説明

磁気ディスク装置

【課題】マイクロアクチュエータを駆動する際の振動を抑制するバランス駆動機構の搭載により、VCMアクチュエータ先端部の質量が増加し、主共振周波数が低下し、制御帯域が低下する問題を解決する磁気ディスク装置を提供する。
【解決手段】共振による変位拡大機構を用いた制振器により、小さな質量で十分な制振効果を得る。制振器の共振周波数を制振対象の共振ピークの周波数より高く設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、VCMアクチュエータとVCMアクチュエータの先端側に搭載された微動用アクチュエータとを有する2段アクチュエータ方式のヘッド位置決め機構を備えた磁気ディスク装置に係り、磁気ヘッドの位置決め精度の高精度化に寄与する制振機構を設けた磁気ディスク装置に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気ディスク装置は、情報記録媒体である磁気ディスクと、磁気ディスクに対して磁気情報の読み書きを行うための磁気ヘッドと、磁気ヘッドを支持し磁気ディスク上の所定の半径位置に移動させるためのVCM(Voice Coil Motor)アクチュエータとを備えている。磁気ディスク装置は、磁気ディスクの磁気情報を正しく読み書きするために、磁気ヘッドが磁気ディスクに対して高精度に位置決め制御される必要がある。磁気ヘッドの位置決め制御は、磁気ディスク装置の大記録容量・高記録密度化に伴い、より高精度の位置決め精度を実現する機構・制御方法が必要とされている。
【0003】
これに応え、VCMアクチュエータに加えて磁気ヘッドを磁気ディスクのトラック方向と交差するように微動するマイクロアクチュエータ(微動用アクチュエータ)を備え、磁気ヘッドを高精度に位置決めする2段アクチュエータ方式のヘッド位置決め機構が提案されている。磁気ディスク装置の大記録容量・高記録密度化が進み、1枚のディスクで500GB以上の記録容量が実現できるようになると、それに対応するヘッド位置決め機構として、2段アクチュエータ方式の高精度なヘッド位置決め機構の必要性が増大してきた。
【0004】
特許文献1には、このような2段アクチュエータ方式のヘッド位置決め機構における微動用アクチュエータの例として、VCMアクチュエータのロードビームとこのロードビームを保持するキャリッジとの間に圧電素子搭載部を設け、この圧電素子搭載部にサスペンションの長手方向の中心軸に対して略対称になるように2個の圧電素子を配置したものが開示されている。このヘッド位置決め機構では、駆動時は圧電素子に電圧信号を印加することにより2個の圧電素子を逆位相で伸縮させ、この伸縮に対応して先端に磁気ヘッドを搭載したサスペンションを微動させることにより、微動用アクチュエータが磁気ヘッドの高精度な位置決めを行う。
【0005】
また、磁気ディスク装置のVCMアクチュエータのアームには、通常1又は2個の磁気ヘッドが搭載される。2枚の磁気ディスクの間に配置されるVCMアクチュエータのアームには、アームの上下に存在する磁気記録面それぞれに対して磁気情報の読み書きをそれぞれ行うために、磁気ヘッドが2個搭載される。これに対し、最上端或いは最下端の磁気ディスクの磁気記録面に対して配置されるVCMアクチュエータのアームには、その対応した磁気記録面が1つだけであることから、磁気ヘッドが1個搭載される。
【0006】
特許文献2には、微動用アクチュエータを駆動したときの磁気ヘッド位置での周波数応答特性を改善し、位置決め制御帯域を向上させより高精度な位置決め性能を実現するために、2枚の磁気ディスクの間に配置されて2個の磁気ヘッドが搭載されているVCMアクチュエータのアームに関して、1個の磁気ヘッドが搭載されたサスペンションを駆動する微動用アクチュエータをサスペンション同士で互いに逆位相に駆動する2段アクチュエータ方式のヘッド位置決め機構が記載されている。さらに、特許文献2には、最上端或いは最下端の磁気ディスクの磁気記録面に対して配置されて1個の磁気ヘッドが搭載されているVCMアクチュエータのアームに関して、1個の磁気ヘッドが搭載されたサスペンションが取り付けられている磁気ディスク側の面とは反対側の面に、バランス駆動機構を搭載した構成が記載されている。バランス駆動機構は、サスペンションを微動する微動用アクチュエータと同様な構成のマイクロアクチュエータと、磁気ヘッドを搭載したサスペンションと等価な質量を有してこのマイクロアクチュエータの駆動により微動する質量体(ダミーマス)とを有する構成になっている。このバランス駆動機構が備えられた1個の磁気ヘッドが搭載されているVCMアクチュエータのアームでは、サスペンション,バランス駆動機構それぞれのマイクロアクチュエータを互いに逆位相に駆動することにより、2個の磁気ヘッドが搭載されているVCMアクチュエータのアームの場合と同様な効果を得ることができる。
【0007】
2段アクチュエータ方式のヘッド位置決め機構において、マイクロアクチュエータを駆動した際のヘッド応答の周波数特性では、最低次の周波数ピークとしてスウェイモードと呼ばれる、アームとサスペンションがマイクロアクチュエータの動作面内で変形する振動モードに対応するピークが現れる。特許文献2に記載の2段アクチュエータ方式のヘッド位置決め機構では、VCMアクチュエータのアームに搭載された2個の磁気ヘッド、又は1個の磁気ヘッド並びにダミーマスを互いに逆位相で駆動することにより、上記の最低次の周波数ピークを打ち消すように補償することができる。これにより、スウェイモードは最低次の共振ピークが次に現れるピークの周波数まで向上し、制御帯域におけるヘッド応答の周波数特性の向上を実現することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2001−307442号公報
【特許文献2】特許3771076号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、上述した2段アクチュエータ方式のヘッド位置決め機構により磁気ヘッドの高精度な位置決めが可能になると、1枚のディスクだけでも500GB或いは1TBという大容量が実現できるようになる。これにより、磁気ディスク装置の用途として大きな割合を占めるパソコン等では、ディスクを1枚搭載しただけの磁気ディスク装置で必要十分な記録容量を確保することができるようになる。そのため、1枚ディスクの磁気ディスク装置の需要は増大すると考えられる。
【0010】
この1枚ディスクの磁気ディスク装置のヘッド位置決め機構では、1個の磁気ヘッドを搭載したVCMアクチュエータのアームが、1枚のディスクの上下いずれか又は上下それぞれに配置される構成となる。
【0011】
したがって、1枚ディスクの磁気ディスク装置のヘッド位置決め機構に2段アクチュエータ方式のヘッド位置決め機構を適用する場合、1個の磁気ヘッドを搭載したVCMアクチュエータのアームそれぞれに対して、バランス駆動機構と2段アクチュエータ方式のヘッド位置決め機構とが搭載されることになる。その場合、VCMアクチュエータのアームにそれぞれ設けられたバランス駆動機構の質量は、磁気ヘッドを搭載したサスペンション及びそれを駆動するマイクロアクチュエータと同程度の質量を有することになる。この結果、VCMアクチュエータの1個の磁気ヘッドを搭載した各アームは、アーム先端の質量がバランス駆動機構を搭載していない場合と比べて2倍に増大することになる。
【0012】
しかし、このVCMアクチュエータのアーム先端の重量の増大は、粗動アクチュエータであるVCMアクチュエータの主共振周波数を低下させ、制御帯域を減少させる。2段アクチュエータ方式の位置決め機構の位置決め精度をさらに向上させるには、マイクロアクチュエータ及びVCMアクチュエータ両方の制御帯域の向上を図る必要がある。そのため、VCMアクチュエータの共振周波数特性の向上は、マイクロアクチュエータの振動の周波数特性の向上と同様に重要な課題であった。
【0013】
本発明は、上述した課題を鑑みなされたものであって、マイクロアクチュエータ及びVCMアクチュエータ両方の制御帯域の向上を図り、2段アクチュエータ方式の位置決め機構の位置決め精度をさらに向上させた磁気ディスク装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記の課題を解決するため、本発明の磁気ディスク装置は、小さな質量の制振器を用いて、磁気ヘッドを変位駆動するアクチュエータの周波数特性の向上を実現する。そのために、本発明の磁気ディスク装置は、質量体が所定方向に変位可能に弾性支持された共振器と、共振器が搭載される搭載部が所定方向に変位可能に弾性支持されたベース部と、ベース部の搭載部を所定方向に変位駆動する制振用の微動アクチュエータとを有する制振器を、その所定方向が2段アクチュエータ方式のヘッド位置決め機構による磁気ヘッドの微動変位方向と同じになるようにして磁気ヘッドが搭載されたアームに配置し、磁気ヘッドの微動方向と共振器が搭載された搭載部の変位方向とが互いに逆位相となるように、磁気ヘッドの微動変位用の微動アクチュエータ及び制振器の制振用の微動アクチュエータをそれぞれ動作させる。
【0015】
さらに、本発明は、質量体及びその弾性指示部材からなる共振器の振動系の共振周波数を、制振器による補償の対象である共振ピークの周波数(制御周波数とも称す)よりも高く設定したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、磁気ヘッドの微動変位用の微動アクチュエータの駆動により生じる振動を補償するために、制振器における共振器の質量体の変位が逆位相となるように制振器の制振用の微動アクチュエータを駆動する。このとき、共振器の質量体は、共振による弾性指示部材の変形が制振用の微動アクチュエータの駆動により逆位相で変位する搭載部の変位に加わり、より大きく変位するため、制振器としては小さな質量で十分な効果を得ることができる。これにより、制振器の質量を小さくできるため、サスペンションと等価な質量を有するダミーマスを用いた場合に比べ、アーム先端の質量を小さくすることができ、VCMアクチュエータの主共振周波数を向上させることができる。これに伴い、マイクロアクチュエータとVCMアクチュエータ両者の制御帯域も向上する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施の形態に係る磁気ディスク装置の斜視図である。
【図2】図1に示されているヘッド支持機構の拡大図である。
【図3】図2に示された制振器をディスク盤面とは反対側から眺めた斜視図である。
【図4】図2に示された制振器をディスク盤面側から眺めた斜視図である。
【図5】図3に示された制振器の動作説明図である。
【図6】図4に示された制振器の動作説明図である。
【図7】本実施の形態の磁気ディスク装置に係るヘッド支持機構の動作説明図である。
【図8】本実施の形態の磁気ディスク装置に係るキャリッジの斜視図である。
【図9】比較例の従来の磁気ディスク装置に係るキャリッジの斜視図である。
【図10】図8に示した本実施の形態の磁気ディスク装置に係るキャリッジの周波数特性を計算により求めたものである。
【図11】図9に示される比較例としての従来の磁気ディスク装置に係るキャリッジの周波数特性を計算により求めたものである。
【図12】図8に示した本実施の形態の磁気ディスク装置のキャリッジにおいて、マイクロアクチュエータのみを動作させたときの磁気ヘッド位置の周波数応答を計算したものである。
【図13】図8に示した本実施の形態の磁気ディスク装置のキャリッジにおいて、マイクロアクチュエータ及び制振器を動作させたときの磁気ヘッド位置の周波数応答を計算したものである。
【図14】本発明の別の実施形態のヘッド支持機構の斜視図である。
【図15】図14に示したヘッド支持機構を裏側から見た分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態に係る磁気ディスク装置について、図面とともに説明する。
図1は、本発明の一実施の形態に係る磁気ディスク装置の斜視図である。なお、図1においては、磁気ディスク装置は、蓋体が取り除かれ、ハウジング内部が見える状態になっている。
【0019】
磁気ディスク装置1は、情報を記録することができる磁気記録面が両面に形成されているディスク2と、ディスク2を回転駆動するスピンドルモータ3と、アーム先端に搭載された磁気ヘッドをディスク2のトラック方向と交差するようにディスク2の所定範囲で回転駆動する粗動用のアクチュエータとしてのボイスコイルモータ(VCM)4と、ボイスコイルモータ4の駆動力を受けるキャリッジ5とが、ハウジングに内蔵された構成になっている。キャリッジ5は、ピボット軸7を中心に所定角度範囲で回転自在にピボット軸7に取り付けられている。キャリッジ5は、ピボット軸7と係合するキャリッジ基部から延設されたキャリッジアーム6を有し、キャリッジアーム6の先端にはヘッド支持機構10(サスペンション)が固定された構成になっている。さらに、ヘッド支持機構10の先端には磁気ヘッドを内蔵したスライダ11が固定された構成になっている。
【0020】
図示の例では、キャリッジアーム6は、ピボット軸7と係合する基部に対して、上下方向(スピンドルモータ3又はピボット軸7の軸方向)に1枚のディスク2が介在できる間隔を有して重なり合うように一対設けられ、各キャリッジアーム6に固定されたヘッド支持機構10のスライダ11に内蔵された磁気ヘッドが、ディスク2の上面(表側面)或いは下面(裏側面)の磁気記録面(ディスク盤面)に臨むようになっている。キャリッジ5がピボット軸7を中心にボイスコイルモータ4により所定角度範囲で回転運動することにより、キャリッジアーム6及びヘッド支持機構10からなるVCMアクチュエータのアームがディスク盤面上を径方向に揺動し、ディスク2上の任意の半径位置に磁気ヘッドを位置決めする。
【0021】
図2は、図1に示されているヘッド支持機構の拡大図である。
ヘッド支持機構10は、先端側に磁気ヘッドを内蔵したスライダ11を備えたロードビーム12が、微動用アクチュエータ13を介して、キャリッジアーム6先端に一体的に形成された取付ベース8に固定された構成になっている。微動用アクチュエータ13は、マウントプレート14に、分極方向が互いに異なる一対の圧電素子15,16を組み付けて構成されている。マウントプレート14には、長さ方向一側にキャリッジアーム6先端の取付ベース8に形成された取付孔9に嵌入固定される環状凸部17が形成されている。長さ方向他側には、中間部が幅方向外方に突出した一対の長さ方向に延びる湾曲形状の可撓腕部18,19の端部同士が連結され、中空部20を形成する構成になっている。一対の圧電素子15,16は、中空部20を架橋するようにその両端が可撓腕部18,19の両端側の剛性を有する連結部21,22にそれぞれ固定され、マウントプレート14の長さ方向Xの中心線x−xに対して線対称になるように中空部20に配置されている。ロードビーム12は、その基端側部分がマウントプレート14の他端側の連結部22に固定されている。
【0022】
これにより、微動用アクチュエータ13では、制御信号により分極方向が互いに異なる一対の圧電素子15,16が互いに伸長及び収縮することにより、可撓腕部18,19が応動変形し、連結部22及びロードビーム12がマウントプレート14の長さ方向Xの中心線x−xを中心にマウントプレート14の連結部21に対して揺動する。これに伴い、ロードビーム12の先端側のスライダ11に内蔵されている磁気ヘッドは、ディスク2のトラック方向と交差するように、図中A方向に駆動される。
【0023】
さらに、本実施の形態の磁気ディスク装置1においては、マウントプレート14の一端側の連結部21部分としての、マウントプレート14の取付孔9と中空部20との間の部分には、制振器30が設けられている。
【0024】
図3は、図2に示された制振器をディスク盤面とは反対側から眺めた斜視図である。
図4は、図2に示された制振器をディスク盤面側から眺めた斜視図である。
制振器30は、マウントプレート14に支持されたベース部31と、ベース部31に搭載された共振器35と、分極方向が互いに異なる一対の圧電素子41,42とを備えた構成になっている。
【0025】
ベース部31は、図示の例では、マウントプレート14を加工して形成され、4本の梁部32と、この4本の梁部32を介してマウントプレート14と接続された板状の搭載部33とを有する構成になっている。4本の梁部32それぞれは、マウントプレート14の長さ方向Xの中心線x−xと垂直なマウントプレート14の幅方向Yに可撓性を有するばね部として構成されている。さらに、図示の例では、4本の梁部32は、二組の一対の梁部32a・32a,32b・32bで構成され、各組の梁部32a・32a,32b・32b同士がマウントプレート14の長さ方向Xの中心線x−xを挟んでマウントプレート14の幅方向Yの両側に対称配置され、各対の梁部32a,32a又は32b,32b同士はマウントプレート14の幅方向Yの搭載部33の中心線y−yを挟んでマウントプレート14の長さ方向Xの中心線x−xの両側に対称配置されている。また、搭載部33は、マウントプレート14の長さ方向Xの中心線x−xに対して線対称な形状となった剛性を有した板状部として形成され、搭載部33のマウントプレート14の幅方向Yに沿った両端部とマウントプレート14との間には、搭載部33のマウントプレート14の幅方向Yに沿った移動を許容する空間部34,34が形成されている。
【0026】
これに対し、共振器35は、矩形形状のフレーム36とフレーム36に収容された質量体37とを有する構成になっている。フレーム36は、ベース部31に固定されてマウントプレート14の幅方向Yに平行に延びる一対の剛性を有した脚部38,38と、ベース部31には固定されずに脚部38,38の両端側同士を接続してマウントプレート14の幅方向Yに板ばね部として構成され、マウントプレート14の長さ方向Xに平行に延びる一対の可撓性を有する接続部39,39とを有する。フレーム36に収容された質量体37は、搭載部33の中心線y−yに対して線対称な形状を有する剛体により形成されている。その上で、質量体37は、マウントプレート14の幅方向Yの各端部がそれぞれ対向する接続部39,39に固着されているのに対し、マウントプレート14の長さ方向Xの各端部は脚部38,38に固着されていないことにより、接続部39,39を撓み変形させて、フレーム36内で質量体37のマウントプレート14の幅方向Yの移動が許容された構成になっている。なお、ベース部31の搭載部33に形成されたマウントプレート14の幅方向Yに延びる溝部は、マウントプレート14の幅方向Yへの質量体37の移動を案内する案内溝40である。
【0027】
このような共振器35を搭載したベース部31に対して、一対の圧電素子41,42は、それぞれ空間部34,34を架橋するように、その両端が搭載部33のマウントプレート14の幅方向Yに沿った端部とマウントプレート14とにそれぞれ固定されている。これにより、圧電素子41,42が駆動電圧によりそれぞれ伸長,収縮することにより、ベース部31の搭載部33は、可撓性を有する梁部32を変形させて、マウントプレート14の幅方向Y、すなわち磁気ヘッドの駆動方向であるA方向に移動し、相対的に共振器35の質量体37は搭載部33上をA方向にかつ搭載部33とは反対向きに移動する。
【0028】
図5及び図6は、図3及び図4に示されている制振器の動作説明図である。
図5に示すように、圧電素子41,42は互いに分極方向が逆になっているため、例えば、同一電圧極性,大きさの繰り返し駆動電圧を加えた場合、一方41若しくは他方42が伸長し、他方42若しくは一方41が収縮することで、プッシュプルの動作を行う。これにより、ベース部31は、梁部32に弾性変形が生じ、搭載部33が矢印A方向に変位する。この結果、圧電素子41,42に所定の周波数の繰り返し駆動電圧(交番電圧)を印加することにより、ベース部31は、その搭載部33がディスク2のトラック方向と交差するように、図中A方向に駆動振動されることになる。
【0029】
このようにベース部31の圧電素子41,42に繰り返し駆動電圧を加えることにより生じるベース部31の搭載部33の変位に対して、共振器35に振動が生じる。その際、板ばね部としての接続部39,39が大きく撓み、ディスク2のトラック方向と交差するように、図中A方向に沿って質量体37に相対変位が生じる。ここで、接続部39,39のばね定数及び質量体37の質量により決定される共振器35の固有振動数は、制振器による補償の対象である共振ピークの周波数すなわち制御周波数よりも高く、制御対象の周波数の2倍以内の周波数に設定される。また、ベース部31のばね部としての梁部32(32a・32a,32b・32b)のばね定数は共振器35の板ばね部としての接続部39,39のばね定数よりも高く設定される。そのため、ベース部31の搭載部33の変位に対し、質量体37は大きな変位を得ることができる。また、ベース部31の変位方向と質量体37の変位方向は一致する。すなわち、共振器35の作用により、ベース部31の搭載部33の変位に対し、質量体37の図中A方向の変位が拡大される。これを質量体37の動作により得られる反力により搭載物の振動を抑制する制振器30の働きの面から見ると、変位拡大によってより大きな反力が得られること、換言すると、より小さな質量を持つ質量体37を用いて同等の振動抑制効果を得ることができることを示している。
【0030】
図7は、本実施の形態の磁気ディスク装置に係るヘッド支持機構の動作説明図である。なお、図7では、ディスク盤面とは反対側から眺めた図1の場合とは異なり、ヘッド支持機構10はディスク盤面側から眺めた状態で表れている。
【0031】
図示の例では、制御信号51にそれぞれ増幅器43,44によって独立にゲインG1,G2をかけることで、微動用アクチュエータ13の圧電素子15,16の駆動電圧52、並びに制振器30の圧電素子41,42の駆動電圧53を生成する。スライダ14が微動用アクチュエータ13の作動によりa1方向に変位するとき、制振器30は逆方向のa2方向に変位する。
【0032】
以下、上述した構成からなる本実施の形態の磁気ディスク装置1について、従来の磁気ディスク装置に対して行った比較評価の結果について説明する。この比較評価に際して、本実施の形態の磁気ディスク装置1が図8に示すキャリッジ5を適用しているのに対し、従来技術の磁気ディスク装置は、図9に示す構成のキャリッジ105を備えた構成になっている。
【0033】
図8は、本実施の形態の磁気ディスク装置に係るキャリッジの斜視図である。
図8において、キャリッジ5の、キャリッジアーム6及びヘッド支持機構10からなるVCMアクチュエータのアームには、微動用アクチュエータ13,制振器30,及びVCMコイル45が備えられている。なお、微動用アクチュエータ13及び制振器30を供えたヘッド支持機構10の詳細な構成については、先に図1〜図7を基づいて説明したとおりであるので、同一構成については同一符号を付し、その説明は省略する。
【0034】
図9は、比較例の従来の磁気ディスク装置に係るキャリッジの斜視図である。
図9において、キャリッジ105の、キャリッジアーム6及びヘッド支持機構10からなるVCMアクチュエータのアームには、微動用アクチュエータ13,バランス駆動機構130,及びVCMコイル45が備えられている。バランス駆動機構130は、ヘッド支持機構(サスペンション)10を微動する微動用アクチュエータ13と同様な構成のマイクロアクチュエータ131と、磁気ヘッドを搭載したヘッド支持機構(サスペンション)10と等価な質量を有してこのマイクロアクチュエータ131の駆動により微動する質量体(ダミーマス)132とを有する構成になっている。微動用アクチュエータ13,バランス駆動機構130それぞれのマイクロアクチュエータを互いに逆位相に駆動することにより、2個の磁気ヘッドが搭載されているVCMアクチュエータのアームの場合と同様な効果を得ることができる。
【0035】
図10は、図8に示した本実施の形態の磁気ディスク装置に係るキャリッジの周波数特性を計算により求めたものである。実線はゲイン特性を示している。計算に際して、ピボット軸7の両端を固定しVCMコイル45にキャリッジ5をピボット軸7の周りに回転させる方向に加振力を入力し、磁気ヘッド位置の変位の周波数応答を有限要素法により計算した。
【0036】
また、マイクロアクチュエータ(微動用アクチュエータ)13で駆動されるサスペンション部(ヘッド支持機構)10の重量は8mg、制振器30の質量体37(図3参照)の重量は1mg、制振器30全体の重量は2mgとした。
【0037】
図11は、図9に示される比較例としての従来の磁気ディスク装置に係るキャリッジの周波数特性を計算により求めたものである。実線がゲイン特性を示している。計算に際して、ピボット軸7の両端を固定しVCMコイル45にキャリッジ105をピボット軸7の周りに回転させる方向に加振力を入力し、磁気ヘッド位置の変位の周波数応答を計算した。また、マイクロアクチュエータ13で駆動されるサスペンション部10の重量は8mg、ここで、バランス駆動機構130の質量は、質量体(ダミーマス)132,マイクロアクチュエータ(圧電素子)131,及びこれらを搭載するマウントプレート114も含めて43mgである。
【0038】
図10、図11を比較すると、最も周波数の低い主共振モードのピーク61,62の周波数が、図10に示す本実施の形態の場合のピーク61が9kHzであるのに対し、図11に示す比較例の場合のピーク62が7.8kHzであり、従来技術に対し本発明の実施形態では、粗動アクチュエータとしてのVCMアクチュエータのキャリッジ5の主共振周波数がおよそ15%向上していることが分かる。
【0039】
図12は、図8に示した本実施の形態の磁気ディスク装置に係るキャリッジにおいて、マイクロアクチュエータ(微動用アクチュエータ)13のみを動作させたときの磁気ヘッド位置の周波数応答を計算したものである。ピーク63は、特許文献2に記載されているスウェイモードのピークであり、従来技術及び本技術の制振器30の働きは、ピーク63として現れるスウェイモードを抑制し、振動特性を改善することである。
【0040】
図13は、図8に示した本実施の形態の磁気ディスク装置のキャリッジにおいて、マイクロアクチュエータ(微動用アクチュエータ)13及び制振器30を動作させたときの磁気ヘッド位置の周波数応答を計算したものである。スウェイモードのピーク64は略抑制され、周波数応答上の最低周波数のピークは65に移っている。結果として、最低周波数のピークの周波数をピーク63及び64の13kHzからピーク65の16kHzへと約20%改善している。
【0041】
図10〜13の結果より、本発明により微動アクチュエータ13であるマイクロアクチュエータの主共振周波数及び粗動アクチュエータであるキャリッジ5の主共振周波数の両者を向上させることが分かる。これにより、粗動・微動両方の制御帯域を向上させることができ、より高い位置決め精度を実現できる。
【0042】
図14は、本発明の別の実施形態のヘッド支持機構の斜視図である。
図15は、図14に示したヘッド支持機構を裏側(ディスク盤面側)から見た分解斜視図である。
【0043】
本実施の形態においては、図3、図4に示した制振器30と同様のベース部31,共振器35,一対の圧電素子41,42を有する制振器が、制振器ユニット70として予備組立が可能なアッセンブリとして構成され、この制振器ユニット70が微動用アクチュエータ13が形成されるマウントプレート14に接合される構成になっている。例えば、制振器ユニット70のマウントプレート14に対する接合は、マウントプレート14に制振器ユニット70のベース部31並びに共振器35に合わせた大きさの取付孔23を設け、この制振器ユニット70の非可動・非変形構成部分を取付孔23周囲のプレート部分に対して接着或いは溶接により接合すればよい。
【0044】
本実施の形態は、上述した制振器30について、制振器ユニット70からなるアッセンブリ構成とすることで、制振器30と同様に微細な加工・組立が必要となるマイクロアクチュエータ13の加工を別々に行うことができ、精度や歩留まりの向上を図ることができる。
【0045】
また、以上述べた実施の形態では、微動用アクチュエータ13としてサスペンション駆動型のマイクロアクチュエータを備えた磁気ディスク装置を例示したが、スライダ11を駆動するスライダ駆動型のマイクロアクチュエータを備えた磁気ディスク装置にも適用可能である。
【符号の説明】
【0046】
1 磁気ディスク装置、 2 ディスク、 3 スピンドルモータ、
4 ボイスコイルモータ(VCM)、 5 キャリッジ、 6 キャリッジアーム、
7 ピボット軸、 8 取付ベース、 9 取付孔、 10 ヘッド支持機構、
11 スライダ、 12 ロードビーム、 13 微動用アクチュエータ、
14 マウントプレート、 15,16 圧電素子、 17 環状凸部、
18,19 可撓腕部、 20 中空部、 21,22 連結部、 23 取付孔、
30 制振器、 31 ベース部、 32 梁部、 33 搭載部、 34 空間部、
35 共振器、 36 フレーム、 37 質量体、 38 脚部、 39 接続部、
40 案内溝、 41,42 圧電素子、 43,44 増幅器、
45 VCMコイル、 50 制御信号、 70 制振器ユニット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
情報を記載するディスクと、
該ディスクに対し情報の読み書きをする磁気ヘッドと、
該磁気ヘッドを支持するヘッド支持機構と、
該ヘッド支持機構を保持する支持アームと、
前記支持アームを前記ディスクのトラック方向と交差する方向に変位駆動する粗動アクチュエータと
前記ヘッド支持機構を前記ディスクのトラック方向と交差する方向に微小変位駆動する微動変位用の微動アクチュエータと、
を備えた磁気ディスク装置であって、
質量体が所定方向に変位可能に弾性支持された共振器と、
該共振器が搭載される搭載部が該所定方向に変位可能に弾性支持されたベース部と、
該ベース部の搭載部を前記所定方向に変位駆動する制振用の微動アクチュエータと
を有する制振器を設け、
該制振器は、前記所定方向が前記微動アクチュエータの駆動による前記磁気ヘッドの変位方向と同じくなるようにして前記ヘッド支持機構に配置され、前記微動変位用の微動アクチュエータ及び前記制振用の微動アクチュエータは、前記磁気ヘッドの微動変位方向と前記搭載部の変位方向とが互いに逆位相となるように駆動される
ことを特徴とする磁気ディスク装置。
【請求項2】
前記共振器は、前記質量体が前記所定方向に第1のばね部材によって弾性支持され、
前記ベース部は、前記搭載部が前記所定方向に第2のばね部材によって弾性支持され、
前記第1のばね部材のばね定数は前記第2のばね部材のばね定数よりも大きく、前記質量体と前記第2のばね部材により決まる共振周波数が前記制振器による補償の対象の共振ピークの周波数よりも高い
ことを特徴とする請求項1記載の制振器。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate


【公開番号】特開2011−253603(P2011−253603A)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−128850(P2010−128850)
【出願日】平成22年6月4日(2010.6.4)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、「超高密度ナノビット磁気記録技術の開発(グリーンITプロジェクト)」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】