説明

磁気特性測定装置および磁気特性測定方法

【課題】強磁性体の磁気特性測定において、試料の異方性磁場Haniを容易に求める技術を提供する。
【解決手段】磁気特性測定装置1は、磁性体の試料Fに高繰り返し周波数νLのパルスレーザを照射するレーザ光源2と、試料Fに磁場Hextを印加する外部磁場印加手段4と、ビームスプリッタ7と、反射板8が設けられた移動ステージ11とを備え、パルスレーザ光として連続して照射される複数パルスをビームスプリッタ7で分離したときのビーム1とビーム2とを試料Fに重ねて照射するときの遅延時間tintを移動ステージ11により制御し、試料Fの磁化の歳差運動を、レーザの繰り返し周波数νLに同期させ、試料Fへ光を照射したときに誘起される磁化の歳差運動をパルスレーザに共鳴させて、外部磁場Hextに応じた試料FのMO信号Θを偏光検出器5で検出し、制御装置6により試料Fの異方性磁場Haniを算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁性体の磁気特性を測定する技術に関し、特に、強磁性体の異方性磁場等の磁気特性を測定する磁気特性測定装置および磁気特性測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
MRAM(Magnetoresistive Random Access Memory)やスピンMOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)に代表されるスピントロニクスデバイスは、スピン注入磁化反転という新技術に基づいて作製されている。スピン注入磁化反転は、デバイス中の磁化の向きを、スピンが揃った電子の流れ(電流)で制御するものである。このスピン注入磁化反転の技術分野においては、近年、理論と実験の両面から非常に多くの研究が行われており、磁化を制御するために必要な臨界電流Icを低減することが強く求められている。これが実現すれば、スピントロニクスデバイスにおいて、飛躍的な性能向上が期待され、応用の幅も広がる。
【0003】
従来の理論研究から、臨界電流Icの値を小さくするためには、異方性磁場Haniの値が小さい磁性体や、ダンピングファクタと呼ばれるパラメータαの値が小さい磁性体を選べばよいという指針が得られる。ここで、異方性磁場Haniは、磁性イオンの交換相互作用などに起因する有効的な内部磁場であり、パラメータαは、磁化の歳差運動の緩和過程を表す現象論的なパラメータである。しかしながら、異方性磁場Haniやパラメータαが物質によってどのように変化するのかについては、明らかにされてはいない。以上の理由により、様々な物質の異方性磁場Haniとパラメータαとに関する研究が進められている。
【0004】
近年、例えば、非特許文献1に示すように、超高速時間分解磁気光学分光法を用いて、異方性磁場Haniやパラメータαを決定する研究成果等が報告されている。これらの研究は、以下の原理に基づくものである。強磁性体に光を照射すると、温度上昇やキャリア濃度の変化により、磁気異方性が変化し、磁化(磁化ベクトル)が歳差運動を始めるという現象が生じる。そこで、これらの研究では、フェムト秒の時間分解磁気光学測定法を駆使して、磁化の歳差運動を観測し、理論モデルを用いた計算により観測データを解析して、異方性磁場Haniとパラメータαとを決定する。
【0005】
また、常磁性体の化合物半導体に円偏光を照射すると、スピン偏極したキャリア(キャリアスピン)が生成することが知られている。そして、フォイクト配置(Voigt配置、フォークト配置ともいう)で磁場を印加すると、キャリアスピンは、印加磁場の大きさを反映した周期で歳差運動を始める。この振る舞いは、およそ80[MHz]のパルス繰り返し周期のモードロックパルスレーザから出力されるパルス光を使用した超高速時間分解分光法により観測することができる。なお、フォイクト配置は、光の進行方向と直交する方向に磁界が印加されるような配置である。
【0006】
そして、常磁性体のキャリアスピンの緩和時間よりもパルス光(レーザ光)の繰り返し周期の方が短い場合、複数のパルス光励起により注入されたスピンの歳差運動が互いに干渉する。その結果、パルス光の繰り返し周期が、キャリアスピンの歳差運動の周期の整数倍になるときに、キャリアスピンの歳差運動の振幅が、共鳴的に増幅する現象が生じる(非特許文献3参照)。この現象は、Resonant Spin accumulation(RSA)と名付けられている。
【0007】
一方、強磁性体においてスピンの挙動は、常磁性体におけるスピンの挙動とは異なる。すなわち、強磁性体の場合には、互いに相互作用し合って一方向に配向した集団的な多数のスピンの挙動を考えなければならない。ただし、この場合にも、強磁性体に複数のパルス光を照射することで、常磁性体と同様に、スピンの歳差運動の干渉が起こることは、実験的に示され、理論的にもよく説明されている(非特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Y. Hashimoto et al.,” Photoinduced Precession of Magnetization in Ferromagnetic (Ga,Mn)As ”, Phys. Rev. Lett., 100, 067202(2008)
【非特許文献2】Y. Hashimoto et al.,” Coherent manipulation of magnetization precession in ferromagnetic semiconductor (Ga,Mn)As with successive optical pumping”, Appl. Phys. Lett., 93, 202506(2008)
【非特許文献3】J. M. Kikkawa and D. D.Awschalom, ”Resonant Spin Amplification in n-Type GaAs”, Phys. Rev. Lett. Vol.80, No.19, 4313(1998)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、強磁性体の異方性磁場Haniとパラメータαを決定するために従来から用いられている強磁性共鳴法や超高速時間分解磁気光学分光法には、以下の問題がある。
例えば、超高速時間分解磁気光学分光法は、1本のパルス光照射により誘起される磁気光学効果の変化を観測する。そのために、測定精度が充分とは言えず、また、強磁性体の試料の種類によっては評価することができない。さらに加えて、実験には大きく高価な測定装置と、熟練した実験技術とが必要不可欠である。なお、強磁性共鳴法も、実験には大きく高価な測定装置と、熟練した実験技術とが必要不可欠である。
【0010】
そこで、本発明は、以上のような問題点に鑑みてなされたものであり、強磁性体の試料の異方性磁場等の磁気特性を精度よく、安価で簡便に測定することができる技術を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記目的を達成するために、請求項1に記載の磁気特性測定装置は、所定の繰り返し周波数のレーザ光を強磁性体の試料に照射することで、当該試料の有効内部磁場または、異方性磁場を含む磁気特性を測定する磁気特性測定装置であって、レーザ光源と、外部磁場印加手段と、ビームスプリッタと、第1の反射板が配設された移動可能な移動ステージと、第2の反射板と、偏光成分検出手段と、制御装置とを備えることとした。
【0012】
かかる構成によれば、磁気特性測定装置において、レーザ光源によって、前記強磁性体の試料の磁化の歳差運動の周期に同期可能な繰り返し周期の連続した複数パルスのレーザ光を前記試料に照射し、外部磁場印加手段によって、前記試料に所定の磁場を印加する。そして、磁気特性測定装置において、ビームスプリッタによって、前記複数パルスのレーザ光を第1のビームおよび第2のビームに分離し、第1のビームを前記試料に導くと共に、第1の反射板によって、前記ビームスプリッタで分離した第2のビームを反射し、さらに第2の反射板によって、前記第2のビームを前記試料に導くように反射する。ここで、移動ステージを移動させて、分離した各ビームの光路長差を変化させることで、試料に到達する時間差を設定することができる。この時間差は、パルス周期以下であればよいので、従来の移動ステージと比較して格段に小型することができる。そして、この場合、レーザ光源が出射した1つのパルス光は、第1のビームに続いて、第1および第2の反射板を経由したことで遅延した第2のビームが遅延して試料の同じ部位に到達する。また、レーザ光源が出射した連続した複数のパルス光は同様にそれぞれ分離して連続して試料を励起するポンプ光かつプローブ光として作用する。
【0013】
そして、磁気特性測定装置において、偏光成分検出手段によって、前記分離した各ビームが前記試料で反射した反射光、または、前記分離した各ビームが前記試料を透過した透過光を受光してその偏光成分を検出した磁気光学信号を出力する。ここで、偏光成分検出手段は、例えば、磁気光学信号を直接検出する偏光検出器で構成することができる。このように構成した場合、試料で反射した反射光が偏光検出器に入射する場合には、カー効果の原理により磁気特性としての偏光成分を検出し、試料を透過した透過光が偏光検出器に入射する場合には、ファラデー効果の原理により磁気特性としての偏光成分を検出する。
【0014】
そして、磁気特性測定装置において、制御装置によって、前記試料の磁化の歳差運動が前記パルスの繰り返し周期に同期したことを示す第1共鳴条件において前記試料に印加されていた外部磁場の情報を予め取得し、当該外部磁場を前記試料に印加し、かつ、前記分離した各パルスビームを前記試料に照射したときに、前記試料の磁化の歳差運動が前記連続した複数パルスに共鳴するときの前記移動ステージの位置を第2共鳴条件として取得し、前記外部磁場の大きさと、前記第2共鳴条件において検出した前記磁気光学信号および前記移動ステージの位置と、前記繰り返し周期との各情報を用いて、LLG(Landau-Lifshitz-Gilbert)方程式に基づいて、前記試料の有効内部磁場または異方性磁場を算出する。
【0015】
また、前記目的を達成するために、請求項2に記載の磁気特性測定装置は、所定の繰り返し周波数のレーザ光を強磁性体の試料に照射することで、当該試料の有効内部磁場または、異方性磁場を含む磁気特性を測定する磁気特性測定装置であって、レーザ光源と、外部磁場印加手段と、ビームスプリッタと、反射板が配設された移動可能な移動ステージと、ハーフミラーと、偏光成分検出手段と、制御装置とを備えることとした。
【0016】
かかる構成によれば、磁気特性測定装置において、レーザ光源によって、前記強磁性体の試料の磁化の歳差運動の周期に同期可能な繰り返し周期の連続した複数パルスのレーザ光を前記試料に照射し、外部磁場印加手段によって、前記試料に所定の磁場を印加する。そして、磁気特性測定装置において、ビームスプリッタによって、前記複数パルスのレーザ光を分離し、反射板によって、前記ビームスプリッタで分離した一方のビームを反射し、ハーフミラーによって、前記一方のビームを透過して前記試料に導くと共に、前記反射板で反射した他方のビームを前記一方のビームと同じ光路へ反射する。ここで、移動ステージを移動させて、分離した各ビームの光路長差を変化させることで、試料に到達する時間差を設定することができる。かかる磁気特性測定装置は、請求項1に記載の反射板およびハーフミラーの組を、第1および第2の反射板に置き換えたものであり、請求項1に記載の磁気特性測定装置と同様に、偏光成分検出手段により偏光成分を検出し、制御装置によって、試料の有効内部磁場または異方性磁場を算出することができる。なお、同様に、レーザ光源が出射した連続した複数のパルス光は、それぞれ分離して連続して試料を励起するポンプ光かつプローブ光として作用する。
【0017】
また、請求項3に記載の磁気特性測定装置は、請求項1または請求項2に記載の磁気特性測定装置において、前記制御装置が、前記第2共鳴条件として、前記レーザ光のパルスの繰り返し時間の時間間隔と前記ビームスプリッタで分離した2つのビームの遅延時間との比が自然数である場合の移動ステージの位置を用いて、前記試料の有効内部磁場または異方性磁場を算出することとした。
【0018】
かかる構成によれば、磁気特性測定装置において、制御装置は、分離した2つのビームの遅延時間が、レーザパルスの繰り返し周期を自然数で除した時間となる場合の移動ステージ位置を用いて試料の異方性磁場を算出する。したがって、試料の磁化の歳差運動がパルスの繰り返し周期に同期したことを示す第1共鳴条件において、磁化の有効的な内部磁場の大きさが、磁化がレーザパルスに共鳴するときの磁場の大きさの最低値の整数倍である場合に、この共鳴するときの磁場の最低値を求めることができる。したがって、強磁性体の試料の磁気異方性を一意に特定することができる。
【0019】
また、請求項4に記載の磁気特性測定装置は、請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載の磁気特性測定装置において、前記制御装置が、LLG方程式による理論計算から予め求められた、前記試料の有効的な内部磁場に対して試料の磁気光学信号の絶対値が最小となるときの磁場範囲を、LLG方程式に基づく理論モデルを用いてフィッティングすることで、当該試料の磁気特性として当該試料固有のダンピングファクタの値をさらに算出することとした。
【0020】
かかる構成によれば、磁気特性測定装置において、試料の有効内部磁場、異方性磁場Haniに加えて、試料のダンピングファクタαの値も求めることが可能となる。
【0021】
また、請求項5に記載の磁気特性測定装置は、請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載の磁気特性測定装置において、前記試料と前記レーザ光源との間に集光レンズをさらに備えることとしてもよい。
【0022】
かかる構成によれば、磁気特性測定装置は、分離した2つのビームを集光レンズにより集光する。したがって、集光レンズが光励起強度を高めることで、試料の磁気特性の測定において、磁気光学信号の検出分解能を向上させ、かつ空間分解能を向上させることができる。
【0023】
また、請求項6に記載の磁気特性測定装置は、請求項1ないし請求項5のいずれか一項に記載の磁気特性測定装置において、前記偏光成分検出手段が、前記分離した各ビームが前記試料で反射した反射光、または、前記分離した各ビームが前記試料を透過した透過光の強度を検出する光量検出手段と、前記レーザ光源から前記試料に照射されるパルス光の光路の途中に配置され、入射するパルス光を所定周波数で交互に左回り円偏光と右回り円偏光に切り替えて出力する光弾性変調器と、前記光弾性変調器でパルス光を変調する前記周波数信号を参照信号として、前記光量検出手段が検出する光強度信号から前記偏光成分を測定した結果を前記磁気光学信号として前記制御装置に出力するロックインアンプとを備えることとした。
【0024】
かかる構成によれば、磁気特性測定装置において、偏光成分検出手段は、光量検出手段と、光弾性変調器と、ロックインアンプとを備え、時間変調された光強度から間接的に磁気光学信号を検出する。つまり、試料で反射した反射光、または、試料を透過した透過光が光量検出手段に入射したときに、ロックインアンプが円二色性の原理にしたがって、左回り円偏光と右回り円偏光の差から磁気特性としての偏光成分を検出する。
【0025】
また、前記目的を達成するために、請求項7に記載の磁気特性測定方法は、レーザ光源と、ビームスプリッタと、第1の反射板が設置された移動ステージと、第2の反射板またはハーフミラーと、外部磁場印加手段と、偏光成分検出手段と、制御装置とを備えると共に強磁性体の試料の有効内部磁場または異方性磁場を含む磁気特性を測定する磁気特性測定装置の磁気特性測定方法であって、前記磁気特性測定装置が、前記試料の磁化の歳差運動の周期を前記パルスの繰り返し周期に同期したことを示す第1共鳴条件において前記試料に印加されていた外部磁場の情報を予め取得し、前記試料の磁化の歳差運動が前記連続した複数パルスに共鳴するときの前記移動ステージの位置を第2共鳴条件として探索する第2共鳴条件探索段階と、前記第2共鳴条件が探索されたときに、前記試料の有効内部磁場または異方性磁場を求める磁場算出段階とを実行し、前記第2共鳴条件探索段階は、所定条件が成立するまで繰り返す一連の処理として、第1ステップと、第2ステップと、第3ステップと、第4ステップと、第5ステップと、第6ステップとを含むこととした。
【0026】
かかる手順によれば、磁気特性測定方法では、第1ステップにて、前記外部磁場印加手段によって、前記取得した外部磁場を前記試料に印加する。また、磁気特性測定方法では、第2ステップにて、前記レーザ光源によって、前記試料の磁化の歳差運動の周期に同期可能な繰り返し周期の連続した複数パルスのレーザ光を出力し、前記ビームスプリッタと前記第1の反射板と、前記第2の反射板またはハーフミラーとを介して、前記出力された各パルスビームをそれぞれ分離して一方のビームよりも他方のビームを遅延させて前記試料に照射する。また、磁気特性測定方法では、第3ステップにて、前記偏光成分検出手段によって、前記分離した各ビームが前記試料で反射した反射光、または、前記分離した各ビームが前記試料を透過した透過光を受光して偏光成分を検出した磁気光学信号を出力する。なお、磁気特性測定方法においては、試料に磁場を印加しつつレーザ光を照射した状態で試料からの光により偏光成分を検出する。そのため、第1ないし第3ステップは、外部磁場印加手段と、レーザ光源と、偏光成分検出手段とが協働して実行する。
【0027】
そして、磁気特性測定方法では、前記制御装置によって、第4ないし第6ステップを実行する。すなわち、制御装置は、まず、第4ステップにて、前記磁気光学信号の絶対値が最小となったか否かを判定することで前記所定条件が成立したか否かを判定する。前記磁気光学信号の絶対値が最小となっていない場合に、制御装置は、第5ステップにて、前記移動ステージを移動させる。一方、前記磁気光学信号の絶対値が最小となった場合に、制御装置は、第6ステップにて、前記移動ステージの位置を前記第2共鳴条件として求める。そして、磁気特性測定方法において、前記磁場算出段階にて、前記制御装置によって、前記第2共鳴条件が求められたときに、当該第2共鳴条件において検出した前記磁気光学信号および前記移動ステージの位置と、前記取得した外部磁場の大きさと、前記繰り返し周期との各情報を用いて、LLG方程式に基づいて、前記試料の有効内部磁場または異方性磁場を求める。
【発明の効果】
【0028】
請求項1または請求項2に記載の発明によれば、磁気特性測定装置において、試料を複数のレーザ光で励起するので、強磁性体の試料の異方性磁場等の磁気特性を精度よく、安価で簡便に測定することができる。また、本発明によれば、移動ステージは、移動範囲が数cm程度で済むので、従来の数m単位の移動範囲を有する移動ステージと比較して数十分の1程度に小型化することできる。また、強磁性体の試料の磁化の歳差運動の周期に同期可能な繰り返し周期のパルスレーザを出力するレーザ光源は、従来の80[MHz]程度の繰り返し周期のレーザ光源に比べて格段に小さい。したがって、磁気特性測定装置は、装置全体としても、従来と比べて1/5〜1/10程度のサイズに小型化できる。
【0029】
請求項3に記載の発明によれば、磁気特性測定装置は、強磁性体の試料の磁気異方性を一意に特定することができる。
請求項4に記載の発明によれば、磁気特性測定装置は、強磁性体の試料のダンピングファクタの値を算出することができる。
【0030】
請求項5に記載の発明によれば、磁気特性測定装置は、強磁性体の試料の磁気特性の測定において空間分解能を向上させることができる。
請求項6に記載の発明によれば、磁気特性測定装置は、偏光成分検出手段を安価な光量検出手段を用いて構成することができる。
【0031】
請求項7に記載の発明によれば、磁気特性測定方法において、強磁性体の試料の磁化の歳差運動の周期に同期可能な繰り返し周期のパルスレーザによって試料を複数のポンプ光およびプローブ光の組で励起するので、強磁性体の試料の有効内部磁場または異方性磁場等の磁気特性を精度よく、安価で簡便に測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の第1実施形態に係る磁気特性測定装置の構成図である。
【図2】本発明における磁化の歳差運動を示す概念図であって、(a)は平衡状態、(b)はパルス光の照射直後、(c)はパルス光の照射後に磁化が向く方向をそれぞれ示している。
【図3】本発明における磁化の歳差運動の干渉を概念的に示すタイミングチャートであって、(a)は非共鳴時の歳差運動、(b)は共鳴時の歳差運動、(c)はパルスレーザの出力タイミングをそれぞれ示している。
【図4】本発明における有効内部磁場Heffを変化させたときのMO信号の一例を示すグラフである。
【図5】本発明におけるダンピングファクタαを変化させたときのMO信号の一例を示すグラフであって、(a)はδMx、(b)はδMy、(c)はδMzをそれぞれ示している。
【図6】本発明におけるビーム遅延時間に対するパルス繰り返し周期の割合N2と分離パルスビームとの関係を概念的に示すタイミングチャートであって、(a)は共鳴時の歳差運動、(b)はN2=1の分離パルスビーム、(c)はN2=2の分離パルスビーム、(d)はN2=4の分離パルスビームの照射タイミングをそれぞれ示している。
【図7】本発明の磁気特性測定方法の流れを示すフローチャートである。
【図8】本発明の第1実施形態に係る磁気特性測定装置の制御装置の構成例を示すブロック図である。
【図9】本発明における第1共鳴条件がHeff/Hres=1である場合にtrep/tintに対するMO信号の一例を示すグラフである。
【図10】本発明における第1共鳴条件がHeff/Hres=2である場合にtrep/tintに対するMO信号の一例を示すグラフである。
【図11】本発明における第1共鳴条件がHeff/Hres=3である場合にtrep/tintに対するMO信号の一例を示すグラフである。
【図12】本発明における第1共鳴条件がHeff/Hres=4である場合にtrep/tintに対するMO信号の一例を示すグラフである。
【図13】本発明における第1共鳴条件がHeff/Hres=5である場合にtrep/tintに対するMO信号の一例を示すグラフである。
【図14】本発明の第2実施形態に係る磁気特性測定装置の構成図である。
【図15】本発明の第3実施形態に係る磁気特性測定装置の構成図である。
【図16】本発明の第4実施形態に係る磁気特性測定装置の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
図面を参照して本発明の磁気特性測定装置および磁気特性測定方法を実施するための形態の第1〜第4実施形態について詳細に説明する。以下では、説明の都合上、第1実施形態として、1.磁気特性測定装置の概要、2.理論モデルの概要、3.磁気特性測定方法の全体の流れ、4.磁気特性測定装置の制御装置の構成例、5.計算機シミュレーションによる具体例の各章について説明した後、第2〜第4実施形態を順次説明することとする。
【0034】
(第1実施形態)
[1.磁気特性測定装置の概要]
図1は、本発明の第1実施形態に係る磁気特性測定装置の構成図である。
磁気特性測定装置1は、所定の繰り返し周期trepのレーザ光を強磁性体の試料Fに照射することで、当該試料Fの異方性磁場Haniを含む磁気特性を測定するものである。
磁気特性測定装置1は、図1に示すように、レーザ光源2と、光学系3と、外部磁場印加手段4と、偏光検出器5と、制御装置6とを備えている。
【0035】
レーザ光源2は、強磁性体の試料Fの磁化の歳差運動の周期TMに同期可能な繰り返し周期trepの連続した複数パルスのレーザ光をポンプ光かつプローブ光として照射するものである。ここで、レーザ光源2の繰り返し周波数νL(=1/trep)は、磁気特性測定対象の試料に応じて、例えば、100[MHz]から1[THz]の範囲で予め設定しておく。ここで、レーザ光源2の繰り返し周期trepは、試料Fの磁化の歳差運動の周期TMよりも小さいことが好ましい。
【0036】
本実施形態では、レーザ光源2の一例として、繰り返し周波数νLが例えば3〜5[GHz]のモードロックレーザを使用するものとして説明する。なお、この場合、レーザ光源2は、3[GHz]の一定の繰り返し周波数のパルスレーザを出力する専用装置としてもよいし、繰り返し周波数を3[GHz]で出力するモードと、5[GHz]で出力するモードとを切り替えることのできる汎用装置としてもよい。
【0037】
光学系3は、図1に示すように、例えば、偏光素子としてのビームスプリッタ7と、反射板(第1の反射板)8と、反射板(第2の反射板)9とを備えている。
ビームスプリッタ7は、レーザ光源2から出力される複数パルスのレーザ光を分離するものであり、レーザ光を直線偏光とする。なお、偏光素子として、直線偏光板をさらに備える構成としてもよい。
【0038】
反射板8は、移動ステージ11上に配設されている。この光学系3において、ビームスプリッタ7で分離された1つのビーム(以下、ビーム1という)は、直進して試料Fに入射する。また、もう1つのビーム(以下、ビーム2という)は、ビームスプリッタ7で方向を変えて、反射板8で反射し、続いて反射板9で反射させ、これら、ビーム1、ビーム2を共に試料Fの同じ部位に入射する。そして、移動ステージ11は、例えば、反射板8へのビーム2の入射方向に対して移動可能に構成されている。
【0039】
なお、本実施形態では、図1に示すように、光学系3は、反射板9と試料Fとの間に集光レンズ10をさらに備えることも可能で、ビーム1およびビーム2を集光レンズ10によりそれぞれ集光して試料Fに照射できるように構成した。
【0040】
外部磁場印加手段4は、基板12に固定された試料Fに所定の磁場を印加するものであり、例えば、電磁石で構成される。この外部磁場印加手段4は、後記するように、試料Fに磁場を印加することで、試料Fにおいて磁化の歳差運動の周期を制御する。本実施形態では、外部磁場印加手段4で印加する磁場(外部磁場Hext)の方向を、試料Fの異方性磁場Haniの方向と平行であるものとした。つまり、一例として、試料Fの有効内部磁場Heffの方向が面内方向である場合には、図1に示すように、外部磁場印加手段4は、試料Fに対して面内磁場を印加できるように配設される。なお、試料Fに印加する外部磁場Hextの大きさ(値)の変化に応じて、試料Fにおける有効内部磁場Heffの大きさは変化し、外部磁場Hextが試料Fに印加されていない場合には、有効内部磁場Heffの大きさは異方性磁場Haniの大きさと等しくなる。
【0041】
基板12は、例えば、数〜数十[nm]程度の薄い膜状の試料Fを固定するために設けられており、試料Fを固定することができれば、そのサイズ、形状、材質等が限定されるものではない。例えば、試料Fを基板12上にスパッタリング法等により積層する場合には、シリコン(Si)やガラス等の一般的な基板材料を用いることができる。このとき、基板12の厚さや大きさは数[mm]程度とすることができる。
【0042】
偏光検出器(偏光成分検出手段)5は、複数パルスのレーザ光から分離されたビームが試料Fで反射した反射光をそれぞれ受光してその偏光成分を検出し、この検出した、偏光成分を示す磁気光学信号(magneto-optical信号:以下、MO信号という)を制御装置6に出力する。以下では、偏光検出器5がビーム2のみを受光する実験条件での結果を示す(図9〜図13:説明は後記する)。そのため、偏光検出器5の前段に、光遮蔽板13を配設した。光遮蔽板13はビーム1を遮り、ビーム2だけが透過できるようにする。なお、逆にビーム1のみを透過させて観測したときや、またはビーム1とビーム2を共に観測したときも、同様の結果が得られることが分かっている。
【0043】
制御装置6は、例えば、一般的なパーソナルコンピュータ等から構成される。制御装置6は、偏光検出器5で検出したMO信号を取得し、取得したデータを、LLG(Landau-Lifshitz-Gilbert)方程式に基づく理論モデルを用いて解析することで、試料Fの磁気特性として、有効内部磁場Heffの値とパラメータα(以下、ダンピングファクタαという)の値とを決定するものである。
【0044】
[2.理論モデルの概要]
この章では、2.1磁化の歳差運動、2.2磁化の歳差運動の干渉、2.3MO信号の各節について順次説明することとする。
<2.1 磁化の歳差運動>
まず、理論モデルの前提として、磁化の歳差運動について説明する。理論モデルを説明するための概念図を図2に示す。図2では、薄い膜状の試料Fが固定される平面をxy平面、その平面の法線方向をz軸として示した。つまり、レーザ光源2から照射されるパルス光の照射方向は、z軸方向である。また、図2(a)に示す平衡状態においては、試料Fの磁化ベクトルM(以下、単に磁化Mという)と有効内部磁場ベクトルHeff(以下、単に有効内部磁場Heffという)は、図示するようにx軸方向に向いているものとする。
【0045】
つまり、磁化Mは、式(1)で表され、同様に、有効内部磁場Heffは式(2)で表される。なお、式(1)に示すMsは磁化のx成分の大きさ(飽和磁化)を表し、式(2)に示すH0は有効内部磁場のx成分の大きさを表している。
【0046】
【数1】

【0047】
この平衡状態において、光を磁性体に照射すると、物質の温度上昇やキャリア濃度の変化により磁気異方性が変化する。ここでは、図2(b)に示すように、レーザ光源2から試料Fに照射されるパルス光の照射直後に、パルス光に起因した磁気異方性の変化が生じて、有効内部磁場Heffがz軸方向に角度θだけ傾くと仮定する。したがって、パルス光の照射直後においては、有効内部磁場を示す関係式は、前記した式(2)から式(3)へと書き換えられる。また、このとき、スピンには、磁化Mと異方性磁場Haniを含む平面に対して垂直な方向に、式(4)で表されるトルクFがかかる。なお、式(4)において、記号「×」は外積を表し、γは磁気回転比を表す。
【0048】
【数2】

【0049】
したがって、式(4)で表されるトルクFにより磁化Mは歳差運動を始めることになる。パルス光の照射後において、磁化Mの歳差運動は、図2(c)に示すように、有効内部磁場Heffを中心軸とする円運動を示す。磁化Mの歳差運動の時間変化は、LLG方程式と呼ばれる式(5)を用いてよく再現できる(非特許文献1参照)。
【0050】
【数3】

【0051】
パルス光照射により誘起された磁化Mの歳差運動は、時間の経過にしたがって小さくなる。これをダンピングといい、その挙動は、式(5)に示すダンピングファクタα(Gilbert減衰定数)を用いて表現される。仮にダンピングファクタαを0とすると、磁化Mの歳差運動の周期TMは、式(6)を用いて求められる。式(6)において、νMは歳差運動の振動数(1/TM)、hはプランク定数、μBはボーア磁子、gはg因子をそれぞれ示している。
【0052】
【数4】

【0053】
磁化Mの歳差運動の周期TM(=1/νM)は、式(6)に示す定数部分を無視すると、g因子と有効内部磁場Heffの値に依存していることが分かる。また、周期TMは、試料Fの種類や実験条件などに強く依存し、おおよそピコ秒からサブナノ秒であることが、これまでの実験を通して確かめられている(非特許文献1参照)。
【0054】
ここで、この理論モデルの概要の説明において、簡便のため、次の2つの条件を導入する。
条件1:前記した式(2)に示した角度θ、すなわち、有効内部磁場Heffがz軸方向に傾く角度θは、考慮している時間(例えば、ピコ秒からサブナノ秒)では緩和しないものとする。つまり、角度θは、時間に依存せず一定であって、時間tの関数ではないものとする。言い換えると、光照射による有効内部磁場Heffの向きの変化の緩和時間τが無限大(τ=∞)であるものとする。
条件2:ダンピングファクタαの値を0とする。
【0055】
磁化Mの歳差運動の緩和時間τが、磁性体に照射されるパルス光の繰返し周期trepよりも短いとき、磁化Mの歳差運動の干渉が起こる。このときの磁化Mの挙動は、連続するパルス光照射によって誘起される異方性磁場の変化(複数のパルス光による変化)が、個々のパルス光照射により誘起される異方性磁場の変化(1つのパルス光による変化)の線形和だとすることで計算することができる。このことは、非特許文献2から導かれる。
【0056】
<2.2 磁化の歳差運動の干渉>
ここで、磁化Mの歳差運動の干渉を説明するために、計算機シミュレーションにより2本の連続したパルス光を磁性体に照射することを想定する。また、この計算では、レーザの繰返し周波数νL(=1/trep)が5[GHz]であるものと仮定する。つまり、レーザの繰返し周期trepは、200[ps]である。
【0057】
また、磁性体の磁化Mの歳差運動の周期TM(=1/νM)と、レーザの繰り返し周期trep(=1/νL)とが同期するときに磁性体に生じている有効内部磁場Heffのことを、「共鳴が起こる磁場Hres」と表記し、式(7)で表すこととする。また、これを第1共鳴条件と呼ぶことにする。このとき、共鳴が起こる磁場Hresは、式(8)のように表される。
【0058】
【数5】

【0059】
式(8)において、繰返し周波数νLの値を5[GHz]、g因子の値を「2」としたときに、共鳴が起こる磁場Hresの値は、178.5[mT]と見積もられる。
【0060】
式(8)は、前記した式(6)に類似しているが、例えば5[GHz]のように固定されたレーザの繰り返し周波数νL(=1/trep)と、それに伴ってある所定値に固定された有効内部磁場Heff(共鳴が起こる磁場Hres)との関係式である。
【0061】
一方、前記した式(6)は、磁化Mの歳差運動の周期TM(=1/νM)と、有効内部磁場Heffとの関係式であり、いずれも変動する。そのため、磁化Mの挙動は、この変更可能なパラメータとしての有効内部磁場Heffを変化させることで制御可能である。
【0062】
ここで、磁化Mの歳差運動と、パルスの繰り返し周期trepとの同期について図3を参照して説明する。図3は、磁化の歳差運動と、パルスの繰り返し周期との同期を概念的に示すタイミングチャートである。図3(a)では、簡便のため、1本のパルス光が照射されたときの磁化の歳差運動のy成分を正弦波形で示した。この例では、磁化の歳差運動の周期TMの最初の値を400[ps]とした。また、レーザの繰返し周期trepの値は、図3(c)に示すように200[ps]とした。例えば、1回目(n=1)のパルス(パルスレーザ)が時刻0[ps]で出力され、2回目(n=2)のパルスが時刻200[ps]で出力され、3回目(n=3)のパルスが時刻400[ps]で出力される。なお、パルス波形の時間幅はフェムト秒程度である。
【0063】
図3(a)に示すように、歳差運動の周期TMの最初の値(400[ps])と、繰り返し周期trepの値(200[ps])とが異なる場合には、磁化の歳差運動はパルスの繰り返し周期trepに同期していないので、複数本のパルス光が照射されたとしても、磁化Mの歳差運動と、パルスレーザとの共鳴は起こらない(非共鳴)。
【0064】
次に、レーザの繰返し周期trepの値を200[ps]に固定した状態で、所定値の外部磁場を印加することで、図3(b)に示すように、磁化Mの歳差運動の周期TMの値を200[ps]に変化させた。図3(b)に示す例の場合には、歳差運動の周期TMの値(200[ps])と、繰り返し周期trepの値(200[ps])とは同じであり、磁化の歳差運動はパルスの繰り返し周期trepに同期する。このとき、例えば、2回目(n=2)のパルスが照射されると、1回目に生じた歳差運動と、2回目に生じた歳差運動とが干渉する。そして、共鳴が起こり、1回目(n=1)のパルスが照射された場合と比較して、磁化Mの歳差運動の振幅がおよそ2倍となる。同様に、共鳴により、3回目(n=3)のパルスが照射されると、初めの振幅のおよそ3倍となる。
【0065】
図3に示した波形は、磁化Mの歳差運動と、パルスの繰り返し周期trepとの同期について概念的に説明するための一例であって、実際の波形とは異なっている。しかしながら、計算機シミュレーションで実際に確かめた結果、次のことが結論付けられた。
【0066】
第1共鳴条件においては、磁化Mの歳差運動に、次のような特徴がある。すなわち、磁性体の有効内部磁場Heffの値が、その磁性体においてパルス光との共鳴が起こる磁場Hresの値と等しいという条件を満たす場合においては、磁化Mの歳差運動の振幅は、ポンプ光として照射されたパルス光の個数におおよそ比例して増大する。
一方、第1共鳴条件を満たさない場合(非共鳴条件の場合)、複数のパルス光照射により誘起される磁化Mの歳差運動は、各々が打ち消しあって歳差運動の振幅が小さくなる。
そこで、本実施形態では、連続したパルス光で励起した磁化Mの挙動を、パルス光の反射光が示すMO信号を観測して評価することとした。
【0067】
<2.3 MO信号>
この節では、2.3.1有効内部磁場とMO信号との関係、2.3.2外部磁場とMO信号との関係、2.3.3ダンピングファクタとMO信号との関係、2.3.4第1共鳴条件とMO信号との関係、2.3.5ビームの遅延時間とMO信号との関係、2.3.6観測されるMO信号の定義の各テーマについて順次説明することとする。
【0068】
また、この節では、本実施形態で観測されるMO信号の定義を2段階に分けて説明する。2.3.1〜2.3.5のテーマでは、第1段階として、パルスの繰り返し周期trepを考慮してMO信号を定義し、2.3.6のテーマでは、第2段階として、ビームスプリッタ7で分離したビーム1およびビーム2の遅延時間tintをも考慮してMO信号を定義する。そして、以下では、第1段階で定義されるMO信号(仮MO信号)により、本実施形態の理論モデルの概要を説明し、この仮MO信号を前提に、本実施形態で観測されるMO信号を説明する。
【0069】
≪2.3.1≫有効内部磁場とMO信号との関係
まず、第1段階のMO信号Θを、一例として式(9a)で定義する。
【0070】
【数6】

【0071】
ここで、nは、レーザ光源2から出力される何番目のパルスであるかを示す整数である(n=0,1,2,…)。
【0072】
式(9b)に示すΘxδMxnとΘyδMynとは、ともに、MLD(magnetic linear dichroism:磁気線二色性)と縦カー効果とを介して観測される面内磁化成分の変化を表している。また、式(9b)に示すΘzδMznは、極カー効果を介して観測される面直磁化成分の変化を表している。また、Θx、Θy、Θzは、試料Fの種類や温度などの実験条件に依存し、観測されるMO信号Θの偏光依存性や波長依存性などから評価する重みを表している。また、δMxn、δMyn、δMznは、直接観測するものではなく、式(9c)〜式(9e)により計算で求めるものである。
【0073】
式(9c)〜式(9e)の右辺において、trepは、パルスの繰り返し周期(1/νL)を示し、Mxn(ntrep)、Myn(ntrep)、Mzn(ntrep)は、n番目のパルスを受けた時刻での磁化Mのx成分、y成分、z成分の大きさを示し、Msは飽和磁化を示す。
【0074】
また、式(9c)〜式(9e)の左辺にそれぞれ示すδMxn、δMyn、δMznは、n番目のパルスによる磁化Mのx成分、y成分、z成分の変化を表している。ここで、非特許文献2の手法にならって、連続するパルス光照射によって誘起される異方性磁場の変化が、個々のパルス光照射により誘起される異方性磁場の変化の線形和であるものとして、式(10a)〜式(10c)にそれぞれ示すように、n本の連続して出力されるパルスによって誘起される異方性磁場の変化δMx、δMy、δMzを、MO信号の各成分に相当する量として計算する。
【0075】
【数7】

【0076】
一例として、連続して出力されるパルス本数nを「50」として計算したδMx、δMy、δMzの磁場依存性を図4に示す。図4のグラフにおいて、横軸は、有効内部磁場Heffを示し、縦軸は、δMx、δMy、δMzのそれぞれの大きさを任意単位(a.u.:arbitrary unit)で重ねて示している。ここでは、繰返し周波数νLの値を5[GHz]として、前記の2つの条件(ダンピングファクタα=0、緩和時間τ=∞)を課して計算した。
【0077】
なお、δMxは、δMyやδMzに比べて3桁ほど小さい。また、計算負荷を低減するためにn=50としたが、パルス本数nの個数は、50に限定されるものではない。さらに、パルス光を照射し続けると磁化の傾く角度θの大きさは増え続けるが、充分な時間が経過すると緩和するためにある擬平衡状態となる。この擬平衡状態も計算により求めることができる。
【0078】
図4のグラフから、有効内部磁場Heffの値がおよそ178.5[mT]である場合に、δMx、δMy、δMzの値がそれぞれ「0」となっていることが分かる。これは、第1共鳴条件が満たされる条件下では、磁化Mは、図2(a)に示すような平衡状態の向きとほぼ同じ向きになるためである。また、このときの有効内部磁場Heffの値は、前記した式(8)において、g因子の値を「2」として見積もられた、共鳴が起こる磁場Hresの値と同様なものである。一方、第1共鳴条件が満たされないときの有効内部磁場Heffの範囲では、図4に示すように、δMx、δMy、δMzの値が有効内部磁場Heffにほとんど依存せずに一定値を取っている。つまり、δMx、δMy、δMz(MO信号の各成分に相当する量)の値は、第1共鳴条件を満たす磁場近辺で顕著な変化を示すと結論付けられる。
【0079】
≪2.3.2≫外部磁場とMO信号との関係
外部磁場Hext中にある強磁性体の有効内部磁場Heffは、式(11)で記述される。この式(11)において、Hdemは反磁場を示す。ここでは、HaniがHdemに比べて十分大きいものと仮定しHdem=0とした式(12)を用いることとする。このとき、異方性磁場Haniは、式(13)より求められる。
【0080】
【数8】

【0081】
共鳴が起こる磁場Hresは、前記した式(8)の関係式から、レーザの繰返し周期trep(=1/νL)によって決まる。そのため、有効内部磁場Heffの値が、共鳴が起こる磁場Hresの値と等しいとき、すなわち、第1共鳴条件を満たすときに、外部磁場Hextを決定できれば、異方性磁場Haniが決定できることを式(12)および式(13)は示唆している。なお、本実施形態では、外部磁場Hextの方向と、異方性磁場Haniの方向とを平行であるものとして取り扱うことで、式(13)においてベクトルである磁場をスカラーとして取り扱うこととする。
【0082】
第1共鳴条件を満たす外部磁場Hextを決定することは、MO信号を外部磁場Hextに対して系統的に観測することで実現できる。つまり、試料Fに所定値の外部磁場Hextを印加した状態で、連続パルスを照射したときに、偏光検出器5でMO信号を検出し、制御装置6で解析した結果、第1共鳴条件を満たさなければ、外部磁場Hextの値を変更して同様な操作を繰り返せばよい。
【0083】
例えば、試料Fに外部磁場を印加していない場合に磁化Mの歳差運動の振動数をνM1とすると、前記した式(6)は式(14)のように書き換えられる。また、外部磁場Hext中でパルス光に共鳴するときの磁化Mの歳差運動の振動数をνM2とすると、前記した式(6)は式(15)のように書き換えられる。
【0084】
【数9】

【0085】
≪2.3.3≫ダンピングファクタとMO信号との関係
この節の説明において、前記の2つの条件(ダンピングファクタα=0、緩和時間τ=∞)は、簡便のために導入した。ただし、実際には、例えば、強磁性金属の緩和時間τは数マイクロ秒から数ミリ秒であり、強磁性半導体の緩和時間τはサブナノ秒であることが知られている。また、実際のダンピングファクタαは、強磁性金属でも強磁性半導体でも、0.1〜0.001のオーダーにあることが知られている。強磁性体の磁気特性において、異方性磁場Haniに加えて、ダンピングファクタαの決定も重要な課題である。
【0086】
一例として、連続して出力されるパルス本数nを「50」として計算したδMx、δMy、δMzの磁場依存性およびα依存性を図5(a)〜図5(c)に示す。図5(a)〜図5(c)のグラフにおいて、横軸は、有効内部磁場Heffを示し、縦軸は、δMx、δMy、δMzのそれぞれの大きさを任意単位で示している。ここでは、繰返し周波数νLの値を5[GHz]として、前記の2つの条件のうち緩和時間τ=∞だけを課して、ダンピングファクタαの値を0,0.001,0.01,0.1,1としたときのそれぞれのケースについて計算した。
【0087】
図5(a)〜図5(c)に示すように、δMx、δMy、δMzの磁場依存性を示すグラフは、それぞれ特徴的な形状をしていることが分かる。具体的には、ダンピングファクタαの値が0である場合には、図4に示したグラフと同じ形状となる。つまり、有効内部磁場Heffの値が第1共鳴条件(およそ178.5[mT])の前後の非共鳴条件の範囲では、グラフはほぼ平坦に形成されているが、第1共鳴条件の範囲では、グラフに凸形状または凹形状の突出部が形成されている。この突出部はグラフにおいて所定磁場範囲を示す線幅を有している。まず、ダンピングファクタαの値を、0から0.001に増加しても、δMx、δMy、δMz(MO信号の各成分に相当する量)に大きな変化は見られない。つまり、グラフにおいて、αの値が0であるときの線幅と、αの値が0.001であるときの線幅とはほとんど同じであるが、これは、計算の精度不足に起因する。
【0088】
一方、一般的な強磁性体が示すダンピングファクタαの値の範囲(0.1〜0.001のオーダー)では、ダンピングファクタαの値を増加すると、線幅が広くなる傾向にある。つまり、グラフの形状において、特に、線幅はダンピングファクタαの値に強く依存すると結論付けられる。このことは、試料Fを用いたときに観測されるMO信号Θ(δMx、δMy、δMzに相当する量)の磁場依存性を解析することで、試料Fのダンピングファクタαの値が決定できることを示唆する。
【0089】
≪2.3.4≫第1共鳴条件とMO信号との関係
次に、第1共鳴条件を詳細に検討する。常磁性体のRSAは、パルス光の繰り返し周期が、キャリアスピンの歳差運動の周期の整数倍になるときに、キャリアスピンの歳差運動の振幅が共鳴的に増幅する現象である。強磁性体においても、これと同じことが生じると仮定する。つまり、周波数領域に換算すると、この理論モデルにおいて、レーザの繰り返し周波数νLが磁化Mの歳差運動の振動数νMの例えば2倍になるときに、共鳴により磁化Mの歳差運動の振幅が0.5倍になると仮定する。この場合、前記した式(15)および式(8)は、式(16)および式(17)に書き換えられる。
【0090】
【数10】

【0091】
このときに、磁化Mの歳差運動に生じる現象を概念的に示すグラフを図6(a)に示す。図6(a)に破線で示す波形は、図3(b)に実線で示した波形を拡大して表示したものである。つまり、図6(a)に破線で示す波形は、磁化Mの歳差運動の周期TMの値が、レーザの繰返し周期trepの値と同様に200[ps]であることを示している。周波数領域に言い換えると、磁化Mの歳差運動の振動数νMの値と、レーザの繰返し周波数νLの値とが共に5[GHz]であることを示している。ここで、前記の仮定により、レーザの繰り返し周波数νLが仮に10[GHz]に倍増して、それに同期して磁化Mの歳差運動の振動数νMも2倍になったときに共鳴により磁化Mの歳差運動の振幅が0.5倍になる。このときの波形を図6(a)に実線で示す。
【0092】
これと同じ現象を、逆に、図6(a)に実線で示す波形から、図6(a)に破線で示す波形へと移り変わるものとして説明すると、以下の通りとなる。すなわち、1回目の実験において、磁化Mの歳差運動の周期TMの値が、レーザの繰返し周期trepの値と同様に100[ps]であるときに、共鳴が生じる場合に、図6(a)に実線で示す波形が得られる。続けて、2回目の実験でレーザの繰り返し周期trepの値を2倍にして200[ps]とすると、磁化Mの歳差運動が同期してその周期TMの値が200[ps]となって共鳴し、図6(a)に破線で示す波形が得られる。
【0093】
前記したように、第1共鳴条件を満たすときに、外部磁場Hextを決定できれば、異方性磁場Haniが決定できることを、前記した式(12)および式(13)は示唆している。ただし、RSAの仮定により、1回目の実験および2回目の実験で説明したように、磁化Mの歳差運動の周期TMの値が100[ps]のときに共鳴が起こったと判定したときに決定した外部磁場Hextの値と、200[ps]のときに共鳴が起こったと判定したときに決定した外部磁場Hextの値とは異なってしまう。このことは、第1共鳴条件が次のように書き換えられることを意味する。ここで、N1は自然数である。
【0094】
【数11】

【0095】
式(18)で示す第1共鳴条件は、異方性磁場Haniが一意に決定できない可能性を示唆する。このことは、例えば、異方性磁場Haniの値が既知であって、その値を精度よく求める場合には不都合は生じないが、異方性磁場Haniの値が未知である試料を測定対象とした場合には不都合である。
【0096】
≪2.3.5≫ビームの遅延時間とMO信号との関係
そこで、このような不測な場合も想定し、式(18)で示す第1共鳴条件で決定したいずれか1つの外部磁場Hextの値を取得できることを前提にして、既に説明した仮MO信号を発展的に解消して、本実施形態で観測されるMO信号の定義の第2段階を説明する。第2段階では、パルスの繰り返し周期trepと、ビームスプリッタ7で分離したビーム1およびビーム2の遅延時間tintとを考慮してMO信号を定義する。
【0097】
本実施形態の磁気特性測定装置1の制御装置6(図1参照)は、この予め取得した外部磁場Hextの値に設定した磁場を試料Fに印加し、かつ、分離した各パルスビームを試料Fに重ねて照射したときに、それぞれのパルス光照射により、試料Fの磁化Mの歳差運動が共鳴するときの移動ステージ11の位置を第2共鳴条件として取得することとした。
そして、制御装置6は、外部磁場Hextの値と、第2共鳴条件において検出したMO信号および移動ステージ11の位置との各情報を用いてLLG方程式に基づいて、試料Fの異方性磁場Haniの値を算出することとした。
【0098】
移動ステージ11の位置は、ビーム1およびビーム2の遅延時間tintに対応している。これら2本のパルス光の遅延時間tintが歳差運動の緩和時間τよりも短いとき、磁化歳差運動の共鳴が起こる。また、レーザ光源2から1回目(n=1)のパルス(パルスレーザ)が出力されて分離したビーム2と、2回目(n=2)のパルスが出力されて分離したビーム1とが重なる場合が、遅延時間tintの理論的な最大値を与える。つまり、遅延時間tintの最大値は、パルスの繰り返し周期trepの値である。
【0099】
そこで、本実施形態では、移動ステージ11の位置を、次の式(19)により、遅延時間tintおよびレーザ繰り返し周期trepに関連付けることとした。ここで、N2は自然数である。移動ステージ11の所定の位置において、この式(19)を満たすとき、第2共鳴条件を満たすものとする。
【0100】
【数12】

【0101】
ここで、式(18)に示した第1共鳴条件(自然数N1=Heff/Hres)が成立していることが前提である。また、自然数N2が自然数N1と等しくなるときに、ビーム1とビーム2のそれぞれが誘起した歳差運動の共鳴条件が現れる。つまり、遅延時間tintを制御変数としてMO信号Θを系統的に観測することで、自然数N2(=N1)が決定できる。そして、レーザ繰り返し周期trepから、共鳴が起こる磁場Hresが求められる。その結果、式(18)にしたがって、有効内部磁場Heffの値が決定できる。ゆえに、前記した式(12)および式(13)の関係から、最終的に異方性磁場Haniの値を一意に決定できることとなる。
【0102】
具体例として、N2=1の場合のレーザパルスを図6(b)に示す。図6(b)において、nはレーザ光源2から出力されるn番目のパルス光であることを示す。また、n番目のパルス光において分離したビームをmの値で区別した。m=1はビーム1を示し、m=2はビーム2を示す。一例として、レーザ繰り返し周期trepを200[ps]とした。ここでは、1番目のパルス光において分離したビーム1が時刻0[ps]で照射され、1番目のパルス光において分離したビーム2が時刻200[ps]で照射されている。また、2番目のパルス光において分離したビーム1も時刻200[ps]で照射されているため、時刻200[ps]ではパルス光が重なっている。なお、図6(b)に示すレーザパルスは、図6(a)に破線で示す歳差運動の振幅波形に対応している。
【0103】
同様に、N2=2の場合のレーザパルスを図6(c)に示す。ここでは、1番目のパルス光において分離したビーム1が時刻0[ps]で照射され、1番目のパルス光において分離したビーム2が時刻100[ps]で照射されている。このレーザパルスは、図6(a)に実線で示す歳差運動の振幅波形に対応している。
【0104】
さらに、N2=4の場合のレーザパルスを図6(d)に示す。ここでは、1番目のパルス光において分離したビーム1が時刻0[ps]で照射され、1番目のパルス光において分離したビーム2が時刻50[ps]で照射されている。なお、対応する波形の図示は省略した。
【0105】
≪2.3.6≫観測されるMO信号の定義
第2段階のMO信号の一例として3次元ベクトルΘを式(20a)で定義する。
【0106】
【数13】

【0107】
ここで、式(20a)〜式(20e)は、遅延時間tintを考慮した点を除くと、式(9a)〜式(9e)と同様なものである。すなわち、式(20c)〜式(20e)の右辺において、Mxn(ntrep)、Myn(ntrep)、Mzn(ntrep)は、n番目のパルスのビーム1を受けた時刻での磁化Mのx成分、y成分、z成分の大きさを示す。また、Mxn(ntrep+tint)、Myn(ntrep+tint)、Mzn(ntrep+tint)は、n番目のパルスのビーム2を受けた時刻での磁化Mのx成分、y成分、z成分の大きさを示す。
【0108】
また、式(10a)〜式(10c)と同様に、非特許文献1の手法にならって、式(21a)〜式(21c)にそれぞれ示すように、n本の連続して出力されるパルスによって誘起される異方性磁場の変化δMx、δMy、δMzを、MO信号の各成分に相当する量として計算することとする。
【0109】
【数14】

【0110】
ここで、これら式(21a)〜式(21c)で示される異方性磁場の変化δMx、δMy、δMzは、直接観測するものではないが、観測されるMO信号Θに相当するものである。これらδMx、δMy、δMzを用いた計算機シミュレーションによる具体例については、後記する。
【0111】
[磁気特性測定方法の全体の流れ]
次に、磁気特性測定方法の全体の流れについて図7を参照(適宜図1参照)して説明する。磁気特性測定装置1は、制御装置6によって、第1共鳴条件(N1=Heff/Hres)において試料Fに印加されていた外部磁場Hextの情報を予め取得しておく(ステップS1)。
【0112】
制御装置6は、試料Fの磁化Mの歳差運動が、連続した複数パルスに共鳴するときの移動ステージ11の位置を第2共鳴条件として探索する第2共鳴条件探索段階(ステップS2〜S8)と、第2共鳴条件が探索されたときに、試料Fの異方性磁場Haniを求める磁場算出段階(ステップS9)とを実行する。
【0113】
第2共鳴条件探索段階では、パルスレーザ光をビームスプリッタ7でビーム1とビーム2とに分離する。そして、ビーム1のパスに挿入した移動ステージ11を用いてビーム1とビーム2との遅延時間tintを制御し、ビーム1とビーム2とを試料Fに重ねて照射する。
【0114】
この第2共鳴条件探索段階は、所定条件が成立するまで繰り返す一連の処理として、外部磁場印加手段4による処理(ステップS2)と、レーザ光源2による処理(ステップS3)と、偏光検出器5による処理(ステップS4)と、制御装置6による処理(ステップS5,S6)とを協働して実行する。すなわち、ステップS2にて、外部磁場印加手段4は、予め取得した外部磁場Hextを試料Fに印加する。ステップS3にて、レーザ光源2は、連続した複数パルスのレーザ光をポンプ光として出力する。ステップS4にて、偏光検出器5は、ビーム1およびビーム2を試料Fが反射した反射光のうち、ビーム2が示す磁気光学効果(偏光成分)を検出する。
【0115】
また、ステップS5にて、制御装置6は、偏光検出器5で検出した偏光成分を、MO信号Θとして取得する。そして、ステップS6にて、制御装置6は、現在の移動ステージ11の位置で試料のMO信号Θの絶対値が最小となったか否かを判定することで所定条件が成立したか否かを判定する処理を実行する。MO信号Θの絶対値が最小となっていない場合に(ステップS6:No)、制御装置6は、移動ステージ11を移動させる処理(ステップS7)を実行する。一方、MO信号Θの絶対値が最小となった場合に(ステップS6:Yes)、制御装置6は、移動ステージ11の位置を第2共鳴条件(N2=trep/tint)として求める処理(ステップS8)を実行する。
【0116】
磁場算出段階(ステップS9)は、制御装置6によって、第2共鳴条件が求められたときに、この第2共鳴条件において検出したMO信号Θおよび移動ステージ11の位置と、取得した外部磁場の大きさHextと、繰り返し周期trepとの各情報を用いて、LLG方程式に基づいて、試料Fの異方性磁場Haniを求める。
【0117】
[磁気特性測定装置の制御装置の構成例]
次に、磁気特性測定装置1の制御装置6の構成例について図8を参照して説明する。
ここでは、制御装置6は、第1共鳴条件取得部21と、外部磁場制御部22と、レーザ光源制御部23と、移動ステージ制御部24と、MO信号取得部25と、MO信号蓄積部26と、第2共鳴条件取得部27と、異方性磁場算出部28と、フィッティングデータ記憶部29と、減衰パラメータ算出部30とを備えることとした。
【0118】
第1共鳴条件取得部21は、試料Fの磁化Mの歳差運動を、パルスの繰り返し周期trep(=1/νL)に同期させるために試料Fに印加する外部磁場Hextの値を第1共鳴条件として取得するものである。第1共鳴条件取得部21は、取得した外部磁場Hextの値を外部磁場制御部22と異方性磁場算出部28とに出力する。
【0119】
外部磁場制御部22は、外部磁場印加手段4を制御して、磁場のオン/オフを切り替えたり、第1共鳴条件取得部21から取得した外部磁場Hextの値の磁場を試料Fに印加させたりするものである。
レーザ光源制御部23は、レーザ光源2を制御して、パルスレーザのオン/オフを切り替えるものである。
【0120】
移動ステージ制御部24は、移動ステージ11を制御して、予め第2共鳴条件の自然数に対応付けている目盛り位置に、移動ステージ11を順次移動するものである。
MO信号取得部25は、偏光検出器5からMO信号Θを取得し、MO信号蓄積部26に格納する。MO信号蓄積部26は、例えば一般的なメモリやハードディスク等から構成される。なお、MO信号蓄積部26は、第1共鳴条件取得部21で取得した外部磁場Hextの値も記憶する。
【0121】
第2共鳴条件取得部27は、レーザ光源制御部23および移動ステージ制御部24を統括すると共に、MO信号蓄積部26に蓄積されているMO信号Θのデータを参照して、各データを比較することにより、現在の移動ステージ11の位置で試料のMO信号Θの絶対値が最小となったか否かを判定するものである。この第2共鳴条件取得部27は、判定の結果、MO信号Θの絶対値が最小となったと判定したときに、現在の移動ステージ11の位置に対応する自然数N2を異方性磁場算出部28に出力する。また、第2共鳴条件取得部27は、判定の結果、MO信号Θの絶対値が最小ではないと判定したときに、レーザ光源制御部23および移動ステージ制御部24と協働して、前記したステップS9の第2共鳴条件探索段階を続行する。
【0122】
異方性磁場算出部28は、レーザ繰り返し周期trep(=1/νL)の値に基づいて、前記した式(9)により、共鳴が起こる磁場Hresを算出する。
異方性磁場算出部28は、算出した共鳴が起こる磁場Hresと、第2共鳴条件取得部27から第2共鳴条件として取得した移動ステージ11の位置に対応する自然数N2(=N1)とを用いて、前記した式(18)により、有効内部磁場Heffの値を決定する。
異方性磁場算出部28は、決定した有効内部磁場Heffの値と、第1共鳴条件取得部21から取得した外部磁場Hextの情報とを用いて、前記した式(13)により、試料Fの異方性磁場Haniを算出する。
異方性磁場算出部28は、算出した異方性磁場Haniを図示しないディスプレイに表示すると共に、決定した有効内部磁場Heffの値を減衰パラメータ算出部30に出力する。
【0123】
フィッティングデータ記憶部29は、LLG方程式による理論計算から予め求められた、MO信号の磁場依存性およびα依存性のデータ(以下、フィッティングデータという)を記憶するものであって、例えば一般的なメモリやハードディスク等から構成される。なお、有効内部磁場Heffに対してMO信号Θの絶対値が最小となるときの磁場の範囲に対して最適なダンピングファクタαの値を算出することが可能であれば、フィッティングデータは、予め変換テーブルとして備えるものでもよいし、演算に用いる所定の関数等の情報でもよい。
【0124】
減衰パラメータ算出部30は、異方性磁場算出部28から有効内部磁場Heffの値を取得し、MO信号蓄積部26に蓄積されているMO信号Θのデータを参照して、フィッティングデータ記憶部29に記憶されたフィッティングデータとフィッティングすることで、試料の磁気特性として、試料固有のダンピングファクタαの値を算出するものである。
【0125】
[計算機シミュレーションによる具体例]
前記した式(21a)〜式(21c)で示される異方性磁場の変化δMx、δMy、δMz(観測されるMO信号Θに相当)を、式(19)に示す第2共鳴条件において、N2が1,2,3,4,5の場合を条件として計算機シミュレーションにより求めた結果を、図9〜図13にそれぞれ示す。図9〜図13のグラフにおいて、横軸は、「trep/tint」、つまり、第2共鳴条件の自然数N2を示している。また、縦軸は、δMx、δMy、δMzのそれぞれの大きさを任意単位で重ねて示している。ただし、前記した式(20c)および式(21a)の定義から、各グラフにおいてδMxに関しては、縦軸が負の領域を表し、縦軸の最大値が「0」である。
【0126】
ここでは、異方性磁場Haniの値が既知である試料を想定し、その試料の磁化の歳差運動が、レーザの繰り返し周期trepに同期して共鳴が起こる磁場の大きさの最低値をHresで表記することした。つまり、共鳴が起こる磁場の大きさは、Hres、2Hres、3Hres、4Hres、5Hres等である。
【0127】
このうち、第1共鳴条件がHeff/Hres=1である場合に、レーザの繰り返し周期trepを固定値として、ビーム1およびビーム2の遅延時間tintを変化させたときの異方性磁場の変化δMx、δMy、δMzの一例を図9に示す。第2共鳴条件を満たすときのグラフ上の特徴は、磁化の向きが平衡状態の向きと近いため、観測されるMO信号が小さくなって、理論的に値が「0」になるというものである。
【0128】
図9に示すように、δMx、δMy、δMzは、「trep/tint」の値、つまり、第2共鳴条件の自然数N2の値に依存する特徴的な振る舞いを示していることが分かる。具体的には、図9に示すように、trep/tintの値が「1」である場合に、δMx、δMy、δMzの値はいずれも理論的に「0」になる。なお、各グラフにおいて値が僅かに「0」からずれている原因は、計算機シミュレーションの精度に起因するものである。このことは他のグラフの結果においても同様である。
【0129】
一方、図9に示すように、trep/tintの値が、2,3,4,5,6である場合に、δMx、δMy、δMzの値すべてが「0」になることはない。このことから、第1共鳴条件がHeff/Hres=1を前提にしたときに、trep/tintが自然数であっても、その値が2,3,4,5,6である場合には、第2共鳴条件を満たしていないことを意味する。しかしながら、前記したように、第1共鳴条件がHeff/Hres=1を前提にしたときに、trep/tintの値が「1」である場合には、第2共鳴条件を満たす。したがって、図9に示すδMx、δMy、δMzの結果から、第2共鳴条件の自然数は、「1」であることが分かる。
【0130】
次に、第1共鳴条件がHeff/Hres=2である場合に、同様に調べた異方性磁場の変化δMx、δMy、δMzの一例を図10に示す。図10に示すように、trep/tintの値が「2」である場合に、δMx、δMy、δMzの値はいずれも理論的に「0」になる。したがって、図10に示すδMx、δMy、δMzの結果から、第1共鳴条件がHeff/Hres=2を前提にしたときには、第2共鳴条件の自然数は「2」であると結論付けられる。
【0131】
次に、第1共鳴条件がHeff/Hres=3である場合に、図11に示すように、trep/tintの値が「3」である場合に、δMx、δMy、δMzの値はいずれも理論的に「0」になる。したがって、図11に示す結果から、第1共鳴条件がHeff/Hres=3を前提にしたときには、第2共鳴条件の自然数は「3」であると結論付けられる。
【0132】
次に、第1共鳴条件がHeff/Hres=4である場合に、同様に調べた異方性磁場の変化δMx、δMy、δMzの一例を図12に示す。図12に示すように、trep/tintの値が「1」、「2」、「4」である場合に、δMx、δMy、δMzの値はいずれも理論的に「0」になる。したがって、図12に示すδMx、δMy、δMzの結果から、第1共鳴条件がHeff/Hres=4を前提にしたときには、第2共鳴条件の自然数は、「1」、「2」、「4」であると結論付けられる。
【0133】
同様に、図13に示すように、第1共鳴条件がHeff/Hres=5を前提にしたときには、第2共鳴条件の自然数は「5」であると結論付けられる。
図9〜図13に示した計算機シミュレーションの結果を一般化すると、観測されたMO信号から、trep/tintの値と、Heff/Hresの値とが等しくなるとき、すなわち、自然数N1と自然数N2とが等しいときには、第2共鳴条件を満たす。そして、このときの自然数を、Heff/Hresの値として決定できる。
【0134】
以上の計算機シミュレーションにおいて、trep/tintの値を変化させながら測定することは、移動ステージ11を動かしながら測定することに相当する。また、trep/tintの値は、移動ステージ11の位置から一義的に決定できる。このため、移動ステージ11を移動させながらMO信号を観測すると、第1共鳴条件であるHeff/Hresを示す自然数N1の値に依存して、図9〜図13に示すようなδMx、δMy、δMzの振る舞いが観測される。
【0135】
したがって、第1実施形態の磁気特性測定装置1によれば、第2共鳴条件を満たすときに観測されたMO信号のデータ(移動ステージ11を移動させながら実際に観測した信号の波形)と、理論計算から導かれる結果(trep/tintの値を変化させたときの理論的な信号の波形)とを比較することで、異方性磁場Haniが未知の試料であっても、Heff/Hresの値(第1共鳴条件の自然数N1)を推定でき、その結果、異方性磁場Haniの値を一意に決定することができる。また、磁気特性測定装置1によれば、ダンピンファクタαの値も決定することができる。
【0136】
(第2実施形態)
図14に示すように、第2実施形態の磁気特性測定装置1Aは、外部磁場印加手段4Aが試料Fに対して面直磁場を印加できるように配設されている点を除いて、図1に示した磁気特性測定装置1と同じ構成である。これにより、有効内部磁場Heffの方向が面直方向である試料Fも測定対象とすることができる。
なお、外部磁場印加手段が、面直磁場を印加するモードと、面内磁場を印加するモードに対応するように、両方の構成を備えるか、または、両方のモードを兼ねるように配置を切り替えることができるように構成するようにしてもよい。
【0137】
(第3実施形態)
図15に示すように、第3実施形態の磁気特性測定装置1Bは、複数パルスのレーザ光から分離されたビーム1およびビーム2が試料Fを透過した透過光のうち、ビーム2を偏光検出器5で受光してその偏光成分を検出できるように配設されると共に、試料Fを固定する基板12Bと、試料Fの裏面とにより凹部14が形成されている点を除いて、図1に示した磁気特性測定装置1と同じ構成である。
【0138】
この場合、MO信号は、カー効果の代わりに、ファラデー効果を介して観測されるが、MO信号は、第1実施形態と同様に定義することができる。また、凹部14のサイズや形状は任意であり、基板12Bの貫通孔である必要も無い。例えば、中心からビーム透過可能な薄さの領域を残して基板材料を剥離してもよい。なお、基板12Bは、薄い膜状の試料Fを表面および裏面から挟み込んで固定するようにしてもよい。
【0139】
(第4実施形態)
図16に示すように、第4実施形態の磁気特性測定装置1Cは、偏光成分検出手段5Cを備えている点を除いて、図1に示した磁気特性測定装置1と同じ構成である。この偏光成分検出手段5Cは、図1に示す偏光検出器5に相当するものであって、PD51と、光弾性変調器52と、ロックインアンプ53とを備えている。
【0140】
PD51は、光量検出手段であって、例えば、一般的なフォトダイオードから構成される。PD51は、ビーム1およびビーム2が試料Fで反射した反射光のうち、ビーム2の強度を検出する。検出した反射光の光強度信号は、ロックインアンプ53に入力される。
【0141】
光弾性変調器52は、図16に示すように、例えば、反射板9と試料Fとの間に配設される。光弾性変調器52は、反射板9で反射して入射するビーム2を所定周波数で交互に左回り円偏光と右回り円偏光に切り替えて集光レンズ10を介して試料Fに向けて出力する。これにより、出力ビームは円二色性を示すビームとなる。
【0142】
また、光弾性変調器52は、この変調周波数の信号を参照信号としてロックインアンプ53に入力する。なお、この変調周波数は、例えば、50[kHz]とすることができる。
【0143】
ロックインアンプ53は、光弾性変調器52から入力する参照信号を用いて、PD51が検出する光強度信号から偏光成分を測定した結果をMO信号として制御装置6に出力するものである。この場合、MO信号は、カー効果の代わりに、円二色性を介して観測されるが、MO信号は、第1実施形態と同様に定義することができる。
この磁気特性測定装置1Cによれば、偏光成分検出手段5Cを安価なPD51を用いて構成することができる。
【0144】
以上、各実施形態について説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、その趣旨を変えない範囲で様々に実施することができる。例えば、第4実施形態のように偏光成分検出手段5Cを備えている磁気特性測定装置において、面直磁場を印加できるように構成したり、試料Fを透過した透過光の偏光成分を検出したりするように構成することもできる。
【0145】
また、各実施形態では、ビームスプリッタ7で分離したビーム2を2つの反射板8,9によって反射して試料Fに導くようにしたが、本発明はこれに限定されるものではない。別の形態に係る磁気特性測定装置として、例えば図1に示す反射板9だけをハーフミラーに置き換え、このハーフミラーを、ビームスプリッタ7で分離したビーム1の光路上に移動して配設し、ビーム1とビーム2とが同一の光路から試料Fに到達するように構成してもよい。この場合、光遮蔽板13を除去して、ビーム1とビーム2とを共に観測することで、各実施形態と同様の結果が得られる。なお、この形態の磁気特性測定装置は、図7のフローチャートのステップS4にて、ビーム2の代わりに2つのビーム光の偏光成分を検出する処理を行う。また、さらに別の形態として、光遮蔽板13を残しておき、ビーム2の方を遮り、ビーム1だけを観測するように構成してもよい。この場合にも各実施形態と同様の結果が得られる。
【符号の説明】
【0146】
1,1A,1B,1C 磁気特性測定装置
2 レーザ光源
3 光学系
4,4A 外部磁場印加手段
5 偏光検出器(偏光成分検出手段)
5C 偏光成分検出手段
51 PD(光量検出手段)
52 光弾性変調器
53 ロックインアンプ
6 制御装置
7 ビームスプリッタ
8 反射板
9 反射板
10 集光レンズ
11 移動ステージ
12,12B 基板
21 第1共鳴条件取得部
22 外部磁場制御部
23 レーザ光源制御部
24 移動ステージ制御部
25 MO信号取得部
26 MO信号蓄積部
27 第2共鳴条件取得部
28 異方性磁場算出部
29 フィッティングデータ記憶部
30 減衰パラメータ算出部
F 試料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の繰り返し周期のレーザ光を強磁性体の試料に照射することで、当該試料の有効内部磁場または異方性磁場を含む磁気特性を測定する磁気特性測定装置であって、
前記試料の磁化の歳差運動の周期に同期可能な繰り返し周期の連続した複数パルスのレーザ光を前記試料に照射するレーザ光源と、
前記試料に所定の磁場を印加する外部磁場印加手段と、
前記複数パルスのレーザ光を第1のビームおよび第2のビームに分離して第1のビームを前記試料に導く位置に配設されたビームスプリッタと、
前記ビームスプリッタで分離した第2のビームを反射する第1の反射板が配設された移動可能な移動ステージと、
前記第1の反射板で反射した第2のビームを反射して前記試料に導く位置に配設された第2の反射板と、
前記分離した各ビームが前記試料で反射した反射光、または、前記分離した各ビームが前記試料を透過した透過光を受光してその偏光成分を検出した磁気光学信号を出力する偏光成分検出手段と、
前記試料の磁化の歳差運動が前記パルスの繰り返し周期に同期したことを示す第1共鳴条件において前記試料に印加されていた外部磁場の情報を予め取得し、当該外部磁場を前記試料に印加し、かつ、前記分離した各パルスビームを前記試料に照射したときに、前記試料の磁化の歳差運動が前記連続した複数パルスに共鳴するときの前記移動ステージの位置を第2共鳴条件として取得し、前記外部磁場の大きさと、前記第2共鳴条件において検出した前記磁気光学信号および前記移動ステージの位置と、前記繰り返し周期との各情報を用いて、LLG(Landau-Lifshitz-Gilbert)方程式に基づいて、前記試料の有効内部磁場または異方性磁場を算出する制御装置と、
を備えることを特徴とする磁気特性測定装置。
【請求項2】
所定の繰り返し周期のレーザ光を強磁性体の試料に照射することで、当該試料の有効内部磁場または異方性磁場を含む磁気特性を測定する磁気特性測定装置であって、
前記試料の磁化の歳差運動の周期に同期可能な繰り返し周期の連続した複数パルスのレーザ光を前記試料に照射するレーザ光源と、
前記試料に所定の磁場を印加する外部磁場印加手段と、
前記複数パルスのレーザ光を分離するビームスプリッタと、
前記ビームスプリッタで分離した一方のビームを反射する反射板が配設された移動可能な移動ステージと、
前記一方のビームを透過して前記試料に導くと共に、前記反射板で反射した他方のビームを前記一方のビームと同じ光路へ反射するハーフミラーと、
前記分離した各ビームが前記試料で反射した反射光、または、前記分離した各ビームが前記試料を透過した透過光を受光してその偏光成分を検出した磁気光学信号を出力する偏光成分検出手段と、
前記試料の磁化の歳差運動が前記パルスの繰り返し周期に同期したことを示す第1共鳴条件において前記試料に印加されていた外部磁場の情報を予め取得し、当該外部磁場を前記試料に印加し、かつ、前記分離した各パルスビームを前記試料に照射したときに、前記試料の磁化の歳差運動が前記連続した複数パルスに共鳴するときの前記移動ステージの位置を第2共鳴条件として取得し、前記外部磁場の大きさと、前記第2共鳴条件において検出した前記磁気光学信号および前記移動ステージの位置と、前記繰り返し周期との各情報を用いて、LLG(Landau-Lifshitz-Gilbert)方程式に基づいて、前記試料の有効内部磁場または異方性磁場を算出する制御装置と、
を備えることを特徴とする磁気特性測定装置。
【請求項3】
前記制御装置は、
前記第2共鳴条件として、前記レーザ光のパルスの繰り返し時間の時間間隔と前記ビームスプリッタで分離した2つのビームの遅延時間との比が自然数である場合の移動ステージの位置を用いて、前記試料の有効内部磁場または異方性磁場を算出する、
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の磁気特性測定装置。
【請求項4】
前記制御装置は、
LLG方程式による理論計算から予め求められた、前記試料の有効的な内部磁場に対して試料の磁気光学信号の絶対値が最小となるときの磁場範囲を、LLG方程式に基づく理論モデルを用いてフィッティングすることで、当該試料の磁気特性として当該試料固有のダンピングファクタの値をさらに算出する、
ことを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載の磁気特性測定装置。
【請求項5】
前記試料と前記レーザ光源との間に集光レンズをさらに備える、
ことを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載の磁気特性測定装置。
【請求項6】
前記偏光成分検出手段は、
前記分離した各ビームが前記試料で反射した反射光、または、前記分離した各ビームが前記試料を透過した透過光の強度を検出する光量検出手段と、
前記レーザ光源から前記試料に照射されるパルス光の光路の途中に配置され、入射するパルス光を所定周波数で交互に左回り円偏光と右回り円偏光に切り替えて出力する光弾性変調器と、
前記光弾性変調器でパルス光を変調する前記周波数信号を参照信号として、前記光量検出手段が検出する光強度信号から前記偏光成分を測定した結果を前記磁気光学信号として前記制御装置に出力するロックインアンプとを備える、
ことを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか一項に記載の磁気特性測定装置。
【請求項7】
レーザ光源と、ビームスプリッタと、第1の反射板が設置された移動ステージと、第2の反射板またはハーフミラーと、外部磁場印加手段と、偏光成分検出手段と、制御装置とを備えると共に強磁性体の試料の有効内部磁場または異方性磁場を含む磁気特性を測定する磁気特性測定装置の磁気特性測定方法であって、
前記磁気特性測定装置は、
前記試料の磁化の歳差運動の周期を前記パルスの繰り返し周期に同期したことを示す第1共鳴条件において前記試料に印加されていた外部磁場の情報を予め取得し、前記試料の磁化の歳差運動が前記連続した複数パルスに共鳴するときの前記移動ステージの位置を第2共鳴条件として探索する第2共鳴条件探索段階と、
前記第2共鳴条件が探索されたときに、前記試料の有効内部磁場または異方性磁場を求める磁場算出段階とを実行し、
前記第2共鳴条件探索段階は、所定条件が成立するまで繰り返す一連の処理として、
前記外部磁場印加手段によって、前記取得した外部磁場を前記試料に印加する第1ステップと、
前記レーザ光源によって、前記試料の磁化の歳差運動の周期に同期可能な繰り返し周期の連続した複数パルスのレーザ光を出力し、前記ビームスプリッタと前記第1の反射板と、前記第2の反射板またはハーフミラーとを介して、前記出力された各パルスビームをそれぞれ分離して一方のビームよりも他方のビームを遅延させて前記試料に照射する第2ステップと、
前記偏光成分検出手段によって、前記分離した各ビームが前記試料で反射した反射光、または、前記分離した各ビームが前記試料を透過した透過光を受光して偏光成分を検出した磁気光学信号を出力する第3ステップと、
前記制御装置によって、
前記磁気光学信号の絶対値が最小となったか否かを判定することで前記所定条件が成立したか否かを判定する第4ステップと、
前記磁気光学信号の絶対値が最小となっていない場合に、前記移動ステージを移動させる第5ステップと、
前記磁気光学信号の絶対値が最小となった場合に、前記移動ステージの位置を前記第2共鳴条件として求める第6ステップとを含み、
前記磁場算出段階は、
前記制御装置によって、前記第2共鳴条件が求められたときに、当該第2共鳴条件において検出した前記磁気光学信号および前記移動ステージの位置と、前記取得した外部磁場の大きさと、前記繰り返し周期との各情報を用いて、LLG方程式に基づいて、前記試料の有効内部磁場または異方性磁場を求める、
ことを特徴とする磁気特性測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2011−39009(P2011−39009A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−189457(P2009−189457)
【出願日】平成21年8月18日(2009.8.18)
【出願人】(000004352)日本放送協会 (2,206)
【Fターム(参考)】