説明

磁気共鳴装置およびプログラム

【課題】代謝物スペクトルの周波数を十分な精度で補正する。
【解決手段】水の中心周波数の基準値fw0を求めるためのプリスキャンを行った後、本スキャンを行う。本スキャンでは、代謝物シーケンスMS1〜MS4と水シーケンスWSとを有するシーケンス群G(i=1〜n)を実行する。水シーケンスWSにより得られた水の中心周波数と、水の中心周波数との基準値fw0との差に基づいて、代謝物シーケンスMS1〜MS4により得られた代謝物スペクトルMi1〜Mi4の周波数を補正する。その後、周波数補正後の代謝物スペクトルの位相を補正し、加算する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、代謝物スペクトルを取得するための代謝物シーケンスと、水スペクトルを取得するための水シーケンスとを実行する磁気共鳴装置、およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、磁気共鳴装置を用いて、生体内の代謝物のスペクトルを取得し、医学的な診断に使用することが行われている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001-346779号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般的に、代謝物の信号値は小さいので、代謝物のスペクトルを取得するためのシーケンスを繰り返し実行し、各シーケンスで得られた代謝物のスペクトルを加算している。スペクトルを加算することにより、SN比を大きくすることができる。しかし、代謝物の共鳴周波数は、勾配磁場を印加するときにコイルに発生する熱などが原因で、ドリフトする。したがって、代謝物のスペクトルに生じた周波数のドリフトを補正する必要があるが、周波数のドリフト量は時間とともに変化するので、スペクトルの周波数を十分な精度で補正することは難しいという問題がある。
【0005】
したがって、代謝物のスペクトルの周波数を十分な精度で補正できることが望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の態様は、被検体の所定の領域に含まれている代謝物の周波数情報を有する代謝物スペクトルを取得するための代謝物シーケンスと、前記所定の領域に含まれている水の周波数情報を有する水スペクトルを取得するための水シーケンスとを実行する磁気共鳴装置であって、
前記代謝物シーケンスと前記水シーケンスとを有するシーケンス群をn回実行するスキャン手段と、
n回のシーケンス群のうちのi(i=1〜n)番目のシーケンス群により得られた水スペクトルに基づいて、前記i番目のシーケンス群により得られた代謝物スペクトルの周波数を補正する補正手段と、
を有する、磁気共鳴装置である。
【0007】
本発明の第2の態様は、被検体の所定の領域に含まれている代謝物の周波数情報を有する代謝物スペクトルを取得するための代謝物シーケンスと、前記所定の領域に含まれている水の周波数情報を有する水スペクトルを取得するための水シーケンスとを有するシーケンス群をn回実行する磁気共鳴装置のプログラムであって、
n回のシーケンス群のうちのi(i=1〜n)番目のシーケンス群により得られた水スペクトルに基づいて、前記i番目のシーケンス群により得られた代謝物スペクトルの周波数を補正する補正処理、
を計算機に実行させるためのプログラムである。
【発明の効果】
【0008】
n回のシーケンス群のうちのi(i=1〜n)番目のシーケンス群により得られた水スペクトルに基づいて、前記i番目のシーケンス群により得られた代謝物スペクトルの周波数を補正している。したがって、各シーケンス群で生じた周波数のドリフト量に合わせて代謝物スペクトルの周波数が補正されるので、補正精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の一形態の磁気共鳴装置の概略図である。
【図2】被検体12の頭部の中の所定の領域Rを示す図である。
【図3】所定の領域Rから磁気共鳴信号を収集するためのスキャンの説明図である。
【図4】MR装置100の動作フローを示す図である。
【図5】図3に示すシーケンス群G〜Gを実行することにより得られたスペクトルを概略的に示す図である。
【図6】水スペクトルWの周波数を補正したときの様子を示す図である。
【図7】代謝物スペクトルM11〜M14の周波数を補正したときの様子を示す図である。
【図8】水スペクトルWの周波数を補正したときの様子を示す図である。
【図9】代謝物スペクトルM21〜M24の周波数を補正したときの様子を示す図である。
【図10】周波数補正後の水スペクトルW′と、周波数補正後の代謝物スペクトルMn1′〜Mn4′とを示す図である。
【図11】位相補正された代謝物スペクトルを示す図である。
【図12】位相補正後の代謝物スペクトルM11″〜Mn4″を加算するときの説明図である。
【図13】MR装置の別の動作フローを示す図である。
【図14】加算により得られた水スペクトルW′と、加算により得られた代謝物スペクトルM′を示す図である。
【図15】シーケンス群Gの変形例を説明する図である。
【図16】p=1、q=0の場合のシーケンス群Gを示す図である。
【図17】代謝物シーケンスの数が異なる場合の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、発明を実施するための形態を説明するが、本発明は、以下の形態に限定されることはない。
【0011】
図1は、本発明の一形態の磁気共鳴装置の概略図である。
磁気共鳴装置(以下、「MR装置」と呼ぶ。MR:Magnetic Resonance)100は、マグネット2、テーブル3、受信コイル4などを有している。
【0012】
マグネット2は、被検体12が収容されるボア21と、超伝導コイル22と、勾配コイル23と、送信コイル24とを有している。超伝導コイル22は静磁場を印加し、勾配コイル23は勾配磁場を印加し、送信コイル24はRFパルスを送信する。尚、超伝導コイル22の代わりに、永久磁石を用いてもよい。
【0013】
テーブル3は、クレードル3aを有している。クレードル3aは、ボア21内に移動できるように構成されている。クレードル3aによって、被検体12はボア21に搬送される。
【0014】
受信コイル4は、被検体12の頭部に取り付けられている。受信コイル4は、被検体12からの磁気共鳴信号を受信する。
【0015】
MR装置100は、更に、シーケンサ5、送信器6、勾配磁場電源7、受信器8、中央処理装置9、操作部10、および表示部11を有している。
【0016】
シーケンサ5は、中央処理装置9の制御を受けて、被検体12を撮影するための情報を送信器6および勾配磁場電源7に送る。
【0017】
送信器6は、シーケンサ5から送られた情報に基づいて、RFコイル24を駆動する駆動信号を出力する。
【0018】
勾配磁場電源7は、シーケンサ5から送られた情報に基づいて、勾配コイル23を駆動する駆動信号を出力する。
【0019】
受信器8は、受信コイル4で受信された磁気共鳴信号を信号処理し、信号処理により得たれたデータを中央処理装置9に出力する。
【0020】
中央処理装置9は、シーケンサ5および表示部11に必要な情報を伝送したり、受信器8から受け取ったデータに基づいて画像を再構成するなど、MR装置100の各種の動作を実現するように、MR装置100の各部の動作を制御する。中央処理装置9は、例えばコンピュータ(computer)によって構成される。中央処理装置9は、周波数検出手段91、補正手段92、および加算手段93などを有している。
【0021】
周波数検出手段91は、水スペクトルに基づいて、水の共鳴周波数を検出する。
補正手段92は、スペクトルの周波数の補正および位相の補正を行う。
加算手段93は、スペクトルを加算する。
【0022】
中央処理装置9は、周波数検出手段91、補正手段92、および加算手段93の一例であり、所定のプログラムを実行することにより、これらの手段として機能する。
【0023】
操作部10は、オペレータ13により操作され、種々の情報を中央処理装置9に入力する。表示部11は種々の情報を表示する。
【0024】
MR装置100は、上記のように構成されている。尚、マグネット2、受信コイル4、送信器6、勾配磁場電源7、受信器8を合わせたものが、スキャン手段に相当する。
【0025】
図2は、被検体12の頭部の中の所定の領域Rを示す図、図3は、所定の領域Rから磁気共鳴信号を収集するためのスキャンの説明図である。
本形態では、プリスキャンと、本スキャンが実行される。
【0026】
プリスキャンは、水の周波数情報(共鳴周波数)を有する水スペクトルを取得するためのスキャンである。
【0027】
本スキャンは、水スペクトルと、代謝物の周波数情報を有する代謝物スペクトルを取得するためのスキャンである。本スキャンでは、シーケンス群G(i=1〜n)が実行される。以下に、シーケンス群Gについて、説明する。尚、シーケンス群Gは、iの値に関わらず同じであるので、以下では、i=1、すなわち、シーケンス群Gを取り上げて説明する。
【0028】
シーケンス群Gは、代謝物シーケンスMS1〜MS4と水シーケンスWSとを有している。以下に、代謝物シーケンスMS1〜MS4および水シーケンスWについて、順に説明する。
【0029】
(1)代謝物シーケンスMS1〜MS4について
代謝物シーケンスMS1〜MS4は、代謝物スペクトルを取得するためのシーケンスである。尚、代謝物シーケンスMS1〜MS4は、同じシーケンスであるので、以下では、代表して代謝物シーケンスMS1を取り上げて説明する。代謝物シーケンスMS1は、RFパルスP、P、およびPを有している。これらのRFパルスP、P、およびPの送信周波数fは、観測したい代謝物の化学シフトを考慮して設定される。例えば、代謝物として、NAA(N-acetyl-L-aspartate)およびコリン(choline)を観測したい場合、RFパルスP、P、およびPの送信周波数fは、NAAの化学シフト(≒2.00ppm)とコリンの化学シフト(≒3.2ppm)との中間値2.6ppmに対応する周波数に設定される。
【0030】
尚、頭部は、脳室などに大量の水を含んでいるので、代謝物の信号と一緒に水の信号も収集してしまうと、代謝物スペクトルのピークが水スペクトルのピークの裾野に隠れてしまい、代謝物を観測できなくなる。そこで、代謝物シーケンスは、水の信号を抑圧するための水抑圧用シーケンス部SUを有している。水抑圧用シーケンス部SUに含まれる水抑圧用RFパルスPの送信周波数fは、水の化学シフト(≒4.7ppm)に対応する周波数に設定されている。
【0031】
水抑圧用シーケンス部SUによって、水の信号を抑制することができ、所定の領域Rの代謝物スペクトルを観測することができる。
【0032】
(2)水シーケンスWSについて
水シーケンスWSは、水スペクトルを取得するためのシーケンスである。水スペクトルは、代謝物スペクトルの位相を補正するために用いられる。一般的に、代謝物スペクトルは、渦電流などが原因で位相が変動するので、代謝物スペクトルの位相を補正するために、水スペクトルが用いられる。水スペクトルを用いて代謝物スペクトルの位相をどのように補正するかについては、例えば、文献「Klose U,In vivo proton spectroscopy in presence of eddy currents. Magn Reson
Med. 1990 Apr;14(1):26-30」に記載されているので、詳細な説明は省略する。
【0033】
水シーケンスWSは、代謝物シーケンスMS1から水抑圧用シーケンス部SUを除くことにより得られるシーケンスである。水シーケンスWSは、水抑圧用シーケンス部SUが除かれているので、水シーケンスWSを実行することにより、水スペクトルを取得することができる。したがって、取得した水スペクトルを用いて、代謝物スペクトルの位相を補正することができる。
【0034】
以下に、本形態におけるMR装置100の動作について、図4のフローを参照しながら説明する。
【0035】
先ず、ステップST1において、プリスキャン(図3参照)を実行する。プリスキャンでは、本スキャンで使用される水シーケンスWSと同じシーケンスが実行される。したがって、プリスキャンを実行することによって、水の周波数情報(共鳴周波数)を有する水スペクトルを取得することができる。周波数検出手段91(図1参照)は、プリスキャンにより取得された水スペクトルを解析し、水の共鳴周波数fw0を検出する。検出された水の共鳴周波数fw0は、後述するステップST3において、水スペクトルの周波数のドリフト量を求めるための共鳴周波数の基準値として用いられる。プリスキャンが終了したら、ステップST2に進む。
【0036】
ステップST2では、先ず、ステップST1で得られた水の共鳴周波数fw0に基づいて、本スキャンで使用されるシーケンス(代謝物シーケンスMS1〜MS4および水シーケンスWS)のRFパルスの送信周波数を設定する。具体的には、水抑圧用RFパルスPの送信周波数fは、f=fW0に設定される。また、RFパルスP、P、およびPの送信周波数fは、fW0からΔfだけずれた値に設定される。Δfの値は、水の化学シフトと代謝物の化学シフトなどを考慮して、事前に設定された値である。このように、送信周波数を設定したら、本スキャンを実行する。
【0037】
図5は、図3に示すシーケンス群G〜Gを実行することにより得られたスペクトルを概略的に示す図である。縦軸はスペクトルが取得された時間を表しており、横軸は周波数を表している。尚、図5には、ステップST1で得られた水の共鳴周波数の基準値fw0も示されている。
【0038】
図5において、シーケンス群G(i=1〜n)の代謝物シーケンスMS1〜MS4により得られたスペクトルは、それぞれ、符号「Mi1」、「Mi2」、「Mi3」、「Mi4」で表されている。また、シーケンス群Gの水シーケンスWSにより得られたスペクトルは、符号「W」で表されている。例えば、シーケンス群Gの場合(i=1)、代謝物シーケンスMS1〜MS4により得られたスペクトルは、符号「M11」、「M12」、「M13」、「M14」で表され、水シーケンスWSにより得られたスペクトルは、符号「W」で表されている。
【0039】
図5を参照すると、時間とともに、スペクトルの周波数がドリフトすることがわかる。図5では、代謝物スペクトルM11〜Mn4の周波数のドリフトの時間変化を破線Lで示してある。シーケンス群G〜Gを実行した後、ステップST3に進む。
【0040】
ステップST3では、先ず、シーケンス群Gで取得されたスペクトルの周波数の補正処理を行う。以下に、この補正方法について説明する。
【0041】
補正手段92(図1参照)は、先ず、シーケンス群Gで取得された水スペクトルWの周波数を補正する(図6参照)。
【0042】
図6は、水スペクトルWの周波数を補正したときの様子を示す図である。
周波数を補正する前の水スペクトルW(破線で示されている)では、水の共鳴周波数は、基準値fw0からΔfw1だけずれている。そこで、補正手段92は、水の共鳴周波数が基準値fw0に一致するように、水スペクトルWの周波数を補正する。図5では、周波数補正後の水スペクトルを符号「W′」で示してある。このようにして、水スペクトルWの周波数が補正される。
【0043】
水スペクトルWの周波数を補正したら、代謝物スペクトルM11〜M14の周波数を補正する(図7参照)。
【0044】
図7は、代謝物スペクトルM11〜M14の周波数を補正したときの様子を示す図である。
補正手段92は、シーケンス群Gにより得られた代謝物スペクトルM11〜M14の周波数を、同じシーケンス群Gにより得られた水スペクトルWと同様に、Δfw1だけ補正する。図7では、周波数補正後の代謝物スペクトルを、符号「M11′」、「M12′」、「M13′」、「M14′」で示してある。
【0045】
このように、水スペクトルWを用いて周波数のドリフト量Δfw1を求めることによって、代謝物スペクトルM11〜M14の周波数のドリフトを補正することができる。
【0046】
次に、補正手段92は、シーケンス群Gにより得られたスペクトルの周波数の補正処理を行う。補正手段92は、先ず、シーケンス群Gにより得られた水スペクトルWの周波数を補正する(図8参照)。
【0047】
図8は、水スペクトルWの周波数を補正したときの様子を示す図である。
周波数を補正する前の水スペクトルW(破線で示されている)では、水の共鳴周波数は、基準値fw0からΔfw2だけずれている。そこで、補正手段92は、水の共鳴周波数が基準値fw0に一致するように、水スペクトルWの周波数を補正する。図8では、周波数補正後の水スペクトルを符号「W′」で示してある。このようにして、水スペクトルWの周波数が補正される。
【0048】
水スペクトルWの周波数を補正したら、代謝物スペクトルM21〜M24の周波数を補正する(図9参照)。
【0049】
図9は、代謝物スペクトルM21〜M24の周波数を補正したときの様子を示す図である。
補正手段92は、シーケンス群Gにより得られた代謝物スペクトルM21〜M24の周波数を、同じシーケンス群Gにより得られた水スペクトルWと同様に、Δfw2だけ補正する。図9では、周波数補正後の代謝物スペクトルを、符号「M21′」、「M22′」、「M23′」、「M24′」で示してある。
【0050】
このように、水スペクトルWを用いて周波数のドリフト量Δfw2を求めることにより、代謝物スペクトルM21〜M24の周波数のドリフトを補正することができる。
【0051】
以下同様に、補正手段92は、シーケンス群Gにより得られたスペクトルの周波数の補正処理を行う。例えば、i=n、つまり、シーケンス群Gにより得られたスペクトルの補正処理を行うと、図10に示すように、周波数補正後の水スペクトルW′と、周波数補正後の代謝物スペクトルMn1′〜Mn4′とが得られる。このようにして、全ての代謝物スペクトルの周波数が補正される。
【0052】
図10には、2つの破線LおよびL′が示されている。破線Lは、周波数の補正をする前の代謝物シーケンスの周波数のドリフトの時間変化を表している。一方、破線L′は、周波数の補正をした後の代謝物シーケンスの周波数のドリフトの時間変化を表している。2つの破線LおよびL′を比較すると、代謝物スペクトルの周波数を補正することによって、代謝物スペクトルの周波数のドリフト量のばらつきが小さくなっていることがわかる。
【0053】
上記のようにして、全ての代謝物スペクトルの周波数を補正することができる。スペクトルの周波数を補正したら、ステップST4に進む。
【0054】
ステップST4では、補正手段92は、周波数補正後の代謝物スペクトルM11′〜Mn4′の位相を補正する。
【0055】
補正手段92は、先ず、シーケンス群Gの周波数補正後の水スペクトルW′に基づいて、同じシーケンス群Gの周波数補正後の代謝物スペクトルM11′〜M14′の位相を補正する。次に、シーケンス群Gの周波数補正後の水スペクトルW′に基づいて、同じシーケンス群Gの周波数補正後の代謝物スペクトルM21′〜M24′の位相を補正する。以下同様に、シーケンス群Gの周波数補正後の水スペクトルW′に基づいて、同じシーケンス群Gの周波数補正後の代謝物スペクトルMi1′〜Mi4′の位相を補正する。例えば、i=nの場合、シーケンス群Gの周波数補正後の水スペクトルW′に基づいて、同じシーケンス群Gの周波数補正後の代謝物スペクトルMn1′〜Mn4′の位相を補正する。このようにして、全ての代謝物シーケンスの位相が補正される。図11に、位相補正された代謝物スペクトルを示す。図11では、位相補正後の代謝物スペクトルを符号「M11″」〜「Mn4″」で示してある。位相補正をした後、ステップST5に進む。
【0056】
ステップST5では、加算手段93(図1参照)が、位相補正後の代謝物スペクトルM11″〜Mn4″を加算する(図12参照)。
【0057】
図12は、位相補正後の代謝物スペクトルM11″〜Mn4″を加算するときの説明図である。
【0058】
一般的に、代謝物の信号値は小さいので、代謝物スペクトルはSN比が小さくなる傾向がある。そこで、本形態では、加算手段93によって、位相補正後の代謝物スペクトルM11″〜Mn4″を加算する。スペクトルを加算することによって、SN比の大きい代謝物スペクトルを得ることができる。図12では、位相補正後の代謝物スペクトルM11″〜Mn4″を加算することにより得られた代謝物スペクトルを符号「Madd」で示してある。代謝物のペクトルMaddを得た後、代謝物スペクトルMaddを解析し、代謝物に関するデータを算出し、フローを終了する。
【0059】
本形態では、シーケンス群Gを実行することによって、代謝物スペクトルMi1〜Mi4の他に、周波数のドリフト量を求めるための水スペクトルWを取得している。そして、シーケンス群Gの水スペクトルWにより求められた周波数のドリフト量を用いて、同じシーケンス群Gで得られた代謝物スペクトルMi1〜Mi4の周波数を補正する。したがって、周波数のドリフト量が時間とともに変化しても、代謝物スペクトルの周波数を十分な精度で補正することができる。また、このように周波数補正をすることによって、代謝物スペクトルの周波数のドリフト量のばらつきを小さくすることができるので(図10参照)、ステップST5で得られた代謝物スペクトルMaddの半値幅の広がりを抑えることができる。
【0060】
尚、ステップST2を実行している間に、水スペクトルWの共鳴周波数と、水の共鳴周波数の基準値fw0との周波数差を求め、求めた周波数差に基づいて、RFパルスの送信周波数を変更してもよい。このようにRFパルスの送信周波数を変更することによって、励起領域の位置ずれを補正することができ、良好な水抑制を行うこともできる。
【0061】
また、本形態では、図4のフローに従って代謝物スペクトルMaddを得ているが、図4とは別のフローに従って代謝物スペクトルMaddを得てもよい(図13参照)。
【0062】
図13は、別のフローを示す図である。
ステップST1〜ST3は、図4のフローと同じであるので説明は省略する。ステップST1〜ST3を実行することによって、図10に示すように、周波数補正後の代謝物スペクトルM11′〜Mn4′を得ることができる。ステップST3を実行したら、ステップST4に進む。
【0063】
ステップST4では、加算手段93(図1参照)が、周波数補正後の水スペクトルW′〜W′を加算し、更に、周波数補正後の代謝物スペクトルM11′〜Mn4′を加算する。図14に、加算により得られた水スペクトルW′と、加算により得られた代謝物スペクトルM′を示す。スペクトルを加算した後、ステップST5に進む。
【0064】
ステップST5では、補正手段92が、水スペクトルW′を用いて、代謝物スペクトルM′の位相を補正する。これによって、位相補正後の代謝物スペクトルMaddを得ることができる。代謝物スペクトルMaddを得た後、代謝物スペクトルMaddを解析し、代謝物に関するデータを求め、フローを終了する。
このように、スペクトルを加算した後で、位相を補正してもよい。
【0065】
尚、本形態では、シーケンス群Gは、図3に示すように、4つの代謝物シーケンスと1つの水シーケンスとを有している。しかし、シーケンス群Gは、図3に限定されることはなく、種々の変形が可能である(図15参照)。
【0066】
図15は、シーケンス群Gの変形例を説明する図である。
図15では、シーケンス群Gは、水シーケンスWSの前にp個の代謝物シーケンスを有し、水シーケンスWSの後にq個の代謝物シーケンスを有している。図3では、p=q=2であったが、pおよびqは、2に限定されることはない。また、p=qである必要はなく、p≠qであってもよい。更に、p=0又はq=0にしてもよい。例えば、p=1、q=0の場合、シーケンス群Gは、以下のように表される。
【0067】
図16は、p=1、q=0の場合のシーケンス群Gを示す図である。
図16では、1個の代謝物シーケンスMSごとに、周波数のドリフト量を求めるための水シーケンスWSが実行されるので、代謝物スペクトルの補正精度を更に向上させることができる。
【0068】
ただし、図16に示すシーケンス群を用いる場合、代謝物シーケンスの実行回数と同じ回数だけ水シーケンスを実行する必要があるので、スキャン時間が長くなる。したがって、スキャン時間の短縮化を優先したい場合は、1個のシーケンス群が、複数の代謝物シーケンスを有するようにすることが望ましい。
【0069】
尚、シーケンス群G〜Gの各々が有する代謝物シーケンスの数は、必ずしも同じ数である必要はない(図17参照)。
【0070】
図17は、代謝物シーケンスの数が異なる場合の一例を示す図である。
図17では、シーケンス群Gは、1個の代謝物シーケンスを有しているが、シーケンス群Gは、2個の代謝物シーケンスを有している。このように、代謝物シーケンスの数は異なっていてもよい。
【符号の説明】
【0071】
2 マグネット
3 テーブル
3a クレードル
4 受信コイル
5 シーケンサ
6 送信器
7 勾配磁場電源
8 受信器
9 中央処理装置
10 操作部
11 表示部
12 被検体
21 ボア
22 超伝導コイル
23 勾配コイル
24 送信コイル
91 周波数検出手段
92 補正手段
93 加算手段
100 MR装置


【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体の所定の領域に含まれている代謝物の周波数情報を有する代謝物スペクトルを取得するための代謝物シーケンスと、前記所定の領域に含まれている水の周波数情報を有する水スペクトルを取得するための水シーケンスとを実行する磁気共鳴装置であって、
前記代謝物シーケンスと前記水シーケンスとを有するシーケンス群をn回実行するスキャン手段と、
n回のシーケンス群のうちのi(i=1〜n)番目のシーケンス群により得られた水スペクトルに基づいて、前記i番目のシーケンス群により得られた代謝物スペクトルの周波数を補正する補正手段と、
を有する、磁気共鳴装置。
【請求項2】
前記シーケンス群は、前記代謝物シーケンスを複数有している、請求項1に記載の磁気共鳴装置。
【請求項3】
前記シーケンス群は、前記代謝物シーケンスを1個有している、請求項1に記載の磁気共鳴装置。
【請求項4】
前記スキャン手段は、水の共鳴周波数の基準値を求めるためのスキャンを実行する、請求項1〜3のうちのいずれか一項に記載の磁気共鳴装置。
【請求項5】
前記水スペクトルに基づいて水の共鳴周波数を検出する周波数検出手段を有する、請求項1〜4のうちのいずれか一項に記載の磁気共鳴装置。
【請求項6】
前記補正手段は、
前記i番目のシーケンス群により得られた水スペクトルの水の共鳴周波数と、前記水の共鳴周波数の基準値とに基づいて、前記i番目のシーケンス群により得られた代謝物スペクトルの周波数を補正する、請求項4又は5に記載の磁気共鳴装置。
【請求項7】
前記補正手段は、
周波数が補正された前記代謝物スペクトルの位相を補正する、請求項6に記載の磁気共鳴装置。
【請求項8】
被検体の所定の領域に含まれている代謝物の周波数情報を有する代謝物スペクトルを取得するための代謝物シーケンスと、前記所定の領域に含まれている水の周波数情報を有する水スペクトルを取得するための水シーケンスとを有するシーケンス群をn回実行する磁気共鳴装置のプログラムであって、
n回のシーケンス群のうちのi(i=1〜n)番目のシーケンス群により得られた水スペクトルに基づいて、前記i番目のシーケンス群により得られた代謝物スペクトルの周波数を補正する補正処理、
を計算機に実行させるためのプログラム。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2013−9900(P2013−9900A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−145477(P2011−145477)
【出願日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【出願人】(300019238)ジーイー・メディカル・システムズ・グローバル・テクノロジー・カンパニー・エルエルシー (1,125)
【Fターム(参考)】