説明

磁気共鳴イメージング装置

【課題】 拡散強調撮像法において、傾斜磁場の印加に伴って発生する渦電流と残留磁場による不整磁場に基づく画像上のアーチファクト等を低減して画質を向上させることが可能なMRI装置を提供する。
【解決手段】 静磁場を発生する手段と、前記静磁場空間に高周波磁場パルスを発生する手段と、前記静磁場空間に傾斜磁場を発生する手段と、前記静磁場中に配置された被検者の所望の領域に、MPGパルスを含む所定のパルスシーケンスに基づいて前記高周波磁場パルスと前記傾斜磁場を印加して、前記所望の領域内に含まれる所望の分子の拡散運動が反映された画像を取得するための計測制御手段とを備え、前記計測制御手段は、前記パルスシーケンスにおける最初の前記高周波磁場パルスの前に、プリパルス傾斜磁場を印加する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、核磁気共鳴(以下、「NMR」と略記する)現象を利用して被検者の所望部位の断層像を取得する磁気共鳴イメージング(以下、「MRI」と略記する)装置に関し、特に、拡散強調画像の取得に際して、傾斜磁場印加に起因するアーチファクトを低減することに関する。
【背景技術】
【0002】
MRI装置は、被検者を横切る所望の平面内の水分子にNMR現象を起こさせ、それによって発生するNMR信号からその平面内における断層像を得る医用画像診断装置である。一般的には、被検者の断層像を得ようとする平面を特定するスライス傾斜磁場を印加すると同時にその平面内の磁化を励起する高周波磁場パルス(以下、「RFパルス」と略記する)を印加する。そして励起こされた磁化の位相を収束させることによってNMR信号(エコー信号)を得る。また、エコー信号に位置情報を付与するため、励起からエコー信号を得るまでの間に、断層面内で互いに垂直する方向に位相エンコード傾斜磁場と信号読み出し傾斜磁場を印加する。
【0003】
エコー信号を発生させるためのRFパルスと各傾斜磁場は、あらかじめ設定されたパルスシーケンスに基づいて印加されるようになっている。このパルスシーケンスは、目的に応じて種々のものが知られている。その中で、水分子の拡散運動の度合い等を画像化する拡散強調画像撮像法(以下、「DWI法」と略記する)が知られている。
【0004】
このDWI法の一般的なパルスシーケンスは、スピンエコー法パルスシーケンスを基本にして、その中で90°RFパルス後と、180°反転RFパルス印加後とにMPG(Motion Probing Gradient)パルスを印加して構成される。このようにして取得される各エコー信号に異なる位相エンコード量を与えて一枚の拡散強調画像を再構成するためのデータを取得する。また、画像データ取得用の本計測部は、SE系EPIパルスシーケンス(SE-EPI)や高速スピンエコーパルスシーケンス(FSE)が用いられるのが一般的である。
【0005】
しかし、上記DWI法では、極めて遅い流速を持つ水分子の磁化に位相回転を印加する必要があるために、大強度のMPGパルスを印加する必要がある。そのため、MPGパルスや他の傾斜磁場の印加に起因する渦電流や残留磁化による不整磁場によって、傾斜磁場の印加形状及び印加量がパルスシーケンスによって規定される値からずれてしまうことがある。このような傾斜磁場の不完全性が発生すると、励起された磁化に正確な位相回転を印加できなくなる。その結果、拡散強調画像上にアーチファクトが発生してしまうことが知られている。
【0006】
DWI法においては、上記アーチファクトを抑制することが課題であり、特にMPGパルスの印加に起因する渦電流及び残留磁化を低減することが重要な課題である。(特許文献1)には、渦電流を補正する手段が開示されている。即ち、傾斜磁場の印加強度、印加時間、印加タイミングなどに応じて、傾斜磁場のオフセット磁場およびシムコイルへ供給する電流を調整する手段を有して、傾斜磁場印加に伴う渦電流による不整磁場を補正している。
【0007】
また、(特許文献2)には、残留磁化の影響を補正する方法が開示されている。即ち、MPGパルス直後に残留磁化リセットパルスを印加して、MPGパルス印加に伴う残留磁化を打ち消している。
【特許文献1】特開平10−248822号公報
【特許文献2】特開2002−159462号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
(特許文献3)に記載されているように、印加される傾斜磁場の強度に非線形に依存して渦電流が発生することが知られている。また、渦電流の発生は場所依存性も持つことが知られている。このように複雑な挙動を示す渦電流を上記(特許文献1)に開示された手段で補正するためには、渦電流の発生パターンを印加される傾斜磁場に対応づけて事前に詳細に計測しておく必要があり、そのための負担が大きいと考えられる。また、複雑な場所依存性を持つ渦電流をシムコイル等で補正するためには高次のシムコイルを用意する必要がある。しかし、技術的経済的観点から現実的な妥協を強いられ、その結果、渦電流の高次成分が残ってしまう場合も有り得る。
【特許文献3】特願2004−030577号公報
【0009】
また、上記(特許文献2)に開示された方法は、MPGパルス印加によって発生する残留磁化を打ち消すことを想定しているが、MPGパルス印加前にも残留磁化が残っている場合が一般的である。つまり、通常、パルスシーケンスは繰り返し時間(TR)で複数回繰り返され、また、マルチスライス計測であれば、TR時間内に各スライスからのエコー信号を計測するパルスシーケンスが繰り返されるので、MPGパルス印加前にも残留磁化が存在し、且つ、その残留磁化はスライス毎に異なる可能性も有る。従って、上記(特許文献2)に開示された方法だけでは、90°RFパルスから最初のMPGパルス印加前に残る残留磁化は打ち消されず、この残留磁化による傾斜磁場に基づく位相回転がエコー信号に反映されてしまう可能性がある。(特許文献2)には、この課題に対する解決策は開示されていない。
【0010】
そこで、本発明の目的は、拡散強調撮像法において、傾斜磁場の印加に伴って発生する渦電流と残留磁場による不整磁場に基づく画像上のアーチファクト等を低減して画質を向上させることが可能なMRI装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明のMRI装置は以下の様に構成される。即ち、
静磁場を発生する手段と、前記静磁場空間に高周波磁場パルスを発生する手段と、前記静磁場空間に傾斜磁場を発生する手段と、前記静磁場中に配置された被検者の所望の領域に、MPGパルスを含む所定のパルスシーケンスに基づいて前記高周波磁場パルスと前記傾斜磁場を印加して、前記所望の領域内に含まれる所望の分子の拡散運動が反映された画像を取得するための計測制御手段とを備え、前記計測制御手段は、前記パルスシーケンスにおける最初の前記高周波磁場パルスの前に、プリパルス傾斜磁場を印加する。
【0012】
本発明のMRI装置の好ましい他の実施形態は、前記プリパルス傾斜磁場を少なくとも前記MPGパルスと同一方向に印加する。又は/さらに、前記MPGパルスと略同一の印加強度と略同一の印加時間を有する前記プリパルス傾斜磁場を印加する。
また、本発明のMRI装置の好ましい他の実施形態は、間に前記高周波磁場パルスの印加を挟んで前記MPGパルスを複数回印加し、前記プリパルス傾斜磁場と前記複数のMPGパルスを等時間間隔で印加する。
【発明の効果】
【0013】
本発明のMRI装置によれば、プリパルス傾斜磁場をパルスシーケンスの最初に追加することにより、MPGパルスの印加に伴って発生する渦電流や残留磁化による不整磁場に基づく傾斜磁場誤差成分を、常に一定に(つまり定常化)することができる。そのため、この傾斜磁場誤差成分に基づいてエコー信号に印加される位相誤差も常に一定に、好ましくはゼロにすることが可能になる。その結果、不整磁場の変動に基づく画像アートファクトを低減して、画質を向上させることが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態を添付図面に基づいて説明する。なお、発明の実施形態を説明するための全図において、同一機能を有するものは同一符号を付け、その繰り返しの説明は省略する。
【0015】
最初に、本発明のMRI装置の全体概要を図1に示すブロック図に基づいて説明する。このMRI装置は、NMR現象を利用して被検者の断層像を得るもので、図1に示すように、静磁場発生磁石2と、磁場勾配発生系3と、送信系5と、受信系6と、信号処理系7と、シーケンサ4と、中央処理装置(CPU)8とを備えて成る。
【0016】
静磁場発生磁石2は、被検者1の周りにその体軸方向または体軸と直交する方向に均一な静磁場を発生させるもので、被検者1の周りのある広がりをもった空間に永久磁石方式または常電導方式あるいは超電導方式の磁場発生手段が配置されている。
【0017】
磁場勾配発生系3は、X,Y,Zの三軸方向に巻かれた傾斜磁場コイル9と、それぞれの傾斜磁場コイルを駆動する傾斜磁場電源10とから成り、後述のシ−ケンサ4からの命令に従ってそれぞれのコイルの傾斜磁場電源10を駆動することにより、X,Y,Zの三軸方向の傾斜磁場Gx,Gy,Gzを被検者1に印加するようになっている。この傾斜磁場の加え方により被検者1に対するスライス面を設定することができる。
【0018】
シーケンサ4は、被検者1の生体組織を構成する原子の原子核にNMR現象を起こさせるRFパルスをある所定のパルスシーケンスで繰り返し印加するもので、CPU8の制御の下に動作し、被検者1の断層像のデータ収集に必要な種々の命令を、送信系5及び磁場勾配発生系3並びに受信系6に送るようになっている。
【0019】
送信系5は、被検者1の生体組織を構成する原子の原子核にNMR現象を起こさせるためのRFパルスを照射するもので、高周波発振器11と変調器12と高周波増幅器13と送信側の高周波コイル14aとから成る。高周波発振器11から出力された高周波パルスをシーケンサ4の命令にしたがって変調器12で振幅変調し、この振幅変調された高周波パルスを高周波増幅器13で増幅した後に被検者1に近接して配置された高周波コイル14aに供給することにより、RFパルス(電磁波)が被検者1に照射されるようになっている。
【0020】
受信系6は、被検者1の生体組織の原子核のNMR現象により放出されるエコー信号(NMR信号)を検出するもので、受信側の高周波コイル14bと増幅器15と直交位相検波器16と、A/D変換器17とから成る。送信側の高周波コイル14aから照射されたRFパルスによる被検者1の応答の電磁波(NMR信号)は、被検者1に近接して配置された高周波コイル14bで検出され、増幅器15及び直交位相検波器16を介して互いに直交する二系統の信号に分割され、それぞれがA/D変換器17に入力されてディジタル量に変換され、それらのディジタル信号がエコー信号データとして信号処理系7に送られるようになっている。
【0021】
信号処理系7は、CPU8と、磁気ディスク18及び光ディスク19等の記録装置と、CRT等のディスプレイ20とから成り、CPU8でフーリエ変換、補正係数計算、画像再構成等の処理を行い、撮影された断面の信号強度分布あるいは複数の信号に適当な演算を行って得られた分布を画像化してディスプレイ20に断層像として表示するようになっている。
【0022】
なお、図1において、送信側及び受信側の高周波コイル14a,14bと傾斜磁場コイル9は、被検者1の周りの空間に配置された静磁場発生磁石2の磁場空間内に設置されている。
【0023】
次に、DWI法のパルスシーケンスについて説明する。このパルスシーケンスは、例えばプログラムとして磁気ディスク18に記憶されて、必要に応じてCPU8が読み出してシーケンサ4にその内容を送信して実行される。図2は、SE-EPIパルスシーケンスにMPGパルスを適用したDWI法パルスシーケンスの一例である。スライス方向Gsにスライス選択傾斜磁場211を印加しながらスライス選択90°RFパルス201を印加して所望のスライス領域を励起する。その後に読み出し方向Grに第1MPGパルス231を印加する。次に、励起領域の磁化を反転してエコー信号を形成させるためにスライス方向Gsに傾斜磁場212と180°反転RFパルス202を印加する。その後に読み出し方向Grに第2MPGパルス232を印加する。これらのRFパルス及び傾斜磁場の後に、位相エンコード方向Gpに空間情報のエンコードを行うための位相エンコード傾斜磁場222と、信号読みだし方向Grに周波数エンコードを行うと同時にエコー信号の読み出しを行うための傾斜磁場234の極性を反転させながら印加して、画像再構成用の複数のエコー信号を取得する。尚、位相エンコード傾斜磁場222及び信号読みだし傾斜磁場234の印加前に、それぞれディフェーズ傾斜磁場221,233を印加して、k空間上に配置するエコー信号データの初期位置を調整する。このSE-EPIパルスシーケンスは、例えば(特許文献4)に説明されているので、これ以上の詳述は省略する。
【特許文献4】特開2003−225223号公報
【0024】
第2MPGパルス232の印加後に静止している磁化に印加される位相回転量をゼロにするために、第1MPGパルス231と第2MPGパルス232の印加量{=(印加強度)×(印加時間)}を同一にする。通常は、各MPGパルスの印加強度と印加時間をそれぞれ同一にする。これにより、移動する磁化のみに位相回転が印加されるので、移動する磁化から得られるエコー信号が減衰する。即ち、拡散している水分子からの信号が、静止している水分子からのエコー信号に比べて減衰することになる。その結果、拡散強調画像においては、水分子が拡散している領域では低信号となる。
【0025】
更に詳細に説明すると、上記の様にしてMPGパルスを印加して取得されたスピンエコー信号の信号強度S(d)は、MPGパルスを印加せずに取得されたスピンエコー信号の信号強度S(se)に、拡散係数(D)を変数とする項を乗じたものとなる。つまり、
S(d)=S(se)・exp(−b・D) (1)
ここで、bはMPGパルスの効果を表す値でb-factorと呼ばれる。このb-factorに基づいて、拡散強調画像において所望の信号低下をもたらすために(つまり、画像に水分子の拡散を反映したコントラストをつけるために)印加されるべきMPGパルスの印加強度と印加時間が決定される。これにより、DWI法において、静止部であっても拡散する水分子を含む組織の信号値は、MPGパルスの無い通常のスピンエコー法による信号値より低下することが理解される。
【0026】
上述のようにMPGパルスを挿入して拡散強調画像を撮像する際に問題となるのは、MPGパルスの印加に伴って発生する渦電流と残留磁化に基づく不整磁場である。つまり、極めて遅い流速を持つ水分子の拡散運動を、その水分子の磁化の位相回転に反映させるために、大強度のMPGパルスを印加する必要がある。このような大強度傾斜磁場の印加に伴って、MRI装置を構成する導体部材には渦電流が発生する。また、MRI装置を構成する強磁性体部材のヒステリシス現象に基づいて、その強磁性体部材に残留磁化が発生する。これらの渦電流及び残留磁化に基づく不整磁場が本来のMPGパルスによる傾斜磁場に加えて余分に印加されるために、2つのMPGパルスによる傾斜磁場の印加量が同一にならず、ずれて差が生じてしまう。その結果、得られる拡散強調画像にアーチファクトが発生したり、S/Nが低下したりする。
【0027】
また、マルチスライス計測においては、繰り返し時間(TR)内に各スライス計測を行うために印加される傾斜磁場は、設定されるTRやマルチスライス数、計測エコー信号数やエコー信号間隔などにより1スライスあたりの計測時間が異なるため、必ずしも一定間隔では印加されない。このため、時定数を持って減衰する渦電流と一定の残留磁化による不整磁場が、各スライス間で異なる位相回転量をそのスライス内磁化に与えることとなり、画像にアーチファクトを発生させる原因となる。
【0028】
更に詳細に説明すると、傾斜磁場強度Gx印加時の磁化の位相回転量Φは、式(2)に示すように傾斜磁場強度Gxとその印加時間tに比例する量である。つまり、
Φ=γX・∫Gxdt=γX・(傾斜磁場印加量) (2)
(γ:磁気回転比、X:座標値)と表されるので、90°−180°RFパルス間(以下、「時間幅A」と略記する)の傾斜磁場印加量をξ1、180°RFパルス−スピンエコー中心間(以下、「時間幅B」と略記する)の傾斜磁場印加量をξ2とすると、位相回転量の差ΔΦは、
ΔΦ=γX・(ξ1−ξ2)=γX・Δξ (3)
となる。本来ならば、Δξ=ξ1−ξ2=0となって、ΔΦ=0となるべきであるが、不整磁場による印加量の差が生じるために、Δξ≠0、ΔΦ≠0となり、さらに、MPGパルス印加以前の傾斜磁場印加の状態に応じてこれらが変動する。
【0029】
エコー時間TEで取得されるスピンエコー信号に対する不整磁場とその変動の具体的影響は、例えば、そのエコー中心がエコー時間TEの前後にずれることである。また、エコー信号に印加される位相回転量が変動することである。さらに、不整磁場の方向が信号読みだし方向Grのみならず、位相エンコード方向Gpにも及ぶ場合(所謂、Cross Term)には、エコー中心ずれと位相回転の変動は位相エンコード方向にも及ぶことになる。このエコー中心ずれと位相回転の変動は、特に拡散強調画像においては重大な影響を及ぼし、画像上に深刻なアーチファクトをもたらす場合がある。
上記不整磁場の変動を抑制するために、90°RFパルス印加前にプリパルス傾斜磁場を印加するのが以下に説明する本発明である。
【0030】
次に、本発明のMRI装置におけるDWI法のパルスシーケンスの一実施形態を説明する。本実施形態は、90°RFパルスの前に、プリパルス傾斜磁場をMPGパルス印加方向と同じ方向に印加することによって、MPGパルスの印加量のみならず、前述の不整磁場の印加量も略一定となるようにする形態である。好ましくは、MPGパルスと同一形状(つまり、同一印加強度と同一印加時間をもつ同一波形の傾斜磁場)のプリパルス傾斜磁場とする。
【0031】
図3に本実施形態の一例を示す。図3は、図2に示すSEE-EPIパルスシーケンスにMPGパルスを適用したDWI法パルスシーケンスに、更にプリパルス傾斜磁場301を90°RFパルスの前に追加した例である。尚、スライス方向Gs及び位相エンコード方向Gpにおける傾斜磁場の印加シーケンスは図2と同様なので、図3では省略している。また、図6には本発明のDWI法パルスシーケンスの一例の全体像を示す。
【0032】
このプリパルス傾斜磁場301と第1及び第2MPGパルス231,232の印加量は全て同一にすることが好ましい。つまり、これらの傾斜磁場の印加強度と印加時間をそれぞれ同一にすることが好ましい。また、印加タイミングは次のようにすることが好ましい。つまり、プリパルス傾斜磁場301及び第1MPGパルス231の印加開始時刻の時間間隔311-1と、第1MPGパルス232及び第2MPGパルス231の印加開始時刻の時間間隔311-2を同一にする。従って、プリパルス傾斜磁場301の印加終了時刻と第1MPGパルス231の印加開始時刻との時間間隔312-1と、第1MPGパルス232の印加終了時刻と第2MPGパルス231の印加開始時刻との時間間隔312-2も同一になる。
【0033】
上記の様にしてプリパルス傾斜磁場301を印加することによって、前述の不整磁場の印加量を一定にできることを、そして好ましくは180°RFパルスの前後で略同一にできることを、図4,5に基づいて以下に説明する。
【0034】
最初に、渦電流による不整磁場の印加量を一定にできることについて説明する。図4は傾斜磁場の印加に伴って発生する渦電流による不整磁場について説明する図である。図4(a)は、矩形状の傾斜磁場401(実線)の印加に伴って発生する渦電流による不整磁場によって、本来あるべき傾斜磁場401の波形の特に急峻な立ち上がりと立ち下がり部分がなだらかな波形402(点線)に歪んでしまう様子を示している。
【0035】
この図4(a)の例に従って、図3のプリパルス傾斜磁場301並びに第1及び第2MPGパルス231, 232の傾斜磁場波形が渦電流による不整磁場によって歪んだ波形(点線)になる例を図4(b)に示す。この図から、90°RFパルス201と180°RFパルス202間のTE/2時間幅Aにおける歪んだ傾斜磁場波形による印加量と、180°RFパルス202とスピンエコー信号のエコー中心間のTE/2時間幅Bにおける歪んだ傾斜磁場波形による印加量とが、同一となることが理解される。つまり、プリパルス傾斜磁場301を第1MPGパルス231の前に印加することによって、プリパルス傾斜磁場301の印加に伴って発生する渦電流による不整磁場の時間幅Aにおける印加量411-1を、第1MPGパルスの印加に伴って発生する渦電流による不整磁場の時間幅Bにおける印加量411-2と等しくすることが可能になる。
【0036】
この結果、エコー時間TEにおいて取得されるスピンエコー信号に対しては、2つのMPGパルスの印加に伴って発生する渦電流による不整磁場が存在していても、その不整磁場による傾斜磁場印加量の誤差(以下、「傾斜磁場誤差成分」という)に基づく位相誤差が相殺されて一定に、好ましくはゼロにされることになる。
【0037】
さらに、第1MPGパルスの前に、それと同じ振幅と印加時間をもつプリパルス傾斜磁場301を挿入することによって、それ以前に印加された傾斜磁場に伴う渦電流の影響を受けにくくなる。つまり、プリパルス傾斜磁場301の印加強度と比較して、プリパルス傾斜磁場301印加時に残る渦電流による不整磁場の強度は充分に小さいので、その不整磁場の影響は相対的に無視できる程になる。
【0038】
これは、特にマルチスライス撮影において意味を持つ。つまり、繰り返し時間(TR)内に行われる各スライスの計測においては、設定されるTRやマルチスライス数、計測エコー信号数やエコー信号間隔などに依存して、1スライスあたりの計測時間が異なるため、各スライス間で必ずしも一定間隔で傾斜磁場が印加されるわけではない。このため、ある時定数で減衰する渦電流による不整磁場が、各スライス間で異なる位相回転量を磁化に与えることになる。その結果、位相誤差が変動するため画像にアーチファクトをもたらすことなる。
【0039】
これに対して、プリパルス傾斜磁場301を挿入することによって、それ以前に印加された傾斜磁場に伴う渦電流の影響を受けにくくなるので、上記不整磁場よる傾斜磁場誤差成分を略一定(つまり、定常化)することが可能になる。その結果、画像のアーチファックトを低減することが可能になる。
【0040】
なお、時間間隔311-1と311-2とをそれぞれ常に一定に保つのであれば、それらは異なっても良い。これらの時間間隔311-1と311-2とをそれぞれ常に一定に保つことで、時間幅A,Bの間に不整磁場による傾斜磁場誤差成分を常に一定にすることができるので、この傾斜磁場誤差成分に基づく磁化に印加される位相誤差も常に一定にすることが可能になる。
なお、公知の位相補正技術を用いれば、エコー信号に印加された定常の位相誤差をも補正することも可能である。特に、0次と1次の位相補正は容易である。
【0041】
また、Cross Term的な影響がある場合、MPGパルスの印加がその印加方向と異なる方向へ傾斜磁場誤差成分を発生させることがある。その場合には、MPGパルス印加方向と異なる方向にプリパルス傾斜磁場を印加することで、傾斜磁場誤差成分を定常化できることがある。さらに、プリパルス傾斜磁場の印加強度も、必ずしも第1MPGパルス及び第2MPGパルスと同一にする必要もなく、プリパルス傾斜磁場強度を変更することで、傾斜磁場誤差成分を調整して画質調整が可能となるようにしても良い。
【0042】
以上説明したように、プリパルス傾斜磁場を90°RFパルスの前に挿入して、プリパルス傾斜磁場と第1MPGパルスと第2MPGパルスの時間間隔を一定間隔に保つことで、渦電流による不整磁場によってもたらされる傾斜磁場誤差成分を第1MPGパルスが印加される時間幅Aと第2MPGパルスが印加される時間幅Bとで常に一定(好ましくは同一)とすることが可能になる。そのため、各時間幅における傾斜磁場誤差成分及び位相誤差も常に一定(好ましくは同一)とすることができる。その結果、拡散強調画像に発生するアーチファクトを低減することができる。
【0043】
尚、比較として、プリパルス傾斜磁場の無い従来技術においては、時間幅Aにおける不整磁場の印加量411-1が存在しないことから、傾斜磁場誤差成分の差が大きくなり、且つ、第1MPGパルス以前の不整磁場の影響を受けやすくなるために、位相誤差量とその差も変動して画像にアーチファクトが発生しやすくなることが容易に理解される。
【0044】
次に、傾斜磁場の印加に伴って発生する残留磁化による不整磁場について図5に基づいて説明する。図5(a)は、矩形状の傾斜磁場501(実線)の印加に伴って発生する残留磁化による不整磁場(残留磁場)によって、本来あるべき傾斜磁場501の後に一定の不整磁場502(斜線部)が発生してしまう様子を示している。この不整磁場502は、微少な傾斜磁場を印加し続けることと同等の影響を及ぼす。また、直前に行ったパルスシーケンスの傾斜磁場や、位相エンコードのようにTR毎に異なる印加強度の傾斜磁場が存在すると、第1MPGパルス印加直前の残留磁化が変動することになる。これらの不整磁場とその変動ために、傾斜磁場誤差成分とそれによる位相誤差及びそれらの180°RFパルス間の差が変動することになり、これらの誤差とその変動が画像にアーチファクトをもたらすことになる。
【0045】
そのため、本発明では、残留磁化による不整磁場に対しても、90°RFパルスの前にプリパルス傾斜磁場を印加することによって、180°RFパルス間で傾斜磁場誤差成分を一定に、好ましくは同一にする。
【0046】
この図5(a)の例に従って、図3のプリパルス傾斜磁場301並びに第1及び第2MPGパルス231, 232の傾斜磁場波形が、それらの後に残留磁化による不整磁場が付加されて歪んだ波形(斜線部)になる例を図5(b)に示す。ここでは、図5(b)に示すように、このプリパルス傾斜磁場301を、MPGパルス印加方向と同一方向に印加するのが好ましいので、その例を示している。また、第1MPGパルス231が第2MPGパルス232に及ぼす影響と等価とする必要があるために、このプリパルス傾斜磁場301の印加強度と印加時間をMPGパルスと同一とすることが好ましいので、そのような例を示している。
【0047】
ここで、残留磁化のヒステリシス特性を説明する。つまり、残留磁化が飽和磁化に到達した後は、同極性且つ同強度の傾斜磁場が印加される限り、残留磁化の大きさは変わらない。従って、プリパルス傾斜磁場301と第1及び第2MPGパルスの極性は同一であり、且つ、印加強度が大振幅である場合には、プリパルス傾斜磁場301の印加後の残留磁化は飽和磁化に達し、その後の2つのMPGパルス印加後も残留磁化の大きさは変わらない。つまり、残留磁化は、プリパルス傾斜磁場301の印加後は殆ど一定となる。
【0048】
この図5(b)から、図4(b)と同様に、90°RFパルス201と180°RFパルス202間のTE/2時間幅Aにおける傾斜磁場波形による印加量と、180°RFパルス202とスピンエコー信号のエコー中心間のTE/2時間幅Bにおける傾斜磁場波形による印加量とが、同一となることが理解される。つまり、プリパルス傾斜磁場301を第1MPGパルス231に前に印加することによって、プリパルス傾斜磁場301の印加に伴って発生する残留磁化による不整磁場の期間Aにおける印加量511-1を、期間Bにおける不整磁場の印加量511-2と等しくすることが可能になる。つまり、時間幅Aと時間幅Bにおいて、残留磁化による不整磁場に基づく傾斜磁場誤差成分量とそれに基づいて磁化に印加される位相誤差を、常に一定(定常化)とすることができる。更に、図3に示したように、相互の時間間隔が等間隔であれば同一とすることができる。
【0049】
その結果、エコー時間TEにおいて取得されるスピンエコー信号に対しては、残留磁化による不整磁場が存在していても、その不整磁場による傾斜磁場誤差成分の基づく位相誤差を一定(定常化)に、好ましくはゼロとすることができる。
【0050】
以上のようにして、大強度のプリパルス傾斜磁場を90°RFパルスの前に挿入することによって、敢えて残留磁化を生じさせ、それによる不整磁場を誘起して傾斜磁場誤差成分をもたらす事により、時間幅Aと時間幅Bにおける傾斜磁場誤差成分を同一にすることができる。また、直前に印加された他スライス計測における残留磁化に影響されることなく、大強度のプリパルス傾斜磁場によって、常にほぼ一定の残留磁化を発生させることができるので、直前のパルスシーケンスの傾斜磁場の如何に影響されることなく、常に傾斜磁場誤差成分及びこれに基づく位相誤差を一定(つまり定常化)することが出来る。位相誤差が変動しなければ、0次および1次の位相誤差補正をエコー信号に対して行うことにより画質の安定化が図れることになる。特に、180°RFパルス前後で傾斜磁場誤差成分及びこれに基づく位相誤差を同一にすれば、エコー信号には、この傾斜磁場誤差成分に基づく位相誤差をゼロにできるので、エコー信号に対する位相誤差補正も不要となる。
【0051】
尚、Cross Term的な影響がある場合、MPGパルス印加方向と異なる方向にプリパルス傾斜磁場を印加することで誤差成分を定常化又はゼロにできることは、渦電流による不整磁場の場合と同様である。さらに、プリパルス傾斜磁場の印加強度も、必ずしも第1MPGパルス、第2MPGパルスと同一にする必要もなく、プリパルス傾斜磁場強度を変更することで傾斜磁場誤差成分を調整して画質調整が可能となるようにすることが望ましいことも、渦電流による不整磁場の場合と同様である。
【0052】
以上までが、本発明のMRI装置におけるDWI法パルスシーケンスの一実施形態の説明である。しかし、本発明は、上記実施形態の説明で開示した内容にとどまらず、本発明の趣旨を踏まえた上で他の形態を取り得る。例えば、SE-EPIシーケンスを用いたDWI法パルスシーケンスの場合について説明したが、SE-EPIシーケンスに限らず高速スピンエコー法や他の90°-180°RFパルスを用いるパルスシーケンスに本発明のDWI法を適用しても良い。
【0053】
以上説明したように、本発明のMRI装置によれば、プリパルス傾斜磁場をパルスシーケンスの最初に追加することにより、MPGパルスの印加に伴って発生する渦電流や残留磁化による不整磁場に基づく傾斜磁場誤差成分を、常に一定に(つまり定常化)することができる。そのため、180°RFパルス前後でこの傾斜磁場誤差成分とそれに基づいて磁化に印加される位相誤差、及びそれらの差も一定に、好ましくはゼロにできる。そして、この傾斜磁場誤差成分の差に基づいてエコー信号に印加される位相誤差も常に一定に、好ましくはゼロにすることが可能になる。その結果、不整磁場の変動に基づく画像アートファクトを低減して、画質を向上させることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明が適用されるMRI装置の一例の全体像を示すブロック図。
【図2】DW EPIパルスシーケンス表す図。
【図3】実施例に使用するプリパルス傾斜磁場とMPGパルスの印加タイミング表す図。
【図4】渦電流による傾斜磁場誤差成分を表す図。
【図5】残留傾斜磁場による傾斜磁場誤差成分を表す図。
【図6】実施例に使用するDW EPIパルスシーケンスを表す図。
【符号の説明】
【0055】
1…被検者、2…磁場発生装置、3…磁場勾配発生系、4…シーケンサ、5…送信系、6…受信系、7…信号処理系、8…CPU,9…傾斜磁場コイル、10…傾斜磁場電源、14a…送信側の高周波コイル、14b…受信側の高周波コイル、15…増幅器、16…直交位相検波器、17…A/D変換機、18…磁気ディスク、19…磁気テープ、20…ディスプレイ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
静磁場を発生する手段と、
前記静磁場空間に高周波磁場パルスを発生する手段と、
前記静磁場空間に傾斜磁場を発生する手段と、
前記静磁場中に配置された被検者の所望の領域に、MPGパルスを含む所定のパルスシーケンスに基づいて前記高周波磁場パルスと前記傾斜磁場を印加して、前記所望の領域内に含まれる所望の分子の拡散運動が反映された画像を取得するための計測制御手段と、
を備えた磁気共鳴イメージング装置において、
前記計測制御手段は、前記パルスシーケンスにおける最初の前記高周波磁場パルスの前に、プリパルス傾斜磁場を印加することを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項2】
請求項1記載の磁気共鳴イメージング装置において、
前記プリパルス傾斜磁場は、少なくとも前記MPGパルスと同一方向に印加されることを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項3】
請求項1又は2記載の磁気共鳴イメージング装置において、
前記プリパルス傾斜磁場は、前記MPGパルスと略同一の印加強度と略同一の印加時間を有することを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載の磁気共鳴イメージング装置において、
前記MPGパルスは、間に前記高周波磁場パルスの印加を挟んで複数回印加され、
前記プリパルス傾斜磁場と前記複数のMPGパルスは、等時間間隔で印加されることを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−262928(P2006−262928A)
【公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−80988(P2005−80988)
【出願日】平成17年3月22日(2005.3.22)
【出願人】(000153498)株式会社日立メディコ (1,613)
【Fターム(参考)】