説明

磁気共鳴イメージング装置

【課題】マルチスライス撮像やオブリーク撮像など、実際の臨床で極めて有用な機能を発揮する撮像法を、被検体の連続移動を伴う撮像においても使用可能にし、この移動撮像法の高機能化を図る。
【解決手段】本発明の磁気共鳴イメージング装置は、被検体を移動させながら当該被検体のマルチスライスne(ne=1,2,3,…)の領域を磁気的に選択励起してエコーデータを収集するスキャン手段を備える。このスキャン手段は、マルチスライスneの位置を、装置側から固定的に設定されている撮像範囲D内において、被検体の移動に応じて移動させる位置移動手段を備える。これにより、被検体の移動に応じてマルチスライスの位置も変更され、マルチスライスの位置が被検体の位置に自動的に追随する。従って、被検体を移動させながら実行可能なマルチスライス撮像法を提供できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医用の磁気共鳴イメージング(MRI)装置に係り、とくに、撮像対象である被検体を一方向に直線的に移動させながらマルチスライス撮像やオブリーク撮像を行うことができる磁気共鳴イメージング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気共鳴イメージング(MRI)は、静磁場の中に置かれた被検体の原子核スピンをそのラーモア周波数の高周波信号で磁気的に励起し、この励起に伴って発生するMR信号を使って画像を再構成するイメージング法である。
【0003】
近年、この磁気共鳴イメージングの分野において、システムからみて撮像可能な領域よりも広い視野の画像を得るために、被検体を載せた天板を連続的にその長手方向に移動させながら撮像を行う手法が提案されている。例えば、撮像可能な領域とは数センチ厚さのスライスであり、それよりも広い領域とは例えば腹部の40センチの視野を指す。
【0004】
このような撮像法の基本的な技術として、特許文献1記載のものが知られている。この特許文献1記載の磁気共鳴イメージング装置は、被検体を移動させながら撮像を行うときに、被検体の撮像したい特定の断面(シングルスライス)のスライス方向の位置に応じて選択励起用の高周波励起パルスの搬送周波数を調整する高周波発振器を備えている。
【0005】
具体的には、磁気共鳴イメージング装置の磁場強度に対応した中心周波数をf、RFパルスの搬送周波数をf+Δfとすると、被検体Pの動きに応じてΔfが変更される。一例として、寝台の天板を移動させながらアキシャル像を得ることを想定すると、変更周波数Δfは、
[数1]
Δf=(γ・Gs・V・TR)/2π [Hz]
で与えられる。ここで、γは磁気回転比、Gsはスライス方向傾斜磁場パルスの強度[T/m]、Vは天板の移動速度[m/s]、及びTRは繰返し時間[s]である。
【0006】
これにより、被検体が移動する場合に、選択励起スライスの位置を常に特定断面に継続して追尾させることができるので、被検体移動に伴ってスループットを向上させることができる。
【0007】
また別の例は、論文「AH Herlihy et al., “Continuous scanning using single shot fast spin echo on a short bore neonatal scanner,”ISMRM ´98, p.1942」に示されている。この論文記載の撮像法は、シングルショットFSE法において、選択励起の搬送周波数を天板動に連動して制御し、連続撮像する手法である。
【0008】
このシングルショットFSE法の場合の搬送周波数は、
【数2】

【0009】
に基づき制御される。ここで、Δf0は最初の励起用パルスの搬送周波数オフセット、Δf(k≧1)は第k番目のリフォーカスパルスの搬送周波数オフセット、ETSはエコー間隔[s]である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平8−71056号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、上述した従来の、被検体(実際には天板)の移動を伴うMR撮像法にあっては、被検体の動きの方向をスライス選択軸の方向に一致させた場合におけるシングルスライス又はシーケンシャルなマルチスライスの撮像法は示されているが、マルチスライス撮像やオブリーク撮像など、実際の臨床で必要とされる撮像法は未だ提案されておらず、効率的なデータ収集に拠る迅速な撮像法が確立できていない。
【0012】
また、典型的には寝台天板(即ち被検体)の一定速の動きに因って生じるアーチファクトを低減する具体的な提案はなされていない。
【0013】
そこで本発明は、マルチスライス撮像やオブリーク撮像、更には、被検体の動きに因るアーチファクト低減法など、実際の臨床で極めて有用な機能を発揮する撮像法や画質向上手法を、被検体の連続移動を伴う撮像においても使用可能にし、これにより、この移動撮像法の高機能化を図ると共に、撮像可能な領域が狭い場合であっても、これよりも大きな領域の臨床部位を高速に撮像でき、且つ、スループットを向上可能な磁気共鳴イメージング装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の磁気共鳴イメージング装置は、被検体を移動させながら被検体のマルチスライスの領域を(磁気的に)選択励起してエコーデータを収集するスキャン手段を備える。上記のスキャン手段は、1スライスを選択励起した後、当該選択励起した1スライスに対するエコーデータの収集終了までの間に他のスライスを選択励起するように構成されると共に、磁気共鳴イメージング装置側から固定的に設定されている撮像範囲内において、被検体の移動に応じてマルチスライスの位置を移動させる位置移動手段を有する。これにより、被検体を移動させながら、臨床の場で有用なマルチスライス撮像を行うことができ、データ収集効率を高めることができる。
【0015】
また、好適には、被検体を載せる天板と、この天板をその長手方向に移動させる機構とを有する寝台手段とが磁気共鳴イメージング装置に備えられる。
【0016】
さらに、好適には、上記の位置移動手段は、マルチスライスに対する選択励起のRFパルスの搬送周波数をスライス毎に変更する手段である。
【0017】
上記のスキャン手段については、1スライスに対して選択励起をした後、当該1スライスに隣接しない他のスライスに対して選択励起をする構成としてもよい。
【0018】
上記の位置移動手段については、被検体の移動方向とは異なる方向に設定されているスライス選択方向のスライスの位置を、磁気共鳴イメージング装置側から固定的に設定されている撮像範囲内において被検体の移動に応じて移動させる構成としてもよい。これにより、被検体を移動させながら、臨床の場で有用なオブリーク撮像を行うことができ、装置の利便性を高めることができる。この構成において、好適な第1の例としては、上記の位置移動手段は、選択励起を行うRFパルスの搬送周波数を被検体の移動方向とスライス選択方向との幾何学的関係に対応して変更する手段に形成される。この構成において、好適な第2の例としては、選択励起されたスライスからMR信号を収集する収集手段と、被検体の位置と傾斜磁場の方向との幾何学的関係に基づいて上記収集手段により収集されたMR信号の位相を補正する位相補正手段と、この位相補正手段により位相補正されたMR信号をMR画像に再構成する再構成手段とを磁気共鳴イメージング装置は備える。これにより、被検体が移動することに因ってスライス内で信号の位相ずれが生じ、これに因るアーチファクトが発生する事態を防止又は抑制できる。なお、スライスは、好適には、シングルスライス又はマルチスライスである。
【0019】
また、上記のスキャン手段については、マルチスライスの内の移動方向先頭に位置するスライスが撮像範囲を超えるときに、マルチスライスの移動方向後尾に別のスライスをマルチスライスの一部として追加する構成としてもよい。
【0020】
また、上記のスキャン手段については、被検体を移動させながら、プレパレーションパルスを付随させているパルスシーケンスの元で被検体の所定領域を選択励起してエコーデータを収集するスキャン手段と、プレパレーションパルスの被検体への印加位置を前記所定領域の移動に連動させる手段とを備える構成としてもよい。これにより、不要な信号抑制などを適宜に行うことができる。
【0021】
また、上記のスキャン手段については、被検体を移動させながら、所定のパルスシーケンスの元で被検体の所定領域を選択励起してMR信号を収集する手段を有し、このパルスシーケンスが、被検体の移動方向の傾斜磁場の少なくとも一部に1次又は2次以上のグラジェントモーメントナリング用の位相補償パルスを付加してなる構成としてもよい。これにより、被検体の移動に伴う信号位相の乱れを補償して、かかる位相乱れを原因とするアーチファクトの発生を防止又は抑制できる。
【0022】
また、上記のスキャン手段については、被検体を移動させながら、所定のパルスシーケンスの元で被検体の所定領域を選択励起してエコー信号を収集する手段を有し、このパルスシーケンスが、被検体の移動方向の傾斜磁場の少なくとも一部がVIPS条件を満たす高速スピンエコー系のパルスシーケンスで成る構成としてもよい。これにより、被検体の移動に伴う信号位相の乱れを補償して、かかる位相乱れを原因とするアーチファクトの発生を防止又は抑制できると共に、データ収集時間の長期化を回避できる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、マルチスライス撮像やオブリーク撮像、更には、被検体の動きに因るアーチファクト低減法など、実際の臨床で極めて有用な機能を発揮する撮像法や画質向上手法を、被検体の連続移動を伴う撮像においても使用できるので、この移動撮像法の高機能化を図ると共に、撮像可能な領域が狭い場合であっても、これよりも大きな領域の臨床部位を高速に撮像でき、且つ、スループットを向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の実施形態に係る磁気共鳴イメージング装置の構成の概要を示すブロック図。
【図2】第1の実施形態に係るマルチスライス撮像を時間、天板(被検体)移動、及びマルチスライスの選択励起位置の関係で説明する図。
【図3】被検体の移動を伴うマルチスライス撮像に使用可能な、FE法に拠るパルスシーケンスを示すタイミングチャート。
【図4】マルチスライス撮像における被検体移動、固定の撮像範囲、及びマルチスライスの位置の関係を数点の時間をパラメータにして説明する図。
【図5】第2の実施形態に係るオブリーク撮像(同図(b))における被検体の移動方向及びスライス選択方向の位置関係を、オブリーク角=0の場合(同図(a))と比較して説明する図。
【図6】図5のオブリーク撮像の詳細を示す部分拡大図。
【図7】変形例に係る、プレサチュレーションパルスを併用したときの印加位置を例示する図。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態を添付図面に基づき説明する。
【0026】
(第1の実施形態)
本発明の第1の実施形態を説明する。最初に、以下の実施形態で共通に用いられるMRI(磁気共鳴イメージング)装置の概略構成を図1に示す。
【0027】
このMRI装置は、被検体Pを載せる寝台部と、静磁場を発生させる静磁場発生部と、静磁場に位置情報を付加するための傾斜磁場発生部と、高周波信号を送受信する送受信部と、システム全体のコントロール及び画像再構成を担う制御・演算部と、被検体Pの心時相を表す信号としてのECG信号を計測する心電計測部とを備えている。
【0028】
静磁場発生部は、例えば超電導方式の磁石1と、この磁石1に電流を供給する静磁場電源2とを備え、被検体Pが遊挿される円筒状の開口部(診断用空間)の軸方向(ここでは、XYZ直交座標系のZ軸方向に一致させている)に静磁場Hを発生させる。なお、この磁石部にはシムコイル14が設けられている。このシムコイル14には、後述するホスト計算機の制御下で、シムコイル電源15から静磁場均一化のための電流が供給される。
【0029】
寝台部は、寝台17を有し、この寝台の天板17Aには被検体Pが例えば仰向きに寝かせられた状態で載せられる。天板17Aは、寝台17内部の図示しない駆動機構の動作によって、その長手方向(Z軸方向)に退避自在に移動される。寝台17の駆動機構には、後述するホスト計算機から駆動指令が与えられ、この指令に応答して駆動機能が動作する。このため、天板17Aがその長手方向に矢印図示の如く移動すると、その上の被検体PもZ軸方向に連続的に移動され、磁石1の開口部に退避可能に挿入される。
【0030】
傾斜磁場発生部は、磁石1に組み込まれた傾斜磁場コイルユニット3を備える。この傾斜磁場コイルユニット3は、互いに直交するX、Y及びZ軸方向の傾斜磁場を発生させるための3組(種類)のx,y,zコイル3x〜3zを備える。傾斜磁場部はまた、x,y,zコイル3x〜3zに電流を供給する傾斜磁場電源4を備える。この傾斜磁場電源4は、後述するシーケンサ5の制御のもと、x,y,zコイル3x〜3zに傾斜磁場を発生させるためのパルス電流を供給する。
【0031】
傾斜磁場電源4からx,y,zコイル3x〜3zに供給されるパルス電流を制御することにより、物理軸である3軸X,Y,Z軸方向の傾斜磁場を合成して、互いに直交するスライス方向傾斜磁場Gs、位相エンコード方向傾斜磁場Ge、および読出し方向(周波数エンコード方向)傾斜磁場Grの各論理軸方向を任意に設定・変更することができる。スライス方向、位相エンコード方向、および読出し方向の各傾斜磁場は、静磁場Hに重畳される。
【0032】
送受信部は、磁石1内の撮影空間にて被検体Pの近傍に配設されるRFコイル7と、このRFコイル7に接続された送信器8T及び受信器8Rとを備える。この送信器8T及び受信器8Rは、後述するシーケンサ5の制御のもとで動作する。送信器8Tは、核磁気共鳴(NMR)を励起させるためのラーモア周波数のRF電流パルスをRFコイル7に供給する。受信器8Rは、RFコイル7が受信したMR信号(高周波信号)を取り込み、これに前置増幅、中間周波変換、位相検波、低周波増幅、フィルタリングなどの各種の信号処理を施した後、A/D変換してMR信号のデジタル量の原データ(生データ)を生成する。
【0033】
さらに、制御・演算部は、シーケンサ(シーケンスコントローラとも呼ばれる)5、ホスト計算機6、演算ユニット10、記憶ユニット11、表示器12、および入力器13を備える。この内、ホスト計算機6は、後述するように種々の態様に基づく、予め記憶したソフトウエア手順により、シーケンサ5にパルスシーケンス情報を指令するとともに、寝台17を含めた装置全体の動作を統括する機能を有する。
【0034】
シーケンサ5は、CPUおよびメモリを備えており、ホスト計算機6から送られてきたパルスシーケンス情報を記憶し、この情報にしたがって傾斜磁場電源4、送信器8T、受信器8Rの動作を制御するとともに、受信器8Rが出力したMR信号のデジタルデータを一旦入力し、これを演算ユニット10に転送するように構成されている。ここで、パルスシーケンス情報とは、一連のパルスシーケンスにしたがって傾斜磁場電源4、送信器8Tおよび受信器8Rを動作させるために必要な全ての情報であり、例えばx,y,zコイル3x〜3zに印加するパルス電流の強度、印加時間、印加タイミングなどに関する情報を含む。
【0035】
また、演算ユニット10は、受信器8Rが出力したデジタル量の原データをシーケンサ5を通して入力し、その内部メモリ上のフーリエ空間(k空間または周波数空間とも呼ばれる)に原データを配置し、この原データを各組毎に2次元または3次元のフーリエ変換に付して実空間の画像データに再構成する。演算ユニット10は、更に、画像に関するデータの合成処理、差分演算処理などを行うことが可能にもなっている。
【0036】
記憶ユニット11はメモリを有し、再構成された画像データのみならず、上述の合成処理や差分処理が施された画像データを保管することができる。また、記憶ユニットは、記録媒体として、このMR撮像で用いられるパルスシーケンスをプログラムデータの形態で記録され且つコンピュータで読み取り可能なROMやRAM(図示せず)を備える。
【0037】
表示器12は画像を表示する。また入力器13を介して、術者が希望する撮影条件、パルスシーケンス、画像合成や差分演算に関する情報をホスト計算機6に入力できる。
【0038】
さらに、心電計測部は、被検体の体表に付着させてECG信号を電気信号として検出するECGセンサ17と、このセンサ信号にデジタル化処理を含む各種の処理を施してホスト計算機6およびシーケンサ5に出力するECGユニット18とを備える。この心電計測部による計測信号を用いると、ECGゲート法(心電同期法)による同期タイミングを適切に設定でき、この同期タイミングに基づくECGゲート法のイメージングスキャンを行ってデータ収集できるようになっている。
【0039】
続いて、図2〜4を参照して、この磁気共鳴イメージング装置により実行されるマルチスライス法の原理を撮像動作と伴に説明する。
【0040】
図2は、マルチスライス枚数=3とし且つ天板、すなわち被検体をその体軸(Z軸)方向に沿って連続的に移動させながら実施するマルチスライス法の原理を、被検体の動きの方向とスライス選択方向とが一致している場合について説明している。
【0041】
マルチスライスのデータ収集はFE法に拠り行われる。各スライスに対して実行されるFE(グラジェントフィールドエコー)法に拠るパルスシーケンスは、図3に示す如く設定されている。つまり、各スライスの1回の選択励起より1個のエコーが収集され、このエコー収集が位相エンコード方向のマトリクス数分繰り返される方式になっている。
【0042】
このパルスシーケンスの情報はホストコンピュータ6からシーケンサ5に渡される。シーケンサ5は、この情報に基き、1つのスライスに対する励起後、データ収集までの間に他のスライスを選択励起するというマルチスライス法のスキャンを傾斜磁場電源4、送信器8T、受信器8Rに指示する。これに並行して、ホスト計算機6は寝台7に天板移動の制御信号を送る。これにより、撮像開始にタイミングを合せて、天板7Aがその長手方向(Z軸方向)に沿って磁石1の撮像空間に撮像部位(例えば被検体の腹部)が徐々に入り込むように所定速度で連続的に移動させられる。このため、被検体Pを移動させながら、マルチスライス撮像が実行される。
【0043】
図2において、左から右に向かう方向が時間軸方向、同図の下から上に向かう方向が天板の移動方向を示す。なお、説明を分かり易くするため、いわゆるマルチスライス枚数=3とする。同図に示す小さな長方形は選択励起位置を示し、ある時間にある空間領域が選択励起されることを表している。
【0044】
具体的には、被検体Pの移動に伴って、装置側が想定した撮像範囲Dに、被検体Pの撮像したい範囲(例えば腹部)が順次入ってくる。想定撮像範囲Dは、静磁場の均一領域や、RFコイルの感度領域から決まる場合もあるし、所定の時間で所望のコントラストを得るための繰返し時間TRなどの撮像パラメータの制約から決まる場合もある。この移動に対応して、シーケンサ5は所定タイミングでマルチスキャン法に拠るスキャンをFE法の元で開始される(図2、t=t参照)。これにより、撮像範囲D内に位置する所定スライスns=3がその時点での移動位置を加味して選択励起され、次いで同範囲D内に位置する1つ置きの別のスライスns=1がその時点での移動位置を加味して選択励起され、次いで同範囲D内に位置する残りのスライスns=2がその時点での移動位置を加味して選択励起される(t=t参照)。これらの励起に応じて、夫々、ある位相エンコード量に対するエコーが収集される。
【0045】
これが終わると、再び、最初の所定スライスns=3に戻って選択励起される。このとき、スライスns=3は最初の時点に比べて、被検体移動に因り、位置が移動しているので、選択励起RFパルスの搬送周波数fのオフセット量Δfが変更される。この変更量は、励起時点のスライスns=3の位置が、被検体にとって予め決めた固定の所望スライス位置に常に追随するように制御される。天板17Aの移動速度は所定値に予め決めてあるので、この既知の速度がかかる変更制御に用いられる。
【0046】
同様に、それぞれ1回、既に選択励起している他のスライスns=2,1についても追随した選択励起が順に実行される。
【0047】
以下、同様のスキャンを繰り返していく中で、時刻t=tにおいて被検体の移動方向出側に位置していたスライスns=1が撮像範囲Dの出側先頭に位置して選択励起される。このとき、他のスライスns=2,3は、装置側から見た固定の撮像範囲Dの先頭位置までは未だ距離を残している。
【0048】
そこで、先頭に位置していたスライスns=1は、その次の選択励起タイミング(t=t)においては撮像範囲Dからはみ出してしまうために励起できない。このため、かかるタイミング(t=t)において、撮像範囲Dの入り側先頭に、新しいスライスns=4が選択励起される。勿論、他のスライスについても同様で、例えばスライスns=2が出側先頭位置で選択励起された後は、入り側に新しく選択励起される別のスライスns=5が生成される(t=t)。
【0049】
つまり、撮像範囲Dの出口側まで端のスライスが到達すると同時に反対側で新規のスライスのデータ収集が始まるように、撮像パラメータや天板の移動速度の整合をとり、全体として所定のマルチスライス枚数が維持されるようにする。
【0050】
図4に、図2の横軸時間の数点t、t、t、tにおける、撮像範囲D、被検体Pの体軸方向への移動、及び選択励起されるマルチスライスの位置関係を模式的に例示する。撮像範囲D内でほぼ同時に選択励起されるマルチスライス枚数は3に維持されるが、その3枚のスライスは被検体Pの移動と共に、被検体から見ると同一位置が励起されるようにその位置を追尾する状態で、従って、撮像装置であるMRI側から見ると、天板の移動方向と同一の方向に順次移動していくように、3枚のスライスの位置は夫々更新される。
【0051】
図2において、時間軸方向及び天板移動方向を上述のように採っているので、右上がりの矢印は被検体Pからみると選択励起位置が常に一定の位置になるように、すなわち、同一スライスを追尾しながらデータ収集がなされることを示している。この撮像範囲Dの入口側から出口側までの追尾期間の間に、各スライスに対して、位相エンコード量を−NE/2〜NE/2まで、任意の位相エンコード順の元に変化させながらデータ収集が行われ、画像再構成に必要な一連のデータの組が収集される。つまり、装置からみた固定位置の撮像範囲Dを被検体Pが移動する間に、各スライスに対して位相エンコード量が必要な分だけ変更され、これに応じたデータが全て収集される。
【0052】
図2に示す如く、あるスライスに隣接するスライスについては、およそ、TD=TR・NE/MS(ここではMS=3)だけ遅れてデータ収集が開始され、TDだけ遅れてそのデータ収集が完了するように設定されている。これにより、スキャン中の全ての時刻において、枚数MSの「マルチスライス法」を維持しながら、任意の総スライス枚数分のデータ収集を行うことができる。
【0053】
このように、マルチスライスそれぞれのスライスに対する選択励起パルスの搬送周波数を寝台天板の動きに連動して変化させることにより、天板を一定速度で動かしながら、先に述べた理由に基いて想定した撮像範囲(例えば15cm)よりも大きな被検体領域(例えば腹部の40cm)からMRデータを収集することができるとともに、マルチスライス法に拠るMR撮像固有の効率的なデータ収集を活かすことができる。従って、かかるマルチスライス撮像を所定時間の間、実施することで、撮像範囲Dよりも広い視野が必要な例えば下腹部全体に対するスキャンがスピーディに行われる。
【0054】
ここで、上述の如く行われる、被検体Pを移動させながら行われるマルチスライス法に拠るMR撮像について、そのデータ収集条件を定量的に表すこととする。まず、
MS:マルチスライス枚数、
NE:位相エンコード方向のマトリクスサイズ、
TR:繰返し時間、
TS(=TR・NE):スキャン時間(各スライスのデータ収集に必要な時間)、
ns:スライスの通し番号(0〜NS:NS>MS)、
ne:位相エンコード番号(−NE/2〜NE/2−1)、
D:装置側からみた被検体移動方向の撮像範囲の幅、
SI:スライス間隔(=スライス厚ST+スライスギャップSG)、
Δf(ns,ne):選択励起RFパルスの搬送周波数のオフセット(スライス番号、位相エンコード番号)、
とする。
【0055】
このとき、
[数3]
天板の速度V=D/TS [m/s]
スライス間隔SI=D/MS [m]
の関係が成り立つように条件設定される。このとき、第nスライスのスライス中心d(n,t)は、時間tについて、
[数4]
d(n,t)=V・t−n・SI [m]
に在るものとしても一般性は維持される。
【0056】
そこで、一般に、
[数5]
ns=MS・ns1+ns2 (0≦ns2<MS)
としたとき、各スライスのデータ収集タイミングT(ns,ne)、及び、搬送周波数のオフセットΔf(ns,ne)は、
【数6】

【0057】
で表されるように設定することにより、図2に示した如く、マルチスライスをほぼ均一に順繰りに更新していく収集することができる。
【0058】
マルチスライスの通し番号の最大値NSがスライス枚数MSよりも充分に大きいほど、天板を連続送りできるため、全体としては更に効率良くスキャンを行うことができる。
【0059】
なお、図2に示す如く、撮像の最初と最後における「NS−1」枚分までのデータ収集は、MS枚の完全なマルチスライスモードにならない(図2おける点線で囲んだ部分Fは、撮像の最初における「NS−1」枚分までのデータ収集を示す)。この最初と最後の部分の「NS−1」枚分のデータを合せて画像に再構成してもよいが、MT(Magnetization Transfer)効果などを一定にするため、パルスシーケンスとしては実行するが、画像化せずに、かかる最初と最後の部分のデータは破棄するようにしてもよい。
【0060】
また、本実施形態のマルチスライス法において、MS枚のマルチスライスにならない最初の部分(図2の点線部分F)の励起に対しては、データ収集は実際には実行せずに、この最初の部分以降の励起に対して実際にデータ収集を行うようにすることも好適である。
【0061】
さらに、上述した実施形態にあっては説明の煩雑化を避けるため、このマルチスライス撮像に使用するパルスシーケンスは、最も基本的なFE法(図3参照)のパルス列であるとして説明してきた。しかし、このパルスシーケンスはマルチエコータイプのシーケンスであってもよい。EPI(エコープラナーイメージング)系のシーケンスのように、マルチエコー収集であれば、位相エンコード方向のマトリクスサイズをマルチエコー数で除した値分だけデータ収集時間を短縮することができる。高速スピンエコーなどのように、RFパルスを複数個の用いるマルチエコー収集の場合、それら全てのRFパルスの搬送周波数のオフセット量を、例えば前述のAH Herlihyによる論文に開示された手法の如く、被検体、すなわち各スライスの移動位置に連動して変更するように構成すればよい。
【0062】
(第2の実施形態)
続いて、図5,6を参照して、本発明の第2の実施形態に係る磁気共鳴イメージング装置を説明する。なお、この装置のハードウェアは、前述した図1に記載のものと同等に構成されている。
【0063】
上述した第1の実施形態は、被検体の移動方向とスライス選択方向とが同一の場合について説明したが、この第2の実施形態は、その両方向が一致しない、いわゆるオブリーク撮像(スキャン)と呼ばれる撮像法について説明する。このオブリーク撮像は、実際の臨床の場において、例えば被検体(患者)のOMラインの方向に断面を合わせて行われる。
【0064】
この実施形態に係るオブリーク撮像では、被検体Pの移動方向とスライス選択方向との幾何学的関係に対応して選択励起の搬送周波数を設定するようにスキャン条件が設定されている。
【0065】
具体的には、オブリーク撮像では、図5(b)に示すように、被検体の移動方向Mとスライス選択方向Nが表される。同図(a)はその両方向M,Nが一致している、第1の実施形態で説明した状況を参考用に示す。先に第1の実施形態の中で詳述した天板の移動速度Vと搬送周波数のオフセットΔfとの関係は、より正確に説明すると、スライス方向への被検体の移動速度V´と搬送周波数のオフセットΔfとの関係になる。V´とVは、V´=V・IEの関係にある。ここで、図5に示す如く、被検体の移動方向Mを表す単位ベクトルをEpと、スライス選択方向Nを表す単位ベクトルをEsと表すとき、IE=[Ep,Es]であり、単位ベクトル間の内積を表す。従って、「V・IE」を改めてVと表し、前述と同じ関係を満たすように種々の撮像パラメータを設定して実行する。搬送周波数のオフセットΔfもこれに従って与えられ、その設定は、ホスト計算機6又はシーケンサ5により、スキャン前に与えられたスキャン条件から自動的に演算され、「中心周波数f+オフセット周波数Δf」の搬送波が送信されるように、シーケンサ5から送信器8Tに指令が出される。
【0066】
搬送周波数のオフセットΔfをこのように設定することで、被検体Pの移動に伴うオブリークスライスの位置変化を自動的に追尾し、常に、このスライスを選択励起することができる。
【0067】
ところで、図6に示す如く、磁石1に拠る静磁場の磁場中心を通らないスライスについては、そのスライスの「磁場的な中心Cm」と「実空間における中心Cr」との間にずれが生じる。通常の撮像である、被検体が静止している場合、データ収集中のこのようなずれは一定値となるので、再構成画像の中心が「磁場的な中心Cm」の方になるだけであり、その影響は少なく、且つ、例えば米国特許第5,084,818号記載の手法に拠り、必要に応じて補正処理することができる。
【0068】
しかしながら、本実施形態のように被検体が移動する場合は勝手が違って、各位相エンコード毎に矛盾したデータ収集が行われるので、位相補正が必要である。このため、本実施形態の演算ユニット10では、この位相補正を以下の要領で実施するように構成されている。
【0069】
この位相補正は、スライスの実空間での中心位置Crにおいて磁化スピンの位相が回らないように位相を合わせるものである。図6に示す如く、磁場的中心Cmから実空間での中心Crに向かうベクトルをCとする。このベクトルCは位相エンコード方向の単位ベクトルEeと読出し方向のベクトルErとが存在する面に含まれる。傾斜磁場に拠る位相エンコード量をk空間上でK=(kr,ke)としたとき、実空間での中心Crにおける位相は、
[数7]
exp(2πi[K,C])
となるので、
[数8]
exp(−2πi[K,C])
をデータに乗じる位相補正が行われる。
【0070】
これにより、被検体を移動させながらオブリーク撮像を行う場合でも、移動しているが故に生じていた収集毎の位相上の矛盾が確実に排除された状態でMR信号が収集される。従って、スピン位相が正しいデータに基いて、通常の再構成処理により、高画質のMR画像が得られる。
【0071】
(その他の実施形態)
上述した第1及び第2の実施形態のマルチスライス撮像及びオブリーク撮像については、更に、以下のように変形して実施することができる。
【0072】
(変形例1)
上述のマルチスライス撮像及びオブリーク撮像は、各種のプリパルス(preperation pulse)を併用することができる。図7(a),(b)には、マルチスライス撮像において、3枚のマルチスライスそれぞれを1回ずつ選択励起する毎に、プリパルスとしてのプレサチュレーションパルスを印加することができる。このプレサチュレーションパルスの情報は、予めパルスシーケンスに組み込まれている。このため、パルスシーケンス情報を受け取ったシーケンサ5がプレサチュレーションパルス情報に応じて送信器8T及び傾斜磁場電源4を駆動させることにより、プレサチュレーションパルスが印加される。このプレサチュレーションパルスは、現在スキャンしているマルチスライスに相当に密着した空間位置を励起する必要があるため、同図(a)に示す如く、被検体移動に応じてプレサチュレーションパルスの印加位置も変えている。
【0073】
一方、プリパルスに要求される特性は撮像対象によっても異なる。本撮影部分であるマルチスライスとプレサチュレーション領域とを特に密着させる要請が無い場合、図7(b)に示す如く、プレサチュレーション領域はマルチスライス移動に関わらず、どのスライスとも干渉しない程度に離間させた位置に固定してもよい。
【0074】
(変形例2)
別の変形例は、動きに因るMR信号の位相の乱れを補償するグラジェントモーメントナリング(GMN:MRIの分野において、このグラジェントモーメントナリングはリフェーズ、フローリフェーズ、又はフローコンペンセーションなどとも呼ばれる)の併用に関する。
【0075】
天板を一定速度で移動させることにより被検体も移動するが、この状態は、被検体全体がフローに拠る1次モーメント(速度モーメント)の影響を受けていると考えられる。このため、上述した第1、第2の実施形態で使用するパルスシーケンスの、被検体移動方向に相当するスライス方向傾斜磁場に、1次又は2次以上のグラジェントモーメントナリングのための位相補償パルスが組み込まれる。なお、オブリーク撮像の場合、読出し方向や位相エンコード方向のグラジェントモーメントナリングを組み込んでもよい。
【0076】
これにより、被検体がスキャン中に一定速度で移動した場合でも、この移動に因る信号位相の乱れは発生しないため、かかる位相乱れに因るアーチファクトの発生を排除して、高画質のMR像を提供することができる。
【0077】
(変形例3)
上述したグラジェントモーメントナリングの技法によれば、位相補償パルスを追加的に印加する構成が必要になるので、傾斜磁場の印加時間が増大してしまうため、必ずしもオールマイティに使用できる訳では無い。
【0078】
そこで、前述の第1、第2の実施形態で説明した撮像法に使用するパルスシーケンスがRFリフォーカスパルスを用いた高速SE法のシーケンスである場合、被検体の移動方向にVIPS(Velocity Independent Phase−shift Stabilization)法を満たすように構成する変形例を提供できる。
【0079】
このVIPS法は、例えば論文「Proc.Intl.Soc.Magn.Reson.Med.第7回(1999)、第1910頁」により知られているように、例えば高速SE法のパルスシーケンスに拠るスピンエコーの振舞いをスピン位相の面から規定したもので、「φ/2条件」を満足させる撮像法である。
【0080】
これにより、グラジェントモーメントナリングのような位相補償パルスを追加しなくても済むので、良好なデータ収集効率を保持した状態で、前述したマルチスライス撮像やオブリーク撮像を実行することができ、前述した各種の優位性を享受することができる。
【0081】
なお、本発明は前述した実施形態のものに限定されることなく、請求項記載の発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜に変形可能である。
【符号の説明】
【0082】
1 静磁場磁石
3 傾斜磁場コイル
4 傾斜磁場電源
5 シーケンサ
6 ホスト計算機
8T 送信器
8R 受信器
10 演算ユニット
11 記憶ユニット
12 表示器
13 入力器
17 寝台
17A 天板
P 被検体(撮像対象)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体を移動させながら前記被検体のマルチスライスの領域を選択励起してエコーデータを収集するスキャン手段を備えた磁気共鳴イメージング装置であって、
前記スキャン手段は、1スライスを選択励起した後、当該選択励起した1スライスに対するエコーデータの収集終了までの間に他のスライスを選択励起するように構成されると共に、磁気共鳴イメージング装置側から固定的に設定されている撮像範囲内において、前記被検体の移動に応じて前記マルチスライスの位置を移動させる位置移動手段を有することを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項2】
請求項1記載の磁気共鳴イメージング装置において、
前記スキャン手段は、前記1スライスに対して選択励起をした後、当該1スライスに隣接しない他のスライスに対して選択励起をするように構成されることを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項3】
請求項1記載の磁気共鳴イメージング装置において、
前記位置移動手段は、前記被検体の移動方向とは異なる方向に設定されているスライス選択方向のスライスの位置を、磁気共鳴イメージング装置側から固定的に設定されている撮像範囲内において前記被検体の移動に応じて移動させることを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項4】
請求項3記載の磁気共鳴イメージング装置において、
前記位置移動手段は、選択励起を行うRFパルスの搬送周波数を前記被検体の移動方向と前記スライス選択方向との幾何学的関係に対応して変更する手段であることを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項5】
請求項3又は請求項4記載の磁気共鳴イメージング装置において、
選択励起されたスライスからMR信号を収集する収集手段と、
前記被検体の位置と傾斜磁場の方向との幾何学的関係に基づいて前記収集手段により収集されたMR信号の位相を補正する位相補正手段と、
前記位相補正手段により位相補正されたMR信号をMR画像に再構成する再構成手段と
をさらに備えることを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の磁気共鳴イメージング装置において、
前記スキャン手段は、前記マルチスライスの内の移動方向先頭に位置するスライスが前記撮像範囲を超えるときに、前記マルチスライスの移動方向後尾に別のスライスを前記マルチスライスの一部として追加することを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−94558(P2010−94558A)
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−22374(P2010−22374)
【出願日】平成22年2月3日(2010.2.3)
【分割の表示】特願2000−291115(P2000−291115)の分割
【原出願日】平成12年9月25日(2000.9.25)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】