磁気浮上装置
【課題】ギャップセンサ、センサーターゲットなどを使用することなく、浮上体を安定的に浮上させて、装置全体を小型化、簡略化、低コスト化するとともに、信頼性を向上する。
【解決手段】 磁石ユニット107に供給している励磁電圧“eZ”、励磁電流“iZ”の大きさに基づき、吸引力制御手段115の姿勢推定手段133によって、浮上体111の姿勢および姿勢変化速度を推定させながら、コイル119の抵抗値などに基づき、推定結果を補正するとともに、励磁電圧補正手段142によって、吸引力制御手段115の推定結果に所定のゲイン“λos”を乗じて積分し、積分結果と前記励磁電圧値“eZ”との加算結果を補正済みの励磁電圧値“eZ”として、姿勢推定手段133に供給させて、励磁電圧値“eZ”を演算する。
【解決手段】 磁石ユニット107に供給している励磁電圧“eZ”、励磁電流“iZ”の大きさに基づき、吸引力制御手段115の姿勢推定手段133によって、浮上体111の姿勢および姿勢変化速度を推定させながら、コイル119の抵抗値などに基づき、推定結果を補正するとともに、励磁電圧補正手段142によって、吸引力制御手段115の推定結果に所定のゲイン“λos”を乗じて積分し、積分結果と前記励磁電圧値“eZ”との加算結果を補正済みの励磁電圧値“eZ”として、姿勢推定手段133に供給させて、励磁電圧値“eZ”を演算する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレベータシステムや鉄道、その他の搬送システムなどで使用される磁気浮上装置に係わり、特にギャップセンサ、センサーターゲットなどを使用することなく、浮上体を安定的に浮上させて装置全体を小型化、簡略化するようにした磁気浮上装置に関する。
【背景技術】
【0002】
常電導吸引式磁気浮上装置は、騒音や発塵がなく、HSSTやトランスラピッド等の鉄道や半導体工場でのクリーンルーム内搬送システムなどで既に実用化が図られている。また、「特許文献1」では、エレベータの非接触案内、「特許文献2」では、ドアへの常電導吸引式磁気浮上装置の適用が試みられている。
【0003】
しかしながら、このような常電導吸引式磁気浮上装置では、固定部材となる強磁性部材と対向して配置された電磁石に励磁電流を流したとき、電磁石と強磁性部材との間に生じる吸引力を利用して浮上体を浮上させているので、磁気浮上系の安定化が困難であるという問題があった。
【0004】
そこで、このような問題を解決する方法として、強磁性部材に付随するようにセンサターゲットを配置し、浮上体側に配置されたギャップセンサを用いて、浮上ギャップ長、その速度、および加速度を検出するとともに、これらの検出結果と、電磁石の励磁電圧および励磁電流とを吸引力制御手段にフィードバックし吸引力を制御して磁気浮上系を安定化する方法が提案されている。
【0005】
しかしながら、このような問題解決方法では、浮上ギャップ長を検出するギャップセンサを使用しなければならないばかりでなく、ギャップセンサに適したセンサターゲットが必要であり、また強磁性部材に付随してセンサターゲットを敷設しなければならず、その分だけ、装置全体のコストが高くなってしまう。また、ギャップセンサの取付けスペース、センサターゲット用のスペースなどを確保しなければならないので、装置を小型化することが難しいという問題があった。
【0006】
特に、鉄道や搬送システムにおいては、強磁性ガイドで構成される軌道に分岐個所を設けなければならないことから、センサターゲットとガイドとが交差してギャップ長の検出を妨げないような仕組みが必要になり、その分だけシステムが複雑化してしまうという問題があった。
【0007】
そこで、こうした問題を解決するため、種々の解決策、例えば、「非特許文献3」に記載のように、ギャップセンサを無くして、浮上ギャップ長を制御するセンサレス化手法を用いたものがある。この手法では、ヒステリシスコンパレータを用いて、電磁石の励磁電流値と励磁電流基準値とを比較し、励磁電流が励磁電流基準値より大きいとき、電磁石の励磁電圧を“負”にし、小さいとき“正”に切替えて、スイッチング周波数を浮上ギャップ長に比例させ、浮上系を安定化するというものである。また、他の手法として、「非特許文献1」に記載のように、オブザーバ(状態観測器)を用いて、電磁石の励磁電流を観測し、この観測結果に基づき、ギャップ長を推定する方法もある。さらに、「非特許文献2」に記載のように、交流磁気浮上により生じる電磁石の励磁電圧と励磁電流の位相差にギャップ情報を陰に含ませ、これを電磁石励磁電圧にフィードバックさせて安定化する方法などが提案されている。
【0008】
しかし、こうした解決策、例えばオブザーバを使用する解決策以外の解決策、例えばギャップ情報を含む物理量で電磁石の励磁電圧を制御する解決策では、浮上制御系が非線型系になることから、浮上制御系が安定しているかどうかを判別するのが難しい。このため、浮上体に質量の変化や励磁による温度上昇に起因する電磁石コイルの電気抵抗変動などが発生したとき、浮上状態を維持するのが難しくなるという問題もあった。
【0009】
また、オブザーバを使用する解決策では、浮上状態における磁気浮上系の線型モデルからオブザーバを導いているので、浮上体が浮上状態にないとき、浮上ギャップ長を推定することができない。このため、浮上体が他の構造物に一旦、接触すると、再び浮上状態に復帰することができないという問題があった。
【0010】
そこで、オブザーバを用いて、電磁石励磁電流からギャップ長を推定するセンサレス化手法の上述した問題に対処するため、「特許文献3」などでは、浮上体が浮上状態にないとき、浮上体の接触を検出してオブザーバの積分器を初期化して、上体の接触状態から、接触時のギャップ長を幾何学的に推定させ、このギャップ長推定値に基づいて、オブザーバの積分器に初期値を与えることで、浮上状態への復帰を確実にする手法が提案されている。
【0011】
しかるに、この手法を「特許文献4」にあるゼロパワー制御に適用する場合、浮上体が定常浮上状態にある時には、電磁石の励磁電流がゼロに収束しているため何らの問題も生じないが、浮上体に大きな変動外力が長時間加えられ、電磁石コイルに過渡的な制御電流が流れ続け、電磁石コイルの温度が上昇し、電磁石コイルの電気抵抗が大きくなったとき、電磁石励磁電流から浮上ギャップ長を推定するオブザーバの出力誤差が大きくなって、浮上状態の維持が次第に困難になり、ついには浮上体が固定部材となる強磁性部材に接触してしまう。
【0012】
また、浮上体が強磁性部材に接触したとき、浮上状態への復帰制御が試みられるが、浮上状態に復帰しても、浮上時の浮上ギャップ長推定値の誤差が大きいことから、再び浮上体が強磁性部材に接触してしまい、接触状態と、浮上状態が交互に繰り返えされてしまう。
【0013】
こうなると、電磁石に大きな制御電流が流れ続けるため、ますます電磁石コイルの電気抵抗値が上昇し、ついには浮上体が強磁性部材に接触したままで、励磁電流が流れ続け、浮上状態の信頼性が損なわれるばかりでなく、電磁石が発火してしまう恐れがあった。
【0014】
そこで、このようなセンサレス磁気浮上における電磁石コイルの抵抗値変動問題を解決する方法として、「特許文献5」では、コイルの抵抗を測定しながら浮上させるとともに、測定動作で得られた抵抗値を用いて、オブザーバのパラメータを変更させ、ギャップ長を推定するときの誤差を小さくする方法が提案されている。
【0015】
しかし、電磁石に過渡的な励磁電流が流れ続けると、電磁石コイルの抵抗値変動に加え、電磁石コイルに励磁電流を供給するドライバなどの温度が上昇して、オフセット電圧が上昇してしまうことから、浮上ギャップ長推定値誤差が大きくなり、浮上状態が不安定安になってしまうという問題があった。
【特許文献1】特願平11−192224号公報
【特許文献2】特願2001−00359号公報
【特許文献3】特願2002−002646号公報
【特許文献4】特開昭61−102105号公報
【特許文献5】特願2003−344670号公報
【特許文献6】特願平11−192224
【非特許文献1】水野、他:「変位センサレス磁気軸受の実用化に関する研究」、電気学会論文集D分冊、116、No.1、35(1996)
【非特許文献2】森山:「差動帰還形パワーアンプを用いたAC磁気浮上」1997年電気学会全国大会予稿集、No.1215
【非特許文献3】水野、他:「ヒステリシスアンプを利用したセルフセンシング磁気浮上」、計測自動制御学会論文集、32、No.7、1043(1996)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
このように、従来の磁気浮上装置にあっては、ギャップセンサ、センサターゲットを使用して得られた浮上ギャップ長を吸引力制御手段にフィードバックさせて、浮上体の安定な浮上状態を実現する方法では、ギャップセンサの設置スペース、センサターゲットの設置スペースなどを確保しなければならず、装置が大型化して複雑になり、コストアップを招くという問題があった。
【0017】
しかも、こうした問題を避けるために、ギャップセンサを用いずに吸引力制御手段にギャップ長の情報をフィードバックしても、従来の技術では、浮上系の安定性が電磁石励磁手段のオフセット電圧に依存していることから、外力が変動したとき、浮上状態の信頼性が著しく損なわれてしまう。
【0018】
このため、このような技術を用いた場合にも、ギャップセンサを使わざるを得ず、装置の複雑化や大型化、コスト高の問題を回避することができないという問題があった。
【0019】
本発明は上記の事情に鑑み、浮上体に対する外力が変動する場合にも、ギャップセンサ、センサーターゲットなどを使用することなく、浮上体を安定的に浮上でき、装置全体を小型化、簡略化させて大幅なコストダウンを達成することができる磁気浮上装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上記の目的を達成するために本発明は、固定部材と、この固定部材に対して磁力を介して非接触状態に保持される浮上体と、浮上体側または固定部材側に配置され、供給される励磁電流の大きさに応じた磁力を発生する電磁石ユニットと、前記浮上体側または固定部材側に配置され、前記電磁石ユニットに供給される励磁電流の大きさを検出する電流センサと、前記浮上体側または固定部材側に配置され、前記電流センサの検出結果および補正済み励磁電圧値に基づき、前記固定部材に対する前記浮上体の姿勢および姿勢変化速度を推定して、前記浮上体と固定部材と空隙とによって構成される磁気回路を安定化するのに必要な励磁電圧値を演算する吸引力制御手段と、前記浮上体側または固定部材側に配置され、前記吸引力制御手段の推定結果に所定のゲインを乗じて積分し、積分結果を前記励磁電圧値に加算して得られた加算結果を補正済み励磁電圧値として前記吸引力制御手段に供給する励磁電圧補正手段と、前記浮上体側または固定部材側に配置され、前記吸引力制御手段で得られた励磁電圧値に応じて、前記電磁石ユニットに励磁電流を供給するドライバとを備えたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0021】
本発明による磁気浮上装置によれば、浮上体に対する外力が変動する場合にも、ギャップセンサ、センサーターゲットなどを使用することなく、浮上体を安定的に浮上させて、装置全体を小型化、簡略化させて大幅なコストダウンを達成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
《発明の動作原理》
はじめに、本発明による磁気浮上装置の詳細な説明に先だち、本発明の基本的な原理について説明する。
【0023】
図16は、一質点系の磁気浮上装置を使用した防振台の一例を示す概略構成図である。
【0024】
この図に示す磁気浮上装置101は、1つの永久磁石103および2つの電磁石105で構成される磁石ユニット107と、“コ”字形状の断面を持ち、下部内側上面に磁石ユニット107が固定される補助指示手段131とを備えている。また、リニアガイドなどの上下方向に力が作用しない案内手段(図示は省略する)で地上側から案内され、防振台のテーブルとして機能する補助支持手段131と、構造部材(図示は省略する)などを介して地上に対して固定された強磁性部材で構成され、対向している磁石ユニット107の作用する磁気的吸引力によって浮上体(磁石ユニット107、補助支持手段131、質量“m”の負荷荷重109によって構成される部分)111を非接触で支持するガイド113とを備えている。さらに、磁石ユニット107の吸引力を制御して浮上体111を安定に非接触支持する吸引力制御手段115と、吸引力制御手段115の出力に基づいて、電磁石105に励磁電圧、励磁電流を供給し、励磁するドライバ116と、ドライバ116から出力される励磁電流の電流値を検出して、吸引力制御手段115に供給する電流センサ123とを備えている。
【0025】
各電磁石105は、継鉄117にコイル119を巻装して構成され、永久磁石103の両磁極端部にそれぞれの継鉄117が配置されている。各コイル119は各々、ドライバ116から励磁電圧、励磁電流が供給されているとき、ガイド113→一方の継鉄117→永久磁石103→他方の継鉄117→ガイド113なる経路で形成される磁路の磁束を強める(または、弱める)ように、直列に接続されている。
【0026】
また、吸引力制御手段115は、ギャップセンサ121で得られる浮上ギャップ長および電流センサ123で得られる励磁電流値から各電磁石105を励磁する電圧を演算する励磁電圧演算手段125を備えている。
【0027】
また、ドライバ116の出力電流は、配電手段としてのリード線128を介して各コイル119に供給されている。
【0028】
上述した構成において、磁気浮上装置101の磁気浮上系は、磁石ユニット107の吸引力が浮上体111の重量と等しくなるときの浮上ギャップ長“z0”の付近で、線型近似できる。すなわち、次式に示すように、磁石ユニット107のインピーダンスを定義したとき、
【数1】
【0029】
但し、Lzo:浮上ギャップ長“z0”付近における、磁石ユニット107のインピ ーダンス
L∞:浮上ギャップ長が無限大のときの磁石ユニット107のインピーダンス
N:各コイル119の巻き数
φ:磁石ユニット107の主磁束
iZ:各電磁石105の励磁電流
∂/∂h(h=iZ):定常浮上状態(z=zo、iz=iz0)における被偏微分関数のそれぞれの偏 微分値
以下に示す微分方程式で記述することができる。
【数2】
【0030】
但し、Fz:磁石ユニット107の吸引力
m:浮上体111の質量
R:各コイル119とリード線128を直列に接続したときの電気抵抗
z:浮上ギャップ長
us:外力
iz:電磁石105の励磁電流
φ:磁石ユニット107の主磁束
eZ:電磁石105の励磁電圧
Δ:定常浮上状態(z=z0、iz=iz0)からの偏差
“'”:d/dtで表される常微分記号
∂/∂h(h=iZ):定常浮上状態(z=zo、iz=iz0)における被偏微分関数のそれぞれの偏 微分値
そして、(2)式、(3)式で表される磁気浮上系では、次式に示すように、置き換えを行い、
【数3】
【0031】
次式に示すように、状態ベクトル“x”、システム行列“A”、制御行列“b”、外乱行列“d”を定義すると、
【数4】
【0032】
但し、Δz:状態ベクトル“x”の要素
Δz':“Δz”を微分して得られる、状態ベクトル“x”の要素
ΔiZ:状態ベクトル“x”の要素
a21:システム行列“A”の要素
a23:システム行列“A”の要素
a33:システム行列“A”の要素
a32:システム行列“A”の要素
b31:制御行列“b”の要素
d21:外乱行列“d”の要素
次式に示す状態方程式で、磁気浮上系を表すことができる。
【数5】
【0033】
但し、C:出力行列
そして、このような磁気浮上系では、状態ベクトル“x”の各要素が浮上系の状態量になる。また、電磁石105の励磁電圧“ez”の計算に用いる状態量の検出方法により、出力行列“C”が決定され、図16に示す磁気浮上装置101のようにギャップセンサ121と、電流センサ123を使用し、ギャップセンサ121からの信号を微分して速度を得る場合には、出力行列“C”が単位行列となる。
【0034】
ここで、“F”を“x”の比例ゲイン補償器で与え、“Ki”を積分ゲインとして、次式に示すように、励磁電圧“ez”を決めれば、磁気浮上装置101は「特許文献4」に見られるゼロパワー制御で浮上させる。
【数6】
【0035】
但し、∫:“Ki・ΔiZ”を時間“dt”で積分する積分記号
なお、図16に示す磁気浮上装置101では、励磁電圧演算手段125において、(9)式が計算されることは言うまでもない。
【0036】
次に、図16に示す磁気浮上装置101において、ギャップセンサ121を使用せずに、励磁電流“Δiz”から浮上ギャップ長偏差“Δz”およびその速度“d(Δz)/dt”を推定するための推定手段として、例えば同一次元状態観測器(以下オブザーバという)を適用する場合を考える。このとき、線型制御理論によれば、次式に示すように、状態推定ベクトル“x^”、各行列“A^”、“B^”、“E^”などを定義すると、
【数7】
【0037】
但し、α1:オブザーバの極を決定するパラメータ
α2:オブザーバの極を決定するパラメータ
α3:オブザーバの極を決定するパラメータ
次式でオブザーバを表すことができる。
【数8】
【0038】
この場合、(7)式、(13)式で示される各状態方程式の演算開始時の初期値を各々、値“x0^”、“x0”とすれば、次式によって、オブーザーバの演算誤差が与えられる。
【数9】
【0039】
但し、x^(t):演算開始してから“t”時間後における状態推定ベクトル“x^”の 値
x(t):演算開始してから“t”時間後における状態推定ベクトル“x”の値
z0:浮上ギャップ長
e:自然対数の底
A^:システム行列
このとき、励磁電圧演算手段125において、例えば、次式に示す演算が行われて、磁気浮上系の安定化が達成される。
【数10】
【0040】
一般に、常電導吸引式磁気浮上系は不安定なため、オブザーバの推定値に誤差があると、安定化が非常に困難となるが、(14)式、(15)式から明らかなように、予めオブザーバが動作を開始するときの初期値“x0”、すなわち、浮上ギャップ長偏差“Δz”、その速度“d(Δz)/dt”および励磁電流“Δi”の値が既知であれば、オブザーバの初期値“x0^”をできるだけ、初期値“x0”に等しく設定することで、推定当初から誤差が少ない状態で励磁電流“Δiz”から浮上ギャップ長偏差“Δz”、その速度“d(Δz)/dt”を推定することができる。
【0041】
ここで、推定当初の誤差が大きいと、(15)式で示される励磁電圧“eZ”が異常な値になり、浮上状態を安定化させることができなくなる。
【0042】
《第1の実施形態》
以下、図面を参照して、このような推定当初の誤差を小さくさせ、浮上状態を安定化させるようにした本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0043】
図1は本発明による磁気浮上装置の第1の実施形態を示す概略構成図である。なお、この図において、図16に対応する部分には、同じ符号が付してある。
【0044】
この図に示す磁気浮上装置100では、図16に示すギャップセンサ121が省略され、代わりに浮上体111およびその近傍に圧電ゴム129が配置され、これら各圧電ゴム129から出力される検出結果に基づき、浮上体111がガイド113に接触したとき、これを検出する接触検出手段130と、浮上体111がガイド113に接触しているとき、浮上体111の姿勢を維持する補助支持手段131とが設けられている。
【0045】
さらに、吸引力制御手段115には、補助支持手段131で維持された姿勢から浮上状態へ移行するときに必要なオブザーバの初期値“x0”を演算する姿勢演算手段135と、浮上体111がガイド113に接触したとき、姿勢演算手段135で計算された初期値“x0”を取り込んで記憶する初期値設定手段139と、オブザーバなどを用いて、励磁電流“Δiz”から浮上ギャップ長偏差“Δz”およびその速度“d(Δz)/dt”を推定する姿勢推定手段133と、浮上体111がガイド113に接触したとき、初期値設定手段139に記憶されている初期値を姿勢推定手段133に供給させて、初期化する推定初期化手段137とが設けられている。
【0046】
そして、浮上体111がガイド113に接触し、補助支持手段131で浮上体111の姿勢が維持されているとき、接触検出手段130によってこれを検出し、姿勢演算手段135にオブザーバの初期値“x0”を演算するとともに、初期値設定手段139に初期値“x0”を保持する。そして、推定初期化手段137によって、初期値設定手段139に保持されている初期値“x0”を姿勢推定手段133に取り込ませ、オブザーバを初期化する。
【0047】
これにより、停止状態にある浮上体111を浮上させるとき、姿勢推定手段133によって、初期値“x0”を基準として、励磁電流“Δiz”から浮上ギャップ長偏差“Δz”およびその速度“d(Δz)/dt”を推定し、これらを励磁電圧演算手段125に入力させて、励磁電圧“eZ”を出力するとともに、ドライバ116から励磁電圧“eZ”に対応した励磁電流“iz”を出力して電磁石105を励磁し、浮上体111を浮上させる。
【0048】
このように、浮上体111が停止している状態から浮上させるとき、または外力やその他の理由により浮上状態から接触状態になったとき、オブザーバに所定の初期値“x0”を与えて、これを初期化することにより、励磁電流“Δiz”から浮上ギャップ長偏差“Δz”およびその速度“d(Δz)/dt”を演算する際、推定当初から誤差を抑えつつ推定することができ、浮上体111を確実に浮上状態へ移行することができるとともに、浮上状態を維持することができる。
【0049】
また、浮上状態にある浮上体111に過渡的な外力が持続的に加えられると、外力に対して浮上状態を保つための吸引力制御がなされるため、各コイル119と、リード線128とに、励磁電流“Δiz”が持続的に流れることになる。
【0050】
こうなると、各コイル119およびリード線128の温度が上昇して、電気抵抗値“R”が増加し、(6)式で示されるパラメータ“a33”が増大する。このとき、姿勢推定手段133のオブザーバで使用しているパラメータ“a33”、すなわち(10)式で示される“a33”を設定時のままに保持すると、実際の磁気浮上系と、オブザーバとの間に差異が生じ、励磁電流“Δiz”、浮上ギャップ長偏差“Δz”およびその速度“d(Δz)/dt”の実際値と、推定値とが乖離してしまう。
【0051】
そして、本来、不安定な常電導吸引式磁気浮上系では、実際値と推定値とが乖離すると、フィードバック制御を行っても浮上体111を安定して浮上させることができなくなってしまう。
【0052】
このような問題を解決するために、この磁気浮上装置100では、「特許文献5」で開示されているように、抵抗測定手段140によって、予め決められた測定方法、例えば次式に示す励磁電圧“ez”の電圧方程式を基本にして、直列に接続されている各コイル119およびリード線128の電気抵抗値“R”を測定している。
【数11】
【0053】
この際、本発明による磁気浮上装置100では、ゼロパワー制御で浮上体111を浮上させるようにしている。このため、過渡的かつ持続的な外力に起因する励磁電流“Δiz”がゼロ点をクロスする。そして、励磁電流“Δiz”がゼロになると、(16)式の除算が不可能になることから、(16)式を次のように変更して使用する。
【数12】
【0054】
但し、ε:ノイズの大きさや必要な測定精度に基づいて、“ε<<1”を満たすように設定される極めて小さな補正値
そして、抵抗値測定手段140によって、(17)式で電気抵抗値“R”を求めた後、例えば低域通過フィルタや平均値演算等の適当なノイズ除去処理を施して、ノイズ除去済みの電気抵抗値“R”を初期値設定手段139、姿勢推定手段133などに供給し、姿勢推定手段133のオブザーバで使用しているパラメータ“a33”、すなわち(10)式で示されるパラメータ“a33”を変更する。
【0055】
これにより、各コイル119およびリード線128の温度が上昇したときにも、(10)式で示されるパラメータ“a33”の値と、(6)式で示されるパラメータ“a33”の値とを一致させて、実際の磁気浮上系と、オブザーバとの間に構造上の差異を無くし、励磁電流“Δiz”、浮上ギャップ長偏差“Δz”およびその速度“d(Δz)/dt”の実際値と、推定値とが乖離しないようにする。
【0056】
さらに、本発明による磁気浮上装置100では、過渡的な外力の印加等により励磁電流“iz”が増加して、温度が上昇し、ドライバ116にオフセット電圧“eoff”が発生しても、励磁電圧補正手段142を設けて、浮上ギャップ長推定値や速度推定値に誤差が発生しないようにしている。
【0057】
励磁電圧補正手段142は、姿勢推定手段133の速度推定値に所定のゲイン“λOS”を乗じるゲイン補償器144と、伝達関数特性“1/s”で、ゲイン補償器144の出力を積分する積分器146と、積分器146の出力とドライバ116の励磁電圧値“ez”を加算する加算器148とを備えている。そして、加算器148の出力を補正済みの励磁電圧値“ez”として、姿勢推定手段133に供給する。
【0058】
以下に、数式を用いて、励磁電圧補正手段142の補正原理を具体的に説明する。
【0059】
まず、励磁電圧補正手段142が無い場合には、温度変動により生じるオフセット電圧“eoff”は、(2)式、(3)式で示される支配方程式の右辺に、以下のように加算される。
【数13】
【0060】
この場合、(2)式、(3)式に対応する(6)式中の外乱行列“d”は、次式に示すようになる。
【数14】
【0061】
ここで、(9)式に示すゼロパワー制御が行われる場合を想定し、次式に示すように、外力“u”を定義すると、
【数15】
【0062】
次式によって、コントローラを含む拡大系を表すことができる。
【数16】
【0063】
但し、A:システム行列
B:制御行列
F:比例ゲイン
b:制御行列
d:外乱行列
ν: Δizの積分要素(ゼロパワー制御の場合、iz0=0のため、iz=Δiz)
O1×2:1行2列のゼロ部分行列
O1×3:1行3列のゼロ部分行列
O3×2:3行2列のゼロ部分行列
これら(20)式〜(22)式から明らかなように、オフセット電圧“eoff”から浮上ギャップ長推定値および速度推定値への伝達関数“G(jω)”、“H(jω)”の直流成分“G(0)”、“H(0)”を求めると、次式が得られる。
【数17】
【0064】
そして、過渡的な外力の印加等により励磁電流“iz”が増加して、温度が上昇し、オフセット電圧“eoff”が増加したとき、浮上ギャップ長推定値および速度推定値に対し、(23)式、(24)式で示される伝達関数“G(jω)”、“H(jω)”の直流成分“G(0)”、“H(0)”を乗じた分だけ、ドライバ116に、浮上ギャップ長推定値および速度推定値に定常誤差が生じる。
【0065】
これにより、励磁電圧補正手段142が無い場合には、浮上体111を浮上させるとき、オブザーバの積分器に正しい初期値を設定していても、オブザーバの積分器が実際とは異なる値に収束して、接触状態から浮上状態への移行が非常に困難になる。
【0066】
ところが、本発明によれば、励磁電圧補正手段142において、オブザーバの速度推定値に対し、所定のゲイン“λOS”を乗ずるとともに、積分器146の積分結果と、ドライバ116から出力されている励磁電圧“ez”とを加算し、加算結果を励磁電圧として、オブザーバに帰還するようにしている。
【0067】
この場合、速度推定値を積分する積分器146の出力を“ecom”とし、次式に示すように、状態推定ベクトル“(xx)^”、各行列“(AA)^”、“(BB)^”、“(EE)^”を定義すると、
【数18】
【0068】
(10)式〜(12)式に代えて、次式でオブザーバを表すことができる。
【数19】
【0069】
但し、“'”:d/dtで表される常微分記号
そして、オブザーバを(26)式で表せるとき、次式に示すように、ゼロパワー制御でezを定義すれば、
【数20】
【0070】
但し、FF:比例ゲイン
次式で、拡大系を表すことができる。
【数21】
【0071】
但し、O4×2:4行2列のゼロ部分行列
O1×2:1行2列のゼロ部分行列
そして、(21)式および(29)式より、オフセット電圧“eoff”から浮上ギャップ長推定値および速度推定値への伝達関数“G(jω)”、“H(jω)”の直流成分“(GG(0))^”、“(HH(0))^”を求めると、
【数22】
【0072】
となり、ドライバ116にオフセット電圧“eoff”が発生しても、浮上ギャップ長推定値および速度推定値に定常偏差が生じないようにし、オブザーバに正しい初期値を設定したとき、浮上ギャップ長推定値および速度推定値を実際と等しい値に収束させて、接触状態から浮上状態への移行を非常に容易にすることができる。
【0073】
したがって、浮上体111に対し、長時間、持続的に外力が加えられ、発熱によりドライバ116にオフセット電圧“eoff”が発生しても、接触状態から浮上状態への確実かつ安定した移行が可能となる。
【0074】
このように浮上状態の安定性が維持できれば、信頼性の向上が図れ、ギャップセンサ121の省略による磁気浮上装置100の簡素化や小型化、コストの低減化が実現できる。
【0075】
このように、第1の実施形態では、ドライバ116から浮上体111側に配置された磁石ユニット107に励磁電流“iZ”が供給されているとき、電流センサ123によって検出された励磁電流“iZ”の大きさに基づき、吸引力制御手段115の姿勢推定手段133によって、ガイド113に対する浮上体111の姿勢および姿勢変化速度を推定して、浮上体111とガイド113と空隙とによって構成される磁気回路を安定化するのに必要な励磁電圧値“eZ”を演算する。そして、励磁電圧補正手段142によって、吸引力制御手段115の推定結果に所定のゲイン“λos”を乗じて積分し、積分結果を前記励磁電圧値“eZ”に加算して得られた加算結果を補正済みの励磁電圧値“eZ”として、姿勢推定手段133に供給するようにしている。このため、浮上体111に対する外力が変動して、ドライバ116の温度が上昇し、オフセット電圧“eoff”が大きくなった場合にも、ギャップセンサ、センサーターゲットなどを使用することなく、浮上体111を安定的に浮上させることができる。また、装置全体を小型化、簡略化させることができ、大幅なコストダウンを達成することができる。
【0076】
また、第1の実施形態では、ドライバ116から出力される励磁電流“iZ”を用いて磁束を発生する2つの電磁石105と、各電磁石105の磁束と磁路を共有するように配置される永久磁石103とによって、ガイド113を吸引する磁力を発生させ、浮上体111を浮上させるようにしている。このため、電磁石105に流す励磁電流“iZ”の電流値を小さくでき、運転コストを低減できる。
【0077】
また、第1の実施形態では、電流センサ123で検出された励磁電流“iZ”の大きさに基づき、吸引力制御手段115の姿勢推定手段133によって、ゼロパワー制御方式で、ガイド113に対する浮上体111の姿勢および姿勢変化速度を推定させ、磁石ユニット107の励磁電流“iZ”をゼロへ収束するのに必要な励磁電圧値“eZ”を演算させて、浮上体111とガイド113と空隙とによって構成される磁気回路を安定化するようにしている。このため、浮上体111に対する外力が変動する場合にも、ギャップセンサ、センサーターゲットなどを使用することなく、ゼロパワー制御方式で、各電磁石105の励磁電流“iZ”をゼロへ収束させながら、浮上体111を安定的に浮上させ、装置全体を小型化、簡略化させて大幅なコストダウンを達成することができる。
【0078】
また、第1の実施形態では、吸引力制御手段115に設けられた抵抗測定手段140によって、ドライバ116から出力される励磁電流“iZ”を磁石ユニット107に導くリード線128の抵抗値、磁石ユニット107のコイル抵抗値を測定して、吸引力制御手段133の姿勢推定手段133の演算内容を補正するようにしている。このため、浮上体111に対する外力が変動する場合にも、また連続運転などで、磁石ユニット107などの温度が上昇して、配線抵抗値、コイル抵抗値などが変化した場合にも、ギャップセンサ、センサーターゲットなどを使用することなく、浮上体111を安定的に浮上させ、装置全体を小型化、簡略化させて大幅なコストダウンを達成することができる。
【0079】
また、第1の実施形態では、吸引力制御手段115に設けられた抵抗測定手段140によって、ドライバ116から出力される励磁電流“iZ”を磁石ユニット107に導くリード線128の抵抗値、磁石ユニット107のコイル抵抗値を測定するとき、ドライバ116から磁石ユニット107に供給される励磁電流“iZ”、励磁電圧“eZ”に基づいて、磁石ユニット107までの配線抵抗値、磁石ユニット107のコイル抵抗値を演算するようにしている。このため、磁石ユニット107の抵抗値を測定する測定回路を簡素化させながら、浮上体111に対する外力が変動する場合にも、また連続運転などで、磁石ユニット107などの温度が上昇して、配線抵抗値、コイル抵抗値などが変化した場合にも、ギャップセンサ、センサーターゲットなどを使用することなく、浮上体111を安定的に浮上させ、装置全体を小型化、簡略化させて大幅なコストダウンを達成することができる。
【0080】
また、第1の実施形態では、電流センサ123の検出結果、補正済み励磁電圧値などに基づき、吸引力制御手段115の姿勢推定手段133によって、ガイド113に対する浮上体111の姿勢および姿勢変化速度を推定するとともに、姿勢推定手段の出力に基づき、励磁電圧演算部によって、磁石ユニット107に対する励磁電圧値“eZ”を演算するようにしている。このため、浮上体111に対する外力が変動する場合にも、ギャップセンサ、センサーターゲットなどを使用することなく、磁石ユニット107に対する励磁電圧値“eZ”を最適化させて、浮上体111を安定的に浮上させて、装置全体を小型化、簡略化させて大幅なコストダウンを達成することができる。
【0081】
さらに、第1の実施形態では、浮上体111が浮上状態にないとき、浮上体111とガイド113との位置関係を所定の状態に維持する補助支持手段131を設け、浮上体111とガイド113とが接触し、吸引力制御手段115内に設けられた接触検出手段130によって、これが検出されたとき、吸引力制御手段115内に設けられた姿勢演算手段135によって、ガイド113に対する浮上体111の姿勢を演算するとともに、姿勢演算手段135の出力値を吸引力制御手段115内に設けられた初期値設定手段139に取り込ませて、初期値として設定させながら、推定初期化手段137によって、初期値設定手段139に設定されている初期値を姿勢推定手段133に転送させて、姿勢推定手段133を初期化するようにしている。このため、浮上体111に対する外力が変動する場合にも、ギャップセンサ、センサーターゲットなどを使用することなく、浮上体111とガイド113とを接触させたときの姿勢状態を初期状態にさせて、浮上体111を安定的に浮上させ、装置全体を小型化、簡略化させて大幅なコストダウンを達成することができる。
【0082】
《第2の実施形態》
図2は本発明による磁気浮上装置の第2の実施形態を示す斜視図である。
【0083】
この図に示す磁気浮上装置10は、強磁性部材などによって構成され、エレベータシャフト12の内面に所定の取付方法で敷設される2本のガイドレール14と、図3に示すように、所定の強度を持つ枠型部材によって構成され、移動体16を構成する乗りかご20の上下、各側面を囲むように配置されるフレーム部22と、フレーム部22の四隅に、各ガイドレール14と対向するように取り付けられ、移動体16を非接触状態に保持する4つの案内ユニット18a〜18dと、乗りかご20の上部、下部などに配置され、各案内ユニット18a〜18dに設けられた各センサなどの検知結果に基づき、各案内ユニット18a〜18dに設けられた各磁石ユニット30を制御して、各ガイドレール14から浮上させる4つの制御装置44とを備えている。そして、巻き上げ機(図示は省略する)によって、ロープ15が走行駆動され、移動体16が上方向、または下方向に移動するとき、乗りかご20の上部、下部などに配置された各制御装置44によって、各案内ユニット18a〜18dを駆動して各案内ユニット18a〜18dを各ガイドレール14から浮上させ、移動体16の移動をスムーズにする。
【0084】
案内ユニット18a〜18dは各々、図4の斜視図に示すように非磁性材料、例えばアルミやステンレス、もしくはプラスチックなどの材料によって構成され、フレーム部22の四隅に各々、取り付けられる台座24と、台座24に取り付けられ、台座24からガイドレール14までの距離(x方向の距離)を計測する2つのx方向近接センサ26と、台座24に取り付けられ、台座24からガイドレール14までの距離(y方向の距離)を計測する2つのy方向近接センサ28と、台座24に取り付けられ、ガイドレール14に対し、案内ユニット18a〜18dを非接触状態に保つ磁石ユニット30とを備えている。
【0085】
磁石ユニット30は図5の横断面図に示すように、“凸”型に形成され、背面側が台座24に固定される中央鉄心32と、同極同士が中央鉄心32を介して向かい合うように、中央鉄心32の側部に取り付けられる2つの永久磁石34と、L字形状に形成され、各永久磁石34の側部に取り付けられる2つの鉄心38、これら鉄心38に挿通される2つのコイル40によって構成される2つの電磁石36と、平板状に形成され、各鉄心38の先端部に取り付けられる2つの鉄心42と、テフロン(登録商標)や黒鉛あるいは二硫化モリブデン等を含有する材料などによって構成され、中央鉄心32および各鉄心42の先端部に各々、配置され、各電磁石36が励磁されていないとき、各永久磁石34の吸引力によって、鉄心42、中央鉄心32がガイドレール14に接触しても、鉄心42、中央鉄心32がガイドレール14に固着しないようにさせ、移動体16の昇降に支障が出ないようにする3つの固体潤滑部材43とを備えている。
【0086】
そして、各制御装置44から励磁電流が出力されているとき、案内ユニット18a〜18d毎に、各電磁石36を個別に励磁して、対向するガイドレール14に作用する吸引力をy方向と、x方向とに個別に制御し、対向するガイドレール14から各鉄心42、中央鉄心32を浮いた状態に保持する。なお、この際に使用する制御方式として、従来から知られている一般的な制御方式、例えば「特許文献1」などで開示された制御方式を使用する。
【0087】
各制御装置44は、各制御装置44が相互に接続され、全体として、図6のブロック図に示すように、商用電源などから供給される交流電圧を直流電圧に変換して出力する電源46と、電源46から出力される直流電圧を用いて指定された電圧値の直流電圧を生成する定電圧発生装置48と、各案内ユニット18a〜18dを構成する各コイル40の温度、励磁電流、励磁電圧などを各々、検出する8つのセンサ部61と、各センサ部61の検出信号に基づいて、各コイル40に印加する電圧(励磁電圧)を演算して、移動体16を非接触案内する演算ユニット62と、演算ユニット62の出力に基づいて各コイル40に電力を供給する8つのパワーアンプ63とを備えている。
【0088】
そして、各案内ユニット18a〜18dに設けられた各x方向近接センサ26の近接センサ信号ON/OFF内容、各y方向近接センサ28の近接センサ信号のON/OFF内容、各センサ部61の検出結果に基づき、各制御装置44が協調動作して、移動体16の重心を通る、y座標に沿った前後動を表す“y”モード(前後動モード)、x座標に沿った左右動を表す“x”モード(左右動モード)、移動体16の重心回りのローリングを表す“θ”モード(ロールモード)、移動体16の重心回りのピッチングを表す“ξ”モード(ピッチモード)、移動体16の重心回りのヨーイングを表す“ψ”モード(ヨーモード)のみならず、フレーム部22を左右対称に歪ませる歪力に関する3つのモード、すなわち各案内ユニット18a〜18dが各ガイドレール14に及ぼす“ζ”モード(全吸引モード)、各案内ユニット18a〜18dがフレーム部22に及ぼすx(またはz)軸周りの“δ”モード(ねじれモード)、各案内ユニット18a〜18dがフレーム部22に及ぼすγモード(歪モード)別に、各コイル40に印加する電圧(励磁電圧)を演算して、各案内ユニット18a〜18dの各磁石ユニット30の吸引力をx軸、y軸毎に、独立して制御し、各ガイドレール14から鉄心42、中央鉄心32を浮いた状態に保持する。この際、ゼロパワー制御を使用して、各磁石ユニット30のコイル電流をゼロに収束させることで、積荷の重量に関わらず、各永久磁石34の吸引力だけで移動体16を安定に支持する。このとき、任意のモードに対してゼロパワー制御を施しても何ら差し支えない。
【0089】
電源46は、電源線を介して、エレベータシャフト12外から供給される交流を取り込み、乗りかご20の照明装置、ドア開閉装置などに供給しながら、整流して、直流電圧にする電源装置などを備えている。そして、電源線を介して、エレベータシャフト12外から供給される交流を取り込み、乗りかご20の照明装置、ドア開閉装置などに供給しながら、整流して、直流電圧を生成し、パワーアンプ63、定電圧発生装置48などに供給する。
【0090】
各パワーアンプ63は、演算ユニット62の出力に基づいて、電源46から出力される直流電圧をスイッチングする、IGBTなどの半導体スイッチング素子などを備えている。そして、スイッチング動作で得られた励磁電圧を案内ユニット18a〜18dの各コイル40に供給して各コイル40を励磁し、対向するガイドレール14から各案内ユニット18a〜18dを浮いた状態にする。
【0091】
また、定電圧発生装置48は電源46から出力される直流電圧を指定された電圧値の直流電圧に変換する電圧変換部などを備えている。そして、電源46からパワーアンプ63に大電流が供給されて、電源46の電圧が変動しても、常に一定電圧値の直流電圧を生成して、演算ユニット62、各案内ユニット18a〜18dの各x方向近接センサ26、各y方向近接センサ28に供給する。
【0092】
各センサ部61は、各案内ユニット18a〜18dに設けられた各コイル40の電流値を各々、検出する電流検出器66と、各コイル40の励磁電圧値を各々、検出する電圧検出器72と、各コイル40の温度、励磁電流値、励磁電圧値などを各々、測定して、各コイル40の抵抗値を出力する抵抗測定器64とを備えている。そして、各案内ユニット18a〜18dに設けられた各コイル40の温度、励磁電流、励磁電圧、コイル抵抗値などを検出して、検出結果を演算ユニット62に供給する。
【0093】
演算ユニット62は、各案内ユニット18a〜18dに設けられた各コイル40に対する電流設定値“ia0”、“ia0’”〜“id0”、“id0’”が設定される8つの電流値設定器45と、各電流検出器66の励磁電流検出信号“ia”、“ia’”〜“id”、“id’”から、電流値設定器45に設定されている各電流設定値“ia0”、“ia0’”〜“id0”、“id0’”をそれぞれ減算して、電流偏差信号“Δia”、“Δia’”〜“Δid”、“Δid’”を出力する8つの減算器74と、減算器74の出力、各案内ユニット18a〜18dに設けられた各x方向近接センサ26の出力、各y方向近接センサ28の出力、各センサ部61に設けられた電圧検出器72の出力、抵抗値測定器64の出力などに基づき、ゼロパワー制御に必要な励磁電圧を生成して、各パワーアンプ63に供給する浮上制御演算部65とを備えている。そして、各案内ユニット18a〜18dに設けられた各x方向近接センサ26の出力、各y方向近接センサ28の出力、各センサ部61を構成する電圧検出器72の出力、抵抗値測定器64の出力、電流検出器66の出力などに基づき、ゼロパワー制御に必要な励磁電圧を生成して、各パワーアンプ63に供給し、各案内ユニット18a〜18dに設けられた各磁石ユニット30のコイル電流をゼロに収束させ、積荷の重量に関わらず、各永久磁石34の吸引力だけで、移動体16を安定に支持する。
【0094】
浮上制御演算部65は、各案内ユニット18a〜18dに設けられた各x方向近接センサ26の出力、各y方向近接センサ28の出力、各センサ部61に設けられた抵抗値測定器64の出力、電圧検出器72から出力される励磁電圧信号“ea”、“ea’”〜“ed”、“ed’”などに基づき、移動体16の重心を中心にしたy方向の運動に関わる励磁電圧“Δey”、x方向の運動に関わる励磁電圧“Δex”、移動体16の重心を中心にした、ローリングに関わる励磁電圧“Δeθ”、ピッチングに関わる励磁電圧“Δeξ”、ヨーイングに関わる励磁電圧“Δeψ”を演算する励磁電圧座標変換回路81と、各案内ユニット18a〜18dに設けられた各x方向近接センサ26の出力、各y方向近接センサ28の出力、各センサ部61に設けられた各抵抗値測定器64の出力、電圧検出器72から出力される励磁電圧信号“ea”、“ea’”〜“ed”、“ed’”、各減算器74から出力される電流偏差信号“Δia”、“Δia’”〜“Δid”、“Δid’”などに基づき、移動体16の重心を中心にした、y方向の運動に関わる電流偏差“Δiy”、x方向の運動に関わる電流偏差信号“Δix”、移動体16の重心を中心にした、ローリングに関わる電流偏差“Δiθ”、ピッチングに関わる電流偏差“Δiξ”、ヨーイングに関わる電流偏差“Δiψ”、移動体16、フレーム部22などの“ζ”、“δ”、“γ”に関する各電流偏差“Δiζ”、“Δiδ”、“Δiγ”を演算する電流偏差座標変換回路83とを備えている。
【0095】
さらに、浮上制御演算部65は、“y”モードの電磁石励磁電圧“ey”を生成する前後動モード制御電圧演算回路86a、“x”モードの電磁石励磁電圧“ex”を生成する左右動モード制御電圧演算回路86b、“θ”モードの電磁石励磁電圧“eθ”を生成するロールモード制御電圧演算回路86c、“ξ”モードの電磁石励磁電圧“eξ”を生成するピッチモード制御電圧演算回路86d、“ψ”モードの電磁石励磁電圧“eψ”を生成するヨーモード制御電圧演算回路86e、“ζ”モードの電磁石励磁電圧“eζ””を生成する全吸引モード制御電圧演算回路88a、“δ”モードの電磁石励磁電圧“eγ”を生成するねじれモード制御電圧演算回路88b、“γ”モードの電磁石励磁電圧“ey”を生成する歪モード制御電圧演算回路88cを有し、各案内ユニット18a〜18dに設けられた各x方向近接センサ26の出力、各y方向近接センサ28の出力、各センサ部61に設けられた抵抗値測定器64の出力、励磁電圧座標変換回路81から出力される励磁電圧“Δey”、“Δex”、“Δeθ”、“Δeξ”、“Δeψ”、電流偏差座標変換回路83の出力される電流偏差“Δiy”、“Δix”、“Δiθ”、“Δiξ”、“Δiψ”、“Δiζ”、“Δiδ”、“Δiγ”などに基づき、“y”、“x”、“θ”、“ξ”、“ψ”、“ζ”、“δ”、“γ”の各モードにおいて、移動体16を安定に磁気浮上させるモード別電磁石制御電圧“ey”、“ex”、“eθ”、“eξ”、“eψ”、“eζ”、“eδ”、“eγ”を演算する制御電圧演算回路84と、制御電圧演算回路84から出力されるモード別電磁石制御電圧“ey”、“ex”、“eθ”、“eξ”、“eψ”、“eζ”、“eδ”、“eγ”に基づき、各案内ユニット18a〜18dに設けられた各磁石ユニット30に対する励磁電圧“ea”、“ea’”〜“ed”、“ed’”を演算する制御電圧座標逆変換回路85とを備えている。
【0096】
そして、各案内ユニット18a〜18dに設けられた各x方向近接センサ26の出力、各y方向近接センサ28の出力、各センサ部61に設けられた各抵抗値測定器64の出力、電圧検出器72から出力される励磁電圧信号“ea”、“ea’”〜“ed”、“ed’”、各減算器74から出力される電流偏差信号“Δia”、“Δia’”〜“Δid”、“Δid’”などに基づき、“y”、“x”、“θ”、“ξ”、“ψ”、“ζ”、“δ”、“γ”の各モードにおいて、ゼロパワー制御で各案内ユニット18a〜18dに設けられた各磁石ユニット30を各々、励磁して、移動体16を安定に磁気浮上させるのに必要な励磁電圧“ea”、“ea’”〜“ed”、“ed’”を生成し、各パワーアンプ63に供給する。
【0097】
前後動モード制御電圧演算回路86aは、図1に示す吸引制御手段115と同様な機能を持つ回路であり、図7のブロック図に示すように、各抵抗測定手段64で測定された各コイル40の抵抗値の平均値を演算する抵抗値平均化手段90と、帰還されるモード別姿勢推定値“Δy’est”を用いて、励磁電圧座標変換回路81から出力されるモード別励磁電圧“Δey”のオフセット電圧成分を補正する励磁電圧補正手段142と、姿勢推定手段133と同様に、励磁電圧補正手段142から出力されるオフセット電圧成分補正済みの新たな励磁電圧“Δey”、電流偏差座標変換回路83の出力されるモード別電流偏差“Δiy”に基づき、モード別姿勢推定値“Δyest”、“Δyest’”、“Δiy・est”を生成するモード別姿勢推定手段97と、抵抗値平均化手段90の出力に基づき、モード別姿勢推定手段97から出力されるモード別姿勢推定値“Δyest”、“Δyest’”、“Δiy・est”に対し各々、適切なフィードバックゲインを乗じる3つのゲイン補償器91と、各ゲイン補償器91の出力値の総和を演算する加算器95と、電流偏差目標値を発生する電流偏差目標値発生器92と、電流偏差目標値発生器92の電流偏差目標値からモード別姿勢推定手段97のモード別姿勢推定値“Δiy・est”を減じる減算器93と、減算器93の出力値を積分しながら、抵抗値平均化手段90の出力に応じた、適切なフィードバックゲインを乗じる積分補償器94と、積分補償器94の出力値から、加算器95の出力値を減じて、“y”モードの電磁石励磁電圧“ey”を生成する減算器96とを備えている。
【0098】
さらに、前後動モード制御電圧演算回路86aは、各案内ユニット18a〜18dに設けられた各x方向近接センサ26の近接センサ信号ON/OFF内容、各y方向近接センサ28の近接センサ信号のON/OFF内容に基づき、各磁石ユニット30がガイドレール14に接触したときの姿勢を演算して、各磁石ユニット30のモード別位置偏差を生成し、記憶する姿勢演算手段99と、各案内ユニット18a〜18dに設けられた各x方向近接センサ26の近接センサ信号ON/OFF内容、各y方向近接センサ28の近接センサ信号のON/OFF内容に基づき、各磁石ユニット30がガイドレール14に接触しているかどうかを判断し、各磁石ユニット30のいずれかがガイドレール14に接触しているとき、モード別姿勢推定手段97の積分演算処理(推定処理)を初期化する推定初期化手段98と、推定初期化手段98によって、モード別姿勢推定手段97が初期化されるとき、姿勢演算手段99に記憶されているモード別位置偏差をモード別姿勢推定手段97に供給させ、積分動作の初期値として設定する初期値設定手段89とを備えている。
【0099】
そして、各案内ユニット18a〜18dに設けられた各x方向近接センサ26の近接センサ信号ON/OFF内容、各y方向近接センサ28の近接センサ信号のON/OFF内容、センサ部61の抵抗測定器64から出力される各コイル40の抵抗値、励磁電圧座標変換回路81から出力される励磁電圧“Δey”、電流偏差座標変換回路83の出力される電流偏差“Δiy”に基づき、“y”モードの電磁石制御電圧“ey”を演算して、制御電圧座標逆変換回路85に供給する。
【0100】
また、左右動モード制御電圧演算回路86bは、前後動モード制御電圧演算回路86aと同様に、図8に示すように、各抵抗測定手段64で測定された各コイル40の抵抗値の平均値を演算する抵抗値平均化手段90と、帰還されるモード別姿勢推定値“Δxest’”を用いて、励磁電圧座標変換回路81から出力されるモード別励磁電圧“Δex”のオフセット電圧成分を補正する励磁電圧補正手段142と、姿勢推定手段133と同様に、励磁電圧補正手段142から出力されるオフセット電圧成分補正済みの新たな励磁電圧“Δex”、電流偏差座標変換回路83の出力されるモード別電流偏差“Δix”に基づき、モード別姿勢推定値“Δxest”、“Δxest’”、“Δix・est”を生成するモード別姿勢推定手段97と、抵抗値平均化手段90の出力に基づき、モード別姿勢推定手段97から出力されるモード別姿勢推定値“Δxest”、“Δxest’”、“Δix・est”に対し各々、適切なフィードバックゲインを乗じる3つのゲイン補償器91と、各ゲイン補償器91の出力値の総和を演算する加算器95と、電流偏差目標値を発生する電流偏差目標値発生器92と、電流偏差目標値発生器92の電流偏差目標値からモード別姿勢推定手段97のモード別姿勢推定値“Δix・est”を減じる減算器93と、減算器93の出力値を積分しながら、抵抗値平均化手段90の出力に応じた、適切なフィードバックゲインを乗じる積分補償器94と、積分補償器94の出力値から、加算器95の出力値を減じて、“x”モードの電磁石励磁電圧“ex”を生成する減算器96とを備えている。
【0101】
さらに、左右動モード制御電圧演算回路86bは、各案内ユニット18a〜18dに設けられた各x方向近接センサ26の近接センサ信号ON/OFF内容、各y方向近接センサ28の近接センサ信号のON/OFF内容に基づき、各磁石ユニット30がガイドレール14に接触したときの姿勢を演算して、各磁石ユニット30のモード別位置偏差を生成し、記憶する姿勢演算手段99と、各案内ユニット18a〜18dに設けられた各x方向近接センサ26の近接センサ信号ON/OFF内容、各y方向近接センサ28の近接センサ信号のON/OFF内容に基づき、各磁石ユニット30がガイドレール14に接触しているかどうかを判断し、各磁石ユニット30のいずれかがガイドレール14に接触しているとき、モード別姿勢推定手段97の積分演算処理(推定処理)を初期化する推定初期化手段98と、推定初期化手段98によって、モード別姿勢推定手段97が初期化されるとき、姿勢演算手段99に記憶されているモード別位置偏差をモード別姿勢推定手段97に供給させ、積分動作の初期値として設定する初期値設定手段89とを備えている。
【0102】
そして、各案内ユニット18a〜18dに設けられた各x方向近接センサ26の近接センサ信号ON/OFF内容、各y方向近接センサ28の近接センサ信号のON/OFF内容、センサ部61の抵抗測定器64から出力される各コイル40の抵抗値、励磁電圧座標変換回路81から出力される励磁電圧“Δex”、電流偏差座標変換回路83の出力される電流偏差“Δix”に基づき、“x”モードの電磁石制御電圧“ex”を演算して、制御電圧座標逆変換回路85に供給する。
【0103】
また、ロールモード制御電圧演算回路86cは、前後動モード制御電圧演算回路86a、左右動モード制御電圧演算回路86bと同様に、図9に示すように、各抵抗測定手段64で測定された各コイル40の抵抗値の平均値を演算する抵抗値平均化手段90と、帰還されるモード別姿勢推定値“Δθest’”を用いて、励磁電圧座標変換回路81から出力されるモード別励磁電圧“Δeθ”のオフセット電圧成分を補正する励磁電圧補正手段142と、姿勢推定手段133と同様に、励磁電圧補正手段142から出力されるオフセット電圧成分補正済みの新たな励磁電圧“Δeθ”、電流偏差座標変換回路83の出力されるモード別電流偏差“Δiθ”に基づき、モード別姿勢推定値“Δθest”、“Δθest’”、“Δiθ・est”を生成するモード別姿勢推定手段97と、抵抗値平均化手段90の出力に基づき、モード別姿勢推定手段97から出力されるモード別姿勢推定値“Δθest”、“Δθest’”、“Δiθ・est”に対し各々、適切なフィードバックゲインを乗じる3つのゲイン補償器91と、各ゲイン補償器91の出力値の総和を演算する加算器95と、電流偏差目標値を発生する電流偏差目標値発生器92と、電流偏差目標値発生器92の電流偏差目標値からモード別姿勢推定手段97のモード別姿勢推定値“Δiθ・est”を減じる減算器93と、減算器93の出力値を積分しながら、抵抗値平均化手段90の出力に応じた、適切なフィードバックゲインを乗じる積分補償器94と、積分補償器94の出力値から、加算器95の出力値を減じて、“θ”モードの電磁石励磁電圧“eθ”を生成する減算器96とを備えている。
【0104】
さらに、ロールモード制御電圧演算回路86cは、各案内ユニット18a〜18dに設けられた各x方向近接センサ26の近接センサ信号ON/OFF内容、各y方向近接センサ28の近接センサ信号のON/OFF内容に基づき、各磁石ユニット30がガイドレール14に接触したときの姿勢を演算して、各磁石ユニット30のモード別位置偏差を生成し、記憶する姿勢演算手段99と、各案内ユニット18a〜18dに設けられた各x方向近接センサ26の近接センサ信号ON/OFF内容、各y方向近接センサ28の近接センサ信号のON/OFF内容に基づき、各磁石ユニット30がガイドレール14に接触しているかどうかを判断し、各磁石ユニット30のいずれかがガイドレール14に接触しているとき、モード別姿勢推定手段97の積分演算処理(推定処理)を初期化する推定初期化手段98と、推定初期化手段98によって、モード別姿勢推定手段97が初期化されるとき、姿勢演算手段99に記憶されているモード別位置偏差をモード別姿勢推定手段97に供給させ、積分動作の初期値として設定する初期値設定手段89とを備えている。
【0105】
そして、各案内ユニット18a〜18dに設けられた各x方向近接センサ26の近接センサ信号ON/OFF内容、各y方向近接センサ28の近接センサ信号のON/OFF内容、センサ部61の抵抗測定器64から出力される各コイル40の抵抗値、励磁電圧座標変換回路81から出力される励磁電圧“Δeθ”、電流偏差座標変換回路83の出力される電流偏差“Δiθ”に基づき、“θ”モードの電磁石制御電圧“eθ”を演算して、制御電圧座標逆変換回路85に供給する。
【0106】
また、ピッチモード制御電圧演算回路86dは、前後動モード制御電圧演算回路86a〜ロールモード制御電圧演算回路86cと同様に、図10に示すように、各抵抗測定手段64で測定された各コイル40の抵抗値の平均値を演算する抵抗値平均化手段90と、帰還されるモード別姿勢推定値“Δξest’”を用いて、励磁電圧座標変換回路81から出力されるモード別励磁電圧“Δeξ”のオフセット電圧成分を補正する励磁電圧補正手段142と、姿勢推定手段133と同様に、励磁電圧補正手段142から出力されるオフセット電圧成分補正済みの新たな励磁電圧“Δeξ”、電流偏差座標変換回路83の出力されるモード別電流偏差“Δiξ”に基づき、モード別姿勢推定値“Δξest”、“Δξest’”、“Δiξ・est”を生成するモード別姿勢推定手段97と、抵抗値平均化手段90の出力に基づき、モード別姿勢推定手段97から出力されるモード別姿勢推定値“Δξest”、“Δξest’”、“Δiξ・est”に対し各々、適切なフィードバックゲインを乗じる3つのゲイン補償器91と、各ゲイン補償器91の出力値の総和を演算する加算器95と、電流偏差目標値を発生する電流偏差目標値発生器92と、電流偏差目標値発生器92の電流偏差目標値からモード別姿勢推定手段97のモード別姿勢推定値“Δiξ・est”を減じる減算器93と、減算器93の出力値を積分しながら、抵抗値平均化手段90の出力に応じた、適切なフィードバックゲインを乗じる積分補償器94と、積分補償器94の出力値から、加算器95の出力値を減じて、“ξ”モードの電磁石励磁電圧“eξ”を生成する減算器96とを備えている。
【0107】
さらに、ピッチモード制御電圧演算回路86dは、各案内ユニット18a〜18dに設けられた各x方向近接センサ26の近接センサ信号ON/OFF内容、各y方向近接センサ28の近接センサ信号のON/OFF内容に基づき、各磁石ユニット30がガイドレール14に接触したときの姿勢を演算して、各磁石ユニット30のモード別位置偏差を生成し、記憶する姿勢演算手段99と、各案内ユニット18a〜18dに設けられた各x方向近接センサ26の近接センサ信号ON/OFF内容、各y方向近接センサ28の近接センサ信号のON/OFF内容に基づき、各磁石ユニット30がガイドレール14に接触しているかどうかを判断し、各磁石ユニット30のいずれかがガイドレール14に接触しているとき、モード別姿勢推定手段97の積分演算処理(推定処理)を初期化する推定初期化手段98と、推定初期化手段98によって、モード別姿勢推定手段97が初期化されるとき、姿勢演算手段99に記憶されているモード別位置偏差をモード別姿勢推定手段97に供給させ、積分動作の初期値として設定する初期値設定手段89とを備えている。
【0108】
そして、各案内ユニット18a〜18dに設けられた各x方向近接センサ26の近接センサ信号ON/OFF内容、各y方向近接センサ28の近接センサ信号のON/OFF内容、センサ部61の抵抗測定器64から出力される各コイル40の抵抗値、励磁電圧座標変換回路81から出力される励磁電圧“Δeξ”、電流偏差座標変換回路83の出力される電流偏差“Δiξ”に基づき、“ξ”モードの電磁石制御電圧“eξ”を演算して、制御電圧座標逆変換回路85に供給する。
【0109】
また、ヨーモード制御電圧演算回路86eは、前後動モード制御電圧演算回路86a〜ピッチモード制御電圧演算回路86dと同様に、図11に示すように、各抵抗測定手段64で測定された各コイル40の抵抗値の平均値を演算する抵抗値平均化手段90と、帰還されるモード別姿勢推定値“Δψest’”を用いて、励磁電圧座標変換回路81から出力されるモード別励磁電圧“Δeψ”のオフセット電圧成分を補正する励磁電圧補正手段142と、姿勢推定手段133と同様に、励磁電圧補正手段142から出力されるオフセット電圧成分補正済みの新たな励磁電圧“Δeψ”、電流偏差座標変換回路83の出力されるモード別電流偏差“Δiψ”に基づき、モード別姿勢推定値“Δψest”、“Δψest’”、“Δiψ・est”を生成するモード別姿勢推定手段97と、抵抗値平均化手段90の出力に基づき、モード別姿勢推定手段97から出力されるモード別姿勢推定値“Δψest”、“Δψest’”、“Δiψ・est”に対し各々、適切なフィードバックゲインを乗じる3つのゲイン補償器91と、各ゲイン補償器91の出力値の総和を演算する加算器95と、電流偏差目標値を発生する電流偏差目標値発生器92と、電流偏差目標値発生器92の電流偏差目標値からモード別姿勢推定手段97のモード別姿勢推定値“Δiψ・est”を減じる減算器93と、減算器93の出力値を積分しながら、抵抗値平均化手段90の出力に応じた、適切なフィードバックゲインを乗じる積分補償器94と、積分補償器94の出力値から、加算器95の出力値を減じて、“ψ”モードの電磁石励磁電圧“eψ”を生成する減算器96とを備えている。
【0110】
さらに、ヨーモード制御電圧演算回路86eは、各案内ユニット18a〜18dに設けられた各x方向近接センサ26の近接センサ信号ON/OFF内容、各y方向近接センサ28の近接センサ信号のON/OFF内容に基づき、各磁石ユニット30がガイドレール14に接触したときの姿勢を演算して、各磁石ユニット30のモード別位置偏差を生成し、記憶する姿勢演算手段99と、各案内ユニット18a〜18dに設けられた各x方向近接センサ26の近接センサ信号ON/OFF内容、各y方向近接センサ28の近接センサ信号のON/OFF内容に基づき、各磁石ユニット30がガイドレール14に接触しているかどうかを判断し、各磁石ユニット30のいずれかがガイドレール14に接触しているとき、モード別姿勢推定手段97の積分演算処理(推定処理)を初期化する推定初期化手段98と、推定初期化手段98によって、モード別姿勢推定手段97が初期化されるとき、姿勢演算手段99に記憶されているモード別位置偏差をモード別姿勢推定手段97に供給させ、積分動作の初期値として設定する初期値設定手段89とを備えている。
【0111】
そして、各案内ユニット18a〜18dに設けられた各x方向近接センサ26の近接センサ信号ON/OFF内容、各y方向近接センサ28の近接センサ信号のON/OFF内容、センサ部61の抵抗測定器64から出力される各コイル40の抵抗値、励磁電圧座標変換回路81から出力される励磁電圧“Δeψ”、電流偏差座標変換回路83の出力される電流偏差“Δiψ”に基づき、“ψ”モードの電磁石制御電圧“eψ”を演算して、制御電圧座標逆変換回路85に供給する。
【0112】
また、全吸引モード制御電圧演算回路88aは、図12に示すように、電流偏差座標変換回路83から出力されるモード別電流偏差“Δiζ”に対し、適切なフィードバックゲインを乗じるゲイン補償器73と、電流偏差目標値を発生する電流偏差目標値発生器75と、電流偏差目標値発生器75で得られた電流偏差目標値から電流偏差座標変換回路83で得られたモード別電流偏差“Δiζ”を減ずる減算器76と、減算器76の出力値を積分しながら、適切なフィードバックゲインを乗じる積分補償器77と、積分補償器77の出力値から、ゲイン補償器73の出力値を減じて、“ζ”モードの電磁石励磁電圧“eζ”を生成する減算器78とを備えている。そして、電流偏差座標変換回路83から出力されるモード別電流偏差“Δiζ”に基づき、“ζ”モードの電磁石励磁電圧“eζ”を生成して、制御電圧座標逆変換回路85に供給する。
【0113】
また、ねじれモード制御電圧演算回路88bは、全吸引モード制御電圧演算回路88aと同様に、図13に示すように、電流偏差座標変換回路83から出力されるモード別電流偏差“Δiδ”に対し、適切なフィードバックゲインを乗じるゲイン補償器73と、電流偏差目標値を発生する電流偏差目標値発生器75と、電流偏差目標値発生器75で得られた電流偏差目標値から電流偏差座標変換回路83で得られたモード別電流偏差“Δiδ”を減ずる減算器76と、減算器76の出力値を積分しながら、適切なフィードバックゲインを乗じる積分補償器77と、積分補償器77の出力値から、ゲイン補償器73の出力値を減じて、“δ”モードの電磁石励磁電圧“eδ”を生成する減算器78とを備えている。
【0114】
そして、電流偏差座標変換回路83から出力されるモード別電流偏差“Δiδ”に基づき、“δ”モードの電磁石励磁電圧“eδ”を生成して、制御電圧座標逆変換回路85に供給する。
【0115】
また、歪モード制御電圧演算回路88cは、全吸引モード制御電圧演算回路88a、ねじれモード制御電圧演算回路88bと同様に、図14に示すように、電流偏差座標変換回路83から出力されるモード別電流偏差“Δiγ”に対し、適切なフィードバックゲインを乗じるゲイン補償器73と、電流偏差目標値を発生する電流偏差目標値発生器75と、電流偏差目標値発生器75で得られた電流偏差目標値から電流偏差座標変換回路83で得られたモード別電流偏差“Δiγ”を減ずる減算器76と、減算器76の出力値を積分しながら、適切なフィードバックゲインを乗じる積分補償器77と、積分補償器77の出力値から、ゲイン補償器73の出力値を減じて、“γ”モードの電磁石励磁電圧“eγ”を生成する減算器78とを備えている。
【0116】
そして、電流偏差座標変換回路83から出力されるモード別電流偏差“Δiγ”に基づき、“γ”モードの電磁石励磁電圧“eγ”を生成して、制御電圧座標逆変換回路85に供給する。
【0117】
次に、図2の斜視図〜図14のブロック図を参照しながら、磁気浮上装置10の動作を説明する。
【0118】
まず、磁気浮上装置10が停止状態にあるとき、各案内ユニット18a〜18dの各磁石ユニット30に設けられた中央鉄心32の先端が、固定潤滑部材43を介して、ガイドレール14の対向面に吸着するとともに、各磁石ユニット30に設けられた各電磁石36の先端に設けられた鉄心42のいずれかが対応する固定潤滑部材43を介して、ガイドレール14の対向面に吸着されている。このとき、各潤滑部材43の働きにより、移動体16の昇降が妨げられることはない。
【0119】
この状態で、磁気浮上装置10を起動すると、各制御装置44によって構成される浮上制御演算部65が起動して、各パワーアンプ63から励磁電圧“ea”、“ea’”、“ed”、“ed’”が出力されて、各電磁石36が励磁され、各永久磁石34が発生する磁束と同じ向き、または逆向きの磁束が生成されるとともに、各磁石ユニット30と、各ガイドレール14との間に所定の空隙長を維持するべく、各コイル40に流す電流が制御される。
【0120】
これによって、図5に示すように、一方の永久磁石34→鉄心38→空隙G1→ガイドレール14→空隙G3→中央鉄心32→永久磁石34なる経路によって構成される磁気回路“Mc1”と、他方の永久磁石34→鉄心38→空隙G2→ガイドレール14→空隙G3→中央鉄心32→永久磁石34なる経路によって構成される磁気回路“Mc2”とが形成される。
【0121】
この際、移動体16の重心に作用するy軸方向の前後力、同x方向の左右力、移動体16の重心を通るx軸周りのトルク、同y軸回りのトルクおよび同z軸回りのトルクとが釣り合って、各磁石ユニット30が停止し、空隙“G1”、“G2”、“G3”で示されるギャップが形成されるように、磁気回路“Mc1”側の磁気的吸引力と、磁気回路“Mc2”側の磁気的吸引力とが調整される。
【0122】
この状態で、移動体16に外力が加えられて、各ガイドレール14と、各各磁石ユニット30との位置関係が変化したとき、各制御装置44によって、これが検出されて、各永久磁石34と磁路を共有する各電磁石36の励磁電流が制御され、釣り合いが維持される。
【0123】
これにより、巻き上げ機が動作し、各ガイドレール14に沿って、ゼロパワー制御で非接触案内されている移動体16が昇降し始め、各ガイドレール14の歪曲等により、各ガイドレール14と、各各磁石ユニット30との位置関係が変化しても、各電磁石36の励磁電流が制御されて、各磁石ユニット30の吸引力が速やかに制御され、移動体16の揺れが最少に抑制される。
【0124】
このように、第2の実施形態では、巻き上げ機によって、ロープ15が走行駆動され、移動体16が上方向、または下方向に移動されるとき、乗りかご20の上部、下部などに配置された各制御装置44によって構成される浮上制御演算部65の制御電圧演算回路84、制御電圧座標逆変換回路85によって、各案内ユニット18a〜18dに設けられた各x方向近接センサ26の近接センサ信号ON/OFF内容、各y方向近接センサ28の近接センサ信号のON/OFF内容、各センサ部61の検出結果などを取り込ませながら、モード別の演算を行って、モード別電磁石制御電圧“ey”、“ex”、“eθ”、“eξ”、“eψ”、“eζ”、“eδ”、“eγ”を演算するとともに、これらモード別電磁石制御電圧“ey”〜“eγ”から各磁石ユニット30に対する励磁電圧“ea”、“ea’”〜“ed”、“ed’”を演算して、各案内ユニット18a〜18dの各磁石ユニット30の吸引力をx軸、y軸毎に独立して制御し、各ガイドレール14から鉄心42、中央鉄心32を浮いた状態に保持するようにしている。このため、移動体16に対する外力が変動する場合にも、ギャップセンサ、センサーターゲットなどを使用することなく、移動体16を安定的に浮上できる。また、装置全体を小型化、簡略化でき大幅なコストダウンを達成することができるとともに、線形制御理論を用いて、モード別に励磁電圧、励磁電流を制御でき、浮上状態の安定性、信頼性を大幅に向上させることができる。
【0125】
また、第2の実施形態では、制御電圧演算回路84を構成する前後動モード制御電圧演算回路86a〜ヨーモード制御電圧演算回路86e毎に、図1に示す吸引力制御手段115と同様な機能を持たせ、各案内ユニット18a〜18dに対するガイドレール14に対する姿勢、当該姿勢の時間変化を推定するようにしている。このため、移動体16に対する外力が変動する場合にも、ギャップセンサ、センサーターゲットなどを使用することなく、移動体16を安定的に浮上させて、装置全体を小型化、簡略化させて大幅なコストダウンを達成することができるとともに、ガイドレール14に対する移動体16の姿勢、姿勢の時間的変化に応じて、励磁電圧、励磁電流を制御させ、浮上状態の安定性、信頼性を大幅に向上させることができる。
【0126】
また、第2の実施形態では、制御電圧演算回路84を構成する前後動モード制御電圧演算回路86a〜ヨーモード制御電圧演算回路86e毎に、励磁電圧補正手段142を設け、各モード別姿勢推定手段97で得られたモード別姿勢推定値を各励磁電圧補正手段142に帰還して、各モード別姿勢推定手段97に入力されるモード別励磁電圧“Δey”〜“Δeξ”のオフセット電圧成分を各々、補正するようにしている。このため、各パワーアンプ63のオフセット電圧が変動し、モード別偏位およびモード別偏移速度において、(23)式、(24)式で示す推定誤差が生じたとき、前後動モード制御電圧演算回路96a〜ヨーモード制御電圧演算回路86eに設けられた各励磁電圧補正手段142によって、これらの誤差をゼロにでき、発熱によって各パワーアンプ63のオフセット電圧が変動しても、良好な乗り心地を維持することができる。
【0127】
また、第2の実施形態では、各制御装置44内に、各案内ユニット18a〜18d毎のセンサ部61を設け、これら各センサ部61内に配置された抵抗値測定器64、によって、パワーアンプ63から出力される励磁電圧“ea”、“ea’”〜“ed”、“ed’”、励磁電流“ia”、“ia’”〜“id”、“id’”を検出して、各パワーアンプ63から各磁石ユニット30までの配線抵抗値、各磁石ユニットのコイル抵抗値を測定するようにしている。このため、各磁石ユニット30の抵抗値を測定する測定回路を簡素化しつつも、測定精度を向上させることができる。また、移動体16に対する外力が変動する場合にも、また連続運転などで、各磁石ユニット30などの温度が上昇して、抵抗値が変化した場合にも、ギャップセンサ、センサーターゲットなどを使用することなく、移動体16を安定的に浮上させることができる。
【0128】
これらのことから、第2の実施形態では、各センサ部61を構成している各抵抗測定器64によって、各コイル40の抵抗値を検出して、前後動モード制御電圧演算回路96a〜歪モード制御電圧演算回路88cに設けられた各モード別姿勢推定手段97のパラメータ、各ゲイン補償器73、91のゲインなどを調整するようにしている。このため、各コイル40の抵抗値が変動したときにも、良好な乗り心地を維持することができる。
【0129】
これにより、エレベータシステムなどのように、人員や積荷の偏った移動、もしくは地震等に起因するロープ15の揺れ等が原因で移動体16に過大な外力が加えられて、各磁石ユニット30に設けられた各電磁石36の温度が上昇し、各コイル40の電気抵抗値およびパワーアンプ63のオフセット電圧が変動したとき、特に、電力消費を極端に抑制できるゼロパワー制御を使用しているときなどのように、過大な外力で大きな励磁電流が流れ、各コイル40やパワーアンプ63が急激に発熱し、ギャップ長一定制御などの他の制御方式よりも、抵抗値の変動が大きいときにも、各運動モードでギャップ長推定値とその速度推定値が誤差が増大しないようにさせて、快適な乗り心地を維持することができる。
【0130】
また、第2の実施形態では、残留磁束密度と保持力の大きな永久磁石34を採用している。このため、空隙長を大きくしても、非接触案内制御の制御性能が悪化しないようにすることができるとともに、乗客等の移動などにより、移動体16中で重量移動が発生して、乗りかご20に揺動が生じても、ストロークの大きな低剛性の案内制御を行わせることができ、快適な乗り心地を提供することができる。
【0131】
さらに、ガイドレール14を介して、磁極が対向するように各磁石ユニット30が配置され、対向する磁極がガイドレール14に作用する吸引力の一部または全部が相殺されているので、ガイドレール14に大きな吸引力が作用しないようにすることができる。
【0132】
これにより、各磁石ユニット30の大きな吸引力が一方向から作用しないようにさせて、各磁石ユニット30に大きな吸引力が発生したときにも、各ガイドレール14の据付位置が狂わないようにすることができ、ガイドレール14の継目で段差が発生しないようにすることができる。さらに、ガイドレール14の直線性を悪化させることなく、ガイドレール14の敷設強度を下げてエレベータシステムのコストを低下させることができる。
【0133】
また、磁気浮上装置10が運転を終え、磁気浮上装置10を停止する場合には、“y”モードの電流偏差目標値発生器92と、“x”モードの電流偏差目標値発生器92の目標値をゼロから徐々に負の値にすることにより、移動体16を“y”軸方向、“x”軸方向に徐々に移動させ、各磁石ユニット30の中央鉄心32の先端に設けられた固体潤滑部材43をガイドレール14の対向面に当接させるとともに、各磁石ユニット30の電磁石36の先端に設けられた各固体潤滑部材43のいずれかをガイドレール14の対向面に当接させ、乗りかご20を安定させた後、磁気浮上装置10を停止し、電流偏差目標値をゼロにリセットすることができる。
【0134】
《第3の実施形態》
図15は本発明による磁気浮上装置の第3の実施形態を示す概略構成図である。なお、この図において、図1の各部と対応する部分には、同じ符号が付してある。
【0135】
この図に示す磁気浮上装置300は、断面がコ字形状の非磁性体、例えばアルミ部材で形成され、地上に設置される補助支持手段302と、補助支持手段302の上部下面に下向きに取付けられる磁石ユニット107と、板状の強磁性部材、例えば鉄などで形成され、磁石ユニット107に対向するように配置されるガイド304と、底部上面にガイド304が固定され、全体としてコ字形状に形成される防振台テーブル306と、地上に垂設され、防振テーブル306の側面と接する側面によって、防振テーブル306を昇降自在に支持するリニアガイド308とを備えている。また、磁石ユニット107の吸引力を制御して、防振テーブル306を非接触支持する吸引力制御手段115と、電源(図示は省略する)に接続され、吸引力制御手段115の出力に基づいて、磁石ユニット107に励磁電圧、励磁電流を供給して、磁石ユニット107を励磁するパワーアンプ313と、パワーアンプ313から出力される励磁電流の電流値を検出する電流センサ123と、パワーアンプ313から出力される励磁電圧などに基づき、吸引力制御手段115から出力される励磁電圧を補正して、吸引力制御手段115に戻す励磁電圧補正手段142とを備えている。
【0136】
この場合、吸引力制御手段115は、接触検出手段130と、姿勢演算手段135と、初期値設定手段139と、推定初期化手段137と、抵抗測定手段140と、姿勢推定手段133と、励磁電圧演算手段125とを備えている。
【0137】
抵抗測定手段140は、磁石ユニット107の励磁電流および励磁電圧からリード線128および各コイル119の直列抵抗値を測定する。接触検出手段130は、補助支持手段302の底部上面に取付けられたマイクロスイッチ310、磁石ユニット107の磁極面に張られた圧電ゴム312の出力に基づき、防振テーブル306が磁石ユニット107、補助支持手段302に接触したとき、これを検出する。姿勢演算手段135は、接触検出手段130の接触検出信号に基づき、防振テーブル306が防振テーブル306の補助支持手段302、または磁石ユニット107に接触したときの位置情報を求め、浮上ギャップ長を計算する。初期値設定手段139は、姿勢演算手段135の出力に基づいて、推定初期値を演算して記憶する。推定初期化手段137は、接触検出手段130によって接触が検知されたとき、初期値設定手段139から姿勢推定手段133に推定初期値を供給して初期化する。抵抗測定手段140は、電流センサ123の検出結果などに基づき、磁石ユニット107の励磁電流および励磁電圧から、磁石ユニット107の抵抗値を測定する。姿勢推定手段133は、推定初期化手段137によって初期化された後、接触検出手段130の検出結果、電流センサ123の検出結果、抵抗値測定手段140の測定結果などに基づき、防振テーブル306の浮上姿勢を推定する。励磁電圧演算手段125は、姿勢推定手段133の出力に基づいて、防振テーブル306を磁気浮上させるのに必要な磁石ユニット107への励磁電圧を演算する。
【0138】
このように、第3の実施形態では、地上側に補助支持手段302を設置し、この補助支持手段302に磁石ユニット119を取り付け、強磁性体によって構成されるガイド304が設けられた防振台テーブル306を非接触支持するようにした。このため、磁石ユニット119の重量分だけ、防振テーブル306の重量を軽減させて防振テーブル306の昇降速度を高速化させながら、防振テーブル306に対する外力が変動する場合にも、ギャップセンサ、センサーターゲットなどを使用することなく、防振テーブル306を安定的に浮上でき、装置全体を小型化、簡略化させて大幅なコストダウンを達成することができる。
【0139】
《他の実施形態》
また、上述した第1〜第3の実施形態では、吸引力制御手段115、制御装置44などをアナログ制御的に説明しているがこのようなアナログ制御以外の制御、例えばデジタルの制御方式、アナログとデジタルとを併用した制御方式などを使用するようにしても良い。
【0140】
また、上述した第1〜第3の実施形態では、各パワーアンプ63、313などとして、電圧形のパワーアンプを使用するようにしているが、このような電圧形のパワーアンプ以外のもの、例えばPWM形のものを使用するようにしても良い。
【0141】
また、上述した第1〜第3の実施形態では、各磁石ユニット107、119などとして、永久磁石107と、電磁石105とを組み合わせたものなどを使用するようにしているが、永久磁石107などを持たない、通常の電磁石105のみで、磁石ユニット107、119を構成するようにしても良い。
【図面の簡単な説明】
【0142】
【図1】本発明による磁気浮上装置の第1の実施形態を示す概略構成図。
【図2】本発明による磁気浮上装置の第2の実施形態を示す斜視図。
【図3】図2に示す磁気浮上装置の詳細な構成例を示す斜視図。
【図4】図2に示す各案内ユニットの詳細な構成例を示す斜視図。
【図5】図4に示す磁気ユニットの詳細な構成例を示す横断面図。
【図6】図2に示す各制御装置の詳細な回路構成例を示すブロック図。
【図7】図6に示す前後動モード制御電圧演算回路の詳細な構成例を示すブロック図。
【図8】図6に示す左右動モード制御電圧演算回路の詳細な構成例を示すブロック図。
【図9】図6に示すロールモード制御電圧演算回路の詳細な構成例を示すブロック図。
【図10】図6に示すピッチモード制御電圧演算回路の詳細な構成例を示すブロック図。
【図11】図6に示すヨーモード制御電圧演算回路の詳細な構成例を示すブロック図。
【図12】図6に示す全吸引モード制御電圧演算回路の詳細な構成例を示すブロック図。
【図13】図6に示すねじれモード制御電圧演算回路の詳細な構成例を示すブロック図。
【図14】図6に示す歪モード制御電圧演算回路の詳細な構成例を示すブロック図。
【図15】本発明による磁気浮上装置の第3の実施形態を示す概略構成図。
【図16】本発明による磁気浮上装置の動作原理を説明するために使用した防振台の一例を示す概略構成図。
【符号の説明】
【0143】
10:磁気浮上装置、12:エレベータシャフト、14:ガイドレール(固定部材)、16:移動体(浮上体)、18a〜18d:案内ユニット、20:乗りかご、22:フレーム部、24:台座、26:x方向近接センサ、28:y方向近接センサ、30:磁石ユニット(電磁石ユニット)、44:制御装置、32:中央鉄心、34:永久磁石、36:電磁石、38:鉄心、40:コイル、42:鉄心、43:固体潤滑部材、45:電流値設定器、46:電源、48:定電圧発生装置、61:センサ部、62:演算ユニット、63:パワーアンプ(ドライバ)、64:抵抗測定器、66:電流検出器、72:電圧検出器、73:ゲイン補償器、74:減算器、75:電流偏差目標値発生器、76:減算器、77:積分補償器、78:減算器、81:励磁電圧座標変換回路、83:電流偏差座標変換回路、84:制御電圧演算回路、85:制御電圧座標逆変換回路、86a:前後動モード制御電圧演算回路(吸引力制御手段、励磁電圧演算部、モード励磁電流演算部)、96b:左右動モード制御電圧演算回路(吸引力制御手段、励磁電圧演算部、モード励磁電流演算部)、96c:ロールモード制御電圧演算回路(吸引力制御手段、励磁電圧演算部、モード励磁電圧演算部)、86d:ピッチモード制御電圧演算回路(吸引力制御手段、励磁電圧演算部、モード励磁電圧演算部)、86e:ヨーモード制御電圧演算回路(吸引力制御手段、励磁電圧演算部、モード励磁電圧演算部)、88a:全吸引モード制御電圧演算回路(吸引力制御手段、励磁電圧演算部、モード励磁電流演算部)、88b:ねじれモード制御電圧演算回路(吸引力制御手段、励磁電圧演算部、モード励磁電流演算部)、88c:歪モード制御電圧演算回路(吸引力制御手段、励磁電圧演算部、モード励磁電流演算部)、89:初期値設定手段、90:抵抗値平均化手段、91:ゲイン補償器、92:電流偏差目標値発生器、93:減算器、94:積分補償器、95:加算器、96:減算器、97:モード別姿勢推定手段、98:推定初期化手段、99:姿勢演算手段、100:磁気浮上装置、103:永久磁石、105:電磁石、107:磁石ユニット、109:負荷荷重、111:浮上体、113:ガイド(固定部材)、115:吸引力制御手段、116:ドライバ、117:継鉄、119:コイル、123:電流センサ、125:励磁電圧演算手段、128:リード線、130:接触検出手段、131:補助支持手段、133:姿勢推定手段、135:姿勢演算手段、137:推定初期化手段、139:初期値設定手段、140:抵抗測定手段、142:励磁電圧補正手段、144:ゲイン補償器、146:積分器、148:加算器、300:磁気浮上装置、302:補助支持手段、304:ガイド(強磁性部材)、306:防振台テーブル、308:リニアガイド、310:マイクロスイッチ、312:圧電ゴム、313:パワーアンプ(ドライバ)
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレベータシステムや鉄道、その他の搬送システムなどで使用される磁気浮上装置に係わり、特にギャップセンサ、センサーターゲットなどを使用することなく、浮上体を安定的に浮上させて装置全体を小型化、簡略化するようにした磁気浮上装置に関する。
【背景技術】
【0002】
常電導吸引式磁気浮上装置は、騒音や発塵がなく、HSSTやトランスラピッド等の鉄道や半導体工場でのクリーンルーム内搬送システムなどで既に実用化が図られている。また、「特許文献1」では、エレベータの非接触案内、「特許文献2」では、ドアへの常電導吸引式磁気浮上装置の適用が試みられている。
【0003】
しかしながら、このような常電導吸引式磁気浮上装置では、固定部材となる強磁性部材と対向して配置された電磁石に励磁電流を流したとき、電磁石と強磁性部材との間に生じる吸引力を利用して浮上体を浮上させているので、磁気浮上系の安定化が困難であるという問題があった。
【0004】
そこで、このような問題を解決する方法として、強磁性部材に付随するようにセンサターゲットを配置し、浮上体側に配置されたギャップセンサを用いて、浮上ギャップ長、その速度、および加速度を検出するとともに、これらの検出結果と、電磁石の励磁電圧および励磁電流とを吸引力制御手段にフィードバックし吸引力を制御して磁気浮上系を安定化する方法が提案されている。
【0005】
しかしながら、このような問題解決方法では、浮上ギャップ長を検出するギャップセンサを使用しなければならないばかりでなく、ギャップセンサに適したセンサターゲットが必要であり、また強磁性部材に付随してセンサターゲットを敷設しなければならず、その分だけ、装置全体のコストが高くなってしまう。また、ギャップセンサの取付けスペース、センサターゲット用のスペースなどを確保しなければならないので、装置を小型化することが難しいという問題があった。
【0006】
特に、鉄道や搬送システムにおいては、強磁性ガイドで構成される軌道に分岐個所を設けなければならないことから、センサターゲットとガイドとが交差してギャップ長の検出を妨げないような仕組みが必要になり、その分だけシステムが複雑化してしまうという問題があった。
【0007】
そこで、こうした問題を解決するため、種々の解決策、例えば、「非特許文献3」に記載のように、ギャップセンサを無くして、浮上ギャップ長を制御するセンサレス化手法を用いたものがある。この手法では、ヒステリシスコンパレータを用いて、電磁石の励磁電流値と励磁電流基準値とを比較し、励磁電流が励磁電流基準値より大きいとき、電磁石の励磁電圧を“負”にし、小さいとき“正”に切替えて、スイッチング周波数を浮上ギャップ長に比例させ、浮上系を安定化するというものである。また、他の手法として、「非特許文献1」に記載のように、オブザーバ(状態観測器)を用いて、電磁石の励磁電流を観測し、この観測結果に基づき、ギャップ長を推定する方法もある。さらに、「非特許文献2」に記載のように、交流磁気浮上により生じる電磁石の励磁電圧と励磁電流の位相差にギャップ情報を陰に含ませ、これを電磁石励磁電圧にフィードバックさせて安定化する方法などが提案されている。
【0008】
しかし、こうした解決策、例えばオブザーバを使用する解決策以外の解決策、例えばギャップ情報を含む物理量で電磁石の励磁電圧を制御する解決策では、浮上制御系が非線型系になることから、浮上制御系が安定しているかどうかを判別するのが難しい。このため、浮上体に質量の変化や励磁による温度上昇に起因する電磁石コイルの電気抵抗変動などが発生したとき、浮上状態を維持するのが難しくなるという問題もあった。
【0009】
また、オブザーバを使用する解決策では、浮上状態における磁気浮上系の線型モデルからオブザーバを導いているので、浮上体が浮上状態にないとき、浮上ギャップ長を推定することができない。このため、浮上体が他の構造物に一旦、接触すると、再び浮上状態に復帰することができないという問題があった。
【0010】
そこで、オブザーバを用いて、電磁石励磁電流からギャップ長を推定するセンサレス化手法の上述した問題に対処するため、「特許文献3」などでは、浮上体が浮上状態にないとき、浮上体の接触を検出してオブザーバの積分器を初期化して、上体の接触状態から、接触時のギャップ長を幾何学的に推定させ、このギャップ長推定値に基づいて、オブザーバの積分器に初期値を与えることで、浮上状態への復帰を確実にする手法が提案されている。
【0011】
しかるに、この手法を「特許文献4」にあるゼロパワー制御に適用する場合、浮上体が定常浮上状態にある時には、電磁石の励磁電流がゼロに収束しているため何らの問題も生じないが、浮上体に大きな変動外力が長時間加えられ、電磁石コイルに過渡的な制御電流が流れ続け、電磁石コイルの温度が上昇し、電磁石コイルの電気抵抗が大きくなったとき、電磁石励磁電流から浮上ギャップ長を推定するオブザーバの出力誤差が大きくなって、浮上状態の維持が次第に困難になり、ついには浮上体が固定部材となる強磁性部材に接触してしまう。
【0012】
また、浮上体が強磁性部材に接触したとき、浮上状態への復帰制御が試みられるが、浮上状態に復帰しても、浮上時の浮上ギャップ長推定値の誤差が大きいことから、再び浮上体が強磁性部材に接触してしまい、接触状態と、浮上状態が交互に繰り返えされてしまう。
【0013】
こうなると、電磁石に大きな制御電流が流れ続けるため、ますます電磁石コイルの電気抵抗値が上昇し、ついには浮上体が強磁性部材に接触したままで、励磁電流が流れ続け、浮上状態の信頼性が損なわれるばかりでなく、電磁石が発火してしまう恐れがあった。
【0014】
そこで、このようなセンサレス磁気浮上における電磁石コイルの抵抗値変動問題を解決する方法として、「特許文献5」では、コイルの抵抗を測定しながら浮上させるとともに、測定動作で得られた抵抗値を用いて、オブザーバのパラメータを変更させ、ギャップ長を推定するときの誤差を小さくする方法が提案されている。
【0015】
しかし、電磁石に過渡的な励磁電流が流れ続けると、電磁石コイルの抵抗値変動に加え、電磁石コイルに励磁電流を供給するドライバなどの温度が上昇して、オフセット電圧が上昇してしまうことから、浮上ギャップ長推定値誤差が大きくなり、浮上状態が不安定安になってしまうという問題があった。
【特許文献1】特願平11−192224号公報
【特許文献2】特願2001−00359号公報
【特許文献3】特願2002−002646号公報
【特許文献4】特開昭61−102105号公報
【特許文献5】特願2003−344670号公報
【特許文献6】特願平11−192224
【非特許文献1】水野、他:「変位センサレス磁気軸受の実用化に関する研究」、電気学会論文集D分冊、116、No.1、35(1996)
【非特許文献2】森山:「差動帰還形パワーアンプを用いたAC磁気浮上」1997年電気学会全国大会予稿集、No.1215
【非特許文献3】水野、他:「ヒステリシスアンプを利用したセルフセンシング磁気浮上」、計測自動制御学会論文集、32、No.7、1043(1996)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
このように、従来の磁気浮上装置にあっては、ギャップセンサ、センサターゲットを使用して得られた浮上ギャップ長を吸引力制御手段にフィードバックさせて、浮上体の安定な浮上状態を実現する方法では、ギャップセンサの設置スペース、センサターゲットの設置スペースなどを確保しなければならず、装置が大型化して複雑になり、コストアップを招くという問題があった。
【0017】
しかも、こうした問題を避けるために、ギャップセンサを用いずに吸引力制御手段にギャップ長の情報をフィードバックしても、従来の技術では、浮上系の安定性が電磁石励磁手段のオフセット電圧に依存していることから、外力が変動したとき、浮上状態の信頼性が著しく損なわれてしまう。
【0018】
このため、このような技術を用いた場合にも、ギャップセンサを使わざるを得ず、装置の複雑化や大型化、コスト高の問題を回避することができないという問題があった。
【0019】
本発明は上記の事情に鑑み、浮上体に対する外力が変動する場合にも、ギャップセンサ、センサーターゲットなどを使用することなく、浮上体を安定的に浮上でき、装置全体を小型化、簡略化させて大幅なコストダウンを達成することができる磁気浮上装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上記の目的を達成するために本発明は、固定部材と、この固定部材に対して磁力を介して非接触状態に保持される浮上体と、浮上体側または固定部材側に配置され、供給される励磁電流の大きさに応じた磁力を発生する電磁石ユニットと、前記浮上体側または固定部材側に配置され、前記電磁石ユニットに供給される励磁電流の大きさを検出する電流センサと、前記浮上体側または固定部材側に配置され、前記電流センサの検出結果および補正済み励磁電圧値に基づき、前記固定部材に対する前記浮上体の姿勢および姿勢変化速度を推定して、前記浮上体と固定部材と空隙とによって構成される磁気回路を安定化するのに必要な励磁電圧値を演算する吸引力制御手段と、前記浮上体側または固定部材側に配置され、前記吸引力制御手段の推定結果に所定のゲインを乗じて積分し、積分結果を前記励磁電圧値に加算して得られた加算結果を補正済み励磁電圧値として前記吸引力制御手段に供給する励磁電圧補正手段と、前記浮上体側または固定部材側に配置され、前記吸引力制御手段で得られた励磁電圧値に応じて、前記電磁石ユニットに励磁電流を供給するドライバとを備えたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0021】
本発明による磁気浮上装置によれば、浮上体に対する外力が変動する場合にも、ギャップセンサ、センサーターゲットなどを使用することなく、浮上体を安定的に浮上させて、装置全体を小型化、簡略化させて大幅なコストダウンを達成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
《発明の動作原理》
はじめに、本発明による磁気浮上装置の詳細な説明に先だち、本発明の基本的な原理について説明する。
【0023】
図16は、一質点系の磁気浮上装置を使用した防振台の一例を示す概略構成図である。
【0024】
この図に示す磁気浮上装置101は、1つの永久磁石103および2つの電磁石105で構成される磁石ユニット107と、“コ”字形状の断面を持ち、下部内側上面に磁石ユニット107が固定される補助指示手段131とを備えている。また、リニアガイドなどの上下方向に力が作用しない案内手段(図示は省略する)で地上側から案内され、防振台のテーブルとして機能する補助支持手段131と、構造部材(図示は省略する)などを介して地上に対して固定された強磁性部材で構成され、対向している磁石ユニット107の作用する磁気的吸引力によって浮上体(磁石ユニット107、補助支持手段131、質量“m”の負荷荷重109によって構成される部分)111を非接触で支持するガイド113とを備えている。さらに、磁石ユニット107の吸引力を制御して浮上体111を安定に非接触支持する吸引力制御手段115と、吸引力制御手段115の出力に基づいて、電磁石105に励磁電圧、励磁電流を供給し、励磁するドライバ116と、ドライバ116から出力される励磁電流の電流値を検出して、吸引力制御手段115に供給する電流センサ123とを備えている。
【0025】
各電磁石105は、継鉄117にコイル119を巻装して構成され、永久磁石103の両磁極端部にそれぞれの継鉄117が配置されている。各コイル119は各々、ドライバ116から励磁電圧、励磁電流が供給されているとき、ガイド113→一方の継鉄117→永久磁石103→他方の継鉄117→ガイド113なる経路で形成される磁路の磁束を強める(または、弱める)ように、直列に接続されている。
【0026】
また、吸引力制御手段115は、ギャップセンサ121で得られる浮上ギャップ長および電流センサ123で得られる励磁電流値から各電磁石105を励磁する電圧を演算する励磁電圧演算手段125を備えている。
【0027】
また、ドライバ116の出力電流は、配電手段としてのリード線128を介して各コイル119に供給されている。
【0028】
上述した構成において、磁気浮上装置101の磁気浮上系は、磁石ユニット107の吸引力が浮上体111の重量と等しくなるときの浮上ギャップ長“z0”の付近で、線型近似できる。すなわち、次式に示すように、磁石ユニット107のインピーダンスを定義したとき、
【数1】
【0029】
但し、Lzo:浮上ギャップ長“z0”付近における、磁石ユニット107のインピ ーダンス
L∞:浮上ギャップ長が無限大のときの磁石ユニット107のインピーダンス
N:各コイル119の巻き数
φ:磁石ユニット107の主磁束
iZ:各電磁石105の励磁電流
∂/∂h(h=iZ):定常浮上状態(z=zo、iz=iz0)における被偏微分関数のそれぞれの偏 微分値
以下に示す微分方程式で記述することができる。
【数2】
【0030】
但し、Fz:磁石ユニット107の吸引力
m:浮上体111の質量
R:各コイル119とリード線128を直列に接続したときの電気抵抗
z:浮上ギャップ長
us:外力
iz:電磁石105の励磁電流
φ:磁石ユニット107の主磁束
eZ:電磁石105の励磁電圧
Δ:定常浮上状態(z=z0、iz=iz0)からの偏差
“'”:d/dtで表される常微分記号
∂/∂h(h=iZ):定常浮上状態(z=zo、iz=iz0)における被偏微分関数のそれぞれの偏 微分値
そして、(2)式、(3)式で表される磁気浮上系では、次式に示すように、置き換えを行い、
【数3】
【0031】
次式に示すように、状態ベクトル“x”、システム行列“A”、制御行列“b”、外乱行列“d”を定義すると、
【数4】
【0032】
但し、Δz:状態ベクトル“x”の要素
Δz':“Δz”を微分して得られる、状態ベクトル“x”の要素
ΔiZ:状態ベクトル“x”の要素
a21:システム行列“A”の要素
a23:システム行列“A”の要素
a33:システム行列“A”の要素
a32:システム行列“A”の要素
b31:制御行列“b”の要素
d21:外乱行列“d”の要素
次式に示す状態方程式で、磁気浮上系を表すことができる。
【数5】
【0033】
但し、C:出力行列
そして、このような磁気浮上系では、状態ベクトル“x”の各要素が浮上系の状態量になる。また、電磁石105の励磁電圧“ez”の計算に用いる状態量の検出方法により、出力行列“C”が決定され、図16に示す磁気浮上装置101のようにギャップセンサ121と、電流センサ123を使用し、ギャップセンサ121からの信号を微分して速度を得る場合には、出力行列“C”が単位行列となる。
【0034】
ここで、“F”を“x”の比例ゲイン補償器で与え、“Ki”を積分ゲインとして、次式に示すように、励磁電圧“ez”を決めれば、磁気浮上装置101は「特許文献4」に見られるゼロパワー制御で浮上させる。
【数6】
【0035】
但し、∫:“Ki・ΔiZ”を時間“dt”で積分する積分記号
なお、図16に示す磁気浮上装置101では、励磁電圧演算手段125において、(9)式が計算されることは言うまでもない。
【0036】
次に、図16に示す磁気浮上装置101において、ギャップセンサ121を使用せずに、励磁電流“Δiz”から浮上ギャップ長偏差“Δz”およびその速度“d(Δz)/dt”を推定するための推定手段として、例えば同一次元状態観測器(以下オブザーバという)を適用する場合を考える。このとき、線型制御理論によれば、次式に示すように、状態推定ベクトル“x^”、各行列“A^”、“B^”、“E^”などを定義すると、
【数7】
【0037】
但し、α1:オブザーバの極を決定するパラメータ
α2:オブザーバの極を決定するパラメータ
α3:オブザーバの極を決定するパラメータ
次式でオブザーバを表すことができる。
【数8】
【0038】
この場合、(7)式、(13)式で示される各状態方程式の演算開始時の初期値を各々、値“x0^”、“x0”とすれば、次式によって、オブーザーバの演算誤差が与えられる。
【数9】
【0039】
但し、x^(t):演算開始してから“t”時間後における状態推定ベクトル“x^”の 値
x(t):演算開始してから“t”時間後における状態推定ベクトル“x”の値
z0:浮上ギャップ長
e:自然対数の底
A^:システム行列
このとき、励磁電圧演算手段125において、例えば、次式に示す演算が行われて、磁気浮上系の安定化が達成される。
【数10】
【0040】
一般に、常電導吸引式磁気浮上系は不安定なため、オブザーバの推定値に誤差があると、安定化が非常に困難となるが、(14)式、(15)式から明らかなように、予めオブザーバが動作を開始するときの初期値“x0”、すなわち、浮上ギャップ長偏差“Δz”、その速度“d(Δz)/dt”および励磁電流“Δi”の値が既知であれば、オブザーバの初期値“x0^”をできるだけ、初期値“x0”に等しく設定することで、推定当初から誤差が少ない状態で励磁電流“Δiz”から浮上ギャップ長偏差“Δz”、その速度“d(Δz)/dt”を推定することができる。
【0041】
ここで、推定当初の誤差が大きいと、(15)式で示される励磁電圧“eZ”が異常な値になり、浮上状態を安定化させることができなくなる。
【0042】
《第1の実施形態》
以下、図面を参照して、このような推定当初の誤差を小さくさせ、浮上状態を安定化させるようにした本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0043】
図1は本発明による磁気浮上装置の第1の実施形態を示す概略構成図である。なお、この図において、図16に対応する部分には、同じ符号が付してある。
【0044】
この図に示す磁気浮上装置100では、図16に示すギャップセンサ121が省略され、代わりに浮上体111およびその近傍に圧電ゴム129が配置され、これら各圧電ゴム129から出力される検出結果に基づき、浮上体111がガイド113に接触したとき、これを検出する接触検出手段130と、浮上体111がガイド113に接触しているとき、浮上体111の姿勢を維持する補助支持手段131とが設けられている。
【0045】
さらに、吸引力制御手段115には、補助支持手段131で維持された姿勢から浮上状態へ移行するときに必要なオブザーバの初期値“x0”を演算する姿勢演算手段135と、浮上体111がガイド113に接触したとき、姿勢演算手段135で計算された初期値“x0”を取り込んで記憶する初期値設定手段139と、オブザーバなどを用いて、励磁電流“Δiz”から浮上ギャップ長偏差“Δz”およびその速度“d(Δz)/dt”を推定する姿勢推定手段133と、浮上体111がガイド113に接触したとき、初期値設定手段139に記憶されている初期値を姿勢推定手段133に供給させて、初期化する推定初期化手段137とが設けられている。
【0046】
そして、浮上体111がガイド113に接触し、補助支持手段131で浮上体111の姿勢が維持されているとき、接触検出手段130によってこれを検出し、姿勢演算手段135にオブザーバの初期値“x0”を演算するとともに、初期値設定手段139に初期値“x0”を保持する。そして、推定初期化手段137によって、初期値設定手段139に保持されている初期値“x0”を姿勢推定手段133に取り込ませ、オブザーバを初期化する。
【0047】
これにより、停止状態にある浮上体111を浮上させるとき、姿勢推定手段133によって、初期値“x0”を基準として、励磁電流“Δiz”から浮上ギャップ長偏差“Δz”およびその速度“d(Δz)/dt”を推定し、これらを励磁電圧演算手段125に入力させて、励磁電圧“eZ”を出力するとともに、ドライバ116から励磁電圧“eZ”に対応した励磁電流“iz”を出力して電磁石105を励磁し、浮上体111を浮上させる。
【0048】
このように、浮上体111が停止している状態から浮上させるとき、または外力やその他の理由により浮上状態から接触状態になったとき、オブザーバに所定の初期値“x0”を与えて、これを初期化することにより、励磁電流“Δiz”から浮上ギャップ長偏差“Δz”およびその速度“d(Δz)/dt”を演算する際、推定当初から誤差を抑えつつ推定することができ、浮上体111を確実に浮上状態へ移行することができるとともに、浮上状態を維持することができる。
【0049】
また、浮上状態にある浮上体111に過渡的な外力が持続的に加えられると、外力に対して浮上状態を保つための吸引力制御がなされるため、各コイル119と、リード線128とに、励磁電流“Δiz”が持続的に流れることになる。
【0050】
こうなると、各コイル119およびリード線128の温度が上昇して、電気抵抗値“R”が増加し、(6)式で示されるパラメータ“a33”が増大する。このとき、姿勢推定手段133のオブザーバで使用しているパラメータ“a33”、すなわち(10)式で示される“a33”を設定時のままに保持すると、実際の磁気浮上系と、オブザーバとの間に差異が生じ、励磁電流“Δiz”、浮上ギャップ長偏差“Δz”およびその速度“d(Δz)/dt”の実際値と、推定値とが乖離してしまう。
【0051】
そして、本来、不安定な常電導吸引式磁気浮上系では、実際値と推定値とが乖離すると、フィードバック制御を行っても浮上体111を安定して浮上させることができなくなってしまう。
【0052】
このような問題を解決するために、この磁気浮上装置100では、「特許文献5」で開示されているように、抵抗測定手段140によって、予め決められた測定方法、例えば次式に示す励磁電圧“ez”の電圧方程式を基本にして、直列に接続されている各コイル119およびリード線128の電気抵抗値“R”を測定している。
【数11】
【0053】
この際、本発明による磁気浮上装置100では、ゼロパワー制御で浮上体111を浮上させるようにしている。このため、過渡的かつ持続的な外力に起因する励磁電流“Δiz”がゼロ点をクロスする。そして、励磁電流“Δiz”がゼロになると、(16)式の除算が不可能になることから、(16)式を次のように変更して使用する。
【数12】
【0054】
但し、ε:ノイズの大きさや必要な測定精度に基づいて、“ε<<1”を満たすように設定される極めて小さな補正値
そして、抵抗値測定手段140によって、(17)式で電気抵抗値“R”を求めた後、例えば低域通過フィルタや平均値演算等の適当なノイズ除去処理を施して、ノイズ除去済みの電気抵抗値“R”を初期値設定手段139、姿勢推定手段133などに供給し、姿勢推定手段133のオブザーバで使用しているパラメータ“a33”、すなわち(10)式で示されるパラメータ“a33”を変更する。
【0055】
これにより、各コイル119およびリード線128の温度が上昇したときにも、(10)式で示されるパラメータ“a33”の値と、(6)式で示されるパラメータ“a33”の値とを一致させて、実際の磁気浮上系と、オブザーバとの間に構造上の差異を無くし、励磁電流“Δiz”、浮上ギャップ長偏差“Δz”およびその速度“d(Δz)/dt”の実際値と、推定値とが乖離しないようにする。
【0056】
さらに、本発明による磁気浮上装置100では、過渡的な外力の印加等により励磁電流“iz”が増加して、温度が上昇し、ドライバ116にオフセット電圧“eoff”が発生しても、励磁電圧補正手段142を設けて、浮上ギャップ長推定値や速度推定値に誤差が発生しないようにしている。
【0057】
励磁電圧補正手段142は、姿勢推定手段133の速度推定値に所定のゲイン“λOS”を乗じるゲイン補償器144と、伝達関数特性“1/s”で、ゲイン補償器144の出力を積分する積分器146と、積分器146の出力とドライバ116の励磁電圧値“ez”を加算する加算器148とを備えている。そして、加算器148の出力を補正済みの励磁電圧値“ez”として、姿勢推定手段133に供給する。
【0058】
以下に、数式を用いて、励磁電圧補正手段142の補正原理を具体的に説明する。
【0059】
まず、励磁電圧補正手段142が無い場合には、温度変動により生じるオフセット電圧“eoff”は、(2)式、(3)式で示される支配方程式の右辺に、以下のように加算される。
【数13】
【0060】
この場合、(2)式、(3)式に対応する(6)式中の外乱行列“d”は、次式に示すようになる。
【数14】
【0061】
ここで、(9)式に示すゼロパワー制御が行われる場合を想定し、次式に示すように、外力“u”を定義すると、
【数15】
【0062】
次式によって、コントローラを含む拡大系を表すことができる。
【数16】
【0063】
但し、A:システム行列
B:制御行列
F:比例ゲイン
b:制御行列
d:外乱行列
ν: Δizの積分要素(ゼロパワー制御の場合、iz0=0のため、iz=Δiz)
O1×2:1行2列のゼロ部分行列
O1×3:1行3列のゼロ部分行列
O3×2:3行2列のゼロ部分行列
これら(20)式〜(22)式から明らかなように、オフセット電圧“eoff”から浮上ギャップ長推定値および速度推定値への伝達関数“G(jω)”、“H(jω)”の直流成分“G(0)”、“H(0)”を求めると、次式が得られる。
【数17】
【0064】
そして、過渡的な外力の印加等により励磁電流“iz”が増加して、温度が上昇し、オフセット電圧“eoff”が増加したとき、浮上ギャップ長推定値および速度推定値に対し、(23)式、(24)式で示される伝達関数“G(jω)”、“H(jω)”の直流成分“G(0)”、“H(0)”を乗じた分だけ、ドライバ116に、浮上ギャップ長推定値および速度推定値に定常誤差が生じる。
【0065】
これにより、励磁電圧補正手段142が無い場合には、浮上体111を浮上させるとき、オブザーバの積分器に正しい初期値を設定していても、オブザーバの積分器が実際とは異なる値に収束して、接触状態から浮上状態への移行が非常に困難になる。
【0066】
ところが、本発明によれば、励磁電圧補正手段142において、オブザーバの速度推定値に対し、所定のゲイン“λOS”を乗ずるとともに、積分器146の積分結果と、ドライバ116から出力されている励磁電圧“ez”とを加算し、加算結果を励磁電圧として、オブザーバに帰還するようにしている。
【0067】
この場合、速度推定値を積分する積分器146の出力を“ecom”とし、次式に示すように、状態推定ベクトル“(xx)^”、各行列“(AA)^”、“(BB)^”、“(EE)^”を定義すると、
【数18】
【0068】
(10)式〜(12)式に代えて、次式でオブザーバを表すことができる。
【数19】
【0069】
但し、“'”:d/dtで表される常微分記号
そして、オブザーバを(26)式で表せるとき、次式に示すように、ゼロパワー制御でezを定義すれば、
【数20】
【0070】
但し、FF:比例ゲイン
次式で、拡大系を表すことができる。
【数21】
【0071】
但し、O4×2:4行2列のゼロ部分行列
O1×2:1行2列のゼロ部分行列
そして、(21)式および(29)式より、オフセット電圧“eoff”から浮上ギャップ長推定値および速度推定値への伝達関数“G(jω)”、“H(jω)”の直流成分“(GG(0))^”、“(HH(0))^”を求めると、
【数22】
【0072】
となり、ドライバ116にオフセット電圧“eoff”が発生しても、浮上ギャップ長推定値および速度推定値に定常偏差が生じないようにし、オブザーバに正しい初期値を設定したとき、浮上ギャップ長推定値および速度推定値を実際と等しい値に収束させて、接触状態から浮上状態への移行を非常に容易にすることができる。
【0073】
したがって、浮上体111に対し、長時間、持続的に外力が加えられ、発熱によりドライバ116にオフセット電圧“eoff”が発生しても、接触状態から浮上状態への確実かつ安定した移行が可能となる。
【0074】
このように浮上状態の安定性が維持できれば、信頼性の向上が図れ、ギャップセンサ121の省略による磁気浮上装置100の簡素化や小型化、コストの低減化が実現できる。
【0075】
このように、第1の実施形態では、ドライバ116から浮上体111側に配置された磁石ユニット107に励磁電流“iZ”が供給されているとき、電流センサ123によって検出された励磁電流“iZ”の大きさに基づき、吸引力制御手段115の姿勢推定手段133によって、ガイド113に対する浮上体111の姿勢および姿勢変化速度を推定して、浮上体111とガイド113と空隙とによって構成される磁気回路を安定化するのに必要な励磁電圧値“eZ”を演算する。そして、励磁電圧補正手段142によって、吸引力制御手段115の推定結果に所定のゲイン“λos”を乗じて積分し、積分結果を前記励磁電圧値“eZ”に加算して得られた加算結果を補正済みの励磁電圧値“eZ”として、姿勢推定手段133に供給するようにしている。このため、浮上体111に対する外力が変動して、ドライバ116の温度が上昇し、オフセット電圧“eoff”が大きくなった場合にも、ギャップセンサ、センサーターゲットなどを使用することなく、浮上体111を安定的に浮上させることができる。また、装置全体を小型化、簡略化させることができ、大幅なコストダウンを達成することができる。
【0076】
また、第1の実施形態では、ドライバ116から出力される励磁電流“iZ”を用いて磁束を発生する2つの電磁石105と、各電磁石105の磁束と磁路を共有するように配置される永久磁石103とによって、ガイド113を吸引する磁力を発生させ、浮上体111を浮上させるようにしている。このため、電磁石105に流す励磁電流“iZ”の電流値を小さくでき、運転コストを低減できる。
【0077】
また、第1の実施形態では、電流センサ123で検出された励磁電流“iZ”の大きさに基づき、吸引力制御手段115の姿勢推定手段133によって、ゼロパワー制御方式で、ガイド113に対する浮上体111の姿勢および姿勢変化速度を推定させ、磁石ユニット107の励磁電流“iZ”をゼロへ収束するのに必要な励磁電圧値“eZ”を演算させて、浮上体111とガイド113と空隙とによって構成される磁気回路を安定化するようにしている。このため、浮上体111に対する外力が変動する場合にも、ギャップセンサ、センサーターゲットなどを使用することなく、ゼロパワー制御方式で、各電磁石105の励磁電流“iZ”をゼロへ収束させながら、浮上体111を安定的に浮上させ、装置全体を小型化、簡略化させて大幅なコストダウンを達成することができる。
【0078】
また、第1の実施形態では、吸引力制御手段115に設けられた抵抗測定手段140によって、ドライバ116から出力される励磁電流“iZ”を磁石ユニット107に導くリード線128の抵抗値、磁石ユニット107のコイル抵抗値を測定して、吸引力制御手段133の姿勢推定手段133の演算内容を補正するようにしている。このため、浮上体111に対する外力が変動する場合にも、また連続運転などで、磁石ユニット107などの温度が上昇して、配線抵抗値、コイル抵抗値などが変化した場合にも、ギャップセンサ、センサーターゲットなどを使用することなく、浮上体111を安定的に浮上させ、装置全体を小型化、簡略化させて大幅なコストダウンを達成することができる。
【0079】
また、第1の実施形態では、吸引力制御手段115に設けられた抵抗測定手段140によって、ドライバ116から出力される励磁電流“iZ”を磁石ユニット107に導くリード線128の抵抗値、磁石ユニット107のコイル抵抗値を測定するとき、ドライバ116から磁石ユニット107に供給される励磁電流“iZ”、励磁電圧“eZ”に基づいて、磁石ユニット107までの配線抵抗値、磁石ユニット107のコイル抵抗値を演算するようにしている。このため、磁石ユニット107の抵抗値を測定する測定回路を簡素化させながら、浮上体111に対する外力が変動する場合にも、また連続運転などで、磁石ユニット107などの温度が上昇して、配線抵抗値、コイル抵抗値などが変化した場合にも、ギャップセンサ、センサーターゲットなどを使用することなく、浮上体111を安定的に浮上させ、装置全体を小型化、簡略化させて大幅なコストダウンを達成することができる。
【0080】
また、第1の実施形態では、電流センサ123の検出結果、補正済み励磁電圧値などに基づき、吸引力制御手段115の姿勢推定手段133によって、ガイド113に対する浮上体111の姿勢および姿勢変化速度を推定するとともに、姿勢推定手段の出力に基づき、励磁電圧演算部によって、磁石ユニット107に対する励磁電圧値“eZ”を演算するようにしている。このため、浮上体111に対する外力が変動する場合にも、ギャップセンサ、センサーターゲットなどを使用することなく、磁石ユニット107に対する励磁電圧値“eZ”を最適化させて、浮上体111を安定的に浮上させて、装置全体を小型化、簡略化させて大幅なコストダウンを達成することができる。
【0081】
さらに、第1の実施形態では、浮上体111が浮上状態にないとき、浮上体111とガイド113との位置関係を所定の状態に維持する補助支持手段131を設け、浮上体111とガイド113とが接触し、吸引力制御手段115内に設けられた接触検出手段130によって、これが検出されたとき、吸引力制御手段115内に設けられた姿勢演算手段135によって、ガイド113に対する浮上体111の姿勢を演算するとともに、姿勢演算手段135の出力値を吸引力制御手段115内に設けられた初期値設定手段139に取り込ませて、初期値として設定させながら、推定初期化手段137によって、初期値設定手段139に設定されている初期値を姿勢推定手段133に転送させて、姿勢推定手段133を初期化するようにしている。このため、浮上体111に対する外力が変動する場合にも、ギャップセンサ、センサーターゲットなどを使用することなく、浮上体111とガイド113とを接触させたときの姿勢状態を初期状態にさせて、浮上体111を安定的に浮上させ、装置全体を小型化、簡略化させて大幅なコストダウンを達成することができる。
【0082】
《第2の実施形態》
図2は本発明による磁気浮上装置の第2の実施形態を示す斜視図である。
【0083】
この図に示す磁気浮上装置10は、強磁性部材などによって構成され、エレベータシャフト12の内面に所定の取付方法で敷設される2本のガイドレール14と、図3に示すように、所定の強度を持つ枠型部材によって構成され、移動体16を構成する乗りかご20の上下、各側面を囲むように配置されるフレーム部22と、フレーム部22の四隅に、各ガイドレール14と対向するように取り付けられ、移動体16を非接触状態に保持する4つの案内ユニット18a〜18dと、乗りかご20の上部、下部などに配置され、各案内ユニット18a〜18dに設けられた各センサなどの検知結果に基づき、各案内ユニット18a〜18dに設けられた各磁石ユニット30を制御して、各ガイドレール14から浮上させる4つの制御装置44とを備えている。そして、巻き上げ機(図示は省略する)によって、ロープ15が走行駆動され、移動体16が上方向、または下方向に移動するとき、乗りかご20の上部、下部などに配置された各制御装置44によって、各案内ユニット18a〜18dを駆動して各案内ユニット18a〜18dを各ガイドレール14から浮上させ、移動体16の移動をスムーズにする。
【0084】
案内ユニット18a〜18dは各々、図4の斜視図に示すように非磁性材料、例えばアルミやステンレス、もしくはプラスチックなどの材料によって構成され、フレーム部22の四隅に各々、取り付けられる台座24と、台座24に取り付けられ、台座24からガイドレール14までの距離(x方向の距離)を計測する2つのx方向近接センサ26と、台座24に取り付けられ、台座24からガイドレール14までの距離(y方向の距離)を計測する2つのy方向近接センサ28と、台座24に取り付けられ、ガイドレール14に対し、案内ユニット18a〜18dを非接触状態に保つ磁石ユニット30とを備えている。
【0085】
磁石ユニット30は図5の横断面図に示すように、“凸”型に形成され、背面側が台座24に固定される中央鉄心32と、同極同士が中央鉄心32を介して向かい合うように、中央鉄心32の側部に取り付けられる2つの永久磁石34と、L字形状に形成され、各永久磁石34の側部に取り付けられる2つの鉄心38、これら鉄心38に挿通される2つのコイル40によって構成される2つの電磁石36と、平板状に形成され、各鉄心38の先端部に取り付けられる2つの鉄心42と、テフロン(登録商標)や黒鉛あるいは二硫化モリブデン等を含有する材料などによって構成され、中央鉄心32および各鉄心42の先端部に各々、配置され、各電磁石36が励磁されていないとき、各永久磁石34の吸引力によって、鉄心42、中央鉄心32がガイドレール14に接触しても、鉄心42、中央鉄心32がガイドレール14に固着しないようにさせ、移動体16の昇降に支障が出ないようにする3つの固体潤滑部材43とを備えている。
【0086】
そして、各制御装置44から励磁電流が出力されているとき、案内ユニット18a〜18d毎に、各電磁石36を個別に励磁して、対向するガイドレール14に作用する吸引力をy方向と、x方向とに個別に制御し、対向するガイドレール14から各鉄心42、中央鉄心32を浮いた状態に保持する。なお、この際に使用する制御方式として、従来から知られている一般的な制御方式、例えば「特許文献1」などで開示された制御方式を使用する。
【0087】
各制御装置44は、各制御装置44が相互に接続され、全体として、図6のブロック図に示すように、商用電源などから供給される交流電圧を直流電圧に変換して出力する電源46と、電源46から出力される直流電圧を用いて指定された電圧値の直流電圧を生成する定電圧発生装置48と、各案内ユニット18a〜18dを構成する各コイル40の温度、励磁電流、励磁電圧などを各々、検出する8つのセンサ部61と、各センサ部61の検出信号に基づいて、各コイル40に印加する電圧(励磁電圧)を演算して、移動体16を非接触案内する演算ユニット62と、演算ユニット62の出力に基づいて各コイル40に電力を供給する8つのパワーアンプ63とを備えている。
【0088】
そして、各案内ユニット18a〜18dに設けられた各x方向近接センサ26の近接センサ信号ON/OFF内容、各y方向近接センサ28の近接センサ信号のON/OFF内容、各センサ部61の検出結果に基づき、各制御装置44が協調動作して、移動体16の重心を通る、y座標に沿った前後動を表す“y”モード(前後動モード)、x座標に沿った左右動を表す“x”モード(左右動モード)、移動体16の重心回りのローリングを表す“θ”モード(ロールモード)、移動体16の重心回りのピッチングを表す“ξ”モード(ピッチモード)、移動体16の重心回りのヨーイングを表す“ψ”モード(ヨーモード)のみならず、フレーム部22を左右対称に歪ませる歪力に関する3つのモード、すなわち各案内ユニット18a〜18dが各ガイドレール14に及ぼす“ζ”モード(全吸引モード)、各案内ユニット18a〜18dがフレーム部22に及ぼすx(またはz)軸周りの“δ”モード(ねじれモード)、各案内ユニット18a〜18dがフレーム部22に及ぼすγモード(歪モード)別に、各コイル40に印加する電圧(励磁電圧)を演算して、各案内ユニット18a〜18dの各磁石ユニット30の吸引力をx軸、y軸毎に、独立して制御し、各ガイドレール14から鉄心42、中央鉄心32を浮いた状態に保持する。この際、ゼロパワー制御を使用して、各磁石ユニット30のコイル電流をゼロに収束させることで、積荷の重量に関わらず、各永久磁石34の吸引力だけで移動体16を安定に支持する。このとき、任意のモードに対してゼロパワー制御を施しても何ら差し支えない。
【0089】
電源46は、電源線を介して、エレベータシャフト12外から供給される交流を取り込み、乗りかご20の照明装置、ドア開閉装置などに供給しながら、整流して、直流電圧にする電源装置などを備えている。そして、電源線を介して、エレベータシャフト12外から供給される交流を取り込み、乗りかご20の照明装置、ドア開閉装置などに供給しながら、整流して、直流電圧を生成し、パワーアンプ63、定電圧発生装置48などに供給する。
【0090】
各パワーアンプ63は、演算ユニット62の出力に基づいて、電源46から出力される直流電圧をスイッチングする、IGBTなどの半導体スイッチング素子などを備えている。そして、スイッチング動作で得られた励磁電圧を案内ユニット18a〜18dの各コイル40に供給して各コイル40を励磁し、対向するガイドレール14から各案内ユニット18a〜18dを浮いた状態にする。
【0091】
また、定電圧発生装置48は電源46から出力される直流電圧を指定された電圧値の直流電圧に変換する電圧変換部などを備えている。そして、電源46からパワーアンプ63に大電流が供給されて、電源46の電圧が変動しても、常に一定電圧値の直流電圧を生成して、演算ユニット62、各案内ユニット18a〜18dの各x方向近接センサ26、各y方向近接センサ28に供給する。
【0092】
各センサ部61は、各案内ユニット18a〜18dに設けられた各コイル40の電流値を各々、検出する電流検出器66と、各コイル40の励磁電圧値を各々、検出する電圧検出器72と、各コイル40の温度、励磁電流値、励磁電圧値などを各々、測定して、各コイル40の抵抗値を出力する抵抗測定器64とを備えている。そして、各案内ユニット18a〜18dに設けられた各コイル40の温度、励磁電流、励磁電圧、コイル抵抗値などを検出して、検出結果を演算ユニット62に供給する。
【0093】
演算ユニット62は、各案内ユニット18a〜18dに設けられた各コイル40に対する電流設定値“ia0”、“ia0’”〜“id0”、“id0’”が設定される8つの電流値設定器45と、各電流検出器66の励磁電流検出信号“ia”、“ia’”〜“id”、“id’”から、電流値設定器45に設定されている各電流設定値“ia0”、“ia0’”〜“id0”、“id0’”をそれぞれ減算して、電流偏差信号“Δia”、“Δia’”〜“Δid”、“Δid’”を出力する8つの減算器74と、減算器74の出力、各案内ユニット18a〜18dに設けられた各x方向近接センサ26の出力、各y方向近接センサ28の出力、各センサ部61に設けられた電圧検出器72の出力、抵抗値測定器64の出力などに基づき、ゼロパワー制御に必要な励磁電圧を生成して、各パワーアンプ63に供給する浮上制御演算部65とを備えている。そして、各案内ユニット18a〜18dに設けられた各x方向近接センサ26の出力、各y方向近接センサ28の出力、各センサ部61を構成する電圧検出器72の出力、抵抗値測定器64の出力、電流検出器66の出力などに基づき、ゼロパワー制御に必要な励磁電圧を生成して、各パワーアンプ63に供給し、各案内ユニット18a〜18dに設けられた各磁石ユニット30のコイル電流をゼロに収束させ、積荷の重量に関わらず、各永久磁石34の吸引力だけで、移動体16を安定に支持する。
【0094】
浮上制御演算部65は、各案内ユニット18a〜18dに設けられた各x方向近接センサ26の出力、各y方向近接センサ28の出力、各センサ部61に設けられた抵抗値測定器64の出力、電圧検出器72から出力される励磁電圧信号“ea”、“ea’”〜“ed”、“ed’”などに基づき、移動体16の重心を中心にしたy方向の運動に関わる励磁電圧“Δey”、x方向の運動に関わる励磁電圧“Δex”、移動体16の重心を中心にした、ローリングに関わる励磁電圧“Δeθ”、ピッチングに関わる励磁電圧“Δeξ”、ヨーイングに関わる励磁電圧“Δeψ”を演算する励磁電圧座標変換回路81と、各案内ユニット18a〜18dに設けられた各x方向近接センサ26の出力、各y方向近接センサ28の出力、各センサ部61に設けられた各抵抗値測定器64の出力、電圧検出器72から出力される励磁電圧信号“ea”、“ea’”〜“ed”、“ed’”、各減算器74から出力される電流偏差信号“Δia”、“Δia’”〜“Δid”、“Δid’”などに基づき、移動体16の重心を中心にした、y方向の運動に関わる電流偏差“Δiy”、x方向の運動に関わる電流偏差信号“Δix”、移動体16の重心を中心にした、ローリングに関わる電流偏差“Δiθ”、ピッチングに関わる電流偏差“Δiξ”、ヨーイングに関わる電流偏差“Δiψ”、移動体16、フレーム部22などの“ζ”、“δ”、“γ”に関する各電流偏差“Δiζ”、“Δiδ”、“Δiγ”を演算する電流偏差座標変換回路83とを備えている。
【0095】
さらに、浮上制御演算部65は、“y”モードの電磁石励磁電圧“ey”を生成する前後動モード制御電圧演算回路86a、“x”モードの電磁石励磁電圧“ex”を生成する左右動モード制御電圧演算回路86b、“θ”モードの電磁石励磁電圧“eθ”を生成するロールモード制御電圧演算回路86c、“ξ”モードの電磁石励磁電圧“eξ”を生成するピッチモード制御電圧演算回路86d、“ψ”モードの電磁石励磁電圧“eψ”を生成するヨーモード制御電圧演算回路86e、“ζ”モードの電磁石励磁電圧“eζ””を生成する全吸引モード制御電圧演算回路88a、“δ”モードの電磁石励磁電圧“eγ”を生成するねじれモード制御電圧演算回路88b、“γ”モードの電磁石励磁電圧“ey”を生成する歪モード制御電圧演算回路88cを有し、各案内ユニット18a〜18dに設けられた各x方向近接センサ26の出力、各y方向近接センサ28の出力、各センサ部61に設けられた抵抗値測定器64の出力、励磁電圧座標変換回路81から出力される励磁電圧“Δey”、“Δex”、“Δeθ”、“Δeξ”、“Δeψ”、電流偏差座標変換回路83の出力される電流偏差“Δiy”、“Δix”、“Δiθ”、“Δiξ”、“Δiψ”、“Δiζ”、“Δiδ”、“Δiγ”などに基づき、“y”、“x”、“θ”、“ξ”、“ψ”、“ζ”、“δ”、“γ”の各モードにおいて、移動体16を安定に磁気浮上させるモード別電磁石制御電圧“ey”、“ex”、“eθ”、“eξ”、“eψ”、“eζ”、“eδ”、“eγ”を演算する制御電圧演算回路84と、制御電圧演算回路84から出力されるモード別電磁石制御電圧“ey”、“ex”、“eθ”、“eξ”、“eψ”、“eζ”、“eδ”、“eγ”に基づき、各案内ユニット18a〜18dに設けられた各磁石ユニット30に対する励磁電圧“ea”、“ea’”〜“ed”、“ed’”を演算する制御電圧座標逆変換回路85とを備えている。
【0096】
そして、各案内ユニット18a〜18dに設けられた各x方向近接センサ26の出力、各y方向近接センサ28の出力、各センサ部61に設けられた各抵抗値測定器64の出力、電圧検出器72から出力される励磁電圧信号“ea”、“ea’”〜“ed”、“ed’”、各減算器74から出力される電流偏差信号“Δia”、“Δia’”〜“Δid”、“Δid’”などに基づき、“y”、“x”、“θ”、“ξ”、“ψ”、“ζ”、“δ”、“γ”の各モードにおいて、ゼロパワー制御で各案内ユニット18a〜18dに設けられた各磁石ユニット30を各々、励磁して、移動体16を安定に磁気浮上させるのに必要な励磁電圧“ea”、“ea’”〜“ed”、“ed’”を生成し、各パワーアンプ63に供給する。
【0097】
前後動モード制御電圧演算回路86aは、図1に示す吸引制御手段115と同様な機能を持つ回路であり、図7のブロック図に示すように、各抵抗測定手段64で測定された各コイル40の抵抗値の平均値を演算する抵抗値平均化手段90と、帰還されるモード別姿勢推定値“Δy’est”を用いて、励磁電圧座標変換回路81から出力されるモード別励磁電圧“Δey”のオフセット電圧成分を補正する励磁電圧補正手段142と、姿勢推定手段133と同様に、励磁電圧補正手段142から出力されるオフセット電圧成分補正済みの新たな励磁電圧“Δey”、電流偏差座標変換回路83の出力されるモード別電流偏差“Δiy”に基づき、モード別姿勢推定値“Δyest”、“Δyest’”、“Δiy・est”を生成するモード別姿勢推定手段97と、抵抗値平均化手段90の出力に基づき、モード別姿勢推定手段97から出力されるモード別姿勢推定値“Δyest”、“Δyest’”、“Δiy・est”に対し各々、適切なフィードバックゲインを乗じる3つのゲイン補償器91と、各ゲイン補償器91の出力値の総和を演算する加算器95と、電流偏差目標値を発生する電流偏差目標値発生器92と、電流偏差目標値発生器92の電流偏差目標値からモード別姿勢推定手段97のモード別姿勢推定値“Δiy・est”を減じる減算器93と、減算器93の出力値を積分しながら、抵抗値平均化手段90の出力に応じた、適切なフィードバックゲインを乗じる積分補償器94と、積分補償器94の出力値から、加算器95の出力値を減じて、“y”モードの電磁石励磁電圧“ey”を生成する減算器96とを備えている。
【0098】
さらに、前後動モード制御電圧演算回路86aは、各案内ユニット18a〜18dに設けられた各x方向近接センサ26の近接センサ信号ON/OFF内容、各y方向近接センサ28の近接センサ信号のON/OFF内容に基づき、各磁石ユニット30がガイドレール14に接触したときの姿勢を演算して、各磁石ユニット30のモード別位置偏差を生成し、記憶する姿勢演算手段99と、各案内ユニット18a〜18dに設けられた各x方向近接センサ26の近接センサ信号ON/OFF内容、各y方向近接センサ28の近接センサ信号のON/OFF内容に基づき、各磁石ユニット30がガイドレール14に接触しているかどうかを判断し、各磁石ユニット30のいずれかがガイドレール14に接触しているとき、モード別姿勢推定手段97の積分演算処理(推定処理)を初期化する推定初期化手段98と、推定初期化手段98によって、モード別姿勢推定手段97が初期化されるとき、姿勢演算手段99に記憶されているモード別位置偏差をモード別姿勢推定手段97に供給させ、積分動作の初期値として設定する初期値設定手段89とを備えている。
【0099】
そして、各案内ユニット18a〜18dに設けられた各x方向近接センサ26の近接センサ信号ON/OFF内容、各y方向近接センサ28の近接センサ信号のON/OFF内容、センサ部61の抵抗測定器64から出力される各コイル40の抵抗値、励磁電圧座標変換回路81から出力される励磁電圧“Δey”、電流偏差座標変換回路83の出力される電流偏差“Δiy”に基づき、“y”モードの電磁石制御電圧“ey”を演算して、制御電圧座標逆変換回路85に供給する。
【0100】
また、左右動モード制御電圧演算回路86bは、前後動モード制御電圧演算回路86aと同様に、図8に示すように、各抵抗測定手段64で測定された各コイル40の抵抗値の平均値を演算する抵抗値平均化手段90と、帰還されるモード別姿勢推定値“Δxest’”を用いて、励磁電圧座標変換回路81から出力されるモード別励磁電圧“Δex”のオフセット電圧成分を補正する励磁電圧補正手段142と、姿勢推定手段133と同様に、励磁電圧補正手段142から出力されるオフセット電圧成分補正済みの新たな励磁電圧“Δex”、電流偏差座標変換回路83の出力されるモード別電流偏差“Δix”に基づき、モード別姿勢推定値“Δxest”、“Δxest’”、“Δix・est”を生成するモード別姿勢推定手段97と、抵抗値平均化手段90の出力に基づき、モード別姿勢推定手段97から出力されるモード別姿勢推定値“Δxest”、“Δxest’”、“Δix・est”に対し各々、適切なフィードバックゲインを乗じる3つのゲイン補償器91と、各ゲイン補償器91の出力値の総和を演算する加算器95と、電流偏差目標値を発生する電流偏差目標値発生器92と、電流偏差目標値発生器92の電流偏差目標値からモード別姿勢推定手段97のモード別姿勢推定値“Δix・est”を減じる減算器93と、減算器93の出力値を積分しながら、抵抗値平均化手段90の出力に応じた、適切なフィードバックゲインを乗じる積分補償器94と、積分補償器94の出力値から、加算器95の出力値を減じて、“x”モードの電磁石励磁電圧“ex”を生成する減算器96とを備えている。
【0101】
さらに、左右動モード制御電圧演算回路86bは、各案内ユニット18a〜18dに設けられた各x方向近接センサ26の近接センサ信号ON/OFF内容、各y方向近接センサ28の近接センサ信号のON/OFF内容に基づき、各磁石ユニット30がガイドレール14に接触したときの姿勢を演算して、各磁石ユニット30のモード別位置偏差を生成し、記憶する姿勢演算手段99と、各案内ユニット18a〜18dに設けられた各x方向近接センサ26の近接センサ信号ON/OFF内容、各y方向近接センサ28の近接センサ信号のON/OFF内容に基づき、各磁石ユニット30がガイドレール14に接触しているかどうかを判断し、各磁石ユニット30のいずれかがガイドレール14に接触しているとき、モード別姿勢推定手段97の積分演算処理(推定処理)を初期化する推定初期化手段98と、推定初期化手段98によって、モード別姿勢推定手段97が初期化されるとき、姿勢演算手段99に記憶されているモード別位置偏差をモード別姿勢推定手段97に供給させ、積分動作の初期値として設定する初期値設定手段89とを備えている。
【0102】
そして、各案内ユニット18a〜18dに設けられた各x方向近接センサ26の近接センサ信号ON/OFF内容、各y方向近接センサ28の近接センサ信号のON/OFF内容、センサ部61の抵抗測定器64から出力される各コイル40の抵抗値、励磁電圧座標変換回路81から出力される励磁電圧“Δex”、電流偏差座標変換回路83の出力される電流偏差“Δix”に基づき、“x”モードの電磁石制御電圧“ex”を演算して、制御電圧座標逆変換回路85に供給する。
【0103】
また、ロールモード制御電圧演算回路86cは、前後動モード制御電圧演算回路86a、左右動モード制御電圧演算回路86bと同様に、図9に示すように、各抵抗測定手段64で測定された各コイル40の抵抗値の平均値を演算する抵抗値平均化手段90と、帰還されるモード別姿勢推定値“Δθest’”を用いて、励磁電圧座標変換回路81から出力されるモード別励磁電圧“Δeθ”のオフセット電圧成分を補正する励磁電圧補正手段142と、姿勢推定手段133と同様に、励磁電圧補正手段142から出力されるオフセット電圧成分補正済みの新たな励磁電圧“Δeθ”、電流偏差座標変換回路83の出力されるモード別電流偏差“Δiθ”に基づき、モード別姿勢推定値“Δθest”、“Δθest’”、“Δiθ・est”を生成するモード別姿勢推定手段97と、抵抗値平均化手段90の出力に基づき、モード別姿勢推定手段97から出力されるモード別姿勢推定値“Δθest”、“Δθest’”、“Δiθ・est”に対し各々、適切なフィードバックゲインを乗じる3つのゲイン補償器91と、各ゲイン補償器91の出力値の総和を演算する加算器95と、電流偏差目標値を発生する電流偏差目標値発生器92と、電流偏差目標値発生器92の電流偏差目標値からモード別姿勢推定手段97のモード別姿勢推定値“Δiθ・est”を減じる減算器93と、減算器93の出力値を積分しながら、抵抗値平均化手段90の出力に応じた、適切なフィードバックゲインを乗じる積分補償器94と、積分補償器94の出力値から、加算器95の出力値を減じて、“θ”モードの電磁石励磁電圧“eθ”を生成する減算器96とを備えている。
【0104】
さらに、ロールモード制御電圧演算回路86cは、各案内ユニット18a〜18dに設けられた各x方向近接センサ26の近接センサ信号ON/OFF内容、各y方向近接センサ28の近接センサ信号のON/OFF内容に基づき、各磁石ユニット30がガイドレール14に接触したときの姿勢を演算して、各磁石ユニット30のモード別位置偏差を生成し、記憶する姿勢演算手段99と、各案内ユニット18a〜18dに設けられた各x方向近接センサ26の近接センサ信号ON/OFF内容、各y方向近接センサ28の近接センサ信号のON/OFF内容に基づき、各磁石ユニット30がガイドレール14に接触しているかどうかを判断し、各磁石ユニット30のいずれかがガイドレール14に接触しているとき、モード別姿勢推定手段97の積分演算処理(推定処理)を初期化する推定初期化手段98と、推定初期化手段98によって、モード別姿勢推定手段97が初期化されるとき、姿勢演算手段99に記憶されているモード別位置偏差をモード別姿勢推定手段97に供給させ、積分動作の初期値として設定する初期値設定手段89とを備えている。
【0105】
そして、各案内ユニット18a〜18dに設けられた各x方向近接センサ26の近接センサ信号ON/OFF内容、各y方向近接センサ28の近接センサ信号のON/OFF内容、センサ部61の抵抗測定器64から出力される各コイル40の抵抗値、励磁電圧座標変換回路81から出力される励磁電圧“Δeθ”、電流偏差座標変換回路83の出力される電流偏差“Δiθ”に基づき、“θ”モードの電磁石制御電圧“eθ”を演算して、制御電圧座標逆変換回路85に供給する。
【0106】
また、ピッチモード制御電圧演算回路86dは、前後動モード制御電圧演算回路86a〜ロールモード制御電圧演算回路86cと同様に、図10に示すように、各抵抗測定手段64で測定された各コイル40の抵抗値の平均値を演算する抵抗値平均化手段90と、帰還されるモード別姿勢推定値“Δξest’”を用いて、励磁電圧座標変換回路81から出力されるモード別励磁電圧“Δeξ”のオフセット電圧成分を補正する励磁電圧補正手段142と、姿勢推定手段133と同様に、励磁電圧補正手段142から出力されるオフセット電圧成分補正済みの新たな励磁電圧“Δeξ”、電流偏差座標変換回路83の出力されるモード別電流偏差“Δiξ”に基づき、モード別姿勢推定値“Δξest”、“Δξest’”、“Δiξ・est”を生成するモード別姿勢推定手段97と、抵抗値平均化手段90の出力に基づき、モード別姿勢推定手段97から出力されるモード別姿勢推定値“Δξest”、“Δξest’”、“Δiξ・est”に対し各々、適切なフィードバックゲインを乗じる3つのゲイン補償器91と、各ゲイン補償器91の出力値の総和を演算する加算器95と、電流偏差目標値を発生する電流偏差目標値発生器92と、電流偏差目標値発生器92の電流偏差目標値からモード別姿勢推定手段97のモード別姿勢推定値“Δiξ・est”を減じる減算器93と、減算器93の出力値を積分しながら、抵抗値平均化手段90の出力に応じた、適切なフィードバックゲインを乗じる積分補償器94と、積分補償器94の出力値から、加算器95の出力値を減じて、“ξ”モードの電磁石励磁電圧“eξ”を生成する減算器96とを備えている。
【0107】
さらに、ピッチモード制御電圧演算回路86dは、各案内ユニット18a〜18dに設けられた各x方向近接センサ26の近接センサ信号ON/OFF内容、各y方向近接センサ28の近接センサ信号のON/OFF内容に基づき、各磁石ユニット30がガイドレール14に接触したときの姿勢を演算して、各磁石ユニット30のモード別位置偏差を生成し、記憶する姿勢演算手段99と、各案内ユニット18a〜18dに設けられた各x方向近接センサ26の近接センサ信号ON/OFF内容、各y方向近接センサ28の近接センサ信号のON/OFF内容に基づき、各磁石ユニット30がガイドレール14に接触しているかどうかを判断し、各磁石ユニット30のいずれかがガイドレール14に接触しているとき、モード別姿勢推定手段97の積分演算処理(推定処理)を初期化する推定初期化手段98と、推定初期化手段98によって、モード別姿勢推定手段97が初期化されるとき、姿勢演算手段99に記憶されているモード別位置偏差をモード別姿勢推定手段97に供給させ、積分動作の初期値として設定する初期値設定手段89とを備えている。
【0108】
そして、各案内ユニット18a〜18dに設けられた各x方向近接センサ26の近接センサ信号ON/OFF内容、各y方向近接センサ28の近接センサ信号のON/OFF内容、センサ部61の抵抗測定器64から出力される各コイル40の抵抗値、励磁電圧座標変換回路81から出力される励磁電圧“Δeξ”、電流偏差座標変換回路83の出力される電流偏差“Δiξ”に基づき、“ξ”モードの電磁石制御電圧“eξ”を演算して、制御電圧座標逆変換回路85に供給する。
【0109】
また、ヨーモード制御電圧演算回路86eは、前後動モード制御電圧演算回路86a〜ピッチモード制御電圧演算回路86dと同様に、図11に示すように、各抵抗測定手段64で測定された各コイル40の抵抗値の平均値を演算する抵抗値平均化手段90と、帰還されるモード別姿勢推定値“Δψest’”を用いて、励磁電圧座標変換回路81から出力されるモード別励磁電圧“Δeψ”のオフセット電圧成分を補正する励磁電圧補正手段142と、姿勢推定手段133と同様に、励磁電圧補正手段142から出力されるオフセット電圧成分補正済みの新たな励磁電圧“Δeψ”、電流偏差座標変換回路83の出力されるモード別電流偏差“Δiψ”に基づき、モード別姿勢推定値“Δψest”、“Δψest’”、“Δiψ・est”を生成するモード別姿勢推定手段97と、抵抗値平均化手段90の出力に基づき、モード別姿勢推定手段97から出力されるモード別姿勢推定値“Δψest”、“Δψest’”、“Δiψ・est”に対し各々、適切なフィードバックゲインを乗じる3つのゲイン補償器91と、各ゲイン補償器91の出力値の総和を演算する加算器95と、電流偏差目標値を発生する電流偏差目標値発生器92と、電流偏差目標値発生器92の電流偏差目標値からモード別姿勢推定手段97のモード別姿勢推定値“Δiψ・est”を減じる減算器93と、減算器93の出力値を積分しながら、抵抗値平均化手段90の出力に応じた、適切なフィードバックゲインを乗じる積分補償器94と、積分補償器94の出力値から、加算器95の出力値を減じて、“ψ”モードの電磁石励磁電圧“eψ”を生成する減算器96とを備えている。
【0110】
さらに、ヨーモード制御電圧演算回路86eは、各案内ユニット18a〜18dに設けられた各x方向近接センサ26の近接センサ信号ON/OFF内容、各y方向近接センサ28の近接センサ信号のON/OFF内容に基づき、各磁石ユニット30がガイドレール14に接触したときの姿勢を演算して、各磁石ユニット30のモード別位置偏差を生成し、記憶する姿勢演算手段99と、各案内ユニット18a〜18dに設けられた各x方向近接センサ26の近接センサ信号ON/OFF内容、各y方向近接センサ28の近接センサ信号のON/OFF内容に基づき、各磁石ユニット30がガイドレール14に接触しているかどうかを判断し、各磁石ユニット30のいずれかがガイドレール14に接触しているとき、モード別姿勢推定手段97の積分演算処理(推定処理)を初期化する推定初期化手段98と、推定初期化手段98によって、モード別姿勢推定手段97が初期化されるとき、姿勢演算手段99に記憶されているモード別位置偏差をモード別姿勢推定手段97に供給させ、積分動作の初期値として設定する初期値設定手段89とを備えている。
【0111】
そして、各案内ユニット18a〜18dに設けられた各x方向近接センサ26の近接センサ信号ON/OFF内容、各y方向近接センサ28の近接センサ信号のON/OFF内容、センサ部61の抵抗測定器64から出力される各コイル40の抵抗値、励磁電圧座標変換回路81から出力される励磁電圧“Δeψ”、電流偏差座標変換回路83の出力される電流偏差“Δiψ”に基づき、“ψ”モードの電磁石制御電圧“eψ”を演算して、制御電圧座標逆変換回路85に供給する。
【0112】
また、全吸引モード制御電圧演算回路88aは、図12に示すように、電流偏差座標変換回路83から出力されるモード別電流偏差“Δiζ”に対し、適切なフィードバックゲインを乗じるゲイン補償器73と、電流偏差目標値を発生する電流偏差目標値発生器75と、電流偏差目標値発生器75で得られた電流偏差目標値から電流偏差座標変換回路83で得られたモード別電流偏差“Δiζ”を減ずる減算器76と、減算器76の出力値を積分しながら、適切なフィードバックゲインを乗じる積分補償器77と、積分補償器77の出力値から、ゲイン補償器73の出力値を減じて、“ζ”モードの電磁石励磁電圧“eζ”を生成する減算器78とを備えている。そして、電流偏差座標変換回路83から出力されるモード別電流偏差“Δiζ”に基づき、“ζ”モードの電磁石励磁電圧“eζ”を生成して、制御電圧座標逆変換回路85に供給する。
【0113】
また、ねじれモード制御電圧演算回路88bは、全吸引モード制御電圧演算回路88aと同様に、図13に示すように、電流偏差座標変換回路83から出力されるモード別電流偏差“Δiδ”に対し、適切なフィードバックゲインを乗じるゲイン補償器73と、電流偏差目標値を発生する電流偏差目標値発生器75と、電流偏差目標値発生器75で得られた電流偏差目標値から電流偏差座標変換回路83で得られたモード別電流偏差“Δiδ”を減ずる減算器76と、減算器76の出力値を積分しながら、適切なフィードバックゲインを乗じる積分補償器77と、積分補償器77の出力値から、ゲイン補償器73の出力値を減じて、“δ”モードの電磁石励磁電圧“eδ”を生成する減算器78とを備えている。
【0114】
そして、電流偏差座標変換回路83から出力されるモード別電流偏差“Δiδ”に基づき、“δ”モードの電磁石励磁電圧“eδ”を生成して、制御電圧座標逆変換回路85に供給する。
【0115】
また、歪モード制御電圧演算回路88cは、全吸引モード制御電圧演算回路88a、ねじれモード制御電圧演算回路88bと同様に、図14に示すように、電流偏差座標変換回路83から出力されるモード別電流偏差“Δiγ”に対し、適切なフィードバックゲインを乗じるゲイン補償器73と、電流偏差目標値を発生する電流偏差目標値発生器75と、電流偏差目標値発生器75で得られた電流偏差目標値から電流偏差座標変換回路83で得られたモード別電流偏差“Δiγ”を減ずる減算器76と、減算器76の出力値を積分しながら、適切なフィードバックゲインを乗じる積分補償器77と、積分補償器77の出力値から、ゲイン補償器73の出力値を減じて、“γ”モードの電磁石励磁電圧“eγ”を生成する減算器78とを備えている。
【0116】
そして、電流偏差座標変換回路83から出力されるモード別電流偏差“Δiγ”に基づき、“γ”モードの電磁石励磁電圧“eγ”を生成して、制御電圧座標逆変換回路85に供給する。
【0117】
次に、図2の斜視図〜図14のブロック図を参照しながら、磁気浮上装置10の動作を説明する。
【0118】
まず、磁気浮上装置10が停止状態にあるとき、各案内ユニット18a〜18dの各磁石ユニット30に設けられた中央鉄心32の先端が、固定潤滑部材43を介して、ガイドレール14の対向面に吸着するとともに、各磁石ユニット30に設けられた各電磁石36の先端に設けられた鉄心42のいずれかが対応する固定潤滑部材43を介して、ガイドレール14の対向面に吸着されている。このとき、各潤滑部材43の働きにより、移動体16の昇降が妨げられることはない。
【0119】
この状態で、磁気浮上装置10を起動すると、各制御装置44によって構成される浮上制御演算部65が起動して、各パワーアンプ63から励磁電圧“ea”、“ea’”、“ed”、“ed’”が出力されて、各電磁石36が励磁され、各永久磁石34が発生する磁束と同じ向き、または逆向きの磁束が生成されるとともに、各磁石ユニット30と、各ガイドレール14との間に所定の空隙長を維持するべく、各コイル40に流す電流が制御される。
【0120】
これによって、図5に示すように、一方の永久磁石34→鉄心38→空隙G1→ガイドレール14→空隙G3→中央鉄心32→永久磁石34なる経路によって構成される磁気回路“Mc1”と、他方の永久磁石34→鉄心38→空隙G2→ガイドレール14→空隙G3→中央鉄心32→永久磁石34なる経路によって構成される磁気回路“Mc2”とが形成される。
【0121】
この際、移動体16の重心に作用するy軸方向の前後力、同x方向の左右力、移動体16の重心を通るx軸周りのトルク、同y軸回りのトルクおよび同z軸回りのトルクとが釣り合って、各磁石ユニット30が停止し、空隙“G1”、“G2”、“G3”で示されるギャップが形成されるように、磁気回路“Mc1”側の磁気的吸引力と、磁気回路“Mc2”側の磁気的吸引力とが調整される。
【0122】
この状態で、移動体16に外力が加えられて、各ガイドレール14と、各各磁石ユニット30との位置関係が変化したとき、各制御装置44によって、これが検出されて、各永久磁石34と磁路を共有する各電磁石36の励磁電流が制御され、釣り合いが維持される。
【0123】
これにより、巻き上げ機が動作し、各ガイドレール14に沿って、ゼロパワー制御で非接触案内されている移動体16が昇降し始め、各ガイドレール14の歪曲等により、各ガイドレール14と、各各磁石ユニット30との位置関係が変化しても、各電磁石36の励磁電流が制御されて、各磁石ユニット30の吸引力が速やかに制御され、移動体16の揺れが最少に抑制される。
【0124】
このように、第2の実施形態では、巻き上げ機によって、ロープ15が走行駆動され、移動体16が上方向、または下方向に移動されるとき、乗りかご20の上部、下部などに配置された各制御装置44によって構成される浮上制御演算部65の制御電圧演算回路84、制御電圧座標逆変換回路85によって、各案内ユニット18a〜18dに設けられた各x方向近接センサ26の近接センサ信号ON/OFF内容、各y方向近接センサ28の近接センサ信号のON/OFF内容、各センサ部61の検出結果などを取り込ませながら、モード別の演算を行って、モード別電磁石制御電圧“ey”、“ex”、“eθ”、“eξ”、“eψ”、“eζ”、“eδ”、“eγ”を演算するとともに、これらモード別電磁石制御電圧“ey”〜“eγ”から各磁石ユニット30に対する励磁電圧“ea”、“ea’”〜“ed”、“ed’”を演算して、各案内ユニット18a〜18dの各磁石ユニット30の吸引力をx軸、y軸毎に独立して制御し、各ガイドレール14から鉄心42、中央鉄心32を浮いた状態に保持するようにしている。このため、移動体16に対する外力が変動する場合にも、ギャップセンサ、センサーターゲットなどを使用することなく、移動体16を安定的に浮上できる。また、装置全体を小型化、簡略化でき大幅なコストダウンを達成することができるとともに、線形制御理論を用いて、モード別に励磁電圧、励磁電流を制御でき、浮上状態の安定性、信頼性を大幅に向上させることができる。
【0125】
また、第2の実施形態では、制御電圧演算回路84を構成する前後動モード制御電圧演算回路86a〜ヨーモード制御電圧演算回路86e毎に、図1に示す吸引力制御手段115と同様な機能を持たせ、各案内ユニット18a〜18dに対するガイドレール14に対する姿勢、当該姿勢の時間変化を推定するようにしている。このため、移動体16に対する外力が変動する場合にも、ギャップセンサ、センサーターゲットなどを使用することなく、移動体16を安定的に浮上させて、装置全体を小型化、簡略化させて大幅なコストダウンを達成することができるとともに、ガイドレール14に対する移動体16の姿勢、姿勢の時間的変化に応じて、励磁電圧、励磁電流を制御させ、浮上状態の安定性、信頼性を大幅に向上させることができる。
【0126】
また、第2の実施形態では、制御電圧演算回路84を構成する前後動モード制御電圧演算回路86a〜ヨーモード制御電圧演算回路86e毎に、励磁電圧補正手段142を設け、各モード別姿勢推定手段97で得られたモード別姿勢推定値を各励磁電圧補正手段142に帰還して、各モード別姿勢推定手段97に入力されるモード別励磁電圧“Δey”〜“Δeξ”のオフセット電圧成分を各々、補正するようにしている。このため、各パワーアンプ63のオフセット電圧が変動し、モード別偏位およびモード別偏移速度において、(23)式、(24)式で示す推定誤差が生じたとき、前後動モード制御電圧演算回路96a〜ヨーモード制御電圧演算回路86eに設けられた各励磁電圧補正手段142によって、これらの誤差をゼロにでき、発熱によって各パワーアンプ63のオフセット電圧が変動しても、良好な乗り心地を維持することができる。
【0127】
また、第2の実施形態では、各制御装置44内に、各案内ユニット18a〜18d毎のセンサ部61を設け、これら各センサ部61内に配置された抵抗値測定器64、によって、パワーアンプ63から出力される励磁電圧“ea”、“ea’”〜“ed”、“ed’”、励磁電流“ia”、“ia’”〜“id”、“id’”を検出して、各パワーアンプ63から各磁石ユニット30までの配線抵抗値、各磁石ユニットのコイル抵抗値を測定するようにしている。このため、各磁石ユニット30の抵抗値を測定する測定回路を簡素化しつつも、測定精度を向上させることができる。また、移動体16に対する外力が変動する場合にも、また連続運転などで、各磁石ユニット30などの温度が上昇して、抵抗値が変化した場合にも、ギャップセンサ、センサーターゲットなどを使用することなく、移動体16を安定的に浮上させることができる。
【0128】
これらのことから、第2の実施形態では、各センサ部61を構成している各抵抗測定器64によって、各コイル40の抵抗値を検出して、前後動モード制御電圧演算回路96a〜歪モード制御電圧演算回路88cに設けられた各モード別姿勢推定手段97のパラメータ、各ゲイン補償器73、91のゲインなどを調整するようにしている。このため、各コイル40の抵抗値が変動したときにも、良好な乗り心地を維持することができる。
【0129】
これにより、エレベータシステムなどのように、人員や積荷の偏った移動、もしくは地震等に起因するロープ15の揺れ等が原因で移動体16に過大な外力が加えられて、各磁石ユニット30に設けられた各電磁石36の温度が上昇し、各コイル40の電気抵抗値およびパワーアンプ63のオフセット電圧が変動したとき、特に、電力消費を極端に抑制できるゼロパワー制御を使用しているときなどのように、過大な外力で大きな励磁電流が流れ、各コイル40やパワーアンプ63が急激に発熱し、ギャップ長一定制御などの他の制御方式よりも、抵抗値の変動が大きいときにも、各運動モードでギャップ長推定値とその速度推定値が誤差が増大しないようにさせて、快適な乗り心地を維持することができる。
【0130】
また、第2の実施形態では、残留磁束密度と保持力の大きな永久磁石34を採用している。このため、空隙長を大きくしても、非接触案内制御の制御性能が悪化しないようにすることができるとともに、乗客等の移動などにより、移動体16中で重量移動が発生して、乗りかご20に揺動が生じても、ストロークの大きな低剛性の案内制御を行わせることができ、快適な乗り心地を提供することができる。
【0131】
さらに、ガイドレール14を介して、磁極が対向するように各磁石ユニット30が配置され、対向する磁極がガイドレール14に作用する吸引力の一部または全部が相殺されているので、ガイドレール14に大きな吸引力が作用しないようにすることができる。
【0132】
これにより、各磁石ユニット30の大きな吸引力が一方向から作用しないようにさせて、各磁石ユニット30に大きな吸引力が発生したときにも、各ガイドレール14の据付位置が狂わないようにすることができ、ガイドレール14の継目で段差が発生しないようにすることができる。さらに、ガイドレール14の直線性を悪化させることなく、ガイドレール14の敷設強度を下げてエレベータシステムのコストを低下させることができる。
【0133】
また、磁気浮上装置10が運転を終え、磁気浮上装置10を停止する場合には、“y”モードの電流偏差目標値発生器92と、“x”モードの電流偏差目標値発生器92の目標値をゼロから徐々に負の値にすることにより、移動体16を“y”軸方向、“x”軸方向に徐々に移動させ、各磁石ユニット30の中央鉄心32の先端に設けられた固体潤滑部材43をガイドレール14の対向面に当接させるとともに、各磁石ユニット30の電磁石36の先端に設けられた各固体潤滑部材43のいずれかをガイドレール14の対向面に当接させ、乗りかご20を安定させた後、磁気浮上装置10を停止し、電流偏差目標値をゼロにリセットすることができる。
【0134】
《第3の実施形態》
図15は本発明による磁気浮上装置の第3の実施形態を示す概略構成図である。なお、この図において、図1の各部と対応する部分には、同じ符号が付してある。
【0135】
この図に示す磁気浮上装置300は、断面がコ字形状の非磁性体、例えばアルミ部材で形成され、地上に設置される補助支持手段302と、補助支持手段302の上部下面に下向きに取付けられる磁石ユニット107と、板状の強磁性部材、例えば鉄などで形成され、磁石ユニット107に対向するように配置されるガイド304と、底部上面にガイド304が固定され、全体としてコ字形状に形成される防振台テーブル306と、地上に垂設され、防振テーブル306の側面と接する側面によって、防振テーブル306を昇降自在に支持するリニアガイド308とを備えている。また、磁石ユニット107の吸引力を制御して、防振テーブル306を非接触支持する吸引力制御手段115と、電源(図示は省略する)に接続され、吸引力制御手段115の出力に基づいて、磁石ユニット107に励磁電圧、励磁電流を供給して、磁石ユニット107を励磁するパワーアンプ313と、パワーアンプ313から出力される励磁電流の電流値を検出する電流センサ123と、パワーアンプ313から出力される励磁電圧などに基づき、吸引力制御手段115から出力される励磁電圧を補正して、吸引力制御手段115に戻す励磁電圧補正手段142とを備えている。
【0136】
この場合、吸引力制御手段115は、接触検出手段130と、姿勢演算手段135と、初期値設定手段139と、推定初期化手段137と、抵抗測定手段140と、姿勢推定手段133と、励磁電圧演算手段125とを備えている。
【0137】
抵抗測定手段140は、磁石ユニット107の励磁電流および励磁電圧からリード線128および各コイル119の直列抵抗値を測定する。接触検出手段130は、補助支持手段302の底部上面に取付けられたマイクロスイッチ310、磁石ユニット107の磁極面に張られた圧電ゴム312の出力に基づき、防振テーブル306が磁石ユニット107、補助支持手段302に接触したとき、これを検出する。姿勢演算手段135は、接触検出手段130の接触検出信号に基づき、防振テーブル306が防振テーブル306の補助支持手段302、または磁石ユニット107に接触したときの位置情報を求め、浮上ギャップ長を計算する。初期値設定手段139は、姿勢演算手段135の出力に基づいて、推定初期値を演算して記憶する。推定初期化手段137は、接触検出手段130によって接触が検知されたとき、初期値設定手段139から姿勢推定手段133に推定初期値を供給して初期化する。抵抗測定手段140は、電流センサ123の検出結果などに基づき、磁石ユニット107の励磁電流および励磁電圧から、磁石ユニット107の抵抗値を測定する。姿勢推定手段133は、推定初期化手段137によって初期化された後、接触検出手段130の検出結果、電流センサ123の検出結果、抵抗値測定手段140の測定結果などに基づき、防振テーブル306の浮上姿勢を推定する。励磁電圧演算手段125は、姿勢推定手段133の出力に基づいて、防振テーブル306を磁気浮上させるのに必要な磁石ユニット107への励磁電圧を演算する。
【0138】
このように、第3の実施形態では、地上側に補助支持手段302を設置し、この補助支持手段302に磁石ユニット119を取り付け、強磁性体によって構成されるガイド304が設けられた防振台テーブル306を非接触支持するようにした。このため、磁石ユニット119の重量分だけ、防振テーブル306の重量を軽減させて防振テーブル306の昇降速度を高速化させながら、防振テーブル306に対する外力が変動する場合にも、ギャップセンサ、センサーターゲットなどを使用することなく、防振テーブル306を安定的に浮上でき、装置全体を小型化、簡略化させて大幅なコストダウンを達成することができる。
【0139】
《他の実施形態》
また、上述した第1〜第3の実施形態では、吸引力制御手段115、制御装置44などをアナログ制御的に説明しているがこのようなアナログ制御以外の制御、例えばデジタルの制御方式、アナログとデジタルとを併用した制御方式などを使用するようにしても良い。
【0140】
また、上述した第1〜第3の実施形態では、各パワーアンプ63、313などとして、電圧形のパワーアンプを使用するようにしているが、このような電圧形のパワーアンプ以外のもの、例えばPWM形のものを使用するようにしても良い。
【0141】
また、上述した第1〜第3の実施形態では、各磁石ユニット107、119などとして、永久磁石107と、電磁石105とを組み合わせたものなどを使用するようにしているが、永久磁石107などを持たない、通常の電磁石105のみで、磁石ユニット107、119を構成するようにしても良い。
【図面の簡単な説明】
【0142】
【図1】本発明による磁気浮上装置の第1の実施形態を示す概略構成図。
【図2】本発明による磁気浮上装置の第2の実施形態を示す斜視図。
【図3】図2に示す磁気浮上装置の詳細な構成例を示す斜視図。
【図4】図2に示す各案内ユニットの詳細な構成例を示す斜視図。
【図5】図4に示す磁気ユニットの詳細な構成例を示す横断面図。
【図6】図2に示す各制御装置の詳細な回路構成例を示すブロック図。
【図7】図6に示す前後動モード制御電圧演算回路の詳細な構成例を示すブロック図。
【図8】図6に示す左右動モード制御電圧演算回路の詳細な構成例を示すブロック図。
【図9】図6に示すロールモード制御電圧演算回路の詳細な構成例を示すブロック図。
【図10】図6に示すピッチモード制御電圧演算回路の詳細な構成例を示すブロック図。
【図11】図6に示すヨーモード制御電圧演算回路の詳細な構成例を示すブロック図。
【図12】図6に示す全吸引モード制御電圧演算回路の詳細な構成例を示すブロック図。
【図13】図6に示すねじれモード制御電圧演算回路の詳細な構成例を示すブロック図。
【図14】図6に示す歪モード制御電圧演算回路の詳細な構成例を示すブロック図。
【図15】本発明による磁気浮上装置の第3の実施形態を示す概略構成図。
【図16】本発明による磁気浮上装置の動作原理を説明するために使用した防振台の一例を示す概略構成図。
【符号の説明】
【0143】
10:磁気浮上装置、12:エレベータシャフト、14:ガイドレール(固定部材)、16:移動体(浮上体)、18a〜18d:案内ユニット、20:乗りかご、22:フレーム部、24:台座、26:x方向近接センサ、28:y方向近接センサ、30:磁石ユニット(電磁石ユニット)、44:制御装置、32:中央鉄心、34:永久磁石、36:電磁石、38:鉄心、40:コイル、42:鉄心、43:固体潤滑部材、45:電流値設定器、46:電源、48:定電圧発生装置、61:センサ部、62:演算ユニット、63:パワーアンプ(ドライバ)、64:抵抗測定器、66:電流検出器、72:電圧検出器、73:ゲイン補償器、74:減算器、75:電流偏差目標値発生器、76:減算器、77:積分補償器、78:減算器、81:励磁電圧座標変換回路、83:電流偏差座標変換回路、84:制御電圧演算回路、85:制御電圧座標逆変換回路、86a:前後動モード制御電圧演算回路(吸引力制御手段、励磁電圧演算部、モード励磁電流演算部)、96b:左右動モード制御電圧演算回路(吸引力制御手段、励磁電圧演算部、モード励磁電流演算部)、96c:ロールモード制御電圧演算回路(吸引力制御手段、励磁電圧演算部、モード励磁電圧演算部)、86d:ピッチモード制御電圧演算回路(吸引力制御手段、励磁電圧演算部、モード励磁電圧演算部)、86e:ヨーモード制御電圧演算回路(吸引力制御手段、励磁電圧演算部、モード励磁電圧演算部)、88a:全吸引モード制御電圧演算回路(吸引力制御手段、励磁電圧演算部、モード励磁電流演算部)、88b:ねじれモード制御電圧演算回路(吸引力制御手段、励磁電圧演算部、モード励磁電流演算部)、88c:歪モード制御電圧演算回路(吸引力制御手段、励磁電圧演算部、モード励磁電流演算部)、89:初期値設定手段、90:抵抗値平均化手段、91:ゲイン補償器、92:電流偏差目標値発生器、93:減算器、94:積分補償器、95:加算器、96:減算器、97:モード別姿勢推定手段、98:推定初期化手段、99:姿勢演算手段、100:磁気浮上装置、103:永久磁石、105:電磁石、107:磁石ユニット、109:負荷荷重、111:浮上体、113:ガイド(固定部材)、115:吸引力制御手段、116:ドライバ、117:継鉄、119:コイル、123:電流センサ、125:励磁電圧演算手段、128:リード線、130:接触検出手段、131:補助支持手段、133:姿勢推定手段、135:姿勢演算手段、137:推定初期化手段、139:初期値設定手段、140:抵抗測定手段、142:励磁電圧補正手段、144:ゲイン補償器、146:積分器、148:加算器、300:磁気浮上装置、302:補助支持手段、304:ガイド(強磁性部材)、306:防振台テーブル、308:リニアガイド、310:マイクロスイッチ、312:圧電ゴム、313:パワーアンプ(ドライバ)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定部材と、
この固定部材に対して磁力を介して非接触状態に保持される浮上体と、
浮上体側または固定部材側に配置され、供給される励磁電流の大きさに応じた磁力を発生する電磁石ユニットと、
前記浮上体側または固定部材側に配置され、前記電磁石ユニットに供給される励磁電流の大きさを検出する電流センサと、
前記浮上体側または固定部材側に配置され、前記電流センサの検出結果および補正済み励磁電圧値に基づき、前記固定部材に対する前記浮上体の姿勢および姿勢変化速度を推定して、前記浮上体と固定部材と空隙とによって構成される磁気回路を安定化するのに必要な励磁電圧値を演算する吸引力制御手段と、
前記浮上体側または固定部材側に配置され、前記吸引力制御手段の推定結果に所定のゲインを乗じて積分し、積分結果を前記励磁電圧値に加算して得られた加算結果を補正済み励磁電圧値として前記吸引力制御手段に供給する励磁電圧補正手段と、
前記浮上体側または固定部材側に配置され、前記吸引力制御手段で得られた励磁電圧値に応じて、前記電磁石ユニットに励磁電流を供給するドライバと、
を備えたことを特徴とする磁気浮上装置。
【請求項2】
請求項1に記載の磁気浮上装置において、
前記電磁石ユニットは、前記ドライバから出力される励磁電流によって磁束を発生する電磁石と、この電磁石の磁束と磁路を共有するように配置される永久磁石と、
を備えたことを特徴とする磁気浮上装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の磁気浮上装置において、
前記吸引力制御手段は、前記電流センサの出力に基づいて、前記電磁石ユニットの励磁電流をゼロ方向に向けて収束させて前記磁気回路を安定化させるゼロパワー制御機能、
を備えたことを特徴とする磁気浮上装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の磁気浮上装置において、
前記浮上体側または固定部材側に配置され、前記ドライバから出力される励磁電流を前記電磁石ユニットに導く配線の抵抗値および電磁石ユニットのコイル抵抗値を測定する抵抗測定手段を備え、測定された抵抗値によって前記吸引力制御手段の演算内容を補正する、
ことを特徴とする磁気浮上装置。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の磁気浮上装置において、
前記抵抗測定手段は、前記ドライバから前記電磁石ユニットに供給される励磁電流および励磁電圧に基づいて前記電磁石ユニットまでの配線抵抗値、前記電磁石ユニットのコイル抵抗値を測定する、
ことを特徴とする磁気浮上装置。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の磁気浮上装置において、
前記吸引力制御手段は、前記電流センサの検出結果および補正済み励磁電圧値に基づき、前記固定部材に対する前記浮上体の姿勢および姿勢変化速度を推定する姿勢推定手段と、姿勢推定手段の出力に基づいて前記電磁石ユニットに対する励磁電圧値を演算する励磁電圧演算部と、
を備えたことを特徴とする磁気浮上装置。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか1項に記載の磁気浮上装置において、
前記浮上体が浮上状態にないとき、前記浮上体と前記固定部材との位置関係を所定の状態に維持する補助支持手段を設けるとともに、
前記吸引力制御手段内に、
前記浮上体と前記固定部材との接触を検出する接触検出手段と、
この接触検出手段によって、前記浮上体と前記固定部材との接触が検出されたとき、前記固定部材に対する前記浮上体の姿勢を演算する姿勢演算手段と、
前記接触検出手段によって、前記浮上体と前記固定部材との接触が検出されたとき、前記姿勢演算手段の出力値を取り込み、前記姿勢推定手段の初期値として設定する初期値設定手段と、
前記接触検出手段によって、前記浮上体と前記固定部材との接触が検出されたとき、前記姿勢推定手段に前記初期値設定手段に設定されている初期値を取り込ませて初期化する推定初期化手段と、
を設けたことを特徴とする磁気浮上装置。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか1項に記載の磁気浮上装置において、
前記電流センサの検出結果に基づき、励磁電流の線形結合で表されるモード別励磁電流を演算し、前記浮上体の運動の自由度に寄与する吸引力を発生するモード励磁電流演算部、
を備えたことを特徴とする磁気浮上装置。
【請求項9】
請求項8に記載の磁気浮上装置において、
前記モード励磁電流演算部の出力に基づき、励磁電圧の線形結合で表されるモード別励磁電圧を演算し、前記浮上体の運動の自由度に寄与する吸引力を発生するモード励磁電圧演算部、
を備えたことを特徴とする磁気浮上装置。
【請求項10】
請求項1乃至9のいずれか1項に記載の磁気浮上装置において、
前記モード励磁電圧演算部、またはモード励磁電流演算部は、補正済み励磁電圧値、または前記電流センサの検出結果に基づき、前記固定部材に対する前記浮上体の姿勢および姿勢変化速度を推定する、
ことを特徴とする磁気浮上装置。
【請求項11】
請求項1乃至10のいずれか1項に記載の磁気浮上装置において、
前記励磁電圧補正手段は、前記モード励磁電圧演算部で得られたモード別姿勢推定値、または前記姿勢推定手段の姿勢変化速度推定値に基づいて、前記モード励磁電圧演算部の入力を補正する、
ことを特徴とする磁気浮上装置。
【請求項12】
請求項1乃至11のいずれか1項に記載の磁気浮上装置において、
前記抵抗測定手段は、前記モード励磁電流演算部の出力および前記モード励磁電圧演算部の出力に基づいて前記電磁石ユニットまでの配線抵抗値および電磁石ユニットのコイル抵抗値を測定する、
ことを特徴とする磁気浮上装置。
【請求項13】
請求項1乃至12のいずれか1項に記載の磁気浮上装置において、
前記浮上体は、前記電磁石の磁束と磁路を共有するように配置される強磁性部材、
を備えたことを特徴とする磁気浮上装置。
【請求項14】
請求項8乃至12のいずれか1項に記載の磁気浮上装置において、
前記吸引力制御手段は、前記モード別励磁電流値に基づいて、当該モード別励磁電流値をゼロに向けて収束させて前記励磁回路を安定化させるゼロパワー制御機能、
を備えてことを特徴とする磁気浮上装置。
【請求項15】
請求項1乃至14のいずれか1項に記載の磁気浮上装置において、
前記固定部材はガイドレールであり、
前記浮上体は、前記ガイドレールに対して磁力を介して非接触状態に保持されるエレベータ乗りかごである、
ことを特徴とする磁気浮上装置。
【請求項1】
固定部材と、
この固定部材に対して磁力を介して非接触状態に保持される浮上体と、
浮上体側または固定部材側に配置され、供給される励磁電流の大きさに応じた磁力を発生する電磁石ユニットと、
前記浮上体側または固定部材側に配置され、前記電磁石ユニットに供給される励磁電流の大きさを検出する電流センサと、
前記浮上体側または固定部材側に配置され、前記電流センサの検出結果および補正済み励磁電圧値に基づき、前記固定部材に対する前記浮上体の姿勢および姿勢変化速度を推定して、前記浮上体と固定部材と空隙とによって構成される磁気回路を安定化するのに必要な励磁電圧値を演算する吸引力制御手段と、
前記浮上体側または固定部材側に配置され、前記吸引力制御手段の推定結果に所定のゲインを乗じて積分し、積分結果を前記励磁電圧値に加算して得られた加算結果を補正済み励磁電圧値として前記吸引力制御手段に供給する励磁電圧補正手段と、
前記浮上体側または固定部材側に配置され、前記吸引力制御手段で得られた励磁電圧値に応じて、前記電磁石ユニットに励磁電流を供給するドライバと、
を備えたことを特徴とする磁気浮上装置。
【請求項2】
請求項1に記載の磁気浮上装置において、
前記電磁石ユニットは、前記ドライバから出力される励磁電流によって磁束を発生する電磁石と、この電磁石の磁束と磁路を共有するように配置される永久磁石と、
を備えたことを特徴とする磁気浮上装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の磁気浮上装置において、
前記吸引力制御手段は、前記電流センサの出力に基づいて、前記電磁石ユニットの励磁電流をゼロ方向に向けて収束させて前記磁気回路を安定化させるゼロパワー制御機能、
を備えたことを特徴とする磁気浮上装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の磁気浮上装置において、
前記浮上体側または固定部材側に配置され、前記ドライバから出力される励磁電流を前記電磁石ユニットに導く配線の抵抗値および電磁石ユニットのコイル抵抗値を測定する抵抗測定手段を備え、測定された抵抗値によって前記吸引力制御手段の演算内容を補正する、
ことを特徴とする磁気浮上装置。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の磁気浮上装置において、
前記抵抗測定手段は、前記ドライバから前記電磁石ユニットに供給される励磁電流および励磁電圧に基づいて前記電磁石ユニットまでの配線抵抗値、前記電磁石ユニットのコイル抵抗値を測定する、
ことを特徴とする磁気浮上装置。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の磁気浮上装置において、
前記吸引力制御手段は、前記電流センサの検出結果および補正済み励磁電圧値に基づき、前記固定部材に対する前記浮上体の姿勢および姿勢変化速度を推定する姿勢推定手段と、姿勢推定手段の出力に基づいて前記電磁石ユニットに対する励磁電圧値を演算する励磁電圧演算部と、
を備えたことを特徴とする磁気浮上装置。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか1項に記載の磁気浮上装置において、
前記浮上体が浮上状態にないとき、前記浮上体と前記固定部材との位置関係を所定の状態に維持する補助支持手段を設けるとともに、
前記吸引力制御手段内に、
前記浮上体と前記固定部材との接触を検出する接触検出手段と、
この接触検出手段によって、前記浮上体と前記固定部材との接触が検出されたとき、前記固定部材に対する前記浮上体の姿勢を演算する姿勢演算手段と、
前記接触検出手段によって、前記浮上体と前記固定部材との接触が検出されたとき、前記姿勢演算手段の出力値を取り込み、前記姿勢推定手段の初期値として設定する初期値設定手段と、
前記接触検出手段によって、前記浮上体と前記固定部材との接触が検出されたとき、前記姿勢推定手段に前記初期値設定手段に設定されている初期値を取り込ませて初期化する推定初期化手段と、
を設けたことを特徴とする磁気浮上装置。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか1項に記載の磁気浮上装置において、
前記電流センサの検出結果に基づき、励磁電流の線形結合で表されるモード別励磁電流を演算し、前記浮上体の運動の自由度に寄与する吸引力を発生するモード励磁電流演算部、
を備えたことを特徴とする磁気浮上装置。
【請求項9】
請求項8に記載の磁気浮上装置において、
前記モード励磁電流演算部の出力に基づき、励磁電圧の線形結合で表されるモード別励磁電圧を演算し、前記浮上体の運動の自由度に寄与する吸引力を発生するモード励磁電圧演算部、
を備えたことを特徴とする磁気浮上装置。
【請求項10】
請求項1乃至9のいずれか1項に記載の磁気浮上装置において、
前記モード励磁電圧演算部、またはモード励磁電流演算部は、補正済み励磁電圧値、または前記電流センサの検出結果に基づき、前記固定部材に対する前記浮上体の姿勢および姿勢変化速度を推定する、
ことを特徴とする磁気浮上装置。
【請求項11】
請求項1乃至10のいずれか1項に記載の磁気浮上装置において、
前記励磁電圧補正手段は、前記モード励磁電圧演算部で得られたモード別姿勢推定値、または前記姿勢推定手段の姿勢変化速度推定値に基づいて、前記モード励磁電圧演算部の入力を補正する、
ことを特徴とする磁気浮上装置。
【請求項12】
請求項1乃至11のいずれか1項に記載の磁気浮上装置において、
前記抵抗測定手段は、前記モード励磁電流演算部の出力および前記モード励磁電圧演算部の出力に基づいて前記電磁石ユニットまでの配線抵抗値および電磁石ユニットのコイル抵抗値を測定する、
ことを特徴とする磁気浮上装置。
【請求項13】
請求項1乃至12のいずれか1項に記載の磁気浮上装置において、
前記浮上体は、前記電磁石の磁束と磁路を共有するように配置される強磁性部材、
を備えたことを特徴とする磁気浮上装置。
【請求項14】
請求項8乃至12のいずれか1項に記載の磁気浮上装置において、
前記吸引力制御手段は、前記モード別励磁電流値に基づいて、当該モード別励磁電流値をゼロに向けて収束させて前記励磁回路を安定化させるゼロパワー制御機能、
を備えてことを特徴とする磁気浮上装置。
【請求項15】
請求項1乃至14のいずれか1項に記載の磁気浮上装置において、
前記固定部材はガイドレールであり、
前記浮上体は、前記ガイドレールに対して磁力を介して非接触状態に保持されるエレベータ乗りかごである、
ことを特徴とする磁気浮上装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2006−325303(P2006−325303A)
【公開日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−144646(P2005−144646)
【出願日】平成17年5月17日(2005.5.17)
【出願人】(390025265)東芝エレベータ株式会社 (2,543)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年5月17日(2005.5.17)
【出願人】(390025265)東芝エレベータ株式会社 (2,543)
【Fターム(参考)】
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