説明

磁気共鳴イメージング装置

【課題】シネ撮影において収集されるエコー信号間の位相シフトが低減されるような位相エンコードスケジューリングを行ってイメージングを行うことにより画像のアーチファクトを低減することが可能な磁気共鳴イメージング装置を提供することである。
【解決手段】磁気共鳴イメージング装置は、k空間(K-SPACE)を複数のセグメント(SEGMENT)に分割し、セグメント(SEGMENT)ごとの被検体の複数の時相(#1, #2, #3, …)に対応する磁気共鳴信号(ECHO SIGNAL)を、拍動を表す信号(ECG)に同期して収集するデータ収集手段と、各時相(#1, #2, #3, …)に対応して連続的に収集される複数の磁気共鳴信号(ECHO DATA SET)を収集するために時相ごとに印加される位相エンコード量(Ky)の変化を、隣接する時相間において対称に設定するエンコードスケジューリング手段とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被検体の原子核スピンをラーモア周波数の高周波(RF: radio frequency)信号で磁気的に励起し、この励起に伴って発生する核磁気共鳴(NMR:nuclear magnetic resonance)信号から画像を再構成する磁気共鳴イメージング(MRI: Magnetic Resonance Imaging)装置に係り、特に、アーチファクトの低減されたシネ画像を提供することが可能な磁気共鳴イメージング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気共鳴イメージングは、静磁場中に置かれた被検体の原子核スピンをラーモア周波数のRF信号で磁気的に励起し、この励起に伴って発生するNMR信号から画像を再構成する撮像法である。
【0003】
従来、この磁気共鳴イメージングを利用して心臓等の部位におけるシネ撮像が行われている。従来の心臓のシネ撮像は、患者が10秒程度の息止めをしている間に心電(ECG: electro cardiogram)同期で2次元(2D: two-dimensional)撮影を行うというものである。また、シネ撮像においてしばしば使用されるパルスシーケンスはセグメント化された(segmented)グラディエント・エコー(GE: gradient echo)シーケンス、特に定常自由歳差運動(SSFP: Steady-state Free Precession)シーケンスである。
【0004】
segmented GEシーケンスでは、セグメント化された一連の位相エンコードブロックが数10ミリ秒のデータ収集時間で行われる。そして、位相エンコードブロックによる収集は毎心拍内で複数回繰り返される。さらに、心拍が変わる度にエンコードされる位相が変更されることで、心臓の動きを反映したエコー信号を収集することができる(例えば非特許文献1および非特許文献2参照)。
【0005】
図1は従来のシネ撮像における位相エンコードスケジュールを示す図である。
【0006】
図1において横軸は心時相(時間)を、ECGはECG信号を、ECHOはエコーデータの収集タイミングを、Kyはk空間における位相エンコード方向を、それぞれ示す。
【0007】
図1に示すように1心拍内で複数時相分のエコーデータセット(#1, #2, H3, …)が収集される。また、各時相におけるエコーデータセットは異なる位相エンコード量を有する複数のエコー信号でそれぞれ構成されている。図1に示す位相エンコードスケジュールにおいて特徴的なのは、各時相における位相エンコード量の印加パターンが同じであるということである。図1に示す位相エンコード量の印加パターンはシーケンシャル分割という名称で知られている。
【0008】
また、segmented GEシーケンスを用いたシネ撮影において別のセグメント分割方法も考案されているが各時相における位相エンコード量の印加パターンは時相間において同じである(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第3684513号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Dennis J. Atkinson et al., “Cineangiography of the Heart in a Single Breath Hold with a Segmented TurboFLASH Sequence” Radiology, volume 178 number 2, pp 357-360, February 1991.
【非特許文献2】Thomas K. F. Foo et al., “Improved Ejection Fraction and Flow Velocity Estimates with Use of View Sharing and Uniform Repetition Time Excitation with Fast Cardiac Techniques” Radiology, volume 195 number 2, pp 471-478, May 1995.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
一般に、SSFPシーケンスも含むGEシーケンスにおいて、位相エンコードパルスはエコー信号の収集前に印加される。そして、エコー信号の収集後に位相エンコードパルスと逆極性のリワインドパルスが印加される。
【0012】
しかしながら、逆極性の位相エンコードパルスとリワインドパルスとのパルスペアによって、流れるスピンには位相シフトエラーが発生することが知られている。加えて、位相エンコードパルスおよびリワインドパルスによって渦電流が生じ、渦電流の影響によってもスピンの位相シフトエラーが生じる。そして、このような位相シフトエラーは位相エンコード量に比例している。
【0013】
したがって、図1に示すような従来の位相エンコードスケジュールによるシネ撮像のように位相エンコード量の印加パターンが時相間において同一である場合には、ある時相における最後の位相エンコードの強度と、次の時相における最初の位相エンコードの強度との間に大きな差が発生する。このため、第n時相において最後に収集されるエコー信号と第(n+1)時相において最初に収集されるエコー信号との間に、位相エラーのギャップが生じることになる。また、上述のsegmented GEシーケンスを用いた別のセグメント分割方法を用いる場合には、各時相において収集されるエコー信号間で位相エラーのギャップが発生する。
【0014】
そして、このような位相エラーが発生したエコー信号に基づいてシネ画像を生成すると、各時相に対応する画像データにゴースト等のアーチファクトが生じるという問題がある。
【0015】
本発明はかかる従来の事情に対処するためになされたものであり、シネ撮影において収集されるエコー信号間の位相シフトが低減されるような位相エンコードスケジューリングを行ってイメージングを行うことにより画像のアーチファクトを低減することが可能な磁気共鳴イメージング装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明に係る磁気共鳴イメージング装置は、上述の目的を達成するために、k空間を複数のセグメントに分割し、セグメントごとの被検体の複数の時相に対応する磁気共鳴信号を、拍動を表す信号に同期して収集するデータ収集手段と、各時相に対応して連続的に収集される複数の磁気共鳴信号を収集するために時相ごとに印加される位相エンコード量の変化を、隣接する時相間において対称に設定するエンコードスケジューリング手段とを備えるものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る磁気共鳴イメージング装置においては、シネ撮影において収集されるエコー信号間の位相シフトが低減されるような位相エンコードスケジューリングを行ってイメージングを行うことにより画像のアーチファクトを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】従来のシネ撮像における位相エンコードスケジュールを示す図。
【図2】本発明に係る磁気共鳴イメージング装置の実施の形態を示す構成図。
【図3】図1に示すコンピュータの機能ブロック図。
【図4】図3に示すコンピュータのエンコードスケジューリング部においてスケジューリングされる位相エンコードの印加パターンの第1の例を示す図。
【図5】図3に示すコンピュータの撮像条件設定部において設定されるSSFPシーケンスの一例を示す図。
【図6】図3に示すコンピュータのエンコードスケジューリング部においてスケジューリングされる位相エンコードの印加パターンの第2の例を示す図。
【図7】図3に示すコンピュータのエンコードスケジューリング部においてスケジューリングされる位相エンコードの印加パターンの第3の例を示す図。
【図8】図1に示す磁気共鳴イメージング装置によりシネ撮像を行う際の流れを示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明に係る磁気共鳴イメージング装置の実施の形態について添付図面を参照して説明する。
【0020】
(構成および機能)
図2は本発明に係る磁気共鳴イメージング装置の実施の形態を示す構成図である。
【0021】
磁気共鳴イメージング装置20は、静磁場を形成する筒状の静磁場用磁石21と、この静磁場用磁石21の内部に設けられたシムコイル22、傾斜磁場コイル23およびRFコイル24とを図示しないガントリに内蔵した構成である。
【0022】
また、磁気共鳴イメージング装置20には、制御系25が備えられる。制御系25は、静磁場電源26、傾斜磁場電源27、シムコイル電源28、送信器29、受信器30、シーケンスコントローラ31およびコンピュータ32を具備している。制御系25の傾斜磁場電源27は、X軸傾斜磁場電源27x、Y軸傾斜磁場電源27yおよびZ軸傾斜磁場電源27zで構成される。また、コンピュータ32には、入力装置33、表示装置34、演算装置35および記憶装置36が備えられる。
【0023】
静磁場用磁石21は静磁場電源26と接続され、静磁場電源26から供給された電流により撮像領域に静磁場を形成させる機能を有する。尚、静磁場用磁石21は超伝導コイルで構成される場合が多く、励磁の際に静磁場電源26と接続されて電流が供給されるが、一旦励磁された後は非接続状態とされるのが一般的である。また、静磁場用磁石21を永久磁石で構成し、静磁場電源26が設けられない場合もある。
【0024】
また、静磁場用磁石21の内側には、同軸上に筒状のシムコイル22が設けられる。シムコイル22はシムコイル電源28と接続され、シムコイル電源28からシムコイル22に電流が供給されて静磁場が均一化されるように構成される。
【0025】
傾斜磁場コイル23は、X軸傾斜磁場コイル23x、Y軸傾斜磁場コイル23yおよびZ軸傾斜磁場コイル23zで構成され、静磁場用磁石21の内部において筒状に形成される。傾斜磁場コイル23の内側には寝台37が設けられて撮像領域とされ、寝台37には被検体Pがセットされる。RFコイル24はガントリに内蔵されず、寝台37や被検体P近傍に設けられる場合もある。
【0026】
また、傾斜磁場コイル23は、傾斜磁場電源27と接続される。傾斜磁場コイル23のX軸傾斜磁場コイル23x、Y軸傾斜磁場コイル23yおよびZ軸傾斜磁場コイル23zはそれぞれ、傾斜磁場電源27のX軸傾斜磁場電源27x、Y軸傾斜磁場電源27yおよびZ軸傾斜磁場電源27zと接続される。
【0027】
そして、X軸傾斜磁場電源27x、Y軸傾斜磁場電源27yおよびZ軸傾斜磁場電源27zからそれぞれX軸傾斜磁場コイル23x、Y軸傾斜磁場コイル23yおよびZ軸傾斜磁場コイル23zに供給された電流により、撮像領域にそれぞれX軸方向の傾斜磁場Gx、Y軸方向の傾斜磁場Gy、Z軸方向の傾斜磁場Gzを形成することができるように構成される。
【0028】
RFコイル24は、送信器29および受信器30と接続される。RFコイル24は、送信器29からRF信号を受けて被検体Pに送信する機能と、被検体P内部の原子核スピンのRF信号による励起に伴って発生したNMR信号を受信して受信器30に与える機能を有する。
【0029】
一方、制御系25のシーケンスコントローラ31は、傾斜磁場電源27、送信器29および受信器30と接続される。シーケンスコントローラ31は傾斜磁場電源27、送信器29および受信器30を駆動させるために必要な制御情報、例えば傾斜磁場電源27に印加すべきパルス電流の強度や印加時間、印加タイミング等の動作制御情報を記述したシーケンス情報を記憶する機能と、記憶した所定のシーケンスに従って傾斜磁場電源27、送信器29および受信器30を駆動させることによりX軸傾斜磁場Gx、Y軸傾斜磁場Gy,Z軸傾斜磁場GzおよびRF信号を発生させる機能を有する。
【0030】
また、シーケンスコントローラ31は、受信器30におけるNMR信号の検波およびA/D (analog to digital)変換により得られた複素データである生データ(raw data)を受けてコンピュータ32に与えるように構成される。
【0031】
このため、送信器29には、シーケンスコントローラ31から受けた制御情報に基づいてRF信号をRFコイル24に与える機能が備えられる一方、受信器30には、RFコイル24から受けたNMR信号を検波して所要の信号処理を実行するとともにA/D変換することにより、デジタル化された複素データである生データを生成する機能と生成した生データをシーケンスコントローラ31に与える機能とが備えられる。
【0032】
さらに、磁気共鳴イメージング装置20には、被検体PのECG信号を取得するECGユニット38が備えられる。ECGユニット38により取得されたECG信号はシーケンスコントローラ31を介してコンピュータ32に出力されるように構成される。
【0033】
尚、拍動を心拍情報として表すECG信号の代わりに拍動を脈波情報として表す脈波同期(PPG: peripheral pulse gating)信号を取得することもできる。PPG信号は、例えば指先の脈波を光信号として検出した信号である。PPG信号を取得する場合には、PPG信号検出ユニットが設けられる。以下、ECG信号を取得する場合について述べる。
【0034】
また、コンピュータ32の記憶装置36に保存されたプログラムを演算装置35で実行することにより、コンピュータ32には各種機能が備えられる。ただし、プログラムによらず、各種機能を有する特定の回路を磁気共鳴イメージング装置20に設けてもよい。
【0035】
図3は、図1に示すコンピュータ32の機能ブロック図である。
【0036】
コンピュータ32は、プログラムにより撮像条件設定部40、シーケンスコントローラ制御部41、k空間データベース42、画像再構成部43、画像データベース44および画像処理部45として機能する。また、撮像条件設定部40は、エンコードスケジューリング部46を有する。
【0037】
撮像条件設定部40は、入力装置33からの指示情報に基づいてパルスシーケンスおよび位相エンコードのスケジュールを含むシネ撮像用の撮像条件を設定し、設定した撮像条件をシーケンスコントローラ制御部41に与える機能を有する。シネ撮像用のパルスシーケンスとしては、ECG同期下におけるsegmented GEシーケンスが挙げられる。GEシーケンスには、SSFPシーケンスの他、FFE (fast field echo)シーケンス、FLASH (fast low angle shot)シーケンス、FISP (fast imaging with steady-state precession)シーケンス、PSIF (time reversed FISP)シーケンス、PROPELLER (Periodically Rotated Overlapping ParallEL Lines with Enhanced Reconstruction)がある。
【0038】
segmented シーケンスは、セグメントk-space法(segment k-space method)によるシーケンスであり、セグメントk-space法は、k空間(周波数空間;フーリエ空間とも言う)をいくつかの領域に分割することによってセグメント化し、セグメントごとに順次k空間データを取り込んでいく高速データ収集法である。
【0039】
撮像条件設定部40のエンコードスケジューリング部46は、ECG同期シネ撮像用のパルスシーケンスにおいて隣接する時相に対応する位相エンコードの印加パターンを互に線対称形となるように設定する機能を有する。
【0040】
図4は、図3に示すコンピュータ32のエンコードスケジューリング部46においてスケジューリングされる位相エンコードの印加パターンの第1の例を示す図である。
【0041】
図4において、ECGはECG信号を、ECHOはエコーデータの収集タイミングを、K-SPACEは心時相#1において収集されるエコー信号のk空間上における配置を示す。また、ECHOのKyはエコー信号を収集するために印加される位相エンコード量を示し、K-SPACEのKyおよびKxはそれぞれ位相エンコード(PE: phase encode)方向および読出し(RO: readout)方向を示す。
【0042】
図4に示すように異なる心時相に対応する時系列のエコー信号を収集するために、ECG信号のR波等の心時相を表す信号に同期して任意のsegmented GEシーケンスが撮像条件として設定される。すなわち、1心拍内で複数時相分のセグメント化されたエコーデータセット(#1, #2, #3, …)が収集される。各時相におけるエコーデータセット(#1, #2, H3, …)は、それぞれ数10ミリ秒のデータ収集時間で収集される。各エコーデータセットは、1つの時相に対応して連続的に収集される複数のエコー信号で構成される。一方、k空間は複数のセグメントに分割される。そして、エコーデータセットを構成する各エコー信号は、k空間のセグメントに対応する異なる位相エンコード量で収集される。換言すれば、セグメントごとにエコー信号が収集されるように位相エンコード量が決定される。
【0043】
より具体的には、ある心拍内の各エコーデータセットでは、それぞれ異なるセグメント内におけるある位置のエコー信号が収集され、別の心拍内の各エコーデータセットではそれぞれ異なるセグメント内における別の位置のエコー信号が収集される。図4には、インターリーブされたシーケンシャル分割によるセグメント分割方法の例が示されている。すなわち、高周波領域側のセグメントから低周波領域側のセグメントに向かってエコー信号が順次収集された後、逆極性の高周波領域側のセグメントに向かってエコー信号が順次収集されるようにPEパルスおよびリワインドパルスのパルスペアが印加される。
【0044】
ただし、図4に示すように、隣接する心時相に対応するエコーデータセットを収集するために印加される位相エンコード量の時間変化が、互いに線対称となるように設定される。すなわち、n+1番目の心時相に対応するエコーデータセットを収集するために印加される位相エンコードの順序がn番目の心時相に対応するエコーデータセットを収集するために印加される位相エンコードの順序の逆となっている。
【0045】
例えば、R波の直後の心時相に対応するエコーデータセットを収集するために印加される位相エンコード量は、心時相方向に直線的に増加している。これに対して、次の心時相に対応するエコーデータセットを収集するために印加される位相エンコード量は心時相方向に直線的に減少している。
【0046】
このように、位相エンコードパルスの印加順序が隣接するエコーデータセットの収集ブロック間において互いに逆となるようにエンコードスケジューリングされると、n番目の心時相に対応するエコーデータセットの最後のエコー信号とn+1番目の心時相に対応するエコーデータセットの最初のエコー信号は、それぞれ同一の位相エンコード量で収集されることとなる。従って、n番目の心時相に対応する最後のエコー信号とn+1番目の心時相に対応する最初のエコー信号との間では、逆極性の位相エンコードパルスとリワインドパルスとのパルスペアの印加に起因する位相シフトのギャップが、位相エンコードパルスの印加パターンを同一にした従来のエンコードスケジュールに比べて小さくなる。
【0047】
この結果、エコーデータセット間における位相シフトのギャップに起因するゴースト等のアーチファクトを低減することができる。特に、n番目の心時相に対応するエコーデータセットの一部を構成するエコー信号とn+1番目の心時相に対応するエコーデータセットの一部を構成するエコー信号とを用いていわゆるエコーシェア再構成(あるいはビューシェア再構成)を行って画像データを生成する場合には、ゴースト等のアーチファクトの低減効果をより良好に得ることができる。
【0048】
そして、このようなエンコードスケジューリングによって設定された位相エンコード量でエコーデータを収集するためのECG同期segmented GEシーケンスが撮像条件設定部40において撮像条件として設定される。
【0049】
図5は、図3に示すコンピュータ32の撮像条件設定部40において設定されるSSFPシーケンスの一例を示す図である。
【0050】
図5において、横軸は時間を、ECGはECG信号を、RFはRFパルスを、Gssはスライス選択(SS: slice selection)用傾斜磁場パルスを、GpeはPE用傾斜磁場パルスを、GroはRO用傾斜磁場パルスを、それぞれ示す。
【0051】
図5に示すように、SSFPシーケンスは、同一の励起角度でRF励起パルスを一定かつ短い繰り返し時間(TR: repetition time)で印加し、磁化を定常状態にすばやく至らしめるものである。1つの心時相に対応するエコーデータセットは、R波に同期して収集される。そして、R波間において複数の心時相分のエコーデータセットが収集される。ただし、n番目の心時相に対応するエコーデータセットを収集するためのエンコード量が異なる複数のPEパルスとリワインドパルスのパルスペアの印加順序は、n+1番目の心時相に対応するエコーデータセットを収集するためのパルスペアの印加順序と逆に設定される。他のGEシーケンスを用いる場合も同様にパルスペアの印加順序が心時相ごとに交互に設定される。
【0052】
図6は、図3に示すコンピュータ32のエンコードスケジューリング部46においてスケジューリングされる位相エンコードの印加パターンの第2の例を示す図である。
【0053】
図6において、ECGはECG信号を、ECHOはエコーデータの収集タイミングを、K-SPACEは心時相#1において収集されるエコー信号のk空間上における配置を示す。また、ECHOのKyはエコー信号を収集するために印加される位相エンコード量を示し、K-SPACEのKyおよびKxはそれぞれPE方向およびRO方向を示す。
【0054】
図6に示す位相エンコードスケジュールは、k空間に対してインターリーブの無いシーケンシャル分割を行う場合の例を示している。すなわち、1つの心時相に対応するエコーデータセットは、同一のセグメント内における複数のエコー信号で構成される。そして、異なる心時相に対応するエコーデータセットでは、異なるセグメント内におけるエコー信号が収集される。
【0055】
インターリーブの無いシーケンシャル分割を行う場合にもn番目の心時相に対応するエコーデータセットを収集するためのエンコード量が異なる複数のPEパルスとリワインドパルスのパルスペアの印加順序は、n+1番目の心時相に対応するエコーデータセットを収集するためのパルスペアの印加順序と逆に設定される。
【0056】
このため、n番目の心時相に対応するエコーデータセットとn+1番目の心時相に対応するエコーデータセットとの間において位相エラーのギャップを小さくすることができる。さらに、インターリーブの無いシーケンシャル分割を行う場合には、位相エンコード量の変化が小さい共通のセグメント内における複数のエコー信号が各心時相において収集される。従って、1つの心時相に対応するエコーデータセット内における位相エンコード量の時間変化を、より小さくすることができる。
【0057】
つまり、インターリーブの無いシーケンシャル分割を行うと、PEパルスおよびリワインドパルスのパルスペアによる心時相間における位相シフトのギャップを低減できるのみならず、各心時相内における位相エラーの時間変化も小さくすることができる。このため、位相シフトの影響をより低減させ、位相エラーの差によるアーチファクトの発生を一層低減させることができる。
【0058】
尚、インターリーブの無いシーケンシャル分割法においてSSFPシーケンスによるデータ収集を行うと、より位相シフトの影響の小さいシネ画像を得ることができる。その理由は、SSFPシーケンスによるスキャンでは、各TRで発生する位相シフト量の変化が一定である程SSFP状態が安定し、ゴースト等のアーチファクトの発生原因となるスピンの振動が低減されるからである。
【0059】
図7は、図3に示すコンピュータ32のエンコードスケジューリング部46においてスケジューリングされる位相エンコードの印加パターンの第3の例を示す図である。
【0060】
図7において、ECGはECG信号を、ECHOはエコーデータの収集タイミングを、K-SPACEは心時相#1において収集されるエコー信号のk空間上における配置を示す。また、ECHOのKpeはエコー信号を収集するために印加される位相エンコード量の絶対値を示し、K-SPACEのKyおよびKxはそれぞれk空間上の位置を示す。
【0061】
図7には、k空間における複数のデータ収集軌跡で構成されるブレード(blade)と呼ばれる帯状領域をk空間中心を中心として回転させることによりk空間上のデータを充填するradial scan用のPROPELLERシーケンスを用いたデータ収集の例を示している。
【0062】
PROPELLERシーケンスを用いたデータ収集では、同一の心拍内において同一のブレード内におけるエコー信号が複数の心時相に対応して繰り返し収集される。すなわち、異なるブレード内におけるエコー信号は、異なる心拍内において収集される。そして、収集された各心時相のエコー信号に対してグリッディング処理を行って直交座標の格子点上におけるエコー信号を作成し、作成したエコー信号の画像再構成処理によってシネ画像データを生成することができる。
【0063】
PROPELLERシーケンスの場合、位相エンコード量は、ブレードごとに異なるKx成分およびKy成分を有するベクトル量となるが、位相エンコード量の絶対値Kpeはブレード間で共通となる。そして、心時相ごとに印加される位相エンコード量の絶対値Kpeの印加パターンが、隣接する心時相間で線対称となるように設定される。
【0064】
このため、図7に示すようにエンコードスケジューリングされたPROPELLERシーケンスにてデータ収集を行えば、エコーデータセット間における位相シフトのギャップを低減させることにより、画像アーチファクトの低減効果を得ることができる。また、PROPELLERシーケンスでは、位相エンコード量の変化が小さい共通のセグメント内における複数のエコー信号が各心時相において収集される。従って、1つの心時相に対応するエコーデータセット内における位相エンコード量の時間変化を、より小さくすることができる。
【0065】
加えて、PROPELLERシーケンスによるデータ収集のようにk空間の中心付近におけるエコー信号が繰り返しサンプリングされる場合には、動きの影響が相殺され易いことが知られている。このため、より良好なアーチファクトの低減効果を得ることが期待できる。
【0066】
次に、コンピュータ32の他の機能について説明する。
【0067】
シーケンスコントローラ制御部41は、入力装置33からのスキャン開始指示情報に基づいて、撮像条件設定部40から取得したパルスシーケンスを含む撮影条件をシーケンスコントローラ31に与えることにより駆動制御させる機能を有する。また、シーケンスコントローラ制御部40は、シーケンスコントローラ31から生データを受けてk空間データベース42に形成されたk空間に配置する機能を有する。このため、k空間データベース42には、シネ画像データの生成用に収集された複数の心時相に対応する生データがk空間データとして保存される。
【0068】
画像再構成部43は、k空間データベース42からk空間データを取り込んでフーリエ変換(FT: Fourier transformation)を含む画像再構成処理を施すことにより画像データを再構成する機能と、再構成して得られた画像データを画像データベース44に書き込む機能を有する。このため、画像データベース44には各心時相に対応する画像データが保存される。
【0069】
画像処理部45は、画像データベース44から画像データを取り込んで必要な画像処理を行って表示用のシネ画像データを生成する機能と、生成したシネ画像データを表示装置34に表示させる機能を有する。
【0070】
(動作および作用)
次に磁気共鳴イメージング装置20の動作および作用について説明する。
【0071】
図8は、図1に示す磁気共鳴イメージング装置20によりシネ撮像を行う際の流れを示すフローチャートであり、図中Sに数字を付した符号はフローチャートの各ステップを示す。
【0072】
まず、ステップS1において、撮像条件設定部40のエンコードスケジューリング部46においてECG同期シネ撮像用のパルスシーケンスのエンコードスケジューリングが行われる。具体的には、図4、図6または図7に示すように心時相に対応するPEパルスの印加パターンが隣接する心時相に対応するエコーデータセット間において線対称となるように位相エンコードがスケジュールされる。
【0073】
次に、ステップS2において、位相エンコードスケジュールに従った位相エンコード量でエコーデータセットが収集されるようなECG同期シネ撮像用のsegmented GEシーケンスが撮像条件設定部40において撮像条件として設定される。例えば、図5に示すようなSSFPシーケンスが設定される。
【0074】
次に、ステップS3において、設定された撮像条件に従ってECG同期シネ撮像が実行される。
【0075】
そのために予め寝台37に被検体Pがセットされ、静磁場電源26により励磁された静磁場用磁石21(超伝導磁石)の撮像領域に静磁場が形成される。また、シムコイル電源28からシムコイル22に電流が供給されて撮像領域に形成された静磁場が均一化される。
【0076】
そして、入力装置33からシーケンスコントローラ制御部41にシネ撮像の開始指示が与えられると、シーケンスコントローラ制御部41は撮像条件設定部40からECG同期segmented GEシーケンスを含む撮像条件を取得してシーケンスコントローラ31に与える。シーケンスコントローラ31は、シーケンスコントローラ制御部41から受けたECG同期segmented GEシーケンスおよびECGユニット38から取得したECG信号に基づいてECG同期下で傾斜磁場電源27、送信器29および受信器30を駆動させることにより被検体Pがセットされた撮像領域に傾斜磁場を形成させるとともに、RFコイル24からRF信号を発生させる。
【0077】
このため、被検体Pの内部における核磁気共鳴により生じたNMR信号が、RFコイル24により受信されて受信器30に与えられる。受信器30は、RFコイル24からNMR信号を受けて、所要の信号処理を実行した後、A/D変換することにより、デジタルデータのNMR信号である生データを生成する。受信器30は、生成した生データをシーケンスコントローラ31に与える。シーケンスコントローラ31は、生データをシーケンスコントローラ制御部41に与え、シーケンスコントローラ制御部41はk空間データベース42に形成されたk空間に生データを配置する。
【0078】
この生データの収集および配置は、心時相ごとおよびセグメントごとに順次行われるため、最終的に複数の心時相に対応するk空間データが収集されてk空間データベース42に保存される。
【0079】
次に、ステップS4において、収集されたk空間データを用いてシネ画像データが生成される。すなわち、画像再構成部43は、k空間データベース42からk空間データを取り込んで画像再構成処理を施すことにより画像データを再構成する。画像データは画像データベース44に書き込まれて保存される。次に、画像処理部45は、画像データベース44から画像データを取り込んで必要な画像処理を行って表示用のシネ画像データを生成する。そして、生成されたシネ画像が表示装置34に表示される。
【0080】
ここで、表示装置34に表示されるシネ画像は、位相エンコードパルスやリワインドパルスの印加に起因する位相シフトのギャップが低減されるように収集されたエコー信号がから生成されているため、ゴースト等のアーチファクトが低減されたシネ画像となる。このため、ユーザはより良好な画質のシネ画像を診断用に取得することができる。
【0081】
尚、上述したシネ撮像は、データ収集時にリアルタイムでシネ画像を表示させるProspectiveなシネ撮像であってもデータ収集後における後処理によってシネ画像を生成して表示させるRetrospectiveなシネ撮像であってもよい。
【0082】
つまり以上のような磁気共鳴イメージング装置20は、ECG信号等の拍動を示す信号に同期して心臓等の部位におけるシネ撮像を行う場合において、隣接する時相における位相エンコードの印加パターンを互に線対称形となるように設定できるようにしたものである。
【0083】
(効果)
このため、従来のシネ撮影法では同時相内または時相間における位相エラーの変化が大きいことから画像アーチファクトが発生していたが、磁気共鳴イメージング装置20によれば時相の境界における位相シフトのギャップを低減させることによりアーチファクトの少ないシネ画像を得ることができる。
【符号の説明】
【0084】
20 磁気共鳴イメージング装置
21 静磁場用磁石
22 シムコイル
23 傾斜磁場コイル
24 RFコイル
25 制御系
26 静磁場電源
27 傾斜磁場電源
28 シムコイル電源
29 送信器
30 受信器
31 シーケンスコントローラ
32 コンピュータ
33 入力装置
34 表示装置
35 演算装置
36 記憶装置
37 寝台
38 ECGユニット
40 撮像条件設定部
41 シーケンスコントローラ制御部
42 k空間データベース
43 画像再構成部
44 画像データベース
45 画像処理部
46 エンコードスケジューリング部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
k空間を複数のセグメントに分割し、セグメントごとの被検体の複数の時相に対応する磁気共鳴信号を、拍動を表す信号に同期して収集するデータ収集手段と、
各時相に対応して連続的に収集される複数の磁気共鳴信号を収集するために時相ごとに印加される位相エンコード量の変化を、隣接する時相間において対称に設定するエンコードスケジューリング手段と、
を備える磁気共鳴イメージング装置。
【請求項2】
前記データ収集手段は、同一の励起角度で高周波励起パルスを一定の繰り返し時間で印加することによって磁化を定常状態にして前記磁気共鳴信号を収集するように構成される請求項1記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項3】
前記データ収集手段は、k空間における複数のデータ収集軌跡で構成される帯状領域を、k空間中心を中心として回転させることによりk空間上のデータを充填するデータ収集法で前記磁気共鳴信号を収集するように構成される請求項1記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項4】
前記データ収集手段は、k空間の高周波領域側のセグメントから低周波領域側のセグメントに向かって磁気共鳴信号を収集した後、逆極性の高周波領域側のセグメントに向かって磁気共鳴信号を収集するように構成される請求項1記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項5】
前記データ収集手段は、各時相において共通のセグメント内における複数の磁気共鳴信号を連続的に収集するように構成される請求項1記載の磁気共鳴イメージング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−179046(P2010−179046A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−27567(P2009−27567)
【出願日】平成21年2月9日(2009.2.9)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(594164542)東芝メディカルシステムズ株式会社 (4,066)
【Fターム(参考)】