説明

磁気粘性流体組成物

【課題】磁性粒体の安定性及び磁気レオロジー特性を改良した磁気粘性流体組成物を提供すること。
【解決手段】(a) パラフィン系鉱油とナフテン系鉱油との混合基油、(b) ウレア系及び/又は金属石けん系の増ちょう剤、及び(c) 磁性粒体含有する磁気粘性流体組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車のバンパー、サスペンション、介護用ロボットの関節部などに利用するのに適した磁気粘性流体組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気粘性流体は磁力を変化させることにより、粘性が低い状態から高い状態に変化する性質を持っている。したがって、磁気粘性流体の粘性を衝撃力の強さに対応した吸収の強さに思い通りに変化させることが出来る。気体・液体・固体の三相において発生する全ての衝撃を吸収することが可能である。磁気がない場合は粘度が低い状態であり、バネに例えるなら軟らかいバネと同じ状態であり、また磁気が有る場合は磁力の強さにより粘度が徐々に高くなり、バネにたとえるならその硬さを増していく状態である。
このように磁気粘性グリースは衝撃力を吸収する効果があることから、バネやダンパーのような役割をする。衝撃力吸収効果が必要な装置においては、磁力を変化させることにより、粘度を高い状態から低い状態に変化させて思い通りに衝撃力を吸収することを可能にする。また、一定の律動をしているピストン運動装置において、ピストン運動の動きを自由に変化させたい場合、状況の変化に対応して粘性を変化させて、短時間から長時間の停止や運転の繰り返しを計画的に行うことを可能とする。
【0003】
特許文献1には磁気応答粒子、キャリヤー流体及び増粘剤からなる磁気レオロジーグリース組成物が開示されており、増粘剤の一例としてポリウレアが開示されている。また、特許文献2にはウレア系グリース、特にジフェニルエーテルのアルキル置換体とウレア化合物とを含むウレア系グリース、分散媒及び磁性粒子を含有する磁気粘性流体が開示されている。しかし、磁性粒子の安定性及び磁気レオロジー特性が不十分であり、更なる改良が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第6547986号明細書
【特許文献2】特開2006−253239号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、本発明は、磁気粒子の安定性及び磁気レオロジー特性を改良した磁気粘性流体組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明により、以下の磁気粘性流体組成物を提供する:
1.下記(a)〜(c)の成分を含有する磁気粘性流体組成物:
(a) パラフィン系鉱油とナフテン系鉱油との混合基油、
(b) ウレア系及び/又は金属石けん系の増ちょう剤、及び
(c) 磁性粒体。
2.(a) 混合基油が、ナフテン系鉱油10〜90%に対してパラフィン系鉱油を90〜10%の比率で含有する混合鉱油である前記1項記載の磁気粘性流体組成物。
3.(a) 混合基油が、ナフテン系鉱油30〜60%に対してパラフィン系鉱油を70〜40%の比率で含有する混合鉱油である前記1項記載の磁気粘性流体組成物。
4.(b) 増ちょう剤が、金属石けん系増ちょう剤の少なくとも一種類である前記1〜3のいずれか1項記載の磁気粘性流体組成物。
5.(b) 増ちょう剤が、Li石けんである前記1〜4のいずれか1項記載の磁気粘性流体組成物。
6.(c) 磁性粒体が、鉄及び鉄化合物の少なくとも一種類である前記1〜5のいずれか1項記載の磁気粘性流体組成物。
7.(c) 磁性粒体が鉄粉である前記1〜6のいずれか1項記載の磁気粘性流体組成物。
8.(c) 磁性粒体の平均粒径が0.1〜10μmである前記1〜7のいずれか1項記載の磁気粘性流体組成物。
9.さらに(d)酸化防止剤を含有する前記1〜8のいずれか1項記載の磁気粘性流体組成物。
10.(d) 酸化防止剤がアミン系酸化防止剤である前記9項記載の磁気粘性流体組成物。
11.(d) アミン系酸化防止剤がα-ナフチルアミンである前記10記載の磁気粘性流体組成物。
12.組成物の全質量を基準として、
(a)基油の含有量が19.5〜50質量%であり、
(b)増ちょう剤の含有量が0.1〜10質量%であり、
(c)鉄及び鉄化合物からなる群から選ばれる磁性粒体の含有量が30〜80質量%であり、及び
(d)アミン系酸化防止剤の含有量が0〜10質量%である、前記1〜11項のいずれか1項記載の磁気粘性流体組成物。
13.前記磁気粘性流体組成物が磁気粘性グリース組成物である前記1〜12項のいずれか1項記載の磁気粘性流体組成物。
14.混和ちょう度が200〜400である前記13項記載の磁気粘性流体組成物。
15.装置の繰り返し運動部の動作コントロール又は衝撃の吸収・反発に使用することを特徴とする前記1〜14項のいずれか1項記載の磁気粘性流体組成物。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、磁性粒体の安定性及び磁気レオロジー特性を改良した磁気粘性流体組成物を提供することができる。本発明の組成物は、耐ゴム性にも優れ、シール材等として使用するゴムの寿命を長くすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
〔基油〕
本発明に使用する基油は、ナフテン系鉱油とパラフィン系鉱油との混合鉱油である。
好ましくは、ナフテン系鉱油10〜90%に対してパラフィン系鉱油90〜10%の比率の混合鉱油である。より好ましくは、ナフテン系鉱油60〜80%に対してパラフィン系鉱油40〜20%の比率の混合鉱油である。
本発明の組成物中、基油の含有量は20〜60質量%であるのが好ましく、20〜40質量%であるのがより好ましい。
【0009】
〔増ちょう剤〕
本発明に用いる増ちょう剤としては、ジウレアに代表されるウレア系増ちょう剤及びLi石けんやLiコンプレックスに代表される石けん系増ちょう剤を用いることが可能である。
好ましくは石けん系増ちょう剤であり、より好ましくはリチウム石けん及びリチウムコンプレックス石けんであり、さらに好ましくはリチウム石けんであり、さらに特に好ましくはステリン酸リチウム又は12−ヒドロキシステアリン酸リチウムであり、最も好ましくは12−ヒドロキシステアリン酸リチウムである。
増ちょう剤の含有量は、本発明の組成物のちょう度を通常200〜400程度に調整するのに必要な量であるのが好ましく、組成物の全質量に対して、通常0.1〜10質量%、好ましくは0.5〜10質量%、より好ましくは0.8〜7質量%である。
本発明の組成物は、グリース組成物であるのが好ましい。
【0010】
〔磁性粒体〕
本発明で用いる磁性粒体としては、磁性を有するものであれば特に限定されない。例えば、鉄;酸化鉄、炭化鉄、窒化鉄、金属含有鉄合金、カルボニル鉄等の鉄化合物;低炭素鋼、二酸化クロム、ニッケル、コバルト、ガドリニウム、ガドリニウム有機誘導体などである。これらの磁性粒体単独又は2種類以上を混合して使用してもよい。このうち、鉄及び鉄化合物が好ましい。特に、鉄及びカルボニル鉄が好ましい。
本発明で用いる磁性粒体としては商業的に入手できるものを使用することができる。例えば、International Specialty Products社からCIPの名称で販売されているものを使用することができる。
磁性粒体の数平均粒径は0.1〜10μmであるのが好ましく、5〜10μmであるのがより好ましい。粒径がこのような範囲にあると、必要とする磁気粘性を示すので好ましい。本発明において、磁性粒子の数平均粒径は公知の方法にて測定が可能である。例えば、電子顕微鏡写真から磁性粒子の大きさを測定することにより、磁性粒子の数平均粒径を得ることができる。また、磁性粒子が非球状の場合、長径と短径の平均値を1粒子の粒径として数平均粒径を算出する。
本発明の組成物中、磁性粒体の含有量は、30〜80質量%であるのが好ましく、60〜80質量%であるのがより好ましい。
【0011】
〔酸化防止剤〕
本発明の組成物は、酸化防止剤を含有してもよい。酸化防止剤としては、アミン系、フェノール系及びキノリン系等があり、代表的なものは下記のとおりである。酸化防止剤はその効果により、単独又は2種類以上の混合で使用しても良い。その中でも好ましいのは、アミン系酸化防止剤であり、特に好ましいのはα-ナフチルアミンである。
・アミン系:α-ナフチルアミン、フェニルα-ナフチルアミン、アルキル化フェニルα-ナフチルアミン、アルキル化ジフェニルアミンなど
・フェノール類:2、6−ジ−tert−ブチル−p−クレゾール、ペンタエリスリチルテトラキス[3−(3、5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル−3−(3、5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネートなどのヒンダードフェノールなど
・キノリン系:2、2、4−トリメチル−1、2ジヒドロキノリン重合体などである。
酸化防止剤の必要な量は、効果及び経済性の面から、本発明の組成物の全質量に対して、通常0〜10質量%、好ましくは0.5〜10質量%、より好ましくは0.8〜7質量%である。
【0012】
〔任意成分〕
本発明の組成物は、更に、分散剤、清浄分散剤、腐食防止剤、消泡剤、防錆剤、耐荷重添加剤などを必要に応じて含有することができる。これらの成分の使用量は、通常0.1〜20質量%程度、好ましくは0.5〜10質量%である。
【0013】
本発明の最も好ましい態様は、組成物の全質量を基準として、
(a)基油の含有量が20〜60質量%であり、
(b)増ちょう剤の含有量が0.1〜10質量%であり、
(c)鉄及び鉄化合物からなる群から選ばれる磁性粒体の含有量が30〜80質量%であり、及び
(d)アミン系酸化防止剤の含有量が0〜10質量%である磁気粘性流体組成物である。
【実施例】
【0014】
・サンプルの調製
表1に記載の基油、増ちょう剤、鉄粉及び酸化防止剤を規定量採取した後、ロールミルで混合することにより磁気粘性流体組成物を調製した。尚、表1中、基油、増ちょう剤、鉄粉及び酸化防止剤の数値は、質量部を意味する。
・測定方法
ちょう度 :JIS K 2220.7に準じて測定した。
【0015】
・試験方法
(1)分離性
磁性流体をガラス容器に入れて25℃で静置した。静置開始から1ヵ月後の状態を目視により観察した。磁性流体の分離の有無により評価した。
(評価)〇:分離なし ×:分離有り
【0016】
(2)耐ゴム性
120℃のグリース組成物にクロロプレンを浸漬し、100時間後のクロロプレンの硬さをショアA型硬度計を用い測定した。浸漬前のクロロプレンの硬さとの比較で耐ゴム性を評価した。
(評価)−:硬化した +:軟化した
(3)粘度(Pa・s)
粘度は、磁性流体を調製後直ちに測定した。土台に磁場を発生させるコイルを内蔵した、2重円筒構造の回転粘度計を用いて測定した。
(評価)磁束密度 0T の場合
〇:3 Pa・s 以上 ×:3 Pa・s 未満
磁束密度 0.5T の場合
〇:90 Pa・s 以上 ×:90 Pa・s 未満
【0017】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0018】
本発明の磁気粘性流体組成物は、繰り返し運動部の動作コントロール及び衝撃の吸収・反発の効果があることから、現在考えられる用途としては、自動車のバンパー、サスペンション、介護用ロボットの関節部などである。本発明の磁気粘性流体組成物は、気体と気体、気体と液体、気体と固体、液体と液体、液体と固体、固体と固体などの間で発生する全ての衝撃力を吸収するため、幅広い用途に使用が可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(a)〜(c)の成分を含有する磁気粘性流体組成物:
(a) パラフィン系鉱油とナフテン系鉱油との混合基油、
(b) ウレア系及び/又は金属石けん系の増ちょう剤、及び
(c) 磁性粒体。
【請求項2】
(a) 混合基油が、ナフテン系鉱油10〜90%に対してパラフィン系鉱油を90〜10%の比率で含有する混合鉱油である請求項1記載の磁気粘性流体組成物。
【請求項3】
(a) 混合基油が、ナフテン系鉱油60〜80%に対してパラフィン系鉱油を40〜20%の比率で含有する混合鉱油である請求項1記載の磁気粘性流体組成物。
【請求項4】
(b) 増ちょう剤が、石けん系増ちょう剤の少なくとも一種類である請求項1〜3のいずれか1項記載の磁気粘性流体組成物。
【請求項5】
(b) 増ちょう剤が、Li石けんである請求項1〜4のいずれか1項記載の磁気粘性流体組成物。
【請求項6】
(c) 磁性粒体が、鉄及び鉄化合物の少なくとも一種類である請求項1〜5のいずれか1項記載の磁気粘性流体組成物。
【請求項7】
(c) 磁性粒体が鉄粉である請求項1〜6のいずれか1項記載の磁気粘性流体組成物。
【請求項8】
(c) 磁性粒体の平均粒径が0.1〜10μmである請求項1〜7のいずれか1項記載の磁気粘性流体組成物。
【請求項9】
さらに(d)酸化防止剤を含有する請求項1〜8のいずれか1項記載の磁気粘性流体組成物。
【請求項10】
(d) 酸化防止剤がアミン系酸化防止剤である請求項9項記載の磁気粘性流体組成物。
【請求項11】
(d) アミン系酸化防止剤がα-ナフチルアミンである請求項10記載の磁気粘性流体組成物。
【請求項12】
組成物の全質量を基準として、
(a)基油の含有量が20〜60質量%であり、
(b)増ちょう剤の含有量が0.1〜10質量%であり、
(c)鉄及び鉄化合物からなる群から選ばれる磁性粒体の含有量が30〜80質量%であり、及び
(d)アミン系酸化防止剤の含有量が0〜10質量%である、請求項1〜11のいずれか1項記載の磁気粘性流体組成物。
【請求項13】
前記磁気粘性流体組成物が磁気粘性グリース組成物である請求項1〜12のいずれか1項記載の磁気粘性流体組成物。
【請求項14】
混和ちょう度が200〜400である請求項13記載の磁気粘性流体組成物。
【請求項15】
装置の繰り返し運動部の動作コントロール又は衝撃の吸収・反発に使用することを特徴とする請求項1〜14のいずれか1項記載の磁気粘性流体組成物。

【公開番号】特開2012−94677(P2012−94677A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−240574(P2010−240574)
【出願日】平成22年10月27日(2010.10.27)
【出願人】(000162423)協同油脂株式会社 (165)
【Fターム(参考)】