説明

磁性を保有するサイアロン及びその製造方法

【課題】高強度、高靭性を保有して構造材料としての特性に優れたサイアロンを電磁気材料として、磁気的特性を保有する電磁気材料の機械構造的特性を一層向上させたサイアロン及びその製造方法を提供する。
【解決手段】磁性を保有するサイアロンの製造方法であって、窒化珪素、窒化アルミニウム、アルミナ及び希土類酸化物を混合する段階;及び前記混合物を窒素雰囲気で焼結する段階;を含み、サイアロンが0.15〜0.24emu/gの飽和磁化値の範囲を表すようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は磁性を保有するサイアロン及びその製造方法に係り、より詳しくは窒化珪素、窒化アルミニウム、アルミナ及び希土類酸化物を混合する段階;及び前記混合物を窒素雰囲気で焼結する段階;を含んでなり、0.15〜0.24emu/gの飽和磁化値の範囲を表すようにする、磁性を保有するサイアロンの製造方法に関するもので、前記混合物には鉄(Fe)をさらに混合して鉄珪化物を生成させることで、サイアロンの磁性特性を一層増進させることができる。
【背景技術】
【0002】
サイアロン(SiAlON)は窒化珪素の“セラミック合金”であり、α’相とβ’相の2種の結晶構造として存在し、α−窒化珪素とβ−窒化珪素に基づく窒化珪素四面体のネットワークにおいて、珪素原子の一部をアルミニウム原子に取り替え、窒素原子の一部を酸素原子に取り替えることで生成される。
【0003】
このようなサイアロンは、伝統的に硬度が高く、耐磨耗性が優秀であり、高温強度または耐酸化性に優れるから、関連分野で幅広く応用されており、主に鉄及び非鉄金属の押出しダイス、熔接ノズル、自動車エンジン部品などの高温構造部材に活用されている。
【0004】
このようなサイアロンが最近構造材料としてだけでなく、白色LEDとして応用するための蛍光材料にその使用範囲が拡張されている。これについては、特許文献1及び2などに開示されている。すなわち、既存にサイアロンの特性として糾明された優れた機械的物性にかたよって、関連分野への応用と技術開発に集中する傾向があったが、最近には予想しなかった新分野への関心が増加しているのが現実である。
【0005】
よって、本出願人はサイアロンの伝統的な構造材料としての物性に加え、電磁気材料としての可能性を念頭に置き、その実用化のために技術開発を図り、特にサイアロンが磁気的特性(magnetic property)を持っているという事実に着眼してこれに対して研究を重ねた結果、本発明に至ることになった。
【0006】
現在、このような機能性サイアロン、特にサイアロンに他の元素でドープして磁気的特性を具現することにより、磁気材料に応用する研究に関してはこれまで全く報告されていない実情である。
【特許文献1】大韓民国特許出願第2007−7000982号明細書
【特許文献2】大韓民国特許出願第2007−0026854号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は前述したようなサイアロンの新技術領域を開拓するためになされたもので、本発明は、高強度、高靭性を保有して構造材料としての特性に優れたものとして評価されているサイアロンを電磁気材料としても使用して、磁気的特性を保有する電磁気材料において、劣悪であったか、あるいは関心外にあった機械構造的特性を一層向上させることができる可能性を提示することをその目的とする。
【0008】
また、本発明は、サイアロンに希土類元素のみならず、鉄、コバルトなどの金属またはその金属酸化物をさらに添加することで磁気的特性を向上させた結果、電磁気材料としてのサイアロンの応用領域をさらに拡張させることを他の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、前述したような目的を達成するために、窒化珪素、窒化アルミニウム、アルミナ及び希土類酸化物を混合して混合物を得ること;及び前記混合物を窒素雰囲気で焼結すること;を含み、サイアロンが0.15〜0.24emu/gの飽和磁化値の範囲を表すようにする、磁性を保有するサイアロンの製造方法を提供する。
【0010】
前記製造方法において、前記焼結を、温度を1700〜1900℃の範囲として、ガス圧焼結により行うことが好ましい。
【0011】
前記製造方法は、前記混合物に鉄(Fe)酸化物をさらに混合し、前記鉄の投入量に比例してサイアロンの飽和磁化値が増加することが好ましい。
【0012】
鉄を含む前記混合物の焼結を、温度を1500〜1700℃の範囲として、ガス圧焼結により行うことが好ましい。
【0013】
前記鉄(Fe)酸化物が混合された混合物を焼結して鉄珪化物を生成し、前記鉄珪化物が磁性特性を表すことが好ましい。
【0014】
前記鉄(Fe)酸化物が混合された混合物を焼結して生成される鉄珪化物はFeSiまたはFeSiであることが好ましい。
【0015】
前記希土類酸化物は、イットリウム(Y)、イッテルビウム(Yb)、サマリウム(Sm)、ガドリニウム(Gd)及びエルビウム(Er)酸化物のなかで選択される少なくとも1種であり、混合物全体重量に対して10〜20重量%で混合することが好ましい。
【0016】
また、本発明は、前記目的を達成するために、サイアロンに希土類酸化物または希土類元素が添加されて、0.15〜0.24emu/gの飽和磁化値の範囲を表す、磁性を保有するサイアロンを提供する。
【0017】
また、本発明は、前記目的を達成するために、サイアロンに希土類酸化物または希土類元素と、鉄(Fe)または鉄(Fe)酸化物を添加することにより、鉄または鉄酸化物の添加量によって飽和磁化値が増加する、磁性を保有するサイアロンを提供する。
【発明の効果】
【0018】
本発明によって、サイアロンを伝統的な構造材料としてだけでなく、電磁気材料として使用することができるように、モチーブを提供することができる効果がある。
【0019】
また、本発明は、サイアロンに希土類元素のみならず鉄、コバルトなどの金属またはその金属酸化物をさらに添加することで磁気的特性を向上させた結果、電磁気材料としてのサイアロンの応用領域を一層拡張することができる効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、添付図面及び実施例に基づいて、本発明について具体的に説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、種々の変更が可能である。
【0021】
以下の実施例は、色々の組成の希土類元素でドープされたサイアロン(rare earth doped sialon)の磁気的挙動に関するものである。特に、実施例は、イットリウム(Y)、イッテルビウム(Yb)、サマリウム(Sm)、ガドリニウム(Gd)、エルビウム(Er)、鉄(Fe)及びコバルト(Co)でドープされて、ガス圧焼結されたサイアロンに関する。ここで、ガス圧焼結は焼結方法の一例に過ぎず、ガス圧焼結以外の焼結方法を使用してもよいことは、明らかである。
【0022】
このように製造された最終産物としてのサイアロンにおいて、α相(α−サイアロン)並びにβ相(β−サイアロン)の組成及び比率は、X−線回折(XRD)と走査電子顕微鏡(SEM)などの各種の分析器機によって明確に確認することができた。
【0023】
実施例によるサイアロンサンプルの磁気ヒステリシス曲線(magnetic hysteresis loop)データは、常温で振動型試料磁力計(vibrating sample magnetometer)を利用して測定することによって得ることができた。その結果、ドープされたサイアロン、特にα−サイアロンの磁気ヒステリシスは予想した程度よりも明らかな程度で現れることが分かった。一般のフェライト(ferrite)の場合に比べ、ドープされたサイアロンの磁気ヒステリシス曲線に相応する媒介変数が大きくはなかったが、サイアロンが優れた構造的物性を持っているので、これに加えて磁気的特性まで保有したサイアロンは電磁気的材料として新しい応用領域への拡張可能性が高いと言える。
【0024】
また、ドープされたβ−サイアロンの場合においても、α−サイアロンに似ている磁気ヒステリシス挙動を表した。同時に、本発明によるサイアロンの磁気的特性を改善するために、鉄(Fe)、コバルト(Co)をサイアロンに導入した。鉄を含有するサイアロンの場合、磁気的特性が明らかに増進することが分かった。
【0025】
サイアロンは、高温での優れた機械的特性、化学的安全性及び高耐磨耗性が必要な工学的分野で善導的な材料として評価を受けている。β−窒化珪素の固溶体として珪素原子(Si)の一部と窒素原子(N)の一部がアルミニウム原子(Al)及び酸素原子(O)にそれぞれ取り替えられた物質をβ−サイアロン(β’)といい、化学式はSi6−zAl8−zで表現することができる。ここで、zはアルミニウム(Al)を切り替えることができる量的概念のために導入したもので、その値は0<z<4.2の範囲を有する。α−窒化珪素はβ−窒化珪素より制限された固溶体を生成し、これをα−サイアロン(a’)という。α−サイアロンはβ−サイアロンに似ている置換形態を成すが、α‐サイアロンの安定性をより高めるために、金属陽イオン(M=カルシウムなど)がα‐サイアロンに添加される。これらの陽イオンは、α−窒化珪素単位セルの2つの巨大侵入型格子空間(gigantic interstitial lattice spaces)に部分的に位置する。このような金属陽イオンは、空隙容量(interstitial volume)を占めることができるほどの大きさを持たなければならなく、およそ1Å以下の半径を有さなければならない。
【0026】
α−サイアロンは、一般的にMv+m/vSi12−(m+n)Alm+n16−nのような化学式で表現される。ここで、vは金属陽イオンMの原子価である。
【0027】
本発明によるα−サイアロン及びβ−サイアロンは転移液状焼結過程によって緻密化し、オキシニトリド(oxynitride)液状の形成のための基礎物質であって、金属酸化物を添加剤として使用する。サイアルロンは構造材料としての優れた特性を持っているので、磁気的特性を保有するサイアロンは材料工学的応用において大きな意味がある。
【0028】
サイアロンの磁気的挙動を観察するために、各種の希土類元素でドープされたサイアロンサンプルを永久磁石に反応させた結果、一定程度の磁気特性を観察することができた。よって、本実施例では、多様なドーパント(dopant)、つまりイットリウム(Y)、イッテルビウム(Yb)、サマリウム(Sm)、ガドリニウム(Gd)、エルビウム(Er)、鉄(Fe)及びコバルト(Co)でドープされた一連のサイアロンの製造可能性と、このためのドープされたサイアロンの磁気挙動を考察する。このように、サイアロンの磁気的挙動に関する研究を進めることで、基地物質でのドーパントの役目に関連する有用な情報を得ることができ、それによる磁気的相互作用の特性を把握することができる。
【0029】
<実験例>
本発明によるサイアロンを製造するための出発物質はα−窒化珪素(UBE grade SN E10)、窒化アルミニウム(AlN、Starck HC、Grade B)、アルミナ(Sumitomo、AKP−30)、希土類酸化物(99.9%純度、Sigma−Aldrich Korea)及び鉄(III)、コバルト(II、III)酸化物(99.9%純度、Sigma−Aldrich Korea)とした。ここで、希土類酸化物と鉄及びコバルトの酸化物はそれぞれ、酸化物ではない単体の状態でも使用可能である。
【0030】
多様な組成(前述したα−サイアロンの化学式において、m=1.5、n=1.5 & m=2、n=2)で用意された出発物質の適正量を、エチルアルコールを媒質とし、窒化珪素ボールを利用して回転ジャーで混合した。前記のような組成は出発混合粉末の全体重量対希土類酸化物の原子量によるドーパント(dopant)の重量比である10〜20重量%に相応するものである。サイアロンにおいて、多量の希土類陽イオンを投入するために、適正なm値とこれに相応するn値を選択した。
【0031】
出発物質の重量は30gとし、約60時間混合して、湿式粉末を得た。混合した後、湿式粉末は38μm大きさの篩によって篩い分けし、乾燥させて乾燥粉末を得た。
【0032】
次に、乾燥粉末を200MPaで静水圧成形して、16mmの直径及び3.5mmの厚さを有するディスク型のペレットと、6mmの直径と5mmの高さを有するシリンダー型のペレットと、を製造した。ディスク型ペレットは分析用として、シリンダー型ペレットは磁気的特性を把握するためにそれぞれ製造したものである。
【0033】
その後、希土類陽イオンを含むこれらのペレットを0.9MPaの窒素ガス圧で1800℃、3時間加圧焼結して、ディスクサンプルを得た。ここで、焼結温度は1700〜1900℃の範囲内で調節可能である。また、鉄(III)とコバルト(II&III)酸化物を1600℃で前記と同様な条件で焼結した。焼結温度を低く設定したのは、鉄とコバルトの多様な酸化物/珪化物の融点が1600℃程度であるからである。ここで、前記焼結温度は1500℃〜1700℃の範囲内で調節可能である。昇温速度はすべての場合において10℃/分にした。
【0034】
このように焼結されたそれぞれのディスクサンプルを、Cu−K αをターゲットとしてX線(Rigaku D/Max 2200、日本)分析した。
【0035】
一方、走査電子顕微鏡(SEM)を利用して、焼結されたディスクサンプルの微細構造を観察するために、前記サンプルをダイヤモンドペーストで研磨した。その後、研磨されたサンプルを金(Au)でコートし、EDS(Energy Dispersive X−ray:エネルギー分散型X線分光)分析機の装着された走査電子顕微鏡を利用してその微細構造を観察した。
【0036】
また、サンプルの密度はアルキメデス原理を利用して決定した。
【0037】
また、ドープされたサイアロンサンプルの磁気ヒステリシス曲線データを常温で振動型試料磁力計(vibrating sample magnetometer、7400 series、LakeShore)で収集した。本発明において、磁気的特性は、磁場、温度及びサンプルの振動数に関する関数として測定することができる。サンプルを検出コイルに位置させ、機械的振動を加えることにより発生する磁束の変化は検出コイルに電圧を誘導し、これはサンプルの磁気モーメントに比例する。
【0038】
焼結されたサイアロンサンプルは非常に高い密度を表した。密度値はドーパントの種類によって約3200kg/mの値を表した。稀土類元素でドープされたサイアロンのX線回折による分析結果を図1に現した。ここで、主結晶相はα’であることが確認され、走査電子顕微鏡による微細構造観察においても、前記のような分析結果を確認することができた。
【0039】
各種の希土類元素(イットリウム(Y)、イッテルビウム(Yb)、サマリウム(Sm)、ガドリニウム(Gd)またはエルビウム(Er)などから選択される少なくとも1種の元素)でドープしたサイアロンサンプルに対して、振動型試料磁力計(VSM)を利用して実験した結果、磁気ヒステリシス曲線が現れることが分かった。一方、ドープされたサイアロンの粉末サンプルに対し、その磁気ヒステリシス挙動を観察した結果、大きな変化を表すことはなかった。図2は、希土類元素でドープされたサイアロンの代表的な磁気ヒステリシス曲線を表したものである。このような磁気ヒステリシス曲線の代表的傾向は、互いに異なる組成を有する希土類陽イオンを含む他の種類のセラミックの場合に観察されている。ヒステリシス曲線に係わる材料の挙動は、材料が印加された磁場に露出したとき、軌道電子の反応に寄る。材料内の希土類原子またはイオンは、原子軌道を部分的に満たしている不対原子(unpaired electron)によって純粋な磁気モーメントを保有することができる。
【0040】
図2から、各種の希土類元素を含有するサイアロンの磁場に対する磁気モーメントの曲線の勾配変化が分かる。図示のように、各種の希土類元素を含有するサイアロンは互いに異なる磁化率(magnetic susceptibility)を有する。曲線の勾配から算定される磁化率の大きさは、希土類元素の磁化率の大きさと比較することができる。しかし、サイアロン構造内において、希土類原子は隣り合う原子と結合している事実を認知することは非常に重要である。イットリウムα−サイアロンは、互いに異なる離隔距離を維持しながら七つの(N、O)原子で取り囲まれたイットリウム3価陽イオン(Y3+)で構成され、これからイットリウムα−サイアロンの構造が定義できる。
【0041】
図2(a)にヒステリシス曲線を、(b)にヒステリシス曲線の中央部を、それぞれ示す。図示のように、飽和磁化値は0.16emu/gから0.24emu/gまで変化し、保磁力(coercive field)の大きさは400Gから900Gまで変化し、残留(remanence)磁化値は0.01〜0.02emu/gの範囲内にあった。希土類元素を含むβ−サイアロンもα−サイアロンの場合に似ている磁気ヒステリシス挙動を表す。
【0042】
ドープされたサイアロンサンプルのヒステリシス挙動は粉末状の希土類元素純粋酸化物サンプルと比較することもでき、このような純粋酸化物サンプルのヒステリシス挙動を図3に示した。図3に示すように、サイアロンサンプルとこれに相応する粉末状の希土類元素純粋酸化物サンプルとは、外部磁場に対して類似した反応を表し、小領域のヒステリシス曲線を示すことから、軟磁性物質(soft magnetic material)に当たると思われる。しかし、特定の希土類元素でドープされたサイアロンとこれに相応する純粋酸化物サンプルとで曲線の傾きが互いに異なることは、磁化率の値が互いに異なるからである(図2及び図3参照)。これは、前述したように、希土類原子が酸化物内では酸素と結合し、サイアロン構造内ではサイアロン構造内の原子と結合するからである。
【0043】
希土類元素でドープされたサイアロンの磁気ヒステリシスに係わる値は、通常のフェライト(ferrite)の値より低い値を有する。これを確認するために、希土類元素でドープされたサイアロンを、ストロンチウム(Sr)を含むフェライトと比較して図4に示す。希土類元素でドープされたサイアロンのヒステリシス挙動が材料科学的意味として有意な現象を表してはいるが、実際に応用されるためには、より明らかな現象を現さなければならなく、よって、より大きな値が必要である。
【0044】
よって、本実施例においては、希土類元素でドープされたサイアロンの磁気的特性を向上させるために、希土類元素とともに鉄またはコバルトを、サイアロン構造に個別的な陽イオンとして、さらに添加した。希土類元素を含むサイアロン(例えばα−サイアロン)に鉄またはコバルトをさらに付け加える場合、2重ドーピングシステムが適用されたα−サイアロンを得ることができる。ここで、鉄3価陽イオン(Fe3+)とコバルト3価陽イオン(Co3+)のイオンの半径は、α−サイアロンの安定化剤の役目をする希土類イオンのイオン半径と対比することができる。しかし、鉄またはコバルトなどの金属陽イオンはα−サイアロン構造の効果的な安定化剤として作用しないので、多量を添加することはできない。したがって、本実施例においては、鉄(III)酸化物またはコバルト(II&III)酸化物を10重量%以内の範囲で多様に調整して単一希土類元素に付け加えることによって、サイアロンを合成した。この際、サイアロンの組成は、m=2、n=2の値に固定した。鉄を含有するドープされたサイアロンサンプルは磁場に強く反応することが分かった。
【0045】
図5は、鉄でドープされたサイアロンサンプルを永久磁石によって反応させた写真である。図示のように、前記サンプルは永久磁石に強く反応した。しかし、このような挙動はコバルトでドープされたサンプルでは現れなかった。
【0046】
希土類陽イオンとサイアロンの全体重量に対する10重量%の鉄とでドープされたサイアロンのヒステリシス挙動を、図6に示す。鉄コバルトのドーピング効果を比較するために、サイアロン全体重量に対する10重量%のコバルトでドープされたサイアロンサンプルのヒステリシス挙動も共に示した。しかし、図示のように、サイアロンの磁気的特性の増進のためのコバルトのドーピング効果は微々たるものであることが分かった。これは、コバルトの珪化物(CoSi)が、反磁性の半金属(diamagnetic semimetal)であるからと思われる。また、飽和磁化値(Ms)は、投入される鉄酸化物の量が増加するほど増加することが分かった。この飽和磁化値は、投入される鉄酸化物の量に比例して増加し得る。
【0047】
図7は鉄の含量変化による2重ドープされたサイアロンのヒステリシス挙動変化を表したものである。サイアロンサンプルにおける飽和磁化値の上昇変化は、磁性成分の量的増加に起因する。すなわち、飽和磁化、Ms値は、鉄酸化物の最大添加量(10重量%)を添加したときに、最大値に到逹した。10重量%の鉄でドープしたサイアロンの飽和磁化値は、およそ10emu/gとして表れた。また、これに相応する保磁力(coercive field)は約8000Gであった。
【0048】
図8に、EDS分析を用いたSEMによって観察した、鉄でドープされたサイアロンの微細構造写真及びX線回折の結果を示す。ここで、珪化物の形態として存在する鉄元素は数μmの平均粒径を有する球状粒子であることが分かる。
【0049】
図9に、後方散乱電子方式(back scattered electron mode、BSE)を用いたSEMによって観察された、イオンドープされたサイアロンの微細構造を示す。図示のように、β−サイアロンは針状粒を成しており、希土類が固溶されずに相対的に黒い色を帯びていることが観察され、希土類の固溶によって安定化したα−サイアロン基地は、β−サイアロンに比べ、相対的に明るい色を表しており、鉄珪化物は白色に近い色を表しているので、互いに異なる相の区分が明確であった。これは、BSEイメージが原子番号の差に起因するコントラストを反映するからである。
【0050】
粒子のEDS分析の結果、前記鉄珪化物粒子はFeSiであることが確認された。一部の珪化物粒子はFeSi成分を含有することもあった。鉄(Fe)はα’粒子では観察されなかったし、希土類元素が含有されていることは正確に分かった。このように製造されたサイアロンのX線分析結果を、図10に示す。ここで、FeSi及びFeSiだけでなくα’相とβ’相も明確に観察された。サイアロンにおける鉄珪化物粒子は、飽和磁化値の向上に主導的に寄与し、このような観点で見るとき、希土類陽イオンの寄与度は相対的に低いと言える。鉄−珪素システムにおいては五つの鉄珪化物相が存在し、これはFeSi、FeSi、FeSi、FeSi及びFeSiと知られており、FeSiとFeSiは磁性を帯びるものと知られている。鉄/珪素(Fe/Si)の原子数比のような因子と不純物は鉄珪化物の磁気的挙動に影響を及ぼす。
【0051】
図6から分かるように、鉄でドープされたサンプルの場合、飽和磁化値が高い一方、保磁力と残留(remanence)磁化値だけでなくヒステリシス曲線領域が相対的に狭く現れると言える。これは軟磁性物質に相応する物性を表すからであり、よってヒステリシス損失量は相対的に少ないと言える。
【0052】
このような特性を有するサイアロンは、高速電波トランスコア(high speed transmission transformer core)、電磁気コア(electromagnet core)などに応用可能であると言える。また、鉄珪化物を含むサンプルは、高密度、高強度で特徴付けられ、これはサイアロン−鉄珪化物(sialon−iron silicide)複合体が高い機械的強度を有するという報告から確認できる。その結果、鉄でドープされたサイアロンは、磁気的特性と優れた耐久性を同時に有する優れた材料として評価されるものである。また、陽の電場が印加され、以後にこれを解除しても残留する磁化量は非常に微量になる。これは、磁気のモーメントが印加された磁場によって非常に近接して行くからである。よって、印加磁場がサイン曲線に従って変化したら、入力パターンと類似した出力パターンが歪みなしに生成される。これは信号変換の際に非常に有用に使用可能にする特性である。
【0053】
磁気的性質は、材料の微細構造によって大きく影響を受ける。よって、保磁力と残留磁気値も微細構造に影響を受けると言える。磁壁動き(domain wall motion)に影響を与えることができる、微細構造的に可能な媒介変数は、鉄珪化物粒子の形態及び分布(morphology & distribution)、粒界(grain boundary)の存在、鉄粒子とサイアロン結晶間の熱膨張係数(thermal expansion coefficient)の差によって発生する残留応力などがある。前記媒介変数が磁壁動きを遮断すれば、高保磁力が発生する。これは、磁性を有するサイアロンの応用分野が拡張可能であることを見せる現象と言える。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明は、高強度、高靭性を有するサイアロンを電磁気材料として使用して、機械構造的特性を一層向上させ、サイアロンに、希土類元素の外に、鉄、コバルトなどの金属またはその金属酸化物を添加して磁気的特性を向上させた結果、電磁気材料としてのサイアロンの応用領域をさらに拡張させて、高速電波トランスコア、電磁気コアなどの電磁気材料分野に応用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明の一実施例によるイッテルビウム(Yb)/α−サイアロンのX線分析結果を示すグラフである。
【図2】(a)は、本発明の一実施例によって、希土類元素でドープされたサイアロンの磁気ヒステリシス曲線グラフであり、(b)は(a)のヒステリシス曲線の中央部を示すグラフである。
【図3】希土類サンプルの純粋酸化物粉末に対する磁気ヒステリシス曲線グラフである。
【図4】本発明の一実施例による、希土類元素でドープされたサイアロンの磁気ヒステリシス挙動を、ストロンチウム(Sr)を含有するフェライト(Sr11)の磁気ヒステリシス挙動と比較した図である。
【図5】本発明の一実施例による、鉄(Fe)を含有するサイアロンサンプルを永久磁石に反応させる写真である。
【図6】本発明の一実施例によって、各種の稀土類元素を含むサイアロンに10重量%の鉄(Fe)を添加したときの、ヒステリシス挙動を示すグラフである。
【図7】本発明の一実施例によって、鉄(Fe)の含量を変化させて2重ドープしたときの、サイアロンの磁気の臨界値の変化を示すグラフである。
【図8】(a)は本発明の一実施例によって製造されたサイアロンにおける、鉄珪化物の粒子の微細構造を示す写真であり、(b)及び(c)はX線回折結果である。
【図9】本発明の一実施例による、イッテルビウム(Yb)でドープされたサイアロンに10重量%の鉄(Fe)を添加したときの、その微細構造を示す写真である。
【図10】本発明の一実施例によるイッテルビウム(Yb)でドープされたサイアロンに10重量%の鉄(Fe)を添加したときの、X線回折による分析結果を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒化珪素、窒化アルミニウム、アルミナ及び希土類酸化物を混合して混合物を得ること;及び
前記混合物を窒素雰囲気で焼結すること;を含み、
サイアロンが0.15〜0.24emu/gの範囲の飽和磁化値を表すようにすることを特徴とする、
磁性を保有するサイアロンの製造方法。
【請求項2】
前記焼結を、温度を1700〜1900℃の範囲として、ガス圧焼結により行うことを特徴とする、
請求項1に記載の磁性を保有するサイアロンの製造方法。
【請求項3】
前記混合物に鉄(Fe)酸化物を添加し、
前記鉄の投入量に比例してサイアロンの飽和磁化値が増加することを特徴とする、
請求項1に記載の磁性を保有するサイアロンの製造方法。
【請求項4】
鉄を含む前記混合物の焼結を、温度を1500〜1700℃の範囲として、ガス圧焼結により行うことを特徴とする、
請求項3に記載の磁性を保有するサイアロンの製造方法。
【請求項5】
前記鉄(Fe)酸化物が混合された混合物を焼結して鉄珪化物を生成し、前記鉄珪化物が磁性特性を表すことを特徴とする、
請求項3に記載の磁性を保有するサイアロンの製造方法。
【請求項6】
前記鉄(Fe)酸化物が混合された混合物を焼結して生成される鉄珪化物は、FeSiまたはFeSiであることを特徴とする、
請求項5に記載の磁性を保有するサイアロンの製造方法。
【請求項7】
前記希土類酸化物は、イットリウム(Y)酸化物、イッテルビウム(Yb)酸化物、サマリウム(Sm)酸化物、ガドリニウム(Gd)酸化物、及びエルビウム(Er)酸化物からなる群より選択される少なくとも1種であり、
前記希土類酸化物を、前記混合物全体重量に対して10〜20重量%で混合することを特徴とする、
請求項1または3に記載の磁性を保有するサイアロンの製造方法。
【請求項8】
希土類酸化物または希土類元素が添加され、
飽和磁化値が0.15〜0.24emu/gの範囲であることを特徴とする、
磁性を保有するサイアロン。
【請求項9】
希土類酸化物または希土類元素、および鉄(Fe)または鉄(Fe)酸化物が添加され、
鉄または鉄酸化物の添加量の増加に応じて飽和磁化値が増加することを特徴とする、
磁性を保有するサイアロン。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2010−95415(P2010−95415A)
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−268930(P2008−268930)
【出願日】平成20年10月17日(2008.10.17)
【出願人】(508312452)コリア インスティチュート オブ マシナリー アンド マテリアルズ (4)
【Fターム(参考)】