磁気ディスク装置のロード・アンロード制御方法及び装置
【課題】通常のシーク動作に近い手法で正確にコイル抵抗を推定する。
【解決手段】VCMにより駆動されるアームに取り付けられたヘッドのロード・アンロード制御に必要なコイル抵抗とトルク定数を推定する方法であって、VCMのインダクタンスの過渡応答の影響が排除された制御系においてアンロードの開始前の少なくとも2つのタイミングでボイスコイルモータのヘッド速度とコイル端子間電圧を計測する計測ステップ(#118)と、指令電圧と計測された少なくとも2つのヘッド速度とコイル端子間電圧とに基づいてトルク定数とコイル抵抗を求める推定ステップ(#120)とを具備するコイル抵抗・トルク定数推定方法。
【解決手段】VCMにより駆動されるアームに取り付けられたヘッドのロード・アンロード制御に必要なコイル抵抗とトルク定数を推定する方法であって、VCMのインダクタンスの過渡応答の影響が排除された制御系においてアンロードの開始前の少なくとも2つのタイミングでボイスコイルモータのヘッド速度とコイル端子間電圧を計測する計測ステップ(#118)と、指令電圧と計測された少なくとも2つのヘッド速度とコイル端子間電圧とに基づいてトルク定数とコイル抵抗を求める推定ステップ(#120)とを具備するコイル抵抗・トルク定数推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は磁気ディスク装置に関し、特にヘッドがディスク面上からランプ機構に退避するロード・アンロード制御において、ロード・アンロード時の磁気ヘッドの速度制御に用いる速度情報を正確に得るためボイスコイルモータにおけるトルク定数、及びコイル抵抗を正確に求める技術に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気ディスク装置においてヘッドとディスク面の接触を防ぐために、磁気ディスク装置に衝撃が加わった場合や、電源オフ時やアイドル時にヘッドをディスク面上からランプ機構上へと退避させる(アンロードと称する)ことが行われている。ランプ機構上からディスク面へとヘッドを移動させることをロードと称する。
【0003】
磁気ディスク装置におけるヘッド位置決め制御系においてはサーボセクタに含まれるデータの再生により得られるヘッド位置誤差信号(PES信号)に基づいたヘッドの制御が行われている。しかし、上述のロード・アンロード時でヘッドがディスク面上に位置せずランプ機構上に位置する時は、ヘッド位置誤差信号を得ることが不可能なため、ヘッドを移動するためのボイスコイルモータ(VCM)に発生する逆起電圧からヘッド速度を推定して、この推定値に基づいてヘッドを速度制御することが一般的に行われている。
【0004】
逆起電圧からヘッド速度を推定する際には、検出したコイル端子間電圧からコイル抵抗による電圧降下分を除けばよい。
【0005】
逆起電圧 = コイル端子間電圧 − コイル抵抗 × コイル電流 (1)
(1)式ではコイル抵抗は既知とする。しかしながら、磁気ディスク装置を長時間使用した場合などには、コイル電流の影響により温度変化が生じコイル抵抗値が変動する。また、コイル抵抗の個体間のバラツキにより抵抗値に差が出る可能性も高い。
【0006】
したがって、ロード・アンロードを行う直前に正確なコイル抵抗を得ることが必要となる。ロード時にはコイル抵抗を推定する方法としては、特許文献1に記載のように、シーク開始前にランプ機構の行き止まり方向にヘッドジンバルアセンブリ(HGA)を押し付けるように通電し、逆起電圧=0としてコイル抵抗を求める手段がある。また、特許文献2に記載のように、アンロード時には、ディスク内周側のストッパーにHGAを押し付ける方法もあるが、ヘッドとディスク面との接触の可能性が高いため、好ましくない。したがって、アンロード直前に通常のシーク動作に近い手法でコイル抵抗を推定することが求められている。
【0007】
さらに、特許文献3記載の装置では、逆起電圧Vbemfは速度推定値と比例関係にあり(逆起電圧Vbemf=K(比例ゲイン)×速度推定値)、比例ゲインKは既知であるので、速度推定値が得られば逆起電圧Vbemfも得られるとしている。しかし、比例ゲインKに個体差や変動が生じた場合には、正確な推定が行えない可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第4180582号公報
【特許文献2】特開平11−25626号公報
【特許文献3】特開2001−344918号公報([0013])
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従来では、通常のシーク動作に近い手法でコイル抵抗を推定することが不可能であった。
【0010】
本発明はこれらの問題点を解決し、通常のシーク動作に近い手法で正確にコイル抵抗を推定することができ、コイル端子間電圧をコイル抵抗値とコイル電流の積により補正することで、正確な逆起電圧を求めヘッド速度情報を得ることができる磁気ディスク装置のロード・アンロード制御方法及び装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するために、本発明の実施形態によれば、ボイスコイルモータにより駆動されるアームに取り付けられたヘッドのロード・アンロード制御に必要なコイル抵抗とトルク定数を推定する方法であって、ボイスコイルモータのコイル電流の変化によるインダクタンスの過渡応答の影響が排除された制御系においてアンロードの開始前の少なくとも2つのタイミングでボイスコイルモータのヘッド速度とコイル端子間電圧を計測する計測ステップと、指令電圧と指令電圧と計測された少なくとも2つのヘッド速度とコイル端子間電圧とに基づいてトルク定数とコイル抵抗を求める推定ステップとを具備するコイル抵抗・トルク定数推定方法が提供される。
【0012】
本発明の他の実施形態によれば、ボイスコイルモータにより駆動されるアームに取り付けられたヘッドのロード・アンロード制御に必要なコイル抵抗とトルク定数を推定する装置であって、ボイスコイルモータのコイル電流の変化によるインダクタンスの過渡応答の影響が排除された制御系においてアンロードの開始前の少なくとも2つのタイミングでボイスコイルモータのヘッド速度とコイル端子間電圧を計測する計測手段と、指令電圧と前記計測手段により計測された少なくとも2つのヘッド速度とコイル端子間電圧とに基づいてトルク定数とコイル抵抗を求める推定手段とを具備するコイル抵抗・トルク定数推定装置が提供される。
【0013】
本発明の他の実施形態によれば、ヘッドが取り付けられたアームを駆動するボイスコイルモータと、ヘッドによりディスクから再生したヘッド位置誤差信号に基づいてヘッドを速度制御する第1シーク手段と、ボイスコイルモータに発生する逆起電圧からヘッド速度を推定して、該ヘッド速度に基づいてヘッドを速度制御する第2シーク手段とを具備し、前記第2シーク手段は、ボイスコイルモータのインダクタンスの過渡応答の影響が排除された制御系においてアンロードの開始前の少なくとも2つのタイミングでボイスコイルモータのヘッド速度とコイル端子間電圧を計測する計測手段と、指令電圧と前記計測手段により計測された少なくとも2つのヘッド速度とコイル端子間電圧とに基づいてトルク定数とコイル抵抗を求める第1推定手段と、前記推定手段により推定されたトルク定数とコイル抵抗とに基づいて逆起電圧を推定する第2推定手段とを具備する磁気ディスク装置が提供される。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、通常のシーク動作に近い手法で個体差やパラメータの変動によらずコイル抵抗を正確に推定でき、算出された正確な逆起電圧を用いてロード・アンロード制御を行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施の形態に係るハードディスク装置の概略図である。
【図2】図1のハードディスク装置に使われるVCMの回路図である。
【図3】ロード・アンロード制御のための速度制御系のモデルを示す図。
【図4】ヘッドの加速時に指令電圧を飽和させる手法におけるアンロードキャリブレーションシーク時の指令電圧の波形を示す図。
【図5】図4に示すように指令電圧を与えシークを行った際のコイル端子間電圧、ヘッド速度の変化を示す図。
【図6】加速時のみ指令電圧を飽和させる手法によるコイル抵抗の推定結果と実際のコイル抵抗の初期値との差を示す図。
【図7】トルク定数がトルク定数の固定値から変動した場合のトルク定数の変化を示す図。
【図8】トルク定数がトルク定数の固定値から変動した場合のコイル抵抗の変化を示す図。
【図9】通常のシーク制御系の動作中にコイル抵抗・トルク定数を推定する処理を示すフローチャート。
【図10】アンロードキャリブレーションシーク時にコイル抵抗・トルク定数を推定する処理を示すフローチャート。
【図11】比較的に短いサンプリング周期とコイル端子間電圧との関係を示す図。
【図12】比較的に長いサンプリング周期とコイル端子間電圧との関係を示す図。
【図13】任意の2点からコイル抵抗・トルク定数を推定する際の指令電圧の波形を示す図。
【図14】任意の2点からコイル抵抗・トルク定数を推定する処理を示すフローチャート。
【図15】図14の処理のシミュレーション結果を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0017】
図1は本実施形態に関わるロード・アンロード制御系システムを含む磁気ディスク装置の概略構成を示す図である。図1(a)に示すように、ロード・アンロード制御系システムは磁気ディスク装置に設けられているマイクロプロセッサユニット(MPU:Micro Processor unit)18を主構成要素としている。図示しないが、MPU18はロード・アンロード制御プログラム(ファームウェア)を格納したメモリ(ROM、フラッシュメモリ等)を含む。ヘッド11はアーム12に支持されている。アーム12の基端にはボイスコイルモータ(VCM)13が設けられ、VCM13への通電によりアーム12を回転駆動し、ヘッドを所望のトラックへ位置制御する。VCM13は,磁石15,コイル16からなる。MPU18はA/D変換器19とD/A変換器20とを含み、コイル16にVCM制御信号をD/A変換器20を介して供給し、コイル16で検出された情報がA/D変換器20を介してMPU18に供給される。
【0018】
磁気ディスク装置に衝撃が加わった場合や、電源オフ時やアイドル時にはアーム12を回転駆動して、ヘッド11をランプ機構21上へと退避させる。この動作をアンロードと称する。図1(b)に示すように、ヘッド11の先端にはタブ22が設けられ、アンロード時にはタブ22がスロープ23に乗り上げる。また、ヘッド11をランプ機構21からディスク14面へと移動させる動作をロードと称する。
【0019】
磁気ディスク装置がディスク14面上においてデータを読み書きするために、ディスク14のトラックに対して位置決め制御を行う際には、磁気ディスク面上にあらかじめ記録されたディスク中心からの位置誤差信号であるPES信号を用いてヘッドの位置情報を算出し、ヘッドの現在位置から現在速度を算出し、速度制御を行う。しかし、ランプ機構21上においてはPES信号が得られない。そこで、アーム12を駆動するコイル16に発生するコイルの逆起電圧がヘッド速度に比例した値となることから、逆起電圧信号から速度を推定し速度制御系を構築し、ヘッドのロード、アンロード時の速度制御を行う。
【0020】
図2にVCM13の回路図を示す。磁気ディスク装置において計測可能なコイル端子間電圧Vmeasは、コイル端子間電圧Vcからセンス抵抗Rsによる電圧降下分を除いた値であるため以下のように表せる。
【0021】
Vmeas=Vc−Rs・Ivcm
=L(dIvcm/dt)+Rvcm・Ivcm+Vbemf (2)
ここで、Lはインダクタンス、Ivcmはコイル電流、Rvcmはコイル抵抗、Vbemfは逆起電圧である。これ以降ではVmeasをコイル端子間電圧とする。式(2)よりコイルに発生する逆起電圧は以下の形に書き換えられる。
【0022】
Vbemf=Vmeas−L(dIvcm/dt)−Rvcm・Ivcm (3)
逆起電圧Vbemfはヘッド速度Velに比例するため(比例ゲインをトルク定数Ktとする)、Vbemf=Kt・Velと表せる。これを式(3)へ適用すると、ヘッド速度Velは以下のように表せる。
【0023】
Vel=(Vmeas−L(dIvcm/dt)−Rvcm・Ivcm)/Kt (4)
コイル電流Ivcmは指令電圧Vvcmに基づいて生成され、電流フィードバックが十分に効いていると仮定すると、コイル電流Ivcmと指令電圧Vvcmは比例し、比例係数αを用いてIvcm=α・Vvcmと表せる。また、アンロード制御系は離散時間系で構築されているため、指令電圧が変化した時、インダクタンスによる電圧変化の過渡応答の影響が十分に減衰した後、計測を行った場合、インダクタンスの項の影響を排除可能である。
【0024】
図3はMPU18のファームウェアにより実現され、以上2点を満足したロード・アンロード制御のための速度制御系のモデルを示す図である。逆起電圧から推定される速度(逆起速度と称する)と目標速度(目標逆起速度)が減算器30に入力され、両者の差が制御器32に入力される。制御器では,入力された目標逆起速度と目標速度の差から指令電圧Vvcmを決定する.電流フィードバックにより指令電圧Vvcmに比例したコイル電流Ivcmが制御対象に供給される。上述したように、インダクタンスの項を無視できるので、減算器38は測定したコイル端子間電圧Vmeasからコイル抵抗Rvcmによる電圧降下を減算して逆起電圧Vbemfを求めることができる。
【0025】
このような制御系の下では、式(4)は以下の式のように簡略化することが可能である。
【0026】
Vel=(Vmeas−Rvcm・α・Vvcm)/Kt (5)
式(5)において、コイル端子間電圧Vmeas、指令電圧Vvcmは計測可能な値である。コイル抵抗Rvcm、及びトルク定数Ktは動作時の発熱による温度変化や個体差の影響で値が変動するため、コイル抵抗Rvcm、トルク定数Ktとして固定値を用いると、推定される速度Velに誤差を生じる原因となる。そこで、アンロード制御を行う前に通常シーク動作と同様な動作(アンロードキャリブレーションシーク動作)でコイル抵抗Rvcm、トルク定数Ktの正確な値を推定する必要がある。
【0027】
本実施の形態において、式(4)においてインダクタンスの項による過渡応答の影響を排除してコイル抵抗Rvcm、トルク定数Ktを推定する手法は以下の2つを含む。
【0028】
(1)速度を検出可能なディスク面上での通常の位置決め制御系において加速時の指令電圧の飽和を利用して推定する手法。
【0029】
(2)コイル電流の変化によるインダクタンスの過渡応答の影響が十分減衰した後に計測を行う制御系において推定する手法。
【0030】
まず前者の手法(1)について詳細を述べる。
【0031】
通常のシーク制御系では、サンプリング周期が早いため、指令電圧の変化によりインダクタンスによる電圧の変化が減衰せず、式(5)に示したようにインダクタンスの項を排除することができない。式(4)にIvcm=α・Vvcmの関係を適用すると、以下のように表すことが可能である。
【0032】
Vel=(Vmeas−L・α・(dVvcm/dt)−Rvcm・α・Vvcm)/Kt (6)
すなわち、式(6)ではインダクタンスの項が残り、ヘッド速度Velを求めるためには指令電圧Vvcmの時間変化が必要であるが、現実的にはこの時間変化を正確に求めることは不可能である。しかし、一定の指令電圧を与えた場合には指令電圧の時間変化は0になるため、式(5)が成り立つことがわかる。したがって、一定の指令電圧を与えている場合には、計測可能なヘッド速度Vel、コイル端子間電圧Vmeas、指令電圧Vvcmは既知として扱うことができるので、コイル抵抗Rvcm、トルク定数Ktのみが未知数となる。
【0033】
上記条件を満たす推定手法として、ヘッドの加速時に指令電圧を飽和させる方法が考えられる。図4にアンロードキャリブレーションシーク時の指令電圧Vvcmの波形を示す。本手法の特徴は、図4から明らかなように、加速時にのみ指令電圧を飽和させることである。図5に図4に示すように指令電圧Vvcmを与えシークを行った際のコイル端子間電圧Vmeas、ヘッド速度Velの変化を示す。図4、図5に記載した指令電圧の飽和時(飽和時の指令電圧をV0とする)、たとえばt1、t2という2点において計測されたデータをそれぞれヘッド速度Vel1、Vel2、コイル端子間電圧Vmeas1、Vmeas2とすると、式(7)、式(8)が得られる。
【0034】
Kt・Vel1=Vmeas1−Rvcm・α・V0 (7)
Kt・Vel2=Vmeas2−Rvcm・α・V0 (8)
式(7)、式(8)をトルク定数Ktについて解くと、式(9)が得られる。
【0035】
Kt=(Vmeas1−Vmeas2)/(Vel1−Vel2) (9)
式(7)、式(8)よりコイル抵抗値は式(10)が得られ、推定が可能であることが分かる。
【0036】
Rvcm
=(Vel1・Vmeas2−Vel2・Vmeas1)
/(α・V0・(Vel1−Vel2)) (10)
本発明で提案する加速時のみ指令電圧を飽和させる手法によるコイル抵抗の推定結果と実際のコイル抵抗の初期値との差を磁気ディスク装置に推定器を実装して測定した。測定結果を図6に示す。コイル抵抗を基準値よりも0.1Ω程度大きくなるように設定をし、コイル抵抗を50回連続して推定した。図6に示すように、基準値と推定したコイル抵抗値の差がほぼ同一に0.1Ω程度であり、コイル抵抗が正しく推定されていることが分かる。
【0037】
上記の例ではt=t1、t=t2の2点をサンプリングすることにより、コイル抵抗を推定する例を挙げたが、指令電圧の飽和期間内であれば任意の2点での取得データについて式(10)が成り立つため、N(Nは3以上の任意の正整数)点についてデータを取得し、1組からNC2組の内の任意の回数だけ式(10)の計算を行い、それらの平均値、または中央値を最終的なコイル抵抗と推定してもよい。また、計測点が時間的に近いものよりも可能な限り離れた計測点間の方がノイズの影響を受けにくいと考えられるので、最初の1点目と最後のN点目のデータから算出したデータをコイル抵抗の推定値としてもよい。上記手法にのみとどまらず、推定されたコイル抵抗についてあらゆる統計的処理を施し、最終的な推定値としてよい。
【0038】
式(10)を式(5)に適用することにより、次式が得られ、逆起電圧を推定することができることが分かる。
【0039】
Vbemf
=Vmeas−
((Vel1・Vmeas2−Vel2・Vmeas1)/(α・V0・(Vel1−Vel2)))・Vvcm
(11)
この手法では、逆起電圧を推定するにあたり、定数を使用せずにすべて計測したデータから推定するので、正確に推定できる。また、推定の条件はインダクタンスによる指令電圧の時間変化の影響を排除するため指令電圧が一定であることであるので、アンロードキャリブレーションシーク時に限らず、通常シーク時でも指令電圧が飽和した場合には、この推定手法が適用可能である。また、指令電圧を飽和させるのは、加速時のみであり、減速時には飽和させない。もし、加速時のみならず減速時にも指令電圧を飽和させようとすると、特に低温状況下において減速時の飽和をさせることが困難である問題がある。さらに、減速時に指令電圧を飽和させた後、波形が乱れ、アーム12が振動し、騒音を生じる可能性が高い問題もある。
【0040】
例えば特許文献1に記載の装置では、トルク定数を既知(一定値)として扱っているためトルク定数が熱や個体差によって変化した場合は推定した抵抗値に対しても変動が生じてしまう。トルク定数が変化した場合についてシミュレーションを行い、推定されるトルク定数Kt、コイル抵抗Rvcmが変化しないことを図7、図8に示す。図7の横軸はトルク定数/トルク定数固定値、縦軸はトルク定数推定値/トルク定数固定値であり、図8の横軸はトルク定数/トルク定数固定値、縦軸はコイル抵抗推定値/コイル抵抗である。これらの図から本手法は個体差などのパラメータ変動の影響を受けずに、コイル抵抗を推定可能であることが分かる。
【0041】
本手法における、コイル抵抗・トルク定数推定のフローを図9、図10に示す。推定を行うタイミングは、例えば2通り考えられる。1つは通常のシーク制御系の動作中にアンロード動作指令が発行され、アンロード動作の直前にコイル抵抗・トルク定数を推定するための専用のシーク(アンロードキャリブレーションシーク)を行う時である。他は、通常のシーク制御系の動作中に指令電圧が飽和した時である。前者の方が正確な値が取得可能であるが、一回の限られたアンロードキャリブレーションシークでは位置信号の読み取りに失敗する可能性もある。その場合に備え、通常のシーク制御系の動作中にコイル電流(指令電圧に比例)が飽和した場合には、同様な計測を行い、その度にデータの更新を行うことで、直前のアンロードキャリブレーションシークで失敗した場合でもそれに近い値を用いることを可能とする。
【0042】
図9は通常のシーク制御系の動作中にコイル抵抗・トルク定数を推定する場合の処理を示す。シーク開始されると、ステップ#102で指令電圧が飽和しているか(一定期間以上変化がないか)否か判定する。飽和している場合は、コイル抵抗Rvcmの推定に進む。先ず、ステップ#104で少なくとも任意の2点において、指令電圧Vvcm、ヘッド速度Vel、コイル端子間電圧Vmeasを計測する。なお、ヘッド速度Vel、コイル端子間電圧Vmeasは計測されるが、指令電圧VvcmはMPU18においてファームウェア上の演算により得られる。ヘッド速度Velはサーボセクタからの再生信号で表されるトラック番号の変化に基づいて計測され、コイル端子間電圧VmeasはVCM13に接続された電圧センサにより計測される。
【0043】
ステップ#106で式(9)、式(10)からトルク定数Kt、コイル抵抗Rvcmを推定する。ステップ#108で推定値を更新し、ステップ#102に戻る。
【0044】
指定電圧が飽和していない場合、ステップ#110で、ヘッドが目標位置に達しているか否か判定する。達している場合は、シークは終了する。達していない場合は、ステップ#102に戻る。
【0045】
このように通常のシーク制御系の動作中でも指令電圧が飽和していれば、インダクタンスによる指令電圧の時間変化の影響を排除できるため、式(9)、式(10)に基づいて指令電圧Vvcm、ヘッド速度Vel、コイル端子間電圧Vmeasからトルク定数Kt、コイル抵抗Rvcmを推定することが出来る。
【0046】
図10はアンロードキャリブレーションシーク時にコイル抵抗・トルク定数を推定する場合の処理を示す。通常のシーク制御系の動作中にアンロード動作指令が発行されると、ステップ#114でアンロードキャリブレーションシークが開始される。ステップ#116で指令電圧が飽和しているか否か判定する。飽和している場合は、コイル抵抗Rvcmの推定に進む。先ず、ステップ#118で少なくとも任意の2点において、指令電圧Vvcm、ヘッド速度Vel、コイル端子間電圧Vmeasを計測する。ステップ#120で式(9)、式(10)からトルク定数Kt、コイル抵抗Rvcmを推定する。その後、ステップ#116に戻る。
【0047】
指定電圧が飽和していない場合、ステップ#122で、ヘッドが目標位置に達しているか否か判定する。達していない場合は、ステップ#116に戻る。達している場合は、ステップ#124でアンロードキャリブレーションシークは終了する。
【0048】
ステップ#126でアンロードキャリブレーションシーク中にエラーを生じたか否か判定する。エラーが発生した場合は、ステップ#128で図9に示した通常のシーク制御系の動作中に推定したコイル抵抗・トルク定数を採用し、ステップ#132でアンロード制御開始する。エラーが発生していない場合は、ステップ#120で推定したコイル抵抗値・トルク定数をステップ#130で更新し、ステップ#132でアンロード制御開始する。アンロード制御は推定されたコイル抵抗・トルク定数に基づいて逆起電圧を求め、これからヘッド速度を推定し、この推定値に基づいてヘッドを速度制御する。
【0049】
図10のアンロードキャリブレーションシークにおいて、飽和させる指令電圧の値は自由に設定可能である。通常のシーク時には、位置決め時間とシーク距離の制約が存在するため最大加速度でシークを行う必要性があるので、飽和電圧はある程度の高い電圧に設定する必要がある。しかし、アンロードキャリブレーションシーク時にはシーク距離と時間の制約が緩いので、通常のシーク時より飽和しやすい低い指令電圧で一定値とすることが有効である。
【0050】
次に後者の手法(2)について説明する。図9、図10は通常のシーク制御系において加速時の指令電圧の飽和を利用して推定する手法であるが、コイル電流の変化によるインダクタンスによる電圧過渡応答が十分減衰した後に計測を行えば、指令電圧の飽和を利用することなくキャリブレーション可能である。この場合、サンプリング周期はインダクタンスによって設定しなければならないが、どのような指令電圧の波形を与えてもよい。
【0051】
図11、図12はサンプリング周期とコイル端子間電圧との関係を示す図である。指令電圧は一気に変化するのではなく、階段状にステップ変化している。図2に示すようにVCM13はインダクタンスを含むので、コイル電流の変化の過渡応答によってコイル端子間電圧にはインダクタンスの影響が残る。図11、図12にサンプリング周期とコイル端子間電圧の関係を示す。データを計測した後、コイル電流は演算時間遅れTdを経て変化する。その影響でインダクタンスの過渡応答が生じる。図11のようにサンプリング周期が過渡応答の減衰が不十分なタイミングで次の計測を行った場合、コイル端子間電圧はインダクタンスの過渡応答の影響を含む。
【0052】
しかし、図12に示すように、サンプリング周期を長くし、コイル電流の変化によるインダクタンスの過渡応答が十分収束してからコイル端子間電圧を計測すると、コイル端子間電圧から逆起電圧とコイル抵抗による電圧降下を正確に得ることができる。
【0053】
サンプリング周期をTsとすると、たとえば計測する2点の時刻は、図13に示すように、それぞれmTs、nTsと表せる。それぞれの時刻におけるデータをヘッド速度Velm、Veln、コイル端子間電圧Vmeasm、Vmeasn、それぞれの計測データの1サンプリング前の指令電圧をVm−1、Vn−1とすると、式(12)、式(13)が得られる。
【0054】
Kt・Velm=Vmeasm−Rvcm・α・Vm−1 (12)
Kt・Veln=Vmeasn−Rvcm・α・Vn−1 (13)
式(12)、式(13)式をトルク定数Ktについて解くと、次のようになる。
【0055】
Kt
=(Vm−1・Vmeasn−Vn−1・Vmeasm)
/(Veln・Vm−1−Velm・Vn−1) (14)
式(12)、式(14)よりコイル抵抗値は次のようになる。
【0056】
Rvcm
=(Velm・Vmeasn−Veln・Vmeasm)
/(α・(Velm・Vn−1−Veln・Vm−1)) (15)
式(14)、式(15)においてVm−1=Vn−1=V0の場合には、それぞれ式(9)、式(10)と一致することがわかる。インダクタンスの過渡応答が十分減衰するようサンプリング周期Tsを設定すれば、指令電圧の値(飽和しているか否か)に係わらず、少なくとも任意の2点からコイル抵抗・トルク定数を推定することができる。
【0057】
サンプリング周期の具体的な数値の一例を説明する。VCM13の電流フィードバック制御系は、指令電圧Vvcmからコイル電流Ivcmまでの伝達関数をカットオフ周波数f、ゲインgとすると、以下のローパスフィルタに近似することが可能である。
【0058】
D(s)=g/((s/f)+1) (16)
指令電圧Vvcmが大きさkのステップ入力であるとしたとき、コイル電流Ivcmの応答波形は次式で表せる。
【0059】
Ivcm=k・g(1−e−f・t) (17)
したがってインダクタンスにおける過渡応答は次のようになる.
L(dIvcm/dt)=L・k・g・f・e−f・t (18)
しかし、コイル端子間電圧Vmeasはローパスフィルタを介して検出されるため過渡応答の減衰は式(18)の減衰よりも遅くなる。ステップ入力の大きさkにも依存するが、実装上の範囲において上記インダクタンスの過渡応答が0に近似可能になるまでの時間は300μsec程度あれば十分であり、観測から制御出力までの時間遅れTdを50μsecとすると、およそ350μsec程度の制御周期とすれば、インダクタンスの影響を考慮せずに制御を行うことが可能である。
【0060】
図14は少なくとも任意の2点からコイル抵抗・トルク定数を推定する場合の処理を示す。通常のシーク制御系の動作中にアンロード動作指令が発行されると、ステップ#152でインダクタンスの過渡応答が十分減衰するようサンプリング周期Tsを設定した制御系に切り替えられる。この切替えは、MPU18内のファームウェアにより行われる。ステップ#154でアンロードキャリブレーショファームウェアされる。ステップ#156で少なくとも任意の2点において、指令電圧Vvcm、ヘッド速度Vel、コイル端子間電圧Vmeasを求める。指令電圧VvcmはMPU18から出力される値から求められ、ヘッド速度Vel、コイル端子間電圧Vmeasはそれぞれ図示しない速度センサ、電圧センサにより計測される。ステップ#158で式(14)、式(15)からトルク定数Kt、コイル抵抗Rvcmを推定する。
【0061】
ステップ#160で、ヘッドが目標位置に達しているか否か判定する。達していない場合は、ステップ#156に戻る。達している場合は、ステップ#162でアンロードキャリブレーションシークは終了する。
【0062】
ステップ#154でアンロードキャリブレーションシーク中にエラーを生じたか否か判定する。エラーが発生した場合は、ステップ#166で図9に示した通常のシーク制御系の動作中に推定したコイル抵抗・トルク定数を採用し、ステップ#170でアンロード制御開始する。エラーが発生していない場合は、ステップ#158で推定したコイル抵抗値・トルク定数をステップ#168で更新し、ステップ#170でアンロード制御開始する。アンロード制御は推定されたコイル抵抗・トルク定数に基づいて逆起電圧を求め、これからヘッド速度を推定し、この推定値に基づいてヘッドを速度制御する。
【0063】
シミュレーションにより、この手法の有効性を確認した。コイル抵抗値を基準値から±0.5Ω(0.1Ω刻み)変化させた場合に、それぞれの条件下での推定値と基準値との差分を算出した。図15に指令電圧をランプ関数とした場合の結果を示す。横軸にコイル抵抗と基準値の差分、縦軸に推定値と基準値の差分を示す。この結果よりコイル抵抗を正しく推定可能なことがわかる。
【0064】
今回は入力する指令電圧をランプ関数とした場合の結果を示したが、sin入力など様々な指令電圧においても、この手法を用いてコイル抵抗の推定が可能であることを確認した。ただし、計測された2点において式(19)を満たすことを条件とする。
【0065】
Vm−1・Veln−Vn−1・Velm≠0 (19)
この手法を用いれば、指令電圧を飽和させる必要がないため、アンロードキャリブレーションシーク時間の短縮、つまりアンロード時間の短縮が可能となる。この手法を用いても、すべて計測可能な値のみを用いてキャリブレーションを行っているため、パラメータの変動や個体差の影響を受けない。
【0066】
この手法においても2点のみでなく数多くの点において計測をし、前期手法のように様々な推定手法を用いてより正確な推定値を得られるようにしてもよい。
【0067】
上記はアンロード時の速度制御についての説明であるが、ロード時は上記アンロードのために推定した値を利用すればよい。
【0068】
以上説明したように、第1の実施の形態によれば、インダクタンスの項を無視できる制御系が実現されるので、測定したコイル端子間電圧Vmeasからコイル抵抗Rvcmによる電圧降下を減算すると逆起電圧Vbemfを求めることができる。このような制御系の下では、ヘッド速度Velはコイル端子間電圧Vmeas、指令電圧Vvcm、コイル抵抗Rvcm、及びトルク定数Ktから求めることができる。コイル抵抗Rvcm、トルク定数Ktの正確な値を推定することができるので、ヘッド速度も正確に推定することができる。
【0069】
なお、この発明は、上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合せにより種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。更に、異なる実施形態に亘る構成要素を適宜組み合せてもよい。
【0070】
また、本発明は、コンピュータに所定の手段を実行させるため、コンピュータを所定の手段として機能させるため、コンピュータに所定の機能を実現させるため、あるいはプログラムを記録したコンピュータ読取り可能な記録媒体としても実施することもできる。
【0071】
また、上述の説明は個々の実施例それぞれについて行ったが、複数の実施例を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0072】
11…ヘッド、12…アーム、13…ボイスコイルモータ(VCM)、14…ディスク、15…磁石、16…コイル、17…VCM駆動回路、18…マイクロプロセッサユニット、19…A/D変換器、20…D/A変換器、21…ランプ機構、22…タブ、23…スロープ。
【技術分野】
【0001】
本発明は磁気ディスク装置に関し、特にヘッドがディスク面上からランプ機構に退避するロード・アンロード制御において、ロード・アンロード時の磁気ヘッドの速度制御に用いる速度情報を正確に得るためボイスコイルモータにおけるトルク定数、及びコイル抵抗を正確に求める技術に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気ディスク装置においてヘッドとディスク面の接触を防ぐために、磁気ディスク装置に衝撃が加わった場合や、電源オフ時やアイドル時にヘッドをディスク面上からランプ機構上へと退避させる(アンロードと称する)ことが行われている。ランプ機構上からディスク面へとヘッドを移動させることをロードと称する。
【0003】
磁気ディスク装置におけるヘッド位置決め制御系においてはサーボセクタに含まれるデータの再生により得られるヘッド位置誤差信号(PES信号)に基づいたヘッドの制御が行われている。しかし、上述のロード・アンロード時でヘッドがディスク面上に位置せずランプ機構上に位置する時は、ヘッド位置誤差信号を得ることが不可能なため、ヘッドを移動するためのボイスコイルモータ(VCM)に発生する逆起電圧からヘッド速度を推定して、この推定値に基づいてヘッドを速度制御することが一般的に行われている。
【0004】
逆起電圧からヘッド速度を推定する際には、検出したコイル端子間電圧からコイル抵抗による電圧降下分を除けばよい。
【0005】
逆起電圧 = コイル端子間電圧 − コイル抵抗 × コイル電流 (1)
(1)式ではコイル抵抗は既知とする。しかしながら、磁気ディスク装置を長時間使用した場合などには、コイル電流の影響により温度変化が生じコイル抵抗値が変動する。また、コイル抵抗の個体間のバラツキにより抵抗値に差が出る可能性も高い。
【0006】
したがって、ロード・アンロードを行う直前に正確なコイル抵抗を得ることが必要となる。ロード時にはコイル抵抗を推定する方法としては、特許文献1に記載のように、シーク開始前にランプ機構の行き止まり方向にヘッドジンバルアセンブリ(HGA)を押し付けるように通電し、逆起電圧=0としてコイル抵抗を求める手段がある。また、特許文献2に記載のように、アンロード時には、ディスク内周側のストッパーにHGAを押し付ける方法もあるが、ヘッドとディスク面との接触の可能性が高いため、好ましくない。したがって、アンロード直前に通常のシーク動作に近い手法でコイル抵抗を推定することが求められている。
【0007】
さらに、特許文献3記載の装置では、逆起電圧Vbemfは速度推定値と比例関係にあり(逆起電圧Vbemf=K(比例ゲイン)×速度推定値)、比例ゲインKは既知であるので、速度推定値が得られば逆起電圧Vbemfも得られるとしている。しかし、比例ゲインKに個体差や変動が生じた場合には、正確な推定が行えない可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第4180582号公報
【特許文献2】特開平11−25626号公報
【特許文献3】特開2001−344918号公報([0013])
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従来では、通常のシーク動作に近い手法でコイル抵抗を推定することが不可能であった。
【0010】
本発明はこれらの問題点を解決し、通常のシーク動作に近い手法で正確にコイル抵抗を推定することができ、コイル端子間電圧をコイル抵抗値とコイル電流の積により補正することで、正確な逆起電圧を求めヘッド速度情報を得ることができる磁気ディスク装置のロード・アンロード制御方法及び装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するために、本発明の実施形態によれば、ボイスコイルモータにより駆動されるアームに取り付けられたヘッドのロード・アンロード制御に必要なコイル抵抗とトルク定数を推定する方法であって、ボイスコイルモータのコイル電流の変化によるインダクタンスの過渡応答の影響が排除された制御系においてアンロードの開始前の少なくとも2つのタイミングでボイスコイルモータのヘッド速度とコイル端子間電圧を計測する計測ステップと、指令電圧と指令電圧と計測された少なくとも2つのヘッド速度とコイル端子間電圧とに基づいてトルク定数とコイル抵抗を求める推定ステップとを具備するコイル抵抗・トルク定数推定方法が提供される。
【0012】
本発明の他の実施形態によれば、ボイスコイルモータにより駆動されるアームに取り付けられたヘッドのロード・アンロード制御に必要なコイル抵抗とトルク定数を推定する装置であって、ボイスコイルモータのコイル電流の変化によるインダクタンスの過渡応答の影響が排除された制御系においてアンロードの開始前の少なくとも2つのタイミングでボイスコイルモータのヘッド速度とコイル端子間電圧を計測する計測手段と、指令電圧と前記計測手段により計測された少なくとも2つのヘッド速度とコイル端子間電圧とに基づいてトルク定数とコイル抵抗を求める推定手段とを具備するコイル抵抗・トルク定数推定装置が提供される。
【0013】
本発明の他の実施形態によれば、ヘッドが取り付けられたアームを駆動するボイスコイルモータと、ヘッドによりディスクから再生したヘッド位置誤差信号に基づいてヘッドを速度制御する第1シーク手段と、ボイスコイルモータに発生する逆起電圧からヘッド速度を推定して、該ヘッド速度に基づいてヘッドを速度制御する第2シーク手段とを具備し、前記第2シーク手段は、ボイスコイルモータのインダクタンスの過渡応答の影響が排除された制御系においてアンロードの開始前の少なくとも2つのタイミングでボイスコイルモータのヘッド速度とコイル端子間電圧を計測する計測手段と、指令電圧と前記計測手段により計測された少なくとも2つのヘッド速度とコイル端子間電圧とに基づいてトルク定数とコイル抵抗を求める第1推定手段と、前記推定手段により推定されたトルク定数とコイル抵抗とに基づいて逆起電圧を推定する第2推定手段とを具備する磁気ディスク装置が提供される。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、通常のシーク動作に近い手法で個体差やパラメータの変動によらずコイル抵抗を正確に推定でき、算出された正確な逆起電圧を用いてロード・アンロード制御を行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施の形態に係るハードディスク装置の概略図である。
【図2】図1のハードディスク装置に使われるVCMの回路図である。
【図3】ロード・アンロード制御のための速度制御系のモデルを示す図。
【図4】ヘッドの加速時に指令電圧を飽和させる手法におけるアンロードキャリブレーションシーク時の指令電圧の波形を示す図。
【図5】図4に示すように指令電圧を与えシークを行った際のコイル端子間電圧、ヘッド速度の変化を示す図。
【図6】加速時のみ指令電圧を飽和させる手法によるコイル抵抗の推定結果と実際のコイル抵抗の初期値との差を示す図。
【図7】トルク定数がトルク定数の固定値から変動した場合のトルク定数の変化を示す図。
【図8】トルク定数がトルク定数の固定値から変動した場合のコイル抵抗の変化を示す図。
【図9】通常のシーク制御系の動作中にコイル抵抗・トルク定数を推定する処理を示すフローチャート。
【図10】アンロードキャリブレーションシーク時にコイル抵抗・トルク定数を推定する処理を示すフローチャート。
【図11】比較的に短いサンプリング周期とコイル端子間電圧との関係を示す図。
【図12】比較的に長いサンプリング周期とコイル端子間電圧との関係を示す図。
【図13】任意の2点からコイル抵抗・トルク定数を推定する際の指令電圧の波形を示す図。
【図14】任意の2点からコイル抵抗・トルク定数を推定する処理を示すフローチャート。
【図15】図14の処理のシミュレーション結果を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0017】
図1は本実施形態に関わるロード・アンロード制御系システムを含む磁気ディスク装置の概略構成を示す図である。図1(a)に示すように、ロード・アンロード制御系システムは磁気ディスク装置に設けられているマイクロプロセッサユニット(MPU:Micro Processor unit)18を主構成要素としている。図示しないが、MPU18はロード・アンロード制御プログラム(ファームウェア)を格納したメモリ(ROM、フラッシュメモリ等)を含む。ヘッド11はアーム12に支持されている。アーム12の基端にはボイスコイルモータ(VCM)13が設けられ、VCM13への通電によりアーム12を回転駆動し、ヘッドを所望のトラックへ位置制御する。VCM13は,磁石15,コイル16からなる。MPU18はA/D変換器19とD/A変換器20とを含み、コイル16にVCM制御信号をD/A変換器20を介して供給し、コイル16で検出された情報がA/D変換器20を介してMPU18に供給される。
【0018】
磁気ディスク装置に衝撃が加わった場合や、電源オフ時やアイドル時にはアーム12を回転駆動して、ヘッド11をランプ機構21上へと退避させる。この動作をアンロードと称する。図1(b)に示すように、ヘッド11の先端にはタブ22が設けられ、アンロード時にはタブ22がスロープ23に乗り上げる。また、ヘッド11をランプ機構21からディスク14面へと移動させる動作をロードと称する。
【0019】
磁気ディスク装置がディスク14面上においてデータを読み書きするために、ディスク14のトラックに対して位置決め制御を行う際には、磁気ディスク面上にあらかじめ記録されたディスク中心からの位置誤差信号であるPES信号を用いてヘッドの位置情報を算出し、ヘッドの現在位置から現在速度を算出し、速度制御を行う。しかし、ランプ機構21上においてはPES信号が得られない。そこで、アーム12を駆動するコイル16に発生するコイルの逆起電圧がヘッド速度に比例した値となることから、逆起電圧信号から速度を推定し速度制御系を構築し、ヘッドのロード、アンロード時の速度制御を行う。
【0020】
図2にVCM13の回路図を示す。磁気ディスク装置において計測可能なコイル端子間電圧Vmeasは、コイル端子間電圧Vcからセンス抵抗Rsによる電圧降下分を除いた値であるため以下のように表せる。
【0021】
Vmeas=Vc−Rs・Ivcm
=L(dIvcm/dt)+Rvcm・Ivcm+Vbemf (2)
ここで、Lはインダクタンス、Ivcmはコイル電流、Rvcmはコイル抵抗、Vbemfは逆起電圧である。これ以降ではVmeasをコイル端子間電圧とする。式(2)よりコイルに発生する逆起電圧は以下の形に書き換えられる。
【0022】
Vbemf=Vmeas−L(dIvcm/dt)−Rvcm・Ivcm (3)
逆起電圧Vbemfはヘッド速度Velに比例するため(比例ゲインをトルク定数Ktとする)、Vbemf=Kt・Velと表せる。これを式(3)へ適用すると、ヘッド速度Velは以下のように表せる。
【0023】
Vel=(Vmeas−L(dIvcm/dt)−Rvcm・Ivcm)/Kt (4)
コイル電流Ivcmは指令電圧Vvcmに基づいて生成され、電流フィードバックが十分に効いていると仮定すると、コイル電流Ivcmと指令電圧Vvcmは比例し、比例係数αを用いてIvcm=α・Vvcmと表せる。また、アンロード制御系は離散時間系で構築されているため、指令電圧が変化した時、インダクタンスによる電圧変化の過渡応答の影響が十分に減衰した後、計測を行った場合、インダクタンスの項の影響を排除可能である。
【0024】
図3はMPU18のファームウェアにより実現され、以上2点を満足したロード・アンロード制御のための速度制御系のモデルを示す図である。逆起電圧から推定される速度(逆起速度と称する)と目標速度(目標逆起速度)が減算器30に入力され、両者の差が制御器32に入力される。制御器では,入力された目標逆起速度と目標速度の差から指令電圧Vvcmを決定する.電流フィードバックにより指令電圧Vvcmに比例したコイル電流Ivcmが制御対象に供給される。上述したように、インダクタンスの項を無視できるので、減算器38は測定したコイル端子間電圧Vmeasからコイル抵抗Rvcmによる電圧降下を減算して逆起電圧Vbemfを求めることができる。
【0025】
このような制御系の下では、式(4)は以下の式のように簡略化することが可能である。
【0026】
Vel=(Vmeas−Rvcm・α・Vvcm)/Kt (5)
式(5)において、コイル端子間電圧Vmeas、指令電圧Vvcmは計測可能な値である。コイル抵抗Rvcm、及びトルク定数Ktは動作時の発熱による温度変化や個体差の影響で値が変動するため、コイル抵抗Rvcm、トルク定数Ktとして固定値を用いると、推定される速度Velに誤差を生じる原因となる。そこで、アンロード制御を行う前に通常シーク動作と同様な動作(アンロードキャリブレーションシーク動作)でコイル抵抗Rvcm、トルク定数Ktの正確な値を推定する必要がある。
【0027】
本実施の形態において、式(4)においてインダクタンスの項による過渡応答の影響を排除してコイル抵抗Rvcm、トルク定数Ktを推定する手法は以下の2つを含む。
【0028】
(1)速度を検出可能なディスク面上での通常の位置決め制御系において加速時の指令電圧の飽和を利用して推定する手法。
【0029】
(2)コイル電流の変化によるインダクタンスの過渡応答の影響が十分減衰した後に計測を行う制御系において推定する手法。
【0030】
まず前者の手法(1)について詳細を述べる。
【0031】
通常のシーク制御系では、サンプリング周期が早いため、指令電圧の変化によりインダクタンスによる電圧の変化が減衰せず、式(5)に示したようにインダクタンスの項を排除することができない。式(4)にIvcm=α・Vvcmの関係を適用すると、以下のように表すことが可能である。
【0032】
Vel=(Vmeas−L・α・(dVvcm/dt)−Rvcm・α・Vvcm)/Kt (6)
すなわち、式(6)ではインダクタンスの項が残り、ヘッド速度Velを求めるためには指令電圧Vvcmの時間変化が必要であるが、現実的にはこの時間変化を正確に求めることは不可能である。しかし、一定の指令電圧を与えた場合には指令電圧の時間変化は0になるため、式(5)が成り立つことがわかる。したがって、一定の指令電圧を与えている場合には、計測可能なヘッド速度Vel、コイル端子間電圧Vmeas、指令電圧Vvcmは既知として扱うことができるので、コイル抵抗Rvcm、トルク定数Ktのみが未知数となる。
【0033】
上記条件を満たす推定手法として、ヘッドの加速時に指令電圧を飽和させる方法が考えられる。図4にアンロードキャリブレーションシーク時の指令電圧Vvcmの波形を示す。本手法の特徴は、図4から明らかなように、加速時にのみ指令電圧を飽和させることである。図5に図4に示すように指令電圧Vvcmを与えシークを行った際のコイル端子間電圧Vmeas、ヘッド速度Velの変化を示す。図4、図5に記載した指令電圧の飽和時(飽和時の指令電圧をV0とする)、たとえばt1、t2という2点において計測されたデータをそれぞれヘッド速度Vel1、Vel2、コイル端子間電圧Vmeas1、Vmeas2とすると、式(7)、式(8)が得られる。
【0034】
Kt・Vel1=Vmeas1−Rvcm・α・V0 (7)
Kt・Vel2=Vmeas2−Rvcm・α・V0 (8)
式(7)、式(8)をトルク定数Ktについて解くと、式(9)が得られる。
【0035】
Kt=(Vmeas1−Vmeas2)/(Vel1−Vel2) (9)
式(7)、式(8)よりコイル抵抗値は式(10)が得られ、推定が可能であることが分かる。
【0036】
Rvcm
=(Vel1・Vmeas2−Vel2・Vmeas1)
/(α・V0・(Vel1−Vel2)) (10)
本発明で提案する加速時のみ指令電圧を飽和させる手法によるコイル抵抗の推定結果と実際のコイル抵抗の初期値との差を磁気ディスク装置に推定器を実装して測定した。測定結果を図6に示す。コイル抵抗を基準値よりも0.1Ω程度大きくなるように設定をし、コイル抵抗を50回連続して推定した。図6に示すように、基準値と推定したコイル抵抗値の差がほぼ同一に0.1Ω程度であり、コイル抵抗が正しく推定されていることが分かる。
【0037】
上記の例ではt=t1、t=t2の2点をサンプリングすることにより、コイル抵抗を推定する例を挙げたが、指令電圧の飽和期間内であれば任意の2点での取得データについて式(10)が成り立つため、N(Nは3以上の任意の正整数)点についてデータを取得し、1組からNC2組の内の任意の回数だけ式(10)の計算を行い、それらの平均値、または中央値を最終的なコイル抵抗と推定してもよい。また、計測点が時間的に近いものよりも可能な限り離れた計測点間の方がノイズの影響を受けにくいと考えられるので、最初の1点目と最後のN点目のデータから算出したデータをコイル抵抗の推定値としてもよい。上記手法にのみとどまらず、推定されたコイル抵抗についてあらゆる統計的処理を施し、最終的な推定値としてよい。
【0038】
式(10)を式(5)に適用することにより、次式が得られ、逆起電圧を推定することができることが分かる。
【0039】
Vbemf
=Vmeas−
((Vel1・Vmeas2−Vel2・Vmeas1)/(α・V0・(Vel1−Vel2)))・Vvcm
(11)
この手法では、逆起電圧を推定するにあたり、定数を使用せずにすべて計測したデータから推定するので、正確に推定できる。また、推定の条件はインダクタンスによる指令電圧の時間変化の影響を排除するため指令電圧が一定であることであるので、アンロードキャリブレーションシーク時に限らず、通常シーク時でも指令電圧が飽和した場合には、この推定手法が適用可能である。また、指令電圧を飽和させるのは、加速時のみであり、減速時には飽和させない。もし、加速時のみならず減速時にも指令電圧を飽和させようとすると、特に低温状況下において減速時の飽和をさせることが困難である問題がある。さらに、減速時に指令電圧を飽和させた後、波形が乱れ、アーム12が振動し、騒音を生じる可能性が高い問題もある。
【0040】
例えば特許文献1に記載の装置では、トルク定数を既知(一定値)として扱っているためトルク定数が熱や個体差によって変化した場合は推定した抵抗値に対しても変動が生じてしまう。トルク定数が変化した場合についてシミュレーションを行い、推定されるトルク定数Kt、コイル抵抗Rvcmが変化しないことを図7、図8に示す。図7の横軸はトルク定数/トルク定数固定値、縦軸はトルク定数推定値/トルク定数固定値であり、図8の横軸はトルク定数/トルク定数固定値、縦軸はコイル抵抗推定値/コイル抵抗である。これらの図から本手法は個体差などのパラメータ変動の影響を受けずに、コイル抵抗を推定可能であることが分かる。
【0041】
本手法における、コイル抵抗・トルク定数推定のフローを図9、図10に示す。推定を行うタイミングは、例えば2通り考えられる。1つは通常のシーク制御系の動作中にアンロード動作指令が発行され、アンロード動作の直前にコイル抵抗・トルク定数を推定するための専用のシーク(アンロードキャリブレーションシーク)を行う時である。他は、通常のシーク制御系の動作中に指令電圧が飽和した時である。前者の方が正確な値が取得可能であるが、一回の限られたアンロードキャリブレーションシークでは位置信号の読み取りに失敗する可能性もある。その場合に備え、通常のシーク制御系の動作中にコイル電流(指令電圧に比例)が飽和した場合には、同様な計測を行い、その度にデータの更新を行うことで、直前のアンロードキャリブレーションシークで失敗した場合でもそれに近い値を用いることを可能とする。
【0042】
図9は通常のシーク制御系の動作中にコイル抵抗・トルク定数を推定する場合の処理を示す。シーク開始されると、ステップ#102で指令電圧が飽和しているか(一定期間以上変化がないか)否か判定する。飽和している場合は、コイル抵抗Rvcmの推定に進む。先ず、ステップ#104で少なくとも任意の2点において、指令電圧Vvcm、ヘッド速度Vel、コイル端子間電圧Vmeasを計測する。なお、ヘッド速度Vel、コイル端子間電圧Vmeasは計測されるが、指令電圧VvcmはMPU18においてファームウェア上の演算により得られる。ヘッド速度Velはサーボセクタからの再生信号で表されるトラック番号の変化に基づいて計測され、コイル端子間電圧VmeasはVCM13に接続された電圧センサにより計測される。
【0043】
ステップ#106で式(9)、式(10)からトルク定数Kt、コイル抵抗Rvcmを推定する。ステップ#108で推定値を更新し、ステップ#102に戻る。
【0044】
指定電圧が飽和していない場合、ステップ#110で、ヘッドが目標位置に達しているか否か判定する。達している場合は、シークは終了する。達していない場合は、ステップ#102に戻る。
【0045】
このように通常のシーク制御系の動作中でも指令電圧が飽和していれば、インダクタンスによる指令電圧の時間変化の影響を排除できるため、式(9)、式(10)に基づいて指令電圧Vvcm、ヘッド速度Vel、コイル端子間電圧Vmeasからトルク定数Kt、コイル抵抗Rvcmを推定することが出来る。
【0046】
図10はアンロードキャリブレーションシーク時にコイル抵抗・トルク定数を推定する場合の処理を示す。通常のシーク制御系の動作中にアンロード動作指令が発行されると、ステップ#114でアンロードキャリブレーションシークが開始される。ステップ#116で指令電圧が飽和しているか否か判定する。飽和している場合は、コイル抵抗Rvcmの推定に進む。先ず、ステップ#118で少なくとも任意の2点において、指令電圧Vvcm、ヘッド速度Vel、コイル端子間電圧Vmeasを計測する。ステップ#120で式(9)、式(10)からトルク定数Kt、コイル抵抗Rvcmを推定する。その後、ステップ#116に戻る。
【0047】
指定電圧が飽和していない場合、ステップ#122で、ヘッドが目標位置に達しているか否か判定する。達していない場合は、ステップ#116に戻る。達している場合は、ステップ#124でアンロードキャリブレーションシークは終了する。
【0048】
ステップ#126でアンロードキャリブレーションシーク中にエラーを生じたか否か判定する。エラーが発生した場合は、ステップ#128で図9に示した通常のシーク制御系の動作中に推定したコイル抵抗・トルク定数を採用し、ステップ#132でアンロード制御開始する。エラーが発生していない場合は、ステップ#120で推定したコイル抵抗値・トルク定数をステップ#130で更新し、ステップ#132でアンロード制御開始する。アンロード制御は推定されたコイル抵抗・トルク定数に基づいて逆起電圧を求め、これからヘッド速度を推定し、この推定値に基づいてヘッドを速度制御する。
【0049】
図10のアンロードキャリブレーションシークにおいて、飽和させる指令電圧の値は自由に設定可能である。通常のシーク時には、位置決め時間とシーク距離の制約が存在するため最大加速度でシークを行う必要性があるので、飽和電圧はある程度の高い電圧に設定する必要がある。しかし、アンロードキャリブレーションシーク時にはシーク距離と時間の制約が緩いので、通常のシーク時より飽和しやすい低い指令電圧で一定値とすることが有効である。
【0050】
次に後者の手法(2)について説明する。図9、図10は通常のシーク制御系において加速時の指令電圧の飽和を利用して推定する手法であるが、コイル電流の変化によるインダクタンスによる電圧過渡応答が十分減衰した後に計測を行えば、指令電圧の飽和を利用することなくキャリブレーション可能である。この場合、サンプリング周期はインダクタンスによって設定しなければならないが、どのような指令電圧の波形を与えてもよい。
【0051】
図11、図12はサンプリング周期とコイル端子間電圧との関係を示す図である。指令電圧は一気に変化するのではなく、階段状にステップ変化している。図2に示すようにVCM13はインダクタンスを含むので、コイル電流の変化の過渡応答によってコイル端子間電圧にはインダクタンスの影響が残る。図11、図12にサンプリング周期とコイル端子間電圧の関係を示す。データを計測した後、コイル電流は演算時間遅れTdを経て変化する。その影響でインダクタンスの過渡応答が生じる。図11のようにサンプリング周期が過渡応答の減衰が不十分なタイミングで次の計測を行った場合、コイル端子間電圧はインダクタンスの過渡応答の影響を含む。
【0052】
しかし、図12に示すように、サンプリング周期を長くし、コイル電流の変化によるインダクタンスの過渡応答が十分収束してからコイル端子間電圧を計測すると、コイル端子間電圧から逆起電圧とコイル抵抗による電圧降下を正確に得ることができる。
【0053】
サンプリング周期をTsとすると、たとえば計測する2点の時刻は、図13に示すように、それぞれmTs、nTsと表せる。それぞれの時刻におけるデータをヘッド速度Velm、Veln、コイル端子間電圧Vmeasm、Vmeasn、それぞれの計測データの1サンプリング前の指令電圧をVm−1、Vn−1とすると、式(12)、式(13)が得られる。
【0054】
Kt・Velm=Vmeasm−Rvcm・α・Vm−1 (12)
Kt・Veln=Vmeasn−Rvcm・α・Vn−1 (13)
式(12)、式(13)式をトルク定数Ktについて解くと、次のようになる。
【0055】
Kt
=(Vm−1・Vmeasn−Vn−1・Vmeasm)
/(Veln・Vm−1−Velm・Vn−1) (14)
式(12)、式(14)よりコイル抵抗値は次のようになる。
【0056】
Rvcm
=(Velm・Vmeasn−Veln・Vmeasm)
/(α・(Velm・Vn−1−Veln・Vm−1)) (15)
式(14)、式(15)においてVm−1=Vn−1=V0の場合には、それぞれ式(9)、式(10)と一致することがわかる。インダクタンスの過渡応答が十分減衰するようサンプリング周期Tsを設定すれば、指令電圧の値(飽和しているか否か)に係わらず、少なくとも任意の2点からコイル抵抗・トルク定数を推定することができる。
【0057】
サンプリング周期の具体的な数値の一例を説明する。VCM13の電流フィードバック制御系は、指令電圧Vvcmからコイル電流Ivcmまでの伝達関数をカットオフ周波数f、ゲインgとすると、以下のローパスフィルタに近似することが可能である。
【0058】
D(s)=g/((s/f)+1) (16)
指令電圧Vvcmが大きさkのステップ入力であるとしたとき、コイル電流Ivcmの応答波形は次式で表せる。
【0059】
Ivcm=k・g(1−e−f・t) (17)
したがってインダクタンスにおける過渡応答は次のようになる.
L(dIvcm/dt)=L・k・g・f・e−f・t (18)
しかし、コイル端子間電圧Vmeasはローパスフィルタを介して検出されるため過渡応答の減衰は式(18)の減衰よりも遅くなる。ステップ入力の大きさkにも依存するが、実装上の範囲において上記インダクタンスの過渡応答が0に近似可能になるまでの時間は300μsec程度あれば十分であり、観測から制御出力までの時間遅れTdを50μsecとすると、およそ350μsec程度の制御周期とすれば、インダクタンスの影響を考慮せずに制御を行うことが可能である。
【0060】
図14は少なくとも任意の2点からコイル抵抗・トルク定数を推定する場合の処理を示す。通常のシーク制御系の動作中にアンロード動作指令が発行されると、ステップ#152でインダクタンスの過渡応答が十分減衰するようサンプリング周期Tsを設定した制御系に切り替えられる。この切替えは、MPU18内のファームウェアにより行われる。ステップ#154でアンロードキャリブレーショファームウェアされる。ステップ#156で少なくとも任意の2点において、指令電圧Vvcm、ヘッド速度Vel、コイル端子間電圧Vmeasを求める。指令電圧VvcmはMPU18から出力される値から求められ、ヘッド速度Vel、コイル端子間電圧Vmeasはそれぞれ図示しない速度センサ、電圧センサにより計測される。ステップ#158で式(14)、式(15)からトルク定数Kt、コイル抵抗Rvcmを推定する。
【0061】
ステップ#160で、ヘッドが目標位置に達しているか否か判定する。達していない場合は、ステップ#156に戻る。達している場合は、ステップ#162でアンロードキャリブレーションシークは終了する。
【0062】
ステップ#154でアンロードキャリブレーションシーク中にエラーを生じたか否か判定する。エラーが発生した場合は、ステップ#166で図9に示した通常のシーク制御系の動作中に推定したコイル抵抗・トルク定数を採用し、ステップ#170でアンロード制御開始する。エラーが発生していない場合は、ステップ#158で推定したコイル抵抗値・トルク定数をステップ#168で更新し、ステップ#170でアンロード制御開始する。アンロード制御は推定されたコイル抵抗・トルク定数に基づいて逆起電圧を求め、これからヘッド速度を推定し、この推定値に基づいてヘッドを速度制御する。
【0063】
シミュレーションにより、この手法の有効性を確認した。コイル抵抗値を基準値から±0.5Ω(0.1Ω刻み)変化させた場合に、それぞれの条件下での推定値と基準値との差分を算出した。図15に指令電圧をランプ関数とした場合の結果を示す。横軸にコイル抵抗と基準値の差分、縦軸に推定値と基準値の差分を示す。この結果よりコイル抵抗を正しく推定可能なことがわかる。
【0064】
今回は入力する指令電圧をランプ関数とした場合の結果を示したが、sin入力など様々な指令電圧においても、この手法を用いてコイル抵抗の推定が可能であることを確認した。ただし、計測された2点において式(19)を満たすことを条件とする。
【0065】
Vm−1・Veln−Vn−1・Velm≠0 (19)
この手法を用いれば、指令電圧を飽和させる必要がないため、アンロードキャリブレーションシーク時間の短縮、つまりアンロード時間の短縮が可能となる。この手法を用いても、すべて計測可能な値のみを用いてキャリブレーションを行っているため、パラメータの変動や個体差の影響を受けない。
【0066】
この手法においても2点のみでなく数多くの点において計測をし、前期手法のように様々な推定手法を用いてより正確な推定値を得られるようにしてもよい。
【0067】
上記はアンロード時の速度制御についての説明であるが、ロード時は上記アンロードのために推定した値を利用すればよい。
【0068】
以上説明したように、第1の実施の形態によれば、インダクタンスの項を無視できる制御系が実現されるので、測定したコイル端子間電圧Vmeasからコイル抵抗Rvcmによる電圧降下を減算すると逆起電圧Vbemfを求めることができる。このような制御系の下では、ヘッド速度Velはコイル端子間電圧Vmeas、指令電圧Vvcm、コイル抵抗Rvcm、及びトルク定数Ktから求めることができる。コイル抵抗Rvcm、トルク定数Ktの正確な値を推定することができるので、ヘッド速度も正確に推定することができる。
【0069】
なお、この発明は、上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合せにより種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。更に、異なる実施形態に亘る構成要素を適宜組み合せてもよい。
【0070】
また、本発明は、コンピュータに所定の手段を実行させるため、コンピュータを所定の手段として機能させるため、コンピュータに所定の機能を実現させるため、あるいはプログラムを記録したコンピュータ読取り可能な記録媒体としても実施することもできる。
【0071】
また、上述の説明は個々の実施例それぞれについて行ったが、複数の実施例を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0072】
11…ヘッド、12…アーム、13…ボイスコイルモータ(VCM)、14…ディスク、15…磁石、16…コイル、17…VCM駆動回路、18…マイクロプロセッサユニット、19…A/D変換器、20…D/A変換器、21…ランプ機構、22…タブ、23…スロープ。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボイスコイルモータにより駆動されるアームに取り付けられたヘッドのロード・アンロード制御に必要なコイル抵抗とトルク定数を推定する方法であって、
ボイスコイルモータのインダクタンスの過渡応答の影響が排除された制御系においてアンロードの開始前の少なくとも2つのタイミングでボイスコイルモータのヘッド速度とコイル端子間電圧を計測する計測ステップと、
指令電圧と計測された少なくとも2つのヘッド速度とコイル端子間電圧とに基づいてトルク定数とコイル抵抗を求める推定ステップと、
を具備するコイル抵抗・トルク定数推定方法。
【請求項2】
前記計測ステップはボイスコイルモータの加速時の指令電圧が飽和する制御系において指令電圧の飽和中の少なくとも2つのタイミングでボイスコイルモータのヘッド速度とコイル端子間電圧を計測することを特徴とする請求項1記載のコイル抵抗・トルク定数推定方法。
【請求項3】
前記計測ステップは通常のシーク動作中にアンロード指令が発行されると通常のシーク制御系よりも低い飽和電圧が設定されたキャリブレーションシーク制御系を設定し、該キャリブレーションシーク制御系において少なくとも2つのタイミングでヘッド速度とコイル端子間電圧を計測することを特徴とする請求項2記載のコイル抵抗・トルク定数推定方法。
【請求項4】
前記計測ステップはボイスコイルモータのコイル電流の変化によるインダクタンスの過渡応答が十分減衰した後に計測を行う制御系において少なくとも2つのタイミングでボイスコイルモータのヘッド速度とコイル端子間電圧を計測することを特徴とする請求項1記載のコイル抵抗・トルク定数推定方法。
【請求項5】
前記計測ステップは3以上の複数のタイミングでボイスコイルモータのヘッド速度とコイル端子間電圧を計測し、
前記推定ステップは指令電圧と3以上のヘッド速度とコイル端子間電圧とに基づいて3以上のトルク定数とコイル抵抗の推定値を求め、該3以上のトルク定数とコイル抵抗の平均値、または中央値を求める、あるいは最初の計測値と最終の計測値とに基づいてトルク定数とコイル抵抗とを求めることを特徴とする請求項1記載のコイル抵抗・トルク定数推定方法。
【請求項6】
ボイスコイルモータにより駆動されるアームに取り付けられたヘッドのロード・アンロード制御に必要なコイル抵抗とトルク定数を推定する装置であって、
ボイスコイルモータのインダクタンスの過渡応答の影響が排除された制御系においてアンロードの開始前の少なくとも2つのタイミングでボイスコイルモータのヘッド速度とコイル端子間電圧を計測する計測手段と、
指令電圧と前記計測手段により計測された少なくとも2つのヘッド速度とコイル端子間電圧とに基づいてトルク定数とコイル抵抗を求める推定手段と、
を具備するコイル抵抗・トルク定数推定装置。
【請求項7】
前記計測手段はボイスコイルモータの加速時の指令電圧が飽和する制御系において指令電圧の飽和中の少なくとも2つのタイミングでボイスコイルモータのヘッド速度とコイル端子間電圧を計測することを特徴とする請求項6記載のコイル抵抗・トルク定数推定装置。
【請求項8】
前記計測手段は通常のシーク動作中にアンロード指令が発行されると通常のシーク制御系よりも低い飽和電圧が設定されたキャリブレーションシーク制御系を設定し、該キャリブレーションシーク制御系において少なくとも2つのタイミングでヘッド速度とコイル端子間電圧を計測することを特徴とする請求項7記載のコイル抵抗・トルク定数推定装置。
【請求項9】
前記計測手段はボイスコイルモータのインダクタンスによるコイル電流の変化によるインダクタンスの過渡応答が十分減衰した後に計測を行う制御系において少なくとも2つのタイミングでボイスコイルモータのヘッド速度とコイル端子間電圧を計測することを特徴とする請求項6記載のコイル抵抗・トルク定数推定装置。
【請求項10】
前記計測手段は3以上の複数のタイミングでボイスコイルモータのヘッド速度とコイル端子間電圧を計測し、
前記推定手段は指令電圧と3以上のヘッド速度とコイル端子間電圧とに基づいて3以上のトルク定数とコイル抵抗の推定値を求め、該3以上のトルク定数とコイル抵抗の平均値、または中央値を求める、あるいは最初の計測値と最終の計測値とに基づいてトルク定数とコイル抵抗とを求めることを特徴とする請求項6記載のコイル抵抗・トルク定数推定装置。
【請求項11】
ヘッドが取り付けられたアームを駆動するボイスコイルモータと、
ヘッドによりディスクから再生したヘッド位置誤差信号に基づいてヘッドを速度制御する第1シーク手段と、
ボイスコイルモータに発生する逆起電圧からヘッド速度を推定して、該ヘッド速度に基づいてヘッドを速度制御する第2シーク手段とを具備し、
前記第2シーク手段は、
ボイスコイルモータのインダクタンスの過渡応答の影響が排除された制御系においてアンロードの開始前の少なくとも2つのタイミングでボイスコイルモータのヘッド速度とコイル端子間電圧を計測する計測手段と、
指令電圧と前記計測手段により計測された少なくとも2つのヘッド速度とコイル端子間電圧とに基づいてトルク定数とコイル抵抗を求める第1推定手段と、
前記推定手段により推定されたトルク定数とコイル抵抗とに基づいて逆起電圧を推定する第2推定手段とを具備する磁気ディスク装置。
【請求項12】
前記計測手段はボイスコイルモータの加速時の指令電圧が飽和する制御系において指令電圧の飽和中の少なくとも2つのタイミングでボイスコイルモータのヘッド速度とコイル端子間電圧を計測することを特徴とする請求項11記載の磁気ディスク装置。
【請求項13】
前記第2シーク手段は、前記第1シーク手段の動作中にアンロード指令が発行されると前記第1シーク手段の制御系よりも低い飽和電圧が設定されたキャリブレーションシーク制御系を設定し、
前記計測手段は、前記キャリブレーションシーク制御系において少なくとも2つのタイミングでヘッド速度とコイル端子間電圧を計測することを特徴とする請求項12記載の磁気ディスク装置。
【請求項14】
前記第2シーク手段は、前記第1シーク手段の動作中にアンロード指令が発行されるとボイスコイルモータのコイル電流の変化によるインダクタンスの過渡応答が十分減衰した後に計測を行う制御系を設定し、
前記計測手段は該制御系において少なくとも2つのタイミングでボイスコイルモータのヘッド速度とコイル端子間電圧を計測することを特徴とする請求項11記載の磁気ディスク装置。
【請求項15】
前記計測手段は3以上の複数のタイミングでボイスコイルモータのヘッド速度とコイル端子間電圧を計測し、
前記第1推定手段は指令電圧と3以上のヘッド速度とコイル端子間電圧とに基づいて3以上のトルク定数とコイル抵抗の推定値を求め、該3以上のトルク定数とコイル抵抗の平均値、または中央値を求める、あるいは最初の計測値と最終の計測値とに基づいてトルク定数とコイル抵抗とを求めることを特徴とする請求項11記載の磁気ディスク装置。
【請求項1】
ボイスコイルモータにより駆動されるアームに取り付けられたヘッドのロード・アンロード制御に必要なコイル抵抗とトルク定数を推定する方法であって、
ボイスコイルモータのインダクタンスの過渡応答の影響が排除された制御系においてアンロードの開始前の少なくとも2つのタイミングでボイスコイルモータのヘッド速度とコイル端子間電圧を計測する計測ステップと、
指令電圧と計測された少なくとも2つのヘッド速度とコイル端子間電圧とに基づいてトルク定数とコイル抵抗を求める推定ステップと、
を具備するコイル抵抗・トルク定数推定方法。
【請求項2】
前記計測ステップはボイスコイルモータの加速時の指令電圧が飽和する制御系において指令電圧の飽和中の少なくとも2つのタイミングでボイスコイルモータのヘッド速度とコイル端子間電圧を計測することを特徴とする請求項1記載のコイル抵抗・トルク定数推定方法。
【請求項3】
前記計測ステップは通常のシーク動作中にアンロード指令が発行されると通常のシーク制御系よりも低い飽和電圧が設定されたキャリブレーションシーク制御系を設定し、該キャリブレーションシーク制御系において少なくとも2つのタイミングでヘッド速度とコイル端子間電圧を計測することを特徴とする請求項2記載のコイル抵抗・トルク定数推定方法。
【請求項4】
前記計測ステップはボイスコイルモータのコイル電流の変化によるインダクタンスの過渡応答が十分減衰した後に計測を行う制御系において少なくとも2つのタイミングでボイスコイルモータのヘッド速度とコイル端子間電圧を計測することを特徴とする請求項1記載のコイル抵抗・トルク定数推定方法。
【請求項5】
前記計測ステップは3以上の複数のタイミングでボイスコイルモータのヘッド速度とコイル端子間電圧を計測し、
前記推定ステップは指令電圧と3以上のヘッド速度とコイル端子間電圧とに基づいて3以上のトルク定数とコイル抵抗の推定値を求め、該3以上のトルク定数とコイル抵抗の平均値、または中央値を求める、あるいは最初の計測値と最終の計測値とに基づいてトルク定数とコイル抵抗とを求めることを特徴とする請求項1記載のコイル抵抗・トルク定数推定方法。
【請求項6】
ボイスコイルモータにより駆動されるアームに取り付けられたヘッドのロード・アンロード制御に必要なコイル抵抗とトルク定数を推定する装置であって、
ボイスコイルモータのインダクタンスの過渡応答の影響が排除された制御系においてアンロードの開始前の少なくとも2つのタイミングでボイスコイルモータのヘッド速度とコイル端子間電圧を計測する計測手段と、
指令電圧と前記計測手段により計測された少なくとも2つのヘッド速度とコイル端子間電圧とに基づいてトルク定数とコイル抵抗を求める推定手段と、
を具備するコイル抵抗・トルク定数推定装置。
【請求項7】
前記計測手段はボイスコイルモータの加速時の指令電圧が飽和する制御系において指令電圧の飽和中の少なくとも2つのタイミングでボイスコイルモータのヘッド速度とコイル端子間電圧を計測することを特徴とする請求項6記載のコイル抵抗・トルク定数推定装置。
【請求項8】
前記計測手段は通常のシーク動作中にアンロード指令が発行されると通常のシーク制御系よりも低い飽和電圧が設定されたキャリブレーションシーク制御系を設定し、該キャリブレーションシーク制御系において少なくとも2つのタイミングでヘッド速度とコイル端子間電圧を計測することを特徴とする請求項7記載のコイル抵抗・トルク定数推定装置。
【請求項9】
前記計測手段はボイスコイルモータのインダクタンスによるコイル電流の変化によるインダクタンスの過渡応答が十分減衰した後に計測を行う制御系において少なくとも2つのタイミングでボイスコイルモータのヘッド速度とコイル端子間電圧を計測することを特徴とする請求項6記載のコイル抵抗・トルク定数推定装置。
【請求項10】
前記計測手段は3以上の複数のタイミングでボイスコイルモータのヘッド速度とコイル端子間電圧を計測し、
前記推定手段は指令電圧と3以上のヘッド速度とコイル端子間電圧とに基づいて3以上のトルク定数とコイル抵抗の推定値を求め、該3以上のトルク定数とコイル抵抗の平均値、または中央値を求める、あるいは最初の計測値と最終の計測値とに基づいてトルク定数とコイル抵抗とを求めることを特徴とする請求項6記載のコイル抵抗・トルク定数推定装置。
【請求項11】
ヘッドが取り付けられたアームを駆動するボイスコイルモータと、
ヘッドによりディスクから再生したヘッド位置誤差信号に基づいてヘッドを速度制御する第1シーク手段と、
ボイスコイルモータに発生する逆起電圧からヘッド速度を推定して、該ヘッド速度に基づいてヘッドを速度制御する第2シーク手段とを具備し、
前記第2シーク手段は、
ボイスコイルモータのインダクタンスの過渡応答の影響が排除された制御系においてアンロードの開始前の少なくとも2つのタイミングでボイスコイルモータのヘッド速度とコイル端子間電圧を計測する計測手段と、
指令電圧と前記計測手段により計測された少なくとも2つのヘッド速度とコイル端子間電圧とに基づいてトルク定数とコイル抵抗を求める第1推定手段と、
前記推定手段により推定されたトルク定数とコイル抵抗とに基づいて逆起電圧を推定する第2推定手段とを具備する磁気ディスク装置。
【請求項12】
前記計測手段はボイスコイルモータの加速時の指令電圧が飽和する制御系において指令電圧の飽和中の少なくとも2つのタイミングでボイスコイルモータのヘッド速度とコイル端子間電圧を計測することを特徴とする請求項11記載の磁気ディスク装置。
【請求項13】
前記第2シーク手段は、前記第1シーク手段の動作中にアンロード指令が発行されると前記第1シーク手段の制御系よりも低い飽和電圧が設定されたキャリブレーションシーク制御系を設定し、
前記計測手段は、前記キャリブレーションシーク制御系において少なくとも2つのタイミングでヘッド速度とコイル端子間電圧を計測することを特徴とする請求項12記載の磁気ディスク装置。
【請求項14】
前記第2シーク手段は、前記第1シーク手段の動作中にアンロード指令が発行されるとボイスコイルモータのコイル電流の変化によるインダクタンスの過渡応答が十分減衰した後に計測を行う制御系を設定し、
前記計測手段は該制御系において少なくとも2つのタイミングでボイスコイルモータのヘッド速度とコイル端子間電圧を計測することを特徴とする請求項11記載の磁気ディスク装置。
【請求項15】
前記計測手段は3以上の複数のタイミングでボイスコイルモータのヘッド速度とコイル端子間電圧を計測し、
前記第1推定手段は指令電圧と3以上のヘッド速度とコイル端子間電圧とに基づいて3以上のトルク定数とコイル抵抗の推定値を求め、該3以上のトルク定数とコイル抵抗の平均値、または中央値を求める、あるいは最初の計測値と最終の計測値とに基づいてトルク定数とコイル抵抗とを求めることを特徴とする請求項11記載の磁気ディスク装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2011−28811(P2011−28811A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−173506(P2009−173506)
【出願日】平成21年7月24日(2009.7.24)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年7月24日(2009.7.24)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】
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