説明

磁性体粉末を含む塗料の塗装方法

【目的】磁性体塗料に対して磁力変化を与えることにより、特殊な塗装効果を発生させる。
【構成】マグネットシートを帯状にカットして得られるシート状マグネットを構成する2つのカット片を重ね合わせて被塗装部材の裏面に密着させ、表面に磁性体塗料を塗布すると、磁性体塗料中における磁性体粉末の密度が磁力の強さに応じて変化して、塗装の一部に特殊効果部64を形成する。このうち、重ね合わせ部分に相当する交差塗装部63の塗装が最も濃色になり、周囲部分には明確な輪郭線65が形成され、全体の塗装色が濃淡に変化する特殊な塗装効果を生じる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、磁性体粉末を含む塗料(以下、磁性体塗料という)を用いた塗装方法に関する。
【背景技術】
【0002】
多数の磁性体粒子を練り込んでシート状にしたマグネットシートを所定形状に裁断したシート状マグネットを被塗装部材の裏面に固定するとともに、被塗装部材の表面である塗装面に、液状の磁性体塗料を塗布し、磁性体塗料中の磁性体粉末を、シート状マグネットの磁力で特定方向への配向や密度変化等をさせて、特殊な色調効果等を達成する塗装方法が公知である。
【特許文献1】特開平3−30876号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、上記塗装方法においては、被塗装部材の板厚が一定であれば、被塗装部材の裏面へ全体が均一に接触するシート状マグネットは、全範囲で塗装面との間隔が一定になるため、シート状マグネットが重なっている塗装面における磁力は全範囲で一定であるから、磁性体粉末に対する磁力による配向等の効果等が一定であり、部分的に濃淡を変化させる等、塗装効果を変化させることはできなかった。
一方、シート状マグネットの磁力変化を利用できれば、より多様な塗装効果が得られることが予想できる。
そこで本願発明は、このような特殊な塗装効果を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題を解決するため、磁性体粉末を含む塗料の塗装方法に係る請求項1のお発明は、被塗装部材の裏面に磁石を配置した状態で表面に磁性体粉末を含む塗料を塗装する方法において、
前記磁石は、複数の磁性体粒子を母材シートへ練り込んでその後着磁させてなるシート状マグネットを複数用いるものであるとともに、
これら複数のシート状マグネットを部分的に重ね合わせた状態で前記被塗装部材の裏面へ固定し、
この状態で磁性体粉末を含む塗料を前記被塗装部材の表面に塗装することを特徴とする。
【0005】
請求項2の発明は、上記請求項1において、前記着磁した磁性体粒子の磁極が複数の並行した線状をなすように配置されているものであることを特徴とする。
【0006】
請求項3の発明は、上記請求項1において、前記シート状マグネットは、複数の前記着磁した磁性体粒子の磁極が全面へランダムに配置されているものであることを特徴とする。
【0007】
請求項4の発明は、上記請求項2において、複数の前記シート状マグネットを重ね合わせて配置するとともに、この互いに重ね合わされる部分では、前記各シート状マグネットの前記磁極配列方向が交差するように配置したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
請求項1の発明によれば、複数のシート状マグネットを重ね合わせて被塗装部材の裏面へ固定し、この状態で磁性体粉末を含む塗料を被塗装部材の表面に塗装するので、塗装面における磁力は、複数のシート状マグネットの重なり部が最も強くなり、部分的に磁力変化が生じる。この磁力変化により、磁性体塗料中における磁性体粉末の配向や密度を変化させるため、塗装の濃淡や輪郭線のシャープさが変化する等、変化に富んだ特殊な塗装効果を実現できる。
【0009】
請求項2の発明によれば、着磁された各磁性体粒子の磁極を複数の並行した線状をなすように配置したシート状マグネットを用いることにより、このシート状マグネットを重なり合わずに単体で使用する部分にはストライブ状の塗装模様を形成し、重ね合わせた部分には、塗装模様が格子状等、変化に富んだ特殊な塗装効果を実現できる。
【0010】
請求項3の発明によれば、着磁された各磁性体粒子の磁極をランダムに配置したシート状マグネットを用いることにより、重ね合わせた部分は磁力が強いため濃色になり、かつ周囲部分の磁力が大きくなるので輪郭を強調した塗装模様を形成できる。
【0011】
請求項4の発明によれば、着磁された各磁性体粒子の磁極を複数の並行した線状をなすように配置したシート状マグネット複数用意し、これらを互いに交差するように重ね合わせることにより、交差角度により、塗装模様を格子状や波状等、種々に変化させて特殊な塗装効果を実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、図面に基づいて実施例を説明する。図1は、塗装品10の表面側を示す図であり、表面は磁性体塗料にて塗装された塗装膜60が形成されている状態を示す。塗装膜60の一部は、磁石を用いた磁力変化による特殊な塗装効果をなす特殊効果部64が形成されている。この部分は、後述する2枚のシート状マグネット(磁石)に対応する塗装部61及び62と、2枚のシート状マグネットの交差部に対応する交差塗装部63を備えている。この部分は、周囲部分と比べて濃色をなし、かつ明瞭な輪郭線を形成しいる。
【0013】
塗装品10は自動2輪車用カウル等の板状をなす外装部品であり、ポリカーボネート等の適宜樹脂材料からなり、塗装面が3次元形状の曲面を有する成形品であり、塗装前の表面は予め平滑に仕上げられている。
塗装品10の材料は非磁性体である。シート状マグネットを用いて特殊効果を生じさせる本磁性体塗装においては、シート状マグネットの磁力線が意図しないような変化を受けることがないないようにするため非磁性体が好ましい。
なお、塗装品10の塗装前状態のものを塗装されるべき部材である被塗装部材10A(図4)として区別するものとする。
【0014】
図2は、本磁性体塗装に使用する治具20の表面側を示す図である。治具20は被塗装部材10Aの裏面(塗装面と反対側の面)へ重ね合わせられるよう、被塗装部材10Aに近似した形状に形成され、FRP等の適宜非磁性体材料から構成される。治具20の構成材料は成形の容易さ等より樹脂製とすることが好ましい。但し、石膏や木製等種々の材料が可能である。
【0015】
治具20も表面21(被塗装部材10Aの裏面へ重なる面)は、塗装面との距離が略一定になるように被塗装部材10Aと同様の3次元曲面をなし、その一部にシート状マグネット30が取付けられている。シート状マグネット30は公知のマグネットシートから構成され、このマグネットシートを所望形状に切り取ったカット片31,32を中央で交差させるようにして設けられている。交差部33は、2つのカット片31,32が重なり合った部分である。なお、本実施例の各カット片31,32は、中間部が幅広で先端へ向かって幅狭になるよう形状変化している。但し、この形状は任意である。またカット片の使用数も2以上の複数が可能である。
【0016】
マグネットシートは、ゴム等の成形材料(母材)中に多数の微細な磁性体粒子を練り込んでから、カレンダー加工等によりシート状に押し出し、さらに各磁性体粒子を着磁させて得られるものであり、磁性体粒子の磁化容易軸の配向形式により等方性と異方性がある。このうち、異方性マグネットシートは、磁性体粒子の磁化容易軸を一定方向へ揃えて配向したものであり、その後の着磁により強い磁力が得られる。等方性マグネットシートは磁性体粒子の磁化容易軸をランダムに配向させたものであり、着磁後の磁力は異方性マグネットシートに比べて相対的に弱くなる。本願発明ではいずれも使用可能である。
【0017】
また、マグネットシートの表面における着磁した各磁性体粒子の磁極配列も種々あり、各磁性体粒子の磁極が直線的に並ぶように配列し、かつこのような直線状の配列を複数並行させたもの(以下、直線配向タイプという)、および各磁性体粒子の磁極配列における方向性が弱く、比較的ランダムに配列したもの(以下、ランダムタイプという)等がある。本実施例ではいずれのタイプのものも使用できるが、塗装面における塗装結果に後述する変化が生じる。
【0018】
図3は被塗装部材10Aの裏面に治具20を重ねた状態のものを、治具20の裏側から示す図である。被塗装部材10Aの裏面12及び治具20の裏面22はそれぞれ凹曲面をなしている(図4参照)。
【0019】
図4は被塗装部材10Aと治具20をセットする際の模式断面であり、Aのように、まず治具20の上にゴム等の軟質弾性体材料からなるクッション材40を乗せ、さらにその表面に両面接着テープ41等の取付手段を用いてマグネットシート30を固定する。このマグネットシート30の上に被塗装部材10Aを重ね、マグネットシート30を被塗装部材10Aの裏面12へ押しつける。
なお、クッション材40は治具20の一部をなす。すなわち治具20は剛性部材からなる本体部とクッション材40のような弾力部材とを備えるものであり、弾力部材であるクッション材40は金属製のバネ等に変えることもできる。
【0020】
図のBに示すように、被塗装部材10A側に内側へ屈曲した縁部13が存在するときは、この縁部13へ治具20の縁部23を係合させることにより、クッション材40を圧縮変形させながら、その反発力でマグネットシート30を被塗装部材10Aの裏面12側へ押しつける。
この押しつけは、スプリング等により、強い力で治具20を被塗装部材10A側へ押圧することによってもよい。
【0021】
このとき、クッション材40が、被塗装部材10Aの裏面12における曲面形状に倣って変化するので、マグネットシート30全体を被塗装部材10Aの裏面12へほぼ均一な力で押しつけ、マグネットシート30全体を裏面12へ密接させることができる。このため被塗装部材10Aの肉厚が一定ならば、塗装面11からマグネットシート30の表面までの間隔を一定にするようになっている、図中の42はピン状をなす固定具であり、縁部13と23の一部を貫通して刺し込む等の適宜方法により、分解しないように固定する。
【0022】
図5は塗装工程を示し、図4のBにおける被塗装部材10Aと治具20のセット状態にて被塗装部材10Aの予め平滑に形成された表面11へ液状の磁性体塗料50を塗布する。この図における磁性体塗料50の層は内部構造を説明するため大きさを誇張して示してある。この磁性体塗料50中には、磁性体粉末51が混合されており、マグネットシート30の磁力線密度に応じて不均一な配向密度をなす。
【0023】
この図では、交差部33の上における磁力線密度が大きく、磁力が最大になるので、磁性体粉末51が最も濃密に集中する。また、カット片32の端縁部も磁力線が出る場所のため、磁力が大きくなり、磁性体粉末51の密度が高くなる。図では見えないがカット片31も同様である。したがって、磁性体粉末51の密度は、各カット片31、32の端縁部及び交差部33の上に位置する部分が大きくなり、磁性体塗料50は塗装面に対する磁力変化により磁性体粉末51が不均一になった状態で乾燥固化されて塗装面を形成する。
【0024】
図6はこのようなシート状マグネット30による塗装効果を示す模式図である。この図はランダムタイプのシート状マグネット30をそれぞれ帯状にカットした、カット片31・片32を十文字状に交差させたものである。
【0025】
図7は塗装膜60における特殊効果部64を示し、磁力線は塗装膜60のうちカット片31、32に重なる部分は、それぞれの形状に沿った形状の塗装部61,62を形成する。このとき、塗装膜60には塗装色の濃淡変化が生じ、交差部33の上に位置する交差塗装部63は最も濃色部分となる。また、塗装部61,62の周囲部分には、カット片31、32の端縁部に対応して輪郭線65が形成される。他の部分は相対的に淡色となる。
【0026】
上記塗装効果(濃淡変化)は、シート状マグネット30を交差する2つのカット片31、32で構成し、これを被塗装部材10Aの裏面へ重ねて表面11に磁力変化を生じさせた結果であり、各カット片31及び32の周縁部に磁力線が強く出る結果、塗装部61,62の各周囲部分は明瞭な輪郭線65を形成する。また、交差部33は二重になって磁力線が強くなるので、交差塗装部63には磁性体粉末51が高密度で集められて塗装色が周囲部分よりもさらに濃くなる。すなわち、塗装膜60のうち、被塗装部材10Aのシート状マグネット30が重なる部分に磁力による特殊な塗装効果が生じ、特にシート状マグネット30を構成する2つのカット片31、32の各周辺部及び交差部において顕著な磁力変化が生じ、これにより特殊な塗装効果が生じて、パターンに強弱や濃淡の変化が生じる特殊効果部64になる。
【0027】
図8及び図9は直線配向タイプのマグネットシートを用いた例である。この例では、各図の丸囲い部Aに示すように、図7と同様のマグネットシートを帯状にカットした2枚のカット片31、32を中央で交差するように重ねてある。
各図のBに示すように、直線配向タイプのマグネットシートは、磁極を並行する複数の直線状に配列してあるため、重ね合わせず単品で使用する場合は、塗装面にストライプ状の縞模様を生じることが知られている。
そこで、2枚のカット片31、32が交差すると、交差部33には格子状のパターンを形成し、交差部以外の部分にはストライプ状の縞模様を生じることになる。交差部33においては、交差角度によりさらに特殊な塗装効果を生じる。
【0028】
図8はシート状マグネット30を構成するマグネットシートのカット片31と32の各配向方向を90°違いで重ねた例であり、丸囲い部Bに示すように、特殊効果部64は交差塗装部63において格子状をなし、交差塗装部63以外の各塗装部61,62上は90°違いのストライプ模様をなしている。
【0029】
図9はシート状マグネット30を構成するマグネットシートのカット片31と32を略45°違いで重ね合わせた例であり、丸囲い部Bに示すように、特殊効果部64において交差塗装部63は波格子形状が変化して波状に類似した形状を呈している。塗装部61,62はストライプ模様のままである。
このように、直線配向タイプのマグネットシートの場合は、交差角度により種々な形状の格子や波形に変化した模様を形成することができる。
【0030】
図10は、ランダムタイプのマグネットシートを円形にカットして得られた複数の円形のカット片(例えば30A,30B,30Cの3枚)重ねてシート状マグネット30とした例であり、図の下から上へ順次小径化させる。但し段数は任意である。このようにすると、図11に示すように、塗装膜60の特殊効果部64は、カット片30A,30B,30Cの輪郭に沿って同心円状の強い輪郭線66A,66B,66Cが形成される。
【0031】
これは、最上段のカット片30Cにおける外周部の磁力線が最も強力になる結果、輪郭線66Cはくっきりして締まった強い線となり、66B,66Cと外周側になるに従って、磁力線が弱くなる結果、次第にぼんやりとしたしかし太い線に変化することにより実現される。
なお、カット片30A,30B,30Cを逆順に重ねると、このような優れたパターンを生じず、全体にぼんやりしたものになる。
【0032】
なお、本願発明は上記の各実施例に限定されるものではなく、発明の原理内において種々に変形や応用が可能である。本願発明の適用対象は車両用部品に限らず磁性体塗装を施すものであればどのようなものでもよい。
また、磁性体塗料は、液状等流動状態で塗布し、その後、焼き付けや乾燥等で硬化して塗装膜を形成するものであれば、通常の各種塗料を使用できる。
磁性体粉末は鉄粉等、磁化作用により移動したり配向でき、かつ塗料により含有できるものであればよい。塗料の顔料として用いられるものであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】塗装品を表面側から示す図
【図2】治具を表面側から示す図
【図3】被塗装部材に重ねた状態の治具を裏面側から示す図
【図4】被塗装部材と治具をセットする際の模式断面
【図5】塗装工程を示す図
【図6】帯状マグネットシートの使用例を示す模式図
【図7】上記使用例の塗装効果を示す模式図
【図8】帯状マグネットシートの他の使用例の塗装効果を示す模式図
【図9】図8と交差角度を変えた使用例の塗装効果を示す模式図
【図10】円形マグネットシートの使用例を示す模式図
【図11】上記使用例の塗装効果を示す模式図
【符号の説明】
【0034】
10:塗装品、10A:被塗装部材、11:表面、12:裏面、13:縁部、20:治具、21:表面、22:裏面、23:縁部、30:シート状マグネット、31:カット片、32:カット片、33:交差部、50:塗料、51:磁性体粉末、60:塗装面、61:塗装部、62:塗装部、63:交差塗装部、64:特殊効果部、65:輪郭線、66:輪郭線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被塗装部材の裏面に磁石を配置した状態で表面に磁性体粉末を含む塗料を塗装する方法において、
前記磁石は、複数の磁性体粒子を母材シートへ練り込んでその後着磁させてなるマグネットシートを所定形状にカットして得られる複数のシート状マグネットを用いるとともに、
これら複数のシート状マグネットを部分的に重ね合わせた状態で前記被塗装部材の裏面へ固定し、
この状態で磁性体粉末を含む塗料を前記被塗装部材の表面に塗装することを特徴とする、磁性体粉末を含む塗料の塗装方法。
【請求項2】
前記シート状マグネットは、前記着磁した磁性体粒子の磁極が複数の並行した線状をなすように配置されているものであることを特徴とする請求項1に記載した磁性体粉末を含む塗料の塗装方法。
【請求項3】
前記シート状マグネットは、複数の前記着磁した磁性体粒子の磁極が全面へランダムに配置されているものであることを特徴とする請求項1に記載した磁性体粉末を含む塗料の塗装方法。
【請求項4】
複数の前記シート状マグネットを重ね合わせて配置するとともに、この互いに重ね合わされる部分では、前記各シート状マグネットの前記磁極配列方向が交差するように配置したことを特徴とする請求項2に記載した磁性体粉末を含む塗料の塗装方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2009−154035(P2009−154035A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−331515(P2007−331515)
【出願日】平成19年12月25日(2007.12.25)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】