説明

磁気ディスク用記録媒体及びその製造方法

【課題】硬質炭素膜の一部を軟化領域に変換することで応力を緩和し、保護膜の剥離を防止するとき、磁気記録エラーが発生することがある。
【解決手段】
磁気記録がなされる磁性層上に硬質炭素膜からなる保護膜が設けられた磁気ディスク用記録媒体において、保護膜は、硬質炭素膜の一部を軟化して形成された軟化領域を有し、軟化領域の長径が0.6μm以下であり、硬質炭素膜に対する軟化領域の面積比が2.5×10-8以上とする。軟化領域の径が単ビットサイズより小さいので、軟化領域の塑性変形にともない磁気層に生ずる歪みがあっても、単ビットの一部に正常な記録が残るので磁気記録エラーとならない。また、かかる面積比により、有効に応力緩和がなされ剥離を生じない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は磁性層上に保護膜を有する磁気ディスク用記録媒体及びその製造方法に関し、とくに軟化領域が形成された硬質炭素膜を保護膜とする磁気ディスク用記録媒体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
記録媒体上に浮上するヘッドを用いて記録媒体中の磁気層へ書込及び磁気層から読出す磁気ディスク装置では、記録密度を向上するためヘッドと磁気層との間の間隔(いわゆるマグネテックスペーシング)を狭くする必要がある。
【0003】
しかし、磁気記録層たる磁気層の上面には、磁気層をヘッドの擦動、衝突による磨耗、損傷から保護し、かつ磁気層を雰囲気から隔離して磁気層の腐食を防止するために保護層が設けられており、この保護層の厚さ以下にヘッドと磁気層との間の間隔を狭くすることはできない。このため、記録密度の高い磁気ディスク装置に用いられる記録媒体では、保護膜を薄くすることが求められる。
【0004】
他方、保護膜は、薄くても、ヘッドの擦動、衝突により破損してはならない。このため、保護膜の材料として、硬質かつ耐磨耗性を有する材料が使用される。とくに、FCA(Filtered Cathodic Arc)法により形成されたDLC(Diamond−like Carbon)膜は、極めて硬度の高い、例えば硬度が30GPaを超える硬質炭素膜となり、耐衝撃性及び耐磨耗性に優れた保護膜となり得る。
【0005】
しかし、FCA法により形成された硬質炭素膜は内部応力が大きい。このため、磁気層表面に保護膜として形成された硬質炭素膜は、ヘッドの擦動、衝突により磁気層から容易に剥離してしまう。一旦剥離した硬質炭素膜は破片として飛散し、その後のヘッドの擦動、衝突によりヘッドクラッシュを誘引する。また、剥離した部分の磁気層表面が雰囲気に暴露され、磁気層表面に腐食生成物を生成する。この腐食生成物は、保護膜表面から突出して形成されるため、ヘッドにより破壊されて飛散し、その結果ヘッドクラッシュを誘引する。このように、保護膜として形成された硬質炭素膜の剥離は、ヘッドクラッシュの重大な誘因となる。
【0006】
硬質炭素膜の応力を緩和して、硬質炭素膜を保護膜として使用するときの保護膜の剥離を回避する方法が考案されている(例えば特許文献1参照。)。
【0007】
図5は従来の磁気ディスク用記録媒体の製造工程断面図であり、硬質炭素膜の応力を緩和して保護膜の剥離を回避した磁気ディスク用記録媒体の断面構造を表している。
【0008】
この方法に係る磁気ディスク用記録媒体は、以下の工程により製造される。まず、図5(a)を参照して、基板1上にNi−P層2、下地層3、磁性層4を順次形成し、さらに磁性層4上にFCA法により、DLCからなる硬質炭素膜5aを形成する。この硬質炭素膜5aは、歪んだSP3 結合を含みおおよそ30GPaの硬度を有する。
【0009】
次いで、図5(b)を参照して、硬質炭素膜5a表面に画定された格子点位置に電子ビームを照射して、その格子点位置に硬質炭素膜5aの一部を軟化した軟化領域5bを形成する。この軟化領域5bは、SP2 結合を多く含む硬度が15GPa程度の炭素膜からなり、作製されると同時に塑性変形を起こして、軟化領域5b近傍の硬質炭素膜5aの内部応力を緩和する。このように、保護膜5を構成する硬質炭素膜5aの内部応力が緩和されるので、保護膜5が磁気層から剥離することを回避することができる。最後に、保護膜5上に潤滑層6を形成して磁気ディスク用記録媒体とする。
【0010】
上述した軟化領域5bを設けて硬質炭素膜5aの応力緩和をする従来の方法では、応力緩和に必要な軟化領域5bは、軟化領域5bの径(即ち、電子ビームの径)を1μm以上とし、軟化領域5bの面積を保護膜5の1%以上10%以下とする。なぜなら、軟化領域5bの面積が1%未満、例えば0.5%では剥離が観察され、軟化領域5bの面積が10%を超えると耐磨耗性が劣化するからである。
【特許文献1】特開2001−110031号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上述したように、硬質炭素膜の一部に軟化領域を設けた保護膜を形成することで硬質炭素膜の応力緩和をする従来の方法により、保護膜の剥離を抑制することができる。しかし、この従来の方法により製造された磁気ディスク用記録媒体は、磁気記録の書込及び読出の際に記録エラーを発生することがある。
【0012】
本発明は、硬質炭素膜の一部に軟化領域を設けた保護膜を備える磁気ディスク記録媒体において、保護膜の剥離が防止されかつ磁気記録のエラーが発生しないように軟化領域を形成した磁気ディスク記録媒体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するための本発明の磁気ディスク用記録媒体は、磁性層上に設けられた硬質炭素膜と、その硬質炭素膜の一部を軟化して形成された軟化領域とからなる保護膜を有する。そして、軟化領域の長径(軟化領域を包含する最小の矩形の長辺)の長さを0.6μm以下とし、かつ軟化領域の硬質炭素膜に対する面積比を2.5×10-8以上とする。
【0014】
本発明の発明者は、硬質炭素膜の一部を軟化した軟化領域が形成された保護膜を備える磁気ディスク用記録媒体について、軟化領域の大きさ及び軟化領域間距離を変えて、保護膜の剥離の有無及び磁気記録エラーの発生の有無を調べる実験を行なった。
【0015】
その結果、剥離は軟化領域の面積比に関連して発生し、軟化領域の面積/硬質炭素膜の面積が2.5×10-8以上では剥離は発生しないことを明らかにした。また、磁気記録エラーの発生は軟化領域の大きさに依存しており、軟化領域の長径の長さが0.6μm以下では磁気記録エラーは発生せず、0.6μmを超えるときに磁気記録エラーが発生することを明らかにした。
【0016】
本発明の磁気ディスク用記録媒体では、軟化領域の長径の長さを0.6μm以下とするため磁気記録エラーは発生しない。また、軟化領域の硬質炭素膜に対する面積比を2.5×10-8以上とするので、保護膜の剥離も発生しない。従って、本発明の保護膜は、硬質炭素膜の優れた耐磨耗性を有し、剥離せず、かつこの保護膜を備える磁気ディスク用記録媒体は磁気記録エラーを発生しない。
【0017】
上述したように、軟化領域が大きいとき磁気記録エラーが発生する理由は完全には解明されていないが、本発明の発明者は次ぎのように考察している。
【0018】
硬質炭素膜、例えばFCA法により製造された硬度が20GPa以上のDLCは、非常に大きな圧縮性の内部応力を有している。かかる硬質炭素膜を磁気記録層である磁性層上に被着し、その一部を軟化領域とした場合、軟化領域は硬質炭素膜から押され塑性変形を起こす。この塑性変形とともに、硬質炭素層及び軟化領域の下に化学的に結合して密着している磁性層の表面に大きな歪みが発生し、この歪みが磁性層の磁気特性に悪影響を及ぼすため磁気記録エラーが発生する。
【0019】
しかし、磁気記録エラーは、磁性層に記録されるビットサイズと磁性層の歪みが生じた領域の大きさに関係する。即ち、軟化領域がビットサイズより大きい場合、単位ビットが完全に軟化領域、即ち磁性層の歪みが大きな領域に含まれる。その結果、その単位ビットには正常な書込・読出がなされず、磁気記録エラーを発生する。逆に、軟化領域がビットサイズより小さい場合、単位ビットの一部のみが軟化領域に含まれ、残りの部分は軟化領域の外側に延在する硬質炭素膜の形成領域に含まれる。この硬質炭素膜は塑性変形をしないので磁性層に塑性変形に伴う歪みを発生させず、この領域に含まれる単位ビットの残りの部分は正常な磁気記録がなされる。従って、読出し電圧は小さくなるものの、残りの正常な部分からの読出しにより全体として正常な書込・読出がなされるので磁気記録エラーを生じない。
【0020】
通常、単ビットサイズは、ビット長が短くトラック幅が長い。従って、軟化領域がトラック幅よりある程度小さければ磁気記録エラーを回避できる。実験によれば、軟化領域の長径がトラック幅の80%以下であれば、通常は磁気記録エラーを生じなかった。もちろん、磁気記録エラーの発生は磁気記録装置の特性に大きく依存するから、軟化領域の大きさは実験的に確認することが望ましい。
【0021】
一方、軟化領域の最小の大きさは、剥離が発生しなくなるまで応力緩和する大きさでなければならない。上述したように、この軟化領域の最小の大きさは、軟化領域の硬質炭素膜に対する面積比が2.5×10-8以上という条件で画定される。
【0022】
軟化領域の形状は、円形、楕円形とすることができる。さらに、必要ならば、矩形又は線形であってもよい。
【0023】
上記硬質炭素膜は、SP3 結合を含む硬度20GPa以上のDLCであり、例えばFCA法により製造される。これ以下の硬度の硬質炭素膜では応力緩和の効果が小さい。また、SP3 結合を含むことで、これをSP2 結合に変換して容易に軟化領域を形成することができる。とくに、硬質炭素膜の硬度が28GPa以上では大きな軟化領域を形成すると磁気記録エラーを発生するが、かかる硬質炭素膜に本発明を適用して磁気記録エラーを回避することができる。とくに、内部応力が大きくて軟化領域の形成により磁気記録エラーを発生しやすい硬度の高い硬質炭素膜、具体的には30〜40GPaの硬質炭素膜に本発明を適用して有効な効果を奏することができる。
【0024】
上記軟化領域の硬度は,15GPa以下とすることで保護膜の剥離を防ぐに十分な応力緩和をすることができる。これ以上の硬度では応力緩和が不十分になる。また、軟化領域の耐磨耗性の劣化を防ぐ観点から、軟化領域の硬度は10GPa以上とすることが好ましい。
【0025】
上述した軟化領域は、硬質炭素膜に電子ピームを照射し、照射部分を軟化領域に変換することで作製することができる。このとき、電子ビームの径を0.6μm以下とすることで、長径が0.6μm以下の軟化領域を形成することができる。また、この電子ビームの径は、描画速度の観点から大きいことが望ましく、実用的な観点からは0.1μm以上とすることが好ましい。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、保護膜を構成する硬質炭素膜の一部を変換して形成された軟化領域の大きさ及びその面積比を適切に選択することで、耐磨耗性に優れ、剥離がなくかつ磁気記録エラーが発生しない磁気ディスク記録媒体を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
図1は本発明の実施形態磁気ディスク用記録媒体の製造工程断面図であり、磁気ディスク用記録媒体の断面構造を表している。図2は本発明の実施形態磁気ディスク用記録媒体斜視図であり、軟化領域の平面形状及び分布を表している。
【0028】
図1(a)を参照して、本実施形態では、まず、ガラス基板1上に順次、厚さ5μmのNi−P層2、厚さ10nmのCr系下地層3及び厚さ20nmのCo系磁性層4をスパッタにより形成した。次いで、FCA法を用いてDLCからなる厚さ6nmの硬質炭素膜5aを形成した。
【0029】
次いで、図1(b)を参照して、硬質炭素膜5aの上方から電子ビーム20を照射して、照射された領域を軟化領域5bに変換した。硬質炭素膜5aはSP3 結合を含むダイヤモンドライクの構造を有し、そのSP3 結合の一部が電子ビーム20の照射によりSP2 結合を含むグラファイト構造へ変換されるため硬度が低い軟化領域5bへと変換される。
【0030】
この変換は温度を局所的に上昇することでなされ、電子ビーム20の他、レーザ光、イオンビーム又はイオンクラスタービームの照射で変換することができる。なお、硬質炭素膜5aの軟化領域5bへの変換は250℃以上とすることで速やかに進行させることができる。しかし、薄膜の局所的な上昇温度は照射エネルギーの他、散逸エネルギーにも依存するから、最適な硬度の軟化領域5bが形成されるように照射条件を実験的に定める必要がある。本実施形態では、電子ビーム20の照射は、加速電圧2kV及び照射電流500μA/cm2 で行なった。
【0031】
図2及び図1(b)を参照して、軟化領域5bは、断面円形の電子ビーム20の照射により平面形状が円形、即ち立体形状が円筒状に形成された。この軟化領域5bを、保護膜5面内に画定される等間隔の格子点に形成した。即ち、軟化領域5bは、軟化領域間間隔Lの格子間隔を有する正方格子の各格子点に配置される。本実施形態では、硬質炭素膜5aの硬度は28GPa、径が0.6μmの軟化領域5bの硬度は15GPaであった。硬度は、米Hysitoron社製の商品名ナノインデンターを用いて、三角錐チップの押し込み深さ3nmで測定した。
【0032】
図1(c)を参照して、電子ビーム20を照射した後直ちに、伊アウジモンド社製のPFPE系潤滑剤である商品名Fomblin AM3001を約0.2体積%に希釈した潤滑剤溶液に30秒間浸漬した後、800mm/分の引き上げ速度で引き上げて潤滑層6を形成した。以上の工程を経て磁気ディスク用記録媒体10を製造した。
【0033】
本実施形態では、軟化領域間間隔L及び軟化領域径dがそれぞれ異なる磁気ディスク用記録媒体10を製造し、書込/読出試験および耐久試験に供した。また、比較のために軟化領域5bが形成されていない保護膜5を有する磁気ディスク用記録媒体10を用意した。なお、軟化領域間間隔Lは、格子点に配置された軟化領域5bの最近接位置間の距離をいい、格子点を構成する格子間の距離に等しい。また、軟化領域径dは、軟化領域5bの直径である。
【0034】
書込/読出試験は、磁気ディスクヘッドを用いて磁気ディスク用記録媒体10の磁性層4へテストパターンを書込み、これを読み出して磁気記録エラーの発生の有無を観察した。なお、この試験に用いられた単ビットサイズは、ビット長が65nm、トラック幅が750nmである。
【0035】
耐久試験は、回転速度1500rpmで回転する磁気ディスク用記録媒体の表面へ磁気ディスクヘッドを荷重40gで押しつけ、保護膜5の剥離が観察されるまでの回転数により評価した。
【0036】
表1に磁気ディスク用記録媒体の耐久試験結果を書込/読出試験結果と合わせて示した。なお、軟化領域5bが形成されない比較例では、磁気記録エラーは発生しなかったが、2800回転で剥離が観察された。
【0037】
【表1】

表1にあるように、剥離は、いずれの軟化領域間間隔Lにおいても、軟化領域径dが小さい程剥離し易く、軟化領域径dが大きくなるにつれ剥離し難くなる。これは、軟化領域径dが小さいと保護膜5の応力緩和が不十分に留まり、保護膜5の剥離が防止できないためと推測される。また、軟化領域径dが同じときは、軟化領域間間隔Lが大きい程剥離し易く、小さいと剥離し難くなる。これは、応力緩和が軟化領域5bの近辺に留まるため、軟化領域間間隔Lが大きい場合は軟化領域5bの中間部分で応力緩和されないためと推測される。なお、この軟化領域径dは電子ビーム20の径に等しいとして、電子ビーム20の径を軟化領域径dとした。
【0038】
表1を参照して、剥離が観察されるまでの回転数(剥離までの回転数)が8500回転以上ある磁気ディスク用記録媒体とするには、軟化領域間間隔Lが300μmのときは軟化領域径dを0.1μm以上にしなければならず、軟化領域間間隔Lが拡大するに従って必要な軟化領域径dが大きくなり、軟化領域間間隔Lが4000μmでは軟化領域径dを0.9μm以上にしなければならない。
【0039】
これに対して、磁気記録エラーが発生しないのは、軟化領域径dが0.6μm以下のときであり、軟化領域径dが0.9μm以上では磁気記録エラーが発生する。また、この磁気記録エラーと軟化領域径dとの関係は、軟化領域間間隔Lに依存しない。このことは、磁気記録エラーは軟化領域の径にのみ依存し、保護膜5の応力緩和には関係していないことを示している。この事実は、軟化領域5bの塑性変形により生成される軟化領域5b直下の磁性層4の歪みが単ビットサイズに近い乃至それを超えると磁気記録エラーを生ずるという上述した本発明者の考察を支持している。
【0040】
図3は記録媒体特性に及ぼす軟化領域の径及び面積比の影響を表す図であり、表1の耐久試験結果を図に表したものである。図3の縦軸は軟化領域径dの対数表示で、横軸は軟化領域間間隔Lの対数表示で表示している。図3中、△は8500回転未満で剥離を発生したもの、○は8500回転でも剥離を発生しなかったもの、×は書込/読出試験で磁気記録エラーが発生したものを表している。なお、○の中に×があるものは、8500回転でも剥離は発生しないが磁気記録エラーを発生したものを表している。また、図3中の直線イは、保護膜5に対する軟化領域5bの面積比が2.5×10-8で一定となる線である。
【0041】
図3を参照して、保護膜5の剥離は直線イの下方で発生し、この直線イの上方では発生しない。従って、保護膜5に対する軟化領域5bの面積比が2.5×10-8以上であれば、保護膜の剥離は発生しない。
【0042】
一方、磁気記録エラーは、径が1μm以上の径軟化領域5bを有する磁気ディスク用記録媒体10で発生しており、径が0.6μm以下の軟化領域5bを有する磁気ディスク用記録媒体10では発生しない。従って、軟化領域5bの径を0.6μm以下とすることで、磁気記録エラーの発生しない磁気ディスク用記録媒体を製造することができる。
【0043】
このように、保護膜5に対する軟化領域5bの面積比が2.5×10-8以上であり、軟化領域5bの径が0.6μm以下の保護膜5を有する磁気ディスク用記録媒体は、保護膜5の剥離がなくかつ磁気記録エラーも発生しない。なお、軟化領域間間隔Lの最小値はとくに制限されないが、実験的に確認された300μm以上とすることが効果の確実を期する観点から好ましい。
【0044】
上述した実施形態では、軟化領域5bの平面形状は円形であるが、他の平面形状、例えば楕円とすることができる。この場合、少なくとも長径を0.6μm以下とすることで磁気記録エラーを回避することができる。なぜなら、このときの楕円の軟化領域5bの大きさは円形の軟化領域5bより小さいからである。また、このときの楕円の軟化領域5bの保護膜5面積に対する面積比は、円形の軟化領域5bより小さいから、この面積比を2.5×10-8以上とすることで剥離を防止することができる。
【0045】
図4は本発明の実施形態磁気ディスク装置要部説明図であり、上述した本発明の磁気ディスク用記録媒体を記録媒体として用いたハードディスクを表している。
【0046】
図4を参照して、本実施形態に係る磁気ディスク装置120は、ハウジング121内に、図外のスピンドルにより回転駆動されるハブ122、ハブ122に固定され回転される磁気ディスク用記録媒体123、アクチュエータユニット124、アクチュエータユニット124に取り付けられ磁気ディスク用記録媒体123の半径方向に移動されるアーム125及びサスペンション126、サスペンション126に支持された磁気ヘッド128が設けられている。
【0047】
本磁気ディスク装置120は、磁気ディスク用記録媒体123に特徴があり、磁気ディスク用記録媒体123として本発明に係る磁気ディスク用記録媒体10、例えば、表1において剥離までの回転数が8500以上かつ磁気記録エラーが無しとされた磁気ディスク用記録媒体10を用いている。
【0048】
かかる磁気ディスク装置120は、磁気記録エラーが無く、かつ優れた耐久性及び耐蝕性を有する。
【0049】
上述した本明細書には以下の付記記載の発明が開示されている。
(付記1)磁気記録がなされる磁性層上に硬質炭素膜からなる保護膜が設けられた磁気ディスク用記録媒体において、
前記保護膜は、前記硬質炭素膜の一部を軟化して形成された軟化領域を有し、
前記軟化領域の長径の長さが0.6μm以下であり、前記硬質炭素膜に対する前記軟化領域の面積比が2.5×10-8以上であることを特徴とする磁気ディスク用記録媒体。
(付記2)前記軟化領域の硬度が15GPa以下であることを特徴とする付記1記載の磁気ディスク用記録媒体。
(付記3)前記軟化領域の硬度が、10GPa以上、15GPa以下であることを特徴とする付記1記載の磁気ディスク用記録媒体。
(付記4)前記軟化領域の長径が0.1μm以上、0.6μm以下であることを特徴とする付記1、2又は3記載の磁気ディスク用記録媒体。
(付記5)前記軟化領域が、前記硬質炭素膜の面内に格子状に配列されたことを特徴とする付記1、2、3又は4記載の磁気ディスク用記録媒体。
(付記6)前記硬質炭素膜は、硬度が28GPa以上であることを特徴とする付記1、2、3、4又は5記載の磁気ディスク用記録媒体。
(付記7)基板上に前記磁性層及び前記硬質炭素膜をこの順で形成する工程と、
前記硬質炭素膜に直径が0.6μm以下の電子ビームを照射して、前記硬質炭素膜が軟化した軟化領域を形成する工程とを有することを特徴とする付記1、2、3、4、5又は6記載の磁気ディスク用記録媒体の製造方法。
(付記8)前記電子ビームの直径が、0.1μm以上であることを特徴とする付記7記載の磁気ディスク用記録媒体の製造方法。
(付記9)付記1〜6の何れかに記載された磁気ディスク用記録媒体を搭載した磁気ディスク装置。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明を磁気ディスクの記録媒体を構成する磁気層の保護膜に適用することで、耐久性に優れかつ信頼性の高い磁気ディスク記録媒体を提供することができるので、磁気記録装置の信頼性の向上に貢献するところが大きい。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の実施形態磁気ディスク用記録媒体の製造工程断面図
【図2】本発明の実施形態磁気ディスク用記録媒体斜視図
【図3】本発明の実施形態記録媒体特性に及ぼす軟化領域の径及び面積比の影響を表す図
【図4】本発明の実施形態磁気ディスク装置要部説明図
【図5】従来の実施形態磁気ディスク用記録媒体の製造工程断面図
【符号の説明】
【0052】
1 基板
2 Ni−P層
3 下地層
4 磁性層
5 保護膜
5a 硬質炭素膜
5b 軟化領域
6 潤滑層
10 磁気ディスク用記録媒体
20 電子ビーム
L 軟化領域間間隔
d 軟化領域径
120 磁気ディスク装置
121 ハウジング
122 ハブ
123 磁気ディスク用記録媒体
124 アクチュエータユニット
125 アーム
126 サスペンション
128 磁気ヘッド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁気記録がなされる磁性層上に硬質炭素膜からなる保護膜が設けられた磁気ディスク用記録媒体において、
前記保護膜は、前記硬質炭素膜の一部を軟化して形成された軟化領域を有し、
前記軟化領域の長径が0.6μm以下であり、前記硬質炭素膜に対する前記軟化領域の面積比が2.5×10-8以上であることを特徴とする磁気ディスク用記録媒体。
【請求項2】
前記軟化領域の硬度が15GPa以下であることを特徴とする請求項1記載の磁気ディスク用記録媒体。
【請求項3】
前記軟化領域が、前記硬質炭素膜の面内に格子状に配列されたことを特徴とする請求項1又は2記載の磁気ディスク用記録媒体。
【請求項4】
前記硬質炭素膜は、硬度が28GPa以上であることを特徴とする請求項1、2又は3記載の磁気ディスク用記録媒体。
【請求項5】
基板上に前記磁性層及び前記硬質炭素膜をこの順で形成する工程と、
前記硬質炭素膜に長径が0.6μm以下の電子ビームを照射して、前記硬質炭素膜が軟化した軟化領域を形成する工程とを有することを特徴とする請求項1、2、3又は4記載の磁気ディスク用記録媒体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−58956(P2007−58956A)
【公開日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−241093(P2005−241093)
【出願日】平成17年8月23日(2005.8.23)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】