説明

磁気共鳴組織灌流画像法のための造影剤および装置

安全性の高い磁気共鳴組織灌流画像法のための造影剤および磁気共鳴診断装置を提供すること。糖を主成分とする空気含有微粒子からなる、磁気共鳴組織灌流画像法のための造影剤が提供される。好ましくは、前記糖がガラクトースであり、該ガラクトースの含有量が前記微粒子中の99%〜99.99%であり、該微粒子がさらに0.01%〜1%のパルミチン酸を含む。この造影剤は、磁気共鳴灌流画像法において、特に体内の血管の血流を測定するために安全に使用され得る。さらに、本発明によれば、上記造影剤中の空気による体内の磁場の変化を計測できる磁気共鳴診断装置も提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、核磁気共鳴(以下、「MR」ともいう。)技術および核磁気共鳴画像化(以下「MRI」ともいう)技術を用いた診断に用いられる造影剤に関する。特に、安全にヒトの体内各部位の血流などの組織灌流情報を得ることができる核磁気共鳴画像用造影剤に関する。本発明の造影剤は、広く動物一般に使用可能であるが、特に哺乳類、とりわけヒトに有効であり、さらに、ヒトの中でも、アレルギー性疾患を有する被験者における血流の診断に極めて有効である。
【背景技術】
【0002】
(MRI診断法およびその造影剤)
従来より、生体内の各部位における血流に関する情報は、人間の体内の特に循環器に関する状態を診断する上で重要な情報として研究されてきた。その1つの手法として、近年では、核磁気共鳴診断法が開発され、体内の各部位の組織灌流情報、例えば、脳、肝臓、腎臓、筋肉、さらには腫瘍等の血流情報の研究およびその循環器および組織の状態の診断に使用されている。
【0003】
このような組織灌流情報の測定には、従来、ガドリニウム(Gd)キレート製剤が造影剤として汎用されている。例えば、Magnevist(登録商標)という商品名の商品が知られている。
【0004】
しかしながら、ガドリニウム造影剤は人体に対する安全性が充分ではなく、相当の危険性が伴うことが知られている。
【0005】
具体的には、ガドリニウム造影剤を投与することにより、健全な人間であっても、吐き気を催す場合があり、5千人〜1万人に1人の割合で集中治療室における処置を必要とするような重篤な障害が起こり、およそ5万人に1人の割合でガドリニウム造影剤投与に起因する死亡事故が起こることが知られている。Magnevist(登録商標)においては、1.21%の副作用出現率、具体的には、嘔気(0.29%)、嘔吐(0.13%)、熱感(0.06%)、蕁麻疹(0.29%)などの副作用が報告されている。重篤な副作用としては、ショック、痙攣発作、アナフィラキシー様症状(呼吸困難、咽・喉頭浮腫、顔面浮腫)などが報告され、これまでに3例の死亡例が確認されている.
この危険性は、特にアレルギー性の疾患を有する被験者の場合に顕著である。例えば、アレルギー性疾患のひとつである気管支喘息を有する被験者などにおいては重篤な障害を引き起こす可能性が高く、ガドリニウム造影剤を使用することができない。実際、Magnevist(登録商標)の商品の添付説明書においては、(1)一般状態の極度に悪い被験者、(2)気管支喘息の被験者、(3)重篤な肝障害のある被験者、および(4)重篤な腎障害のある被験者に対して原則禁忌と記載され、(1)アレルギー性鼻炎、発疹、蕁麻疹等を起こしやすいアレルギー体質を有する被験者、(2)両親、兄弟に気管支喘息、アレルギー性鼻炎、発疹、蕁麻疹等を起こしやすいアレルギー体質を有する被験者、(3)薬物過敏症の既往歴のある被験者、(4)既往歴を含めて、痙攣、てんかん及びその素質のある被験者、(5)高齢者、および(6)幼・少児に対しては慎重に投与するべき旨が記載されている。
【0006】
造影剤として、リポソームを用いる可能性もまた示唆されていた。特許文献4〜6は、リポソームをMR造影剤として用い得ることを示唆している。しかしながら、具体的なMRI用の造影剤、特に組織灌流画像化法における造影剤としての具体的な研究は報告されていない。
【0007】
(超音波診断法およびその造影剤)
他方、人間の体内の状態を測定する方法として、超音波診断法が知られている。この方法は、超音波が人間の体内で反射する様子を測定するものであり、磁場と体内に存在する原子核の状態との相互作用に基づく磁場の変化を計測する原理に基づく核磁気共鳴とはメカニズムを全く異にする。
【0008】
特許文献7〜11は、このような超音波診断に適切な造影剤を記載する。特許文献7は、生理学的に許容し得る材料からなる、微小気泡を形成する血流注入用の組成物を記載する。その材料の具体例としてガラクトースを記載する。この組成物は超音波像を強めるために使用される。特許文献8は、界面活性剤と非界面活性固体物質からなり、気泡を含有する超音波診断用造影剤を記載する。特許文献9は、界面活性剤と非界面活性固体物質からなり、気泡を含有する超音波診断用造影剤を記載する。特許文献10は、超音波用マノメトリーに用いる、気泡を含有するガラクトースの小粒子を記載する。特許文献11は、脂肪酸(例えば、パルミチン酸)と非界面活性の固体(例えば、ガラクトース)からなる超音波診断用の造影剤を記載する。
【0009】
このような中空微粒子がMRIに使用され得るという可能性については、特許文献1〜3に言及されている。この可能性は、中空微粒子内の気体とその中空微粒子外部との磁場の不均一をMRIによって検出し得るという理論に基づく。しかし、リポソーム以外の中空微粒子が、具体的なMRIにおける測定の詳細について実際に研究された例はない。その理由の1つは、血管のような脈管内使用において、気体がリポソームのような軟質化合物で安定化されることが有利であることが考えられる。
【0010】
(組織灌流画像法における造影剤)
上述したとおり、核磁気共鳴法の組織灌流画像法における造影剤としては、リポソームが研究されているのみであり、他の物質を造影剤として用いる研究はされていない。この分野においては、依然として、ガドリニウムを造影剤として用いることが技術常識とされていた。
【0011】
その理由としては、例えば、以下が挙げられる。核磁気共鳴法の組織灌流画像法においては、通常、静脈注入された造影剤が所望の組織に高濃度で運ばれる必要があるところ、組織灌流画像法での画像を得るためにはその造影剤の移動時間を越えて造影剤が安定である必要がある。特に体循環によって支配される組織の灌流(例えば、脳の血管の血流)を測定するためには、静脈内投与された造影剤が肺循環を経て体循環に移動する必要があるため、より長時間が移動に必要であると予想される。しかし、ガドリニウムまたはリポソーム以外の造影剤として、生体内での安定性が高い造影剤は公知でない。例えば、Levovist(登録商標)は毒性の少ない超音波造影剤として公知であるが、そのインビトロでの半減期は1分未満であること(特許文献1)から、核磁気共鳴法の組織灌流画像法には適さないと考えられている。
【0012】
さらに、組織灌流画像法を行う場合は、造影剤が微細な毛細血管を通過するため、および組織との相互作用による悪影響を最小にするために、例えば、リポソームのようにできるかぎり柔軟であるべきだと考えられている。
【0013】
しかし、これらの要求を満たす造影剤は未だ開発されておらず、従って、ガドリニウムのような欠点を有さないMR用(特に灌流のための)造影剤が望まれている。
【特許文献1】特許3383954(請求項1、3欄32〜50行)
【特許文献2】特表平7−505136(請求項1、2頁右下欄4〜24行)
【特許文献3】特表平7−505137(請求項1、2頁右下欄7〜9行)
【特許文献4】特表平9−510204(請求項1、請求項2、請求項8)
【特許文献5】特表平10−505900(請求項29、請求項31、7頁下から3行〜下から2行)
【特許文献6】特表平11−501839(請求項1、請求項11、16頁6〜8行)
【特許文献7】特公昭63−44731(請求項1、請求項2、3欄35〜44行)
【特許文献8】特公平4−25934(請求項1)
【特許文献9】特公平4−17164(請求項1)
【特許文献10】特表平3−500010(請求項20)
【特許文献11】特公平7−37394(請求項1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、安全性に優れた核磁気共鳴診断用造影剤を提供することを目的とする。さらに本発明は、そのような安全性に優れた造影剤を用いることのできる核磁気共鳴診断装置を提供することを目的とする。
【0015】
特に、本発明は、一般状態の極度に悪い被検者、気管支喘息の被検者、重篤な肝障害のある被検者、重篤な腎障害のある被検者、アレルギー性鼻炎、発疹、蕁麻疹等を起こしやすいアレルギー体質を有する被検者、両親、兄弟に気管支喘息、アレルギー性鼻炎、発疹、蕁麻疹等を起こしやすいアレルギー体質を有する被検者、薬物過敏症の既往歴のある被検者、既往歴を含めて、痙攣、てんかん及びその素質のある被検者、高齢者、および幼・少児に対しても副作用の心配なく投与することができる極めて安全性の高い造影剤を適用することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明によれば、以下の造影剤および装置が提供され、そのことにより、上記課題が解決される。
【0017】
(1) 糖を主成分とする気体含有微粒子からなる、磁気共鳴組織灌流画像法のための造影剤。
【0018】
(2) 上記項1に記載の造影剤であって、アレルギー性疾患を有する被検者にも適応可能な、造影剤。
【0019】
(3) 上記項1に記載の造影剤であって、ここで、前記気体含有微粒子が糖および脂肪酸のみから構成される、造影剤。
【0020】
(4) 上記項3に記載の造影剤であって、ここで、前記脂肪酸が、C10〜20脂肪酸である、造影剤。
【0021】
(5) 上記項1に記載の造影剤であって、ここで、前記糖がガラクトースであり、該ガラクトースの含有量が前記微粒子中の99%〜99.99%であり、該微粒子が0.01%〜1%のパルミチン酸を含む、造影剤。
【0022】
(6) 上記項1に記載の造影剤であって、体内の組織の血流を測定するために使用される、造影剤。
【0023】
(7) 上記項1に記載の造影剤を含む血流を画像化するための磁気共鳴画像化装置であって、RFパルスを照射して体内の磁場を励起する手段と、RFパルス照射が終了して所定の時間が経過するまで体内の磁場を緩和させた後にMR信号を収集して前記気体による体内の磁場の変化を計測する手段を有する、装置。
【0024】
(8) 上記項7に記載の装置であって、ここで、前記気体が存在する場所における信号強度と、該気体が存在しない場所における信号強度とが有意な相違を生じるのに充分な時間が経過するまで磁場を緩和させる工程が継続される、装置。
【発明の効果】
【0025】
上述したとおり、本発明は、人体に無害な材料から製造される核磁気共鳴診断用造影剤を提供するので、事実上の副作用なく、核磁気共鳴診断を行うことが可能になるという顕著な効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の造影剤を用いるMRI測定方法のフローチャートである。
【図2】本発明の造影剤を用いるMRI測定方法のフローチャートである。
【図3】MR信号の経時変化を示すグラフである。
【図4】MR信号の経時変化を示すグラフである。
【図5】実施例1に用いたファントムの概要を示す模式図である。
【図6】実施例1のT2緩和特性の結果を示すグラフである。
【図7】実施例1の信号強度の結果を示すグラフおよび信号強度画像である。
【図8】実施例1の位相シフトの結果を示すグラフおよび位相画像である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明を説明する。本明細書の全体にわたり、単数形の表現は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。従って、単数形の冠詞(例えば、英語の場合は「a」、「an」、「the」など)は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。また、本明細書において使用される用語は、特に言及しない限り、当該分野で通常用いられる意味で用いられることが理解されるべきである。したがって、他に定義されない限り、本明細書中で使用される全ての専門用語および科学技術用語は、本発明の属する分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。矛盾する場合、本明細書(定義を含めて)が優先する。
【0028】
(用語の定義)
以下に本明細書において特に使用される用語の定義を列挙する。
【0029】
本明細書において使用される場合「造影剤」とは、核磁気共鳴(MR)技術および核磁気共鳴画像化(MRI)技術を用いた診断に用いられる造影剤をいう。磁気共鳴(MR)現象は核磁気共鳴現象(NMR)とも呼ばれ、それを画像化する方法として、磁気共鳴診断法(もしくは磁気共鳴画像化法あるいは磁気共鳴映像化法)(MRI)がある。MRIは、核磁気共鳴診断法もしくは核磁気共鳴画像化法あるいは核磁気共鳴映像化法と同義である。本明細書に記載するMRとは、英語でいうMagnetic Resonanceの和訳として用いられる磁気共鳴、磁気共鳴現象、核磁気共鳴現象などの概念をすべて含むものと理解されるべきである。また、MRIとは、英語でいうMagnetic Resonance Imagingの和訳として用いられる磁気共鳴画像化法、磁気共鳴診断法、磁気共鳴映像法などの概念をすべて含むものであると理解されるべきである。
【0030】
臨床用MR装置は、一般に水素原子核(H、プロトンとも呼ばれる)の磁気共鳴現象を利用している。しかし、磁気共鳴現象は、陽子数もしくは中性子数のいずれかが奇数の核種であれば観測され、画像化に応用可能である。本明細書においては、磁気共鳴現象を起こす核種について言及する際には、それらを代表して水素原子核と記述することがあるが、特に言及しない限り、それは磁気共鳴現象を起こすすべての核種を含むと理解されるべきである。
【0031】
磁気共鳴(MR)においては、磁場として、原子核のスピンを観測するが、被験者の体内の磁場を測定する場合、必然的に多数の原子核のスピンを同時に測定することになる。このようにして観測される多数の原子核のスピンの状態はスピン系と呼ばれる。
【0032】
磁気共鳴画像化(MRI)は、X線とは異なり、電離放射線を使用しない画像化技術である。コンピュータ断層撮影(CT)と同様に、MRIは、身体の断層画像を撮像するが、MRIは、任意の走査平面(即ち、横断像、冠状断像、矢状断像、又は斜断像)において画像を撮影することができる付加的な利点を有する。不幸にも、身体に対する診断のためのMRIの使用は、一般的なガドリニウムを用いる造影剤の毒性のために、制限される。そのため、適切な薬剤なしでは、MRIを使用して、標的組織を隣接組織から弁別することは、しばしば困難である。
【0033】
MRIは、身体の画像を撮像するために、磁場、高周波エネルギーと磁場勾配を使用する。組織間のコントラスト又は信号強度差分は、T1(縦)緩和値(時間)、T2及びT2(横)緩和値(時間)と、組織のプロトン密度(有効には、遊離水含有量)、さらには組織を構成する分子の拡散や流れの効果を反映する。T2緩和値とT2緩和値の違いは後述する撮像方法によるものであって、すなわち、前者はスピンエコー法を使用する場合に、後者はグラディエントエコー法を使用する場合に観測される横緩和値をいう。以下、特に言及しない限り、T2緩和値にはT2緩和値の概念を含むことが理解されるべきである。
【0034】
造影剤の使用によって被験者の部位における信号強度を変化させる際に、幾つかの接近方法が利用される。例えば、造影剤は、T1、T2又はプロトン密度のいずれか、もしくはいくつかを変化させるように設計される。
【0035】
常磁性造影剤は、縦(T1)及び横(T2)緩和値を短縮させるために、主磁場内の小さな局所磁石として作用する不対電子を含む。大部分の常磁性造影剤は、多くの場合に、有毒な金属イオンである。毒性を減少させるために、これらの金属イオンは、一般に、配位子を使用してキレート化される。金属酸化物、最も顕著には酸化鉄がまた、MRI造影剤として試験された。例えば、20nm径よりも小さな酸化鉄の小粒子は常磁性緩和特性を有するが、支配的効果は、体積磁気感受性による。このため、磁粉は、T2緩和において支配的な効果を有する。これらの造影剤のすべては、ある使用状況において毒性作用を受ける可能性があり、これらのいずれも、灌流造影剤としての使用のために理想的ではない。
【0036】
本明細書において使用される場合「糖」とは、単糖類、オリゴ糖類、多糖類のいずれであってもよく、好ましくは、単糖類である。本発明の糖として好ましいのは、ガラクトースなどの単糖類またはこれらの混合物であり、最も好ましくは、ガラクトースである。
【0037】
本発明においては、必要に応じて、上記糖に加えて糖の誘導体を用いてもよい。 本明細書において使用される場合、気体含有微粒子に含まれる「気体」とは、MRIの組織灌流画像化法において体内の磁場に変化をもたらすことができ、かつ人体に無害な気体であれば任意の気体が使用可能である。例えば、空気のみならず、Ne、Xe、O、SF、Ar、Nが挙げられるが、これらに限定されない。好ましくは空気、Oである。
【0038】
微粒子中に気体を含有させる方法は、従来の超音波診断用の中空造影剤と同様の方法が使用可能であり、このような方法は周知である:
本明細書において使用される場合「脂肪酸」とは、天然の脂質の加水分解によって得られる脂肪族モノカルボン酸、および脂肪族ジカルボン酸をいう。本発明の脂肪酸は、飽和脂肪酸であっても、不飽和脂肪酸であってもよく、さらに、分岐鎖を含んでも、含まなくてもよい。好ましくは、脂肪酸の鎖長の炭素数は、10〜20であり、より好ましくは、脂肪酸はパルミチン酸である。これらの脂肪酸の混合物を用いてもよい。
【0039】
(造影剤の入手・調製方法)
本発明に用いられる造影剤は、糖を主成分とし、必要に応じて他の成分、例えば、脂肪酸等を必要量添加して製造される。好ましくは、糖の含有量はおよそ50重量%以上であり、より好ましくは、80重量%以上であり、さらに好ましくは90重量%以上であり、特に好ましくは95重量%以上である。
【0040】
造影剤に脂肪酸が用いられる場合、その量は、0.01〜10重量%が好ましく、より好ましくは0.03〜3重量%である。
【0041】
好ましい実施態様においては、造影剤は、糖と、脂肪酸と、封入される気体以外の成分を実質的に含まない。糖と、脂肪酸と、封入される気体以外の成分は、用いられるとしても、20重量%以下とすることが好ましく、10重量%以下とすることがより好ましく、1重量%以下とすることが特に好ましい。
【0042】
本発明に用いられる具体的な造影剤としては、従来の超音波診断用の造影剤として公知の造影剤が使用可能である。例えば、上記特許文献7〜11に記載された気体含有造影剤が使用可能である。
【0043】
より具体的には、例えば、シェーリング社から市販されているLevovist(登録商標)などが挙げられる。
【0044】
(造影剤の投与量および投与方法)
造影剤の投与量としては、従来の超音波診断診断の際に投与される量とほぼ同程度とすることができる。本発明の造影剤の投与量は、一般に使用されるガドリニウム造影剤のように体重あたりの制限量はなく、成人に対しておおよそ5ml〜25mlであり、好ましくはおおよそ8ml〜25mlであり、より好ましくは10ml〜25mlである。しかし、含有する気体の大きさ(体積)や濃度、さらに使用するMR装置の磁場強度や撮像方法によっては、これらには限定されない。好ましくは、造影剤はキャリアとして、生理食塩水などの液中に懸濁して投与される。投与される液中の濃度は、好ましくは、おおよそ10mg/ml〜500mg/mlであり、より好ましくは、およそ100mg/ml〜400mg/mlである。しかし、含有する気体の大きさや濃度、さらに使用するMR装置の磁場強度や撮像方法によっては、これらには限定されない。本発明の造影剤は、従来の超音波診断用造影剤の投与方法と基本的に同様の方法にて投与される。代表的な投与方法は静脈内注射である。投与のタイミングは、好ましくは、MRI測定を開始する5分前〜MRI測定終了までの間であり、より好ましくは、MRI測定を開始する1分前〜測定開始1分後までの間であり、特に好ましくは、MRI測定の開始と同時〜測定開始後10秒後である。投与の回数は1回でもよく、複数回に分けてもよい。投与は検査施行者が造影剤の入った注射器を手に持ち、用手的に行ってもよく、また造影剤自動注入器あるいはそれに代わる注入補助装置に造影剤の入った注射器を装填し、もしくは造影剤を吸引し、機械による注入を行ってもよい。好ましくは、造影剤自動注入器あるいはそれに代わる注入補助装置による高速注入である。
【0045】
(MRI装置)
本発明に用いられるMRI装置のハードウエアとしては、従来公知のMRI装置のハードウエアが使用可能である。
【0046】
ただし、従来公知のMRI装置のソフトウエアは、一般に、従来のガドリニウム造影剤を用いるための設定になっているので、本発明の造影剤を用いるのには好ましくない。このため、測定条件に関するソフトウエアの設定の一部を修正などすることが好ましい。そのような測定条件については、後述する。
【0047】
(組織灌流画像化方法)
組織灌流画像化方法においては、血流などの流体が流動している状態を画像化する点で、MRIの他の画像化方法と顕著に異なる。具体的には、例えば、以下の様な特徴がある。一般に、MRIは、組織間あるいは正常部と病変部のコントラストを十分に保ち、かつ信号対ノイズ比を高めるために高い信号強度を得るような撮像法を用い、診断の支障となるノイズを極力排除し、加えて、画像の鮮明さ、すなわち空間分解能を十分に保つように撮像される。1回の撮像に要する時間は、おおよそ数分〜数十分である。また、ガドリニウム造影剤を用いたMRIにおいては、高濃度のガドリニウム造影剤は、磁化率効果により、その周囲組織の信号低下、すなわち画質の低下をもたらすことが知られているため、例えば腫瘍性疾患や炎症性疾患の診断においては、病変部あるいは周囲組織に十分に造影剤が浸透して、かつ信号低下が生じない濃度に希釈されてから撮像することが、病変部と周囲正常組織のコントラストを高める上で好ましい。ガドリニウム造影剤による信号低下の程度は、造影剤濃度のみならず、磁場強度や後述する撮像方法、撮像パラメータによっても変化する。例えば撮像法のうち、スピンエコー法は、グラディエントエコー法に比べて磁化率効果の影響を受けにくく、すなわち信号低下の影響を受けにくいため、一般的なMRIにおいて汎用される。撮像パラメータのひとつであるTE(エコー時間)は重要な因子であり、ガドリニウム造影剤が高濃度で存在する場合においても、TEを短く設定することにより、信号低下の影響を抑制でき、ガドリニウム造影剤と周囲に存在するスピン系の相互作用により、信号の増強効果が得られる。一方、ガドリニウム造影剤を用いた組織灌流画像化法は、ガドリニウムによってもたらされる磁化率効果による信号低下の量を測定することで、灌流血流量などを測定するものである。より具体的には、ガドリニウム造影剤を急速投与し、高濃度の造影剤が所望の臓器(例えば脳)を灌流する血管に到達し、周囲の脳組織の信号を低下させる様子を観測する。ガドリニウム造影剤によって生じた信号低下量が、灌流血液量を反映すると仮定する。この際、ガドリニウム造影剤によってもたらされるべき信号低下を効果的に観測するため、磁化率効果の影響を受けやすいグラディエントエコー法を用いて撮像を行うことが好ましい。また、同様の理由から、TEをやや長く設定することが好ましい。また、造影剤が所望の組織を灌流する様子を詳細に観測するためには、撮像時間をできるかぎり短縮し、同一部位の反復撮像を行うことが好ましく、グラディエントエコー法が撮像時間短縮に有効である。以上のように、組織灌流画像化法では、磁化率効果に鋭敏でかつ撮像時間が短縮できるグラディエントエコー法が汎用される。
【0048】
(MRIの測定方法)
MR組織灌流画像化法においては、一般に造影剤を経静脈性に急速投与し、目的の部位(たとえば、頭部)のMR断層像を経時的に撮影する。造影剤は急速投与直後、高濃度で脳へ運ばれ、MR画像の信号強度(画素値)を低下させる。この作用に基づき、造影剤投与によってどれだけ信号が低下したかを定量すれば、その部位(例えば、脳)の血流量が測定されることになる。より具体的には、血液が流れていない部分においては、MRの信号強度が低下しない。他方、血液が流れている部分においては、MRの信号強度が低下する。この差を観測することにより、その部位の血流量を評価することができる。
【0049】
組織灌流画像化方法においては、一般に、図1のフローチャートに示すとおり、RFパルスを照射する励起工程と、RFパルスの照射を打ち切った後に磁場(スピン系)を緩和させる緩和工程と、MR信号を復活させる復活工程と、これらの各工程により生じた電磁場によりコイルに誘導された電流を記録する記録工程を行うように設計され得る。励起工程、緩和工程および復活工程により1つのサイクルとなり、このサイクルが所望の回数繰り返される。そしてそれらの工程の任意のタイミングで信号が収集される。図2に示すとおり、励起から信号収集までの時間を本明細書中では、TE(エコー時間)と記載し、励
起から励起までの1サイクルの所要時間をTR(繰り返し時間)という。
【0050】
復活工程では、励起した後に減衰したMR信号を復活させて観測する。MR信号を復活させる方法としては、(1)スピンエコー法(RFパルスにより、復活させる)および(2)グラディエントエコー法(傾斜磁場により、復活させる)などが公知であり、本発明
に利用可能である。スピンエコー法は、もっとも基本的なパルスシーケンスであって、優れた信号対ノイズ比が得られるという利点があり、また撮像時間が比較的長いという特徴を有する。グラディエントエコー法は、フィールドエコー法などとも呼ばれ、磁場勾配の反転によりMR信号を復活させる方法で、信号対ノイズ比においてはスピンエコー法に劣るが、MR信号はスピンエコー法に比べて急峻に減弱するという特徴があり、また、磁場の不均一に敏感(磁化率効果による信号低下が顕著)であり、TRを短縮できることにより撮像時間を短縮可能であるという利点がある。
【0051】
なお、TRやTEといった撮像パラメータは、使用するMR装置の主磁場強度によって設定すべき値は異なるのが通常である。本明細書では、MR組織灌流画像化法の臨床応用によく用いられる1.5T(テスラ)の主磁場強度を想定し、記述するが、1.5T(テスラ)以外の主磁場強度が使用される場合であっても、本明細書に記載された測定条件の設定の原理に基づいて当業者は容易にそのそれぞれの主磁場強度における適切なTRおよびTEを確認することができる。
【0052】
従来のガドリニウムを用いるような装置においては、測定時間の短縮等を目的として、1サイクルの時間を極めて短時間とするように設計されているのが通常である。ガドリニウム造影剤による信号低下は非常に強いため、信号対ノイズ比の向上を目的として、TEを比較的短時間に設定することが好ましいとされている。TEをおおよそ150ミリ秒以上に設定することは、後述するように、信号強度がTEに対し指数関数的に低下することから避けるべきである。本発明においても、測定時間の短縮を目的として、1サイクルの時間をできるだけ短くするのが好ましい。このためには、TRを、好ましくはおおよそ500ミリ秒以下、より好ましくはおおよそ150ミリ秒以下、さらに好ましくはおおよそ100ミリ秒以下に設定する。また、空気が存在することによる磁場の不均一性が引き起こす信号低下を鋭敏に捉えるため、緩和工程において、TEをTRを超えない範囲で比較的長く設定することが好ましい。より具体的には、TEをおおよそ10ミリ秒〜100ミリ秒に設定することが好ましく、おおよそ20ミリ秒〜100ミリ秒に設定するのがより好ましい。TEをおおよそ150ミリ秒以上に設定することは、信号強度が低下しすぎるために避けるべきである。なお、TRとTEとの差は、短いほどサイクルを短縮することができるので好ましい。したがって、ハードウエアなどの装置の性能が許す限り、短縮することができる。例えば、高性能のMRI装置を用いれば、TEとTRとの差を数ミリ秒程度とする(例えばTEを20ミリ秒としてTRを(20ミリ秒+数ミリ秒)とする)ことも可能である。
【0053】
MR信号強度は様々な要因によって変化するが,灌流画像化法の場合には、主に、「パラメータ:TE」と「時定数:T2」の関数となり、代表的には、信号強度Sは、以下の式で表される。
【0054】
【数1】

【0055】
ここで、各係数の定義は以下の通りである。
k:水素原子核の密度や拡散、分子構造など多くの因子によって決まる係数。
TE:エコー時間[ms]。RFパルスを照射してからMR信号を取得するまでの時間。
T2:水素原子核の周囲の磁場の不均一性に依存する時定数[ms]。磁場が不均一であるほど小さくなる。
なお、上記式の「S」は図3の式中の「y」と同じであり、上記式の「k」は図3の式中の「a」と同じである。
【0056】
この数式により示されるグラフの例を図3に示す。
【0057】
造影剤を用いる場合の信号強度の経時変化を示すグラフを図4に示す。図4は、造影剤を用いない(または造影剤が存在しない)場合の信号強度の変化を模式的に曲線Aで示し、本発明の造影剤が存在する場合の信号強度の変化を曲線Bで模式的に示し、そして従来のガドリニウムタイプの造影剤が存在する場合の信号強度の変化を曲線Cで模式的に示している。
【0058】
ガドリニウム造影剤は、曲線Cで示されるように、MRの信号強度を急激に減衰させる。このため、励起直後において、造影剤が存在する場所と造影剤が存在しない場所との間で信号強度の相違が顕著となり、容易に造影剤の有無が観測される。このため、ガドリニウム造影剤を用いる場合には、TEを比較的短く設定し、すなわち、励起した後比較的速やかな時間のうちに信号収集を行う。
【0059】
しかしながら、本発明の造影剤は、ガドリニウム造影剤に比べて信号強度の減衰が少ない。このため、図4に示されるように、励起直後においては、造影剤が存在しない場所との信号強度の相違がほとんど存在しない。従って、ガドリニウム造影剤を用いる場合のようなTEの設定で測定を行っても、造影剤が存在する場所と存在しない場所との信号の相違を観測することができず、その測定結果から、その部位に造影剤が存在するか否か(すなわち血液が流れているか否か)を判断することが極めて困難である。
【0060】
従って、本発明の造影剤を用いる場合には、TEを比較的長めに設定し、図4における曲線Aと曲線Bとの間の相違が充分に大きくなるタイミングにおいて信号収集が行われる。ただし、TEが長すぎる場合には、曲線Aが0に近づいてしまうため、曲線Aと曲線Bとの相違が少なくなってしまい、この場合にも造影剤の存在を判断することが困難になる。したがって、TEの設定に際しては、本発明の造影剤の存在する部位における信号強度と造影剤が存在しない部位における信号強度との相違が充分に検出可能となるように、適切なTEの長さが選択されるべきである。
【0061】
本発明の装置においては、このように、本発明の造影剤に対応する適切なTEが選択できるようなソフトウエアがインストールされている必要がある。一般的な市販のMRI装置にインストールされているソフトウエアであれば、その設定の一部を修正することにより、容易に、上述した適切なTEを設定することが可能になる。
【0062】
また、位相のシフトを測定することによっても、本発明によれば、体内の血流に関する有用な情報を得ることができる。
【0063】
MR信号は複素数領域の信号であり、複素平面にプロットすると、ベクトルとして表現できる。臨床では、このベクトルの大きさ(絶対値)を濃淡で表現した画像を観察している。水素原子核は静磁場中で歳差運動を行うが、この歳差運動は主磁場方向に観察すると円運動と考えることができ、複素平面を用いて解析することができる。RFパルスによる励起から、信号を収集するまでに得る位相は、歳差運動の角周波数を時間積分したものである(等速円運動では,角周波数とTEの積)。造影剤はこの位相をシフトさせる働きを有するが、このシフトを観察することによっても、体内の血流状態についての有用な情報を得ることができる。しかし、位相シフト量の測定は臨床ではほとんど行われておらず、測定されたとしても、その測定結果から有用な情報はほとんど得られていない。上述した通り、原理的には、造影剤のもつ磁場の不均一性は位相をシフトする働きがあり、位相量の変化から造影剤濃度を知ることが可能であるが、実際に利用するのは困難である。なぜならば、位相は0度以上360度未満の角度情報しかもたないため、例えば361度は1度と区別できない。より具体的には、θ+2nπラジアン(θは0度以上360度未満の位相、nはすべての整数)で表現される位相は、nを変化させても区別することはできない。ゆえに、磁場の不均一により、位相のシフト量が360度を超えた場合には、もはや、正しい位相を知ることはできない(これを位相のエリアシングという。)。ガドリニウム造影剤による磁場の不均一は非常に強いため、nは容易に1もしくは−1以上となり、位相のエリアシングが生じ、正しい位相シフト量の測定は困難である。このため、流速測定や装置の磁場の不均一性の管理など、特殊な目的を除いては臨床では用いられない。本発明においては、気体による磁場の不均一性はガドリニウム造影剤によるそれに比べて非常に小さいため、位相のエリアシングを抑制することはガドリニウム造影剤に比較して容易である。
【0064】
従って、本発明によれば、位相のエリアシングなしに位相シフトを測定することが可能になり、得られた位相シフトの情報を分析して、体内の組織灌流の状況の解析に役立てることが可能になる。信号強度の測定結果による情報に加えて位相シフトを解析した情報を加えれば、被験者の体内の状態をより詳細に知ることが可能になる。なお、より確実に位相のエリアシングを抑制するためには、緩和工程におけるTEの設定が重要である。上述したように、位相は歳差運動の角周波数とTEの積で表されるため、TEが短いほど、エリアシングを強く抑制できる。このため、通常の信号強度に加えて位相シフトにても灌流を評価しようとする場合には、TEをやや短く設定する方が有利である。より具体的には、TEをおおよそ10ミリ秒〜80ミリ秒に設定することが好ましく、おおよそ10ミリ秒〜60ミリ秒に設定するのがより好ましい。なお、位相シフト量と絶対値量は同一の測定データから得られるから、実際の条件設定においては、位相のエリアシングが起きず、かつ十分な信号低下が得られる最適なTEが選択されるべきである。
【0065】
(MRI測定の際のパラメーターの具体的な設定)
一般的に現在病院等に納入されているタイプのMRI装置であれば、上記の設定は、具体的には例えば、以下の通りに行われる。
臨床用MRI装置には、それを制御するための制御卓が備え付けられており、多くはコンピュータ制御である。一般には制御用コンピュータにインストールされてある制御用ソフトウェアを利用することで、撮像法(スピンエコー法やグラディエントエコー法)やTRやTEなどのパラメータを設定することが可能である。ただし、TRやTEはMRI装置が発生する磁場や電波の制御に直接的に影響する因子であるため、その物理的な理由あるいは装置的な理由により、設定できる値に制限を受けることがある。より具体的には、たとえば励起用RFパルスの影響が残存しているときに信号を収集できないように、TEの下限値が設定されていたり、あるいは信号収集中に次のRFパルスによる励起を行えないようにTRやTEの値に制限が加えられる。実際のMRI撮像においては、図1および図2に示した以外にも多くの傾斜磁場の印加やRFパルスの照射が行われるため、それらの挿入されるタイミングによっても、TRやTEが制限される。実際の臨床においては、物理的因子および装置的因子によって制限されたTRやTEの自由度の中で、ユーザが任意の値を設定する。
【実施例1】
【0066】
(ファントムを用いた実施例)
以下の装置および造影剤を用いて実験を行った。
MRシステム Magnetom Vision Plus 1.5T(登録商標)、RFパルスとMR信号の送受信装置としてCP Head coil(登録商標)(Siemens AG)を使用。
ワークステーション Octane2 (Silicon Graphics Inc.)
微小気泡造影剤 ガラクトース・パルミチン酸混合物 Levovist(登録商標) (Schering AG、ガラクトース99.9%、パルミチン酸0.1%)、200mg/ml濃度の懸濁液に用時調整
ファントム:図5に示される二重容器。
【0067】
緩和時間の測定を以下の通りに行った。シリンジ中に微小気泡造影剤を封入し、マグネット中心に配置した。そしてFLASH法にて2種類のTEを用いて経時的に撮像した。条件設定は以下の通りであった。TR=400ms、TE=10msおよび52ms、FA=30deg。ただし、ここでFAはフリップ角(原子核の励起角度)である。上記2種類のパラメータと信号強度の関係を理論式に当てはめ、T2を近似的に推定し、これを経過時間の関数として求めた。結果を図6に示す。造影剤を調製して測定を開始した直後のグラフの傾斜が急峻であり、調整直後は高濃度の気泡によりT2が短縮し、気泡の崩壊とともにT2が急速に延長することが観察されている。
【0068】
プラスチック試験管中に微小気泡造影剤を封入し、さらにそれを純水で満たした容器内に固定したファントムをマグネット中心に配置して、FLASH法にて、経時的に撮像した。用いたファントムの模式図を図5に示す。条件設定は以下の通りであった。TR=140 ms、TE=60 ms、FA=90 deg。
【0069】
得られた生データ(MR信号の2次元配列)より信号強度画像と位相画像を再構成し、信号強度および位相シフトを経過時間の関数として求めた。微小気泡の存在は、その周囲に局所的な磁場の不均一をもたらし、これがT2を短縮する主たる原因であると考えられるが、微小気泡の存在は、信号強度および位相シフトにも影響を与え、この効果は造影剤封入試験管内のみならず、試験管外においても認めることができた。
【0070】
得られた信号強度についてのグラフおよび画像を図7に示す。試験管内のみならず、試験管の周囲においても信号強度が変化することが観測された。
【0071】
得られた位相シフトについてのグラフおよび画像を図8に示す。試験管内では強い位相のシフトが観測され、試験管外においては、わずかに位相のシフトが認められた。
【0072】
この結果から、臨床での応用を考えた場合、造影剤を調整直後に急速静注し、対象臓器初回通過時のT2短縮による血管内外の信号低下もしくは位相シフトにて灌流を評価しうるものと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0073】
上述したとおり、本研究において、微小気泡造影剤による緩和特性および信号特性の修飾効果を確認することができ、核磁気共鳴画像化(MR perfusion imaging)への応用可能性が確認された。本発明によれば、事実上副作用のない組織灌流画像法による核磁気共鳴診断が可能になるから、本発明は、核磁気共鳴診断の分野の技術進歩に極めて重要な意義を有する。さらに本発明によれば、従来使用できなかった位相シフトの情報を核磁気共鳴診断に使用することが可能となるという効果も達成される。
【0074】
以上のように、本発明の好ましい実施形態を用いて本発明を例示してきたが、本発明は、この実施形態に限定して解釈されるべきものではない。本発明は、特許請求の範囲によってのみその範囲が解釈されるべきであることが理解される。当業者は、本発明の具体的な好ましい実施形態の記載から、本発明の記載および技術常識に基づいて等価な範囲を実施することができることが理解される。本明細書において引用した特許、特許出願および文献は、その内容自体が具体的に本明細書に記載されているのと同様にその内容が本明細書に対する参考として援用されるべきであることが理解される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
糖を主成分とする気体含有微粒子からなる、磁気共鳴組織灌流画像法のための造影剤。
【請求項2】
請求項1に記載の造影剤であって、アレルギー性疾患を有する被験者にも適応可能な、造影剤。
【請求項3】
請求項1に記載の造影剤であって、ここで、前記気体含有微粒子が糖および脂肪酸のみから構成される、造影剤。
【請求項4】
請求項3に記載の造影剤であって、ここで、前記脂肪酸が、C10〜20脂肪酸である、造影剤。
【請求項5】
請求項1に記載の造影剤であって、ここで、前記糖がガラクトースであり、該ガラクトースの含有量が前記微粒子中の99%〜99.99%であり、該微粒子が0.01%〜1%のパルミチン酸を含む、造影剤。
【請求項6】
請求項1に記載の造影剤であって、体内の組織の血流を測定するために使用される、造影剤。
【請求項7】
請求項1に記載の造影剤を含む血流を画像化するための磁気共鳴画像化装置であって、RFパルスを照射して体内の磁場を励起する手段と、RFパルス照射が終了して所定の時間が経過するまで体内の磁場を緩和させた後にMR信号を収集して前記気体による体内の磁場の変化を計測する手段を有する、装置。
【請求項8】
請求項7に記載の装置であって、ここで、前記気体が存在する場所における信号強度と、該気体が存在しない場所における信号強度とが有意な相違を生じるのに充分な時間が経過するまで磁場を緩和させる工程が継続される、装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【国際公開番号】WO2005/039646
【国際公開日】平成17年5月6日(2005.5.6)
【発行日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−515025(P2005−515025)
【国際出願番号】PCT/JP2004/015948
【国際出願日】平成16年10月27日(2004.10.27)
【出願人】(503163882)
【出願人】(503394176)
【Fターム(参考)】