磁気センサ
【課題】単一のコイルで直流オフセットを効果的に抑止し、小型でありながら高精度な磁気センサを提供する。
【解決手段】ヨーク201を伴うコイルL104とコンデンサC305を直列接続した回路に対し、矩形波を供給する。矩形波の周期内でヨーク201に飽和現象を発生させ、その電流変化を電流電圧変換回路を通じて検出した後、積分する。この積分出力信号に基づく電流を電圧電流変換回路で作り、コイルL104にフィードバックさせる。フィードバック電流は外部磁界に比例するので、直線性の良い磁気センサを得ることができる。従来技術とは異なり、コイルL104に双方向の電流を流すので、回路定数が変化した場合でも検出電圧の変化が電流方向の違いでそれぞれ同じ大きさになり相殺される。このため無磁界時のオフセットが生じ難い。したがって、従来技術のように二つのコイルを設ける必要がなく、部品点数が少なくなるので、低コストで高精度な磁気センサを実現できる。
【解決手段】ヨーク201を伴うコイルL104とコンデンサC305を直列接続した回路に対し、矩形波を供給する。矩形波の周期内でヨーク201に飽和現象を発生させ、その電流変化を電流電圧変換回路を通じて検出した後、積分する。この積分出力信号に基づく電流を電圧電流変換回路で作り、コイルL104にフィードバックさせる。フィードバック電流は外部磁界に比例するので、直線性の良い磁気センサを得ることができる。従来技術とは異なり、コイルL104に双方向の電流を流すので、回路定数が変化した場合でも検出電圧の変化が電流方向の違いでそれぞれ同じ大きさになり相殺される。このため無磁界時のオフセットが生じ難い。したがって、従来技術のように二つのコイルを設ける必要がなく、部品点数が少なくなるので、低コストで高精度な磁気センサを実現できる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気センサに関する。
より詳細には、高感度のアクティブ型磁気センサに、単一のコイルで磁界の検出とコイルのヨークをゼロ磁界に制御するサーボ機能を併せ持つことで、少ないハードウェアリソースで安定した特性を実現する、新規な磁気センサに関する。
【背景技術】
【0002】
出願人は、周知のホール素子と比べて感度で三桁以上の高感度特性を実現する、アクティブ型磁気センサを製造販売している。以下、このアクティブ型磁気センサの動作原理について説明する。
【0003】
図10(a)、(b)及び(c)は、出願人が製造販売する磁気センサの動作原理を説明するための、コイルの諸特性を説明するグラフである。
図10(a)は磁気センサの原理を説明する回路図であり、図10(b)は図10(a)の回路のスイッチSWの状態を示す図であり、図10(c)は図10(a)の回路のコンデンサCの両端電圧の過渡応答特性を示すグラフである。
【0004】
図10(a)に示すように、直流電源Eに、スイッチSW、抵抗R、コイルLとコンデンサCを直列に接続し、図10(b)に示すようにスイッチをオン操作すると、コンデンサCの両端電圧は、図10(c)に示すように、コイルLの作用で徐々に増加して、その後振動しながらある一定の電圧に収束する。これは典型的なステップ応答の波形である。
この電圧波形の、スイッチSWをオン操作した直後の立ち上がりの傾きは、コイルLのインダクタンスが大きいほど緩やかになり、コイルLのインダクタンスが小さいほど急峻になることは周知である。
本出願人の磁気センサは、このコイルのインダクタンスの変化を過渡応答現象から得ることで実現している。
【0005】
コイルの中心に透磁率の高いヨーク(継鉄)を介在させると、コイルのインダクタンスは増加する。透磁率の高い磁性材料として、磁気ヘッドで周知のパーマロイがある。このパーマロイには、高い透磁率の他に、強い磁界を与えるとある時点以降は磁束密度がそれ以上増えず、実質的に透磁率がゼロになる、という特性がある。強磁性体には強い磁界を与えると磁化して磁束密度がそれ以上増えない、飽和磁束密度が存在するが、パーマロイの場合は残留磁束密度が小さいので、トランスやコイル等のヨークとして用いるに適した材料である。そこで、ヨークにパーマロイを用いたコイルを用意して、外部から磁界を加える時と加えない時とで、インダクタンスの変化を検出すると、磁気センサが実現できる。
【0006】
図10(d)は、パーマロイをヨークに用いたコイルの、外部から印加する磁界の強さに対する、磁束密度の関係を示すグラフ(B−H曲線)である。
コイルに電流を流さない状態で外部磁界を印加すると、ヨークの磁束密度は飽和磁束密度に至るとそれ以上増えなくなる(S1001)。
コイルに正方向の電流を流した状態で、ヨークに正方向の磁界を与えて、同様にヨークの磁束密度を見ると、電流で正方向の磁界が発生している分だけ磁束密度は正方向にオフセットして、電流が流れていない状態よりも弱い外部磁界で、飽和磁束密度に達する(S1002)。
コイルに逆方向の電流を流した状態で、ヨークに正方向の磁界を与えて、同様にヨークの磁束密度を見ると、電流で負方向の磁界が発生している分だけ磁束密度は負方向にオフセットして、電流が流れていない状態よりも強い外部磁界で、飽和磁束密度に達する(S1003)。
このように、パーマロイをヨークに用いたコイルは、正方向、負方向の両方向の磁界を区別して検出できるセンサとして応用できる。
特許文献1及び特許文献2は、上述の技術を応用した、本願発明者による磁気センサを用いた電流センサの先行技術文献である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許3907488号公報
【特許文献2】特開2001−153895号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1及び特許文献2に開示されている技術内容は、コイルのインダクタンスの変化をステップ応答特性を利用して検出するための技術が共通する。コンデンサと直列接続されているコイルにパルス状の直流電圧を連続的に印加し、コイルの電流変化を捉える。特許文献1及び特許文献2は、ダイオードを用いた包絡線検波で電流変化を検出している。
【0009】
これら従来技術に用いられている検出回路は、ヨークの磁気特性の制約から直線性の良好な範囲が制限され、また回路定数やヨークの磁気特性が温度によって変化するため出力電圧が温度によって変動する問題があった。
【0010】
本発明は単一のコイルで磁界の検出とコイルのヨークをゼロ磁界に制御するサーボ機能を併せ持つことでかかる課題を解決し、小型でありながら高精度な磁気センサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明の磁気センサは、矩形波を出力する駆動回路と、駆動回路に接続される、ヨークを伴うコイルと、コイルに直列接続されるコンデンサと、コイルの電流を電圧に変換する電流電圧変換回路と、電流電圧変換回路の出力信号の正方向ピークの電圧及び負方向ピークの電圧を検出する正負ピーク検出回路と、正負ピーク検出回路が出力する正方向ピークの電圧及び負方向ピークの電圧を加算して積分する積分回路と、積分回路の出力電圧を電流に変換してコイルとコンデンサとの接続点に供給する電圧電流変換回路とを具備する。
【0012】
コイルとコンデンサを直列接続した回路に対し、所定の電圧と接地とを交互に接続する。また、フリーホイールダイオードを二つ設けて、電圧或は接地から切断した直後にコイルから生じる起電力を受け流し、コンデンサに電荷を蓄積させると共に回路を安定化させる。その後、コンデンサ或はコンデンサとコイルの直列接続よりなる負荷の両端電圧を取得して、コイル電流による磁界と外部磁界が同一極性の状態と逆極性の状態との電圧を比較して、磁界の有無と方向を検出する。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、単一のコイルで磁界の検出とコイルのヨークをゼロ磁界に制御するサーボ機能を併せ持ち、小型でありながら高精度な磁気センサを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の第一の実施形態に係る磁気センサの外観斜視図である。
【図2】磁気センサのブロック図である。
【図3】検出部の回路図である。
【図4】シーケンサのブロック図である。
【図5】磁気センサの動作原理を説明する図である。
【図6】磁気センサの各部の波形図である。
【図7】本発明の第二の実施形態に係る磁気センサの外観斜視図である。
【図8】磁気センサの回路図である。
【図9】磁気センサの各部の波形図である。
【図10】出願人が製造販売する磁気センサの動作原理を説明するための、コイルの諸特性を説明するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[第一の実施形態]
図1は、本発明の第一の実施形態に係る磁気センサの外観斜視図である。
磁気センサ101は、樹脂モールドされた回路ブロック102と、ケーブル103を通じて回路ブロック102に接続されているコイルL104よりなる。コイルL104はパーマロイのヨークに巻かれている。
このコイルL104に磁石105を近接すると、アナログの検出信号が得られる。
【0016】
図2は、磁気センサ101のブロック図である。
磁気センサ101は、ヨーク201に巻かれたコイルL104のインダクタンスの変化を検出する検出部203と、この検出部203に一定周期のパルスを複数出力するシーケンサ204よりなる。シーケンサ204は、後述する図6(a)、(b)、(c)及び(d)に示す波形のパルスを出力する。
【0017】
図3は、検出部203の回路図である。
第一スイッチ301は第二スイッチ302に直列接続され、電源電圧+Vccが印加される。第二スイッチ302は第一スイッチ301と接地との間に接続される。
第一スイッチ301及び第二スイッチ302はトランジスタスイッチである。
【0018】
第一スイッチ301はシーケンサ204が出力する制御パルス信号P1によってオン・オフ制御される。同様に、第二スイッチ302はシーケンサ204が出力する制御パルス信号P2によってオン・オフ制御される。制御パルス信号P1と制御パルス信号P2は、互いにオン・オフ動作するので、第一スイッチ301と第二スイッチ302が同時にオン動作することはない。
【0019】
第一スイッチ301には、第一フリーホイールダイオードD303が並列接続されている。同様に、第二スイッチ302には、第二フリーホイールダイオードD304が並列接続されている。
【0020】
第一スイッチ301と第二スイッチ302との間の中点には、コンデンサC305とコイルL104が直列接続されている。コイルL104はその一端が接地される。
第一スイッチ301と第二スイッチ302との間の中点には、コンデンサC305とコイルL104の両端電圧を検出するための回路として、二つのサンプルホールド回路が接続されている。
【0021】
サンプルホールド回路は、第一サンプルホールド回路ともいえるコンデンサC306とオペアンプ307、及び第二サンプルホールド回路ともいえるコンデンサC309とオペアンプ311で構成される。オペアンプ307及び311は帰還抵抗がゼロの非反転増幅器、すなわちボルテージフォロワを構成し、コンデンサC306とコイルL104の両端電圧をそのまま出力する。
【0022】
コンデンサC306とコンデンサC305との間には、第三スイッチ308が介在する。第三スイッチ308はシーケンサ204が出力するサンプリングパルス信号P3によってオン・オフ制御されるトランジスタスイッチである。
コンデンサC309とコンデンサC305との間には、第四スイッチ310が介在する。第四スイッチ310はシーケンサ204が出力するサンプリングパルス信号P4によってオン・オフ制御されるトランジスタスイッチである。
【0023】
コンデンサC306とC309は、コンデンサC305とコイルL104の両端電圧を取得する際、コンデンサC305に蓄積されている電荷の量を大きく変化させないために、コンデンサC305と比べると十分小さな静電容量である必要がある。一例として、C305の100分の1以下であることが望ましい。
【0024】
サンプルホールド回路を構成するオペアンプ307の出力とオペアンプ311の出力は、加算回路に入力される。
オペアンプ307の出力に接続される抵抗R312と、オペアンプ311の出力に接続される抵抗R313は、加算回路の入力部を構成する。抵抗R312と抵抗R313の中点、すなわち加算信号はオペアンプ314の反転入力に印加される。
【0025】
オペアンプ314の反転入力と出力との間には、コンデンサC317が接続されている。このため、オペアンプ314は積分器を構成する。
積分器を構成するオペアンプ314の非反転入力には、バイアス電圧として、電源電圧+Vccの半分の電圧が印加される。
こうして、オペアンプ314はコンデンサC305の平均電圧を出力する。
このコンデンサC305の平均電圧は、磁石105等によってコイルL104に印加される磁界に応じて変化する。この仕組みの詳細については後述する。
【0026】
オペアンプ314の出力信号は、抵抗R318を通じてオペアンプ319の非反転入力に接続される。
オペアンプ319の反転入力には、抵抗R320を通じて、オペアンプ314と同様に電源電圧+Vccの半分の電圧が印加される。このオペアンプ319は、反転入力側の抵抗R320と非反転入力側の抵抗R318の抵抗値が等しくなっており、周知の差動増幅回路を構成する。オペアンプ319の反転入力と出力との間に接続される帰還抵抗である抵抗R321は、反転入力側の抵抗R320と非反転入力側の抵抗R318の抵抗値と等しい抵抗値が採用される。
【0027】
オペアンプ319の出力とコイルL104との間には、抵抗R322が接続される。抵抗R322は、コイルL104に流れる電流を検出する抵抗である。この抵抗R322の、コイルL104側の端子には、オペアンプ323の非反転入力が接続される。オペアンプ323の反転入力はそのまま出力と接続されており、オペアンプ307及び311と同様の、ボルテージフォロワを構成する。オペアンプ323の出力は抵抗R324を介してオペアンプ319の非反転入力に接続される。なお、オペアンプ319及びオペアンプ323は、コイルL104に対して正負の電流を供給できるよう正負の電源電圧が供給されている。
【0028】
オペアンプ319、オペアンプ323、抵抗R318、抵抗R320、抵抗R321、抵抗R322、抵抗R324は、電圧電流変換回路を構成すると共に、検出部のフィードバック回路として機能する。つまり、オペアンプ314の出力電圧の変化に比例した電流を、コイルL104に流す。
この電圧電流変換回路は、R318/R324=R321/R320となるときに、オペアンプ319の出力電流はコイルL104の直流抵抗値やコイルL104の両端電圧に依存しなくなることが知られている。
【0029】
図4は、シーケンサ204のブロック図である。
シーケンサ204は、後述する図6(a)、(b)、(c)及び(d)に示す波形のパルスを出力する。この周期的なパルスを出力するために、シーケンサ204は、クロック発生器401と、ループカウンタ402と、ROM403とデコーダ404よりなる。
【0030】
クロック発生器401は所定の周波数の矩形波のパルスを出力する。
ループカウンタ402は、クロック発生器401が生成するパルスを受けて、0から予め定められた数Nまで計数し、その計数値データを出力する。ループカウンタ402はNまで計数すると、再び計数値を0に戻して、再度計数を繰り返す。
【0031】
ループカウンタ402の計数値データはROM403のアドレスとして入力される。ROM403にはクロック発生器401のパルスも入力されるので、ROM403に書き込まれているデータがアドレス0からNまで順番に読み出される。データは、制御パルス信号P1、制御パルス信号P2、サンプリングパルス信号P3及びサンプリングパルス信号P4の種別と、出力する論理値の組み合わせである。
【0032】
ROM403から出力されるデータは、デコーダ404に入力される。デコーダ404は入力されるデータに従って、制御パルス信号P1、制御パルス信号P2、サンプリングパルス信号P3及びサンプリングパルス信号P4を出力する。
なお、シーケンサ204はこの構成に限らず、複数のカウンタとフリップフロップ等の論理回路を組み合わせて構成してもよいし、マイコンで構成してもよい。
【0033】
[動作]
図5(a)、(b)、(c)及び(d)は、磁気センサ101の動作原理を説明する図である。
図6(a)、(b)、(c)、(d)、(e)、(f)及び(g)は、磁気センサ101の各部の波形図である。
先ず、図6(a)は制御パルス信号P1の波形であり、図6(b)は制御パルス信号P2の波形であり、図6(c)はサンプリングパルス信号P3の波形であり、図6(d)はサンプリングパルス信号P4の波形である。
【0034】
図6(a)及び(b)に示すように、制御パルス信号P1と制御パルス信号P2は、それぞれ交互にオン・オフ動作する。また、制御パルス信号P1がオフになってから制御パルス信号P2がオンになる間(時点t3からt7まで)と、制御パルス信号P2がオフになってから制御パルス信号P1がオンになる間(時点t9からt13まで)にはそれぞれ両者が共にオフになる期間が設けられている。この、制御パルス信号P1と制御パルス信号P2が共にオフになっている期間に、サンプリングパルス信号P3とサンプリングパルス信号P4による、コンデンサC305及びコイルL104の両端電圧のサンプリングが行われる。
【0035】
図5(a)は、制御パルス信号P1がオンになっている期間(時点t1からt3まで)における、検出部203に流れる電流を示す図である。制御パルス信号P1は第一スイッチ301をオン制御するので、電源電圧+VccがコンデンサC305とコイルL104に印加され、矢印に示す電流が過渡応答として流れる。
【0036】
図5(b)は、図5(a)の期間の後、制御パルス信号P1がオフになり、制御パルス信号P2もオフのままの期間(時点t3からt7まで)における、検出部203に流れる電流を示す図である。制御パルス信号P1は第一スイッチ301をオフ制御すると、コイルL104にはそれまで流れていた電流とは逆方向の起電力が生じる。この起電力を逃がすため、第二フリーホイールダイオードD304が設けられている。
【0037】
図5(c)は、図5(b)の期間の後、制御パルス信号P2がオンになっている期間(時点t7からt9まで)における、検出部203に流れる電流を示す図である。制御パルス信号P2は第二スイッチ302をオン制御するので、コンデンサC305に蓄積されていた電荷がコイルL104を通じて接地に流れ、矢印に示す電流が過渡応答として流れる。
【0038】
図5(d)は、図5(c)の期間の後、制御パルス信号P2がオフになり、制御パルス信号P1もオフのままの期間(時点t9からt13まで)における、検出部203に流れる電流を示す図である。制御パルス信号P2は第二スイッチ302をオフ制御すると、コイルL104にはそれまで流れていた電流とは逆方向の起電力が生じる。この起電力を逃がすため、第一フリーホイールダイオードD303が設けられている。
【0039】
以上、図5(a)、(b)、(c)及び(d)にて説明した回路の動作を踏まえて、図6(e)、(f)及び(g)を説明する。
図6(e)は、コンデンサC305に流れる電流の波形図である。図3において電流I5にて示している。
時点t1で制御パルス信号P1がオンになると、図5(a)の矢印に示す電流が流れる。コイルL104の特性により、電流は正方向に徐々に増加する。
コイルL104に電流が流れると、コイルL104に電流に比例する磁界が生じる。時点t2において、電流がある値に至ると、コイルL104のヨーク201の透磁率が飽和し、コイルL104のインダクタンスは減少する。コイルL104のインダクタンスが減少すると、電流増加の傾きは急峻になる。
【0040】
なお、制御パルス信号P1のパルス幅は、ヨークが十分飽和するまでの値が必要である。言い換えれば、パルス幅が狭いと磁気センサとして機能しない。コイルL104のインダクタンス及びクロック発生器401の周波数はこの条件を満たすために適切に設定されなければならない。
【0041】
時点t3で制御パルス信号P1がオフになると、図5(b)の矢印に示す電流が流れる。時点t2以降、ヨーク201の透磁率は飽和しているので、コイルL104に流れる電流は急激に減少するが、時点t4になるとヨーク201に印加されている磁界が弱まって飽和状態が解消され、コイルL104のインダクタンスは増加する。コイルL104のインダクタンスが増加すると、電流減少の傾きは緩やかになって、時点t5で電流はゼロになる。
【0042】
コイルL104の過渡現象である時点t1からt5までの現象が終わった後、コンデンサC305にはコイルL104が流した電流によって電荷が充電される。この、コンデンサC305とコイルL104の両端電圧を、コイルL104の過渡現象が終了したt5の後、シーケンサ204が時点t6からサンプリングパルス信号P3を発生すると、サンプルホールド回路はt7の間までサンプリングする。
【0043】
時点t7で制御パルス信号P2がオンになると、図5(c)の矢印に示す電流が流れる。コイルL104の特性により、電流は負方向に徐々に増加する。
コイルL104に電流が流れると、コイルL104に電流に比例する磁界が生じる。時点t8において、電流がある値に至ると、コイルL104のヨーク201の透磁率が飽和し、コイルL104のインダクタンスは減少する。コイルL104のインダクタンスが減少すると、電流増加の傾きは急峻になる。
【0044】
時点t9で制御パルス信号P2がオフになると、図5(d)の矢印に示す電流が流れる。時点t8以降、ヨーク201の透磁率は飽和しているので、コイルL104に流れる電流は急激に減少するが、時点t10になるとヨーク201に印加されている磁界が弱まって飽和状態が解消され、コイルL104のインダクタンスは増加する。コイルL104のインダクタンスが増加すると、電流現象の傾きは緩やかになって、時点t11で電流はゼロになる。
【0045】
コイルL104の過渡現象である時点t7からt11までの現象が終わった後、コンデンサC305にはコイルL104が流した電流によって電荷が放電される。この、コンデンサC305とコイルL104の両端電圧を、コイルL104の過渡現象が終了したt11の後、シーケンサ204が時点t12からサンプリングパルス信号P4を発生すると、サンプルホールド回路はt13の間までサンプリングする。
【0046】
図6(f)は、コイルL104の両端電圧の波形図である。図3において電圧E6にて示している。
コイルL104の両端電圧は、コイルL104に印加される電圧のオン・オフに応じて、流れる電流を妨げる方向に現れる。したがって、時点t1から時点t3までは両端電圧が増加し、時点t3に至るとそれまで印加されていた電圧とは逆方向の電圧(負方向の電圧)が発生する。そして、時点t5に至って電圧がゼロ(グランド)に戻る。同様に、時点t7から時点t9までは両端電圧がマイナス方向に増加し、時点t9に至るとそれまで印加されていた電圧とは逆方向の電圧(正方向の電圧)が発生する。そして、時点t11に至って電圧がゼロ(グランド)に戻る。この周期を繰り返す。
【0047】
図6(g)は、コイルL104とコンデンサC305の両端電圧の波形図である。図3において電圧E7にて示している。
こうして、出力端子(オペアンプ314の出力)には、コイルL104に外部磁界が与えられていない状態では、+Vcc/2が出力される。
【0048】
後述する電圧電流変換回路によるフィードバック回路が切断されている場合において、外部磁界がコイルL104に作用した場合は、次のように動作する。
制御パルス信号P1がオンになったときの電流によるコイルL104内の磁界と外部磁界が同じ向きの場合、ヨーク201が飽和する時点t2が早まり、時点t3におけるピーク電流が増加する。その結果、コンデンサC305の充電電圧が増加する。
一方、制御パルス信号P2がオンになったときの電流によるコイルL104内の磁界と外部磁界が同じ向きの場合、ヨーク201が飽和する時点t2が遅れ、時点t3におけるピーク電流が減少する。その結果、コンデンサC305の充電電圧が減少する。
結局、放電より充電が勝り、コンデンサC305の平均電圧は上昇する。外部磁界が逆極性の場合も同様に説明できる。このように、コンデンサC305の平均電圧は、外部磁界の極性と強さに応じて+Vcc/2を中心にオフセットする。
【0049】
[フィードバックの動作]
本実施形態の検出部203には、フィードバックとしての電圧電流変換回路が設けられている。このフィードバックの動作を説明する。
電圧電流変換回路を構成するオペアンプ319の出力電流は、抵抗R318に印加される電圧と抵抗R320に印加される電圧の差に比例する。
今、コイルL104に外部磁界が与えられていない状態においては、図6(f)で説明したように、コイルL104の端子間電圧は0Vを中心に遷移する。そして、コイルL104とコンデンサC305の端子間電圧(電圧E7)をサンプルホールド回路(コンデンサC306とオペアンプ307、及びコンデンサC309とオペアンプ311)で取得した後、積分回路(オペアンプ314とコンデンサC317)で積分すると、オペアンプ314は+Vcc/2を出力する。したがって、オペアンプ319が出力する電流は0mAである。
【0050】
上述の状態から、コイルL104に外部磁界を与える。今、オペアンプ314の出力電圧が+Vcc/2の状態から正方向にオフセットしたとする。すると、オペアンプ319はオフセットした分の電位差に比例する電流をコイルL104に流す。この電流は、コイルL104に外部磁界を打ち消す方向の磁界を発生させる。このため、コイルL104はこのフィードバックによって、常にゼロ磁界の状態を維持することとなる。
【0051】
前述の通り、外部磁界の極性と強さは、電圧電流変換回路から流れる電流に比例する。すなわち、積分回路を構成するオペアンプ314の出力電圧は、外部磁界の極性と強さに比例した電圧になる。そして、コイルL104には外部磁界を打ち消す方向の磁界が発生することから、第一スイッチ301と第二スイッチ302によって発生する駆動パルスによって生じる正負ピーク電流の和は常にゼロになる。つまり、図6(e)の電流波形はコイルL104に外部磁界を印加しても変化しなくなる。また、電圧波形である図6(f)及び(g)の波形も外部磁界を与えても変化しない。
【0052】
電圧電流変換回路を構成するオペアンプ319の出力インピーダンスは理論的に無限大である。このため、コイルL104とコンデンサC305の接続点に電圧電流変換回路を接続しても、交流的な影響は皆無である。
また、コイルL104に電流電圧変換回路から電流を流すと、コイルL104には電圧が発生する。しかし、この電圧はDC成分であることから、コンデンサC305で分離される。したがって、後続のサンプルホールド回路等には影響を与えない。
コイルL104のヨーク201の磁気特性が温度変化によって変化したとしても、コイルL104の内部は直流的にはゼロ磁界が維持されるので、正負対称の磁気特性のバランスが維持される。したがって、温度特性は良好である。また、コイルL104に流す電流は、外部磁界に比例し、コイルL104の内部は直流的にはゼロ磁界が維持されるので、ヨーク201の磁気特性の制限をを受けずに良好な直線性を得ることが出来る。
【0053】
第一の実施形態の検出部203の特徴は、特許文献1及び特許文献2に開示されている技術内容と異なり、図5(a)乃至(d)及び図6(g)にて説明したように、コイルL104及びコンデンサC305には交流的には双方向の電流が流れると共に、直流的にはゼロ磁界が維持される、という点である。つまり、回路定数が変化した場合でも検出電圧の変化が電流方向の違いでそれぞれ同じ大きさになり相殺されるので、無磁界状態のオフセットが殆ど生じない。したがって、従来技術のようにコイルL104を二つ並べてオフセットキャンセルを行う必要がなく、コイルL104一つだけで磁界を正しく検出できる。
【0054】
[第二の実施形態]
図7は、本発明の第二の実施形態に係る磁気センサの外観斜視図である。
磁気センサ701は、樹脂モールドされた回路を内蔵した一体型のセンサとして形成されている。
磁気センサ701の検出突起701aの中にはパーマロイのヨークに巻かれたコイルL104が内蔵されている。
この検出突起701aに磁石105を近接すると、アナログの検出信号が得られる。
【0055】
図8は、磁気センサ701の回路図である。
第二の実施形態の磁気センサ701は、第一の実施形態の磁気センサ701と比較すると、シーケンサ204がなくなっている。
【0056】
発振回路801は、所定の周波数の矩形波を出力する。発振回路801の出力信号は、抵抗R802を通じてオペアンプ803の反転入力に入力される。オペアンプ803は帰還抵抗である抵抗R804と共に反転増幅器を構成する。発振回路801、抵抗R802、オペアンプ803及び抵抗R804は、駆動回路815ともいえる。
【0057】
オペアンプ803の出力信号はコイルL104に供給される。コイルL104はコンデンサC305と接続されている。そして、コンデンサC305は帰還抵抗である抵抗R805と共に電流電圧変換回路816を構成するオペアンプ806の反転入力に接続される。
【0058】
オペアンプ806の出力信号は、ダイオードD807のアノードと、ダイオードD808のカソードに接続される。
ダイオードD807は出力信号の正方向の電圧を通過させるので、コンデンサC809には正方向の電荷が蓄積され、結果的にコンデンサC809には出力信号の正方向のピーク電圧が現れることとなる。
同様に、ダイオードD808は出力信号の負方向の電圧を通過させるので、コンデンサC810には負方向の電荷が蓄積され、結果的にコンデンサC810には出力信号の負方向のピーク電圧が現れることとなる。
ダイオードD807、ダイオードD808、コンデンサC809及びコンデンサC810は、正負ピーク検出回路817ともいえる。
【0059】
コンデンサC809とコンデンサC810の端子間電圧は、それぞれ抵抗R811と抵抗R812よりなる加算回路を通じて、オペアンプ314の反転入力に供給される。オペアンプ314はコンデンサC317と共に積分回路818を構成し、コンデンサC809とコンデンサC810の端子間電圧の和の電圧を出力する。
【0060】
オペアンプ314の出力信号は、抵抗R318を通じて電圧電流変換回路819を構成するオペアンプ319の非反転入力に接続される。電圧電流変換回路819の構成は、オペアンプ319の非反転入力に接地電位が接続される以外は、第一の実施形態と同じなので、詳細は割愛する。
【0061】
[動作]
図9(a)、(b)、(c)及び(d)は、磁気センサ701の各部の波形図である。
図9(a)は、オペアンプ803の出力信号電圧の波形図である。図8の計測点E11である。グランドを中心に矩形波が出力されていることが判る。
図9(b)は、オペアンプ806の出力信号電圧の波形図である。図8の計測点E12である。つまり、コンデンサC305に流れる電流の波形でもある。図6(e)と同様に、ヨーク201が飽和することによって電流波形の傾きが途中から急峻になっている。
【0062】
図9(c)は、ダイオードD807の出力信号電圧の波形図である。図8の計測点E13である。図9(b)に示す波形の電圧が、ダイオードD807のオン電圧を超えると、ダイオードD807は導通し、コンデンサC809に電流が流れる。そして、コンデンサC809の端子間電圧は、図9(b)に示す波形の電圧がダイオードD807のオン電圧に至る次の周期まで、抵抗R811とオペアンプ314を通じてコンデンサC809の電荷が徐々に放電されることで、徐々に低下する。
図9(d)は、ダイオードD808の出力信号電圧の波形図である。図9(b)に示す波形の電圧が、ダイオードD808のオン電圧を超えると、ダイオードD808は導通し、コンデンサC810に電流が流れる。そして、コンデンサC810の端子間電圧は、図9(b)に示す波形の電圧がダイオードD808のオン電圧に至る次の周期まで、抵抗R812とオペアンプ314を通じてコンデンサC810の電荷が徐々に放電されることで、徐々に低下する。
【0063】
図8の回路の場合、コイルL104に外部磁界が与えられていない状態においては、出力端子には0Vが出力される。この点以外は、第一の実施形態と動作は同じである。
この、第二の実施形態の磁気センサ701は、第一の実施形態の磁気センサ701と比べると、シーケンサ204が不要になっている点、及びオペアンプも省略されている点等から、回路構成がシンプルになっているので、装置の低コスト化が容易である。
【0064】
図8に示した駆動回路815、電流電圧変換回路816、正負ピーク検出回路817、積分回路818及び電圧電流変換回路819は、第一の実施形態の検出部203にも存在する。
駆動回路815は、図3の第一スイッチ301と第二スイッチ302、そしてシーケンサ204が該当する。
電流電圧変換回路816は、図3のコンデンサC305がこれを兼用している。
正負ピーク検出回路817は、図3の第三スイッチ308、第四スイッチ310、コンデンサC306、オペアンプ307、コンデンサC309、オペアンプ311が該当する。
積分回路818は、図3のオペアンプ314とコンデンサC317が該当する。
電圧電流変換回路819は、図3の抵抗R318、オペアンプ319、抵抗R320、抵抗R321、抵抗R322、オペアンプ323及び抵抗R324が該当する。
【0065】
上述の実施形態の他、以下のような応用例が考えられる。
(1)検出部203及び磁気センサ701では、第一スイッチ301及び抵抗R315に印加される電圧は電源電圧であったが、これは必ずしも電源電圧である必要はない。これら素子に印加する電圧をどのように決定するかは設計的事項である。
【0066】
(2)ヨーク201はパーマロイであったが、透磁率が高く、且つ飽和磁束密度の小さい材料であればこれに限られない。例えば、アモルファス合金等が挙げられる。
【0067】
本実施形態では、磁気センサを開示した。
ヨーク201を伴うコイルL104とコンデンサC305を直列接続した回路に対し、矩形波を供給する。矩形波の周期内でヨーク201に飽和現象を発生させ、その電流変化を電流電圧変換回路を通じて検出した後、積分する。この積分出力信号に基づく電流を電圧電流変換回路で作り、コイルL104にフィードバックさせる。フィードバック電流は外部磁界に比例するので、直線性の良い磁気センサを得ることができる。
【0068】
単一のコイルで磁界の検出とコイルのヨークをゼロ磁界に制御するサーボ機能を併せ持つことにより、コイルL104のヨーク201の磁気特性が温度変化によって変化したとしても、コイルL104の内部は直流的にはゼロ磁界が維持されるので、正負対称の磁気特性のバランスが維持される。したがって、温度特性は良好である。また、コイルL104に流す電流は外部磁界に比例し、コイルL104の内部は直流的にはゼロ磁界が維持されるので、ヨーク201の磁気特性の制限を受けずに良好な直線性を得ることが出来る。こうして、低コスト且つ高精度な磁気センサを実現できる。
【0069】
以上、本発明の実施形態例について説明したが、本発明は上記実施形態例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した本発明の要旨を逸脱しない限りにおいて、他の変形例、応用例を含む。
【符号の説明】
【0070】
101…磁気センサ、102…回路ブロック、103…ケーブル、105…磁石、201…ヨーク、203…検出部、204…シーケンサ、301…第一スイッチ、302…第二スイッチ、307…オペアンプ、308…第三スイッチ、310…第四スイッチ、311…オペアンプ、314…オペアンプ、319…オペアンプ、323…オペアンプ、401…クロック発生器、402…ループカウンタ、403…ROM、404…デコーダ、701…磁気センサ、801…発振回路、803…オペアンプ、806…オペアンプ、815…駆動回路、816…電流電圧変換回路、817…正負ピーク検出回路、818…積分回路、819…電圧電流変換回路、C305…コンデンサ、C306…コンデンサ、C309…コンデンサ、C317…コンデンサ、C809…コンデンサ、C810…コンデンサ、D303…第一フリーホイールダイオード、D304…第二フリーホイールダイオード、D807…ダイオード、D808…ダイオード、L104…コイル、R312…抵抗、R313…抵抗、R315…抵抗、R316…抵抗、R318…抵抗、R320…抵抗、R321…抵抗、R322…抵抗、R324…抵抗、R802…抵抗、R804…抵抗、R805…抵抗、R811…抵抗、R812…抵抗
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気センサに関する。
より詳細には、高感度のアクティブ型磁気センサに、単一のコイルで磁界の検出とコイルのヨークをゼロ磁界に制御するサーボ機能を併せ持つことで、少ないハードウェアリソースで安定した特性を実現する、新規な磁気センサに関する。
【背景技術】
【0002】
出願人は、周知のホール素子と比べて感度で三桁以上の高感度特性を実現する、アクティブ型磁気センサを製造販売している。以下、このアクティブ型磁気センサの動作原理について説明する。
【0003】
図10(a)、(b)及び(c)は、出願人が製造販売する磁気センサの動作原理を説明するための、コイルの諸特性を説明するグラフである。
図10(a)は磁気センサの原理を説明する回路図であり、図10(b)は図10(a)の回路のスイッチSWの状態を示す図であり、図10(c)は図10(a)の回路のコンデンサCの両端電圧の過渡応答特性を示すグラフである。
【0004】
図10(a)に示すように、直流電源Eに、スイッチSW、抵抗R、コイルLとコンデンサCを直列に接続し、図10(b)に示すようにスイッチをオン操作すると、コンデンサCの両端電圧は、図10(c)に示すように、コイルLの作用で徐々に増加して、その後振動しながらある一定の電圧に収束する。これは典型的なステップ応答の波形である。
この電圧波形の、スイッチSWをオン操作した直後の立ち上がりの傾きは、コイルLのインダクタンスが大きいほど緩やかになり、コイルLのインダクタンスが小さいほど急峻になることは周知である。
本出願人の磁気センサは、このコイルのインダクタンスの変化を過渡応答現象から得ることで実現している。
【0005】
コイルの中心に透磁率の高いヨーク(継鉄)を介在させると、コイルのインダクタンスは増加する。透磁率の高い磁性材料として、磁気ヘッドで周知のパーマロイがある。このパーマロイには、高い透磁率の他に、強い磁界を与えるとある時点以降は磁束密度がそれ以上増えず、実質的に透磁率がゼロになる、という特性がある。強磁性体には強い磁界を与えると磁化して磁束密度がそれ以上増えない、飽和磁束密度が存在するが、パーマロイの場合は残留磁束密度が小さいので、トランスやコイル等のヨークとして用いるに適した材料である。そこで、ヨークにパーマロイを用いたコイルを用意して、外部から磁界を加える時と加えない時とで、インダクタンスの変化を検出すると、磁気センサが実現できる。
【0006】
図10(d)は、パーマロイをヨークに用いたコイルの、外部から印加する磁界の強さに対する、磁束密度の関係を示すグラフ(B−H曲線)である。
コイルに電流を流さない状態で外部磁界を印加すると、ヨークの磁束密度は飽和磁束密度に至るとそれ以上増えなくなる(S1001)。
コイルに正方向の電流を流した状態で、ヨークに正方向の磁界を与えて、同様にヨークの磁束密度を見ると、電流で正方向の磁界が発生している分だけ磁束密度は正方向にオフセットして、電流が流れていない状態よりも弱い外部磁界で、飽和磁束密度に達する(S1002)。
コイルに逆方向の電流を流した状態で、ヨークに正方向の磁界を与えて、同様にヨークの磁束密度を見ると、電流で負方向の磁界が発生している分だけ磁束密度は負方向にオフセットして、電流が流れていない状態よりも強い外部磁界で、飽和磁束密度に達する(S1003)。
このように、パーマロイをヨークに用いたコイルは、正方向、負方向の両方向の磁界を区別して検出できるセンサとして応用できる。
特許文献1及び特許文献2は、上述の技術を応用した、本願発明者による磁気センサを用いた電流センサの先行技術文献である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許3907488号公報
【特許文献2】特開2001−153895号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1及び特許文献2に開示されている技術内容は、コイルのインダクタンスの変化をステップ応答特性を利用して検出するための技術が共通する。コンデンサと直列接続されているコイルにパルス状の直流電圧を連続的に印加し、コイルの電流変化を捉える。特許文献1及び特許文献2は、ダイオードを用いた包絡線検波で電流変化を検出している。
【0009】
これら従来技術に用いられている検出回路は、ヨークの磁気特性の制約から直線性の良好な範囲が制限され、また回路定数やヨークの磁気特性が温度によって変化するため出力電圧が温度によって変動する問題があった。
【0010】
本発明は単一のコイルで磁界の検出とコイルのヨークをゼロ磁界に制御するサーボ機能を併せ持つことでかかる課題を解決し、小型でありながら高精度な磁気センサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明の磁気センサは、矩形波を出力する駆動回路と、駆動回路に接続される、ヨークを伴うコイルと、コイルに直列接続されるコンデンサと、コイルの電流を電圧に変換する電流電圧変換回路と、電流電圧変換回路の出力信号の正方向ピークの電圧及び負方向ピークの電圧を検出する正負ピーク検出回路と、正負ピーク検出回路が出力する正方向ピークの電圧及び負方向ピークの電圧を加算して積分する積分回路と、積分回路の出力電圧を電流に変換してコイルとコンデンサとの接続点に供給する電圧電流変換回路とを具備する。
【0012】
コイルとコンデンサを直列接続した回路に対し、所定の電圧と接地とを交互に接続する。また、フリーホイールダイオードを二つ設けて、電圧或は接地から切断した直後にコイルから生じる起電力を受け流し、コンデンサに電荷を蓄積させると共に回路を安定化させる。その後、コンデンサ或はコンデンサとコイルの直列接続よりなる負荷の両端電圧を取得して、コイル電流による磁界と外部磁界が同一極性の状態と逆極性の状態との電圧を比較して、磁界の有無と方向を検出する。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、単一のコイルで磁界の検出とコイルのヨークをゼロ磁界に制御するサーボ機能を併せ持ち、小型でありながら高精度な磁気センサを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の第一の実施形態に係る磁気センサの外観斜視図である。
【図2】磁気センサのブロック図である。
【図3】検出部の回路図である。
【図4】シーケンサのブロック図である。
【図5】磁気センサの動作原理を説明する図である。
【図6】磁気センサの各部の波形図である。
【図7】本発明の第二の実施形態に係る磁気センサの外観斜視図である。
【図8】磁気センサの回路図である。
【図9】磁気センサの各部の波形図である。
【図10】出願人が製造販売する磁気センサの動作原理を説明するための、コイルの諸特性を説明するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[第一の実施形態]
図1は、本発明の第一の実施形態に係る磁気センサの外観斜視図である。
磁気センサ101は、樹脂モールドされた回路ブロック102と、ケーブル103を通じて回路ブロック102に接続されているコイルL104よりなる。コイルL104はパーマロイのヨークに巻かれている。
このコイルL104に磁石105を近接すると、アナログの検出信号が得られる。
【0016】
図2は、磁気センサ101のブロック図である。
磁気センサ101は、ヨーク201に巻かれたコイルL104のインダクタンスの変化を検出する検出部203と、この検出部203に一定周期のパルスを複数出力するシーケンサ204よりなる。シーケンサ204は、後述する図6(a)、(b)、(c)及び(d)に示す波形のパルスを出力する。
【0017】
図3は、検出部203の回路図である。
第一スイッチ301は第二スイッチ302に直列接続され、電源電圧+Vccが印加される。第二スイッチ302は第一スイッチ301と接地との間に接続される。
第一スイッチ301及び第二スイッチ302はトランジスタスイッチである。
【0018】
第一スイッチ301はシーケンサ204が出力する制御パルス信号P1によってオン・オフ制御される。同様に、第二スイッチ302はシーケンサ204が出力する制御パルス信号P2によってオン・オフ制御される。制御パルス信号P1と制御パルス信号P2は、互いにオン・オフ動作するので、第一スイッチ301と第二スイッチ302が同時にオン動作することはない。
【0019】
第一スイッチ301には、第一フリーホイールダイオードD303が並列接続されている。同様に、第二スイッチ302には、第二フリーホイールダイオードD304が並列接続されている。
【0020】
第一スイッチ301と第二スイッチ302との間の中点には、コンデンサC305とコイルL104が直列接続されている。コイルL104はその一端が接地される。
第一スイッチ301と第二スイッチ302との間の中点には、コンデンサC305とコイルL104の両端電圧を検出するための回路として、二つのサンプルホールド回路が接続されている。
【0021】
サンプルホールド回路は、第一サンプルホールド回路ともいえるコンデンサC306とオペアンプ307、及び第二サンプルホールド回路ともいえるコンデンサC309とオペアンプ311で構成される。オペアンプ307及び311は帰還抵抗がゼロの非反転増幅器、すなわちボルテージフォロワを構成し、コンデンサC306とコイルL104の両端電圧をそのまま出力する。
【0022】
コンデンサC306とコンデンサC305との間には、第三スイッチ308が介在する。第三スイッチ308はシーケンサ204が出力するサンプリングパルス信号P3によってオン・オフ制御されるトランジスタスイッチである。
コンデンサC309とコンデンサC305との間には、第四スイッチ310が介在する。第四スイッチ310はシーケンサ204が出力するサンプリングパルス信号P4によってオン・オフ制御されるトランジスタスイッチである。
【0023】
コンデンサC306とC309は、コンデンサC305とコイルL104の両端電圧を取得する際、コンデンサC305に蓄積されている電荷の量を大きく変化させないために、コンデンサC305と比べると十分小さな静電容量である必要がある。一例として、C305の100分の1以下であることが望ましい。
【0024】
サンプルホールド回路を構成するオペアンプ307の出力とオペアンプ311の出力は、加算回路に入力される。
オペアンプ307の出力に接続される抵抗R312と、オペアンプ311の出力に接続される抵抗R313は、加算回路の入力部を構成する。抵抗R312と抵抗R313の中点、すなわち加算信号はオペアンプ314の反転入力に印加される。
【0025】
オペアンプ314の反転入力と出力との間には、コンデンサC317が接続されている。このため、オペアンプ314は積分器を構成する。
積分器を構成するオペアンプ314の非反転入力には、バイアス電圧として、電源電圧+Vccの半分の電圧が印加される。
こうして、オペアンプ314はコンデンサC305の平均電圧を出力する。
このコンデンサC305の平均電圧は、磁石105等によってコイルL104に印加される磁界に応じて変化する。この仕組みの詳細については後述する。
【0026】
オペアンプ314の出力信号は、抵抗R318を通じてオペアンプ319の非反転入力に接続される。
オペアンプ319の反転入力には、抵抗R320を通じて、オペアンプ314と同様に電源電圧+Vccの半分の電圧が印加される。このオペアンプ319は、反転入力側の抵抗R320と非反転入力側の抵抗R318の抵抗値が等しくなっており、周知の差動増幅回路を構成する。オペアンプ319の反転入力と出力との間に接続される帰還抵抗である抵抗R321は、反転入力側の抵抗R320と非反転入力側の抵抗R318の抵抗値と等しい抵抗値が採用される。
【0027】
オペアンプ319の出力とコイルL104との間には、抵抗R322が接続される。抵抗R322は、コイルL104に流れる電流を検出する抵抗である。この抵抗R322の、コイルL104側の端子には、オペアンプ323の非反転入力が接続される。オペアンプ323の反転入力はそのまま出力と接続されており、オペアンプ307及び311と同様の、ボルテージフォロワを構成する。オペアンプ323の出力は抵抗R324を介してオペアンプ319の非反転入力に接続される。なお、オペアンプ319及びオペアンプ323は、コイルL104に対して正負の電流を供給できるよう正負の電源電圧が供給されている。
【0028】
オペアンプ319、オペアンプ323、抵抗R318、抵抗R320、抵抗R321、抵抗R322、抵抗R324は、電圧電流変換回路を構成すると共に、検出部のフィードバック回路として機能する。つまり、オペアンプ314の出力電圧の変化に比例した電流を、コイルL104に流す。
この電圧電流変換回路は、R318/R324=R321/R320となるときに、オペアンプ319の出力電流はコイルL104の直流抵抗値やコイルL104の両端電圧に依存しなくなることが知られている。
【0029】
図4は、シーケンサ204のブロック図である。
シーケンサ204は、後述する図6(a)、(b)、(c)及び(d)に示す波形のパルスを出力する。この周期的なパルスを出力するために、シーケンサ204は、クロック発生器401と、ループカウンタ402と、ROM403とデコーダ404よりなる。
【0030】
クロック発生器401は所定の周波数の矩形波のパルスを出力する。
ループカウンタ402は、クロック発生器401が生成するパルスを受けて、0から予め定められた数Nまで計数し、その計数値データを出力する。ループカウンタ402はNまで計数すると、再び計数値を0に戻して、再度計数を繰り返す。
【0031】
ループカウンタ402の計数値データはROM403のアドレスとして入力される。ROM403にはクロック発生器401のパルスも入力されるので、ROM403に書き込まれているデータがアドレス0からNまで順番に読み出される。データは、制御パルス信号P1、制御パルス信号P2、サンプリングパルス信号P3及びサンプリングパルス信号P4の種別と、出力する論理値の組み合わせである。
【0032】
ROM403から出力されるデータは、デコーダ404に入力される。デコーダ404は入力されるデータに従って、制御パルス信号P1、制御パルス信号P2、サンプリングパルス信号P3及びサンプリングパルス信号P4を出力する。
なお、シーケンサ204はこの構成に限らず、複数のカウンタとフリップフロップ等の論理回路を組み合わせて構成してもよいし、マイコンで構成してもよい。
【0033】
[動作]
図5(a)、(b)、(c)及び(d)は、磁気センサ101の動作原理を説明する図である。
図6(a)、(b)、(c)、(d)、(e)、(f)及び(g)は、磁気センサ101の各部の波形図である。
先ず、図6(a)は制御パルス信号P1の波形であり、図6(b)は制御パルス信号P2の波形であり、図6(c)はサンプリングパルス信号P3の波形であり、図6(d)はサンプリングパルス信号P4の波形である。
【0034】
図6(a)及び(b)に示すように、制御パルス信号P1と制御パルス信号P2は、それぞれ交互にオン・オフ動作する。また、制御パルス信号P1がオフになってから制御パルス信号P2がオンになる間(時点t3からt7まで)と、制御パルス信号P2がオフになってから制御パルス信号P1がオンになる間(時点t9からt13まで)にはそれぞれ両者が共にオフになる期間が設けられている。この、制御パルス信号P1と制御パルス信号P2が共にオフになっている期間に、サンプリングパルス信号P3とサンプリングパルス信号P4による、コンデンサC305及びコイルL104の両端電圧のサンプリングが行われる。
【0035】
図5(a)は、制御パルス信号P1がオンになっている期間(時点t1からt3まで)における、検出部203に流れる電流を示す図である。制御パルス信号P1は第一スイッチ301をオン制御するので、電源電圧+VccがコンデンサC305とコイルL104に印加され、矢印に示す電流が過渡応答として流れる。
【0036】
図5(b)は、図5(a)の期間の後、制御パルス信号P1がオフになり、制御パルス信号P2もオフのままの期間(時点t3からt7まで)における、検出部203に流れる電流を示す図である。制御パルス信号P1は第一スイッチ301をオフ制御すると、コイルL104にはそれまで流れていた電流とは逆方向の起電力が生じる。この起電力を逃がすため、第二フリーホイールダイオードD304が設けられている。
【0037】
図5(c)は、図5(b)の期間の後、制御パルス信号P2がオンになっている期間(時点t7からt9まで)における、検出部203に流れる電流を示す図である。制御パルス信号P2は第二スイッチ302をオン制御するので、コンデンサC305に蓄積されていた電荷がコイルL104を通じて接地に流れ、矢印に示す電流が過渡応答として流れる。
【0038】
図5(d)は、図5(c)の期間の後、制御パルス信号P2がオフになり、制御パルス信号P1もオフのままの期間(時点t9からt13まで)における、検出部203に流れる電流を示す図である。制御パルス信号P2は第二スイッチ302をオフ制御すると、コイルL104にはそれまで流れていた電流とは逆方向の起電力が生じる。この起電力を逃がすため、第一フリーホイールダイオードD303が設けられている。
【0039】
以上、図5(a)、(b)、(c)及び(d)にて説明した回路の動作を踏まえて、図6(e)、(f)及び(g)を説明する。
図6(e)は、コンデンサC305に流れる電流の波形図である。図3において電流I5にて示している。
時点t1で制御パルス信号P1がオンになると、図5(a)の矢印に示す電流が流れる。コイルL104の特性により、電流は正方向に徐々に増加する。
コイルL104に電流が流れると、コイルL104に電流に比例する磁界が生じる。時点t2において、電流がある値に至ると、コイルL104のヨーク201の透磁率が飽和し、コイルL104のインダクタンスは減少する。コイルL104のインダクタンスが減少すると、電流増加の傾きは急峻になる。
【0040】
なお、制御パルス信号P1のパルス幅は、ヨークが十分飽和するまでの値が必要である。言い換えれば、パルス幅が狭いと磁気センサとして機能しない。コイルL104のインダクタンス及びクロック発生器401の周波数はこの条件を満たすために適切に設定されなければならない。
【0041】
時点t3で制御パルス信号P1がオフになると、図5(b)の矢印に示す電流が流れる。時点t2以降、ヨーク201の透磁率は飽和しているので、コイルL104に流れる電流は急激に減少するが、時点t4になるとヨーク201に印加されている磁界が弱まって飽和状態が解消され、コイルL104のインダクタンスは増加する。コイルL104のインダクタンスが増加すると、電流減少の傾きは緩やかになって、時点t5で電流はゼロになる。
【0042】
コイルL104の過渡現象である時点t1からt5までの現象が終わった後、コンデンサC305にはコイルL104が流した電流によって電荷が充電される。この、コンデンサC305とコイルL104の両端電圧を、コイルL104の過渡現象が終了したt5の後、シーケンサ204が時点t6からサンプリングパルス信号P3を発生すると、サンプルホールド回路はt7の間までサンプリングする。
【0043】
時点t7で制御パルス信号P2がオンになると、図5(c)の矢印に示す電流が流れる。コイルL104の特性により、電流は負方向に徐々に増加する。
コイルL104に電流が流れると、コイルL104に電流に比例する磁界が生じる。時点t8において、電流がある値に至ると、コイルL104のヨーク201の透磁率が飽和し、コイルL104のインダクタンスは減少する。コイルL104のインダクタンスが減少すると、電流増加の傾きは急峻になる。
【0044】
時点t9で制御パルス信号P2がオフになると、図5(d)の矢印に示す電流が流れる。時点t8以降、ヨーク201の透磁率は飽和しているので、コイルL104に流れる電流は急激に減少するが、時点t10になるとヨーク201に印加されている磁界が弱まって飽和状態が解消され、コイルL104のインダクタンスは増加する。コイルL104のインダクタンスが増加すると、電流現象の傾きは緩やかになって、時点t11で電流はゼロになる。
【0045】
コイルL104の過渡現象である時点t7からt11までの現象が終わった後、コンデンサC305にはコイルL104が流した電流によって電荷が放電される。この、コンデンサC305とコイルL104の両端電圧を、コイルL104の過渡現象が終了したt11の後、シーケンサ204が時点t12からサンプリングパルス信号P4を発生すると、サンプルホールド回路はt13の間までサンプリングする。
【0046】
図6(f)は、コイルL104の両端電圧の波形図である。図3において電圧E6にて示している。
コイルL104の両端電圧は、コイルL104に印加される電圧のオン・オフに応じて、流れる電流を妨げる方向に現れる。したがって、時点t1から時点t3までは両端電圧が増加し、時点t3に至るとそれまで印加されていた電圧とは逆方向の電圧(負方向の電圧)が発生する。そして、時点t5に至って電圧がゼロ(グランド)に戻る。同様に、時点t7から時点t9までは両端電圧がマイナス方向に増加し、時点t9に至るとそれまで印加されていた電圧とは逆方向の電圧(正方向の電圧)が発生する。そして、時点t11に至って電圧がゼロ(グランド)に戻る。この周期を繰り返す。
【0047】
図6(g)は、コイルL104とコンデンサC305の両端電圧の波形図である。図3において電圧E7にて示している。
こうして、出力端子(オペアンプ314の出力)には、コイルL104に外部磁界が与えられていない状態では、+Vcc/2が出力される。
【0048】
後述する電圧電流変換回路によるフィードバック回路が切断されている場合において、外部磁界がコイルL104に作用した場合は、次のように動作する。
制御パルス信号P1がオンになったときの電流によるコイルL104内の磁界と外部磁界が同じ向きの場合、ヨーク201が飽和する時点t2が早まり、時点t3におけるピーク電流が増加する。その結果、コンデンサC305の充電電圧が増加する。
一方、制御パルス信号P2がオンになったときの電流によるコイルL104内の磁界と外部磁界が同じ向きの場合、ヨーク201が飽和する時点t2が遅れ、時点t3におけるピーク電流が減少する。その結果、コンデンサC305の充電電圧が減少する。
結局、放電より充電が勝り、コンデンサC305の平均電圧は上昇する。外部磁界が逆極性の場合も同様に説明できる。このように、コンデンサC305の平均電圧は、外部磁界の極性と強さに応じて+Vcc/2を中心にオフセットする。
【0049】
[フィードバックの動作]
本実施形態の検出部203には、フィードバックとしての電圧電流変換回路が設けられている。このフィードバックの動作を説明する。
電圧電流変換回路を構成するオペアンプ319の出力電流は、抵抗R318に印加される電圧と抵抗R320に印加される電圧の差に比例する。
今、コイルL104に外部磁界が与えられていない状態においては、図6(f)で説明したように、コイルL104の端子間電圧は0Vを中心に遷移する。そして、コイルL104とコンデンサC305の端子間電圧(電圧E7)をサンプルホールド回路(コンデンサC306とオペアンプ307、及びコンデンサC309とオペアンプ311)で取得した後、積分回路(オペアンプ314とコンデンサC317)で積分すると、オペアンプ314は+Vcc/2を出力する。したがって、オペアンプ319が出力する電流は0mAである。
【0050】
上述の状態から、コイルL104に外部磁界を与える。今、オペアンプ314の出力電圧が+Vcc/2の状態から正方向にオフセットしたとする。すると、オペアンプ319はオフセットした分の電位差に比例する電流をコイルL104に流す。この電流は、コイルL104に外部磁界を打ち消す方向の磁界を発生させる。このため、コイルL104はこのフィードバックによって、常にゼロ磁界の状態を維持することとなる。
【0051】
前述の通り、外部磁界の極性と強さは、電圧電流変換回路から流れる電流に比例する。すなわち、積分回路を構成するオペアンプ314の出力電圧は、外部磁界の極性と強さに比例した電圧になる。そして、コイルL104には外部磁界を打ち消す方向の磁界が発生することから、第一スイッチ301と第二スイッチ302によって発生する駆動パルスによって生じる正負ピーク電流の和は常にゼロになる。つまり、図6(e)の電流波形はコイルL104に外部磁界を印加しても変化しなくなる。また、電圧波形である図6(f)及び(g)の波形も外部磁界を与えても変化しない。
【0052】
電圧電流変換回路を構成するオペアンプ319の出力インピーダンスは理論的に無限大である。このため、コイルL104とコンデンサC305の接続点に電圧電流変換回路を接続しても、交流的な影響は皆無である。
また、コイルL104に電流電圧変換回路から電流を流すと、コイルL104には電圧が発生する。しかし、この電圧はDC成分であることから、コンデンサC305で分離される。したがって、後続のサンプルホールド回路等には影響を与えない。
コイルL104のヨーク201の磁気特性が温度変化によって変化したとしても、コイルL104の内部は直流的にはゼロ磁界が維持されるので、正負対称の磁気特性のバランスが維持される。したがって、温度特性は良好である。また、コイルL104に流す電流は、外部磁界に比例し、コイルL104の内部は直流的にはゼロ磁界が維持されるので、ヨーク201の磁気特性の制限をを受けずに良好な直線性を得ることが出来る。
【0053】
第一の実施形態の検出部203の特徴は、特許文献1及び特許文献2に開示されている技術内容と異なり、図5(a)乃至(d)及び図6(g)にて説明したように、コイルL104及びコンデンサC305には交流的には双方向の電流が流れると共に、直流的にはゼロ磁界が維持される、という点である。つまり、回路定数が変化した場合でも検出電圧の変化が電流方向の違いでそれぞれ同じ大きさになり相殺されるので、無磁界状態のオフセットが殆ど生じない。したがって、従来技術のようにコイルL104を二つ並べてオフセットキャンセルを行う必要がなく、コイルL104一つだけで磁界を正しく検出できる。
【0054】
[第二の実施形態]
図7は、本発明の第二の実施形態に係る磁気センサの外観斜視図である。
磁気センサ701は、樹脂モールドされた回路を内蔵した一体型のセンサとして形成されている。
磁気センサ701の検出突起701aの中にはパーマロイのヨークに巻かれたコイルL104が内蔵されている。
この検出突起701aに磁石105を近接すると、アナログの検出信号が得られる。
【0055】
図8は、磁気センサ701の回路図である。
第二の実施形態の磁気センサ701は、第一の実施形態の磁気センサ701と比較すると、シーケンサ204がなくなっている。
【0056】
発振回路801は、所定の周波数の矩形波を出力する。発振回路801の出力信号は、抵抗R802を通じてオペアンプ803の反転入力に入力される。オペアンプ803は帰還抵抗である抵抗R804と共に反転増幅器を構成する。発振回路801、抵抗R802、オペアンプ803及び抵抗R804は、駆動回路815ともいえる。
【0057】
オペアンプ803の出力信号はコイルL104に供給される。コイルL104はコンデンサC305と接続されている。そして、コンデンサC305は帰還抵抗である抵抗R805と共に電流電圧変換回路816を構成するオペアンプ806の反転入力に接続される。
【0058】
オペアンプ806の出力信号は、ダイオードD807のアノードと、ダイオードD808のカソードに接続される。
ダイオードD807は出力信号の正方向の電圧を通過させるので、コンデンサC809には正方向の電荷が蓄積され、結果的にコンデンサC809には出力信号の正方向のピーク電圧が現れることとなる。
同様に、ダイオードD808は出力信号の負方向の電圧を通過させるので、コンデンサC810には負方向の電荷が蓄積され、結果的にコンデンサC810には出力信号の負方向のピーク電圧が現れることとなる。
ダイオードD807、ダイオードD808、コンデンサC809及びコンデンサC810は、正負ピーク検出回路817ともいえる。
【0059】
コンデンサC809とコンデンサC810の端子間電圧は、それぞれ抵抗R811と抵抗R812よりなる加算回路を通じて、オペアンプ314の反転入力に供給される。オペアンプ314はコンデンサC317と共に積分回路818を構成し、コンデンサC809とコンデンサC810の端子間電圧の和の電圧を出力する。
【0060】
オペアンプ314の出力信号は、抵抗R318を通じて電圧電流変換回路819を構成するオペアンプ319の非反転入力に接続される。電圧電流変換回路819の構成は、オペアンプ319の非反転入力に接地電位が接続される以外は、第一の実施形態と同じなので、詳細は割愛する。
【0061】
[動作]
図9(a)、(b)、(c)及び(d)は、磁気センサ701の各部の波形図である。
図9(a)は、オペアンプ803の出力信号電圧の波形図である。図8の計測点E11である。グランドを中心に矩形波が出力されていることが判る。
図9(b)は、オペアンプ806の出力信号電圧の波形図である。図8の計測点E12である。つまり、コンデンサC305に流れる電流の波形でもある。図6(e)と同様に、ヨーク201が飽和することによって電流波形の傾きが途中から急峻になっている。
【0062】
図9(c)は、ダイオードD807の出力信号電圧の波形図である。図8の計測点E13である。図9(b)に示す波形の電圧が、ダイオードD807のオン電圧を超えると、ダイオードD807は導通し、コンデンサC809に電流が流れる。そして、コンデンサC809の端子間電圧は、図9(b)に示す波形の電圧がダイオードD807のオン電圧に至る次の周期まで、抵抗R811とオペアンプ314を通じてコンデンサC809の電荷が徐々に放電されることで、徐々に低下する。
図9(d)は、ダイオードD808の出力信号電圧の波形図である。図9(b)に示す波形の電圧が、ダイオードD808のオン電圧を超えると、ダイオードD808は導通し、コンデンサC810に電流が流れる。そして、コンデンサC810の端子間電圧は、図9(b)に示す波形の電圧がダイオードD808のオン電圧に至る次の周期まで、抵抗R812とオペアンプ314を通じてコンデンサC810の電荷が徐々に放電されることで、徐々に低下する。
【0063】
図8の回路の場合、コイルL104に外部磁界が与えられていない状態においては、出力端子には0Vが出力される。この点以外は、第一の実施形態と動作は同じである。
この、第二の実施形態の磁気センサ701は、第一の実施形態の磁気センサ701と比べると、シーケンサ204が不要になっている点、及びオペアンプも省略されている点等から、回路構成がシンプルになっているので、装置の低コスト化が容易である。
【0064】
図8に示した駆動回路815、電流電圧変換回路816、正負ピーク検出回路817、積分回路818及び電圧電流変換回路819は、第一の実施形態の検出部203にも存在する。
駆動回路815は、図3の第一スイッチ301と第二スイッチ302、そしてシーケンサ204が該当する。
電流電圧変換回路816は、図3のコンデンサC305がこれを兼用している。
正負ピーク検出回路817は、図3の第三スイッチ308、第四スイッチ310、コンデンサC306、オペアンプ307、コンデンサC309、オペアンプ311が該当する。
積分回路818は、図3のオペアンプ314とコンデンサC317が該当する。
電圧電流変換回路819は、図3の抵抗R318、オペアンプ319、抵抗R320、抵抗R321、抵抗R322、オペアンプ323及び抵抗R324が該当する。
【0065】
上述の実施形態の他、以下のような応用例が考えられる。
(1)検出部203及び磁気センサ701では、第一スイッチ301及び抵抗R315に印加される電圧は電源電圧であったが、これは必ずしも電源電圧である必要はない。これら素子に印加する電圧をどのように決定するかは設計的事項である。
【0066】
(2)ヨーク201はパーマロイであったが、透磁率が高く、且つ飽和磁束密度の小さい材料であればこれに限られない。例えば、アモルファス合金等が挙げられる。
【0067】
本実施形態では、磁気センサを開示した。
ヨーク201を伴うコイルL104とコンデンサC305を直列接続した回路に対し、矩形波を供給する。矩形波の周期内でヨーク201に飽和現象を発生させ、その電流変化を電流電圧変換回路を通じて検出した後、積分する。この積分出力信号に基づく電流を電圧電流変換回路で作り、コイルL104にフィードバックさせる。フィードバック電流は外部磁界に比例するので、直線性の良い磁気センサを得ることができる。
【0068】
単一のコイルで磁界の検出とコイルのヨークをゼロ磁界に制御するサーボ機能を併せ持つことにより、コイルL104のヨーク201の磁気特性が温度変化によって変化したとしても、コイルL104の内部は直流的にはゼロ磁界が維持されるので、正負対称の磁気特性のバランスが維持される。したがって、温度特性は良好である。また、コイルL104に流す電流は外部磁界に比例し、コイルL104の内部は直流的にはゼロ磁界が維持されるので、ヨーク201の磁気特性の制限を受けずに良好な直線性を得ることが出来る。こうして、低コスト且つ高精度な磁気センサを実現できる。
【0069】
以上、本発明の実施形態例について説明したが、本発明は上記実施形態例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した本発明の要旨を逸脱しない限りにおいて、他の変形例、応用例を含む。
【符号の説明】
【0070】
101…磁気センサ、102…回路ブロック、103…ケーブル、105…磁石、201…ヨーク、203…検出部、204…シーケンサ、301…第一スイッチ、302…第二スイッチ、307…オペアンプ、308…第三スイッチ、310…第四スイッチ、311…オペアンプ、314…オペアンプ、319…オペアンプ、323…オペアンプ、401…クロック発生器、402…ループカウンタ、403…ROM、404…デコーダ、701…磁気センサ、801…発振回路、803…オペアンプ、806…オペアンプ、815…駆動回路、816…電流電圧変換回路、817…正負ピーク検出回路、818…積分回路、819…電圧電流変換回路、C305…コンデンサ、C306…コンデンサ、C309…コンデンサ、C317…コンデンサ、C809…コンデンサ、C810…コンデンサ、D303…第一フリーホイールダイオード、D304…第二フリーホイールダイオード、D807…ダイオード、D808…ダイオード、L104…コイル、R312…抵抗、R313…抵抗、R315…抵抗、R316…抵抗、R318…抵抗、R320…抵抗、R321…抵抗、R322…抵抗、R324…抵抗、R802…抵抗、R804…抵抗、R805…抵抗、R811…抵抗、R812…抵抗
【特許請求の範囲】
【請求項1】
矩形波を出力する駆動回路と、
前記駆動回路に接続される、ヨークを伴うコイルと、
前記コイルに直列接続されるコンデンサと、
前記コイルの電流を電圧に変換する電流電圧変換回路と、
前記電流電圧変換回路の出力信号の正方向ピークの電圧及び負方向ピークの電圧を検出する正負ピーク検出回路と、
前記正負ピーク検出回路が出力する前記正方向ピークの電圧及び前記負方向ピークの電圧を加算して積分する積分回路と、
前記積分回路の出力電圧を電流に変換して前記コイルと前記コンデンサとの接続点に供給する電圧電流変換回路と
を具備する磁気センサ。
【請求項2】
前記駆動回路が出力する前記矩形波の周期及び電圧は、前記矩形波によって前記コイルに流れる電流が、前記矩形波が所定の電圧を維持している期間中に前記ヨークが磁気飽和を起こすことで、電流の増加が磁気飽和を起こす前より急峻になるように定められている、請求項1記載の磁気センサ。
【請求項3】
前記駆動回路は、
所定の電圧が印加される第一スイッチと、
前記第一スイッチに並列接続される第一フリーホイールダイオードと、
前記第一スイッチと接地との間に接続される第二スイッチと、
前記第二スイッチに並列接続される第二フリーホイールダイオードと、
前記第一スイッチと前記第二スイッチとを交互にオン・オフ制御する制御パルス信号を出力するシーケンサと
よりなり、
前記電流電圧変換回路は前記コンデンサが兼用しており、
前記正負ピーク検出回路は、
前記第一スイッチがオン制御された後、前記シーケンサの制御によって前記コンデンサの両端電圧を取得する第一サンプルホールド回路と、
前記第二スイッチがオン制御された後、前記シーケンサの制御によって前記コンデンサの両端電圧を取得する第二サンプルホールド回路と
よりなる、請求項2記載の磁気センサ。
【請求項1】
矩形波を出力する駆動回路と、
前記駆動回路に接続される、ヨークを伴うコイルと、
前記コイルに直列接続されるコンデンサと、
前記コイルの電流を電圧に変換する電流電圧変換回路と、
前記電流電圧変換回路の出力信号の正方向ピークの電圧及び負方向ピークの電圧を検出する正負ピーク検出回路と、
前記正負ピーク検出回路が出力する前記正方向ピークの電圧及び前記負方向ピークの電圧を加算して積分する積分回路と、
前記積分回路の出力電圧を電流に変換して前記コイルと前記コンデンサとの接続点に供給する電圧電流変換回路と
を具備する磁気センサ。
【請求項2】
前記駆動回路が出力する前記矩形波の周期及び電圧は、前記矩形波によって前記コイルに流れる電流が、前記矩形波が所定の電圧を維持している期間中に前記ヨークが磁気飽和を起こすことで、電流の増加が磁気飽和を起こす前より急峻になるように定められている、請求項1記載の磁気センサ。
【請求項3】
前記駆動回路は、
所定の電圧が印加される第一スイッチと、
前記第一スイッチに並列接続される第一フリーホイールダイオードと、
前記第一スイッチと接地との間に接続される第二スイッチと、
前記第二スイッチに並列接続される第二フリーホイールダイオードと、
前記第一スイッチと前記第二スイッチとを交互にオン・オフ制御する制御パルス信号を出力するシーケンサと
よりなり、
前記電流電圧変換回路は前記コンデンサが兼用しており、
前記正負ピーク検出回路は、
前記第一スイッチがオン制御された後、前記シーケンサの制御によって前記コンデンサの両端電圧を取得する第一サンプルホールド回路と、
前記第二スイッチがオン制御された後、前記シーケンサの制御によって前記コンデンサの両端電圧を取得する第二サンプルホールド回路と
よりなる、請求項2記載の磁気センサ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【公開番号】特開2012−63205(P2012−63205A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−206707(P2010−206707)
【出願日】平成22年9月15日(2010.9.15)
【特許番号】特許第4731633号(P4731633)
【特許公報発行日】平成23年7月27日(2011.7.27)
【出願人】(000137340)株式会社マコメ研究所 (20)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年9月15日(2010.9.15)
【特許番号】特許第4731633号(P4731633)
【特許公報発行日】平成23年7月27日(2011.7.27)
【出願人】(000137340)株式会社マコメ研究所 (20)
【Fターム(参考)】
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