説明

硼珪酸ガラスの製造方法

【課題】泡の残存数が少ない硼珪酸ガラスを製造し得る方法を提供する。
【解決手段】ガラス原料を溶融することによりガラス融液を得、前記ガラス融液を冷却することにより硼珪酸ガラスを製造する方法において、塩化物と硝酸塩とを含み、Bの含有量が18質量%以下であるガラス原料を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硼珪酸ガラスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、ガラスは、例えば、ガラス原料粉末であるバッチやガラスカレットを溶解させることにより得たガラス融液を所望の形状に成形し、その後、冷却することにより製造される。従来、このガラスの製造方法において、例えばバッチから生じる分解ガスなどに起因する泡をガラス融液中から除去する清澄を如何に行うかが大きな課題となっている。
【0003】
従来、最も一般的な清澄方法としては、高温雰囲気中においてガスを発生させる清澄剤をガラス原料に添加しておき、清澄工程において清澄剤からガスを発生させることにより清澄する方法が挙げられる。清澄剤としては、酸化還元反応によってガスを発生させる酸化還元型清澄剤、分解することによりガスを発生させる分解型清澄剤、蒸発することによりガスを発生させる蒸発型清澄剤などが挙げられる。酸化還元型清澄剤の具体例としては、例えば下記の特許文献1に記載されている酸化ヒ素や酸化アンチモン等が挙げられる。分解型清澄剤の具体例としては、例えば下記の特許文献2に記載されている硫酸ナトリウムなどが挙げられる。蒸発型清澄剤の具体例としては、塩化ナトリウムなどが挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−41768号公報
【特許文献2】特許第4307245号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、酸化還元型清澄剤である酸化アンチモンや酸化ヒ素は、環境負荷が高い化学物質であるため、使用が困難となってきている。
【0006】
分解型清澄剤である硫酸ナトリウムは、ソーダ石灰ガラスの清澄には効果的である。しかしながら、硫酸ガスの溶解度が小さい硼珪酸ガラスの溶融に用いた場合は、リボイルと呼ばれる泡の再沸現象が生じやすい。このため、硫酸ナトリウムなどの硫酸塩は、硼珪酸ガラスの清澄には不向きである。
【0007】
蒸発型清澄剤である塩化ナトリウムは、環境負荷が比較的小さく、硼珪酸ガラスの清澄にも好ましく用いられる。しかしながら、硼珪酸ガラスのガラス原料に塩化ナトリウムを単に添加したのみでは、十分に清澄できないという問題がある。すなわち、清澄剤として塩化ナトリウムを用いたとしても、泡の残存数が少ない硼珪酸ガラスを製造することが困難である場合があるという問題がある。
【0008】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的は、泡の残存数が少ない硼珪酸ガラスを製造し得る方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る硼珪酸ガラスの製造方法は、ガラス原料を溶融することによりガラス融液を得、前記ガラス融液を冷却することにより硼珪酸ガラスを製造する方法に関する。本発明に係る硼珪酸ガラスの製造方法では、塩化物と硝酸塩とを含み、Bの含有量が18質量%以下であるガラス原料を用いる。
【0010】
このように、本発明に係る硼珪酸ガラスの製造方法では、塩化物と硝酸塩とを含むガラス原料を用いる。このため、泡の残存数が少ない硼珪酸ガラスを製造することができる。その理由としては、以下のような理由が考えられる。すなわち、まず、ガラス溶融中に、ガラス原料に含まれる硝酸塩が分解することにより、酸素ガスが発生する。発生した酸素ガスの一部は、泡内に拡散し、残りの一部は、ガラス融液に溶解する。ここで、酸素ガスのガラス融液に対する溶解性は、比較的高い。このため、発生した酸素ガスの大部分がガラス融液に溶解し、酸素分圧の高い融液を得ることができる。ガラス融液の温度がさらに上昇し、塩化物が揮発し始めることにより、塩化物ガスが発生する。ここで、塩化物ガスは、Bの含有量が18質量%以下である硼珪酸ガラスの融液に対する溶解性が低い。従って、発生した塩化物ガスの大部分は、泡に拡散し、ごく一部分がガラス融液中に溶解する。これにより、泡における酸素ガスの分圧が低下する。その結果、酸素ガスに関して、平衡状態が崩れ、ガラス融液中に溶解していた酸素ガスが泡中に分散する。従って、泡が成長し、清澄が効率的に進行する。その結果、泡の残存数の少ない硼珪酸ガラスが製造されるものと考えられる。
【0011】
ガラス原料には、Cl換算で、前記塩化物が0.03質量%〜0.5質量%の範囲で外添加されていることが好ましく、0.05質量%〜0.3質量%の範囲で外添加されていることがより好ましい。塩化物の添加量が少なすぎると、十分な清澄効果が得られない場合がある。一方、塩化物の添加量が多すぎると、成形に用いる金型が腐食したり、再加熱時にガラス表面に曇りが発生したりする場合がある。
【0012】
より高い清澄効果を得る観点からは、ガラス融液を、1400℃以上にまで加熱することが好ましい。約1400℃で塩化物の蒸気圧が1気圧を超えるため、泡の清澄が顕著になるためである。但し、ガラス融液が高い粘性を有することを考慮すると、ガラス融液をさらに高い温度にまで加熱することがより好ましい。具体的には、ガラス融液を、1450℃以上にまで加熱することがより好ましく、ガラス融液を、1600℃以上にまで加熱することがさらに好ましい。そうすることにより、塩化物ガスをより効率的に発生させることができるためである。但し、ガラス融液を高い温度にまで加熱しすぎると、ガラス溶融炉の損傷が激しくなったり、製造されるガラスの品位が低下したりする場合があるため、ガラス融液の加熱温度は、1700℃以下であることが好ましい。
【0013】
また、ガラス融液を、ガラス融液中の泡に、50体積%以上の酸素ガスが含まれる温度にまで加熱することが好ましい。そうすることにより、泡の径をより大きくでき、より高い清澄効果を得ることができる。
【0014】
また、本発明の硼珪酸ガラスの製造方法は、溶融後において、β−OH値が0.25mm−1以上である硼珪酸ガラスの製造に好適に適用される。さらには、本発明の硼珪酸ガラスの製造方法は、溶融後においてβ−OH値が0.30mm−1以上の硼珪酸ガラスの製造により好適に適用され、β−OH値が0.35mm−1以上の硼珪酸ガラスの製造にさらに好適に適用され、β−OH値が0.40mm−1以上の硼珪酸ガラスの製造になお好適に適用される。
【0015】
本明細書における「β−OH値」とは、IR分光分析法により測定されるガラス中のヒドロキシル基の含有量のことである。このβ−OH値を測定することによって、ガラス中の水分量を推定することができる。
【0016】
β−OH値の測定は、具体的には以下のようにして行うことができる。
【0017】
(1)得られたガラスの2.7μm〜2.9μmにおける吸収スペクトルを測定する。
【0018】
(2)この範囲の透過率の最小値をTとし、また2.5μmでの透過率をTとし、測定に用いたガラスの厚みをd(mm)とする。
【0019】
β−OH値は次式により算出される。
【0020】
(β−OH値)=(1/d)・(log10(T/T))
【0021】
本発明において、発明者はβ−OH値、すなわちHO含有量と、清澄性との関係を以下のように考えている。
【0022】
O含有量の多いガラスほど泡中のHO分圧は大きくなり、泡中におけるその他のガス分圧が相対的に低下する。その結果、塩化物ガスや酸素ガスの泡中への拡散が促進され、泡の直径を拡大できる。従って、泡が上昇しやすくなり、高い清澄効果を得ることができると考えられる。
【0023】
なお、本発明において、「硼珪酸ガラス」とは、SiOとBとの含有量の合計が70質量%以上であり、かつ、RO(Rは、Li,Na及びKのうちの少なくとも一つ)の含有量が1質量%以上であるガラスをいう。
【0024】
本発明に係る硼珪酸ガラスの製造方法は、Bの含有量が18質量%以下である硼珪酸ガラスの製造全般に適用できるものであるが、質量%で、SiO:65%〜85%、B:8%〜18%及びRO:1%〜10%(但し、Rは、Li,Na及びKのうちの少なくとも一つ)を含むガラス原料を用いるときにより好適であり、その中でも、LiOの含有量が0.5質量%以下であるガラス原料を用いるときにさらに好適である。なお、SiOの含有量が85質量%を超える場合は、ガラス融液の粘性が高くなりすぎ、清澄が困難となる場合がある。SiOのより好ましい含有量は、80質量%以下である。Bは、塩化物による高い清澄作用を得るために必須の成分であり、8質量%以上含有されていることが好ましい。
【0025】
また、本発明においては、環境負荷を低減する観点から、As及びSbを実質的に含まないガラス原料を用いることが好ましい。ここで、本発明においては、As及びSbを実質的に含まないことには、不純物としてAsやSbが100ppm以下の割合で含まれていることを含むものとする。
【0026】
本発明に係る硼珪酸ガラスの製造方法では、塩化物は、特に限定されないが、アルカリ金属の塩化物及びアルカリ土類金属の塩化物のうちの少なくとも一方を塩化物として用いることが好ましい。アルカリ金属の塩化物の具体例としては、塩化ナトリウムや塩化カリウムなどが挙げられる。アルカリ土類金属の塩化物の具体例としては、塩化バリウム、塩化ストロンチウム、塩化カルシウムなどが挙げられる。
【0027】
また、本発明に係る硼珪酸ガラスの製造方法では、硝酸塩は、特に限定されないが、アルカリ金属の硝酸塩及びアルカリ土類金属の硝酸塩のうちの少なくとも一方を硝酸塩として用いることが好ましい。アルカリ金属の硝酸塩としては、硝酸ナトリウムや硝酸カリウムなどが挙げられる。アルカリ土類金属の硝酸塩の具体例としては、硝酸バリウム、硝酸ストロンチウム、硝酸カルシウムなどが挙げられる。
【0028】
なお、本発明において、ガラス原料には、バッチ、ガラスカレット、及びバッチとガラスカレットとの混合物とが含まれるものとする。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、泡の残存数が少ない硼珪酸ガラスを製造し得る方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明について、具体的な実施例に基づいて、さらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲において適宜変更して実施することが可能である。
【0031】
(実施例1〜5及び比較例1,2)
酸化物換算で、下記の表1に記載の組成となるように、塩化ナトリウム以外の成分を調合し、さらに、Cl換算で表1に記載の量の塩化ナトリウムを外添加することによりガラス原料を得た。なお、酸化ナトリウム以外のアルカリ金属やアルカリ土類金属の酸化物は、すべて炭酸塩として添加した。酸化ナトリウムは、表1に示すように、硝酸ナトリウム及び炭酸ナトリウムのうちの少なくとも一方として添加した。また、実施例1〜3ではホウ酸、実施例4、5では酸化ホウ素を使用することでガラス中のβ−OH値を調整した。
【0032】
次にガラス原料(ガラス200g建て)を白金坩堝に投入し、1500℃で2時間溶融した後に、1550℃に昇温し、1550℃で1時間保持した。その後、白金坩堝からガラス融液を取り出し、冷却することにより、ガラスを作製した。その後、ガラス塊の中央部に含まれる泡を顯微鏡を用いて確認し、ガラス100gあたりに存在する泡の数量を求めた。また、ガラスを1mmの厚さに加工し、IR分光光度計でβ−OH値を測定した。結果を下記の表1に示す。なお、比較例1のサンプルでは、泡の残存数が多かったため、比較例1のサンプルのβ−OH値は測定できなかった。
【0033】
【表1】

【0034】
上記表1に示すように、塩化ナトリウムを添加しなかった比較例1や、塩化ナトリウムを添加したものの、硝酸塩を用いなかった比較例2では、泡が多く残存したのに対して、塩化物を添加すると共に、硝酸塩を用いた実施例1〜5は、泡の残存数が少なかった。特に、β−OH値の大きい実施例1〜3はβ−OH値の小さい実施例4,5に比べて泡の残存数が少なかった。この結果から、塩化物と硝酸塩とを含むガラス原料を用いることにより、泡の残存数の少ない硼珪酸ガラスを製造できることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス原料を溶融することによりガラス融液を得、前記ガラス融液を冷却することにより硼珪酸ガラスを製造する方法であって、
塩化物と硝酸塩とを含み、Bの含有量が18質量%以下であるガラス原料を用いる、硼珪酸ガラスの製造方法。
【請求項2】
前記ガラス原料には、Cl換算で、前記塩化物が0.03質量%〜0.5質量%の範囲で外添加されている、請求項1に記載の硼珪酸ガラスの製造方法。
【請求項3】
前記ガラス融液を、1400℃以上にまで加熱する、請求項1または2に記載の硼珪酸ガラスの製造方法。
【請求項4】
前記ガラス融液を、1600℃以上にまで加熱する、請求項3に記載の硼珪酸ガラスの製造方法。
【請求項5】
前記ガラス融液を、前記ガラス融液中の泡に、50体積%以上の酸素ガスが含まれる温度にまで加熱する、請求項1〜4のいずれか一項に記載の硼珪酸ガラスの製造方法。
【請求項6】
β−OH値が0.25mm−1以上となる硼珪酸ガラスの製造に適用することを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一項に記載の硼珪酸ガラスの製造方法。
【請求項7】
前記ガラス原料は、質量%で、SiO:65%〜85%、B:8%〜18%及びRO:1%〜10%(但し、Rは、Li,Na及びKのうちの少なくとも一つ)を含む、請求項1〜6のいずれか一項に記載の硼珪酸ガラスの製造方法。
【請求項8】
前記ガラス原料におけるLiOの含有量が0.5質量%以下である、請求項7に記載の硼珪酸ガラスの製造方法。
【請求項9】
前記ガラス原料は、As及びSbを実質的に含まない、請求項7または8に記載の硼珪酸ガラスの製造方法。
【請求項10】
塩化物として、アルカリ金属の塩化物及びアルカリ土類金属の塩化物のうちの少なくとも一方を用いる、請求項1〜9のいずれか一項に記載の硼珪酸ガラスの製造方法。
【請求項11】
硝酸塩として、アルカリ金属の硝酸塩及びアルカリ土類金属の硝酸塩のうちの少なくとも一方を用いる、請求項1〜10のいずれか一項に記載の硼珪酸ガラスの製造方法。

【公開番号】特開2012−92000(P2012−92000A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−208374(P2011−208374)
【出願日】平成23年9月26日(2011.9.26)
【出願人】(000232243)日本電気硝子株式会社 (1,447)
【Fターム(参考)】