説明

磁気ディスク用ガラス基板および磁気ディスク装置

【課題】可搬性の高い機器に搭載できる小型のハードディスクドライブにも用いることができるように小径化した場合においても、フライスティクション障害の発生を充分に防止できること。
【解決手段】ハードディスクドライブに搭載される磁気ディスク用ガラス基板であって、主表面の内周から1mm〜3mm外側の円環領域の平均表面粗さをRa1、周期が300μm〜5mmの周方向のうねり平均値をWa1、前記主表面の外周から1mm〜3mm内側の円環領域の平均表面粗さをRa2、周期が300μm〜5mmの周方向のうねり平均値をWa2とするとき、0<Wa2−Wa1≦0.2nm、Wa1≦0.6nm、0<Ra1−Ra2≦0.2nm、Ra1≦0.8nmを満足するようにしている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、磁気ディスク装置であるハードディスクドライブ(HDD)に用いられる磁気ディスク用ガラス基板および磁気ディスク装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
今日、情報記録技術、特に、磁気記録技術は、いわゆるIT産業の発達に伴って飛躍的な技術革新が要請されている。そして、コンピュータ用ストレージとして用いられる磁気ディスク装置であるハードディスクドライブ(HDD)に搭載される磁気ディスクにおいては、急速な情報記録密度の増大化が続けられている。
【0003】
また、近年、ハードディスクドライブを携帯用機器に搭載することに対する要求が高まっている。これに伴い、磁気ディスク用の基板として、高強度、かつ、高剛性材料であり耐衝撃性の高いガラス基板が採用されている。また、ガラス基板は、平滑な表面を容易に得ることが可能なので、磁気ディスク上を浮上飛行しながら記録再生を行う磁気ヘッドの浮上量を狭隘化することが可能である。このため、ガラス基板を磁気ディスク用基板として用いれば、高い情報記録密度の磁気ディスクを得ることができる。つまり、ガラス基板は、磁気ヘッドの低浮上量対応性に優れた基板であるといえる。
【0004】
磁気ディスクにおける情報記録容量を増大させるためには、磁気ディスクにおいて情報信号の記録がなされない無駄な領域の面積を小さくすることが必要である。そこで、ハードディスクドライブの起動停止方式として、従来より用いられているCSS方式(「コンタクトスタートストップ(Contact Start Stop)方式」)に代えて、情報記録容量の増大が可能なLUL方式(「ロードアンロード(Load Unload)方式」、別名「ランプロード方式」ともいう。)の導入が進められている。
【0005】
CSS方式においては、磁気ディスクの非使用状態(停止状態)において磁気ヘッドが載置されるCSSゾーンを磁気ディスク上に設ける必要がある。
【0006】
これに対し、LUL方式においては、磁気ディスクの非使用状態(停止状態)においては、磁気ヘッドが磁気ディスクの外周側に移動し、磁気ディスク上より退避されて支持される。したがって、CSS方式とは異なり、磁気ヘッドと磁気ディスクとが接触することがなく、また磁気ディスク上にCSSゾーンにおけるような吸着防止用の凸凹形状を設ける必要がない。このため、LUL方式では、磁気ディスクの主表面を極めて平滑化することが可能となる。
【0007】
CSS方式用の磁気ディスクと比較して、LUL方式用の磁気ディスクにおいては、磁気ヘッドの浮上量を一段と低下させることができ、記録信号のS/N比(Signal Noise Ratio)の向上を図ることができ、高記録密度化が図られるという利点がある。
【0008】
このような、LUL方式の導入に伴う磁気ヘッド浮上量の低下により、10nm以下の極狭な浮上量においても、磁気ヘッドが安定して動作することが求められるようになってきた。しかし、極狭な浮上量で磁気ディスク上に磁気ヘッドを浮上飛行させる場合には、フライスティクション障害が頻発するという問題が生じた。
【0009】
フライスティクション障害とは、磁気ディスク上を浮上飛行している磁気ヘッドが、浮上姿勢や浮上量に変調をきたす障害であり、これにより不規則な再生出力変動の発生を伴うことである。また、このフライスティクション障害が生ずると、浮上飛行中の磁気ヘッドが磁気ディスクに接触してしまうヘッドクラッシュ障害を生じてしまうことがある。
【0010】
従来のハードディスクドライブにおいては、このようなフライスティクション障害の発生を防止するため、磁気ディスクの回転速度の高速化による磁気ディスクと磁気ヘッドとの間の相対的な線速度の高速化や、磁気ヘッドの構造による浮上性の安定化を図ってきた。
【0011】
しかし、近年においては、いわゆる携帯電話、デジタルカメラ、携帯情報機器、あるいは、カーナビゲーションシステムなどのように、パーソナルコンピュータ装置よりも筐体がずっと小さく、かつ、高い応答速度が求められる機器に搭載できる小型のハードディスクドライブが求められるようになってきている。具体的には、例えば、外径が50mm以下、板厚が0.5mm以下の基板を用いて製造した磁気ディスクを搭載した小型のハードディスクドライブが求められている。
【0012】
このような小型のハードディスクドライブにおいて使用される外径が50mm以下というような磁気ディスクにおいては、外周径及び内周径ともに小径化するため、磁気ディスクと磁気ヘッドとの間の相対的な線速度が低下する。また、磁気ディスクの小径化に伴ってこの磁気ディスクを回転させるスピンドルモータも小型化され、磁気ディスクの回転速度をさらに高速化することも容易ではない。このため、浮上姿勢や浮上量に対する影響や、フライスティクション障害の発生を充分に防止できないおそれがある。
【0013】
さらに、磁気ディスクの小径化に伴って磁気ヘッドも小型化されるため、この磁気ヘッドの浮上安定性が低下するおそれもある。
【0014】
このようなフライスティクション障害の発生を防止するため、例えば、特許文献1に記載されているように、基板の主表面上に異方性テクスチャを略々円周方向に形成することにより、円周方向についての表面粗さを、主表面の外周側から内周側に向けて増大するようにすることが提案されている。また、特許文献2に記載されているように、1インチ以下の直径を有し、そのデータ領域の内周面の平均表面粗さをRa1、及びそのデータ領域の外周面の平均表面粗さをRa2とするとき、0<Ra1−Ra2≦0.2nmで表される関係を有するディスク状基板を使用することも提案されている。
【0015】
【特許文献1】特開2005−317181号公報
【特許文献2】特開2007−12157号公報
【特許文献3】特開2007−126302号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
上述したように、特許文献1,2に記載のものは、主表面において磁気ディスク用ガラス基板の円周方向についての平均の表面粗さを磁気ディスク用ガラス基板の外周側から内周側に向けて増大するようにしたことで、磁気ヘッドの浮上性を安定化させようとしている。ここで言う表面の算術平均粗さとは、5μm四方の領域を原子間力顕微鏡で測定したとき、測定用プローブを前記磁気ディスク用ガラス基板の円周方向に走査したときに測定される表面の算術平均粗さを示している。
【0017】
しかしながら、従来の円周方向平均粗さの管理のみでは、一層小型化された磁気ディスクにおけるフライスティクション障害の発生を確実に防止することができないという問題点があった。
【0018】
特に、浮上隙間が10nmを切る最近の磁気ディスクでは、通常の空気分子の平均自由行程(64nm)のオーダーになっているため、浮上圧の発生は空気流の連続体の流れでは説明できなくなっている。空間分子と空気分子同士の衝突により生じる粘性抵抗よりは、空気分子と固体壁が衝突する影響が大きくなる。
【0019】
この考えに基づき本発明者らが鋭意研究した結果、空気分子は浮上隙間のオーダーを超えて移動し、基板固体壁の相互作用は、従来考えられていたよりはるかに広い範囲の基板形状特性が影響することが分かった。すなわち、上述した特許文献2で言う5μmの範囲の基板の平均粗さではフライスティクション障害の発生を確実に防止することができず、広い範囲の、円周方向のばらつきも含めた基板表面形状特性が重要であることが分かった。
【0020】
そこで、本発明は、前述のような実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、例えば、いわゆる携帯電話、デジタルカメラ、携帯型の「MP3プレイヤー」などの携帯情報機器、あるいは、「カーナビゲーションシステム」などの車載用機器など、非常に可搬性の高い機器に搭載できる小型のハードディスクドライブにも用いることができるように小径化した場合においても、フライスティクション障害の発生を充分に防止できるようになされた磁気ディスクを実現する磁気ディスク用ガラス基板および磁気ディスク装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0021】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明にかかる磁気ディスク用ガラス基板は、ハードディスクドライブに搭載される磁気ディスク用ガラス基板であって、主表面の内周から1mm〜3mm外側の円環領域の平均表面粗さをRa1、周期が300μm〜5mmの周方向のうねり平均値をWa1、前記主表面の外周から1mm〜3mm内側の円環領域の平均表面粗さをRa2、周期が300μm〜5mmの周方向のうねり平均値をWa2とするとき、0<Wa2−Wa1≦0.2nm、Wa1≦0.6nm、0<Ra1−Ra2≦0.2nm、Ra1≦0.8nmであることを特徴とする。
【0022】
また、本発明にかかる磁気ディスク用ガラス基板は、上記の発明において、1インチ型ハードディスクドライブ、または、1インチ型ハードディスクドライブよりも小径の磁気ディスクを用いるハードディスクドライブに搭載される磁気ディスク用ガラス基板であることを特徴とする。
【0023】
また、本発明にかかる磁気ディスク用ガラス基板は、上記の発明において、ロードアンロード方式で起動停止動作を行うハードディスクドライブに搭載するための磁気ディスク用ガラス基板であることを特徴とする。
【0024】
また、本発明にかかる磁気ディスク装置は、ガラス基板からなる磁気ディスクを備えるロード/アンロード方式の磁気ディスク装置であって、前記磁気ディスクは、主表面の内周から1mm〜3mm外側の円環領域の平均表面粗さをRa1、周期が300μm〜5mmの周方向のうねり平均値をWa1、前記主表面の外周から1mm〜3mm内側の円環領域の平均表面粗さをRa2、周期が300μm〜5mmの周方向のうねり平均値をWa2とするとき、0<Wa2−Wa1≦0.2nm、Wa1≦0.6nm、0<Ra1−Ra2≦0.2nm、Ra1≦0.8nmであることを特徴とする。
【0025】
また、本発明にかかる磁気ディスク装置は、上記の発明において、1インチ型ハードディスクドライブ、または、1インチ型ハードディスクドライブよりも小径の磁気ディスクを用いるハードディスクドライブであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0026】
本発明にかかる磁気ディスク用ガラス基板および磁気ディスク装置では、磁気ディスク用ガラス基板の主表面の内周から1mm〜3mm外側の円環領域の平均表面粗さをRa1、周期が300μm〜5mmの周方向のうねり平均値をWa1、前記主表面の外周から1mm〜3mm内側の円環領域の平均表面粗さをRa2、周期が300μm〜5mmの周方向のうねり平均値をWa2とするとき、0<Wa2−Wa1≦0.2nm、Wa1≦0.6nm、0<Ra1−Ra2≦0.2nm、Ra1≦0.8nmを少なくとも満足させることによって、非常に可搬性の高い機器に搭載できる小型のハードディスクドライブのように小型化した場合であっても、フライスティクション障害の発生を充分に防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、図面を参照して、本発明にかかる磁気ディスク用ガラス基板の好適な実施の形態を詳細に説明する。なお、本実施の形態によってこの発明が限定されるものではない。
【0028】
(実施の形態)
図1は、本発明の実施の形態に係る磁気ディスク装置の概略構成図である。図1に示すように、本実施の形態に係る磁気ディスク装置100は、L/UL方式の磁気ディスク装置であり、ベース101上に、磁気ディスク102と、アーム104と、ランプ107とを備えている。
【0029】
磁気ディスク102は、クランプ103によって磁気ディスク102の下方に位置するスピンドルモータに取り付けられており、このスピンドルモータによって回転、停止するようになっている。アーム104は、ロータリー式のアクチュエータであり、回転軸105を軸として回動するように構成されている。また、アーム104の先端近傍には、磁気ヘッドが取り付けられたスライダSが取り付けられている。また、アーム104の先端部には、リフトタブ106が形成されている。ランプ107は、磁気ディスク102の上方かつ外周近傍に設けられている。
【0030】
そして、磁気ディスク102が停止している状態では、アーム104の位置は、スライダSが磁気ディスク102の主表面から退避し、リフトタブ106がランプ107上に乗り上げるような位置となっている。そして、磁気ディスク102が回転を始めると、アーム104が反時計回りに回動し、リフトタブ106がランプ107上をすべるように移動し、スライダSが磁気ディスク102の主表面に対向するようにロードされる。
【0031】
磁気ディスク102は、ガラス基板の主表面に磁性体からなる記録領域を形成したものである。以下、磁気ディスク102を作製するためのガラス基板について説明する。
【0032】
図2は、本発明の実施の形態にかかる磁気ディスク用ガラス基板の製造方法の全体フローチャートである。本実施の形態の磁気ディスク用ガラス基板は、リドロー工程(ステップS101)→形状加工工程(ステップS102)→端面鏡面加工工程(ステップS103)→主表面粗研磨工程(ステップS104)→主表面精密研磨工程(ステップS105)が順次施されることによって製造される。
【0033】
まず、リドロー工程では、アモルファスのアルミノシリケートガラスからなる板状のガラス母材から厚さ0.6mmのシートガラスをリドローする。このシートガラスの表面粗さRaは、0.8nm程度である。なお、リドロー法とは、たとえば特許文献3に開示されている方法である。このリドロー法を用いれば、表面粗さの小さいガラス板を容易に得ることができるので好ましい。なお、溶融ガラスを原料としたフロート法、フュージョン法、ダウンドロー法などの公知の方法を用いてもよい。
【0034】
その後、形状加工工程では、リドロー工程によってリドローされたシートガラスから、直径28.7mm、厚さ0.6mmの円盤状のガラス基板を形成する。さらに、円筒状の砥石を用いて、このガラス基板の中央部分に直径6.1mmの円孔1aを形成するとともに、外周端面の研削をして、直径を27.43mmとした後、外周端面及び内周端面に所定の面取り加工を施す。これにより、図3に示すような円孔1aを有するガラス基板が形成される。このときのガラス基板1の端面の最大表面粗さRmaxは、4μm程度である。なお、一般に、「2.5インチ型HDD(ハードディスクドライブ)」では、外径が65mmの磁気ディスクを用いている。
【0035】
さらに、端面鏡面加工工程では、ガラス基板の端面について、従来より用いられているブラシ研磨により、ガラス基板1を回転させながら、ガラス基板1の端面(内周端面及び外周端面)の表面の粗さを、最大表面粗さRmaxが1μm、平均表面粗さがRa0.3μm程度で研磨する。その後、端面鏡面加工を終えたガラス基板1の主表面を水洗浄する。なお、この端面鏡面加工工程においては、ガラス基板1を重ね合わせて端面を研磨するが、この際に、ガラス基板1の主表面にキズ等が付くことを避けるため、主表面研磨工程よりも前に行うことが好ましい。この端面鏡面加工工程により、ガラス基板1の端面は、パーティクル等の発塵を防止できる鏡面状態に加工される。なお、端面鏡面加工工程後のガラス基板の直径は、27.4mmである。
【0036】
その後、主表面粗研磨工程では、遊星歯車機構を有する両面同時研磨機を用いて主表面を粗研磨する。図4は、両面同時研磨機の側面の一部を示す概略図である。図4に示すように、この両面同時研磨機2は、鋳鉄製の上定盤3および下定盤4と、ガラス基板1を上定盤3と下定盤4との間に保持するキャリアー6と、上定盤3および下定盤4のガラス基板1との接触面に取り付けられた酸化セリウム砥石5,5とを備える。そして、この両面同時研磨機2は、キャリアー6によって上定盤3と下定盤4との間にガラス基板1を保持し、上定盤3と下定盤4とによってガラス基板1を所定の加工圧力で挟圧し、酸化セリウム砥石5,5とガラス基板1との間に純水等の研磨液を所定の供給量で供給しながら、上定盤3と下定盤4とを軸Aを回転軸として互いに異なる向きに回転させる。これによって、ガラス基板1は酸化セリウム砥石の表面を摺動し、両表面が同時に研磨される。
【0037】
なお、酸化セリウム砥石は、酸化セリウム微粒子を分散させた樹脂からなり、たとえば通常の砥石に用いられるフェノール樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、あるいはこれらの樹脂を2種類以上混合したものを用いることができる。
【0038】
図5は、上定盤3を取り外した状態の両面同時研磨機2の平面概略図である。図5に示すように、キャリアー6は、最大で5つのガラス基板1を保持し、キャリアー6の外周部に設けられた歯車は、太陽車7の外周部に設けられた歯車とインターナルギア8とに噛合している。その結果、各キャリアー6はその中心を軸として回転しながら太陽車7の周囲を移動し、キャリアー6に保持されたガラス基板1は、両表面が一様に研磨される。
【0039】
その後、主表面精密研磨工程では、遊星歯車機構を有する両面研磨装置に前工程で得られたドーナツ状のガラス基板1をセットし、コロイダルシリカを含むスラリーを供給しながら、硬質のポリウレタンからなる研磨パットを用いて、所望の厚さ0.381mmになるまで主表面の鏡面研磨を行う。
【0040】
ここで、主表面精密研磨工程で、洗浄を終えたガラス基板1の主表面および端面について、目視検査を行い、さらに、光の反射、散乱および透過を利用した精密検査を実施した。その結果、ガラスディスクの主表面及び端面には、付着物による突起や、傷等の欠陥は見つからなかった。
【0041】
また、主表面精密研磨工程を終えたガラス基板1の主表面の表面粗さは、原子間力顕微鏡(島津製作所製 SPM-9500J3)によって測定したところ、最大表面粗さRmaxは2.5nmであり、平均表面粗さRaは0.30nmであり、超平滑な表面となっていることが確認された。なお、表面粗さの数値は、AFM(原子間力顕微鏡)によって測定した表面形状について、日本工業規格(JIS)B0601にしたがって算出したものである。
【0042】
また、このガラス基板1は、内径が7mm、外径が27.4mm、板厚は0.381mmであり、「1.0インチ型」磁気ディスクに用いる磁気ディスク用ガラス基板の所定寸法であることを確認した。
【0043】
さらに、このガラス基板1の円孔1aの内周側端面の表面粗さは、面取り部の最大表面粗さRmaxが0.4μm、面取り部の平均表面粗さRaが0.04μm、側壁部の最大表面粗さRmaxが0.4μm、側壁部の平均表面粗さRaが0.05μmであった。外周端面における表面粗さは、面取り部の平均表面粗さRaが0.04μm、側壁部の平均表面粗さRaが0.07μmであった。このように、内周側端面は、外周側端面と同様に、鏡面状に仕上がっていることを確認した。
【0044】
また、このガラス基板1の表面に異物やサーマルアスペリティの原因となるパーティクルは認められず、円孔1aの内周側端面にも異物やクラックは認められなかった。
【0045】
なお、ガラス基板1の材料としては、アモルファスガラスや結晶化ガラスなどのガラスセラミックスを用いることができる。特に、成形性や加工性の観点からアモルファスガラスを用いることが好ましく、たとえば、上述したアルミノシリケートガラスのほかに、ソーダライムガラス、ソーダアルミノ珪酸ガラス、アルミノボロシリケートガラス、ボロシリケートガラス、風冷または液冷等の処理を施した物理強化ガラス、化学強化ガラスなどを用いることが好ましい。
【0046】
上記製造方法を用いて、面内表面粗さ分布が0.1nm以下であり、27.4mmの外径、7mmの内径、及び0.381mmの厚さを有する9つのガラス基板1のサンプルNo.1〜No.9を作製し、それぞれの比較を行った。また、この各ガラス基板1上に、スパッタ法により、Ar雰囲気下、0.27Paの条件で、CrTiシード層、Cr合金下地層、CoCrPtB合金磁性層、及びカーボン保護膜の順に形成し、サンプルNo.1〜No.9に対応する9つの磁気ディスクを作成し、各磁気ディスクに対する磁気ヘッドの浮上特性を調べた。
【0047】
各ガラス基板1は、各ガラス基板1を粗研磨する際に、酸化セリウム砥石の圧力と回転数、砥石の目の粗さを変化させて、主表面の内周と外周とで周方向のうねりの大きさが異なるように作製した。内周と外周との各周方向のうねりの大きさの変化は、砥石の目の粗さを径方向で変えることにより、実現した。また、各ガラス基板1の主表面の内周と外周との表面粗さを異ならせるには、各ガラス基板1を精密研磨する際に、コロイダルシリカを含むスラリーの供給条件を変えることで実現した。たとえば、ガラス基板1の外周側からスラリーを供給することによって実現される。
【0048】
各ガラス基板1の平均表面粗さRaと周期が300μm〜5mmの周方向のうねり平均値Waとは、図7および図8に示すような結果が得られた。ここで、図6に示すように、各ガラス基板1の内周の平均表面粗さRa1は、主表面の内周側から1mm〜3mm入り込んだ円環領域E1の平均値であり、内周の周方向のうねり平均値Wa1は、円環領域E1における周期が300μm〜5mmのうねりの周方向の平均値である。また、各ガラス基板1の外周の平均表面粗さRa2は、主表面の外周側から1mm〜3mm入り込んだ円環領域E2の平均値であり、外周の周方向のうねり平均値Wa2は、円環領域E2における周期が300μm〜5mmのうねりの周方向の平均値である。
【0049】
なお、サンプルNo.1〜No.9の各ガラス基板1の円周方向の平均表面粗さRa1,Ra2とそのばらつきσ(Ra)は、上述したように、島津製作所社製のAFM SPM-9500J3 を用いて表面状態を測定した。また、周方向のうねり平均値Wa1,Wa2とその周方向のばらつきσ(Wa)は、フェイズ・シフトテクノロジー社製の多機能ディスク用干渉計(OPTIFLAT)により、測定した。この多機能ディスク用干渉計(OPTIFLAT)は、白色光(波長:680nm)を用いて基板面の所定領域を走査し、基板面からの反射光と基準面からの反射光とを合成し、合波点に生じた干渉縞から、うねりを算出するものである。
【0050】
また、各サンプルNo.1〜No.9の各ガラス基板1に対応する磁気ディスクに対する磁気ヘッドの浮上特性を調べた結果を図9に示す。この磁気ディスクに対する磁気ヘッドの浮上特性は、実際の磁気記録再生装置で用いる磁気ヘッドを使用して、タッチダウン(TD)特性およびテイクオフ(TO)特性を測定した。
【0051】
タッチダウン(TD)特性とは、一定の環境内で、一定の回転数で回転する媒体に対し、安定して浮上する磁気ヘッドが、減圧されることにより媒体に接触した時点の圧力を磁気ヘッドに取り付けたAEセンサー(acoustic emission sensor)で測定したものである。また、テイクオフ(TO)特性は、一定の環境内で、一定の回転数で回転する磁気ディスクに対し、接触している磁気ヘッドが、圧力を上げることにより浮上した(AEセンサーの出力がなくなった)時点の圧力を測定したものである。
【0052】
図9において、TD特性は、サンプルNo.3,No.4,No.6,No.9を除いたサンプルで内周側および外周側ともに、0.6atm程度まで下げることが可能であった。一方、TO特性は、サンプルNo.1,No.3,No.4,No.6,No.9を除いたサンプルで、内周側が0.65atmであり、外周側が0.6atmであった。特に、サンプルNo.1は、内周側で0.8atm程度と悪い値を示した。これは、内周の表面粗さが小さく、吸着する傾向にあるため、一度磁気ヘッドが接触すると吸着傾向になり浮上が不安定になることが影響すると考えられる。サンプルNo.3は、表面粗さがサンプルNo.2,No.5とほとんど同じであるにも関わらず、内周のTD特性、TO特性が共に0.7atmと悪い値を示した。この原因を調査したところ、内周のうねりが0.6nmを超えており、サンプルNo.2,No.5に比べて大きいことが影響していると考えられる。サンプルNo.6は、内周の表面粗さが0.8nmを超えており、内周と外周との表面粗さの差も0.2nmを越えているため、内周のTD特性、TO特性がともに良くない。サンプルNo.9は、表面粗さは問題ないレベルであるが、外周のTD特性、TO特性が共に0.7atmと悪い値を示した。内周および外周のうねりを測定したところ、外周のうねりと内周のうねりとの差が0.2nmを超えるほど大きく、外周のうねりがサンプルの中で最も大きいことが影響していると考えられる。なお、サンプルNo.2,No.5,No.7,No.8は、内周側および外周側のTD特性および外周側のTO特性が0.6atm程度の値を示し、内周側のTO特性が0.65atm程度の値を示しており、内周面のTD特性と内周側のTO特性との差が0.05atm程度と非常に良好な値を示している。
【0053】
このTD特性およびTO特性の結果から、サンプルNo.2,No.5,No.7,No.8のガラス基板1が、磁気ヘッドの吸着を抑制し、フライスティクション障害の発生を十分に防止できるものと考えられる。この場合におけるガラス基板1の表面粗さおよびうねりの条件を図7および図8を参照して考えると、少なくとも、0<Ra1−Ra2≦0.2nm、Ra1≦0.8nm、0<Wa2−Wa1≦0.2nm、Wa1≦0.6nmを満足すればよいことが分かる。
【0054】
なお、上述したガラス基板1では、円環領域E1,E2のみについて言及したが、表面粗さは、主表面の外周側から内周側にかけて連続的または段階的に増加し、うねりの平均値は、主表面の外周側から内周側にかけて連続的または段階的に減少することが好ましい。また、表面粗さ及びうねりの平均値の円周方向のばらつきの標準偏差σ(Ra)およびσ(Wa)は、それぞれ0.05nm未満であることが好ましい。
【0055】
また、ガラス基板1は、1インチ型ハードディスクドライブ、または、1インチ型ハードディスクドライブよりも小径の磁気ディスクを用いるハードディスクドライブに搭載される磁気ディスク用ガラス基板に好適である。
【0056】
さらに、ガラス基板1は、ロードアンロード方式で起動停止動作を行うハードディスクドライブに搭載するための磁気ディスク用ガラス基板に好適である。
【0057】
この実施の形態では、従来の5μmの範囲の基板の平均粗さではなく、より広い範囲のうねり、微小うねりを、少なくとも、0<Ra1−Ra2≦0.2nm、Ra1≦0.8nm、0<Wa2−Wa1≦0.2nm、Wa1≦0.6nmを満足するように管理することで、小径ディスクでも内周で起こりやすいヘッドの吸着が抑制され、フライスティクション障害の発生を十分に防止することできる。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明の実施の形態にかかる磁気ディスク装置の概略構成図である。
【図2】本発明の実施の形態にかかる磁気ディスク用ガラス基板の製造方法の全体フローチャートである。
【図3】ガラス基板の上面および側断面を示す概略図である。
【図4】両面同時研磨機の側面の一部を示す概略図である。
【図5】上定盤を取り外した状態の両面同時研磨機の平面概略図である。
【図6】ガラス基板の表面粗さ及びうねりの測定位置を示す図である。
【図7】サンプルの表面粗さの測定結果を示す図である。
【図8】サンプルのうねりの測定結果を示す図である。
【図9】サンプルのTD特性およびTO特性の測定結果を示す図である。
【符号の説明】
【0059】
1 ガラス基板
1a 円孔
2 両面同時研磨機
3 上定盤
4 下定盤
5 酸化セリウム砥石
6 キャリアー
7 太陽車
8 インターナルギア
100 磁気ディスク装置
101 ベース
102 磁気ディスク
103 クランプ
104 アーム
105 回転軸
106 リフトタブ
107 ランプ
E1,E2 円環領域
Ra1,Ra2 平均表面粗さ
Wa1,Wa2 うねり平均値
S スライダ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハードディスクドライブに搭載される磁気ディスク用ガラス基板であって、主表面の内周から1mm〜3mm外側の円環領域の平均表面粗さをRa1、周期が300μm〜5mmの周方向のうねり平均値をWa1、前記主表面の外周から1mm〜3mm内側の円環領域の平均表面粗さをRa2、周期が300μm〜5mmの周方向のうねり平均値をWa2とするとき、0<Wa2−Wa1≦0.2nm、Wa1≦0.6nm、0<Ra1−Ra2≦0.2nm、Ra1≦0.8nmであることを特徴とする磁気ディスク用ガラス基板。
【請求項2】
1インチ型ハードディスクドライブ、または、1インチ型ハードディスクドライブよりも小径の磁気ディスクを用いるハードディスクドライブに搭載される磁気ディスク用ガラス基板であることを特徴とする請求項1に記載の磁気ディスク用ガラス基板。
【請求項3】
ガラス基板からなる磁気ディスクを備えるロード/アンロード方式の磁気ディスク装置であって、前記磁気ディスクは、主表面の内周から1mm〜3mm外側の円環領域の平均表面粗さをRa1、周期が300μm〜5mmの周方向のうねり平均値をWa1、前記主表面の外周から1mm〜3mm内側の円環領域の平均表面粗さをRa2、周期が300μm〜5mmの周方向のうねり平均値をWa2とするとき、0<Wa2−Wa1≦0.2nm、Wa1≦0.6nm、0<Ra1−Ra2≦0.2nm、Ra1≦0.8nmであることを特徴とする磁気ディスク装置。
【請求項4】
1インチ型ハードディスクドライブ、または、1インチ型ハードディスクドライブよりも小径の磁気ディスクを用いるハードディスクドライブであることを特徴とする請求項3に記載の磁気ディスク装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−134802(P2009−134802A)
【公開日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−309395(P2007−309395)
【出願日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【Fターム(参考)】