説明

磁気共鳴測定装置

【課題】サイズの大きな評価対象物にも対応可能で、複数の周波数点でも評価が可能な高感度磁気共鳴測定装置を提供する。
【解決手段】磁気共鳴装置はマイクロ波信号を発生する発信器と、信号を試料に送る送信器と、試料を挟み送信器と対向する位置に配置され共鳴信号を受ける受信器、バンドパスフィルタと、受信回路と、磁場を印加する磁場発生器を備える。バンドパスフィルタの帯域幅(BW)はマイクロ波周波数f、平均電力P、送信器利得Gtx、受信器利得Grx、発信器から送信器までの減衰量Γtx、送信器から前記受信回路までの減衰量をΓrx、温度T、送信器から試料までの距離をd1、試料厚さd2、試料から受信器までの距離d3、それぞれの減衰量をΓd1、Γd2、Γd3としたとき、P+Gtx+Grx-(Γtx+Γd1+Γd2+Γd3+Γrx)>10×log(k×T×BW×109)(kはボルツマン定数)の条件を満たす様にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、磁気共鳴測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の不対電子を持つ物質の検出は、磁気共鳴測定装置により行われている。磁気共鳴測定装置は、共振器に測定対象物を入れた状態でマイクロ波を照射し、生じた電気スピン共鳴を測定する。共振器内に測定対象物を入れるため、磁気共鳴測定装置は多くの制限を受ける。例えば、磁気共鳴測定装置は、評価できるサイズが共振器のサイズに依存すること、単一の周波数でしか評価できないこと、また、共振器結合分の結合損と帯域に依存して受信感度が劣化することが問題となる。
【0003】
従来技術では、半波長で共振する空洞共振器が使われており、測定周波数がL帯(1〜2GHz帯)でも半波長が15cm以下となる。そのため、測定対象物を共振器内に入れるために、測定対象物は小さな試料に限られる。
【0004】
また、従来技術では、共振器との結合を大きく取ると結合損は小さくできるが、共振特性がブロードな特性となることからノイズの量が多く受信回路系に入る。逆に結合を小さくした場合には、狭帯域な特性となることから受信部へのノイズを低減できるが、結合損が大きくなる。そのために系の受信感度が劣化する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−151676号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、従来よりもサイズの大きな評価対象物に対応可能であり、高感度な磁気共鳴測定装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】

実施形態の磁気共鳴装置では、マイクロ波信号を生ずるように構成された発信器と、
それに接続され、前記発信器からの信号を検査試料に対して送るように構成された送信器と、を備える。
【0008】
また、この検査試料を挟み前記送信器と対向する位置に配置され、この検査試料からの信号を受けるように構成された受信器と、それに接続された帯域幅BW(MHz)のバンドパスフィルタと、それに接続され、バンドバスフィルタを経た受信器からの信号を増幅し、予め設定された情報に前記増幅された信号を処理するように構成された受信回路と、この検査試料に対して磁場を印加するように構成された磁場発生器と、を備える。
【0009】
さらに、このマイクロ波信号の周波数がf(MHz)、平均電力がP(dBm)であり、前記送信器の利得がGtx(dBi)、前記受信器の利得がGrx(dBi)であり、前記発信器から送信器までの減衰量がΓtx(dB)であり、前記送信器から前記受信回路までの減衰量をΓrx(dB)であり、前記送信器から前記検査試料までの距離をd1(m)、検査試料の厚みをd2(m)、検査試料から受信器までの距離をd3(m)とし、それぞれの減衰量をΓd1(dB)、Γd2(dB)およびΓd3(dB)としたとき、温度T(K)のとき、前記バンドパスフィルタの帯域幅(BW)はP+Gtx+Grx-(Γtx+Γd1+Γd2+Γd3+Γrx)>10×log(k×T×BW×109)(ここで、kはボルツマン定数である)の条件を満たしている。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】磁気共鳴測定装置の1例を示すブロック図。
【図2】第1の実施の形態の磁気共鳴測定装置の概略ブロック図。
【図3】従来技術における共振器を用いた帯域制限のイメージ図。
【図4】第1の実施形態の磁気共鳴測定装置の狭帯域フィルタを用いた帯域制限のイメージ図。
【図5】第1の実施形態の磁気共鳴測定装置のマイクロストリップラインを用いたフィルタのレイアウト図の1例。
【図6】第1の実施形態の磁気共鳴測定装置のマイクロストリップラインの断面構造図。
【図7】第1の実施形態の磁気共鳴測定装置の超伝導フィルタと低雑音増幅器を同時冷却したときの具体例を示す図。
【図8】第1の実施形態の磁気共鳴測定装置の超伝導フィルタと低雑音増幅器と受信アンテナを同時冷却したときの具体例を示す図。
【図9】第2の実施形態の磁気共鳴測定装置の2週波数信号源を用いた場合の具体例を示す図。
【図10】第2の実施形態の磁気共鳴測定装置の電力合成器の具体例を示す図
【図11】第2の実施形態の磁気共鳴測定装置の電力合成器の具体例を示す図。
【図12】第3の実施の形態の磁気共鳴測定装置の概略ブロック図。
【図13】第4の実施の形態の磁気共鳴測定装置の概略ブロック図。
【図14】第4の実施の形態の磁気共鳴測定装置のGtx<Grxの条件のときのアンテナビームパターンのイメージ図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
実施形態の磁気共鳴測定装置は、検出対象に関する核磁気共鳴(NMR)および/または電子スピン共鳴(ESR)などの磁気共鳴を利用して被測定物を検査または測定する装置である。
【0012】
図1に示すように、実施形態の磁気共鳴測定装置の原理は、マイクロ波信号を生ずるように構成された発信器(20)と、それに接続され、前記発信器からの信号を被測定物である検査試料に対して送るように構成された送信器(21)と、前記検査試料(22)を挟み前記送信器と対向する位置に配置され、前記検査試料からの信号を受けるように構成された受信器(23)と、それに接続された帯域幅BW(MHz)のバンドパスフィルタ(24)と、それに接続され、受信器からの信号を増幅し、予め設定された情報に前記増幅された信号を処理するように構成された受信回路(25)と、前記検査試料(22)に対して磁場を印加するように構成された磁場発生器(26)とを具備する。
【0013】
発信器(20)は、マイクロ波信号を出す信号源と、信号源からの信号を増幅する増幅器と、増幅された信号を検査試料に送る送信器を含んでよい。送信器(21)は、検査試料に対して指向性のあるそれ自身公知の何れかの送信器であればよく、例えば、送信アンテナである。
【0014】
磁場発生器(26)は、検体試料に対して磁場を与えることが可能な磁場発生器であればよく、例えば、一般的にNMR装置およびESR装置に使用される何れかの磁場発生器であってよい。
【0015】
受信器(23)は、検査試料を得て送られる信号を受けることが可能なそれ自身公知の何れかの受信器であればよく、例えば、受信アンテナである。
【0016】
バンドパスフィルタ(24)は、受信器(23)からの信号から所望の周波数の信号を分離するための手段である。バンドフィルタ(24)の帯域幅(BW)は次の条件を満たすものであればよい。即ち、当該発信器20のマイクロ波信号の周波数がf(MHz)、当該発信器20の平均電力がP(dBm)であり、当該送信器(21)の利得がGtx(dBi)、当該受信器(23)の利得がGrx(dBi)であり、当該発信器(20)から送信器(21)までの減衰量がΓtx(dB)であり、当該送信器(21)から当該受信回路(25)までの減衰量をΓrx(dB)であり、当該送信器(21)から当該検査試料(22)までの距離をd1(m)、当該検査試料(22)の厚みをd2(m)、当該検査試料(22)から受信器(23)までの距離をd3(m)とし、それぞれの減衰量をΓd1(dB)、Γd2(dB)およびΓd3(dB)としたとき、温度T(K)のとき、当該バンドパスフィルタ(24)の帯域幅(BW)はP+Gtx+Grx-(Γtx+Γd1+Γd2+Γd3+Γrx)>10×log(k×T×BW×109)(ここで、kはボルツマン定数である)の条件を満たすフィルタである。バンドパスフィルタ(24)の例は、超伝導材料により波長を分離する超伝導フィルタである。
【0017】
受信回路(25)は、バンドパスフィルタ(24)を経た受信器(23)からの信号を増幅し、且つ増幅された信号を予め設定された情報に処理することが可能な回路であればよい。受信回路(24)は、低雑音増幅器と、ミキサおよびローカル信号源などによる周波数変換器とを含み、更に任意に例えば、コンピュータなどの信号処理回路とを含んでよい。
【0018】
以下、図面を参照しつつ、更に実施形態の幾つかの例について説明する。
【0019】
(第1の実施の形態)
図2は、第1の実施の形態の磁気共鳴測定装置の概略ブロック図である。
【0020】
磁気共鳴装置として核磁気共鳴を利用するものはNMR装置であり、電子スピン共鳴を利用するものはESR装置が代表的なものとなる。
【0021】
周波数f(MHz)、平均電力P(dBm)のマイクロ波信号を出す信号源(101)と増幅器(102)とそれに接続される利得Gtx(dBi)を持つ送信アンテナ(103)を有し、増幅器(103)から送信アンテナ(103)までの減衰量をΓtx(dB)とする。対向位置にd(m)の距離を置いて利得Grx(dBi)を持つ受信アンテナ(106)が配置される。送信アンテナ(103)と受信アンテナ(106)の間には被測定物(105)である検査試料が置かれる。送信アンテナ(103)から検査試料までの距離をd1(m)、検査試料の厚みをd2(m)、検査試料から受信アンテナ(106)までの距離をd3(m)とし、それぞれの減衰量をΓd1(dB)、Γd2(dB)、Γd3(dB)とする。前記受信アンテナ(106)には帯域幅BW(MHz)のバンドパスフィルタ(107)が接続され、受信回路としての低雑音増幅器(108)、ミキサ(109)とローカル信号源(110)とによる周波数変換器、および信号処理回路(111)が接続されて送受信系が構成される。受信アンテナ(106)から低雑音増幅器(108)までの減衰量をΓrx(dB)とする。また、検査試料への磁場を印加する磁場発生器(104)を持ち、磁場の強さを可変できる機能を持つ。
【0022】
ここで、送受信系には、信号源(101)、増幅器(102)、送信アンテナ(103)、受信アンテナ(106)、バンドパスフィルタ(107)、低雑音増幅器(108)、周波数変換機、および信号処理回路(111)が含まれる。送信系は、信号源(101)、増幅器(102)および送信アンテナ(103)を含む。受信系は、受信アンテナ(106)、バンドパスフィルタ(107)、低雑音増幅器(108)、周波数変換機、および信号処理回路(111)を含む。受信回路には、低雑音増幅器(108)、周波数変換機および信号処理回路(111)が含まれる。周波数変換機には、ミキサ(109)およびローカル信号源(110)が含まれる。
【0023】
温度がT(K)のときBWはP+Gtx+Grx−(Γtx+Γd1+Γd2+Γd3+Γrx)>10×log(k×T×BW×10)の条件を満たす帯域幅を持つことを特徴とする磁気共鳴測定装置である。ここで、kはボルツマン定数であり、約1.38×10−23(J/K)である。上記右辺は300Kの温度の時には−114+10×log(BW)(dBm)の値となる。
【0024】
第1の実施形態の磁気共鳴測定装置では被測定物(105)のサイズが測定周波数に依存せずに評価することが可能であり、従来不可能であった共振器サイズ以上の被測定物(105)を評価することが可能となる。また、共振器との結合損やアイソレータの損失が無いことから受信回路に被測定物(105)での特性を直接に伝えることができる。また、従来技術ではノイズの帯域制限は被測定物(105)を入れる空洞共振器が行っており、共振器結合による結合損を小さくするために大きな結合係数が用いられている。例えば、結合係数0.1の場合、共振周波数の0.1倍の電力半値幅をもち、この周波数帯のノイズの積分値が増幅器に入ってしまうことから信号減衰の大きな被測定物のESR信号がノイズレベルよりも大きな信号であっても検出が不可能である。熱雑音によるノイズはホワイトな特性を持つ白色雑音であることから周波数帯によらず一定の値を持つ。第1の実施形態の磁気共鳴測定装置によれば、図3に示すとおり、上述のようなバンドパスフィルタを使用することにより、狭帯域なフィルタリングが可能となる。それによりノイズの帯域制限を行うことで、低雑音増幅器(108)への雑音量の入力量を大きく削減できる。それによって高感度な磁気共鳴測定装置を構築することが可能となる。従来のように共振器を用いる磁気共鳴測定装置の場合では、測定周波数を狭帯域にすると、図3の破線のように検出されるべき信号についても大きく信号減衰が生じる(図4)。
【0025】
このような当該バンドパスフィルタは「狭帯域フィルタ」とも称される。
【0026】
また、被測定物(105)でのマイクロ波による発熱の影響を除去するためには被測定物の放熱量以下の電力で送信する必要があり、必要な受信感度を得るためには超伝導フィルタを用いることが好ましい。これにより信号減衰なしにノイズを大きく削減することが可能となる。
【0027】
超伝導フィルタの実施形態として、マイクロストリップラインを用いたフィルタのレイアウト例を図5に示す。マイクロストリップラインを用いたくし型共振器(303)7個のフィルタであり、A−A’の断面構造を図6に示す。マイクロストリップラインは誘電体基板(304)の片面に信号導体(301)、もう一面がグランド導体(306)からなる一般的な高周波用の導波路であり、くし型共振器(303)の長さが共振周波数を決めており、フィルタとしての通過する周波数帯の中心周波数を決めている。また、入力線路(301)や出力線路(302)とくし型共振器(303)の距離やくし型共振器(303)間の距離を最適にすることにより帯域幅が決定できる。このようなフィルタは、超伝導フィルタ信号導体とグランド導体に超伝導体を用いてよい。
【0028】
超伝導体としてはNbSn、MgB、イットリウム系高温超伝導体(YBaCu7−x)、ビスマス系高温超伝導体(BiSrCaCu8+x、BiSrCaCu10+x)をはじめ各種材料を利用できる。
【0029】
また、図7に示すように、MOS系のトランジスタを用いた低雑音増幅器(108)も超伝導フィルタと一緒に冷却することで低NFな特性を生かした高感度受信系を組むことができる。これはMOS系のトランジスタの材料特性の移動度が温度低下とともに上昇する特性を持つことに起因する。
【0030】
また、図8に示すように、受信アンテナ(106)も超伝導の材料でつくり、配線も超伝導で作成した場合には、受信アンテナ(106)から低雑音増幅器(108)までの損失がほぼゼロとなる。従って、さらに高感度な受信系を組むことが可能である。低雑音増幅器(108)を多段にする場合には、全ての増幅器を冷却してもよいが、1段目の増幅器までを冷却すれば、2段目の増幅器は冷却しなくとも同等の高感度な特性を維持させることも可能となる。
【0031】
(第2の実施の形態)
図9は、第2の実施の形態の磁気共鳴測定装置の例を示す概略ブロック図である。
【0032】
図9の磁気共鳴測定装置では、互いに異なる2つ以上のマイクロ波信号を出す2つ以上の信号源(101)とそれぞれの信号を合成する合成器(113)を持ち、合成された信号が送信アンテナ(103)から出力される。出力された信号は、磁場発生器(104)からの磁場の下に置かれた検査試料(105)に印加される。検査試料(105)から放出される磁気共鳴信号を含む信号を、検査試料(105)を挟んで送信アンテナ(103)に対向して配置された受信アンテナ(106)で受け、これに2つ以上で接続された周波数分波器(112)により当該信号は分波され、分波された信号は、各周波数分波器(112)に経路ごとに接続された低雑音増幅器(108)、ミキサ(109)とローカル信号源(110)とによる周波数変換器、および信号処理回路(111)に送られる。
【0033】
第2の実施形態の磁気共鳴測定装置では、同時に複数の周波数により検査試料における磁気共鳴を評価することが可能となる。電子スピンの共鳴周波数はスピンの状態によって異なる周波数となることから、この方法により複数の電子スピン状態を評価できる。ここで、複数の周波数分波器(112)は、各々帯域幅がP+Gtx+Grx−(Γtx+Γd1+Γd2+Γd3+Γrx)>10×log(k×T×BW×10)の条件を満たすように構成される。
【0034】
図10を参照しながら、合成器(113)に電力分配器を利用する例を以下に説明する。図10には、マイクロストリップ線路を用いた2分配ウィルキンソン型分配器を2段構成とした4分配器の電力分配器を示す。
【0035】
当該電力分配器は、50オームの線路601の一端に、入力ポート1が設けられ、他端に70.7オームの1/4波長の2つの線路602(1)、602(2)の一端が接続される。線路602(1)、602(2)の他端どうしは50オームの抵抗603で接続され、これにより2分配器が構成される。この2分配器を2段構成にすることで4分配器が実現される。2段目における各1/4波長の線路605(1)〜605(4)には50オーム線路606(1)〜606(4)の一端が接続され、50オーム線路606(1)〜606(4)の他端には、出力ポート2〜5が設けられる。607、608は50オームの抵抗である。
【0036】
このような電気分配器の前記出力ポート2〜5を入力ポートとして、入力ポート1を出力ポートとして使用することにより、このような電気分配器を図9における合成器(113)として利用することができる。
【0037】
図11は、アイソレーション特性を犠牲に低損失重視で4分配器を構成した例を示す。
【0038】
50オームの線路601の一端に、入力ポート11が設けられ、他端に100オームの1/4波長の4つの線路604(1)〜604(4)の一端が接続される。線路604(1)〜604(4)の他端には50オーム線路609(1)〜609(4)が接続される。50オーム線路609(1)〜609(4)の出力側には出力ポート12〜15が設けられる。このような電気分配器もまた合成器(113)として利用できる。即ち、出力ポート12〜15を入力ポートとして、入力ポート11を出力ポートとして使用することにより合成器(113)とすることが可能である。
【0039】
(第3の実施の形態)
図12は、第3の実施の形態の磁気共鳴測定装置の1例を示す概略ブロック図である。
【0040】
第3の実施形態の磁気共鳴測定装置は、発信器として、マイクロ波を生ずるように構成された発信回路と、生じたマイクロ波を増幅する増幅器を含む送信信号発生器(201)を含む。送信信号発生器(201)から出た信号を稼動可能な送信アンテナ(203)から検査試料に印加する。このとき、被測定物(205)は、磁場発生器(204)から生じた磁場内に位置する。磁場発生器(204)は、磁場変調器(202)により制御され、磁場を変調可能である。印加された磁場内の被測定物(205)からの信号は、受信アンテナ(206)により受信される。このとき、送信アンテナ(203)の位置情報が、送信アンテナ位置の検出手段である位置情報検出器としての画像入力部(213)から得られ、その位置情報は、制御部(210)に送られる。得られた位置情報に基づいた制御による制御部(210)による制御により、可動可能な受信部(230)が移動する。即ち、制御部(210)による制御により、受信部(230)を支持する受信部移動器(212)が移動し、それにより受信部(230)が移動し、磁場内で送信アンテナ(203)からの信号を印加された被測定物(205)からの信号を受ける。受信部(230)は、受信アンテナ(206)と、それに接続された狭帯域フィルタ(207)と、それに接続された低雑音増幅器(208)と、それに接続された検波部(209)を具備する。受信アンテナ(206)により受信された信号は、狭帯域フィルタ(207)により分波され、得られた分波された信号は低雑音増幅器(208)により増幅され、検波部(209)に送られる。検波部(209)は、ミキサおよびローカル信号源などによる周波数変換器と、信号処理回路とを含む。検波部(209)では、送られた信号について周波数変換器が周波数変換した後、信号の大きさと、画像入力部(213)から得られた位置情報および画像などの情報並びに予め記憶されたプログラムおよび/またはテーブルなどの情報に基づいて、当該周波数変換された信号を、信号処理回路により処理し、表示部(211)に情報を表示する。
【0041】
第3の実施形態の磁気共鳴装置では、送信アンテナ(203)と受信アンテナ(206)の受信位置から被測定物(205)の測定断面位置を変更しての評価することが可能となる。このときに各測定断面位置で、磁場変調器(202)により磁場発生器(204)を制御し、磁場を変調して評価を行うことも可能である。磁場変調器(202)の制御は、予め記憶されたプログラムおよび/またはテーブルなどの情報に基づいて制御部(210)により行われてもよく、更に制御部に接続された入力部(図示せず)から、オペレータにより入力された情報に基づいて制御されてもよい。制御部はコンピュータであってもよい。
【0042】
検波部(209)は、ミキサおよびローカル信号源などによる周波数変換器と、例えば、コンピュータなどの信号処理回路とを含む。当該信号処理回路は、当該磁気共鳴測定装置を構成する他の構成要素、例えば、検波部(209)および/または制御部(210)などと一体化されて具備されてもよく、他の構成要素からは別の構成要素として互いに信号を送受信可能な状態で接続されて具備されてもよい。信号処理回路は、例えば、コンピュータであってよい。
【0043】
表示部(211)への情報の表示は、画像入力部(213)からの画像と、測定された磁気共鳴信号に基づく評価情報が組み合わされた形式でなされてもよい。
【0044】
送信アンテナは、オペレータが手に持って、任意の位置に動かしてもよく、可動可能な支持体に固定して、オペレータの手動により、または制御部の制御により任意の位置に動かしてもよい。
【0045】
2次元のスライス画像や3次元のイメージング画像を作成する場合には一般的なMRI等の装置と同様の方法が利用可能である。例えば、静磁場とは別に、距離に比例した強度を持つ磁場(即ち、傾斜磁場)をかけ、傾斜磁場によって電子スピンの位相や周波数が変化する情報を得ればよい。実際に観測するのは個々の信号の合成されたものであるから、得られた信号を解析する際に二次元ないし三次元のフーリエ変換を行うことで個々の位置の信号(即ち、各位置における電子スピンに比例する)に分解し、画像情報を得ればよい。得られた画像情報を元にESR評価情報の被測定物の表面情報を画像入力部の実画像に合わせたり、別に取得したMRIやX線CTなどの情報に重ねて表示したりすることが可能である。これにより、より多くの情報を提供することが可能となる。そのような機能を当該磁気共鳴測定装置に付与する場合には、必要に応じてそれ自身公知の構成要素を当該磁気共鳴測定装置の構成要素に追加すればよい。
【0046】
上述した例では、画像情報を元に送信アンテナ位置を特定する例を示したが、送信アンテナ自身にジャイロを内蔵させて基準位置からの変位データを取得する方法など、それ自身公知の何れか他の送信アンテナの位置検出方法も利用することが可能である。
【0047】
(第4の実施の形態)
図13は、本発明の第4の実施の形態の磁気共鳴測定装置の1例を示す概略ブロック図である。
【0048】
第4の実施形態の磁気共鳴装置では、受信部の数を複数用いた場合の例である。受信部が複数あり、且つ可動しないことを除いては第3の実施の形態と同様の構成であってよい。複数の受信部は、被測定物を挟んで、送信アンテナ(203)および画像入力部(213)に対向して配置される。各受信部は、受信アンテナ(206)と、狭帯域フィルタ(207)と、低雑音増幅器(208)と、検波部(209)と、受信部切替え器(214)を含んでよい。受信アンテナ(206)は、被測定物205に向けて、縦および/または横に2または2以上で並べて配置されてよい。また、被測定物205を中心に円弧を描くように縦および/または横に2または2以上で並べて配置されてもよい。
【0049】
これらの複数の受信アンテナ(206)の受信は、送信アンテナ位置に応じて、最適な位置の受信部のみの信号を受信するように切り替えが可能であるように構成される。それにより、受信部が移動することなく、所望の位置のみを選択して受信部の稼働の有無を切り替えて信号を受信し、受信した信号により評価を行うことが可能である。可動部を持たないので高速な検出および評価が可能となる。特にGtx<Grxなる関係を持つ送信アンテナを用いることによって、送信アンテナから広範囲に電波を出し、受信アンテナで空間的に分離された信号としてそれぞれの経路の信号を同時に検出および/または評価することが可能となる。このような送信アンテナは、可動可能なプローブとして有用である。
【0050】
送信アンテナのアンテナビームパターンのイメージ図を図14に示す。Gtx<Grxの条件では送信ビームは広範囲に送信され、受信ビームは鋭く狭い範囲の電力を検出する。送信アンテナ203からの送信ビームは、ビームパターン401のように広がる。この送信ビームパターン401は、受信アンテナ206の受信ビームパターン402よりも広範である。
【0051】
以上説明した少なくとも一つの実施形態の磁気共鳴装置によれば、従来よりもサイズの大きな評価対象物に対応可能であり、高感度な磁気共鳴測定装置を提供することができる。
【0052】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0053】
20 発信器、21 送信器、22 検査試料、23 受信器、24 バンドパスフィルタ、25 受信回路、26 磁場発生器、101 信号源、102 増幅器、103 送信アンテナ、104 磁場発生器、105 被測定物、106 受信アンテナ、107 バンドパスフィルタ、108 低雑音増幅器、109 ミキサ、110 ローカル信号源、111 信号処理回路、112 周波数分波器、113 合成器、201 送信信号発生器、202 磁場変調器、203 送信アンテナ、204 磁場発生器、205 被測定物、206 受信アンテナ、207 狭帯域フィルタ、208 低雑音増幅器、209 検波部、210 制御部、211 表示部、212 受信部移動器、213 画像入力部、214 受信部切替え器、301 入力線路、302 出力線路、303 くし型共振器、304 誘電体基板、305 信号導体、306 グランド導体、401 送信アンテナのビームパターン、402 受信アンテナのビームパターン、
601、606(1)〜606(4)、609(1)〜609(4) 50オームの線路
602(1)、602(2)、605(1)〜605(4)、604(1)〜604(1) 1/4波長線路、
603、607、608 抵抗

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイクロ波信号を生ずるように構成された発信器と、
それに接続され、前記発信器からの信号を検査試料に対して送るように構成された送信器と、
前記検査試料を挟み前記送信器と対向する位置に配置され、前記検査試料からの信号を受けるように構成された受信器と、
それに接続された帯域幅BW(MHz)のバンドパスフィルタと、
それに接続され、バンドバスフィルタを経た受信器からの信号を増幅し、予め設定された情報に前記増幅された信号を処理するように構成された受信回路と、
前記検査試料に対して磁場を印加するように構成された磁場発生器と、
を具備する磁気共鳴測定装置であって、
前記マイクロ波信号の周波数がf(MHz)、平均電力がP(dBm)であり、前記送信器の利得がGtx(dBi)、前記受信器の利得がGrx(dBi)であり、前記発信器から送信器までの減衰量がΓtx(dB)であり、前記送信器から前記受信回路までの減衰量をΓrx(dB)であり、前記送信器から前記検査試料までの距離をd1(m)、検査試料の厚みをd2(m)、検査試料から受信器までの距離をd3(m)とし、それぞれの減衰量をΓd1(dB)、Γd2(dB)およびΓd3(dB)としたとき、温度T(K)のとき、前記バンドパスフィルタの帯域幅(BW)はP+Gtx+Grx-(Γtx+Γd1+Γd2+Γd3+Γrx)>10×log(k×T×BW×109)(ここで、kはボルツマン定数である)の条件を満たすことを特徴とする磁気共鳴測定装置。
【請求項2】
前記バンドパスフィルタが超伝導材料により波長を分離するフィルタであることを特徴とする請求項1に記載の磁気共鳴測定装置。
【請求項3】
前記受信回路が、前記バンドパスフィルタに接続された低雑音増幅器と、を含み、前記バンドパスフィルタと前記低雑音増幅器とが同一の断熱真空容器内で冷却されることを特徴とする請求項1または2に記載の磁気共鳴測定装置。
【請求項4】
前記送信器の位置と送信方向とを検出するように構成された位置情報検出器と、を更に具備し、それにより検出された前記送信器の位置と送信方向に基づいて受信器の位置を制御するように構成された位置制御器と、を更に具備する請求項1〜3の何れか1項に記載の磁気共鳴測定装置。
【請求項5】
前記受信回路からの磁気共鳴検出情報を表示するように構成された表示部と、検出試料からの画像を得るように構成された画像入力器と、を更に具備し、前記磁気共鳴検出情報と前記画像入力器からの画像とを同一の表示部に重ねて出力することを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の磁気共鳴測定装置。
【請求項6】
互いに異なる2つ以上の周波数のマイクロ波信号を生ずるように構成された発信器と、
それに接続され、前記発信器からの信号を合成するように構成された信号合成器と、
前記信号合成器において合成された信号を検査試料に対して送るように構成された送信器と、
前記検査試料を挟み前記送信器と対向する位置に配置され、前記検査試料からの信号を受けるように構成された受信器と、
それに接続された複数の周波数分波器と、
前記各周波数分波器に接続され、各周波数分波器を経た受信器からの信号を増幅し、予め設定された情報に前記増幅された信号を処理するように構成された複数の受信回路と、
前記検査試料に対して磁場を印加するように構成された磁場発生部と、
を具備する磁気共鳴測定装置であって、
前記マイクロ波信号の周波数がf(MHz)、平均電力がP(dBm)であり、前記送信器の利得がGtx(dBi)、前記受信器の利得がGrx(dBi)であり、前記発信器から送信器までの減衰量がΓtx(dB)であり、前記送信器から前記受信回路までの減衰量をΓrx(dB)であり、前記送信器から前記検査試料までの距離をd1(m)、検査試料の厚みをd2(m)、検査試料から受信器までの距離をd3(m)とし、それぞれの減衰量をΓd1(dB)、Γd2(dB)およびΓd3(dB)としたとき、温度T(K)(ここで、kはボルツマン定数である)で、前記複数の周波数分波器の各帯域幅がP+Gtx+Grx-(Γtx+Γd1+Γd2+Γd3+Γrx)>10×log(k×T×BW×109)の条件を満たすことを特徴とする磁気共鳴測定装置。
【請求項7】
前記送信器と受信器の利得がGtx<Grxの関係を満たすことを特徴とする請求項1〜6の何れか1項に記載の磁気共鳴測定装置。
【請求項8】
前記送信器が可動可能なプローブであることを特徴とする請求項7に記載の磁気共鳴測定装置。
【請求項9】
受信器、バンドパスフィルタおよび受信回路をそれぞれ2以上具備することを特徴とする請求項1〜8の何れか1項に記載の磁気共鳴測定装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate