説明

磁性流体およびその治療上の使用法

いくつかの実施形態において、本発明は、処置対象の免疫システムを刺激する方法を提供する。特別な方法は、腫瘍に磁性流体を注入して、磁場を腫瘍に付与することで、腫瘍に固有の免疫反応を与える。免疫反応は播種性腫瘍および転移性細胞を治療することに使用することができる。さらなる方法は、例えば、健康な細胞などの組織区域を磁性流体で処置し、またこの処置組織に磁場を付与することにより、通常免疫反応を誘発する。免疫反応を使用して、疾患および疾病を治療する、または治療剤の効果を高めることができる。特定実施例において、本発明方法を使用して、免疫刺激剤の効果を高める。さらに、本発明方法によれば、細胞塊、例えば腫瘍の壊死を引き起こすよう、磁性流体を組織区域に注入して、磁場を組織に付与する方法も提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2006年5月17日に出願された米国仮特許出願第60/801,463号の優先権を主張し、参考として付記する。
【0002】
本発明は、磁性流体およびその治療上の使用に関する。特別な態様においては、新生物組織、例えば中実の腫瘍を処置するなどの癌治療に磁性流体を使用する使用方法に関する。
【背景技術】
【0003】
現行の癌治療計画は、外科手術に続く全身化学療法および/または放射線療法を伴う。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、これらの治療法は概して癌の進行を遅くするだけで、病変の部分的回帰をもたらす。そのような処置は進行した病気の処置には適さないであろう。さらに、現行の全身癌治療法は、概して、処置対象、すなわち患者の自然抗癌免疫反応を減少または排除し、例えば免疫エフェクタ細胞を殺してしまう。
【0005】
さらに、原発腫瘍の切除は、いくつかの悪影響をもたらす可能性がある。例えば、原発腫瘍の除去は抗原提示などの患者の免疫システムに対する刺激を除去し、癌に対する患者の免疫反応を減少および排除する可能性がある。さらに、原発腫瘍は時に、切除中に転移する可能性がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、磁性流体を使用した処置対象の治療的処置の組成物および方法を提供する。特別な実施例においては、磁性流体を免疫刺激剤などの治療剤とともに投与する。
【0007】
特別な実施形態において、本発明は、腫瘍のような新生物組織を処置する方法を提供する。特定の本発明方法においては、有効量の磁性流体を処置対象の新生物組織を有する区域に投与する。磁場を新生物組織に加える。磁場を加えるとき、新生物組織における新生細胞は壊死する。いくつかの方法において、新生物組織を、以下の磁気処置後に処置対象から除去する。
【0008】
本発明は、さらに、処置対象に治療的処置をする方法を提供する。磁性流体を処置対象の区域に投与する。磁場をその区域に加える。磁場の適用は処置対象に治療的処置を提供する。特別な実施例において、処置対象の免疫システムを活性化することで治療的処置を実現し、例えば抗炎症促進性サイトカインを発生させる。
【0009】
他の実施形態において、本発明は転移性疾患を有する処置対象の処置方法を提供する。磁性流体を処置対象の原発腫瘍に注入する。磁場を原発腫瘍の近傍に加える。原発腫瘍の近傍に磁場を加えることにより、転移細胞を攻撃する患者の免疫システムを活性化する。特別な方法において、磁気療法に続いて原発腫瘍を処置対象から除去する。
【0010】
本発明は、さらに、免疫刺激および癌処置に使用可能な組成物を提供する。この組成物は磁性体を有する。磁性体はキャリヤに懸濁させる。この組成物はさらに、免疫刺激剤などの治療薬を有する。特別な実施例において、免疫刺激剤はIL−2および抗CD−40少なくとも一方とする。
【0011】
本発明による様々な実施形態において、磁性体および磁性流体は、約100nm〜約10μm、約0.5μm〜約8μm、約3μm〜約7μm、または約4μm〜約5μmの範囲内における平均断面幅を有するものとする。磁性体は、任意の適当な物質で構成することができるが、特別な実施例においては、磁性体を鉄化合物や鉄合金を含む鉄粒子で構成する。いくつかの例では、磁性体にポリマーによりコーティングなどを施すことで生体適合性を改善する。特定の例において、ポリマーは、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)とする。
【0012】
磁場を処置対象および処置対象の一部に加える方法の特別な実施形態において、磁石は、少なくとも約0.2Tの磁力を有し、例えば約0.2T〜約2Tの範囲、約0.2T〜約1Tの範囲、約0.2T〜約0.6Tの範囲および約0.4T〜約0.6Tの範囲における磁力を有するものとする。特別な実施例において、磁石は約0.5Tの磁力を有するものとする。これら実施形態において、磁場を、少なくとも0.5秒間加えることができ、例えば約15秒〜約20分間、約30秒〜約15分間および約1分〜約10分間の時間加えることができる。特別な実施例において、0.5Tの磁石を処置対象の近傍に10分間保持する。これら実施形態においてこの処置を一日に何度も繰り返すことができ、例えば1日あたり1,2,3,4および5回の処置を、1〜10日間、3〜7日間および4〜5日間にわたり行うことができる。特別な実施例において、1日1回の処置を4日間にわたり行う。
【0013】
本明細書に記載した少なくとも若干の本発明方法において、磁場を加えることにより、磁性流体による腫瘍の血管系の破壊あるいは腫瘍細胞の壊死をもたらす。他の実施形態において、磁性流体を有する処置対象の区域に対して磁場を加えることにより、処置対象の免疫システムを活性化して、例えば患者の免疫システムの抗原に対する曝露を増大させる。特別な実施例において、本発明方法は、腫瘍血管系をブロッキングすることでの制癌作用に基づくものでないものとする。本発明の様々な実施形態において、磁性流体処置を免疫刺激剤などの治療薬と組み合わせて使用し、例えばIL−2および抗CD−40のうち少なくとも一方とともに使用する。
【0014】
さらに他の実施形態において、本発明は、磁石、磁性流体、免疫刺激剤などの治療薬および随意に注射器を含んだキットを提供する。
【0015】
本発明の様々な実施形態には他の特徴および利点がある。これらは本明細書の以下の説明により明らかになるだろう。
【0016】
この点に関して、これは以下に記載する種々の実施形態の概要であると理解されたい。本発明の任意の実施形態も、上述の全ての特徴を有することを必要とせず、上述の従来技術における全ての問題を解決および対処すべきものでもない。
種々の実施形態を、以下図面につき、示しまた説明する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】1Aおよび1Bは腫瘍血管系内の磁性流体の線図的説明図であり、磁場を加える前(1A)および後(1B)を示す。
【図2】腫瘍を有する処置対象の表面に、補強部を有する材料見本をあてがった状態を示す線図的説明図である。
【図3】第1磁場の少なくとも一部を相殺して、処置対象表面から第1磁石の除去を支援するのに使用する第2磁石の線図的説明図である。
【図4】処置対象の表面近傍から磁石を除去するのに使用可能なねじタイプのデバイスの線図的説明図である。
【図5】リン酸緩衝生理食塩水、磁性流体、または磁石処置を伴う磁性流体で処置した3グループのマウスに関する、磁性流体の投与後日数対腫瘍体積のグラフである。
【図6】リン酸緩衝生理食塩水、磁性流体、または磁石処置を伴う磁性流体で処置した3グループのマウスに処置開始後4日経過した状態の腫瘍体積のグラフである。
【図7】リン酸緩衝生理食塩水、免疫刺激剤、磁石処置を伴う磁性流体、または磁石処置を伴う磁性流体および免疫刺激剤で処置した4グループのマウスにおいて、処置腫瘍およびこれとは反対側の対側腫瘍に関する、磁性流体投与後の日数対腫瘍体積のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
別段の説明がない限り、ここで使用する全ての科学的および技術用語は、本発明が属する当業者に通常理解されるのと同様な意味を持つ。前記のような不一致および本発明と本明細書が参考として列記するいずれかの文献との間に不一致がある場合、本明細書は用語の説明を設けることで管理する。単数形表現である“a”、“an”および“the”は、特に文脈の指示がない限り、複数の対象を含む。同様に単語“or”は、特に文脈の指示がない限り、“and”を含むことを意味する。用語“comprising”は“including”を意味し、;したがって、“comprising A or B”はAまたはBを含むことも、AとBを一緒に含むことも意味する。本文中に与える全ての数値域は全ての値を含み、すなわち終端値(特に除外しない限り)および中間域を含む。
【0019】
本明細書中に記載したものと類似および同等な方法および材料を、本発明の実施または検査で用いることができるが、適切な方法および材料を本明細書中に記載する。開示した材料、方法、および実施例は例示的なものに過ぎず、本発明を限定することを意図しない。
【0020】
本明細書中で用いる「処置対象(subject)」は、本発明による方法、組成物およびシステムを用いて処置すべき動物に言及する。処置対象としては、哺乳動物、例えば人間、または馬、牛、羊、豚、犬およびマウスを含む家畜・愛玩動物を含む。
【0021】
本明細書中で使用する「磁性流体」および「MRF」は、磁場を加えるまでは液体または流動可能な状態である流体である。磁場を加えるとき、流体は半固体状態になる。適切なMRFとしては、磁性体、磁場に応答する反応体がある。磁石体としては、強磁性、常磁性および超常磁性の物質がある。
【0022】
適切な磁性体としては、鉄粒子(「鉄を含むMRF」)または、鉄化合物もしくは鉄合金があり、該鉄化合物および鉄合金としては、酸化鉄、炭化鉄、窒化鉄、カルボニル鉄、スチール材料などの物質があり、該スチール材料としては、ケイ素鋼、ステンレス鋼、低炭素鋼、および1種類またはそれ以上の金属との合金があり、該金属としては、例えば銅、タングステン、シリコン、クロム、マンガン、アルミニウム、コバルト、バナジウム、ニッケルもしくはモリブデンがある。例えば、MRFは、マグネタイト(磁鉄鉱)粒子を組み込んだ流体とすることができ、例えばドイツのケミセル社(Chemicell GmbH)から市販されている磁鉄鉱粒子とすることができる。しかし、適切な任意の磁性体を使用することもでき、酸化鉄材料などのセラミック粒子を使用することもできる。特別な実施例では、磁性体としては、生体適合性または少なくともほぼ生体適合性のあるものを選択し、MRF治療後に磁性体が比較的不活性となる、例えば、望ましくない局部的あるいは全身性の効果を誘発することなく内に保持されるようにする。
【0023】
磁性体を、キャリヤ、例えば生体適合性のキャリヤに懸濁させる。適当なキャリヤとしては、水、リン酸緩衝生理食塩水などの緩衝水溶液、アルコール混合水溶液、油および油性混合物がある。
【0024】
磁性体は、望ましい薬物動態学的および治療的な性質に適合するサイズを有するように選択することができる。例えば、磁性体のサイズおよび形状を、磁場を加える際に特別な効果を生ずる、特定状態に整列させる、または特定の距離だけ移動させるように選択することができる。特定の実施形態において、粒子サイズは、処置対象から除去することを容易にするように選択することができる。他の実施形態において、粒子サイズは、処置部位に粒子を保持することを容易にするように選択することができる。
【0025】
粒子の表面および形状は、望ましい生理学的性質を与えるように選択することができる。例えば、滑らかな球状粒子は、鋭利で角のある粒子よりも生理学的に良好な許容性を示すことができる。しかし、鋭利で角のある粒子は処置すべき区域にダメージを与え、例えば免疫反応を発生させ、または細胞壊死を生ずるのに、より有効性がある場合もある。特定の実施例において、磁性体の粒子は、少なくともほぼ球形のものとする。
【0026】
特定の用途では、約100nm〜約10μmの範囲、例えば約0.5μm〜約8μmの範囲における直径、または平均断面幅を有する粒子を使用する。より特別な実施例では、粒子は、約3μm〜約7μmの範囲、例えば約4μm〜約5μmの範囲におけるサイズを有するものとする。種々の実装形態において、MRFは、比較的均一なサイズを有する粒子、または複数のサイズおよびある範囲内のサイズを有する粒子で構成できる。異なるサイズの粒子を混合することは、磁場に対するMRFの応答性を制御するのに有用であり、組織に対するMRF効果を調整し、または投与や耐性設定を支援する。
【0027】
MRFは、MRFを生体適合させるのに適切な媒体を有することができる。MRF(および/または磁性体)をさらに処理して、処置対象からのMRFの除去、処置部位でのMRFの保持、または、MRF粒子の標的付け(ターゲッティング)、例えば腫瘍に向かって進む物質を粒子に付着させることによる標的付けに役立つようにすることができる。
【0028】
特定の実施形態では、生体適合性を高める物質で磁性体をコーティングする。例えば、磁性体粒子をポリマーによりコーティングする。若干の実施例において、ポリマーは、親水性のでんぷんもしくはでんぷん誘導体、ゼラチン、セルロース、または他の自然由来ポリマーとする。他の実施例において、ポリマーは、ヒドロゲル、例えばN−イソプロピルアクリルアミド(NIPAAm)とする。
【0029】
他のポリマー、およびこれらポリマーで磁性体をコーティングする方法は米国特許第5989447号の第2欄、第16〜52行目、および第3欄、第34行〜第7欄、第32行に記載されており、その部分を参考として本明細書に付記する。他のコーティングおよび技術は、米国特許出願公開第2005/0109976号の段落63〜73および104〜110に記載されており、参考として本明細書に付記する。いくつかの実施形態において、磁性体粒子にコーティングを塗布し、この塗布は、溶媒に溶けたような液状のコーティングを磁性体に蒸着することによって行う。他の実施形態においては、磁性体の表面上の官能基との反応で、有機モノマー単位の重縮合、重付加、または重合によりポリマーを形成する。
【0030】
表面開始重合、いわゆるグラフト重合を使用して、ミクロン単位の微粒子表面に様々な官能性を有するポリマー材料をコーティングすることができる。本発明方法においては、重合開始剤を粒子表面に化学的に結合させる。このように表面が改質した粒子は、ATRPのマクロ開始剤のように挙動する。厳密に規定されたポリマー鎖が粒子表面から成長して、無機粒子核およびポリマーシェルにより構成される粒子を生ずる。グラフト重合は粒子表面におけるポリマー層の安定性を向上し、また粒子の流体系およびモノマーに対する適合性を高める。この手法は、ポリマーの分子構造の制御に融通性を与える。
【0031】
製造後、コーティングした磁性体粒子を任意の適当な手段で精製することができ、このような手段としては、例えばサンプルに対して僅かな磁場を加え、そして余分な溶液を排除することが挙げられる。この精製プロセスを数回繰り返し、溶媒内に生じて粒子表面には存在しないすべての非ポリマー留分および他のいかなる物質をも除去する。この粒子は、さらに透析によって精製することもでき、この透析は、例えば脱イオン化水およびスペクトラ/ポア・バイオテック社の分画分子量15000ダルトンである再生セルロース管状透析膜を使用する。特別な実施例においては、粒子を、さらにセルセップ(Cellu Sep)社の分画分子量6000〜8000ダルトンである再生セルロース管状透析膜を使用して精製することができる。
【0032】
MRFには、他の作用剤を添加することができる。例えば、MRFに造影剤を添加して、処置すべき区域を磁気共鳴影像法またはX線などにより画像化することができる。処置すべき区域を画像化することは処置対象に磁場を加えるのに役立つだろう。MRFには、さらに新生細胞に親和性があるような標的付け(ターゲッティング)剤を含有させることもできる。MRFには、さらに他の抗がん剤または免疫刺激剤などの治療剤を添加することもできる。
【0033】
MRFは、任意の適切な方法で投与することができる。例えば、MRFを、静脈注射、非経口注射、腹膜注射、皮下注射、皮内注射、腫瘍内注射、腫瘍周辺注射、リンパ系内注射、手術野注射、または皮下注射により投与することができる。他の投与手段を使用することもでき、例えば経口、口腔内、舌下、および直腸における投与、ならびに静脈内または腹腔内における注入によって投与することができる。特別な実施形態においては、MRFを腫瘍内に注入する。理論による拘束なく、MRFは次に腫瘍血管系内へ拡散する。
【0034】
MRFは、任意の適切な濃度で投与することができる。様々な実施形態において、MRFは、MRF溶液に対して約40%〜約85%wt/vol、例えば約50%〜約85%または約65%〜約85%wt/volの粒子濃度とすることができる。特別な実施例において、MRFは、MRF溶液に対して約85%wt/volの粒子濃度を有するものとする。特別な実施形態においては、MRFを、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)として、例えばMRF/PBSが約80%w/vの溶液となるように投与する。
【0035】
特別な態様においては、MRFを有効量で投与する。有効量とは、新生物組織の成長抑制および/または壊死させるのに十分なMRF(および磁性体)量である。他の態様においては、MRFを、処置対象内に免疫反応を誘発する、例えば処置対象の免疫システムの抗原に対する曝露を増加させるのに十分な量で投与する。特別な方法で使用するMRFの量は、処置すべき処置対象のサイズまたは体積に基づくようにすることができる。いくつかの実施例では、例えば3〜5ミクロンの鉄粒子を含むMRFの80%wt/vol懸濁液を使用するとき、約0.25mm〜約50mm,約1.0mm〜約10mm,または約1.5mm〜約5mmの範囲である処置区域に対して、10μlの割合でMRFを投与する。特定用途で必要となるMRFの量は、他の要因、例えばMRFの性質、処置区域の位置、処置に使用する磁石および使用する特定の処置計画にも基づく。
【0036】
処置区域、例えば腫瘍は、所望の組織壊死速度を生ずる、または所望の治療反応を得るのに適切な任意の大きさとすることができる。特別な実施例において、処置区域は、約1mm〜約1000cm,約50mm〜約500cm,約100mm〜約400cm,または約150mm〜約300cmの範囲における体積を有するものとする。
【0037】
「磁石」とは、磁場を発生させるデバイスおよび物質を指す。磁場はテスラで測定できる。特別な実施例において、磁石は約0.2T〜約2.0Tの磁力を有し、例えば約0.2T〜約1Tの範囲における磁力を有するものとする。他の実施例において、磁石は、少なくとも約0.2Tの磁力を有し、例えば、約0.2T〜約0.6T、または約0.4T〜約0.6Tの範囲における磁力を有するものとする。特別な実施例では、磁石は、0.5Tの磁力を有するものとする。特別な技術で使用する磁石の磁力は、多数の要因に基づいて変動し、これら要因としては、MRF内の粒子の組成および大きさを含むMRFの性質、腫瘍の大きさ、腫瘍の位置、処置対象の大きさや重量、MRFを処置対象に導入した後のMRFと磁石の間における距離がある。例えば、より強力な磁石はMRFがより小さい粒子を持つことを必要とし、これは、より大きな粒子がより強い磁気反応を示すからである。いくつかの実施例では、磁石を電磁石とし、オンとオフを選択的に切り換えることができるようにする。
【0038】
本発明方法を処置対象の皮膚表面の近くに適用する、例えば皮膚表面近くに位置する原発腫瘍を処置するとき、所定の実施形態においては、磁石を処置対象の皮膚に接触させて配置する。他の実施形態においては、磁石を処置すべき区域から数インチ未満のような有効距離に配置する。処置すべき区域が処置対象の内部に位置するとき、磁石を任意の適切な手段により、処置区域に隣接させて配置することができ、例えば体のオリフィスもしくはキャビティを経て挿入、または外科手術を使用して配置することができる。
【0039】
図1Aは、静脈または毛細血管などの血管110を有する表面腫瘍100を示す。複数個の磁性体粒子120が血管110内に位置している。腫瘍100には外部磁場を全く加えず、したがって粒子120は不規則な指向性を有する。
【0040】
図1Bは、磁石130を腫瘍100に近接させて配置することで外部磁場Bを加えた後の腫瘍100を示す。粒子120は鎖状構造に整列する。鎖を形成するにあたり、粒子120の若干は、血管系を破壊しまた腫瘍100に穴を開けて、血管110から押し出されている。
【0041】
若干の実施例において、繊維のような材料を磁石と処置対象の皮膚との間に配置する。特別な実施形態として、この材料を、処置対象の一部に巻き付けることができる。より一層特別な実施例において、この材料は、磁石を取り外すときのてことして使用できる補強部分を有するものとする。図2は、静脈や毛細血管などの血管210を有する表面腫瘍200を示す。複数個の磁性体粒子220が、磁石230を用いて磁場Bを加えることにより鎖構造を形成する。帯状の材料240を、腫瘍200の表面と磁石230との間に、腫瘍を覆うよう配置する。材料240はより厚い補強部分250を有する。材料240および補強部分250は、磁石230を引っ張る間にてこ作用力を発生するよう使用者の手または指260をあてがうことで、処置対象から磁石を取り外すのに役立つ。
【0042】
他の技術を使用して、処置対象から磁石を取り外す補助を行うことができる。例えば、第2磁石を処置磁石上にもしくは近接配置して、または処置対象に配置し、それにより処置磁石による磁場を軽減あるいは打ち消すようにすることができる。この実施形態を図3に示し、磁場B1を有する第2磁石310を、B1と反対方向に配向する磁場B0を有する第1磁石320に近接配置する。特別な実施例においては、第2磁石320を電磁石とする。
【0043】
さらに他の実施形態において、磁石には、処置対象の近傍から取り外す補助を行う機械的構造を設けることができる。例えば、図4は、処置対象の近傍にねじ山420を付けた円筒形ハウジング410を有する装置400を示す。磁石430は、ねじ山420にねじ係合するねじ山440を設ける。磁石430はシャフト450およびハンドル460を有する。磁石430は、ハンドル460を回転させることによりハウジング410内で移動することができる。ハウジング410の底部は処置対象表面にあてがうことができる接触部470を有する。この接触部470を、磁石430からの磁場を効率的に伝達する材料により形成し、またこのような伝達を可能にするのに十分な厚さで形成する。特別な実施例において、接触部470はステンレス鋼または繊維で形成する。接触部470はいくつかの実施形態では省略し、例えば磁石430の下方まで突出するハウジング410を有する装置400とする。
【0044】
磁石は、代表的には、MRF内の粒子が磁場に反応するのに十分な時間、処置対象に近接配置し、粒子は細胞組織の所望部分内で整列して孔を開けるようにする。磁場を加える時間は、多くの要因に基づいて変化させることができ、これら要因としては、例えば、MRF粒子の大きさ、MRFの性質、磁石の磁力強度、処置対象と磁石との間における距離、処置対象内におけるMRFおよび組織部分の深さがある。種々の実施例において、磁場は、少なくとも0.5秒加え、例えば、約15秒〜約20分、約30秒〜約15分、または約1分〜約10分加える。
【0045】
いくつかの実施形態において、MRF処置を1回だけ行う。他の実施形態において、MRF治療を当該の計画に従って複数回行い、例えば1日〜10日,3日〜7日または4日〜5日の間にわたり1日あたり1,2,3,4,5回の処置を行う。特別な実施例において、処置を2〜5回行い、例えば2〜3回行う。複数回の処置を行うとき、順次の処置は、例えば順次の処置間に2,3,4,6,8,12,18,24,36,または48時間の待機時間をはさんで行うことができる。いくつかの方法において、磁場の順次の被曝前にMRFを追加投与してよい。他の方法において、処置対象に対して、MRFの追加投与なしに、複数回磁場に被曝させる
【0046】
「処置剤」とは抗癌活性を持つ化合物、物質および組成物を意味する。所定の処置剤は、腫瘍細胞の近傍にあるときに抗癌活性を有する。他の処置剤としては、腫瘍細胞に取り込まれるもの、または腫瘍細胞に取り込まれるときにより大きな処置効果を発揮するものがある。さらに他の処置剤としては、癌細胞に対して間接的効果を有する、例えばがん細胞を攻撃する免疫システムを刺激する効果を持つものがある。
【0047】
抗がん剤の例としては、代謝拮抗物質、アルキル化剤、ホルモンおよび抗ホルモン剤、天然産物または免疫刺激剤がある。アルキル化剤の例としては、スルホン酸アルキル(例えば、ブルスファン)、ニトロジェン・マスタード(例えば、ウラシルマスタード、クロラムブシル、メクロレタミン、シクロホスファミド、またはメルファラン)、ニトロソウレア(例えば、カルマスティン、ストレプトゾシン、ロムスチン、セムスチン、またはダカルバジン)がある。代謝拮抗物質の例としては、ピリミジン類似体(例えば、5−FUまたはシタラビン)、葉酸類似体(例えば、メトトレキサートなど)、およびチオグアニン化合物やカプトプリンなどのプリン類似体がある。天然産物の例としては、抗生物質(例えば、ドキソルビシン、ブレオマイシン、プリカマイシン、ダクチノマイシン、ダウノルビシン、マイトマイシンC)、ビンカアルカロイド(例えば、ビンクリスチン、ビンブラスチン、またはビンデシンなど)、エピポドフィロトキシン(例えば、テニポシドまたはエトポシド)、酵素(例えば、Lアスパラギナーゼ)がある。雑多成分を有する投与剤の例としては、配位白金錯体(シスプラチンとして知られるシス−ジアミンジクロロ白金IIなど)、メチルヒドラジン誘導体(例えば、プロカルバジン)、置換尿素(例えば、ヒドロキシウレア)および副腎皮質抑制剤(例えば、アミノグルテミチドおよびミトタンなど)がある。ホルモンおよび抗ホルモン剤の例としては、エストロゲン(例えば、ジエチルスチルベストロールおよびエスチニル・エストラール)、抗エストロゲン(例えば、タミキシフェン)、副腎皮質ステロイド(例えば、プレドニゾン)、プロゲスチン(例えば、カプロン酸ヒドロキシプロゲステロン、酢酸メドロキシプロゲステロン、および酢酸メゲストロール)、およびアンドロゲン(例えば、プロピオン酸テステロンおよびフルオキシメステロン)がある。特別な実施例において、処置物質は、フルダラビン、ナベルビン、アドリアマイシン、Velban、DTIC、アルケラン、マイトマイシン、Ara−C、BiCNU、ブルスファン、CCNU、カルボプラチン(Carboplatinum)、シスプラチン、ハーセプチン、ゼローダ(カペシタビン)、シトキサン、ダウノルビシン、5−FU、イリノテカン(カムプトサール、CPT−11)、ハイドレア、ニトロジェン・マスタード、イダルビシン、タキソテール、イホスファミド、メトトレキサート、ゼベリン(Zevelin)、ミトラマイシン、リツキサン、STI−571、ミトキサントロン、タキソール、ビンクリスチン、VP−16、ゲムシタビン(ジェムザール)、ロイスタチン、トポテカン(ハイカムチン)、およびカルシトリオール、のうち一つまたはそれ以上を有するものとする。
【0048】
本明細書で使用する「免疫刺激剤」は、活性化または活性増加のいずれかを含む処置対象の免疫システムへの刺激を意味し、例えば化学薬品、組成物もしくは生物学的物質の投与、または物理的手段により行うものであり、すべてを総称して「免疫刺激剤」と称する。免疫刺激剤としては、ワクチン、アジュバント、抗原およびシグナル化合物があり、シグナル化合物としては、イソプリノシンおよびサイトカインがあり、サイトカインにはインターロイキンおよびインターフェロンなどがあり、インターフェロンとしてはインターフェロンαがある。免疫刺激剤の特別な例としては、ロキソリビン、バクテリアDNAおよびリポポリ多糖類がある。免疫刺激剤に使用できるアジュバントとしては、水酸化アルミニウム;リン酸アルミニウム;カルシウム塩;鉄塩;亜鉛塩;無機オイル;フロイント不完全アジュバントおよび完全アジュバント(ミシガン州デトロイトのディフコ・ラボラトリーズ社);メルクのアジュバント(ニュージャージー州ラーウェイのメルク&カンパニー社);AS−2(ペンシルベニア州フィラデルフィアのスミスクライン・ベーカム社);GM−CSF、インターロイキン−2,−7,12および他の同様な成長因子、カチオンおよびアニオン誘導ポリ多糖類などのサイトカイン;アシル化チロシン;アシル化糖;ポリホスファゼン;生分解性ミクロスフィア;モノホスホリル・リピドA、例えば3−脱−O−モノホスホリル・リピドAおよびサポニンであり、QS21やQS7などの誘導体を含むQuil A、エスチン、ジキトニン、ジプソフィリア、キノアのサポニンなどである該サポニン;Montanide ISA 720(フランス国のセピック社);SAF(カリフォルニア州チロン社);ISCOMS(CSL);MF−59(チロン社)SBASアジュバント(ベルギー国スミスクライン・ベーカム社から市販されているSBAS−2やSBAS−4);デトックス(Enhanzyn,RTM)(マサチューセッツ州ハミルトンのコリクサ社);RC−529(コリクサ社)および他の4リン酸アミノアルキルグルコサミニド(AGP);およびポリオキシエチレンエーテルアジュバンドがある。
【0049】
例えば、処置対象の免疫システムを、例えば抗CD−40の投与により、CD−40への刺激を通して刺激することができる。免疫システムは、さらに、IL−2などのサイトカインの投与により刺激することができる。他の免疫刺激技術を本発明方法に使用でき、例えばIL−2および抗CD−40投与などの技術による組み合わせがある。
【0050】
原発腫瘍の処置
本発明方法を使用して、原発腫瘍を処置することができる。MRFを腫瘍周辺、例えば腫瘍血管内に集中するように、MRFを処置対象に投与する。特別な実施例において、MRFを腫瘍内に注入する。
【0051】
MRFを腫瘍内、および/または腫瘍血管系内に望ましい集中度で集中させた後、磁場を処置対象に加える。MRFが凝固する(または粒子サイズまたは濃度が増大する)につれて、特別な実施形態では腫瘍血管系を破壊する。例えば、血管系をせん断または機能不全にすることができる。罹患血管系から供給されていた新生細胞および処置した区域内における通常細胞は、その後壊死する。特別な実施形態において、MRFの抗腫瘍効果は、腫瘍血管系を流れる血流をブロックするシール形成によるものではない。
【0052】
MRF処置後、腫瘍は、普通の手段を使用して除去することができる。例えば、所要量のMRF処置後に腫瘍を外科的に除去することができる。
【0053】
MRF処置後の腫瘍の除去は多くの利点をもたらす。例えば、MRFは新生物組織の壊死をもたらし、このことは除去中に腫瘍が拡散するのを防ぐことに役立つことができる。MRF処置はまた、腫瘍の除去が完了するまで、腫瘍の成長を減少する、または進行を阻止することができる。さらに、壊死癌組織を処置対象内に放置することは、処置対象の免疫システムが癌に対する反応を開始する補助を行うことになる。
【0054】
免疫システムの活性化および播種性処置
他の実施形態において、本発明は、処置対象の免疫システムを活性化する方法を提供する。本発明方法によれば、処置対象をMRFにより処置する。処置対象およびその一部に磁場を加える。加えた磁場に対するMRFの反応は、処置対象内に免疫反応、例えば免疫細胞の漸増および活性化を生ずる。
【0055】
特別な実施形態において、処置対象の免疫システムを、新生細胞を攻撃するよう活性化する、例えば処置対象の免疫システムをより多量の抗原に曝露させることにより活性化することができる。例えば、上述のようにMRFで原発腫瘍を処置するとき、新生細胞または通常細胞は、壊死作用を生ずるとき、「危険信号」のような信号を発する。理論にとらわれることなく言うと、これら信号はToll様受容体の関与および抗炎症サイトカインの生成を伴う。このような信号の発生は、有効な免疫反応の発生において重要である。これら信号は、処置された処置対象の免疫システム内に抗腫瘍反応を促進する。他の新生物組織処置法と比べて、腫瘍縮小治療を生じないため、免疫細胞は妨げられず、腫瘍を攻撃する。
【0056】
向上した免疫反応をいくつかの方法に使用して、二次性腫瘍または転移性細胞などの播種性腫瘍および新生細胞を処置する。MRFを原発腫瘍内に注入して、腫瘍に磁場を浴びせることにより、転移性癌を有する処置対象を治療することができる。これら方法は、処置するために播種性腫瘍の場所を見つける必要がないので、とくに有利である。処置対象の免疫システムが癌性細胞を捜し出し、攻撃する。したがって、本発明は、従来技術の欠点がない癌ワクチンを提供する、例えば免疫反応を発生させるために腫瘍を除去し、また再注入を行うものである。
【0057】
いくつかの方法において、腫瘍または他の組織を、MRFおよび磁場で処置し、特定の疾病または疾患に関する固有の免疫反応などの治療効果を得る。さらなる方法において、通常組織をMRFおよび磁場で処置し、通常免疫反応などの治療効果を得る。通常免疫反応の誘発を使用して、新生細胞などの様々な疾病もしくは疾患を処置する、または他の処置もしくは治療薬の効果を向上することができる。例えば、MRF処置はCD−40およびIL−2などの免疫刺激剤の活性を高めることができる。さらに、MRFを使用して、癌、インフルエンザ、結核および炭疽病ワクチンなどのワクチンに対する免疫反応を高めることができる。
【0058】
組成物
本発明は、癌治療および免疫刺激のための組成物を提供する。この組成物としては、磁性体およびキャリヤを有する磁性流体がある。組成物は、さらに、治療薬、例えば免疫刺激剤を含むものとする。特別な実施例において、この組成物は、IL−2および抗CD−40の一方または双方を有するものとする。
【0059】
本発明は、さらに、癌治療および免疫刺激のためのキットを提供する。このキットは、磁石、磁性流体、および免疫刺激剤などの治療剤を有する。特別な実施例において、キットは、IL−2および抗CD−40の一方または双方を有する。キットは、他の付加的な物質または機器を有することができ、該機器としては、処置対象の皮膚と磁石との間に配置するパッチ、磁石の取り外しを容易にする他の用具、またはMRFもしくは治療薬の処置対象への投与のためのシリンジがある。
【0060】
本発明は、このように、原発腫瘍を崩壊させ、直接的な抗癌効果をもたらし、また処置対象の免疫反応の増強させるための、方法、組成物、およびシステムを提供する。従来法に比べて、本発明によれば、多くの利点が得られる。例えば、磁性流体は比較的に無毒であり、また、少なくとも若干の実施例においては、磁場の複数回印加の後も処置部位に保持される。本発明方法は、また、処置が通常細胞に対して有毒でないので有益であり、したがって化学療法および放射線療法などの従来処置の副作用を回避できる。
【0061】
本発明を使用して、免疫刺激剤を含む他の治療剤の効果を向上することができる。例えば、本発明方法を使用して、現在癌治療のための臨床試験を受けている抗CD−40およびIL−2による有効な相乗効果のある組み合わせの効果をも向上することができる。免疫刺激の他の方法に比べて、本発明方法は、組織侵襲を制御できる点で有益であり、その制御としては、所要の免疫反応を発生するのに使用する侵襲の持続期間および範囲がある。
【実施例1】
【0062】
マウス内の原発腫瘍におけるMRF処置
マウスの皮下に乳癌株4T1(図5)またはB16(図6)を移植した。触知可能な腫瘍(平均体積が4T1に対して370mm、B16に対して380mm)が得られる期間経過後、マウスを3つの実験グループに分けた。
【0063】
リン酸緩衝生理食塩水(PBS;80%w/v)内に3〜5ミクロンの鉄粒子を懸濁させた磁性流体(100μl)をC57BL/6マウス内の皮下(s.c.)のB16メラノーマ腫瘍内へ注入した。マウスの第1グループにはPBS(キャリヤ流体)のみを与えた。第2グループにはMRF投与に続くさらなる処置を行わなかった。第3グループには、MRFの注入に続けて10分間にわたり、0.4テスラの磁力を有する磁石を腫瘍上方に配置して処置し、またその後、毎日合計4回(図6参照)または5回(図5参照)この処置を行った。
【0064】
この処置は、良好な耐性を示した。腎臓および肝臓の機能測定で有害性は観察されなかった。注入部分におけるMRFの保持は、7日の期間中、腫瘍内のMRFに対する磁気吸着力の持続により認識できた。腫瘍成長の著しい抑制を、処置したマウスと磁場処置なしでPBSまたはMRFを与えたマウスと比べることで観察した(図5,6参照)。処置したマウスの腫瘍は、腫瘍に機械的ストレスが加わったことを示唆する分裂した組織構造が見られた。
【実施例2】
【0065】
マウス内の播種性腫瘍に対するMRFおよび免疫刺激剤を使用する処置
CD40およびそのリガンドCD40L(CD154)は、それぞれ、TNF受容体およびTNFリガンドスーパーファミリーのメンバーである。CD40は、様々な細胞に存在し、例えばB細胞、モノサイト、原形質線維状細胞(DC)、および内皮細胞に存在する。CD40は、また様々な新生細胞上に発現し、例えばB細胞リンパ腫、乳癌、膀胱癌、メラノーマ、卵巣癌および腎癌に発現する。CD40Lは、活性化したT細胞、NK細胞、および血小板上に存在する。この実施例は、MRFおよび磁場処置が、抗CD−40およびIL−2処置との組み合わせにより、抗がん反応を増強することを示す。
【0066】
4T1乳癌細胞をBALB/cマウスにおける左右の脇腹の皮下に移植した。腫瘍の平均体積が175mm に達したとき、リン酸緩衝生理食塩水による処置、または抗CD−40(65μg)およびIL2(50,000IU)の準最適な投与(腹腔内注射による投与)による処置、または磁性流体(100μlのPBS内に80%w/vのMRF(3〜5μmの鉄粒子))による処置、または磁性流体、抗CD−40およびIL−2による処置を、マウスに対して行った。PBSのみ使用したグループと、免疫刺激剤のみ使用したグループと、MRFのみ使用したグループに比べて、MRFと磁石処置または免疫刺激剤との双方を行う場合に反応増大が測定できた。
【0067】
後日、磁石処置を腫瘍における一方の側で開始した。磁気治療を行うグループは、連続する4日間にわたり、毎日10分間腫瘍上方に0.4Tの磁石を配置して処置した。
【0068】
腫瘍成長の抑制は、抗CD−40/IL2免疫治療とMRF/磁石処置の組み合わせを行った(図7)マウスの、処置した側とその反対側の両方の腫瘍において、この処置による全身免疫反応の増強を示していることに観察された。この腫瘍抑制は、免疫刺激剤治療のみを行ったマウスに見られる腫瘍抑制よりも大きかった。処置開始から9日後には、MRFのみおよび免疫刺激剤のみグループからは抑制の増強が見られなかった。このデータは、原発腫瘍の全身性および局所的な治療の組み合わせによって転移性腫瘍を免疫治療の標的にできることを示唆している。
【実施例3】
【0069】
NIPAAmによりコーティングした鉄粒子の準備
エース・グラス(Ace Glass)社から購入した部品で重合反応器を組み立てた。反応器は5個の首部を有する反応フラスコヘッドを装備した1リットル(L)の丸底フラスコから成る。この丸底フラスコを加熱マントル内に配置し、10L溶液を攪拌可能な攪拌モータを反応フラスコヘッド上方に設置した。攪拌ブレードを反応フラスコヘッドの首部における1個の首部から挿入した。熱電対を反応フラスコヘッドの首部における1個の首部から挿入し、温度コントローラおよび加熱マントルに通信状態にした。反応フラスコヘッドの他の首部を、窒素配管用、凝縮器用、および化学薬物添加用として使用した。反応は窒素環境下で行った。
【0070】
脱イオン化水および3‐クロロプロピオン酸により構成した1mLの0.04M開始水溶液を用意した。それを、脱イオン化水と、5μmの炭化鉄粒子10gとの混合液400mLに加えた。この混合液を、70℃で12時間攪拌した。つぎに、これら粒子をフィルタ処理し、数回洗浄して余分な開始剤を除去した。これら粒子を300mLの脱イオン化水内に再分散させた。0.04MのCuBr、0.1Mの4,4′−ビピリジン、および2MのN−イソプロピルアクリルアミド(NIPAAm)の水溶液を1mL用意し、表面開始した混合物に加えた。この混合物を70℃で4時間攪拌した。これら粒子をフィルタ処理し、また洗浄して、少量の脱イオン化水内に再分散させた。
【0071】
コーティングした粒子はコーティングなしのサンプルよりも低い沈殿速度を示した。最高のポリマー比を持つサンプルは多量の水分を吸収するように見え、これはコーティングの親水性の特性によるものであろう。サンプルは加振により容易に再分散した。コーティング粒子の磁気特性はサンプルに磁場を加えることで確認した。
【0072】
サンプルを22ゲージの針を有する注射器で注入することにより試験した。分散性を改善するために注射器に移す前にサンプルを振動させた。これにより、詰まることなく針内を流動した。
【0073】
上述したところは本発明による若干の実施形態を詳細に説明したものと理解されたい。本発明の範囲はそれに限定するものではなく、特許請求の範囲により規定され、適切な等価物も包含すべきものである。
【図1A】

【図1B】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
新生物組織の処置方法であって、
処置対象の新生物組織を有する区域に有効量の磁性流体を投与するステップと、
前記区域に磁場を加え、前記磁場を加えるとき、前記新生物組織における新生細胞の壊死を生ぜしめるステップと
を有する方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法において、前記磁性流体は鉄粒子を有するものとした方法。
【請求項3】
請求項1に記載の方法において、前記磁性流体は磁鉄粒子を有するものとした方法。
【請求項4】
請求項1に記載の方法において、前記磁性流体は、約0.2μm〜約10μmの直径の粒子を有するものとした方法。
【請求項5】
請求項1に記載の方法において、有効量の磁性流体を投与するステップは、処置対象の腫瘍内に磁性流体を注入するステップを有するものとした方法。
【請求項6】
前期磁場を与えた時に、前記磁性流体は腫瘍血管系を破壊する、請求項1に記載の方法において、前記磁場を加えるとき、前記磁性流体が腫瘍血管系を破壊するものとした方法。
【請求項7】
請求項1に記載の方法において、前記磁性流体は、前記磁場を加えるとき、腫瘍血管系をブロッキングすることでの制癌作用に基づくものでないものとした方法。
【請求項8】
請求項1に記載の方法において、処置対象の新生物組織を有する区域に磁場を加えるステップは、ある時間的期間にわたり、前記新生物組織に磁場を周期的に加えるステップを有するものとした方法。
【請求項9】
請求項1に記載の方法において、処置対象の新生物組織を有する区域に磁場を加えるステップは、約1〜約30分の期間中に前記磁場を加えるステップを有するものとした方法。
【請求項10】
請求項1に記載の方法において、与える前記磁場は約0.2〜約1.0テスラの範囲における磁力とした方法。
【請求項11】
処置対象を治療的に処置する方法であって、
磁性流体を処置対象の区域に投与するステップと、
磁場を前記区域に加えるステップと、
を有し、前記区域に前記磁場を加えることにより、処置対象に対して治療的処置を行う方法。
【請求項12】
請求項11に記載の方法において、前記治療的処置は、処置対象の免疫システムを活性化するものとした方法。
【請求項13】
請求項12に記載の方法において、前記処置対象の前記免疫システム活性化は、前記処置対象の免疫システムの抗原に対する曝露を増大させるものとした方法。
【請求項14】
転移性疾患を持つ処置対象を処置する方法であって、
処置対象の原発腫瘍内に磁性流体を注入するステップと、
前記原発腫瘍の近傍に磁場を加えるステップと、
を有し、前記原発腫瘍の近傍に磁場を加えるステップは、転移癌細胞を攻撃する前記処置対象の免疫システムを活性化させるものとした方法。
【請求項15】
請求項14に記載の方法において、さらに、前記処置対象に免疫刺激剤を投与するステップを有するものとした方法。
【請求項16】
請求項15に記載の方法において、前記免疫刺激剤は、抗CD40およびIL−2を有するものとした方法。
【請求項17】
請求項14に記載の方法において、さらに、原発腫瘍を除去するステップを有するものとした方法。
【請求項18】
請求項14に記載の方法において、前記磁性流体は、約3〜約5ミクロンの平均断面幅の鉄粒子を有するものとした方法。
【請求項19】
抗癌組成物であって、
磁性体と、
この磁性体を懸濁させるキャリヤと、および
免疫刺激剤と、
を有する抗癌組成物。
【請求項20】
請求項19に記載の抗癌組成物において、前記免疫刺激剤はIL−2を有するものとした抗癌組成物。
【請求項21】
免疫刺激剤は抗CD−40を備える、請求項19に記載の抗癌組成物において、免疫刺激剤は抗CD−40を有するものとした抗癌組成物。
【請求項22】
請求項19に記載の抗癌組成物において、前記磁性体をポリマーによりコーティングした抗癌組成物。
【請求項23】
請求項22に記載の抗癌組成物において、前記ポリマーを、NOPAAmとした抗癌組成物。
【請求項24】
請求項19に記載の抗癌組成物において、前記磁性体は、約3〜約5ミクロンの平均断面幅の鉄粒子を有するものとした抗癌組成物。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2009−537567(P2009−537567A)
【公表日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−511238(P2009−511238)
【出願日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際出願番号】PCT/US2007/069170
【国際公開番号】WO2007/137130
【国際公開日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【出願人】(508339828)ボード オブ リージェンツ オブ ザ ネバダ システム オブ ハイアー エジュケーション オン ビハーフ オブ ザ ユニヴァーシティー オブ ネバダ (1)
【Fターム(参考)】