説明

硬帆で形成される横帆を備えた船舶及び横帆の格納及び展開方法

【課題】帆を必要としないときに縮帆及び格納できて、輻輳海域での視界の確保と、強風の下での操船、錨泊、離着桟に関する性能の向上と、向かい風の下での空力抵抗の低減を図ることができる硬帆で形成される横帆を備えた船舶及び横帆の格納及び展開方法を提供する。
【解決手段】主機関及び主機関により駆動される推進装置と、甲板上に配置された硬帆で形成される横帆10を備えた船舶1において、横帆10を複数の板状の帆部材13で構成し、前記横帆10の格納時には前記帆部材13をスライドさせて重ね合わせて格納し、前記横帆10の展開時には前記帆部材13をスライドさせて展開するように構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主機関及び主機関により駆動される推進装置を備えると共に、推進補助として硬帆で形成される横帆を備えた船舶及び横帆の格納及び展開方法に関する。
【背景技術】
【0002】
船舶が排出する二酸化炭素(CO2)の総量を削減するためには、新造船のみならず、既に存在する多数の船舶における二酸化炭素の排出量の削減が効果的である。既存船に装備可能な省エネ装置として、プロペラ周辺に装備する省エネ付加物があるが、この省エネ付加物に関しては今までにも性能改善が進んでおり、今後の劇的な性能向上は難しいと考えられている。そのため、これらの省エネ付加物に加えて、既存船にも装備可能な新たな省エネ装置の開発が重要な課題となってきている。
【0003】
これに関連して、帆を装備した貨物船が、1980年代に、内航船や外航ばら積み船をはじめとして十数隻建造されており、その効果は既に実証されている。これらの帆装船は、帆の面積が比較的小さな面積であるため、この補助的な帆の省エネルギー効果は限定的ではあるが、操船、視界、構造、艤装等に大きな影響を与えずに、既存船舶への取り付けが容易にできるものであり、新たに求められる省エネルギー装置の一候補となっている。
【0004】
この機帆走を前提とする大型商船へ装備される硬帆においては、縮帆を行う機構が重要であり、多くの提案や開発が行われており、この帆の格納の問題は、輻輳海域での視界の確保、強風下での操船、錨泊、離着桟に関する性能の向上、向かい風下での空力抵抗の低減等の面から重要な課題となっている。
【0005】
これに関連して、硬帆集合体を、入れ子状に配置した複数段の翼断面筒体の硬帆で形成し、収納は直上段の硬帆を直下段の硬帆に入れ子状に順次収納する硬帆を備える帆走船が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0006】
しかしながら、この硬帆を備える帆走船で用いられている入れ子状の硬帆では表側と裏側の両方に翼表面が形成されることになるため、帆の重量が増加し、これをパンタグラフ方式で展開及び格納するための油圧ジャッキや駆動装置等が大型化するという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−214633号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上述の状況を鑑みてなされたものであり、その目的は、主機関及び主機関により駆動される推進装置と、甲板上に配置された硬帆で形成される横帆を備えた船舶において、帆を必要としないときに縮帆及び格納できて、輻輳海域での視界の確保と、強風の下での操船、錨泊、離着桟に関する性能の向上と、向かい風の下での空力抵抗の低減を図ることができる硬帆で形成される横帆を備えた船舶及び横帆の格納及び展開方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するための本発明の硬帆で形成される横帆を備えた船舶は、主機関及び主機関により駆動される推進装置と、甲板上に配置された硬帆で形成される横帆を備えると共に、横帆を複数の帆部材で構成し、前記横帆の格納時には前記帆部材をスライドさせて重ね合わせて格納し、前記横帆の展開時には前記帆部材をスライドさせて展開するように構成される。
【0010】
この構成によれば、帆を必要としないときに縮帆及び格納できて、輻輳海域での視界の確保と、強風下での操船、錨泊、離着桟に関する性能の向上と、向かい風下での空力抵抗の低減を図ることができる。しかも、帆部材をスライドさせて重ね合わせるので、帆部材の帆面は表面のみとなり、入れ子状の帆に比べて著しく重量を軽減できる。
【0011】
上記の硬帆で形成される横帆を備えた船舶において、前記甲板上の垂直にマストを設けるとともに、該マストの横側に延びる複数の帆桁(ヤード)を互いに平行に設けて、該帆桁間に前記帆部材を移動可能に嵌合し、最も外側の帆部材を前記マスト側に移動することにより、前記帆部材の全部を前記マスト内又はマスト近傍に格納し、最も外側の帆部材を前記マストと反対側に移動することにより、前記帆部材の全部を展開するように構成する。この構成によれば、格納時に、甲板上にマストや帆桁が残こり、視界を横帆を設ける前に比べて遮るが、マストと帆桁という比較的単純な構成となるので、既存船に設置し易くなる。
【0012】
あるいは、上記の硬帆で形成される横帆を備えた船舶において、前記横帆を、前記帆部材を上下方向に配置して構成し、最も上側の帆部材を下側に移動することにより、前記帆部材の全部を最も下側の帆部材に重ねて格納し、最も上側の帆部材を上側に移動することにより、前記帆部材の全部を展開するように構成する。この構成によれば、格納時に、甲板上にマストや帆桁が残らないが、最も下側の帆部材の大きさの視界が妨げられることになる。
【0013】
あるいは、上記の硬帆で形成される横帆を備えた船舶において、前記横帆を、前記帆部材を扇形に配置して構成し、先端側が格納部材から最も離れた帆部材を前記格納部材側に回転移動することにより、前記帆部材の全部を前記格納部材に重ねて格納し、先端側が前記格納部材から最も離れた帆部材を前記格納部材と反対側に回転移動することにより、前記帆部材の全部を展開するように構成する。この構成によれば、格納時に、甲板上にマストや帆桁が残らないが、格納部材の大きさの視界が妨げられることになる。
【0014】
そして、上記の目的を達成するための本発明の横帆の格納及び展開方法は、主機関及び主機関により駆動される推進装置を備えた船舶の甲板上に備えた硬帆で形成される横帆の格納及び展開方法において、前記横帆を複数の板状の帆部材で構成し、前記横帆の格納時には、前記帆部材の内の一つの移動用帆部材を一方向に移動することにより、前記帆部材を順次相互に係合させてスライドさせながら前記帆部材の全部を重ねて格納し、前記横帆の展開時には、前記移動用帆部材を前記一方向と逆方向に移動することにより、前記帆部材を順次相互に係合させてスライドさせながら前記帆部材の全部を展開することを特徴とする方法である。
【0015】
この方法によれば、帆を必要としないときに縮帆及び格納できて、輻輳海域での視界の確保と、強風の下での操船、錨泊、離着桟に関する性能の向上と、向かい風の下での空力抵抗の低減を図ることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の硬帆で形成される横帆を備えた船舶及び横帆の格納及び展開方法によれば、主機関及び主機関により駆動される推進装置と、甲板上に配置された硬帆で形成される横帆を備えた船舶において、帆を必要としないときに縮帆及び格納できて、輻輳海域での視界の確保と、強風の下での操船、錨泊、離着桟に関する性能の向上と、向かい風の下での空力抵抗の低減を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に係る第1の実施の形態の硬帆で形成される横帆を備えた船舶の構成を示す図である。
【図2】第1の実施の形態の横帆の展開時の状態を示す斜視図である。
【図3】図2の横帆の縮帆時の状態を示す斜視図である。
【図4】図2の横帆の格納時の状態を示す斜視図である。
【図5】図2の横帆の帆部材と帆桁との嵌合状態を示す帆桁の嵌合部の断面図である。
【図6】図2の横帆の帆部材間の係合部を示す断面図で、(a)は係合前を、(b)は係合直前を、(c)は係合後を示す図である。
【図7】第2の実施の形態の横帆の展開時の状態を示す斜視図である。
【図8】図7の横帆の縮帆時の状態を示す斜視図である。
【図9】図7の横帆の格納時の状態を示す斜視図である。
【図10】図7の横帆の展開時の状態を重なり状態を示す側断面である。
【図11】図7の横帆の縮帆時の状態を重なり状態を示す側断面である。
【図12】図7の横帆の展開時の状態を重なり状態を示す側断面である。
【図13】第3の実施の形態の横帆の展開時の状態を示す斜視図である。
【図14】図13の横帆の格納時の状態を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して本発明に係る第1、第2、及び第3の実施の形態の硬帆で形成される横帆を備えた船舶(以下船舶という)及び横帆の格納及び展開方法について説明する。
【0019】
本発明に係る第1、第2、及び第3の実施の形態の船舶は、主機関及び主機関により駆動される推進装置を備えると共に、補助推進として、例えば、図1に示すような甲板2上に配置された硬帆で形成された横帆(以下横帆という)10を備えて構成される。
【0020】
最初に第1の実施の形態の船舶及び横帆の格納及び展開方法について説明する。図1〜図6に示すように、この第1の実施の形態の船舶1に用いる横帆10は、甲板2上に垂直にマスト(ポスト)11を設けるとともに、このマスト11から横側に略水平方向に延びる複数の帆桁(ヤード)12を互いに平行に設けて、この上下の帆桁12の間に帆部材13を図5に示すように移動可能に嵌合して構成する。図5の構成では、帆桁12内に設けた空間12sにローラ12aを配置して、帆部材13の上端部の膨張部14を保持する。これにより、帆部材13が帆桁12を案内にして、帆桁12の延びる方向に移動できるようになる。
【0021】
更に、最も外側の帆部材13aをマスト11側に移動することにより、帆部材13をマスト11内(又はマスト11近傍)に格納し、最も外側の帆部材13aをマスト11と反対側に移動することにより、帆部材13を展開するように構成する。
【0022】
この構成は、図6に示すように、一方の帆部材13の裏面端部に段差13cを設け、他方の帆部材13の表面端部に凸状部13dを設けて、下側(右側)の帆部材13を展開のために矢印方向に移動したときに、帆部材13、13同士の相対位置の変化により、一方の帆部材13の段差13cと他方の帆部材13の凸状部13dとが互いに係合し、下側の帆部材13が上側(左側)の帆部材13を引っ張って展開することができる。
【0023】
また、縮帆又は格納のために、逆方向に移動した場合には段差13cと凸状部13dとの係合は解除されて、帆部材13、13同士が重なり合う。そして、帆部材13、13同士の略全体が重なり合う状態になるときに、別の部分に形成された同様な係合部(図示しない)が係合して、帆部材13、13同士が重なり合った状態で、共に移動するように構成される。
【0024】
この構成によれば、格納時に、甲板2上にマスト11や帆桁12が残こり、視界を横帆10を設ける前に比べて遮るが、マスト11と帆桁12という比較的単純な構成となるので、既存船に設置し易くなる。
【0025】
次に、第2の実施の形態の船舶及び横帆の格納及び展開方法について説明する。図7〜図12に示すように、この第2の実施の形態の船舶に用いる横帆10Aは、帆部材13Aを上下方向に配置して構成し、最も上側の帆部材13Aaを下側に移動することにより、帆部材13Aを最も下側の帆部材13Abに重ねて格納し、最も上側の帆部材13Aaを上側に移動することにより、帆部材13Aを展開するように構成する。
【0026】
図10〜図12に示す帆部材13A、13Aa、13Abの場合では、横帆10Aの縮帆又は格納時には、最も上側の帆部材13Aaを下側に移動すると、順次上の帆部材13A、13Aaの曲げ部材13bの下端裏側に設けられた曲げ部材13bが下の帆部材13A、13Abの曲げ部材13bを押し下げるので、順次下側に移動することになる。
【0027】
また、横帆10Aの展開には、最も上側の帆部材13Aaを上側に移動すると、順次上の帆部材13A、13Aaの下端表側に設けた係合部(図示しない)と下の帆部材13A、13Abの上端裏側に設けた係合部(図示しない)とが図6に示す係合部と略同様な係合を行って、下の帆部材13Aを吊り上げて、順次上側に移動させる。
【0028】
この構成によれば、横帆10Aの格納時に、第1の実施の形態の横帆10のように、甲板2上にマスト11や帆桁12が残らないが、最も下側の帆部材13Abに重なり合うため、この大きさの視界が妨げられることになる。
【0029】
次に、第3の実施の形態の船舶及び横帆の格納及び展開方法について説明する。図13〜図14に示すように、この第3の実施の形態の船舶に用いる横帆10Bは、帆部材13Bを中心14Bの周囲に扇形に配置して構成し、先端側が格納部材13Bbから最も離れた帆部材13Baを格納部材13Bb側に回転移動することにより、帆部材13Bを格納部材13Bbに重ねて格納し、先端側が格納部材13Bbから最も離れた帆部材13Baを格納部材13Bbと反対側に回転移動することにより、帆部材13Bを展開するように構成する。この場合は回転移動であるが、第2の実施の形態の横帆13Aと略同様な係合部を帆部材13B、13Ba、13Bbの先端側に設けることで、容易に縮帆、格納及び展開をすることができるようになる。
【0030】
この構成によれば、横帆10の格納時に、甲板2上にマスト11や帆桁12が残らないが、最も下側の帆部材13Abに重なり合うため、この大きさの視界が妨げられることになる。
【0031】
また、横帆10の甲板2上の配置に関しては、図1に示すように、横帆10(又は、10A、10B)は船橋3の監視位置から一直線になるように配置して、横帆10を展開して航走しているときに、船橋からの視界が妨げられる範囲をできるだけ小さくする。また、前方に行くに連れて高さを低くすることにより、前方の視界をできるだけ広くする。
【0032】
上記の船舶1及び横帆の格納及び展開方法によれば、主機関及び主機関により駆動される推進装置と、甲板2上に配置された硬帆で形成される横帆10、10A、10Bを備えた船舶1において、横帆10、10A、10Bを必要としないときに縮帆及び格納できて、輻輳海域での視界の確保と、強風の下での操船、錨泊、離着桟に関する性能の向上と、向かい風の下での空力抵抗の低減を図ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明の硬帆で形成される横帆を備えた船舶及び横帆の格納及び展開方法によれば、主機関及び主機関により駆動される推進装置と、甲板上に配置された硬帆で形成される横帆を備えた船舶において、帆を必要としないときに縮帆及び格納できて、輻輳海域での視界の確保と、強風の下での操船、錨泊、離着桟に関する性能の向上と、向かい風の下での空力抵抗の低減を図ることができるので、既存の船舶を含め多くの船舶に利用することができる。
【符号の説明】
【0034】
1 船舶
2 甲板
3 船橋
10、10A、10B 横帆
11 マスト
12 帆桁(ヤード)
12a ローラ
12s 空間
13、13a、13A、13Aa、13B、13Ba 帆部材
13Bb 格納部材
13c 段差
13d 凸状部
14 帆部材の上端部の膨張部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
主機関及び主機関により駆動される推進装置と、甲板上に配置された硬帆で形成される横帆を備えると共に、横帆を複数の帆部材で構成し、前記横帆の格納時には前記帆部材をスライドさせて重ね合わせて格納し、前記横帆の展開時には前記帆部材をスライドさせて展開することを特徴とする硬帆で形成される横帆を備えた船舶。
【請求項2】
前記甲板上の垂直にマストを設けるとともに、該マストの横側に延びる複数の帆桁を互いに平行に設けて、該帆桁間に前記帆部材を移動可能に嵌合し、最も外側の帆部材を前記マスト側に移動することにより、前記帆部材の全部を前記マスト内又はマスト近傍に格納し、最も外側の帆部材を前記マストと反対側に移動することにより、前記帆部材の全部を展開することを特徴とする請求項1に記載の硬帆で形成される横帆を備えた船舶。
【請求項3】
前記横帆を、前記帆部材を上下方向に配置して構成し、最も上側の帆部材を下側に移動することにより、前記帆部材の全部を最も下側の帆部材に重ねて格納し、最も上側の帆部材を上側に移動することにより、前記帆部材の全部を展開することを特徴とする請求項1に記載の硬帆で形成される横帆を備えた船舶。
【請求項4】
前記横帆を、前記帆部材を扇形に配置して構成し、先端側が格納部材から最も離れた帆部材を前記格納部材側に回転移動することにより、前記帆部材の全部を前記格納部材に重ねて格納し、先端側が前記格納部材から最も離れた帆部材を前記格納部材と反対側に回転移動することにより、前記帆部材の全部を展開することを特徴とする請求項1に記載の硬帆で形成される横帆を備えた船舶。
【請求項5】
主機関及び主機関により駆動される推進装置を備えた船舶の甲板上に備えた硬帆で形成される横帆の格納及び展開方法において、前記横帆を複数の板状の帆部材で構成し、前記横帆の格納時には、前記帆部材の内の一つの移動用帆部材を一方向に移動することにより、前記帆部材を順次相互に係合させてスライドさせながら前記帆部材の全部を重ねて格納し、前記横帆の展開時には、前記移動用帆部材を前記一方向と逆方向に移動することにより、前記帆部材を順次相互に係合させてスライドさせながら前記帆部材の全部を展開することを特徴とする横帆の格納及び展開方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2012−240540(P2012−240540A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−111801(P2011−111801)
【出願日】平成23年5月18日(2011.5.18)
【出願人】(000005902)三井造船株式会社 (1,723)