説明

磁気共鳴イメージング装置及び方法

【課題】流体の画像データを効率的に且つ画質良く収集することができる磁気共鳴イメージング装置及び方法を提供すること。
【解決手段】実施形態に係る磁気共鳴イメージング装置は、収集部と、再構成部とを備える。前記収集部は、流体が流れる標識化領域に複数の標識化パルスを異なるタイミングで印加した後、該流体が流れる画像化領域に励起パルスを印加してMRIデータを収集する。前記再構成部は、前記MRIデータを用いて前記流体の画像を再構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
実施形態は、磁気共鳴イメージング装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気共鳴イメージング装置(「MRI(Magnetic Resonance Imaging)システム」とも称する)は、静磁場中に置かれた被検体の原子核スピンを、ラーモア(Larmor)周波数のRF(Radio Frequency)パルスで磁気的に励起し、励起に伴い発生する磁気共鳴信号を収集して画像を再構成する。従来、かかるMRIシステムを用いて非造影で血流を撮像する方法として、「ASL(Arterial Spin Labeling)」がある。
【0003】
ASLにおいて、例えば、MRIシステムは、タグモードで撮像されたタグ画像と、コントロールモードで撮像されたコントロール画像との差分画像を生成することで、静止組織が打ち消された血流成分の画像を生成する。例えば、MRIシステムは、タグモードにおいて、画像化領域を通る動脈の上流部分にある標識化領域に標識化パルスを印加することで画像化領域に流入する血液にタグを付し、標識化パルスの印加から所定の待ち時間が経過した後に磁気共鳴信号の収集を行う。また、例えば、MRIシステムは、コントロールモードにおいて、標識化パルスの印加を行わずに所定の待ち時間が経過した後に磁気共鳴信号の収集を行う。また、この待ち時間を変えながらASLを繰り返し行うことで、血流の動態画像を生成する方法もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許出願公開第2008/0269595号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、流体の画像データを効率的に且つ画質良く収集することができる磁気共鳴イメージング装置及び方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
実施形態に係る磁気共鳴イメージング装置は、収集部と、再構成部とを備える。前記収集部は、流体が流れる標識化領域に複数の標識化パルスを異なるタイミングで印加した後、該流体が流れる画像化領域に励起パルスを印加してMRIデータを収集する。前記再構成部は、前記MRIデータを用いて前記流体の画像を再構成する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】図1は、実施形態に係るMRIシステムの構成を示すブロック図である。
【図2】図2は、実施形態におけるMRIデータ収集シーケンスを示す図である。
【図3A】図3Aは、実施形態においてタグを付されたコホートを示す図である。
【図3B】図3Bは、実施形態においてタグを付されたコホートを示す図である。
【図3C】図3Cは、実施形態においてタグを付されたコホートを示す図である。
【図3D】図3Dは、実施形態においてタグを付されたコホートを示す図である。
【図4】図4は、実施形態における処理手順を示すフローチャートである。
【図5】図5は、実施形態におけるタギングパターンを示す図である。
【図6】図6は、実施形態におけるコホートの退出時間との関係を示す図である。
【図7】図7は、実施形態におけるコホートの退出時間及び進入時間との関係を示す図である。
【図8】図8は、実施形態における血流を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図面を参照しながら、実施形態に係るMRIシステムを詳細に説明する。
【0009】
図1は、タギングパターン(「標識化パターン」、「パターン」とも称する)を使って流動核コホート(cohort)をエンコード/デコードするパルス式ASL(Pulsed ASL)を実行するように構成された例示的MRIシステムの実施形態を表した高度な模式的ブロック図である。図1に示すMRIシステムは、架台10(模式的に断面図で示している)、及びそれと連結された種々の関連システムコンポーネント20を具備している。通常は、少なくとも架台10はシールドされた部屋に設置される。図1に示すMRIシステムの結合構造は、実質的に同軸の筒形に構成された静磁場B0磁石12と、G,G,及びG傾斜磁場コイルセット14と、RFコイルアセンブリ16とを具備している。このような筒形に配列されたエレメントの水平軸沿いに、イメージングボリューム18がある。これは、被検体寝台又はテーブル11に支持された被検体9の頭部を実質的に包囲するものとして示されている。
【0010】
MRIシステム制御部22は、表示部24、キーボード/マウス26、及びプリンタ28に接続される入/出力ポートを有する。当然のことながら、表示部24は、制御入力の機能も果たすように、タッチスクリーンの類であっても構わない。
【0011】
MRIシステム制御部22は、MRIシーケンス制御部30とインターフェース接続される。MRIシーケンス制御部は、G,G,及びG傾斜磁場コイルドライバ32、並びにRF送信部34及び(送信及び受信のどちらにも同じRFコイルが使用される場合に)送信/受信スイッチ36を制御する。当業者には自明であるが、ECG(心電図)信号及び/又は抹消脈波同期信号をMRIシーケンス制御部30に提供するために、被検体の体に1つ又は複数の適切な生理学的トランスデューサ8を貼着することができる。MRIシーケンス制御部30は更に、MRIシーケンス制御部30の能力範囲の中で既に利用可能になっているMRIデータ収集シーケンスを遂行するのに適したプログラムコード構造38へのアクセスも有している。例えば、特定のMRIデータ収集シーケンスパラメータを規定する操作者入力及び/又はシステム入力を使って、非造影MRA(Magnetic Resonance Angiography)画像及び/又はMRV(Magnetic Resonance Venography)画像及び/又は組織への血液灌流画像を生成する。
【0012】
MRIシステム20は、表示部24に送られることになる処理済み画像データを生成すべく、データ処理部42に入力を提供するRF受信部40を具備している。MRIデータ処理部42は更に、画像再構成プログラムコード構造44、及びMR(Magnetic Resonance)画像記憶部46(例えば、例示的実施形態及び画像再構成プログラムコード構造44に従った処理から導かれるMR画像データを記録するための)にもアクセスできるように構成されている。
【0013】
一般化した表示のプログラム/データ格納部50も、図1に示している。そこに記録されているプログラムコード構造(例えば、タギングパターンを使って流動核コホートをエンコード/デコードするパルス式ASLを生成して非造影MRIを提供すること、そのための操作者入力等を目的とする)は、MRIシステムの種々のデータ処理コンポーネントにアクセス可能なコンピュータ可読記録媒体に記録されている。当業者には自明であるが、プログラム/データ格納部50を細分化し、少なくとも一部分を、関連システムコンポーネント20の諸々の処理コンピュータのうちの通常の動作においてかかる記録プログラムコード構造を最も緊急に必要とするものに、直接接続することができる(即ち、共有した形で記録し、MRIシステム制御部22に直接接続するのではない)。
【0014】
実際、当業者には自明であるが、図1は、後述する実施形態を実行できるように若干の変更を加えた一般的なMRIシステムを非常に高度に簡素化した図である。MRIシステムの構成要素は、さまざまな論理収集の「箱」に分割でき、通常、多数のデジタル信号処理装置(DSP(Digital Signal Processors))、マイクロプロセッサ、特殊用途向け処理回路(例えば、高速A/D変換、高速フーリエ変換、アレイ処理用等)を含む。これら処理装置のそれぞれは、通常、各クロックサイクル(又は所定数のクロックサイクル)が発生すると、物理データ処理回路が、ある物理的状態から別の物理的状態へ進むクロック動作型の「ステートマシン」である。
【0015】
処理回路(例えば、CPU(Central Processing Unit)、レジスタ、バッファ、演算ユニット等)の物理的状態が、動作中に、1つのクロックサイクルから別のクロックサイクルに前進的に変化するだけでなく、関連のデータ記録媒体(例えば、磁気記録媒体のビット格納部位)の物理的状態も、かかるシステムの動作中に、1つの状態から別の状態に移される。例えば、MRイメージング再構成プロセスの終了時に、物理的記録媒体内のアレイ状のコンピュータ可読アクセス可能データ値格納部位(例えば、画素値の多数桁バイナリ表現)は、何らかの前の状態(例えば、全てが一様に「0」値又は全てが「1」値)から新しい状態に移されることになるであろう。この場合、かかるアレイの物理的部位の物理的状態(例えば画素値の)は、現実の物理的事象及び状態(例えば、画像化されたボリューム空間全体にわたる被検体の組織)を反映して、最小値と最大値の間のまちまちの値になっている。当業者には自明であるが、かかるアレイ状の記録データ値は(命令レジスタへの書込みとMRIシステムの1つ又は複数のCPUによる実行が逐次的に行われたときに、特定の動作状態のシーケンスを生じさせ、それをMRIシステム内部で遷移させる特定の構造のコンピュータ制御プログラムコードの場合と同様に)物理的構造を表し、更にそれを構成する。
【0016】
後述の例示的実施形態は、MRIデータを収集且つ/若しくはMRIデータ収集を処理する方法、及び/又は、MR画像を生成、表示する方法の改良型を提供する。
【0017】
後述の例示的実施形態に係るMRIシステムは、収集部と、再構成部とを備える。収集部は、血液などの流体が流れる標識化領域(「タギング領域」とも称する)に複数の標識化パルス(「タグパルス」、「タギングパルス」とも称する)を異なるタイミングで印加した後、この流体が流れる画像化領域に励起パルスを印加してMRIデータを収集する。また、再構成部は、MRIデータを、印加されたタグパルスの組合せに応じて分類し、分類後のMRIデータを用いて画像(例えば、血流の動態画像)を再構成する。なお、図1において図示を省略したが、これらの各部は、例えば、MRIシステム制御部22に備えられる。
【0018】
図2は、タグを付されたASLの画像データを収集するために使用されるMRIデータ収集シーケンスの模式図を示す。また、図2は、TR(Repetition Time)が複数回繰り返されるMRIデータ収集シーケンスの「ワンショット」を示す。図2に示す例示的実施形態では、TR全体にわたる「ワンショット」のMRIデータ収集シーケンスは、TRの回数だけ複数回繰り返される。各「ワンショット」インスタンスにおいて、MRIデータ収集シーケンスは、1つのASLプレシーケンスタギング期間を含む。この期間において、tA,tB,tCなどの連続する経過タギング時間に、様々なスライス専用(slice-specific)RF(Radio Frequency)タギングパルスが照射される。或いは、照射されない。すなわち、収集部は、このASLプレシーケンスタギング期間において、タギング領域に、tA,tB,tCなどの異なるタイミングで複数のタグパルスを印加する。この例示的実施形態では、タギングパルスは、180°章動(nutation)反転パルスである。特定の指定タギングボリューム(例えば、所望の指定画像化領域の上流に設置された被検体組織からの「スライス」ボリューム)内部でそれらを有効化するために、各照射タギングRFパルスと同時進行的に、スライス選択傾斜磁場Gsが印加される。
【0019】
タギング期間(反転時間TI(Inversion Time)と呼ばれる場合もある)中にオン/オフタギングパルスの特定パターンを照射した後、少なくとも1つのRF励起パルス、適切な傾斜磁場パルス、及び指定の下流側画像化領域内部の励起核からのMRI RF応答を実際に取得するためのリードアウト期間を含む任意の所望の「リードアウト」MRIデータ収集シーケンス200が照射される。例えば、例示的実施形態では、MRIデータ収集シーケンスは、当該技術分野でよく知られたタイプの「ワンショット」(即ち、1つの励起パルスだけを用いる)EPI(Echo Planar Imaging)シーケンスとすることができる。場合によっては危険が伴い、不便で、非効率的な被検体への造影剤の投与を行使すること、かかる造影剤のボーラスの被検体組織内部での移動に対してイメージングシーケンスのタイミングを図ること、等を回避できるため、かかる被検体脈管構造/灌流の非造影イメージングが好まれる場合が多くなっているが、このことは理解されるであろう。
【0020】
図3A〜3Dは、指定タギング領域から通過空間を通り抜けて指定画像化領域の方に流れるNMR核から成るコホート(cohort)であって、個々にタグを付された異なるコホートを例示した、連続的タギング時間tA〜tDにおける模式図である。図3A〜3Dは、指定タギング領域内部でRFタギングパルスに曝されたNMR核から成る種々のコホートを、単純な丸、即ち球として模式的に表している。但し、当業者には自明であるが、現実の世界では、指定タギング領域内部のNMR核は全て、所与のタギング時間tA〜tDにタギングパルスに曝される(実際には、その潜在的タギング時間にタギングパルスが生成されていた場合)。したがって実際には、核から成るコホートはそれぞれ、タギングパルスが起こる(又は起こらない)可能性のある所与のタギングパルス時間に指定タギング領域(例えば、スライスボリューム又はスラブボリューム)内に偶然存在していたNMR核を全て含む。したがって、単一のコホートは、諸々のタギング時間から成る何らかのサブセットに対し、タギング領域内に等しく存在していた核の集合である(かかる各タギング時間においてタギングパルスが実際に起こったか否かに関わらず)。
【0021】
いずれにせよ、図解する目的で、図3Aでは、コホートA内部にある4つの核の群を識別している。それらは、最終的に通過空間を通り抜けて指定画像化領域に進入すべく、右方向に移動している。プリパルス方式が1つのタギング時間tAしか有していなかった場合、実際には、これらの核は全て同じコホートAの部分であり、全部がタギング時間tAにタギングパルスに曝されている。
【0022】
次に、第2のタギング時間tBに関連する作用について考察する。図3Bに示す後続のタギング時間tBにおいて、コホートAに属する核から成るサブセットのうちの1つがここで、指定タギング領域から退出し、同時に、時間tBにおいて、新しい核の群が指定タギング領域に進入しているのが分かる。したがってここでは、タギングパルスAに曝されただけの核がいくつか、通過空間内部に所在している。一方、タギング領域内部に依然として所在している他の核は、タギングパルスA及びBの両方に曝されている。更に別の核は、タギングパルスBのみに曝されている。したがってこの瞬間に、NMR核コホートは、A,AB,及びBの少なくとも3つが存在する。これらは、流速並びに指定タギング領域への進入及びそこからの退出に対する空間的位置によって規定される。
【0023】
図3Cに示すように、先ほどの5つの核の群は、タギング時間tCにおいて更に進んでいる。ここでは、タグ時間tCにおいて、最初の2つの群は通過空間内部に所在しているが、他の3つは依然としてタギング領域内部に存在しており、潜在的に、この時間に別のタグパルスを付される。ここでは、タグを付された核から成るコホートは、A,AB,ABC,BC,及びCの少なくとも5つが存在する。
【0024】
図3Dに示すタギング時間tDにおいて、新たな核の群が指定タギング領域に進入するものとして図示されており、4つの群が同時にタギング領域に入っている。一方、他の3つの群は既にタギング領域の外に出ており、実際に、最初の群は既に指定画像化領域に到達している。この時点において、タギングパルスA〜Dによって規定されるNMR核コホートは、A,AB,ABC,ABCD,BCD,CD,及びDの少なくとも7種類が今存在している。
【0025】
ここで、実施形態に係る収集部は、タグパルスを印加するタイミングと磁化との関係を予め規定したタギングパターンに従ってタグパルスを印加する。また、再構成部は、タギングパターンに基づき画像を再構成する。すなわち、自明であるが、連続的に経過した可能性としての様々なタギング時間にオン/オフタギングパルスの様々なパターンを使用することによって、もっと多種類の核種コホートを規定することができる。こういった様々な核コホートはそれぞれ、図2に示すデータ収集シーケンスに属する対応する様々なTRインスタンスに対する異なるタギングパターンにおそらく遭遇したであろう。
【0026】
この後に続く分析及びデコードの際に、それらに関連するスピンをゼロではない量だけ有していると予期されるコホートを選択して使用することが可能である。同様に、コホート内部に核が存在しないことが予期される可能性としてのコホートを無視すべく、分析及びデコードを選択することができる。例えば、別の可能性としてのコホートACは、前述の図3のコホートに含まれる場合もあれば、含まれない場合もある。主幹動脈の幾何図形的配列が、血液中の核がタギングボリュームを離れ、次いで、タギング時間tA〜tD内に再度戻って来ることが予期されないような幾何図形的配列になっている場合、かかる可能性としてのコホートACは空であると予期され、このコホートを後続のステップに含む必要はない。
【0027】
同様に図3Dにおいて、B,C,及びBCといった他のコホートも考えられないことはない。しかしながら、タグのタイミング、タグの空間幅、及び領域における最大血流速度の仮定によれば、それらは不合理な流速を示唆しているため、かかるコホートを分析から除外して差し支えないというのがおそらく実情であろう。ここでもやはり、一部の想像上のコホートを排除することは必ずしも誤りではなく、実際に、全体的な定量化を向上することになるであろう。
【0028】
タギングを目的とする後続のデータ収集シーケンスで使用される予め定められたパターンが分かっているので、次いで、収集したMRIデータをこれら予め定められたパターンに従ってデコードすべく適切なデコードプロセスを行うことができ、それによって、それぞれ異なるRF NMR章動タギングパルスの組合せに曝された様々な流動核コホートから出るMRI信号を検出することができる。次いで、取得しデコードしたMRIデータを用いて、指定画像化領域内部の流動核を表す種々の画像を構成することができる。
【0029】
例えば、プロセスを、少なくともいくつかの流動核コホートが必ず複数の章動パルスに曝されるように、且つ/又は各流動核コホートが必ず少なくとも1つの章動パルスに曝されるように、といった具合に設計することができる。後で詳述するように、少なくとも1つのMRIデータ収集シーケンスを実行して、指定画像化領域内部に所在する非流動核からの背景MRI信号を低減するようにデコードプロセスで使用することが可能なMRIデータを取得するために、いかなるタギングパルスも印加されていないMRIデータを収集することも望ましいことであろう。
【0030】
好適な実施形態では、タギングパルスは、実質的に180°の章動を遂行することによって少なくとも一部のコホートに対してNMR磁化を実質的に反転させる、NMR章動パルスである。
【0031】
同じく後で詳述するように、異なるタイミング期間に関連する異なるコホートからの信号は識別が可能なため、予期される不完全反転の影響を補償すること、或いは、タギング後からMRIデータ収集までの経過時間が異なることに起因して異なるコホートに起こる異なるT1 NMR緩和信号減衰それぞれを補償することも可能である。磁化移動コントラストは、コホートがどのようにエンコードされデコードされるかのモデルにそれを含むことによって補償すべき、更に別の作用であろう。
【0032】
所望する場合、流動核が指定画像化領域に到達する異なる到達時間それぞれに対して異なる画像を生成すること、或いは、異なる流動核コホートを表す異なるタギング時間それぞれに対して異なる画像を生成することが可能である。
【0033】
更に、複数のタギング時間に関連して取得したMRI信号のレベルを使って、指定画像化領域の少なくとも一部に対して血液灌流値を生成することも可能である。
【0034】
好適な実施形態では、エンコードは、予め定められたエンコード行列に従って実施され、デコードは、エンコード行列を反転させた行列であるデコード行列(例えば、そのデコード行列では、擬似逆行列又は回帰係数の最小自乗法による最小化行列が使用される)に従って実施される。すなわち、収集部は、タグパルスを印加するタイミングと磁化との関係を予め規定した行列であるエンコード行列に従ってタグパルスを印加する。再構成部は、エンコード行列の逆行列であるデコード行列に基づき画像を再構成する。なお、再構成部は、例えば、エンコード行列の擬似逆行列又は最小自乗法による回帰係数最小化行列であるデコード行列に基づき画像を再構成すればよい。
【0035】
例示的ASLプレシーケンスのタギング期間には調整可能なパラメータが多いため、ASLイメージングプロセスを最適化すべく、かかるパラメータに調整を行使することができる。例えば、タギングパルスの章動の大きさ、タギング時間相互間の経過期間の大きさ、オン/オフタギングパルス生成から成る予め定められたパターン自体、指定の下流側画像化領域及び/又は指定の上流側ASLタギング領域の空間的位置、指定イメージング領域及び/又は指定ASLタギング領域の空間的な広がり(空間的範囲)等といったタギング期間パラメータを最適化するのに、所与のタギングプロセスに対するデコードの予期される有効性を使用することができる。すなわち、収集部は、タグパルスの章動の大きさ、タグパルスを印加するタイミング、タギング領域の空間的位置、タギング領域の空間的範囲、画像化領域の空間的位置、及び画像化領域の空間的範囲のうち、少なくとも一つを最適化して、MRIデータを収集してもよい。
【0036】
前述したように、有限の大きさのタギング領域に対し、タギング期間中に指定ASLタギング領域に流入出する核によって、様々な流動核コホートを規定することができる。
【0037】
図4は、例示的パルス式ASLコホートタギングプロセスを実現するための例示的コンピュータプログラムコード構造をフローチャートの形態で示した概略図である。図4は、図1に示すMRIシステムにおいて、例示的ASLコホートタギングルーティンに使用可能なプログラムコード構造を模式的に示す。このプログラムコード構造は、図4に示すステップ400から開始される。まず、MRIシステム制御部22は、操作者による設定入力が完了したか否かを判定する(ステップ402)。完了していない場合(ステップ402,No)、MRIシステム制御部22は、タグを付された核コホート(nuclei cohorts)の読出し等に用いるためのMRIデータ収集パラメータの他、タギング領域、画像化領域、章動角度、タギング時間、タギングパターン等を選択させるべく、操作者に機会を与える(ステップ404)。操作者による設定入力が完了した場合(ステップ402,Yes)、MRIシステム制御部22は、MRIデータ収集シーケンスの最初のTRインスタンスをステップ408で実施する前に、ステップ406でシーケンス計数値Nを初期化する。例えば、図2に示すように、かかるMRIデータ収集シーケンスは、パルス式ASLタギング期間のパターンがエンコードされた最初のプレシーケンスを含む。このタギング期間は、TR期間それぞれに対して様々に規定することができる。1つの繰返し期間TRに対してMRIデータが収集された後、次いで、MRIシステム制御部22は、シーケンス計数値がシーケンスの最大所望数を満たしたか否かを判定する(ステップ410)。満たしていない場合(ステップ410,No)、MRIシステム制御部22は、シーケンス計数値をインクリメントし(ステップ412)、MRIデータ収集インスタンスを再度実行する(ステップ408)。
【0038】
所望のMRIデータ全てが収集された場合(ステップ410,Yes)、MRIシステム制御部22は、デコードプロセスに制御を移行し、エンコード済みパターンの逆行列パターンを用いて、収集したMRIデータをデコードし、様々な流動核(flowing nuclei)コホートからのMRI信号を求める。その後、指定画像化領域内部の流動核を示すべく、MRIシステム制御部22は、画像を再構成する(ステップ416)。この画像は、所望する場合には、このサブルーチンがステップ420で終了し、制御が呼出し動作システム又は他のソフトウェアに戻される前に、ステップ418で表示される(又は格納、別のシステムへの転送等が行われる)。
【0039】
パルス式ASLでは、遅延期間によって分けられた多数のタグパルスをシングルショット内に適用することができる。RFタギングパルスの適用のオン及びオフは、様々なショットに対し様々なパターンで切り替えることができる。各タグパルスのオン及びオフは、多重化パターンを生成するために、個々に切り替えることができる。流動核から成る時間タギングコホートそれぞれに対して別々の出力画像を生成できるように、ショットからのデータを様々な態様で組み合わせることができる。
【0040】
ここで、タギング計画及びエンコードを2つの観点で説明する。各繰返しにおいてどのタグパルスが適用されて効果を発揮するのかを表現したものを「タギングスケジュール行列」と表記することにする。考慮される各コホートに対する、また、タギングパターンの各TRに対する信号強度(おそらく読出し励起又は読出し収集のときの)を表現したものを「エンコード行列」と表記することにする。タギングスケジュール行列の各繰返し及びエンコード行列の考慮される各コホートについて、タギングの累積的効果をモデル化して算出することができる。即ち、タギングスケジュール行列とコホートの規定の両方から、エンコード行列を生成することができる。
【0041】
タギングパルスは事実上、タギングスケジュール行列に従って多重化され、次いで、デコード演算を使って分離される。この演算は、「エンコード行列」の反転行列を適用するものと考えることができる。極端な事例では、アダマールエンコードと同様に、M=N個の収集データからN個のコホートを分離することができる。別の極端な事例では、全てのバイナリ論理結合において、M=2個の収集データからN個のコホートを分離することができる。中間領域では、あるサブセットの収集データを集めることができ、一般化した擬似逆行列又は最小自乗計算を使って、エンコード行列を反転することができる。
【0042】
このプロセスの各ステップは、次のようなものになるであろう。
(1)多数のタグ章動パルスを適用することによって、プレシーケンスタギング期間をP個の時間セグメントに分解する。
(2)M個の繰返しに対するタギングスケジュール行列を生成する。M個のショットの各々において、P個のパルス又は期間のうちのどれが流入を能動的にエンコードし(即ち、タギングパルスが「オン」である)、どれがしていない(即ち、タギングパルスが「オフ」である)のかを表示する。
(3)各々に適切なRFプレシーケンスパルスパターンを使ってM個のショットを取得し、所要のタギングスケジュールパターンを生成する。
(4)考慮されるN個のコホート各々に対し、コホートに施されるエンコードを計算する。この情報は、M行N列要素のエンコード行列を形成する。
(5)逆行列を計算して、各エンコード済みコホートからの信号をどのようにして最善に推定する(且つ他のコホートから生成された信号を最善に排除する)のかを決定する。
(6)各ショットを別々に再構成し、それらのショットを逆行列に従って結合して、各タグ付きコホートに関連する画像を得る。
(7)必要に応じて、別々のコホートの画像を、同様の到達時間、同様のタグ領域退出時間等にわたって合計するといった種々の態様で相互に結合し、より大きなコホートの集合体を有する有効画像を形成する。
【0043】
タグを付された収集の繰返し及びそれらのタギングパターンは、必ずしも全部が相互に一意的に区別がつく必要はないことに留意されたい。タギングスケジュールパターンの個別の行の一部又は全部は、多数の(複製された)繰返しの中で収集することができる。したがって、タギングスケジュール行列及びエンコード行列は、縮合することができる。この場合、行は相互に一意的に区別がつき、個別の行の数Mは繰返し数Rよりも少なく、これら縮合行列の各行は、明示的に又は暗示的に、それに関連する平均繰返し数を有することができる。
【0044】
留意すべきは、線形再構成プロセスを用いるのが一般的であるため、所望する場合は、代わりに周波数k空間ドメインで結合ステップを実施しても構わないということである。
【0045】
単純な例を挙げると、3つの異なるコホートからデータを収集するのに4つのMRIシーケンスショットが使用される場合、各エンコード済みコホートは、デコード及び再構成後に、4ショットスキャンに匹敵するSNR(信号対ノイズ比)を有する。したがって、それぞれ4つのショットから成る3つの従来のスキャン(即ち、全部で12のショット)に代えて、ショットが4つだけの新しい多重化スキャンを使用することができる。
【0046】
例示的実施形態には、生理学的血流現象をより効率的に診査できる可能性がある。従来の灌流測定を往々にして混乱させている、1つ又は複数の適切なタギング時間を選択するという問題をほとんど除去できる可能性があるため、別の一定の用途では、その例示的実施形態によって基本灌流をより良好に検出できる可能性がある。
【0047】
ASLでは、流動血液は最初に、典型的には反転RFパルス(即ち180°)を使って、1本又は複数本の流入動脈内で「タグを付され」る。一定時間後に、そのタグ付血液は、対象とする解剖学的構造に流入する。所定の遅延期間後に、MRイメージングによってタグ付磁化が検出される。様々な血管及び組織で感度に影響を与えている要因によっては、組織灌流又はより大きな管構造を探る(血管撮影)のにASLを使用することができる。脳機能賦活又は治療に対する組織の応答といった血流及び灌流に関連した機能を観察するのにも、ASLを使用することができる。
【0048】
ASLにまつわる全体的な課題は、動脈タグの適用と検出との間の時間量をどのようにして選択するかということである。この課題は、多くの理由で重要である。それは、ASL実験の感度に影響を及ぼす(これはASLでは非常に重要である―ASLは、他の典型的MRIに比べ、本質的に感度の低い方法である)。それは、被検体の解剖学的構造全域での比較に影響を及ぼす。それは、様々な血流成分に対する特異性(主幹動脈対毛細血管床灌流等)に影響を及ぼす。それは、定量化の試みに影響を及ぼす。タグ検出遅延時間はパルスシーケンスパラメータである。これは、種々の血液通過時間及び到達時間の生理学的パラメータと密接に関係している。診断中の医師は時として、到達時間に大きな関心を寄せる。
【0049】
例示的実施形態を用いれば、数回の「スキャンに匹敵」するデータをより短時間の単一スキャンで効果的に集めることができる。或いは、各々がより短時間の従来のASLスキャンを複数組み合わせることに代えて、全体の時間は同等であるがSNRが大幅に向上した単一の新たなスキャンを使用することができる。すなわち、例示的実施形態を用いれば、流体の経時的変位を表す(ダイナミックな)画像データを効率的に、且つ画質(特に、単位時間あたりのSNR)良く収集することができる。
【0050】
例示的実施形態の用途は灌流ASLに限定されず、ASLによる血流動態をみるための血管撮影の用途にも応用することができる(Time−SLIP(Spatial Labeling Inversion Pulse)同様に)。且つ/又はTime−SLIP及び複数のTIと一緒に使用して、時間面及び/又はSNR面で効率的なダイナミック非造影MR血管撮影を取得することができる。なお、Time−SLIPとは、例えばIR(Inversion Recovery)パルスを流体に印加することにより標識化を行い、一定時間後にMR画像を撮像する方法である。Time−SLIPにおいては、例えば、IRパルスがタグパルスとして印加されることで、タギング領域を流れる流体が標識化される。また、タグパルスが印加されたタイミングからTI時間経過後にデータが収集される。このTI時間を複数段階変えることで、経時的な変化をみる。
【0051】
例示的実施形態にはいくつかの利点がある。
・同一スキャン時間における時間依存性(到達時間、平均通過時間)等の情報がより多くなる。
・一定の量の時間情報を必要としているときに、スキャン時間又は総SNRがより効率的になる。用途によっては、流動の挙動の変動及び/又は動脈タイミングの不測の変動によって歪曲されたものではない灌流情報を、より高い信頼性で洞察することができる。
・単一の実験で多数のASL信号コホートを効率的に検出することができる。
・タグ付信号から成る多数の時間コースを取得すべきときに、信号対ノイズ比の増大化を達成することができる。
・適切な到達時間又は適切な反転時間を選択することの難度が下がるため、スキャンの有用性を向上することができる。或いは、スキャンの読影を簡易化することができる。
・多数の到達時間、多数のタグボリューム退出時間を表す情報といった他の有用情報をASLスキャンから得ることができる。
・個別の流動核コホートを独立して補償できるため、各コホートに対する詳細信号エンコードに対して、定量化の精度を向上することができる。
・多数のコホートを適切に組み合わせることによって、灌流測定の精度を向上することができる。
・想定されるスケジュールについて行ったエンコード及びデコードの定量的有効性分析に基づき、より効果的なタギングスケジュール及びタギングパラメータの包括的選択を生成し、使用することができる。
・上記利点及び他の諸利点が当業者には自明であろう。
【0052】
4つのタギング時間が選択されるものとし、イメージングスライス又はイメージングボリューム内の背景信号は無視されるものとする。ここでは、反転(例えば180°)であることを表す「−1」なる値を使ってタグ付信号を示している。タギングパルス相互間の時間間隔が均一に隔置されなければならない理由はない。
【0053】
最小限の数量のエンコードパルスを使用する場合、アダマール行列は、エンコード方式に対する自然な選択である。
【0054】
表1は、アダマール様式のエンコードのエンコード行列「H」である。
【表1】

【0055】
逆行列は容易である。それは結局、エンコード行列の自明な複製となる。より正確には、その逆行列を「デコード行列」と呼ぶことができ、デコード行列は、エンコード行列の転置行列と同一である。しかもこの例の逆行列の要素は全て等しい平方値を有するため、ノイズが増幅されることはない。このノイズ増幅性能は、パラレルイメージングを行うこと及び1.0なる「gファクタ」を有することと似ている。なお、全部が「1」又は「−1」の値を有するエンコード行列は、パルス式ASLの一般的事例で常に生成するというものではない。これについては、後で引き続き述べる。かかる値は、不完全反転又はT1緩和のような効果を無視したときに、実際のエンコード方式の限定的な事例で起こる可能性がある。しかし、様々な行列の大きさを説明するという特定の目的のためには、こういった単純な行列で十分である。
【0056】
或いは、想定されるエンコード全てから成る完全な集合が使用されるという、他の極端な例を思い浮かべても構わない。
【0057】
表2は、2のべき乗様式のエンコード行列「B」である。
【表2】

【0058】
ここでもやはり、この特別な行列は、それ自体の逆行列である。(或いは、より正確には、それの数学的擬似逆行列は、転置によって簡単に形成される)。更に、反転に関連するノイズゲインも1.0であり、理論的な最小値である。
【0059】
しかし、何らかの「中間」エンコードを使用することを妨げるもの、完全な2のべき乗エンコードの部分サブセットを使用することを妨げるものは何もない。中間エンコードの例について考察する。
【0060】
表3は、中間エンコード様式のエンコード取得混在方式「E」である。
【表3】

【0061】
或いは、この表を圧縮する(且つショットの番号を付け替える)と、
【0062】
表4は、中間方式のエンコード行列「E」である。
【表4】

【0063】
エンコード行列Eを反転すれば、(1)式のように、デコード行列Dを得ることができる。
【数1】

【0064】
いくつかのエンコード方式は、独立性がより高く、ショットエンコード相互間の部分的冗長性がより低いという点で、明らかに他の方式よりも良好に機能するであろう。ある意味で均一性に劣る行列、又は列から成る集合全部の間の総相関がより大きい行列は、あまり整然としていない逆行列及び1.0を上回るノイズ増幅度を有するものと予期される。多くの場合、実際に収集したデータからのコホート信号の強度を判定することは、過剰決定的な問題であるが、かかる問題に対する適切な解法又は推定方法は、非常によく知られている。
【0065】
エンコードとデコードの結果としての積が「1」なる結果をもたらすような形でこれらの逆行列をスケール変更することが不要であることにも留意されたい。M個又はR個のタギングパターンが使用される場合、デコード行列の要素は本質的に、通常の数学的用法においてよく見られる+1/M若しくは−1/M、又は、+1/R若しくは−1/Rとなるのではなく、+1又は−1となることは、全く妥当である。デコード行列及び最終検出信号を、「M」又は「R」といったファクタだけスケール変更されたまま残しておくことは、本例示的実施形態の用途全体に対して本質的に何ら影響を与えない、些細な細部である。
【0066】
中間的な事例は無視すべきではない。高い時間分解能(タグ流入時間又は到達時間の)が必要とされる場合に、非常に重要なものになるであろう。例えば10個のコホートを抽出したい場合に、10個のショットではSNRにとって不十分であるが、1,024個のショットでは過剰である。「中間的な」エンコードには、単純なアダマール最小エンコードの平均化に比べて、より良好な信号分離を行う可能性がある。
【0067】
エンコード方式の変形形態をいくつか想定することができる。不完全に抑圧された一般的脳実質又は少なくともその一部といったスライス内の非流動材料からの信号について考察する。「タグ」対「制御」に帰するものに対し、エンコード方式全体の何らかの明示的2×変更形を用いることによってその信号を「排除する」ことが選択されても構わない。一方、「非抑圧背景」を、タギングの各時間セグメントと同等に、単なるもう1つの核種として処理することも可能である。
【0068】
例えば4つのセグメントを有する「アダマール様」エンコードには、背景を無視すれば、4つのショットから4つのセグメントを推定するのに十分なだけのデータが存在する。ここで背景について考察し、それを抑圧することも何らかの形で実行しておく。1つの手法は、全体で4+4=8個のエンコードを使用することである。もう1つの手法は、4+1=5個のエンコードを使用することである。どちらの手法も機能する(但し、5×反転は、8×反転ほど理想的ではない可能性があるのは確かである)。
【0069】
非抑圧背景核種が常に存在するものとして処理されるものとし、それを明示的に反転する方法は使用されないものとする。その場合、3つの時間セグメントと背景の両方を取り扱う方法として前に示した4×アダマール行列を、再解釈することができる。
【0070】
表5は、3つの流入と背景の両方に対するアダマール様式エンコードである。
【表5】

【0071】
本行列は、若干整っていないように見える。少なくとも対称性に劣る。しかし、その逆行列(デコード行列)は、依然として単純にその転置行列である。背景信号を明示的に観察することには関心が集まらないかもしれないが、背景を適切に打ち消して、ASL信号に絶対に現れないようにすることは、強く望まれていることであろう。背景値をより高く(又はより低く)設定することも妥当である。例えば、単一ショットにおいて、スキャンが内部背景低減作用を有していない場合、背景値は100ということになりかねない。即ち、非抑圧組織は、名目上灌流された血液信号の100倍である。
【0072】
エンコード行列を用いれば、エンコードを、「+1」対「−1」として表現することが可能であるだけでなく、T1減衰の推定の形で構築することも可能である。なお、所与の時間セグメントから始まる流動が、様々なショットに対して、その間にそれが名目上反転される時間及びその間にそれが名目上回復される時間として様々な時間を有することになるため、T1減衰効果は、無視できない影響を及ぼす場合がある。一般に、T1減衰によるタグの喪失は、集団が反転されているときには「より速く」なり、回復されているときには「減速される」。「高速減衰」と「減速減衰」を様々に混合すれば、様々なショットに対し、様々なレベルの予期される最終ASL信号がもたらされる。完全な2のべき乗エンコードが使用された場合、これによって何らかの影響が及ぶであろう。減衰の無い単純な逆行列は、依然として有用な逆行列を産生することができる(他の時間期間から始まる信号の正しい打消し)が、ノイズ増幅を最も小さくするという点では、最も強力な逆行列を選択したことにはならないであろう。減衰を有する完全エンコード式を検討することで、熱雑音の制御を改善することができる。第2に、前の時間タギングセグメントからの信号が平均時間を消費し、「減衰が遅延」された状態で「回復」されると、前のセグメントからのASL信号の絶対強度が実際に増大しているところを目にすることができる。
【0073】
しかし、アダマール様エンコードが使用されるとともに、N(又はN強)個のショットからN個のコホート成分を分ける試みがなされると、この作用は一層重要なものになるであろう。この場合、より単純な理想的無減衰エンコード行列を使用するのではなく、実際の減衰重み付きエンコード行列に目を向けることが、非常に重要である。
【0074】
「漫画的」例として、下記の単純な方式について考察する。2つのタグを使用し、A及びBと表記する。タギングスケジュールは、完全バイナリエンコードを有する4つのショットである。コホートを順に列挙する。
【0075】
コホート1=(Aに対する反応性が低い、Bに対する反応性が低い)、イメージングスライス内の組織背景を含む
コホート2=(Aに対する反応性が高い、Bに対する反応性が低い)
コホート3=(Aに対する反応性が低い、Bに対する反応性が高い)
コホート4=(Aに対する反応性が高い、Bに対する反応性が高い)
【0076】
時間Aから時間BまでのT1減衰で、信号は25%を喪失する。時間Bからイメージング時間までのT1減衰で、信号は、更に25%を喪失する。
【0077】
その場合、エンコード行列は、T1緩和が存在する状態で2つのタグパルスを使った完全バイナリパターンのエンコードである表6のような形になるであろう。
【表6】

【0078】
各タグパルスの有効反転効率は、同様の分析を使って処理することができる。各パルスにオン/オフを適用することは、おそらく各コホートの有効反転効率に影響を与えることになる。エンコード行列内部で、これらの有効反転効率(又はその推定値)を表現することができる。
【0079】
もう1つの「漫画的」例として、上記と同じ単純な収集方式について考察する。この場合、T1減衰は無視される。例示を目的に、反転パルスが95%の効率であると仮定すると、これらのパルスは、当初の正のMz磁化を負の90%磁化に反転させるはずである。残りの信号は、Mx/My成分の位相ずれ等の機構で喪失される。
【0080】
その場合、エンコード行列は、T1緩和が存在する状態で2つのタグパルスを使った完全バイナリパターンのエンコードである表7のような形になるであろう。
【表7】

【0081】
同様に、エンコード行列は、これらの作用を両方とも反映することができる。必要であれば、ブロッホ方程式を時間積分することによって、エンコードを算出することができる。
【0082】
特定のパルス方式の他の細目にわたる作用をフォワードエンコード行列の推定に含むことも、可能であろう。例えば、磁化移転飽和作用を推定することが可能であろう。
【0083】
許容されたタグ流入に対してより長い経過時間ウィンドウが存在する場合に、単一ショット内でも、心臓の拍動に起因した生理学的変動の平均化は観察できると考えられる。タグ流入ウィンドウが本質的に多数のR−Rウィンドウである場合に、心周期内のばらつきが「完全に平均化」されるという特別な状況が起こる可能性がある。したがって、狭いウィンドウに関連する画像は、ASL信号に、より多くの「生理学的ノイズ」を出現させかねない。しかしながら、多数の時間ウィンドウが再構成され、次いで、事実上より長いウィンドウを生成するようにそれらが合計されれば、状況はR−Rサイクル平均化がより良好な元の状況に戻るはずであり、より従来的な方法に比べれば何も喪失されていないはずである。
【0084】
コホート全域にわたって重大な範囲が存在し得る場合、コホートを分けて流動計算をしかるべく補正することによって、絶対灌流計算を改善できる可能性がある。個別のコホートからの寄与を測定できる場合、T1減衰を補正することができる。この補正は、様々な時間コホートによってまちまちである。スライスが、例えば左半球において、遅れが生じた到達時間を有するものとする。左半球ではおそらく、典型的到達時間は1600msであったが、右半球の同等の組織では、到達時間は1000msであった。左側の減衰はおそらく、exp(−1600/1300)のような形になり、右側はexp(−1000/1300)のような形になる。式中、1300は、動脈血液のT1である。これらは、0.46対0.29の残留減衰信号に変わる。これは、減衰時間が補正されなければ、組織灌流における1.6の相対差と誤解される可能性がある。
【0085】
N個のコホート及びM個のエンコードから成る任意の集合に対してフォワードエンコード係数が計算可能な場合、実際的な逆行列及びスキャン全体の総有効性を計算することができる。核種の信号を抽出する際の最小自乗法の適合度及び付加的ノイズ尺度といった目標として、有効性を与えることができる。かかる有効性は、最適化プロセスにおいて、目的関数として使用することができる。
【0086】
1つの考え得る最適化は、いくつかのプリパルスの時間(即ち、一部又は全部の反転パルスの時間位置)を調整することであろう。
【0087】
もう1つの考え得る最適化は、可能なエンコードのどのサブセットが最良の総合結果を与えるかを探索することである。時間がエンコードされた6つ期間を検出し、背景を抑圧することが望まれているものとする。7つの「核種」を分離する必要があるであろう。しかし、完全バイナリエンコードを目的とする128個の収集データは、多すぎて収集することができないであろう(2.5秒を超えるTRが伴う)。20個のパルスが自由裁量によって選択されるものとする。どの特定の20個のエンコードを使用すべきかを探索しても差し支えない。候補となるエンコード方式全ての探索空間は広大なものになり、場合によっては、可能な選択は(12820/20!)程度になるであろう。しかし、シミュレーションした焼きなまし法又は遺伝的アルゴリズムのような探索アルゴリズムを用いれば、「ランダムに選択された」エンコードよりも遥かに良好に機能する組合せを見出すことができるであろう。
【0088】
おそらく、かかる最適化の正確な方法が重要過ぎることにはならない。要点は、かかる最適化は多くのものが実行可能だということである。これらは、各々が多数の核種に適用され、その後反転されてデコード行列を生成する多数のエンコードの一般モデルと良好に適合する。
【0089】
本例示的実施形態によって、非常に大きな柔軟性が得られるのみならず、SAR(比吸収率)が低下し、デルタB1及び/又は渦電流に対する耐性が向上し、且つ遷移時のタギングの不完性をある程度補償できるようになる。
【0090】
タギングパルスに関連する空間的位置が同一でなければならないという理由はない。タギングパルスに対する反応性が高い又は反応性が低い種々の核に対して、依然としてコホートを規定することができる。この場合、パルスは時間及び位置の両方が変わる可能性があり、これらのコホートに対して、依然としてエンコード及びデコードを実施することができる。
【0091】
パルス式ASLでは、従来のMRI送信部及びRFコイルは、流動スピンの指定領域を反転させるのに用いられるのが一般的である。TI(反転時間)だけ待機した後、従来のMRIデータ収集サイクルが実施される(例えば、EPIショット)。次いで、画素毎に、再構成されたコントロールデータとタグ付画像データの減算、即ち、画像=(コントロール−タグ)を実施することができる。典型的タギングボリュームは、厚さが10cm程度のスラブとすることができる。
【0092】
想定されるタギングパルスシーケンスは、スライス選択性RF章動パルス(例えば180°)を適用する。この後に、シングル「ショット」から成るMRIデータ収集パルスシーケンスを使用することができる(例えば、単一のスライス選択性RF励起パルス(例えば、シングルショットEPIシーケンス内の90°)を使ったEPIシングルショットシーケンス)。かかるシングルショット(各々が、それ自体に適したプレシーケンスのオン/オフパルスパターンを有する)は、タギング有りでR回、且つタギング無しでR回、反復されて、「コントロール」画像が生成される。典型的には、R個のコントロールショットは全て一緒に平均化され、R個のタグ付ショットは全て一緒に平均化される。次いで、合計されたコントロールショットから合計されたタグショットが差し引かれ、結果として得られる画像データが提供される。
【0093】
TIは多くの場合、1200ms〜2400msの範囲にある。血液がタギングボリュームから指定画像スライスに流入する典型的通過時間は、700ms〜1400msとすることができる。典型的には、血液水が灌流して脳細胞に流入した後、それは、MRI緩和時間に比べて又はパルスシーケンスのTR及びTIに比べて長時間そこに留まっている。したがって、脳灌流に対しては、灌流信号の流出は無視することができる。
【0094】
タグを付された信号の量は、少量であることが一般的である。例えば、検出可能脳組織MRI信号の約1%である。かかる減算プロセスではSNRが重要であり、したがって、平均化されたMRIデータを使用することが重要である。
【0095】
現実のシーケンスでは、背景に打ち勝てる追加的パルス等のエキストラパルスを数多く使用することができる。種々の異なる態様で、タグ対コントロール効果を達成することができる。例えば、全タグパルスをオフにし、被検体頭部の頂部を越えて空間的位置を移動させ、RFタグパルスを「オフ共鳴」に移し、極めて広いスラブ対薄いスライス(イメージングスライスの直ぐ上の又は直ぐ近くの)といった具合にタギングスラブ領域の幅を変更することによって、「コントロール」データを実現することができるであろう。
【0096】
これらのエキストラパルスは全て、減算プロセスの有効性を低減し得る「2次効果」に影響を与える(例えば、MTC(磁化移動コントラスト)、静脈流、イメージングスライス内の動脈内部の輝点等のように)。
【0097】
TI及び/又は通過時間ウィンドウ(例えば、長い送信パルスの継続時間)は、困難な二律背反を有する場合がある。例えば、TIが長すぎると、タグ信号はT1緩和に伴って「回復」する。一方、TIが短すぎると、タグ信号は領域全体に届くことができない。
【0098】
比較的少数のタグパルスを使って、一定範囲の「TI」又は「到達時間」又は「通過時間」を対象に含むようにしても構わない。様々なMRIデータ収集ショットにおいて、パルスを様々なパターンに、独立してオン及びオフに切り替えることができる。タグの各オン/オフパターンは、様々な流動スピンコホートの様々な「エンコード」を遂行する。
【0099】
エンコードの効果は、様々な流動スピンコホート(例えば、血液核)について、オンとオフのタグから成るパターン毎に算出又はモデル化することができる。
【0100】
MRI信号「S」は、必要に応じて、例えば2Dの形で収集される。エンコード行列は、反転されていても構わない。
【数2】

Signals vector:信号ベクトル
Encoding matrix:エンコード行列
Cohorts vector:コホートベクトル
【0101】
【数3】

【0102】
m個のデータ取得ショットが存在するものとし、n個の移動スピンコホートが存在するものとする。その場合、デコード行列は、記号を使って(4)式のように表される。
【数4】

【0103】
この(4)式を使って、(5)式のように、Cについて解くことができる。
【数5】

【0104】
プロセスは、1つの効率的実験において、多くのコホート及び多くの到達時間の影響を受け易い(同時に、より多くの全体信号及び/又はより良好なSNRも提供する)ため、これは重要なことである。結果として得られる画像を、例えば様々な到達時間といった様々なコホートに対して表示し、流動の挙動を提供することができる。これはおそらく、医師にとって直接の関心事であろう。
【0105】
例示的実施形態は、多数のパルスの無視できない影響を有利なように利用することができ、それによって、詳細なタギング方式を参照して、「コホート」又は「同様にエンコードされた集団」の選択肢を選択することができる。
【0106】
図5は、例示的に説明することを目的に3つのタギングパルスTA〜TCだけを使った単純なタギングパターンを示す模式的タイミングチャートである。図6は、異なるタグ付き核コホートをタギングスラブからの退出時間の関数として効果的に規定すべく、極めて厚く且つ指定画像化スライスに接近して隔置されたタギングボリュームの、可能性としての空間的物理的配置を示した図である。最も単純と考えられるパルス式ASLの例において(例えば、図5参照)、それぞれ同じ指定空間的位置(タギング領域)で照射される3つの時間RF章動タグTA,TB,TCが存在するものと仮定する。この空間的位置は、図6に示すように、指定イメージングスライスから物理的に長距離にわたって延在している。タギングボリュームに「進入」するスピンを無視すれば(例えば、図6に示すように、タギングボリュームは非常に厚いため)、核コホートは、それらがタギングボリュームを離れる時間によって識別することができる。タギングボリュームがイメージングスライスの直ぐ近くにある場合、これは事実上、スピンコホートがイメージングスライスに進入するときとほぼ同じである。したがって、流動核から成るコホートC1,C2,C3は、図6に示すように規定することができる。
【0107】
エンコードを目的とするこの単純な式では、タグパルスの純効果を得るには、コホートによって感知された反転数を計数すればよい。反転数が奇数の場合、有効タギング信号ファクタは−1である。反転数が偶数の場合、信号は1なるファクタによって有効にエンコードされる(即ち、反転されない)。
【0108】
より複雑な例を図7及び図8に示す。図7は、同じく時間TA〜TCの3つのタギングパルスだけを使った単純な例示的事例の模式的タイミングチャートであるが、今回は、タギングスラブの厚さはより薄い有限の厚さであり、したがって、タギングスラブへの進入時間及びタギングスラブからの退出時間の両方によって核コホートを効果的に規定する(例えば、タギングパルス時間の発生によって規定される時間間隔1〜4に関して)事例の模式的タイミングチャートである。図8は、タギングボリューム内の曲がりくねった動脈を通り、そのまま進行して通過空間を通り抜け、イメージングスライスボリュームまで流れる血流であって、様々に規定され/パターン化され/タグを付されたコホートα、β、εを有する血流を示す模式的空間図である。ここでは、タグボリュームに対して有限のスラブ厚が仮定されており、スピンがタグボリュームにいつ進入するか及びいつ退出するかの両方に注意が払われている。一般に核コホートは、ここでは所与のタグ又はタグパルスの集合に「会う(see)」スピンである。二重インデックス方式を使ってかかるコホートを識別することができる。この場合、コホートにタグが付されているときは、第1のインデックスは、タギングボリュームがそこに入るスパンを与え、第2のインデックスは、タギングボリュームがそこから出るスパンを与える。
【0109】
コホート1,4は、タグパルスTA,TB,TCに「会う」。
コホート2,4は、タグパルスTB,TCに「会う」。
コホート3,4は、タグパルスTCに「会う」。
コホート1,3は、タグパルスTA,TBに「会う」。
コホート2,3は、タグパルスTBに「会う」。
コホート1,2は、タグパルスTAに「会う」。
コホート0は、タグパルスと出会わない。
【0110】
所望する場合、これらのコホートは、図7に示すように、「タグ進入時間」及び「タグ退出時間」によって規定することができる。この場合、スピンが、タギングスラブを離れた後でそこに再進入しないのであれば(例えば、図8に示すように、それらはタギングボリュームを真っ直ぐに通過する動脈を流れ、そこには戻らない/そこを通って戻らない)、TA及びTCに「会う」がTBに対する反応性が低いコホートについては、考察は不要である。
【0111】
このように、再構成部は、流体がタギング領域に進入した進入時間、流体がタギング領域から退出した退出時間、及び流体が画像化領域に到達した到達時間のうち少なくとも一つを用いて、MRIデータを分類し、分類後のMRIデータを用いて画像を再構成することができる。
【0112】
例示的実施形態は、多数の励起又はMRIデータ収集ショットを利用して血液の流入又は組織灌流を画像化するためのMRI技術を提供する。各ショット励起は、可能性としてショット毎に異なる予め定められたパターンにおいて、各々が有効又は無効(即ち、不能状態)になっている複数の可能なタギングプリパルスを有する。数個のスピンコホートの各々に対して、各ショットにおけるかかるエンコードの効果が判定され、デコードが実施されて、各コホートに関連するMRI信号の量が検出される。
【0113】
タグの効果は、好ましくは、いくつかのコホートに対する実質的に180°の磁化の反転とすることができる。エンコードは、不完全反転の作用に対する補償を含むように、更に拡張することができる。エンコードは更に、T1緩和(又は他の信号展開の変化)に対する補償も含むことができる。所望する場合、個別の到達時間の集合に対して個別の画像を生成することができる。所望する場合、個別の画像は、個別のタギング時間又は反転時間に対しても生成することができる。多数のタギング時間に関連する信号レベルを使って、組織灌流値を生成することもできる。関連するエンコードの擬似逆行列又は最小自乗法による最小化行列を使って、デコードを遂行することができる。更に、デコードは、タギングの影響を受けていない背景信号の検出を低減することも可能である。デコードの有効性は、最適化すること又は多くの可能性としてのエンコード集合のうちのどれが好適であるかを判定することにも使用することができる。タギング空間ボリューム領域への及び/若しくはそこからの流動又は移動等に基づいて、核コホートを規定又は選択することができる。
【0114】
コホート内部のスピンが2つ以上のタギングパルス又は2つ以上のタギング時間に曝された場合に、干渉作用が出現する可能性がある。この干渉作用は、流れが層流状態の円筒形血管に対してモデル化することができる。この作用の大きさは、最高血液速度及びタグボリューム厚を含むいくつかのパラメータによって変わる。
【0115】
デルタTI間隔が短い場合、厚い(例えば10cm)タグボリュームに対して、干渉作用は極めて強くなる可能性がある。しかし、薄い(例えば2cm)タグボリュームに対しては、スピンはほとんどが入れ替わっており、干渉は少ししか存在しない。
【0116】
いくつかのエンコードパターンにおいて、「緩慢な」スピン(タグボリュームの末端側部分から始まり且つ/又は速度が低速なもの)にタグパルスが2回以上当たることによって、干渉が生じる可能性がある。エンコードプロセスのモデル化が不十分になされた場合に、干渉によって、いくつかのコホートの寄与の推定に誤差が生じる可能性がある。退出時間だけを利用し、1回の繰返しに対し単一のタグだけを適用する単純なモデルでは、いくつかのコホートのスピンを過大に計数する場合もあれば、過少に計数する場合もある。ここでは、過少計数又は過大計数を「干渉」と呼ぶことができる。
【0117】
したがって、アダマールエンコード式の連続ASL(Hadamard-encoded Continuous ASL:H−CASL)を単純に適用するようなやり方は、一部のパルス式ASLの用途では機能しない場合がある。こういった干渉作用には、認識した上で適応しておく必要がある。本例示的実施形態で行ったようなコホートの適正な識別及び測定には、全般的に、シングルショット内に時間的に別個のタグが2つ以上適用される(又は「オン」である)ショットを少なくとも数個含んだ多重化タギングが必要になる。提案したタギング方式に対するかかる作用を分析する方法として、全てのタギング時間について考察するとともに、全ての可能なコホートについて考察する。そのコホートがあまり重要でないと予期される物理的理由が存在しない限り、各コホートは、分析の一部として維持しておく。エンコード行列を生成する。デコード行列の生成を試みる。システムが劣決定系であり、且つ重要なコホート全部の強度に対して解を見つける良い方法が存在しない場合、タギングスケジュールは、正確に定量化するにはおそらく不十分であり、タギングスケジュール又は提案した方式に対する他の代替方式に他の個別の行を加えることが示唆されるはずである。
【0118】
擬似連続ASL(Pseudo-continuous ASL:pCASL)多重化ASL(又はH−CASL)がなぜこの干渉作用に入り込むことなく機能できるのかについては、いくつかの物理的理由がある。例えば、pCASL多重化は、典型的パルス式ASLタグボリューム(〜10cm)に対してpCASLタグボリュームが薄い(〜2cm)ときに機能することができる。このように薄いので、流動核を毎回タギング事象とタギング事象の間にほぼ完全に入れ替えることができる。したがって、考え得る多数のタギング状況からの干渉は、皆無かそれに近い。
【0119】
タグパルスの直後に別のタグパルスが現れるpCASLに関しておそらくより重要なことに、予期される干渉は存在しない。連続タギングプロセスは、通常どおり、減衰せずにそのまま継続する。
【0120】
時間多重化pCASLにはこのような干渉作用が無いため、そのコホートの寄与は、完全に均一であると推定される。しかしながら、pCASL取得は他の難点を有する可能性があることに留意されたい。例えば、実施するのが技術的に困難である、オフレゾナンス(共鳴周波数がずれていること)の存在下で性能が低下する、速度が広範囲にわたると性能が低下する、又は被検体へのSAR吸収が高くなる、といったことが挙げられる。
【0121】
パルス式ASL測定信号におけるこれらの予期される干渉誘起偏差は、モデルを使って補正することができる。モデルへの入力は、速度(推定値)及びタグ厚(既知値)とすることができる。タグ−スライス分離の変更形態は他にも存在するであろう。層流円筒形血管のモデル仮定は、多くの臨床的用途にも有効であろう。
【0122】
モデルは、無干渉事例の結果が目標結果であると仮定することができる。これらの無干渉結果は、pCASLの結果と同じになる可能性がある。
【0123】
単純な区分に基づいて単純な補正ファクタを計算することができる。この補正ファクタは、前述したように、T1緩和効果又は他の成分(反転効率のような)も含むことができる。概して、この干渉作用を補正する方法は、多数存在するであろう。
【0124】
上述したように、実施形態に係るMRIシステムを用いて被検体内部の流動核を表す画像を生成するための方法は、(a)複数のMRIデータ収集シーケンスそれぞれに対して、非造影パルス式ASLプレシーケンスであって、予め定められたパターンに従って複数の異なる経過タギング時間を備えた複数のタギングパルスを含むASLプレシーケンスを、指定の下流側画像化領域からMRIデータを収集する前のタギング期間中に、タギング領域内の流動核に適用する工程と、(b)収集されたMRIデータを予め定められたパターンに従ってデコードし、それによって、タグパルスの様々な組合わせに曝された流動核から成る様々なコホートから出るMRI信号を検出する工程と、(c)収集されたMRIデータを使って指定画像化領域内部の流動核を表す画像を少なくとも1つ再構成する工程とを含む。
【0125】
また、この方法において、例えば、流動核のコホートのうち少なくとも一部は、タグパルスのうち複数のパルスに曝されている。また、この方法において、例えば、流動核のコホートの各々は、タグパルスのうち少なくとも1つのパルスに曝されている。また、この方法において、例えば、少なくとも1つのMRIデータ収集シーケンスは、指定画像化領域内部の非流動核からの背景MRI信号を低減するようにデコード工程で使用されるMRIデータを収集するために、いかなるタギングパルスも印加されていないMRIデータを収集する。また、この方法において、例えば、タグパルスのうち少なくとも一部のパルスは、実質的に180度のNMR章動を遂行することによってコホートのうち少なくとも一部のコホートに対してNMR磁化を実質的に反転させるものである。また、この方法においては、例えば、異なるコホートから出るMRI信号に、予期される不完全反転の影響に対する補償がなされる。また、この方法においては、例えば、異なるコホートから出るMRI信号に、タギング後からMRIデータ収集までの経過時間が異なることに起因して起こる異なるT1 NMR緩和信号減衰それぞれに対する補償がなされる。また、この方法においては、例えば、流動核が指定画像化領域に到達する異なる到達時間それぞれに対して画像が生成される。また、この方法においては、例えば、1つ又は複数の指定領域に対する、運動に関連する異なる流動核通過時間それぞれに対して画像が生成される。また、この方法においては、例えば、異なる流動核コホートを表す異なるタギング時間それぞれに対して画像が生成される。また、この方法においては、例えば、複数のタギング時間に関連して取得されたMRI信号のレベルを使って、指定画像化領域の少なくとも一部に対して血液灌流値が生成される。また、この方法においては、例えば、エンコードは、予め定められたエンコード行列に従って実施され、デコードは、エンコード行列の逆行列であるデコード行列に従って実施される。また、この方法においては、例えば、デコード行列は、エンコード行列の擬似逆行列又は最小自乗法による回帰係数最小化行列である。また、この方法においては、例えば、(a)タグパルスの章動の大きさ、(b)異なる経過期間の大きさ、(c)予め定められたパターン、(d)指定の下流側画像化領域の空間的位置、(e)指定ASLタギング領域の空間的位置、(f)指定画像化領域の空間広がり、及び(g)指定ASLタギング領域の空間広がりの諸パラメータのうち少なくとも1つのパラメータは、デコードの予期される有効性に基づいて最適化されている。
【0126】
以上述べた少なくとも一つの実施形態の磁気共鳴イメージング装置及び方法によれば、流体の画像データを効率的に且つ画質良く収集することができる。
【0127】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0128】
8 生理学的トランスデューサ
9 被検体
10 架台
11 被検体テーブル
12 静磁場B0磁石
14 G、G、G傾斜磁場コイルセット
16 RFコイルアセンブリ
18 イメージングボリューム
20 MRIシステム
22 MRIシステム制御部
24 表示部
26 キーボード/マウス
28 プリンタ
30 MRIシーケンス制御部
32 G、G、G傾斜磁場コイルドライバ
34 RF送信部
36 送信/受信スイッチ
38 MRIデータ収集プログラムコード構造
40 RF受信部
42 MRIデータ処理部
44 画像再構成プログラムコード構造
46 MR画像記憶部
50 プログラム/データ格納部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体が流れる標識化領域に複数の標識化パルスを異なるタイミングで印加した後、該流体が流れる画像化領域に励起パルスを印加してMRI(Magnetic Resonance Imaging)データを収集する収集部と、
前記MRIデータを用いて前記流体の画像を再構成する再構成部と
を備えたことを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項2】
前記再構成部は、前記MRIデータを、印加された前記標識化パルスの組合せに応じて分類し、分類後のMRIデータを用いて前記画像を再構成することを特徴とする請求項1に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項3】
前記再構成部は、前記流体が前記標識化領域に進入した進入時間、前記流体が前記標識化領域から退出した退出時間、及び前記流体が前記画像化領域に到達した到達時間のうち少なくとも一つを用いて、前記MRIデータを分類し、分類後のMRIデータを用いて前記画像を再構成することを特徴とする請求項2に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項4】
前記収集部は、前記標識化パルスを印加するタイミングと磁化との関係を予め規定した標識化パターンに従って前記標識化パルスを印加した後、前記MRIデータを収集し、
前記再構成部は、前記標識化パターンに基づき前記画像を再構成することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一つに記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項5】
前記収集部は、磁化の緩和を考慮した前記標識化パターンに従って前記標識化パルスを印加した後、前記MRIデータを収集することを特徴とする請求項4に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項6】
前記収集部は、前記標識化パルスを印加するタイミングと磁化との関係を予め規定した行列であるエンコード行列に従って前記標識化パルスを印加した後、前記MRIデータを収集し、
前記再構成部は、前記エンコード行列の逆行列であるデコード行列に基づき前記画像を再構成することを特徴とする請求項4又は5に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項7】
前記再構成部は、前記エンコード行列の擬似逆行列又は最小自乗法による回帰係数最小化行列である前記デコード行列に基づき前記画像を再構成することを特徴とする請求項6に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項8】
前記収集部は、前記標識化パルスが印加されていないMRIデータを併せて収集し、
前記再構成部は、前記標識化パルスが印加されていないMRIデータを用いて背景信号が抑制された前記画像を再構成することを特徴とする請求項1〜7のいずれか一つに記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項9】
前記収集部は、前記複数の標識化パルスのうち少なくとも一部の標識化パルスについては、磁化を反転させる反転パルスを印加して、前記MRIデータを収集することを特徴とする請求項1〜8のいずれか一つに記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項10】
前記収集部は、前記標識化パルスの章動の大きさ、前記標識化パルスを印加するタイミング、前記標識化領域の空間的位置、前記標識化領域の空間的範囲、前記画像化領域の空間的位置、及び前記画像化領域の空間的範囲のうち、少なくとも一つを最適化して、前記MRIデータを収集することを特徴とする請求項1〜9のいずれか一つに記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項11】
磁気共鳴イメージング装置によって実行される磁気共鳴イメージング方法であって、
流体が流れる標識化領域に複数の標識化パルスを異なるタイミングで印加した後、該流体が流れる画像化領域に励起パルスを印加してMRIデータを収集する収集工程と、
前記MRIデータを用いて前記流体の画像を再構成する再構成工程と
を含んだことを特徴とする磁気共鳴イメージング方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3A】
image rotate

【図3B】
image rotate

【図3C】
image rotate

【図3D】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2012−239911(P2012−239911A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−114890(P2012−114890)
【出願日】平成24年5月18日(2012.5.18)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(594164542)東芝メディカルシステムズ株式会社 (4,066)
【Fターム(参考)】