説明

磁性シート並びにこれを用いたRFID及びリーダ装置

【課題】RFID又はそのリーダ装置に含まれるループコイルと電波妨害体との間に配置される磁性シートに用いる材料選択の幅を広げる。
【解決手段】本発明による磁性シートは、表面抵抗が10Ω/□以上、1012Ω/□未満であり、通信周波数帯における複素比透磁率の実部μ'が20以上、30未満であることを特徴とする。本発明によれば、磁性シートの表面抵抗が10Ω/□以上、1012Ω/□未満であることから、μ'が30未満であっても、20以上あれば良好な通信特性を得ることが可能となる。このため、磁性シートに用いる材料選択の幅を広げることが可能となる。つまり、μ'が20以上、30未満というありふれた材料を選択することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は磁性シートに関し、特に、RFID又はそのリーダ装置に含まれるループコイルと電波妨害体との間に配置される磁性シートに関する。また、本発明は、このような磁性シートを備えるRFID及びリーダ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、RFID(Radio Frequency IDentification)を用いた電子マネーや交通機関の乗車券などが普及している。RFIDは、ループコイルとこれに接続されたICによって構成されており、リーダ装置側のループコイルと誘導結合することによって、ICに対して電力と信号が供給される。このため、RFID自体が電源を持つ必要がなく、しかも、非接触の状態で通信を行うことができる。
【0003】
RFIDは、薄型のカードに内蔵されるほか、携帯電話機の筐体に貼り付けて使用されることがある。しかしながら、携帯電話機にはプリント基板が内蔵されていることから、これが電波妨害体となって誘導結合の妨げとなることがあった。これは、プリント基板には多くの金属パターンが形成されているため、リーダ装置側のループコイルから発せられた磁束によって金属パターンに渦電流が生じ、これが磁束を打ち消す方向に作用してしまうからである。その結果、ICを駆動させるだけの誘起電圧が得られず、通信距離が短くなるなどの問題が発生してしまう。
【0004】
このような問題を解決する方法として、ループコイルと金属パターンとの間に磁性シートを配置し、これによって金属パターンに達する磁束を軽減させる方法が知られている(特許文献1〜4参照)。磁性シートの材料としては、磁束を確保し、金属パターンの影響緩和を高めるために、通信周波数帯における複素比透磁率の実部μ'ができるだけ高いことが望ましいと考えられている。例えば、特許文献1〜3には、十分なシールド性を足るためには30以上のμ'が必要であると説明されている。
【特許文献1】特開2004−166176号公報
【特許文献2】特開2005−327939号公報
【特許文献3】特開2007−295558号公報
【特許文献4】特開2007−143132号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、磁性シートの材料としてμ'が30以上である材料に制限すると、材料選択の範囲が狭くなり、場合によっては材料コストが高くなるおそれが生じる。
【0006】
したがって、本発明は、磁性シートに用いる材料選択の幅を広げることを目的とする。
【0007】
また、本発明は、このような磁性シートを用いたRFID及びリーダ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、磁性シートの電磁特性と得られるQ値との関係について鋭意研究を行ったところ、ある範囲までは磁性シートの表面抵抗が大きくなるほど、ループコイルのQ値も大きくなることが分かった。その一方で、表面抵抗がある一定以上に大きくなると、Q値は十分な値が得られるが、μ'の低下が顕著となることも判明した。
【0009】
本発明は、このような技術的知見に基づきなされたものであり、本発明による磁性シートは、RFID又はそのリーダ装置に含まれるループコイルと電波妨害体との間に配置される磁性シートであって、表面抵抗が10Ω/□以上、1012Ω/□未満であり、通信周波数帯における複素比透磁率の実部μ'が20以上、30未満であることを特徴とする。
【0010】
また、本発明によるRFIDは、ループコイルと、ループコイルと電波妨害体との間に配置された磁性シートとを備えるRFIDであって、磁性シートは、表面抵抗が10Ω/□以上、1012Ω/□未満であり、通信周波数帯における複素比透磁率の実部μ'が20以上、30未満であることを特徴とする。
【0011】
さらに、本発明によるリーダ装置は、ループコイルと、ループコイルと電波妨害体との間に配置された磁性シートとを備えるRFID用のリーダ装置であって、磁性シートは、表面抵抗が10Ω/□以上、1012Ω/□未満であり、通信周波数帯における複素比透磁率の実部μ'が20以上、30未満であることを特徴とする。
【0012】
本発明においては、磁性シートの表面抵抗が10Ω/□以上、1012Ω/□未満であることから、μ'が30未満であっても、20以上あれば良好な通信特性を得ることが可能となる。つまり、表面抵抗が10Ω/□未満の材料を用いると、磁性材の絶縁性が不十分であり、コイルのQ値が低下するため、μ'が30以上の材料を選択する必要が生じ、材料選択の幅が狭くなってしまう。他方、表面抵抗が1012Ω/□以上の材料を用いると、μ'の低下が顕著となる。これに対し、表面抵抗が10Ω/□以上、1012Ω/□未満の材料を用いると、磁性材の導電性をほとんど無視できるため、十分なQ値を得ることが可能となり、μ'が30未満であっても、20以上あれば良好な通信特性を得られることから、磁性シートに用いる材料選択の幅を広げることが可能となる。ここで、Ω/□は、単位面積当たりの抵抗値を示す。
【0013】
本発明の磁性シートは、複素比透磁率の実部μ'と虚部μ"の比であるtanδが通信周波数帯において0.02以下であることが好ましい。これによれば、磁性シートを通る磁束の損失が小さくなることから、良好な通信特性を得ることが可能となる。
【0014】
本発明の磁性シートは、表面抵抗が10Ω/□以上、1010Ω/□未満であることが好ましい。これは、表面抵抗が高くなると、多くの材料は、表面抵抗が10Ω/□〜1010Ω/□の領域にてQ値が飽和するからである。
【発明の効果】
【0015】
このように、本発明によれば、磁性シートの材料として、μ'が20以上、30未満というありふれた材料を用いつつ、ループコイルのQ値を高めることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の好ましい実施の形態について詳細に説明する。
【0017】
図1は、RFIDシステムの構成を示す模式図である。
【0018】
図1に示すように、RFIDシステム10は、RFID20とリーダ装置30によって構成される。RFID20は、ループコイル21及びこれに接続されたIC22を備え、リーダ装置30は、ループコイル31及びこれに接続されたIC32を備える。
【0019】
リーダ装置30に含まれるIC32は、読み出し用の搬送波をループコイル31に周期的に流しており、その電磁誘導効果によってループコイル31には磁界が発生している。このため、RFID20をリーダ装置30に近づけると、RFID20に含まれるループコイル21には、上記磁界によって搬送波が流れる。
【0020】
RFID20のループコイル21に流れた搬送波は、RFID20のループコイル21に反磁界を発生させる。この磁界はリーダ装置30のループコイル31に反射波を流すので、結果的にリーダ装置30のループコイル31には、搬送波と反射波の重畳波が流れることになる。
【0021】
RFID20のIC22には、オンオフ可能な負荷切替スイッチ(図示せず)が含まれており、搬送波を受信したRFID20は、IC22に記憶されたデータに従って負荷切替スイッチのスィッチングを行う。これを負荷変調といい、スイッチングに伴って少なくともループコイル21のQ値が変化する。Q値が変化すると、それに伴って反射波の振幅や位相回転量(搬送波に対する位相回転の量)が変化する。この変化は重畳波にも反映されるので、リーダ装置30はこの重畳波の変化を検知することにより負荷切替スイッチのオンオフを検知し、それによってRFID20のIC22に記憶されたデータを読み出すことができる。
【0022】
図2はRFID20の構造を説明するための図であり、(a)は略平面図、(b)は(a)に示すA−A線に沿った略断面図である。尚、リーダ装置30についても、図2に示すRFID20と同様の構造を有しているため、重複する説明は省略する。
【0023】
図2に示すように、RFID20は、IC22が実装されたプリント基板101と、表面にループコイル21が形成されたアンテナ基板102と、ループコイル21とプリント基板101との間に配置された磁性シート103とを備えている。
【0024】
プリント基板101にはIC22が実装されているほか、図示しない多くの金属パターンが形成されている。このため、リーダ装置30側のループコイル31から発せられた磁束がプリント基板101に達すると、プリント基板101上の金属パターンに渦電流が生じ、これが磁束を打ち消す方向に作用する。このため、プリント基板101は、ループコイル21に対する電波妨害体となる。
【0025】
ループコイル21は、アンテナ基板102の表面に形成された平面的なスパイラル状のアンテナパターンである。アンテナ基板102は、プリント基板101とは異なる他の基板又は筐体(図示せず)によって支持されており、このため、プリント基板101とはある一定の距離をもって離間している。特に限定されるものではないが、アンテナ基板102の材料としてはガラスエポキシなどを用いることができる。
【0026】
次に、磁性シート103について説明する。
【0027】
磁性シート103は、プリント基板101へ向かおうとする磁束を集めることによって、プリント基板101に到達する磁束を軽減させる役割を果たす。このような効果を十分に発揮するためには、磁性シート103の材料として、通信周波数帯における複素比透磁率の実部μ'ができるだけ高いことが望ましい。μ'が高ければ、より多くの磁束が磁性シート103を通過することから、ループコイル21によってIC22を駆動させるのに十分な誘起電圧を得やすくなるからである。磁性シート103の具体的な材料としては、パーマロイ(Fe−Ni合金)、スーパーパーマロイ(Fe−Ni−Mo合金)、センダスト(Fe−Si−Al合金)、Fe−Si合金、Fe−Co合金、Fe−Cr合金、Fe−Si−Cr合金などを挙げることができる。
【0028】
一方で、磁性シート103のμ'を上げるためには、材料に含まれる金属粉末の密度を上げることが必要であり、結果的に磁性シートの表面抵抗が下がってしまう。この磁性シート103の表面抵抗は、ループコイル21のQ値に大きく影響する。具体的には、磁性シート103の表面抵抗が大きくなるほど、ループコイル21のQ値も大きくなる。これは、磁性シート103の表面抵抗が小さいと、磁性シート103自体に渦電流が生じ、これが磁束を打ち消す方向に作用するからである。その一方で、表面抵抗がある一定以上に大きくなると、Q値は変わらないが、μ'の低下により、プリント基板101上の金属パターンの影響を緩和する効果が不十分となる。
【0029】
この点を考慮して、本発明では、磁性シート103の表面抵抗を10Ω/□以上、1012Ω/□未満、好ましくは10Ω/□以上、1010Ω/□未満に設定し、通信周波数帯における複素比透磁率の実部μ'を20以上、30未満に設定している。特に限定されるものではないが、本実施形態における通信周波数帯は13.56MHzである。
【0030】
図3は、磁性シート103を構成する種々の材料についての表面抵抗Rとμ'との関係を示すグラフである。表面抵抗Rは(株)ダイアインスツルメンツ製ハイレスタUP MCP−HT450型によって測定した値であり、μ'は凌和電子(株)製PMF3000により測定した値である。図3に示すように、表面抵抗Rが大きくなるとμ'が低下する傾向が見られる。この傾向は、表面抵抗Rが大きくなるほど強くなり、表面抵抗Rが1012Ω/□以上となるとμ'の低下が顕著となる。
【0031】
図4は、磁性シート103を構成する種々の材料についての表面抵抗RとQ値との関係を示すグラフである。図4に示すように、表面抵抗Rが10Ω/□未満の領域では、表面抵抗Rが大きくなるにつれてQ値が大きくなる傾向が見られるが、10Ω/□以上、1010Ω/□未満の領域では、表面抵抗Rに対してQ値はほぼ飽和し、それ以上はほとんど高くならない。このような傾向が見られる理由は、1010Ω/□未満の領域では、表面抵抗Rを上昇させるために加える添加物などによるμ'の低下よりも、表面抵抗Rの上昇に伴う絶縁効果が支配的となるからであると考えられる。
【0032】
そして、1010Ω/□以上、1012Ω/□未満の領域では、表面抵抗Rに対してQ値はほぼ飽和する傾向が見られる。このような傾向が見られるのは、1010Ω/□以上の領域では、表面抵抗Rの上昇に伴う絶縁効果よりも、表面抵抗Rの上昇のために加える添加物などによるμ'の低下が支配的となるからであると考えられる。
【0033】
このような観点から、本発明では、磁性シート103の表面抵抗を10Ω/□以上、1012Ω/□未満、好ましくは10Ω/□以上、1010Ω/□未満に設定している。もちろん、μ'自体が非常に低ければ、磁性シート103としての役割を十分に果たすことができない。このため、磁性シート103のμ'は少なくとも20は必要であると考えられる。その一方、磁性シート103の表面抵抗を上記の範囲に設定すれば、磁性シート103のμ'がそれほど高い必要はなく、30未満であっても十分なQ値を得ることが可能である。すなわち、磁性シート103の材料として、μ'が20以上、30未満というありふれた材料を選択することが可能となる。
【0034】
図5は、磁性シート103を構成する種々の材料についての表面抵抗Rと、複素比透磁率の実部μ'と虚部μ"の比であるtanδとの関係を示すグラフである。μ"は凌和電子(株)製PMF3000により測定した値である。図5に示すように、tanδは表面抵抗Rにほとんど依存しない。このため、表面抵抗Rを任意の値に設定しても、tanδを十分に低い値に保つことが可能である。具体的には、通信周波数帯においてtanδが0.02以下であることが好ましい。
【0035】
磁性シート103の表面抵抗を高めるためには、磁性シート103の材料となる磁性粉末と溶媒とを混合することによってスラリーを作製する際、溶媒にリン酸などの薬液を添加すればよい。磁性シート103の表面抵抗は、添加するリン酸の濃度にほぼ比例する。
【0036】
次に、磁性シート103の作製方法について説明する。
【0037】
図6は、磁性シート103の作製方法を説明するためのフローチャートである。
【0038】
図6に示すように、まず原料として、例えばFe−Si−Cr合金の水アトマイズ粉末を用意し(ステップS1)、トルエンなどの有機溶媒中、媒体撹拌ミルで扁平化処理を行う(ステップS2)。次に、乾燥を行い(ステップS3)、窒素雰囲気にて熱処理を行う(ステップS4)。そして、分級により微粉を除去する(ステップS5)。これにより、磁性粉末が完成する。
【0039】
また、この磁性粉末に対して、イソプロピルアルコール(IPA)などで希釈したリン酸を添加し、2時間程度撹拌した後乾燥させることで、表面抵抗を上げた磁性粉末を作製する。この磁性粉末に、溶媒を加えたスラリーを作製し(ステップS6)、2時間程度撹拌した後(ステップS7)、ジグで厚みを一定(例えば50μm)に調整する(ステップS8)。このようにして作製されたシートを複数枚重ね、熱プレスする(ステップS9)。これにより、磁性シート103が完成する。
【0040】
上述の通り、磁性シート103の表面抵抗は、スラリー作製時(ステップS6)において添加するリン酸の濃度によって制御することができる。
【0041】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は、上記の実施形態に限定されることなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能であり、それらも本発明の範囲内に包含されるものであることはいうまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】RFIDシステムの構成を示す模式図である。
【図2】RFID20の構造を説明するための図であり、(a)は略平面図、(b)は(a)に示すA−A線に沿った略断面図である。
【図3】磁性シート103を構成する種々の材料についての表面抵抗Rとμ'との関係を示すグラフである。
【図4】磁性シート103を構成する種々の材料についての表面抵抗RとQ値との関係を示すグラフである。
【図5】磁性シート103を構成する種々の材料についての表面抵抗Rとtanδとの関係を示すグラフである。
【図6】磁性シート103の作製方法を説明するためのフローチャートである。
【符号の説明】
【0043】
10 RFIDシステム
20 RFID
21,31 ループコイル
22,32 IC
30 リーダ装置
101 プリント基板
102 アンテナ基板
103 磁性シート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
RFID又はそのリーダ装置に含まれるループコイルと電波妨害体との間に配置される磁性シートであって、
表面抵抗が10Ω/□以上、1012Ω/□未満であり、通信周波数帯における複素比透磁率の実部μ'が20以上、30未満であることを特徴とする磁性シート。
【請求項2】
複素比透磁率の実部μ'と虚部μ"の比であるtanδが通信周波数帯において0.02以下であることを特徴とする請求項1に記載の磁性シート。
【請求項3】
表面抵抗が10Ω/□以上、1010Ω/□未満であることを特徴とする請求項1又は2に記載の磁性シート。
【請求項4】
ループコイルと、前記ループコイルと電波妨害体との間に配置された磁性シートとを備えるRFIDであって、
前記磁性シートは、表面抵抗が10Ω/□以上、1012Ω/□未満であり、通信周波数帯における複素比透磁率の実部μ'が20以上、30未満であることを特徴とするRFID。
【請求項5】
ループコイルと、前記ループコイルと電波妨害体との間に配置された磁性シートとを備えるRFID用のリーダ装置であって、
前記磁性シートは、表面抵抗が10Ω/□以上、1012Ω/□未満であり、通信周波数帯における複素比透磁率の実部μ'が20以上、30未満であることを特徴とするリーダ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−246158(P2009−246158A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−91290(P2008−91290)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】