説明

硼酸リチウム単結晶の育成方法

【目的】 カーボン製の育成容器を用いて再現性良く育成容器と育成結晶との固着を防止できる硼酸リチウム単結晶の育成方法を提供する。
【構成】 グラファイトなどの六角平面格子を基本結晶構造とするカーボン、またはセルローズカーボン、グラッシーカーボンもしくはビトロカーボン等のガラス状硬質炭素などからなるカーボン製の育成容器4を用いて、種結晶2または育成結晶1と原料融液3との固液界面の温度よりも原料融液3の温度の方が高く、かつ原料融液3の最高温度が1005℃以下、好ましくは985℃以下となるような温度勾配を設けながら垂直ブリッジマン法などにより結晶成長を行うようにした。
【効果】 歩留り良くクラックのない良質の硼酸リチウム単結晶が再現性良く得られる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、硼酸リチウム単結晶の育成方法に関し、例えば弾性表面波装置の基板材料として用いる四硼酸リチウム単結晶の育成に適用して有用な技術に関する。
【0002】
【従来の技術】硼酸リチウム単結晶は、零温度係数を有し且つ電気機械結合係数の高い結晶方位を有するなどの優れた特性により、弾性表面波装置用の基板材料として近年注目されている。このような硼酸リチウム単結晶を育成する一手法として育成容器内で硼酸リチウムの原料融液を徐々に固化させるブリッジマン法が公知であるが、このように容器内で結晶成長を行う場合、育成容器の材質によっては固化した結晶が育成容器に固着してしまうことがある。
【0003】この対策として、特開平4−6193号公報には、溶融硼酸リチウムとの濡れ性が悪いグラファイト製の容器を育成容器として用いることが開示されている。この特開平4−6193号によれば、溶融硼酸リチウムを固化させた硼酸リチウム結晶をグラファイト容器から容易に分離でき、結晶と容器との固着を防止できるとされている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、本発明者らがグラファイト製の育成容器を用いて硼酸リチウム結晶の育成を行ったところ、育成した結晶を容器から分離できることもあるが、結晶と容器とが固着してしまって分離の際に結晶にクラックが発生してしまうこともあり、再現性が乏しいことがわかった。
【0005】本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、カーボン製の育成容器を用いて再現性良く育成容器と育成結晶との固着を防止できる硼酸リチウム単結晶の育成方法を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するために、本発明者らは、育成容器に使用するカーボンの材質と結晶育成時の温度環境について種々検討を行った。その結果、結晶育成中の原料融液の最高温度が1005℃以下であればカーボン製容器と結晶との固着は殆ど生じず、また985℃以下であれば全く生じず、一方、1010℃では固着に起因して結晶にクラックが発生したり、容器を割らないと結晶を取り出せないことがわかった。また、検討の際に使用したカーボンのうち、グラファイトなどの六角平面格子を基本結晶構造とするカーボン、またはセルローズカーボン、グラッシーカーボンもしくはビトロカーボンなどのガラス状硬質炭素が固着防止に有効であることもわかった。
【0007】本発明は、上記知見に基づきなされたもので、カーボン製の育成容器内に硼酸リチウム原料を入れ、該育成容器を加熱炉内に設置し、該加熱炉のヒーターにより前記硼酸リチウム原料を加熱融解し、その融解した硼酸リチウム原料融液に種結晶を接触させ、前記ヒーターの出力調整または前記ヒーターに対する前記育成容器の相対移動により、前記種結晶または育成結晶と前記原料融液との固液界面の温度よりも原料融液の温度の方が高く、かつ原料融液の最高温度が1005℃以下となるような温度勾配を設けながら徐々に冷却することによって、前記原料融液を前記種結晶との固液界面から徐々に固化させて硼酸リチウム単結晶を成長させるようにしたものである。
【0008】この発明において、好ましくは、前記原料融液の最高温度は985℃以下であるとよい。また、前記カーボンは、例えばグラファイトなどの六角平面格子を基本結晶構造とするカーボン、またはセルローズカーボン、グラッシーカーボンもしくはビトロカーボンなどのガラス状硬質炭素である。さらに、縦型の前記加熱炉を用い、該加熱炉のヒーターに対して前記育成容器を上下方向に相対移動させる垂直ブリッジマン法により結晶の育成を行うようにしてもよい。また、四硼酸リチウム単結晶を育成してもよい。
【0009】本明細書中、育成結晶とは、結晶育成過程においてすでに結晶化した領域(図1の符号1を付した部分)のことである。
【0010】
【作用】上記手段によれば、グラファイトなどの六角平面格子を基本結晶構造とするカーボン、またはセルローズカーボン、グラッシーカーボンもしくはビトロカーボン等のガラス状硬質炭素などからなるカーボン製の育成容器を用いて、種結晶または育成結晶と原料融液との固液界面の温度よりも原料融液の温度の方が高く、かつ原料融液の最高温度が1005℃以下、好ましくは985℃以下となるような温度勾配を設けながら結晶成長を行うようにしたため、得られた結晶と育成容器との固着を再現性良く防止できる。なお、育成容器に使用するカーボンは、純度99.9%以上のものが好ましく、さらにはコーティング処理等のされていないものの方がなおよい。
【0011】
【実施例】以下に、具体例を挙げて本発明の特徴とするところを明らかとする。なお、本発明は以下の各具体例により何等制限されないのはいうまでもない。
【0012】図1に示すように、縦型の加熱炉を用い、垂直ブリッジマン法により四硼酸リチウム単結晶1(融点:917℃)を育成した。図1において、2は四硼酸リチウム単結晶よりなる種結晶、3は四硼酸リチウムの原料融液、4は育成容器、5は育成容器4及び種結晶2を支持する育成容器支持台、6はヒーター、7は炉心管、8は育成容器支持台5をヒーター6に対して相対移動させる駆動系装置、Aは固液界面、Bは育成開始位置である。育成容器4には、グラファイトるつぼまたはグラファイトるつぼにグラッシーカーボンをコーティングしたものを用いた。
【0013】まず、育成容器4内に十分に乾燥させた硼酸リチウム原料を入れ、それを支持台5上に設置し、ヒーター6に給電して炉心管7を加熱することにより、硼酸リチウム原料を融解した。使用する硼酸リチウム原料は、育成結晶中に気泡が混入するのをできるだけ抑えるために、高純度でかつ含有水分の濃度の低いものが好ましい。得られた原料融液3に種結晶2を接触させた後、駆動系装置8を作動させて支持台5及び育成容器4を図1R>1に矢印で示すように、例えば垂直方向下向きに移動させ、結晶育成を開始した。なお、育成容器4の移動方向を垂直方向上向きとしてもよいし、育成容器4の位置を固定してヒーター6を移動させてもよい。
【0014】ここで、育成結晶の直径は3インチ、結晶育成速度は毎時0.3mm、結晶育成方向すなわち固液界面Aから原料融液3の上面に向かう方向の温度勾配は16℃/cmであった。また、結晶育成中の原料融液3の最高温度を、970℃、975℃、985℃、1005℃、1010℃及び1025℃とした。なお、結晶育成中、原料融液3の温度は四硼酸リチウム原料の融点以上の温度であるのはいうまでもない。
【0015】原料融液3が全部固化して結晶育成が終了した後、得られた単結晶1を冷却し、育成容器4から取り出した。その際の単結晶1と育成容器4との固着の有無やクラック発生の有無等について調べた結果を表1に示す。
【0016】
【表1】


【0017】表1において、○印は全く固着しておらずクラック発生のないもの、●印は殆ど固着しておらずクラック発生のないもの、×印はクラックが発生したものまたは固着していたものである。
【0018】本発明を適用して得られた各試料No.1〜4及びNo.6〜7の各結晶は、表1に○印または●印で示すように、何れも単結晶1と育成容器4との固着は全く或は殆どなく、クラックのない結晶品質の良好な四硼酸リチウム単結晶であった。それに対して、グラファイト製の育成容器4を用い、原料融液3の最高温度を1010℃として得られた試料No.5の結晶には、表1に×印で示すように、クラックが発生していた。また、グラッシーカーボンをコーティングした育成容器4を用い、原料融液3の最高温度を1010℃及び1025℃として得られた2つの試料No.5,6の各結晶は、表1に×印で示すように、育成容器4との固着がひどく、容器4を割らなければ取り出すことができなかった。
【0019】以上具体例を挙げて説明したように、本発明を適用して結晶育成を行うことにより、育成容器4と固着せずにクラックのない良質の硼酸リチウム単結晶を再現性良く得ることができる。また、育成容器4にグラファイトやグラッシーカーボンをコーティングしたものを用いているため、原料融液3中の水分が、カーボンとの反応により一酸化炭素や二酸化炭素等になって放散することにより原料融液3中から効率良く除去されるという効果も得られる。
【0020】なお、上記実施例では四硼酸リチウム(Li2 4 7 )の単結晶を育成した例を挙げたが、本発明はそれに限らず他の組成の硼酸リチウム、例えばLiB35 やLiB3 2 の育成にも適用できるのはいうまでもない。
【0021】また、上記実施例では垂直ブリッジマン法を採用したが、本発明はそれに限らず、ヒーターを横方向に並べた横型加熱炉を用いた水平ブリッジマン法、ヒーターの出力を調整して種結晶から離れるにしたがって原料融液の温度が高くなるような温度勾配を設けながら徐々に冷却して種結晶との接触部位から原料融液を垂直方向或は水平方向に固化させる垂直グラジェントフリージング法や水平グラジェントフリージング法にも適用できる。
【0022】
【発明の効果】本発明に係る硼酸リチウム単結晶の育成方法によれば、グラファイトなどの六角平面格子を基本結晶構造とするカーボン、またはセルローズカーボン、グラッシーカーボンもしくはビトロカーボン等のガラス状硬質炭素などからなるカーボン製の育成容器を用いて、種結晶または育成結晶と原料融液との固液界面の温度よりも原料融液の温度の方が高く、かつ原料融液の最高温度が1005℃以下、好ましくは985℃以下となるような温度勾配を設けながら結晶成長を行うようにしたため、得られた結晶と育成容器との固着を再現性良く防止でき、歩留り良くクラックのない良質の硼酸リチウム単結晶を育成することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例において使用した縦型加熱炉の概略縦断面図である。
【符号の説明】
1 単結晶
2 種結晶
3 原料融液
4 育成容器
5 育成容器支持台
6 ヒーター
7 炉心管
8 駆動系装置
A 固液界面
B 育成開始位置

【特許請求の範囲】
【請求項1】 カーボン製の育成容器内に硼酸リチウム原料を入れ、該育成容器を加熱炉内に設置し、該加熱炉のヒーターにより前記硼酸リチウム原料を加熱融解し、その融解した硼酸リチウム原料融液に種結晶を接触させ、前記ヒーターの出力調整または前記ヒーターに対する前記育成容器の相対移動により、前記種結晶または育成結晶と前記原料融液との固液界面の温度よりも原料融液の温度の方が高く、かつ原料融液の最高温度が1005℃以下となるような温度勾配を設けながら徐々に冷却することによって、前記原料融液を前記種結晶との固液界面から徐々に固化させて硼酸リチウム単結晶を成長させることを特徴とする硼酸リチウム単結晶の育成方法。
【請求項2】 好ましくは、前記原料融液の最高温度は985℃以下であることを特徴とする請求項1記載の硼酸リチウム単結晶の育成方法。
【請求項3】 前記カーボンは、グラファイトなどの六角平面格子を基本結晶構造とするカーボン、またはセルローズカーボン、グラッシーカーボンもしくはビトロカーボンなどのガラス状硬質炭素であることを特徴とする請求項1記載の硼酸リチウム単結晶の育成方法。
【請求項4】 縦型の前記加熱炉を用い、該加熱炉のヒーターに対して前記育成容器を上下方向に相対移動させる垂直ブリッジマン法により結晶の育成を行うことを特徴とする請求項1、2または3記載の硼酸リチウム単結晶の育成方法。
【請求項5】 四硼酸リチウム単結晶を育成することを特徴とする請求項1、2、3または4記載の硼酸リチウム単結晶の育成方法。

【図1】
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