説明

磁気ディスク記録装置及び磁気記録用ヘッド

【課題】情報の読み書きができない磁気ディスクの空白領域の長さを短くする。
【解決手段】読み取り素子部13と記録素子部14がそれぞれ磁気ディスク2の回転方向(周速V)の下流側及び上流側に配置されている。磁気ディスク2の回転方向における読み取り素子部13と記録素子部14間の距離Lwrは制御系が記録動作から読み取り動作に切り替わるまでに要する時間Twrの間における磁気ディスク2の移動距離V・Twr以下の長さに設定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、情報読み取り用の読み取り素子と情報記録用の記録素子を備える磁気記録用ヘッド及び同磁気記録用ヘッドを有する磁気ディスク記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気ディスク記録装置の記録密度を向上させるための技術の一つとして、ビットパターンドメディア(BPM)記録方式が知られている。BPM記録方式とは、磁気ディスク上に形成された磁気的に孤立したドット又はドット群に情報の1ビットを対応付けさせて情報を記録する方式である。
【0003】
BPM記録方式に従って情報を記録する際には、ドット又はドット群の配列周期と記録電流の遷移タイミングを同期させる必要がある。この同期が不完全である場合、磁気ディスクに情報が正確に記録されないライトエラーが発生する。具体的には、ドット又はドット群の位置で記録電流が遷移した場合には、ドット又はドット群の磁化方向が定まらず、ライトエラーが発生する。
【0004】
ドット又はドット群の配列周期と記録電流の遷移タイミングを同期させるためには、ドット又はドット群の配列周期と同期した情報記録用のクロック信号を精度よく生成する必要がある。このような背景から、磁気ディスクの情報記録領域中に同期用パターンを周期的に埋め込み、情報記録領域に情報を記録している際、この同期用パターンを周期的に読み取ることにより、クロック信号の位相を正確に制御する方式が考えられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭61−276110号公報
【特許文献2】米国特許第4656546号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
同期用パターンが埋め込まれている磁気ディスクの情報記録領域(以下、同期領域と表記)ではクロック信号制御用の情報の読み出し動作だけが行われる。従って磁気記録用ヘッドが情報記録領域から同期領域に移動する際、磁気記録用ヘッドを構成する記録素子と読み取り素子間の距離や磁気ディスク記録装置の制御系が記録動作から読み取り動作に切り替わるまでに要する時間に起因して、同期領域の先頭部分に情報の読み書きができない情報記録領域(以下、空白領域と表記)が形成される。
【0007】
一般に空白領域の周方向長さは7.3〜12.0[μm]程度と短い。しかしながら空白領域が磁気ディスク中に1万個含まれる場合、空白領域の合計の周方向長さは73〜120[mm](磁気ディスクの1周長の62〜87[%]に相当)となり、磁気ディスクのフォーマットロスが非常に大きくなる。従って空白領域の周方向長さを短くすることにより磁気ディスクのフォーマット効率を向上させることが望まれる。
【0008】
開示の技術は、上記に鑑みてなされたものであり、空白領域の長さを短縮することが可能な磁気ディスク記録装置及び磁気記録用ヘッドを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願の開示する磁気ディスク記録装置及び磁気記録用ヘッドでは、読み取り素子部及び記録素子部はそれぞれ磁気ディスクの回転方向の下流側及び上流側に順に配置され、磁気ディスクの回転方向における読み取り素子部と記録素子部間の距離は、磁気ディスク記録装置の制御系が情報の記録動作から読み取り動作に移行するまでに要する遷移時間内における磁気ディスクの移動距離以下の長さに設定されている。
【発明の効果】
【0010】
本願の開示する磁気ディスク記録装置及び磁気記録用ヘッドによれば、空白領域の長さを短縮できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、実施例の磁気ディスク記録装置の概略構成を示す模式図である。
【図2】図2は、実施例の磁気記録用ヘッドの構成を示す部分拡大図である。
【図3】図3は、空白領域を説明するための磁気ディスクの部分拡大図である。
【図4】図4は、磁気記録用ヘッドの記録素子と読み取り素子の位置関係を説明するための模式図である。
【図5】図5は、実施例の磁気記録用ヘッドの制御方法を示すタイミングチャート図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本願の開示する磁気ディスク記録装置及び磁気記録用ヘッドの実施例を図面に基づいて詳細に説明する。但し、本実施例により本発明が限定されるものではない。
【0013】
〔磁気ディスク記録装置の構成〕
始めに、図1を参照して、実施例の磁気ディスク記録装置の構成を説明する。
【0014】
実施例の磁気ディスク記録装置1は、図1に示すように、記録媒体である磁気ディスク2と、磁気記録用ヘッド3と、アームアセンブリ4と、記録系5と、再生系6と、制御系7を含む。磁気記録用ヘッド3は、磁気ディスク2に対するデータの記録動作と読み取り動作を行う。アームアセンブリ4は、磁気記録用ヘッド3を支持すると共に磁気ディスク2に対する磁気記録用ヘッド3の位置決め制御を行う。
【0015】
記録系5は、アームアセンブリ4を介して磁気記録用ヘッド3のデータ読み取り動作を制御する。再生系6は、アームアセンブリ4を介して磁気記録用ヘッド3のデータ記録動作を制御する。制御系7は、記録系5及び再生系6の動作を制御することにより磁気ディスク記録装置1全体の動作を制御すると共に、インタフェイス(I/F)を介して各種情報を入出力する。
【0016】
〔磁気記録用ヘッドの構成〕
次に、図2を参照して、磁気記録用ヘッド3の構成を説明する。
【0017】
磁気記録用ヘッド3は、直方体形状のスライダー部材11により構成され、その先端部には図2に示すように素子構造12が形成されている。磁気ディスク2に対する素子構造12の対向面SはABS(Air Bearing Surface)面として機能する。素子構造12は、磁気的にコード化された情報を磁気ディスク2から読み取る読み取り素子部13と、磁気的にコード化された情報を磁気ディスク2に記録する記録素子部14を含む。なお図2に示す状態では、磁気ディスク2は、読み取り素子部13と記録素子部14の下方を右から左に向けて回転する。
【0018】
読み取り素子部13は、2つのシールド部材21a,21bと、2つのシールド部材21a,21b間に配置されたTMR(Tunnel Magneto-Resistive;トンネル磁気抵抗効果)センサ等の読み取り素子22を含む。読み取り素子22のセンシング層の磁化ベクトルは磁気ディスク2表面からの磁束によって回転し、磁化ベクトルの回転によって読み取り素子22の電気抵抗率が変化する。読み取り素子22の電気抵抗率の変化は、読み取り素子22に電流を流し、読み取り素子22の両端間の電圧を測定することにより検出できる。そして再生系6がこの電圧情報を再生信号として適当な形式に変換し、必要に応じてこの情報を加工して出力する。
【0019】
記録素子部14は、垂直ライタ(Perpendicular Writer)により構成され、記録磁極(主磁極)31とリターン磁極32を有する。記録磁極31とリターン磁極32は、ABS面Sでは書込みギャップにより互いに分離され、ABS面Sから離れた領域では互いに接続されている。記録磁極31とリターン磁極32間には絶縁層によって封入された複数の導電コイル33が配置されている。
【0020】
磁気ディスク2に情報を記録する際には、始めに、時間変化する書込み電流(記録信号)を導電コイル33に流すことにより記録磁極31とリターン磁極32を通り時間変化する磁界を生成する。次に、アームアセンブリ4を制御することによりABS面Sから所定距離の所に磁気ディスク2を配置し、磁気ディスク2が磁界の中を通過するようにする。
【0021】
磁界は記録磁極31から下層に至るギャップを橋絡して磁気ディスク2を通過し、続いて下層とリターン磁極32間の ギャップを橋絡して再び磁気ディスク2を通過する。この戻りの経路上で磁界がデータを書き込まないように、ABS面Sにおけるリターン磁極32は記録磁極31よりも大きく、そのため磁気ディスク2を通る磁界は磁気ディスク2の固有磁化を打ち負かす程には集中しない。
【0022】
〔読み取り素子部と記録素子部の位置関係〕
磁気ディスク2のデータ記録領域中には、図3に示すように、クロック信号の位相制御のための情報の読み出し動作が行われる同期領域R2が周期的に埋め込まれている。このような同期用領域R2が存在する場合、磁気記録用ヘッド3を構成する読み取り素子部13と記録素子部14間の距離や制御系7が記録動作から読み取り動作に切り替わるまでに要する時間に起因して、同期領域R2の先頭部分に情報の読み書きができない空白領域R1が形成される。なおこの空白領域R1は、同期領域R2だけでなく、磁気ヘッド3の位置決め制御用の情報の読み出し動作が行われるサーボ領域が存在する場合にも形成される。
【0023】
そこで本実施例の磁気記録用ヘッド3では、図4に示すように、読み取り素子部13と記録素子部14がそれぞれ磁気ディスク2の回転方向(周速V)の下流側及び上流側に配置されている。換言すれば、磁気ディスク2の同一箇所は記録素子部14を通過した後に読み取り素子部13を通過する。また磁気ディスク2の回転方向における読み取り素子部13と記録素子部14間の距離(記録磁極31のリターン磁極対向面から読み取り素子22の中心線までの距離)Lwrは、制御系7が記録動作から読み取り動作に切り替わるまでに要する時間Twr(例えば300〜400[nS])の間における磁気ディスク2の移動距離V・Twr以下の長さに設定されている。
【0024】
このような構成によれば、データ記録領域での記録動作が完了し、制御系7が記録動作から読み取り動作に切り替わったタイミングにおいて、読み取り素子部13は既に同期領域R1に対向している状態になるので、空白領域R1を実質的に無くすことができる。
【0025】
なお読み取り素子部13と記録素子部14がそれぞれ磁気ディスク2の回転方向の下流側及び上流側に配置されている構成において、読み取り素子部13と記録素子部14間の距離Lwrが移動距離V・Twrより長い場合であっても空白領域R1の長さを短くすることができる。但しこの場合には、制御系7が記録動作から読み取り動作に切り替わったタイミングにおいては、読み取り素子部13はデータ読み取り領域に対向している状態にないために読み取り動作を開始することができない。
【0026】
従って、読み取り素子部13と記録素子部14間の距離Lwrが移動距離V・Twrより長い場合には、図5(a),(b)に示すように、制御系7が記録動作から読み取り動作に切り替わるまでに要する時間Twrに補正時間を加えた時間を経過した後に実際の読み取り動作を開始するようにすることが望ましい。なおこの場合、補正時間は、時間Twrと磁気ディスク2が距離Lwrの移動に要する時間Lwr/Vの差分値(Twr−Lwr/V)以上、換言すれば、制御系7が記録動作から読み取り動作に切り替わってから読み取り素子部13がデータ読み取り領域に対向する状態になるまでの時間以上の時間である。
【0027】
以上、本発明者によってなされた発明を適用した実施の形態について説明したが、この実施の形態による本発明の開示の一部をなす記述及び図面により本発明は限定されることはない。すなわち上記実施の形態に基づいて当業者等によりなされる他の実施の形態、実施例及び運用技術等は全て本発明の範疇に含まれる。
【符号の説明】
【0028】
1 磁気ディスク記録装置
2 磁気ディスク
3 磁気記録用ヘッド
4 アームアセンブリ
5 記録系
6 再生系
7 制御系
11 スライダー部材
12 素子構造
13 読み取り素子部
14 記録素子部
21a,21b シールド部材
22 読み取り素子
31 記録磁極
32 リターン磁極
33 導電コイル
S ABS面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁気ディスクと、
前記磁気ディスクに対し情報の読み取り動作と記録動作を行う磁気記録用ヘッドと、
前記磁気記録用ヘッドを用いた情報の読み取り動作と記録動作を制御する制御部とを有し、
前記磁気記録用ヘッドは、
前記磁気ディスクに記録されている情報を読み取る読み取り素子部と、
前記磁気ディスクに情報を記録する記録素子部とを有し、
前記読み取り素子部及び前記記録素子部はそれぞれ前記磁気ディスクの回転方向の下流側及び上流側に順に配置され、
前記磁気ディスクの回転方向における前記読み取り素子部と前記記録素子部間の距離は、前記制御部が情報の記録動作から読み取り動作に移行するまでに要する遷移時間内における磁気ディスクの移動距離以下の長さに設定されていること
を特徴とする磁気ディスク記録装置。
【請求項2】
磁気ディスクに記録されている情報を読み取る読み取り素子部と、
前記磁気ディスクに情報を記録する記録素子部とを有し、
前記読み取り素子部及び前記記録素子部はそれぞれ前記磁気ディスクの回転方向の下流側及び上流側に順に配置され、
前記磁気ディスクの回転方向における前記読み取り素子部と前記記録素子部間の距離は、磁気ディスク記録装置の制御系が情報の記録動作から読み取り動作に移行するまでに要する遷移時間内における磁気ディスクの移動距離以下の長さに設定されていること
を特徴とする磁気記録用ヘッド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−8863(P2011−8863A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−151528(P2009−151528)
【出願日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【出願人】(309033264)東芝ストレージデバイス株式会社 (255)
【Fターム(参考)】