説明

硬貨保留装置、及び金銭処理装置

【課題】装置利用者との取引の成否が確定するまで一括投入された複数枚の硬貨を一時保留する一時保留部の構成をシンプル化、小型化し、金銭処理に要する時間を短縮し、更に一人の利用者による占有時間を短縮して稼動率を高めることができる金銭処理装置を提供する。
【解決手段】搬送ベルト31と、搬送ベルト上面の搬送方向上流側及び下流側に夫々立設されて硬貨が上流側及び下流側へ移動することを阻止する上流側仕切り部材42及び下流側仕切り部材43と、を備え、上流側仕切り部材は搬送方向最上流側Eに位置しているときに第1の落下スペースS1を形成し、下流側仕切り部材は搬送方向最下流側Fに位置しているときに第2の落下スペースS2を形成し、搬送ベルトとの協働により硬貨を各落下スペースから硬貨を落下させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動販売機、両替機、金銭払出し機等の金銭処理装置に装備される硬貨保留装置の改良に関し、具体的には一括投入された複数の硬貨を一時保留してから、装置利用者からの指示操作に応じてこれらの硬貨を受け入れて貯留したり、或いは利用者に返却することができる硬貨保留装置、及びこれを備えた金銭処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動販売機、両替機、金銭払出機、自動精算機等の金銭処理装置は、投入された金銭を受け入れることによって、物品の販売、両替、金銭払出し、精算、証書類や券類の自動発行等々の各種サービスを提供する。
金銭処理装置に設けられている硬貨投入部が、硬貨を一個ずつしか投入できないスリット状である場合には、利用者が多数の硬貨を投入するのに長時間を要するため、物品やサービス提供に要する時間の長期化、装置の稼働率低下、次の利用者が待機する時間の長期化等という不具合をもたらす。具体的には、例えば有料道路の料金所に設置される前払い方式発券機や、後払い用の自動金銭処理装置の硬貨投入部に、10円、50円、100円、500円硬貨等からなる多数の硬貨を一個ずつ投入する必要があるとすれば、交通渋滞を招く原因となる。
このため、最近ではランダムに一括投入された複数硬貨を受入れることができる構造の硬貨投入部が種々提案されている。例えば、実開平3−9069号公報、特開2000−298749公報に夫々開示された硬貨投入部の構造は、大きな開口面積を有した開口部と、開口部から底部に延びて硬貨を底部に導くためのスロープと、底部に設けられた排出口と、を備えた受皿により構成されている。更に、硬貨投入部に金種やサイズが違う硬貨やメダル(以下、単に硬貨という)が一括投入された場合に、これらを一個ずつに分離して一時保留部に保留し、その後所定の条件が成立した場合に識別部にて一個ずつ金種、真贋を識別してから金種別に分別、仕分けし、金種別の貯留部に収納保管したり、或いは釣銭やリジェクト硬貨等として利用者に払い出したり、返却する等の種々の処理を行う機構を備えている。
【0003】
一方、硬貨が投入されたとしても、操作部を操作することによって利用者の最終意思が確定するまでは、投入された硬貨を一時保留しておく必要があるため、一時保留部が設けられる(特開平08−212411号公報、特開2003−157460公報、特開2007−4555公報)。即ち、投入された複数の硬貨は一旦一時保留部に保留されて待機状態となり、操作部に設けられたスイッチ等を用いて所定の操作をすることによって取引きが成立したことが確認できた場合には、一時保留部内の硬貨は識別部に移送されて識別を受けた上で金種別に装置内の貯留部に収納され、各種物品、サービスを利用者に提供した上で、釣銭等がある場合には釣銭口から利用者に払い出す。また、利用者が硬貨を投入してから物品の購入等を撤回する操作を行った場合には、一時保留部内の硬貨は返却口から利用者に返却される。
従来の金銭処理装置に装備される硬貨の一時保留部にあっては、図5に示すように硬貨投入部100から一括投入された複数の硬貨Kを識別部102へ通し一時保留部101に移送して取引の成否が確定するまで保留し、取引が成立した場合に一時保留部内の硬貨を貯留用ホッパ105に一括移動させてから一個ずつ取り出して識別部106にて真贋、金種を一枚ずつ識別した後で金種別に貯留部107に収納していた。
【0004】
しかし、底部開口を底蓋101aによって開閉自在に構成された箱状の一時保留部101を、硬貨投入部100から投入された硬貨を受け入れる位置aと、硬貨を貯留部に放出するための硬貨放出位置bとの間で進退させる必要があり、更に硬貨放出位置aでは一時保留部の底蓋を開放して硬貨を自然落下させる必要がある。
このため、一時保留部を移動するための機構と、底蓋を開閉するための機構を設ける必要があり、特に多数枚の硬貨受入れを可能にしようとすると、多数枚の硬貨の重量や受入れ時の衝撃に対する底蓋の強度やロック機構の確実性が求められるため、部品点数の増大による大型化、高コスト化を招く原因となっていた。
【0005】
また、一時保留部の移動距離が長くなるため、金銭処理を完了するまでに長時間を要するという問題があった。
また、硬貨放出時に底蓋を開放して複数の硬貨を自然落下させる構成であるため、一時保留箱が放出位置に完全に移動し終わってから底蓋を開放することが必要となり、トータルの処理時間を遅延させる原因ともなっている。
なお、取引が成立しなかった場合には硬貨受入れ位置aにある一時保留部101の底蓋101aを開放して内部の硬貨を下方に位置する返却硬貨収容部110に落下させることにより、返却口111に返却するように構成されている。返却硬貨収容部110の硬貨収容量は貯留用ホッパ105ほど大きくないため、一時保留部内に多数の硬貨、例えば20枚以上の硬貨が収容されている場合に、返却のために底蓋を開放すると、返却硬貨収容部の容量を超えた数量の硬貨が一挙に流入することとなり、返却硬貨収容部における硬貨詰まりなどによって返却口への返却動作に支障を来す虞がある。このような不具合に対処するためには一時保留部の容量を返却硬貨収容部の容量に合わせて予め小さく設定しておく必要があり、この結果硬貨投入部から一括して投入可能な硬貨の数量に制限がもたらされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】実開平3−9069号公報
【特許文献2】特開2000−298749公報
【特許文献3】特開平08−212411号公報
【特許文献4】特開2003−157460公報
【特許文献5】特開2007−4555公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記に鑑みてなされたものであり、投入された硬貨を受け入れることによって、物品の販売、両替、金銭払出、精算、証書類や券類の自動発行等々の各種サービスを提供する金銭処理装置において、装置利用者との取引の成否が確定するまで一括投入された複数枚の硬貨を一時保留する一時保留部を、待機位置と硬貨放出位置と返却位置との間で長い距離進退させることなく、また各位置において一時保留部内の硬貨を搬送ベルトを用いて確実且つ迅速に強制落下させることにより、構成をシンプル化、小型化し、金銭処理に要する時間を短縮し、更に一人の利用者による占有時間を短縮して稼動率を高めることができる金銭処理装置を提供することを目的としている。
更に、一時保留部に収容可能な硬貨数を50個程度に増やしたとしても、保留硬貨を返却部に移送する際には、返却部の容量に見合うように適量ずつ段階的に移送出来るようにすることも目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、請求項1の発明に係る硬貨保留装置は、駆動ローラと従動ローラによって張設されて正逆転駆動される搬送ベルトと、前記駆動ローラを駆動するモータと、前記搬送ベルト上面の幅方向両側方に夫々立設されて該搬送ベルト上の硬貨が側方へ移動することを阻止する側部仕切り部材と、該搬送ベルト上面の搬送方向上流側及び下流側に夫々立設されて該搬送ベルト上の硬貨が上流側及び下流側へ移動することを阻止する上流側仕切り部材及び下流側仕切り部材と、少なくとも前記上流側仕切り部材及び下流側仕切り部材を一体的に前記搬送方向上流側及び下流側に一体的に進退させる駆動機構と、を備え、前記上流側仕切り部材は、前記搬送ベルト上面の上流側端部を越えた搬送方向最上流側に位置しているときに該搬送ベルト上面の上流側端部との間に硬貨収納部へ硬貨を落下させる第1の落下スペースを形成し、前記下流側仕切り部材は、前記搬送ベルト上面の下流側端部を越えた搬送方向最下流側に位置しているときに該搬送ベルト上面の下流側端部との間に硬貨を返却部へ落下させる第2の落下スペースを形成するように構成され、前記上流側仕切り部材が前記搬送方向最上流側に位置している時と、前記下流側仕切り部材が前記搬送方向最下流側に位置している時に、前記搬送ベルト上面が上流側と下流側に夫々走行することにより前記各落下スペースから硬貨を落下させるように構成したことを特徴とする。
上流側及び下流側の各仕切り部材は、搬送ベルト上面との間から硬貨が外側に抜け出ることを阻止する一方で、搬送方向上流側及び下流側に夫々移動した時には搬送ベルトとの協働により硬貨を搬送ベルト上から落下させる。この際の各仕切り部材の移動距離は必要最小限となり、硬貨の振分けに要する時間を短縮することができる。
【0009】
請求項2の発明に係る硬貨保留装置は、請求項1において、前記上流側仕切り部材及び下流側仕切り部材は、前記各側部仕切り部材と一体化していることを特徴とする。
請求項3の発明に係る金銭処理装置は、金種が異なる複数枚の硬貨を一括して投入可能な硬貨投入部と、該硬貨投入部内の硬貨を一枚ずつに分離して搬送する分離搬送部と、該分離搬送部から搬送されてきた一枚ずつの硬貨の真贋、金種を判定する識別部と、該識別部により正規であると判定された硬貨を搬送する正規硬貨搬送路と、該正規硬貨搬送路から搬送されてきた正規硬貨を受け入れる請求項1、又は2に記載の硬貨保留装置と、前記識別部により正規でないと判定された硬貨を外部に排出するリジェクト経路と、前記硬貨保留装置の前記搬送ベルト上面の上流側端部から落下した複数の硬貨を受け入れて金種別に仕分ける貯留用硬貨仕分け装置と、前記搬送ベルト上面の下流側端部から落下した硬貨を外部に払い出す返却部と、を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、投入された硬貨を受け入れることによって、物品の販売、両替、金銭払出、精算、証書類や券類の自動発行等々の各種サービスを提供する金銭処理装置において、一時保留部を正逆方向へ走行する搬送ベルト上面と、該搬送ベルト上面を包囲して所定の硬貨保留区画を形成する仕切り部材(仕切りユニット)によって構成し、仕切り部材をベルト上面に沿って移動させることにより、硬貨保留区画を受入れ位置、硬貨放出位置、及び返却位置との間の必要最小限の距離を移動させるようにした。このため、一時保留部が長い距離を移動することによる金銭処理速度の低下、装置構成の複雑、大型化を防ぐことができ、各位置においてベルトを用いて一時保留部内の硬貨を強制落下させることにより、構成をシンプル化、小型化し、更に一人の利用者による装置の占有時間を短縮して稼動率を高めることができる。
更に、一時保留部の硬貨収容量を大幅に増やしたとしても、保留硬貨を返却部に移送する際には、返却部の容量に見合うように適量ずつ段階的に供給することにより、返却部における硬貨詰まり等を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施形態に係る硬貨保留装置を備えた金銭処理装置の全体構成説明図である。
【図2】金銭処理装置の構成を示す概略ブロック図である。
【図3】本発明の硬貨保留装置の具体的構成例を示しており、(a)は保留状態、(b)は収納状態、(c)は返却状態を示す斜視図である。
【図4】(a)は本発明の硬貨保留装置の保留状態、(b)は収納状態、(c)は返却状態を示す正面図である。
【図5】従来技術の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を図面に示した実施の形態により詳細に説明する。
図1は本発明の一実施形態に係る硬貨保留装置を備えた金銭処理装置の全体構成説明図であり、図2は金銭処理装置の構成を示す概略ブロック図であり、図3は本発明の硬貨保留装置の具体的構成例を示しており、(a)は保留状態、(b)は収納状態、(c)は返却状態を示す斜視図であり、図4(a)は本発明の硬貨保留装置の保留状態、(b)は収納状態、(c)は返却状態を示す正面図である。
本実施形態に係る金銭処理装置1は、例えば有料道路の料金所に設置されて有料道路に進入してくる車両の運転者が金銭を投入したときに通行券を発行する前払い式の自動発券装置、或いは優良道路外に出る際に後払いされる料金を処理する金銭処理装置に適用される。
金銭処理装置1は、図1に示すように筐体前面にディスプレイ2、操作スイッチ類3、硬貨投入口4、紙幣投入口5、釣銭払出し口兼返却口6、リジェクトスイッチ7、発券口8等を備えている。
【0013】
金銭処理装置1は、図2に示すように、金種が異なる複数個の硬貨を一括して投入可能な受皿10aを備えた硬貨投入部10と、硬貨投入部内の複数の硬貨を一枚ずつに分離して搬出する分離搬送部15と、分離搬送部から搬送されてきた一枚ずつの硬貨の真贋、金種を判定する第1の識別部20と、第1の識別部により正規硬貨であると判定された硬貨を一時保留部に向けて搬出する正規硬貨搬送路25と、正規硬貨搬送路から搬出されてきた正規硬貨を搬送ベルト31の上面31aに受け入れて一時的に保留する硬貨保留装置(一時保留部)30と、第1の識別部20により正規でないと判定された硬貨を搬送排出するリジェクト経路50と、硬貨保留装置30の搬送ベルト上面31aの上流側端部B−1から落下した複数の硬貨を受け入れて一個ずつに仕分けて送り出す貯留用硬貨仕分け装置55と、貯留用硬貨仕分け装置55から送り出されてきた硬貨の金種を判定する第2の識別部56と、第2の識別部によって金種を判定されてから搬出されてきた硬貨を金種別に収容する硬貨貯留部57と、搬送ベルト上面31aの下流側端部C−1から落下した返却用の硬貨を釣銭払出し口兼返却口6に払い出す返却硬貨収容部(返却部)60と、返却硬貨収容部60から上方に位置する返却口6へ硬貨を搬送するコインリフター61と、から概略構成されている。
【0014】
硬貨投入部10は硬貨投入口4から一括投入された複数個の硬貨Kを受け入れ可能な受皿10aを備え、分離搬送部15は受皿内の硬貨を一枚ずつに分離して第1の識別部20に搬送する。第1の識別部20では、一枚ずつ搬送されてきた硬貨Kの真贋、金種を判別し、正規硬貨でない場合にはこれをリジェクト経路50を経由して釣銭払出し口兼返却口6に放出する一方で、正規硬貨である場合には正規硬貨搬送路25から硬貨保留装置30を構成する搬送ベルト31の上面31aに順次放出する。硬貨保留装置30への正規硬貨の放出は、受皿内に投入された全ての硬貨について第1の識別部20での識別が完了するまで連続して実施され、正規硬貨は静止状態にある搬送ベルト上面31aにランダムに放出されて集積される。後述するように硬貨保留装置30は、搬送ベルト上面31aを包囲して所定の硬貨保留区画Aを形成する仕切りユニット40を備えており、受入れ位置(保留位置)Dにある仕切りユニット40をベルト上面に沿って上流側Bと下流側Cに移動させることにより、硬貨保留区画Aを受入れ位置D、搬送方向最上流側(硬貨放出位置)E、及び搬送方向最下流側(返却位置)Fとの間で移動させるように構成されている。即ち、仕切りユニット40は、受入れ位置Dを起点として上流側B、又は下流側Cへ移動することにより搬送ベルト上面との間で形成される硬貨保留区画A内に集積された硬貨を上流側Bと下流側Cへ押圧して移動させて、搬送ベルト上面の上流側端部B−1及び下流側端部C−1から夫々落下させるように構成されている。即ち、仕切りユニット40は、搬送ベルトの移動と同期するように搬送方向下流側F、又は搬送方向上流側Eまで移動し、開口(落下スペースS1、S2)を形成する。このため、搬送ベルト上面の硬貨は移動するベルトによって各落下スペースから落下する。
【0015】
硬貨保留装置30は、上面31aを略水平に保持された状態で駆動ローラ32と従動ローラ33によってエンドレスに張設されて正逆転駆動する搬送ベルト31と、駆動ローラ32を駆動するモータ34と、モータ34を制御する制御部35と、搬送ベルト上面の幅方向両側方(上流方向及び下流方向と直交する方向)に夫々立設されて搬送ベルト上の硬貨が側方へ移動することを阻止する側部仕切り部材41、41と、搬送ベルト上面の搬送方向上流側B及び下流側Cに夫々立設されて搬送ベルト上の硬貨が上流側及び下流側へ移動することを阻止する上流側仕切り部材42及び下流側仕切り部材43と、少なくとも上流側仕切り部材42及び下流側仕切り部材43を搬送方向上流側B及び下流側Cに一体的に進退させる駆動機構45と、を備えている。側部仕切り部材41、41、上流側仕切り部材42、及び下流側仕切り部材43は、仕切りユニット40を構成している。本例では、側部仕切り部材41、41、上流側仕切り部材42、下流側仕切り部材43は、一体となった矩形の枠体46(仕切りユニット40)を構成し、この枠体46がその下端縁と搬送ベルト上面との間を硬貨の通過(すり抜け)を許容しない程度に搬送ベルト上面に近接した状態で、搬送ベルト上面に沿って進退する。このため、枠体が受入れ位置Dにある場合には、枠体46の内側の搬送ベルト上面(硬貨保留区画A)に集積された硬貨は枠体の下端縁と搬送ベルト上面との隙間から外部に移動することがない。なお、図4中の符号47は、硬貨保留区画Aの上方から搬送ベルト上面31aに向かって突出したコイルバネであり、正規硬貨搬送路25から搬送ベルト上面に放出されてランダムに積載された硬貨群と搬送ベルトの移動時に接してこれをばらすための手段であり、硬貨が一箇所に偏在することを防ぐことにより搬送ベルトの下流側端部C−1から落下する硬貨の数量を平均化するための手段である。
【0016】
仕切りユニット40は、硬貨保留装置本体に設けたガイド長穴48内に一部を嵌合させてベルト上面31aの移動経路と平行に進退するように構成されている。
上流側仕切り部材42は、搬送ベルト上面31aの上流側端部B−1を越えた搬送方向最上流側Eに位置しているときに搬送ベルト上面の上流側端部との間に硬貨収納部へ硬貨を落下させる第1の落下スペースS1を形成する。下流側仕切り部材43は、搬送ベルト上面の下流側端部を越えた搬送方向最下流側Fに位置しているときに搬送ベルト上面の下流側端部との間に硬貨を返却硬貨収容部へ落下させる第2の落下スペースS2を形成する。なお、実際には各落下スペースS1、S2は、ダクトによって形成される落下経路となっている。
図4(b)に示すように枠体46が上流側Bに移動する際には搬送ベルト上面も同方向に移動(走行)し、枠体が搬送ベルト上面の上流側端部B−1を上流側に越えて突出した搬送方向最上流側Eに達した時には、搬送ベルトの搬送力によって硬貨は第1の落下スペースS1から落下する。第1の落下スペースS1から落下した硬貨は、貯留用硬貨仕分け装置55に受け入れられる。
また、図4(c)に示すように枠体46が下流側Cに移動する際には搬送ベルト上面も同方向に移動し、枠体が搬送ベルト上面の下流側端部C−1を下流側に越えて突出した返却位置Fに達した時には、搬送ベルトの搬送力によって硬貨は第2の落下スペースS2から落下する。第2の落下スペースS2から落下した硬貨は返却硬貨収容部60に受け入れられ、釣銭払出し口兼返却口6へ搬送されて払い出される。
【0017】
上記実施形態では、全ての仕切り部材を一体化して矩形の枠体46を構成し、この枠体を一体的に進退させるように構成しているが、側部仕切り部材41、41を固定とし、上流側仕切り部材42及び下流側仕切り部材43のみを一体的に進退させるように構成してもよい。
駆動機構45は仕切りユニット40を保留状態、収納状態、返却状態の各位置間で進退、停止させることができればどのような構成でもよいが、本例では、モータ45aの出力軸によって一端部を軸支されて揺動される第1のリンク45bと、第1のリンク45bの他端部により一端部を軸支されると共に他端部を側部仕切り部材41によって軸支された第2のリンク45cと、からなる。
【0018】
図3(a)、図4(a)に示した保留状態においてはモータ45aが第1のリンク45b及び第2のリンク45cを作動させて仕切りユニット40を停止状態にあるベルト上面31aの中間位置(受入れ位置D)に停止させている。仕切りユニット40が受入れ位置Dにあるときに、正規硬貨搬送路25から硬貨保留区画A内の搬送ベルト上面に硬貨Kが連続して放出されて図示のようにランダムに堆積される。
図3(b)、図4(b)に示した収納状態では、モータ45aの駆動により各リンク45b、45cが仕切りユニット40を搬送方向最上流側Eに移動して停止させる。この状態で搬送ベルト上面31aを上流側Bに向けて走行させることにより、搬送ベルト上面の硬貨Kは第1の落下スペースS1から貯留用硬貨仕分け装置(貯留用ホッパ)55内に落下してゆく。貯留用硬貨仕分け装置55の容量は十分に大きいため、50枚〜100枚程度の硬貨を一挙に落下させても支障はない。このように多量の硬貨を一括して貯留することができるので、後述するように始業時における硬貨補充作業を行う際に有用な機能となる。
図3(c)、図4(c)に示した返却状態では、モータ45aの駆動により各リンク45b、45cが仕切りユニット40を搬送方向最下流側Fに移動して停止させる。この状態で搬送ベルト上面31aを下流側Cに向けて走行させることにより、搬送ベルト上面の硬貨Kは第2の落下スペースS2から返却硬貨収容部60内に落下してゆく。返却硬貨収容部60の容量はレイアウト上の制限とコインリフター61による搬送能力に由来した制限から大きく設定できないため、硬貨詰まりを防止するために第2の落下スペースから一度に落下してくる硬貨の数量は10個程度の適量に制限する必要がある。このため、搬送ベルトをステップ駆動して適量ずつ間欠的に落下させるのが好ましい。この際、コイルバネ47が山積み状態にある硬貨群を平滑化して硬貨が一箇所に偏在することを防ぐことにより、搬送ベルトの下流側端部C−1から落下する硬貨の数量を平均化することができる。
【0019】
貯留用硬貨仕分け装置(貯留用ホッパ)55は、利用者との取引が成立したときに枠体46と搬送ベルトとの協働により搬送ベルト上面の上流側端部B−1から落下した複数の硬貨を受け入れて一個ずつに仕分けて下流側に配置した第2の識別部56に送り出し、第2の識別部56では硬貨の金種を一個ずつ判定する。更に、第2の識別部によって金種を判定されてから搬出されてきた硬貨は硬貨貯留部57に金種別に収容される。硬貨貯留部57は釣銭を払い出す機能を有した循環式である。
なお、取引の成立に伴って行われる利用者への物品やサービスの提供は、取引の成立が確定した時点で実施されることとなり、搬送ベルト上面から硬貨を貯留用硬貨仕分け装置55に落下させる工程を含めた後段の工程とは無関係に実施されるため、物品やサービスの提供を迅速化することができ、後続の利用者の待機時間を短縮することができる。
つまり、従来の金銭処理装置にあっては、取引の成立が確定した時点では物品やサービスの提供を実施することができず、一時保留部から貯留用硬貨仕分け装置側へ全硬貨を移行させてから、更に全ての硬貨の金種、真贋の識別を完了させた時点で初めて物品やサービスの提供を実施する必要があったため、後続利用者による装置利用が可能となるタイミングが遅くなり、待機時間が長くなっていた。これに対して本発明では、上記の理由からこのような不具合を解消することができる。
【0020】
また、始業時等において硬貨貯留部57内に釣銭用の準備金を補充する場合には、管理者が硬貨投入部10から多数の硬貨、例えば50枚の硬貨を連続して投入する。この場合、第1の識別部20による識別は行わずに分離搬送部15から取り出した硬貨を正規硬貨搬送路25を介して搬送ベルト上面に放出する。この補充作業中は、仕切りユニット40は搬送方向最上流側Eに固定されており、搬送ベルト上面を上流側Bへ向けて駆動し続けることにより第1の落下スペースS1から補充用硬貨を貯留用硬貨仕分け装置55へ落下させることができる。貯留用硬貨仕分け装置55の硬貨収容量はスペース上、十分に大きく設定することができるため、多量の硬貨を一挙に落下させても問題はない。
また、従来の箱体状の一時保留部にあっては、硬貨放出時の箱体の移動距離が長いために受入れ位置から放出位置までの移動に時間が掛かっていたが、本発明の仕切りユニット40としての枠体46は、上流側仕切り部材42及び下流側仕切り部材43が夫々搬送ベルトの上流側端部B−1、及び下流側端部C−1を外側に僅かに越える程度移動すれば硬貨の放出が可能となるため、枠体の移動距離、移動時間を最小限に抑えることが可能となる。つまり、搬送ベルト上に保留していた硬貨を放出する際に、枠体が受入れ位置Dと搬送方向最上流側Eとの間、或いは受入れ位置Dと搬送方向最下流側Fとの間を移動する距離、時間を短くすることができるため、利用者の待機時間を短縮できる。
【0021】
返却硬貨収容部60は、搬送ベルト上面21の下流側端部C−1から落下した返却用の硬貨を釣銭払出し口兼返却口6に払い出す手段であり、ベルト対からなるコインリフター61を用いて返却硬貨収容部60内の硬貨を掻き上げて返却口6に放出する。返却硬貨収容部60の容量は、スペース上の制限とコインリフターの搬送能力の制限から余り大きくできないため、搬送ベルトから一挙に多数の硬貨が落下してきた場合にはコインリフター61における硬貨詰まり等が発生しかねない。しかし、本発明では搬送ベルトを用いて一時保留部を構成しているため、制御部35からの制御によって搬送ベルト上面を段階的(間欠的に)に下流側へ走行させることにより、下流側端部から落下する硬貨の個数を制限することができ、硬貨詰まりの発生を防止できる。
【0022】
以上のように本発明によれば、投入された硬貨を受け入れることによって、物品の販売、両替、金銭払出、精算、証書類や券類の自動発行等々の各種サービスを提供する金銭処理装置において、一時保留部を、正逆方向へ走行する搬送ベルト上面31aと、搬送ベルト上面を包囲して所定の硬貨保留区画を形成する仕切り部材(仕切りユニット)40によって構成し、仕切り部材をベルト上面に沿って移動させることにより、硬貨保留区画Aを受入れ位置、硬貨放出位置(収納位置)、及び返却位置との間の必要最小限の距離を移動させるようにした。このため、一時保留部が長い距離を移動することによる金銭処理速度の低下、装置構成の複雑、大型化を防ぐことができ、各位置においてベルトを用いて一時保留部内の硬貨を強制落下させることにより、構成をシンプル化、小型化し、更に一人の利用者による装置の占有時間を短縮して稼動率を高めることができる。
更に、一時保留部の硬貨収容量を大幅に増やしたとしても、保留硬貨を返却部に移送する際には、返却部の容量に見合うように適量ずつ段階的に供給することにより、返却部における硬貨詰まり等を防止することができる。
【符号の説明】
【0023】
1…金銭処理装置、2…ディスプレイ、3…スイッチ類、4…硬貨投入口、5…紙幣投入口、6…釣銭払出し口兼返却口、7…リジェクトスイッチ、8…発券口、S1…第1の落下スペースS、S2…第2の落下スペース、10…硬貨投入部、15…分離搬送部、20…第1の識別部、21…搬送ベルト上面、25…正規硬貨搬送路、30…硬貨保留装置、31…搬送ベルト、31a…搬送ベルト上面、32…駆動ローラ、33…従動ローラ、34…モータ、35…制御部、40…仕切りユニット、41、42、43…仕切り部材、45…駆動機構、46…枠体、48…ガイド長穴、50…リジェクト経路、55…貯留用硬貨仕分け装置(貯留用ホッパ)、56…第2の識別部、57…硬貨貯留部、60…返却硬貨収容部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動ローラと従動ローラによって張設されて正逆転駆動される搬送ベルトと、前記駆動ローラを駆動するモータと、前記搬送ベルト上面の幅方向両側方に夫々立設されて該搬送ベルト上の硬貨が側方へ移動することを阻止する側部仕切り部材と、該搬送ベルト上面の搬送方向上流側及び下流側に夫々立設されて該搬送ベルト上の硬貨が上流側及び下流側へ移動することを阻止する上流側仕切り部材及び下流側仕切り部材と、少なくとも前記上流側仕切り部材及び下流側仕切り部材を一体的に前記搬送方向上流側及び下流側に一体的に進退させる駆動機構と、を備え、
前記上流側仕切り部材は、前記搬送ベルト上面の上流側端部を越えた搬送方向最上流側に位置しているときに該搬送ベルト上面の上流側端部との間に硬貨収納部へ硬貨を落下させる第1の落下スペースを形成し、
前記下流側仕切り部材は、前記搬送ベルト上面の下流側端部を越えた搬送方向最下流側に位置しているときに該搬送ベルト上面の下流側端部との間に硬貨を返却部へ落下させる第2の落下スペースを形成するように構成され、
前記上流側仕切り部材が前記搬送方向最上流側に位置している時と、前記下流側仕切り部材が前記搬送方向最下流側に位置している時に、前記搬送ベルト上面が上流側と下流側に夫々走行することにより前記各落下スペースから硬貨を落下させるように構成したことを特徴とする硬貨保留装置。
【請求項2】
前記上流側仕切り部材及び下流側仕切り部材は、前記各側部仕切り部材と一体化していることを特徴とする請求項1に記載の硬貨保留装置。
【請求項3】
金種が異なる複数枚の硬貨を一括して投入可能な硬貨投入部と、該硬貨投入部内の硬貨を一枚ずつに分離して搬送する分離搬送部と、該分離搬送部から搬送されてきた一枚ずつの硬貨の真贋、金種を判定する識別部と、該識別部により正規であると判定された硬貨を搬送する正規硬貨搬送路と、該正規硬貨搬送路から搬送されてきた正規硬貨を受け入れる請求項1、又は2に記載の硬貨保留装置と、前記識別部により正規でないと判定された硬貨を外部に排出するリジェクト経路と、前記硬貨保留装置の前記搬送ベルト上面の上流側端部から落下した複数の硬貨を受け入れて金種別に仕分ける貯留用硬貨仕分け装置と、前記搬送ベルト上面の下流側端部から落下した硬貨を外部に払い出す返却部と、を備えたことを特徴とする金銭処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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