従う硬化状態測定装置における処理手順を示すフローチャートである。
【図7】この発明の実施の形態に従う硬化状態測定装置のパネル部の「設定モード」における表示例を示す図である。
【図8】この発明の実施の形態に従う硬化状態測定装置のパネル部の「検査モード」における表示例を示す図である。
【図9】硬化前後における紫外線硬化樹脂から発生する蛍光量の変化を示す例である。
【図10】紫外線硬化樹脂の硬化反応状態の時間的挙動の一例を示す図である。
【図11】紫外線硬化樹脂に対する照射条件についての適否を判断する場合の処理を説明するための図である。
【図12】しきい値を算出するためのティーチング処理を説明するための図である。
【図13】紫外線硬化樹脂から発生する蛍光量の温度依存性の一例を示す図である。
【図14】この発明の実施の形態の第4変形例に従う測定装置の概略構成図である。
【図15】この発明の実施の形態の第5変形例に従う測定装置の概略構成図である。
【図16】この発明の実施の形態の第5変形例に従う測定装置における初期蛍光量の測定時における紫外線の照射パターンを説明する図である。
【符号の説明】
【0126】
1 紫外線照射システム、6 基材、8 被着体、12 紫外線硬化樹脂、20 投光駆動回路、22 投光素子、24 ハーフミラー、26 光フィルタ、28 受光素子、30 ハイパスフィルタ回路、32 増幅回路、34 サンプルホールド回路、36 アナログデジタル変換部、38 パネル部、42 表示部、44 操作部、46 記憶部、48 インターフェイス部、50,50a 励起紫外線、52,52a 蛍光、54 硬化用紫外線、60 温度検出部、100,100A,100B 硬化状態測定装置(測定装置)、102 制御部、104 蛍光測定ヘッド部、200 光源装置、202 光源部、204 照射ヘッド部、421,422,423 表示領域、441,442,443,444,445 操作領域。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
モノマーおよびオリゴマーの少なくとも一方からなる主剤と光重合開始剤とを含む紫外線硬化樹脂の硬化状態を測定する硬化状態測定装置であって、
前記紫外線硬化樹脂を活性化するための紫外線を発生する投光部と、
前記紫外線を受けて前記光重合開始剤から放射される蛍光を受光する受光部と、
制御部と、
表示部と、
操作部とを備え、
前記制御部は、
前記操作部からの設定操作に応じて設定モードおよび検査モードのいずれかを選択可能なモード切替手段と、
前記設定モードにおいて前記紫外線が前記紫外線硬化樹脂に照射されたときに、前記受光部で受光される蛍光の量を初期値として前記表示部に表示する初期値表示手段と、
前記設定モードにおける前記初期値の表示中に、前記操作部からの設定操作に応じて判断基準を設定する判断基準設定手段と、
前記検査モードにおいて前記紫外線が前記紫外線硬化樹脂に照射されたときに、前記受光部で受光される蛍光の量に基づいて、前記紫外線硬化樹脂で前記判断基準に沿った硬化反応が生じているか否かを判断する判断手段とを含む、硬化状態測定装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記初期値に基づいて、予め定められた演算式に従って前記判断基準の候補を算出する判断基準候補算出手段をさらに含む、請求項1に記載の硬化状態測定装置。
【請求項3】
前記硬化状態測定装置は、記憶部をさらに備え、
前記制御部は、
前記操作部からの設定操作に応じて前記紫外線硬化樹脂の種別を設定する種別設定手段と、
前記紫外線硬化樹脂の種別に対応付けて、設定された前記判断基準を前記記憶部に格納する判断基準格納手段とをさらに含む、請求項1または2に記載の硬化状態測定装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記初期値と、前記紫外線硬化樹脂の硬化反応の完了後に前記紫外線を照射して得られる前記蛍光の量である最終値とに基づいて、前記判断基準を算出するティーチング手段をさらに含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の硬化状態測定装置。
【請求項5】
前記ティーチング手段は、前記紫外線硬化樹脂の硬化反応を促進するための他の紫外線が前記紫外線硬化樹脂に継続的に照射される場合において、前記紫外線を前記紫外線硬化樹脂に継続的に照射して得られる前記蛍光の量の時間的変化に基づいて、前記初期値および前記最終値を取得する、請求項4に記載の硬化状態測定装置。
【請求項6】
前記制御部は、前記紫外線を前記紫外線硬化樹脂に照射して得られる前記蛍光の量に基づいて、前記紫外線硬化樹脂の良否を判断する、請求項1〜5のいずれか1項に記載の硬化状態測定装置。
【請求項7】
前記判断基準は、しきい値である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の硬化状態測定装置。
【請求項8】
硬化状態測定装置を用いて、モノマーおよびオリゴマーの少なくとも一方からなる主剤と光重合開始剤とを含む紫外線硬化樹脂の硬化状態を測定する硬化状態測定方法であって、
前記硬化状態測定装置は、
紫外線を発生する投光部と、
蛍光を受光する受光部と、
表示部と、
操作部とを備え、
前記硬化状態測定方法は、
前記操作部からの設定操作に応じて設定モードおよび検査モードのいずれかを選択するステップと、
前記設定モードにおいて、前記投光部から前記紫外線を前記紫外線硬化樹脂へ照射するステップと、
前記設定モードにおいて、前記紫外線を受けて前記光重合開始剤から放射される蛍光を前記受光部で受光するステップと、
前記設定モードにおいて、前記受光部で受光される前記蛍光の量を初期値として前記表示部に表示するステップと、
前記設定モードにおける前記初期値の表示中に、前記操作部からの設定操作に応じて判断基準を設定するステップと、
前記検査モードにおいて、前記投光部から前記紫外線を前記紫外線硬化樹脂へ照射するステップと、
前記検査モードにおいて、前記受光部で受光される蛍光の量に基づいて、前記紫外線硬化樹脂で前記判断基準に沿った硬化反応が生じているか否かを判断するステップとを備える、硬化状態測定方法。
【請求項1】
モノマーおよびオリゴマーの少なくとも一方からなる主剤と光重合開始剤とを含む紫外線硬化樹脂の硬化状態を測定する硬化状態測定装置であって、
前記紫外線硬化樹脂を活性化するための紫外線を発生する投光部と、
前記紫外線を受けて前記光重合開始剤から放射される蛍光を受光する受光部と、
制御部と、
表示部と、
操作部とを備え、
前記制御部は、
前記操作部からの設定操作に応じて設定モードおよび検査モードのいずれかを選択可能なモード切替手段と、
前記設定モードにおいて前記紫外線が前記紫外線硬化樹脂に照射されたときに、前記受光部で受光される蛍光の量を初期値として前記表示部に表示する初期値表示手段と、
前記設定モードにおける前記初期値の表示中に、前記操作部からの設定操作に応じて判断基準を設定する判断基準設定手段と、
前記検査モードにおいて前記紫外線が前記紫外線硬化樹脂に照射されたときに、前記受光部で受光される蛍光の量に基づいて、前記紫外線硬化樹脂で前記判断基準に沿った硬化反応が生じているか否かを判断する判断手段とを含む、硬化状態測定装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記初期値に基づいて、予め定められた演算式に従って前記判断基準の候補を算出する判断基準候補算出手段をさらに含む、請求項1に記載の硬化状態測定装置。
【請求項3】
前記硬化状態測定装置は、記憶部をさらに備え、
前記制御部は、
前記操作部からの設定操作に応じて前記紫外線硬化樹脂の種別を設定する種別設定手段と、
前記紫外線硬化樹脂の種別に対応付けて、設定された前記判断基準を前記記憶部に格納する判断基準格納手段とをさらに含む、請求項1または2に記載の硬化状態測定装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記初期値と、前記紫外線硬化樹脂の硬化反応の完了後に前記紫外線を照射して得られる前記蛍光の量である最終値とに基づいて、前記判断基準を算出するティーチング手段をさらに含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の硬化状態測定装置。
【請求項5】
前記ティーチング手段は、前記紫外線硬化樹脂の硬化反応を促進するための他の紫外線が前記紫外線硬化樹脂に継続的に照射される場合において、前記紫外線を前記紫外線硬化樹脂に継続的に照射して得られる前記蛍光の量の時間的変化に基づいて、前記初期値および前記最終値を取得する、請求項4に記載の硬化状態測定装置。
【請求項6】
前記制御部は、前記紫外線を前記紫外線硬化樹脂に照射して得られる前記蛍光の量に基づいて、前記紫外線硬化樹脂の良否を判断する、請求項1〜5のいずれか1項に記載の硬化状態測定装置。
【請求項7】
前記判断基準は、しきい値である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の硬化状態測定装置。
【請求項8】
硬化状態測定装置を用いて、モノマーおよびオリゴマーの少なくとも一方からなる主剤と光重合開始剤とを含む紫外線硬化樹脂の硬化状態を測定する硬化状態測定方法であって、
前記硬化状態測定装置は、
紫外線を発生する投光部と、
蛍光を受光する受光部と、
表示部と、
操作部とを備え、
前記硬化状態測定方法は、
前記操作部からの設定操作に応じて設定モードおよび検査モードのいずれかを選択するステップと、
前記設定モードにおいて、前記投光部から前記紫外線を前記紫外線硬化樹脂へ照射するステップと、
前記設定モードにおいて、前記紫外線を受けて前記光重合開始剤から放射される蛍光を前記受光部で受光するステップと、
前記設定モードにおいて、前記受光部で受光される前記蛍光の量を初期値として前記表示部に表示するステップと、
前記設定モードにおける前記初期値の表示中に、前記操作部からの設定操作に応じて判断基準を設定するステップと、
前記検査モードにおいて、前記投光部から前記紫外線を前記紫外線硬化樹脂へ照射するステップと、
前記検査モードにおいて、前記受光部で受光される蛍光の量に基づいて、前記紫外線硬化樹脂で前記判断基準に沿った硬化反応が生じているか否かを判断するステップとを備える、硬化状態測定方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2009−74926(P2009−74926A)
【公開日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−244174(P2007−244174)
【出願日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【出願人】(000002945)オムロン株式会社 (3,542)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【出願人】(000002945)オムロン株式会社 (3,542)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]