説明

磁器製品の製造方法

【課題】磁器製品を、金型を使用して、1MPa以下の圧力で容易に、安定して成形できる新規な方法を提供する。
【解決手段】アルミナ又は窒化アルミの粉末と40℃〜110℃の融点を有するワックス類を80.0:20.0〜89.5:10.5の重量比率で加熱混合し、スラリー化したものを、1MPa以下の圧入圧力で金型内に圧入し、冷却固化して成形した成形体を、焼成して、均一で、精度ある磁器製品とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1MPa以下の圧力で、容易に効率よく成形可能な、磁器製品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
磁器の製造方法については、その代表的な方法として、乾式成形と云われる造粒粉体を用いた金型による加圧成形、磁器原料を例えば水を使って坏土としたものを回転円盤上で手と治具などを併用して成形するロクロ成形、この坏土を口金を通して押出して成形する押出成形、泥漿を石膏型に流し込み着肉後に排泥あるいはそのまま固化させて成形する鋳込成形、磁器原料に助剤として樹脂を添加して可塑性を持たせて金型内に射出して成形する射出成形やプレス成形などがある。
【0003】
金型を使用した射出成形やプレス成形は、小型のもので表面に凹凸上のある複雑で精密な磁器製品を得るための最適な方法として、広く使用されているが、このような方法では、例えば特許文献1の[0031]に記載されるように、その成形には750〜1500kg/cm(75〜150MPa)という大きな圧力を必要とし、そのため、金型製作費や成形設備関連費用などに多額な費用を要するものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−119338号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、このような従来の磁器の製造方法の欠点を解消し、アルミナや窒化アルミからなる磁器製品を、金型を使用し、1MPa以下の圧力で容易に、安定して成形できる新規な方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明では、アルミナ又は窒化アルミの粉末を磁器原料とし、これに特定の範囲で、40℃〜110℃の融点を有するワックス類を助剤として加熱混合したものを金型内に圧入することにより、上記課題を解決した。
【0007】
アルミナ又は窒化アルミの粉末に対するワックス類の混合割合は、80.0:20.0〜89.5:10.5の重量比率とするのがよく、その結果、使用したワックス類の融点近辺でこれらを加熱混合して、スラリー状としたものは、1MPa以下、0.2〜0.8MPaというような圧力で、容易に、均一に、金型に圧入でき、品質のよい成形体の製造が可能となる。
【0008】
前述のような割合で、アルミナ又は窒化アルミの粉末とワックス類を含む磁器材料混合物を加熱してスラリー状としたものを、金型内に圧入後、冷却固化して、成形体として取り出し、焼成して、磁器製品に仕上げられるのである。
【0009】
本発明で使用するワックス類は、融点が40℃〜110℃であるものであればよく、石油ワックス、植物性ワックス、動物性ワックス、鉱物性ワックス、合成ワックスのいずれであってもよい。例えばパラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、カルナバワックス、みつろう、モンタンワックス、キャンデリラワックス、ライスワックス、ラノリン、鯨ロウ、オゾケライト、セレシン、ぺトロラタム、セラックロウ、ポリエチレンワックス等がいずれも使用でき、特に、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、カルナバワックス、みつろう、モンタンワックスの使用が好ましい。
【0010】
なお、本発明では磁器材料混合物に分散剤を添加して、該混合物が均質なものとなるようにするのが好ましく、この分散剤としては、可塑剤としても機能するものを使用するのがよい。例えば、オレイン酸、グリセリン、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジブチルフタレート等を使用することができる。かかる分散剤の添加量は、磁器材料混合物に対して、1重量%以下、0.1〜0.6重量%程度で十分である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の方法では、例えば直径30mm、高さ30mmという小型の磁器製品であっても、直径100mm、高さ100mmという大型の磁器製品であっても、多大な圧力を要することなく、容易に、安定して、精度よく、金型成形することができるものであり、金型製作費や成形設備関連費用などに多額な費用を要することなく、工業的かつ経済的に、多種多様の磁器の安定した製造を可能とする。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明で使用する成形機の一例を示す概略図である。
【図2】実施例で製造した成形体(高さ62mm、開口部の外径50mm)の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明では、図1に示すような成形機で、磁器原料スラリーの成形が安定して容易に可能となる。この成形機は、真空ポンプ1とコンプレッサー2および圧力計3を備えた混合槽4に磁器材料混合物5を投入し、ヒーター10で加熱された撹拌機6で撹拌混合し、スラリー化し、このスラリーを金型7に送り、成形体8を得るものである。混合槽4と該混合槽4から金型7に伸びる混合物の輸送管9は、共にヒーター10で加熱され、磁器材料混合物5は、均一なスラリー状として、加熱した状態で、金型7に送れるようになっている。
【0014】
この成形機の使用例を示すと次の通りである。
1)混合槽4に磁器材料混合物5を投入し
2)これらを、予め65−70℃に温められた混合槽4の中で、加熱しながら、撹拌機6で十分撹拌混合し、均一な磁器原料スラリーとし、
3)次いで、真空ポンプを作動させ磁器原料スラリー中の気泡を脱泡し、その後
4)金型7をセットして、コンプレッサー2を作動させ、圧力計3を読み取り、ヒーター10をセットした輸送管9の中に磁器原料スラリーを通して、金型7内に圧入する
5)圧入を完了し、成形を終えると、この金型7を外し、型内の成形物を取り出す。
ワックスは加熱により軟化し、磁器材料混合物5は均一なスラリーとなるので、混合槽4及び輸送管9の加熱は、使用したワックス類の融点の±20℃程度の温度でよく、また、金型内への圧入は、0.2〜0.8MPa程度の加圧で容易に均一に実施可能である。
【0015】
次に、実施例により、本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれにより限定されるものではない。
<実施例1〜12>
表1に示すような割合(表の数値は重量部を示す)で、平均粒径2.5μmのアルミナ粉末と助剤を80〜100℃で加熱混合し、脱泡した後、得られた混合物の温度を約65〜70℃に調整して、圧入圧力0.2〜0.8MPaで金型内に圧入、冷却固化して成形した。
その後、得られた成形体を脱脂(約800℃)した後、本焼成(1500〜1600℃)して、図2に示すようなE11、LEDランプ用ソケット形状の磁器を製造した。
実施例1〜12のいずれにおいても、安定して、品質のよい磁器製品を得ることができた。
【0016】
【表1】

【0017】
<比較例1〜24>
表2及び3に示すような割合(表の数値は重量部を示す)で、アルミナ粉末と助剤を使用して、実施例1と同様の方法を実施した。その結果は、下記の通りで、実用性ある成形体を製造できなかった。
比較例1・・混和物に流動性がなく、金型内に圧入することができなかった。
比較例2・・圧入に必要な粘性がなく、成形することができなかった。
比較例3・・圧入に必要な粘性がなく、成形することができなかった。
比較例4・・混和物に流動性がなく、金型内に圧入することができなかった。
比較例5・・圧入に必要な粘性がなく、成形することができなかった。
比較例6・・混和物に流動性がなく、金型内に圧入することができなかった。
比較例7・・圧入に必要な粘性がなく、成形することができなかった。
比較例8・・圧入に必要な粘性がなく、成形することができなかった。
比較例9・・混和物に流動性がなく、金型内に圧入することができなかった。
比較例10・混和物とすることができず、成形することができなかった。
比較例11・混和物に流動性がなく、金型内に圧入することができなかった。
比較例12・混和物に流動性がなく、金型内に圧入することができなかった。
比較例13・混和物が柔らかで、成形体に気泡が入り、成形不良となった。
比較例14・成形体にバリが多発して成形不良となった。
比較例15・混和物に粘りがあり、成形体が金型にくっついて剥がれなかった。
比較例16・成形体が脆く、歩留まりが悪かった。
比較例17・混和物に粘りがあり、成形体が金型にくっついて剥がれなかった。
比較例18・混和物に粘りがあり、成形体が金型にくっついて剥がれなかった。
比較例19・混和物の粘りが強く、金型の細かい部分に原料が行き届かなかった。
比較例20・混和物に粘りがあり、成形体が金型にくっついて剥がれなかった。
比較例21・混和物の粘性が低く、さらさら状態で、成形体が脆かった。
比較例22・混和物に粘りがあり、成形体が金型にくっついて剥がれなかった。
比較例23・混和物の粘りが強く、金型の細かい部分に原料が行き届かなかった。
比較例24・混和物に粘りがあり、成形体が金型にくっついて剥がれなかった。
【0018】
【表2】

【0019】
【表3】

【符号の説明】
【0020】
1 真空ポンプ
2 コンプレッサー
3 圧力計
4 混合槽
5 磁器材料混合物
6 撹拌機
7 金型
8 成形体
9 輸送管
10 ヒーター

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミナ又は窒化アルミの粉末と40℃〜110℃の融点を有するワックス類を80.0:20.0〜89.5:10.5の重量比率で加熱混合し、スラリー化したものを、1MPa以下の圧入圧力で金型内に圧入し、冷却固化して成形した成形体を、焼成することを特徴とする磁器製品の製造方法。
【請求項2】
前記圧入圧力が0.2〜0.8MPaである請求項1の方法。
【請求項3】
前記加熱混合をする温度が使用したワックス類の融点の±20℃である請求項1又は2の方法。
【請求項4】
前記ワックス類が、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、みつろう、カルナバワックス、モンタンワックスからなる群から選ばれる少なくとも一種である請求項1〜3のいずれか1項の方法。
【請求項5】
前記混合時に分散剤が前記アルミナ又は窒化アルミの粉末に対して0.1〜0.6重量%の割合で添加される請求項1〜4いずれか1項の方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−162389(P2011−162389A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−26412(P2010−26412)
【出願日】平成22年2月9日(2010.2.9)
【出願人】(000196336)西村陶業株式会社 (4)
【Fターム(参考)】