磁気ヘッドスライダ、その製造方法、及び磁気ディスク装置
【課題】主磁極の体積を確保しつつも、サイドイレーズを抑制可能な磁気ヘッドスライダを提供する。
【解決手段】本発明の磁気ヘッドスライダは、磁気ディスクと対向する媒体対向面まで延び、媒体対向面側端面21aから記録磁界を発する主磁極21を含む単磁極型記録ヘッド、を有する磁気ヘッドスライダであって、媒体対向面側端面21aは、磁性を劣化させる不純物が注入された注入領域21iと、不純物が注入されない非注入領域21nと、に分けられ、非注入領域21nは、リーディング側LDの端部の幅がトレーリング側TRの端部の幅よりも狭い形状を有する。
【解決手段】本発明の磁気ヘッドスライダは、磁気ディスクと対向する媒体対向面まで延び、媒体対向面側端面21aから記録磁界を発する主磁極21を含む単磁極型記録ヘッド、を有する磁気ヘッドスライダであって、媒体対向面側端面21aは、磁性を劣化させる不純物が注入された注入領域21iと、不純物が注入されない非注入領域21nと、に分けられ、非注入領域21nは、リーディング側LDの端部の幅がトレーリング側TRの端部の幅よりも狭い形状を有する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気ヘッドスライダ、その製造方法及び磁気ディスク装置に関し、特には単磁極型記録ヘッドに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、特許文献1には、垂直磁気記録を実現する単磁極型記録ヘッドにおいて、隣接トラックへの誤記録(いわゆる、サイドイレーズ)を防止するために、記録磁界を発する主磁極の媒体対向面側端面をトレーリング側よりもリーディング側が幅狭な台形状に形成する技術が開示されている。
【特許文献1】特開2006−139848号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、近年のトラック密度の向上に伴って、主磁極の媒体対向面側端面には幅や厚さの狭小化が求められており、その結果、主磁極の体積が減少して、記録磁界の強度の確保が困難となっている。特に、上記従来技術では、主磁極のリーディング側の端が尖鋭化するため、薄膜形成技術による主磁極の形成時に、略逆三角形状のパターンが倒れてしまう等の問題がある。
【0004】
本発明は、上記実情に鑑みて為されたものであり、主磁極の体積を確保しつつも、サイドイレーズを抑制可能な磁気ヘッドスライダ、その製造方法及び磁気ディスク装置を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため、本発明の磁気ヘッドスライダは、磁気ディスクと対向する媒体対向面まで延び、媒体対向面側端面から記録磁界を発する主磁極を含む単磁極型記録ヘッド、を有する磁気ヘッドスライダであって、前記媒体対向面側端面は、磁性を劣化させる不純物が注入された注入領域と、前記不純物が注入されない非注入領域と、に分けられ、前記非注入領域は、リーディング側の端部の幅がトレーリング側の端部の幅よりも狭い形状を有する、ことを特徴とする。
【0006】
また、本発明の一態様では、前記非注入領域のリーディング側の端部の幅が、前記媒体対向面側端面の幅よりも狭い。
【0007】
また、本発明の一態様では、前記非注入領域のリーディング側の端部が、角状に形成される。
【0008】
また、本発明の一態様では、前記非注入領域のリーディング側の端部が、前記主磁極のリーディング側の端から離間する。
【0009】
また、この態様では、前記注入領域から前記主磁極内に注入される前記不純物の注入深さが、前記主磁極のリーディング側の端から前記非注入領域のリーディング側の端部に近づくに従って浅くなってもよい。
【0010】
また、本発明の一態様では、前記非注入領域のトレーリング側の端部の幅が、前記媒体対向面側端面の幅よりも狭い。
【0011】
また、本発明の一態様では、前記主磁極は、前記媒体対向面まで延び、先端に前記媒体対向面側端面を有する棒状部と、前記棒状部の基端側に繋がる、前記棒状部よりも幅広な幅広部と、を含み、前記不純物は、前記棒状部の範囲内に注入される。
【0012】
また、本発明の一態様では、前記注入領域から前記主磁極内に注入される前記不純物の注入深さが、前記非注入領域の外縁に近づくに従って浅くなる。
【0013】
また、本発明の一態様では、前記注入領域から前記主磁極内に注入される前記不純物の濃度が、前記媒体対向面側端面に近づくに従って高くなる。
【0014】
また、本発明の一態様では、前記非注入領域のトレーリング側の端部が幅方向に分割され、その間に前記注入領域が形成される。
【0015】
また、本発明の一態様では、前記主磁極は、前記媒体対向面側端面から所定の距離に、前記不純物の通過を抑制するシールド層を含む。
【0016】
また、この態様では、前記シールド層は、前記主磁極のトレーリング側の端に近づくに従って前記媒体対向面側端面との距離が短くなってもよい。
【0017】
また、この態様では、前記主磁極は、前記シールド層に対して前記媒体対向面側端面と同じ側の第1の部分と、前記媒体対向面側端面とは逆側の第2の部分と、を含み、前記第2の部分が、前記第1の部分よりも厚くてもよい。
【0018】
また、本発明の磁気ディスク装置は、上記磁気ヘッドスライダを有する。
【0019】
また、本発明の磁気ヘッドスライダの製造方法は、磁気ディスクと対向する媒体対向面まで延び、媒体対向面側端面から記録磁界を発する主磁極を含む単磁極型記録ヘッド、を有する磁気ヘッドスライダの製造方法であって、基板上に前記主磁極を含む薄膜部を形成し、前記薄膜部が形成された基板を、前記媒体対向面側端面が現れるよう切断し、前記媒体対向面側端面に、磁性を劣化させる不純物を、該不純物が注入されない非注入領域がリーディング側の端部の幅がトレーリング側の端部の幅よりも狭い形状を有するように、注入する。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、主磁極の媒体対向面側端面のうちの非注入領域が、リーディング側の端部の幅がトレーリング側の端部の幅よりも狭い形状を有するので、主磁極の体積が確保されると共に、サイドイレーズの抑制が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明の磁気ヘッドスライダ、その製造方法及び磁気ディスク装置の実施形態を、図面を参照しながら説明する。
【0022】
図1は、磁気ディスク装置1の斜視図である。同図では、トップカバーの図示が省略されている。磁気ディスク装置1の筐体には、磁気ディスク2及びヘッドアッセンブリ4が収納されている。磁気ディスク2は、筐体の底部に設けられたスピンドルモータ3に取り付けられている。ヘッドアッセンブリ4は、磁気ディスク2の隣で旋回可能に支承されている。このヘッドアッセンブリ4の先端側には、サスペンションアーム5が設けられ、その先端部に磁気ヘッドスライダ10が支持されている。他方、ヘッドアッセンブリ4の後端部には、ボイスコイルモータ7が設けられている。ボイスコイルモータ7は、ヘッドアッセンブリ4を旋回駆動することで、磁気ヘッドスライダ10を磁気ディスク2上で略半径方向に移動させる。
【0023】
図2は、磁気ヘッドスライダ10の要部断面図である。同図において、矢印DRは磁気ディスク2の回転方向を表し、矢印TRは磁気ヘッドスライダ10のトレーリング方向を表し、矢印LDは磁気ヘッドスライダ10のリーディング方向を表す。磁気ヘッドスライダ10の、磁気ディスク2と対向する媒体対向面10aには、空気軸受面(ABS)が形成されている。磁気ヘッドスライダ10は、磁気ディスク2の回転により生じる気体流を受けて、磁気ディスク2上に浮上する。この磁気ヘッドスライダ10は、基板上に形成された薄膜部12内に、記録ヘッド20及び再生ヘッド30を有している。
【0024】
記録ヘッド20は、垂直磁気記録を実現する単磁極型記録ヘッドである。この記録ヘッド20は、パーマロイ等の軟磁性材料からなる、磁気的に接続された主磁極21、補助磁極23及び連結部25を有している。この主磁極21は、媒体対向面10aまで延びており、コイル27により励磁されて、媒体対向面側端面21aから記録磁界を出力する。媒体対向面側端面21aから出力される記録磁界は、磁気ディスク2内で折り返されて、補助磁極23に吸収される。また、主磁極21の媒体対向面側端面21aの周囲には、磁気シールド29が設けられている。
【0025】
再生ヘッド30は、記録ヘッド20よりもリーディング側に、磁気シールド40を隔てて配置されている。この再生ヘッド30は、磁気抵抗効果素子からなる再生素子32と、これを挟み込む一対の磁気シールド34とを有している。
【0026】
図3は、主磁極21の一態様を表す斜視図である。同図では、主磁極21の端219a,219bに沿った方向(図中横方向)が幅方向であり、主磁極21の端219cに沿った方向(図中縦方向)が厚さ方向である。主磁極21は、先端に矩形状の媒体対向面側端面21aを有する棒状部212と、この棒状部212の基端側から幅方向に広がる幅広部214と、を有している。
【0027】
この主磁極21の媒体対向面側端面21aの一部には、磁性を劣化させる不純物としてのイオンが所定の深さまで注入されている。このため、主磁極21の媒体対向面側端面21aは、イオンが注入された非磁性の注入領域21iと、イオンが注入されない強磁性の非注入領域21nと、に分かれている。記録磁界は、この非注入領域21nから出力される。
【0028】
非注入領域21nは、主磁極21の媒体対向面側端面21aのうち幅方向の中央部に形成され、注入領域21iは、この非注入領域21nに対して幅方向の両側に形成される。非注入領域21nと注入領域21iとの境界は、主磁極21のトレーリング側の端219aからリーディング側の端219bに至っている。これらの境界は、リーディング側に向かうに従って幅方向の中央に近づき、リーディング側の端219bで互いに接している。なお、厚さ方向に沿った直線に対して、非注入領域21nと注入領域21iとの境界が為す角度αを、ベベル角という。
【0029】
このため、非注入領域21nの幅は、トレーリング側からリーディング側に向けて徐々に狭まっており、リーディング側の端部211qの幅がトレーリング側の端部211pの幅よりも狭くなっている。このように、非注入領域21nは、リーディング側の端部211qが角状の、三角形状とされる。これに対し、注入領域21iの幅は、トレーリング側からリーディング側に向けて徐々に広がっている。
【0030】
これによれば、図4に示されるように、主磁極21の媒体対向面側端面21aの向きが磁気ディスク2のトラック2tに対して傾いて、スキュー角θが生じても、非注入領域21nがトラック2tの幅内に収まるので、隣接トラックへの誤記録(サイドイレーズ)が抑制される。上記ベベル角αは、このスキュー角θの最大値と同程度に設定される。なお、非注入領域21nから出力される記録磁界は、トレーリング側の端部211pで比較的強くなるので、非注入領域21nのリーディング側の端部211qの幅が狭まっていても、十分な記録磁界が確保できる。
【0031】
また、主磁極21の媒体対向面側端面21aに部分的にイオンが注入されることで、記録磁界が出力される領域(すなわち、非注入領域21n)の形状および大きさが制御されるので、主磁極21の体積が十分に確保され、その結果、記録磁界の強度が十分に確保できる。また、主磁極21のリーディング側の端を尖鋭化する必要がないので、薄膜形成技術により主磁極21を形成する際にパターンが倒れてしまう等の問題が生じない。
【0032】
また、非注入領域21nのトレーリング側の端部211pは、主磁極21の媒体対向面側端面21aの幅よりも狭く、幅方向の両端219cから離れている。この非注入領域21nのトレーリング側の端部211pの幅は、トラック2tの幅に応じて定められる(図4を参照)。これに対し、主磁極21の媒体対向面側端面21aの幅はトラック2tの幅による制約を受けないので、主磁極21の媒体対向面側端面21aの幅をトラック2tの幅よりも広げることが可能である。従って、主磁極21の体積が十分に確保され、その結果、記録磁界の強度が十分に確保できる。
【0033】
また、注入領域21iから主磁極21内に注入されるイオンは、媒体対向面側端面21aから例えば約35nm以上の深さまで注入されることが好ましい。注入用のイオンとしては、例えばCr等の金属系のイオンやAr等のガス系のイオンが適用可能である。Cr等の金属系のイオンを用いる場合、主磁極21の磁性を劣化させる効率が比較的高い。Ar等のガス系のイオンを用いる場合、イオン化が比較的容易である。なお、注入用のイオンとしては、主磁極21の耐食性を劣化させないものが好ましい。
【0034】
図5A及び図5Bは、主磁極21の他の態様を表す斜視図及び断面図である。上記の態様と重複する構成については、同番号を付すことで詳細な説明を省略する。本態様では、非注入領域21nのリーディング側の端部211qが、主磁極21のリーディング側の端219bから離間している。
【0035】
この非注入領域21nの厚さは、サイドイレーズを抑制する観点から定められる。すなわち、トラック2tの幅が狭まるほど、非注入領域21nのトレーリング側の端部211pの幅が狭まり、これに伴って、非注入領域21nの厚さを短縮する必要が生じる。これに対し、主磁極21の媒体対向面側端面21aの厚さはこうした制約を受けない。このため、主磁極21の媒体対向面側端面21aの厚さを、非注入領域21nの厚さよりも大きくすることができる。従って、主磁極21の体積が十分に確保され、その結果、記録磁界の強度が十分に確保できる。
【0036】
また、図5Bに示されるように、注入領域21iから主磁極21内に注入されるイオンの注入深さは、主磁極21のリーディング側の端219bから非注入領域21nのリーディング側の端部211qに近づくに従って浅くなっている。これによれば、主磁極21内に形成される磁路が、主磁極21の媒体対向面側端面21aに向けて徐々に狭まるので、主磁極21内に生じる記録磁界が、非注入領域21nに向けて滑らかに集中する。なお、イオンの注入深さは、これに限られず、階段状や曲線状に変化してもよい。
【0037】
図6A及び図6Bは、主磁極21の他の態様を表す斜視図である。上記の態様と重複する構成については、同番号を付すことで詳細な説明を省略する。非注入領域21nは、これらの図に示されるような略T字形状とされてもよい。これらの態様によれば、記録磁界が比較的強くなる非注入領域21nのトレーリング側の端部211pの幅が十分に確保される一方で、その他の部分の幅がより一層狭められるので、サイドイレーズの更なる抑制が可能である。なお、エッチング等を用いて主磁極を略T字状に形成することは大変困難であるが、本態様によれば、イオン注入を用いているので、記録磁界が出力される領域(すなわち、非注入領域21n)を略T字状に形成することは容易である。
【0038】
図7は、主磁極21の他の態様を表す斜視図である。上記の態様と重複する構成については、同番号を付すことで詳細な説明を省略する。主磁極21の媒体対向面側端面21aは、この図に示されるように、トレーリング側の端219aよりもリーディング側の端219bが幅狭な台形状に形成されてもよい。この場合であっても、非注入領域21nのリーディング側の端部211qが、主磁極21のリーディング側の端219bよりも狭く、幅方向の両端219cから離れていることで、上記と同様のサイドイレーズの抑制効果が得られる。また、主磁極21のリーディング側の端を尖鋭化する必要がないので、薄膜形成技術により主磁極21を形成する際に、逆三角形状のパターンが倒れてしまう等の問題が生じない。
【0039】
図8A及び図8Bは、主磁極21の他の態様を表す斜視図である。上記の態様と重複する構成については、同番号を付すことで詳細な説明を省略する。これらの態様では、注入領域21iから主磁極21内に注入されるイオンの注入深さが、非注入領域21nと注入領域21iとの境界(非注入領域21nの外縁)に近づくに従って浅くなっている。これによれば、主磁極21内に形成される磁路が、主磁極21の媒体対向面側端面21aに向けて徐々に狭まるので、主磁極21内に生じる記録磁界が、非注入領域21nに向けて滑らかに集中する。なお、イオンの注入深さは、これに限られず、階段状や曲線状に変化してもよい。
【0040】
また、図8Bに示されるように、棒状部212と幅広部214との境界付近にイオンの注入深さが設定されると共に、イオンの注入深さの傾きが幅広部214の傾きに合わせられてもよい。これによれば、幅広部214から棒状部212に架けて急激に狭まる磁路が、滑らかな形状となる。
【0041】
図9は、主磁極21の他の態様を表す斜視図である。上記の態様と重複する構成については、同番号を付すことで詳細な説明を省略する。この態様では、注入領域21iから主磁極21内に注入されるイオンの濃度が、主磁極21の媒体対向面側端面21aに近づくに従って高くなっている。こうした濃度特性は、比較的低エネルギーのイオンがより多く、比較的高エネルギーのイオンがより少なく注入されることで実現される。これによれば、主磁極21内に形成される磁路が、主磁極21の媒体対向面側端面21aに向けて徐々に狭まる、という上記図8A及び図8Bの態様と同様の効果が得られ、主磁極21内に生じる記録磁界が、非注入領域21nに向けて滑らかに集中する。
【0042】
図10は、主磁極21の他の態様を表す斜視図である。上記の態様と重複する構成については、同番号を付すことで詳細な説明を省略する。この態様では、非注入領域21nのトレーリング側の端部211pの中央部にも、注入領域21iが形成されている。すなわち、トレーリング側の端部211pは幅方向に分割され、その間に注入領域21iが形成されている。これによれば、非注入領域21nのトレーリング側の端部211pのうち、記録磁界の強度が高まりやすい中央部に非注入領域21nが形成されるので、非注入領域21nから出力される記録磁界の強度分布が、幅方向に沿って均一化される。
【0043】
図11A及び図11Bは、主磁極21の他の態様を表す斜視図および側面図である。上記の態様と重複する構成については、同番号を付すことで詳細な説明を省略する。この態様では、主磁極21は、媒体対向面側端面21aから所定の距離だけ離れた位置に、イオンの通過を抑制するシールド層223を含んでいる。主磁極21のうち、シールド層223に対して媒体対向面側端面21aと同じ側の部分が第1の部分221とされ、シールド層223に対して媒体対向面側端面21aとは逆側の部分が第2の部分225とされる。このシールド層223の厚さは、第1の部分221と第2の部分225との磁気的な接続が維持される程度に設定される。
【0044】
このシールド層223は、主磁極21のトレーリング側の端219aに近づくに従って、媒体対向面側端面21aとの距離が短くなっている。このため、注入領域21iから主磁極21内に注入されるイオンの注入深さは、主磁極21のトレーリング側の端219aに近づくに従って浅くなる。これによれば、主磁極21内に生じる記録磁界が、非注入領域21nのトレーリング側の端部211pにより集中しやすくなる。従って、非注入領域21nのトレーリング側の端部211pから出力される記録磁界の強度が、より高められる。
【0045】
こうした主磁極21は、まず第1の部分221が形成され、その次にシールド層223が形成され、その次に第2の部分225が形成されることで、製造される。このように第1の部分221と第2の部分225とが個別に形成されることから、これらの厚さを異ならせることが可能である。本態様では、第2の部分225が第1の部分221よりも厚く形成されている。これによれば、主磁極21の体積が十分に確保され、その結果、記録磁界の強度が十分に確保できる。
【0046】
なお、シールド層223には、注入領域21iから第1の部分221内に注入されるイオンよりも重い材料が用いられる。具体的には、シールド層223には、例えばTi,Cr,Cu,Nb,Mo,Ru,Rh,Pd,Hf,Ta,W,Re,Os,Ir,Pt,Au等の1種または2種以上が用いられる。
【0047】
図12Aは、磁気ヘッドスライダ10の製造方法の説明図である。磁気ヘッドスライダ10は、主に(1)ウエハー工程、(2)ロウバー工程、(3)スライダー工程により製造される。その後、(4)HGA工程において、磁気ヘッドスライダ10とサスペンションアーム5とが接着され、ヘッドジンバルアッセンブリ(HGA)が得られる。
【0048】
(1)ウエハー工程では、基板上に、上記の記録ヘッド20及び再生ヘッド30を含む薄膜部12が形成される。(2)ロウバー工程では、薄膜部12が形成された基板が切断されて、ロウバーが得られる。このとき、薄膜部12は、上記主磁極21の媒体対向面側端面21aが現れるように切断される。
【0049】
また、(2)ロウバー工程では、図12Bに示されるS1ないしS4の工程が行われる。研磨工程(S1)では、上記主磁極21が所定の長さとなるまで、ロウバーが研磨される。ABS形成工程(S2)では、イオンミリングやエッチング等により、研磨されたロウバーに空気軸受面(ABS)が形成される。イオン注入工程(S3)では、上記主磁極21の媒体対向面側端面21aの一部にイオンが注入され、上記注入領域21i及び非注入領域21nが形成される。こうしたイオン注入は、公知のイオン注入装置を用いることで実現される。皮膜形成工程(S4)では、ロウバーに形成された空気軸受面に保護皮膜が形成される。なお、ABS工程(S2)及びイオン注入工程(S3)の順序が逆であってもよい。
【0050】
その後、(3)スライダー工程において、ロウバーは切断され、磁気ヘッドスライダ10が得られる。
【0051】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、種々の変形実施が当業者にとって可能であるのはもちろんである。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の一実施形態に係る磁気ディスク装置の斜視図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る磁気ヘッドスライダの要部断面図である。
【図3】同磁気ヘッドスライダの主磁極の一態様を表す斜視図である。
【図4】同態様の効果説明図である。
【図5A】主磁極の他の態様を表す斜視図である。
【図5B】同態様の断面図である。
【図6A】主磁極の他の態様を表す斜視図である。
【図6B】主磁極の他の態様を表す斜視図である。
【図7】主磁極の他の態様を表す斜視図である。
【図8A】主磁極の他の態様を表す斜視図である。
【図8B】主磁極の他の態様を表す斜視図である。
【図9】主磁極の他の態様を表す斜視図である。
【図10】主磁極の他の態様を表す斜視図である。
【図11A】主磁極の他の態様を表す斜視図である。
【図11B】同態様の側面図である。
【図12A】本発明の一実施形態に係る磁気ヘッドスライダの製造方法の説明図である。
【図12B】同製造方法の一部を具体的に表すフローチャートである。
【符号の説明】
【0053】
1 磁気ディスク装置、2 磁気ディスク、3 スピンドルモータ、4 ヘッドアッセンブリ、5 サスペンションアーム、7 ボイスコイルモータ、9 ランプ部、10 磁気ヘッドスライダ、10a 媒体対向面、12 薄膜部、20 記録ヘッド(単磁極型記録ヘッド)、21 主磁極、21a 媒体対向面側端面、21i 注入領域、21n 非注入領域、212 棒状部、211p トレーリング側の端部、211q リーディング側の端部、219a〜219c 主磁極の端、214 幅広部、221 第1の部分、223 シールド層、225 第2の部分、23 補助磁極、25 連結部、27 コイル、29 磁気シールド、30 再生ヘッド、32 再生素子、34 磁気シールド、40 磁気シールド。
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気ヘッドスライダ、その製造方法及び磁気ディスク装置に関し、特には単磁極型記録ヘッドに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、特許文献1には、垂直磁気記録を実現する単磁極型記録ヘッドにおいて、隣接トラックへの誤記録(いわゆる、サイドイレーズ)を防止するために、記録磁界を発する主磁極の媒体対向面側端面をトレーリング側よりもリーディング側が幅狭な台形状に形成する技術が開示されている。
【特許文献1】特開2006−139848号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、近年のトラック密度の向上に伴って、主磁極の媒体対向面側端面には幅や厚さの狭小化が求められており、その結果、主磁極の体積が減少して、記録磁界の強度の確保が困難となっている。特に、上記従来技術では、主磁極のリーディング側の端が尖鋭化するため、薄膜形成技術による主磁極の形成時に、略逆三角形状のパターンが倒れてしまう等の問題がある。
【0004】
本発明は、上記実情に鑑みて為されたものであり、主磁極の体積を確保しつつも、サイドイレーズを抑制可能な磁気ヘッドスライダ、その製造方法及び磁気ディスク装置を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため、本発明の磁気ヘッドスライダは、磁気ディスクと対向する媒体対向面まで延び、媒体対向面側端面から記録磁界を発する主磁極を含む単磁極型記録ヘッド、を有する磁気ヘッドスライダであって、前記媒体対向面側端面は、磁性を劣化させる不純物が注入された注入領域と、前記不純物が注入されない非注入領域と、に分けられ、前記非注入領域は、リーディング側の端部の幅がトレーリング側の端部の幅よりも狭い形状を有する、ことを特徴とする。
【0006】
また、本発明の一態様では、前記非注入領域のリーディング側の端部の幅が、前記媒体対向面側端面の幅よりも狭い。
【0007】
また、本発明の一態様では、前記非注入領域のリーディング側の端部が、角状に形成される。
【0008】
また、本発明の一態様では、前記非注入領域のリーディング側の端部が、前記主磁極のリーディング側の端から離間する。
【0009】
また、この態様では、前記注入領域から前記主磁極内に注入される前記不純物の注入深さが、前記主磁極のリーディング側の端から前記非注入領域のリーディング側の端部に近づくに従って浅くなってもよい。
【0010】
また、本発明の一態様では、前記非注入領域のトレーリング側の端部の幅が、前記媒体対向面側端面の幅よりも狭い。
【0011】
また、本発明の一態様では、前記主磁極は、前記媒体対向面まで延び、先端に前記媒体対向面側端面を有する棒状部と、前記棒状部の基端側に繋がる、前記棒状部よりも幅広な幅広部と、を含み、前記不純物は、前記棒状部の範囲内に注入される。
【0012】
また、本発明の一態様では、前記注入領域から前記主磁極内に注入される前記不純物の注入深さが、前記非注入領域の外縁に近づくに従って浅くなる。
【0013】
また、本発明の一態様では、前記注入領域から前記主磁極内に注入される前記不純物の濃度が、前記媒体対向面側端面に近づくに従って高くなる。
【0014】
また、本発明の一態様では、前記非注入領域のトレーリング側の端部が幅方向に分割され、その間に前記注入領域が形成される。
【0015】
また、本発明の一態様では、前記主磁極は、前記媒体対向面側端面から所定の距離に、前記不純物の通過を抑制するシールド層を含む。
【0016】
また、この態様では、前記シールド層は、前記主磁極のトレーリング側の端に近づくに従って前記媒体対向面側端面との距離が短くなってもよい。
【0017】
また、この態様では、前記主磁極は、前記シールド層に対して前記媒体対向面側端面と同じ側の第1の部分と、前記媒体対向面側端面とは逆側の第2の部分と、を含み、前記第2の部分が、前記第1の部分よりも厚くてもよい。
【0018】
また、本発明の磁気ディスク装置は、上記磁気ヘッドスライダを有する。
【0019】
また、本発明の磁気ヘッドスライダの製造方法は、磁気ディスクと対向する媒体対向面まで延び、媒体対向面側端面から記録磁界を発する主磁極を含む単磁極型記録ヘッド、を有する磁気ヘッドスライダの製造方法であって、基板上に前記主磁極を含む薄膜部を形成し、前記薄膜部が形成された基板を、前記媒体対向面側端面が現れるよう切断し、前記媒体対向面側端面に、磁性を劣化させる不純物を、該不純物が注入されない非注入領域がリーディング側の端部の幅がトレーリング側の端部の幅よりも狭い形状を有するように、注入する。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、主磁極の媒体対向面側端面のうちの非注入領域が、リーディング側の端部の幅がトレーリング側の端部の幅よりも狭い形状を有するので、主磁極の体積が確保されると共に、サイドイレーズの抑制が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明の磁気ヘッドスライダ、その製造方法及び磁気ディスク装置の実施形態を、図面を参照しながら説明する。
【0022】
図1は、磁気ディスク装置1の斜視図である。同図では、トップカバーの図示が省略されている。磁気ディスク装置1の筐体には、磁気ディスク2及びヘッドアッセンブリ4が収納されている。磁気ディスク2は、筐体の底部に設けられたスピンドルモータ3に取り付けられている。ヘッドアッセンブリ4は、磁気ディスク2の隣で旋回可能に支承されている。このヘッドアッセンブリ4の先端側には、サスペンションアーム5が設けられ、その先端部に磁気ヘッドスライダ10が支持されている。他方、ヘッドアッセンブリ4の後端部には、ボイスコイルモータ7が設けられている。ボイスコイルモータ7は、ヘッドアッセンブリ4を旋回駆動することで、磁気ヘッドスライダ10を磁気ディスク2上で略半径方向に移動させる。
【0023】
図2は、磁気ヘッドスライダ10の要部断面図である。同図において、矢印DRは磁気ディスク2の回転方向を表し、矢印TRは磁気ヘッドスライダ10のトレーリング方向を表し、矢印LDは磁気ヘッドスライダ10のリーディング方向を表す。磁気ヘッドスライダ10の、磁気ディスク2と対向する媒体対向面10aには、空気軸受面(ABS)が形成されている。磁気ヘッドスライダ10は、磁気ディスク2の回転により生じる気体流を受けて、磁気ディスク2上に浮上する。この磁気ヘッドスライダ10は、基板上に形成された薄膜部12内に、記録ヘッド20及び再生ヘッド30を有している。
【0024】
記録ヘッド20は、垂直磁気記録を実現する単磁極型記録ヘッドである。この記録ヘッド20は、パーマロイ等の軟磁性材料からなる、磁気的に接続された主磁極21、補助磁極23及び連結部25を有している。この主磁極21は、媒体対向面10aまで延びており、コイル27により励磁されて、媒体対向面側端面21aから記録磁界を出力する。媒体対向面側端面21aから出力される記録磁界は、磁気ディスク2内で折り返されて、補助磁極23に吸収される。また、主磁極21の媒体対向面側端面21aの周囲には、磁気シールド29が設けられている。
【0025】
再生ヘッド30は、記録ヘッド20よりもリーディング側に、磁気シールド40を隔てて配置されている。この再生ヘッド30は、磁気抵抗効果素子からなる再生素子32と、これを挟み込む一対の磁気シールド34とを有している。
【0026】
図3は、主磁極21の一態様を表す斜視図である。同図では、主磁極21の端219a,219bに沿った方向(図中横方向)が幅方向であり、主磁極21の端219cに沿った方向(図中縦方向)が厚さ方向である。主磁極21は、先端に矩形状の媒体対向面側端面21aを有する棒状部212と、この棒状部212の基端側から幅方向に広がる幅広部214と、を有している。
【0027】
この主磁極21の媒体対向面側端面21aの一部には、磁性を劣化させる不純物としてのイオンが所定の深さまで注入されている。このため、主磁極21の媒体対向面側端面21aは、イオンが注入された非磁性の注入領域21iと、イオンが注入されない強磁性の非注入領域21nと、に分かれている。記録磁界は、この非注入領域21nから出力される。
【0028】
非注入領域21nは、主磁極21の媒体対向面側端面21aのうち幅方向の中央部に形成され、注入領域21iは、この非注入領域21nに対して幅方向の両側に形成される。非注入領域21nと注入領域21iとの境界は、主磁極21のトレーリング側の端219aからリーディング側の端219bに至っている。これらの境界は、リーディング側に向かうに従って幅方向の中央に近づき、リーディング側の端219bで互いに接している。なお、厚さ方向に沿った直線に対して、非注入領域21nと注入領域21iとの境界が為す角度αを、ベベル角という。
【0029】
このため、非注入領域21nの幅は、トレーリング側からリーディング側に向けて徐々に狭まっており、リーディング側の端部211qの幅がトレーリング側の端部211pの幅よりも狭くなっている。このように、非注入領域21nは、リーディング側の端部211qが角状の、三角形状とされる。これに対し、注入領域21iの幅は、トレーリング側からリーディング側に向けて徐々に広がっている。
【0030】
これによれば、図4に示されるように、主磁極21の媒体対向面側端面21aの向きが磁気ディスク2のトラック2tに対して傾いて、スキュー角θが生じても、非注入領域21nがトラック2tの幅内に収まるので、隣接トラックへの誤記録(サイドイレーズ)が抑制される。上記ベベル角αは、このスキュー角θの最大値と同程度に設定される。なお、非注入領域21nから出力される記録磁界は、トレーリング側の端部211pで比較的強くなるので、非注入領域21nのリーディング側の端部211qの幅が狭まっていても、十分な記録磁界が確保できる。
【0031】
また、主磁極21の媒体対向面側端面21aに部分的にイオンが注入されることで、記録磁界が出力される領域(すなわち、非注入領域21n)の形状および大きさが制御されるので、主磁極21の体積が十分に確保され、その結果、記録磁界の強度が十分に確保できる。また、主磁極21のリーディング側の端を尖鋭化する必要がないので、薄膜形成技術により主磁極21を形成する際にパターンが倒れてしまう等の問題が生じない。
【0032】
また、非注入領域21nのトレーリング側の端部211pは、主磁極21の媒体対向面側端面21aの幅よりも狭く、幅方向の両端219cから離れている。この非注入領域21nのトレーリング側の端部211pの幅は、トラック2tの幅に応じて定められる(図4を参照)。これに対し、主磁極21の媒体対向面側端面21aの幅はトラック2tの幅による制約を受けないので、主磁極21の媒体対向面側端面21aの幅をトラック2tの幅よりも広げることが可能である。従って、主磁極21の体積が十分に確保され、その結果、記録磁界の強度が十分に確保できる。
【0033】
また、注入領域21iから主磁極21内に注入されるイオンは、媒体対向面側端面21aから例えば約35nm以上の深さまで注入されることが好ましい。注入用のイオンとしては、例えばCr等の金属系のイオンやAr等のガス系のイオンが適用可能である。Cr等の金属系のイオンを用いる場合、主磁極21の磁性を劣化させる効率が比較的高い。Ar等のガス系のイオンを用いる場合、イオン化が比較的容易である。なお、注入用のイオンとしては、主磁極21の耐食性を劣化させないものが好ましい。
【0034】
図5A及び図5Bは、主磁極21の他の態様を表す斜視図及び断面図である。上記の態様と重複する構成については、同番号を付すことで詳細な説明を省略する。本態様では、非注入領域21nのリーディング側の端部211qが、主磁極21のリーディング側の端219bから離間している。
【0035】
この非注入領域21nの厚さは、サイドイレーズを抑制する観点から定められる。すなわち、トラック2tの幅が狭まるほど、非注入領域21nのトレーリング側の端部211pの幅が狭まり、これに伴って、非注入領域21nの厚さを短縮する必要が生じる。これに対し、主磁極21の媒体対向面側端面21aの厚さはこうした制約を受けない。このため、主磁極21の媒体対向面側端面21aの厚さを、非注入領域21nの厚さよりも大きくすることができる。従って、主磁極21の体積が十分に確保され、その結果、記録磁界の強度が十分に確保できる。
【0036】
また、図5Bに示されるように、注入領域21iから主磁極21内に注入されるイオンの注入深さは、主磁極21のリーディング側の端219bから非注入領域21nのリーディング側の端部211qに近づくに従って浅くなっている。これによれば、主磁極21内に形成される磁路が、主磁極21の媒体対向面側端面21aに向けて徐々に狭まるので、主磁極21内に生じる記録磁界が、非注入領域21nに向けて滑らかに集中する。なお、イオンの注入深さは、これに限られず、階段状や曲線状に変化してもよい。
【0037】
図6A及び図6Bは、主磁極21の他の態様を表す斜視図である。上記の態様と重複する構成については、同番号を付すことで詳細な説明を省略する。非注入領域21nは、これらの図に示されるような略T字形状とされてもよい。これらの態様によれば、記録磁界が比較的強くなる非注入領域21nのトレーリング側の端部211pの幅が十分に確保される一方で、その他の部分の幅がより一層狭められるので、サイドイレーズの更なる抑制が可能である。なお、エッチング等を用いて主磁極を略T字状に形成することは大変困難であるが、本態様によれば、イオン注入を用いているので、記録磁界が出力される領域(すなわち、非注入領域21n)を略T字状に形成することは容易である。
【0038】
図7は、主磁極21の他の態様を表す斜視図である。上記の態様と重複する構成については、同番号を付すことで詳細な説明を省略する。主磁極21の媒体対向面側端面21aは、この図に示されるように、トレーリング側の端219aよりもリーディング側の端219bが幅狭な台形状に形成されてもよい。この場合であっても、非注入領域21nのリーディング側の端部211qが、主磁極21のリーディング側の端219bよりも狭く、幅方向の両端219cから離れていることで、上記と同様のサイドイレーズの抑制効果が得られる。また、主磁極21のリーディング側の端を尖鋭化する必要がないので、薄膜形成技術により主磁極21を形成する際に、逆三角形状のパターンが倒れてしまう等の問題が生じない。
【0039】
図8A及び図8Bは、主磁極21の他の態様を表す斜視図である。上記の態様と重複する構成については、同番号を付すことで詳細な説明を省略する。これらの態様では、注入領域21iから主磁極21内に注入されるイオンの注入深さが、非注入領域21nと注入領域21iとの境界(非注入領域21nの外縁)に近づくに従って浅くなっている。これによれば、主磁極21内に形成される磁路が、主磁極21の媒体対向面側端面21aに向けて徐々に狭まるので、主磁極21内に生じる記録磁界が、非注入領域21nに向けて滑らかに集中する。なお、イオンの注入深さは、これに限られず、階段状や曲線状に変化してもよい。
【0040】
また、図8Bに示されるように、棒状部212と幅広部214との境界付近にイオンの注入深さが設定されると共に、イオンの注入深さの傾きが幅広部214の傾きに合わせられてもよい。これによれば、幅広部214から棒状部212に架けて急激に狭まる磁路が、滑らかな形状となる。
【0041】
図9は、主磁極21の他の態様を表す斜視図である。上記の態様と重複する構成については、同番号を付すことで詳細な説明を省略する。この態様では、注入領域21iから主磁極21内に注入されるイオンの濃度が、主磁極21の媒体対向面側端面21aに近づくに従って高くなっている。こうした濃度特性は、比較的低エネルギーのイオンがより多く、比較的高エネルギーのイオンがより少なく注入されることで実現される。これによれば、主磁極21内に形成される磁路が、主磁極21の媒体対向面側端面21aに向けて徐々に狭まる、という上記図8A及び図8Bの態様と同様の効果が得られ、主磁極21内に生じる記録磁界が、非注入領域21nに向けて滑らかに集中する。
【0042】
図10は、主磁極21の他の態様を表す斜視図である。上記の態様と重複する構成については、同番号を付すことで詳細な説明を省略する。この態様では、非注入領域21nのトレーリング側の端部211pの中央部にも、注入領域21iが形成されている。すなわち、トレーリング側の端部211pは幅方向に分割され、その間に注入領域21iが形成されている。これによれば、非注入領域21nのトレーリング側の端部211pのうち、記録磁界の強度が高まりやすい中央部に非注入領域21nが形成されるので、非注入領域21nから出力される記録磁界の強度分布が、幅方向に沿って均一化される。
【0043】
図11A及び図11Bは、主磁極21の他の態様を表す斜視図および側面図である。上記の態様と重複する構成については、同番号を付すことで詳細な説明を省略する。この態様では、主磁極21は、媒体対向面側端面21aから所定の距離だけ離れた位置に、イオンの通過を抑制するシールド層223を含んでいる。主磁極21のうち、シールド層223に対して媒体対向面側端面21aと同じ側の部分が第1の部分221とされ、シールド層223に対して媒体対向面側端面21aとは逆側の部分が第2の部分225とされる。このシールド層223の厚さは、第1の部分221と第2の部分225との磁気的な接続が維持される程度に設定される。
【0044】
このシールド層223は、主磁極21のトレーリング側の端219aに近づくに従って、媒体対向面側端面21aとの距離が短くなっている。このため、注入領域21iから主磁極21内に注入されるイオンの注入深さは、主磁極21のトレーリング側の端219aに近づくに従って浅くなる。これによれば、主磁極21内に生じる記録磁界が、非注入領域21nのトレーリング側の端部211pにより集中しやすくなる。従って、非注入領域21nのトレーリング側の端部211pから出力される記録磁界の強度が、より高められる。
【0045】
こうした主磁極21は、まず第1の部分221が形成され、その次にシールド層223が形成され、その次に第2の部分225が形成されることで、製造される。このように第1の部分221と第2の部分225とが個別に形成されることから、これらの厚さを異ならせることが可能である。本態様では、第2の部分225が第1の部分221よりも厚く形成されている。これによれば、主磁極21の体積が十分に確保され、その結果、記録磁界の強度が十分に確保できる。
【0046】
なお、シールド層223には、注入領域21iから第1の部分221内に注入されるイオンよりも重い材料が用いられる。具体的には、シールド層223には、例えばTi,Cr,Cu,Nb,Mo,Ru,Rh,Pd,Hf,Ta,W,Re,Os,Ir,Pt,Au等の1種または2種以上が用いられる。
【0047】
図12Aは、磁気ヘッドスライダ10の製造方法の説明図である。磁気ヘッドスライダ10は、主に(1)ウエハー工程、(2)ロウバー工程、(3)スライダー工程により製造される。その後、(4)HGA工程において、磁気ヘッドスライダ10とサスペンションアーム5とが接着され、ヘッドジンバルアッセンブリ(HGA)が得られる。
【0048】
(1)ウエハー工程では、基板上に、上記の記録ヘッド20及び再生ヘッド30を含む薄膜部12が形成される。(2)ロウバー工程では、薄膜部12が形成された基板が切断されて、ロウバーが得られる。このとき、薄膜部12は、上記主磁極21の媒体対向面側端面21aが現れるように切断される。
【0049】
また、(2)ロウバー工程では、図12Bに示されるS1ないしS4の工程が行われる。研磨工程(S1)では、上記主磁極21が所定の長さとなるまで、ロウバーが研磨される。ABS形成工程(S2)では、イオンミリングやエッチング等により、研磨されたロウバーに空気軸受面(ABS)が形成される。イオン注入工程(S3)では、上記主磁極21の媒体対向面側端面21aの一部にイオンが注入され、上記注入領域21i及び非注入領域21nが形成される。こうしたイオン注入は、公知のイオン注入装置を用いることで実現される。皮膜形成工程(S4)では、ロウバーに形成された空気軸受面に保護皮膜が形成される。なお、ABS工程(S2)及びイオン注入工程(S3)の順序が逆であってもよい。
【0050】
その後、(3)スライダー工程において、ロウバーは切断され、磁気ヘッドスライダ10が得られる。
【0051】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、種々の変形実施が当業者にとって可能であるのはもちろんである。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の一実施形態に係る磁気ディスク装置の斜視図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る磁気ヘッドスライダの要部断面図である。
【図3】同磁気ヘッドスライダの主磁極の一態様を表す斜視図である。
【図4】同態様の効果説明図である。
【図5A】主磁極の他の態様を表す斜視図である。
【図5B】同態様の断面図である。
【図6A】主磁極の他の態様を表す斜視図である。
【図6B】主磁極の他の態様を表す斜視図である。
【図7】主磁極の他の態様を表す斜視図である。
【図8A】主磁極の他の態様を表す斜視図である。
【図8B】主磁極の他の態様を表す斜視図である。
【図9】主磁極の他の態様を表す斜視図である。
【図10】主磁極の他の態様を表す斜視図である。
【図11A】主磁極の他の態様を表す斜視図である。
【図11B】同態様の側面図である。
【図12A】本発明の一実施形態に係る磁気ヘッドスライダの製造方法の説明図である。
【図12B】同製造方法の一部を具体的に表すフローチャートである。
【符号の説明】
【0053】
1 磁気ディスク装置、2 磁気ディスク、3 スピンドルモータ、4 ヘッドアッセンブリ、5 サスペンションアーム、7 ボイスコイルモータ、9 ランプ部、10 磁気ヘッドスライダ、10a 媒体対向面、12 薄膜部、20 記録ヘッド(単磁極型記録ヘッド)、21 主磁極、21a 媒体対向面側端面、21i 注入領域、21n 非注入領域、212 棒状部、211p トレーリング側の端部、211q リーディング側の端部、219a〜219c 主磁極の端、214 幅広部、221 第1の部分、223 シールド層、225 第2の部分、23 補助磁極、25 連結部、27 コイル、29 磁気シールド、30 再生ヘッド、32 再生素子、34 磁気シールド、40 磁気シールド。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁気ディスクと対向する媒体対向面まで延び、媒体対向面側端面から記録磁界を発する主磁極を含む単磁極型記録ヘッド、
を有する磁気ヘッドスライダであって、
前記媒体対向面側端面は、磁性を劣化させる不純物が注入された注入領域と、前記不純物が注入されない非注入領域と、に分けられ、
前記非注入領域は、リーディング側の端部の幅がトレーリング側の端部の幅よりも狭い形状を有する、
ことを特徴とする磁気ヘッドスライダ。
【請求項2】
前記非注入領域のリーディング側の端部の幅が、前記媒体対向面側端面の幅よりも狭い、
請求項1に記載の磁気ヘッドスライダ。
【請求項3】
前記非注入領域のリーディング側の端部が、角状に形成される、
請求項1に記載の磁気ヘッドスライダ。
【請求項4】
前記非注入領域のリーディング側の端部が、前記主磁極のリーディング側の端から離間する、
請求項1に記載の磁気ヘッドスライダ。
【請求項5】
前記注入領域から前記主磁極内に注入される前記不純物の注入深さが、前記主磁極のリーディング側の端から前記非注入領域のリーディング側の端部に近づくに従って浅くなる、
請求項4に記載の磁気ヘッドスライダ。
【請求項6】
前記非注入領域のトレーリング側の端部の幅が、前記媒体対向面側端面の幅よりも狭い、
請求項1に記載の磁気ヘッドスライダ。
【請求項7】
前記主磁極は、前記媒体対向面まで延び、先端に前記媒体対向面側端面を有する棒状部と、前記棒状部の基端側に繋がる、前記棒状部よりも幅広な幅広部と、を含み、
前記不純物は、前記棒状部の範囲内に注入される、
請求項1に記載の磁気ヘッドスライダ。
【請求項8】
前記注入領域から前記主磁極内に注入される前記不純物の注入深さが、前記非注入領域の外縁に近づくに従って浅くなる、
請求項1に記載の磁気ヘッドスライダ。
【請求項9】
前記注入領域から前記主磁極内に注入される前記不純物の濃度が、前記媒体対向面側端面に近づくに従って高くなる、
請求項1に記載の磁気ヘッドスライダ。
【請求項10】
前記非注入領域のトレーリング側の端部が幅方向に分割され、その間に前記注入領域が形成される、
請求項1に記載の磁気ヘッドスライダ。
【請求項11】
前記主磁極は、前記媒体対向面側端面から所定の距離に、前記不純物の通過を抑制するシールド層を含む、
請求項1に記載の磁気ヘッドスライダ。
【請求項12】
前記シールド層は、前記主磁極のトレーリング側の端に近づくに従って前記媒体対向面側端面との距離が短くなる、
請求項11に記載の磁気ヘッドスライダ。
【請求項13】
前記主磁極は、前記シールド層に対して前記媒体対向面側端面と同じ側の第1の部分と、前記媒体対向面側端面とは逆側の第2の部分と、を含み、
前記第2の部分が、前記第1の部分よりも厚い、
請求項11に記載の磁気ヘッドスライダ。
【請求項14】
請求項1に記載の磁気ヘッドスライダを有する磁気ディスク装置。
【請求項15】
磁気ディスクと対向する媒体対向面まで延び、媒体対向面側端面から記録磁界を発する主磁極を含む単磁極型記録ヘッド、
を有する磁気ヘッドスライダの製造方法であって、
基板上に前記主磁極を含む薄膜部を形成し、
前記薄膜部が形成された基板を、前記媒体対向面側端面が現れるよう切断し、
前記媒体対向面側端面に、磁性を劣化させる不純物を、該不純物が注入されない非注入領域がリーディング側の端部の幅がトレーリング側の端部の幅よりも狭い形状を有するように、注入する、
磁気ヘッドスライダの製造方法。
【請求項1】
磁気ディスクと対向する媒体対向面まで延び、媒体対向面側端面から記録磁界を発する主磁極を含む単磁極型記録ヘッド、
を有する磁気ヘッドスライダであって、
前記媒体対向面側端面は、磁性を劣化させる不純物が注入された注入領域と、前記不純物が注入されない非注入領域と、に分けられ、
前記非注入領域は、リーディング側の端部の幅がトレーリング側の端部の幅よりも狭い形状を有する、
ことを特徴とする磁気ヘッドスライダ。
【請求項2】
前記非注入領域のリーディング側の端部の幅が、前記媒体対向面側端面の幅よりも狭い、
請求項1に記載の磁気ヘッドスライダ。
【請求項3】
前記非注入領域のリーディング側の端部が、角状に形成される、
請求項1に記載の磁気ヘッドスライダ。
【請求項4】
前記非注入領域のリーディング側の端部が、前記主磁極のリーディング側の端から離間する、
請求項1に記載の磁気ヘッドスライダ。
【請求項5】
前記注入領域から前記主磁極内に注入される前記不純物の注入深さが、前記主磁極のリーディング側の端から前記非注入領域のリーディング側の端部に近づくに従って浅くなる、
請求項4に記載の磁気ヘッドスライダ。
【請求項6】
前記非注入領域のトレーリング側の端部の幅が、前記媒体対向面側端面の幅よりも狭い、
請求項1に記載の磁気ヘッドスライダ。
【請求項7】
前記主磁極は、前記媒体対向面まで延び、先端に前記媒体対向面側端面を有する棒状部と、前記棒状部の基端側に繋がる、前記棒状部よりも幅広な幅広部と、を含み、
前記不純物は、前記棒状部の範囲内に注入される、
請求項1に記載の磁気ヘッドスライダ。
【請求項8】
前記注入領域から前記主磁極内に注入される前記不純物の注入深さが、前記非注入領域の外縁に近づくに従って浅くなる、
請求項1に記載の磁気ヘッドスライダ。
【請求項9】
前記注入領域から前記主磁極内に注入される前記不純物の濃度が、前記媒体対向面側端面に近づくに従って高くなる、
請求項1に記載の磁気ヘッドスライダ。
【請求項10】
前記非注入領域のトレーリング側の端部が幅方向に分割され、その間に前記注入領域が形成される、
請求項1に記載の磁気ヘッドスライダ。
【請求項11】
前記主磁極は、前記媒体対向面側端面から所定の距離に、前記不純物の通過を抑制するシールド層を含む、
請求項1に記載の磁気ヘッドスライダ。
【請求項12】
前記シールド層は、前記主磁極のトレーリング側の端に近づくに従って前記媒体対向面側端面との距離が短くなる、
請求項11に記載の磁気ヘッドスライダ。
【請求項13】
前記主磁極は、前記シールド層に対して前記媒体対向面側端面と同じ側の第1の部分と、前記媒体対向面側端面とは逆側の第2の部分と、を含み、
前記第2の部分が、前記第1の部分よりも厚い、
請求項11に記載の磁気ヘッドスライダ。
【請求項14】
請求項1に記載の磁気ヘッドスライダを有する磁気ディスク装置。
【請求項15】
磁気ディスクと対向する媒体対向面まで延び、媒体対向面側端面から記録磁界を発する主磁極を含む単磁極型記録ヘッド、
を有する磁気ヘッドスライダの製造方法であって、
基板上に前記主磁極を含む薄膜部を形成し、
前記薄膜部が形成された基板を、前記媒体対向面側端面が現れるよう切断し、
前記媒体対向面側端面に、磁性を劣化させる不純物を、該不純物が注入されない非注入領域がリーディング側の端部の幅がトレーリング側の端部の幅よりも狭い形状を有するように、注入する、
磁気ヘッドスライダの製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5A】
【図5B】
【図6A】
【図6B】
【図7】
【図8A】
【図8B】
【図9】
【図10】
【図11A】
【図11B】
【図12A】
【図12B】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5A】
【図5B】
【図6A】
【図6B】
【図7】
【図8A】
【図8B】
【図9】
【図10】
【図11A】
【図11B】
【図12A】
【図12B】
【公開番号】特開2010−146646(P2010−146646A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−323209(P2008−323209)
【出願日】平成20年12月19日(2008.12.19)
【出願人】(503116280)ヒタチグローバルストレージテクノロジーズネザーランドビーブイ (1,121)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年12月19日(2008.12.19)
【出願人】(503116280)ヒタチグローバルストレージテクノロジーズネザーランドビーブイ (1,121)
【Fターム(参考)】
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