説明

硬脆性材料の薄板及びその製造方法

【課題】 Si、SiC、Si34、SiO2、GaP、GaAs、GaN、InP、InS、InN、MgS、MgP、MgSe、ZnO、ZnS、ZnSe、CdS、CdS、AlN、Al23、BeSeから選ばれる硬脆質の半導体材料を、材料の無駄を最小限に抑制した効率的な薄板の切り出し方法を提供する。
【構成】
切り出される薄板をその材料の弾性限界(乃至撓み限界)内で、かつ脆性切削と延性切削とが混在する領域内の切削速度で切削を行い、切り出される薄板に破損やクラックが生じないように切り出す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はSi、GaAs、GaN等各種半導体基板用として使用される薄板、及びかかる各種硬脆性材料の効率的な製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
Si、GaAs、SiO2、Al23、等の硬脆性材料の薄板は、一般に、内外周型のダイヤモンドブレード、或いはピアノ線等の鋼線にダイヤモンド又は炭化珪素の粉末をスラリーとして供給し、切断することによって製造されている。
【0003】
かかる材料は、半導体材料として使用される時の厚さは0.075mm程度であるが、切断された時の上記薄板の厚さは0.5〜0.7mm、切断代は0.5〜0.7に達するので、上記の薄板を一枚切り出すのに全体として1〜1.2mmの材料を必要とする。この薄板がさらに、研磨・ポリッシング等によって、約0.075mmの厚さにまで削られるのである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このため、この最終厚さに近い厚さの薄板を切り出すことができれば、半導体材料の価格を劇的に低下させることが可能になる。本発明は、薄板の効率的な切断方法の開発により、このような課題を解決したものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明においては、切り出される薄板をその材料の弾性限界(乃至撓み限界)内で、かつ脆性切削と延性切削とが混在する領域内の切削速度で切削を行い、切り出される薄板に破損やクラックが生じないように切り出すことにより、解決される。
【0006】
本発明においては、切り出される薄板の厚さは0.25mm以下、また切断代を0.2mm以下とすれば、薄板一枚の切り出しに要する全体の厚さは0.45mmとなり、従来の1/3以下で切断できる。この場合、切り出す薄板の厚さを0.075mm以下、切削幅を0.050mm以下とすれば、所要材料の量が従来の約1/10以下にできるので、この条件で操作することがより好ましい。
【0007】
本発明においては、Si、SiC、Si34、SiO2、GaP、GaAs、GaN、InP、InS、InN、MgS、MgP、MgSe、ZnO、ZnS、ZnSe、CdS、CdS、AlN、Al23、BeSeから選ばれる硬脆性材料を、半導体基板としての使用に供すべく、厚さが0.25mm以下の薄板として製造し、この際、弾性限界内乃至撓み限界内の負荷で切削を行い、被切断材を撓ませて、かつ延性切削と脆性切削とが混在する範囲の切削速度で切断して、応力変形を受けてもクラックが生じない状態で薄板を製造するものである。
【0008】
例えば、単結晶Siとしては厚さ0.6mmの場合は弾性限界(撓み限界)は約3°、0.075mmの場合は約20°であり、さらに0.050mmの場合30°、0.25mmの場合は45°となる。GaAsの場合も概ね同様である。
【0009】
また、延性切削と脆性切削とが共存する領域は1×109μm3/sであり、延性切削の領域は8×107μm3/sである、と言われている。このため切削幅を0.1mm以下にすること、できれば0.01mmにすることが望ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明の切断方法によれば高価なSi、GaAs、GaN材料から、半導体基板用として使用される薄板を経済的に製造することができる。
【0011】
例えば単結晶Siの場合、切削幅を0.1mmとすると直径100mmのインゴットの切断には約3時間を必要とするが、切削幅を0.01mmとすると約20分で1枚の薄板を切り出すことができる。GaAsの場合も大体同様の時間で切り出すことが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
脆性切削・延性切削が混在する領域で切断する場合は、切断表面に応力変化が混在することにより応力変化跡が残るので、部分的な研磨乃至ポリシングが必要になるため、最終厚さの0.075mmを確保するためには0.1mm以上の切り出し厚さを必要とする。又、延性切削領域で切断した場合には、切断された表面に応力変化痕がなく、以後の研磨・ポリシング無しで半導体基板としての使用が可能である。
【0013】
又この切断に用いられる刃物工具としては、例えば外周型(回転)ダイヤモンドブレードが適している。その刃先部はダイヤモンド焼結体(PCD)で構成するのが、耐磨耗性、加工性及び経済性の点で最適であるが、cBN焼結体(PCBN)も同様に使用してこれに近い効果が得られ、またCVDによるダイヤモンド様炭素(DLC)で被覆した超硬合金、高速度鋼やその他の硬質鋼でも構成できる。この際、刃先の先端角度は45°以下に形成する。このような円板乃至ブレードを単独で、又は複数個を同一切断面上でかつ被切断材の周囲の異なる位置に配置して用いる。このように複数個のブレードを使用することにより、切断に要する時間が数分の一に短縮される。
【0014】
或いは上記の円板状工具の代わりに、バイト状の刃先を持つ非回転刃物工具も利用可能である。これは単独の使用でもいいが、複数個、例えば2、4、6、8、12、16、24、又は32個と言うように多数のバイトを一平面(切断面)上に一列に配置した刃物工具は、この刃物工具を共通の切断面内で水平方向又は垂直方向に移動させ得る構成としたり、さらにこのような構成の刃物工具を、被切断材の周囲に180度、120度又は90度ごとそれぞれ2、3又は4個等、複数個配置して交互に使用するなどにより、広範な寸法や種類の被切断材に対応し、或いは個々の刃先への負担を軽減したり、工具寿命の向上等を図ることが可能である。
【0015】
以上のように本発明は、本質的に硬脆性である各種半導体の薄板及びその切り出し方法に関わるものであり、特にこれらの材質の薄板を安価に製造可能な方法を提供するものである。
【0016】
本発明による切断工程を、添付の図面によって具体的に説明する。図1は本発明の切断工程の経過を示す模式図、図2及び3は切断時における刃先部分の詳細図である。
【0017】
図1において、Aは工程の初期、Bは同中期、Cは終期の各段階を表す。ここで概略示すように切断は、刃物工具1の刃先2を回転する被切断材3に当て、外周から中心へ向かって押し進めることによって行われる。
【0018】
刃先が進むにつれ、切断された部分4は回転しながら、徐々に残りの部分から剥がされ、刃先部分2の面に沿って撓むが、変形が被切断材の弾性限界内であることから、切断部分に破損を生じることなく、中心まで切り進めることができる。切り落とされた被切断材は平らな薄板に戻る。
【0019】
図2及び3には、一例として、薄板の厚さが0.050mm(50μm)の場合の切断工程を示す。この場合刃先角度30°、切断代10μm、被切断材が単結晶シリコンである。刃先の部分は支持体の部分に対して無傾斜(図3)としてもある程度の効果が得られるが、傾斜をつけてより鋭利にした構造(図2)がより好ましい。
【0020】
次に図4は帯状刃物工具による薄板の切断工程の概念を示す模式図である。図において、被切断材である多結晶シリコンインゴット11を中心軸の周りに回転させつつ、刃物工具12を左右に往復動させると共に中心に向かってaの位置まで切り込みを行い、薄板13を切り出す。刃物工具の刃先部分14はダイヤモンド焼結体で構成され、刃先には水平に対して45°の刃先角度が付けられている。
【実施例1】
【0021】
図1に略示した刃物工具を用いて、直系が4インチ(10cm)の単結晶シリコンから薄板を切り出した。刃先角度は10°、切削幅は0.050mmとし、シリコンインゴットの回転速度は、最初1000r.p.m.から最終回転速度の3000r.p.m.まで徐々に上げ、薄板の切り出し厚さを0.100mmとして切断操作を行った。切断は延性で進行し、一枚の薄板の切り出しに約10分を要した。この薄板の表面には、部分的に応力歪みが認められたので、ポリシングを行い、厚さ0.075mmの薄板とした。
【実施例2】
【0022】
切断幅を0.010mmとした外は同一条件で、実施例1の操作を繰り返した。その結果、延性切断が進行し、約20分間で薄板1枚を切り落とすことができた。薄板の表面は応力歪みが認められなかった。
【実施例3】
【0023】
直径10インチ(25.4cm)の単結晶GaAsの切断を行い、薄板を作製した。上記各実施例と同一条件で操作を行い、同様の結果を得た。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の切断工程の経過を示す模式図。
【図2】切断時における刃先部分の詳細図。
【図3】切断時における刃先部分の詳細図。
【図4】帯状刃物工具による薄板の切断工程の概念を示す模式図。
【符号の説明】
【0025】
1 刃物工具
2 刃先
3 被切断材
4 切断部分
11 被切断材(多結晶シリコンインゴット)
12 刃物工具
13 薄板(切断部分)
14 刃先

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Si、SiC、Si34、SiO2、GaP、GaAs、GaN、InP、InS、InN、MgS、MgP、MgSe、ZnO、ZnS、ZnSe、CdS、CdS、AlN、Al23、BeSeから選ばれる硬脆性材料を、刃先角度が45°以下の鋭利な刃先を有する刃物工具を用い、各材料の弾性限界乃至撓(たわ)み限界内で撓ませて切断された、厚さが0.25mm以下の薄板。
【請求項2】
Si、SiC、Si34、SiO2、GaP、GaAs、GaN、InP、InS、InN、MgS、MgP、MgSe、ZnO、ZnS、ZnSe、CdS、CdSe、AlN、Al23、BeSeから選ばれる硬脆性の被切断材料を、切り出し厚さを0.25mm(250μm)以下とし、刃先角度が45°以下の鋭利な刃先を持つ刃物工具を用い、各材料の弾性限界乃至撓(たわ)み限界内で撓ませて切断することを特徴とする、薄板の製造方法。
【請求項3】
上記硬脆性材料が金属Si又はGaAsであり、刃先角度が15°以下の刃物工具を用いて厚さ0.1mm以下の薄板を切り出す、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
上記硬脆性材料が単結晶金属Si又はGaAsであり、刃先角度が20°以下の刃物工具を用いて厚さ75μm以下の薄板を切り出す、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
上記硬脆性材料が単結晶金属Si又はGaAsであり、刃先角度が30°以下の刃物工具を用いて厚さ50μm以下の薄板を切り出す、請求項2に記載の方法。
【請求項6】
上記硬脆性材料が単結晶金属Si又はGaAsであり、刃先角度が45°以下の刃物工具を用いて厚さ25μm以下の薄板を切り出す、請求項2に記載の方法。
【請求項7】
上記被切断材料の切断において、切断を脆性切削及び延性切削が混在する切断速度で行う、請求項2に記載の方法。
【請求項8】
上記被切断材料の切断において、切断を延性切削のみ進行する切断速度で行う、請求項2に記載の方法。
【請求項9】
上記被切断材料の切断において、被切断材料を中心軸の周りに回転させながら切断する、請求項2に記載の方法。
【請求項10】
上記刃物工具を回転可能な円板状に作成し、被切断材に隣接して一個、或いは被切断材の周囲に複数個を同一切断面上に配置し、回転させながら、被切断材への切り込みによって切断を行う、請求項2に記載の切断方法。
【請求項11】
上記刃物工具をバイトとして作成し、被切断材に隣接して一個、或いは被切断材の幅以上の寸法に亘って同一切断面上に帯状に並べて配置し、被切断材への切り込みによって切断を行う、請求項10に記載の切断方法。
【請求項12】
帯状に並べて配置された上記刃物工具を、切断面内で刃物工具の長さ方向に往復動させながら、被切断材料への切り込みによって切断を行う、請求項11に記載の切断方法。
【請求項13】
上記被刃物工具の刃先が、ダイヤモンド焼結体乃至PCD又はcBN焼結体乃至PCBN、或はダイヤモンド様炭素(DLC)で被覆された超硬合金又は硬質鋼で構成されている、請求項2の方法。
【請求項14】
上記被刃物工具の刃先が高速度鋼で構成されている、請求項13の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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