説明

磁気共鳴イメージング装置

【課題】空間的な磁気共鳴信号の抑制をより効果的に行う。
【解決手段】撮影用励起パルスRF1と、リフォーカスパルスRF2とを順次印加するとともに、パルスRF1の印加後、かつ、パルスRF2の印加前に、被検体の特定の部位における原子核スピンを励起するための第1励起パルスMEGA_RF1および第1勾配磁場SS_mega1と、励起した原子核スピンの位相を分散させるための第1勾配磁場SS_mega1に続く勾配軸方向PEの第1クラッシャ勾配磁場Crusher_mega1を印加し、パルスRF2の印加後に、上記特定の部位における原子核スピンを励起するための第2励起パルスMEGA_RF2および第2勾配磁場SS_mega2と、第2勾配磁場SS_mega2に続く第2クラッシャ勾配磁場Crusher_mega2を印加するスピンエコー系シーケンスを実施する。得られた磁気共鳴信号を基に、上記特定の部位からの磁気共鳴信号が抑制された画像を生成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被検体の特定の部位からの磁気共鳴信号を抑制するためのパルスシーケンス(pulse sequence)を実施する磁気共鳴イメージング(imaging)装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、被検体の特定の部位からの磁気共鳴信号を抑制するMR撮影法として、空間前飽和法、あるいは空間的プレサュチレーション(pre-saturation)法、と呼ばれる撮影法が知られている(例えば、特許文献1,図3等参照)。
【0003】
図7は、空間前飽和法によるパルスシーケンスの一例を示す図である。空間前飽和法では、図7に示すように、スピンエコー(spin echo)法やグラディエントエコー(gradient echo)法などによる通常の撮影用パルスシーケンスを開始する前に、飽和パルスSpacial_SAT_RF1と、スライス(slice)選択的な勾配磁場SS_SAT1と、この勾配磁場に続くクラッシャ(crusher)勾配磁場Crusher_SAT1とを印加する。すなわち、被検体の特定の部位における原子核スピンを励起して、その原子核スピンの磁化ベクトル(vector)の縦磁化成分(以下、単に縦磁化という)を飽和させる。そして、励起した原子核スピンの位相を分散させて、磁化ベクトルの横磁化成分(以下、単に横磁化という)を消失させる。これにより、その特定の部位からの磁気共鳴信号を抑制する。
【0004】
一般的に、呼吸運動や心拍運動により体動したり、血流を含んでいたりする特定の部位からの磁気共鳴信号は、他の部位を画像化した場合にアーチファクト(artifact)やいわゆる折返しを生じさせる原因となる。そのため、空間前飽和法は、このような特定の部位からの磁気共鳴信号を積極的に抑制する目的で用いられることが多い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−230549号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、飽和パルスにより励起された原子核スピンの縦磁化は、時間の経過とともに徐々に回復する。したがって、飽和パルスにより励起された原子核スピンの縦磁化は、飽和パルスの印加から撮影用パルスシーケンスの励起パルス(以下、撮影用励起パルスという)が印加されるまでの間に若干回復する。磁気共鳴信号の抑制効果を高めるには、撮影用励起パルスの印加時に、磁気共鳴信号を抑制したい特定の部位における原子核スピンの縦磁化が完全に飽和している状態、すなわち縦磁化が90°倒れた状態であることが理想である。そのため、通常、その原子核スピンの縦磁化の回復分を見込んで、飽和パルスのフリップ角(flip angle)を予め90°より少しだけ大きい角度、例えば95°や100°などに設定する。
【0007】
しかしながら、飽和パルスにより励起された原子核スピンの縦磁化の回復速度は、その部位の物性に応じて異なるため、磁気共鳴信号を抑制したい特定の部位における原子核スピンの縦磁化が完全に飽和している状態のときに撮影用励起パルスが印加されるよう、飽和パルスのフリップ角を空間的に一意に調整することは不可能である。そのため、撮影用励起パルスの印加時に、特定の部位における原子核スピンの縦磁化を完全に飽和させることが困難となり、磁気共鳴信号の抑制効果が弱くなる。
【0008】
このような事情により、空間的な磁気共鳴信号の抑制をより効果的に行うことができる磁気共鳴イメージング装置が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第1の観点の発明は、画像生成に用いる磁気共鳴信号を得るための励起パルスと、リフォーカスパルス(refocus pulse)とを順次印加するとともに、前記励起パルスの印加後、かつ、前記リフォーカスパルスの印加前に、被検体の特定の部位を選択する所定の勾配軸方向の第1勾配磁場と、該選択された部位における原子核スピンを励起する第1励起パルスと、該励起された原子核スピンの位相を分散させる前記所定の勾配軸方向の第1クラッシャ勾配磁場とを印加し、前記リフォーカスパルスの印加後に、前記特定の部位を選択する前記所定の勾配軸方向の第2勾配磁場と、該選択された部位における原子核スピンを励起する第2励起パルスと、該励起された原子核スピンの位相を分散させる前記所定の勾配軸方向の第2クラッシャ勾配磁場とを印加するスピンエコー系シーケンス(sequence)を実施して、磁気共鳴信号を得るシーケンス実施手段と、前記磁気共鳴信号に基づいて、前記特定の部位からの磁気共鳴信号が抑制された画像を生成する画像生成手段とを備えている磁気共鳴イメージング装置を提供する。
【0010】
第2の観点の発明は、前記第1クラッシャ勾配磁場と前記第2クラッシャ勾配磁場とが、勾配の大きさと印加時間との積による面積が実質的に同じである上記第1の観点に記載の磁気共鳴イメージング装置を提供する。
【0011】
第3の観点の発明は、前記第1励起パルスと前記第2励起パルスとが、フリップ角が実質的に同じである上記第1の観点または第2の観点に記載の磁気共鳴イメージング装置を提供する。
【0012】
第4の観点の発明は、前記フリップ角が、180°である上記第3の観点の磁気共鳴イメージング装置を提供する。
【0013】
第5の観点の発明は、前記所定の勾配軸方向が、スライス軸方向に直交する位相エンコード(encode)方向または周波数エンコード方向である上記第1の観点から第4の観点いずれか1つの観点の磁気共鳴イメージング装置を提供する。
【0014】
第6の観点の発明は、前記磁気共鳴信号を得るための励起パルスが、90°パルスであり、前記リフォーカスパルスが、180°パルスである上記第1の観点から第5の観点のいずれか一つの観点の磁気共鳴イメージング装置を提供する。
【0015】
第7の観点の発明は、前記特定の部位が、呼吸運動または心拍運動により体動する部位である上記第1の観点から第6の観点のいずれか一つの観点の磁気共鳴イメージング装置を提供する。
【0016】
第8の観点の発明は、前記特定の部位が、血流を含む部位である上記第1の観点から上記第6の観点のいずれか一つの観点の磁気共鳴イメージング装置を提供する。
【0017】
なお、上記観点の発明において、「被検体」は、人体だけでなく、物体も含まれる。また、上記観点の発明である磁気共鳴イメージング装置は、医療用に限定されず、産業用にも適用できる。
【発明の効果】
【0018】
上記観点の発明によれば、撮影用の励起パルス印加後に、特定の部位からの磁気共鳴信号を抑制するための磁場群が印加されるので、従来法のように、縦磁化の飽和と撮影用励起パルスの印加とのタイミング(timing)ずれにより、磁気共鳴信号を抑制したい特定の部位における原子核スピンがわずかに回復してしまい、信号抑制効果を弱めるといったことが原理的に発生しない。また、磁気共鳴信号を抑制するためにリフォーカスパルスを挟んで印加する磁場群は、ブロッホ(Bloch)方程式により信号抑制効果が高いと認められる構成である。これらにより、空間的な磁気共鳴信号の抑制をより効果的に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】第1実施形態の磁気共鳴イメージング装置の構成を概略的に示す図である。
【図2】第1実施形態により実施されるパルスシーケンスの一例を示す図である。
【図3】第2実施形態によるパルスシーケンスの第1例を示す図である。
【図4】第2実施形態によるパルスシーケンスの第2例を示す図である。
【図5】本実施形態のパルスシーケンスを実施して得られた画像の例と、従来の空間前飽和法によるパルスシーケンスを実施して得られた画像の例とを対比して示す図である。
【図6】図5の画像における各領域の画素値の平均値と、関心領域に対する特定領域の画素値比を示す図である。
【図7】従来の空間前飽和法によるパルスシーケンスの一例を示す図である。
【図8】撮影する実空間における各領域とその領域に作用する勾配磁場との対応関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、発明の実施形態について説明する。
【0021】
(第1実施形態)
図1は、本実施形態の磁気共鳴イメージング装置の構成を概略的に示す図である。
【0022】
図1に示すように、磁気共鳴イメージング装置1は、静磁場マグネット(magnet)部12、勾配コイル部13、RF(Radio Frequency)コイル部14、RF駆動部22、勾配駆動部23、データ(data)収集部24、被検体搬送部25、制御部30、記憶部31、操作部32、画像再構成部33、および表示部34を有している。
【0023】
静磁場マグネット部12は、静磁場を発生させ、静磁場空間11を生成する。
【0024】
勾配コイル部13は、電流の供給を受けて、スライス軸方向、位相エンコード方向、および周波数エンコード方向の3軸方向に勾配磁場を独立に発生させる。なお、ここでは、周波数エンコード方向、位相エンコード方向、およびスライス軸方向は、それぞれ、図1に示すx方向、y方向、およびz方向と対応している。
【0025】
RFコイル部14は、電流の供給を受けて、静磁場空間11内の被検体40の原子核スピンを励起するための励起RFパルスを印加する。
【0026】
RF駆動部22は、制御部30からの制御信号を基にRFコイル部14を駆動して、静磁場空間11内に励起RFパルスを印加する。
【0027】
勾配駆動部23は、制御部30からの制御信号を基に勾配コイル部13を駆動して、静磁場空間11内に勾配磁場を発生させる。
【0028】
データ収集部24は、RFコイル部14が受信したエコー信号(磁気共鳴信号)を位相検波し、AD(Analog-Digital)変換して、エコー信号のデータを生成する。生成されたエコー信号のデータは、記憶部31に出力される。
【0029】
被検体搬送部25は、制御部30からの制御信号を基に、被検体40を静磁場空間11の内外に搬送する。
【0030】
制御部30は、操作部32からの操作信号を基に、決められたパルスシーケンスを実施するよう、RF駆動部22、勾配駆動部23、データ収集部24、被検体搬送部25の各部に制御信号を送って制御する。
【0031】
記憶部31は、データ収集部24により収集されたエコー信号のデータや、画像再構成部33により画像再構成処理して得られた画像データ等を記憶する。
【0032】
画像再構成部33は、制御部30からの制御により、記憶部31からエコー信号のデータを読み出し、そのエコー信号のデータに対して画像再構成処理を行って画像データを生成する。画像データは、記憶部31に出力される。
【0033】
表示部34は、操作部32の操作に必要な情報や、画像データが表す画像などを表示する。
【0034】
制御部30、記憶部31、画像再構成部33は、例えばコンピュータ(computer)により構成される。
【0035】
これより、本実施形態の磁気共鳴イメージング装置の動作について説明する。
【0036】
本実施形態の磁気共鳴イメージング装置1は、被検体の特定の部位からのエコー信号を抑制するように設計されたスピンエコー系シーケンスを実施してエコー信号を収集し、そのエコー信号を基に画像を生成する。これにより、上記特定の部位に対応する部分の画素値が抑えられており、他の部分でのアーチファクトや折返しが低減されている画像を生成する。なお、上記特定の部位としては、例えば、呼吸運動または心拍運動により体動する部位や血流を含む部位など、他の部位の画像上にアーチファクトやいわゆる折返しを生じさせる原因となるエコー信号を発生する部位を考えることができる。
【0037】
図2は、本実施形態により実施されるパルスシーケンスの一例を示す図である。
【0038】
図2に示すパルスシーケンスは、スピンエコー系シーケンスを基本としているが、その特徴は、破線で囲まれたパルス群が挿入されている点にある。
【0039】
まず、本スピンエコー系シーケンスの基本的なパルスについて説明する。
【0040】
スライス勾配磁場SS1および励起RFパルスRF1は、撮影すべき所定のスライスを選択して、そのスライスにおける原子核スピンを励起するためのものである。つまり、励起RFパルスRF1は、画像生成に用いるエコー信号を得るための励起RFパルスである。ここでは、この励起RFパルスRF1を、他の励起RFパルスと区別するため、「撮影用励起RFパルス」と呼ぶことにする。
【0041】
スライス勾配磁場Rephase1は、撮影用励起RFパルスRF1により励起された原子核スピンの、スライス勾配磁場SS1の後半部分により分散した位相を、元に戻すための負極性のリフェーズ勾配磁場である。
【0042】
位相エンコード勾配磁場PE1iは、通常の位相エンコーディングのために印加する位相エンコード勾配磁場である。位相エンコード勾配磁場PE1iとしては、例えば、正極性から負極性に渡って段階的に設定された複数ステップの勾配磁場を用いる。なお、この複数ステップのステップ数は、k−空間の全マトリクスをエコー信号のデータで埋めるのに必要な数である。
【0043】
スライス勾配磁場SS2および励起RFパルスRF2は、撮影用励起RFパルスRF1により励起された上記所定のスライスにおける原子核スピンの、T2緩和もしくはT2*緩和で分散する位相を再集束させるためのリフォーカスパルスである。
【0044】
スライス勾配磁場Crusher2は、リフォーカスパルスRF2により励起された目的外の原子核スピンによる磁気共鳴信号を抑制するためのクラッシャ勾配磁場である。スライス勾配磁場Crusher1は、撮影スライスにおける原子核スピンの、クラッシャ勾配磁場Crusher2による位相の分散を見越して、その分をキャンセルさせるために前もって印加するクラッシャ勾配磁場である。
【0045】
周波数エンコード勾配磁場RO1は、スピンエコー信号e1を読み出すための読出し勾配磁場である。
【0046】
周波数エンコード勾配磁場Dephase1は、読出し勾配磁場RO1の前半部分による原子核スピンの位相の分散を見越して、その分をキャンセル(cancel)させるために前もって印加するディフェーズ(dephase)勾配磁場である。
【0047】
なお、本例では、原子核としてプロトン(proton)を、撮影用励起RFパルスRF1として90°パルスを、リフォーカスパルスRF2として180°パルスを想定するが、これらに限定されない。
【0048】
次に、本スピンエコー系シーケンスの特徴的なパルスについて説明する。
【0049】
励起RFパルスMEGA_RF1,MEGA_RF2、位相エンコード勾配磁場軸のスライス選択勾配磁場SS_mega1,クラッシャ勾配磁場Crusher_mega1,スライス選択勾配磁場SS_mega2,クラッシャ勾配磁場Crusher_mega2は、被検体の特定の部位からのエコー信号を抑制するために印加する磁場群(以下、信号抑制用磁場群という)である。
【0050】
励起RFパルスMEGA_RF1、スライス選択勾配磁場SS_mega1,クラッシャ勾配磁場Crusher_mega1と、励起RFパルスMEGA_RF2、スライス選択勾配磁場SS_mega2,クラッシャ勾配磁場Crusher_mega2とは、リフォーカスパルスRF2を挟むように挿入されており、対を成している。
【0051】
図8は、撮影する実空間における各領域とその領域に作用する勾配磁場との対応関係を示す図である。この図では、領域に作用する勾配磁場をその領域の近傍の括弧内に示している。また、撮影するスライスをSL0で示している。
【0052】
励起RFパルスMEGA_RF1、スライス選択勾配磁場SS_mega1は、エコー信号を抑制したい特定の部位を、位相エンコード方向(PE)を軸とする所定のスライス、例えば図8(a)のSL1で示す領域として選択し、そのスライスにおける原子核スピンを励起するための磁場である。クラッシャ勾配磁場Crusher_mega1は、その励起された原子核スピンの位相を分散させるための勾配磁場である。
【0053】
これと同様に、励起RFパルスMEGA_RF2、スライス選択勾配磁場SS_mega2は、エコー信号を抑制したい上記特定の部位を、同じスライス、すなわち図8(a)のSL1で示す領域として選択し、そのスライスにおける原子核スピンを励起するための磁場である。クラッシャ勾配磁場Crusher_mega2は、その励起された原子核スピンの位相を分散させるための勾配磁場である。
【0054】
ここで、スライス選択勾配磁場SS_mega1とSS_mega2とについては、その大きさと印加時間との積、つまりシーケンスチャート(sequence
chart)上でのパルスの面積が実質的に互いに同じになるようにする。また、クラッシャ勾配磁場Crusher_mega1とCrusher_mega2とについても同様に、その大きさと印加時間との積、つまりシーケンス上でのパルスの面積が実質的に互いに同じになるようにする。これにより、原子核スピンの位相分散はこれらの勾配磁場が無い場合と同じであり、横緩和の状態を崩すことはない。励起RFパルスMEGA_RF1とMEGA_RF2とのフリップ角は、実質的に同じになるようにする。
【0055】
上記の信号抑制用磁場群を印加すると、励起RFパルスMEGA_RF1,MEGA_RF2により励起された原子核スピンによるエコー信号が抑制される。また、励起RFパルスMEGA_RF1,MEGA_RF2のフリップ角は180°に近くなるほど、エコー信号の抑制効果は高くなる。これは、上記の信号抑制用磁場群を印加する場合について、磁気共鳴と緩和の現象を記述する周知のブロッホ方程式を解くと明らかであり、例えば、非特許文献、Solvent Suppression Using Selective Echo
Dephasing. M. MESCHER, A. TANNUS, M. O’NEIL JOHNSON, AND M. GARWOOD, JOURNAL OF
MAGNETIC RESONANCE, Series A 123, 226-229 (1996). ARTICLE NO. 0242 の図2や数式14等から理解することができる。
【0056】
なお、本例では、励起RFパルスRF2,RF4は、いずれもフリップ角が180°となる180°パルスであるが、これに限定されない。
【0057】
このようなシーケンスを、位相エンコード勾配磁場PE1iを通常通り、位相エンコーディングのために順次変えながら実施する。
【0058】
そして、その結果得られたエコー信号のデータをk−空間に入れて、位相エンコード方向(y方向)と周波数エンコード方向(x方向)の二方向に対する二次元フーリエ変換(Fourier transformation)を行い、画像データを得る。
【0059】
(第2実施形態)
図3,図4は、第2実施形態によるパルスシーケンスの第1例および第2例を示す図である。これらのパルスシーケンスは、エコー信号を抑制したい特定の部位が2つある場合の例である。図3の第1例のパルスシーケンスは、この特定の部位が位相エンコード方向にある場合の例、図4の第2例のパルスシーケンスは、この特定の部位が周波数エンコード方向にある場合の例である。
【0060】
第1の特定の部位に対する信号抑制用磁場群の対(MEGA_RF1,SS_mega1,Crusher_mega1とMEGA_RF2,SS_mega2,Crusher_mega2)を、リフォーカスパルスRF2を挟むように入れるとともに、第2の特定の部位に対する信号抑制用磁場群の対(MEGA_RF3,SS_mega3,Crusher_mega3とMEGA_RF4,SS_mega4,Crusher_mega4)も同様に、リフォーカスパルスRF2を挟むように入れている。
【0061】
図3の第1例のパルスシーケンスにおいて、励起RFパルスMEGA_RF1、スライス選択勾配磁場SS_mega1は、エコー信号を抑制したい特定の部位を、位相エンコード方向を軸とする所定のスライス、例えば図8(b)のSL1で示す領域として選択し、そのスライスにおける原子核スピンを励起するための磁場である。クラッシャ勾配磁場Crusher_mega1は、その励起された原子核スピンの位相を分散させるための勾配磁場である。
【0062】
また、励起RFパルスMEGA_RF2、スライス選択勾配磁場SS_mega2は、エコー信号を抑制したい上記特定の部位を、同じスライスすなわち図8(b)のSL1で示す領域として選択し、そのスライスにおける原子核スピンを励起するための磁場である。クラッシャ勾配磁場Crusher_mega2は、その励起された原子核スピンの位相を分散させるための勾配磁場である。
【0063】
また、励起RFパルスMEGA_RF3、スライス選択勾配磁場SS_mega3は、エコー信号を抑制したい他の特定の部位を、位相エンコード方向を軸とする所定のスライス、例えば図8(b)のSL2で示す領域として選択し、そのスライスにおける原子核スピンを励起するための磁場である。クラッシャ勾配磁場Crusher_mega3は、その励起された原子核スピンの位相を分散させるための勾配磁場である。
【0064】
また、励起RFパルスMEGA_RF4、スライス選択勾配磁場SS_mega4は、エコー信号を抑制したい上記他の特定の部位を、同じスライスすなわち図8(b)のSL2で示す領域として選択し、そのスライスにおける原子核スピンを励起するための磁場である。クラッシャ勾配磁場Crusher_mega4は、その励起された原子核スピンの位相を分散させるための勾配磁場である。
【0065】
同様に、図4の第2例のパルスシーケンスにおいて、励起RFパルスMEGA_RF1、スライス選択勾配磁場SS_mega1は、エコー信号を抑制したい特定の部位を、周波数エンコード方向(RO)を軸とする所定のスライス、例えば図8(c)のSL1で示す領域として選択し、そのスライスにおける原子核スピンを励起するための磁場である。クラッシャ勾配磁場Crusher_mega1は、その励起された原子核スピンの位相を分散させるための勾配磁場である。
【0066】
また、励起RFパルスMEGA_RF2、スライス選択勾配磁場SS_mega2は、エコー信号を抑制したい上記特定の部位を、同じスライスすなわち図8(c)のSL1で示す領域として選択し、そのスライスにおける原子核スピンを励起するための磁場である。クラッシャ勾配磁場Crusher_mega2は、その励起された原子核スピンの位相を分散させるための勾配磁場である。
【0067】
また、励起RFパルスMEGA_RF3、スライス選択勾配磁場SS_mega3は、エコー信号を抑制したい他の特定の部位を、周波数エンコード方向を軸とする所定のスライス、例えば図8(c)のSL2で示す領域として選択し、そのスライスにおける原子核スピンを励起するための磁場である。クラッシャ勾配磁場Crusher_mega3は、その励起された原子核スピンの位相を分散させるための勾配磁場である。
【0068】
また、励起RFパルスMEGA_RF4、スライス選択勾配磁場SS_mega4は、エコー信号を抑制したい上記他の特定の部位を、同じスライスすなわち図8(c)のSL2で示す領域として選択し、そのスライスにおける原子核スピンを励起するための磁場である。クラッシャ勾配磁場Crusher_mega4は、その励起された原子核スピンの位相を分散させるための勾配磁場である。
【0069】
図5は、本実施形態のパルスシーケンスを実施して得られた画像の例と、従来の空間前飽和法によるパルスシーケンスを実施して得られた画像の例とを対比して示す図である。図5に示すこれらの画像は、円柱形状の水ファントム(phantom)を撮影対象として、スライス軸方向にスライス厚をとる所定の撮影スライスについて、繰返し時間TR=1000〔mS〕、エコー時間TE=110〔mS〕で撮影したものである。画像P1pと画像P1cは、エコー信号を抑制したい2つの特定領域sat1,sat2に対応する特定の部位が、関心領域ROI1に対応する部位を周波数エンコード方向に挟むように設定されている場合の画像であり、画像P1pは、本実施形態の図4に示す第2例のパルスシーケンスによる画像、画像P1cは、従来法による画像である。また、画像P2pと画像P2cは、エコー信号を抑制したい2つの特定領域sat3,sat4に対応する特定の部位が、関心領域ROI2に対応する部位を位相エンコード方向に挟むように設定されている場合の画像であり、画像P2pは、本実施形態による図3に示す第1例のパルスシーケンスによる画像、画像P2cは、従来法による画像である。
【0070】
図6は、図5の画像における各領域ROI1〜ROI2,sat1〜sat4の画素値の平均値と、関心領域ROIに対する特定領域satの画素値比(% of sat/ROI)を示している。図6を見ると、上記画素値比の平均値は、本実施形態で2.35〔%〕、従来法で8.61〔%〕となっており、従来法による画像よりも本実施形態による画像の方が、特定領域sat1〜sat4の部位からのエコー信号がより抑制されていることが分かる。
【0071】
以上、上記の各実施形態によれば、撮影用励起RFパルスの印加後、すなわち励起された原子核スピンの横緩和間に、エコー信号を抑制するための磁場群が印加されるので、従来法のように、縦磁化の飽和と撮影用励起RFパルスの印加とのタイミングずれにより、エコー信号を抑制したい特定の部位における原子核スピンをわずかに回復させてしまい、信号抑制効果を弱めるといったことが原理的に発生しない。また、エコー信号を抑制するためにリフォーカスパルスを挟んで印加する磁場群は、ブロッホ方程式により信号抑制効果が高いと認められる構成である。これらにより、空間的な磁気共鳴信号の抑制をより効果的に行うことができる。
【0072】
なお、発明の実施形態は、上記したものに限定されず、発明の趣旨を逸脱しない範囲において、種々の追加・変更が可能である。
【0073】
例えば、上記の実施形態では、スライス軸方向を軸とするスライスを撮影スライスとし、エコー信号を抑制したい特定の部位として、位相エンコード方向や周波数エンコード方向を軸とする所定のスライスを選択している。しかし、位相エンコード方向や周波数エンコード方向を軸とするスライスを撮影スライスとし、エコー信号を抑制したい特定の部位として、他の方向を軸とする所定のスライスを選択してもよい。
【0074】
また例えば、上記の実施形態では、リフォーカスパルスを挟んで印加する信号抑制用磁場群を1対または2対としているが、3対以上としてもよい。また、この対ごとに、印加する勾配磁場の方向を変化させてもよい。
【符号の説明】
【0075】
1 磁気共鳴イメージング装置
12 静磁場マグネット部
13 勾配コイル部
14 RFコイル部
22 RF駆動部
23 勾配駆動部
24 データ収集部
25 被検体搬送部
30 制御部
31 記憶部
32 操作部
33 画像再構成部
34 表示部
40 被検体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
画像生成に用いる磁気共鳴信号を得るための励起パルスと、リフォーカスパルスとを順次印加するとともに、
前記励起パルスの印加後、かつ、前記リフォーカスパルスの印加前に、被検体の特定の部位を選択する所定の勾配軸方向の第1勾配磁場と、該選択された部位における原子核スピンを励起する第1励起パルスと、該励起された原子核スピンの位相を分散させる前記所定の勾配軸方向の第1クラッシャ勾配磁場とを印加し、
前記リフォーカスパルスの印加後に、前記特定の部位を選択する前記所定の勾配軸方向の第2勾配磁場と、該選択された部位における原子核スピンを励起する第2励起パルスと、該励起された原子核スピンの位相を分散させる前記所定の勾配軸方向の第2クラッシャ勾配磁場とを印加するスピンエコー系シーケンスを実施して、磁気共鳴信号を得るシーケンス実施手段と、
前記磁気共鳴信号に基づいて、前記特定の部位からの磁気共鳴信号が抑制された画像を生成する画像生成手段とを備えている磁気共鳴イメージング装置。
【請求項2】
前記第1クラッシャ勾配磁場と前記第2クラッシャ勾配磁場とは、勾配の大きさと印加時間との積による面積が実質的に同じである請求項1に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項3】
前記第1励起パルスと前記第2励起パルスとは、フリップ角が実質的に同じである請求項1または請求項2に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項4】
前記フリップ角は、180°である請求項3に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項5】
前記所定の勾配軸方向は、スライス軸方向に直交する位相エンコード方向または周波数エンコード方向である請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項6】
前記磁気共鳴信号を得るための励起パルスは、90°パルスであり、
前記リフォーカスパルスは、180°パルスである請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項7】
前記特定の部位は、呼吸運動または心拍運動により体動する部位である請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項8】
前記特定の部位は、血流を含む部位である請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の磁気共鳴イメージング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−229673(P2011−229673A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−102536(P2010−102536)
【出願日】平成22年4月27日(2010.4.27)
【出願人】(300019238)ジーイー・メディカル・システムズ・グローバル・テクノロジー・カンパニー・エルエルシー (1,125)
【Fターム(参考)】