説明

磁気浮上式列車用起磁力補助装置

【課題】超電導主巻き線の電流を減じることなく補助巻き線による補助電磁力を有効に発揮する磁気浮上式列車用起磁力補助装置を提供する。
【解決手段】列車に取り付けられると共に列車を浮上、案内させる超電導磁石の超電導主巻き線51−54の永久電流の減少を補うように通電される補助巻き線を有し、前記補助巻き線は、磁極について超電導主巻き線51−54と一致するように通電される第1の補助巻き線部56a−59aと、第1の補助巻き線部56a−59aの磁束と逆向きの磁束を発生させるように通電される第2の補助巻き線部56b−59bを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、磁気浮上式列車に適用される磁気浮上式列車用起磁力補助装置に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気浮上式鉄道は、ガイドウェイの側壁に設置された浮上案内コイルおよび推進コイルと、磁気浮上式列車に搭載された超電導磁石を有する。
【0003】
超電導磁石は、NiTb線材を使用してきたが、現在では、RE(Rare Earth)系線材を使用している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−315606号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
RE系線材の高温超電導磁石は、いわゆるN値について従来のNiTb線材を用いた低温超電導磁石に比べて小さく、永久電流モード時(PCS(Persitent Current Swtich)オン時)に大きな電流減衰を有するという問題があった。ここで、SC(Super Conductor;超電導)主巻き線に同一形状の補助巻き線を取り付ける方策もある。しかし、この補助巻き線に通電時に永久電流モードで運用される主巻き線(従来の巻き線)を鎖交する磁束は、主巻き線の電流を減少させ、補助巻き線の通電の効果を打ち消してしまう。
【0006】
そこで、本発明の目的は、超電導主巻き線の電流を減じることなく補助巻き線による補助電磁力を有効に発揮する磁気浮上式列車用起磁力補助装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以下、符号を付して本発明の特徴を説明する。なお、符号は参照のためであり、本発明を実施形態に限定するものでない。
【0008】
本発明の第1の特徴に係わる磁気浮上式列車用起磁力補助装置(56−59)は、列車(20)に取り付けられると共に列車(20)を浮上、案内させる超電導磁石(50)の超電導主巻き線(51−54)の永久電流の減少を補うように通電される補助巻き線(56−59)を有し、前記補助巻き線は、磁極について超電導主巻き線(51−54)と一致するように通電される第1の補助巻き線部(56a−59a)と、第1の補助巻き線部(56a−59a)の磁束と逆向きの磁束を発生させるように通電される第2の補助巻き線部(56b−59b)を有する。
【0009】
第1の補助巻き線部(56a−59a)の磁束と第2の補助巻き線部(56b−59b)の磁束とは同じ大きさに設定される。
【0010】
補助巻き線(56−59)は超電導主巻き線(51−54)と一致するように配置される。
【0011】
補助巻き線(56−59)は8の字に巻かれると共に8の字の交差部(C1)について第1の補助巻き線部(56a−59a)および第2の補助巻き線部(56b−59b)を構成する。
【0012】
第1の補助巻き線部(56a−59a)と第2の補助巻き線部(56b−59b)とは別々の線材から構成される。
【発明の効果】
【0013】
本発明の特徴によれば、超電導主巻き線の電流減衰によって生じた電磁力アンバランスを補正することができる。
【0014】
また、列車とガイドウェイとの間の実ギャップの縮小を補正・緩和することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】磁気浮上式鉄道の概略斜視図である。
【図2】図1に示す磁気浮上式列車の台車の拡大斜視図である。
【図3】(A)は超電導主巻き線を示す概要図であり、(B)は補助巻き線を示す概要図である。
【図4】(A)は補助巻き線の形態を示す概要図であり、(B)は、補助巻き線の他の形態を示す概要図である。
【図5】地上コイルおよび磁気浮上式列車の超電導磁石の概要図である。
【図6】図1に示す磁気浮上式列車の超電導磁石の回路を示す概要図である。
【図7】補助巻き線を用いた実施例を示すグラフである。
【図8】補助巻き線を用いた実施例を示すグラフである。
【図9】補助巻き線を用いた実施例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して実施の形態を詳細に説明する。
【0017】
図1に示すように、磁気浮上式鉄道1は、軌道のガイドウェイ10と、ガイドウェイ10に配置された磁気浮上式列車(以下、列車と称する)20を有する。
【0018】
ガイドウェイ10は、側壁11に配置された地上コイル12を有する。地上コイル12は、浮上案内コイル13と、浮上案内コイル13の後側に二重に配置された推進コイル14を有する。浮上案内コイル13は、8の字に巻かれた巻線からなり、上下方向に配置された第1の浮上案内コイル部13aおよび第2の浮上案内コイル部13bを有する(図5参照)。第1の浮上案内コイル部13aおよび第2の浮上案内コイル部13bは、それぞれ逆向きに通電される。
【0019】
列車20は、車体30と、車体30を支持する台車40を有する。図2に示すように、台車40は、フレーム41と、フレーム41に回転可能に支持されると共に低速走行時にガイドウェイ10上に接地する支持脚42と、ガイドウェイ10の側壁11に接する案内脚43と、車体30を支持する空気ばね44と、フレーム41に配置された上下方向ダンパ45および左右方向ダンパ46と、フレーム41の両側部に配置された冷凍システム47を有する。
【0020】
台車40は、フレーム41の側部に配置されると共に冷凍システム47によって冷却される超電導磁石50を有する。超電導磁石50は地上コイル12と対向する。超電導磁石50は、磁気浮上式列車1の進行方向に直列に配置された超電導主巻き線51、52、53、54、超電導主巻き線51−54のそれぞれと一致するように重ねて配置された、起磁力補助装置としての補助巻き線56、57、58、59を有する(図3、5参照)。なお、超電導磁石50はフレーム41の反対の側部にも配置されるが、説明を省略する。
【0021】
超電導主巻き線51−54は、レールトラック形状であり、超電導材料の線材を所定の回数で巻いたものである。超電導材料は、例えば、RE(Rare Earth)−Ba−Cu−O系超電導材料である。図6に示すように、超電導主巻き線51−54には、地上励磁電源61から励磁電流が通電する。その後、PCSスイッチS1、S2、S3、S4を閉じて超電導主巻き線51−54を含む閉回路を形成することにより、永久電流が超電導主巻き線51−54に流れる。
【0022】
図3、5に示すように、各補助巻き線56−59は、上下方向に配置された第1の補助巻き線部56a−59aおよび第2の補助巻き線部56b−59bを有する。第1の補助巻き線部56a−59aは超電導主巻き線51−54の下半分と一致する。第2の補助巻き線部56b−59bは超電導主巻き線51−54の上半分と一致する。
【0023】
図4(A)に示すように、各補助巻き線56−59は、線材を8の字に巻いて、交差部C1を中心に下半分に第1の補助巻き線部56a−59aおよび上半分に第2の補助巻き線部56b−59bを規定する。
【0024】
補助巻き線56−59には、車上の常時励磁用電源から電流が常時通電される。これにより、第1の補助巻き線部56a−59aおよび第2の補助巻き線部56b−59bのそれぞれは、互いに同じ大きさで反対方向の磁束を発生すると共に反対向きに磁化される。補助巻き線56−59の通電量は、超電導主巻き線51−54の永久電流の減少分に応じて適宜設定される。
【0025】
なお、第1の補助巻き線部56a−59aおよび第2の補助巻き線部56b−59bのループの大きさを変えて、磁束の大きさを調整してもよい。また、図4(B)に示すように、他の補助巻き線56A−59Aは、第1の補助巻き線部56a−59aと第2の補助巻き線部56b−59bを別々の線材を巻くことにより構成してもよい。この構成において、第1の補助巻き線部56a−59a及び第2の補助巻き線部56b−59bの通電量を変えて、磁束の大きさを調整してもよい。
【0026】
次に、磁気浮上式鉄道1の使用方法を説明する。
【0027】
図6に示すように、励磁電流が励磁用電源61から超電導主巻き線51−54へ通電した後に、PCSスイッチS1−S4を閉じる。これにより、永久電流が超電導主巻き線51−54に流れる。図5に示すように、超電導主巻き線51−54は磁極を発生する。超電導主巻き線51−54は、前方の推進コイル14と吸引し、後方の推進コイル14と反発し、磁気浮上式列車1を進行方向に推進させる。また、超電導主巻き線51−54は、第1の浮上案内コイル部13aと反発し、第2の浮上案内コイル部13bと吸引するので、磁気浮上式列車1をガイドウェイ10から浮上させる。また、両側壁11の浮上案内コイル13は磁気浮上式列車1をガイドウェイ10の中心に誘導する。
【0028】
ここで、超電導主巻き線51−54の永久電流が閾値以下に減衰すると、車上の常時通電用電源は補助巻き線56−59に励磁電流を通電させる。これにより、第1の補助巻き線部56a−59aと第2の補助巻き線部56b−59bとのそれぞれに、同じ大きさで逆向きの電流が通電される。
【0029】
第1の補助巻き線部56a−59aは、第2の補助巻き線部56b−59bの磁束と同じ大きさで逆向きの磁束を発生するので、第1の補助巻き線部56a−59aの磁束と第2の補助巻き線部56b−59bの磁束は打ち消し合う。補助巻き線56−59から超電導主巻き線51−54へ鎖交する新たな磁束は無くなり、補助巻き線56−59と超電導主巻き線51−54との間の相互インダクタンスを零にする。これにより、補助巻き線56−59の通電時に超電導主巻き線51−54の通電量を減少させずに維持する。
【0030】
一方、第1の補助巻き線部56a−59aは超電導主巻き線51−54と同じ磁極を有するように磁化される。これにより、補助巻き線56−59は浮上案内コイル13と作用して列車1に対して浮上力および案内力を生じさせる。
【0031】
これにより、超電導主巻き線51−54の電流減衰時に生じた電磁力アンバランスを解消し、超電導主巻き線51−54の電流減衰により縮小した超電導磁石50(台車)―地上コイル12間の実ギャップを正常な状態に近づけ、間隙確保にも資することができる。
【0032】
また、曲線を走行する場合、列車速度に対する設定カントに対し速度が遅いかもしくは高いと、超過/不足遠心力のため台車40がガイドウェイ10の中心から変位する。場合によってはガイドウェイ10と台車40の接触が生じる。左右の補助巻き線56−59の電流を調節することにより、台車40が常にガイドウェイ10の中心に配置されるように制御することができる。
【0033】
また、補助巻き線56−59の通電電流値は一般に超電導主巻き線51−54の電流より小さいので、常時、通電時の常時通電用電源およびパワーリードを小規模なものにできる。また、万一、常時通電用電源がフェールしても、超電導主巻き線51−54を常時通電する場合に比べその影響が小さい。
【0034】
以上の実施形態によれば、超電導主巻き線51−54の通電量を減じることなく補助巻き線56−59による補助電磁力を有効に発揮することができる。引いては超電導主巻き線51−54の電流減衰時の電磁力補助および空隙確保に資することができる。
【0035】
なお、本発明は本実施形態に限定されず、また、各実施形態は発明の趣旨を変更しない範囲で変更、修正可能である。
【実施例】
【0036】
次に、実施例を説明する。
【0037】
超電導主巻き線51−54は従来のNiTb製低温超電導磁石と同様に永久電流モード(PCSスイッチ付き)で運用し、補助巻き線56−59は常時通電モードで運用した。超電導主巻き線51−54の永久電流が減じていない状態では補助巻き線56−59の通電電流は零であり、超電導主巻き線51−54の電流の減衰に応じて除除に補助巻き線56−59の電流通電量を増加させる。
【0038】
図7に、超電導主巻き線51−54が正常時および減衰時の上下・左右台車重心変位を示す。これは、200kNの負担過剰で500km/hの走行時のものである。正常時には8個の超電導主巻き線51−54の全てに700kA通電される。そのときの上下変位は36.7mmを▲印で示す。
【0039】
次に、左右の超電導主巻き線51−54の一方側の通電量を100%とし、他方側の通電量を90%に減衰させる。このときの、超電導主巻き線51−54が減衰した側の補助巻き線56−59に通電した場合の台車重心位置を■印で示す。その結果、超電導主巻き線51−54の電流値(700kA)の5%の補助電流量で台車重心上下位置をほぼ正常時(=主巻き線非減衰時)の上下変位(=36.7mm)と同等にすることができる。また、同時に台車重心左右変位も低減でき、補助巻き線56−59の通電量が0.1と0.15との間で左右変位を最小にできる。
【0040】
なお、ここでは左右・上下方向の地上−車上間ギャップの代表値として台車重心変位を取り上げ、それを評価したものである。
【0041】
また、図8に示すように、地上−車上間の上下ギャップに関して、補助巻き線56−59に、超電導主巻き線51−54の電流減衰のない時の上下ギャップの縮小最大量は38.3mmである。これに対して、上記のように超電導主巻き線51−54の電流を減衰させた時に、補助巻き線56−59の通電量を増加させると、上下ギャップ縮小最大量が小さくなり、38.3mmに近づく。
【0042】
図9に示すように、地上−車上間の左右ギャップに関して、補助巻き線56−59の通電量を増加させると、左右ギャップ縮小最大量が減少する。
【符号の説明】
【0043】
1 磁気浮上式鉄道
10 ガイドウェイ
11 側壁
12 地上コイル
13 浮上案内コイル
14 推進コイル
20 磁気浮上式列車
30 車体
40 台車
50 超電導磁石
51−54 超電導主巻き線
56−59 補助巻き線
56a−59a 第1の補助巻き線部
56b−59b 第2の補助巻き線部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
列車に取り付けられると共に列車を浮上、案内させる超電導磁石の超電導主巻き線の永久電流の減少を補うように通電される補助巻き線を有し、
前記補助巻き線は、
磁極について超電導主巻き線と一致するように通電される第1の補助巻き線部と、
第1の補助巻き線部の磁束と逆向きの磁束を発生させるように通電される第2の補助巻き線部を有する、
磁気浮上式列車用起磁力補助装置。
【請求項2】
前記第1の補助巻き線部の磁束と第2の補助巻き線部の磁束とは同じ大きさに設定される、
請求項1に記載の磁気浮上式列車用起磁力補助装置。
【請求項3】
前記補助巻き線は超電導主巻き線と一致するように配置される、
請求項1又は2に記載の磁気浮上式列車用起磁力補助装置。
【請求項4】
前記補助巻き線は8の字に巻かれると共に8の字の交差部について第1の補助巻き線部および第2の補助巻き線部を構成する、
請求項1乃至3の何れか1つに記載の磁気浮上式列車用起磁力補助装置。
【請求項5】
前記第1の補助巻き線部と第2の補助巻き線部とは別々の線材から構成される、
請求項1乃至3の何れか1つに記載の磁気浮上式列車用起磁力補助装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−253945(P2012−253945A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−125557(P2011−125557)
【出願日】平成23年6月3日(2011.6.3)
【出願人】(000173784)公益財団法人鉄道総合技術研究所 (1,666)
【Fターム(参考)】