説明

磁気共鳴イメージング装置

【課題】水・脂肪分離画像による撮影において、複数のシーケンスに渡り空間充填材からの信号が抑制され、シーケンス毎に空間充填材を変更せずに、微細な信号を表示でき、高画質な画像を得ることができるMRI装置及び空間充填材を提供する。
【解決手段】被検体の水・脂肪分離画像及びこのシーケンスを含めた複数のシーケンスの撮影時に、両脚部間の空間充填体401として、108mM塩化ニッケルを充填した柔軟な容器を下腿部402の空間に配置させ、被検体と空間充填体401を十分に密着させる。これにより、複数のシーケンスにおいて被検体の明瞭な画像が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気共鳴イメージング装置に係わり、特に被検体の水・脂肪分離画像を表示するMRI装置及び空間充填体に関する。
【背景技術】
【0002】
現在臨床で普及している磁気共鳴イメージング装置(MRI装置)の撮影対象は、被検体の主たる構成物質、プロトンである。プロトン密度の空間分布や、励起状態の緩和現象の空間分布を画像化することで、頭部、腹部、四肢等の形態または、機能を2次元もしくは3次元的に撮影する。
【0003】
次に、MRI装置の撮影方法を説明する。MRI装置においては、傾斜磁場により異なる位相エンコードを与え、それぞれの位相エンコードで得られるエコー信号を検出する。位相エンコードの数は、通常1枚の画像あたり128,256,512等の値が選ばれる。各エコー信号は、通常、128,256,512,1024個のサンプリングデータからなる時系列信号として得られる。これらのデータを2次元フーリエ変換して1枚のMR画像を作成する。
【0004】
プロトンは、動物組織において水や脂肪中に存在するが、その結合形態によってケミカルシフトが異なる。このケミカルシフトの差を利用して水中のプロトンの画像と脂肪中のプロトンの画像を分離して描画しようとする試みがなされている。
【0005】
例えば、脂肪を抑制した画像を得る方法の1つとして、エコー時間(TE)の異なる画像を複数枚取得し、演算により水・脂肪分離画像を得る方法が挙げられる。その代表的な方法として、非特許文献1に述べられている方法がある。他には演算により水・脂肪分離画像を得る方法として、特許文献1、非特許文献2、に記されている方法が知られている。
【0006】
上記のようなTEの異なる複数の信号から作成した複数の画像間の演算によって水・脂肪分離画像を得る方法では、静磁場の不均一や局所的な磁場の乱れ等により、信号に意図しない位相のずれが生じ、その結果、撮影画像に画質の劣化が生じる事がある。
【0007】
この水・脂肪分離画像の位相ずれを演算により解決する方法として、特許文献2、3、4、非特許文献3に記されている方法が知られている。
【0008】
【特許文献1】特開2002−301041号公報
【特許文献2】特開2002−306441号公報
【特許文献3】特開2002−306445号公報
【特許文献4】特開2001−340314号公報
【非特許文献1】W. Thomas Dixon et al. Simple Proton spectroscopic Imaging. RADIOLOGY. Vol. 153. 189-194
【非特許文献2】Qing-San Xiang and Li An. Water-Fat Imaging with Three-Point Direct Phase Encoding Proc.,SMR 3rd Meeting. 658. (1995)
【非特許文献3】Bernard D. Cooms et al., Two-Point Dixon Technique for Water-FAT Signal Decomposition with B0 In homogeneity Correction, Magnetic Resonance in Medicine, Vol. 38, 884-889(1997)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記の従来技術により、水・脂肪分離画像の位相ずれによる撮影画像の画質劣化を抑える事ができるが、被検体の撮影対象部位によっては画質の劣化が生じる場合がある。つまり、水・脂肪分離撮影を行なう場合に、脚部のように被検体の撮影対象部位が複数部分に分離している場合には、それらの部位が互いに離間しているため、上記従来技術の演算による方法を用いても位相のずれを補正しきれずに、撮影した画像の画質が劣化する。
【0010】
この問題は、被検体の互いに分離した部位間に磁気共鳴信号を発する物質を充填して撮影することにより、水・脂肪分離画像での画質劣化を改善することができる。
【0011】
しかしながら、MRI装置を用いた撮影においては、水・脂肪分離画像だけでなく、T1強調、T2強調等、様々なコントラストを持った画像を得たいという要求があり、このため、同一部位を様々なシーケンスで撮影するとき、撮影シーケンスによっては空間充填材からの信号が強く出てしまい、撮影対象部位における画像の微細なコントラストが悪くなるという問題が生じることがある。
【0012】
このような問題は撮影シーケンス毎に空間充填材を変更したり、不要な場合には空間充填材を取り出す事により防ぐことができるが、その場合には被検体を撮影空間から出し入れする必要があるため、同一スライスが撮影できなくなり、また撮影作業が煩雑になり撮影時間が延長してしまう。
【0013】
本発明の目的は、水・脂肪分離画像による撮影において、複数のシーケンスに渡り空間充填材からの信号が抑制され、シーケンス毎に空間充填材を変更せずに、微細な信号を表示でき、高画質な画像を得ることができるMRI装置及び空間充填体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するために、本発明は次のように構成される。
(1)磁気共鳴イメージング装置による水・脂肪分離画像撮影時に、被検体の分離部位間に設置され、MR信号を発する物質が充填された空間充填体において、物質は、70〜150mMの塩化ニッケルであるものとする。
【0015】
(2)上記(1)において、空間充填体の充填材収容部の材質に柔軟な材質を使用するものとする。
【0016】
(3)静磁場発生手段と、被検体に傾斜磁場及び高周波磁場を印加する磁場印加手段と、被検体からの核磁気共鳴信号を受信する受信手段と、この受信手段により受信された核磁気共鳴信号に基づき、被検体の断層画像を再構成する演算処理手段と、この再構成された断層画像を表示する画像表示手段と、上記静磁場発生手段、磁場印加手段及び受信手段の動作を制御する制御手段とを備える磁気共鳴イメージング装置において、上記演算処理手段は、空間充填体と共に被検体を撮影して取得した画像を用いて、上記被検体の水・脂肪分離画像を求める。
【0017】
(4)上記(3)において、上記演算処理手段は、上記画像表示手段上に少なくとも1点を指定することにより、この点を含む画像表示手段上に表示された上記空間充填体の領域を除去するものとする。
【0018】
(5)上記(4)において、上記演算処理手段は、上記画像表示手段上に表示されたマルチスライスの1スライス上の1点を指定する事により、この点を含む画像表示手段上に表示された上記空間充填体の領域をマルチスライスの全スライスで除去するものとする。
【0019】
(6)上記(4)において、上記演算処理手段は、空間充填体と共に撮影された被検体画像が複数取得された場合に、一の画像における上記空間充填体領域の除去を、他の画像にも適用して空間充填体領域の除去を行なう。
【0020】
(7)上記(4)において、上記演算処理手段は、上記空間充填体の領域を抽出するために3次元領域拡張法を用いるものとする。
【0021】
(8)上記(4)において上記演算処理手段は、上記画像表示手段に表示された画像の局所的な信号強度、標準偏差により、被検体以外のMR信号を発する物質の領域を自動判別するものとする。
【0022】
(9)静磁場に配置された被検体に、傾斜磁場及び高周波磁場を印加し、被検体から発生された核磁気共鳴信号に基づき、被検体の断層画像を再構成し、表示する磁気共鳴イメージング方法において、水・脂肪分離画像撮影時に、70〜150mMの塩化ニッケルが充填された空間充填体を、被検体の互いに分離した部位間に配置し、これら互いに分離した部位を撮影するものとする。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、水・脂肪分離撮影時における、被検体の分離部位撮影時の位相ずれによるアーチファクトを抑制することができ、また水・脂肪分離撮影以外の複数のシーケンスを行う場合でも、被検体をシーケンス毎に撮影空間から出し入れすることなく短い撮影時間で、空間充填材からの高信号によるコントラストの低下を抑制し、高精度な画像を得ることができるMRI装置及び空間充填材を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態を図面を参照しつつ説明する。
【0025】
本発明の第1の実施形態を図1〜図12により説明する。
【0026】
図1は、本発明が適用されるMRI装置の概略構成図である。
【0027】
図1においてMRI装置は、被検体101が配置される撮影空間に静磁場を発生する磁石102と、この静磁場が発生された空間に傾斜磁場を発生させる傾斜磁場コイル103と、この空間領域に高周波磁場を発生するRFコイル104と、被検体101が発生するMR信号を検出するRFプローブ105とを備えている。
【0028】
磁石102は、被検体101の体軸と直交あるいは平行な方向に均一な静磁場を発生させる。
【0029】
傾斜磁場コイル103は、x,y,zの3方向の傾斜磁場コイルにより構成され、傾斜磁場電源109からの信号に応じてそれぞれ傾斜磁場を発生する。
【0030】
RFコイル104はRF送信部110からの信号に応じて高周波磁場を発生し、被検体101の撮像断面を構成する原子の原子核を励起して核磁気共鳴を起こさせる。
【0031】
RFプローブ105は、被検体101の生体組織の核磁気共鳴によるエコー信号であるNMR信号を受信する。RFプローブ105で受信したNMR信号は信号検出部106で検出され、信号処理部107で信号処理され、また計算により画像信号に変換される。そして、画像処理部113により撮像画像に対する演算処理がされ、画像が再構成され、表示部108で表示される。
【0032】
傾斜磁場電源109、RF送信部110及び信号検出部106は制御部111により制御され、制御のタイムチャートは一般にパルスシーケンスと呼ばれている。なお、ベッド112は被検体が横たわるためのものである。
【0033】
MRI装置による水・脂肪分離画像の撮影を行う場合に、被検体の撮影対象部位が、互いに分離している場合、例えば、両脚部の場合には、位相ずれに依存するアーチファクトが発生し、画像の乱れが発生する場合がある。
【0034】
本発明の第1の実施形態においては、このアーチファクトを防止するため被検体の分離部位間に空間充填体を設置する。以下にこの空間充填体について説明する。
【0035】
図2は、被検体101の両脚部の間に空間充填体401を設置した場合を示す図である。
【0036】
図2において、空間充填体401は、容量10L(リットル)の柔軟な容器に3.8L(リットル)の108mM塩化ニッケルを充填して作成している。この空間充填体401を両下腿部402間の空間に配置する。このとき空間充填体401の充填された容器の材質は、樹脂等の柔軟な材質であるため、容器が変形し、被検体の両下腿部と空間充填体401とを十分に密着させることができる。
【0037】
次に、この空間充填体401を設置した状態で複数のシーケンスを行う場合の効果について説明する。
【0038】
図3は空間充填体401を使用して水脂肪分離T1水強調撮影条件(550ms/26ms/90°)により下肢を撮影した場合を示す図である。尚、括弧書きは撮影パラメータを示し、記載順にTR(繰り返し時間)、TE(エコー時間)、FA(フリップ角)を示す。
【0039】
図3において、空間充填体401を示す領域1103は、被検体の分割部分1101,1102と同程度の信号強度であるため、空間充填体401を示す領域1103が強調されず、被検体の分割部分1101,1102は明瞭に表示される。
【0040】
上記水脂肪分離T1水強調撮影条件に続けて、図示しない以下の撮影条件のシーケンスを連続して行う。
【0041】
水脂肪分離T1脂肪強調撮影条件(550ms/26ms/90°)、水脂肪分離T2水強調撮影条件(400ms/17.1ms/30°)、水脂肪分離T2脂肪強調撮影条件(400ms/17.1ms/30°)、T1画像(380ms/19ms/60°)、プロトン密度/T2(4000ms/25ms/90°)、STIR画像(4400ms/20ms/90°)、3D−BASG画像(17ms/8.5ms/50°)。
【0042】
この一連のシーケンスの撮影を実施する場合に空間充填体401として、上記の108mMの塩化ニッケルを使用した場合には、他の物質を使用する場合に比較して、複数のシーケンスにわたり、空間充填体401を示す領域が強調されず、コントラストの悪化が抑制され、明瞭な画像が表示される。このため、各シーケンス毎に、空間充填体401を取り替えたり、取り除く必要がなく、撮影時間を短縮することができる。
【0043】
なお、空間充填体401として、第1の実施形態においては108mMの塩化ニッケルを使用するものとしたが、70mM〜150mMの塩化ニッケルを使用するものとしてもよく、この場合にも同様の効果を得ることができる。
【0044】
なお、STIR画像と、3D−BASGを画像については、若干空間充填材の輝度が上昇するため、以下に示す空間充填材の信号除去処理を実施し、コントラストを改善することができる。
【0045】
なお、この空間充填材の信号除去処理を他のシーケンスについても実施し、更に画像のコントラストを向上させることもできる。
【0046】
図4は、空間充填体401の信号除去の動作フローチャートである。
【0047】
この図4を使用して、空間充填体401の信号除去の手順について説明する。
【0048】
まず、被検体の分離部位空間に図2に示すように空間充填体401を配置する(ステップ1)。
【0049】
次に、空間充填体401を配置した状態で、水・脂肪分離撮影を行なう(ステップ2)。マルチスライスで撮影を行なう場合は、スライス毎のゲインは一定であることが望ましい。
【0050】
図5はこの水・脂肪分離撮影により撮影された画像の一例を示す図である。
【0051】
図5において、水・脂肪分離画像504には、分離した対象部位501,502と、その間の空間を充填する空間充填体401を示す領域503が撮影されている。なお、この水・脂肪分離画像504の撮影対象は被検体の下腿部であり、撮影断面はCOR断面で、撮影条件として以下のパラメータを設定している(TR=550ms,TE1=26ms,FA=90°)。
【0052】
次に空間充填体401を示す領域503からの信号除去用のマスクを作成するために、図6に示すように、図5に示す画像と同じ画素数を持ち、処理の状況を書き込んでいく為の処理状況マップ505を用意する(ステップ3)。
【0053】
初期状態ではマップ505の画素全てに画素値1が入カされる。またマルチスライス撮影を行なう場合には、各スライスごとに処理状況マップを用意する。
【0054】
次にオペレーターは撮影した画像504から空間充填体401の存在する領域503の一部を指定する(ステップ4)。
【0055】
図7は、画像504上で空間充填体401の存在する領域503を指定する例を示す図である。
【0056】
図7において、オペレータは撮影した画像504を観察し、サークル701により空間充填材401の存在する領域503を指定する。
【0057】
また、マルチスライス撮影を行なった場合には、オペレーターは各スライスの画像を観察し、どのスライスにおいても空間充填材401が存在する領域を指定する。サークル701を指定し開始点、平均信号強度f、標準偏差σが決定される。
【0058】
次に撮影した画像504から空間充填体(ファントム)401の存在する領域503を抽出する(ステップ5)。
【0059】
本発明の第1の実施形態においては、空間充填体401の存在する領域503を抽出する1つの方法として領域拡張法を使用する。
【0060】
この領域拡張法は、拡張条件としてパラメーターa,bを使用するもので、このパラメータa,bの値を変化させることにより拡張条件を変化させることができる。
【0061】
図8(a)は局所的信号強度変化による領域拡張制限の説明図である。尚、説明の都合上領域拡張方向は1次元に限定して示している。
【0062】
図8(a)において、横軸上9番目の点(以後これを「P」のように表す)とP10の間で大きく信号強度が変化している。このように大きい信号強度の変化は充填材−被検体の境界において生じていると考えられるので、Pにて領域拡張を停止させ、PからPまでを抽出領域とする。
【0063】
本条件によって領域の拡張が行なわれるのは、次式が成立するときである。
【0064】
|f−fi−1|<α
ここで、fは拡張点の信号強度、fi−1は拡張点の1つ前の点である基準点の信号強度、αは局所閾値である。
【0065】
図8(b)は大域的な信号強度変化による領域拡張制限の説明図である。
【0066】
図8(b)のPにおいて開始点との信号強度差があらかじめ設定した値βを超えている。空間充填材の信号強度はある範囲内に存在すると考えられるため、その範囲を超える直前のPにて領域拡張を停止させ、PからPまでを抽出領域とする。本条件によって領域の拡張が行なわれるのは、次式の成立する時である。
【0067】
|f−f|<β
ここでfは開始点の信号強度、βは大域閾値である。
【0068】
図8(c)は領域拡張条件に局所的、大域的信号強度変化を組み合わせて用いた場合の説明図である。
【0069】
図8(c)のPにおいて、開始点との信号強度の差が、設定したある範囲を超えてしまっている。しかし、局所的にはそれほど信号強度が変化していないため、領域拡張は継続される。逆に、図中のPとP間では局所的に信号強度が大きく変化しているが、開始点との信号強度の差が充分に小さいため、ここでもやはり領域拡張が継続される。P10においては局所的、大域的ともに信号強度に大きな変化が生じているため、この地点において領域拡張が停止する。
【0070】
以上のように、局所、大域両者を組み合わせることにより、片方が拡張条件の範囲を多少超えても、もう一方が充分に拡張条件を満たしていれば領域拡張が行われる。従ってより柔軟に領域拡張が行われる。なお、この場合の領域拡張が行なわれる条件は次式(1)で表される。
【0071】
a×|f−fi−1|+b×|f−f|<γ−−−(1)
ここでパラメーターa,bは局所、大域信号強度変化の拡張条件に対する重みを表す。γは総合的な拡張条件の制約の総合的な強さを示す。この領域拡張条件を用いる事により、撮影した画像504に見られる静磁場不均一や、RF照射の不均一に依存する信号強度の歪みの影響を受けること無く目的領域を抽出できる。
【0072】
次にこのステップ5における拡張領域法の詳細な手順について説明する。
【0073】
図9は領域拡張法のフローチャートを示している。
【0074】
図10は図7に示す画像504上の長方形状の領域702の拡大図であり、破線で画された領域は処理状況マップ505の画素と対応する領域を示す。また図11は図10に対応する処理状況マップである。上述のステップ5で指定したサークル701の中心は図10,11の領域801,901に対応している。
【0075】
図10の領域801を領域拡張の開始位置とし、図11に示すように対応する処理状況マップ上の開始領域901には、0を入力する(ステップ5−1)。更に上述のステップ4に示したように、サークル701内の平均信号強度をfo、標準偏差をσと設定する。
【0076】
また、サークル701内の標準偏差σを上記(1)式で示した領域拡張条件の閾値γとする。ここで決めた開始点と閾値はマルチスライスで撮影を行なう場合、全てのスライスに適用する。拡張条件のパラメーターa,bの初期値は予め撮影シーケンス毎に指定しておく。
【0077】
次に、図11に示すように開始点901に番号1を付けた、開始点の上下左右の隣接4点902〜905を拡張点として、これに対して番号2〜5を付ける(ステップ5−2)。
【0078】
尚、図11では拡張点を最も近接している点の4点としたが、より多くの点からなる大きな領域を拡張点としても良い。
【0079】
次に上記番号を付与した拡張点の中のうち番号の一番小さい点を選択する(ステップ5−3)。
【0080】
図10の802〜805は、処理状況マップ上の拡張点902〜905に対応する位置の撮影画像の画素をさしている。拡張点の画素802〜805の信号強度をf802〜f805、上述のステップ4に示したように、サークル701の平均信号強度をf、基準点901に対応する画素801の信号強度をf801と表す。基準点の信号強度をfi−1、拡張点の信号強度をfと表記すると、領域拡張条件は次式のように表される。(本ステップでは基準点は開始点に等しい。)
拡張条件:a×|f−fi−1|+b×|f−f|<|σ| 処理状況値=0
拡張条件:a×|f−fi−1|+b×|f−f|>|σ| 処理状況値に+1する。
【0081】
上記の条件を上述のステップ4で指定した開始点から閾値で領域拡張を行い、処理状況マップに処理状況値を入力する。ここで処理状況値=2になった部分をファントムと被検体表面の境界と認識するので、次ステップで示す領域拡張の基準点としない。
【0082】
ステップ5−3a〜5−3eの処理を実行し、上述のステップ5−2で付与した番号2〜5全てに状況処理値を与えたら、開始点の次に小さい番号の付いた画素を基準点とする(ステップ5−4)。ここでは番号2を付与した画素902が基準点となる。
【0083】
図12は、本ステップの基準点と拡張点とを示す処理状況マップ図である。
【0084】
図12において、基準点の隣接点に対して処理を行なう場合、まず隣接点が拡張点となるかどうかを判定する(ステップ5−5)。この判定は以下に示す条件を満たすかどうかにより行う。
【0085】
つまり、第1の条件として、隣接点の状況処理値が0又は2ではないこと、第2の条件として、過去に評価されていないことを満たすか否かにより上記判定を行う。
【0086】
上記の条件を満たしている隣接点に対しては、図12の1002〜1004に示すようにステップ5−5aにおいて、番号を与え(ここでは6〜8)、これらの点を拡張点として上述のステップ5−3に戻る。
【0087】
図12に示すように、判定する隣接点の候補はあるが、上記の条件を満たす隣接点が一つも無い場合には、ステップ5−5bで未処理の画素が存在するか否かを判断する。存在すれば上述のステップ5−4で指定した番号の、次に小さい番号の付いた画素を基準点として(ステップ5−5c)ステップ5−5に戻る。この隣接点の評価を全ての処理済拡張点で満たさなくなるまで行い、領域拡張の手順を終了する。ステップ5−5bで、未処理の画素が存在しなければステップ6に進む。
【0088】
図4に戻り、空間充填材の信号除去の手順を続ける。次にパラメータが最適であるかどうかを評価する(ステップ6)。
【0089】
この評価は実際に抽出処理を行った後、いくつかの連続したスライスを同時に表示させたり、抽出結果から実際に3次元像を作ることにより行う。オペレーターは抽出結果を見て、目的領域に合わない場合にはパラメーターa,bを変更し、再度抽出処理を行なう。
【0090】
また、抽出領域が目的領域から大きく溢れてしまった場合、オペレーターがモニタ画面上で、抽出結果の溢れ領域上の1点を指定することにより、その点を開始点として逆リージョングローイングを行ない、溢れ領域を除去する。尚、逆リージョングローイング法は下記の文献を参照(リージョングローイング法による南部組織の抽出と3次元表示.佐野、及川、磯部(株)日立製作所システム開発研究所、Medical Imaging Technology, Vol. 12, No. 4, 379-383 (1994))
上述のステップ6までで得た処理状況マップの処理状況値が0でない画素に1を入カし、これをファントム除去のマスクとして撮影画像にかける(ステップ7)。抽出領域から信号を除去することにより、空間充填材の信号を取り除く。
【0091】
次に、微細な構造を確認するために、対象画像コントラストの再調整を行う(ステップ8)。
【0092】
以上のように、空間充填体401の信号部分を除去し、画像のコントラストを改善する。なお、空間充填体401の入れ替えが不要であるため、同スライスであれば、各シーケンスでの位置は変わらないので、ステップ7で使用した処理状況マップは、そのまま他のシーケンスにも有効である。このため、同スライスならば他のシーケンスに対しても同じ処理状況マップを積算することができる。
【0093】
これにより、1シーケンスの撮影結果表示画面上の1点を指定する事により、全シーケンス、全スライスから目的領域の抽出が可能になり、作業の短縮が可能になる。
【0094】
以上のように構成した本発明の第1の実施形態によれば、被検体の両脚部の間に空間充填材として、70〜150mMの塩化ニッケルを充填することにより、水・脂肪分離撮影時における、被検体の両脚部に間隔が生じていることから発生する位相のずれによるアーチファクトを抑制することができ、また水・脂肪分離撮影以外の複数のシーケンスを同時に行う場合でも、被検体をシーケンス毎に出し入れすることなく短い撮影時間で、空間充填材からの高信号によるコントラストの低下を抑制し、高精度な画像を得ることができる。
【0095】
また、この場合に、シーケンスによっては、コントラストの悪化しているシーケンスについては、空間充填体401の除去プログラムを実施することにより、空間充填体401の信号を除去し、被検体のコントラストを上げることができる。
【0096】
次に本発明の第2の実施形態を図13〜14により説明する。
【0097】
本発明の第2の実施形態は第1の実施形態のステップ5において2次元方向に行った領域拡張を3次元方向に拡張した方法に適用するものである。
【0098】
図13はこの3次元的領域拡張法を行なう場合のフローチャートを示す図であり、図14は領域拡張を3次元方向に行う場合の基準点と拡張点の位置を示す図である。
【0099】
図13,14において、領域拡大を3次元方向で行なう場合には、領域拡張における基準点を1301とした時、拡張点を基準点の周囲の6点1302〜1307とする。
【0100】
領域拡張を3次元的に行なう場合には、第1の実施形態のステップ4のように、どのスライスでも空間充填体の存在する領域を指定する必要が無く、空間充填体の領域ならばどこでもよいので、作業が簡略化できる。
【0101】
尚、図14では拡張点を最近接の6点としたが、より多くの点からなる大きな領域を拡張点としても良い。
【0102】
以上のように構成した本発明の第2の実施形態においても、第1の実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0103】
次に、本発明の第3の実施形態を図15により説明する。
【0104】
本発明の第3の実施形態は第1の実施形態のステップ4において、開始点を自動で抽出するものとする。
【0105】
空間充填体401はMR信号を発する濃度均一の物質であるので、空間充填体401領域の信号値は被検体の信号値に比べて標準偏差が小さくなる。そこで、第1の実施形態のステップ4において、図15に示したように、撮影した画像を小さな区画に分割し、小区画の中で高い信号強度を示し、かつ標準偏差の最も低い区画を領域拡張の開始点とする。
【0106】
これにより、オペレータが空間充填体401の領域を指定しなくても、自動的に空間充填体401の領域を除去できる。
【0107】
以上のように構成した本発明の第3の実施形態においても、第1の実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0108】
次に本発明の第4の実施形態を説明する。
【0109】
本発明の第1の実施形態のステップ1、2において、空間充填体401を使用する代わりに、キネマティック撮影時の補助装置としたものである。
【0110】
これにより、キネマティック撮影時に撮影した画像から、本発明の第1の実施形態による空間充填材の除去方法と同様の方法により補助装置の信号を除去することにより、被検体の明瞭な画像が得ることができる。
【0111】
以上のように構成した本発明の第4の実施形態においても、第1の実施形態と同様の効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0112】
【図1】本発明が適用されるMRI装置の概略構成図である。
【図2】108mMの塩化ニッケルを入れた空間充填材を示す図である。
【図3】空間充填材を使用して水脂肪分離T1水強調撮影条件で下肢を撮影した一例を示す図である。
【図4】本発明の第1の実施形態の適用対象である空間充填材の信号除去フローチャートである。
【図5】処理対象となる画像を示す図である。
【図6】図5と同じ画素数を持つ処理状況マップを示す図である。
【図7】空間充填材領域のサークルによる指定の説明図である。
【図8】局所的・大域的な信号強度変化による領域拡張の制限の説明図である。
【図9】領域拡張法フローチャートである。
【図10】図7の領域702の拡大図である。
【図11】処理状況マップを示す図である。
【図12】処理状況マップを示す図である。
【図13】領域拡張を3次元で行なう場合のフローチャートである。
【図14】3次元空間における隣接点を示す図である。
【図15】領域拡張の開始点決定の為の撮影画像の分割を示す図である。
【符号の説明】
【0113】
101 被検体
102 静磁場磁石
103 傾斜磁場コイル
104 RFコイル
105 RFプローブ
106 信号検出部
107 信号処理部
108 表示部
109 傾斜磁場電源
110 RF送信部
111 制御部
112 ベッド
113 画像処理部
401 空間充填体
501,502 被検体の両脚部
503 空間充填材
504 撮影した画像
505 処理状況マップ
701 信号を除去したい領域の基準にするサークル
801 撮影画像での901の位置に対応する開始点
802〜805 撮影画像での902〜905の位置に対応する拡張点
901 開始点
902〜905 拡張点
1001 基準点
1002〜1004 拡張点
1101,1102 被検体の両脚部
1103 空間充填材
1301 3次元での基準点
1302〜1307 3次元での拡張点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁気共鳴イメージング装置による水・脂肪分離画像撮影時に、被検体の分離部位間に設置され、MR信号を発する物質が充填された空間充填体において、
物質は、70〜150mMの塩化ニッケルであることを特徴とする空間充填体。
【請求項2】
請求項1記載の空間充填体において、空間充填体の充填材収容部の材質に柔軟な材質を使用することを特徴とする空間充填体。
【請求項3】
静磁場発生手段と、被検体に傾斜磁場及び高周波磁場を印加する磁場印加手段と、被検体からの核磁気共鳴信号を受信する受信手段と、この受信手段により受信された核磁気共鳴信号に基づき、被検体の断層画像を再構成する演算処理手段と、この再構成された断層画像を表示する画像表示手段と、上記静磁場発生手段、磁場印加手段及び受信手段の動作を制御する制御手段とを備える磁気共鳴イメージング装置において、
上記演算処理手段は、空間充填体と共に被検体を撮影して取得した画像を用いて、上記被検体の水・脂肪分離画像を求めることを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項4】
請求項3記載の磁気共鳴イメージング装置において、上記演算処理手段は、上記画像表示手段上に少なくとも1点を指定することにより、この点を含む画像表示手段上に表示された上記空間充填体の領域を除去することを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項5】
請求項4記載の磁気共鳴イメージング装置において、上記演算処理手段は、上記画像表示手段上に表示されたマルチスライスの1スライス上の1点を指定する事により、この点を含む画像表示手段上に表示された上記空間充填体の領域をマルチスライスの全スライスで除去することを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項6】
請求項4記載の磁気共鳴イメージング装置において、上記演算処理手段は、空間充填体と共に撮影された被検体画像が複数取得された場合に、一の画像における上記空間充填体領域の除去を、他の画像にも適用して空間充填体領域の除去を行なうことを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項7】
請求項4記載の磁気共鳴イメージング装置において、上記演算処理手段は、上記空間充填体の領域を抽出するために3次元領域拡張法を用いることを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項8】
請求項4記載の磁気共鳴イメージング装置において、上記演算処理手段は、上記画像表示手段に表示された画像の局所的な信号強度、標準偏差により、上記空間充填体の領域を自動判別することを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項9】
静磁場に配置された被検体に、傾斜磁場及び高周波磁場を印加し、被検体から発生された核磁気共鳴信号に基づき、被検体の断層画像を再構成し、表示する磁気共鳴イメージング方法において、
水・脂肪分離画像撮影時に、70〜150mMの塩化ニッケルが充填された空間充填体を、被検体の互いに分離した部位間に配置し、これら互いに分離した部位を撮影することを特徴とする磁気共鳴イメージング方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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