説明

硬脆材用切削工具

【課題】硬脆材からなる被削材の振動を抑えて精度良く切削加工を行うことができる硬脆材用切削加工工具を提供する。
【解決手段】硬脆材用切削加工工具100は、シャンク101の先端部に錐状に突出した形状で焼結ダイヤモンド製の刃部110を備えている。刃部110は、シャンク101の先端部からシャンク101の軸方向(長手方向)側に立ち上る第1壁面111、第2壁面112および第3壁面113と、第1壁面111と第2壁面112とで形成される稜線上に形成される切れ刃114と、第1壁面111、第2壁面112および第3壁面113の各先端部に形成される先端面115とで構成されている。切れ刃114は、シャンク101側からシャンク101の径方向の内側に向って凹状に凹んで形成された凹状部114aと、この凹状部114aに連続的に形成されてシャンク101の軸線方向側に直線状に延びた軸方向部114bとで構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス材、セラミック材および石材などの硬くて脆い材料である硬脆材を切削するための硬脆材用切削工具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ガラス材、セラミック材および石材などの硬くて脆い材料である硬脆材を切削するための硬脆材用切削工具が知られている。例えば、下記特許文献1には、軸状のシャンクの外周部に螺旋状の外周刃を設けるとともにシャンクの先端部に底刃を設け、これら外周刃と底との間にギャッシュを設けて外周刃のすかし角、ギャッシュのすくい角および長さを適宜設定した硬脆材用のエンドミルが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−283965号公報
【発明の概要】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1に示されたエンドミルに代表される従来の硬脆材用切削工具においては、被削材の切削時の振動によって被削材における切削部にこば欠け、チッピングまたはクラックなどの損傷が生じるという問題があった。特に、携帯電話の表示画面に用いられるガラス板などの厚さが極めて薄い硬脆材の切削加工においては、切削加工時に振動が生じ易いとともにこの振動による影響を受け易くこば欠け、チッピングまたはクラックなどの損傷を抑えて加工することが極めて困難であるという問題があった。
【0005】
本発明は上記問題に対処するためなされたもので、その目的は、硬脆材からなる被削材の振動を抑えて精度良く切削加工を行うことができる硬脆材用切削加工工具を提供することにある。
【0006】
上記目的を達成するため、請求項1に係る本発明の特徴は、軸状に形成されたシャンクの先端部に硬脆材を切削するための切れ刃を有した刃部を備えた硬脆材用切削工具であって、切れ刃は、シャンク側が同シャンクの径方向内側に向って凹みながら同シャンクの軸方向に延びて形成された凹状部と、凹状部に連続的に形成されてシャンクの軸方向側に延びる軸方向部とで構成されていることにある。
【0007】
このように構成した請求項1に係る本発明の特徴によれば、硬脆材用切削工具は、硬脆材を切削する切れ刃がシャンクの径方向内側に凹状に逃げつつ同シャンクの軸方向に沿って延びる凹状部と、この凹状部に対して連続的に形成されてシャンクの軸方向に延びる軸方向部とで構成されている。この場合、凹状部は、硬脆材を切削する際、シャンクの径方向内側に逃げつつ同シャンクの軸方向に沿って延びる凹状の部分が硬脆材の切削部分上に位置する。このため、硬脆材用切削工具は、硬脆材の切削加工時における硬脆材のシャンク側への変位を規制することができる。すなわち、硬脆材用切削工具は、硬脆材の切削加工時における振動を抑えることができるため、硬脆材にこば欠け、チッピングまたはクラックなどの損傷が生じることを抑えて精度良く切削加工を行うことができる。
【0008】
また、請求項2に係る本発明の他の特徴は、前記硬脆材用切削工具において、刃部は、切れ刃に隣接して形成されるすくい面が負のすくい角で形成されていることにある。
【0009】
このように構成した請求項2に係る本発明の他の特徴によれば、硬脆材用切削工具は、切れ刃に隣接して形成されるすくい面が負のすくい角で形成されている。これにより、硬くて脆い性質を有する硬脆材のこば欠け、チッピングまたはクラックなどの損傷をより効果的に抑えて精度良く切削加工を行うことができる。
【0010】
また、請求項3に係る本発明の他の特徴は、硬脆材用切削工具において、切れ刃は、凹状部が円弧状に形成されていることにある。
【0011】
このように構成した請求項3に係る本発明の他の特徴によれば、硬脆材用切削工具は、切れ刃における凹状部が円弧状に形成されている。これにより、硬脆材用切削工具は、切削加工時における凹状部内での応力集中が抑えられるため耐久性を向上させることができる。この結果、硬脆材用切削工具は、長期間に亘って安定的な切削能力を発揮することができる。
【0012】
また、請求項4に係る本発明の他の特徴は、前記硬脆材用切削工具において、切れ刃は、さらに、シャンクの周方向側に延びて形成されていることにある。
【0013】
このように構成した請求項4に係る本発明の他の特徴によれば、硬脆材用切削工具は、切れ刃がシャンクの周方向に沿って延びて形成されている。これにより、硬脆材用切削工具は、切削加工時において切れ刃のシャンク側の部分から徐々に被削材に接触して切削するため切削抵抗を低減して切削時の発熱を抑えることができる。この結果、硬脆材用切削工具は、長期間に亘って安定的な切削能力を発揮することができる。
【0014】
また、請求項5に係る本発明の他の特徴は前記硬脆材用切削工具において、刃部は、シャンクの周方向に沿って複数設けられていることにある。
【0015】
このように構成した請求項5に係る本発明の他の特徴によれば、硬脆材用切削工具は、刃部がシャンクの周方向に沿って複数設けられている。これにより、硬脆材用切削工具は、シャンクの先端部に設けられた複数の刃部によって効率的に硬脆材の切削加工を行うことができる。
【0016】
また、請求項6に係る本発明の他の特徴は前記硬脆材用切削工具において、シャンクは、切れ刃に対して切削液を供給するための切削液導入路を有することにある。
【0017】
このように構成した請求項6に係る本発明の他の特徴によれば、硬脆材用切削工具は、シャンクの切れ刃に対して切削液を供給するための切削液導入路が形成されている。このため、硬脆材切削工具における切削加工時においては、硬脆材用切削工具における切れ刃部分に切削液が供給されるため、切削屑が切削部分に留まることが防止される。これにより、硬脆材用切削工具は、切削屑による切削障害を抑えて安定した状態で精度良く切削加工を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施形態に係る硬脆材用切削工具の外観構成を概略的に示した斜視図である。
【図2】図1に示す硬脆材用切削工具の主要部を拡大した拡大斜視図である。
【図3】図1に示す硬脆材用切削工具の主要部を異なる方向から見て拡大した拡大斜視図である。
【図4】図1に示す硬脆材用切削工具による被削材の切削加工の様子を示す一部破断正面図である。
【図5】図1に示す硬脆材用切削工具の外観構成の概略を示す底面図である。
【図6】図1に示す硬脆材用切削工具の製造過程を説明するための斜視図である。
【図7】本発明の変形例に係る硬脆材用切削工具の主要部の外観構成を概略的に示した正面図である。
【図8】本発明の他の変形例に係る硬脆材用切削工具の外観構成を概略的に示した斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
(硬脆材用切削工具100の構成)
以下、本発明に係る硬脆材用切削工具の一実施形態について図面を参照しながら説明する。図1は、本発明に係る硬脆材用切削工具100の外観構成を概略的に示す斜視図である。なお、本明細書において参照する図は、本発明の理解を容易にするために一部の構成要素を誇張して表わすなど模式的に表している。このため、各構成要素間の寸法や比率などは異なっていることがある。この硬脆材用切削工具100は、ガラス材、セラミック材および石材などの硬くて脆い性質を有する所謂硬脆材を被削材WKとして切削加工する際に用いる加工工具である。
【0020】
この硬脆材用切削工具100は、シャンク101を備えている。シャンク101は、後述する刃部110を支持するとともに、この硬脆材用切削工具100を図示しない切削加工機の主軸に把持させるための部分であり、丸棒状に形成されている。このシャンク101は、被削材WKの切削加工に耐え得る材料、例えば鋼材によって構成されている。本実施形態においては、シャンク101は、直径が約6mm、長さが約60mmの丸棒状の超硬合金鋼によって構成されている。
【0021】
シャンク101における一方(図示左側)の先端部には、外径が先細りの形状に成形されて被削材WKに対する逃げ部102が形成されるとともにこの逃げ部102の先に刃部110が形成されている。刃部110は、被削材WKを切削加工する部分であり、被削材WKを切削することが可能な工具用の材料で構成されている。本実施形態においては、刃部110は、焼結ダイヤモンドによって構成されている。
【0022】
この刃部110は、シャンク101の先端部から錐状に突出した形状でシャンク101の周方向に沿って等間隔に6つ形成されている。より具体的には、各刃部110は、図2および図3に示すように、シャンク101の先端部からシャンク101の軸方向(長手方向)側に立ち上る3つの面である第1壁面111、第2壁面112および第3壁面113と、これら3つの面のうちの第1壁面111と第2壁面112とで形成される稜線上に形成される切れ刃114と、第1壁面111、第2壁面112および第3壁面113の3つの面の先端部に形成される先端面115とで構成されている。
【0023】
第1壁面111は、図4および図5に示すように、切れ刃114の所謂すくい面を構成する面であり、シャンク101の径方向の内側に向って所定のすくい角で形成されている。より具体的には、第1壁面111は、切削加工時における被削材WKの垂直面に対して負のすくい角で形成されるとともに、切れ刃114をシャンク101の周方向側に傾斜させるために同シャンク101の周方向側に若干曲がった曲面で形成されている。本実施形態においては、第1壁面111は、−10°の負のすくい角で形成されるとともに、切れ刃114をシャンク101の径方向に5°だけ傾斜させる曲面に形成されている。
【0024】
第2壁面112は、図4および図5に示すように、切れ刃114の所謂逃げ面を構成する面であり、シャンク101の周方向に沿って所定の逃げ角で形成されている。より具体的には、第2壁面112は、シャンク101の先端部に複数の刃部110を等間隔に形成した際における各刃部110の回転角度、すなわち、360°を刃部110の数で等分した角度を逃げ角として同逃げ角に沿って形成される。本実施形態においては、第2壁面112は、逃げ角が60°で形成されている。
【0025】
そして、この場合、第2壁面112は、シャンク101側がシャンク101の径方向の内側に向って凹状に凹んだ曲面で形成された後、シャンク101の軸方向に沿って平面状に延びて形成されている。本実施形態においては、第2壁面112は、曲面部分の半径が0.5mmの円弧で形成されるとともに平面部分がシャンク101の軸線の平行線に対してシャンク101の中心軸側に向って15°傾斜して形成されている。
【0026】
第3壁面113は、シャンク101の回転方向の後方側に設けられる刃部110を形成する際に同刃部110を構成するすくい面111および切れ刃114から所定の隙間を介して形成される壁面であり、対向する刃部110を構成するすくい面111に沿って形成される。また、この第3壁面113は、シャンク101の周方向に曲がった曲面で形成されている。
【0027】
切れ刃114は、被削材WKを実際に切削する鋭利な線状の部分であり、第1壁面111と第2壁面112とで形成される稜線によって構成されている。この切れ刃114は、シャンク101側からシャンク101の径方向の内側に向って凹状に凹んで形成された凹状部114aと、この凹状部114aに連続的に形成されてシャンク101の軸線方向側に直線状に延びた軸方向部114bとで構成されている。本実施形態においては、切れ刃114は、凹状部114aの半径が0.5mmの円弧で形成されるとともに軸方向部114bがシャンク101の中心軸側に向って15°だけ傾斜して形成されている。
【0028】
また、この切れ刃114は、更に、シャンク101側から軸方向部114bの先端部に向ってシャンク101の周方向に延びて形成されている。より具体的には、切れ刃114は、軸方向部114b側がシャンク101側に比べてシャンク101の回転方向(図において破線矢印で示す)の後方側に傾斜して形成されている。本実施形態においては、切れ刃114は、切れ刃114の丈(シャンク101側の端部から軸方向部114bの先端部までの高さ)を0.5mmとした場合、シャンク101の径の中心を中心として切れ刃114におけるシャンク101側の端部と軸方向部114bの先端部との間の角度が5°だけずれるようにシャンク101の周方向に延びて形成されている。
【0029】
先端面115は、刃部110の先端部を形成する面であり、シャンク101の回転方向(図において破線矢印で示す)の後方に向ってシャンク101側に傾斜して形成されている。すなわち、先端面115は、刃部110の被削材WKに対する逃げ面を構成している。
【0030】
ここで、硬脆材用切削工具100の製造過程について図6を用いて簡単に説明しておく。先ず、硬脆材用切削工具100を製造する作業者は、シャンク101および刃部110をそれぞれ構成する工具材料をそれぞれ用意する。本実施形態においては、作業者は、前記したように、シャンク101の材料として直径が約6mm、長さが約60mmの丸棒状の超硬合金鋼を用意するとともに、刃部110の材料として直径が約6mm、厚さが約1.5mmの薄板円柱状の焼結ダイヤモンドチップDCを用意する。この場合、焼結ダイヤモンドチップDCは、基材となる円板状の超硬合金鋼上に厚さが0.5mmの焼結ダイヤモンド層が形成されて構成されたものである。なお、図6においては、シャンク101に形成される逃げ部102および刃部110をそれぞれ二点鎖線で示している。
【0031】
次に、作業者は、超硬合金によって構成された丸棒状のシャンク101における一方(図示左側)の先端部に円柱状の焼結ダイヤモンドチップDCをロウ付けによって固定する。次に、作業者は、焼結ダイヤモンドチップDCをロウ付けしたシャンク101を図示しないワイヤカット放電加工機にセットする。この場合、ワイヤカット放電加工機は、把持したシャンク101を放電加工に同期させてシャンク101の軸線回りに回転変位させることができる図示しないインデックス装置を備えており、作業者はこのインデックス装置にシャンク101を把持させる。
【0032】
次に、作業者は、ワイヤカット放電加工機を操作して、シャンク101の先端部に固着された焼結ダイヤモンドチップDCおよびシャンク101に対して逃げ部102を放電加工により成形する。次いで、作業者は、ワイヤカット放電加工機を操作して、シャンク101の先端部に固着された焼結ダイヤモンドチップDCに対して刃部110を放電加工により成形する。この場合、作業者は、第1壁面111および第2壁面112を成形することにより結果として切れ刃114を成形することができる。なお、この場合、第1壁面111を成形する工程においては、この第1壁面111に対向する隣りの刃部110を構成する第3壁面113を第1壁面111を成形する工程とともに連続的に加工することができる。次に、作業者は、ワイヤカット放電加工機を操作して、先端面115を成形することにより刃部110を最終成形する。そして、作業者は、ワイヤカット放電加工機のインデックス装置からシャンク101を取り外すことにより、硬脆材用切削工具100の製造作業を終了する。
【0033】
(硬脆材用切削工具100の作動)
次に、上記のように構成した硬脆材用切削工具100の作動について説明する。本実施形態においては、厚さが1mmのガラス材を被削材WKとした場合について説明する。まず、作業者は、被削材WKを切削加工する図示しない切削加工機、例えば、フライス加工機、NCフライス加工機またはマシニングセンタに硬脆材用切削工具100および被削材WKをそれぞれセットする。この場合、作業者は、硬脆材用切削工具100におけるシャンク101を切削加工機の主軸に把持させる。また、作業者は、被削材WKを切削加工機におけるワークテーブルWT上に固定する。
【0034】
次に、作業者は、切削加工機を操作することにより硬脆材用切削工具100を用いて被削材WKの切削加工を開始する。この場合、切削加工機は、被削材WKへの切削加工としては、被削材WKの外形の成形加工、被削材WKへの溝加工または被削材WKの分断加工などがある。この被削材WKの切削加工時においては、切削加工機は、図4に示すように、硬脆材用切削工具100を図示矢印方向に回転させた状態で刃部110における切れ刃114を被削材WKの端部に接触させながら被削材WKに対して相対変位させる。この場合、切削加工機は、切れ刃114と被削材WKとの接触部分、すなわち、切削加工部分に図示しない水溶性の切削液を供給しながら被削材WKの切削加工を行なう。
【0035】
この切削加工時において切れ刃114は、凹状部114aが被削材WKの表層部分を切削加工するとともに、軸方向部114bが同表層部分より図示下方の内部部分を切削加工する。この場合、切れ刃114における凹状部114aは、シャンク101側の端部からシャンク101の径方向の内側に向って円弧状に凹んで形成されているため、凹状部114aに対してシャンク101の軸方向側に対向する被削材WKの切削部分を覆いながら切削加工を行う。すなわち、切れ刃114の凹状部114aは、被削材WKにおける切削部分のシャンク101側(図示上側)への変位を規制した状態で切削加工を行なう。
【0036】
一方、切れ刃114における軸方向部114bは、シャンク101の軸方向に沿って形成されているため、被削材WKをシャンク101の軸方向に沿って切削加工する。そして、被削材WKにおけるワークテーブルWT側は、ワークテーブルWTによって変位が規制されている状態となっている。したがって、被削材WKは、切れ刃114の凹状部114aとワークテーブルWTとによって変位が規制された状態、すなわち、シャンク101とワークテーブルWTとの間の図示上下方向の振動が抑えられた状態で、切れ刃114における凹状部114aと軸方向部114bとによって切削される。
【0037】
また、この場合、切れ刃114は、シャンク101側から軸方向部114bの先端部に亘ってシャンク101の周方向に傾斜した状態で形成されている。このため、切れ刃114は、被削材WKに対してシャンク101側から、より具体的には、凹状部114aにおけるシャンク101側から軸方向部114bの先端部側に沿って徐々に接触しながら切削加工を行う。これにより、硬脆材用切削工具100は、切れ刃114の全体を同時に被削材WKに接触させて切削加工を行なう場合に比べて切れ刃114の損傷および被削材WKへのこば欠け、チッピングまたはクラックなど損傷の発生を効果的に防止することができる。
【0038】
そして、この切削加工を行う切削加工機は、作業者によって指示された工具経路を指示された回転数、送り速度および切り込み量で指示された回数だけ繰り返し実行することにより切削加工を行う。これにより、被削材WKには、一方の表面から0.5mmの深さで除去される。したがって、作業者は、被削材WKに対して貫通した状態で切削加工を行いたい場合には、ワークテーブルWT上の被削材WKを取り外した後、被削材WKを裏返して再度ワークテーブルWTに取り付けて他方の面からの切削加工を前記と同様にして行なう。これにより、被削材WKに対して厚さ方向に1mmの範囲で切削加工による除去加工を行うことができる。
【0039】
なお、被削材WKを加工する諸条件、具体的には、硬脆材用切削工具100の回転数、送り量および切り込み量は、被削材WKの種類、大きさ、形状および加工面粗さなどに応じて適宜設定されるものである。本発明者の実験によれば、例えば、ソーダ石灰ガラス(ソーダガラス)やアルミノケイ酸ガラス(ゴリラガラス)からなる厚さが1mmの板材を被削材WKとした場合、荒加工条件においては回転数が10000rpm、送り量が1000mm/min、切り込み量が0.05mmで良好に切削加工を行うことができ、仕上げ加工においては、回転数が50000rpm、送り量が1000mm/min、切り込み量が0.01mmで良好に切削加工を行うことができることを確認した。
【0040】
上記作動説明からも理解できるように、上記実施形態によれば、硬脆材用切削工具100は、硬脆材からなる被削材WKを切削する切れ刃114がシャンク101の径方向内側に凹状に逃げつつ同シャンクの軸方向に沿って延びる凹状部114aと、この凹状部114aに対して連続的に形成されてシャンク101の軸方向に延びる軸方向部114bとで構成されている。この場合、凹状部114aは、被削材WKを切削する際、シャンク101の径方向内側に逃げつつ同シャンク101の軸方向に沿って延びる凹状の部分が被削材WKの切削部分上に位置する。このため、硬脆材用切削工具100は、被削材WKの切削加工時における被削材WKのシャンク101側への変位を規制することができる。すなわち、硬脆材用切削工具100は、被削材WKの切削加工時における振動を抑えることができるため、被削材WKにこば欠け、チッピングまたはクラックなどの損傷が生じることを抑えて精度良く切削加工を行うことができる。
【0041】
さらに、本発明の実施にあたっては、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。なお、下記各変形例において、上記実施形態と同様の構成部分については同じ符号を付して、その説明を省略する。
【0042】
例えば、上記実施形態においては、切れ刃114における凹状部114aを円弧状に形成した。しかし、凹状部114aは、シャンク101の径方向内側に向って凹みながら同シャンク101の軸方向に延びて形成されていれば、換言すれば、主としてシャンク101の径方向内側に沿って形成されば、必ずしも上記実施形態に限定されるものでなはない。この場合、主としてシャンク101の径方向内側に沿って形成される凹状部114aとは、凹状部114aがシャンク101の軸方向よりも径方向内側に大きく変化しながら形成されていること意味する。そして、この場合、この場合、凹状部114aは、シャンク101の端面(径方向)に対して浅い角度、換言すれば、被削材WKの切削面と平行に近い角度で形成する程、被削材WKへのこば欠け、チッピングまたはクラックなどの損傷の発生を抑えることができる。
【0043】
例えば、図7に示すように、凹状部114aは、シャンク101の径方向内側に向って延びながら同シャンク101の軸方向に延びる直線状に形成することもできる。また、凹状部114aは、曲線と直線、互いに異なる曲率の曲線同士、互いに異なる角度で傾斜直線同士を適宜組み合わせて構成することもできる。なお、凹状部114aを上記実施形態のように円弧状に形成することにより、被削材WKの加工面における角部を円弧状に形成することができる。これにより、安全面から被削材WKの加工面における角部に丸みを持たせるための後加工を省略することができる。
【0044】
また、上記実施形態においては、切れ刃114における軸方向部114bをシャンク101の中心軸側に向って15°だけ傾斜して形成した。しかし、軸方向部114bは、凹状部114aに連続的に形成されてシャンク101の軸方向側に延びて形成されていれば、必ずしも上記実施形態に限定されるものではない。すなわち、軸方向部114bは、シャンク101の中心軸側に傾斜させることなくシャンク101の軸方向に平行に延びて形成されていてもよい。ただし、本発明者の実験によれば、軸方向部114bは、シャンク101の中心軸側に傾斜させた方が、傾斜させない場合に比べて被削材WKへのこば欠け、チッピングまたはクラックなどの損傷の発生を抑えることができる。
【0045】
また、上記実施形態においては、刃部110における第1壁面111を負のすくい角で構成した。しかし、第1壁面のすくい角は、被削材WKの種類や切削加工条件などに応じて適宜設定されるものであり、必ずしも上記実施形態に限定されるものではない。例えば、第1壁面111のすくい角を上記実施形態とは異なる負のすくい角に設定してもよいし、正のすくい角に設定してもよい。
【0046】
また、上記実施形態においては、刃部110における第2壁面112を60°の逃げ角で形成した。しかし、この第2壁面112における逃げ角も被削材WKの切削加工の障害にならない角度であれば自由に設定することができる。
【0047】
また、上記実施形態においては、刃部110の切れ刃114は、シャンク101側から軸方向部114bの先端部に亘ってシャンク101の周方向に5°だけ傾斜した状態で形成されている。しかし、切れ刃114は、シャンク101の周方向に直線状に傾斜させる形状の他に、曲線状に捻る形状を採用することもできる。また、切れ刃114を傾斜または捻る角度も上記実施形態に限定されるものではない。本発明者の実験によれば、切れ刃114を傾斜または捻る角度は、被削材WKの種類や切削条件に応じて適宜決定されるが概ね3.5°〜40°の角度範囲が好適である。また、切れ刃114は、シャンク101側から軸方向部114bの先端部に亘ってシャンク101の周方向における同じ位置に位置するように、すなわち、切れ刃114をシャンク101の周方向に傾斜または捻らせることなく直線状に形成することもできる。これによれば、切れ刃114を簡単かつ短時間に成形することができる。
【0048】
また、上記実施形態においては、シャンク101の先端部に6つの刃部110を形成した。しかし、刃部110の形成数は、被削材WKの種類や切削加工条件などに応じて適宜決定すればよい。すなわち、刃部110は、シャンク101の先端部に1つ以上形成されていれば、6つ未満であっても7つ以上であってもよい。ただし、刃部110の形成数が多い方が効率的かつ高精度に被削材WKを切削加工することができる。
【0049】
また、上記実施形態においては、シャンク101を超硬合金鋼で構成するとともに刃部110を焼結ダイヤモンドで構成した。しかし、シャンク101および刃部110を構成する材料は、被削材WKの種類や切削加工条件などに応じて適宜選定すればよい。例えば、シャンク101および刃部110を構成する材料としては、各種工具鋼(炭素工具鋼、合金工具鋼、高速度工具鋼)、超硬合金、セラミック、サーメットおよびCBNなどを用いることができる。
【0050】
また、上記実施形態においては、硬脆材用切削工具100による被削材WKの切削加工部分に水溶性の切削液を供給しながら切削加工を行った。この場合、切削液の供給方法としては、刃部110の外側から刃部110に切削液を注ぐ方式や、切削液で満たしたプール内に硬脆材用切削工具100による被削材WKの切削加工部分を浸漬した状態で切削加工を行う方式がある。また、これらの他に、刃部110の内側から切削液を供給する方式を採用することもできる。例えば、図8に示すように、シャンク101を軸方向に貫通して6つの刃部110が形成されたシャンク101の径の中心部に開口する切削液導入路103を設けることができる。この場合、シャンク101に形成された切削液導入路103には、切削加工機から切削液が供給される。これによれば、硬脆材用切削工具における切れ刃部分に刃部の内側から切削液が供給されるため、切削屑が切削部分に留まることが防止される。これにより、硬脆材用切削工具は、切削屑による切削障害を抑えて安定した状態で精度良く切削加工を行うことができる。なお、切削液は、切削屑の排出機能および切削部分の冷却機能を発揮するものであれば、水性および油性の切削液を用いることができる。また、液体に代えて不活性ガスからなる気体を用いることもできる。
【符号の説明】
【0051】
WK…被削材、WT…ワークテーブル、DC…焼結ダイヤモンドチップ、
100…硬脆材用切削工具、101…シャンク、102…逃げ部、103…切削液導入路、
110…刃部、111…第1壁面、112…第2壁面、113…第3壁面、114…切れ刃、114a…凹状部、114b…軸方向部、115…先端面。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸状に形成されたシャンクの先端部に硬脆材を切削するための切れ刃を有した刃部を備えた硬脆材用切削工具であって、
前記切れ刃は、
前記シャンク側が同シャンクの径方向内側に向って凹みながら同シャンクの軸方向に延びて形成された凹状部と、
前記凹状部に連続的に形成されて前記シャンクの軸方向側に延びる軸方向部とで構成されていることを特徴とする硬脆材用切削工具。
【請求項2】
請求項1に記載した硬脆材用切削工具において、
前記刃部は、
前記切れ刃に隣接して形成されるすくい面が負のすくい角で形成されていることを特徴とする硬脆材用切削工具。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載した硬脆材用切削工具において、
前記切れ刃は、
前記凹状部が円弧状に形成されていることを特徴とする硬脆材用切削工具。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のうちのいずれか1つに記載した硬脆材用切削工具において、
前記切れ刃は、さらに、
前記シャンクの周方向側に延びて形成されていることを特徴とする硬脆材用切削工具。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のうちのいずれか1つに記載した硬脆材用切削工具において、
前記刃部は、
前記シャンクの周方向に沿って複数設けられていることを特徴とする硬脆材用切削工具。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のうちのいずれか1つに記載した硬脆材用切削工具において、
前記シャンクは、
前記切れ刃に対して切削液を供給するための切削液導入路を有することを特徴とする硬脆材用切削工具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−111958(P2013−111958A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−263136(P2011−263136)
【出願日】平成23年11月30日(2011.11.30)
【出願人】(511250851)株式会社内山刃物 (1)
【Fターム(参考)】