説明

磁性粒子およびその製造方法

【課題】 均一粒子径を有し単位当たりの表面積の大きい磁性粒子およびその製造方法を得る。
【解決手段】 ポリマーおよび磁性体からなる粒子であり、平均粒径がdμm、平均表面積がSμm2であって下記式1を満たすことを特徴とする磁性粒子、ならびにポリマー粒子内およびポリマー粒子表面またはいずれか一方に磁性体が存在する粒子ならびに有機溶剤の存在下、 重合性モノマーを重合する工程を含むことを特徴とする請求項1記載の磁性粒子の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は特に磁気分離性と生化学物質結合量に優れた磁性粒子およびその製造方法に関するものである。本発明の磁性粒子は、生化学分野、塗料、紙、電子写真、化粧品、医薬品、農薬、食品、触媒など広い分野で利用できるものであり、特に高い感度と優れた磁気分離性を両立できるため診断薬や医薬研究用粒子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、磁性粒子は、磁力により容易に分離精製が可能なことと、その単位重量当たりの表面積が大きいため、抗原と抗体との免疫反応やDNA同士のハイブリダイゼーションの優れた反応場を提供できることから、特に診断薬や医薬品研究用などへの応用が活発になっている。しかしながら、従来、生化学物質結合量を大きくするためには粒径を小さくする必要があったために、磁気分離性に劣るという欠点を有していた。
【特許文献1】特許第2736467号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、磁気分離性と生化学物質結合量に優れた磁性粒子を提供することを目的とするものである。
【発明の効果】
【0004】
本発明の方法によれば、単位当たりの表面積の大きい磁性粒子を簡便かつ効率的に作製することができる。この磁性粒子は診断薬用担体などの生化学用担体、塗料、紙、電子材料、電子写真、化粧品、医薬品、農薬、食品、触媒など広い分野で利用できるものである。応用例としては医療用診断薬用途、特に自動測定器対応粒子に応用が可能である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、ポリマーおよび磁性体からなる粒子であり、平均粒径がdμm、平均表面積がSμm2であって下記式1を満たすことを特徴とする磁性粒子を提供するものである。
f・4π(d/2)2= S f ≧2 式1
本発明において磁性粒子の平均粒径d(μm)は面積平均径であり、走査型電子顕微鏡(SEM)写真から計測した300個の粒子の個々の粒径diから、式2によって算出される。
d=(Σdi3)/(Σdi2) …式2
【0006】
本発明における平均表面積S(μm2)は磁性粒子1個当たりの平均表面積であり、Arガスを用いたガス吸着測定器を用いて単位重量当たりの表面積S1[m2/g]を求め、さらに磁性粒子の密度ρから、式3によって算出される。
S=(4/3)π(d/2)3ρS1 …式3
ここで、磁性粒子の密度ρは、正確に秤量した磁性粒子と水からなる固形分c%の磁性粒子水分散体の密度ρを振動式密度計により20℃で測定し、20℃における水の密度ρw=0.99820×10-6[g/m3]から式4を解いて求める。
100/ρ=(c/ρ)+((100-c)/ρw)…式4
【0007】
本発明で、製造された磁性粒子の単位重量当たりの表面積S1はガス吸着測定器を用いて求める。この詳細な説明としては秤量した磁性粒子を測定器にセットし、Arガスを吸着させる。このとき吸着したガス量から単位重量当たりの表面積S1が求まり、S1を式3に代入することにより平均表面積Sを求める。
このときf=1であるならば磁性粒子は平滑な面をしているということであり、fが大きければ大きいほど磁性粒子の表面は粗いものになっている。
本発明におけるfの範囲は、2以上であり、好ましくは2〜100、さらに好ましくは2〜10である。fが2未満では磁気分離性と生化学物質結合量のバランスに劣り、100を超える場合には表面の細孔径が小さすぎて抗体などの生体物質が表面積の増加分結合できなくなってしまう。
本発明で製造された磁性粒子の平均粒子径dは好ましくは0.03〜30μm、さらに好ましくは0.1〜10μm、特に好ましくは0.3〜6μmである。dが0.03μm未満であると磁気分離性に劣り、30μmを超えると、自然沈降が速い。
【0008】
本発明の磁性粒子の粒子径における数分布のCV(Coefficient of Variation)値は、好ましくは20%以下、さらに好ましくは15%以下、最も好ましくは10%以下である。CV値が20%を超えると、磁性粒子間のバラツキが生じてしまい磁気分離性が悪化する。CV値はSEM写真によって測定された300個の磁性粒子の粒径を統計処理して求める。
【0009】
本発明の磁性粒子の好まし製造方法としては、ポリマー粒子内およびポリマー粒子表面またはいずれか一方に磁性体が存在する粒子ならびに有機溶剤の存在下、 重合性モノマーを重合する工程を含むことを特徴とする請求項1記載の磁性粒子の製造方法。
本発明の磁性粒子の好ましい製造方法としては母粒子の表面に疎水化処理された磁性体を物理的に吸着させ被膜層を形成する工程と、前記被膜層上に重合によってポリマー層を形成する工程とを含む。母粒子は、基本的に非磁性物質であり、有機物質および無機物質のいずれも使用可能であり、磁性粒子の使用目的などによって適宜選択することができる。
有機物質の代表例としては、例えばポリマーを挙げることができる。かかるポリマーとしては、特に、ビニル系ポリマーが好ましく、その製造に使用するビニル系モノマーとしては、スチレン、α−メチルスチレン、ハロゲン化スチレン、ジビニルベンゼンなどの芳香族ビニル単量体、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルなどのビニルエステル類、アクリロニトリルなどの不飽和ニトリル、メチルアクリレート、エチルアクリレート、エチルメタクリレート、ブチルアクリレート、ブチルメタクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、ラウリルアクリレート、ラウリルメタクリレート、エチレングリコールジアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、シクロヘキシルアクリレート、シクロヘキシルメタクリレートなどのエチレン性不飽和カルボン酸アルキルエステルなどを例示することができる。このビニル系ポリマーは単独重合体であっても、あるいは上記ビニル系モノマーから選ばれた2種以上のモノマーからなる共重合体であってもよい。また、上記ビニル系モノマーとブタジエン、イソプレンなどの共役ジオレフィン、アクリル酸、メタクリル酸、アクリルアミド、メタクリルアミド、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、N−メチロールアクリルアミド、N−メチロールメタクリルアミド、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、ジアリルフタレート、アリルアクリレート、アリルメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレートなどの共重合可能なモノマーとの共重合体も使用することができる。
上述した母粒子としてのポリマー粒子は、例えば上記のビニル系モノマーの乳化重合、懸濁重合、あるいはポリマーバルクの粉砕によって得ることもできる。均一な粒子径を有する母粒子の作製法としては、特公昭57−24369号公報記載の膨潤重合法、ジャーナル オブポリマーサイエンス ポリマーレター エディション(J.Polym.Sci.,Polymer Letter Ed.)記載の重合方法、あるいは本発明者らが先に提案した重合方法(特開昭61−215602号、同61−215603号、同61−215604号)によって容易に製造することができる。
【0010】
本発明の母粒子としては、上記ポリマー粒子の他に、粒子状の医薬品、農薬、食品、香料、染料、顔料、金属なども使用することができる。また、多孔性粒子に液体物質または固体物質微粉末を吸収または吸着させた後、この多孔性粒子を母粒子として使用することもできる。このような母粒子を用いると、上記液体物質または固体物質を内部に含んだ磁性粒子が得られる。なお、上記物質の吸収または吸着は、粒子表面ならびに細孔内部における吸収または吸着、もしくは付着などを意味するものであり、この吸収および吸着は従来公知の方法、例えば含浸などによって実施することができる。
本発明での母粒子の材質は、加工性、軽量性の観点からポリマーなどの有機物質が好ましい。
【0011】
本発明で使用する磁性体としては、特に制限はないが、酸化鉄系の物質が代表的であり、MFe(M=Co、Ni、Mg、Cu、Li0.5Fe0.5等)で表現されるフェライト、Feで表現されるマグネタイト、あるいはγFeが挙げられる。特に、飽和磁化が強く、かつ残留磁化が少ない磁気材料としてγFe、Feが好ましい。
本発明で使用する磁性体は、母粒子の平均粒子径の好ましくは1/5以下、より好ましくは1/10以下、さらに好ましくは1/20以下の平均粒子径を有する。磁性体の平均粒子径が母粒子の平均粒子径の1/5を超えると母粒子表面に均一かつ十分な厚みを持った被覆層を形成することができにくい。
本発明での母粒子と磁性体との比(母粒子:磁性体)は、重量比で95:5〜10:90が好ましい。磁性体がこの範囲の量より少ないと、磁気分離性が不充分な場合がある。また、磁性体がこの範囲の量より多いと、母粒子の対する量が過剰となり、複合化されない磁性体が多くなる。
【0012】
本発明で使用する磁性体は、母粒子と後工程で使用する重合性モノマーとの親和性、相溶性との観点から表面が疎水化されたものである。磁性体の表面の疎水化処理方法としては、磁性体と極めて親和性の高い部分と疎水性の部分とを分子内に有する化合物を磁性体に接触させて結合させる方法を挙げることができる。このような化合物としてはシランカップリング剤に代表されるシラン化合物を挙げることができる。シラン化合物による疎水化は、薬品耐性、特にアルカリ耐性に優れており、使用中に疎水化層が脱落する事による磁性体の剥離、磁気性能が低下する問題、あるいは脱離した磁性体や界面活性剤が浮遊する事による系に汚染物が混入する問題の発生を効果的に防止することができる。また、本発明においては、疎水化された磁性体が、たとえばトルエンに良好に分散することができる場合に、十分に疎水化されているということができる。
シランカップリング剤に代表されるシラン化合物としては、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−グリシドオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、ドデシルトリメトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、ドデシルトリクロロシラン、ヘキシルトリクロロシラン、メチルトリクロロシラン、フェニルトリクロロシランなどがある。
【0013】
これらのシラン化合物を磁性体に結合させる方法としては、例えば、磁性体と、シラン化合物とを水などの無機媒質またはアルコール、エーテル、ケトン、エステルなどの有機媒質中で混合し、撹拌しながら加熱した後、磁性体をデカンテーションなどにより分離して減圧乾燥により無機媒質または有機媒質を除去する手段を挙げることができる。また、磁性体とシラン化合物とを直接混合し加熱させて両者を結合させてもよい。これらの手段において、加熱温度は通常30〜100℃であり、加熱温度は0.5〜2時間程度である。また、シラン化合物の使用量は、磁性体の表面積によって適宜定められているが、通常磁性体100重量部に対して1〜50重量部、好ましくは2〜30重量部である。
【0014】
また、必要に応じて、母粒子の被覆層を形成する物質として、磁性体以外の非磁性物質を複合時に添加しても良い。このような非磁性物質の種類については特に制限はなく、母粒子の複合化の目的によって有機物質あるいは無機物質のなかから適宜選択することができる。
例えば、母粒子に導電性を付与する場合、非磁性物質としてはカーボンブラックの他、銅、アルミニウムなどの各種金属粉、ヨウ化銅、酸化ルテニウムなどの無機材料、ポリアセチレン、ポリピロール、ポリチエニレンなどの導電性ポリマーを使用することができる。
逆に母粒子が導電性であってこれを表面改質によって電気抵抗を高くして帯電性を付与したい場合、非磁性物質としてはポリマー、好ましくは熱可塑性ポリマーを使用するのがよい。この熱可塑性ポリマーとしては、上記ビニル系ポリマーのなかから目的に応じて適宜選択することができる。熱可塑性ポリマー粒子としては、粒子径は母粒子の粒子径の1〜60%、重量平均分子量は1万〜100万、素材はアクリル系のものが望ましい。なお、本発明で使用する非磁性物質の粒子(以下、「非磁性微粒子」という)としては、母粒子と同様に粒子径の均一なものを使用するのが好ましい。
【0015】
また、母粒子の複合化の際、着色用微粒子として次のような顔料を使用することができる。
黒色顔料
カーボンブラック、アセチレンブラック、ランプブラック、アニリンブラック、マグネタイト
黄色顔料
黄鉛、亜鉛黄、カドミウムイェロー、黄色酸化鉄、ミネラルファストイェロー、ニッケルチタンイェロー、ネーブルスイェロー、ナフトールイェローS、ハンザーイェローG、ハンザーイェロー10G、ベンジジンイェローG、ベンジジンイェローGR、キノリンイェローレーキ、パーマネントイェローNCG、タートラジンレーキ
褐色顔料
赤口黄鉛、モリブデンオレンジ、パーマネントレンジGTR、ピラゾロンオレンジ、バルカンオレンジ、インダンスレンブリリアントオレンジRK、ベンジジンオレンジG、インダスレンブリリアントオレンジGK
赤色顔料
ベンガラ、カドミウムレッド、鉛丹、硫化水銀カドミウム、パーマンネントレッド4R、リソールレッド、ピラゾロンレッド、ウォチングレッドカルシウム塩、レーキレッドD、ブリリアントカーミン6B、エオシンレーキ、ローダミンレーキB、アリザリンレーキ、ブリリアントカーミンJB
紫色顔料
マンガン紫、ファストバイオレットB、メチルバイオレットレーキ
青色顔料
紺青、コバルトブルー、アルカリブルーレーキ、金属フタロシアニンブルー、フタロシアニンブルー部分塩素化物、ファーストスカイブルー、インダンスレンブルーBC
緑色顔料
クロムグリーン、酸化クロム、ピグメントグリーンB、マラカイトグリーンレーキ、ファイナルイェローグリーン
白色顔料
亜鉛華、酸化チタン、アンチモン白、硫化亜鉛
体質顔料
バライト粉、炭酸バリウム、クレー、シリカ、ホワイトカーボン、タルク、アルミナホワイト
母粒子の帯電性を制御することを目的とする場合、非磁性微粒子としては、ニグロシン、メチレンブルー、ローズベンガル、キノリンイェロー、ウルトラブルーなどの各種染料を使用することができる。
また、目的に応じて、蛍光物質、ヒドロキシアパタイト、ジルコニアなどの各種機能材料を非磁性微粒子として使用することもできる。
【0016】
上記の被覆層形成用の非磁性微粒子は、単独種だけに限られず、二種以上を組み合わせて使用することができる。特に、無機物質のように溶融しにくい非磁性微粒子を使用する場合、この無機物質粒子と熱可塑性ポリマー粒子とを混合して使用すると被覆層の形成が良好となって好ましい。また、2種以上の合成ポリマーの混合粒子も使用可能であり、この場合も、その少なくとも1種が熱可塑性ポリマー粒子であることが好ましい。これらの非磁性微粒子の添加量としては、母粒子100重量部に対して100重量部以下が望ましい。
また、同一種または異なる種類の磁性微粒子および/または非磁性微粒子を用いて複合化を複数回実施し、複数の被覆層を有する多層構造の被覆層からなる磁性粒子を製造することもできる。例えば、母粒子と磁性体とを用いて第1の被覆層を形成した後、さらにポリマー粒子を加えてこれを第1の被覆層上に物理的に吸着させ、第2の被覆層を形成し、必要に応じてこれを繰り返すことで複数の被覆層を形成することができる。このように、多層構造の被覆層を形成する際に使用する非磁性微粒子の成分としては、ポリマー粒子、好ましくは熱可塑性ポリマー粒子を使用するのがよい。この熱可塑性ポリマー粒子としては、上記ビニル系ポリマーのなかから目的に応じて適宜選択することができる。熱可塑性ポリマー粒子としては、粒子径が母粒子の粒子径の1〜60%、重量平均分子量1万〜100万、素材はアクリル系のものが望ましい。これらのポリマー成分の添加量としては、母粒子100重量部に対し100重量部以下が望ましい。この場合、非磁性微粒子であるポリマーの種類を母粒子と変えると摩擦帯電で付着しやすくなり、被覆層の形成がより容易になる。
【0017】
本発明の方法によって母粒子の表面に磁性体の被覆層を形成するには、先ず母粒子と磁性体とを混合し、母粒子の表面に磁性体を物理的に吸着させる。本発明で述べる物理的吸着法とは、化学反応を伴わない吸着法、結合法を指すものであり、原理としては、疎水/疎水吸着、溶融結合または吸着、融着結合または吸着、水素結合、ファンデルワールス結合などを指す。疎水/疎水吸着を利用する場合の例としては、母粒子表面および磁性体表面が疎水性のもの或いは疎水化処理されたものを選択し、ドライブレンドするか、或いは、母粒子、磁性体の双方を侵すことなく良分散性の溶剤、例えばトルエン、ヘキサン中で充分分散させた後、混合条件下で溶剤を揮発させる方法が挙げられる。また、母粒子表面および磁性体表面を多少溶かす材質あるいは溶剤の選択および/または混合時の温度条件を選択することにより、溶融結合または吸着、融着結合または吸着を利用した複合化も可能である。
【0018】
物理的に強い力を外部から加えることにより複合化を実現させる方法も有効である。例えば乳鉢、自動乳鉢、ボールミル、ブレード加圧式粉体圧縮法、メカノフュージョン法のようなメカノケミカル効果を利用するもの、あるいはジェットミル、ハイブリダイザーなど高速気流中衝撃法を利用するものが挙げられる。効率よくかつ強固に複合化を実施するには物理的吸着力が強いことが望ましい。その方法としては攪拌翼付き容器中で攪拌翼の周速度が好ましくは15m/秒以上、より好ましくは30m/秒以上、さらに好ましくは40〜150m/秒で実施することが挙げられる。撹拌翼の周速度が15m/秒より低いと、被覆層を形成する十分なエネルギーを得ることができないことがある。なお、撹拌翼の周速度の上限については、特に制限はないが、使用する装置、エネルギー効率などの点から自ずと決定される。
【0019】
次に、被覆層上にさらにコーティングのために形成されるポリマー層(以下、「コーティングポリマー層」ともいう)について述べる。
かかるポリマー層は、母粒子の表面に被覆層が形成された粒子(以下、「磁性体被覆粒子」という)の存在下で、主原料としての重合性モノマーと、副原料である重合開始剤、乳化剤、分散剤、界面活性剤、電解質、架橋剤、分子量調節剤などが必要に応じて添加され液体中で重合を行うことにより形成される。このようにコーティングポリマー層を重合によって形成することにより、当該ポリマー層の表面に所望の官能基を導入することができるなど、表面加工性にすぐれる。
ポリマー層の成分としては特に、ビニル系ポリマーが好ましく、その製造に使用するビニル系モノマーとしては、スチレン、α−メチルスチレン、ハロゲン化スチレン、ジビニルベンゼンなどの芳香族ビニル単量体、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルなどのビニルエステル類、アクリロニトリルなどの不飽和ニトリル、メチルアクリレート、エチルアクリレート、エチルメタクリレート、ブチルアクリレート、ブチルメタクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、ラウリルアクリレート、ラウリルメタクリレート、エチレングリコールジアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、シクロヘキシルアクリレート、シクロヘキシルメタクリレートなどのエチレン性不飽和カルボン酸アルキルエステルなどを例示することができる。このビニル系ポリマーは単独重合体であっても、あるいは上記ビニル系モノマーから選ばれた2種以上のモノマーからなる共重合体であってもよい。
また、上記ビニル系モノマーとブタジエン、イソプレンなどの共役ジオレフィン、アクリル酸、メタクリル酸、アクリルアミド、メタクリルアミド、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、N−メチロールアクリルアミド、N−メチロールメタクリルアミド、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、ジアリルフタレート、アリルアクリレート、アリルメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、スチレンスルホン酸およびそのナトリウム塩、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸およびそのナトリウム塩、イソプレンスルホン酸およびそのナトリウム塩などの共重合可能なモノマーとの共重合体も使用することができる。
【0020】
本発明の磁性粒子を製造するには、重合性モノマーとして架橋性モノマーを含むことが好ましい。
架橋性ビニル系モノマーが好ましく、その製造に使用するビニル系モノマーとしては、ポリエチレングリコールジアクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、1,3−ブチレングリコールジアクリレート、ポリテトラメチレングリコールジアクリレート、ポリ(エチレングリコールーテトラメチレエングリコール)ジアクリレート、ポリ(プロピレングリコールーテトラメチレングリコール)ジアクリレート、ポリエチレングリコールーポリプロピレングリコールーポリエチレングリコールジアクリレート、プロピレンオキサイド変性ビスフェノールAジアクリレート、プロピレンオキサイド変性ビスフェノールAジアクリレート、エチレンオキサイド-プロピレンオキサイド変性ビスフェノールAジアクリレート、1,6−ブチレングリコールジアクリレート、1,6−ヘキシレングリコールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、ポリプロピレンジアクリレート、2,2'−ビス(4−アクリロキシプロピルオキシフェニル)プロパン、2,2'−ビス(4−アクリロキシジエトキシフェニル)プロパンなどのジアクリレート化合物、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールエタントリアクリレート、テトラメチロールメタントリアクリレートなどのトリアクリレート化合物、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、テトラメチロールメタンテトラアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレートなどのテトラアクリレート化合物、エチレングリコールジメタクリレート、グリセリンジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、2-ヒドロキシ-3-アクリロイルオキシプロピルメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、ポリテトラメチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、ポリ(エチレングリコールーテトラメチレエングリコール)ジメタクリレート、ポリ(プロピレングリコールーテトラメチレングリコール)ジメタクリレート、ポリエチレングリコールーポリプロピレングリコールーポリエチレングリコールジメタクリレート、エチレンオキサイド変性ビスフェノールAジメタクリレート、プロピレンオキサイド変性ビスフェノールAジメタクリレート、エチレンオキサイド-プロピレンオキサイド変性ビスフェノールAジメタクリレート、プロピレンオキサイドエチレンオキサイド(ブロックタイプ)変性ビスフェノールAジメタクリレート、1,3−ブチレングリコールジメタクリレート、1,4−ブチレングリコールジメタクリレート、1,6−ヘキサングリコールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、ジプロピレングリコールジメタクリレート、ポリプロピレングリコールジメタクリレート、2,2−ビス(4−メタクリロキシジエトキシフェニル)プロパンなどのメタクリレート化合物、トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリメチロールエタントリメタクリレートなどのトリメタクリレート化合物、メチレンビスアクリルアミド、ジビニルベンゼンなどが上げられる。これらのビニル系ポリマーは単独重合体であっても、あるいは上記ビニル系モノマーから選ばれた2種以上のモノマーからなる共重合体であってもよい。
これらの架橋性モノマーは、重合性モノマーの通常5〜100重量%の割合で使用されることが好ましい。
【0021】
さらに、本発明の磁性粒子の製造方法において、重合性モノマーを重合する際に有機溶剤の存在下で行うものである。ここで、有機溶剤は水への溶解性が低いものが好ましい。
有機溶剤の具体例としては、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、石油エーテル、石油ベンジン、イソオクタン、オクタン、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの炭化水素系有機溶剤、クロロホルム、1,2-ジクロロエタン、1,2-ジブロモエタン、1,1,2-トリクロロ-1,2,2-トリフルオロエタン、クロロベンゼン、ブロモベンゼン、o-ジクロロベンゼンなどのハロさゲン化合物、1-プロパノール、2-プロパノール、2,2,2,-トリフルオロエタノール、1-ブタノール、2-ブタノール、イソブチルアルコール、イソベンチルアルコール、シクロヘキサノール、プロピレングリコール、ベンジルアルコールなどのアルコール類、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテルなどのエーテル類がある。
有機溶剤の使用量は、通常重合性モノマーの5〜200重量%である。
【0022】
重合性モノマーの重合開始剤としては、油溶性重合開始剤、水溶性開始剤を用いることができる。
油溶性重合開始剤としては、ベンゾイルペルオキシド、ラウロイルペルオキシド、ターシャリーブチルペルオキシ2−エチルヘキサネート、3,5,5−トリメチルヘキサノイルペルオキシド、アゾビスイソブチロニトリル等の過酸化化合物、アゾ化合物が挙げられる。
重合開始剤としては、水への溶解性の観点から分類すると、油溶性重合開始剤が好ましい。水溶性の重合開始剤を用いると複合粒子表面での重合でなく、磁性体被覆粒子を含まない疎水性重合モノマーのみが重合した新粒子が多量に生じる傾向がある。
これらの重合開始剤のモノマー全体に対する割合は0.01〜8重量%の範囲が好適に用いられる。
【0023】
乳化剤としては、通常使用されている陰イオン性界面活性剤または非イオン性界面活性剤等、を単独もしくは組み合わせて用いることができる。例えば反応性陰イオン性界面活性剤としては、高級アルコール硫酸エステルのアルカリ金属塩、アルキルベンゼンスルホン酸のアルカリ金属塩、コハク酸ジアルキルエステルスルホン酸のアルカリ金属塩、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸のアルカリ金属塩、ポリオキシエチレンアルキル(またはアルキルフェニル)エーテルの硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキル(またはアルキルフェニル)エーテルのリン酸エステル塩、ナフタレンスルホン酸ナトリウムのホルマリン縮合物などの陰イオン性界面活性剤の他、ラテムルS−180A(花王(株)製)、エレミノールJS−2(三洋化成(株)製)、アクアロンHS−10、KH-10(第一工業製薬(株)製)、アデカリアソープSE−10N、SR-10(旭電化工業(株)製)などを挙げることができる。
また、非イオン性界面活性剤としては、例えばポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルなどのほか、アクアロンRS−20(第一工業製薬(株)製)、アデカリアソープNE−20(旭電化工業(株)製)などの反応性非イオン性界面活性剤を挙げることができる。
【0024】
コーティングポリマー層の形成におけるモノマーの重合系への添加方法は、とくに制限されず、一括方式、分割方式あるいは連続添加方式のいずれであっても良い。重合温度は重合開始剤によって異なるが、通常10〜90℃好ましくは30〜85℃であり、重合に要する時間は通常1〜30時間程度である。
【0025】
本発明の方法により得られる磁性粒子の主たる用途の一つは、診断薬用担体粒子である。当該用途では、粒子からの不純物の溶出、あるいは磁性体そのものの溶出あるいは磁性体からの不純物の溶出は望ましくないが、本発明で得られる磁性粒子ではこのような不都合がないので診断薬用担体粒子に好適である。このような診断薬用担体粒子の用途においては、コーティングポリマー層の表面の特性を目的に応じて選択することができる。本発明の方法により得られる磁性粒子の他の用途については後述する。
【実施例】
【0026】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらによって制限されるものではない。
なお、部は重量基準である。
1.母粒子の作製
特公昭57−24369号公報記載の膨潤重合法、ジャーナル オブポリマーサイエンス ポリマーレター エディション(J.Polym.Sci.,Polymer Letter Ed.)記載の重合方法、特開昭61−215602、同61−215603、同61−215604を参考に以下の粒子を作製した。下記母粒子は、重合後遠心分離により粒子のみ取り出したものをさらに水洗し、乾燥、粉砕した。

母粒子1;スチレン/ジビニルベンゼン=80/20共重合体
(平均粒子径1.5μm CV値2.3%)

母粒子2;スチレン/ジビニルベンゼン=80/20共重合体
(平均粒子径11μm CV値5.0%)

母粒子3;スチレン/ジビニルベンゼン=80/20共重合体
(平均粒子径0.8μm CV値3.0%)
【0027】
2.被覆方法
母粒子への被覆方法として、母粒子10gに疎水化された磁性体を10g混合し、この混合物をハイブリダイゼーションシステムNHS-0型(奈良機械製作所(株)製)を使用して、羽根(攪拌翼)の周速度100m/秒(16200rpm)で5分間処理した。
【0028】
実施例1
母粒子1を用いた磁性体被覆粒子を100部、SDS 7.5部、E150 7.5部、エチレングリコールジメタクリレート 25部、メタクリル酸12.5部、パーブチルO 1.25部、イソオクタン 10部、イオン交換水3000部を反応容器に仕込み、次いで窒素ガスを吹き込みながら加熱し、80℃に昇温し4時間反応させた。得られた磁性粒子の平均粒子径を測定したところ2.6μmであった。ガス吸着測定から求めた単位重量当たりの表面積S1=11.0m2/gであった。アントンパール社製の振動式密度計DMA4500によって求めた磁性粒子の密度はρ=1.5であった。式3を用いて求めた粒子1個当たりの表面積S=152pm2であった。以上よりf=7.2である。
磁性粒子とアビジンを化学結合したアビジン化磁性粒子5mgに蛍光標識されたビオチン500 pmolを反応させた。このときのアビジンと反応しなかった蛍光ビオチンの蛍光強度をはかり、アビジンの粒子への結合量を評価した。
また磁性粒子を0.1重量%E150の界面活性剤入り水溶液に分散し、吸光度1.0にあわせた状態で磁石を近づけ吸光度0.1になる時間を測定することにより、磁性粒子の磁気分離性を比較した。結果を表1に示す。
【0029】
比較例1
母粒子1を用いた磁性体被覆粒子を100部、SDS 7.5部、E150 7.5部、エチレングリコールジメタクリレート 25部、メタクリル酸12.5部、パーブチルO 1.25部イオン交換水3000部を反応容器に仕込み、次いで窒素ガスを吹き込みながら加熱し、80℃に昇温し4時間反応させた。得られた磁性粒子の平均粒子径を測定したところ2.4μmであった。ガス吸着測定から求めた単位重量あたりの表面積S1=1.67m2/gであった。アントンパール社製の振動式密度計DMA4500によって求めた磁性粒子の密度はρ=1.5であった。式3を用いて求めた粒子1個当たりの表面積S=23.0pm2であった。以上よりf=1.3である。実施例1と同様にビオチン結合量および磁気分離性を測定した。
【0030】
実施例2
母粒子2を用いた磁性体被覆粒子を100部、SDS 7.5部、E150 7.5部、トリメチロールプロパントリメタクリレート25部、メタクリル酸12.5部、パーブチルO 1.25部、イソオクタン20部、イオン交換水3000部を反応容器に仕込み、次いで窒素ガスを吹き込みながら加熱し、80℃に昇温し4時間反応させた。得られた磁性粒子の平均粒子径を測定したところ12.0μmであった。ガス吸着測定から求めた単位重量当たりの表面積S1=3.00m2/gであった。アントンパール社製の振動式密度計DMA4500によって求めた磁性粒子の密度はρ=1.5であった。式3を用いて求めた粒子1個当たりの表面積S=1.36nm2であった。以上よりf=9.0である。実施例1と同様にビオチン結合量および磁気分離性を測定した。
【0031】
比較例2
母粒子3を用いた磁性体被覆粒子を100部、SDS 7.5部、E150 7.5部、エチレングリコールジメタクリレート 25部、メタクリル酸12.5部、パーブチルO 1.25部、イオン交換水3000部を反応容器に仕込み、次いで窒素ガスを吹き込みながら加熱し、80℃に昇温し4時間反応させた。得られた磁性粒子の平均粒子径を測定したところ1.0μmであった。ガス吸着測定から求めた単位重量あたりの表面積S1=41.9m2/gであった。アントンパール社製の振動式密度計
DMA4500によって求めた磁性粒子の密度はρ=1.5であった。式3を用いて求めた粒子1個当りの表面積S=3.27pm2であった。以上よりf=1.04であった。実施例1と同様にビオチン結合量および磁気分離性を測定した。
【0032】
【表1】






【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマーおよび磁性体からなる粒子であり、平均粒径がdμm、平均表面積がSμm2であって下記式1を満たすことを特徴とする磁性粒子。
f・4π(d/2)2= S f ≧2 式1
【請求項2】
dが0.03〜30μmである請求項1の磁性粒子。
【請求項3】
粒子径分布のCV値が20%以下である請求項1または2いずれかに記載の磁性粒子。
【請求項4】
ポリマーが芳香族ビニル化合物および(メタ)アクリル酸エステルから選ばれる少なくとも1種のモノマーの重合体であることを特徴とする請求項1〜3いずれかに記載の磁性粒子。
【請求項5】
ポリマー粒子内およびポリマー粒子表面またはいずれか一方に磁性体が存在する粒子ならびに有機溶剤の存在下、 重合性モノマーを重合する工程を含むことを特徴とする請求項1記載の磁性粒子の製造方法。
【請求項6】
重合性モノマーが架橋性モノマーを含むことを特徴とする請求項5記載の磁性粒子の製造方法。







【公開番号】特開2006−70064(P2006−70064A)
【公開日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−251636(P2004−251636)
【出願日】平成16年8月31日(2004.8.31)
【出願人】(000004178)JSR株式会社 (3,320)
【Fターム(参考)】