説明

磁気共鳴装置およびプログラム

【課題】心拍センサやベローズを用いなくても、心拍信号や呼吸信号を取得する。
【解決手段】ナビゲータ領域Rからエコー信号を収集するためのナビゲータシーケンスNAV1およびNAV2を交互に実行する。ナビゲータシーケンスNAV1は、傾斜磁場Gxa、Gx11、およびGx12を有している。傾斜磁場Gxaは、流速に応じてスピンの位相を変化させるための流速補正傾斜磁場である。一方、ナビゲータシーケンスNAV2では、流速補正傾斜磁場Gxaは印加せずに、傾斜磁場Gx21およびGx22のみを印加する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被検体の生体信号に基づいて撮影を行う磁気共鳴装置およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
被検体の血流を撮影する方法として、被検体の心拍信号に同期して撮影を行う心拍同期法が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011−147561号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
心拍同期法で撮影を行う場合、オペレータは被検体に心拍センサを取り付ける必要がある。したがって、オペレータに作業負担が掛かるという問題がある。また、呼吸同期法を併用して撮影を行う場合、呼吸信号を取得するためにベローズを使用することがある。この場合、オペレータは被検体にベローズを取り付ける必要もあるので、オペレータの作業負担は更に増大する。したがって、心拍センサやベローズを用いなくても、心拍信号や呼吸信号を取得することが望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の第1の態様は、流速に応じてスピンの位相を変化させるための流速補正傾斜磁場を有する第1のシーケンスを用いて、被検体内の液体を含む領域から磁気共鳴信号を収集し、前記流速補正傾斜磁場を有していない第2のシーケンスを用いて前記領域から磁気共鳴信号を収集する手段と、
前記第1のシーケンスにより収集された磁気共鳴信号と、前記第2のシーケンスにより収集された磁気共鳴信号とに基づいて、被検体の生体信号を作成する生体信号作成手段と、
を有する、磁気共鳴装置である。
【0006】
本発明の第2の態様は、流速に応じてスピンの位相を変化させるための流速補正傾斜磁場を有する第1のシーケンスを用いて、被検体内の液体を含む領域から磁気共鳴信号を収集し、前記流速補正傾斜磁場を有していない第2のシーケンスを用いて前記領域から磁気共鳴信号を収集する磁気共鳴装置のプログラムであって、
前記第1のシーケンスにより収集された信号と、前記第2のシーケンスにより収集された信号とに基づいて、被検体の生体信号を作成する生体信号作成処理を計算機に実行させるためのプログラムである。
【発明の効果】
【0007】
流速補正傾斜磁場を有する第1のシーケンスと、流速補正傾斜磁場を有していない第2のシーケンスを用いることによって、心拍センサやベローズを用いなくても、心拍信号や呼吸信号などの生体信号を取得することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の一形態の磁気共鳴装置の概略図である。
【図2】本形態において心拍信号および呼吸信号を取得するために使用されるナビゲータシーケンスNAV1およびNAV2を示す図である。
【図3】ナビゲータ領域Rを示す図である。
【図4】ナビゲータシーケンスNAV1およびNAV2によって収集されるエコー信号を、心臓の拡張期と収縮期とに分けて示した図である。
【図5】実験結果の説明図である。
【図6】被検体が呼吸をしたときの様子を示す図である。
【図7】比較結果の説明図である。
【図8】被検体の肝臓を撮影するときに実行されるシーケンスチャートと、ナビゲータシーケンスNAV1およびNAV2によって得られた心拍信号W2′および呼吸信号W1′とを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、発明を実施するための形態について説明するが、本発明は、以下の形態に限定されることはない。
【0010】
図1は、本発明の一形態の磁気共鳴装置の概略図である。
磁気共鳴装置(以下、「MR装置」と呼ぶ。MR:Magnetic Resonance)100は、マグネット2、テーブル3、受信コイル4などを有している。
【0011】
マグネット2は、被検体12が収容されるボア21と、超伝導コイル22と、勾配コイル23と、送信コイル24とを有している。超伝導コイル22は静磁場を印加し、勾配コイル23は勾配パルスを印加し、送信コイル24はRFパルスを送信する。尚、超伝導コイル22の代わりに、永久磁石を用いてもよい。
【0012】
テーブル3は、クレードル3aを有している。クレードル3aは、ボア21内に移動できるように構成されている。クレードル3aによって、被検体12はボア21に搬送される。
【0013】
受信コイル4は、被検体12の胸部から腹部に渡って取り付けられている。受信コイル4は、被検体12からの磁気共鳴信号を受信する。
【0014】
MR装置100は、更に、シーケンサ5、送信器6、勾配磁場電源7、受信器8、中央処理装置9、操作部10、および表示部11などを有している。
【0015】
シーケンサ5は、中央処理装置9の制御を受けて、パルスシーケンスの情報を送信器6および勾配磁場電源7に送る。
【0016】
送信器6は、シーケンサ5から送られた情報に基づいて、RFコイル24を駆動する駆動信号を出力する。
【0017】
勾配磁場電源7は、シーケンサ5から送られた情報に基づいて、勾配コイル23を駆動する駆動信号を出力する。
【0018】
受信器8は、受信コイル4で受信された磁気共鳴信号を信号処理し、中央処理装置9に出力する。
【0019】
中央処理装置9は、シーケンサ5および表示部11に必要な情報を伝送したり、受信器8から受け取ったデータに基づいて画像を再構成するなど、MR装置100の各種の動作を実現するように、MR装置100の各部の動作を制御する。中央処理装置9は、例えばコンピュータ(computer)によって構成される。中央処理装置9は、呼吸信号作成手段91、心拍信号作成手段92、およびピーク検出手段93などを有している。
【0020】
呼吸信号作成手段91は、ナビゲータシーケンスNAV1(図2参照)により収集されたエコー信号と、ナビゲータシーケンスNAV2(図2参照)により収集されたエコー信号とに基づいて、被検体の呼吸信号を作成する。
【0021】
心拍信号作成手段92は、ナビゲータシーケンスNAV1により収集されたエコー信号と、ナビゲータシーケンスNAV2により収集されたエコー信号とに基づいて、被検体の心拍信号を作成する。
【0022】
ピーク検出手段93は、呼吸信号作成手段91により作成された呼吸信号のピークと、心拍信号作成手段92により作成された心拍信号のピークを検出する。
【0023】
中央処理装置9は、呼吸信号作成手段91、心拍信号作成手段92、およびピーク検出手段93の一例であり、所定のプログラムを実行することにより、これらの手段として機能する。
【0024】
操作部10は、オペレータ13により操作され、種々の情報を中央処理装置9に入力する。表示部11は種々の情報を表示する。
【0025】
MR装置100は、上記のように構成されている。本形態では、心拍センサを用いなくても被検体の心拍信号を取得することができ、また、呼吸センサ(例えば、ベローズ)を用いなくても被検体の呼吸信号を取得することができる。以下に、この理由について、図2〜図8を参照しながら説明する。
【0026】
図2は、本形態において心拍信号および呼吸信号を取得するために使用されるナビゲータシーケンスNAV1およびNAV2を示す図であり、図3はナビゲータ領域Rを示す図である。
【0027】
ナビゲータシーケンスNAV1およびNAV2は、肝臓の近傍に位置する血管を含むナビゲータ領域R(図3参照)から磁気共鳴信号を収集するためのシーケンスである。ナビゲータシーケンスNAV1およびNAV2は交互に実行される。以下に、ナビゲータシーケンスNAV1およびNAV2について、順に説明する。
【0028】
(1)ナビゲータシーケンスNAV1について
ナビゲータシーケンスNAV1では、RFパルスと同時に、極性が交互に反転する傾斜磁場GyおよびGzが印加される。これによって、ナビゲータ領域Rが励起される。ナビゲータ領域Rを励起した後に、信号を取り出すための傾斜磁場Gxが印加される。傾斜磁場Gxは、傾斜磁場Gxa、Gx11、およびGx12を有している。傾斜磁場Gxaは、流速に応じてスピンの位相を変化させるための流速補正傾斜磁場である。傾斜磁場GxaおよびGx12は正の極性の傾斜磁場であり、傾斜磁場Gx11は負の極性の傾斜磁場である。傾斜磁場Gxaの面積S、傾斜磁場GX11の面積S11、および傾斜磁場Gx12の前半部分(時点t11〜t12)の面積S12は、以下の関係式を満たすように設定されている。
:S11:S12=1:2:1 ・・・(1)
【0029】
(2)ナビゲータシーケンスNAV2について
ナビゲータシーケンスNAV2でも、ナビゲータシーケンスNAV1と同様に、RFパルスと同時に、極性が交互に反転する傾斜磁場GyおよびGzが印加される。これによって、ナビゲータ領域Rが励起される。ナビゲータ領域Rを励起した後に、信号を取り出すための傾斜磁場Gxが印加される。ただし、ナビゲータシーケンスNAV2は、ナビゲータシーケンスNAV1と比較すると、傾斜磁場Gxが異なっている。ナビゲータシーケンスNAV2では、流速補正傾斜磁場Gxaは印加されておらず、傾斜磁場Gx21およびGx22のみが印加されている。傾斜磁場Gx21は負の極性の傾斜磁場であり、傾斜磁場Gx22は正の極性の傾斜磁場である。また、傾斜磁場Gx21の面積S21、および傾斜磁場Gx22の前半部分(時点t21〜t22)の面積S22は、以下の関係式を満たすように設定されている。
21:S22=1:1 ・・・(2)
【0030】
次に、ナビゲータシーケンスNAV1およびNAV2を用いて、心拍信号および呼吸信号を取得する方法について、順に説明する。
【0031】
(1)心拍信号の取得方法について
図4は、ナビゲータシーケンスNAV1およびNAV2によって収集されるエコー信号を、心臓の拡張期と収縮期とに分けて示した図である。
【0032】
先ず、ナビゲータシーケンスNAV1によって収集されるエコー信号E11およびE12について説明する。
【0033】
ナビゲータシーケンスNAV1では、式(1)を満たすように、傾斜磁場Gxの面積を設定している。式(1)を満たすことによって、ナビゲータ領域Rのスピンの位相を、スピンの流速に応じて、概ね以下の状態A1〜A3にすることができる。
(A1)静止しているスピンの位相は、傾斜磁場Gx12の中心時点t12において収束する。
(A2)等速度運動するスピンの位相は、傾斜磁場Gx12の中心時点t12において収束する。
(A3)加速度運動するスピンの位相は、傾斜磁場Gx12の中心時点t12では分散する。
【0034】
心臓が拡張期のときには、心臓が血液を押し出す力が弱くなる。したがって、ナビゲータ領域Rを流れる血液の流速は遅くなる。この場合、血液は、ほぼ静止していと仮定することができるので、拡張期にナビゲータ領域Rを流れる血液の位相は、傾斜磁場Gx12の中心時点t12において収束していると見なすことができる(状態A1)。したがって、心臓が拡張期のときにナビゲータシーケンスNAV1によって収集されたエコー信号E11の振幅A11は大きくなる。
【0035】
一方、心臓が収縮期のときには、心臓が血液を押し出す力が強くなる。この場合、ナビゲータ領域Rに流れる血液は、主に、等速度運動する血液と、加速度運動する血液に分けることができる。等速度運動する血液の位相は、傾斜磁場Gx12の中心時点t12において収束するが(状態A2)、加速度運動する血液の位相は、傾斜磁場Gx12の中心時点t12において分散する(状態A3)。したがって、心臓が収縮期のときにナビゲータシーケンスNAV1によって収集されたエコー信号E12の振幅A12は、エコー信号E11の振幅A11よりも小さくなる。
【0036】
次に、ナビゲータシーケンスNAV2によって収集されるエコー信号E21およびE22について説明する。
【0037】
ナビゲータシーケンスNAV2では、流速補正傾斜磁場Gxaは印加されておらず、式(2)を満たすように、傾斜磁場Gxの面積を設定している。式(2)を満たすことによって、ナビゲータ領域Rのスピンの位相を、スピンの流速に応じて、概ね以下の状態B1〜B3にすることができる。
(B1)静止しているスピンの位相は、傾斜磁場Gx22の中心時点t22において収束する。
(B2)等速度運動するスピンの位相は、傾斜磁場Gx22の中心時点t22では分散する。
(B3)加速度運動するスピンの位相は、傾斜磁場Gx12の中心時点t12では分散する。
【0038】
心臓が拡張期のときには、ナビゲータ領域Rを流れる血液は、ほぼ静止していと仮定することができるので、拡張期にナビゲータ領域Rを流れる血液の位相は、傾斜磁場Gx22の中心時点t22において収束していると見なすことができる(状態B1)。したがって、心臓が拡張期のときにナビゲータシーケンスNAV2によって収集されたエコー信号E21の振幅A21は、エコー信号E11の振幅A11と同様に、大きくなる。
【0039】
一方、心臓が収縮期のときには、上記のように、ナビゲータ領域Rに流れる血液は、主に、等速度運動する血液と、加速度運動する血液に分けることができる。したがって、ナビゲータシーケンスNAV2を実行した場合、大部分の血流の位相は、傾斜磁場Gx22の中心時点t22において分散する(状態B2およびB3)。したがって、心臓が収縮期のときにナビゲータシーケンスNAV2によって収集されたエコー信号E22の振幅A22はかなり小さくなる。
【0040】
したがって、心臓の拡張期では、ナビゲータシーケンスNAV1で得られるエコー信号E11の振幅A11は、ナビゲータシーケンスNAV2で得られるエコー信号E21の振幅A21に近い値になる。一方、心臓の収縮期では、ナビゲータシーケンスNAV2で得られるエコー信号E22の振幅A22は、ナビゲータシーケンスNAV1で得られるエコー信号E12の振幅A12よりもかなり小さくなる。したがって、ナビゲータシーケンスNAV1およびNAV2で得られたエコー信号の振幅の差を求めると、心拡張期では、エコー信号の振幅の差ΔAは小さくなるが、心収縮期ではエコー信号の振幅の差ΔAは大きくなる。このように、心臓が拡張期であるか、収縮期であるかによって、エコー信号の差が変動するので、ナビゲータシーケンスNAV1およびNAV2によってエコー信号を取得することにより、心拍信号を得ることができる。このことを検証するため、実験を行った。以下に、実験結果について説明する。
【0041】
図5は、実験結果の説明図である。
図5(a)は、実験に用いたシーケンスの説明図である。実験では、図2に示すナビゲータシーケンスNAV1およびNAV2を交互に実行した。ナビゲータシーケンスNAV1およびNAV2は、いずれも、ナビゲータ領域R(図3参照)からエコー信号を取得するためのシーケンスである。
【0042】
図5(b)は、図5(a)のシーケンスによって得られたエコー信号の振幅の時間変化を表す信号W1を示す図である。図5(b)の信号W1には、4つのエコー信号の振幅A、A、A、Aが具体的に示されている。振幅AおよびAは、それぞれ時点tおよびtのナビゲータシーケンスNAV1およびNAV2により取得されたエコー信号の振幅である。また、振幅AおよびAは、それぞれ時点tおよびtのナビゲータシーケンスNAV1およびNAV2により取得されたエコー信号の振幅である。
【0043】
図5(c)の信号W2は、図5(b)の信号W1において時間軸方向に隣接する振幅の差の時間変化を表している。図5(c)の信号W2の中には、代表して、振幅の差DabおよびDcdが具体的に示されている。振幅の差Dabは、振幅AとAとの差であり、振幅の差Dcdは、振幅AとAとの差である。振幅の差DabとDcdとを比較すると、両者には大きな差があることがわかる。尚、図5(c)の信号W2は、およそ1秒程度の周期Tを有していた。
【0044】
図5(d)は、図5(c)の信号W2から高調波成分を除去することにより得られた信号W2′である。図5(d)の信号W2′も、図5(c)の信号W2と同様に、1秒程度の周期Tである。
【0045】
図5(e)は、脈波センサによって取得した心拍信号SCを示す。図5(c)の信号W2と、図5(e)の心拍信号SCとを比較すると、信号W2の周期Tは、心拍信号SCの周期Tとほぼ一致していた。したがって、振幅の差の時間変化を表す信号W2を求めることによって、心拍の情報を含む心拍信号が得られることがわかる。尚、信号W2は、心拍センサを用いて得られた心拍信号SCと比較すると、ノイズが目立つので、ノイズはできるだけ低減することが好ましい。ノイズを低減するためには、図5(d)に示すように、高調波成分が除去された信号W2′を作成すればよい。高調波成分を除去することによって、心拍センサによって取得された心拍信号SCの波形に更に近づけることができる。高調波成分を除去する方法としては、移動平均法などを用いることができる。
【0046】
(2)呼吸信号の取得方法について
図5(b)の信号W1の周期Tは、被検体の呼吸周期Tを表していると考えられる。この理由について、図6を参照しながら説明する。
【0047】
図6(a)は、被検体が息を吸ったときの被検体の受信コイルの位置を概略的に示している。被検体が息を吸うと、被検体の腹部周りが広がるので、受信コイルのAP方向の位置は、ナビゲータ領域Rから離れる(位置y0)。
【0048】
図6(b)は、被検体が息を吐いたときの被検体の受信コイルの位置を概略的に示している。被検体が息を吐くと、被検体の腹部周りが小さくなるので、受信コイルのAP方向の位置は、ナビゲータ領域Rに近づく(位置y1)。したがって、被検体の呼吸運動によって、受信コイルの位置がナビゲータ領域Rに近づいたり、ナビゲータ領域Rから遠くなると考えられる。受信コイルがナビゲータ領域Rに近づいたときは、信号の受信強度が大きくなるので、エコー信号の振幅は大きくなると考えられる。一方、受信コイルがナビゲータ領域Rから離れたときは、信号の受信強度が小さくなるので、エコー信号の振幅は小さくなると考えられる。したがって、エコー信号の振幅の時間変化を表す信号W1の周期Tは、被検体の呼吸周期を表していると考えらえる。このことを検証するため、ベローズを用いて被検体の呼吸信号を取得し、図5(b)の信号と比較した。
【0049】
図7は、比較結果の説明図である。
図7(a)は、ベローズを用いて取得した被検体の呼吸信号SRを示す図であり、図7(b)は、図5(b)の信号W1を示す図、図7(c)は、信号W1から高調波成分を除去することにより得られた信号W1′である。
【0050】
図7(a)と図7(b)とを比較すると、図7(b)の信号W1の周期Tは、ベローズを用いて取得された呼吸信号SRの周期Tとほぼ一致していることがわかる。したがって、エコー信号の振幅の時間変化を求めることによって、呼吸信号が得られることがわかる。尚、信号W1は、ベローズにより取得された呼吸信号SRと比較すると、ノイズが目立つので、ノイズはできるだけ低減することが好ましい。ノイズを低減するためには、図7(c)に示すように、高調波成分が除去された信号W1′を作成すればよい。高調波成分を除去することによって、ベローズにより取得された呼吸信号SRの波形に更に近づけることができる。高調波成分を除去する方法としては、移動平均法などを用いることができる。
【0051】
したがって、図5〜図7を参照しながら説明したように、ナビゲータシーケンスNAV1およびNAV2のエコー信号の振幅によって、心拍センサやベローズを用いなくても、心拍信号および呼吸信号が得られることがわかる。
【0052】
次に、図2に示すナビゲータシーケンスNAV1およびNAV2を用いて心拍信号および呼吸信号を取得しながら被検体の肝臓を撮影する方法の一例について説明する。
【0053】
図8は、被検体の肝臓を撮影するときに実行されるシーケンスチャートと、ナビゲータシーケンスNAV1およびNAV2によって得られた心拍信号W2′および呼吸信号W1′とを示す図である。尚、図8では、ナビゲータシーケンスNAV1およびNAV2を見やすくするため、ナビゲータシーケンスNAV1およびNAV2の幅を広くしてある。
【0054】
先ず、ナビゲータシーケンスNAV1およびNAV2を交互に実行し、エコー信号を取得する。呼吸信号作成手段91(図1参照)は、取得されたエコー信号の振幅を算出し、エコー信号の振幅の時間変化を求める。これによって、図7を参照しながら説明したように、被検体の呼吸情報を含む呼吸信号W1が得られる。尚、信号W1は、ベローズにより取得された呼吸信号SR(図7(a)参照)と比較すると、ノイズが目立つ。そこで、呼吸信号作成手段91は、ノイズをできるだけ低減するために、呼吸信号W1から高調波成分が除去された呼吸信号W1′を作成する。高調波成分を除去することによって、ベローズにより取得された呼吸信号SRの波形に更に近づけることができる。高調波成分を除去する方法としては、移動平均法などを用いることができる。
【0055】
また、心拍信号作成手段92(図1参照)は、取得されたエコー信号の振幅の差を算出し、エコー信号の振幅の差の時間変化を求める。これによって、図5を参照しながら説明したように、被検体の心拍情報を含む心拍信号W2が得られる。尚、信号W2は、心拍センサにより取得された心拍信号SC(図5(e)参照)と比較すると、ノイズが目立つ。そこで、心拍信号作成手段92は、ノイズをできるだけ低減するために、心拍信号W2から高調波成分が除去された心拍信号W2′を作成する。高調波成分を除去することによって、心拍センサにより取得された心拍信号SCの波形に更に近づけることができる。高調波成分を除去する方法としては、移動平均法などを用いることができる。
【0056】
一方、ピーク検出手段93(図1参照)は、呼吸信号作成手段91が作成した呼吸信号W1′のピークを検出する。図8では、時点t1において、呼吸信号W1′のピークPr1が現れるので、ピーク検出手段93は、ピークPr1を検出する。このピークPr1が検出されたら、ピーク検出手段93は、呼吸信号W1′のピークPr1の後に現れる心拍信号W2′のピークを検出する。そして、ピーク検出手段93が、呼吸信号W1′のピークPr1から3番目に現れる心拍信号W2′のピークPC3を検出したら、待ち時間Δtだけ待って、肝臓のデータを取得するためのデータ収集シーケンスACQを実行する。
【0057】
被検体の呼吸周期は、概ね4秒程度であり、心拍周期は概ね1秒程度であるので、上記の手順に従ってデータ収集シーケンスACQを実行することによって、被検体の呼吸による体動が小さい期間Aに肝臓のデータを収集することができる。また、待ち時間Δtは、データ収集シーケンスACQが心臓の拡張期Bに実行されるように設定されている。したがって、呼吸による体動アーチファクトが低減され、且つ血流が十分に描出された画像データを取得することができる。
【0058】
尚、上記の説明では、呼吸信号W1′のピークPr1から3番目に現れる心拍信号W2′のピークPC3が検出されたら、待ち時間Δtだけ待って、データ収集シーケンスACQを実行している。しかし、別の方法でデータ収集シーケンスACQを実行してもよい。例えば、呼吸信号W1′のピークPr1が検出されたら、呼吸による体動の小さい期間Aの開始時点tを待ち、期間Aの開始時点tの後に最初に現れる心拍信号W2′のピークPC3が検出されたら、待ち時間Δtだけ待ってデータ収集シーケンスACQを実行してもよい。期間Aの開始時点tになったか否かを判断する方法の一例としては、ピークPr1の時点tと、期間Aの開始時点tとの間の時間Δaを事前に決めておき(例えば、Δa=1.5秒)、ピークPr1から時間Δaが経過した時点を、期間Aの開始時点tとする方法がある。尚、被検体の呼吸周期を算出し、算出された呼吸周期の値に応じて、時間Δaの値を変更してもよい。
【符号の説明】
【0059】
2 マグネット
3 テーブル
3a クレードル
4 受信コイル
5 シーケンサ
6 送信器
7 勾配磁場電源
8 受信器
9 中央処理装置
10 操作部
11 表示部
12 被検体
21 ボア
91 呼吸信号作成手段
92 心拍信号作成手段
93 ピーク検出手段
100 MR装置


【特許請求の範囲】
【請求項1】
流速に応じてスピンの位相を変化させるための流速補正傾斜磁場を有する第1のシーケンスを用いて、被検体内の液体を含む領域から磁気共鳴信号を収集し、前記流速補正傾斜磁場を有していない第2のシーケンスを用いて前記領域から磁気共鳴信号を収集する手段と、
前記第1のシーケンスにより収集された磁気共鳴信号と、前記第2のシーケンスにより収集された磁気共鳴信号とに基づいて、被検体の生体信号を作成する生体信号作成手段と、
を有する、磁気共鳴装置。
【請求項2】
前記液体は血液であると共に、前記生体信号は心拍信号である、請求項1に記載の磁気共鳴装置。
【請求項3】
前記生体信号作成手段は、
前記第1のシーケンスにより収集された磁気共鳴信号の第1の振幅と、前記第2のシーケンスにより収集された磁気共鳴信号の第2の振幅とを求め、前記第1の振幅と前記第2の振幅との差の時間変化を表す第1の信号に基づいて、前記心拍信号を作成する、請求項2に記載の磁気共鳴装置。
【請求項4】
前記生体信号作成手段は、
前記第1の信号から、高調波成分を除去する、請求項3に記載の磁気共鳴装置。
【請求項5】
前記生体信号作成手段は、
移動平均法を用いて、前記高調波成分を除去する、請求項4に記載の磁気共鳴装置。
【請求項6】
前記液体は血液であると共に、前記生体信号は呼吸信号である、請求項1に記載の磁気共鳴装置。
【請求項7】
前記生体信号作成手段は、
前記第1のシーケンスにより収集された磁気共鳴信号の第1の振幅と、前記第2のシーケンスにより収集された磁気共鳴信号の第2の振幅とを求め、前記第1の振幅と前記第2の振幅との時間変化を表す第2の信号に基づいて、前記呼吸信号を作成する、請求項6に記載の磁気共鳴装置。
【請求項8】
前記生体信号作成手段は、
前記第2の信号から高調波成分を除去する、請求項7に記載の磁気共鳴装置。
【請求項9】
前記生体信号作成手段は、
移動平均法を用いて、前記高調波成分を除去する、請求項8に記載の磁気共鳴装置。
【請求項10】
前記第1のシーケンスは、
前記流速補正傾斜磁場と、
前記流速補正傾斜磁場とは反対の極性を有する第1の傾斜磁場と、
前記流速補正傾斜磁場と同じ極性を有する第2の傾斜磁場と、
を有し、
前記流速補正傾斜磁場の面積と、前記第1の傾斜磁場の面積と、前記第2の傾斜磁場の前半部分の面積は、1:2:1である、請求項1〜9のうちのいずれか一項に記載の磁気共鳴装置。
【請求項11】
前記第2のシーケンスは、
前記流速補正傾斜磁場とは反対の極性を有する第3の傾斜磁場と、
前記流速補正傾斜磁場と同じ極性を有する第4の傾斜磁場と、
を有し、
前記第3の傾斜磁場の面積と、前記第4の傾斜磁場の前半部分の面積は、1:1である、請求項1〜10のうちのいずれか一項に記載の磁気共鳴装置。
【請求項12】
流速に応じてスピンの位相を変化させるための流速補正傾斜磁場を有する第1のシーケンスを用いて、被検体内の液体を含む領域から磁気共鳴信号を収集し、前記流速補正傾斜磁場を有していない第2のシーケンスを用いて前記領域から磁気共鳴信号を収集する磁気共鳴装置のプログラムであって、
前記第1のシーケンスにより収集された信号と、前記第2のシーケンスにより収集された信号とに基づいて、被検体の生体信号を作成する生体信号作成処理を計算機に実行させるためのプログラム。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2013−48780(P2013−48780A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−188999(P2011−188999)
【出願日】平成23年8月31日(2011.8.31)
【出願人】(300019238)ジーイー・メディカル・システムズ・グローバル・テクノロジー・カンパニー・エルエルシー (1,125)
【Fターム(参考)】