説明

磁気共鳴イメージング装置および傾斜磁場コイル冷却制御方法

【課題】傾斜磁場コイルを冷却する冷却装置のフィードバック制御の遅れに起因する中心周波数(f0)の変動を低減すること。
【解決手段】フィードフォワード制御部211が、パルスシーケンスのパワーデューティおよび撮影時間ならびに傾斜磁場コイル20の現在の温度に基づいて傾斜磁場コイル20の最大値を予測する。そして、最大値が所定の上限値以上になる場合にはプレスキャン開始時に冷却装置200の通水を開始するように温度調整部213に指示し、温度調整部213が指示に基づいて通水を開始する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気共鳴イメージング装置の傾斜磁場コイルを冷却する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気共鳴イメージング装置(以下、「MRI(Magnetic Resonance Imaging)装置」と呼ぶ。)は、磁気共鳴現象を利用して被検体内の画像を撮像する装置であり、撮像領域に静磁場を発生させるための静磁場磁石や、静磁場内に置かれた被検体に傾斜磁場を印加するための傾斜磁場コイル、傾斜磁場が印加された被検体から磁気共鳴信号を受信するための高周波コイルなど、撮像を行うための各種のユニットを備えている。
【0003】
かかるユニットの中には、撮像中に熱を発生するものが存在する。特に、傾斜磁場コイルは、パルスシーケンス(RFパルス、傾斜磁場パルスのON/OFF、振幅などを示す一連のタイムチャート)に応じてパルス電流が繰り返し供給されるため撮像中の発熱が顕著である。そのため、通常、MRI装置には、傾斜磁場コイルを冷却するための冷却装置(チラー)が備えられる。この冷却装置は、例えば、熱交換器や循環ポンプを有し、傾斜磁場コイルに設けられた冷却管に水などの冷媒を循環させることによって、傾斜磁場コイルを冷却する(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
ここで、上記した傾斜磁場コイルには、撮像領域内の静磁場不均一を補正するための鉄シムが設けられる場合があるが、この鉄シムは、傾斜磁場コイルの温度が変動すると、その影響で透磁率が変化する。そして、鉄シムの透磁率が変化すると、撮像領域内の静磁場均一度に変化が生じ、特に、磁気共鳴の中心周波数(f0)の変化が顕著に生じる。
【0005】
中心周波数(f0)の変動は、脂肪抑止の妨げや、画像にアーティファクトを生じさせる原因となることが知られている。したがって、安定した画質の画像を得るためには、鉄シムの温度の変動を抑えることが重要となる。そこで、通常、MRI装置では、図8に示すように、温度センサーなどを用いて傾斜磁場コイル20の温度Tを検出し、検出した温度Tの変化に応じて冷却装置400をフィードバック制御することによって、傾斜磁場コイルの温度の変動を抑えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−311957号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、フィードバック制御による冷却では、制御に遅れが生じるため、鉄シム温度の変動幅が大きくなり、中心周波数(f0)の変動が大きくなってしまう。このため、制御の遅れに起因する鉄シム温度の変動幅を低減する技術が求められている。
【0008】
この発明は、上述した従来技術による課題を解消するためになされたものであり、冷却制御の遅れに起因する鉄シム温度の変動幅を少なくし、中心周波数(f0)の変動を低減することができる磁気共鳴イメージング装置および傾斜磁場コイル冷却制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様に係る磁気共鳴イメージング装置は、静磁場内に置かれた被検体に傾斜磁場を印加する傾斜磁場コイルと、前記傾斜磁場コイルを冷却する冷却装置と、前記冷却装置を制御する制御部とを備え、前記傾斜磁場コイルは、前記傾斜磁場を発生させるメインコイルと、前記メインコイルの外側に漏洩する磁場をキャンセルするシールドコイルとを有し、前記制御部は、前記被検体の撮像に用いられるパルスシーケンスの撮像パラメータから算出され、前記メインコイルおよび前記シールドコイルに供給される電流のパワーデューティに基づいて前記冷却装置を制御する。
【0010】
また、本発明の他の態様に係る磁気共鳴イメージング装置は、静磁場内に置かれた被検体に傾斜磁場を印加する傾斜磁場コイルと、前記傾斜磁場コイルを冷却する冷却装置と、前記冷却装置を制御する制御部とを備え、前記制御部は、磁気共鳴の中心周波数(f0)の変動量に基づいて前記冷却装置を制御する。
【0011】
また、本発明の他の態様に係る傾斜磁場コイル冷却制御方法は、被検体の撮像に用いられるパルスシーケンスの撮像パラメータに基づいて、静磁場内に置かれた前記被検体に傾斜磁場を印加する傾斜磁場コイルが有するメインコイルおよびシールドコイルに供給される電流のパワーデューティを取得し、取得されたパワーデューティに基づいて、前記傾斜磁場コイルを冷却する冷却装置を制御する、ことを含む。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、冷却装置のフィードバック制御の遅れに起因する傾斜磁場コイルの温度変動を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、本実施例1に係る冷却装置の制御方法を説明するための説明図である。
【図2】図2は、本実施例1に係るMRI装置の構成を示す機能ブロック図である。
【図3】図3は、傾斜磁場コイルの構造を示す斜視図である。
【図4】図4は、傾斜磁場コイルの内部構造を示す構造図である。
【図5】図5は、制御部の構成を示す機能ブロック図である。
【図6】図6は、フィードフォワード制御部の処理手順を示すフローチャートである。
【図7】図7は、本実施例2に係る冷却装置の制御部の構成を示す機能ブロック図である。
【図8】図8は、傾斜磁場コイルの従来の冷却方法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に添付図面を参照して、この発明に係る磁気共鳴イメージング装置および傾斜磁場コイル冷却制御方法の好適な実施例を詳細に説明する。なお、以下に示す実施例では、冷却管を循環させる冷媒として、水(以下、「冷却水」と呼ぶ)を用いた場合について説明するが、本実施例はこれに限られるわけではなく、他の種類の冷媒を用いた場合でも同様に適用することが可能である。
【実施例1】
【0015】
まず、本実施例1に係る冷却装置の制御方法について説明する。図1は、本実施例1に係る冷却装置の制御方法を説明するための説明図である。同図に示すように、この冷却装置200は、フィードバック制御に加えてフィードフォワード制御を行う。ここで、フィードフォワード制御とは、フィードバックループがなく、所定の制御プランに従って行う制御のことである。このフィードフォワード制御では、パルスシーケンスの実行前に冷却装置の冷却動作を開始する。
【0016】
傾斜磁場コイル20はパルスシーケンスに従って印加される電流パルスによって発熱する。したがって、パルスシーケンスに関する情報があれば傾斜磁場パルス発生に必要な電流パルスの情報を特定することによって撮像前に傾斜磁場コイル20の発熱量を予測することができ、傾斜磁場コイル20の温度がどこまで上がるかを予測することができる。
【0017】
そこで、本実施例1では、計算機システム90からパルスシーケンスに関する情報を取得し、パルスシーケンスに関する情報および現在の傾斜磁場コイル20の温度Tに基づいて傾斜磁場コイル20の温度の最大値を予測する。そして、最大値が所定の上限値以上の場合には、傾斜磁場コイル温度Tを下げる制御を開始する。
【0018】
このように、本実施例1では、パルスシーケンスに関する情報および現在の傾斜磁場コイル20の温度Tに基づいて冷却装置をフィードフォワード制御することによって、フィードバック制御による制御の遅れに起因する傾斜磁場コイル温度Tの変動幅の増加を低減することができる。
【0019】
なお、パルスシーケンスは、TE、TRなどの撮像パラメータ、撮像方法の種類などの撮像条件から作成され、撮像条件は、撮像計画時に設定される。また、傾斜磁場コイルには、能動遮蔽型傾斜磁場コイル(ASGC:Active Shield Gradient Coil)、非遮蔽型傾斜磁場コイル(NSGC:Non-Shieled Gradient Coil)がある。ASGCは、傾斜磁場を発生するメインコイルと、メインコイルと直列に接続されたシールドコイルとから構成され、それぞれに逆向きの電流が供給されることで、メインコイルの外側に漏洩する磁場を相殺させて渦電流の発生を抑制する。NSGCにはシールドコイルはない。したがって、電流パルスの情報は、ASGCの場合はメインコイル、シールドコイルの双方に流す電流(すなわち傾斜磁場パルスと傾斜磁場相殺パルスを発生させるための電流)の情報であり、NSGCの場合はメインコイルに流す電流(すなわち傾斜磁場パルスを発生させるための電流)だけの情報である。
【0020】
また、冷却装置は、計算機システム90からパルスシーケンスに関する情報の代わりに、傾斜磁場パルス発生に必要な電流パルスの情報あるいは撮像条件を取得するようにすることもできる。
【0021】
次に、本実施例1に係るMRI装置100の構成について説明する。図2は、本実施例1に係るMRI装置100の構成を示す機能ブロック図である。同図に示すように、このMRI装置100は、静磁場磁石10と、傾斜磁場コイル20と、RFコイル30と、天板40と、傾斜磁場電源50と、送信部60と、受信部70と、シーケンス制御装置80と、計算機システム90と、冷却装置200とを有する。
【0022】
静磁場磁石10は、概略円筒形状の真空容器11と、真空容器11の中で冷却液に浸漬された超伝導コイル12とを有し、撮像領域であるボア(静磁場磁石10の円筒内部の空間)内に静磁場を発生させる。
【0023】
傾斜磁場コイル20は、概略円筒形状をなし、静磁場磁石10の内側に固定されている。この傾斜磁場コイル20は、傾斜磁場電源50から供給される電流によりX軸,Y軸,Z軸の方向に傾斜磁場を印加するメインコイル21と、メインコイル21の漏洩磁場をキャンセルするシールドコイル22とを有している。
【0024】
ここで、メインコイル21とシールドコイル22との間には、シムトレイ挿入ガイド23が形成されている。このシムトレイ挿入ガイド23には、ボア内の磁場不均一を補正するための鉄シム25を収納したシムトレイ24が挿入される。かかる傾斜磁場コイル20の構造については、後に詳細に説明する。
【0025】
RFコイル30は、傾斜磁場コイル20の内側に、被検体Pを挟んで対向するように固定されている。このRFコイル30は、送信部60から送信されるRFパルスを被検体Pに照射し、また、水素原子核の励起によって被検体Pから放出される磁気共鳴信号を受信する。
【0026】
天板40は、図示していない寝台に水平方向へ移動可能に設けられており、撮影時には被検体Pが載置されてボア内へ移動される。傾斜磁場電源50は、シーケンス制御装置80からの指示に基づいて、傾斜磁場コイル20に電流を供給する電源である。
【0027】
送信部60は、シーケンス制御装置80からの指示に基づいて、RFコイル30にRFパルスを送信する装置である。受信部70は、RFコイル30によって受信された磁気共鳴信号を検出し、検出した磁気共鳴信号をデジタル化して得られる生データをシーケンス制御装置80に対して送信する。
【0028】
シーケンス制御装置80は、計算機システム90による制御のもと、傾斜磁場電源50、送信部60および受信部70をそれぞれ駆動することによって被検体Pのスキャンを行う装置であり、スキャンを行った結果、受信部70から生データが送信されると、その生データを計算機システム90に送信する。
【0029】
計算機システム90は、MRI装置100全体を制御する装置であり、操作者から各種入力を受け付ける入力部や、操作者から入力される撮像条件に基づいてシーケンス制御装置80にスキャンを実行させるシーケンス制御部、シーケンス制御装置80から送信された生データに基づいて画像を再構成する画像再構成部、再構成された画像などを記憶する記憶部、再構成された画像など各種情報を表示する表示部、操作者からの指示に基づいて各機能部の動作を制御する主制御部などを有する。
【0030】
冷却装置200は、傾斜磁場コイル20に設けられた冷却管に水を循環させることによって、傾斜磁場コイル20を冷却する。この冷却装置200は、冷却装置200を制御する制御部210を有する。なお、制御部210の詳細については後述する。
【0031】
次に、図2に示した傾斜磁場コイル20の構造について詳細に説明する。図3は、傾斜磁場コイル20の構造を示す斜視図である。同図に示すように、傾斜磁場コイル20は、概略円筒形状をなすメインコイル21と、シールドコイル22とを有している。そして、これら二つのコイルの間には、シムトレイ挿入ガイド23が形成されている。
【0032】
シムトレイ挿入ガイド23は、それぞれ、傾斜磁場コイル20の両端面に開口を形成する貫通穴であり、傾斜磁場コイル20の長手方向に全長にわたって形成されている。各シムトレイ挿入ガイド23は、メインコイル21およびシールドコイル22に挟まれた領域に、互いに平行となるように円周方向に等間隔に形成されている。そして、これらシムトレイ挿入ガイド23には、それぞれ、シムトレイ24が挿入されている。
【0033】
シムトレイ24は、それぞれ、非磁性かつ非電導性材料である樹脂にて作製され、概略棒状をなしている。これらシムトレイ24には、それぞれ、所定の数の鉄シム25が収納されている。そして、各シムトレイ24は、シムトレイ挿入ガイド23に挿入されて、それぞれ傾斜磁場コイル20の中央部に固定されている。
【0034】
また、図3では図示を省略しているが、傾斜磁場コイル20には、円筒形状に沿って、螺旋状に冷却管が埋設されている。図4は、傾斜磁場コイル20の内部構造を示す構造図である。同図は、傾斜磁場コイル20の一部分を示しており、同図における上側が円筒形状の外側を示しており、下側が円筒形状の内側を示している。
【0035】
同図に示すように、傾斜磁場コイル20には、シムトレイ挿入ガイド23の内側および外側、すなわち、シムトレイ挿入ガイド23とメインコイル21との間、および、シムトレイ挿入ガイド23とシールドコイル22との間に、螺旋状に冷却管26が埋設されている。この冷却管26には、冷却装置200から送られる冷却水が流入し、流入した冷却水は、冷却管26を通って傾斜磁場コイル20の内部を循環したうえで傾斜磁場コイル20の外へ流出する。こうして、冷却管26を通って傾斜磁場コイル20の内部を冷却水が循環することによって、傾斜磁場コイル20が冷却される。
【0036】
次に、図2に示した制御部210の詳細について説明する。図5は、制御部210の構成を示す機能ブロック図である。同図に示すように、この制御部210は、フィードフォワード制御部211と、フィードバック制御部212と、温度調整部213とを有する。
【0037】
フィードフォワード制御部211は、計算機システム90からパルスシーケンスのパワーデューティおよび撮影時間を取得し、冷却装置200をフィードフォワード制御する。ここで、パワーデューティとは、パルスシーケンスで傾斜磁場コイル20に供給される平均電流値の2乗であり、最大値を100%とする百分率で表わされる。
【0038】
パワーデューティと撮影時間から、パルスシーケンスにより傾斜磁場コイル20に発生する発熱量を予測することができる。そこで、フィードフォワード制御部211は、パワーデューティおよび撮影時間から傾斜磁場コイル20に発生する発熱量を予測し、予測した発熱量と現在の傾斜磁場コイル20の温度から傾斜磁場コイル20の温度の最大値を予測する。そして、傾斜磁場コイル20の温度の最大値が所定の上限値以上になると予測される場合には、プレスキャン開始時あるいはプレスキャン開始の所定時間前に傾斜磁場コイル20に通水するように制御する。
【0039】
なお、ここでは、フィードフォワード制御としてプレスキャン開始時に傾斜磁場コイル20に通水するように制御することとしたが、プレスキャン開始の所定時間前に傾斜磁場コイル20に通水するように制御することもできる。また、傾斜磁場コイル20の温度の予測最大値と所定の上限値との差に基づいて傾斜磁場コイル20の温度を下げるようにフィードフォワード制御を行うようにすることもできる。
【0040】
あるいは、パルスシーケンスの情報と現在の傾斜磁場コイル20の温度に基づいて冷却装置200の制御プランを作成し、制御プランに基づいて冷却装置200をフィードフォワード制御するようにすることもできる。
【0041】
フィードバック制御部212は、温度センサーを用いて傾斜磁場コイル20の温度を検出し、検出した温度の変化に応じて、傾斜磁場コイル20の冷却管に流入される冷却水の温度の変更量を決定する。
【0042】
温度調整部213は、フィードバック制御部212によって決定された温度の変更量に基づいて、傾斜磁場コイル20の冷却管に流入される冷却水の温度を変化させる装置であり、例えば、熱交換器などを用いて実現される。
【0043】
具体的には、この温度調節部213は、フィードバック制御部212から温度の変更量Tinが通知されると、単位時間当たりに変化量Tinだけ温度が変化するように冷却水の温度を変化させる。そして、温度調節部213は、温度を変化させた冷却水を、傾斜磁場コイル20の冷却管に流入させる。
【0044】
また、この温度調整部213は、フィードフォワード制御部211およびフィードバック制御部212から通水開始や通水停止の指示を受け、冷却装置200への通水開始や通水停止を行う。
【0045】
次に、フィードフォワード制御部211の処理手順について説明する。図6は、フィードフォワード制御部211の処理手順を示すフローチャートである。同図に示すように、フィードフォワード制御部211は、計算機システム90からパルスシーケンスのパワーデューティおよび撮影時間を取得し、傾斜磁場コイル20の発熱量を算出する(ステップS1)。
【0046】
そして、傾斜磁場コイル20の現在の温度から傾斜磁場コイル20の温度の最大値を予測し(ステップS2)、最大値が所定の上限値以上であるか否かを判定する(ステップS3)。その結果、所定の上限値以上である場合には、プレスキャン開始時に温度調整部213に対して通水開始を指示する(ステップS4)。
【0047】
上述してきたように、本実施例1では、フィードフォワード制御部211が、パルスシーケンスのパワーデューティおよび撮影時間ならびに傾斜磁場コイル20の現在の温度に基づいて傾斜磁場コイル20の最大値を予測する。そして、最大値が所定の上限値以上になる場合にはプレスキャン開始時に冷却装置200の通水を開始するように制御する。したがって、フィードバック制御の遅れによる傾斜磁場コイル20の過熱を防ぐことができ、中心周波数f0の変動を低減することができる。
【実施例2】
【0048】
ところで、上記実施例1では、中心周波数(f0)を変動させないように、傾斜磁場コイル20の温度に基づいて冷却装置を制御する場合について説明した。しかしながら、中心周波数(f0)の値に直接基づいて冷却装置を制御するようにすることもできる。そこで、本実施例2では、中心周波数(f0)に基づいて冷却装置を制御する場合について説明する。
【0049】
図7は、本実施例2に係る冷却装置の制御部の構成を示す機能ブロック図である。なお、ここでは説明の便宜上、図5に示した各部と同様の役割を果たす機能部については同一符号を付すこととしてその詳細な説明を省略する。
【0050】
図7に示すように、この制御部310は、図5に示した制御部210と比較して、フィードフォワード制御部211の代わりに中心周波数制御部311を有する。中心周波数制御部311は、シーケンス制御装置80から中心周波数(f0)の変動量を取得し、中心周波数(f0)の変動量に基づいて冷却水の温度を制御する。
【0051】
具体的には、冷却水温度の温度変化(ΔT)と中心周波数の変動量(Δf0)の関係をあらかじめ求めておく。即ち、ΔT=α×Δf0における定数(α)を求めておく。中心周波数制御部311は、中心周波数(f0)の変動量から冷却水温度の変更量(−α×Δf0)を算出し、変更量だけ冷却水の温度を変化させるように温度調整部213に指示する。
【0052】
このように、本実施例2では、中心周波数制御部311が中心周波数(f0)の変動量に基づいて冷却水の温度を制御することとしたので、より正確に中心周波数(f0)を制御することができる。
【0053】
なお、本実施例1および2では、冷却装置に制御部を設ける場合について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、冷却装置と別に制御装置を設ける場合にも同様に適用することができる。
【0054】
また、上記実施例1では、傾斜磁場コイル20は、傾斜磁場を発生させるメインコイル21と、メインコイル21の外側に漏洩する磁場をキャンセルするシールドコイル22とを有するASGCである。また、フィードフォワード制御部211は、被検体の撮像に用いられるパルスシーケンスの撮像パラメータから算出され、メインコイル21およびシールドコイル22に供給される電流のパワーデューティに基づいて冷却装置200を制御する。
【0055】
一般的に、ASGCは、メインコイルによって発生する磁場とシールドコイルによって発生する磁場とが打ち消し合うので、撮像に必要な強さの傾斜磁場を発生させるためには、シールドコイルを有さないNSGCと比べてより大きな電流が必要になる。さらに、近年では、体格が大きな被検体でも撮像できるように、大口径のASGCが求められており、それにともなって、メインコイルとシールドコイルとの間が狭くなる傾向にある。メインコイルとシールドコイルとの間が狭くなると、打ち消される磁場の量が大きくなるので、さらに大きな電流が必要になる。
【0056】
そこで、例えば、フィードフォワード制御部211は、被検体の撮像に用いられるパルスシーケンスが操作者によって設定されたのちに、設定されたパルスシーケンスの撮像パラメータの設定値を計算機システム90から取得する。そして、フィードフォワード制御部211は、取得した撮像パラメータの設定値に基づいて、メインコイル21およびシールドコイル22に供給される電流のパワーデューティを算出する。さらに、フィードフォワード制御部211は、算出したパワーデューティから傾斜磁場コイル20の発熱量を予測し、予測した発熱量に基づいて冷却装置200を制御する。
【0057】
通常、MRI装置は、T強調画像撮像、T強調画像撮像、MRA(Magnetic Resonance Angiography)、DWI(Diffusion Weighted Imaging)およびFLAIR(FLuid Attenuated Inversion Recovery)などの各種の撮像プロトコルを設定することで、撮像を行う。しかし、撮像プロトコルの種類が同じであっても、操作者によって設定される撮像パラメータの設定値に応じて、傾斜磁場コイル20に供給される電流のパワーデューティは異なる。そのため、撮像プロトコルの種類が同じであっても、撮像中における傾斜磁場コイル20の発熱量は異なる。
【0058】
これに対し、実施例1に係るMRI装置100は、パルスシーケンスの撮像パラメータからパワーデューティを算出し、算出したパワーデューティに基づいて冷却装置200を制御する。したがって、実施例1に係るMRI装置100によれば、撮像プロトコルの種類にかかわらず、撮像中における傾斜磁場コイル20の発熱量を精度よく予測することが可能になり、傾斜磁場コイル20を適切に冷却することができる。
【0059】
また、MRI装置による撮像法には、診断用の画像を生成するための本スキャンの前に、本スキャンに必要なデータを収集するためのプレスキャンが行われるものもある。例えば、高速撮像法のひとつであるエコープラナーイメージングの場合、本スキャンでは、1回の核磁気励起に対してリードアウト用の傾斜磁場を連続的に反転させることで1画像分の複数のエコー信号が収集され、プレスキャンでは、位相エンコード用の傾斜磁場を印加しない状態でエコー信号が収集される。
【0060】
そこで、例えば、エコープラナーイメージングのように本スキャンの前にプレスキャンが行われる撮像法が実行される場合には、フィードフォワード制御部211は、プレスキャン開始時あるいはプレスキャン開始の所定時間前に冷却装置200を制御する。これにより、プレスキャンおよび本スキャンを含む撮像法が実行される場合でも、撮像全体を通して、傾斜磁場コイルを適切に冷却することができる。
【0061】
また、上記実施例2では、中心周波数(f0)の値に基づいて冷却装置を制御する場合について説明したが、例えば、MRI装置による撮像では、1回の検査で複数のパルスシーケンスが続けて実行される場合もある。ここで、通常、パルスシーケンスの種類によって、傾斜磁場コイルが発生させる傾斜磁場の強さや形状は異なる。そのため、傾斜磁場コイルの発熱量もパルスシーケンスの種類によって変化する。このことから、複数のパルスシーケンスが続けて実行される場合には、個々のパルスシーケンスが実行されるごとに、中心周波数(f0)が変動することもある。
【0062】
そこで、例えば、MRI装置100が、被検体の撮像に用いられる複数のパルスシーケンスを設定し、設定した複数のパルスシーケンスそれぞれを実行する前に、中心周波数(f0)の変動量を取得し、取得した中心周波数(f0)の変動量に基づいて冷却装置200を制御するようにしてもよい。
【0063】
その場合、例えば、計算機システム90は、操作者から入力された撮像条件に基づいて、被検体の撮像に用いられる複数のパルスシーケンスを設定する。また、中心周波数制御部311は、計算機システム90によって設定された複数のパルスシーケンスそれぞれを実行する前に、中心周波数(f0)の変動量を取得する。そして、中心周波数制御部311は、中心周波数(f0)の変動量を取得するごとに、取得した中心周波数(f0)の変動量に基づいて冷却装置200を制御する。これにより、1回の撮像で複数のパルスシーケンスが続けて実行される場合でも、中心周波数(f0)の変動に応じて、より適切に傾斜磁場コイルを冷却することができる。
【0064】
なお、この場合には、例えば、シーケンス制御装置80は、各パルスシーケンスを実行する前に、中心周波数検出用のスキャンを行う。そして、中心周波数制御部311は、中心周波数検出用のスキャンが行われるごとに、そのスキャンによって収集されたデータに基づいて中心周波数(f0)を検出し、その変動量を算出する。
【0065】
また、例えば、MRI装置100が、中心周波数(f0)を計測可能な周波数計測器を備えている場合もある。その場合には、中心周波数制御部311は、シーケンス制御装置80によってパルスシーケンスが実行される前に、周波数計測器によって計測された中心周波数(f0)を取得し、その変動量を算出する。
【産業上の利用可能性】
【0066】
以上のように、本発明は、MRI装置の傾斜磁場コイルの冷却に有用である。
【符号の説明】
【0067】
10 静磁場磁石
11 真空容器
12 超伝導コイル
20 傾斜磁場コイル
21 メインコイル
22 シールドコイル
23 シムトレイ挿入ガイド
24 シムトレイ
25 鉄シム
26 冷却管
30 RFコイル
40 天板
50 傾斜磁場電源
60 送信部
70 受信部
80 シーケンス制御装置
90 計算機システム
100 MRI装置(磁気共鳴イメージング装置)
200,400 冷却装置
210,310 制御部
211 フィードフォワード制御部
212 フィードバック制御部
213 温度調整部
311 中心周波数制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
静磁場内に置かれた被検体に傾斜磁場を印加する傾斜磁場コイルと、
前記傾斜磁場コイルを冷却する冷却装置と、
前記冷却装置を制御する制御部とを備え、
前記傾斜磁場コイルは、
前記傾斜磁場を発生させるメインコイルと、
前記メインコイルの外側に漏洩する磁場をキャンセルするシールドコイルとを有し、
前記制御部は、前記被検体の撮像に用いられるパルスシーケンスの撮像パラメータから算出され、前記メインコイルおよび前記シールドコイルに供給される電流のパワーデューティに基づいて前記冷却装置を制御する、
磁気共鳴イメージング装置。
【請求項2】
前記制御部は、所定の撮像法において本スキャンの前に行われるプレスキャン開始時あるいはプレスキャン開始の所定時間前に前記冷却装置を制御する、
請求項1に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項3】
前記所定の撮像法は、1回の核磁気励起に対してリードアウト用の傾斜磁場を連続的に反転させることで1画像分の複数のエコー信号を収集するエコープラナーイメージングであって、
前記プレスキャンは、位相エンコード用の傾斜磁場を印加しない状態でエコー信号を収集する、
請求項2に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記パワーデューティに基づいて前記傾斜磁場コイルの発熱量を予測し、予測した発熱量に基づいて前記冷却装置を制御する、
請求項1に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項5】
前記制御部は、前記パワーデューティに基づいて前記傾斜磁場コイルの発熱量を予測し、予測した発熱量に基づいて前記冷却装置を制御する、
請求項2に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項6】
前記制御部は、前記パワーデューティに基づいて前記傾斜磁場コイルの発熱量を予測し、予測した発熱量に基づいて前記冷却装置を制御する、
請求項3に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項7】
前記制御部は、前記パワーデューティおよび撮影時間に基づいて前記傾斜磁場コイルの発熱量を予測し、予測した発熱量に基づいて前記冷却装置を制御する、
請求項1に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項8】
前記制御部は、前記パワーデューティおよび撮影時間に基づいて前記傾斜磁場コイルの発熱量を予測し、予測した発熱量に基づいて前記冷却装置を制御する、
請求項2に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項9】
前記制御部は、前記パワーデューティおよび撮影時間に基づいて前記傾斜磁場コイルの発熱量を予測し、予測した発熱量に基づいて前記冷却装置を制御する、
請求項3に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項10】
前記制御部は、撮影中における前記傾斜磁場コイルの温度の最大値を予測し、予測した最大値が所定の上限値以上である場合に前記冷却装置を制御する、
請求項1に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項11】
前記制御部は、撮影中における前記傾斜磁場コイルの温度の最大値を予測し、予測した最大値が所定の上限値以上である場合に前記冷却装置を制御する、
請求項2に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項12】
前記制御部は、撮影中における前記傾斜磁場コイルの温度の最大値を予測し、予測した最大値が所定の上限値以上である場合に前記冷却装置を制御する、
請求項3に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項13】
前記制御部は、撮影中における前記傾斜磁場コイルの温度の最大値を予測し、予測した最大値が所定の上限値以上である場合に前記冷却装置を制御する、
請求項4に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項14】
前記制御部は、撮影中における前記傾斜磁場コイルの温度の最大値を予測し、予測した最大値が所定の上限値以上である場合に前記冷却装置を制御する、
請求項5に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項15】
前記制御部は、撮影中における前記傾斜磁場コイルの温度の最大値を予測し、予測した最大値が所定の上限値以上である場合に前記冷却装置を制御する、
請求項6に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項16】
前記制御部は、撮影中における前記傾斜磁場コイルの温度の最大値を予測し、予測した最大値が所定の上限値以上である場合に前記冷却装置を制御する、
請求項7に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項17】
前記制御部は、撮影中における前記傾斜磁場コイルの温度の最大値を予測し、予測した最大値が所定の上限値以上である場合に前記冷却装置を制御する、
請求項8に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項18】
静磁場内に置かれた被検体に傾斜磁場を印加する傾斜磁場コイルと、
前記傾斜磁場コイルを冷却する冷却装置と、
前記冷却装置を制御する制御部とを備え、
前記制御部は、磁気共鳴の中心周波数(f0)の変動量に基づいて前記冷却装置を制御する、
磁気共鳴イメージング装置。
【請求項19】
前記被検体の撮像に用いられる複数のパルスシーケンスを設定する設定部をさらに備え、
前記制御部は、前記設定部によって設定された前記複数のパルスシーケンスそれぞれを実行する前に、前記中心周波数の変動量を取得し、取得した中心周波数の変動量に基づいて前記冷却装置を制御する、
請求項18に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項20】
被検体の撮像に用いられるパルスシーケンスの撮像パラメータに基づいて、静磁場内に置かれた前記被検体に傾斜磁場を印加する傾斜磁場コイルが有するメインコイルおよびシールドコイルに供給される電流のパワーデューティを取得し、
取得されたパワーデューティに基づいて、前記傾斜磁場コイルを冷却する冷却装置を制御する、
ことを含む、傾斜磁場コイル冷却制御方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2010−104770(P2010−104770A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−186045(P2009−186045)
【出願日】平成21年8月10日(2009.8.10)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(594164542)東芝メディカルシステムズ株式会社 (4,066)
【Fターム(参考)】