説明

磁気シールド構造

【課題】鉄道や建築物などの構造物の新設工事に際して、当然必要とされる網筋や鉄筋の配筋作業と同時に磁気シールド材の敷設を行うことができるから、特に磁気シールド材を敷設することによって他の作業に影響を与えることがないシールド構造を提供する。
【解決手段】磁場を低減する磁気シールド構造である。面状でかつ有孔の補強材に、帯状、棒状の磁気シールド材2を取り付けることによって面状磁気シールド体3を形成する。この面状磁気シールド体3を、構造物の仕上げモルタルや躯体コンクリート内に埋設する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、線路周囲に発生する磁場を低減するシールド構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電車線路に発生する磁場によって、テレビの画面の色ずれ、ゆがみなどが発生している。
また磁場が医療機器、電子顕微鏡や計測器の測定精度に影響を与えることが問題となっている。
そこで磁場を低減するために、線路の下に水平方向に磁気シールド材を敷設する構造が開発されている。(特許文献1、2参照)。
【0003】
【特許文献1】特開2005−175284号公報
【特許文献2】特開2001−90025号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のような構成は次のような問題がある。
<1> 線路の下に水平方向に磁気シールド材を付設する場合に、道床の施工に影響を与える場合があり、あるいは軌道の保守作業に対しても磁気シールド材の存在が影響を与えることがある。
<2> そのために枕木の直下に磁気シールド材を取り付けて敷設する構成が上記の特許文献記載の発明である。
<3> そのような構成の場合に、枕木の間隔は広く開いているから、シールド効果がそれだけ低下してしまうという問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記のような問題を解決するために本発明の構成は、磁場を低減する磁気シールド構造であって、面状でかつ有孔の補強材に、帯状、棒状の磁気シールド材を取り付けることによって面状磁気シールド体を形成し、この面状磁気シールド体を、構造物の仕上げモルタルや躯体コンクリート内に埋設して構成した磁気シールド構造を特徴とするものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明は上記したようになるから次のような効果を得ることができる。
<1> 線路の下に水平方向に磁気シールド材を付設する構造、施工方法をさらに改善したものであり、枕木の位置だけではなく、広い面状に磁気シールド材を配置することができ、高いシールド効果を期待することができる。
<2> コンクリートの内部に広い面状に磁気シールド材を配置すると、磁気シールド材の上下においてコンクリートの縁が切れてしまう可能性がある。しかし本発明の構成によればコンクリートの縁が切れることがなく、良好な構造物を提供することができる。
<3> 鉄道や建築物などの構造物の新設工事に際して、当然必要とされる網筋や鉄筋の配筋作業と同時に磁気シールド材の敷設を行うことができるから、特に磁気シールド材を敷設することによって他の作業に影響を与えることがない。
<4> 磁気シールド材をコンクリートやモルタルの内部に埋設した形となるから、磁気シールド材に対して特に防錆塗層を施す必要がなく、経済的に耐久性を確保した磁気シールド材を設置することができる。
<5> 磁気シールド材はコンクリートやモルタルの内部に埋設してあるから、鉄道のシールド構造として採用した場合にも、軌道の保守作業によって損傷を受けるような危険がなく、かつ外観を損なわずに長く安定した状態で設置しておくことができる。

【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
次の本発明の実施例について説明する。
【0008】
<1>面状の補強材。
モルタルやコンクリートには引張強度がないから、その内部に面状でかつ多数の開口部を備えた有孔の補強材を埋設する。
この面状、かつ有孔補強材として、例えばワイヤーメッシュなどを称せられる網筋が知られている。
網筋1は直径が数ミリの鋼線を縦横に交差させ、交差点を溶接した格子状、網状の面体である。
網筋1の鋼線と鋼線で囲まれた空間が有孔部を形成することになる。
あるいは補強材として例えば鉄筋篭も知られている。
これは、鉄筋を縦横に交差させ、交差点を溶接したり、結束線で結束した格子状の面体である。
このような網筋1や鉄筋篭は、モルタルやコンクリートの補強に従来から広く利用されている。
面状補強材として打ち抜き鋼板、エキスパンドメタルなどを使用することもできる。
要するに、表面と裏面とが有孔部において貫通している面状の補強材であれば広く市販のものを使用できる。
なお、実施例では面状補強材の一例として網筋1について説明するが、本発明の構成は網筋1に限定されるものではない。
【0009】
<2>磁気シールド材2。
上記のような一般の面状の補強材の一部に、磁気シールド材2を取り付ける。
補強材に取り付ける磁気シールド材2は、特に長い帯状、棒状のものを採用する。
あるいは帯状、棒状の部材に多数の穴を開口した、有孔状の長手部材を使用することもできる。
磁気シールド材2の素材は、透磁率が高く保磁力が小さいものがよく、例えば、珪素鋼板、パーマロイなどによって構成する。
この磁気シールド材2は、網筋1などの補強材への取り付けが容易であるように、薄く長い帯状の珪素鋼板を複数枚重ねて拘束したものを採用する。
棒状の磁気シールド材2は、部材幅が長さに比して狭く長いものであり、円柱状、角柱状のものを採用できる。
特に、磁気シールド材には、磁化容易軸を持つ磁気シールド材があり、これを「方向性磁気シールド材」と言う。
方向性磁気シールド材は、磁化容易軸と平行な磁場に対して特に強い磁場軽減効果を示すことが知られている。
このような方向性磁気シールド材を用いる場合には、棒状の磁気シールド材の長手方向を、磁化容易軸と平行にとる必要がある。
特に珪素鋼板の一種である方向性珪素鋼板は、圧延方向が磁化容易軸(または高透磁率方向)になり、これと平行に切断して束ねた棒状磁気シールド材を、後述するように網筋に一体化させて構成する。
一般に、棒状、帯状の磁気シールド材2は、耐候性、耐腐食性を増すために、保護材料で被覆したり、塗装を施している。
しかし本発明の磁気シールド材2は後述するようにモルタルやコンクリートの内部に埋設してしまうから、そのような特別な処理を施す必要がない。
ただし、絶縁性の保護材料で被覆して磁気シールド材2による短絡の防止を図るような対処方法を採用する場合もある。
【0010】
<3>面状磁気シールド体3。
上記したような磁気シールド材2を、網筋1などの面状補強材に取り付けて、面状磁気シールド体3を形成する。
磁気シールド材2は帯状、棒状の材料であり、一方、網筋1などの面状補強材は多数の有孔状の補強材であるから、両者を結束線で縛るような手段によって格子状の面状補強材に簡単に取り付けて、面状磁気シールド体3を形成することができる。
このような、磁気シールド材2を網筋1などの面状補強材に取り付けた、面状磁気シールド体3を工場などにおいて製造して現場に運搬する。
あるいは、磁気シールド材2を工場で製造し、現場での網筋1や鉄筋の配筋作業と同時に、網筋1などの面状補強材に磁気シールド材2を取り付けて面状磁気シールド体3を形成することもできる。
【0011】
<4>面状磁気シールド体3の敷設。
上記のように構成した面状磁気シールド体3を、所定の構造物4の内部に埋設する。
構造物とはたとえば鉄道の高架橋であり、その道床の仕上げモルタル5を打設する前に、面状磁気シールド体3を水平に敷設する。
その上から仕上げモルタル5を打設して仕上げれば面状磁気シールド体3はモルタル層の内部に埋設される。
その結果、面状磁気シールド体3は鉄道の枕木6の下の構造物4の一部に埋設されることになる。
網筋1を埋設する構造物4が建物の場合には、構造物のスラブコンクリートを打設する型枠の内部、あるいうは柱や壁コンクリートを打設するための型枠の内部に面状磁気シールド体3を配置し、その後にコンクリートを打設する。
【0012】
<5>磁気シールド材2の埋設の効果。
このような工法を採用すると、磁気シールド材2の配置作業は、網筋1や鉄筋の配置と同時に完了する。
そのため磁気シールド材2を配置するための特別な工程が必要なく、通常のコンクリート構造物の構築工程における網筋1を敷設する工程によってシールド対策を行うことができ、他の作業工程に影響を与えることがない。
また、この磁気シールド材2を鉄道に使用した場合には、磁気シールド材2はレールにきわめて近い位置に埋設してあるから、磁気シールド材2の機能を十分に発揮させることができる。
また、磁気シールド材2をレールの下の構造物4の一部に埋設する構成であるから、バラスト道床であっても線路の保線作業において、タンパーなどで破壊してしまう可能性がなく、作業に支障を及ぼすことがない。
モルタルやコンクリートの内部に面状磁気シールド体3を敷設する場合に、面状磁気シールド体3が開口部の存在しない穴のない1枚の板体であると、板体の存在によって上下面のモルタルやコンクリートの縁が切れてしまい、構造物の弱点となる。
しかし本発明の磁気シールド材2は、多数の開口がある有孔材料である。
その結果、モルタルやコンクリートは磁気シールド材2の存在によって縁が切れることがなく、一体の構造物として機能する。
また磁気シールド材2がモルタルやコンクリートの内部に埋設されるから、磁気シールド材2はその周囲を保護された状態となり、その耐候性、防錆性に対して特別な処置を施す必要がなく、経済的である。
【0013】
<6>磁気シールド材2の埋設方向。
面状磁気シールド体3を鉄道のレールの下の構造物4内に埋設して磁気シールド構造として利用する場合に、レールの方向、すなわち磁力線の方向と帯状、棒状の磁気シールド材2の敷設方向が問題となる。
その場合に、面状磁気シールド体3を構成する帯状、棒状の磁気シールド材2を、鉄道のレールの敷設方向と直交する方向、すなわち磁力線に沿った方向に向けて埋設するとより効果的である。
特に、磁力線に沿った方向に向けて埋設すると、磁気シールド材2と隣接する磁気シールド材2との間に隙間があっても、高い磁場の低減効果を得ることができる。
【0014】
<6> 磁気シールド材の効果。
上記のように本発明の面状磁気シールド体3では、磁気シールド材2として帯状、棒状のものを使用している。
したがってひとつの磁気シールド材2と、隣接する磁気シールド材2との間に広い隙間があるから、隙間の存在しない全面を覆う板状の磁気シールド材と比較してシールド効果が低下しているかもしれない。
もしシールド効果が低下しているとすると、他の付着効果、耐久効果などがいくら高くとも意味がないことになってしまう。
そこでシールド効果が低下するか否かを比較する実験を行った。
比較の条件は図3に示すとおりであり、
1) 本発明の磁気シールド材は、幅10mm、長さ1800mm、厚さ3.15mmの帯状の部材を、100mm間隔で11本並べた。
2) 一方、比較の対象には幅900mm、長さ1800mm、厚さ3mmの板状の磁気シールド材Bを使用した。
そのような構成の磁気シールド材について軽減率を比較した結果を図4(帯状の磁気シールド材2を使用)と図5(板状の磁気シールド材Bを使用)に示す。
図4と5に示すとおり、両者の軽減率はほとんど同一であり、帯状の磁気シールド材2を間隔を介して配置しても、板状の磁気シールド材Bと比較してその効果が劣るものでないことが明確となった。
しかも本発明の面状磁気シールド体は、帯状、棒状の磁気シールド材を間隔を介して配置してあることから、前記したようにコンクリートなどの内部に埋設した場合に、その表面と裏面においてコンクリートなどの縁を切ってしまうということがなく、一体の構造物として機能させるという効果も備えている。

【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】面状磁気シールド体の実施例の斜視図。
【図2】面状磁気シールド体を鉄道の道床に配置した例の断面図。
【図3】帯状の磁気シールド材と面状の磁気シールド材とを比較する条件の説明図。
【図4】帯状の磁気シールド材による地磁気の軽減率を測定した図。
【図5】板状の磁気シールド材による地磁気の軽減率を測定した図。
【符号の説明】
【0016】
1:網筋
2:磁気シールド材
3:面状磁気シールド体
4:構造物
5:仕上げモルタル
6:枕木
B:板状の磁気シールド材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁場を低減する磁気シールド構造であって、
面状でかつ有孔の補強材に、
帯状、棒状の磁気シールド材を取り付けることによって面状磁気シールド体を形成し、
この面状磁気シールド体を、
構造物の仕上げモルタルや躯体コンクリート内に埋設して構成した、
磁気シールド構造。
【請求項2】
請求項1に記載の磁気シールド構造において、
面状磁気シールド体を鉄道のレールの下の構造物内に埋設して構成した、
磁気シールド構造。
【請求項3】
請求項2に記載の磁気シールド構造において、
面状磁気シールド体を構成する帯状、棒状の磁気シールド材は、
鉄道のレールの敷設方向と直交する方向に向けて埋設した、
磁気シールド構造。

【請求項4】
請求項2に記載の磁気シールド構造において、
面状磁気シールド体を構成する帯状、棒状の磁気シールド材は、
有孔の板状体によって構成した、
磁気シールド構造。

【請求項5】
請求項2に記載の磁気シールド構造において、
面状磁気シールド体を構成する帯状、棒状の磁気シールド材は、
鉄道のレールの敷設方向と直交する方向に、方向性磁気シールド材の磁化容易軸方向を向けて埋設した、
磁気シールド構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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