説明

磁気記録再生装置及び情報処理装置

【課題】磁気記録媒体の接続領域間にて不連続が生じた場合であってもトラッキングを行うことが可能な磁気記録再生装置を提供する。
【解決手段】記録エリアを複数配置し、複数の記録エリアのセクタを接続することによって構成した磁気記録媒体101を用いる。磁気記録媒体101に対して情報を記録又は再生する場合には、隣接する記録エリア境界におけるセクタ間の位置ズレ情報を予めメモリ部106に記憶させておく。実際の駆動時においては、磁気ヘッドが記録エリア境界のセクタ間を移動する際に位置ズレ情報に基づいて磁気ヘッド103を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気記録媒体に情報を記録又は再生する磁気記録再生装置及びそれを用いた情報処理装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、情報機器の小型化と情報記録容量の増大という要請と相まってハードディスクドライブの小型化と記録容量の増加が著しい。今後、記録密度の向上を維持するためには、現状とは異なる記録再生システムへの変革が予想される。
【0003】
特に、記録ビットの微小化に伴う熱揺らぎの影響を回避すべく、複数の磁性粒子に1ビットを記録する現行方式ではなく、単一磁性粒子に1ビットを記録するというパターンド媒体への移行が進むと考えられている。
【0004】
このパターンド媒体への移行に伴う問題点がいくつか指摘されている。特に、磁性粒子を規則的に配列させることが要求されるため、1Tb/inを前提にすると正方配列においては25nm毎に一つの磁性粒子を配置しなければならず、媒体作製プロセスが容易でないことが挙げられる。また、その磁性粒子一つ一つへ記録ヘッドをアクセスさせる手段も容易でないことが挙げられる。
【0005】
前者に対しては、所望のパターンを予めモールドに形成しておき、それを用いたインプリントにより媒体へ形状を転写することで規則性を持たせることが考慮されている。後者に対しては、微細な磁性粒子を用いたサーボパターンの形成が困難であることから、複数の磁性粒子からなる記録セル群を情報の記録と共にトラッキングに用いるというものが提案されている(特許文献1)。
【0006】
ところが、媒体の作製方法もトラッキング方法も完全な配列を前提としており、規則的な配列のズレを許容することについて考慮されていない。特に、媒体作製を直接インプリント乃至露光、電子線等の描画で行うにせよ、少なくとも直径1インチ程度にはなるであろう媒体の全領域に完全なパターンを形成することは困難である。
【特許文献1】特許第3704105号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述のように直径1インチの領域にわたってパターンを形成するには、現実的には全面を完全に形成することは困難であり、ある完全な領域を複数接続して全体を構成するという方法を考えなければならない。しかしながら、その場合には、必ず領域間にて不連続が生じる。そのため、予めサーボ情報等をパターンとして形成していても、或いは規則配列を用いてトラッキングを行っても、接続領域での不連続により意味をなさなくなるという問題があった。
【0008】
本発明の目的は、磁気記録媒体の接続領域間にて不連続が生じた場合であっても、トラッキングを行うことが可能な磁気記録再生装置及びそれを用いた情報処理装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、記録エリアを複数配置し、複数の記録エリアのセクタを接続することによって構成した磁気記録媒体を用いる。この磁気記録媒体に対して情報を記録又は再生する場合には、隣接する記録エリア境界におけるセクタ間の位置ズレ情報を予め記憶手段に記憶させておく。そして、実際の記録又は再生の駆動時においては、磁気ヘッドが記録エリア境界のセクタ間を移動する際に記憶手段に記憶している位置ズレ情報に基づいて磁気ヘッドを制御する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、磁気記録媒体の隣接する記録エリア境界におけるセクタ間のズレ量に基づいて磁気ヘッドの移動方向を制御することにより、記録エリア間にズレを有する媒体においてもトラッキングを行うことが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
次に、発明を実施するための最良の形態について図面を参照して詳細に説明する。図1は本発明に係る磁気記録再生装置の一実施形態を示す構成概念図である。図中100はすべての構成要素を収納する筐体である。筐体100の内部に磁気記録媒体101と、磁気記録媒体を回転駆動する媒体駆動機構102とが配置されている。
【0012】
また、筐体100内には、磁気記録媒体101に情報を記録又は再生する磁気ヘッド103と、磁気ヘッド103を駆動するヘッド駆動機構104とが配置されている。磁気ヘッド103はヘッド駆動機構104の駆動により駆動され、図示しない回動軸を中心に回動し、磁気記録媒体101の最内周のトラックから最外周のトラックまでアクセスすることが可能である。
【0013】
更に、演算処理部105は磁気ヘッド103が記録エリア境界のセクタ間を移動する際の磁気ヘッド103の駆動方向等の演算を行う。メモリ部106は隣接する記録エリア境界のセクタ間のズレ量を記憶する。これらセクタ間のズレ量や記録エリア境界のセクタ間の磁気ヘッドの駆動方法等は詳しく後述する。
【0014】
なお、図1においては磁気記録媒体101に情報を記録するのに必要な回路、再生するのに必要な回路、或いはトラッキングを制御する回路、セクタアドレスを検出する回路等については省略している。更に、装置内の各部を制御する制御回路や機構等についても周知であるので省略している。
【0015】
本発明は、磁気記録媒体101内の規則パターンのズレ情報を予めメモリ部106に格納しておく。演算処理部105はズレ量に基づいて磁気ヘッドが記録エリア境界のセクタ間を移動する場合の磁気ヘッドの駆動方向等の演算を行う。磁気記録媒体101への記録時或いは再生時の実際の駆動においてはその演算結果に基づきヘッド駆動機構104を制御することで規則的なパターン領域にズレを内在する磁気記録媒体101のトラッキングを可能にするものである。
【0016】
なお、磁気記録再生装置内での各構成要素の配置やレイアウト等は機能さえ満たしていれば、図1の形態に制限されるものではない。また、磁気記録媒体101としては、従来通りの円板形状とし、回転する磁気記録媒体101に磁気ヘッド103により記録や再生を行う。なお磁気記録媒体101として直線状トラックを有する平板形状のものを用い、磁気ヘッド103との相対走査により情報の記録や再生を行っても良い。
【0017】
次に、記録エリア間にズレが生じる要因を説明する。まず、パターン形成された磁気記録媒体の形成方法には、いろいろな製造方法があるが、どの時点でパターニングするかによるだけで、規則的なパターン形成のプロセスが必須である。従って、媒体の製造を考慮した場合、現実的には媒体と等倍のモールドを用いてインプリントして成型し、磁性膜を付ける等の方法を用いることになる。
【0018】
そうなれば、当然、媒体サイズのインプリントモールドが必要となってくる。そこでは、磁気記録媒体の代表的なサイズとして少なくとも直径1インチサイズ内への完全なパターンの作り込みが要求される。
【0019】
例えば、1インチサイズの円板に対して一つ2週間かかる45度の角度の扇型モールドが50%の確率で完全なモールドとして形成できたとする。その場合、1インチフルサイズを準備するには、0.5の8乗の確率となってしまい、2週間の8倍の16週間かかるのにも拘わらず、約0.39%の確率でしか完全なモールドが形成できない。これは、非現実的と言わざるを得ない。
【0020】
そうすれば、2週間かかる45度の角度の扇型モールドを50%の確率で完全なモールドとして形成し、それを8回インプリントしてつなぎ合わせて完全なモールドを形成する。或いは、複数の装置により8個のモールドを並列で形成して、それらから完全なモールドを形成する等の方法が時間短縮のために有効である。
【0021】
つまり、扇型モールドはかなりの回数インプリントする耐久性を有していることと、一回のインプリントの時間が分かっていることから可能なのである。特に、セクタアドレス等を前もって形成する場合には、場所毎のモールドを準備して完全なモールドを形成することが好ましい。
【0022】
但し、この方法で形成されたフルサイズのモールドには、扇型モールド間のつなぎ目が少なからず残存してしまう問題点が発生する。図2はこれを模式的に示す。通常、ひとつの完全なモールドから媒体を作製すれば、図2(a)に示すようにトラックを一本の帯びとして形成可能である。
【0023】
一方、つなぎ合わせたモールドの場合には、図2(b)に示すようにトラックの所々にズレが内在してしまう。これが、本発明において言うズレである。この問題点を本発明は解消することが可能である。
【0024】
上述の例における扇型モールドやそれから作製したズレの内在するフルサイズモールドを用いて作製した媒体において、扇型のエリアにあたる部分を図3における記録エリア300と称する。同エリアには図3に示すように一つ以上のセクタ301が含まれ、各々のセクタ301はサーボマーク領域302と磁性粒子が規則配列された記録セル領域303から構成されている。
【0025】
従って、本発明に係る磁気記録媒体は複数の記録エリア300が配置された図2(b)に示すような構成をとる。記録エリア300の形状は、図2の例で示す扇型に制限されるものではなく、所定の形の媒体に対して隙間無く敷き詰められるような形状を有していれば良い。ただ、記録エリア300間には、若干の隙間やズレを生じさせないというような意味合いではない。
【0026】
次に、隣接する記録エリア300間のズレ量について説明する。一般的なズレを表現する場合、図4に示すようなベクトルを考える。図4は隣接する記録エリア境界における2つのセクタを示すものである。つまり、本発明においては、あるセクタ301の最後における磁気記録ヘッドの媒体に対する相対速度ベクトル400(以後、ベクトル1)と次にトラッキングすべきセクタの最前における記録ヘッドの相対速度ベクトル401(以後、ベクトル2)を考える。
【0027】
この時、図4に示すようにセクタ301間にある隔たりがあった場合、ズレ量を表現する変数として、以下を定義する。但し、図4では例示しやすいように二つのセクタ301をズレ量402(δ)が大きい状態に離している。実際には、このようにズレ量δが大きな状態はない。
【0028】
ズレ量402(δ)
図4に示すようにあるセクタの最後におけるベクトル1と垂直であり、媒体面に対しては平行である方向のベクトル1とベクトル2の差で定義する。セクタ301はオフトラック方向に蜜に並んでいることから、ズレ量402(δ)における隣接セクタ301の位置は選択肢として二つある。もちろん近い方を選択することが好ましいのでトラックピッチの半分の値をズレ量δが超えることは無い。
【0029】
ズレ量403(γ)
図4に示すようにあるセクタの最後におけるベクトル1と平行であり、媒体面に対しても平行である方向のベクトル1とベクトル2の差で定義する。セクタが重なっている場合にはマイナスの値であり、重なっていない場合にはプラスの値を持つ。ズレ量403(γ)がプラスの場合には、セクタ間は無データの状況として扱うことになる。若しくは、その無データ領域を磁気記録ヘッドが通過する時の媒体中の場所を特定するための同期信号として扱うことも可能である。
【0030】
ズレ量404(ψ)
図4に示すようにあるセクタの最後におけるベクトル1と次のセクタの最前におけるベクトル2の始点を平行移動により重ねた場合の成す角で定義する。インプリント手法で媒体を形成する場合の位置合わせ精度に関わるが、1インチ基板に対して8回対称の完全なモールドを用いたとすると、各記録エリア間を0.005度以下の精度で接続可能である。そのため、ズレ量400(ψ)もおおよそ0.005度以下のズレとなる。
【0031】
ズレ量η
図4に示すようにあるセクタの最後におけるベクトル1の大きさ405と次のセクタの最前におけるベクトル2の大きさ406の差で定義する。ズレ量ηは回転運動の場合に限れば、半径位置の違いと媒体の回転数に依存する。
【0032】
以上が、ズレ量を表現する変数であり、これらを予め知ることにより従来のトラッキングのように逐次修正を行うのでは対応し得ないズレに対しても前もって対処することが可能となる。
【0033】
次に、上述のような記録エリア間のズレ量を得るための動作を説明する。また、複数の記録エリア300により形成する媒体において複数の記録エリアのセクタ301を順次トラッキングしていくセクタ配列を決定する。
【0034】
本実施形態では、例えば、磁気記録媒体は装置内で固定とし、図1と同等の装置を用いて媒体製造時等に記録エリア間のズレ量を計測する。即ち、上述のような隣接する記録エリアのセクタ間のズレ量は全ての隣接する記録エリアのセクタ間において取得し、記録エリアのセクタアドレスに対応させて媒体の一部に記録しておく。
【0035】
その場合、上述のセクタ配列を利用して記録エリアのセクタアドレスとズレ量とを対応付けておく。例えば、後述する図5(b)を例にとると、セクタ配列情報のセクタbのアドレスとセクタb、c間のズレ量を対応付けておく。或いはセクタdのアドレスとセクタd、e間のズレ量を対応付けておく。このセクタ配列は磁気記録媒体のセクタ管理に用いることが可能である。
【0036】
具体的には、まず、基準となる記録エリア300を設定し、更にその内部において特定のセクタ301に磁気ヘッドがオントラックした状態にし、そのセクタ301を基準点とする。例えば、基準点は最内周の先頭セクタとする。
【0037】
その状態から徐々に磁気記録ヘッドの位置をずらしていき、基準点からどの程度半径が異なり、どの程度回転した位置でセクタアドレスが認識できたかというデータを逐一取得する。つまり、例えば、磁気記録媒体の一つの記録エリアの最内周の先頭セクタを基準点として媒体を回転させ、その状態で磁気ヘッドによりその半径位置において読み取ることができたセクタアドレスを取得する。セクタアドレスは磁気ヘッドの出力から図示しないアドレス検出回路で検出する。トラッキングは非動作とする。
【0038】
磁気記録媒体の1周分のアドレス取得動作を終了すると、磁気ヘッドを外周方向に所定量だけ移動させ、同様に磁気ヘッドによりその半径位置において読み取ることができたセクタアドレスを取得する。以下、同様に磁気ヘッドを所定量ずつ外周方向に移動させて、各々の半径位置において読み取ることができたセクタアドレスを取得する。そしてこの動作を最外周のセクタまで続け、媒体の全領域に渡って読み取ることができたセクタアドレスを取得する。もちろん、これとは逆にトラック最外周のセクタから磁気ヘッドを内周側へ所定量ずつ移動させても良い。
【0039】
セクタアドレスは図3に示すサーボマーク領域302に含まれている。その場合、例えば、磁気ヘッド103をトラック幅の1/10ステップずつ外周方向に送っていくことが好ましい。
【0040】
この操作が終了した時点で図5(b)に模式的に示すマップが得られ、記録エリア300間で生じているズレ量δとγとψとη(図4参照)の算定に必要な情報の取得が完了する。演算処理部105は取得した情報に基づいてズレ量を算出する。図5(b)は横軸が媒体のダウントラック方向、縦軸がクロストラック方向とし、上述のようなアドレス取得動作に基づき読み取ることができたセクタをプロットしたものである。
【0041】
図5(b)に黒塗りで示すセクタ配列は一番磁気ヘッドの駆動変化が最小となる一つのセクタ配列を示す。記録エリア間にズレがあるが、後述する本発明の磁気ヘッドの駆動方法を用いてトラッキングが可能である。実際の駆動時にはこのセクタ配列で磁気ヘッドを制御して記録や再生を行う。なお、図5は1つの記録エリアに2つのセクタが配置された例を示すが、セクタ数はこの限りではない。
【0042】
次に、各ズレ量の算出方法を図6、図7を参照して説明する。例えば、媒体のトラックピッチ50nm、媒体回転速度6000rpmとし、媒体半径8mmの位置で隣接する記録エリアのセクタ間におけるズレ量を算出するものとする。
【0043】
また、図6(a)は図5(b)と同様のセクタマップであり、隣接する記録エリアにおけるセクタfとセクタg間のズレ量を求める例を説明する。図6(b)は磁気記録媒体(この場合はディスク状媒体とする)上のセクタfとセクタgの位置を模式的に示すものである。
【0044】
図6(c)はセクタfの最後部とセクタgの最前部の座標位置を示す。図6(c)では図6(a)のセクタfに隣接するセクタeの最後部の座標位置と、セクタgに隣接するセクタhの最前部の座標位置を示す。但し、セクタeとhの座標位置は実際の座標位置よりも隣接セクタに近づけて示す。
【0045】
まず、各セクタはそれが位置する半径位置と基準点からの回転角にて位置が確定する。図6(b)に示すように回転角θは基準点からの角度であり、時間で表される角度に換算して表すことができる。つまり、例えば、回転角は半径8mm、回転速度6000rpmの時に5026.54816mm/secで飛行していることから、基準点からの飛行時間と角度は同値である。
【0046】
例えば、図6(a)に示すセクタマップが得られたとし、媒体の半径8mmの位置で隣接する記録エリア間のセクタfとセクタgを例とする。その場合、セクタfの最後部が丁度72度であれば半径方向に2ステップ(1ステップは5nm)ずれ、7.96nsecの飛行時間差があることが図6(a)から読み取れ、図6(c)に示すように以下の座標が得られる。
【0047】
セクタfの最後部座標(r:t)=(8.000000mm:2000000.00nsec)
セクタgの最前部座標(r′:t′)=(8.000010mm:2000007.96nsec)
従って、ズレ量δ=r′−r=10nm
ズレ量γ→7.96nsecの飛行時間(5026.548(mm/sec)×7.96(nsec)=40nmの長さに相当)
として得られる。
【0048】
次に、ズレ量ψとηに関して図7を用いて説明する。図7(a)は図5(b)と同様のセクタマップである。図7(b)は図6(c)と同様にセクタfとgの座標位置を示す。図7(b)では同様にセクタfに隣接するセクタeの座標位置と、セクタgに隣接するセクタhの座標位置を示す。
【0049】
ズレ量ψに関して説明する。図7(a)のセクタfが含まれる記録エリアの最後部とセクタgが含まれる記録エリアの最前部の成す角と、セクタfの最後部のベクトルとセクタgの最前部ベクトルの成す角とは同値である。図7(a)から前者の成す角が読み取れ、図7(a)、図7(b)に示すように記録エリアに沿う線が半径0地点で角を成すことが判明する。
【0050】
よって、半径8mmとズレ量γ=40nmから、sinψ=40nm/8nm ∴ψ=0.000286°が算出できる。
【0051】
ズレ量ηに関しては、セクタfの速度は半径8.000000mmにおけるものであるから、2×8.000000mm×π×6000rpm/60=5026.54816mm/secの速度である。
【0052】
またセクタgの速度は半径8.000010mmにおけるものであるから、2×8.000010mm×π×6000rpm/60=5026.55444mm/secの速度である。双方の差がズレ量ηであるから、∴η=0.006283mm/secが算出できる。
【0053】
演算部処理部105はこのようにして全ての隣接する記録エリア境界におけるセクタ間のズレ量δ、γ、ψ、ηを算出する。得られたズレ量は上述のように媒体の所定領域に記憶させておく。セクタ配列情報も記憶させておく。
【0054】
ここで、図5(a)に示すセクタアドレスの取得結果は、規則パターン等のない媒体にサーボマークやセクタアドレスが書き込まれたものをスキャンした時の概念図である。つまり、このような一様な磁気記録媒体に後から書き込まれたものには、当然、本発明で言うところのズレは存在しない。
【0055】
本発明に係る磁気記録媒体において上述のように図5(b)に示す情報を元に一番磁気ヘッドの駆動変化が最小となるセクタ配列500の情報を生成する。生成したセクタ配列500は従来で言う同一トラック内のセクタ301となる。
【0056】
なお、本発明は一つのトラックを形成するのに一周で各セクタ301にトラッキングする場合に限らず、複数周ですべてのセクタ301にアクセスするようなセクタ配列500の情報の生成も可能である。
【0057】
例えば、一周でズレ量を補正しながら駆動する場合には、セクタ配列500の情報は図5に従えば、a→b→c→d→e→f→g→h→…という順序になる。しかしながら、図5(c)に示すようにa→b→e→f→…c→d→g→h→…という順に2周で完結しても良い。
【0058】
即ち、例えば、図5(c)においてセクタb、c間のズレ量が大きく、セクタbからセクタcへのトラッキングが1周目でスムーズでない場合には、2周目でセクタbからセクタcへのトラッキングを行っても良い。これは、上述のようなセクタ配列情報に加えてトラッキング順序を示す情報を保持し、それに基づいて行えば良い。
【0059】
また、図5(b)にも示すように記録エリア300間のズレ方によりズレ量403(γ)が+(セクタが重ならない)の場合、−(セクタが重なる)の場合があり得る。−であることは、図5(b)のマップが得られた段階で判定でき、擬似的に短くなったセクタの長さも算出できる。
【0060】
次に、媒体の隣接する記録エリア境界のセクタ間を磁気ヘッドが移動する際の磁気ヘッドの制御方法について説明する。その場合、上述のようなズレ量に基づいて磁気ヘッドの駆動方向を制御する。
【0061】
まず、図6、図7で説明したように隣接する記録エリア境界のセクタfとセクタg間を磁気ヘッドが移動する場合の例を説明する。この場合のズレ量は上述のようにズレ量δ=10nm(飛行時間7.96nsec)、ズレ量γ=40nm、ズレ量ψ=0.000286°、ズレ量η=0.006283mm/secとする。
【0062】
まず、本発明においては、隣接する記録エリア境界のズレが生じているセクタ間に磁気ヘッドが差し掛かった場合には、上述のようなセクタ間のズレ量に基づいて磁気ヘッドの駆動を修正する。これは、図示しない磁気ヘッド制御部にてヘッド駆動機構104を制御することで行う。
【0063】
例えば、磁気ヘッドの位置座標をセクタfの最後部の座標(r:t)=(8.000000mm:2000000.00nsec)とする。また、磁気ヘッドが移動すべき次の記録エリアに属するセクタgの最前部の座標(r′:t′)=(8.000010mm:2000007.96nsec)とする。
【0064】
その場合、図示しない磁気ヘッド制御回路においてヘッド駆動機構104を制御し、磁気ヘッド103を媒体101の半径方向に7.96nsecの間に10nm変位させる。なお、磁気ヘッドの制御においてズレ量δ=10nm、ズレ量γは上述のように7.96nsecの飛行時間に相当する。
【0065】
次の瞬間から、ズレ量ψ=0.000286°、ズレ量η=0.006283mm/secを用いて磁気ヘッドを制御する。即ち、磁気ヘッドをセクタgが属する記録エリア内での駆動方向に逐次変位させる。この例では、磁気ヘッドの駆動方向はセクタfが属する記録エリアと同じとなる。何故なら、γ値40nmに対してψ0.000286°は媒体の周方向に完全に一致するからである。
【0066】
具体的には、ψがsin−1(γ/r)である時、周方向と同一であり、ψ−sin−1(γ/r)が0とみなせない場合には、周方向から角度ψ−sin−1(γ/r)方向に駆動する。その場合、ベクトル1の座標とηよりベクトル2の速度ベクトルを復調し、2πr×(回転数/60)mm/sec+ηを得る。
【0067】
更に、ベクトル2が属する記録エリア内のセクタ列を逐次ψ−sin−1(γ/r)方向に通常のトラッキングを行う。以下、全ての隣接する記録エリア境界のセクタ間を磁気ヘッドが移動する場合には、同様に磁気ヘッド制御部において対応するセクタ間のズレ量に基づいて磁気ヘッドの制御を行う。
【0068】
本発明は、パターン形成に伴う問題点を解決するものであり、セクタ内に位置する規則配列した磁性粒子はセクタに沿って配列しており、媒体が回転運動の場合には周方向に並進運動の場合には駆動方向に平行に配列しているという特徴と有する。従って、従来の媒体ではこのような問題点が生じず、一部の不具合を有するため使用不可能なセクタを飛ばして駆動する等の補正駆動とは異なる。
【0069】
以上から、本発明のセクタ配列とズレ量を用いて磁気ヘッドを制御すれば、ズレを内在するパターンド媒体でもトラッキングが可能である。従って、それを適用した磁気記録再生装置を実現することが可能となる。
【0070】
なお、セクタ配列情報を用いてセクタアドレスとズレ量を対応付けると説明したが、本発明はこの限りではない。即ち、全てのセクタ配列情報が必要ではなく、記録エリアの最後のセクタアドレスに対して、それに隣接する記録エリアの最初のセクタとのズレ量を対応付ければ良い。
【0071】
また、上述のような媒体の記録エリア間のズレ量は媒体製造時に取得し、媒体の所定領域に記録しておく。ユーザは装置の電源投入時等に媒体からズレ量をメモリ部に読み出して使用する。その場合、図1の装置において電源投入時等に磁気記録媒体101からズレ情報をメモリ部106に読み出す。
【0072】
演算処理部105はズレ情報に基づいて磁気ヘッド103の駆動方向等の演算を行い、磁気ヘッド制御部はそれに基づいて磁気ヘッド103の制御を行う。もちろん、演算処理部105の演算結果を記憶させておき、以下の動作においてはその演算結果を用いて磁気ヘッドを制御しても良い。
【0073】
図8は本発明の磁気記録再生装置を用いた情報処理装置の一実施形態を示す概念図である。本発明に係る磁気記録再生装置601、メモリ部603、演算部602、外部入出力部605、電源604、これらをつなぐ配線606を格納容器600に収めて情報処理装置を構成する。配線606は有線、無線の関係なく、情報のやり取りが可能であればその役割を果たすものである。
【実施例】
【0074】
次に、本発明の実施例について説明する。
【0075】
(実施例1)
実施例1はズレ量δとγとψとηの決定に関するものである。まず、1インチサイズの基板を準備し、それに対してインプリントしてパターンド媒体に必要な凹凸を形成するモールドを準備する。
【0076】
ここで使用するフルサイズモールドは、45度の扇型のモールド8個を利用して形成する。次に、インプリントにより1インチにパターンを転写し、その上に磁性膜を形成してパターンド媒体とする。その時のトラックピッチは50nmのものを準備する。そして、上述のような記録エリア間のズレ量を得るためのデータ収集を、例えば、媒体回転速度6000rpmにて行う。
【0077】
その場合、図1と同等の構成の装置を用いて隣接する記録エリア間のズレ量を得るための操作を行うが、詳しい操作は上述した通りであるので説明は省略する。本実施例では媒体のトラックピッチは50nmであるので、磁気ヘッドを最内周のセクタから5nm(トラック幅の1/10のステップ)ずつ外周方向に移動させる。そして上述のように媒体の各々の半径位置のセクタにて得られる信号の中からセクタアドレスが読み取れているものに関して位置情報を取得する。
【0078】
この操作が終了した時点で図5(b)に模式的に示すマップが得られ、隣接する記録エリア境界のセクタ間で生じているズレ量δとγとψとηの算定に必要な情報の取得が完了する。各ズレ量の算出方法は上述の通りである。
【0079】
例えば、媒体の半径8mmにおけるセクタ間においてズレ量δ=10nm、7.96nsecのズレがあるとズレ量γ=40nm、ψ=0.000286度、η=0.06283mm/secが得られたものとする。
【0080】
(実施例2)
実施例2は同一トラックとみなせるセクタ配列に関するものである。実施例1で得られるセクタアドレスマップに対して隣接する記録エリア間にてズレ量δが最小となるようにセクタを関連付ける。それにより、図5(b)に示す概念図の黒塗りセクタを選択してセクタ配列を決定する。以上から、セクタ配列情報とズレ量の情報を予め取得することが可能である。
【0081】
(実施例3)
実施例3はメモリ部に格納された記録エリア間のズレ量から磁気ヘッドを制御する例を示すものである。図1の磁気記録再生装置において実施例1で得られたズレ情報をメモリ部106に保存する。即ち、予め媒体の所定領域に記録されているズレ情報を読み出し、メモリ部106に記憶させる。同時に媒体に記録されているセクタ配列情報も読み出し、ズレ情報と対応付けておく。
【0082】
実際の駆動時には、上述のように隣接する記録エリア境界のセクタ間を磁気ヘッドが移動する場合には、該当するズレ量に基づいて磁気ヘッドの駆動を制御する。演算処理部105はズレ量に基づいて磁気ヘッドの駆動方向の演算処理を行う。具体的な磁気ヘッドの制御方法は詳しく説明したので省略する。
【0083】
なお、本発明は予めセクタ間のズレ量から磁気ヘッドの駆動すべき変数に変換した情報をメモリ部に格納し、それに基づいて磁気ヘッドを制御しても良い。
【0084】
以上から、パターン形成された磁気記録媒体において、内部にパターンのズレが存在する場合にも、上述のようにズレ量に基づいて磁気ヘッドを制御することでトラッキングを行うことが可能となる。また、このようなシステムにて磁気記録再生装置を構成することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】本発明に係る磁気記録再生装置の一実施形態を示す構成概念図である。
【図2】本発明に係る磁気記録媒体を示す模式図である。
【図3】媒体内のトラック内でのズレを説明する概念図である。
【図4】本発明に係るセクタ間のズレの表記を説明する模式図である。
【図5】本発明に係るズレ量の取得方法を説明する模式図である。
【図6】ズレ量δとγの算出方法を説明する図である。
【図7】ズレ量ψとηの算出方法を説明する図である。
【図8】本発明の磁気記録再生装置を用いた情報処理装置を示す概念図である。
【符号の説明】
【0086】
100 筐体
101 磁気記録媒体
102 媒体駆動機構
103 磁気ヘッド
104 ヘッド駆動機構
105 演算処理領域
106 メモリ領域
200 トラック
300 記録エリア
301 セクタ
302 サーボマーク領域
303 記録セル領域
400 ベクトル1
401 ベクトル2
402 ズレ量δ
403 ズレ量γ
404 ズレ量ψ
405 ベクトル1の大きさ
406 ベクトル2の大きさ
500 セクタ配列

【特許請求の範囲】
【請求項1】
記録エリアが複数配置され、前記複数の記録エリアのセクタを接続することによって構成した磁気記録媒体に対して情報を記録又は再生する磁気記録再生装置において、隣接する記録エリア境界におけるセクタ間の位置ズレ情報を記憶する記憶手段と、磁気ヘッドが前記記録エリア境界のセクタ間を移動する際に前記記憶手段に記憶している位置ズレ情報に基づいて前記磁気ヘッドを制御する制御手段とを備えたことを特徴とする磁気記録再生装置。
【請求項2】
前記位置ズレ情報は、前記記録エリアのセクタ最後における磁気ヘッドの媒体に対する相対速度ベクトルと垂直で媒体面に対して平行方向のズレ量δ、
前記記録エリアのセクタ最後における磁気ヘッドの媒体に対する相対速度ベクトルと平行で媒体面に対して平行方向のズレ量γ、
前記記録エリアのセクタ最後における相対速度ベクトルと前記記録エリアに隣接する記録エリアの最初のセクタ最前における相対速度ベクトルの始点を平行移動により重ねた場合の成す角ψ、
前記記録エリアのセクタ最後における相対速度ベクトルと次のセクタの最前における相対速度ベクトル間の大きさの違いのズレ量ηであることを特徴とする請求項1に記載の磁気記録再生装置。
【請求項3】
前記媒体の最内周又は最外周のセクタから半径方向に予め決められたピッチずつ前記磁気ヘッドを移動させて各半径位置においてセクタアドレスが読み取れたものに関して位置情報を取得し、その結果に基づいて前記位置ズレ情報を算出することを特徴とする請求項2に記載の磁気記録再生装置。
【請求項4】
前記位置情報の取得結果に基づき前記磁気ヘッドのクロストラック方向の駆動範囲が最小となるセクタ配列が設定され、当該セクタ配列をアドレス情報として前記位置ズレ情報が対応付けられていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の磁気記録再生装置。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の磁気記録再生装置を有する情報処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−159141(P2008−159141A)
【公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−345893(P2006−345893)
【出願日】平成18年12月22日(2006.12.22)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】