説明

磁気シールド構造体の設置方法

【課題】磁気シールド構造体内部の磁場の対称性を確保しつつ、シールドされる磁場発生装置を載置する載置台を支持するとともに、磁気シールド構造体全体を基盤に効果的に固定する磁気シールド構造体の設置方法を提供すること。
【解決手段】磁気シールド構造体の設置方法を、磁性材料からなる磁気シールド構造体10の床部材11の上下両面に、複数の非磁性材料からなる杭21を形成する工程と、床部材11の下面に形成した杭21を基盤Gに埋設することによって、床部材11を基盤Gに設置する工程と、床部材11の上面に形成した杭21を基礎として、シールドされる磁場発生装置50を載置する載置台31を形成する工程とで構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気シールド構造体の設置方法に関し、特に強静磁場を発生する装置からの漏洩磁場を減衰させる磁気シールド構造体の設置方法に関する。
【背景技術】
【0002】
MRI装置(医療用核磁気共鳴断層撮影装置)等の装置では強力な静磁場を発生する。磁場に対する人体への影響は明確にされていないが、強磁場下に置かれた電気製品や計測機器が障害を蒙るといった現象は報告されている。
【0003】
また、例えばMRI装置が設置されている病院などにおいては、一般に室外への漏洩磁場を0.5mT(ミリテスラ)以内に減衰させることが要求されている。このため、このような強静磁場を発生する装置を設置している部屋の漏洩磁場対策として、強静磁場発生装置を磁気シールド構造体で囲って磁場を押さえ込む方法が採られている。
【0004】
このような漏洩磁場対策としては種々の技術が提案されているが、磁気シールド構造体の内部壁面に磁気回路からの漏洩磁束状況に応じて漏洩磁場の磁化方向と逆向きの磁化方向を有する磁石を設けた磁気シールドが提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0005】
また、電子顕微鏡等、特に磁気で悪影響を受ける特殊な機器を強磁場発生源の上層階に設置する場合等に有効な磁気シールド床を提案したものもある(例えば、特許文献2参照。)。
【特許文献1】実開平6−17208号公報
【特許文献2】特開平6−224582号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、強静磁場を発生する装置を囲う磁気シールド構造体においては、発生される強磁場の磁気シールド構造体外部への漏洩を減少させることが重要であるとともに、磁気シールド構造体内部における磁場の乱れによってシールドされている装置が仕様どおりに作動しないという問題を避けるため、磁場の対称性を確保することが重要である。
【0007】
しかし、前述の特許文献1(実開平6−17208号公報)には、漏洩磁束を磁気シールド構造体内部に封じ込める磁気シールド効果を有した磁気シールド構造体が記載されているが、磁気シールド構造体を基盤(例えば地面)に設置する方法について記載されておらず、また磁場の対称性を確保することのできる設置方法についても何ら記載されていない。
【0008】
また、前述の特許文献2(特開平6−224582公報)は、外部からの漏洩磁場をシールドする磁気シールド床とその設置方法について記載されているが、強静磁場発生装置を囲い込む磁気シールド構造体の設置方法ではなく、また磁気シールド構造体内部の磁場の対称性を確保することについても一切記載されていない。
【0009】
磁気シールド構造体内部の磁場の対称性を確保するためには、強静磁場発生装置を磁気シールド構造体内部の空間の中央部に設置し、発生する磁場の中心に対して対称にシールド材で囲う必要がある。
【0010】
そのためには、シールドされる強静磁場発生装置の脚を長くして装置を磁気シールド構造体内部の空間の中央部に保持することが考えられるが、強静磁場発生装置の脚を長くした場合は耐振性が悪化する。このため、非磁性材料で構築された載置台を磁気シールド構造体内部に設け、シールドされる強静磁場発生装置を載置する方法が採られる。
【0011】
このため、磁気シールド構造体内部の磁場の対称性を確保しつつ、磁気シールド構造体内部に構築される載置台を支持するとともに、磁気シールド構造体全体を地面等の基盤に強固に設置する有効な方法が求められていた。
【0012】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたもので、強静磁場を発生する装置からの漏洩磁場を減衰させる磁気シールド構造体の設置方法であって、磁気シールド構造体内部の磁場の対称性を確保しつつ、シールドされる装置を載置する載置台を支持するとともに、磁気シールド構造体全体を基盤に固定する有効な設置方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は前記目的を達成するために、磁場発生装置と該磁場発生装置を載置する載置台とを包囲する磁気シールド構造体の設置方法において、磁性材料からなる前記磁気シールド構造体の床部材の上下両面に、複数の非磁性材料からなる杭を形成する工程と、前記床部材の下面に形成した杭を基盤に埋設することによって、前記床部材を基盤に設置する工程と、前記床部材の上面に形成した杭を基礎として前記載置台を形成する工程と、を有することを特徴とする。
【0014】
本発明によれば、磁性材料からなる磁気シールド構造体の床部材の上下両面に非磁性材料からなる杭を複数形成するので、磁気シールド構造体内部の磁場の対称性を確保するように構築された載置台を上側の杭で支持し、下側の杭で磁気シールド構造体全体を地面等の基盤に固定することができる。このため、磁気シールド構造体内部の磁場の対称性を損なうことなく磁気シールド構造体を基盤に設置することができ、漏洩磁場を減衰させることができるとともに、シールドされる装置の磁場の乱れによる動作不良を解消することができる。
【0015】
前記床部材の上下両面に複数の非磁性材料からなる杭を形成する工程は、前記床部材に複数の孔を形成する工程と、前記床部材と同一材料からなり、前記孔に挿入可能な寸法で形成された複数の孔埋設部材を作製する工程と、前記孔埋設部材の上下両面に前記杭を接合する工程と、前記孔埋設部材を前記床部材に形成された孔に挿入し、前記孔埋設部材を前記床部材に接合する工程と、で構成することができる。
【0016】
これによれば、上下両面に杭が接合された孔埋設部材を床部材に形成された孔に挿入し、孔埋設部材と床部材とを接合するので、床部材は均一な磁気抵抗が保たれ、床部材の上下両面に杭を形成したことによる磁場の対称性の乱れが生じない。また、孔埋設部材の上下両面に杭を接合する工程を工場で行うことができるので作業性が向上する。
【0017】
また、前記床部材の上下両面に複数の非磁性材料からなる杭を形成する工程では、前記杭を直接前記床部材の上下両面に接合することができる。これによれば、杭を直接床部材の上下両面に接合するので、床部材は均一な磁気抵抗が保たれたままなので、床部材の上下両面に杭を形成したことによる磁場の対称性の乱れが生じない。
【0018】
また、前記床部材の上下両面に複数の非磁性材料からなる杭を形成する工程は、前記床部材に前記杭を挿入可能な複数の貫通孔を形成する工程と、前記複数の貫通孔の夫々に前記杭を挿入して前記床部材の上下両面に突出させ、前記床部材と杭との接合部に導電性の接合材を盛り上げて前記床部材と杭とを接合するとともに、接合部の磁気抵抗の増加を抑制する工程と、で構成することができる。
【0019】
これによれば、床部材に形成された貫通孔に杭を挿入して床部材の上下両面に突出させ、床部材と杭との接合部に導電性の接合材を盛り上げて床部材と杭とを接合するとともに、接合部の磁気抵抗の増加を抑制するので、床部材はほぼ均一な磁気抵抗が保たれ、床部材の上下両面に杭を形成したことによる磁場の対称性の乱れが生じない。
【0020】
また、前記床部材の上下両面に複数の非磁性材料からなる杭を形成する工程は、前記床部材に複数の孔を形成する工程と、前記床部材と同一材料からなり、前記孔に挿入可能な寸法を有するとともに中央部に前記杭を挿入可能な貫通孔が形成された複数の孔埋設部材を作製する工程と、前記貫通孔に前記杭を挿入して前記孔埋設部材の上下両面に突出させ、前記孔埋設部材と杭との接合部に導電性の接合材を盛り上げて前記孔埋設部材と杭とを接合するとともに、接合部の磁気抵抗の増加を抑制する工程と、前記孔埋設部材を前記床部材に形成された孔に挿入し、前記孔埋設部材を前記床部材に接合する工程と、で構成することができる。
【0021】
これによれば、孔埋設部材に形成された貫通孔に杭を挿入して孔埋設部材の上下両面に突出させ、孔埋設部材と杭との接合部に導電性の接合材を盛り上げて孔埋設部材と杭とを接合するとともに、接合部の磁気抵抗の増加を抑制し、この孔埋設部材を床部材に形成された孔に挿入し、孔埋設部材と床部材とを接合するので、床部材はほぼ均一な磁気抵抗が保たれ、床部材の上下両面に杭を形成したことによる磁場の対称性の乱れが生じない。また、孔埋設部材と杭との接合部に導電性の接合剤を盛り上げて孔埋設部材と杭とを接合する工程を工場で行うことができるので作業性が向上する。
【0022】
また、前記孔埋設部材と前記杭との接合、及び前記孔埋設部材と前記床部材との接合のうち少なくともどちらか一方は溶接によって行うことができる。
【0023】
また、前記孔埋設部材と前記杭との接合、及び前記孔埋設部材と前記床部材との接合のうち少なくともどちらか一方は接着によって行うことができる。
【0024】
また、前記床部材と前記杭との接合は、溶接又は接着によって行うことができる。
【0025】
これらの各接合を溶接で行う場合は、接合強度が大きいので大型の磁場発生装置に対して特に有効である。またこれらの各接合を接着で行う場合は、磁気シールド構造体の設置現場における作業が容易になる。
【発明の効果】
【0026】
以上説明したように本発明の磁気シールド構造体の設置方法によれば、磁性材料からなる磁気シールド構造体の床部材の上下両面に非磁性材料からなる杭を複数形成するので、磁気シールド構造体内部の磁場の対称性を確保するように構築された磁場発生装置載置台を上側の杭で支持し、下側の杭で磁気シールド構造体全体を地面等の基盤に固定することができる。
【0027】
このため、磁気シールド構造体内部の磁場の対称性を損なうことなく磁気シールド構造体を基盤に設置することができ、漏洩磁場を減衰させることができるとともに、シールドされる装置の磁場の乱れによる動作不良を解消することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下添付図面に従って本発明に係る磁気シールド構造体の設置方法の好ましい実施の形態について詳説する。尚、各図において同一部材には同一の番号または記号を付している。
【0029】
図1は、磁気シールド構造体を概念的に表わす斜視図である。磁気シールド構造体10は、載置台31上に設置されたMRI装置等の強静磁場を発生する磁場発生装置50の前周囲6面を囲うように設けられている。
【0030】
磁気シールド構造体10は、床部材11、天井部材12、正面板13、裏板14、右側板15、及び左側板16等で構成され、各部材は磁場発生装置50に設けられた磁石の中心軸である磁場中心Cと軸対称になるように配置されている。
【0031】
磁気シールド構造体10の材質は、鉄、コバルト、ニッケルといった強磁性材料の磁気シールド材で、実際にはニッケルと鉄の合金であるパーマロイ、鉄やコバルトのアモルファス材、鉄に珪素を3〜6.5%程度混入させた珪素鋼板等の高透磁率材料、又は安価なSS材等の鋼板が用いられる。
【0032】
なお、図1では磁気シールド構造体10の内部がよく分るように、内部を実線で記載してある。
【0033】
床部材11上に構築される載置台31は、磁気シールドされる磁場発生装置50の磁気シールド構造体10内における磁場の対称性を確保するため、磁場発生装置50を高い位置で載置するためのものである。
【0034】
載置台31は、後出の非磁性材のSUS材からなる多数の杭21、21、…、及びSUS材の配筋をコンクリートで固めて床部材11上に構築された台で、載置台31全体としても非磁性体である。
【0035】
載置台31の外形寸法は、例えば、幅4m×奥行き4m×高さ2.5m程度であり、磁気シールド構造体10の外形寸法は、例えば、幅8m×奥行き12m×高さ8m程度の大きさで、磁気シールド構造体10の床部材11、天井部材12、正面板13、裏板14、右側板15、及び左側板16の厚さは、例えば20mmである。
【0036】
次に、この磁気シールド構造体10の設置方法について説明する。先ず、図2に示すように、磁気シールド構造体10の床部材11に多数の孔11a、11a、…を形成する。この孔11a、11a、…の加工は、予め工場で行うのが好ましい。
【0037】
次に、図3に示すように、床部材11と同じ材質の磁性材料からなる孔埋設部材22を製作する。孔埋設部材22は、厚さが床部材11と同一厚さで、直径が床部材11に形成された孔11aの直径よりも僅かに小径の円盤形状で、孔11aの数と同一数量製作する。
【0038】
次に、図3(a)、(b)に示すように、夫々の孔埋設部材22の上面及び下面に非磁性体であるSUS材(例えば、SUS304)からなる杭21を当接し、杭21と孔埋設部材22の上面、及び杭21と孔埋設部材22の下面を溶接で接合する。この溶接は、異種材料同士の溶接に効果的なアルゴン溶接、又は摩擦溶接等で行う。
【0039】
アルゴン溶接は、高温で活性化された金属が大気中の酸素と反応して酸化皮膜を生成しないように、タングステン電極の周りから保護ガス(アルゴンガス)を放出し、大気から溶融金属を遮断して溶接を行う方法で、異種材料同士の溶接に適している。また、摩擦溶接は、高速回転によって生じる摩擦熱で金属を溶かし、接合させる固相プロセスの溶接技術であり、アルゴン溶接同様異種材料同士の溶接に適している。
【0040】
孔埋設部材22と杭21との接合は、前述の溶接によらず、例えばエポキシ系接着剤等の接着剤で接着することもできる。なお、接着剤はエポキシ系接着剤に限らず、非磁性材料の接着剤であれば他の接着剤を用いてもよい。
【0041】
このようにして孔埋設部材22の上下両面に杭21、21を接合し、図3(b)に示すような、孔埋設部材22と杭21、21とが一体に接合された部材を多数製作する。この溶接又は接着による接合は予め工場で行っておくのが好適である。
【0042】
なお、前述の実施形態では図4(a)に示すように、円盤状の孔埋設部材22の上下両面に丸棒状の杭21、21を接合して一体形成したが、この形状に限らず、図4(b)に示すように、角型の孔埋設部材22Aと角棒状の杭21A、21Aとしてもよく、またこれらの組合せでもよい。角型の孔埋設部材22Aの場合は、床部材11に形成する孔は孔埋設部材22Aが挿入可能な角孔を形成しておく。
【0043】
次に、磁気シールド構造体10の設置現場での設置作業に移る。磁気シールド構造体10を設置する基礎(地面又は建造物の床)にはコンクリートで固めた基盤を形成するための配筋が予め施されている。あるいは、次工程で杭21、21、…が挿入される空間を除いてコンクリートが流し込まれている。
【0044】
図5は、基盤に設置された磁気シールド構造体10を表わす部分断面図である。先ず磁気シールド構造体10を設置する基盤G上に磁気シールド構造体10の床部材11を敷設し、次に床部材11に形成された多数の孔11aに上下両面に杭21、21が接合された孔埋設部材22を挿入する。この時、孔埋設部材22の下面に接合された杭21、21、…は基盤Gの空間に挿入されている。
【0045】
次に、孔埋設部材22の周囲と床部材11とを溶接で接合する。この場合の溶接は、孔埋設部材22と床部材11とは同一の磁気シールド材であるのでアーク溶接等、通常の溶接で行なうことができる。あるいは、溶接に代えてエポキシ系接着剤に鉄粉等を混合させた導電性接着剤を用いて孔埋設部材22と床部材11とを接着してもよい。
【0046】
このようにして、図3(c)、及び図5に示すように、磁気シールド構造体10の床部材11の上面及び下面に非磁性材料からなる多数の杭21、21、…を形成する。これにより、孔11a、11a、…の形成されていない床部材11の上下両面に多数の杭21、21、…が形成されたのと等価な状態となる。
【0047】
なお、床部材11を基盤G上に敷設する前に、予め孔埋設部材22と床部材11との接合を先に行い、上下両面に多数の杭21、21、…が形成された床部材11を基盤G上に敷設する用にしてもよい。
【0048】
次に、基盤Gと杭21、21、…とをコンクリートで固め一体化する。これにより、床部材11が多数の非磁性材料からなる杭21、21、…を介して基盤Gに強固に固定される。
【0049】
次に、床部材11の上面に形成された杭21、21、…を基礎として非磁性材料であるSUS材によって配筋を構築し、この杭21、21、…とSUS材の配筋とをコンクリートで固め、図5に示すように、床部材11上面に載置台31を形成する。この載置台31にはMRI装置等の強静磁場を発生する磁場発生装置50が設置される。
【0050】
次いで、磁気シールド構造体10の正面板13、裏板14、右側板15、左側板16、及び天井部材12等を組立て、図1及び図5に示すような磁気シールド構造体10の設置が完了する。
【0051】
このように、非磁性材料で形成された載置台31上に設置された磁場発生装置50は、磁石の中心軸である磁場中心Cに対して対称に配置されたシールド材で周囲を囲われているので、磁場発生装置50が発生する磁束は、図5の曲線矢印で示すように磁気シールド構造体10内に閉じ込められるとともに、磁場の対称性が保たれ、装置の作動に支障をきたすことがない。
【0052】
次に、本発明に係る磁気シールド構造体の設置方法の実施形態の変形例について説明する。図6は、第1変形例を表わしたものである。この第1変形例では多数の杭21、21、…を孔埋設部材22を介さずに直接床部材11に接合する。
【0053】
即ち、図6(a)に示すように、非磁性材料であるSUS304からなる杭21を床部材11の上下両面に当接させ、アルゴン溶接、あるいはエポキシ系接着剤等による接着にて直接床部材11に接合し、図6(b)に示すような状態を形成する。
【0054】
なお、この第1変形例の場合は床部材11の寸法が大のため摩擦溶接機は使うことができない。但し、床部材11に多数の孔11aを形成する加工が不要であり、また孔埋設部材22の製作も不要で孔埋設部材22と床部材11との接合工程も不要になる。
【0055】
図7は、第2変形例を表わしたものである。この第2変形例は床部材11の上面に形成する杭と下面に形成する杭とを1本の杭21で形成するようにしたものである。先ず、床部材11に杭21の径よりわずかに大径の貫通孔11b、11b、…を形成する。この貫通孔11b、11b、…の加工は予め工場で行っておくのが好ましい。次に図7(a)に示すように、杭21を床部材11の孔11bに挿入し、杭21を床部材11の上下両面に突出させる。
【0056】
次に、床部材11の上下両面の杭21の根元に導電材料からなる接合材23を盛り上げて杭21を床部材11に接合する。接合材23の盛り上げる量は、床部材11の透磁率、接合材23の透磁率、床部材11の厚さ、及び貫通孔11bの径等から接合部の磁気抵抗が増加しないような値が算出される。接合部の磁気抵抗が増加しないので、磁気シールド構造体10内の磁場の対称性が維持される。
【0057】
この杭21と床部材11との接合材23を盛り上げての接合は、アルゴン溶接、あるいは鉄粉等の導電性金属を混入させたエポキシ系接着剤等による接着で行う。この場合も床部材11の寸法が大のため摩擦溶接機は使うことができない。但し、孔埋設部材22の製作も、孔埋設部材22と床部材11との接合工程も不要になる。
【0058】
図8は、第3変形例を表わしたものである。この第3変形例は、第2変形例同様床部材11の上面に形成する杭と下面に形成する杭とを1本の杭21で形成するが、杭21と床部材11との接合は孔埋設部材22Aを介して行う。
【0059】
先ず、磁気シールド構造体10の床部材11に多数の孔11a、11a、…を形成する。この孔11a、11a、…の加工は、予め工場で行うのが好ましい。
【0060】
次に、図8(a)に示すような、床部材11と同じ材質の磁性材料からなる孔埋設部材22Aを製作する。孔埋設部材22Aは、厚さが床部材11と同一厚さで、外径が床部材11に形成された孔11aの直径よりも僅かに小径で、中央部に貫通孔22aが形成された円環形状で、孔11aの数と同一数量製作する。
【0061】
図8(a)に示すように、この孔埋設部材22Aの貫通孔22aに杭21を挿入して孔埋設部材22Aの上下両面に突出させる。次に、図8(b)に示すように、孔埋設部材22Aの上下両面の杭21の根元に導電材料からなる接合材23を盛り上げて杭21を孔埋設部材22Aに接合する。
【0062】
接合材23の盛り上げる量は、孔埋設部材22Aの透磁率、接合材23の透磁率、孔埋設部材22Aの厚さ、及び貫通孔22aの径等から接合部の磁気抵抗が増加しないような値で算出される。
【0063】
この杭21と孔埋設部材22Aとの接合は、アルゴン溶接、あるいは鉄粉等の導電性金属を混入させたエポキシ系接着剤等による接着で行う。このようにして孔埋設部材22Aの上下両面に杭21を突出させて接合し、図8(b)に示すような、孔埋設部材22Aと杭21とが一体に接合された部材を多数製作する。なお、この接合は予め工場で行っておくのが好適である。
【0064】
次に床部材11に形成された多数の孔11aに上下両面に杭21が突出して接合された孔埋設部材22Aを挿入する。次いで、孔埋設部材22Aの周囲と床部材11とを溶接で接合する。
【0065】
この場合の溶接は、孔埋設部材22Aと床部材11とは同一の磁気シールド材であるのでアーク溶接等、通常の溶接で行なうことができる。あるいは、溶接に代えてエポキシ系接着剤に鉄粉等を混合させた導電性接着剤を用いて孔埋設部材22Aと床部材11とを接着してもよい。
【0066】
この第3の変形例の場合も、接合部の磁気抵抗が増加しないように接合材23を盛り上げるので、磁気シールド構造体10内の磁場の対称性が維持される。
【0067】
前述した実施の形態、及び第3の変形例の場合、孔埋設部材22、又は孔埋設部材22Aと杭21との接合は予め工場で行うことができるので、作業性がよい。また、第1の変形例、及び第2の変形例の場合は、杭21を直接床部材11に接合するので、磁気シールド構造体10の設置現場で行う方好ましく、この場合は孔埋設部材22、又は孔埋設部材22Aを製作する必要がない。
【0068】
以上説明したように、本発明に係る磁気シールド構造体の設置方法によれば、磁気シールド構造体10を基盤Gに固定するための杭21、21、…と磁気シールドされる磁場発生装置50を載置する載置台31を構築するための杭21、21、…とを磁気シールド構造体10の床部材11の上下両面に形成するので、磁気シールド構造体10を基盤Gに強固に固定して漏洩磁束を磁気シールド構造体10内部に封じ込めることができるとともに、磁気シールド構造体10内の磁場の対称性が保たれ、磁場発生装置50の性能が損なわれることがない。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】磁気シールド構造体を表わす概念斜視図
【図2】磁気シールド構造体の床部材を表わす平面図
【図3】床部材の上下両面に杭を形成する工程を説明する概念図
【図4】種々の杭の形成形態を説明する断面図
【図5】基盤に設置された磁気シールド構造体を表わす部分断面図
【図6】本発明に係る実施の形態の第1変形例を表わす概念図
【図7】本発明に係る実施の形態の第2変形例を表わす概念図
【図8】本発明に係る実施の形態の第3変形例を表わす概念図
【符号の説明】
【0070】
10…磁気シールド構造体、11…床部材、11a…孔、11b…貫通孔、21、21A…杭、22、22A…孔埋設部材、22a…貫通孔、23…接合材、31…載置台、50…磁場発生装置、C…磁場中心、G…基盤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁場発生装置と該磁場発生装置を載置する載置台とを包囲する磁気シールド構造体の設置方法において、
磁性材料からなる前記磁気シールド構造体の床部材の上下両面に、複数の非磁性材料からなる杭を形成する工程と、
前記床部材の下面に形成した杭を基盤に埋設することによって、前記床部材を基盤に設置する工程と、
前記床部材の上面に形成した杭を基礎として前記載置台を形成する工程と、を有することを特徴とする磁気シールド構造体の設置方法。
【請求項2】
前記床部材の上下両面に複数の非磁性材料からなる杭を形成する工程は、
前記床部材に複数の孔を形成する工程と、
前記床部材と同一材料からなり、前記孔に挿入可能な寸法で形成された複数の孔埋設部材を作製する工程と、
前記孔埋設部材の上下両面に前記杭を接合する工程と、
前記孔埋設部材を前記床部材に形成された孔に挿入し、前記孔埋設部材を前記床部材に接合する工程と、からなることを特徴とする請求項1に記載の磁気シールド構造体の設置方法。
【請求項3】
前記床部材の上下両面に複数の非磁性材料からなる杭を形成する工程では、前記杭を直接前記床部材の上下両面に接合することを特徴とする請求項1に記載の磁気シールド構造体の設置方法。
【請求項4】
前記床部材の上下両面に複数の非磁性材料からなる杭を形成する工程は、
前記床部材に前記杭を挿入可能な複数の貫通孔を形成する工程と、
前記複数の貫通孔の夫々に前記杭を挿入して前記床部材の上下両面に突出させ、前記床部材と杭との接合部に導電性の接合材を盛り上げて前記床部材と杭とを接合するとともに、接合部の磁気抵抗の増加を抑制する工程と、からなることを特徴とする請求項1に記載の磁気シールド構造体の設置方法。
【請求項5】
前記床部材の上下両面に複数の非磁性材料からなる杭を形成する工程は、
前記床部材に複数の孔を形成する工程と、
前記床部材と同一材料からなり、前記孔に挿入可能な寸法を有するとともに中央部に前記杭を挿入可能な貫通孔が形成された複数の孔埋設部材を作製する工程と、
前記貫通孔に前記杭を挿入して前記孔埋設部材の上下両面に突出させ、前記孔埋設部材と杭との接合部に導電性の接合材を盛り上げて前記孔埋設部材と杭とを接合するとともに、接合部の磁気抵抗の増加を抑制する工程と、
前記孔埋設部材を前記床部材に形成された孔に挿入し、前記孔埋設部材を前記床部材に接合する工程と、からなることを特徴とする請求項1に記載の磁気シールド構造体の設置方法。
【請求項6】
前記孔埋設部材と前記杭との接合、及び前記孔埋設部材と前記床部材との接合のうち少なくともどちらか一方は溶接によって行うことを特徴とする請求項2又は請求項5に記載の磁気シールド構造体の設置方法。
【請求項7】
前記孔埋設部材と前記杭との接合、及び前記孔埋設部材と前記床部材との接合のうち少なくともどちらか一方は接着によって行うことを特徴とする請求項2又は請求項5に記載の磁気シールド構造体の設置方法。
【請求項8】
前記床部材と前記杭との接合は、溶接又は接着によって行うことを特徴とする請求項3又は請求項4に記載の磁気シールド構造体の設置方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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