説明

磁気共鳴イメージング装置

【課題】フローや動きの有無に依らず良好な画質を維持し、かつ短時間でイメージングを行うことが可能な磁気共鳴イメージング装置を提供することを提供することである。
【解決手段】実施形態に係るMRI装置は、波形設定手段及びイメージング手段を備える。波形設定手段は、励起パルスの印加に続いて収集されたMR信号の位相差情報又は励起パルスの印加に続いて収集されるイメージング用のMR信号の位相差に影響を与える条件に基づいて、前記イメージング用のMR信号のRO方向に繰返し印加される傾斜磁場の波形を、前記位相差情報又は前記条件に対応する適切な波形に設定する。イメージング手段は、励起パルスの印加に続いて前記適切な波形を有する傾斜磁場を前記RO方向に繰返し印加することによって前記イメージング用のMR信号を収集し、収集された前記イメージング用のMR信号に基づいて画像データを生成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、磁気共鳴イメージング(MRI: Magnetic Resonance Imaging)装置に関する。
【背景技術】
【0002】
MRIは、静磁場中に置かれた被検体の原子核スピンをラーモア周波数の高周波(RF: radio frequency)信号で磁気的に励起し、この励起に伴って発生する核磁気共鳴(NMR: nuclear magnetic resonance)信号から画像を再構成する撮像法である。
【0003】
このMRIの分野においる高速撮像法の1つに、エコープラナーイメージング(EPI: echo planar imaging)と呼ばれる撮像法がある。EPIは、1回の核磁気励起に対して傾斜磁場を高速で連続的に反転させ、連続的にエコーを生じさせてスキャンを行うものである。
【0004】
より具体的には、EPIでは、90°励起パルスを印加した後、xy平面内の磁化が横緩和(T2緩和)により減衰して消滅する前に位相エンコード(PE: phase encode)のステップに合わせて読出し(RO: readout)用傾斜磁場が繰返し高速で反転させて印加される。これにより、連続的なグラジエントエコーが発生し、画像再構成に必要な全てのデータを収集することができる。
【0005】
EPIには、90°励起パルスおよび180°励起パルスの後に発生するスピンエコー信号を収集するスピンエコー法(SE: spin echo)を用いたSE EPIと90°励起パルスの印加後に発生するエコー信号を収集するフィールドエコー法(FE: field echo)を用いたFE EPIやFFE (Fast FE)法を用いたFFE EPIがある。また、複数回に亘る90°励起パルスを印加して得られるエコートレインのデータを合わせて1枚分の画像データを作成するEPIがマルチショットEPIと呼ばれるのに対して、1回の励起パルスの印加のみで画像を再構成するEPIは、シングルショット(SS: single shot) EPIと呼ばれる。
【0006】
一方、首などの血流の影響を受ける撮像部位の撮像を行う場合に、血液の流れの影響によって生じるMR信号の位相ずれを補正するためにフロー補償(FC: flow compensation)傾斜磁場パルスを印加する技術が知られている。すなわちFC傾斜磁場パルスの印加によって、血液の他、脳脊髄液(CSF: cerebrospinal fluid)等の流体の流れや呼吸等の動きによって生じる位相ずれをキャンセルすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000−325327号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、3D-FEシーケンスにおいて、コントラスト及びSNR (signal to noise ratio)を改善するためにTRを延長してマルチエコー収集を行うと、撮像時間が増加するという問題がある。
【0009】
一方、3D-FE EPIシーケンスでマルチエコー収集を行えば、高速撮像を行うことが可能であるが、EPIシーケンスでは正極及び負極の双方の極性を有するエコー信号が収集される。このため、フローや動きが存在すると、フローや動きに起因してMR信号の位相ずれが増加し、画質が劣化するという問題がある。
【0010】
そこで、本発明は、フローや動きの有無に依らず良好な画質を維持し、かつ短時間でイメージングを行うことが可能な磁気共鳴イメージング装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の実施形態に係る磁気共鳴イメージング装置は、波形設定手段及びイメージング手段を備える。波形設定手段は、励起パルスの印加に続いて連続的に収集された複数の磁気共鳴信号の位相差情報又は励起パルスの印加に続いて連続的に収集されるイメージング用の複数の磁気共鳴信号の位相差に影響を与える条件に基づいて、前記イメージング用の複数の磁気共鳴信号の読み出し方向に繰返し印加される傾斜磁場の波形を、前記位相差情報又は前記条件に対応する適切な波形に設定する。イメージング手段は、励起パルスの印加に続いて前記適切な波形を有する傾斜磁場を前記読み出し方向に繰返し印加することによって前記イメージング用の複数の磁気共鳴信号を収集し、収集された前記イメージング用の複数の磁気共鳴信号に基づいて画像データを生成する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施形態に係る磁気共鳴イメージング装置の構成図。
【図2】図1に示すコンピュータの機能ブロック図。
【図3】図2に示す撮像条件設定部において設定されるパルスシーケンス及び傾斜磁場波形選択部において選択されるRO方向における傾斜磁場の波形の選択肢の一例を示す図。
【図4】図2に示すプレスキャン条件設定部において設定されるプレスキャン用の撮像条件の一例を示す図。
【図5】図1に示す磁気共鳴イメージング装置によるイメージングの流れを示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の実施形態に係る磁気共鳴イメージング装置について添付図面を参照して説明する。
【0014】
図1は本発明の実施形態に係る磁気共鳴イメージング装置の構成図である。
【0015】
磁気共鳴イメージング装置20は、静磁場を形成する筒状の静磁場用磁石21、この静磁場用磁石21の内部に設けられたシムコイル22、傾斜磁場コイル23及びRFコイル24を備えている。
【0016】
また、磁気共鳴イメージング装置20には、制御系25が備えられる。制御系25は、静磁場電源26、傾斜磁場電源27、シムコイル電源28、送信器29、受信器30、シーケンスコントローラ31及びコンピュータ32を具備している。制御系25の傾斜磁場電源27は、X軸傾斜磁場電源27x、Y軸傾斜磁場電源27y及びZ軸傾斜磁場電源27zで構成される。また、コンピュータ32には、入力装置33、表示装置34、演算装置35及び記憶装置36が備えられる。
【0017】
静磁場用磁石21は静磁場電源26と接続され、静磁場電源26から供給された電流により撮像領域に静磁場を形成させる機能を有する。尚、静磁場用磁石21は超伝導コイルで構成される場合が多く、励磁の際に静磁場電源26と接続されて電流が供給されるが、一旦励磁された後は非接続状態とされるのが一般的である。また、静磁場用磁石21を永久磁石で構成し、静磁場電源26が設けられない場合もある。
【0018】
また、静磁場用磁石21の内側には、同軸上に筒状のシムコイル22が設けられる。シムコイル22はシムコイル電源28と接続され、シムコイル電源28からシムコイル22に電流が供給されて静磁場が均一化されるように構成される。
【0019】
傾斜磁場コイル23は、X軸傾斜磁場コイル23x、Y軸傾斜磁場コイル23y及びZ軸傾斜磁場コイル23zで構成され、静磁場用磁石21の内部において筒状に形成される。傾斜磁場コイル23の内側には寝台37が設けられて撮像領域とされ、寝台37には被検体Pがセットされる。RFコイル24にはガントリに内蔵されたRF信号の送受信用の全身用コイル(WBC: whole body coil)や寝台37や被検体P近傍に設けられるRF信号の受信用の局所コイルなどがある。
【0020】
また、傾斜磁場コイル23は、傾斜磁場電源27と接続される。傾斜磁場コイル23のX軸傾斜磁場コイル23x、Y軸傾斜磁場コイル23y及びZ軸傾斜磁場コイル23zはそれぞれ、傾斜磁場電源27のX軸傾斜磁場電源27x、Y軸傾斜磁場電源27y及びZ軸傾斜磁場電源27zと接続される。
【0021】
そして、X軸傾斜磁場電源27x、Y軸傾斜磁場電源27y及びZ軸傾斜磁場電源27zからそれぞれX軸傾斜磁場コイル23x、Y軸傾斜磁場コイル23y及びZ軸傾斜磁場コイル23zに供給された電流により、撮像領域にそれぞれX軸方向の傾斜磁場Gx、Y軸方向の傾斜磁場Gy、Z軸方向の傾斜磁場Gzを形成することができるように構成される。
【0022】
RFコイル24は、送信器29及び受信器30の少なくとも一方と接続される。送信用のRFコイル24は、送信器29からRF信号を受けて被検体Pに送信する機能を有し、受信用のRFコイル24は、被検体P内部の原子核スピンのRF信号による励起に伴って発生したNMR信号を受信して受信器30に与える機能を有する。
【0023】
一方、制御系25のシーケンスコントローラ31は、傾斜磁場電源27、送信器29及び受信器30と接続される。シーケンスコントローラ31は傾斜磁場電源27、送信器29及び受信器30を駆動させるために必要な制御情報、例えば傾斜磁場電源27に印加すべきパルス電流の強度や印加時間、印加タイミング等の動作制御情報を記述したシーケンス情報を記憶する機能と、記憶した所定のシーケンスに従って傾斜磁場電源27、送信器29及び受信器30を駆動させることによりX軸傾斜磁場Gx、Y軸傾斜磁場Gy,Z軸傾斜磁場Gz及びRF信号を発生させる機能を有する。
【0024】
また、シーケンスコントローラ31は、受信器30におけるNMR信号の検波及びA/D (analog to digital)変換により得られた複素データである生データ(raw data)を受けてコンピュータ32に与えるように構成される。
【0025】
このため、送信器29には、シーケンスコントローラ31から受けた制御情報に基づいてRF信号をRFコイル24に与える機能が備えられる一方、受信器30には、RFコイル24から受けたNMR信号を検波して所要の信号処理を実行するとともにA/D変換することにより、デジタル化された複素データである生データを生成する機能と生成した生データをシーケンスコントローラ31に与える機能とが備えられる。
【0026】
さらに、磁気共鳴イメージング装置20には、必要に応じて被検体PのECG (electro cardiogram)信号を取得するECGユニット38が備えられる。ECGユニット38により取得されたECG信号はシーケンスコントローラ31を介してコンピュータ32に出力されるように構成される。
【0027】
尚、拍動を心拍情報として表すECG信号の代わりに拍動を脈波情報として表す脈波同期(PPG: peripheral pulse gating)信号を取得することもできる。PPG信号は、例えば指先の脈波を光信号として検出した信号である。PPG信号を取得する場合には、PPG信号検出ユニットが設けられる。
【0028】
また、コンピュータ32の記憶装置36に保存されたプログラムを演算装置35で実行することにより、コンピュータ32には各種機能が備えられる。ただし、プログラムの少なくとも一部に代えて、各種機能を有する特定の回路を磁気共鳴イメージング装置20に設けてもよい。
【0029】
図2は、図1に示すコンピュータ32の機能ブロック図である。
【0030】
コンピュータ32の演算装置35は、記憶装置36に保存されたプログラムを実行することにより撮像条件設定部40及びデータ処理部41として機能する。撮像条件設定部40は、傾斜磁場波形選択部40A、プレスキャン条件設定部40B及び位相差取得部40Cを有する。また、記憶装置36は、k空間データ記憶部42、画像データ記憶部43及び傾斜磁場波形記憶部44として機能する。
【0031】
撮像条件設定部40は、入力装置33からの指示情報に基づいてマルチエコーデータ収集用のパルスシーケンスを含む撮像条件を設定し、設定した撮像条件をシーケンスコントローラ31に出力する機能を有する。より具体的には、撮像条件設定部40は、励起パルスの印加に続いて読出し(RO: readout)方向への所定の波形を有する傾斜磁場パルスの印加を周期的に繰返すことによって、連続的に複数のMRエコー信号を収集するシーケンスを設定する機能を備えている。
【0032】
傾斜磁場波形選択部40Aは、予め励起パルスの印加に続いて連続的に収集された複数のMRエコー信号の位相差情報又は励起パルスの印加に続いて連続的に収集されるイメージング用の複数のMRエコー信号の位相差に影響を与える条件に基づいて、イメージング用の複数のMRエコー信号のRO方向に繰返し印加される傾斜磁場パルスの波形を、複数のMRエコー信号の位相差情報又はイメージング用の複数のMRエコー信号の位相差に影響を与える条件に対応する適切な波形に設定する機能を有する。
【0033】
RO用傾斜磁場のスイッチングによって発生させるMRマルチエコー信号間の位相差は、主として撮像部位におけるフローや動きの度合いに依存して変化する。すなわち、撮像部位に血液等の流速の速いフローが存在すればMR信号の位相差は大きくなる。一方、撮像部位が静止していれば、MR信号の位相差は小さくなる。従って、撮像部位は、MR信号の位相差に影響を与える条件の1つである。
【0034】
但し、撮像部位に血流等のフローや動きが存在しても描出対象が静止している組織や器官であれば、撮像パラメータの調整によってフローや動きのある部分からのMR信号を抑制することができる。この場合には、撮像部位にフローや動きが存在してもイメージング用に収集されるMR信号の位相差への影響は低減される。つまり、撮像部位よりもむしろイメージング用のMR信号の収集対象の速度がMR信号の位相差に支配的となる場合がある。従って、血液や組織等の強調対象となる物質の種類、強調対象となる物質の想定される速度範囲及び撮像目的もMR信号の位相差に影響を与える重要なファクタとなる。
【0035】
加えて、描出対象及び撮像目的に応じて決定されるRO用傾斜磁場のスイッチングによって発生させるエコー信号列の間隔(ETS: echo train space)、フリップ角(FA: flip angle)、繰返し時間(TR: repetition time)、エコー時間(TE: echo time)、プレパルスの種類等の撮像パラメータにも依存してMR信号の位相差が変化する。従って、撮像パラメータもMR信号の位相差に影響を与える条件の1つである。
【0036】
以上より、イメージング用の複数のMRエコー信号の位相差に影響を与える条件としては、撮像パラメータ、撮像部位、強調対象となる物質の種類、強調対象の速度範囲等の撮像条件並びに撮像目的が挙げられる。従って、撮像パラメータ、撮像部位、強調対象の種類、強調対象の速度範囲及び撮像目的の少なくとも1つをイメージング用の複数のMRエコー信号の位相差に影響を与える条件として、RO方向に繰返し印加される傾斜磁場パルスの波形を決定することができる。
【0037】
RO方向に繰返し印加される傾斜磁場パルスの波形は、予め複数の選択肢として準備し、傾斜磁場波形記憶部44に保存しておくことができる。すなわち、上述したようなMRエコー信号の位相差に影響を与える異なる複数の条件に対応する複数の適切な傾斜磁場パルスの波形を傾斜磁場波形記憶部44に保存することができる。
【0038】
従って、傾斜磁場波形選択部40は、入力装置33の操作によってイメージング用の撮像条件として指定されたMR信号の位相差に影響を与える条件に対応する適切な波形を、傾斜磁場波形記憶部44に保存された傾斜磁場パルスの波形の選択肢から選択することによって、イメージング用の複数のMR信号のRO方向に印加される傾斜磁場パルスの波形を自動的に設定することができる。
【0039】
図3は、図2に示す撮像条件設定部40において設定されるパルスシーケンス及び傾斜磁場波形選択部40Aにおいて選択されるRO方向における傾斜磁場の波形の選択肢の一例を示す図である。
【0040】
図3において横軸は時間を示す。図3において(A)はRO方向における傾斜磁場パルスの波形の選択肢の1つを組み込んで得られるEPIシーケンスを、(B), (C)及び(D)はそれぞれRO方向における傾斜磁場パルスの選択肢の1つを組み込んで得られるシーケンス(TUNE1, TUNE2及びTUNE3)を示す。
【0041】
また、図3(A), (B), (C), (D)においてRFはRFパルス及びMRエコー信号を、Gssはスライス選択(SS: slice selection)方向における傾斜磁場パルスを、Gro1, Gro2及びGro3はRO方向における傾斜磁場パルスを、Gpeは位相エンコード(PE: phase encode) 方向における傾斜磁場パルスを、φはMRエコー信号の位相を、それぞれ示す。但し、図3(B), (C)及び(D)では、SS方向における傾斜磁場パルスGssが、図3(A)と同様であることから省略されている。
【0042】
更に直線φ0は速度がゼロのMRエコー信号の位相変化を、曲線φ1は一定の速度で移動するMRエコー信号の位相変化を、それぞれ示す。従って、直線φ0はゼロ次の傾斜磁場モーメントの変化も表しており、曲線φ1は1次の傾斜磁場モーメントの変化も表している。
【0043】
図3(A)は、励起パルスの印加に続いてRO方向に正極性のRO用傾斜磁場パルスと負極性のRO用傾斜磁場パルスを交互に繰返し印加することによって連続的にMRエコー信号を収集するシーケンスである。このシーケンスは、狭義のEPIシーケンスに相当する。狭義のEPIシーケンスを通常のEPIシーケンスと呼ぶことにすると、通常のEPIシーケンスは、RO方向に印加される傾斜磁場パルスが全てMR信号のRO用であるためデータ収集効率が良好である。また、RO用傾斜磁場パルスの長さの調整によって良好なSNRを得ることができる。
【0044】
一方、通常のEPIシーケンスでは、正極側のRO用傾斜磁場パルスと負極側のRO用傾斜磁場パルスの双方によってMRエコー信号が収集される。このため、MRエコー信号の収集タイミングにおいて1次の傾斜磁場モーメントがゼロにならない。従って、フローや動き等によって無視できない速度でMR信号の収集対象が移動する場合には、移動する部分からのMRエコー信号の位相ずれが大きくなる。この結果、フローや動きの影響によって画像にアーチファクトが生じる恐れがある。
【0045】
そこで、通常のEPIシーケンスを用いてフローや動きのある対象をイメージングする場合には、予めプレスキャンによって位相分布を測定し、測定した位相分布に基づいてMR信号の位相補正を行う等の対策が必要となる。
【0046】
図3(B), (C)及び(D)に示すシーケンスは、いずれも励起パルスの印加に続いてRO方向に一方の極性を有するRO用傾斜磁場パルスを断続的に繰返し印加することによって連続的にMRエコー信号を収集するシーケンスである。従って、図3(B), (C)及び(D)に示すシーケンスは、広義のEPIシーケンスであると言うことができる。ここでは、一方の極性を有するRO用傾斜磁場パルスによってMRエコー信号を収集する広義のEPIシーケンスを片エコーEPIシーケンスと称する。
【0047】
片エコーEPIシーケンスでは、隣接するRO用傾斜磁場パルスの間において、RO用傾斜磁場パルスの極性と異なる極性を有する傾斜磁場パルスがRO方向に印加される。このRO方向に断続的かつ繰返し印加されるRO用でない傾斜磁場パルスは、フローや動きの影響による位相シフトを低減するためのFC用傾斜磁場パルスGfcとして機能する。尚、FC用傾斜磁場パルスGfcの波形によっては、MRエコー信号が発生するがサンプリング対象としなければよい。
【0048】
FC用傾斜磁場パルスGfcは、MRエコー信号の収集タイミングにおいて1次の傾斜磁場モーメントをゼロに近づけるための傾斜磁場パルスである。そのため、FC用傾斜磁場パルスGfcの波形を、フローや動きの速度に応じてチューニングすることができる。
【0049】
但し、静止している物体からのMRエコー信号の位相を揃えて画像データを再構成できるようにするめには、MRエコー信号の収集タイミングにおいて0次の傾斜磁場モーメントをゼロにする必要がある。従って、FC用傾斜磁場パルスGfcの面積をRO用傾斜磁場パルスの面積と一致させる制御が必要である。つまり、RO用傾斜磁場パルスの面積と一致させつつ波形を変えるというFC用傾斜磁場パルスGfcのチューニングによって、MRエコー信号の収集タイミングにおける1次の傾斜磁場モーメントを調整することができる。
【0050】
尚、0次、1次又は2次以上の傾斜磁場モーメントをゼロにする技術は、GMN (gradient moment nulling)と呼ばれる。0次の傾斜磁場モーメントは静止しているスピンの位相に対する傾斜磁場の効果を、1次の傾斜磁場モーメントは一定の速度で移動しているスピンの位相に対する傾斜磁場の効果を、2次の傾斜磁場モーメントは一定の加速度で移動しているスピンの位相に対する傾斜磁場の効果を、それぞれ示す。
【0051】
図3(B), (C)及び(D)は、いずれも正極性のRO用傾斜磁場パルスを印加する一方、負極性のFC用傾斜磁場パルスGfcを印加する片エコーEPIシーケンスの例を示している。そして、図3(B), (C)及び(D)に示す片エコーEPIシーケンスは、FC用傾斜磁場パルスGfcの波形をそれぞれチューニングして得られるシーケンスのバリエーション(TUNE1, TUNE2, TUNE3)を示している。
【0052】
図3(B)に示すTUNE1の片エコーEPIシーケンスは、FC用傾斜磁場パルスGfcの印加期間をRO用傾斜磁場パルスの印加期間の1/4に設定したシーケンスである。このTUNE1の片エコーEPIシーケンスでは、MRエコー信号の収集に寄与しないFC用傾斜磁場パルスGfcの印加期間が比較的短い。このため、MR信号の収集効率を向上させることができる。
【0053】
但し、MRエコー信号の収集タイミングにおいて1次の傾斜磁場モーメントをゼロに近づける効果が小さい。従って、MRエコー信号の収集タイミングにおいて速度がゼロのMRエコー信号の位相φ0をゼロにすることはできるが、一定の速度で移動するMRエコー信号の位相φ1はゼロになっていない。一方、図3(A)に示す通常のEPIシーケンスと比べれば、フローや動きの影響によるMRエコー信号の位相ずれを低減させることができる。
【0054】
従って、TUNE1の片エコーEPIシーケンスは、速度が比較的小さい対象からMRエコー信号を効率的に収集する場合に好適と考えられる。すなわち、MRエコー信号の収集対象の移動速度が十分に小さければ、MRエコー信号の位相補正を省略することができる。また、少なくとも図3(A)に示す通常のEPIシーケンスに比べれば、フローや動きの影響によるMR信号の位相ずれ及びMR信号の位相ずれに起因する画質劣化を低減することができる。
【0055】
図3(C)に示すTUNE2の片エコーEPIシーケンスは、FC用傾斜磁場パルスGfcの印加期間をRO用傾斜磁場パルスの印加期間の1/2に設定したシーケンスである。このTUNE2の片エコーEPIシーケンスでは、1次の傾斜磁場モーメントをゼロに近づけるFC用傾斜磁場パルスGfcの効果を良好に発揮させることができる。
【0056】
すなわち、FC用傾斜磁場パルスGfcの印加によって、MRエコー信号の収集タイミングにおいて0次の傾斜磁場モーメントのみならず、1次の傾斜磁場モーメントもゼロに近づけることができる。従って、MRエコー信号の収集タイミングにおいて速度がゼロのMRエコー信号の位相φ0とともに一定の速度で移動するMRエコー信号の位相φ1もゼロにすることができる。
【0057】
従って、TUNE2の片エコーEPIシーケンスは、血液のフローが多い場合など速度が速い対象からMRエコー信号を収集する場合に好適と考えられる。すなわち、MRエコー信号の収集対象の移動速度が大きい場合であっても、FC用傾斜磁場パルスGfcによる位相シフトの抑制効果によって、フローや動きの影響によるMR信号の位相ずれ及びMR信号の位相ずれに起因する画質劣化を低減することができる。また、MRエコー信号の位相補正を省略することができる。
【0058】
図3(D)に示すTUNE3の片エコーEPIシーケンスは、FC用傾斜磁場パルスGfcの波形をV字状にしたものである。このTUNE3の片エコーEPIシーケンスでは、他の片エコーEPIシーケンスに比べてMRエコー信号の時間的な時間効率を一層向上させることができる。加えて、RO用傾斜磁場パルスの印加期間を確保することができる。このため、SNRを向上させることができる。
【0059】
従って、TUNE3の片エコーEPIシーケンスは、速度が比較的小さい対象をMRエコー信号の収集対象とし、特にSNR及びデータ収集効率を優先する場合に好適と考えられる。
【0060】
また、図3(B), (C)及び(D)に例示される片エコーEPIシーケンスに限らず、様々なFC用傾斜磁場パルスGfcの波形を有する片エコーEPIシーケンスを選択肢として予め準備しておくことができる。FC用傾斜磁場パルスGfcの波形及びRO用傾斜磁場パルスの波形の組合せは、上述したようにRO方向に印加される傾斜磁場パルスの波形の選択肢として撮像条件及び撮像目的の一方又は双方と関連付けて傾斜磁場波形記憶部44に保存することができる。
【0061】
例えば、撮像部位が首であれば、血流の影響によるMR信号の位相ずれを抑制することが重要となる。従って、1次の傾斜磁場モーメントをゼロに近づける効果が良好となるTUNE2の傾斜磁場波形を、撮像部位を首とする撮像に適切な波形として関連付けることができる。同様に、血管をイメージングする磁気共鳴血管撮像 (MRA: magnetic resonance angiography)の場合も、血流の影響によるMR信号の位相ずれを抑制することが重要となる。従って、1次の傾斜磁場モーメントをゼロに近づける効果が良好となるTUNE2の傾斜磁場波形を、撮像目的がMRAである場合の適切な波形とすることができる。
【0062】
一方、撮像領域に血流が存在する場合であっても、水抑制法や撮像パラメータの調整等によって血液からの信号を抑制して血液以外の実質部を強調する場合には、静止する部位がMR信号の収集対象となる。この場合、1次の傾斜磁場モーメントをゼロに近づける1次のGMNは重要ではない。換言すれば、FC用傾斜磁場パルスGfcの印加は重要ではない。従って、撮像部位が静止する部位である場合の適切な傾斜磁場の波形として通常のEPIシーケンスの波形を関連付けることができる。
【0063】
具体例として、膝のイメージングを行う場合には、血流の影響を低減することが重要となる。そこで、TRの調整によって血液からのMR信号を抑制できれば、撮像部位及びMR信号の収集対象は、静止する物体とみなすことができる。この場合、血液からのMR信号を抑制するためのTRの値及び撮像部位を膝とする撮像条件に、適切な傾斜磁場の波形として通常のEPIシーケンスの波形を関連付けることができる。
【0064】
逆に、膝のイメージングにおいて撮像パラメータの調整によっても血液からのMR信号を十分に抑制できない場合には、血流の影響を低減することが重要となる。そこで、膝における血流の速度に応じたFC用傾斜磁場パルスGfcの波形を、撮像部位を膝とする撮像条件に関連付けることもできる。
【0065】
また、脊椎や骨盤部等の骨や関節には、殆どフローや動きがない。また、骨や関節を撮像部位とするDiffusion画像やPerfusion画像等の機能画像のイメージングは通常実施されない。従って、骨や関節を撮像部位とする撮像条件には、MR信号の時間的な収集効率が良好なEPIシーケンスの傾斜磁場波形又はTUNE3の傾斜磁場波形を、適切な波形として関連付けることができる。
【0066】
更に、頭部のイメージングを行う場合には、撮像目的に応じて適切な傾斜磁場の波形を変えることができる。例えば、脳組織の縦緩和(T1)強調画像データや横緩和(T2)強調画像データを収集する場合には、拍動の影響を抑制することが重要である。一方、静止する部位がMR信号の収集対象である。そこで、FC用傾斜磁場パルスGfcの効果が得られ、かつデータ収集効率が良好なTUNE3の傾斜磁場波形を、撮像部位を脳組織とする撮像条件と関連付けることができる。
【0067】
一方、頭部におけるDiffusion画像やPerfusion画像等の機能画像をイメージングする場合には、動きを有する部位の撮像に該当するか否かの画一的な判断が困難である。但し、TRの調整によって動きの影響を低減することができる。そこで、TRの値及び頭部のDiffusion画像又はPerfusion画像という撮像条件及び撮像目的を、通常のEPIシーケンスの傾斜磁場波形を関連付けることができる。
【0068】
このように撮像条件や撮像目的等のMR信号の位相シフトに影響を与える多種多様な条件に対応する適切なRO方向の傾斜磁場パルスの波形を、図3に示す各波形及び他の提案されている様々な波形から予め選択して関連付けることができる。そして、互いに異なる複数の条件に対応するRO方向における傾斜磁場パルスの複数の波形が傾斜磁場波形記憶部44に保存されると、入力装置33から入力された条件の特定情報に基づくRO方向における傾斜磁場パルスの波形の自動設定が可能となる。
【0069】
すなわち、傾斜磁場波形選択部40Aおいて、フローや動きによるMR信号の位相ずれの度合いの指標となる撮像部位や撮像パラメータ等の撮像条件及び撮像目的に応じたFC用傾斜磁場パルスGfcの波形を傾斜磁場波形記憶部44から自動選択することが可能となる。換言すれば、傾斜磁場波形選択部40Aによる、撮像条件及び撮像目的の一方又は双方に基づくFC用傾斜磁場パルスGfcの波形のチューニングが可能となる。
【0070】
具体的には、表示装置34に表示されたパルスシーケンス等の撮像条件の編集画面を通じて、入力装置33の操作によって撮像部位等の撮像条件や撮像目的を撮像条件設定部40に入力すると、傾斜磁場波形選択部40Aが撮像条件及び撮像目的に対応するRO方向における傾斜磁場パルスの波形を自動設定するように構成できる。
【0071】
この場合、例えばRO方向における傾斜磁場パルスの波形のデフォルト値を通常のEPIシーケンスの波形とし、フローや動きの影響がある特定の撮像条件や撮像目的が撮像条件設定部40に入力された場合に傾斜磁場波形選択部40Aが傾斜磁場パルスの波形を、傾斜磁場波形記憶部44から取得した撮像条件や撮像目的に応じたFC用傾斜磁場パルスGfcの印加を伴う傾斜磁場パルスの波形に切換えるようにすることができる。或いは、RO方向における傾斜磁場パルスの波形のデフォルト値を定めずに、撮像条件や撮像目的が撮像条件設定部40に入力された場合に傾斜磁場波形選択部40Aが撮像条件や撮像目的に応じた傾斜磁場パルスの波形を傾斜磁場波形記憶部44から選択してイメージング用の撮像条件として設定するようにしてもよい。
【0072】
ここまでは、RO方向における傾斜磁場パルスの波形を、イメージング用の複数のMRエコー信号の位相差に影響を与える条件に基づいて自動設定する場合について説明したが、前述のように、予め収集された複数のMR信号の位相差情報に基づいてRO方向における傾斜磁場パルスの波形を自動設定することもできる。
【0073】
プレスキャン条件設定部40Bは、位相差情報の取得対象となる複数のMRエコー信号を収集するためのプレスキャンの条件を設定する機能を有する。また、位相差取得部40Cは、プレスキャンによって収集された複数のMR信号の位相差を位相差情報として取得する機能を有する。更に、傾斜磁場波形選択部40Aは、位相差取得部40CからMR信号の位相差情報を取得した場合には、位相差情報に基づいてRO方向における傾斜磁場パルスの波形を自動設定するように構成されている。
【0074】
ここでは、プレスキャンの条件及びプレスキャンによって取得される位相差情報として2通りの条件及び位相差情報を例示する。
【0075】
図4は、図2に示すプレスキャン条件設定部40Bにおいて設定されるプレスキャン用の撮像条件の一例を示す図である。
【0076】
図4(A)及び(B)において各横軸は時間を示す。また、図4(A)は簡易なプレスキャンの条件の例を、図4(B)は位相差情報を高精度に取得するためのプレスキャンの条件の例を、それぞれ示す。
【0077】
図4(A)に示すようにプレスキャンは、PE用傾斜磁場パルスの印加を行わない通常のEPIシーケンス、つまり励起パルスの印加に続いてRO用傾斜磁場を繰返し反転して印加することによって複数のMR信号を収集するパルスシーケンスによるスキャンとすることができる。PE用傾斜磁場パルスの印加を行わない通常のEPIシーケンスによりプレスキャンを行うと、k空間の中心軸に投影されたMR信号のプロジェクションデータが得られる。そして、位相差取得部40Cは、収集されたk空間における複数のMR信号の位相差を位相差情報として取得することができる
【0078】
位相差を取得するためには、少なくとも2つのMR信号がプロジェクションデータとして収集されることが必要である。3つ以上のMR信号を収集する場合には、基準となるMR信号に対する各MR信号の位相差を求める方法と、時間的に隣接する2つのMR信号間における位相差を順次求める方法とがある。2次以上の傾斜磁場モーメントの効果が反映される点などを考慮すると、時間的に隣接する2つのMR信号間における位相差を順次求める方法が精度上好適である。3つ以上のMR信号を収集する場合には、複数の位相差の平均値や中間値等の代表値をMR信号の位相差と定義することができる。そして、収集対象となるMR信号の数を増やすことによって、位相差の算出精度を向上させることができる。
【0079】
図4(A)に示すプレスキャンによってMR信号の位相差が取得された場合には、傾斜磁場波形選択部40Aは、位相差の値に応じてイメージング用の複数のMR信号のRO方向に繰返し印加される傾斜磁場の波形を設定することができる。
【0080】
例えば、閾値処理によって位相差の値が十分に小さいと判定される場合には、動きやフローの影響による位相シフトが小さいということになる。従って、イメージングスキャンも通常のEPIシーケンスで実行することができる。このため、イメージング用に印加される傾斜磁場の波形は、通常のEPIシーケンスにおける傾斜磁場の波形に設定することができる。
【0081】
逆に、閾値処理によって位相差の値が中程度又は大きいと判定される場合には、動きやフローの影響による位相シフトを低減するためにFC用傾斜磁場パルスGfcの印加が望ましい。そこで、位相差の程度に応じたFC用傾斜磁場パルスGfcの印加を伴う片エコーEPIシーケンスにおける傾斜磁場の波形をイメージング用に印加される傾斜磁場の波形に設定することができる。つまり、位相差の結果に基づいて、通常のEPIシーケンスから片エコーEPIシーケンスへの切換え及びFC用傾斜磁場パルスGfcのチューニングを簡易に行うことができる。
【0082】
一方、図4(B)に示すプレスキャンでは、RO方向に印加される傾斜磁場の波形が互いに異なる複数のEPIシーケンスが順次実行される。すなわち、通常のEPIシーケンス及びFC用傾斜磁場パルスGfcの波形が互いに異なるTUNE1からTUNEn(nは自然数)までの複数の片エコーEPIシーケンスがプレスキャン用のシーケンスに設定される。また、各EPIシーケンスにおいて、PE用傾斜磁場パルスの印加は設定されない。
【0083】
従って、図4(B)に示すプレスキャンでは、互いに異なる波形を有する複数の傾斜磁場を、それぞれ励起パルスの印加に続いてRO方向に繰返し印加することによって異なる傾斜磁場の波形にそれぞれ対応する複数のMR信号がプロジェクションデータとして収集される。
【0084】
この場合、位相差取得部40Cは、傾斜磁場の異なる波形ごとの複数のMR信号の位相差を位相差情報として取得することができる。すなわち、通常のEPIシーケンスによって収集されたMR信号の位相差及び各波形のFC用傾斜磁場パルスGfcを印加して収集されたMR信号の位相差が位相差情報として取得される。尚、位相差自体の算出方法については図4(A)に示すプレスキャンの場合と同様である。従って、各EPIシーケンスによって、それぞれ少なくとも2つのMR信号が収集される。
【0085】
そして、傾斜磁場波形選択部40Aは、位相差が最小となる傾斜磁場の波形を、イメージング用の複数のMR信号のRO方向に印加される傾斜磁場の波形に設定することができる。
【0086】
このようなプレスキャンの実行によって位相差情報を取得するようにすれば、MR信号の位相に影響を与える多数のパラメータを考慮することなく、実際にパラメータが反映されたMR信号の位相差を確認することが可能である。従って、より確実に傾斜磁場の波形の最適化を行うことができる。
【0087】
上述したような傾斜磁場波形選択部40A、プレスキャン条件設定部40B及び位相差取得部40Cの各機能によって、撮像条件設定部40には、複数のMR信号の位相差情報又はイメージング用に収集される複数のMR信号の位相差に影響を与える条件に対応する適切な波形を有する傾斜磁場を、励起パルスの印加に続いてRO方向に繰返し印加することによってイメージング用の複数のMR信号を収集する撮像条件を設定する機能が備えられる。
【0088】
一方、データ処理部41は、イメージングスキャンによって収集されたイメージング用の複数のMR信号に基づいて画像データを生成する機能を有する。より具体的には、データ処理部41は、イメージングスキャンによって収集されたMR信号をシーケンスコントローラ31から取得してk空間データ記憶部42に形成されたk空間に配置する機能、k空間データ記憶部42からk空間データを取り込んでフーリエ変換(FT: Fourier transform)を含む画像再構成処理を施すことにより画像データを再構成する機能、再構成して得られた画像データを画像データ記憶部43に書き込む機能、画像データ記憶部43から取り込んだ画像データに必要な画像処理を施して表示装置34に表示させる機能を有する。
【0089】
次に磁気共鳴イメージング装置20の動作及び作用について説明する。
【0090】
図5は、図1に示す磁気共鳴イメージング装置20によるイメージングの流れを示すフローチャートである。
【0091】
まず予め寝台37に被検体Pがセットされ、静磁場電源26により励磁された静磁場用磁石21(超伝導磁石)の撮像領域に静磁場が形成される。また、シムコイル電源28からシムコイル22に電流が供給されて撮像領域に形成された静磁場が均一化される。
【0092】
そして、ステップS1において、入力装置33の操作によってRO方向に印加される傾斜磁場Groの波形の決定方法が撮像条件設定部40に入力される。すなわち、撮像条件の設定画面を通じて、RO方向に印加される傾斜磁場の波形Groを、プレスキャンの実行によって決定するのか或いは撮像条件や撮像目的に基づいて決定するのかを指示する情報が撮像条件設定部40に入力される。
【0093】
プレスキャンの実行によって決定する方法が選択された場合には、ステップS2の判定において撮像条件設定部40はYESと判定する。そして、ステップS3において、プレスキャン条件設定部40Bは、図4に示すようなプレスキャンの条件を設定し、設定された条件に従ってプレスキャンが実行される。この結果、プレスキャンのタイプに応じたMR信号の位相差が位相差取得部40Cによって取得される。
【0094】
尚、図4(A)及び(B)に示すようなプレスキャンのタイプの選択も、撮像条件の設定画面を通じた入力装置33の操作によって行うことができる。すなわち、プレスキャンのタイプの選択情報をプレスキャン条件設定部40Bに入力することによって、所望のプレスキャンのタイプを選択することができる。
【0095】
次に、ステップS4において、傾斜磁場波形選択部40Aは、プレスキャンよって取得されたMR信号の位相差に基づいて、MR信号の位相差がより小さくなるような傾斜磁場の波形Groをイメージング用の傾斜磁場の波形Groに設定する。
【0096】
一方、ステップS1において、入力装置33の操作によって撮像条件及び/又は撮像目的に基づく傾斜磁場の波形Groの設定が撮像条件設定部40に指示された場合には、ステップS2の判定において撮像条件設定部40はNOと判定する。
【0097】
そして、ステップS5において、傾斜磁場波形選択部40Aは、撮像条件の設定画面を通じた入力装置33の操作によって撮像条件設定部40に入力された撮像条件及び撮像目的の少なくとも一方に対応する適切な傾斜磁場の波形Groを傾斜磁場波形記憶部44から選択する。更に、傾斜磁場波形選択部40Aは、選択した傾斜磁場の波形Groをイメージング用の傾斜磁場の波形Groに設定する。
【0098】
次に、ステップS6において、撮像条件設定部40は、イメージング用に設定された傾斜磁場の波形Groを組み込んだマルチエコーデータ収集用のパルスシーケンスを撮像条件として設定する。すなわち、イメージング用に設定された波形を有する傾斜磁場を繰返し印加することによってイメージングデータを収集する撮像条件が撮像条件設定部40により設定される。更に、その他の撮像条件が撮像条件設定部40により設定される。例えば、撮像目的によってはECG信号等の同期信号を用いた同期イメージングの撮像条件が設定される。
【0099】
次に、ステップS7において、シーケンスコントローラ31や静磁場用磁石21等のスキャンを実行するための磁気共鳴イメージング装置20の構成要素によって、撮像条件に基づくイメージングスキャンが実行される。
【0100】
より具体的には、入力装置33から撮像条件設定部40にスキャン開始指示が与えられると、撮像条件設定部40はパルスシーケンスを含む撮像条件をシーケンスコントローラ31に出力する。そうすると、シーケンスコントローラ31は、パルスシーケンスに従って傾斜磁場電源27、送信器29及び受信器30を駆動させることにより被検体Pがセットされた撮像領域に傾斜磁場を形成させるとともに、RFコイル24からRF信号を発生させる。
【0101】
このため、被検体Pの内部における核磁気共鳴により生じたMR信号が、RFコイル24により受信されて受信器30に与えられる。受信器30は、MR信号に所要の信号処理を実行した後、A/D (analog to digital)変換することにより、デジタルデータのMR信号である生データを生成する。受信器30は、生成した生データをシーケンスコントローラ31に与える。シーケンスコントローラ31は、生データをコンピュータ32に出力する。そうすると、データ処理部41は、イメージングスキャンによって収集されたイメージング用の複数のMR信号に基づいて画像データを生成する。
【0102】
ここで、画像データの生成に用いられたMR信号は、プレスキャンによって取得された位相差情報又は撮像条件や撮像目的等の位相に影響を与える条件に応じて適切にチューニングされたRO方向の傾斜磁場パルスの印加によって収集されたものである。従って、フローや動きの影響が低減された良好な画質を有する画像データを生成することができる。そして、生成された画像は表示装置34に表示させて診断に供することができる。
【0103】
つまり以上のような磁気共鳴イメージング装置20は、フローや動きの影響を低減するために、プレスキャンによって取得された位相差情報又は撮像条件や撮像目的等の位相に影響を与える条件に応じてマルチエコーデータ収集シーケンスにおけるFC用傾斜磁場パルスGfcの波形をチューニングできるようにしたものである。より具体的には、磁気共鳴イメージング装置20は、通常のEPIシーケンスと片エコーEPIシーケンスとの間における切換え及び片エコーEPIシーケンスにおいて印加されるFC用傾斜磁場パルスGfcの波形の切換えを、プレスキャンによって取得された位相差情報又は撮像条件や撮像目的等の位相に影響を与える条件に応じて自動的に行えるようにしたものである。
【0104】
このため、磁気共鳴イメージング装置20によれば、フローや動きの影響の抑制に重要なFC用傾斜磁場パルスGfcの波形を最適化することができる。すなわち、フローや動きの影響が大きい場合には、FC用傾斜磁場パルスGfcの効果が大きくなるようにFC用傾斜磁場パルスGfcの印加時間の割合を増加させる一方、フローや動きの影響が小さい場合には、FC用傾斜磁場パルスGfcの印加時間の割合を減少させることによってスキャン時間を短縮することができる。この結果、フローや動きの有無に依らず良好な画質を維持し、かつ短時間でイメージングを行うことが可能となる。
【0105】
以上、特定の実施形態について記載したが、記載された実施形態は一例に過ぎず、発明の範囲を限定するものではない。ここに記載された新規な方法及び装置は、様々な他の様式で具現化することができる。また、ここに記載された方法及び装置の様式において、発明の要旨から逸脱しない範囲で、種々の省略、置換及び変更を行うことができる。添付された請求の範囲及びその均等物は、発明の範囲及び要旨に包含されているものとして、そのような種々の様式及び変形例を含んでいる。
【符号の説明】
【0106】
20 磁気共鳴イメージング装置
21 静磁場用磁石
22 シムコイル
23 傾斜磁場コイル
24 RFコイル
25 制御系
26 静磁場電源
27 傾斜磁場電源
28 シムコイル電源
29 送信器
30 受信器
31 シーケンスコントローラ
32 コンピュータ
33 入力装置
34 表示装置
35 演算装置
36 記憶装置
37 寝台
38 ECGユニット
40 撮像条件設定部
40A 傾斜磁場波形選択部
40B プレスキャン条件設定部
40C 位相差取得部
41 データ処理部
42 k空間データ記憶部
43 画像データ記憶部
44 傾斜磁場波形記憶部
P 被検体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
励起パルスの印加に続いて連続的に収集された複数の磁気共鳴信号の位相差情報又は励起パルスの印加に続いて連続的に収集されるイメージング用の複数の磁気共鳴信号の位相差に影響を与える条件に基づいて、前記イメージング用の複数の磁気共鳴信号の読み出し方向に繰返し印加される傾斜磁場の波形を、前記位相差情報又は前記条件に対応する適切な波形に設定する波形設定手段と、
励起パルスの印加に続いて前記適切な波形を有する傾斜磁場を前記読み出し方向に繰返し印加することによって前記イメージング用の複数の磁気共鳴信号を収集し、収集された前記イメージング用の複数の磁気共鳴信号に基づいて画像データを生成するイメージング手段と、
を備える磁気共鳴イメージング装置。
【請求項2】
互いに異なる波形を有する複数の傾斜磁場を、それぞれ励起パルスの印加に続いて読み出し方向に繰返し印加することによって前記異なる波形にそれぞれ対応する複数の磁気共鳴信号を収集し、前記異なる波形ごとの複数の磁気共鳴信号の位相差を前記位相差情報として取得するプレスキャン手段を更に備え、
前記波形設定手段は、前記位相差が最小となる波形を、前記イメージング用の複数の磁気共鳴信号の読み出し方向に印加される傾斜磁場の波形に設定するように構成される請求項1記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項3】
励起パルスの印加に続いて読出し用傾斜磁場を繰返し反転して印加することによって収集した複数の磁気共鳴信号の位相差を前記位相差情報として取得するプレスキャン手段を更に備え、
前記波形設定手段は、前記位相差の値に応じて前記イメージング用の複数の磁気共鳴信号の読み出し方向に繰返し印加される傾斜磁場の波形を設定するように構成される請求項1記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項4】
前記波形設定手段は、撮像パラメータ、撮像部位、強調対象の種類、強調対象の速度範囲及び撮像目的の少なくとも1つを前記位相差に影響を与える条件とするように構成される請求項1記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項5】
前記位相差に影響を与える異なる複数の条件に対応する複数の適切な波形を保存する記憶手段を更に備え、
前記波形設定手段は、指定された条件に対応する適切な波形を前記記憶手段から取得して前記イメージング用の複数の磁気共鳴信号の読み出し方向に印加される傾斜磁場の波形に設定するように構成される請求項1又は4記載の磁気共鳴イメージング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−70765(P2013−70765A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−210831(P2011−210831)
【出願日】平成23年9月27日(2011.9.27)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(594164542)東芝メディカルシステムズ株式会社 (4,066)
【Fターム(参考)】