説明

磁気ディスクの潤滑コーティングを形成する潤滑剤蒸気の流れをモニタする方法および装置

【課題】液体潤滑剤の供給源から蒸発する潤滑剤蒸気の流量をモニタするゲージの圧電性結晶の有効寿命を延ばす。
【解決手段】潤滑コーティングを、ディスク18と、蒸気となるよう加熱される液体のためのリザーバ24との間の潤滑剤蒸気の流路内にあるディスクに潤滑剤蒸気として塗布する。この流路は、リザーバと開孔を有するディフューザ26,28,30との間に蒸気チャンバを備える。複数個の圧電性結晶70,72により、それぞれ異なる時間に、蒸気チャンバ内を流れる潤滑剤蒸気の流量をモニタし、選択的に蒸気チャンバを流れる蒸気と結晶との間を開閉するシャッタ73を選択的に位置決めすることによって結果を得る。圧電性結晶の温度変化を、フィードバック制御装置によって温度が一定になるように補償する。シャッタにより、圧電性結晶が常に潤滑剤蒸気に晒されないので、有効寿命を延ばせる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して潤滑剤蒸気によってコーティングすべきハード磁気ディスクを配置することができる蒸気チャンバに向けて、蒸気空間を流れる潤滑剤蒸気のマスフロー流量をモニタする方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1(本明細書において参考として付記するヒューズ氏らの米国特許第6,183,831号)は、真空チャンバ内のディスクに磁気層を形成する蒸気、すなわち、ガス状の潤滑剤(望ましくは特許文献2に開示されているペルフルオロポリエーテル(PFPE))を塗布することによって、ハード磁気ディスクに潤滑剤フィルムをコーティングする方法および装置を開示している。真空チャンバに搬入および搬出されるカセットの中からディスクを持上げる担持ブレードによって磁気ディスクを順次に蒸気流路に装填(ロード)する。蒸気は、真空チャンバ内における供給源の液体潤滑剤に十分な熱を加えることによって得る。結果として生じた蒸気は、磁気ディスクに入射する前にガスディフューザプレートを通過する。液体潤滑剤の供給源から蒸発する潤滑剤蒸気の流量をモニタするゲージには単独の石英結晶の水晶振動子マイクロバランス(QCM)を設け、液体潤滑剤供給源へ加える熱量を制御し、これにより、液体潤滑剤の温度および液体潤滑剤から蒸発した潤滑剤蒸気のマスフロー流量を制御する。水晶振動子マイクロバランスは、オシレータに接続した極めて感度のよい圧電性結晶である。この結晶の共振周波数はオシレータの周波数を決める。オシレータ周波数を検出して潤滑剤蒸気のマスフロー流量を測定する。
【0003】
特許文献1に記載されている前述の装置は、十分に機能していたが、改善の余地がある。圧電性結晶は、ハード磁気ディスクに対する処理を全く行わない長いアイドル期間または一時休止期間中にも結晶が常に蒸気に晒される(被曝する)ために短く限定された寿命となる。このようなアイドル期間中にも蒸気を液体潤滑剤供給源から、処理中にハード磁気ディスクが配置される蒸気空間に流し続け、これは潤滑剤蒸気の流れの開始に関連する不安定性を回避するためである。圧電性結晶の寿命が限定されている結果、頻繁に結晶を取り替える必要があり、結晶を取り外すため上述の製造装置の運転を中断することになる。
【特許文献1】米国特許6,183,831号明細書
【特許文献2】米国特許5,776,577号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
したがって、本発明の目的は、ハード磁気ディスクに潤滑剤コーティングを形成する潤滑剤蒸気のマスフロー流量をモニタする新規の改善した方法および装置を得るにある。
【0005】
本発明の別の目的は、マスフロー流量の交換時期間の長さが典型的な従来技術の交換時期間長さに比べて長くなる、ハード磁気ディスクに潤滑コーティングを形成する潤滑剤蒸気のマスフロー流量をモニタする新規の改善した方法および装置を得るにある。
【0006】
本発明のさらなる目的は、ハード磁気ディスクに潤滑剤蒸気を塗布する製造装置の安価で効率的な運転を促進するマスフロー流量モニタを設け、ハード磁気ディスクに潤滑コーティングを形成する潤滑剤蒸気のマスフロー流量をモニタする新しく改善した方法および装置を得るにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様によれば、ディスクをホルダにおける所定位置に保持した状態で、ディスクの1個に潤滑剤コーティングを形成できる蒸気を塗布する間に真空チャンバ内のホルダにおける所定位置に選択的に保持した磁気ディスクに潤滑剤コーティングを塗布する装置を提供する。本発明装置は、蒸発して蒸気を形成することができる液体のためのリザーバと、リザーバ内の液体を潤滑剤蒸気となるよう加熱するヒータとを備える。リザーバからホルダにおける磁気ディスクへの潤滑剤蒸気の流れの流路を設ける。この流路は、(1)ディスクが流路内にあるとき、リザーバとホルダとの間における開孔を有するディフューザと、(2)リザーバと開孔を有するディフューザとの間における蒸気チャンバとを有する。この流路は、リザーバ内の液体を加熱して潤滑剤蒸気を生ずる間に、真空状態の下に存在するよう構成する。複数のモニタは、流路内における潤滑剤蒸気の流れのマスフロー流量を検出する。
【0008】
好適には、シャッタ装置を設け、モニタへの潤滑剤蒸気の流れを制御する。シャッタ装置は、(a)特定の第1時間間隔中に、第1モニタを蒸気チャンバにおける潤滑剤蒸気の流れの流量に応答可能にするとともに、残りのモニタを蒸気チャンバにおける潤滑剤蒸気の流れの流量に応答不能にし、(b)特定の第2時間間隔中に、第2モニタを蒸気チャンバにおける潤滑剤蒸気の流れの流量に応答可能にするとともに、残りのモニタを蒸気チャンバにおける潤滑剤蒸気の流れの流量に応答不能にする。
【0009】
シャッタ装置は、さらに、特定の第3時間間隔中に、すべての蒸気チャンバにおける潤滑剤蒸気の流れの流量に応答不能にする構成とするのが望ましい。
【0010】
蒸気チャンバは、リザーバから開孔を有するディフューザへの直線流路と同一方向に延びる壁を有する。この壁には、蒸気チャンバと各モニタとの間に潤滑剤蒸気の個別の流路を生ずるよう各モニタ用に複数個の開孔を設けるのが望ましい。シャッタ装置は、蒸気チャンバの壁における開孔とモニタとの間に配置する。
【0011】
シャッタ装置は、特定の第3時間間隔中に、すべてのモニタを蒸気チャンバにおける潤滑剤蒸気の流れの流量に応答不能にする構成とするのが望ましい。
【0012】
好適な実施形態においては、各モニタは、流路内の蒸気流に影響を受ける共振周波数を有する圧電性結晶を備える。モニタと可変周波数オシレータとの間のスイッチ装置およびシャッタは、流路における蒸気流に応答する作動中のモニタの圧電性結晶をオシレータに接続し、残りのモニタの圧電性結晶を除外して、作動中のモニタの共振周波数がオシレータ周波数に影響を与える構成とする。
【0013】
本発明者達は、モニタが作動してしばらくたった後にオシレータの出力周波数がマスフロー流量を正確に追跡しているように見えないことを観察した。本発明者達は、モニタが作動してしばらくたった後に圧電性結晶の温度が上昇するためにこの不正確性が起こることを発見した。結晶の温度変化はオシレータが発生する周波数に影響を及ぼす。結晶温度の関数としての結晶の共振周波数が変化する傾向は、結晶温度を検出すること、および検出した温度に応答するコントローラ(制御装置)を設けることによって克服できる。コントローラは、結晶温度を一定に維持するための温度制御フィードバック装置を備えるのが望ましい。代案として、コントローラは結晶温度と結晶共振周波数を相互に関連付けるルックアップテーブルを設けることができる。このようなルックアップテーブルは、検出した結晶温度およびオシレータ動作周波数のための周波数検出器の出力にそれぞれ応答する第1入力および第2入力を有する。したがって、本発明の他の目的は、装置が使用されてしばらくたった後に観察されるマスフロー流量における不正確性を克服する、ハード磁気ディスクに潤滑コーティングを形成する潤滑剤蒸気のマスフロー流量をモニタする新しく改善した方法および装置を得るにある。
【0014】
上述のおよび他の本発明の目的、特徴および利点は、以下に記載する本発明の特別な実施形態を、とくに添付の図面につき説明することにより明らかとなるだろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、潤滑剤(しばしば「ルーブ(lube)」とも称する)の供給源10、および適当な真空ポンプ(図示せず)によって適切な真空圧に維持される真空チャンバ14を備えるハウジング12を含んだ図面につき説明する。このチャンバ14内には、ハード磁気ディスク18のホルダ16を配置し、このハードディスク18は、クロム層で被覆し、上述の特許に開示されたように、サブストレート層をクロム層で被覆し、このクロム層を磁気層でコーティングする。ホルダ16は順次に異なるハード磁気ディスクを、順次に真空チャンバ14に出入りするカセットから持上げ、ディスクに蒸着させる潤滑剤蒸気の流路内で、図1〜3に示す位置にディスクを搬送する。この潤滑剤はPFPEが望ましい。
【0016】
供給源10は、大気圧に維持した大気圧部分20と、チャンバ14内の真空とほぼ同一の真空圧力状態に維持した真空部分22とを有し、この真空部分22とチャンバとの間には、しばしばガス流路が介在する。ハウジング25によって搬送する液体潤滑剤のリザーバ24は、真空部分22内では(1)蒸気空間26と、(2)選択的に開閉するディフューザシャッタ28と、(3)ディフューザプレート30とにより構成する。
【0017】
蒸気空間26は、互いに平行で蒸気空間の境界を画定する平面34,36に直交する円筒状の側壁32を有するキャビティである。リザーバ24の一つの面は平面34の大部分を占め、ディフューザシャッタ28の第1平面(図4参照)は平面36の大部分を占める。ディフューザシャッタ28の第2平面はディフューザシャッタの第1平面と平行でありディフューザプレート30に隣接する
【0018】
図2,3に図示すように、ハウジング25は、液体潤滑剤リザーバ24が3個の積み重ねたセグメント37,38,39を備え、各セグメントは床面41、およびフランジまたはリップ43、ならびに後壁45によって形成した潤滑剤用の囲繞部(ウェル)を有するものとして構成する。液体潤滑剤を各セグメント37,38,39のウェルに充填するのは、供給源をハウジング12に接続する前に供給源10を大気圧に維持しつつ行う。供給源10およびハウジング12の互いに衝合する壁間における真空シール(すなわち、ガスケット)48(図1〜4参照)は、真空チャンバ14および供給源10の真空部分22内で真空を維持するのを支援する。
【0019】
容器24内の液体潤滑剤を、供給源10の大気圧部分20内における抵抗ヒータコイル50によって蒸気となるよう加熱する。潤滑剤蒸気流はリザーバ24から蒸気空間26に流入し、そこから開放したディフューザシャッタ28およびディフューザプレート30を経て、ハードディスク18およびホルダ16に向って流れ、このときホルダ16は、図1〜3に示すシャッタ28およびプレート30を通過する潤滑剤蒸気の流路にある位置をとるようハードディスクをカセットから持上げておく。
【0020】
アイドル状態または休止状態中のようにディフューザシャッタ28を閉じるとともに、ハード磁気ディスクを処理していないとき、ディフューザシャッタおよびディフューザプレート30におけるどの開孔部も整列しないので、潤滑剤蒸気は蒸気空間26を迅速に充満する。ディフューザシャッタ28を閉じている間に蒸気空間26が潤滑剤蒸気で充満する結果として、蒸気空間内の圧力は十分に増加し、ヒータコイル50によってリザーバ24内の液体潤滑剤に加わる熱量がほぼ一定に維持されていても、リザーバ24から余分に蒸気が蒸発しない。この結果、アイドル中または一時休止中にリザーバ24から蒸発するムダな潤滑剤の量が最小となる。連続的にリザーバ24内の液体に熱を加えることによって、リザーバ24内における液体潤滑剤の加熱工程の開始および停止する結果として起こりがちであるリザーバ24内の不安定な液体蒸発を回避できる。
【0021】
ディフューザプレート30は、密接する間隔を空けた比較的小さい円形の孔(図示せず)の多数の列を備え、これら孔はディフューザシャッタを閉じているときディフューザシャッタ28における対応する孔52(図4参照)と整列しかつ整合する。ディフューザプレート30の孔とディフューザシャッタ28の孔52をそれぞれ1対1に対応させる。ディフューザシャッタ28が開くとき、このディフューザシャッタ28は、孔52が固定のディフューザプレート24における小さい円形状の孔列間に位置する状態にシフトし、リザーバ24から蒸発した潤滑剤蒸気用のディフューザプレート30の孔を通る流路を生ずる。ディフューザシャッタ28は、モータ54が回転リンク機構56を駆動する結果、リザーバ24からハード磁気ディスク18への流路を選択的に開閉する。モータ54は、供給源10のハウジング62におけるフランジ60に支持した変速装置58によりリンク機構56に連結し、リンク機構56は、ディフューザシャッタ28と変速装置58との間を連結し、これにより、シャッタはモータ54のシャフトの回転に応答して僅かな角度にわたり回転する。ディフューザプレート30、ディフューザプレート30の孔、シャッタ28、シャッタ28の孔52、ならびにリンク56は、シャッタが開閉するとき、ディフューザプレート30の全ての孔が、シャッタ28をシャッタの孔52によって同時に開放され、また同時に遮断されるようにする。その結果として、ディスク18の磁気層に塗布される潤滑コーティングはほぼ均一な厚さになる。
【0022】
圧電性結晶70,72(ともにハウジング71内に配置する)は、蒸気空間26を通過する潤滑剤蒸気の蒸着速度を選択的にモニタし、第1時間間隔中は結晶72を除外して結晶70を蒸気空間26に接続し、第2時間間隔中は結晶70を除外して結晶72を蒸気空間26に接続する。第3時間間隔中は結晶70および結晶72の双方とも蒸気空間に接続しない。第1および第2の時間間隔中、蒸気空間26内の潤滑剤蒸気の粒子は結晶70,72に入射する。第3時間間隔中、潤滑剤蒸気の粒子は1個も結晶に入射しない。
【0023】
シャッタ73を蒸気空間26と結晶70,72との間の流路に選択的に介挿する。シャッタ73は一時休止期間またはアイドル期間中に結晶70,72の潤滑剤蒸気に対する被曝時間を減少し、結晶の有効寿命を延長することによりそのメンテナンス費用を減少する。複数個の蒸着速度モニタ結晶70,72を使用することは、単独蒸着速度モニタ結晶よりも有益な結果を得るのに役立つ。
【0024】
これらの目的のため、蒸気空間26の側壁32には、リザーバ24とディフューザシャッタ28との間の壁の長さに沿って互いに離れて整列する孔74,76を設ける。オレゴン州ビーヴァートンのマックステック社から入手できるタイプQCMとするのが望ましい圧電性結晶70,72の極めて近傍に出口をそれぞれ有する円筒状の通路78,80に対して孔74,76を流体連通関係にする。望ましくは、回転式シャッタ73を、それ自身が空気モータ86リンク機構88によって駆動するシャフト84によって駆動される回転ディスクの形式にして、これにより、シャッタ73が通路78,80の出口と結晶70,72との間の位置を選択的にとるようにする。モータ86を大気中でハウジング89に支持し、このハウジング89をフランジ60に連結する。結晶70,72、シャッタ73、シャフト84およびリンク機構88の一部をチャンバ14の真空内に設置するとともに、モータ86、ハウジング89、リンク88の残部を大気圧中に設置する。
【0025】
チャンバ14を作動しはじめてしばらくした後に、結晶70,72のためのハウジング71をチャンバ14の処理温度まで徐々に加熱する。しかし、結晶70,72によって検出され、オシレータ122(図5参照)により得られ、周波数検出器124により検出される周波数によって表示される蒸着速度の初期キャリブレーションを、製造サイクルの初期に行うのが普通である。このようにして、図1〜図4の全体が動的熱平衡状態にあるとき、結晶70,72の共振周波数は全製造サイクル中に真の蒸着速度を示さないことがある。
【0026】
蒸気流速の制御におけるこの潜在的な脆弱性を軽減するために、ハウジング71の温度が一定になるように制御することにより結晶70,72の温度をアクティブに制御する。この目的のため、冷却機構をハウジング71内に設け、結晶70,72を一定温度に維持し、結晶70,72から得る測定の読み値が常に冷却剤流体(空気または水が適切である)の一定温度を参照するようにする。冷却剤流体は、管75,77,79によってハウジング71に対して流入および流出し、管77および79内の冷却剤流体はそれぞれ結晶70および72を主に冷却する。管79を流れる加熱された冷却剤の流れは熱交換器81へ戻り、そこで冷却され管77,79に再循環される。熱交換器81によって再循環冷却剤流体に付与される冷却量を、ハウジング71に埋設した温度検出器83によって制御し、結晶70と72の温度を効果的に測定する。温度検出器83を適当なケーブル(図示せず)により熱交換器に電気的に接続する。
【0027】
蒸気空間26の円筒状の側壁32は、ヒータブロック90の一部であり、望ましくは銅またはその他の安価な材料製の高熱伝導性を有するものとし、高熱伝導性金属はブロック90上の潤滑剤蒸気の凝縮を減少させるのに役立つ。ブロック90は高熱伝導性材料で形成するので、ブロック90の各壁は全長にわたりほぼ均一な温度となり、ブロック90の同一壁面上における蒸気凝縮の差は最小となる。
【0028】
ブロック90は、抵抗ヒータコイル50からリザーバ24内の液体への高熱伝導経路を与える円形のベース92を有する。ブロック90はヒートチョーク94を有する。このヒートチョーク94はブロック90の他の部分に比べて高い熱インピーダンスを持つブロックの一部である。ヒートチョーク94は、ベース92と円形フランジ96との間における環状溝102であり、この環状溝の内周はブロック90が2個の熱区域をもつことができるように蒸気空間26の円筒状の側壁32を形成し、その熱区域の一方はベース92によって形成し、他方はフランジ96によって形成されるものとする。ブロック90は熱抵抗素子および温度検出器装置と組み合わせ、蒸気空間26の側壁32を、ブロック90のベース92の温度よりも高い所定の温度、例えば5°Cとし、熱が抵抗ヒータコイル50からリザーバ24内の液体への高熱伝導経路を生ずるようにする。この結果、蒸気空間26内の潤滑剤蒸気の側壁32上での凝縮は最小となり、一層効率的な供給源10の動作を行うようにする。
【0029】
円形のベース92は、供給源10の真空部分22内にあってリザーバ24のためのハウジング25の円形平面に衝合する円形平面98を有する。平面98は、リザーバ24からディフューザシャッタ28の平面36にいたる直線経路に直交し、この平面98から環状のフランジまたはリング96が突出する。ベース92は平面98に平行な円形平面100を備える。抵抗ヒータコイル50は、この平面100に衝合し、抵抗ヒータコイルと容器24との間における高熱伝導経路を与える円形平面を有する。
【0030】
ベース90は、供給源10の大気圧部分20における平面100に深い環状溝104を設ける。溝102を平面100からほぼ平面102に延在させ、ベース92とフランジ96との間に狭いネック部(ヒートチョーク94を構成する)を形成する。ヒートチョーク94により、アクティブ温度制御の使用を使用してベース92とフランジ94を別の温度に維持することが可能となる。アクティブ温度制御は、とくにフランジ94内の壁32に極めて近い場所に互いに直交するよう埋設した4個の抵抗ヒータコイル111〜114によって行う。ヒータコイル111,113のみ、互いに直径方向に対向する位置にあることを図2に示す。
【0031】
抵抗性の温度検出器116,118を、それぞれブロック90のベース92とフランジ94に埋込むことでベースとフランジの温度を別々に測定できる。したがって、温度検出器116,118は、(1)リザーバ24内の液体潤滑剤、および(2)蒸気空間26の壁面32の温度を効果的に応答表示する。図5に線図的に示すタイプのフィードバックコントローラは抵抗性の温度検出器116,118、ならびに圧電性結晶70,72のうち作動している方によって検出される蒸気空間26内潤滑剤蒸気の流速(流量)に応答して、ベース92およびフランジ94の温度を制御する。
【0032】
つぎに、フィードバックコントローラの線図的ブロック図である図5につき説明する。このフィードバックコントローラは、抵抗性温度検出器116,118によって検出した温度、および結晶70,72のうちの一方によって検出した材料の流量(流速)に応答して得られる信号に応答し、ブロック90のベース92に衝合してブロック90のフランジ94内にある抵抗ヒータコイル111〜114に直列接続した抵抗ヒータコイル50に供給する電流を制御する。結晶78,80のうちの一方が作動しているとき、この作動している結晶をスイッチ120によりオシレータ122に接続してオシレータの周波数を制御する。スイッチ120の接続位置はシャッタ30の位置と以下のように同期させる、すなわち(1)シャッタ73が結晶72を封鎖するのに応じてスイッチ120が結晶70をオシレータ122の入力に接続する(2)シャッタ73が結晶70を封鎖するのに応じてスイッチ120が結晶72をオシレータ122の入力に接続する(3)シャッタ73が結晶70と72の両方を封鎖するのに応じて、スイッチ120の位置を変えない。
【0033】
オシレータ122の周波数はスイッチ120によりオシレータに接続される結晶70または72の共振周波数によって決まる。したがって、オシレータ122の周波数は、シャッタ73の位置によって決まる結晶70,72のうち作動中である一方によって検出される潤滑剤蒸気のマスフロー流量を大まかに示す。周波数検出器124はオシレータ122によって発生する周波数に応答して、オシレータ122により生ずる周波数を示す直流(DC)電圧を得る。結晶70,72のうち作動中である一方によって検出される潤滑剤蒸気のマスフロー流量の電圧値を得る検出器124によって得られる直流電圧に、関数発生器126は応答する。
【0034】
関数発生器126の出力信号を、蒸気空間26内の理論マスフロー流量と蒸気空間26内の実際のマスフロー流量との間のずれを示すエラー信号を得る減算器130内のセットポイント信号源128におけるマスフロー流量の出力信号と、信号の大きさを比較する。減算器130のエラー出力信号を関数発生器132に供給し、この関数発生器132によりマスフロー流量エラー信号を、リザーバ24の温度エラー信号、すなわち、抵抗ヒータコイル50に供給される電流の量を制御するのに影響するエラー信号に変換する。
【0035】
温度コントローラ134は抵抗ヒータコイル50に供給される電流振幅(強度)のために、(1)関数発生器132の出力信号、(2)リザーバ内温度セットポイント源136から得られる出力信号、(3)抵抗温度検出器116により検出する温度、に応答する。実質的に温度コントローラ134は、抵抗温度検出器116およびセットポイント源136から生ずる信号に応答し、ブロック90のベース92の温度に関する理論値と実測値の差を決定して、温度エラー信号を導き出す。空間22を通って流れる潤滑剤蒸気のマスフロー流量におけるエラーを補償するために、関数発生器132からの信号によって温度エラー信号を修正する。温度コントローラ134は修正されたエラー信号に応答して、抵抗ヒータコイル50を流れる電流振幅(強度)を制御し、これによって、ベース92の温度を制御する。
【0036】
温度コントローラ138は、直列接続した抵抗ヒータコイル111〜114に流れる電流振幅(強度)のために、それぞれブロック90のベース92およびフランジ94内にある抵抗温度検出器116,118によって検出される温度に応じて得られる信号に応答する。さらに、温度コントローラ138は、(1)信号源136がリザーバ24の温度を導き出すセットポイント信号、(2)信号源140がフランジ94と底部92との間における所要温度差を導き出すセットポイント信号に応答する。実質的に、温度コントローラ138は抵抗温度検出器116,118の抵抗変化に応じて得られる信号に対する応答によって、ベース92とフランジ94との温度差を決定する。ベース92とフランジ94との間の温度差を、ベースとフランジとの間の所要温度差に比較して、温度コントローラ138によって抵抗ヒータコイル111〜114に供給される電流振幅の変化を示すエラー信号を、セットポイント源140によって導き出す。このエラー信号をリザーバ温度セットポイント源136の出力信号に結合して、温度コントローラ138によって抵抗ヒータコイル111〜114へ供給する実電流振幅を制御する。
【0037】
本発明の具体的実施形態を記載し、また図示したが、具体的に記載および図示した実施形態の細部の変更を、添付書類の特許請求の範囲に定義した本発明の精神および範囲から逸脱することなし行うことができることは明らかであろう。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明による蒸気供給源の好適な実施形態を、コーティングすべきハード磁気ディスクを保持するチャンバと組み合わせた状態を示す一部断面とする頂面図である。
【図2】図1に示す構造の2−2線上の一部断面とする側面図である。
【図3】図1に示す構造の3-3線上の一部断面とする側面図である。
【図4】図2に示す構造の4-4線上の正面図である。
【図5】図1〜4に示す蒸気供給源の表面温度のためのフィードバック制御回路図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空チャンバ内のホルダにおける所定位置に選択的に保持した磁気ディスクに潤滑コーティングを塗布するため、前記ホルダの所定位置に前記ディスクを保持した状態で、前記潤滑コーティングを形成することができる蒸気を、1個のディスクに塗布する装置において、
蒸発して前記蒸気を形成することができる液体のためのリザーバと、
前記リザーバ内の液体を潤滑剤蒸気となるよう加熱するヒータと、
前記ホルダにおける所定位置にディスクを保持した状態で、前記リザーバから前記ディスクへの前記潤滑剤蒸気の流路であって、(a)前記ディスクが前記流路内の所定位置に配置した状態で前記リザーバと前記ディスクとの間における開孔を有するディフューザと、(b)前記リザーバと前記開孔を有するディフューザとの間における蒸気チャンバとを備え、前記リザーバ内の液体を潤滑剤蒸気となるよう加熱する間には真空状態の下に存在するよう構成した該流路と、
前記流路を流れる潤滑剤蒸気の流量をモニタする複数のモニタと、
を備えたことを特徴とする装置。
【請求項2】
請求項1に記載の装置において、さらに、前記潤滑剤蒸気の前記モニタへの流れを制御するシャッタ装置を設け、このシャッタ装置は、(a)特定の第1時間間隔中に、第1モニタを前記蒸気チャンバにおける潤滑剤蒸気の流れの流量に応答可能にするとともに、残りの他のモニタを蒸気チャンバ内における潤滑剤蒸気の流れの流量に応答不能にし、(b)特定の第2時間間隔中に、第2モニタを前記蒸気チャンバにおける潤滑剤蒸気の流れの流量に応答可能にするとともに、残りの他のモニタを前記蒸気チャンバにおける潤滑剤蒸気の流れの流量に応答不能にする、装置。
【請求項3】
請求項2に記載の装置において、前記シャッタ装置は、特定の第3時間間隔中に、すべてのモニタを前記蒸気チャンバにおける潤滑剤蒸気の流れの流量に応答不能にする構成とした装置。
【請求項4】
請求項1に記載の装置において、前記蒸気チャンバは、前記リザーバから前記開孔を有するディフューザへの直線流路と同一方向に延びる壁を有し、この壁には、前記蒸気チャンバと各モニタとの間に前記潤滑剤蒸気の個別の流路を生ずるよう、各モニタ用に複数個の開孔を設け、前記蒸気チャンバの前記壁における複数個の開孔と前記モニタとの間に配置したシャッタ装置は、(a)ある特定の時間間隔中に、第1モニタへの個別流路を開放し、残りのモニタへの個別の流路を閉じるよう構成し、(b)特定の第2時間間隔中に、第2モニタへの個別流路を開放し、残りのモニタへの個別流路を閉じるよう構成した、装置。
【請求項5】
請求項4に記載の装置において、前記シャッタ装置は、特定の第3時間間隔中に、すべてのモニタを前記蒸気チャンバにおける潤滑剤蒸気の流れの流量に応答不能にする構成とした、装置。
【請求項6】
請求項1に記載の装置において、前記各モニタは、流路内の蒸気流に影響を受ける共振周波数を有する圧電性結晶を備え、さらに、前記装置は、可変周波数オシレータと、前記モニタとの間にスイッチ装置を備え、このスイッチ装置およびシャッタは、前記流路における蒸気流に応答する作動中のモニタの圧電性結晶をオシレータに接続し、残りのモニタの圧電性結晶を除外して、前記作動中のモニタの共振周波数がオシレータ周波数に影響を与える構成とした、装置。
【請求項7】
請求項6に記載の装置において、前記圧電性結晶は、温度の関数として共振周波数を変化させる傾向を有するものとし、結晶温度の温度検出器装置と、前記傾向に打ち勝つよう前記検出器装置に応答するよう構成した制御装置を設けた、装置。
【請求項8】
請求項7に記載の装置において、前記制御装置は、前記結晶温度をほぼ一定に維持するために前記温度検出器に応答するよう接続したフィードバック装置を備える、装置。
【請求項9】
請求項1に記載の装置を運用する方法であって、前記モニタへの前記潤滑剤蒸気の流れを制御するステップを備え、このステップは、特定に第1時間間隔中に、第1モニタを前記流路における前記潤滑剤蒸気の流れの流量に応答可能にするとともに、残りのモニタを前記流路における前記潤滑剤蒸気の流れの流量に応答不能とし、特定の第2時間間隔中に、第2モニタを前記流路における前記潤滑剤蒸気の流れの流量に応答可能にするとともに、残りのモニタを前記流路における潤滑剤蒸気の流れの流量に応答不能にするよう制御する方法。
【請求項10】
請求項9に記載の方法において、さらに、特定の第3時間間隔中に、前記潤滑剤蒸気がすべてのモニタに流入するのを阻止するステップを備える、方法。
【請求項11】
請求項10に記載の方法において、前記潤滑剤蒸気の流れを、前記流路と前記モニタとの間に閉じたシャッタを位置決めすることによって、前記第1,第2,第3時間間隔中に阻止する、方法。
【請求項12】
請求項9に記載の方法において、前記潤滑剤蒸気の流れを、前記流路と前記モニタとの間に閉じたシャッタを位置決めすることによって、前記第1,第2の時間間隔中に阻止する、方法。
【請求項13】
請求項9に記載の方法において、前記各モニタは、前記流路における蒸気流に影響を受ける共振周波数を有する圧電性結晶を備え、前記装置は、可変周波数オシレータと、前記モニタと前記オシレータとの間にスイッチ装置をさらに備えものとし、前記方法は、前記スイッチ装置およびシャッタを制御するステップをさらに備え、この制御ステップは、前記流路における蒸気流に応答する作動中のモニタの圧電性結晶を前記オシレータに接続し、残りのモニタの圧電性結晶を除外し、作動中のモニタの共振周波数がオシレータ周波数に影響を与える制御するものとした、方法。
【請求項14】
請求項13に記載の方法において、前記圧電性結晶は、結晶温度の関数として共振周波数が変化する傾向を有するものとし、前記方法は、さらに、前記結晶温度を検出するステップと、前記検出した結晶温度に応答することによって前記傾向に打ち勝つようにするステップと備える、方法。
【請求項15】
請求項14に記載の方法において、前記傾向に対して、前記結晶温度をほぼ一定に維持することで打ち勝つようにする、方法。
【請求項16】
真空チャンバ内のホルダにおける所定位置に選択的に保持した磁気ディスクに潤滑コーティングを塗布するため、前記ホルダの所定位置に前記ディスクを保持した状態で、前記潤滑コーティングを形成することができる蒸気を、1個のディスクに塗布する装置において、
蒸発して前記蒸気を形成することができる液体のためのリザーバと、
前記リザーバ内の液体を潤滑剤蒸気となるよう加熱するヒータと、
前記ホルダにおける所定位置にディスクを保持した状態で、前記リザーバから前記ディスクへの前記潤滑剤蒸気の流路であって、(a)前記ディスクが前記流路内の所定位置に配置した状態で前記リザーバと前記ディスクとの間における開孔を有するディフューザと、(b)前記リザーバと前記開孔を有するディフューザとの間における蒸気チャンバとを備え、前記リザーバ内の液体を潤滑剤蒸気となるよう加熱する間には真空状態の下に存在するよう構成した該流路と、
前記流路を流れる潤滑剤蒸気の流量をモニタする複数のモニタ装置と、
を備え、このモニタ装置は、
前記流路内の蒸気流に影響を受ける共振周波数を有する圧電性結晶を備え、この圧電性結晶を可変周波数オシレータに接続し、結晶の共振周波数がオシレータ周波数に影響を与え、前記圧電性結晶は、温度の関数として共振周波数を変化させる傾向を有するものとし、さらに前記モニタ装置は、結晶温度を検出する検出器装置と、前記傾向に打ち勝つよう前記検出器装置に応答する制御装置と、を有するものとした装置。
【請求項17】
請求項16に記載の装置において、前記制御装置は、前記結晶温度をほぼ一定に維持するために前記温度検出器に応答するよう接続したフィードバック装置を備える、装置。
【請求項18】
真空チャンバ内のホルダにおける所定位置に選択的に保持した磁気ディスクに潤滑コーティングを塗布するため、前記ホルダの所定位置に前記ディスクを保持した状態で、前記潤滑コーティングを形成することができる蒸気を、1個のディスクに塗布する方法であって、この方法は、以下のものを備える装置、すなわち、
蒸発して前記蒸気を形成することができる液体のためのリザーバと、
前記リザーバ内の液体を潤滑剤蒸気となるよう加熱するヒータと、
前記ホルダにおける所定位置にディスクを保持した状態で、前記リザーバから前記ディスクへの前記潤滑剤蒸気の流路であって、(a)前記ディスクが前記流路内の所定位置に配置した状態で前記リザーバと前記ディスクとの間における開孔を有するディフューザと、(b)前記リザーバと前記開孔を有するディフューザとの間における蒸気チャンバとを備え、前記リザーバ内の液体を潤滑剤蒸気となるよう加熱する間には真空状態の下に存在するよう構成した該流路と、
前記流路を流れる潤滑剤蒸気の流量をモニタする複数のモニタ装置と、
を備え、このモニタ装置は、
前記流路内の蒸気流に影響を受ける共振周波数を有する圧電性結晶を備え、この圧電性結晶を可変周波数オシレータに接続し、結晶の共振周波数がオシレータ周波数に影響を与え、前記圧電性結晶は、温度の関数として共振周波数を変化させる傾向を有するものとした、該装置によって、前記方法を実施するものとし、前記方法は、
結晶温度を検出するステップと、検出した結晶温度に応答することによって前記傾向に打ち勝つようにしたステップとを備えることを特徴とする方法。
【請求項19】
請求項18に記載の方法において、前記結晶温度をほぼ一定に維持することで前記傾向に打ち勝つようにした、請求項18に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−269765(P2008−269765A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2008−86090(P2008−86090)
【出願日】平成20年3月28日(2008.3.28)
【出願人】(507310307)インテヴァック インコーポレイテッド (14)
【Fターム(参考)】