説明

磁気ディスク用ガラス基板の製造方法及び磁気ディスクの製造方法

【課題】微小なピットやスクラッチ等の表面欠陥を従来品より更に低減でき、次世代用の基板として使用することが可能な高品質のガラス基板を低コストで製造できる磁気ディスク用ガラス基板を提供する。
【解決手段】シリカ砥粒を含む研磨液と、研磨パッドが配備された定盤とを用いて、ガラス基板の主表面を研磨する研磨工程を含む磁気ディスク用ガラス基板の製造方法である。上記研磨液は、光散乱法により測定される平均粒子径が5nm以上50nm以下で、かつCV値が0.3以上である粒度分布のシリカ砥粒を含む。また、上記研磨液は、重量平均分子量が5000以上のスルホン酸基を含むアクリル系ポリマーを含有し、pHが0.5以上5以下の範囲内に調整されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハードディスクドライブ(HDD)等の磁気ディスク装置に搭載される磁気ディスク用ガラス基板の製造方法および磁気ディスクの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ハードディスクドライブ(HDD)等の磁気ディスク装置に搭載される情報記録媒体の一つとして磁気ディスクがある。磁気ディスクは、基板上に磁性層等の薄膜を形成して構成されたものであり、その基板として従来はアルミ基板が用いられてきた。しかし、最近では、高記録密度化の追求に呼応して、アルミ基板と比べて磁気ヘッドと磁気ディスクとの間隔をより狭くすることが可能なガラス基板の占める比率が次第に高くなってきている。また、ガラス基板表面は磁気ヘッドの浮上高さを極力下げることができるように、高精度に研磨して高記録密度化を実現している。近年、HDDの更なる大記録容量化、低価格化の要求は増すばかりであり、これを実現するためには、磁気ディスク用ガラス基板においても更なる高品質化、低コスト化が必要になってきている。
【0003】
上述したように高記録密度化にとって必要な低フライングハイト(浮上量)化のために磁気ディスク表面の高い平滑性は必要不可欠である。磁気ディスク表面の高い平滑性を得るためには、結局、高い平滑性の基板表面が求められるため、高精度にガラス基板表面を研磨する必要がある。
【0004】
従来のガラス基板の研磨方法は、酸化セリウムやコロイダルシリカ等の金属酸化物の研磨材を含有するスラリー(研磨液)を供給しながら、ポリウレタン等のポリシャの研磨パッドを用いて行っている。高い平滑性を有するガラス基板は、たとえば酸化セリウム系研磨材を用いて研磨した後、さらにコロイダルシリカ砥粒を用いた仕上げ研磨(鏡面研磨)によって得ることが可能である。従来技術として例えば、洗浄後の基板汚れが少なく、表面平滑性に優れたガラス基板が得られる研磨液組成物として、一次粒子の平均粒径が1〜100nmであるシリカと、重量平均分子量が1000〜5000のスルホン酸基を有する重合体(例えばアクリル酸/スルホン酸共重合体)と水とを含有してなるガラス基板用研磨液組成物(下記特許文献1参照)や、一次粒子の平均粒径が5〜50nmであるシリカと、重量平均分子量が1000〜5000のアクリル酸/スルホン酸共重合体とを含有してなる、pHが0.5〜5であるガラス基板用研磨液組成物(下記特許文献2参照)などが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−167817号公報
【特許文献2】特開2007−191696号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
現在のHDDにおいては、1平方インチ当り500ギガビット程度の記録密度が実現できるまでに至っており、例えば2.5インチ型(直径65mm)の磁気ディスクに320ギガバイト程度の情報を収納することが可能になっているが、更なる高記録密度化、例えば375〜500ギガバイト、更には1テラバイトの実現が要求されるようになってきている。このような近年のHDDの大容量化の要求に伴い、基板表面品質の向上の要求は今まで以上に厳しいものとなってきている。上記のような例えば375〜500ギガバイトの磁気ディスク向けの次世代基板においては、メディア特性に与える基板の影響が大きくなるので、基板表面の粗さだけでなく、ナノレベルの大きさのピット、スクラッチ(傷)等の表面欠陥が存在しないことについても現行品からの更なる改善が求められている。
【0007】
次世代基板においてはメディア特性に与える基板の影響が大きくなるのは以下のような理由による。
磁気ヘッドの浮上量(磁気ヘッドと媒体(磁気ディスク)表面との間隙)の大幅な低下(低浮上量化)が挙げられる。こうすることで、磁気ヘッドと媒体の磁性層との距離が近づくため、より小さい磁性粒子の信号も拾うことができるようになり、高記録密度化を達成することができる。近年、従来以上の低浮上量化を実現するために、DFH(Dynamic Flying Height)という機能が磁気ヘッドに搭載されている。これは、磁気ヘッドの記録再生素子部の近傍に極小のヒーター等の加熱部を設けて、記録再生素子部周辺のみを媒体表面方向に向けて突き出す機能である。今後、このDFH機能によって、磁気ヘッドの素子部と媒体表面との間隙は、2nm未満と極めて小さくなると見られている。このような状況下で、基板表面の平均粗さを極めて小さくしたところで、従来は問題とならなかった極く小さな(ナノレベルの)ピットやスクラッチ等の表面欠陥が存在すると、媒体表面においても基板表面のピットやスクラッチの両側が盛り上がることがあるので、磁気ヘッドの衝突の危険性が高まる。また、ピットやスクラッチの底(谷)部分においては、媒体の磁性層と磁気ヘッドの素子部との距離が離れてしまうため、磁気信号のリードまたはライト時にエラーとなりやすい。また、2.5インチ型(直径65mm)の磁気ディスク1枚あたり500ギガバイトを実現するためには、約350kTPI以上のトラック密度、約1700kBPI以上線記録密度、程度が必要とみられており、1ビットのサイズについては例えば15nm×70nmより小さくすることが必要と考えられる。このように記録密度が向上し1ビットのサイズが非常に小さくなった結果、従来問題とならなかったナノピットやナノスクラッチなどのナノサイズの欠陥であっても1ビットに占める面積(もしくは体積)が増大するため、磁気的な信号品質(例えばSNRなど)に対する劣化も無視できないものとなっている。
【0008】
ところで、本発明者の検討によれば、たとえば粒子径ばらつきの小さな砥粒を用いる場合には、研磨液に上記特許文献に開示されているような重量平均分子量が1000〜5000のアクリル酸/スルホン酸共重合体を含有することにより、ガラス基板の表面品質の向上に一定の効果があることは確認できたが、実際の量産において使用される粒子径ばらつきが大きく、粗大粒子も混入されているような砥粒を含む研磨液に上記の低分子量のアクリル酸/スルホン酸共重合体を含有しても、ガラス基板の表面品質の向上効果はあまり得られず、とくに微小なピットやスクラッチ等の表面欠陥を十分低減できないことが判明した。
【0009】
勿論、現状の基板表面品質への要求に対しては、上記したような従来の改善手法によって一応クリアすることは可能であるが、近年のHDDの大容量化の要求に伴う基板表面品質の向上の要求は今まで以上に厳しいものとなってきており、従来の改善手法によって基板表面品質の更なる向上を実現することには限界がある。
【0010】
本発明はこのような従来の課題を解決すべくなされたものであって、その目的は、微小なピットやスクラッチ等の表面欠陥を従来品より更に低減でき、基板表面品質への要求が現行よりもさらに厳しいものとなっている次世代用の基板として使用することが可能な高品質のガラス基板を低コストで製造できる磁気ディスク用ガラス基板の製造方法、およびそれによって得られるガラス基板を利用した磁気ディスクの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記課題を解決すべく、従来は十分に検討されていなかった研磨加工時に砥粒がガラス基板表面に与える圧力の大きさに着目した。通常、研磨加工中の砥粒がガラス基板表面に与える圧力が大きいと砥粒の押込み量が増加してピットやスクラッチ等の表面欠陥の発生が顕著になり、反対に、砥粒がガラス基板表面に与える圧力が小さいと砥粒の押込み量が低減してピットやスクラッチ等の表面欠陥の発生は少なくなるが研磨レートが低下してしまうことが予想される。
【0012】
本発明者は、鋭意検討した結果、研磨液にスルホン酸基を含むアクリル系ポリマーを含有することにより、研磨加工中の砥粒がガラス基板表面に与える圧力を適度に調節することは可能であるが、粒子径ばらつきの小さな砥粒では、上記アクリル系ポリマーの重量平均分子量を変更しても、ガラス基板の表面粗さの改善効果に大きな変化はないことが判明した。一方、粒子径ばらつきの大きい砥粒では、上記アクリル系ポリマーの重量平均分子量との相関関係が顕著にみられ、重量平均分子量の小さな(例えば1000〜3000程度の範囲)上記アクリル系ポリマーを含有してもガラス基板の表面粗さの改善効果、特にガラス基板表面粗さにおける最大谷深さRvの低減効果が十分に得られないのに対して、重量平均分子量の大きな(例えば5000以上)上記アクリル系ポリマーを含有するとガラス基板の表面粗さの改善効果、特にガラス基板表面粗さにおける最大谷深さRvの低減効果が顕著になることを見い出した。特に、化学強化を施したガラスの場合にはガラス表面の強度が増加するので、脆性破壊による粗さ上昇が起こり易い化学強化後の鏡面研磨において、粒子径ばらつきの大きい砥粒では、重量平均分子量の大きな上記アクリル系ポリマーを含有することによるガラス基板表面粗さにおける最大谷深さRvの低減効果がとりわけ顕著であることも見い出した。
【0013】
砥粒の押込み量が増加してピットやスクラッチ等の表面欠陥が発生すると、ガラス基板表面粗さにおける最大谷深さRvを上昇させる。従って、ガラス基板表面粗さにおける最大谷深さRvが低減することは、ピットやスクラッチ等の表面欠陥の発生を防止できたことに他ならない。
【0014】
なお、粒子径ばらつきが大きく、粗大粒子も混入されているような砥粒をそのまま使用せずに、予め篩等で粗大粒子などを取り除き、粒子径ばらつきを調整する処理を行うことは可能であるが、製造コストの上昇につながってしまうので、実際の量産においては粒子径ばらつきの大きい砥粒をそのまま使用することを前提とした効果的な研磨方法が求められている。
【0015】
本発明は、以上の解明事実を基に更に鋭意検討の結果完成したものであり、以下の構成を有する。
(構成1)
シリカ砥粒を含む研磨液と、研磨パッドが配備された定盤とを用いて、ガラス基板の主表面を研磨する研磨工程を含む磁気ディスク用ガラス基板の製造方法であって、前記研磨液は、光散乱法により測定された粒度分布における平均粒子径が5nm以上50nm以下であり、かつ前記光散乱法により測定された粒度分布の標準偏差を前記平均粒子径で除した値であるCV値が0.3以上である粒度分布の前記シリカ砥粒を含み、前記研磨液は、重量平均分子量が5000以上のスルホン酸基を含むアクリル系ポリマーを含有し、かつpHが0.5以上5以下の範囲内に調整されていることを特徴とする磁気ディスク用ガラス基板の製造方法である。
【0016】
(構成2)
前記研磨液中の前記スルホン酸基を含むアクリル系ポリマーの含有量は、0.01重量%以上1重量%以下の範囲であることを特徴とする構成1に記載の磁気ディスク用ガラス基板の製造方法である。
【0017】
(構成3)
前記研磨パッドとしてスウェードパッドを用いることを特徴とする構成1又は2に記載の磁気ディスク用ガラス基板の製造方法。
【0018】
(構成4)
前記ガラス基板は、化学強化可能なアモルファスのアルミノシリケートガラスからなることを特徴とする構成1乃至3のいずれかに記載の磁気ディスク用ガラス基板の製造方法である。
【0019】
(構成5)
前記ガラス基板に対して化学強化を行った後、前記研磨工程を行うことを特徴とする構成1乃至4のいずれかに記載の磁気ディスク用ガラス基板の製造方法である。
【0020】
(構成6)
構成1乃至5のいずれかに記載の製造方法によって得られた磁気ディスク用ガラス基板上に、少なくとも磁性層を形成することを特徴とする磁気ディスクの製造方法である。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、微小なピットやスクラッチ等の表面欠陥を従来品より更に低減できる高品質の磁気ディスク用ガラス基板を低コストで製造することが可能である。本発明によって得られる磁気ディスク用ガラス基板は、特に基板表面品質への要求が現行よりもさらに厳しいものとなっている次世代用の基板として好適に使用することが可能である。また、本発明によって得られるガラス基板を利用し、DFH機能を搭載した極低浮上量の設計の磁気ヘッドと組み合わせた場合においても長期に安定した動作が可能な信頼性の高い磁気ディスクを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】磁気ディスク用ガラス基板の断面図である。
【図2】磁気ディスク用ガラス基板の全体斜視図である。
【図3】両面研磨装置の概略構成を示す縦断面図である。
【図4】粒子径ばらつきの小さな砥粒と大きな砥粒の粒度分布の例を示す図である。
【図5】本発明の実施例及び比較例の結果を示す図表である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態を詳述する。
磁気ディスク用ガラス基板は、通常、粗研削工程(粗ラッピング工程)、形状加工工程、精研削工程(精ラッピング工程)、端面研磨工程、主表面研磨工程(第1研磨工程、第2研磨工程)、化学強化工程、を経て製造される。
この磁気ディスク用ガラス基板の製造は、まず、溶融ガラスからダイレクトプレスにより円盤状のガラス基板(ガラスディスク)を成型する。なお、このようなダイレクトプレス以外に、ダウンドロー法やフロート法で製造された板ガラスから所定の大きさに切り出してガラス基板(ガラスディスク)を得てもよい。次に、この成型したガラス基板(ガラスディスク)に寸法精度及び形状精度を向上させるための研削(ラッピング)を行う。この研削工程は、通常両面ラッピング装置を用い、ダイヤモンド等の硬質砥粒を用いてガラス基板主表面の研削を行う。こうしてガラス基板主表面を研削することにより、所定の板厚、平坦度に加工するとともに、所定の表面粗さを得る。
【0024】
この研削工程の終了後は、高精度な平面を得るための鏡面研磨加工を行う。ガラス基板の鏡面研磨方法としては、酸化セリウムやコロイダルシリカ等の金属酸化物の研磨材を含有するスラリー(研磨液)を供給しながら、ポリウレタン等の研磨パッドを用いて行うのが好適である。
【0025】
本発明は、上記構成1にあるように、シリカ砥粒を含む研磨液と、研磨パッドが配備された定盤とを用いて、ガラス基板の主表面を研磨する研磨工程を含む磁気ディスク用ガラス基板の製造方法であって、前記研磨液は、光散乱法により測定された粒度分布における平均粒子径が5nm以上50nm以下であり、かつ前記光散乱法により測定された粒度分布の標準偏差を前記平均粒子径で除した値であるCV値が0.3以上である粒度分布の前記シリカ砥粒を含み、前記研磨液は、重量平均分子量が5000以上のスルホン酸基を含むアクリル系ポリマーを含有し、かつpHが0.5以上5以下の範囲内に調整されていることを特徴とする磁気ディスク用ガラス基板の製造方法である。
【0026】
従来研磨加工に用いられていた研磨液は、基本的には研磨材と溶媒である水の組合せであり、さらに研磨液のpHを調整するためのpH調整剤や、その他の添加剤が必要に応じて含有されている。
【0027】
本発明では、研磨砥粒として粒子径ばらつきの大きいシリカ砥粒を分級等することなくそのまま使用する場合に、研磨液に重量平均分子量が5000以上のスルホン酸基を含むアクリル系ポリマーを含有することにより、研磨加工時に砥粒がガラス基板表面に与える圧力を抑制し、砥粒の押込み量を適度に低減させ、基板表面の粗さの低減だけでなく、特に基板表面の微小な(特にナノレベルの大きさの)ピットやスクラッチによる凹欠陥等の表面欠陥の低減効果が大きい。そのため、微小のピットやスクラッチ等の表面欠陥を従来品より更に低減させることができる高品質の磁気ディスク用ガラス基板を低コストで製造(量産)することが可能である。
本発明では、「粒子径ばらつきが大きい」とは、具体的には、光散乱法により測定された粒度分布の標準偏差を、同じく光散乱法により測定された粒度分布における平均粒子径で除した値であるCV値が0.3以上の粒度分布であることを指すものとする。また、「粒子径ばらつきが小さい」とは、上記CV値が0.3未満の粒度分布であることを指すものとする。なお、本発明において、上記平均粒子径とは、光散乱法により測定された粒度分布における粉体の集団の全体積を100%として累積カーブを求めたとき、その累積カーブが50%となる点の粒径(以下、「累積平均粒子径(50%径)」と呼ぶ。)を言う。本発明において、累積平均粒子径(50%径)は、具体的には、粒子径・粒度分布測定装置(日機装株式会社製、ナノトラックUPA-EX150)を用いて測定して得られる値である。また、本発明において、上記粒度分布の標準偏差は、上記粒子径・粒度分布測定装置(日機装株式会社製、ナノトラックUPA-EX150)を用いて測定して得られる標準偏差(SD)である。
【0028】
これは、粒子径ばらつきの大きいシリカ砥粒と、重量平均分子量が5000以上のスルホン酸基を含むアクリル系ポリマーとの組合わせにより得られる特異的な作用効果である。すなわち、粒子径ばらつきの大きい砥粒では、上記アクリル系ポリマーの重量平均分子量との相関関係が顕著にみられ、重量平均分子量の小さな(例えば1000〜3000程度の範囲)上記アクリル系ポリマーを含有してもガラス基板の表面粗さの改善効果、特にガラス基板表面粗さにおける最大谷深さRvの低減効果が十分に得られない。これに対し、重量平均分子量の大きな(5000以上の)上記アクリル系ポリマーを含有するとガラス基板の表面粗さの改善効果、特にガラス基板表面粗さにおける最大谷深さRvの低減効果が顕著に発揮される。また、化学強化を施しガラス表面の強度が増加したガラス基板は、脆性破壊による粗さ上昇が起こり易いが、このような化学強化後の鏡面研磨において、粒子径ばらつきの大きい砥粒では、重量平均分子量の大きな上記アクリル系ポリマーを含有することによるガラス基板表面粗さにおける最大谷深さRvの低減効果がとりわけ顕著に発揮される。
【0029】
なお、粒子径ばらつきの小さな砥粒では、上記アクリル系ポリマーの重量平均分子量を例えば2000〜10000の範囲で変更しても、ガラス基板の表面粗さの改善効果に大きな変化は見られない。
【0030】
本発明に用いるスルホン酸基を含むアクリル系ポリマーとしては、例えばアクリル酸とスルホン酸基含有単量体との共重合体などが好ましく挙げられる。
【0031】
本発明に用いるスルホン酸基を含むアクリル系ポリマーは、重量平均分子量が5000以上のものである。重量平均分子量の上限値は本発明においては特に制約される必要はないが、分子量が大きすぎると、研磨液の粘度が上がりすぎたり、ポリマーが研磨液に溶解し難くなる恐れがあるため、重量平均分子量の上限値は好ましくは10000程度である。
【0032】
本発明において、研磨液中の上記スルホン酸基を含むアクリル系ポリマーの添加量は特に制約されないが、要は上述の本発明の作用効果が良好に発揮されるような量であればよく、例えば0.01重量%以上、1重量%以下の範囲内であることが好ましい。なお、上記スルホン酸基を含むアクリル系ポリマーは、1種類を単独で用いてもよいし、或いは2種類以上を混合して用いてもよい。
【0033】
本発明において、シリカ砥粒等を含む研磨液を組成するには、純水、例えばRO水を用い、さらに上記スルホン酸基を含むアクリル系ポリマーを添加して研磨液とすればよい。ここでRO水とは、RO(逆浸透圧膜)処理された純水のことである。RO処理及びDI処理(脱イオン処理)されたRO−DI水を用いると特に好ましい。RO水或いはRO−DI水は不純物、例えばアルカリ金属の含有量が極めて少ない上に、イオン含有量も少ないからである。
【0034】
また、本発明の研磨工程に適用される上記研磨液は、例えば酸性域に調整されたものが用いられる。例えば、硫酸を研磨液に添加して、pHが0.5以上5以下の範囲に調整される。本発明において酸性域に調整された研磨液を好適に用いる理由は、生産性及び清浄性の観点からである。
【0035】
本発明の研磨工程に適用される研磨液に含有される研磨砥粒は、シリカ砥粒を含む。光散乱法により測定される粒度分布における平均粒子径(累積平均粒子径(50%径))が5nm以上50nm以下のものを使用するのが研磨効率の点からは好ましい。特に、仕上げ鏡面研磨工程(後述の後段の第2研磨工程)に用いる研磨液に含有される研磨砥粒は、本発明においては、表面粗さのいっそうの低減を図る観点から、上記平均粒子径が10〜40nm程度のものを使用するのが好ましい。また、本発明の研磨工程に使用する研磨砥粒は、粒子径ばらつきの大きい、すなわち光散乱法により測定される粒度分布の標準偏差を前記平均粒子径で除した値であるCV値が0.3以上である粒度分布のシリカ砥粒である。本発明では、粒子径ばらつきの大きい砥粒を分級等することなくそのまま使用する。分級等の工程を含めることは、生産効率、製造コストの観点から、量産ベースでは好ましくない。
【0036】
本発明の研磨工程における研磨方法は特に限定されるものではないが、例えば、ガラス基板と研磨パッドとを接触させ、研磨砥粒を含む研磨液を供給しながら、研磨パッドとガラス基板とを相対的に移動させて、ガラス基板の表面を鏡面状に研磨すればよい。
例えば図3は、ガラス基板の鏡面研磨工程に用いることができる遊星歯車方式の両面研磨装置の概略構成を示す縦断面図である。図3に示す両面研磨装置は、太陽歯車2と、その外方に同心円状に配置される内歯歯車3と、太陽歯車2及び内歯歯車3に噛み合い、太陽歯車2や内歯歯車3の回転に応じて公転及び自転するキャリア4と、このキャリア4に保持された被研磨加工物1を挟持可能な研磨パッド7がそれぞれ貼着された上定盤5及び下定盤6と、上定盤5と下定盤6との間に研磨液を供給する研磨液供給部(図示せず)とを備えている。
【0037】
このような両面研磨装置によって、研磨加工時には、キャリア4に保持された被研磨加工物1、即ちガラス基板を上定盤5及び下定盤6とで挟持するとともに、上下定盤5,6の研磨パッド7と被研磨加工物1との間に研磨液を供給しながら、太陽歯車2や内歯歯車3の回転に応じてキャリア4が公転及び自転しながら、被研磨加工物1の上下両面が研磨加工される。
【0038】
特に仕上げ鏡面研磨用の研磨パッドとしては、軟質ポリッシャの研磨パッド(スウェードパッド)であることが好ましい。研磨パッドの硬度はアスカーC硬度で、60以上80以下とすることが好適である。研磨パッドのガラス基板との当接面は、発泡ポアが開口した発泡樹脂、取り分け発泡ポリウレタンとすることが好ましい。このようにして研磨を行うと、ガラス基板の表面を平滑な鏡面状に研磨することができる。
【0039】
なお、通常、鏡面研磨工程は、前記のようにラッピング工程で残留した傷や歪みを除去するための第1研磨工程と、この第1研磨工程で得られた平坦な表面を維持しつつ、ガラス基板主表面の表面粗さを平滑な鏡面に仕上げる第2研磨工程の2段階を経て行われることが一般的である(但し、3段階以上の多段階研磨を行うこともある)が、この場合、少なくとも後段の第2研磨工程は、本発明によるシリカ砥粒とスルホン酸基を含むアクリル系ポリマーを含む研磨液を使用する研磨工程を適用することが望ましい。前段の第1研磨工程に関しては、従来の研磨工程を実施してもよいが、前段についても本発明による研磨工程を適用してもよい。
【0040】
本発明においては、ガラス基板を構成するガラス(の硝種)は、アモルファスのアルミノシリケートガラスとすることが好ましい。このようなガラス基板は表面を鏡面研磨することにより平滑な鏡面に仕上げることができ、また加工後の強度が良好である。このようなアルミノシリケートガラスとしては、SiO2が58重量%以上75重量%以下、Al23が5重量%以上23重量%以下、Li2Oが3重量%以上10重量%以下、Na2Oが4重量%以上13重量%以下を主成分として含有するアルミノシリケートガラス(ただし、リン酸化物を含まないアルミノシリケートガラス)を用いることができる。さらに、例えば、SiO2 を62重量%以上75重量%以下、Al23を5重量%以上15重量%以下、Li2 Oを4重量%以上10重量%以下、Na2 Oを4重量%以上12重量%以下、ZrO2を5.5重量%以上15重量%以下、主成分として含有するとともに、Na2O/ZrO2 の重量比が0.5以上2.0以下、Al23 /ZrO2 の重量比が0.4以上2.5以下であるリン酸化物を含まないアモルファスのアルミノシリケートガラスとすることができる。なお、CaOやMgOといったアルカリ土類金属酸化物を含まないガラスであることが望ましい。このようなガラスとしては、例えばHOYA株式会社製のN5ガラス(商品名)を挙げることができる。
【0041】
また、次世代基板の特性として耐熱性を求められる場合もある。この場合の耐熱性ガラスとしては、例えば、モル%表示にて、SiOを50〜75%、Alを0〜6%、BaOを0〜2%、LiOを0〜3%、ZnOを0〜5%、NaOおよびKOを合計で3〜15%、MgO、CaO、SrOおよびBaOを合計で14〜35%、ZrO、TiO、La、Y、Yb、Ta、NbおよびHfOを合計で2〜9%、含み、モル比[(MgO+CaO)/(MgO+CaO+SrO+BaO)]が0.85〜1の範囲であり、且つモル比[Al/(MgO+CaO)]が0〜0.30の範囲であるガラスを好ましく用いることができる。
【0042】
また、SiOを56〜75モル%、Alを1〜11モル%、LiO、NaOおよびKOからなる群から選ばれるアルカリ金属酸化物を合計で6〜15モル%、MgO、CaOおよびSrOからなる群から選ばれるアルカリ土類金属酸化物を合計で10〜30モル%、ZrO、TiO、Y、La、Gd、NbおよびTaからなる群から選ばれる酸化物を合計で0%超かつ10モル%以下、含むガラスであってもよい。
【0043】
本発明においては、上記鏡面研磨加工後のガラス基板の表面は、算術平均表面粗さRaが0.20nm以下、特に0.15nmより小さい鏡面とされることが好ましい。更に、最大粗さRmaxが2.0nm以下である鏡面とされることが好ましい。なお、本発明においてRa、Rmaxというときは、日本工業規格(JIS)B0601に準拠して算出される粗さのことである。
また、本発明において表面粗さ(例えば、最大粗さRmax、算術平均粗さRa)は、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて1μm×1μmの範囲を256×256ピクセルの解像度で測定したときに得られる表面形状の表面粗さとすることが実用上好ましい。
【0044】
本発明においては、鏡面研磨加工工程の前または後に、化学強化処理を施すことが好ましい。本発明に係る磁気ディスク用ガラス基板は、より厳しい環境での使用にも耐えうるように、強度のよりいっそうの向上が求められており、化学強化による強度向上は必要不可欠である。化学強化処理の方法としては、例えば、ガラス転移点の温度を超えない温度領域、例えば摂氏300度以上500度以下の温度で、イオン交換を行う低温型イオン交換法などが好ましい。化学強化処理とは、溶融させた化学強化塩とガラス基板とを接触させることにより、化学強化塩中の相対的に大きな原子半径のアルカリ金属元素と、ガラス基板中の相対的に小さな原子半径のアルカリ金属元素とをイオン交換し、ガラス基板の表層に該イオン半径の大きなアルカリ金属元素を浸透させ、ガラス基板の表面に圧縮応力を生じさせる処理のことである。化学強化処理されたガラス基板は耐衝撃性に優れているので、例えばモバイル用途のHDDに搭載するのに特に好ましい。化学強化塩としては、硝酸カリウムや硝酸ナトリウムなどのアルカリ金属硝酸を好ましく用いることができる。
前述したように、化学強化後の鏡面研磨において、本発明による作用効果、すなわちガラス基板表面粗さにおける最大谷深さRvの低減効果がとりわけ顕著に発揮される。
【0045】
本発明の磁気ディスク用ガラス基板の製造方法によって、図1および図2に示すように、両主表面11,11と、その間に外周側端面12、内周側端面13を有するディスク状のガラス基板1が得られる。外周側端面12は、側壁面12aと、その両側の主表面との間にある面取面12b、12bによりなる。内周側端面13についても同様の形状である。
【0046】
また、本発明は、以上の磁気ディスク用ガラス基板を用いた磁気ディスクの製造方法についても提供する。本発明において磁気ディスクは、本発明による磁気ディスク用ガラス基板の上に少なくとも磁性層を形成して製造される。磁性層の材料としては、異方性磁界の大きな六方晶系であるCoCrPt系やCoPt系強磁性合金を用いることができる。磁性層の形成方法としてはスパッタリング法、例えばDCマグネトロンスパッタリング法によりガラス基板の上に磁性層を成膜する方法を用いることが好適である。またガラス基板と磁性層との間に、下地層を介挿することにより磁性層の磁性グレインの配向方向や磁性グレインの大きさを制御することができる。例えば、RuやTiを含む六方晶系下地層を用いることにより、磁性層の磁化容易方向を磁気ディスク面の法線に沿って配向させることができる。この場合、垂直磁気記録方式の磁気ディスクが製造される。下地層は磁性層同様にスパッタリング法により形成することができる。
【0047】
また、磁性層の上に、保護層、潤滑層をこの順に形成するとよい。保護層としてはアモルファスの水素化炭素系保護層が好適である。例えばプラズマCVD法により保護層を形成することができる。また、潤滑層としては、パーフルオロポリエーテル化合物の主鎖の末端に官能基を有する潤滑剤を用いることができる。取り分け、極性官能基として水酸基を末端に備えるパーフルオロポリエーテル化合物を主成分とすることが好ましい。潤滑層はディップ法により塗布形成することができる。
本発明によって得られる磁気ディスク用ガラス基板を利用することにより、信頼性の高い磁気ディスクを得ることができる。
【実施例】
【0048】
以下に実施例を挙げて、本発明の実施の形態について具体的に説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
(実施例1及び比較例)
以下の(1)粗ラッピング工程(粗研削工程)、(2)形状加工工程、(3)精ラッピング工程(精研削工程)、(4)端面研磨工程、(5)主表面第1研磨工程、(6)化学強化工程、(7)主表面第2研磨工程、を経て磁気ディスク用ガラス基板を製造した。
【0049】
(1)粗ラッピング工程
まず、溶融ガラスから上型、下型、胴型を用いたダイレクトプレスにより直径66mmφ、厚さ1.0mmの円盤状のアルミノシリゲートガラスからなるガラス基板を得た。なお、このようなダイレクトプレス以外に、ダウンドロー法やフロート法で製造された板ガラスから所定の大きさに切り出してガラス基板を得てもよい。このアルミノシリケートガラスとしては、SiO:58〜75重量%、Al:5〜23重量%、LiO:3〜10重量%、NaO:4〜13重量%を含有する化学強化用ガラスを使用した。
【0050】
次いで、このガラス基板に寸法精度及び形状精度の向上させるためラッピング工程を行った。このラッピング工程は両面ラッピング装置を用い、粒度#400の砥粒を用いて行った。具体的には、上下定盤の間にキャリアにより保持したガラス基板を密着させ、荷重を100kg程度に設定して、上記ラッピング装置のサンギアとインターナルギアを回転させることによって、キャリア内に収納したガラス基板の両面を面精度0〜1μm、表面粗さ(Rmax)6μm程度にラッピングした。
【0051】
(2)形状加工工程
次に、円筒状の砥石を用いてガラス基板の中央部分に孔を空けると共に、外周端面の研削をして直径を65mmφとした後、外周端面および内周端面に所定の面取り加工を施した。このときのガラス基板端面の表面粗さは、Rmaxで4μm程度であった。なお、一般に、2.5インチ型HDD(ハードディスクドライブ)では、外径が65mmの磁気ディスクを用いる。
【0052】
(3)精ラッピング工程
この精ラッピング工程は両面ラッピング装置を用い、粒度#1000のダイヤモンド砥粒をアクリル樹脂で固定したペレットが貼り付けられた上下定盤の間にキャリアにより保持したガラス基板を密着させて行なった。
具体的には、荷重を100kg程度に設定して、上記ラッピング装置のサンギアとインターナルギアを回転させることによって、キャリア内に収納したガラス基板の両面を、表面粗さRmaxで2μm程度、Raで0.2μm程度にラッピングした。
上記ラッピング工程を終えたガラス基板を、中性洗剤、水の各洗浄槽(超音波印加)に順次浸漬して、超音波洗浄を行なった。
【0053】
(4)端面研磨工程
次いで、ブラシ研磨により、ガラス基板を回転させながらガラス基板の端面(内周、外周)の表面の粗さを、Rmaxで1μm、Raで0.3μm程度に研磨した。そして、上記端面研磨を終えたガラス基板の表面を水洗浄した。
【0054】
(5)主表面第1研磨工程
次に、上述したラッピング工程で残留した傷や歪みを除去するための第1研磨工程を前述の図3に示す両面研磨装置を用いて行なった。両面研磨装置においては、研磨パッド7が貼り付けられた上下研磨定盤5,6の間にキャリア4により保持したガラス基板を密着させ、このキャリア4を太陽歯車2と内歯歯車3とに噛合させ、上記ガラス基板を上下定盤5,6によって挟圧する。その後、研磨パッドとガラス基板の研磨面との間に研磨液を供給して回転させることによって、ガラス基板が定盤5,6上で自転しながら公転して両面を同時に研磨加工するものである。具体的には、ポリシャとして硬質ポリシャ(硬質発泡ウレタン)を用い、第1研磨工程を実施した。研磨液としては、酸化セリウム(平均粒径1μm)を研磨剤として10重量%分散したRO水中にさらにエタノール系の低分子量の界面活性剤を添加して中性に調整されたものを使用した。荷重は100g/cm、研磨時間は15分とした。
上記第1研磨工程を終えたガラス基板を、中性洗剤、純水、純水、IPA(イソプロピルアルコール)、IPA(蒸気乾燥)の各洗浄槽に順次浸漬して、超音波洗浄し、乾燥した。
【0055】
(6)化学強化工程
次に、上記洗浄を終えたガラス基板に化学強化を施した。化学強化は硝酸カリウムと硝酸ナトリウムの混合した化学強化液を用意し、この化学強化溶液を380℃に加熱し、上記洗浄・乾燥済みのガラス基板を約4時間浸漬して化学強化処理を行なった。化学強化を終えたガラス基板を硫酸、中性洗剤、純水、純水、IPA、IPA(蒸気乾燥)の各洗浄槽に順次浸漬して、超音波洗浄し、乾燥した。
【0056】
(7)主表面第2研磨工程
次いで上記の第1研磨工程で使用したものと同じ両面研磨装置を用い、ポリシャを軟質ポリシャ(スウェード)の研磨パッド(アスカーC硬度で72の発泡ポリウレタン)に替えて第2研磨工程を実施した。この第2研磨工程は、上述した第1研磨工程で得られた平坦な表面を維持しつつ、例えばガラス基板主表面の表面粗さをRmaxで2nm程度以下の平滑な鏡面に仕上げるための鏡面研磨加工である。研磨液としては、下記のコロイダルシリカを研磨剤として15重量%分散したRO水中に、アクリル/スルホン酸系共重合体を0.3重量%添加し、さらに硫酸を添加して酸性(pH=2)に調整されたものを使用した。なお、荷重は100g/cm、研磨時間は10分とした。
【0057】
なお、上記第2研磨工程において使用したコロイダルシリカは、光散乱法により測定される粒度分布における前記累積平均粒子径(50%径)が5nm以上50nm以下であり、かつ同じく光散乱法により測定される粒度分布の標準偏差を上記累積平均粒子径で除した値であるCV値が0.3以上である粒度分布のシリカ砥粒である。その粒度分布を図4中の破線の曲線で示した。
ここで、研磨液に含まれるコロイダルシリカの上記累積平均粒子径及び粒度分布の標準偏差(SD)は、粒子径・粒度分布測定装置(日機装株式会社製、ナノトラックUPA-EX150)を用いて光散乱法により測定した。
また、上記アクリル/スルホン酸系共重合体は、重量平均分子量が、2000、3000、5000、7000、10000の5種類を準備した。
【0058】
上記第2研磨工程は、上記アクリル/スルホン酸共重合体の重量平均分子量を上記の通り5種類変更した場合と、アクリル/スルホン酸共重合体を添加しない場合の計6通りの研磨液をそれぞれ用いて行った。
上記第2研磨工程を終えたガラス基板を、中性洗剤、純水、純水、IPA、IPA(蒸気乾燥)の各洗浄槽に順次浸漬して、超音波洗浄し、乾燥した。
得られたガラス基板の外径は65mm、内径は20mm、板厚は0.8mmであった。
【0059】
こうして、上記第2研磨工程における6通りの研磨液の各々5枚づつ、計30枚のガラス基板を作製した。上記化学強化後に上記第2研磨を行って得られたガラス基板の主表面の表面粗さを原子間力顕微鏡(AFM)を用いて1μm×1μmの範囲を256×256ピクセルの解像度で測定したところ、重量平均分子量が7000、10000のアクリル/スルホン酸共重合体を添加した場合は、いずれもRa=0.11nm(ガラス基板5枚5面の平均値。以下同様。)と従来品よりも更に超平滑な表面を持つガラス基板を得た。また、重量平均分子量が5000のアクリル/スルホン酸共重合体を添加した場合は、Ra=0.12nmと表面粗さは若干劣化した。さらに、重量平均分子量が3000、2000のアクリル/スルホン酸共重合体を添加した場合、及び添加しなかった場合は、いずれもRa=0.14nm以上となり、従来品よりも平滑な表面を持つガラス基板は得られなかった。
【0060】
また、上記原子間力顕微鏡(AFM)による表面粗さ測定によって得られた粗さ曲線を用いて、ガラス基板表面粗さにおける最大谷深さRvを日本工業規格(JIS)B0601に準拠して算出した。
得られたRvの値について、1.0nm以下の場合を「○」、1.0nm超1.2nm以下の場合を「△」、1.2nm超1.4nm以下の場合を「×」、1.4nm超の場合を「××」として評価し、評価結果を纏めて図5に示した。
【0061】
また、上記第1研磨工程、第2研磨工程を連続して行い、その後に上記化学強化工程を行った(つまり化学強化前の鏡面研磨)こと以外は上記実施例及び比較例と同様にして、磁気ディスク用ガラス基板を作製し、Rvの評価を行った。評価結果は纏めて図5に示した。
【0062】
(参考例)
上記第2研磨工程において、前記累積平均粒子径(50%径)が5nm以上50nm以下であり、かつ前記CV値が0.3未満である粒度分布のばらつきが小さいシリカ砥粒(その粒度分布を図4中の実線の曲線で示した。)を使用したこと以外は上記実施例及び比較例と同様にして、磁気ディスク用ガラス基板を作製し、Rvの評価を行った。評価結果は纏めて図5に示した。
【0063】
図5の結果から、本発明では、研磨砥粒として粒子径ばらつきの大きいシリカ砥粒を分級等することなくそのまま使用する場合に、研磨液に重量平均分子量が5000以上のスルホン酸基を含むアクリル系ポリマーを含有することにより、基板表面の粗さRaの低減だけでなく、特にガラス基板表面粗さにおける最大谷深さRvの低減効果が大きい。そのため、微小のピットやスクラッチ等の表面欠陥の発生を従来品より更に低減させることができる高品質の磁気ディスク用ガラス基板を低コストで製造(量産)することが可能であり、基板表面品質への要求が現行よりもさらに厳しいものとなっている次世代用の基板として使用することが可能である。
【0064】
図5より明らかなように、このような本発明による効果は、粒子径ばらつきの大きいシリカ砥粒と、重量平均分子量が5000以上のスルホン酸基を含むアクリル系ポリマーとの組合わせにより得られる特異的な作用効果である。参考例の結果から明らかなように、粒子径ばらつきの小さな砥粒では、上記アクリル系ポリマーの重量平均分子量を2000〜10000の範囲で変更しても、化学強化前の鏡面研磨、化学強化後の鏡面研磨のいずれの場合においても、ガラス基板の表面粗さにおける最大谷深さRvの改善効果に大きな変化は見られない。
【0065】
これに対して、粒子径ばらつきの大きい砥粒では、上記アクリル系ポリマーの重量平均分子量との相関関係が顕著にみられる。重量平均分子量の小さな(2000、3000)上記アクリル系ポリマーを含有しても特にガラス基板表面粗さにおける最大谷深さRvの低減効果が十分に得られない。しかし、重量平均分子量の大きな(5000、7000、10000)上記アクリル系ポリマーを含有すると、特にガラス基板表面粗さにおける最大谷深さRvの低減効果が顕著に発揮される。
また、化学強化後の鏡面研磨において、粒子径ばらつきの大きい砥粒では、重量平均分子量の大きな上記アクリル系ポリマーを含有することによるガラス基板表面粗さにおける最大谷深さRvの低減効果がとりわけ顕著に発揮される。
【0066】
(実施例2)
上記実施例で得られた本発明の磁気ディスク用ガラス基板に以下の成膜工程を施して、垂直磁気記録用磁気ディスクを得た。
すなわち、上記ガラス基板上に、Ti系合金薄膜からなる付着層、CoTaZr合金薄膜からなる軟磁性層、Ru薄膜からなる下地層、CoCrPt合金からなる垂直磁気記録層、カーボン保護層、潤滑層を順次成膜した。保護層は、磁気記録層が磁気ヘッドとの接触によって劣化することを防止するためのもので、水素化カーボンからなり、耐磨耗性が得られる。また、潤滑層は、アルコール変性パーフルオロポリエーテルの液体潤滑剤をディップ法により形成した。
得られた磁気ディスクについて、DFHヘッドを備えたHDDに組み込み、80℃かつ80%RHの高温高湿環境下においてDFH機能を作動させつつ1ヶ月間のロードアンロード耐久性試験を行ったところ、特に障害も無く、良好な結果が得られた。
【符号の説明】
【0067】
1 ガラス基板
2 太陽歯車
3 内歯歯車
4 キャリア
5 上定盤
6 下定盤
7 研磨パッド
11 基板の主表面
12,13 基板の端面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリカ砥粒を含む研磨液と、研磨パッドが配備された定盤とを用いて、ガラス基板の主表面を研磨する研磨工程を含む磁気ディスク用ガラス基板の製造方法であって、
前記研磨液は、光散乱法により測定された粒度分布における平均粒子径が5nm以上50nm以下であり、かつ前記光散乱法により測定された粒度分布の標準偏差を前記平均粒子径で除した値であるCV値が0.3以上である粒度分布の前記シリカ砥粒を含み、前記研磨液は、重量平均分子量が5000以上のスルホン酸基を含むアクリル系ポリマーを含有し、かつpHが0.5以上5以下の範囲内に調整されていることを特徴とする磁気ディスク用ガラス基板の製造方法。
【請求項2】
前記研磨液中の前記スルホン酸基を含むアクリル系ポリマーの含有量は、0.01重量%以上1重量%以下の範囲であることを特徴とする請求項1に記載の磁気ディスク用ガラス基板の製造方法。
【請求項3】
前記研磨パッドとしてスウェードパッドを用いることを特徴とする請求項1又は2に記載の磁気ディスク用ガラス基板の製造方法。
【請求項4】
前記ガラス基板は、化学強化可能なアモルファスのアルミノシリケートガラスからなることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の磁気ディスク用ガラス基板の製造方法。
【請求項5】
前記ガラス基板に対して化学強化を行った後、前記研磨工程を行うことを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の磁気ディスク用ガラス基板の製造方法。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかに記載の製造方法によって得られた磁気ディスク用ガラス基板上に、少なくとも磁性層を形成することを特徴とする磁気ディスクの製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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