説明

磁性マイクロバブル、その作成方法及びその使用

本発明はキャリア液体用マイクロバブルの懸濁液の作成方法を提供し、前記マイクロバブルは気体コアと液体シェルをもち、前記液体シェルは磁性ナノ粒子を含み、前記マイクロバブルは以下の条件:(i)キャリア液体中のマイクロバブルの浮力(F)による力がマイクロバブルの重量(W)よりも大きく;(ii)キャリア液体に印加される磁場によりマイクロバブルに加えられる磁力(F)がマイクロバブルの重量(W)と浮力(F)による力の和よりも大きく;(iii)マイクロバブルに加えられる前記磁力(F)がキャリア液体の流れによりマイクロバブルに加えられる粘性抵抗(F)による力よりも大きく;(iv)超音波印加によりマイクロバブルを検出可能且つ破裂可能にできるように超音波に対するマイクロバブルの散乱断面積(σ)を設定するという条件を満足する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はマイクロバブルの磁気駆動と超音波印加によるマイクロバブルの破裂を利用する治療薬の標的送達方法で使用するように懸濁液中のマイクロバブルの構造パラメータを最適化したマイクロバブルの懸濁液の作成方法に関する。本発明は前記磁性マイクロバブル自体とその使用、更には最適化マイクロバブル設計を決定するための方法とコンピュータプログラムにも関する。
【背景技術】
【0002】
界面活性剤又はポリマーシェルをコーティングした気体マイクロバブルは診断用超音波イメージングに利用可能な有効な型の造影剤として定着するようになった。マイクロバブルの気体コアは生体細胞よりも効率的に広い周波数範囲にわたって超音波を散乱させ、脈管構造と周囲組織の間に強いコントラストを生じる。
【0003】
ごく最近では、薬物又は治療薬を特定臓器又は組織に標的送達するのにマイクロバブルを使用する可能性が認められている。マイクロバブルの封入シェルに治療薬を組込むことができる。その後、マイクロバブルを経静脈法により体内に導入し、低強度超音波を使用してその血流通過を追跡することができる。マイクロバブルが自然に(即ち血液による輸送を介して)その目的位置に到達したら、マイクロバブルを治療部位で選択的に破裂させるように超音波の焦点を合わせてその強度を増すことにより治療薬を放出することができる。マイクロバブルの破裂は隣接細胞の膜透過性を一時的に増すことにより治療薬又は薬物の細胞取込みも強化できることが分かっている(Rahim et al;Ultrasound Med.Biol.,2006;32(8):1269−79)。この効果はソノポレーションとして知られている。
【0004】
このアプローチには、マイクロバブルが治療標的部位に十分な時間停止しないという欠点がある。この問題を解決する1つの方法はマイクロバブルに磁性材料を組込む方法である。その後、印加磁場を使用してマイクロバブルを対象部位に向けて駆動すると共にそのドウェルタイムを延ばすことができる。
【0005】
複数の研究グループが気体を充填した磁性マイクロバブルの作成について記載している。米国特許第5,215,680号(D‘Arrigo)は気体を充填し、脂質をコーティングし、常時性ラベルを付けたマイクロバブルの作成について記載している。これらのマイクロバブルは超音波イメージング法と磁気共鳴(MR)法の両者で使用することが可能な造影剤である。Planck et al.(European Cells and Materials,2005;10(Suppl.5),8)とSoetanto et al.(Jpn.J.Appl.Phys.,2000;39(5B),3230−3232)は各々磁性マイクロバブルの作成方法を記載している。同著者らは薬剤送達システムとしての使用可能性についても言及している。しかし、これらの報告のうちでマイクロバブルの磁気駆動後に超音波印加により治療薬を送達できることを実証しているものは皆無であり、非磁性マイクロバブルに比較して標的部位に送達される治療薬の量が改善されることも示されていない。これらの文献に記載されている磁性マイクロバブルが治療薬の標的送達法で使用できるか否かは不明である。
【0006】
US2003/0216638(Dharmakumar et al.)は血管内圧又は心臓間圧の高感度マノメトリー測定法で使用するものとして気体を充填した磁性マイクロバブルを記載している。US2003/0216638以前にも多数の磁性マイクロバブル製剤が記載されているが、実際のところ、一般に磁気感度が不十分であり、インビトロMRマノメトリー法で使用するには不適切であった。US2003/0216638はマイクロバブルがMRマノメトリー法で実際に使用できるようにするために所定の特徴を備える必要があることを示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第5,215,680号
【特許文献2】US2003/0216638
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Rahim et al;Ultrasound Med.Biol.,2006;32(8):1269−79
【非特許文献2】Planck et al.(European Cells and Materials,2005;10(Suppl.5),8)
【非特許文献3】Soetanto et al.(Jpn.J.Appl.Phys.,2000;39(5B),3230−3232)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明者らはマイクロバブルを駆動するための磁場、マイクロバブルを破裂させるための超音波周波数、及びマイクロバブルを導入する液体の流速が(測定又は磁場もしくは超音波を印加するために使用される装置から)分かっている場合には、治療薬の標的部位送達用として一連の最適化マイクロバブル構造が存在することを示している。最適化マイクロバブル設計に従って作成された磁性マイクロバブルは非磁性マイクロバブルに比較して細胞トランスフェクションの改善を示すことが実証されている。更に、最適化磁性マイクロバブル製剤は最適化マイクロバブル設計の要件を満たさない磁性マイクロバブル製剤に比較して細胞トランスフェクションの改善を示す。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第1の側面によると、キャリア液体用マイクロバブルの懸濁液の作成方法が提供され、前記マイクロバブルは気体コアと液体シェルをもち、前記液体シェルは磁性ナノ粒子を含み、前記方法は、
(a)以下の条件:
(i)キャリア液体中のマイクロバブルの浮力(FBW)による力がマイクロバブルの重量(W)よりも大きく;
(ii)キャリア液体に印加される磁場によりマイクロバブルに加えられる磁力(F)がマイクロバブルの重量(W)と浮力(FBW)による力の和よりも大きく;
(iii)マイクロバブルに加えられる前記磁力(F)がキャリア液体の流れによりマイクロバブルに加えられる粘性抵抗(F)による力よりも大きく;
(iv)超音波印加によりマイクロバブルを検出可能且つ破裂可能にできるように超音波に対するマイクロバブルの散乱断面積(σscat)を設定する
という条件を満足するように、マイクロバブルの気体コアに対するシェルの寸法とシェル内のナノ粒子の量を決定する段階と;
(b)マイクロバブルのシェル内のナノ粒子の量と気体コアに対するシェルの相対寸法を使用し、マイクロバブルの懸濁液を作成するために必要な磁性ナノ粒子の量とシェル用液体の量を決定する段階と;
(c)懸濁液を作成するために必要な磁性ナノ粒子の量とシェル用液体の量を使用してマイクロバブルの懸濁液を作成する段階を含む。
【0011】
本発明は気体コアと磁性ナノ粒子を含む液体シェルをもつキャリア液体用マイクロバブルについて、上記条件(i)〜(iv)と、場合により後述する他の任意条件を適用することにより、マイクロバブルの気体コアに対するシェルの寸法とシェル内のナノ粒子の量を決定する方法にも関する。
【0012】
シェル内のナノ粒子の量はシェルの重量もしくは体積百分率、シェル内のその濃度、シェルのそのモル百分率、シェルのその体積分率α又はマイクロバブルのシェル内のナノ粒子の量を表すのに適した他の任意量として決定することができる。シェルに懸濁した磁性ナノ粒子の体積分率αとしてマイクロバブルのシェル内のナノ粒子の量を決定することが好ましい。
【0013】
シェル内の磁性ナノ粒子の量は磁力(F)が上記条件(i)及び(ii)を満足できるために十分でなければならない。他方、シェル内に存在するナノ粒子の量には実際的事由により決定される上限がある。シェル内の磁性ナノ粒子の体積分率αは更に0<α<0.2という条件を満足することが好ましい。磁性ナノ粒子の体積分率αは0.05<α<0.15であるとより好ましい。インビトロ用途では、磁性ナノ粒子の毒性も考慮する必要があり、この点から、マイクロバブルシェル内に存在することができる磁性ナノ粒子の量に下限が生じると思われる。
【0014】
本発明の方法の(i)〜(iv)に記載した条件はいくつかの方法で数学的に表される。(i)の条件を表す簡便な方法は不等式|FBW|>|W|により表される。マイクロバブルは以下の不等式を満足することが好ましく、この不等式は、マイクロバブルが液体の表面に浮かび上がったり急激に底部に沈んだりして破裂する可能性を避けるためにマイクロバブルをキャリア液体の内部に懸濁した状態(即ち僅かに「浮遊に達しない状態」)に維持するという要件を表す。マイクロバブルの重量(W)は本願ではマイクロバブルの浮力(FBW)による力と逆方向に作用すると定義され、従って、FBWが正のときには負の数値である。


【数1】

【0015】
同様に、上記要件ないし条件(ii)は不等式|F|>|FBW+W|により表すことができる。磁力がマイクロバブルの浮力による力とその重量の方向に関係なく、これらの力を上回るために十分になるように、条件(ii)は不等式|F|>|FBW|+|W|により表すことがより好ましい。
【0016】
(iii)の要件は不等式|F|>|F|により表すことができる。粘性抵抗(F)による力は磁力(F)とは異なる方向に作用する場合があり、キャリア液体の流速に依存するが、磁力(F)はこの力を上回るために十分でなければならない。従って、FとFの符号は逆の場合がある。Fは本願では負の変数として定義される
【0017】
要件(iv)は不等式により表すことができる。
【数2】

【0018】
上記σscatの方程式において、ωは超音波の周波数であり、ρはキャリア液体 (マイクロバブルが懸濁している液体)の密度であり、R01はマイクロバブルの気体コアの初期半径であり、μはキャリア液体の粘度である。
【0019】
マイクロバブルの散乱断面積はバブルの寸法、周囲の液体の性質及び超音波励起周波数の関数である。超音波印加により検出可能且つ破裂可能なマイクロバブルの散乱断面積の典型的な数値は市販のSonoVue(登録商標)マイクロバブルのσscatを計算することにより得ることができる。
【0020】
マイクロバブルの気体コアに対するシェルの寸法はパラメータξにより表すことができ、ここで、Rはマイクロバブルの半径であり、Rは気体コアの半径である。一般に、マイクロバブルの気体コアの半径(R)はシェルの厚み(R−R)以上であり、好ましくは1≧ξ>0、より好ましくは0.5≧ξ>0.1である。

【数3】

【0021】
上記条件を満足するマイクロバブルの気体コアに対するシェルの寸法とシェル内のナノ粒子の量は多数の方法で数学的に決定される。1例では、以下のパラメータを使用する:

【数4】

【0022】
所定の磁場、超音波周波数及び液体流速についてシェル内のナノ粒子の量に対して気体コアに対するシェルの寸法を示す1つのグラフ上に(1)〜(3)のパラメータの各々の範囲を表す線をプロットすることができる。その後、パラメータψ、φ及びλの各々の範囲について線の交点により規定されるグラフ上の領域から一連の最適化マイクロバブル設計を決定することができる。φ及び/又はλの数値は各々独立して−2未満が好ましく、−5未満がより好ましい。
【0023】
キャリア液体中のマイクロバブルの浮力(FBW)による力は以下の方程式により決定することができ、ここで、gは重力による加速度であり、ρはキャリア液体の密度である。
【数5】

【0024】
マイクロバブルの重量(W)は以下の方程式により決定することができ、ここで、Rはマイクロバブルの半径であり、ρは気体コア内の気体の密度であり、Rは気体コアの半径であり、αはマイクロバブルのシェル内の磁性ナノ粒子の体積分率であり、ρはナノ粒子が懸濁している液体の密度であり、ρnpは磁性ナノ粒子の密度である。
【数6】

【0025】
一般に、磁性マイクロバブルのシェルは磁性ナノ粒子が懸濁している液体とは異なる材料から構成される外側コーティングないし層をもつ。外側コーティングは磁性ナノ粒子が懸濁しているシェルの内側液体層を包囲又は封入する。コーティングないし外側層の厚みはシェルの総厚に対してごく僅かであり、F、F、FBW、W及びσscatを表す方程式から無視することができる。αを決定する際に外側コーティングの体積を無視すると好適な場合もある。
【0026】
磁場の印加によりマイクロバブルに加えられる磁力(F)は以下の方程式により決定することができ、ここで、χはシェルに懸濁している磁性ナノ粒子の有効体積磁化率であり、Bは印加磁場の強度であり、αはマイクロバブルのシェル内の磁性ナノ粒子の体積分率であり、Rはマイクロバブルの半径であり、Rは気体コアの半径であり、μはフリースペースの透磁率である。
【数7】

【0027】
細胞トランスフェクション又は治療薬の送達用液体(即ちキャリア液体)にマイクロバブルを導入した際にマイクロバブルに加えられる粘性抵抗(F)による力は、以下の式により決定することができ、ここで、uはキャリア液体の流速であり、Cは抗力係数(中実球の概算)であり、R02はマイクロバブルの静的半径である。平衡状態では、静的外径R02は時間依存的外径Rと同一になる。
【数8】

【0028】
多くの場合、キャリア液体中のマイクロバブルに加えられる粘性抵抗(F)による力は低速(層)流の方程式:
=6πμuR02
により決定することができ、ここで、μはキャリア液体の粘度であり、uはキャリア液体の流速であり、R02はマイクロバブルの静的半径である。Fはこの低速(層流)の方程式により表すことが好ましい。
【0029】
マイクロバブルの散乱断面積σscatは以下の方程式により決定することができ、ここで、ωは超音波の周波数であり、Xはマイクロバブルの動径振動の振幅であり、ρはキャリア液体の密度であり、R01はマイクロバブルの気体コアの初期半径であり、ρincは(外部ソースにより提供される)超音波の圧力振幅である。
【数9】

【0030】
特にマイクロバブル又はこれを使用する液体の構造が上記方程式により表されるような理想的な標準的状況から外れている場合には、他の方程式を使用したほうが変数F、F、FBW、W及びσscatを良好に表すことができる。F、F、FBW、W及びσscatを決定する他の方程式も本発明の方法で使用することができる。
【0031】
特定のマイクロバブル設計が上記条件を満足するか否かを判断するためには、印加する磁場の磁界強度を知る必要がある。実際に、マイクロバブル最適化マイクロバブル製剤を駆動するための磁界強度の範囲は本願に記載する用途に使用可能な現在入手可能な磁石の磁界強度により制限されよう。従って、印加磁場Bを120≧B≧0T、より好ましくは15≧B≧0.01T、更に好ましくは1.5≧B≧0.1Tとして上記要件(ii)及び(iii)を満足することが好ましい。磁場の強度は使用する装置により異なる。永久磁石、超伝導磁石又はパルス(マイクロ秒周期)磁石を使用して磁場を印加することができる。
【0032】
同様に、実際には、マイクロバブルが破裂し始める前にマイクロバブルが使用される液体の流速には上限がある。流速uを20≧u≧0ms−1、より好ましくは10≧w≧0.01ms−1、更に好ましくは5≧u≧0.1ms−1として上記(iii)の要件を満足することが好ましい。インビボ用途の上限は一般に1.5ms−1である。細胞トランスフェクション実験等の所定の実験では、キャリア液体の流速はゼロ又はほぼゼロになる場合もある。細胞トランスフェクション実験を含む他の実験ではもっと高い流速を利用する場合もある。しかし、一般に、本発明の方法を適用するためには、キャリア液体の流速を測定することが必要であると思われる。
【0033】
マイクロバブルの懸濁液を導入する液体の種類は用途により異なる。例えば、インビボ方法では、ヒト又は動物生体の血流又はリンパ管にマイクロバブルを導入することができる。インビトロ細胞トランスフェクション実験では、マイクロバブルを細胞培養の培地に添加することができる。一般に、マイクロバブルの水性懸濁液を使用してマイクロバブルをその目的用途の環境に導入する。キャリア液体は水、細胞培養培地、ヒトもしくは動物血液、又はヒトもしくは動物リンパ液が好ましい。これらの液体の密度が不明な場合又は測定していない場合には、その数値を推定することが必要な場合もある。
【0034】
一般に、マイクロバブルを監視及び破裂させるために使用される超音波周波数は超音波を発生させるために使用される装置から認識されよう。しかし、利用可能な超音波周波数の範囲は実際には超音波を発生させるために利用可能な装置と本願に記載する用途に使用可能な周波数にも制限されよう。従って、超音波周波数ωをω=2πf及び20≧f≧0.5MHz、好ましくは15≧f≧1MHzとして要件(iv)を満足することが好ましい。
【0035】
マイクロバブルシェルの減衰振動と慣性抵抗を最小限にし、所定のバブル寸法と音場で振動の振幅を最大にするためには、マイクロバブルの気体コアに対するシェルの寸法とシェル内の磁性ナノ粒子の量の双方を最小限にすることが望ましい。本発明の方法により気体コアに対するシェルの最小寸法を決定することが好ましい。気体コアに対するシェルの寸法の最小化を実施すると同時又は実施せずに、マイクロバブルのシェル内のナノ粒子の最少量を決定することも好ましい。
【0036】
シェル内のナノ粒子の量と気体コアに対するシェルの寸法が異なり、所定の磁場、超音波周波数及び流速で上記条件を満足する一連の最適化マイクロバブル製剤が存在する可能性もある。従って、他のパラメータを決定するために、シェル内のナノ粒子の量又は気体コアに対するシェルの寸法を選択することが必要な場合もある。本発明の方法はシェル内のナノ粒子の量を選択する段階、又は気体コアに対するシェルの寸法を選択する段階を含むことができる。
【0037】
マイクロバブル(即ち最適化マイクロバブル)のシェル内のナノ粒子の量と気体コアに対するシェルの寸法を決定したら、マイクロバブルの懸濁液を作成するために必要な磁性ナノ粒子の量とシェル用液体の量を決定する(上記方法の段階(b))。最適化マイクロバブルの懸濁液を作成するために必要な磁性ナノ粒子及び溶媒の量と、最適化マイクロバブル設計に適したシェル内のナノ粒子の量及び気体コアに対するシェルの寸法の間には経験的関係が存在する。例えば、所定の場合では、マイクロバブルのシェル内の磁性ナノ粒子の体積分率が作成中の初期に使用される体積分率とほぼ同一となるように、作成中に使用される液体に懸濁又は溶解した磁性ナノ粒子の体積分率は一定に維持される。一般に、懸濁液を作成するために使用される特定方法とマイクロバブル成分の性質に合わせて経験的関係を決定することが必要になろう。
【0038】
最適化マイクロバブルの懸濁液を作成するために必要な磁性ナノ粒子の量とシェル用液体の量を考慮する方法であれば、当分野で公知の標準方法を使用してマイクロバブルの懸濁液を作成することができる。マイクロバブルの懸濁液を作成する好ましい方法はマイクロバブルシェルのコーティング用材料と磁性ナノ粒子とシェル用液体を含有する水溶液を振盪及び/又は音波処理した後、一般に溶液を沈降させた後に溶液の下部を抽出する段階を含む。
【0039】
マイクロバブルを形成するための成分のエマルションを水溶液で形成した後に振盪及び/又は音波処理することにより懸濁液を作成することができる。音波処理及び/又は振盪段階は一般にマイクロバブルの気体コアとしてトラップする気体の雰囲気下で実施される。泡状物が形成されるまで音波処理又は振盪を行うことができる。
【0040】
望ましい気体の雰囲気下で音波処理及び/又は振盪を実施する段階に加え、又はその代用として、懸濁液を作成するために使用される水溶液にマイクロバブル懸濁液の気体コアの気体をバブリングしてもよい。気体コアに適切な気体については後述する。
【0041】
一般に、マイクロバブルの懸濁液を作成するために使用されるリン酸緩衝食塩水(PBS)等の水溶液にマイクロバブルシェルのコーティング用材料を加える。コーティング材料は磁性ナノ粒子が気体コアの周囲の液体層に懸濁されるように、マイクロバブルシェルの外側層を形成する。コーティング材料はコアと溶媒層を分離する別の内側層をシェル内に形成することができる。適切なコーティング材料の例については後述する。マイクロバブルを作成するための水溶液にナノ粒子の懸濁液又は溶液を加えるのはコーティング材料を添加する前でも後でもよい。適切な磁性ナノ粒子の例については後述する。
【0042】
マイクロバブルを形成するために、水溶液中で安定なエマルションを形成するようにシェル液体とシェルコーティング材料を選択する。一般に、マイクロバブルシェルの液体層を形成するために使用される液体は疎水性溶媒である。前記液体は磁性ナノ粒子とのその化学的適合性を考慮して選択され、適切な液体の例については後述する。
【0043】
上記に概説した音波処理/振盪法に従って作成したものでもよいし、当分野で公知の方法に従って作成したものでもよいマイクロバブルの懸濁液を濾過すると、最適化マイクロバブルの望ましい分布をもつ懸濁液が得られる。
【0044】
作用物質、好ましくは治療薬(細胞トランスフェクション用遺伝子材料を含む)を標的部位に送達するためにマイクロバブルに組込む態様では、治療薬をシェルの液体層に懸濁又は溶解することができる。これは磁性ナノ粒子を懸濁する層と同一の層でもよいし、別の層でもよい。シェルの層に懸濁又は溶解するために治療薬を改変することが必要な場合もあるが、これは当分野で公知の方法を使用して実施することができる。あるいは、当分野で公知の方法を使用して治療薬をマイクロバブルの外側コーティングに付着させてもよいし、組込んでもよい。
【0045】
本発明の別の側面は、コンピュータシステムで実行した場合に、本発明の方法をコンピュータに実施させるコンピュータで実行可能なコードを含むコンピュータプログラムに関する。本発明の1態様は、コンピュータシステムで実行した場合に、キャリア液体用のマイクロバブルの懸濁液の作成で使用する方法をコンピュータに実施させるコンピュータで実行可能なコードを含むコンピュータプログラムに関し、前記マイクロバブルは気体コアと液体シェルをもち、前記液体シェルは磁性ナノ粒子を含み、前記方法は、
(a)マイクロバブルに印加する磁場B及び超音波周波数ωと、キャリア液体の流速uの数値を受信する段階と;
(b)B、ω及びuの数値を使用し、以下の条件:
(i)キャリア液体中のマイクロバブルの浮力(FBW)による力がマイクロバブルの重量(W)よりも大きく;
(ii)キャリア液体に印加される前記磁場によりマイクロバブルに加えられる磁力(F)がマイクロバブルの重量(W)と浮力(FBW)による力の和よりも大きく;
(iii)マイクロバブルに加えられる前記磁力(F)がキャリア液体の流れによりマイクロバブルに加えられる粘性抵抗(F)による力よりも大きく;
(iv)超音波印加によりマイクロバブルを検出可能且つ破裂可能にできるように超音波に対するマイクロバブルの散乱断面積(σscat)を設定する
という条件を適用することにより、マイクロバブルの気体コアに対するシェルの寸法とシェル内のナノ粒子の量を決定する段階と;
(c)マイクロバブルのシェル内のナノ粒子の量と気体コアに対するシェルの相対寸法を使用し、マイクロバブルの懸濁液を作成するために必要な磁性ナノ粒子の量とシェル用液体の量を決定する段階と;
(d)懸濁液を作成するために必要な磁性ナノ粒子の量とシェル用液体の量を出力する段階を含む。
【0046】
ユーザはB、ω及び/又はuの数値をコンピュータシステムに入力することが必要な場合がある。マイクロバブルの構成材料の密度や、使用するキャリア液体の密度等の他の定数をユーザがデータ処理手段に入力することが必要な場合もある。マイクロバブルの成分が同一であり、同一の印加磁場Bと超音波周波数ωを反復使用する用途でマイクロバブルを使用する場合には、コンピュータプログラムはB及びωが先に使用した値と同一であることをユーザに確認させるコンピュータで実行可能なコードを含むことができる。
【0047】
マイクロバブルをヒト又は動物生体内に静脈注射する場合等の所定の用途では、マイクロバブルを導入する液体の流速を測定することが必要になる場合がある。例えば、患者の血液の流速をその血圧から決定した後にコンピュータシステムに入力することができる。液体の流速を測定するための測定手段(例えば患者の血圧の測定装置)をコンピュータシステムに搭載又は接続することができる。
【0048】
インビトロ細胞トランスフェクション等の他の用途では、同一型の細胞培地を反復使用することができ、その場合には、コンピュータプログラムはuが先に使用した数値と同一であることをユーザに確認させるコンピュータで実行可能なコードを含むことができる。
【0049】
コンピュータプログラムはユーザにリストから変数を選択させるコンピュータで実行可能なコードを含むことができる。例えば、プログラムは通常使用される所定の液体の密度に関するデータを含むことができる。
【0050】
同様に、マイクロバブルに印加する磁場を発生する磁場発生装置、及び/又はマイクロバブルに印加する超音波を発生する超音波発生装置をコンピュータシステムに搭載又は接続することができる。その場合には、コンピュータシステムは単に磁場発生装置で設定されたBの数値及び/又は超音波発生装置で設定されたωの数値を受信し、本発明の方法を実施することができる。
【0051】
条件(i)〜(iv)と、場合により本発明の方法に関連して記載する他の任意条件を満足する一連のマイクロバブル設計が存在する場合には、コンピュータプログラムはシェル内の磁性ナノ粒子の量又は気体コアに対するシェルの寸法の一方をユーザに入力させるコンピュータで実行可能なコードを含むことができる。
【0052】
コンピュータプログラムにマイクロバブルの懸濁液の作成方法を実施させる場合には、磁性ナノ粒子の懸濁液を自動的に作成するための装置にコンピュータシステムを接続することができる。このような装置は当分野、特にコンビナトリアルケミストリーの分野で周知である。本発明の方法を実施するようにコンピュータプログラムを実行させることにより、懸濁液を作成するために必要な磁性ナノ粒子の量とシェル用液体の量を決定した後に、作成手段に出力する。その後、作成手段は上記音波処理/振盪法を使用するなどして最適化マイクロバブルの懸濁液を自動的に作成することができる。
【0053】
本発明は更に本発明のコンピュータプログラムを格納するコンピュータ読み取り可能な媒体と、本発明のコンピュータプログラムを構成する信号を含むコンピュータプログラム製品に関する。
【0054】
本発明の別の側面は本発明の作成方法により取得されるか又は取得可能なマイクロバブルの懸濁液に関する。
【0055】
本発明は更にキャリア液体用マイクロバブルの懸濁液に関し、前記マイクロバブルは気体コアと液体シェルをもち、前記液体シェルは磁性ナノ粒子を含み、マイクロバブルの実質的に全部は以下の条件:
(i)キャリア液体中のマイクロバブルの浮力(FBW)による力がマイクロバブルの重量(W)よりも大きく;
(ii)キャリア液体に印加される磁場によりマイクロバブルに加えられる磁力(F)がマイクロバブルの重量(W)と浮力(FBW)による力の和よりも大きく;
(iii)マイクロバブルに加えられる前記磁力(F)がキャリア液体の流れによりマイクロバブルに加えられる粘性抵抗(F)による力よりも大きく;
(iv)超音波印加によりマイクロバブルを検出可能且つ破裂可能にできるように超音波に対するマイクロバブルの散乱断面積(σscat)を設定する
という条件を満足する。
【0056】
「実質的に全部」なる用語は懸濁液中のマイクロバブルの80%、好ましくは90%、より好ましくは95%、更に好ましくは99%が上記条件を満足する懸濁液を意味する。
【0057】
本発明のマイクロバブルは気体コアをもつ。一般に、気体コアの気体はマイクロバブルを超音波造影剤として有効に利用するのに適した反射率をもつ。気体は更にマイクロバブルを使用する用途に合わせて選択される。一般に、気体は不活性且つ生体適合性である。例えば、インビボ用途では、気体はヒト又は動物生体に(使用量で)毒性であってはならない。細胞トランスフェクション用途では、気体は細胞毒性であってはならない。適切な気体としては、例えば空気、窒素、二酸化炭素、酸素、希ガス(例えばヘリウム、ネオン、アルゴン、キセノン)、パーフルオロカーボンガス(例えばパーフルオロプロパン)及びその混合物が挙げられる。マイクロバブルの気体コアは空気、希ガス、二酸化炭素、窒素、酸素及びその混合物から選択することが好ましい。気体コアは空気がより好ましい。
【0058】
磁性ナノ粒子は鉄、コバルト又はニッケル等の各種磁性金属から構成することができる。磁性ナノ粒子は酸化鉄ナノ粒子等の強磁性ナノ粒子が好ましい。ナノ粒子はその磁性特徴を制御するために、Zn、Co及びNi等の各種金属元素を含有することができる。酸化鉄ナノ粒子は主成分として磁鉄鉱(Fe)、磁赤鉄鉱(γ−Fe)、Fe及び混合フェライトを含むことができる。磁性ナノ粒子の平均粒度は通常では5〜30nm、好ましくは6〜25nm、より好ましくは8〜12nmである。
【0059】
磁性ナノ粒子をシェルに懸濁又は溶解し易くするために、磁性ナノ粒子にコーティングしてもよい。コーティングは磁性ナノ粒子の分散性又は溶解性を助長するように選択され、使用されるコーティングはシェルの一部又は全部を形成するために使用される液体により異なる。磁性ナノ粒子に界面活性剤をコーティングすることが好ましい。
【0060】
マイクロバブルはシェルの液体層に懸濁した磁性ナノ粒子と外側コーティングを含む。液体層はコーティング材料に化学的に適合性でなければならず、マイクロバブルを使用する用途に適切なものでなければならない(例えばインビボ用途には非毒性液体を使用する必要がある)。マイクロバブルの液体シェルは炭化水素油、好ましくは不揮発性炭化水素油又はその誘導体を液体層に含むことが好ましい。適切な炭化水素油としては、非極性炭化水素油(例えば鉱油)と、植物又は動物由来の炭化水素油が挙げられる。非極性炭化水素油の例としては、イソパラフィン、スクアレン、パーヒドロスクアレン、パラフィン油、石油、水素化又は部分水素化ポリイソブテン、イソエイコサン、デセン/ブテンコポリマー、ポリブテン/ポリイソブテンコポリマー及びその混合物が挙げられる。植物由来の炭化水素油の例としては、小麦胚芽油、ヒマワリ油、グレープシード油、落花生油、ゴマ種子油、トウモロコシ油、アプリコット核油、ヒマシ油、シアバター油、アボカド油、ココナツ油、コーン油、オリーブ油、大豆油、スイートアーモンド油、パーム油、ナタネ油、綿実油、ヘーゼルナッツ油、マカデミアナッツ油、ホホバ油、アルファルファ油、ポピー油、月見草油及びその混合物が挙げられる。液体シェルはイソパラフィン又は大豆油を含むことが好ましく、より好ましくはシェルの液体層はイソパラフィンである。
【0061】
シェルは更にポリマー、界面活性剤又は脂質からなる外側コーティングを含むことができる。一般に、コーティングは中鎖もしくは長鎖脂肪族酸残基、中鎖もしくは長鎖アルキル基等の親油性分子と、親水基、又はポリマーである。適切な親油性分子の例は脂質又は界面活性剤である。適切な脂質としてはリン脂質及び/又は糖脂質が挙げられる。脂質の例としては、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルグリセロール、ホスファチド酸、ホスファチジルイノシトール、ジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)、ジステアロイルホスファチジルコリン(DSPC)、ジミリストイルホスファチジルコリン(DMPC)、ジオレイルホスファチジルコリン(DOPE)、ジミリストイルホスファチジルエタノールアミン、ジパルミトイルホスファチジルエタノールアミン、ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン、リゾ脂質、脂肪酸、カルジオリピン、スフィンゴミエリン、グリコスフィンゴ脂質、グルコ脂質、糖脂質、スルファチド、脂肪酸がエーテル及びエステル結合した脂質、重合性脂質、並びにその組合せが挙げられる。使用される脂質は天然由来でも合成由来でもよい。植物及び動物由来の使用可能なリン脂質もあり、卵黄や大豆及びその水素化物又は水酸化物誘導体、所謂半合成リン脂質が挙げられる。リン脂質を構成する脂肪酸は特に限定されず、飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸を使用可能である。コーティング材料は水素化L−α−ホスファチジルコリンが好ましい。
【0062】
場合により、当業者に自明の手法を使用して例えばポリエチレングリコール(PEG)等のポリマーでマイクロバブルの表面を修飾してもよい。マイクロバブルの表面修飾は治療薬等の作用物質をマイクロバブルに付着させる1つの方法である。本発明の1態様では、治療薬をマイクロバブルのコーティングに付着させる。
【0063】
別の態様では、治療薬をマイクロバブルシェルの液体層に懸濁又は溶解することができる。治療薬は液体層に化学的に適合性でなければならない。当分野で公知の標準方法を使用して液体層に懸濁又は溶解し易くするために治療薬を修飾することが必要な場合もある。
【0064】
別の態様は治療薬を含有する懸濁液に関し、即ち治療薬はマイクロバブルに付着しておらず、又はその一部ではない。
【0065】
マイクロバブルの懸濁液中又はその部分として含まれる治療薬の量は特定用途により異なる。治療薬としては、例えばプロトラッグ、薬剤、薬物、合成有機分子、タンパク質、ペプチド、ビタミン、ステロイド、ステロイドアナログ及び遺伝子材料(ヌクレオシド、ヌクレオチド及びポリヌクレオチドを含み、デオキシリボ核酸(DNA)とリボ核酸(RNA)を含む)が挙げられる。遺伝子材料は当業者に公知の合成化学法、又は組換え技術の使用、又はその組合せにより作製することができる。DNAとRNAは場合により非天然ヌクレオチドを含んでいてもよく、1本鎖でも2本鎖でもよい。
【0066】
インビボ用途では、治療薬をマイクロバブルに付着又は封入することが好ましい。治療薬は、
抗アレルギー薬(例えばアンレキサノクス);
抗狭心症薬(例えばジルチアゼム、ニフェジピン、ベラパミル、四硝酸エリスリチル、二硝酸イソソルビド、ニトログリセリン(三硝酸グリセリル)及び四硝酸ペンタエリスリトール);
抗凝固薬(例えばフェンプロクモン、ヘパリン);
抗体(例えばポリクローナル抗体又はモノクローナル抗体。例としてはCD44、CD54、CD56、Fasが挙げられる);
抗生物質(例えばダプソン、クロラムフェニコール、ネオマイシン、セファクロル、セファドロキシル、セファレキシン、セフラジン、エリスロマイシン、クリンダマイシン、リンコマイシン、アモキシシリン、アンピシリン、バカンピシリン、カルベニシリン、ジクロキサシリン、シクラシリン、ジクロキサシリン、ヘタシリン、メチシリン、ナフシリン、オキサシリン、ペニシリンG、ペニシリンV、チカルシリン、リファンピン及びテトラサイクリン);
抗癌剤(例えば白金化合物(例えばスピロプラチン、シスプラチン及びカルボプラチン)、メトトレキセート、アドリアマイシン、タキソール、マイトマイシン、アンサミトシン、ブレオマイシン、シトシンアラビノシド、アラビノシルアデニン、メルカプトポリリジン、ビンクリスチン、ブスルファン、クロラムブシル、メルファラン(例えばL−サロリジン(L−PAM,別称アルケラン)及びフェニルアラニンマスタード(PAM))、メルカプトプリン、ミトタン、塩酸プロカルバジン、ダクチノマイシン(アクチノマイシンD)、塩酸ダウノルビシン、塩酸ドキソルビシン、マイトマイシン、プリカマイシン(ミトラマイシン)、パクリタキセル、アミノグルテチミド、リン酸エストラムスチンナトリウム、フルタミド、酢酸ロイプロリド、酢酸メゲストロール、クエン酸タモキシフェン、テストラクトン、トリロスタン、アンサクリン(m−AMSA)、アスパラギナーゼ(L−アスパラギナーゼ)、エルウィニアアスパラギナーゼ、エトポシド(VP−16)、インターフェロンa−2a、インターフェロンa−2b、テニポシド(VM−26)、硫酸ビンブラスチン(VLB)、硫酸ビンクリスチン、ブレオマイシン、硫酸ブレオマイシン、メトトレキセート、アドリアマイシン、カルゼレシン、アラビノシル、アジリジニルベンゾキノン、ムラミル−トリペプチド及び5−フルオロウラシル);
抗凝固薬(例えばフェンプロクモン及びヘパリン);
抗真菌剤(例えばケトコナゾール、ナイスタチン、グリセオフルビン、フルシトシン(5−fc)、ミコナゾール、アンホテリシンB、リシン及びP−ラクタム抗生物質(例えばスルファゼシン));
抗炎症薬;
抗寄生虫薬;
抗原虫薬(例えばクロロキン、ヒドロキシクロロキン、メトロニダゾール、キニーネ及びアンチモン酸メグルミン);
抗リウマチ薬(例えばペニシラミン);
抗結核薬(例えばパラアミノサリチル酸、イソニアジド、硫酸カプレオマイシン、シクロセリン、塩酸エタンブトール、エチオナミド、ピラジナミド、リファンピン及び硫酸ストレプトマイシン);
抗ウイルス薬(例えばアシクロビル、アマンタジン、アジドチミジン(例えばAZT又はジドブジン)、リバビリン、アマンタジン、ビダラビン及びビダラビン一水和物);
抗炎症薬(例えばジフルニサル、イブプロフェン、インドメタシン、メクロフェナム酸塩、メフェナム酸、ナプロキセン、オキシフェンブタゾン、フェニルブタゾン、ピロキシカム、スリンダク、トルメチン、アスピリン及びサリチル酸塩);
生体応答調節剤(例えばムラミルジペプチド、ムラミルトリペプチド、プロスタグランジン、微生物細胞壁成分、リンホカイン(例えば細菌エンドトキシン(リポ多糖、マクロファージ活性化因子))、細菌(例えばマイコバクテリウムやコリネバクテリウム)のサブユニット、合成ジペプチドN−アセチルムラミル−L−アラニル−D−イソグルタミン);
ビタミン(例えばシアノコバラミン、レチノイン酸、レチノイド及び誘導体(例えばパルミチン酸レチノール)、a−トコフェロール、ナフトキノン、コレカルシフェロール、葉酸及びテトラヒドロ葉酸塩);
血液製剤(例えば非経口鉄剤、ヘミン、ヘマトポルフィリン及びその誘導体);
強心配糖体(例えばデスラノシド、ジギトキシン、ジゴキシン、ジギタリン及びジギタリス);
循環器薬(例えばプロプラノロール);
ホルモン及びステロイド(例えば成長ホルモン、メラニン細胞刺激ホルモン、エストラジオール、ジプロピオン酸ベクロメタゾン、ベタメタゾン、酢酸ベタメタゾン及びリン酸ベタメタゾンナトリウム、リン酸ベタメタゾン2ナトリウム、リン酸ベタメタゾンナトリウム、酢酸コルチゾン、デキサメタゾン、酢酸デキサメタゾン、リン酸デキサメタゾンナトリウム、フルニソリド、ヒドロコルチゾン、酢酸ヒドロコルチゾン、シピオン酸ヒドロコルチゾン、リン酸ヒドロコルチゾンナトリウム、コハク酸ヒドロコルチゾンナトリウム、メチルプレドニゾロン、酢酸メチルプレドニゾロン、コハク酸メチルプレドニゾロンナトリウム、酢酸パラメタゾン、プレドニゾロン、酢酸プレドニゾロン、リン酸プレドニゾロンナトリウム、テブト酸プレドニゾロン、プレドニゾン、トリアムシノロン、トリアムシノロンアセトニド、二酢酸トリアムシノロン、トリアムシノロンヘキサアセトニド、酢酸フルドロコルチゾン、プロゲステロン、テストステロン及び副腎皮質刺激ホルモン);
麻薬(例えばパレゴリック及びオピエート(例えばコデイン、ヘロイン、メタドン、モルヒネ及びオピウム));
金属中毒解毒剤;
神経筋遮断薬(例えばベシル酸アトラクリウム、ガラミントリエチオジド、臭化ヘキサフルオレニウム、ヨウ化メトクリン、臭化パンクロニウム、塩化スクシニルコリン、塩化ツボクラリン及び臭化ベクロニウム);
ペプチド(例えばアンギオスタチン、マンガンスーパーオキシドジスムターゼ、組織プラスミノーゲンアクチベーター、グルタチオン、インスリン、ドーパミン、ヒト絨毛性ゴナドトロピン、コルチコトロピン放出因子、コレシストキニン、ブラジキニン、ブラジキニンのプロモーター、ブラジキニンのインヒビター、エラスチン、バソプレシン、ペプシン、グルカゴン、インテグリン、アンギオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬(カプトプリル、エナラプリル及びリシノプリル)、副腎皮質刺激ホルモン、オキシトシン、カルシトニン、IgG、IgA、IgM、エフェクター細胞プロテアーゼ受容体のリガンド、トロンビン、ストレプトキナーゼ、ウロキナーゼ、プロテインキナーゼC、インターフェロン、コロニー刺激因子、顆粒球コロニー刺激因子、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子、腫瘍壊死因子、神経成長因子、血小板由来成長因子、リンホトキシン、上皮成長因子、線維芽細胞増殖因子、血管内皮細胞増殖因子、エリスロポエチン、トランスフォーミング増殖因子、オンコスタチンM、インターロイキン(インターロイキン1、インターロイキン2、インターロイキン3、インターロイキン4、インターロイキン5、インターロイキン6、インターロイキン7、インターロイキン8、インターロイキン9、インターロイキン10、インターロイキン11及びインターロイキン12)、メタロプロテインキナーゼリガンド、及びコラゲナーゼ);
酵素(例えばアルカリホスファターゼ及びシクロオキシゲナーゼ);
代謝賦活剤(例えばグルタチオン);並びに
鎮静薬(例えばアモバルビタール、アモバルビタールナトリウム、アプロバルビタール、ブタバルビタールナトリウム、クローラル水和物、エトクロルビノール、エチナメート、塩酸フルラゼパム、グルテチミド、塩酸メトトリメプラジン、メチプリロン、塩酸ミダゾラム、パラアルデヒド、ペントバルビタール、ペントバルビタールナトリウム、フェノバルビタールナトリウム、セコバルビタールナトリウム、タルブタール、テマゼパム及びトリアゾラム)
から選択することができる。
【0067】
懸濁液は異なるマイクロバブル構造をもつマイクロバブルの分布を含むことになる。分布は本発明の方法により決定される最適化マイクロバブル構造を中心とすることが好ましい。本願に記載する用途で使用するには、マイクロバブルは粒径1μm〜10μm、好ましくは1〜5μmをもつことが好ましい。マイクロバブルの総粒径に対するシェルの相対厚みは上記マイクロバブル構造を最適化するための条件を満足すべきである。マイクロバブルの懸濁液に相当する分布におけるマイクロバブル粒径の標準偏差は好ましくは±3μm、より好ましくは±1μmである。
【0068】
静脈内投与では、マイクロバブルの粒径を8μm以下にすることが好ましい。所定の寸法を上回るマイクロバブルは体内に塞栓形成をもたらす危険がある。
【0069】
本発明の別の側面はヒト又は動物生体の治療用の本発明のマイクロバブルの懸濁液に関する。本発明は更に本発明の懸濁液の使用を伴う薬物療法と、ヒト又は動物生体の治療用医薬の製造用としての本発明の懸濁液の使用に関する。ヒト又は動物生体の治療用懸濁液又は磁性マイクロバブルは、好ましくはマイクロバブルに付着しているか又は組込まれた治療薬を含有する。ヒト又は動物生体の薬物療法は、
(a)本発明のマイクロバブルの懸濁液又は本発明の使用における医薬をヒト又は動物生体に投与する段階と;
(b)場合により超音波を使用してマイクロバブルの位置を監視する段階と;
(c)印加磁場を使用して治療対象の標的部位にマイクロバブルをインビボ駆動する段階と;
(d)超音波を使用してマイクロバブルを標的部位で破裂させる段階を含む。
【0070】
マイクロバブルの懸濁液は一般に治療しようとする領域又はその近傍の静脈内又はリンパ管に導入する。マイクロバブルの懸濁液を静脈内に導入することがこのましい。その後、この領域に超音波を印加し、領域を撮像し、マイクロバブルの位置を決定する。次に磁場を印加し、マイクロバブルを目的位置まで移動させ、この位置に維持する。マイクロバブルが目的の標的に到達したら、バブルを破裂させるために十分な周波数と強度の超音波を印加する。場合により超音波を使用してマイクロバブルを監視する段階は一般にマイクロバブルを破裂させるために使用する強度よりも低い強度の超音波を使用して実施される。
【0071】
患者に投与することができるマイクロバブルの量は使用する特定マイクロバブル製剤と、送達する治療薬により異なる。一般に、マイクロバブル製剤の用量は1cc/kg以下、好ましくは0.3 cc/kg以下、より好ましくは0.15 cc/kg以下とすることが好ましい。
【0072】
超音波を使用する本発明による治療薬の送達治療薬は超音波エネルギーの透過の良好な音響窓をもつ組織で最良に実施される。筋肉、心臓、肝臓及び大半の他の生体構造等の大半の生体組織がこれに該当する。脳内の部位を治療するためには、超音波を標的部位に誘導できるように頭蓋に外科的切開を形成することが必要な場合がある。
【0073】
本発明の別の側面はインビトロ細胞トランスフェクション方法であり、前記方法は、
(a)培地と容器表面に生着させた細胞を含む細胞培養用容器を準備する段階と;
(b)マイクロバブルの懸濁液を培地に添加する段階と;
(c)印加磁場を使用してマイクロバブルを容器の表面に駆動する段階と;
(d)超音波を使用してマイクロバブルを表面で破裂させる段階
を含む。
【0074】
マイクロバブル又はマイクロバブルの懸濁液はトランスフェクション用遺伝子材料、好ましくはトランスフェクション用DNA又はRNAを含む。ソノポレーション効果は細胞トランスフェクション用遺伝子材料の有利な取込みを可能にする。本方法で使用する細胞培養用容器と細胞培養用培地は当分野で周知である。
【0075】
120≧B≧0T、好ましくは15≧B≧0.01T、より好ましくは1.5≧B≧0.1Tの強度の磁場を使用して方法を実施する。マイクロバブルを破裂させるために印加する超音波周波数ωは好ましくは20≧f≧0.5MHz、より好ましくは15≧f≧1MHzであり、ここでω=2πfである。一般に、本発明のマイクロバブルを破裂させるためには0.5〜1MPaのピーク負圧が一般に適切である。
【0076】
本発明の別の側面はインビトロ細胞培養アッセイ方法に関し、前記方法は、
(a)培地と容器表面に生着させた細胞株に由来する細胞を含む細胞培養用容器を準備する段階と;
(b)培地にマイクロバブルの懸濁液を添加する段階と;
(c)印加磁場を使用してマイクロバブルを表面に駆動する段階と;
(d)超音波を使用してマイクロバブルを表面で破裂させる段階;
(e)細胞株に由来する細胞に対する作用物質の細胞毒性を測定する段階
を含む。
【0077】
マイクロバブル又はマイクロバブルの懸濁液はその治療活性についてアッセイしようとする潜在的新規薬物等の作用物質を含む。本方法はソノポレーション効果により、細胞の膜を介する治療薬の送達に伴う問題を解決する。本方法はインビトロ細胞トランスフェクション方法について上述した磁場強度及び/又は超音波周波数を使用して実施することができる。
【0078】
原則として、前記アッセイ方法では当分野で公知の任意細胞株を使用することができる。例えば、適切な細胞株としては、A172(神経膠腫)、A549(肺癌)、BCP−1細胞(PEL)、HEK293細胞(腎臓)、HeLa(子宮頸癌)、HL60(前骨髄性白血病)、K562(慢性骨髄性白血病)、KG−1(骨髄性白血病)、Jurkat細胞株、Lncap(前立腺癌)、MCF−7(乳癌)、MDA−MB−438(乳癌)、T47D(乳癌)、THP−1(急性骨髄性白血病)、U87(膠芽腫)、SHSY5Yヒト神経芽腫細胞及び米国国立癌研究所(National Cancer Institute)から入手可能な細胞株が挙げられる。霊長類細胞株Vero(アフリカミドリザルChlorocebus腎臓上皮細胞株)、COS−7(アフリカミドリザル腎臓細胞);ラット腫瘍細胞株GH3(下垂体腫瘍)、9L(膠芽腫)、PC12(褐色細胞腫);及びマウス細胞株3T3(胎仔線維芽細胞)、MC3T3(胎仔頭蓋冠)、C3H−10T1/2(胎仔間葉系)等の動物細胞株も除外しない。
【0079】
細胞株の細胞に対する作用物質の細胞毒性を測定する段階は、試験した作用物質と使用した細胞株により異なる。この段階は当分野で公知の方法を使用して実施される。
【0080】
薬物療法、インビトロ細胞トランスフェクション方法及び/又はインビトロ細胞培養アッセイ方法における各段階は本発明のマイクロバブルの懸濁液の作成方法の後に実施してもよいし、本発明のマイクロバブルの気体コアに対するシェルの寸法とシェル内のナノ粒子の量の決定方法の後に実施してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】リン脂質コーティングを有する磁性マイクロバブルの1態様の概略断面図である。Rはマイクロバブルの気体コアの半径を表し、Rはマイクロバブルの半径である。
【図2】各種数値のψ(ψは0、−0.5、−1、−1.5又は−2である)を示すグラフ軸であり、ナノ粒子体積分率をX軸にプロットし、気体コア半径における比率としてのシェル厚をY軸にプロットする。
【図3】所定の磁場(1例として(B.▽)B=18T/mを使用した)について各種数値のφ(φは−1、−2.5、−6、−7.5又は−10である)を示すグラフ軸であり、ナノ粒子体積分率をX軸にプロットし、気体コア半径における比率としてのシェル厚をY軸にプロットする。
【図4】所定の磁場と流速(1例として(B.▽)B=18T/mと流速10−4m/sを使用した)について各種数値のλ(λは−1、−2、−5又は−10である)を示すグラフ軸であり、ナノ粒子体積分率をX軸にプロットし、気体コア半径における比率としてのシェル厚をY軸にプロットする。
【図5】図2〜4等のψ、φ及びλのグラフを総合することにより得られる製剤マップであり、(B.▽)B=18T/mと流速10−4m/sでψ、φ及びλについて上述した条件を満足するマイクロバブル設計の範囲を示す。最適化マイクロバブル設計を図中に円で示す。
【図6】15分間及び30分間放置後に各種マイクロバブル製剤に生じる分離を示す図である。
【図7】磁石の近傍に配置後の各種マイクロバブル製剤の磁気応答を示す図である。(i)は磁石の近傍に配置してから10秒後の製剤C(i)の写真である。(ii)は磁石の近傍に配置してから1分後の製剤C(i)の写真である。(iii)は磁石の近傍に配置してから10秒後の製剤Aの写真である。(iv)は磁石の近傍に配置してから10秒後の製剤Bの写真である。
【図8】浮遊材料に焦点をあわせた製剤C(i)の顕微鏡写真である(下方の血球計算盤スライドの格子も焦点外で示す)。
【図9】棒磁石1本を顕微鏡スライドのレベルよりもやや上方の側面に保持した後の製剤C(i)の顕微鏡写真である。
【図10】磁性マイクロバブルの懸濁液中の超音波パルスの減衰を示すグラフである。グラフの濃い線は製剤C(i)のマイクロバブルを表し、薄い線は水を表す。
【図11】SonoVue(登録商標)マイクロバブルの懸濁液中の超音波パルスの減衰を示すグラフである。グラフの濃い線はSonoVue(登録商標)マイクロバブルを表し、薄い線は水を表す。
【図12】磁性マイクロバブルの懸濁液、SonoVue(登録商標)マイクロバブルの懸濁液及び水を伝播した超音波パルスの周波数スペクトルを示すグラフである。
【図13】マイクロバブルを作成するために使用した磁性ナノ粒子懸濁液の磁化曲線を示すグラフである。
【図14】有限要素モデリング法を使用して計算したハルバッハアレイの5mm上の面に加えられる体積当たりの力をT・A/m(N/m)で示すコンターマップである。
【図15】細胞トランスフェクション実験を実施するために使用した実験装置を示す模式図である。図は更に磁気駆動されたマイクロバブルがOptiCell(登録商標)の底面の細胞単層に引き寄せられる理想的状況を示す。
【図16】各種バブル製剤及び印加条件下のルシフェラーゼ発現の実験結果を示すヒストグラムである(誤差線は標準偏差を示す)。
【図17】各種製剤及び印加条件下のβ−ガラクトシダーゼ発現の実験結果を示すヒストグラムである(誤差線は標準偏差を示す)
【図18】各種印加条件下のバブル製剤C(ii)によるFITC−デキストラン送達の実験結果を示すヒストグラムである。
【発明を実施するための形態】
【0082】
マイクロバブル設計の最適化
液体中での磁気駆動に適合するように最適化され、超音波により破裂するようにしたマイクロバブル構造又は設計のパラメータを決定するためには、マイクロバブルを表す方程式を検討する必要がある。これらの方程式にはマイクロバブルの設計に必須のものもあり、以下に検討する。
【0083】
1.マイクロバブル浮力
個々のマイクロバブルの重量Wは、以下の式により与えられ、
【数10】

【0084】
水等の液体中のマイクロバブルの浮力FBWは、以下の式により与えられ、ここで、gは重力による加速度であり、ρ、ρ、ρnp及びρは夫々充填気体(マイクロバブルの気体コア)、マイクロバブルシェルのナノ粒子懸濁液体、ナノ粒子材料及びキャリア液体(即ち使用時にマイクロバブルを懸濁する液体)の密度であり、αはシェル内のナノ粒子の体積分率である。溶媒層を包囲するシェルの外側層(例えば図1に示すリン脂質コーティング)は比較的僅かな厚み(〜1.5nm)であり、マイクロバブルの重量の増加は無視することができる。
【数11】

【0085】
2.磁力
磁場の印加時に個々の磁性マイクロバブルに加えられる力は、以下の式により表すことができ、ここで、Bはマイクロバブルの位置における磁束ないし磁界強度であり、χは溶媒層に懸濁した磁性ナノ粒子の有効体積磁化率であり、μはフリースペースの透磁率である。
【数12】

【0086】
3.音響励起及び散乱
マイクロバブルは超音波を印加されると、容積振動を生じる。非磁性マイクロバブルに認められる細胞膜透磁率の増加はマイクロバブルの容積振動に関係があると考えられる。従って、これらの振動の振幅はランスフェクション増加を助長するために十分でなければならない。
【0087】
マイクロバブル振動を表す運動方程式は非線形である(Stride,E;Phil.Trans.Roy.Soc.A.,2008,366,2103−2115)が、線形化方程式を以下の式として表すことができ、ここで、p(t)=pincsin(ωt)であり、pincは印加超音波場の圧力振幅であり、ωはその周波数(ラジアン/s)である。バブルの瞬間半径RはR=R01x(t)により表され、ここで、R01は気体コアの半径の初期値であり、x(t)はRの微小変化量を表す。
【数13】

【0088】
係数m、b及びkは、以下の式により与えられ、
【数14】

【数15】

【0089】
上記ρsはバブルの周囲の液体層の有効密度であり、μはその有効粘度であり、μはバブルを懸濁する液体の粘度であり、ηs0は界面活性剤等の外側コーティング層の粘度であり、κは気体コアのポリトロープ定数であり、pは周囲圧力であり、σ01及びσ02は液体層の内面と外面の初期界面張力である。Γは外側コーティング層を形成する材料(例えばバブル表面の界面活性剤)の初期濃度であり、y及びKは外側コーティング層を形成する材料の定数であり、R02はマイクロバブルの初期半径である。
【0090】
上記線形化運動方程式を解くと、バブルの動径振動の振幅Xは、以下のように推定することができる。
【数16】

【0091】
同様に、マイクロバブルにより生じる散乱超音波場からマイクロバブルを検出できるか否かを決定する散乱断面積は、以下の式として表すことができる。
【数17】

【0092】
4.粘性抵抗
粘度uの純流速をもつ液体に懸濁したマイクロバブルに加えられる粘性抵抗は、以下の式により与えられ、低速(層)流では、F=6πμuR02 となり、ここで、Cは抗力係数(中実球の概算)であり、μは液体の粘度である。
【数18】

【0093】
最適マイクロバブル設計のパラメータ
その磁性ナノ粒子含量を増加することにより個々のマイクロバブルに加えられる磁力の強さを増加することが望ましいが、ナノ粒子の沈降が生じる前にシェルに懸濁することができるナノ粒子の最大体積分率が存在する。更に、ナノ粒子を懸濁する液体の粘度が著しく高くなり、事実上固体になってしまうため、体積分率は無限に増加することはできない。従って、マイクロバブル設計を左右する第1の条件は、マイクロバブルシェルの溶媒層中の磁性ナノ粒子の体積分率αが、
(i)0<α<0.2
となるようにすることである。
【0094】
磁性マイクロバブルを使用環境で誘導可能且つ駆動可能にするためには、印加磁場により駆動できるようにするために十分な磁性材料をマイクロバブルに含ませる必要がある。更に、この磁場により提供される力はマイクロバブル重量とマイクロバブル浮力を上回るために十分でなければならない。マイクロバブル設計を決定する第2の条件は、
(ii)|F|>|FBW+W|
である。
【0095】
限界浮力をもつマイクロバブルは急激に沈んだり浮かび上がったりしないので、印加磁場に対する応答性が高い。マイクロバブル設計を左右する第3の条件は上記のように、以下に通りである。
【数19】

【0096】
マイクロバブルを最初に標的部位から離れた位置に導入する場合には、磁場を使用して標的部位に向けて移動可能にすると理想的である。バブルはバブルを懸濁した液体中を移動するにつれて液体の粘度とこの液体の流れから抵抗力を受ける。第4の条件は、
(iv)|F|>|F
となるように、キャリア液体中のマイクロバブルの抗力を上回るようにマイクロバブルの磁気駆動を十分にすることである。
【0097】
超音波を使用してマイクロバブルを監視できることが好ましい。他方、利用可能な装置により発生させることができる実施可能な周波数の高強度超音波を印加した場合にマイクロバブルを破裂させることができなければならない。上記に説明したように、治療薬の細胞取込みはソノポレーションにより改善される。従って、超音波に応答して十分な振幅の容積振動を受けることができるように、十分な容量の気体をマイクロバブルに含ませる必要がある。従って、第5の条件はマイクロバブルの散乱断面積が以下の条件:
【数20】

を満足することである(ここで、ωは超音波の周波数であり、ρはキャリア液体の密度であり、R01はマイクロバブルの気体コアの初期半径であり、μはキャリア液体(マイクロバブルが懸濁している液体)の粘度である)。
【0098】
マイクロバブルを静脈内投与する場合には、マイクロバブルはあまり大きくすべきではなく、そうでないと、血流に導入される気体の量が有害になり、塞栓の原因となる可能性がある。従って、インビボ用途にはマイクロバブルの最大粒径が存在し、一般に実際には8μmとすべきである。
【0099】
最適マイクロバブル設計パラメータの決定
上記各条件を適用することにより、既知強度の磁場と既知周波数の超音波で使用し且つキャリア液体中の流速が分かっているときに治療薬の送達又は細胞トランスフェクション用途に最適化された一連のマイクロバブル設計を決定することができる。以下のように定義されるパラメータψ、φ及びλから一連の最適化マイクロバブル設計を決定することができる。ψは、以下の式で定義される。
【数21】

【0100】
限界浮力をもつマイクロバブルでは(即ち|W|<FBW<|2W|のとき)、ψは0〜−1である。φは、以下の式で定義される。
【数22】

マイクロバブルが印加磁場により駆動されるためには、φを−1未満にする必要がある。λは、以下の式で定義される。
【数23】

【0101】
磁場を印加したときにマイクロバブルが応答し、キャリア液体中で移動可能になるために、磁力はこの液体中のマイクロバブルの粘性抵抗を上回るために十分でなければならない。従って、パラメータλは−1未満でなければならない。
【0102】
1例として、表1に示すパラメータを使用して最適化マイクロバブル製剤を決定した。ナノ粒子体積分率に対する気体コア半径における比率としてのシェル厚のグラフをψ、φ及びλの各々についてプロットし、ψ、φ及びλは各々各種数値を取る(図2〜4参照)。各グラフのX軸に示す最高値は0<α<0.2の条件を考慮して0.2である。
【0103】
【表1】

【0104】
図2には、ψ=0とψ=−1の線を示す。これらの線は上記ψの条件を満足するマイクロバブルの範囲を表す。従って、ψ=0とψ=−1の線の間の領域は−1<ψ<0を満足するマイクロバブル製剤の範囲に相当する。
【0105】
同様に、図3及び4は磁場とマイクロバブルを懸濁する液体の流速(この場合には、(B.▽)B=18T/m及び水の流速10−4m/s)が与えられているときにφ<−1及びλ<−1の条件を満足するパラメータφ及びλの範囲を示す。
【0106】
図2〜4に示すグラフ等のψ、φ及びλの個々のグラフを1つのグラフに統合すことにより製剤マップ(図5)を得ることができる。製剤マップはψ、φ及びλの各々について上述した条件を満足する一連のマイクロバブル製剤を規定する。本発明者らは驚くべきことに、磁性マイクロバブルが(パラメータψの条件により表される)限界浮力をもつという要件が本願に記載する用途に適したマイクロバブルの設計に必須となることを見出した。
【0107】
ψ、φ及びλについて記載した範囲を満足しながら、αと気体コア半径における比率(ξ)としてのシェル厚の数値をできるだけ小さくすることが望ましい。例えば、図5の製剤マップを使用すると、上記の磁場と水中流速のとき、磁性ナノ粒子の体積分率が0.1で気体コア半径が1μmのマイクロバブルはシェル厚を約0.23μmにできることが明らかである。
【0108】
実験詳細
マイクロバブル作成
マイクロバブルを1MHzでの励起に適した気体含量にすると共に、使用する磁場で磁気駆動できるように、特定量の磁性ナノ粒子について上記方法を使用した最大シェル厚の決定に基づいてマイクロバブル懸濁液を作成した。後述する細胞トランスフェクション実験で液体流速は認められなかった。
【0109】
最適化マイクロバブルを含む懸濁液を得るように、処理段階(音波処理時間、出力等)を経験的に最適化した。超音波及び/又は磁場の存在下における磁性マイクロバブルの効力を判定するために、一連の各種マイクロバブル/ナノ粒子懸濁液を比較のために作成した。
【0110】
A.リン脂質マイクロバブル
曝気したリン酸緩衝食塩水(PBS)15mlに4℃で水素化L−α−ホスファチジルコリン(Sigma Aldrich,Poole,UK)15mgを加えた。超音波細胞破砕装置(XL2000,プローブ直径3mm,Misonix Inc.,Farmingdale,NY,USA)を使用し、8WRMS出力電力に対応する22.5kHzとレベル4で運転し、30秒間音波処理により初期混合し、リン脂質を分散させた。気体を混入させるためにプローブを液体表面に対して上下させた。音波処理後、混合物をすぐに30秒間激しく手動振盪した。
【0111】
B.磁性ミセル
水素化L−α−ホスファチジルコリンリン脂質15mgを4℃で(未曝気)PBS 15mlに加え、レベル4で30秒間音波処理した。手動振盪せずにプローブを液体の内部に維持した。次に粒径10nmの磁性ナノ粒子のイソパラフィン(Liquids Research,Bangor UK)懸濁液15μlを加え、混合物を同一条件下で再び音波処理した。
【0112】
C.磁性マイクロバブル
音波処理段階を2回別個に実施し、2回目の音波処理の前に磁性懸濁液15μlを加えた以外は、Aについて上述した段階を繰返した。こうして、本願でC(i)と呼ぶマイクロバブルの初期懸濁液を作成した。
【0113】
C(i)懸濁液5mlを栓付きシリンジに分取することによりマイクロバブルのサブフラクション懸濁液C(ii)を作成した後、サブフラクションを30分間沈降させた。その後、開栓し、懸濁液の下部から4mlを取出した。透明分離層に対応する残りの1mlを実験に使用した。栓を通してシリンジから排出させることができなかった比較的大きなバブル(〜0.1mm)から構成される上層を捨てた。
【0114】
D.SonoVue(登録商標)マイクロバブル
比較のために、市販の超音波造影剤SonoVue(登録商標)(Bracco Milan,Italy)の懸濁液を製造業者の指示に従って作成した。
【0115】
マイクロバブルの特性決定
1.顕微鏡観察
処理後に放置すると、図6に示すように、15分後と30分後に各種製剤が別個の層に分離するのが認められた。希釈懸濁液と未希釈懸濁液の両者において、リン脂質単独のマイクロバブル(A)はマイクロバブルの不透明層の上で比較的大きいバブルの泡状層に迅速に分離することが光学顕微鏡試験により判明した。磁性ミセル(B)は別個の層に分離しなかったが、垂直方向に色のグラデーションが認められ、バイアルの底に磁性材料が多少沈降していると判断された。Aについては、希釈及び未希釈の両方の磁性マイクロバブル製剤(C(i))が不透明層の上で白色泡状層に分離した。他方、この場合には不透明層は濃茶色であり、製剤を数時間放置後も磁性材料が残存していたと判断された。磁気駆動に対する応答を試験することによりこれを確認した(図7)。C(i)のこのサブフラクションを上記のように分取し、実験で製剤C(ii)として使用した。やはり、バイアルの底に磁性材料の多少の沈降が認められた。
【0116】
2.光学顕微鏡観察
光学顕微鏡を使用して血球計算盤で各懸濁液を試験し、存在するマイクロバブル/ミセルの平均寸法及び濃度を決定した。磁性バブルの場合には、磁気駆動に対するその応答も試験した。コンピュータに接続したデジタルカメラを使用して顕微鏡画像を撮影した。
【0117】
製剤A(泡状層の下から採取したサンプル)の顕微鏡観察によると、気体を充填した高屈折率のバブルが存在することが判明し、表2に示すように、多少粒度分布が広く、濃度が低いが、市販造影剤SonoVue(登録商標)の懸濁液中のバブルと外観が似ていた。製剤C(i)もAのバブルよりも寸法が小さい(図8参照)が、外観の似たマイクロバブルを含んでおり、その他に小さい茶色の球形粒子(粒径〜1〜2μm)と、低屈折率のサブミクロン寸法の粒子も含んでいることが判明した。棒磁石1本を近くに保持すると、「A型」マイクロバブルの移動は殆ど認められなかったが、他の粒子は磁石に向かって流動することが判明し(図9参照)、最小粒子は鎖状になり、磁石を動かすと、再配向することが認められた。
【0118】
作成したマイクロバブルとナノ粒子の懸濁液を下表に示す。マイクロバブルの自動粒子計数法に付随する不確実性により、各種製剤の濃度は顕微鏡画像からの直接計数により推定したため、概算値に過ぎない。
【0119】
【表2】

【0120】
3.超音波特性決定
Stride & Saffari(IEE Transactions in Ultrasonics,Ferroelectrics & Frequency Control;2005,52(12):2332−45)により記載されている装置等の標準装置を使用して希釈マイクロバブル懸濁液を通る超音波の減衰と位相速度の測定を実施した。測定の結果、気体を充填したバブルが製剤中に存在することが確認された。
【0121】
図10〜12に示すように、磁性マイクロバブル製剤C(i)は市販のSonoVue(登録商標)マイクロバブルと同等のエコー輝度をもつことが判明し、即ち同等レベルの超音波減衰が認められた。これに対して、振盪及び音波処理前のリン脂質と磁性ナノ粒子の初期混合物と、製剤Bを通る減衰は水と多少異なることが判明した。このことから、Cには気体を充填したバブルが存在することが確認された。なお、図12に示すように、磁性マイクロバブルの周波数応答はSonoVue(登録商標)と相違し、約4MHzに顕著なピークを示した。同様に、図10及び11から明らかなように、SonoVue(登録商標)に認められたような懸濁液を通る超音波の速度の顕著な変化はなかった。これらの知見は恐らく、SonoVue(登録商標)マイクロバブルの濃度と粒度分布が異なるためであると考えられる(表2参照)。
【0122】
マイクロバブルの磁気駆動
体積Vの磁性粒子に加えられる力は、以下の式により与えられ、ここで、χは体積磁化率(χ=M/H)であり、μは真空の透磁率(μ=4π×10−7Tm/A)であり、Bは磁束であり、Hは磁場である。
【数24】

【0123】
1.マイクロバブルの磁気含有量の分析
積(B・▽)Bが一定となるような力を印加することが可能なファラデーヨークを使用してマイクロバブルの磁気含有量を分析した。ファラデーヨークは磁極間の間隙で積(B・▽)Bが一定となるように磁極を配置した馬蹄形電磁石から構成される装置である。
【0124】
マイクロバブルに加えられる磁力はマイクロバブルに逆方向に作用する抗力により補償される。抗力はストークスの法則:
=−6πηrv
により表され、ここで、rはバブル外径であり、ηは流体粘度(この場合には、ηdH20=10−3kg・m/s)であり、vはバブル速度である。F+F=0の平衡条件を想定すると、速度は、以下の式により与えられる。
【数25】

【0125】
コーティングとして使用した市販磁性流体(http://www.liquidsresearch.com/products/ferro_sinlc.asp)の磁化率χは、SQUID磁力計を使用して印加磁場(H)の関数として磁化(M)をプロットするM−H曲線から計算した(図1)。SI単位では、χ=4πM[emu/cc]/H[Oe]である。H=1000 Oeのとき、χ=0.28である。上記方程式における磁性シェル体積は、以下の式により与えられ、ここで、R及びRは夫々マイクロバブルの半径と気体コアの半径である。
【数26】

【0126】
バブルの軌跡をビデオカメラで記録できるようにヨークを顕微鏡(Nikon Diaphot,倍率10倍対物レンズ,10倍接眼レンズ)に配置することにより速度を計算した。カメラからの画像で観察される面積はサンプルの257×274ミクロンに対応する。ヨークの間隙で直径1cmの顕微鏡スライドとその上に載せた外径10mm及び内径6mmのプラスチックワッシャーから構成されるウェルにバブルのdHO懸濁液約15μlを加えた。ヨークのコイル内の電流をオン(1.05A)にすると、バブルは力の方向に移動した。この電流では、モデルにより校正及び検証した場合に積(B・▽)Bは0.143T/mに等しい。5.55・10−18の磁性シェルをもつ典型的なマイクロバブル(厚さ50nmの磁性シェルをもつ3μm寸法のバブル)では、これは0.55pNの力に対応する。バブルの軌跡をビデオカメラに記録し、18秒間に移動した距離をスクリーンで測定することにより速度を計算する。実験の結果、インビボ使用に適した時間枠でマイクロバブルを駆動できることが明らかである。
【0127】
2.送達実験におけるマイクロバブルの磁気駆動
以下の送達実験ではハルバッハアレイを使用してマイクロバブルを細胞に引き寄せた。ハルバッハアレイは永久磁化を磁石間で一定の角度に回転させた永久磁石の配列である。この構成は単なる永久磁石に比較して3倍の力を印加することができ、細胞の面内に均一な磁場を形成するという利点がある。アレイは磁石間を90°ずつ回転させた横磁化(B=1.50T)の25×10×10mmの正方形断面のNdFeB磁石(Neotexx,Germany)5個から構成される。両方のアレイフレームの合計水平面積が65×28mmとなるように、磁石をアルミニウムフレームに挿入する。
【0128】
有限要素モデリング(Vector Fields,Oxford)から、アレイの5mm上の面に加えられる体積当たりの力を計算した。図14に示すように、トランスデューサの領域(直径20mmの円形領域)において力は非常に均一であり、平均値4.2・10T・A/m(4.2N/m)である。例えば、5.55・10−18の磁性シェルをもつ典型的なマイクロバブル(厚さ50nmの磁性シェルをもつ3ミクロン寸法のバブル)では、これは23pNの磁力に対応する。
【0129】
送達実験の実施方法
1.細胞培養
チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞をOptiCell(登録商標)(BioCrystal Inc.,Westerville,OH,USA)細胞培養装置で増殖させ、即ち10%ウシ胎仔血清(FCS)を添加したダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)10mlに送達実験の前日に細胞を撒き、実験のために〜80%コンフルエンスに達するように37℃にて5%CO下で増殖させた。
【0130】
2.送達分子
マイクロバブルが所定範囲の分子寸法でトランスフェクションを強化できるか否かを判定するために3種類の異なる型の分子を用いて送達実験を実施した。これらを表3に要約する。
【0131】
【表3】

【0132】
ホタルルシフェラーゼをコードするプラスミドDNAはトランスフェクションを定量的に評価する最も簡便な手段であったので、実験の大半はこれを使用して実施した。実験使用に先立ち、pLucプラスミドDNA 50μgを加えたOptiMEM無血清培地(Invitrogen)9.6mlに各OptiCell(登録商標)の培地を交換した後、マイクロバブル添加と超音波印加まで細胞をインキュベーターに戻した。このプラスミドはCMVプロモーターの制御下でホタルルシフェラーゼをコードするため、基質ルシフェリンを添加後に発光をモニターすることにより送達と細胞における発現を検出できる。化学的にコンピテントなDH5α大腸菌(Invitrogen)を形質転換し、得られた培養物をアンピシリン10Oμg/mlの存在下で増殖させた。pLucを抽出し、QIAfilter Maxiprep Kit(Qiagen,Crawley,UK)を使用して精製した。分光分析法を使用してプラスミド濃度(一般に1mg/ml)と純度(260nmと280nmの光学密度の比1.7〜1.9)を評価した。
【0133】
LucプラスミドDNAの代わりに(i)β−ガラクトシダーゼをコードするプラスミドDNA50μg、又は(ii)FITC−デキストラン(Mr 500kDa)1mg/ml、0.1mg/ml及び0.01mg/ml(2μM)を使用した以外は上記方法を繰返す一連の実験を実施した。
【0134】
3.マイクロバブル
バブル寸法、濃度等の経時変化の影響を最小限にするために、バブル作成は一般にトランスフェクション試験の〜1時間前に実施した。試験毎に、疑似、超音波及び/又は磁場印加のために水槽(下記参照)に入れる直前に適切な製剤(脂質単独、SonoVue(登録商標)、磁性マイクロバブル又は磁性ミセル)0.4mlをOptiCell(登録商標)に加えた。超音波印加前に(使用する場合には磁場の存在下で)1分間の沈降及び温度平衡時間を設けた。
【0135】
ルシフェラーゼ実験では、疑似、超音波及び/又は磁場印加を使用し、上下両側のOptiCell(登録商標)膜に細胞を生着させ、各種バブル製剤(表2)の各々を別々に試験した。次の送達実験(β−ガラクトシダーゼ及びFITC−デキストラン)では、製剤C(ii)のみを使用し、疑似又は超音波/磁場印加併用下で下側のOptiCell(登録商標)膜に細胞を生着させた。
【0136】
4.磁場
マイクロバブルの磁気駆動に関するセクションで上述したように、磁石表面と下側OptiCell(登録商標)膜の間隔を3mmとしてOptiCell(登録商標)プレートの下に配置したアルミニウムフレーム内で順に90°に配向した横磁化のNdFeB永久磁石5個から構成されるハルバッハアレイにより磁力を供給した。ハルバッハアレイを細胞に近接させる必要があったので、従来技術の実験構成に記載されているように音響吸収材を使用することはできなかった(Rahim et al;Ultrasound Med.Biol.,2006;32(8):1269−79)。そこで、超音波反射を最小限にするために、トランスデューサに最も近接するアレイの表面をテクスチャーパテ層(3mm厚)で覆った。
【0137】
磁場を利用しない実験条件では、超音波場に及ぼす効果を比較可能にするようにアレイの代わりにアルミニウム金属棒を使用した。磁場が磁性バブルに対する浮力の効果を抑制し、磁性バブルを細胞単層に対して夫々引き離すか又は引き寄せるように、細胞はパテ上に配置したOptiCell(登録商標)の上側又は下側膜に接着性であった。効率のために、アレイと対照を単一のOptiCell(登録商標)の両端に配置して同時に使用した(図15参照)。
【0138】
5.超音波印加
従来技術(Rahim et al;Ultrasound Med.Biol,2006;32(8):1269−79)に記載され、図15に示すような装置を使用して超音波印加を実施した。パテ吸収材で被覆した磁石アレイの上にOptiCell(登録商標)を載せて特注水槽内に水平に浮遊させ、熱交換器を使用すると共に、外部から加熱した水浴を水槽内に浮遊させた熱電対により制御して温度を37℃に維持した。内容物がトランスデューサの近接領域にくるように(トランスデューサと膜の間に空気がトラップされないように注意して)OptiCell(登録商標)の上側膜上に配置した球集束シングルエレメント圧電トランスデューサ(Imasonic,Besancon,Franceに特注)により1分後に超音波励起した。トランスデューサの公称中心周波数は1MHzであり、帯域幅68%であった。直径は20mmであり、曲率半径は67mmであった。この位置における音響場は測定され、均一であると判定されている(Rahim et al;Ultrasound Med.Biol.,2006;32(8):1269−79)。
【0139】
RF電力増幅器(利得58dB,モデルBT00500 BETA,Tomco Technologies,Norwood,Australia)を介して任意波長発生器(モデル33220A,Agilent Technologies Inc.,Loveland,CO,USA)から40サイクル1MHz正弦波パルスをトランスデューサに供給し、トランスデューサを励起した。パルス反復周波数は1kHzとし、パルスバースト時間は10秒間とした。デジタルオシロスコープ(Picoscope,Pico Technology Ltd.,St.Neots,UK)を使用して信号発生器及び増幅器からの出力をサンプリングした。発生した音圧は0.5、1、又は2MPa(ピーク・ツー・ピーク)であったが、実験では1MPaの数値を使用した。
【0140】
疑似超音波印加では、トランスデューサをOptiCell(登録商標)に配置したが、励起しなかった。
【0141】
6.細胞イメージング
超音波及び/又は磁場印加後、細胞を24時間インキュベートした後に試験した。マイクロバブルへの印加の延長に伴う遅発毒性の危険をなくすために、遺伝子送達から30分後に、培地を新鮮なDMEM/FCS増殖培地10mlに交換した。発現評価時点で全細胞はコンフルエントで健康であり、実験手順の悪影響がないことが確認された。
【0142】
ルシフェラーゼ実験では、15μg/mlルシフェリンを加えたOptiMEMに培地を交換し、37℃で更にインキュベーションしてから2時間後にIVISカメラ(Xenogen Corporation,California)を使用して発現を評価した。最高感度設定で37℃にて1分間露光中に光を検出した。実験の送達段階の細胞の向きに関係なく、細胞が(CCDカメラに向かって)最上層にくるように全OptiCells(登録商標)を撮像した。製造業者から提供されているLiving Imageソフトウェアを使用して画像を分析した。
【0143】
β−ガラクトシダーゼ実験では、24時間後に細胞を0.5%グルタルアルデヒドで15分間固定した後に酵素活性について組織化学的染色した。FITC−デキストラン実験では、OptiCell(登録商標)膜の切片を超音波印加(又は疑似超音波印加)ゾーンの中心から切り取り、Dako蛍光マウント培地を使用してガラススライド上で裏返した。ラップして冷蔵庫で一晩保存後に、Axiovisionソフトウェアキャプチャと共にZeiss Axioplan2で63倍油浸レンズを使用して蛍光顕微鏡分析した。
【0144】
送達実験の結果
1.ルシフェラーゼ発現
結果を図16に示す。マイクロバブル及び/又は磁性ミセルの不在下で超音波及び/又は磁場を印加したOptiCells(登録商標)では僅かなトランスフェクションしか認められず、予め形成されたマイクロバブルの不在下で有意なキャビテーション作用を生じるには超音波場の強度が不十分であることが判明した。
【0145】
リン脂質単独をコーティングしたバブル(製剤A)は細胞をOptiCell(登録商標)の上面に生着させた場合には超音波印加によりトランスフェクションを促進したが、細胞を下面に生着させた場合には著しく低下した(約10分の1)(図16参照)。これは市販超音波造影剤マイクロバブル(SonoVue(登録商標),Bracco,Milan Italy)で得られた従来の結果(Rahim et al;Ultrasound Med.Biol.,2006;32(8):1269−79)と一致し、この場合には浮力により生じる細胞とマイクロバブルの接近の重要性が確認された。予想通り、磁場の存在はリン脂質単独のバブルによるトランスフェクションに殆ど影響を与えないことが判明した。同様に、疑似印加でもトランスフェクションは認められなかった。
【0146】
細胞をOptiCell(登録商標)の下面に生着させ、超音波と磁場の両方を印加した場合には、磁性ナノ粒子単独の懸濁液では非常に少量のトランスフェクションしか生じないことが判明した。但し、効果は試験間でむらがあった。
【0147】
(細胞を下面に生着させた場合には)磁性ミセル粒子(B)は超音波と磁場印加の両方でより有効であることが判明したが、磁束は細胞を上面に生着させた場合に製剤Aにより生じる磁束に比較して弱かった(図16参照)。興味深いことに、超音波印加単独の結果と超音波印加と磁場併用の結果に殆ど差は認められなかった(図16)。疑似超音波及び/又は磁場印加下のトランスフェクションはナノ粒子とミセルのいずれでも僅かであることが分かった。
【0148】
リン脂質単独のバブルと磁性ミセルを併用すると(A+B)、細胞を下面に生着させて超音波のみを印加した場合には殆ど活性を生じなかった。予想通り、総磁束はBで認められた磁束と同様であった。他方、超音波と磁場を両方印加すると、顕著なトランスフェクションが認められた(図16)。
【0149】
製剤C(i)では、細胞を下面に生着させて超音波のみを印加した場合には比較的低レベルのトランスフェクションしか認められなかった(図16)が、磁場のみを印加すると、レベルはやや増加した。他方、同時に印加すると、有意な活性が得られた(図16)。
【0150】
C(ii)は定量的に同様の結果を生じたが、総磁束レベルは定量的に著しく高かった。更に、この場合には、磁場単独によるトランスフェクションは超音波単独により生じるトランスフェクションとほぼ等しかった。
【0151】
2.β−ガラクトシダーゼ発現
図17に示すように、β−ガラクトシダーゼ実験でも同様の結果が得られた。マイクロバブル製剤C(ii)の送達効率はC(i)の約3倍であることが判明した。
【0152】
3.FITC−デキストラン送達
FITC−デキストラン実験からも、超音波と磁場印加を併用するとトランスフェクションが増加し(図18)、マイクロバブル製剤C(ii)はやはりC(i)よりも有効であることが判明した。図面から明らかなように、いずれの場合にもデキストランの細胞接着が認められたが、細胞取込みが判明したのは印加併用の場合のみであった。従って、磁性マイクロバブルは各種分子寸法をトランスフェクトするのに有効であることが立証された。
【0153】
4.結論
製剤A+B及びC(ii)は超音波と磁場を同時に印加した場合にpLucプラスミドDNAのトランスフェクションを促進するのに最も有効であることが判明した。このことから、C(ii)はコーティングに磁性材料を含むマイクロバブルから主に構成されていると判断される。従って、バブルは磁場からの力により細胞に引き寄せられ、近接度が増加した結果、トランスフェクションが増加し、即ち浮力の結果としてAで認められた効果と同様の効果を生じた。この仮説はマイクロバブルの光学顕微鏡観察により裏付けられ、バブルはAのバブルとは外観が相違し、印加磁場に応答して移動することが認められた。リン脂質に加えて比較的緻密な層をコーティングしたマイクロバブルは磁性ミセル及び/又は単独の磁性ナノ粒子よりも浮力が大きいが、リン脂質のみをコーティングしたバブルほど大きくなかったので、製剤C(ii)がC(i)よりも有効であるという事実もこれを裏付けている。従って、製剤C(i)の最上層のすぐ下のサブフラクションを抽出することにより、C(ii)は(粒子混合物よりも)高濃度の磁気活性マイクロバブルを含んでおり、細胞との相互作用が多かったため、トランスフェクションを促進したと思われる。
【0154】
リン脂質単独のバブル(A)と磁性ミセル(B)を併用してもトランスフェクション増加が生じたという事実は第2のメカニズムの存在を示唆している。図16に示すように、磁性材料の不在下では、細胞をOptiCell(登録商標)の下面に生着させた場合には製剤Aは僅かなトランスフェクションしか生じなかった。従って、A+Bの結果はB単独の結果(図16)と同様であると予想されたが、意外にもそうではなかった。AとBを混合すると、ある程度共役し、その結果、C(ii)の場合と同様に磁気活性マイクロバブルが形成されたと考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
キャリア液体用マイクロバブルの懸濁液の作成方法であって、前記マイクロバブルが気体コアと液体シェルをもち、前記液体シェルが磁性ナノ粒子を含み、前記方法が、
(a)以下の条件:
(i)キャリア液体中のマイクロバブルの浮力(FBW)による力がマイクロバブルの重量(W)よりも大きく;
(ii)キャリア液体に印加される磁場によりマイクロバブルに加えられる磁力(F)がマイクロバブルの重量(W)と浮力(FBW)による力の和よりも大きく;
(iii)マイクロバブルに加えられる前記磁力(F)がキャリア液体の流れによりマイクロバブルに加えられる粘性抵抗(F)による力よりも大きく;
(iv)超音波印加によりマイクロバブルを検出可能且つ破裂可能にできるように超音波に対するマイクロバブルの散乱断面積(σscat)を設定する
という条件を満足するように、マイクロバブルの気体コアに対するシェルの寸法とシェル内のナノ粒子の量を決定する段階と;
(b)マイクロバブルのシェル内のナノ粒子の量と気体コアに対するシェルの相対寸法を使用し、マイクロバブルの懸濁液を作成するために必要な磁性ナノ粒子の量とシェル用液体の量を決定する段階と;
(c)懸濁液を作成するために必要な磁性ナノ粒子の量とシェル用液体の量を使用してマイクロバブルの懸濁液を作成する段階を含む前記方法。
【請求項2】
液体シェルに懸濁した磁性ナノ粒子の体積分率αとしてマイクロバブルのシェル内のナノ粒子の量を決定する請求項1に記載の方法。
【請求項3】
液体シェル内の磁性ナノ粒子の体積分率αを決定する段階が更に以下の条件:
(v)0<α<0.2
を満足する請求項2に記載の方法。
【請求項4】
請求項1に記載の方法の条件(i)が、
【数1】

により表され、好ましくは、キャリア液体中のマイクロバブルの浮力(FBW)による力は方程式:
【数2】

により決定され、好ましくは、マイクロバブルの重量(W)は方程式:
【数3】

により決定され、ここで、gは重力による加速度であり、ρはキャリア液体の密度であり、Rはマイクロバブルの半径であり、ρは気体コア内の気体の密度であり、Rは気体コアの半径であり、αはマイクロバブルのシェル内の磁性ナノ粒子の体積分率であり、ρはナノ粒子が懸濁している液体の密度であり、ρnpは磁性ナノ粒子の密度である請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
キャリア液体が水、細胞培養培地、ヒトもしくは動物血液、又はヒトもしくは動物リンパ液の1種である請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
請求項1に記載の方法の条件(ii)が、
|F|>|FBW+W|
により表され、好ましくは、マイクロバブルに加えられる磁力(F)は方程式:
【数4】

により決定され、ここで、χはシェルに懸濁した磁性ナノ粒子の有効体積磁化率であり、Bは印加磁場の強度であり、αはマイクロバブルのシェル内の磁性ナノ粒子の体積分率であり、Rはマイクロバブルの半径であり、Rは気体コアの半径であり、μはフリースペースの透磁率である請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
印加磁場Bを120≧B≧0T、好ましくは15≧B≧0.01T、より好ましくは1.5≧B≧0.1Tとしてマイクロバブルの磁力(F)を決定する請求項6に記載の方法。
【請求項8】
請求項1に記載の方法の条件(iii)が、
|F|>|F
により表され、好ましくは、キャリア液体中のマイクロバブルに加えられる粘性抵抗(F)による力は方程式:
【数5】

により決定され、より好ましくは、キャリア液体中のマイクロバブルに加えられる粘性抵抗(F)による力は方程式:
=6πμuR02
により決定され、ここで、uはキャリア液体の流速であり、Cは抗力係数であり、R02はマイクロバブルの静的半径であり、μはキャリア液体の粘度である請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
流速uを20≧u≧0ms−1、好ましくは10≧u≧0.01ms−1、より好ましくは5≧u≧0.1ms−1としてマイクロバブルに加えられる粘性抵抗(F)による力を決定する請求項8に記載の方法。
【請求項10】
請求項1に記載の方法の条件(iv)が、
【数6】

により表され、ここで、ωは超音波の周波数であり、ρはキャリア液体の密度であり、R01はマイクロバブルの気体コアの初期半径であり、μはキャリア液体の粘度である請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
超音波周波数ωをω=2πf及び20≧f≧0.5MHz、好ましくは15≧f≧1MHzとしてマイクロバブルの散乱断面積σscatを決定する請求項10に記載の方法。
【請求項12】
シェル内のナノ粒子の量と気体コアに対するシェルの相対寸法が以下のパラメータ:
【数7】

の1種以上を使用して決定される請求項1から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
パラメータξがマイクロバブルの気体コアに対するシェルの相対寸法を表し、ここで、
【数8】

であり、Rはマイクロバブルの半径であり、Rは気体コアの半径であり、好ましくはξは1以下である請求項1から12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
請求項1の段階(a)がマイクロバブルの気体コアに対するシェルの最小相対寸法を決定する段階を含む請求項1から13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
請求項1の段階(a)がマイクロバブルのシェル内のナノ粒子の最少量を決定する段階を含む請求項1から14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
マイクロバブルの懸濁液を作成する段階が、マイクロバブルシェルのコーティング用材料と磁性ナノ粒子とシェル用液体を含有する水溶液を振盪及び/又は音波処理した後、溶液を沈降させた後に一般に溶液の下部を抽出する段階を含む請求項1から15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
磁性ナノ粒子が強磁性ナノ粒子であり、好ましくは酸化鉄ナノ粒子である請求項1から16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
磁性ナノ粒子の平均粒径が5〜30nm、好ましくは6〜25nm、より好ましくは8 〜12nmである請求項1から17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
マイクロバブルの気体コアが空気、希ガス、二酸化炭素、窒素、酸素及びその混合物から選択され、好ましくは気体コアが空気である請求項1から18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
マイクロバブルの液体シェルが炭化水素油を含み、好ましくは液体シェルかイソパラフィン又は大豆油を含み、より好ましくは液体シェルがイソパラフィンである請求項1から19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
マイクロバブルの液体シェルが更にポリマー、界面活性剤又は脂質の外側コーティングを含み、好ましくは外側コーティングが水素化L−α−ホスファチジルコリンである請求項20に記載の方法。
【請求項22】
作用物質、好ましくは治療薬をマイクロバブルの懸濁液に加える請求項1から21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
作用物質、好ましくは治療薬をマイクロバブルの液体シェルに懸濁させる請求項1から22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
気体コアと磁性ナノ粒子を含む液体シェルをもつキャリア液体用マイクロバブルについて、以下の条件:
(i)キャリア液体中のマイクロバブルの浮力(FBW)による力がマイクロバブルの重量(W)よりも大きく;
(ii)キャリア液体に印加される磁場によりマイクロバブルに加えられる磁力(F)がマイクロバブルの重量(W)と浮力(FBW)による力の和よりも大きく;
(iii)マイクロバブルに加えられる前記磁力(F)がキャリア液体の流れによりマイクロバブルに加えられる粘性抵抗(F)による力よりも大きく;
(iv)超音波印加によりマイクロバブルを検出可能且つ破裂可能にできるように超音波に対するマイクロバブルの散乱断面積(σscat)を設定する
という条件と、場合により請求項2から15のいずれか一項に記載の条件、段階、パラメータ及び/又は方程式を適用することにより、マイクロバブルの気体コアに対するシェルの寸法とシェル内のナノ粒子の量を決定する方法。
【請求項25】
コンピュータシステムで実行した場合に、請求項24に記載の方法をコンピュータに実施させるコンピュータで実行可能なコードを含むコンピュータプログラム。
【請求項26】
コンピュータシステムで実行した場合に、キャリア液体用のマイクロバブルの懸濁液の作成で使用する方法をコンピュータに実施させるコンピュータで実行可能なコードを含むコンピュータプログラムであって、前記マイクロバブルが気体コアと液体シェルをもち、前記液体シェルが磁性ナノ粒子を含み、前記方法が、
(a)マイクロバブルに印加する磁場B及び超音波周波数ωと、キャリア液体の流速uの数値を受信する段階と;
(b)B、ω及びuの数値を使用し、以下の条件:
(i)キャリア液体中のマイクロバブルの浮力(FBW)による力がマイクロバブルの重量(W)よりも大きく;
(ii)キャリア液体に印加される前記磁場によりマイクロバブルに加えられる磁力(F)がマイクロバブルの重量(W)と浮力(FBW)による力の和よりも大きく;
(iii)マイクロバブルに加えられる前記磁力(F)がキャリア液体の流れによりマイクロバブルに加えられる粘性抵抗(F)による力よりも大きく;
(iv)超音波印加によりマイクロバブルを検出可能且つ破裂可能にできるように超音波に対するマイクロバブルの散乱断面積(σscat)を設定する
という条件を適用することにより、マイクロバブルの気体コアに対するシェルの寸法とシェル内のナノ粒子の量を決定する段階と;
(c)マイクロバブルのシェル内のナノ粒子の量と気体コアに対するシェルの相対寸法を使用し、マイクロバブルの懸濁液を作成するために必要な磁性ナノ粒子の量とシェル用液体の量を決定する段階と;
(d)懸濁液を作成するために必要な磁性ナノ粒子の量とシェル用液体の量を出力する段階を含む前記方法。
【請求項27】
懸濁液を作成するために必要な磁性ナノ粒子の量とシェル用液体の量を出力する段階が、マイクロバブルの懸濁液を自動的に作成するための作成手段に出力する請求項26に記載のコンピュータプログラム。
【請求項28】
前記方法が請求項2から15のいずれか一項に記載の条件、段階、パラメータ及び/又は方程式の1種以上を含む請求項27に記載のコンピュータプログラム。
【請求項29】
請求項25から28のいずれか一項に記載のコンピュータプログラムを格納するコンピュータ読み取り可能な媒体。
【請求項30】
請求項1から23のいずれか一項に記載の方法により取得されるか又は取得可能なマイクロバブルの懸濁液。
【請求項31】
キャリア液体用マイクロバブルの懸濁液であって、前記マイクロバブルが気体コアと液体シェルをもち、前記液体シェルが磁性ナノ粒子を含み、マイクロバブルの実質的に全部が以下の条件:
(i)キャリア液体中のマイクロバブルの浮力(FBW)による力がマイクロバブルの重量(W)よりも大きく;
(ii)キャリア液体に印加される磁場によりマイクロバブルに加えられる磁力(F)がマイクロバブルの重量(W)と浮力(FBW)による力の和よりも大きく;
(iii)マイクロバブルに加えられる前記磁力(F)がキャリア液体の流れによりマイクロバブルに加えられる粘性抵抗(F)による力よりも大きく;
(iv)超音波印加によりマイクロバブルを検出可能且つ破裂可能にできるように超音波に対するマイクロバブルの散乱断面積(σscat)を設定する
という条件を満足する前記懸濁液。
【請求項32】
マイクロバブルが請求項17から21のいずれか一項に記載のものである請求項31に記載の懸濁液。
【請求項33】
マイクロバブルの粒径が1〜10μm、好ましくは1〜5μmである請求項30又は31に記載の懸濁液。
【請求項34】
マイクロバブルの粒径が8μm以下である請求項30から33のいずれか一項に記載の懸濁液。
【請求項35】
懸濁液が更に作用物質、好ましくは治療薬を含有する請求項30から34のいずれか一項に記載の懸濁液。
【請求項36】
作用物質、好ましくは治療薬をマイクロバブルの液体シェルに懸濁した請求項30から35のいずれか一項に記載の懸濁液。
【請求項37】
各請求項が請求項34に従属し、前記作用物質が治療薬である場合の、ヒト又は動物生体の治療用の請求項35又は36に記載の懸濁液。
【請求項38】
ヒト又は動物生体の治療用医薬の製造用としての請求項37に記載の懸濁液の使用であって、
(a)前記医薬をヒト又は動物生体に投与し;
(b)場合により超音波を使用してマイクロバブルの位置を監視し;
(c)印加磁場を使用して治療対象の標的部位にマイクロバブルをインビボ駆動し;
(d)超音波を使用してマイクロバブルを標的部位で破裂させることによる前記使用。
【請求項39】
インビトロ細胞トランスフェクション方法であって、
(a)培地と容器表面に生着させた細胞を含む細胞培養用容器を準備する段階と;
(b)トランスフェクション用DNAもしくはRNAを作用物質として含有する請求項35もしくは36に記載のマイクロバブルの懸濁液を培地に添加する段階、又は
請求項30から34のいずれか一項に記載のマイクロバブルの懸濁液を添加し、トランスフェクション用DNAもしくはRNAを添加する段階と;
(c)印加磁場を使用してマイクロバブルを表面に駆動する段階と;
(d)超音波を使用してマイクロバブルを表面で破裂させる段階
を含む前記方法。
【請求項40】
作用物質の細胞毒性を評価するためのインビトロ細胞培養アッセイ方法であって、
(a)培地と容器表面に生着させた細胞株に由来する細胞を含む細胞培養用容器を準備する段階と;
(b)細胞培養アッセイ用の物質を作用物質として含有する請求項35もしくは36に記載のマイクロバブルの懸濁液を培地に添加する段階、又は
請求項30から34のいずれか一項に記載のマイクロバブルの懸濁液を添加し、細胞培養アッセイ用の作用物質を添加する段階と;
(c)印加磁場を使用してマイクロバブルを表面に駆動する段階と;
(d)超音波を使用してマイクロバブルを表面で破裂させる段階;
(e)細胞株に由来する細胞に対する作用物質の細胞毒性を測定する段階
を含む前記方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図6】
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【図7】
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【図18】
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【公表番号】特表2011−525899(P2011−525899A)
【公表日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−515596(P2011−515596)
【出願日】平成21年6月26日(2009.6.26)
【国際出願番号】PCT/GB2009/001614
【国際公開番号】WO2009/156743
【国際公開日】平成21年12月30日(2009.12.30)
【出願人】(505367464)ユーシーエル ビジネス ピーエルシー (20)
【Fターム(参考)】