説明

磁気ヘッド及びその製造方法、及び磁気記録再生装置

【課題】
高周波磁界アシスト記録方式の磁気ヘッドにおいて、発振器の固定層の高い垂直異方性磁界を引き出し、安定的な高周波磁界の発振を得て、高記録密度記録を実現する。
【解決手段】
磁界を発生させる主磁極120と、主磁極のトレーリング側に主磁極に近接して設けられた高周波磁界を発生する発振器110を有する高周波アシスト型の記録ヘッド部を備えた磁気ヘッドにおいて、主磁極と発振器の間に、該発振器を構成する膜積層表面を平坦化する仲介層140を設け、仲介層の発振器側の界面のラフネスを主磁極側の界面のラフネスに比べて小さく形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気ヘッド及びその製造方法、及び磁気記録再生装置に係り、特に、磁気記録媒体に高周波磁界を印加することにより磁化反転を誘導する機能を有する磁気記録ヘッド及びその製造方法、磁気記録再生装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
HDD(Hard Disk Drive)などの磁気記録再生装置において、面記録密度を上げるには記録能力を向上させることが重要である。そのため、最近、熱や高周波磁界の印加により記録時に一時的に磁気記録媒体の保磁力を低下させるアシスト記録が注目されている。高周波磁界印加による方式は、「マイクロ波アシスト記録(MAMR)」と呼ばれている。
【0003】
MAMRは、強力なマイクロ波帯の高周波磁界をナノメートルオーダーの領域に印加して記録媒体を局所的に励起、磁化反転磁界を低減して情報を記録する。しかし、MAMRは磁気共鳴を利用するため、記録媒体の異方性磁界に比例する周波数の高い高周波磁界を用いないと、大きな磁化反転磁界の低減効果は得られない。その課題を解決するための1つとして、特許文献1には、高周波アシスト磁界を発生させるための、GMR素子(巨大磁気抵抗効果素子)に類似する構造の積層膜を電極で挟んだ構造の高周波発振素子が開示されている。高周波発振素子は、GMR構造に発生するスピン揺らぎをもつ伝導電子を、非磁性体を介して磁性体に注入することにより微小な高周波振動磁界を発生させることができる。
【0004】
また、非特許文献1には、「Microwave Assisted Magnetic Recording」として、垂直磁気ヘッドの主磁極に隣接した発振器中のスピン注入固定層(以下、固定層という)からのスピントルクを中間層のCuを介して隣接する高周波磁界発生層(Field Generation Layer:以下、FGLという)に伝え、FGLの磁化を面内で高速回転させることによってマイクロ波(高周波磁界)を発生させ、磁気異方性の大きな磁気記録媒体に情報を記録する技術が開示されている。さらに、非特許文献2には、発振器を磁気記録ヘッドの主磁極と主磁極後方のトレーリングシールドの間に配置させ、高周波磁界の回転方向を記録磁界極性に応じて変化させることにより、磁気記録媒体の磁化反転を効率的にアシストする技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−025831号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】「Microwave Assisted Magnetic Recording」:J.-G. Zhu et al., IEEE Trans. Magn., Vol.44, No.1, pp.125 (2008)
【非特許文献2】「Media damping constant and performance characteristics in microwave assisted magnetic recording with circular as field」:Y. Wang et al., Journal of Applied Physics 105, 07B902 (2009)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
MAMRにおいて効率的に高周波磁界アシストを行うためには、発振器が安定した発振特性を有することが重要である。そのためには、高い垂直異方性磁界を有する固定層が必要であると考えられ、発明者らは固定層の垂直異方性磁界が劣化することにより起こるMAMRの記録特性への影響を検討した。その結果、固定層の垂直異方性磁界が低い時には発振の不安定化を引き起こし、高周波磁界は記録に必要とする周波数の高い成分だけでなく、磁気記録媒体への記録エラーの原因となる周波数の低い成分も発生することが分かった。この高周波磁界の低周波成分の発生を抑制するためには、垂直異方性磁界は最低10kOe必要である。したがって、固定層の垂直異方性磁界が10kOeよりも低い発振器を有する磁気記録ヘッドでは高密度磁気記録は実現できない。
【0008】
固定層が安定的に高周波磁界の発振をするためには、10kOe以上の高い垂直異方性磁界が必要となるが、一般的な発振器の製造方法では固定層の垂直異方性磁界は劣化してしまう。この理由は次の通りと考えられる。発振器の形成について言えば、一般的には、主磁極の膜面上に発振器となる積層膜を堆積させ、ホトリソグラフィなどを用いて数十ナノメートルサイズへのパターンに素子化して作製する。ここで、発振器はナノメートルオーダーの積層膜から成るため、主磁極の膜面形状は、凹凸のない平坦な膜面形状が必要となる。特に、発振器の固定層においては、Co/NiやCo/Pt、Co/Pdなどからなる原子単位で交互に積層した超格子膜が用いられるため、原子レベルでの平坦な膜面形状が必要とされる。しかし、従来の磁気ヘッドの製造技術によれば、主磁極表面の平坦性が悪くなり、発振器の固定層の材料固有の磁気特性が十分に得られない。
【0009】
その理由としては、主磁極を形成した後に、CMP(Chemical Mechanical Polishing)やエッチバックなどを用いて主磁極表面の平坦化処理を施しているが、その含まれる材料に起因して原子レベルで平坦な主磁極表面を得ることは難しく、平坦化処理のしすぎは、かえって主磁極の腐食やディッシングなど別の問題が発生すると考えられるからである。
【0010】
そこで、本発明の目的は、高周波磁界アシスト記録方式の磁気ヘッドにおいて、発振器の固定層の高い垂直異方性磁界を十分に引き出し、安定的な高周波磁界の発振を得て、高記録密度を実現することができる磁気ヘッド及びその製造方法、及び磁気記録再生装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る磁気ヘッドは、好ましくは、磁界を発生させる主磁極と、前記主磁極のトレーリング側に前記主磁極に近接して設けられた高周波磁界を発生する発振器を有する高周波アシスト型の記録ヘッド部を備えた磁気ヘッドであって、前記主磁極と前記発振器の間に、該発振器を構成する膜積層表面を平坦化する仲介層を設け、前記仲介層の前記発振器側の界面のラフネスを前記主磁極側の界面のラフネスに比べて小さく形成したことを特徴とする磁気ヘッドとして構成される。
【0012】
好ましい例では、前記発振器は、高周波磁界を発生する高周波磁界発生層と、スピン透過性の高い材料から構成される中間層と、該高周波磁界発生層にスピントルクを与えるための固定層を備えて構成され、
該固定層が前記仲介層に面する前記発振器の場合、該仲介層のラフネスが小さく形成された面上に、該固定層が積層して形成され、
該高周波磁界発生層が前記仲介層に面する前記発振器の場合、該仲介層のラフネスが小さく形成された面上に、該高周波磁界発生層が積層して形成される。
【0013】
また、好ましくは、前記仲介層は、Cr,Cu,Mo,Ag,Ta,Pt,Auのうちの少なくとも一つの材料、もしくはこれらの合金から構成される。
また、好ましくは、前記仲介層の前記発振器側の界面の凹凸の大きさは、4nm以下である。
【0014】
本発明に係る磁気ヘッドの製造方法は、好ましくは、磁界を発生させる主磁極と、前記主磁極のトレーリング側に前記主磁極に近接して設けられた高周波磁界を発生する発振器を有する高周波アシスト型の記録ヘッド部を備えた磁気ヘッドの製造方法において、
前記主磁極の層を形成した後に、該主磁極層の上に仲介層を形成し、
該仲介層の前記発振器側の界面のラフネスを前記主磁極側の界面のラフネスに比べて小さく形成し、
該仲介層の上に前記発振器を構成する積層膜を形成する、ことを特徴とする磁気ヘッドの製造方法として構成される。
好ましい例では、前記仲介層の表面に、凹凸の大きさが4nm以下となる平坦化処理を施し、その後に、該仲介層の上に前記発振器を構成する積層膜を形成する。
【0015】
本発明に係る磁気記録再生装置は、好ましくは、磁界を発生させる主磁極と、前記主磁極のトレーリング側に前記主磁極に近接して設けられた高周波磁界を発生する発振器を有する高周波アシスト型の記録ヘッド部と、再生ヘッド部を備え、前記主磁極と前記発振器の間に、該発振器を構成する膜積層表面を平坦化する仲介層を設け、前記仲介層の前記発振器側の界面のラフネスを前記主磁極側の界面のラフネスに比べて小さく形成した磁気ヘッドと、
該磁気ヘッドによって信号を記録する磁気記録媒体と、を有する磁気記録再生装置として構成される。
【0016】
本発明に係る磁気ヘッドは、表現を変えれば、磁界を発生させる主磁極と、前記主磁極のトレーリング側に前記主磁極に近接して設けられた高周波磁界を発生する発振器を有する高周波アシスト型の記録ヘッド部を備えた磁気ヘッドであって、
前記主磁極と前記発振器の間に、該発振器を構成する膜積層表面を平坦化する平坦化層を設け、前記平坦化層の前記発振器側の界面のラフネスを前記主磁極側の界面のラフネスに比べて小さく形成したことを特徴とする磁気ヘッドとして把握することができる。
本発明に係る磁気ヘッドの製造方法、及び磁気記録再生装置においても、同様にして、上記平坦化層なる表現を用いて把握することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、平坦な主磁極と発振器界面の実現により、固定層の高い垂直異方性磁界を十分に引き出した発振器を実現することができる。これによって、高周波磁界の安定的な発振を実現でき、書き込みエラーがなく磁気記録することが可能となり、安定的な高周波磁界の発振が可能な発振器を有する、高記録密度可能な磁気ヘッドを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施例における磁気ヘッドの構成を示す図。
【図2】一実施例(実施例1)における磁気ヘッドの記録ヘッド部の構成を示す図。
【図3】実施例1と従来技術の対比における磁気ヘッドの発振器の断面を示す図。
【図4】実施例1における平坦化層の発振器側界面と主磁極側界面の断面プロファイルの対比の説明に供する図。
【図5】実施例1における発振器の固定層Co/Niの磁化曲線と、従来技術による発振器の固定層Co/Niの磁化曲線の対比の説明に供する図。
【図6A】実施例2における記録ヘッド部の発振器の製造工程を示す断面図。
【図6B】実施例2における記録ヘッド部の発振器の製造工程を示す断面図。
【図7】実施例3における平坦化層の凹凸の大きさと固定層の垂直磁気異方性の劣化率の関係を示す図。
【図8】実施例4による磁気ディスク装置の概略構成を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。
【実施例1】
【0020】
図1は、一実施例における、トラック幅方向対向面から見た磁気記録再生ヘッドの構成を示す。磁気記録再生ヘッド(以下単に磁気ヘッドという)1は、記録ヘッド部100と再生ヘッド部200から構成される記録再生分離ヘッドであり、磁気ディスクのような回転する磁気ディスク(磁気記録媒体)3に記録再生を行う。記録ヘッド部100は、高周波磁界を発生するための発振器110、記録ヘッド磁界を発生するための主磁極120、主磁極に磁場を励磁するためのコイル160と副磁極130aから構成される。図示の例では、主磁極120のトレーリング方向にトレーリングシールド130bを設けているが、これは必ずしも必須な構造というわけではない。なおここで、磁気ヘッドの磁気ディスク3に対する進行方向と反対の方向をトレーリング方向、磁気ヘッドの磁気ディスクに対する進行方向をリーディング方向と定義する。
また、図示の例では、磁気ディスク3に対する磁気ヘッドの進行方向から見て、再生ヘッド部200が先頭で記録ヘッド部100が後方に配置されているが、ヘッドの進行方向から見て記録ヘッド部100が先頭で再生ヘッド部200が後方になるように、図示の例とはその配置を逆にした構成としても良い。
【0021】
再生ヘッド部200は、再生センサ210、下部磁気シールド220と上部磁気シールド230から構成され、磁気ディスク3に記録された記録信号を再生する。再生ヘッド部200の構成としては、例えば所謂GMR(Giant Magneto-Resistive)効果を有する再生センサであっても良いし、TMR(Tunneling Magneto-Resistive)効果を有する再生センサであっても良い。また、外部磁界に対して逆極性の応答をする2つ以上の再生センサを有する所謂差動型再生センサであっても良い。また、下部磁気シールド220と上部磁気シールド230は再生信号の品質の向上に重要な役割を担うため、できるだけこれらのシールドを設ける方がよい。
【0022】
図2は、磁気ヘッドの記録ヘッド部の構成を示す。記録ヘッド部100の一部である主磁極120と発振器110のトラック幅方向対向面から見た図である。
記録ヘッド部100の発振器110は、高周波磁界を発生する高周波磁界発生層(FGL)111、スピン透過性の高い材料から成る中間層112、FGL111にスピントルクを与えるためのスピン注入固定層(以下単に固定層という)113から構成される。なお、発振器110は、図2に示すように、主磁極120側から固定層113、中間層112、FGL111の順に積層して形成されるが、逆に主磁極120側からFGL111、中間層112、固定層113の順に積層して形成してもよい。
【0023】
記録ヘッド部100のFGL111の材料は、例えばFe70Co30であり、膜厚は例えば15nmである。Fe70Co30の飽和磁化は2.4Tであり、高い高周波磁界を発生することが出来る。FGL111の材料は磁性体であればFGLとしての役割を担うことが可能である。なお、FeCo合金の他に、NiFe合金やCoFeGe、CoMnGe、CoFeAl、CoFeSi、CoMnSi、CoFeSiなどのホイスラー合金、TbFeCoなどのRe−TM系アルモファス系合金、CoCr系合金などでもよい。また、CoIrなど負の垂直異方性エネルギーを持つ材料でも良い。FGL111の膜厚は、15nm以上あるいはそれ以下であってもよいが、好ましくは5nm以上30nm以下の範囲がよい。その理由について言えば、FGL111の膜厚を5nm以上に設定するのは、膜厚が薄すぎると高周波磁界強度が低下し過ぎるためであり、30nm以下に設定するのは膜厚が厚過ぎるとFGL111が多磁区化し磁界強度の低下を招くので、それを防ぐためである。
【0024】
記録ヘッド部100の中間層112は、例えばCuであり膜厚は2nmである。中間層112の材料としては非磁性体の伝導材料であることが好ましく、Cuの他に例えばAu、Ag、Crなどを用いることが出来る。固定層113は例えばCo/Niであり膜厚は8nmである。また、固定層113に用いたCo/Niの垂直異方性磁界(Hk)は17kOeである。固定層113には垂直磁気異方性を持った材料を用いることによりFGL111の発振を安定させることが出来る。この材料は、Co/Niの他に例えばCo/Pt、Co/Pdなどの人工磁性材料を用いることが好ましい。
【0025】
以上のような発振器110の構成により、磁気ディスク3の記録層に高周波で高い高周波磁界を印加することができる。本例の主磁極120とシールド130bの構成としては、飽和磁化が大きく、結晶磁気異方性が小さいCoFe合金とした。発振器110のサイズは、本例ではトラック方向の幅(Two)、素子高さ方向の幅(SHo)ともに40nmであるが、FGL111から適切な高周波磁界強度と周波数が得られるように、適切に設計することが可能である。
【0026】
次に、本発明の特徴である、発振器110の形成表面を平坦化するための具体的な構成について説明する。磁気ヘッドの記録部100の主磁極120と発振器110の間に仲介層140を形成する。この仲介層140は、発振器110を形成する積層膜の界面を平坦化するための膜となるので平坦化層と言うことができる。(以下の説明では、平坦化層140と言うことにする。)
平坦化層140は、CMP(Chemical Mechanical Polishing)などの平坦化処理によって主磁極120の膜面方向に設けられる。平坦化層140の膜厚は好ましくは3nm以上30nm以下の範囲であり、一例では約10nmである。この膜厚を3nm以上に設定する理由は、膜厚が薄すぎると平坦化処理によって主磁極まで削れてしまうためである。また、この膜厚を30nm以下に設定する理由は、平坦化処理の後に残る平坦化層膜厚が厚すぎると主磁極120と発振器110の距離が離れてしまい、媒体上で効率的なアシスト効果が得られないためである。
【0027】
平坦化層140の材料は例えばCrであるが、これに限らない。平坦化層の形成に際して平坦化可能な材料であって、電気伝導率の小さい材料であれば良い。Cr以外の材料としては、例えばCu,Mo,Ag,Ta,Pt,Auの少なくとも一つの材料もしくは当該材料を含む合金材料を用いることができる。その意味では、仲介層ないし平坦化層140は、発振器110の形成表面の平坦化を実現するための非磁性層ということもできる。平坦化層140の形成は、好ましくはCMPを用いることができるが、この他に逆スパッタ、IBE(Ion Beam Etching)、GCIB (Gas Cluster Ion Beam)などを用いて平坦化処理してもよく、これらの処理でも同様の効果が得られる。なお、平坦化層140の製造工程については、図6A、6Bを参照して後述する。
【0028】
図3は、(a)本発明による平坦化層140を有する発振器110と、(b)従来技術による平坦化層を有しない発振器の対比のおける、発振器の断面を示す。
(a)に示すように、平坦化層140の主磁極側界面1401は主磁極120の表面の凹凸がそのまま現れているが、平坦化層140の発振器側界面1402は平坦に形成される。本発明によれば、主磁極120の表面の凹凸が平坦化層140によって平坦化され、平坦化された面の上に発振器110を構成する積層膜113等が平坦に堆積して形成される。
一方、(b)の従来技術の発振器は、平坦化層が無いので、主磁極120上の凹凸がそのままの状態で、その上に発振器110を構成する積層膜113等が形成されるので、発振器110自体も積層界面の平坦性の悪いものとなる。
【0029】
次に、図4を参照して、本実施例による発振器110の形成面の平坦化の効果について説明する。
図4は、(a)平坦化層140の発振器側界面1402の断面プロファイルと、(b)平坦化層の主磁極側界面1401の断面プロファイルを示す。
本実施例によれば、(a)に示すように、平坦化層140の発振器側界面1402は、凹凸がほとんどない平坦な表面が得られた。この凹凸をピーク・バレーの高低差で定義すると、(b)の平坦化層の主磁極側界面1401の凹凸は8nm程度であるが、(a)の平坦化層140の発振器側界面1402の凹凸は1nm以下となり、原子レベルで平坦な表面形成ができることを確認できた。
【0030】
次に、図5を参照して、本実施例による発振器110の形成面の凹凸を抑制した効果について説明する。図5は、(a)本実施例による発振器の固定層113のCo/Niの磁化曲線と、(b)従来技術による発振器の固定層のCo/Niの磁化曲線の対比を示す。本実施例および従来技術において作製した発振器の固定層の磁化曲線をVSM(Vibrating Sample Magnetometer)を用いて測定した結果である。
【0031】
図5(a)に示すように、本実施例による固定層113のCo/Niの磁化曲線は、強い垂直異方性をもつ磁性体の典型的な磁化曲線を示す。この磁化曲線からの見積もられる固定層のHkは17kOeであり、発振器110の固定層として要求される10kOe以上の高いHkを持つ固定層を形成することができる。一方、図5(b)に示すように、従来技術による固定層のCo/Niの磁化曲線では、直線的な磁化曲線が崩れ、ヒステリシスを持った曲線となる。これは固定層中に垂直磁化と共に面内磁化が混在している磁化状態を示しており、Hkの低下を示している。
これは、発振器を形成する下地の凹凸が影響して、その上に製膜した固定層膜の結晶性が悪く、固定層本来の磁気特性が引き出せず、Hkが劣化してしまっていると理解できる。このことから、本発明による平坦化層140の形成により、平坦な主磁極120と発振器の界面が実現され、発振器固定層の持つ高い垂直異方性磁界を十分に引き出すことが可能になった。
【0032】
本発明の効果を確かめるために、発明者らは、記録ヘッド部100の発振器110の発振特性について、本実施例による記録ヘッド部と従来技術の記録ヘッド部を対比して評価した。その結果、従来の磁気ヘッドでは固定層113のHk劣化によって、高周波磁界の発振周波数の変動が激しく、低い周波数の高周波磁界成分が大きくなった。一方、本実施例による磁気ヘッドでは発振周波数が20GHzで周波数変動の小さい高周波磁界が発生した。したがって、本発明による記録ヘッド部は、発振器110の形成面の平坦化により発振器の固定層の異方性磁界の抑制が可能となったことで、安定な高周波磁界の発振が得られ高い信号品質の信号を記録することが可能となった。
【実施例2】
【0033】
図6A及び図6Bを参照して、記録ヘッド部の発振器110の製造方法について説明する。図6は膜面方向を上向きに描いている。
まず、(a)に示すように、薄膜形成技術を用いて主磁極120を形成する。このとき、通常の主磁極形成プロセスで用いられる平坦化処理、具体的にはCMPやエッチバックによって平坦化処理が施される。しかし、主磁極120の表面には数ナノレベルでの凹凸が残っており、原子レベルでの平坦な表面にはなっていない。
次に、(b)に示すように、主磁極120の膜面上にCr等を用いた平坦化層140を製膜する。このとき、平坦化層140の膜面は主磁極120の表面の凹凸形状が影響して、同様の凹凸をもった表面形状になっている。そこで、(c)に示すように、平坦化層140の平坦化処理を行う。本実施例では、逆スパッタを用いて平坦化処理を施した。なお、逆スパッタ以外に、CMP、IBE、GCIBエッチングなどを用いて平坦化することも可能である。
【0034】
次に、(d)に示すように、平坦化した平坦化層140上に、発振器110を構成する固定層113、中間層112、FGL111の各積層膜を順次製膜する。そして、(e)に示すように、例えば、ホトリソグラフィによって所定の形状のレジスト400を形成する。最後に、(f)に示すように、例えば、イオンミリング法により、レジスト400から露出した部分の積層膜をエッチングする。この後、埋め込み絶縁層(図示していない)を埋め込み製膜した後、例えば、リフトオフ法によってレジスト400を除去する。このようにして、主磁極120と発振器110の間に平坦化層140を有する、平坦な発振器の積層界面を持つ、磁気ヘッドを得るこができる。
【実施例3】
【0035】
この実施例は、実施例1の構成に加えて、より安定的に固定層113のHkの劣化を抑制する例である。具体的には、平坦化層140の発振器側界面1402の凹凸の大きさを4nm以下とする構造である。なお、発振器側界面1402の凹凸の大きさの下限は、原子の大きさである、0.1nm程度である。
【0036】
発明者らは、安定的に固定層113のHk劣化を抑制できる理由について検討したので、以下に説明する。図7は、平坦化層140の凹凸の大きさを1nmから8nmで変化したときの固定層113のHkの劣化率を示す。固定層113の材料は実施例1に記載のCo/Niに加えてCo/PtとCo/Pdでも検討した。Hkの劣化率は各材料のHk劣化がない平坦化層140の凹凸が1nmの条件におけるHkで正規化している。平坦化層140の凹凸が1nmの条件でのCo/Ni、Co/Pt、Co/PdのHkはそれぞれ16kOe、26kOe、18kOeである。なお、凹凸の大きさは発振器の素子幅の範囲において、図3に示すような、膜積層方向の断面における平坦化層の発振器側との界面におけるピーク・バレーの高低差と定義した。また、平坦化層140の平坦性は平坦化処理時間を変化させることにより制御した。
【0037】
発明者らの検討によれば、平坦化処理時間の増加と共に、平坦化層140の発振器側界面1402の凹凸は低減する。この検討におけるその他の膜およびプロセスの条件は、実施例1と同様である。図7から、平坦化層140の発振器側界面1402の凹凸が4nmよりも増大すると急激に固定層113のhkは劣化することがわかる。しかし、本発明により全ての固定層材料において平坦化層140の発振器側界面1402の凹凸を4nm以下にすることにより、固定層113のHkの劣化率を0.7以下に抑制することができる。
平坦化層140の発振器側界面1402の凹凸を4nm以下とした磁気ヘッドを構成することにより、固定層113のHkの劣化を抑制が可能となり、良好な発振特性を有する磁気ヘッドを得ることが出来る。
【実施例4】
【0038】
実施例1乃至実施例3に記載された磁気ヘッドと、磁気ディスク(磁気記録媒体)を実装して磁気ディスク装置を構成する。図8は磁気ディスク装置の概略構成を示す。
磁気的に情報を記録する磁気ディスク3はスピンドルモータ805により回転駆動される。図1に示す磁気ヘッド1はヘッドスライダ801上に一体的に形成される。ヘッドスライダ801はアーム802の先端に搭載され、アクチュエータ803の駆動によってヘッドスライダ801を磁気ディスク3のトラック上に移動する。
ヘッドスライダ801上に形成された磁気ヘッド1が、アクチュエータ803によって磁気ディスク3上の目的のトラックの記録位置に近接して相対運動して、信号の書き込み及び読み取りが行われる。信号処理回路(図示せず)で記録信号が生成されて、記録ヘッド部を介して磁気ディスクに記録される。また、再生ヘッド部で検知された読取り信号は、同じく信号処理回路で信号処理される。上記した磁気ヘッドを搭載した磁気ディスク装置で記録再生の試験した結果、書き込みエラーの無い、高信頼の結果が得られた。
【符号の説明】
【0039】
1:磁気ヘッド 100:記録ヘッド部 110:発振器 111:高周波磁界発生層 112:中間層 113:スピン注入固定層 120:主磁極 130a:副磁極 130b:トレーリングシールド 140:仲介層(平坦化層) 160:コイル
200:再生ヘッド部 210:再生センサ 220:下部磁気シールド 230:上部磁気シールド
3:磁気ディスク 801:ヘッドスライダ 802:アーム 803:アクチュエータ 804:信号処理回路 805:スピンドルモータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁界を発生させる主磁極と、前記主磁極のトレーリング側に前記主磁極に近接して設けられた高周波磁界を発生する発振器を有する高周波アシスト型の記録ヘッド部を備えた磁気ヘッドであって、
前記主磁極と前記発振器の間に、該発振器を構成する膜積層表面を平坦化する仲介層を設け、前記仲介層の前記発振器側の界面のラフネスを前記主磁極側の界面のラフネスに比べて小さく形成したことを特徴とする磁気ヘッド。
【請求項2】
前記発振器は、高周波磁界を発生する高周波磁界発生層と、スピン透過性の高い材料から構成される中間層と、該高周波磁界発生層にスピントルクを与えるための固定層を備えて構成され、
該固定層が前記仲介層に面する前記発振器の場合、該仲介層のラフネスが小さく形成された面上に、該固定層が積層して形成され、
該高周波磁界発生層が前記仲介層に面する前記発振器の場合、該仲介層のラフネスが小さく形成された面上に、該高周波磁界発生層が積層して形成される
ことを特徴とする請求項1の磁気ヘッド。
【請求項3】
前記仲介層は、Cr,Cu,Mo,Ag,Ta,Pt,Auのうちの少なくとも一つの材料、もしくはこれらの合金から構成されることを特徴とする請求項1又は2記載の磁気ヘッド。
【請求項4】
前記仲介層の前記発振器側の界面の凹凸の大きさは、4nm以下であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかの請求項に記載の磁気ヘッド。
【請求項5】
磁界を発生させる主磁極と、前記主磁極のトレーリング側に前記主磁極に近接して設けられた高周波磁界を発生する発振器を有する高周波アシスト型の記録ヘッド部を備えた磁気ヘッドの製造方法において、
前記主磁極の層を形成した後に、該主磁極層の上に仲介層を形成し、
該仲介層の前記発振器側の界面のラフネスを前記主磁極側の界面のラフネスに比べて小さく形成し、
該仲介層の上に前記発振器を構成する積層膜を形成する、
ことを特徴とする磁気ヘッドの製造方法。
【請求項6】
前記仲介層の表面に、凹凸の大きさが4nm以下となる平坦化処理を施し、
その後に、該仲介層の上に前記発振器を構成する積層膜を形成することを特徴とする請求項5の磁気ヘッドの製造方法。
【請求項7】
磁界を発生させる主磁極と、前記主磁極のトレーリング側に前記主磁極に近接して設けられた高周波磁界を発生する発振器を有する高周波アシスト型の記録ヘッド部と、再生ヘッド部を備え、前記主磁極と前記発振器の間に、該発振器を構成する膜積層表面を平坦化する仲介層を設け、前記仲介層の前記発振器側の界面のラフネスを前記主磁極側の界面のラフネスに比べて小さく形成した磁気ヘッドと、
該磁気ヘッドによって信号を記録する磁気記録媒体と、
を有する磁気記録再生装置。
【請求項8】
磁界を発生させる主磁極と、前記主磁極のトレーリング側に前記主磁極に近接して設けられた高周波磁界を発生する発振器を有する高周波アシスト型の記録ヘッド部を備えた磁気ヘッドであって、
前記主磁極と前記発振器の間に、該発振器を構成する膜積層表面を平坦化する平坦化層を設け、前記平坦化層の前記発振器側の界面のラフネスを前記主磁極側の界面のラフネスに比べて小さく形成したことを特徴とする磁気ヘッド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6A】
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【図6B】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−45472(P2013−45472A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−180338(P2011−180338)
【出願日】平成23年8月22日(2011.8.22)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成20年度 独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「超高密度ナノビット磁気記録技術の開発(グリーンITプロジェクト)」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】