説明

磁気ディスク製造支援方法および磁気ディスクの製造方法

【課題】クリーンルームに入れる直前のガラス基板への塵埃や異物の付着を防止し、パーティクルで汚染されていないガラス基板に磁性層を成膜させることにより、磁気ディスクの歩留まりを向上させることが可能な磁気ディスク製造支援方法および磁気ディスクの製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明にかかる磁気ディスク製造支援方法は、第一および第二の梱包袋で二重に梱包された磁気ディスク用ガラス基板100から製造される磁気ディスクの製造を支援する磁気ディスク製造支援方法において、第一の梱包袋210を第一の室310で開梱する第一開梱工程と、第二の梱包袋220を第二の室320で開梱する第二開梱工程と、磁気ディスク用ガラス基板をクリーンルーム330へ搬入する搬入工程と、を含み、第一開梱工程および第二開梱工程では、第二の室から第一の室へ向けて気流を流すことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気ディスク製造支援方法および磁気ディスクの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、情報化技術の高度化に伴い、情報記録技術、特に磁気記録技術は著しく進歩している。磁気記録媒体のひとつであるHDD(ハードディスクドライブ)等の磁気記録媒体用基板として、磁気ディスクの小型化、薄板化、および高密度記録化に伴い、従来多く用いられてきたアルミニウム基板に代えて基板表面の平坦性及び基板強度に優れたガラス基板が用いられるようになってきている。
【0003】
また、磁気記録技術の高密度化に伴い、磁気ヘッドの方も薄膜ヘッドから、磁気抵抗型ヘッド(MRヘッド)、巨大磁気抵抗型ヘッド(GMRヘッド)へと推移してきていて、磁気ヘッドの基板からの浮上量が20nmから5nm程度にまで狭くなってきている。このような磁気抵抗効果型素子を搭載した磁気ヘッドには固有の障害としてヘッドクラッシュ障害やサーマルアスペリティ障害を引き起こす場合がある。これらの障害は磁気ディスク面上の微小な凹凸によって発生するため、磁気ディスク表面は極めて高度な平滑度および平坦度が求められる。
【0004】
上述のように平滑度・平坦度が重視される磁気ディスク用ガラス基板は、塵埃などによるパーティクルがガラス基板の表面に付着して汚染されることを嫌う。パーティクルが付着したガラス基板に磁性層を形成すると磁気ディスクの表面にパーティクルを内包した凸状欠陥が形成され、ヘッドクラッシュ傷害やサーマルアスペリティ障害の原因となるからである。したがって、ガラス基板の表面に磁性層を形成する作業は、通常、クリーンルームにて行う。ここで、製造されたガラス基板をクリーンルームまで輸送する間にガラス基板に付着するパーティクルの問題が生じる。
【0005】
かかるパーティクルの付着を防ぐため、製造されたガラス基板は、例えば、収納容器に収納され、第一の梱包袋および第二の梱包袋で二重に梱包された後に、クリーンルームのある磁気ディスク製造施設に配送される(例えば特許文献1)。このとき、ガラス基板は梱包袋中に密封されているため、パーティクルや異物の梱包袋内への侵入を防止することができる。
【0006】
また、例えば特許文献2のような素材の包装袋を使用して、輸送中のガラス基板の汚染を防ぐ技術が提案されている。特許文献2では、ガラス基板を水蒸気透過率が5g/m・day以下である包装部材によって保持体と共に密封包装することにより、輸送時や保管時などにガラス基板の主表面の劣化を防いでいる。
【特許文献1】特開平11−157591号公報
【特許文献2】特開2001−240178号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1または特許文献2のように、輸送中の梱包方法を工夫するだけでは、梱包を開梱してガラス基板をクリーンルーム内に搬入する際に、ガラス基板が汚染されるおそれがある。梱包されたガラス基板は、船や飛行機、列車等によって運搬されることもあり、塵埃が多い空間に配置されたり、外気に晒されたりするため、梱包袋には配送中にパーティクルや異物が付着する。かかるパーティクルによって、輸送中に汚染から防護してきたガラス基板がクリーンルームに入れる直前に汚染されてしまうおそれがある。
【0008】
磁気ディスク製造工程においては、まずガラス基板の受入作業として洗浄を行っている。したがって開梱したガラス基板にパーティクルが付着していたとしても大きな問題ないと考えられていた。しかし受入作業において洗浄を行ったとしても、総てのパーティクルが除去できるわけではないため、当初から付着しているパーティクルが多いと、基板表面に残留するパーティクルの量も増えてしまう。また基板表面に付着していたパーティクルが洗浄の際に基板表面に傷を付けてしまうおそれもある。さらには、今後のさらなる高記録密度化に際して、従来であれば問題にならなかったような小さな凸状欠陥や凹状欠陥(傷)なども許容されなくなってきている。したがって、成膜工程においてガラス基板に平滑な磁性層を形成することができず、最終製品である磁気ディスクの良品率が低下する。
【0009】
本発明はこのような課題に鑑み、クリーンルームに入れる直前のガラス基板への塵埃や異物の付着を防止し、パーティクルで汚染されていないガラス基板に磁性層を成膜させることにより、磁気ディスクの歩留まりを向上させることが可能な磁気ディスク製造支援方法および磁気ディスクの製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願発明者らが開梱工程におけるパーティクルや異物の除去方法について鋭意検討した結果、二重梱包されたガラス基板をクリーンルームに搬入する直前の開梱方法や開梱を行う室の環境を改善することによって、成膜工程直前でのガラス基板へのパーティクルや異物の付着を防止し、成膜工程においてガラス基板に平滑な磁性層を形成し、ひいては最終製品である磁気ディスクの良品率を向上できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
上記課題を解決するために、本発明にかかる磁気ディスク製造支援方法の代表的な構成は、第一および第二の梱包袋で二重に梱包された磁気ディスク用ガラス基板から製造される磁気ディスクの製造を支援する磁気ディスク製造支援方法において、第一の梱包袋を第一の室で開梱する第一開梱工程と、第二の梱包袋を第二の室で開梱する第二開梱工程と、磁気ディスク用ガラス基板をクリーンルームへ搬入する搬入工程と、を含み、第一開梱工程および第二開梱工程では、第二の室から第一の室へ向けて気流を流すことを特徴とする。
【0012】
かかる構成により、輸送中に外側の第一の梱包袋に付着したパーティクルや異物の大半を、第一の室で第一の梱包袋を開梱するときに除去することができ、第二の室へのパーティクルや異物の持ち込み量が少なくなり、第一の梱包袋および第二の梱包袋を同一の室で開梱した場合よりも、最終的なクリーンルームへの異物やパーティクルの持ち込み量を低減することが可能となる。また、第二の室から第一の室へ向けて気流を流すことにより、第一の室内に散乱したパーティクルや異物の第二の室への侵入を防ぎ、依然としてガラス基板を梱包している内側の第二の梱包袋への塵埃や異物の付着を防止することができる。このように塵埃の付着から防護された第二の梱包袋をクリーンルームの直前の第二の室で開梱すれば、ガラス基板に付着するパーティクルの数は格段に減少する。したがって、磁気ディスクの歩留まりを向上させることが可能となる。
【0013】
本発明にかかる磁気ディスク製造支援方法の他の構成は、第一および第二の梱包袋で二重に梱包された磁気ディスク用ガラス基板から製造される磁気ディスクの製造を支援する磁気ディスク製造支援方法において、第一の梱包袋を第一の室で開梱する第一開梱工程と、第二の梱包袋を第二の室で開梱する第二開梱工程と、磁気ディスク用ガラス基板をクリーンルームへ搬入する搬入工程と、を含み、第二の室内の圧力は、第一の室内の圧力より高いことを特徴とする。
【0014】
かかる構成により、第二の室から第一の室に向かう気流を発生させることができる。したがって、上述のように、第一開梱工程の際に第一の室に散乱したパーティクルや異物の第二の室への侵入を防ぐことが可能となる。
【0015】
上記の気流は、ファンによって流すとよい。ファンを使用することにより、第二の室から第一の室へ向けて強制的に気流を発生させることができる。
【0016】
上記の第二の室内の圧力は、エアコンプレッサ(圧縮機)を用いて加圧することによって第一の室内の圧力より高圧にするとよい。
【0017】
エアコンプレッサを用いて第二の室内の圧力を第一の室内の圧力より高くすることにより、第二の室から第一の室に向かう気流を発生させることができる。上記の第一の室内の圧力は、減圧機を用いて減圧することによって第二の室内の圧力より低圧にするとよい。
【0018】
減圧機を用いて第一の室内の圧力を第二の室内の圧力より低くすることにより、上述のように、第二の室から第一の室に向かう気流を発生させることができる。
【0019】
上記課題を解決するために、本発明にかかる磁気ディスクの製造方法は、上述した磁気ディスク用の製造支援方法により開梱されたガラス基板の表面に、少なくとも磁性層を形成する成膜工程を行うことを特徴とする。
【0020】
上述した磁気ディスク製造支援方法の技術的思想に基づく構成要素やその説明は、当該磁気ディスクの製造方法にも適用可能である。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、クリーンルームに入れる直前のガラス基板への塵埃や異物の付着を防止し、パーティクルで汚染されていないガラス基板に磁性層を成膜させることにより、磁気ディスクの歩留まりを向上させることが可能な磁気ディスク製造支援方法および磁気ディスクの製造方法を提供することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値などは、発明の理解を容易とするための例示にすぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0023】
まず、本実施形態にかかる磁気ディスク用ガラス基板について説明する。図1は、本発明にかかる磁気ディスク用ガラス基板を説明する図であり、図1(a)は磁気ディスク用ガラス基板の斜視図である。磁気ディスク用ガラス基板100は、円板形状をしていて、その中心には内孔が形成されている。主表面110は、情報を記録再生するための領域であるため、記録ヘッドが浮上走行するために実質的に平滑になっている。
【0024】
図1(b)は、図1(a)のX−X断面図である。磁気ディスク用ガラス基板100は、情報の記録再生領域となる主表面110と、当該主表面110に対して直交している端面120と、当該主表面110と端面120との間に介在している面取面130とを備えている。なお、後述する端面研磨工程により端面120と面取面130との境界が不明瞭となる場合もあるため、本実施形態は端面120とその両側の面取面130があわせて1つの曲面を構成する場合も含むものとする。
【0025】
磁気ディスクの成膜工程前に磁気ディスク用ガラス基板100、特にその主表面110にパーティクルや異物が付着すると、成膜工程においてガラス基板に平滑な磁性層を形成することができず、最終製品である磁気ディスクの良品率が低下する。
【0026】
図2は、ガラス基板のケースへの収納状態を説明する図である。図2(a)は、ガラス基板を保管するための容器であるプラスチック製の略直方体のガラス基板ケースの拡大図である。ケース200は25枚のガラス基板を収納可能とし、ガラス基板100はケース200に保存される。ガラス基板100が収納されたケース200は、図2(b)のように複数個を積み重ねることができる。
【0027】
図3は、ガラス基板が収納されたケースの梱包状態を説明する図である。ガラス基板100が収納されたケース200は、図2(b)に示すような複数個(本実施形態では4個)積み重ねられた状態で、アルミニウムラミネートフィルム製の第二の梱包袋220によって、脱気を行いながら密封梱包され、図3(a)に示す梱包体222となる。
【0028】
その後、プラスチックフィルム製の第一の梱包袋210によって、脱気を行いながら或いは行わない状態で密封梱包され、図3(b)に示す二重梱包体212となる。このプラスチックフィルムは、例えばポリエチレンとしてよい。なお、本実施形態においては、ケース200を複数個積み重ねた状態で梱包しているが、ケース200一つごとに梱包してもよい。
【0029】
次に本実施形態にかかる磁気ディスク製造支援方法について説明する。
【0030】
上記のように梱包されたガラス基板100は、ガラス基板製造施設から出荷され、磁気ディスク製造施設へ運搬される。磁気ディスク製造施設到着後、開梱工程が行われる。
【0031】
図4は、開梱工程を行う室を説明する図である。成膜工程はクリーンルーム330に設置している生産ラインで行われる。そして、そのクリーンルーム330に隣接している部屋は、第二の梱包袋を開梱する第二の室320であり、当該第二の室320の、クリーンルーム330とは逆側に隣接している部屋は、第一の梱包袋を開梱する第一の室310である。
【0032】
二重梱包されたガラス基板100、すなわち二重梱包体212は、第一の室310に搬入される。そして、第一開梱工程にて外側の第一の梱包袋210が開梱され、第二の梱包袋220のみで梱包されている梱包体222となる。かかる梱包体222は第二の室320に搬入され、第二開梱工程にて第二の梱包袋220が開梱される。その後、ガラス基板100は、梱包袋がはずされてケース200に収納された状態で、後に説明する搬入工程にてクリーンルーム330に搬入される。
【0033】
かかる構成により、第一の梱包袋210に付着していたパーティクルや異物が第一の室310内に散乱しても、第二の梱包袋220は第二の室320で開梱するため、第二の梱包袋220の開梱時のガラス基板100へのパーティクルや異物の付着を防止することができる。また、第一の室310とクリーンルーム330の間に第二の室320が設けられているため、クリーンルーム330へのパーティクルや異物の侵入を防止することができる。
【0034】
また、図4では、第一の室310にファン340を設置し、第一の室310内の空気を室外へ排出することによって気流が発生し、第二の室320から第一の室310に空気が流れ込むようにしている。このように、第二の室320から第一の室310に向けて気流が発生させることにより、第一の梱包袋210に付着していたパーティクルや異物が第一の室310内に散乱しても、第一の室310から第二の室320へのパーティクルや異物の侵入を低減することが可能となる。
【0035】
なお、本実施形態においては、第一の室310にファン340を設置しているが、第二の室320または、第一の室310と第二の室320の両方にファン340を設置してもよい。また、上述の気流を発生させる他の手段としては、第一の室310内と第二の室320内との圧力に高低差を設ける方法が挙げられる。このとき、第二の室320内の圧力は第一の室310内の圧力より高くなるように設定する。かかる高低差を設ける方法としては、第二の室320内の圧力をエアコンプレッサを用いて加圧する方法や第一の室310内の圧力を、減圧機を用いて減圧する方法が挙げられる。
【0036】
上述した如く、本実施形態にかかる磁気ディスク製造支援方法によれば、開梱工程時におけるガラス基板へのパーティクルや異物の付着を防止し、かつ、クリーンルームへのパーティクルや異物の侵入を防止することができる。したがって、成膜工程においてガラス基板に平滑な磁性層を成膜させることにより、磁気ディスクの歩留まりを向上させることが可能となる。
【0037】
(実施例)
以下に、本発明を適用した磁気ディスク製造支援方法および磁気ディスクの製造方法について実施例を説明する。この磁気ディスク用ガラス基板100および磁気ディスクは、0.8インチ型ディスク(内径6mm、外径21.7mm、板厚0.381mm)、1.0インチ型ディスク(内径7mm、外径27.4mm、板厚0.381mm)、1.8インチ型磁気ディスク(内径12mm、外径48mm、板厚0.508mm)などの所定の形状を有する磁気ディスクとして製造される。また、2.5インチ型ディスクや3.5インチ型ディスクとして製造してもよい。
【0038】
(1)形状加工工程および第1ラッピング工程
本実施例においてガラス基板100の材質としてはソーダライムガラス、アルミノシリケートガラス、ボロシリケートガラス、結晶化ガラス等が挙げられるが、中でもアルミノシリケートガラスが好適である。アルミノシリケートガラスは、平滑かつ高剛性が得られるので、磁気的スペーシング、特に、磁気ヘッドの浮上量をより安定して低減できる。また、アルミノシリケートガラスは化学強化により、高い剛性強度を得ることができる。
【0039】
まず、溶融させたアルミノシリケートガラスを上型、下型、胴型を用いたダイレクトプレスによりディスク形状に成型し、アモルファスの板状ガラスを得た。なお、アルミノシリケートガラスとしては、化学強化用のガラスを使用した。ダイレクトプレス以外に、ダウンドロー法やフロート法で形成したシートガラスから研削砥石で切り出して円板状の磁気ディスク用ガラス基板100を得てもよい。なお、アルミノシリケートガラスとしては、SiO:58〜75重量%、Al:5〜23重量%、LiO:3〜10重量%、NaO:4〜13重量%を主成分として含有する化学強化ガラスを使用した。
【0040】
次に、この板状ガラスの両主表面をラッピング加工し、ディスク状のガラス母材とした。このラッピング加工は、遊星歯車機構を利用した両面ラッピング装置により、アルミナ系遊離砥粒を用いて行った。具体的には、板状ガラスの両面に上下からラップ定盤を押圧させ、遊離砥粒を含む研削液を板状ガラスの主表面上に供給し、これらを相対的に移動させてラッピング加工を行った。このラッピング加工により、平坦な主表面を有するガラス母材を得た。
【0041】
(2)切り出し工程(コアリング、フォーミング)
次に、ダイヤモンドカッタを用いてガラス母材を切断し、このガラス母材から円板状のガラス基板を切り出した。次に、円筒状のダイヤモンドドリルを用いて、このガラス基板の中心部に内孔を形成し、円環状のガラス基板100とした(コアリング)。そして内周端面および外周端面120をダイヤモンド砥石によって研削し、所定の面取り加工を施した(フォーミング)。
【0042】
(3)第2ラッピング工程
次に、得られたガラス基板100の両主表面110について、第1ラッピング工程と同様に、第2ラッピング加工を行った。この第2ラッピング工程を行なうことにより、前工程である切り出し工程や端面研磨工程において主表面に形成された微細な凹凸形状を予め除去しておくことができ、後続の主表面110に対する研磨工程を短時間で完了させることができるようになる。
【0043】
(4)端面研磨工程
次に、ガラス基板100の外周の端面研磨を行なう。まず端面120については、面取面130に先立ち、単独で研磨を行なう。研磨の方法は、例えば複数枚のガラス基板100を同時にブラシにて研磨する方法でもよいが、取代が多くなってしまう。そこで、例えば枚葉式の研磨方法を用いてよい。
【0044】
続いて面取面130については、鏡面研磨を行った。これにより、1枚のガラス基板100の面取面130の、外周の全周における表面粗さの差は、0.001μm以下の範囲になった。そして、端面研磨工程を終えたガラス基板100を水洗浄した。この端面研磨工程により、ガラス基板100の端面120は、ナトリウムやカリウムの析出の発生を防止できる鏡面状態に加工された。
【0045】
なお、本実施例では端部の研磨を行った後に面取面130の研磨を行なうよう説明した。しかしこの順序については任意であって、面取面130の研磨を先に行ってから端面120の研磨を行ってもよい。
【0046】
次に、内周端面については、多数枚積層したガラス基板ブロックを形成し、面取りした内周端部をブラシロールにて同時に研磨してよい。このとき、研磨砥粒としては、酸化セリウム砥粒を含むスラリー(遊離砥粒)を用いた。
【0047】
(5)主表面研磨工程
主表面研磨工程として、まず第1研磨工程を施した。この第1研磨工程は、前述のラッピング工程において主表面110に残留したキズや歪みの除去を主たる目的とするものである。この第1研磨工程においては、遊星歯車機構を有する両面研磨装置により、硬質樹脂ポリッシャを用いて、主表面110の研磨を行った。研磨剤としては、酸化セリウム砥粒を用いた。
【0048】
この第1研磨工程を終えたガラス基板100を、中性洗剤、純水、IPA(イソプロピルアルコール)、の各洗浄槽に順次浸漬して、洗浄した。
【0049】
次に、主表面研磨工程として、第2研磨工程を施した。この第2研磨工程は、主表面110を鏡面状に仕上げることを目的とする。この第2研磨工程においては、遊星歯車機構を有する両面研磨装置により、軟質発泡樹脂ポリッシャを用いて、主表面110の鏡面研磨を行った。研磨剤としては、第1研磨工程で用いた酸化セリウム砥粒よりも微細な酸化セリウム砥粒を用いた。
【0050】
この第2研磨工程を終えたガラス基板100を、中性洗剤、純水、IPA(イソプロピルアルコール)の各洗浄槽に順次浸漬して、洗浄した。なお、各洗浄槽には、超音波を印加した。
【0051】
(6)化学強化工程
次に、前述のラッピング工程および研磨工程を終えたガラス基板100に、化学強化を施した。化学強化は、硝酸カリウム(60%)と硝酸ナトリウム(40%)を混合した化学強化溶液を用意し、この化学強化溶液を400℃に加熱しておくとともに、洗浄済みのガラス基板100を300℃に予熱し、化学強化溶液中に約3時間浸漬することによって行った。この浸漬の際には、ガラス基板100の表面全体が化学強化されるようにするため、複数のガラス基板100が端面120で保持されるように、ホルダに収納した状態で行った。
【0052】
このように、化学強化溶液に浸漬処理することによって、ガラス基板100の表層のリチウムイオンおよびナトリウムイオンが、化学強化溶液中のナトリウムイオンおよびカリウムイオンにそれぞれ置換され、ガラス基板100が強化される。ガラス基板100の表層に形成された圧縮応力層の厚さは、約100μm乃至200μmであった。
【0053】
化学強化処理を終えたガラス基板100を、20℃の水槽に浸漬して急冷し、約10分間維持した。そして、急冷を終えたガラス基板100を、約40℃に加熱した濃硫酸に浸漬して洗浄を行った。さらに、硫酸洗浄を終えたガラス基板100を純水、IPA(イソプロピルアルコール)の各洗浄槽に順次浸漬して洗浄した。なお、各洗浄槽には超音波を印加した。
【0054】
上記の如く、第1ラッピング工程、切り出し工程、端面研磨工程、第2ラッピング工程、第1および第2研磨工程、ならびに化学強化工程を施すことにより、平坦で平滑な、高剛性の磁気ディスク用ガラス基板100を得た。
【0055】
(7)検査工程
得られた磁気ディスク用ガラス基板100の主表面110について平滑性の検査を行った。検査工程は、表面欠陥検出装置(AOI:Automatic Optical Inspection)やOSA(Optical Surface Analyzer)等の機器を用いて、磁気ディスク用ガラス基板100に光を照射し磁気ディスク用ガラス基板100から反射した光の強度もしくは変位のいずれか一方または両方を測定し、付着物、凹部および凸部が存在するか否か等を測定し、基板状態を評価する。
【0056】
(8)梱包工程
25枚の磁気ディスク用ガラス基板100をケース200に収容し、ケース200を4個重ね、アルミニウムラミネートフィルム製の第二の梱包袋220に入れ、第二の梱包袋220内を減圧しながら密封梱包し、梱包体222とした。かかる梱包体222を、次にプラスチックフィルム製の第一の梱包袋210に入れ、第一の梱包袋210内を減圧しながら密封梱包し、二重梱包体212とした。このように、ガラス基板100を密封しながら二重梱包することにより、梱包袋内への水蒸気やガスの透過が効果的に防止され、ガラス基板100への水蒸気やガスの接触を防ぎ、配送中のガラス基板100の品質を良好な状態に保つことが可能となる。
【0057】
上記のように、ガラス基板100がケース200に収納され、第一の梱包袋210および第二の梱包袋220で二重に密封梱包された二重梱包体212は、ガラス基板製造施設から出荷し、船や飛行機、列車等によって磁気ディスク製造施設へ運搬した。以下に、磁気ディスク製造施設において行われる磁気ディスクの製造支援工程の詳細および磁気ディスクの製造工程を説明する。
【0058】
(9)第一開梱工程
二重梱包体212の二重の梱包袋のうち、外側の梱包袋である第一の梱包袋210を第一の室310において開梱し、梱包体222とした。かかる第一の室310は、第二の室320と隣接していて、第二の室320から気流が流れこんでいる。
【0059】
(10)第二開梱工程
梱包体222の第二の梱包袋220を第二の室320において開梱した。かかる第二の室320は、第一の室310および、生産ラインが設置されているクリーンルーム330と隣接していて、第一の室310に向かって気流が発生している。
【0060】
(11)搬入工程
ガラス基板100上に磁性層を形成する成膜工程を行うため、ケース200に収納されたガラス基板100を、生産ラインが設置されているクリーンルーム330へ搬送する。
【0061】
[評価]
かかる製造支援工程によって開梱されたガラス基板における本実施例の有効性について説明する。有効性は、パーティクルの数によって検証する。後述の図5では、100枚のガラス基板を表面欠陥検出装置でカウントし、その平均値を「パーティクル数」とした。
【0062】
図5は、実施例および比較例におけるパーティクル数をカウントした結果を示す図である。ここで、実施例とは、ファンを用いて第二の室から第一の室に向けて強制的に気流を流し、第一開梱工程を第一の室で、第二開梱工程を第二の室で行った場合であり、比較例1は第一開梱工程と第二開梱工程を同じ室で行った場合、比較例2は第一の室と第二の室との間での気流を流さず、第一開梱工程を第一の室で、第二開梱工程を第二の室で行った場合、比較例3はファンを用いて、逆方向、すなわち第一の室から第二の室に向けて強制的に気流を流し、第一開梱工程を第一の室で、第二開梱工程を第二の室で行った場合である。
【0063】
図5に示すように、比較例1および比較例2、比較例3におけるパーティクル数に比べて、実施例におけるパーティクル数は著しく小さい。かかる原因としては、比較例1は第一開梱工程と第二開梱工程を同じ室で行っているため、第一開梱工程において外側の第一梱包袋に搬送中に付着したパーティクルや異物が室内に散乱し、第二開梱工程において内側の第二梱包袋を開梱した際に、ガラス基板にパーティクルや異物が付着するためと考えられる。また、第一開梱工程および第二開梱工程を行った部屋とクリーンルームが隣接していると、室内に散乱した第二梱包袋に付着していたパーティクルや異物がクリーンルーム内に持ち込まれることも考えられる。
【0064】
比較例2においてパーティクル数が大きい原因としては、第一の室と第二の室間で気流の流れがないため、第一開梱工程時に第一の室に散乱したパーティクルや異物が第二の室に容易に持ち込まれるため、第二の室におけるパーティクルや異物の量を低減しきれず、第二開梱工程時にパーティクルや異物がガラス基板に付着すると考えられる。ただし比較例1よりパーティクル数は少ない。このように、気流なし、という共通の条件下では、別々の室で二重梱包のそれぞれの袋を開梱したほうが、同一の室で行うより明らかに成績が良くなることが分かる。
【0065】
また、比較例3においてパーティクル数が最も大きい。その原因としては、第一の室から第二の室へ向けて気流を流すため、第一梱包袋を梱包した際に第一の室に散乱したパーティクルや異物が気流に乗って第二の室に流れ込む。したがって、第一の室に散乱したパーティクルや異物の大部分が第二の室に持ち込まれるため、第二開梱工程において第二の梱包袋を開梱した際に、大量のパーティクルや異物がガラス基板に付着すると考えられる。また、第一の室から第二の室に向けて気流が流れているため、気流に乗ったパーティクルや異物が、第二の室の、第一の室とは反対側に隣接しているクリーンルームにまで到達することにより、クリーンルーム内のパーティクルや異物の量が増加することも考えられる。
【0066】
以上の結果から、第二の室から第一の室に向けて気流を流すことにより、生産ラインが設置されているクリーンルームへの搬入後、すなわち、成膜工程直前でのガラス基板へのパーティクルや異物の付着を防止することができることがわかる。これにより、成膜工程時にガラス基板上に平滑な磁性層を形成することができ、ひいては磁気ディスクの歩留まりを向上させることが可能となる。
【0067】
(12)磁気ディスク製造工程(成膜工程)
上述した製造工程および製造支援工程を経て得られたガラス基板100の両面に、ガラス基板100の表面にCr合金からなる付着層、CoTaZr基合金からなる軟磁性層、Ruからなる下地層、CoCrPt基合金からなる垂直磁気記録層、水素化炭素からなる保護層、パーフルオロポリエーテルからなる潤滑層を順次成膜することにより、垂直磁気記録ディスクを製造した。なお、本構成は垂直磁気ディスクの構成の一例であるが、面内磁気ディスクとして磁性層等を構成してもよい。
【0068】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施例について説明したが、本発明はかかる実施例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明は、磁気ディスク製造支援方法および磁気ディスクの製造方法に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本発明にかかる磁気ディスク用ガラス基板を説明する図である。
【図2】ガラス基板のケースへの収納状態を説明する図である。
【図3】ガラス基板が収納されたケースの梱包状態を説明する図である。
【図4】開梱工程を行う室を説明する図である。
【図5】実施例および比較例におけるパーティクル数の結果を示す図である。
【符号の説明】
【0071】
100…(磁気ディスク用)ガラス基板
110…主表面
120…端面
130…面取面
200…ケース
210…第一の梱包袋
212…二重梱包体
220…第二の梱包袋
222…梱包体
310…第一の室
320…第二の室
330…クリーンルーム
340…ファン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一および第二の梱包袋で二重に梱包された磁気ディスク用ガラス基板から製造される磁気ディスクの製造を支援する磁気ディスク製造支援方法において、
前記第一の梱包袋を第一の室で開梱する第一開梱工程と、
前記第二の梱包袋を第二の室で開梱する第二開梱工程と、
前記磁気ディスク用ガラス基板をクリーンルームへ搬入する搬入工程と、
を含み、
前記第一開梱工程および前記第二開梱工程では、前記第二の室から前記第一の室へ向けて気流を流すことを特徴とする磁気ディスク製造支援方法。
【請求項2】
第一および第二の梱包袋で二重に梱包された磁気ディスク用ガラス基板から製造される磁気ディスクの製造を支援する磁気ディスク製造支援方法において、
前記第一の梱包袋を第一の室で開梱する第一開梱工程と、
前記第二の梱包袋を第二の室で開梱する第二開梱工程と、
前記磁気ディスク用ガラス基板をクリーンルームへ搬入する搬入工程と、
を含み、
前記第二の室内の圧力は、前記第一の室内の圧力より高いことを特徴とする磁気ディスク製造支援方法。
【請求項3】
前記第一の室内の圧力は、減圧機を用いて減圧することによって前記第二室の内の圧力より低圧にすることを特徴とする請求項2に記載の磁気ディスク製造支援方法。
【請求項4】
請求項1から3までのいずれか1項に記載の方法で開梱した磁気ディスク用ガラス基板に少なくとも磁性層を形成する成膜工程を行うことを特徴とする磁気ディスクの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−163802(P2009−163802A)
【公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−340829(P2007−340829)
【出願日】平成19年12月28日(2007.12.28)
【出願人】(000113263)HOYA株式会社 (3,820)
【出願人】(503069159)ホーヤ ガラスディスク タイランド リミテッド (85)
【Fターム(参考)】