説明

磁性体粉末を含む塗料の塗装方法

【目的】磁性体塗料に対して磁力変化を与えることにより、特殊な塗装効果を発生させる。
【構成】被塗装部材10Aの裏面へスペーサー45を介してマグネットシート30を重ねる。スペーサー45は略くさび状をなし、一端側から他端側へ向かって厚さが漸増する。このため塗装面11とマグネットシート30の間隔は、スペーサー45の一端側が最も小さく、他端側が最も大きくなり、これに応じて表面における磁力は一端側から他端側へ漸減する。この塗装面11へ磁性体塗料を塗装すると、磁力に応じて濃度が変化し、グラデーション塗装になる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、磁性体粉末を含む塗料(以下、磁性体塗料という)を用いた塗装方法に関する。
【背景技術】
【0002】
塗装すべき被塗装部材の裏面に、粒状をなす多数の微細な磁性体を練り込んでシート状にしてから着磁させてなるマグネットシートを所定形状に裁断して固定するとともに、被塗装部材の表面である塗装面に、液状の磁性体塗料を塗布し、磁性体塗料中の磁性体粉末を、マグネットシートの磁力で特定方向への配向や密度変化等をさせて、特殊な色調効果等を達成する塗装方法が公知である。
【特許文献1】特開平3−30876号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、上記塗装方法においては、被塗装部材の厚みが一定であれば、被塗装部材の裏面へ全体が均一に接触する所定形状のマグネットシートは、全範囲で塗装面との間隔が一定になるため、マグネットシートが重なっている塗装面における磁力は全範囲で一定であるから、磁性体粉末に対する磁力による配向等の効果等が一定であり、部分的に濃淡を変化させる等、塗装効果を変化させることはできなかった。
一方、マグネットシートの磁力変化を利用できれば、より多様な塗装効果が得られることが予想できる。
そこで本願発明は、このような特殊な塗装効果を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題を解決するため、磁性体粉末を含む塗料の塗装方法に係る請求項1の発明は、塗装されるべき被塗装部材の裏面に磁石を配置した状態で表面に磁性体粉末を含む塗料を塗装する方法において、
前記磁石はマグネットシートを用いるとともに、
このマグネットシートを、前記被塗装部材に対して近い部分と遠い部分があるように間隔を変化させて前記被塗装部材の裏面に固定したことを特徴とする。
【0005】
請求項2の発明は、上記請求項1において、前記マグネットシートと前記被塗装部材との間隔を、近い部分から遠い部分へ漸次遠ざかっていくように被塗装部材の裏面に固定したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
請求項1の発明によれば、マグネットシートを被塗装部材の裏面に対して間隔を変化させて取付けたので、この間隔変化に応じて塗装面に磁力変化を生じさせ、これにより磁性体塗料中における磁性体粉末の配向や密度を変化させるため、塗装の濃淡や輪郭線のシャープさが変化する等、変化に富んだ特殊な塗装効果を実現できる。
【0007】
請求項2の発明によれば、マグネットシートと被塗装部材との間隔を、小さい部分から大きい部分へ漸次遠ざかっていくように変化させたので、最も間隔が近い部分の塗装面における磁力は最大となって塗装色は濃色になり、最も間隔が遠い部分の塗装面における磁力は最小となって塗装色は淡色になり、中間部は濃色から淡色へと連続的に濃度が変化する。その結果、グラデーション効果のある塗装を容易に実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、図面に基づいて実施例を説明する。図1は、塗装品10の表面側を示す図であり、表面には磁性体塗料にて塗装された塗装膜60が形成されている状態を示す。塗装膜60の一部は、磁石を用いた磁力変化による特殊な塗装効果をなす特殊効果部64が形成されている。この例では、ふたつの腕部61と62が、中央の交差部63で交差した形状をなしている。但しこのようなデザイン・模様等は任意であり、後述するようにマグネットシートの形状により自在に表現できる。
【0009】
塗装品10は自動2輪車用カウル等の板状をなす外装部品であり、ポリカーボネート等の適宜樹脂材料からなり、塗装面が3次元形状の曲面を有する成形品であり、塗装前の表面は予め平滑に仕上げられている。
塗装品10の材料は非磁性体である。マグネットを用いて特殊効果を生じさせる本磁性体塗装においては、マグネットの磁力線が意図しないような変化を受けることがないないようにするため非磁性体が好ましい。
なお、塗装品10の塗装前状態のものを塗装されるべき部材である被塗装部材10Aとして区別するものとする。
【0010】
図2は、本磁性体塗装に使用する治具20の表面側を示す図である。治具20は被塗装部材10A(図3)の裏面(塗装面と反対側の面)へ重ね合わせられるよう、被塗装部材10Aに近似した形状に形成され、FRP等の適宜非磁性体材料から構成される。治具20の構成材料は成形の容易さ等より樹脂製とすることが好ましい。但し、石膏や木製等種々の材料が可能である。
【0011】
治具20も表面21(被塗装部材10Aの裏面と対面する側の面)は、塗装面との距離が略一定になるように被塗装部材10Aと同様の3次元曲面をなし、その一部に磁石であるシート状マグネット30が取付けられている。シート状マグネット30は公知のマグネットシートから構成され、このマグネットシートを所望形状に切り取ったものである。本実施例では斜め左肩上がりの腕状部31と斜め右肩上がりの腕状部32を中央で交差させたような形状をなし、中央部33は両腕状部が交差した部分に相当する。なお、本実施例の各腕状部31,32は、中間部が幅広で先端へ向かって幅狭になるよう形状変化している。但し、この形状は任意である。
【0012】
マグネットシートは、ゴム等の成形材料中に多数の微細な磁性体粒子を練り込んでから、カレンダー加工等によりシート状に押し出し、さらに磁性体粒子を着磁させて得られるものであり、磁性体粒子の磁化容易軸の配向により等方性と異方性がある。このうち、異方性マグネットシートは、磁性体粒子の磁化容易軸を一定方向へ揃えて配向したものであり、その後の着磁により強い磁力が得られる。等方性マグネットシートは磁性体粒子の磁化容易軸をランダムに配向させたものであり、着磁後の磁力は異方性マグネットシートに比べて相対的に弱くなる。本願発明ではいずれも使用可能である。
【0013】
図3は被塗装部材10Aの裏面に治具20を重ねた状態のものを、治具20の裏側から示す図である。被塗装部材10Aの裏面12及び治具20の裏面22はそれぞれ凹曲面をなしている(図4参照)。
【0014】
図4は被塗装部材10Aと治具20をセットする際の模式断面であり、Aのように、まず治具20の上にゴム等の軟質弾性体材料からなるクッション材40を乗せ、さらにその表面に両面接着テープ41等の取付手段を用いてマグネットシート30を固定する。このマグネットシート30の上にスペーサー45を介して被塗装部材10Aを重ね、マグネットシート30を被塗装部材10Aの裏面12へ押しつける。
【0015】
なお、クッション材40及びスペーサー45は治具20の一部をなす。すなわち治具20は剛性部材からなる本体部とクッション材40のような弾力部材並びにスペーサー45のような間隔調整部材とを備えるものであり、弾力部材であるクッション材40は金属製のバネ等に変えることもできる。
【0016】
図のBに示すように、被塗装部材10A側に内側へ屈曲した縁部13が存在するときは、この縁部13へ治具20の縁部23を係合させることにより、クッション材40を圧縮変形させながら、その反発力でマグネットシート30を被塗装部材10Aの裏面12側へ押しつける。
この押しつけは、スプリング等により、強い力で治具20を被塗装部材10A側へ押圧することによってもよい。
【0017】
このとき、クッション材40が、被塗装部材10Aの裏面12における曲面形状に倣って変化するので、マグネットシート30及びスペーサー45全体を被塗装部材10Aの裏面12へほぼ均一な力で押しつけ、スペーサー45を介してマグネットシート30全体を裏面12へ密接させることができる。このため被塗装部材10A肉厚が一定ならば、塗装面11からマグネットシート30までの間隔をスペーサー45の厚みに応じて変化するようになっている。
【0018】
スペーサー45は樹脂等の適宜材料からなり、クッション材40による押しつけによって、被塗装部材10Aの裏面12における曲面形状に倣って曲がる等の弾性変形を可能にするが、圧縮変形して厚み変化を生じることがないようなある程度剛性のある材料で構成される。図中の42はピン状をなす固定具であり、縁部13と23の一部を貫通して刺し込む等の適宜方法により、分解しないように固定する。
【0019】
図5は塗装工程を示し、図4のBにおける被塗装部材10Aと治具20のセット状態にて被塗装部材10Aの予め平滑に形成された表面である塗装面11へ液状の磁性体塗料50を塗布する。この図における磁性体塗料50の層は内部構造を説明するため大きさを誇張して示してある。この磁性体塗料50中には、磁性体粉末51が混合されており、マグネットシート30の磁力線密度に応じて不均一な配向密度をなす。
【0020】
本実施例では、断面略くさび状をなすスペーサー45の介在により、スペーサー45の厚みが図の右側から左側へ向かって漸増変化しているため、塗装面11とマグネットシート30との間隔が変化して、被塗装部材10Aの表面である塗装面11における磁力が変化するので、この塗装面11における磁力変化に応じて、磁性体塗料50中における磁性体粉末51の密度も大・小に変化する。このように磁性体粉末51の密度が変化した状態で磁性体塗料50が乾燥固化されて塗装面を形成すると、塗装膜60には磁性体粉末51の密度変化に応じて塗装色の濃淡変化が生じることになる。
【0021】
図6はスペーサー45及びマグネットシート30の使用による塗装効果を説明するための模式図である。
図のAに示すように、被塗装部材10Aとマグネットシート30の間に、水平な塗装面11に対してθなる傾斜角度を有する略くさび状断面のスペーサー45を介在させてある。このようにすると、スペーサー45の厚さは最小部分(図の右側端部)から最大部(図の左側端部)へと連続して変化し、スペーサー45の厚みが最小となる部分は、マグネットシート30と塗装面との間隔が最小になって、塗装面11における磁力線密度が最大になる。逆にスペーサー45の厚みが最大となる部分は、マグネットシート30と塗装面との間隔が最大になって、塗装面における磁力線密度が最小になる。
【0022】
図のBは塗装膜60を示す。この塗装膜60は、塗装面11の磁力変化に応じて塗装色の濃度を変化させる。塗装面11の磁力は、スペーサー45の傾斜角度をθとすることにより、スペーサー45の厚みを図の右側から左側へ向かって漸増させたので、塗装面における磁力線密度は図の右側から左側へ向かって漸減するように変化する。この塗装面における磁力変化に応じて、特殊効果部64の塗装膜60中における磁性体粉末の密度は、図の右端65から左端66へ向かって漸減することになる。
【0023】
このため、最も間隔が小さくなって接近している部分である右端65の塗装面における磁力は最大となって塗装色は最も濃色になる。一方最も間隔が大きくなって離れている部分である左端66は塗装面における磁力が最小となって塗装色は最も淡色になる。中間部67は濃色から淡色へと連続的に濃度が変化するグラデーション部となる。その結果、グラデーション効果のある特殊効果部64を有する塗装を容易に実現できる。
【0024】
また、スペーサー45の傾きθを変化させれば、グラデーション変化の程度を自由に調節できる。すなわちθを大きくすれば、グラデーション変化が急になり、狭い範囲で塗装色の濃度変化を生じ、θを小さくすれば、グラデーション変化が緩慢になり、広い範囲でゆっくりと塗装色の濃度変化を生じることになる。
したがって、塗装面11とマグネットシート30の間隔を連続的に変化させるだけで、種々に異なるグラデーション表現を容易に実現することができる。
【0025】
なお、スペーサー45は上記実施例のように、全体が略くさび状の一様断面をなすものばかりではなく、種々に厚みを変化させることができる。例えば、くさび状断面を複数回繰り返すようにすれば、グラデーション変化を複数回繰り返すことができる。また部分的に肉厚が変化したり、中央側が薄くなるように変化したものでもよい。このようにしてもマグネットシートと塗装面の間隔が変化することによって塗装色の濃度が変化することに変わりはなく、多様なデザイン的変化を生じさせることができる。さらに厚さを階段状に変化させれば、濃淡の変化を階調的に変化させることができる。
【0026】
したがって、上記実施例のようなグラデーション表現を生じなくても、マグネットシート30と被塗装部材10A表面との間隔を変化させることにより、塗装色を濃淡に変化させた特殊効果を生じることができる。また、マグネットシート30の着磁方法により、磁性体塗料中における磁性体粉末51の配向を変化させたり、輪郭線のシャープさを変化させる等して、変化に富んだ特殊な塗装効果を実現させることもできる。
【0027】
本願発明は上記の実施例に限定されるものではなく、発明の原理内において種々に変形や応用が可能である。本願発明の適用対象は車両用部品に限らず磁性体塗装を施すものであればどのようなものでもよい。
また、磁性体塗料は、液状等流動状態で塗布し、その後、焼き付けや乾燥等で硬化して塗膜を形成するものであれば、通常の各種塗料を使用できる。
磁性体粉末は鉄粉等、磁化作用により移動したり配向でき、かつ塗料により含有できるものであればよい。塗料の顔料として用いられるものであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】塗装品を表面側から示す図
【図2】治具を表面側から示す図
【図3】被塗装部材に重ねた状態の治具を裏面側から示す図
【図4】被塗装部材と治具をセットする際の模式断面
【図5】塗装工程を示す図
【図6】スペーサーの構造及び効果を説明するための模式図
【符号の説明】
【0029】
10:塗装品、10A:被塗装部材、11:塗装面(表面)、12:裏面、13:縁部、20:治具、21:表面、22:裏面、23:縁部、30:シート状マグネット、50:塗料、51:磁性体粉末、60:塗装膜、64:特殊効果部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塗装される被塗装部材の裏面に磁石を配置した状態で表面に磁性体粉末を含む塗料を塗装する方法において、
前記磁石はマグネットシートを用いるとともに、
このマグネットシートを、前記被塗装部材の塗装面に対して近い部分と遠い部分があるように間隔を変化させて前記被塗装部材の裏面に固定したことを特徴とする磁性体粉末を含む塗料の塗装方法。
【請求項2】
前記マグネットシートと前記被塗装部材の塗装面との間隔を、近い部分から遠い部分へ漸次遠ざかっていくように被塗装部材の裏面に固定したことを特徴とする請求項1に記載した磁性体粉末を含む塗料の塗装方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−154033(P2009−154033A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−331513(P2007−331513)
【出願日】平成19年12月25日(2007.12.25)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】