説明

硬質医療用塩化ビニル系樹脂組成物およびそれを用いた硬質医療用部品

【課題】放射線照射滅菌処理、特にγ線照射滅菌しても変色を著しく低減し、耐放射線性、硬さ、溶出性に優れた硬質医療用塩化ビニル系樹脂組成物及びこれを成形した硬質医療用部品を提供する。
【解決手段】本発明の硬質医療用塩化ビニル系樹脂組成物は、塩化ビニル系樹脂100重量部に対して、シクロヘキサンジカルボキシレート系可塑剤及びアルキルスルホン酸系可塑剤から選択される1種以上の可塑剤を1重量部以上15重量部以下配合してなる組成物であって、JIS K7202で規定されるロックウェル硬さが、35°以上の硬質である。本発明の硬質医療用部品は、前記の樹脂組成物を成形加工した成形体である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、γ線または電子線による放射線滅菌方法に対して優れた変色安定性を有する硬質医療用塩化ビニル系樹脂組成物、およびそれを用いた硬質医療用部品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
医療用部品は、(1)重金属等の溶出などによって人体に害を及ぼすことがないこと、(2)医療現場において使い勝手が良いこと、(3)使用時まで無菌性が保たれていること、(4)内部液の状況が確認できることなどが必要とされる。
【0003】
これらの性能を高度に満足する素材として軟質塩化ビニル系樹脂組成物が使用され、軟質医療部品、例えば、血液バッグ、輸液バッグ、透析回路チューブなどに塩化ビニル樹脂と可塑剤からなる軟質塩化ビニル系樹脂組成物が好適に使用されている。
【0004】
また、これらの軟質医療部品に接続される各種の部品、例えば、注射器、チューブ連結部材、分岐バルブ、速度調節部品などの硬質医療用部品には、ポリカーボネート、ポリオレフィンなどの硬質素材が使用されている。
【0005】
従来、これらの医療用部品は、高度に滅菌される必要性から、主にエチレンオキサイドガス(EOG)を用いて滅菌されてきた。しかしながら、滅菌後の残存EOGガスに発がん性があるために、安全性の観点からEOGガス滅菌に替えて、高圧蒸気滅菌へ移行している。これらEOG滅菌、高圧蒸気滅菌という滅菌方法では、包装品を一袋ごとに個々に滅菌する必要があり、滅菌作業に多大な手間と時間がかかるという問題があった。滅菌作業の迅速化を図るため、1980年以降、梱包後の滅菌が可能で、コスト低減につながるコバルト60−γ線滅菌(以下γ線滅菌)や、電子線滅菌といういわゆる放射線滅菌への転換が急速に進展してきている。放射線滅菌のうち、電子線滅菌は短時間に大量の部品を滅菌処理できるという利点があるが、透過力が小さく、滅菌が不均一になりがちであり、滅菌にロットぶれが発生し易いという問題がある。他方、γ線滅菌は照射時間が長いため、滅菌が均一に行われるという利点があるが、部品の色調変化が著しいという問題がある。
【0006】
これら放射線滅菌による色調変化は、変色のために医療用部品の色調を識別できなくなり、部品間違いなどの医療事故を誘発する原因になる可能性がある。そのため、放射線滅菌によって変色する材料は、医療用部品として使用することができなかった。
【0007】
前記のように、前記硬質医療用部品の材料劣化による色調変化は、当業界の重大な技術課題であり、この課題解決のためにいろいろな取組みがなされてきている。
【0008】
軟質塩化ビニル系樹脂組成物は、これらの変色問題を解決でき、耐放射線性に優れた素材として、現在好適に使用されている。しかしながら、硬質塩化ビニル系樹脂組成物は、変色課題を解決できておらず、硬質医療用部品には、耐γ線性が比較的良好なポリカーボネート樹脂、オレフィン樹脂などが使用されている。
【0009】
ポリカーボネート樹脂は、γ線に対し比較的安定で、γ線滅菌用途では主流になりつつある。しかしながら、麻酔薬の作用によって割れるなど耐薬品性が劣り、ビスフェノールAの残存モノマーの影響が懸念され、また成形加工性が塩化ビニル系樹脂組成物に比較して劣る、さらに回路の大部分を占める(主に軟質)ポリ塩化ビニルとの接着性が劣るなどの難点がある。
【0010】
また、これらの課題解決の為に、α−オレフィンなどの樹脂を使用する提案もある(特許文献1)。しかし、前記方法は、耐キンク性(耐折性)が劣るなどの難点がある為、市場での長期的な安全性実績があり、成形性、耐薬品性、耐折性などに優れ、かつ耐放射線性に優れて変色の少ない硬質塩化ビニル系樹脂組成物が強く要望されてきた。
【0011】
この様な医療現場の要望に応えるべく、例えば、特許文献2〜3のように、安定剤、エポキシ化植物油を添加することで、着色を抑えるという提案、例えば、特許文献4〜5のように、アルキルメルカプタンやアジピン酸のアルキルエステルを添加する方法が提案されているが、電子線滅菌法にはある程度改良効果が認められるものの、γ線滅菌法に対する効果は不十分であり、更なる改善が緊急の課題となっている。
【特許文献1】特開2003−3026号公報
【特許文献2】特開平8-73619号公報
【特許文献3】特開平8−176383号公報
【特許文献4】特開平7-102142号公報
【特許文献5】特表平11-510854号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、前記従来の問題を解決するため、放射線照射滅菌処理、特にγ線照射滅菌しても変色を著しく低減し、耐放射線性に優れ、かつ硬さ、溶出性に優れた硬質医療用塩化ビニル系樹脂組成物、及び前記組成物を成形した硬質医療用部品を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の硬質医療用塩化ビニル系樹脂組成物は、塩化ビニル系樹脂100重量部に対して、シクロヘキサンジカルボキシレート系可塑剤及びアルキルスルホン酸系可塑剤から選択される1種以上の可塑剤を1重量部以上15重量部以下配合してなる組成物であって、JIS K7202で規定されるロックウェル硬さが、35°以上の硬質であることを特徴とする。
【0014】
本発明の硬質医療用部品は、前記の硬質医療用塩化ビニル系樹脂組成物を成形加工してなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明の硬質医療用塩化ビニル系樹脂組成物は、放射線滅菌(電子線滅菌、γ線滅菌)した際の変色が少なく、溶出性に優れ、前記組成物にて製品化された硬質医療用部品は、放射線滅菌(電子線滅菌、γ線滅菌)した際の変色が少なく、溶出性に優れた硬質医療用部品となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明者らは、耐放射線性(特に、耐γ線性)と配合剤との関連を検討し、塩化ビニル系樹脂と特定の可塑剤を必須成分とした硬質組成物であって、ロックウェル硬さを特定の範囲に選択することにより、耐放射線性と溶出性のバランスに極めて優れた硬質医療用組成物が得られることを見出し本発明を完成したものである。
【0017】
本発明は、塩化ビニル系樹脂100重量部に対して、シクロヘキサンジカルボキシレート系可塑剤及びアルキルスルホン酸系可塑剤から選択される1種以上の可塑剤を1重量部以上15重量部以下配合してなる組成物であって、JIS K7202で規定されるロックウェル硬さが、35°以上の硬質医療用塩化ビニル系樹脂組成物、及びこの樹脂組成物を成形加工した硬質医療用部品である。これにより、耐放射線性と溶出性のバランスに優れた硬質医療用塩化ビニル系樹脂組成物を提供するものであり、滅菌時の変色がなく、溶出性、表面性、キンク性、耐薬品性などに優れた硬質医療用部品を提供できる。
【0018】
前記において、JIS K7202で規定されるロックウェル硬さが、35°以上であれば、硬質を意味する。
【0019】
可塑剤の中でもシクロヘキサンジカルボキシレート系可塑剤および/またはアルキルスルホン酸系可塑剤が極めて溶出性と耐γ線性のバランスが優れ、また特に、前記組成物にシラン化合物を0.2〜7重量部配合することにより、滅菌時の変色に対して極めて優秀な抵抗性を有する硬質医療用塩化ビニル系樹脂組成物および硬質医療用部品を提供する。
【0020】
シラン化合物としては、アルコキシシラン化合物が特に好ましく、モノアルコキシシラン化合物、ジアルコキシシラン化合物、トリアルコキシシラン化合物、テトラアルコキシシラン化合物から選択される一種以上のシラン化合物を配合することにより特に優れた硬質医療用塩化ビニル系樹脂組成物にできる。とくに、シラン化合物として3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシランまたはビニルトリエトキシシランを選択した場合に、医療用組成物として特に優秀な硬質医療用塩化ビニル系樹脂組成物が得られ、γ線滅菌による変色がなく溶出性の良好な硬質医療用部品を得ることができる。
【0021】
本発明に用いられる塩化ビニル系樹脂とは、従来の公知の塩化ビニル系樹脂であって、例えば、塩化ビニル単独重合体である塩化ビニル樹脂、塩化ビニルと共重合し得る他のモノマーとを共重合させた塩化ビニル系共重合樹脂、たとえば塩化ビニル−酢酸ビニル共重合樹脂、塩化ビニル−ステアリン酸ビニル共重合樹脂などの塩化ビニルとアルキルビニルエステルとの共重合樹脂、塩化ビニル−エチレン共重合樹脂、塩化ビニル−プロピレン共重合樹脂などの塩化ビニルとオレフィン類との共重合樹脂、塩化ビニルと(メタ)アクリル酸またはそのエステルとの共重合樹脂、塩化ビニルとフマル酸エステルとの共重合樹脂、塩化ビニルとアルキルビニルエーテルとの共重合樹脂も用いる事ができ、これらは単独で用いてもよく2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0022】
本発明に使用する塩化ビニル系樹脂の平均重合度は特に限定されないが、加工性と性能のバランスから、平均重合度400〜1300の範囲が好ましく、650〜1100の範囲がさらに好ましい。
【0023】
本発明において使用する可塑剤は、シクロヘキサンジカルボキシレート系可塑剤及びアルキルスルホン酸系可塑剤から選択される1種以上の可塑剤を塩化ビニル系樹脂100重量部に対して1〜15重量部以下の範囲で配合する。この範囲であれば、硬質医療用部品に要望される硬さを確保できる。成形性とのバランスを考慮すると、8〜15重量部の範囲がさらに好ましい。
【0024】
中でも特に、シクロヘキサンジカルボキシレート系可塑剤が耐γ線性、溶出性のバランスの観点で極めて好適である。また、これを主たる可塑剤とし、他の可塑剤を従たる可塑剤にすることにより、耐放射線性と硬さと溶出性のバランスを優れた範囲にできる。ここで「主たる」とは、50重量%以上をいう。
【0025】
本発明で使用できるアルキルスルホン酸系可塑剤としては、例えば、アルキルスルホン酸フェニルエステル、N,n−ブチルベンゼンスルホンアミドなどが例示される。中でも、アルキルスルホン酸フェニルエステルが好適である。
【0026】
本発明に使用できるシクロヘキサンジカルボキシレート系可塑剤としては、ジイソノニルシクロヘキサンジカルボキシレート、ジメチルシクロヘキサンジカルボキシレート、ジエチルシクロヘキサンジカルボキシレート、ジ−2−エチルヘキシルシクロヘキサンジカルボキシレートなどが例示される。中でも、ジイソノニルシクロヘキサンジカルボキシレート、ジ−2−エチルヘキシルシクロヘキサンジカルボキシレートが好適である。
【0027】
本発明に於いては、シラン化合物を併用することにより、耐放射線性(耐γ線性)と溶出性とのバランスをさらに改善することができ、アルコキシシラン化合物、クロロシラン化合物、アセトキシシラン化合物、オルガノシラン化合物などのシラン化合物を使用できる。シラン化合物の添加量は、塩化ビニル系樹脂100重量部に対し、0.2〜7重量部が良い。シラン化合物の添加量が0.2〜7重量部の範囲であると耐放射線性(耐γ線性)の改善効果とロックウェル硬さ、溶出性、配合コストなどとのバランスが最適な領域を選択できる。シラン化合物のさらに好ましい添加量は、塩化ビニル系樹脂100重量部に対し、1.5〜3.5重量部である。
【0028】
本発明では、これらのシラン化合物の中でも、モノアルコキシシラン化合物、ジアルコキシシシラン化合物、トリアルコキシシラン化合物、テトラアルコキシシラン化合物から選択される一種以上のシラン化合物であることが特に好ましい。
【0029】
本発明に使用できるモノアルコキシシラン化合物としては、例えばトリメチルメトキシシラン、トリメチルエトキシシラン、トリエチルメトキシシラン、トリエチルエトキシシランなどが例示される。
【0030】
本発明に使用できるジアルコキシシラン化合物としては、例えばメチルジメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、メチルアミノエトキシプロピルジアルコキシシラン、N(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシランなどが例示される。
【0031】
本発明に使用できるトリアルコキシシラン化合物としては、例えばメチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、γ−クロロプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N(フェニル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−(ポリエチレンアミノ)プロピルトリメトキシシラン、γ−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、ヘプタデカフルオロデシルトリメトキシシラン、トリデカフルオロオクチルトリメトキシシラン、ビニルトリスビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、β−(3,4エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランなどが例示される。
【0032】
本発明に使用できるテトラアルコキシシラン化合物としては、例えばテトラメトキシシラン、テトラエトキシシランなどが例示される。特に、耐γ線性と他の特性、コストなどとのバランスから、トリアルコキシシラン化合物が好適であり、中でも、溶出性に特に優れるという観点から、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、ビニルトリエトキシシランが特に好適である。
また、本発明においては、これらのシラン化合物を二種以上併用することも自在に可能であり、特に限定されるものではない。
【0033】
本発明に規定するロックウェル硬さ(Rスケール)とは、JIS K7202に規定されている硬さであり、前記JISに準拠して23℃の温度で測定した値であるが、硬質医療用部品を製造するには、前記硬さが35°以上となる組成物を使用する。特に前記硬さが60°以上の範囲が好適である。
【0034】
前記硬さが35°以上の組成物を硬質医療用部品に適用すると、部品が折れ曲がったりして、内容物の液流が妨げられるなどの不具合を発生することもなく、バルブ性能、チューブ連結作業性なども良好に維持される。
【0035】
また、前記ロックウェル硬さは、γ線照射前の硬さもγ線照射後の硬さも35°以上に維持されるのが良い。また硬さの変化(Δ硬さ)は、あまり大きな変化がない方が好ましく、特に限定されるものではないが20°以下であることが特に好ましい。
【0036】
本発明で耐放射線性の評価に用いたγ線照射前後のYI値の差(ΔYI)とは、実施例の「耐放射線性の評価」の項でさらに詳細に述べるが、シート状のテストサンプルにγ線を照射する前のYI値とγ線照射後のYI値の差を求めたもので、変色の程度を評価するパラメータとして定義したものである。
【0037】
ΔYIはできる限り小さい値であることが好ましく、硬質医療用途に使用する為には、20以下であることが好ましい。20以下であれば、医療用部品の滅菌時の変色が許容範囲に抑制でき、前記用途に好適に使用できる。
【0038】
本発明においては、配合剤として従来公知の液状配合剤を必要に応じて使用することができるが、その液状配合剤の使用量は、ロックウェル硬さの制限を考慮して塩化ビニル系樹脂100重量部に対して、15重量部以下が好ましい。15重量部を越えるとロックウェル硬さを35°以上に維持することが難しくなり、硬質医療用部品としての機能を損なう場合がある。液状配合剤の代表として例えば熱安定剤、安定化助剤などがあげられ、従来公知の液状配合剤を適宜選択して使用できる。
【0039】
本発明の硬質医療用塩化ビニル系樹脂組成物には、従来公知の熱安定剤を適宜使用することができる。熱安定剤は、成形加工時など熱が加わった際の着色を抑制する目的で使用するものであり各種の安定剤を適宜選択できる。
【0040】
本発明に添加し得る安定剤としては、従来医療用途に使用されている公知の安定剤を使用することができるが、特に好ましくは、有機錫安定剤が良く、中でも例えばメチル錫メルカプト、ブチル錫メルカプト、オクチル錫メルカプトなどの錫メルカプト系安定剤、オクチル錫マレエートなどの錫マレエート系安定剤などを好適に使用できる。特に、放射線滅菌時の変色をおさえる効果が顕著であるという観点から、オクチル錫メルカプト系安定剤が格段に好ましい。
【0041】
また、安全性、衛生性の観点から、従来医療用途に使用されているステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウムなどの金属石鹸も好適に使用できる。さらに、硬質医療用組成物としての各種の性能バランスという観点から、メチル錫メルカプト系安定剤とステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウムを組み合わせた組成物は、特に有用である。
【0042】
これら安定剤の添加量は、塩化ビニル樹脂100重量部に対し2〜6重量部の範囲に設定することが特に好ましく、この範囲であれば、耐放射線性、熱安定性と錫の溶出性、コストなどの性能を最適領域に維持できる。前記添加量が6重量部を超えると、医療用組成物に適用される抽出テストにおいて、錫の溶出量がやや多くなり好ましい範囲を超える傾向がある。耐放射線性、熱安定性と錫の溶出性のバランスから2〜4重量部の範囲が特に好ましい。
【0043】
また、安定化助剤としては従来公知の助剤を使用でき、例えば、ジオクチルホスァイト、ジフェニルノニルフェニルホスファィト、トリフェニルホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリデシルホスファイトなどのホスファイト類、トリアリルホスフェートなどのホスフェート類、ステアロイルベンゾイルメタン、ジベンゾイルメタンなどのβジケトン類などを使用できる。中でも、ステアロイルベンゾイルメタン、ジベンゾイルメタンなどのβジケトン類は好適であり耐γ線による変色抑制に好適である。
【0044】
本発明においては、従来医療用途に使用されている滑剤、着色剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤などの配合剤を必要に応じて公知の範囲で適宜使用することができる。
【0045】
本発明の硬質医療用塩化ビニル系樹脂組成物を用いて硬質医療用部品を製造する場合、特別な限定はなく従来公知の方法で製造することができる。例えば、所定の配合にてブレンドしたポリ塩化ビニル系樹脂組成物をロール、バンバリー、押出機などで混練してペレット化し、次いで、得られたペレットを各種の成形機、例えば押出機、射出成形機、カレンダー成形機などで成形加工することができる。
【0046】
ブレンドする方法としては、従来公知の方法を適用でき、例えば、ヘンシェルミキサー、スーパーミキサーなどを用いてホットブレンドまたはコールドブレンドにて各成分を混合する。混練する方法としては、従来公知の方法を適用でき、例えば単軸押出機、異方向ニ軸押出機、同方向ニ軸押出機、加圧ニーダー、遊星ギア多軸押出機などを用いてペレットを作成する。ペレット化の条件としてはシリンダー温度を100〜160℃、ダイ温度を130〜170℃に設定した混練り機を使用するのが好ましい。
【0047】
さらに、前記ペレットを二次成形する場合、シリンダー温度、ダイ温度を130〜200℃に設定した成形機を使用するのが好ましい。
【0048】
本発明になる硬質医療用部品の成形には、細かくまた複雑な形状を有する部品が多い為、従来から射出成形機を用いた成形加工が適用されているが、本発明の硬質医療用塩化ビニル系樹脂組成物は、射出成形性などにも優れる為、射出成形に特に好適に使用でき、実用的に非常に有用である。
従来の配合系では、射出成形後滅菌することにより、寸法変化を起こしやすかった。本発明の樹脂組成物では、従来品より放射線滅菌前後による寸法安定性が優れている。
【0049】
本発明における医療用部品とは、薬事法第2条第4項および薬事法施行令第1条に定義され、別表第1に定められている機械器具のうち、特に、17,18,19,20,47,48,51,56などに定義される機械器具の連結部材、バルブなどを示す。具体的には、血液バッグ、輸液バッグ、廃液バッグ、輸液セット、輸血セット、成分採血システム、白血球除去フィルター、血液回路システム、人工透析回路、人工心肺システム、翼付針などの機械器具の連結部品、バルブ、サイドキャップなどとして使用される部品、あるいは真空採血管、注射器などを意味する。本発明の硬質医療用塩化ビニル樹脂組成物は、特に、血液バッグ、輸液バッグ、輸液セット、輸血セット、血液回路システムの連結部品、バルブ、サイドキャップにおいて極めて好適に使用される。
【0050】
これらの部品は、形状も多種多様であり、複雑な形状である為、大部分は射出成形にて製造される。例えば、T字管、Y字管、サイドキャップなどは好適に射出成形が適用される。また、比較的長尺の連結管、硬質チャンバーチューブなどは押出成形が好適に適用される。
【0051】
また、本発明になる硬質医療用塩化ビニル樹脂組成物は、オレフィン樹脂、ポリカーボネート樹脂に比較し、樹脂の初期着色性に優れると共に、射出成形する際、成形温度を低く抑えることができ生産性に優れ、また、PVCとの接着性が優れる。本発明になる硬質医療用塩化ビニル樹脂組成物の射出成形条件は、シリンダー温度170℃〜190℃、射出圧800〜1200Kg/cm2で射出成形するのが特に好ましい。
【0052】
本発明になる硬質医療用塩化ビニル樹脂製部品は、従来医療用途に使用されている軟質部品と同一素材を組み合わせた医療用部品にでき、塩ビ系素材のみで回路などを製造することが可能であり、他素材との組合せで発生する接着不良などの不具合を回避でき、部品外れなどの医療トラブルを低減することに貢献できる。
【実施例】
【0053】
つぎに、実施例および比較例に基づき、本発明の態様をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら制限されるものでない。
【0054】
以下に、実施例および比較例で用いる原材料および評価方法を示す。
1.使用材料の説明
(1)樹脂成分
塩化ビニル樹脂:カネビニールS1007:(株)カネカ製
(2)シラン化合物
3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン:信越化学 (株)製
テトラエトキシシラン:信越化学 (株)製
ビニルトリエトキシシラン:東芝シリコーン(株)
(3)可塑剤成分
フタル酸エステル可塑剤:(株)ADEKA製
トリメリット酸ジ−2−エチルヘキシル:(株)ADEKA製
エポキシ化大豆油:(株)ADEKA製
ジイソノニルシクロヘキサンジカルボキシレート:(株)BASF製
アルキルスルホン酸フェニルエステル:(株) ADEKA製(炭素数10〜20の混合アルキル)
(4)安定剤、安定化助剤成分
有機錫系安定剤:ジオクチル錫ジメルカプタイド
有機錫系安定剤:ジオクチル錫マレエート
安定化助剤:トリス(ノニルフェニル)ホスファイト
(5)滑剤成分
滑剤:ポリエチレンWax
2.耐放射線の評価
耐放射線性については、まずロール/プレス加工にて作成したシート状のテストサンプルに対し、照射前の黄色度(YI値)をJISK7105に準拠しているコンピュータカラーマッチングシステム〔大日精化工業(株)製〕により測定した。次いで、そのテストサンプルに25KGyのγ線を照射した。照射後のテストサンプルは着色黄変が徐々に進行する為、安定化するまで照射後サンプルを恒温恒湿の条件下(23℃、50%相対湿度)で3日間静置した。その後、照射後サンプルのYI値を上記測定器にて測定して、照射後YI値を求めた。
【0055】
変色度の評価指標として、下記式で定義した黄変度(ΔYI値)を計算し、ΔYI値が20以下を合格範囲と判定した。
【0056】
ΔYI値=(照射後YI)−(照射前YI)
3.硬さ測定
(1)ロックウェル硬さ
JIS K7202にJIS K7202に準拠して、ロックウェル硬さ試験機を用いて、試験温度23℃、測定直後のデータを採用。試験片は、ロール/プレス加工にて厚さ6mmのシートテストサンプルを作成し、23℃*50%RHの恒温恒湿室に一昼夜保持した後測定に供した。
【0057】
硬質医療用部品に要求される硬さを考慮して、γ線照射前ロックウェル硬さは35°以上が合格範囲であり、また、照射によって大きく硬さ変化が起きると部品としての性能異常に繋がる為、硬さ変化(Δ硬さ)の合格範囲を20°以下とした。
4.溶出性
日本医療器材協会が定めた医療用プラスチック試験規格の塩化ビニル樹脂コンパウンドI規格に準拠し、紫外吸収スペクトルを測定した。ロール/プレス加工にて作成した約2mm厚シートを約3mm四方に裁断し、試験用ペレットとした。前記ペレットを所定量精秤して硬質ガラス製容器に投入し、121℃で1時間加熱抽出した。前記抽出液を所定量精秤し、試験液を作成した。前記試験液と空試験液を波長220〜350nmにおける吸光度の差ΔUVを測定した。吸光度差の範囲を4段階に分類し、A〜Dで評価した。評価基準は、以下のように行ない、0.10未満を合格とした。
A:合格 :吸光度差:0.04未満
B:合格 :吸光度差:0.04以上〜0.07未満
C:合格 :吸光度差:0.07以上〜0.10未満
D:不合格:吸光度差:0.10以上
(実施例1〜4、比較例1〜7)
表1の配合処方に基づき、硬質配合系での可塑剤添加効果を調べた。各成分を計量し、全ての成分を一括してハンドミキシングし、このブレンド物を表面温度160℃に制御した2本ロールに投入して、5分間混練した。得られたロールシートを所定の大きさに切断して、プレス成形機にて、所定の厚さのシートを作成した。プレス条件は、170℃予熱2分、加熱2分後、冷却プレスにて5分とした。得られたシートを耐放射線性などの各測定に供した。
【0058】
比較例1〜2は、従来の硬質医療用塩化ビニル樹脂組成物として提案されているエポキシ系可塑剤を使用した配合系であるが、比較例1は、溶出性はギリギリ合格範囲であるが、ΔYIが不合格となり、比較例2は、ΔYIは合格、溶出性はギリギリ合格となるが、硬さが不合格となる。比較例3〜5は、軟質医療部品に使用されている一般的な可塑剤であるDOPあるいはTOTMを各々10重量部、または可塑剤なし(無可塑)にした配合系であるが、ΔYI値が硬質用途範囲外となり不合格となった。
【0059】
実施例1、2は、ジイソノニルシクロヘキシルジカルボキシレートを使用し、実施例3、4は、アルキルスルホン酸フェニルエステルを使用した配合系であるが、溶出性にも優れ、耐γ線性にも優れ、ロックウェル硬さも医療用組成物としての性能を具備している。中でも、実施例1,2に用いたジイソノニルシクロヘキシルジカルボキシレートは、溶出性が抜群に優れており医療用組成物として優れていることが判る。
【0060】
また、比較例6,7は、ジイソノニルシクロヘキシルジカルボキシレートあるいはアルキルスルホン酸フェニルエステルを多量に添加した配合系であるが、19重量部以上添加すると、ロックウェル硬さを硬質組成物に要望される範囲を維持できなくなり不合格となった。
【0061】
以上の実験結果から、硬質医療用途に必要とされるロックウェル硬さを具備するには、可塑剤量は19重量部未満であることが判り、これら可塑剤の中でも、ジイソノニルシクロヘキシルジカルボキシレートとアルキルスルホン酸フェニルエステルが医療用組成物として好適であることが判った。
【0062】
以上の条件及び結果を表1にまとめて示す。表1中の材料の数値は重量部を示す。
【0063】
【表1】

【0064】
(実施例5〜18、比較例8)
表2〜3の配合処方に基づき、硬質配合系でのシラン化合物の種類、添加量効果を調べた。各成分を計量し、全ての成分を一括してハンドミキシングし、このブレンド物を表面温度160℃に制御した2本ロールに投入して、5分間混練した。得られたロールシートを所定の大きさに切断して、プレス成形機にて、所定の厚さのシートを作成した。プレス条件は、170℃予熱2分、加熱2分後、冷却プレスにて5分とした。得られたシートを耐放射線性などの各測定に供した。
【0065】
比較例8は、軟質樹脂の例である。シラン化合物(3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン)の添加量を18重量部と大巾に増やした配合系であるが、ΔYIは極めて小さくなって耐放射線性が改善されるものの、ロックウェル硬さが35°以下となり硬質ではなくなるうえ、溶出性が不合格となって硬質組成物として使用できないことが判る。
【0066】
3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシランの添加量を変化させた実施例5〜14から、ロックウェル硬さと耐γ線性、溶出性のバランスを考慮し、シラン化合物の最適な添加範囲は0.2〜7重量部であることが判る。
【0067】
実施例7,10,12の比較から、ロックウェル硬さはいずれも合格範囲で、耐γ線性、溶出性の観点で、ビニルトリエトキシシラン、テトラエトキシシランが優れ、特にビニルトリエトキシシランがこれらの性能バランス的に極めて優れていることが判る。
【0068】
実施例13〜14は、可塑剤の配合を1重量%まで下げてもロックウェル硬さはいずれも合格範囲で、耐γ線性、溶出性を満足することが確認できた。
【0069】
実施例15〜16は可塑剤の混合系、実施例17〜18はさらにシラン化合物の混合系の配合を調べたが、いずれもロックウェル硬さはいずれも合格範囲で、耐γ線性、溶出性を満足することが確認できた。
【0070】
以上の条件及び結果を表2〜3にまとめて示す。表2〜3中の材料の数値は重量部を示す。
【0071】
【表2】

【0072】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩化ビニル系樹脂100重量部に対して、シクロヘキサンジカルボキシレート系可塑剤及びアルキルスルホン酸系可塑剤から選択される1種以上の可塑剤を1重量部以上15重量部以下配合してなる組成物であって、
JIS K7202で規定されるロックウェル硬さが、35°以上の硬質であることを特徴とする硬質医療用塩化ビニル系樹脂組成物。
【請求項2】
前記組成物は、さらにシラン化合物が0.2〜7重量部配合されている請求項1に記載の硬質医療用塩化ビニル系樹脂組成物。
【請求項3】
前記シラン化合物は、モノアルコキシシラン化合物、ジアルコキシシラン化合物、トリアルコキシシラン化合物、及びテトラアルコキシシラン化合物から選択される少なくとも一種である請求項2又は3に記載の硬質医療用塩化ビニル系樹脂組成物。
【請求項4】
前記可塑剤がシクロヘキサンジカルボキシレート系可塑剤であり、前記シラン化合物が3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン及びビニルトリエトキシシランから選択される少なくとも1つである請求項2に記載の硬質医療用塩化ビニル系樹脂組成物。
【請求項5】
前記樹脂組成物は、γ線照射前後のΔYIが20以下である請求項1〜4のいずれか1項に記載の硬質医療用塩化ビニル系樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の硬質医療用塩化ビニル系樹脂組成物を成形加工してなる硬質医療用部品。

【公開番号】特開2008−195898(P2008−195898A)
【公開日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−35201(P2007−35201)
【出願日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【出願人】(399034378)昭和化成工業株式会社 (6)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】