説明

磁気記録媒体およびその製造方法

【課題】高い磁気記録密度を有する、新規なディスクリートトラック媒体およびその製造方法を提供する。
【解決手段】 本磁気記録媒体は、軟磁性層とその上にある磁気記録層と磁気記録層の直下にある中間層とを有する円板状の磁気記録媒体であって、磁気記録層が、磁気記録媒体の半径方向に複数ならんだ磁気記録トラックを有し、中間層の上面において円板の半径方向に凹凸を繰り返すように設けられた凹部と凸部とにより、各磁気記録トラックが、円板の半径方向において互いに分離されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はハードディスク装置等の情報記録再生装置に使用される磁気記録媒体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、磁気記録再生装置の小型化・大容量化が急速に進んでいる。磁気記録再生装置に用いる磁気記録媒体の磁気記録密度を高めるには、磁気記録媒体のノイズを低減することが必須であり、そのためには、磁気記録層に用いる硬磁性体の粒径を微細かつ均一化することが必要である。また、円板状の磁気記録媒体の場合、磁気記録密度は、径方向の磁気記録トラック密度と線記録密度と呼ばれる周方向の密度によって決定されるので、磁気記録媒体の磁気記録密度の向上には、径方向の磁気記録トラック密度を大きくすることも重要である。径方向の磁気記録トラック密度を高める手法としては、これまで、ディスクリートトラック媒体と呼ばれる磁気記録媒体が提案・研究開発されている。これは、隣り合う磁気記録トラック間を分離することにより、狭磁気記録トラック化を図る構造の磁気記録媒体である(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平4−310621号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】特開2000−54012号公報(特許請求の範囲)
【非特許文献1】Sunら,「ジャーナル・オブ・アプライドフィジックス(Journal of Applied Physics)」,1999年,第85巻,p.4325
【非特許文献2】「サイエンス(Science)」,2000年,第287巻,p.17
【非特許文献3】本間敬之,「ウエットプロセスによる機能ナノ構造薄膜形成」,日本応用磁気学会誌,2005年,第29巻,No.12,p.1035−1040
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記のように磁気記録層の磁気記録トラック間を分離するための手段として、磁気記録層を非磁性体で構造的に分断する構造と、裏打ち層(または軟磁性層)の軟磁性体を分断して、磁気記録トラック間を磁気的に分離する構造とが提案されている。後者の場合は、軟磁性層を構造的に分断しているため、磁気記録層は、分断せずに連続膜を形成する構造である。
【0004】
両者に共通する点としては、分断の目的で非磁性体上や裏打ち層の下の基板の表面に凹凸を設ける点がある。このため、最終的には、磁気記録層表面を、磁気ヘッドが滑らかに浮上し運動し得るように平坦化する工程が必ず必要である。
【0005】
たとえば、磁気記録層を非磁性体で分断するタイプでは、たとえば、中間層を形成した後に、レジストパターン等で凹凸を設け、その後、レジスト剥離、非磁性材料の成膜、スパッタ法等による磁気記録層の成膜、平滑化の研磨等の工程が必要になる。
【0006】
一方、裏打ち層を分断する構造では、たとえば、レジストパターンにより基板に凹凸を設け、その後、裏打ち層成膜、レジスト剥離、非磁性材料の成膜、平滑化、研磨、スパッタ法等による磁気記録層の成膜の工程が必要になる。
【0007】
すなわち、いずれの方法でも研磨工程等が必要となる。作製方法の詳細は、ここに示した一例とは、異なる場合もあり得るが、このような事情は、上記二つの方法で変わるところはない。
【0008】
しかしながら、磁気ヘッドの浮上高さは、約10nm程度で有り、この浮上高さに対して必要とされる磁気記録層表面(スパッタ膜表面)の平滑性を研磨工程で実現することは、非常に困難である。仮に、得られたとしても、非常に多くの工程と製造設備を必要とし、採算面に大きな問題を抱えることになる。
【0009】
本発明は、上記問題を解決し、高い磁気記録密度を有する、新規なディスクリートトラック媒体およびその製造方法を提供することを目的としている。本発明のさらに他の目的および利点は、以下の説明から明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様によれば、軟磁性層とその上にある磁気記録層と当該磁気記録層の直下にある中間層とを有する円板状の磁気記録媒体であって、
当該磁気記録層が、当該磁気記録媒体の半径方向に複数ならんだ磁気記録トラックを有し、
当該中間層の上面において当該円板の半径方向に凹凸を繰り返すように設けられた凹部と凸部とにより、各磁気記録トラックが、当該円板の半径方向において互いに分離されている、
磁気記録媒体が提供される。
【0011】
本発明態様により、高い磁気記録密度を有する、新規なディスクリートトラック媒体が得られる。
【0012】
前記中間層の上面において前記円板の周方向に設けられた凹部と凸部とにより、前記磁気記録トラックが前記円板の周方向にも分離されている部分を有すること、前記凸部がカーボンよりなること、前記磁気記録層に用いられる磁性粒子の平均粒径が2〜15nmの範囲にあること、前記磁性粒子の表面が、微粒子同士が自己組織的に引きつけ合うように表面処理されたものであること、前記磁性粒子がFePtナノ粒子であること、および、前記中間層が、1層以上の非磁性体材料で構成されたものであることが好ましい。
【0013】
本発明の他の一態様によれば、軟磁性層とその上にある磁気記録層と当該磁気記録層の直下にある中間層とを有する円板状の磁気記録媒体の製造方法であって、
当該中間層の上面に、当該円板の半径方向に凹凸を繰り返す凹部と凸部とを設け、
当該凹部に磁性粒子を自己組織的に充填させる
ことを含む、磁気記録媒体の製造方法が提供される。
【0014】
本発明態様により、高い磁気記録密度を有する、新規なディスクリートトラック媒体を製造することができる。研磨工程を排し、あるいはその負担を軽減することも可能である。
【0015】
前記中間層の上面において前記円板の周方向に凹部と凸部とを設けることを含むこと、前記凸部の上面を、前記磁性粒子と反発し合うように、親水性または疎水性に処理することを含むこと、前記凸部の上面を親水性に処理し、前記凹部に充填されるときに、前記磁性粒子が分散安定剤に囲まれており、当該分散安定剤の疎水性基が外側に向いている状態であるようにすること、前記中間層の少なくとも最上部にカーボンからなる層を設け、当該カーボン層上にレジストパターンを形成し、エッチングにより、当該カーボン層をエッチングして、前記中間層の上面における凹部を設け、その後当該レジストパターンを部分的に除去して、前記中間層の上面における凸部を設けることを含むこと、前記磁性粒子の平均粒径が2〜15nmの範囲にあること、前記磁性粒子の表面が、微粒子同士が自己組織的に引きつけ合うように表面処理されたものであること、前記磁性粒子がFePtナノ粒子であること、および、前記中間層が、1層以上の非磁性体材料で構成されたものであることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明により、高い磁気記録密度を有する、新規なディスクリートトラック媒体およびその製造方法が得られる。本発明によれば、円板状の磁気記録媒体の半径方向における磁気記録密度を向上させることができる。周方向(または円板の回転方向またはビット方向)における磁気記録密度を向上させることも可能である。研磨工程を排し、あるいはその負担を軽減することも可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下に、本発明の実施の形態を図、実施例等を使用して説明する。なお、これらの図、実施例等および説明は本発明を例示するものであり、本発明の範囲を制限するものではない。本発明の趣旨に合致する限り他の実施の形態も本発明の範疇に属し得ることは言うまでもない。図中、同一の符号は同一の要素を表す。
【0018】
本発明に係る磁気記録媒体は、いわゆるディスクリートトラック媒体と呼ばれるものであり、軟磁性層とその上にある磁気記録層と当該磁気記録層の直下にある中間層とを有する円板状の磁気記録媒体であって、当該磁気記録層が、当該磁気記録媒体の半径方向に複数ならんだ磁気記録トラックを有し、当該中間層の上面において当該円板の半径方向に凹凸を繰り返すように設けられた凹部と凸部とにより、各磁気記録トラックが、当該円板の半径方向において互いに分離されている。すなわち、磁気記録層が、中間層の一部である凸部により構造的に分断されている。このようにして、円板状の磁気記録媒体の半径方向における磁気記録密度を向上させることができる。
【0019】
この様子を従来の方式と比較して図1〜5に示す。図1〜3中のX矢印は図4におけるB矢印方向(半径方向)に該当し、図1〜3中のY矢印は図4におけるA矢印方向(周方向)に該当する。
【0020】
図1は、ディスクリートトラック媒体の一部で、基板1上の軟磁性層2を非磁性部分5で構造的に分断している様子を表す斜視図である。この非磁性部分5のおかげで、中間層3の上にある磁気記録層4には、図4(円板状の磁気記録媒体の平面図)の磁気記録媒体1上における磁気記録トラック6の境界部分7が、円板の周方向(矢印Aの方向)に円形に形成されることになる。これによって、磁気記録トラック6は半径方向に複数ならんで形成される。
【0021】
図2は、ディスクリートトラック媒体の一部で、中間層3の上にある磁気記録層4が、非磁性部分8により構造的に分断している様子を表す斜視図である。この場合には、非磁性部分8のおかげで、磁気記録層4には、図4の磁気記録媒体1上における磁気記録トラック6の境界部分7が、円板の周方向に円形に形成されることになる。これによって、磁気記録トラック6は半径方向に複数ならんで形成される。
【0022】
これに対し、図3は、ディスクリートトラック媒体の一部で、本発明に係る中間層3の一部である凸部9により磁気記録層4が構造的に分断された様子を示す斜視図である。この凸部9のおかげで、磁気記録層4には、図4の磁気記録媒体1上における磁気記録トラック6の境界部分7が円板の周方向に円形に形成される。これによって、磁気記録トラック6は半径方向に複数ならんで形成される。なお、図4には、磁気記録トラック6が一つ、境界部分7が二つだけ示されている。
【0023】
図5は、図3のY矢印方向から見た断面図である。図5から、本発明に係る中間層3の上面が凸部9と凹部10との繰り返しからなっており、各磁気記録トラック6が、当該円板の半径方向において凸部9により互いに分離されていることが理解される。図3,5には磁性粒子が1層で示されているが、本発明はこれに限定されるわけではなく、複数層の磁性粒子からなる磁気記録層4であってもよい。
【0024】
なお、図3には、凸部9と直交する凸部11も示されている。本発明に係る凸部は所望の方向に容易に作製できるため、この場合の凸部11のように、円板の周方向(矢印Aの方向)で磁気記録トラックを分離する境界部分(図4には示されていない)を形成することができる。このような境界部分は、多く設けすぎると磁性粒子のない部分が増えるため、円板の周方向における磁気記録密度を低下させる要因になるが、磁気記録層中に磁性体が何らかの規則性を持って配列しており、その配列に乱れが生じた場合には、その乱れの伝播を防ぐ目的で適切な数だけ設ければ、全体としては円板の周方向における磁気記録密度を向上させることになり、有利になり得る。
【0025】
本発明に係る磁気記録媒体は、必要に応じて上記以外の層を含んでいてもよい。たとえば軟磁性層と基板との間にはTiよりなる密着層を設けることができる。また、磁気記録層上には、通常、保護膜や潤滑層を設けられる。本発明において、基板、軟磁性層および必要に応じて設けられるその他の層の材質については特に制限はなく、公知の材料から適宜選択することができる。
【0026】
本発明に係る中間層は、磁気記録層の直下にある非磁性材料からなる層を指す。通常、軟磁性層と磁気記録層の直接接触による磁気的相互作用を抑えるために設けられるものであるが、その他の目的を有していても、本発明に係る凹凸を造る目的だけに設けられていてもよい。本中間層を構成する材料としては、この目的に適う非磁性材料であればどのようなものからでも適宜選択することができるが、磁気記録層に使用する材料との関係からすれば、その材料に対し親和性を有することが好ましい。たとえば、磁気記録層に使用する材料が疎水性を有する場合には、親水性でないものや疎水性のものが好ましい。
【0027】
本発明に係る中間層は磁気記録層の直下にある。ただし、中間層の全体が磁気記録層の直下にある訳ではなく、図5の凸部9と磁気記録トラック6との関係に示されるように、中間層の凸部は磁気記録層と同一の面を形成する。
【0028】
本発明に係る中間層は1層からなっていてもよいが、2層以上の非磁性体材料で構成されたものであってもよい。その場合には、最上層のみに上記凹凸が形成されていてもよい。また、最上層が凸部のみであってもよい。
【0029】
本中間層を構成する具体的な材料としては、ルテニウム(Ru),カーボン,プラチナ(Pt)、ロジウム(Rh)等を例示することができる。磁気記録層に使用する材料に対し親和性が高いことが多いことおよび、凹凸の加工が容易であること等から、少なくとも凹凸を設ける部分についてはカーボンが特に好ましい。
【0030】
凹部と凸部の高低差(すなわち凹部の深さ)や幅は、目的に応じて適宜定めることができる。後述するナノ磁性粒子を磁気記録層の磁性体として使用する場合には、1層分〜20層分の厚さに相当する範囲の凹部と凸部の高低差が好ましい場合が多い。
【0031】
本発明に係る磁気記録層に用いる磁性粒子については特に制限はなく、公知のの硬磁性の磁性微粒子から適宜選択することができるが、上記凹部に充填されることが必要であり、平均粒径(直径)が2〜15nmの範囲のものが好ましい。なお、平均粒径はX線回折法や、透過型電子顕微鏡等で測定することができる。
【0032】
また、上記凹部に規則的に充填され、したがって高い磁気記録密度を期待し得るという観点からは、磁性微粒子の表面が、微粒子同士が自己組織的に引きつけ合うように表面処理されたものであることが好ましい。ここで「微粒子同士が自己組織的に引きつけ合う」とは、微粒子または微粒子を含む材料(たとえば分散剤で囲まれた状態の微粒子)を上記中間層上に何らかの方法で堆積させた場合に、いわゆる自己組織膜のように、微粒子同士が互いに引きつけ合って、何らかの規則性を持って並ぼうとすることを意味する。ただし、互いに引きつけ合っているかどうかを確認する必要はなく、微粒子または微粒子を含む材料を上記中間層上に何らかの方法で堆積させた場合に、微粒子同士が何らかの規則性を持って並んでいれば、本発明に係る「微粒子同士が自己組織的に引きつけ合う」の要件を満たしていると考えてよい。このような磁性微粒子としてはFePtナノ粒子が好ましい。
【0033】
上記の構造を有する磁気記録媒体は、軟磁性層とその上にある磁気記録層と当該磁気記録層の直下にある中間層とを有する円板状の磁気記録媒体の製造方法であって、当該中間層の上面に、当該円板の半径方向に凹凸を繰り返す凹部と凸部とを設け、当該凹部に磁性粒子を自己組織的に充填させることを含む、磁気記録媒体の製造方法で製造することができる。この製造方法により、円板状の磁気記録媒体の半径方向における磁気記録密度を向上させることができる。また、研磨工程を排し、あるいはその負担を軽減することも可能である。中間層の上面において円板の周方向に凹部と凸部とを設けることにより、周方向における磁気記録密度を向上させることも可能である。
【0034】
本製造方法に使用する、軟磁性層、磁気記録層、中間層およびその他の層ならびにこれらの層を形成する材料に関する要件や好ましい態様については上記磁気記録媒体に関する要件や好ましい態様と同様である。
【0035】
軟磁性層、磁気記録層、中間層を作製する方法についても特に制限はなく、公知の方法から適宜選択することができる。軟磁性層については、スパッタ法、電界メッキ法等の方法を、磁気記録層については、スパッタ法、真空蒸着法、微粒子を含むスラリを塗布し、微粒子同士が自己組織的に引きつけ合う性質を利用して層を形成する方法を、中間層については、カーボンやルテニウムやプラチナを使用する場合のスパッタ法、蒸着法等の方法を例示することができる。
【0036】
本発明に係る凹凸の作製方法については特に制限はなく、公知の方法から適宜選択することができる。たとえばドライエッチング、ウエットエッチング、金型などによるプレス法を例示することができる。
【0037】
本方法においては、凸部の上面を、使用する磁性粒子と反発し合うように、親水性または疎水性に処理することが好ましい。このようにすると、凸部上面が磁性粒子と反発し合うため、中間層上に磁性粒子を載置するだけで、選択的に凹部に磁性粒子を充填させることが容易になる。親水性または疎水性に処理する方法には特に制限はない。親水性または疎水性の物質の膜を、凸部の上面への塗布等により作製する方法を例示することができる。
【0038】
より具体的には、凸部の上面を親水性に処理し、凹部に充填されるときに、磁性粒子が分散安定剤に囲まれており、分散安定剤の疎水性基が外側に向いている状態であるようにすることが好ましい。分散安定剤の疎水性基が外側に向いている状態とは図6に模式的に示すように、磁性粒子61の周りにある分散安定剤62の外側に疎水性基63がある状態を意味する。分散安定剤62の内側には通常親水性基64が存在する。このようになっていれば、疎水性基63が親水性の凸部上面と反発し合うため、選択的に凹部に磁性粒子を充填させることが容易になる。
【0039】
本発明に係る具体的な製造方法としては、中間層の少なくとも最上部にカーボンからなる層を設け、カーボン層上にレジストパターンを形成し、エッチングにより、カーボン層をエッチングして、中間層の上面における凹部を設け、その後レジストパターンを部分的に除去して、中間層の上面における凸部を設けることを含む方法を挙げることができる。
【0040】
カーボン層はプラズマエッチング等でエッチングして容易に凹凸を形成できる。また、レジストパターンを部分的に除去すれば、その残った部分の親水性または疎水性を利用して、中間層上に磁性粒子を載置する際に、凸部上面が磁性粒子と反発し合うようにすることができる。
【0041】
レジストパターンを部分的に除去するとはレジストパターンの膜厚を薄くするように除去することを意味するが、どのように除去されているかは確認する必要はない。中間層上に磁性粒子を載置するだけで、選択的に凹部に磁性粒子を充填させることが容易にできるかどうかを確認するだけで十分である。部分的除去は、従来からのレジストパターンの除去技術を使用し、処理時間を適宜選択することで行うことができる。
【0042】
本発明に係る磁気記録媒体の製造の手順の一例を示すと図7〜10のようになる。まず、ステップ1に従い、基板1上に、軟磁性層2、Ru層71、カーボン層72を順次形成する。カーボン層72が本発明に係る中間層3に該当する。Ru層71とカーボン層72との両方で本発明に係る中間層3に該当すると考えてもよい。ついで、ステップ2に従い、カーボン層72上にレジスト層73を設ける。自己集積型の単分子レジスト層を形成すれば(たとえば非特許文献3参照。)、非常に薄い層を形成することができる。
【0043】
ついで、ステップ3に従い、レジスト層73に磁気記録トラック形状をパターニングし、その後、ステップ4に従い、たとえば反応性イオンエッチング(RIE)等により、カーボン層72をエッチングし、凹部10を形成する。ついで、ステップ5に従い、レジスト層73が僅かに残るように処理する。これは、たとえばアルカリ処理における処理時間を調整することにより実現することができる。
【0044】
ついで、ステップ6に従い、磁性粒子(たとえばFePtナノ粒子)74をカーボン層72上に載置すると、その凸部9,11では表面に僅かに残ったレジスト層73が磁性粒子と反発するため、凹部10のみに磁性粒子を堆積させることができる。その後、ステップ7に従い、残ったレジスト層73を除去する。その後、ステップ8に従い、磁場中におけるアニーリングにより、図3,5に示すような、磁気記録トラック6が凸部9,11によって分離された磁気記録媒体を得ることができる。
【実施例】
【0045】
次に本発明の実施例および比較例を詳述する。
【0046】
[実施例1](中間層2層構造)
まず、磁気記録層材料として用いるナノ粒子の合成について説明する。ナノ粒子の合成は非特許文献1,2や特許文献2に記載されているスーパーハイドライド法やポリオール法等によって合成することができる。これらの方法では、出発材料を選ぶことで、さまざまな合金を合成することができる。
【0047】
次に、FePtナノ粒子の具体的な合成方法を説明する。アルゴン雰囲気下、ビスアセチルアセトナト白金197mg(0.5mmol)と1,2−ヘキサデカンジオール390mgを入れたフラスコに、ジオクチルエーテル20mLを加え、さらにオレイン酸0.32mL(1.0mmol)、オレイルアミン0.34mL(1.0mmol)を加えた後に、Fe(CO)を0.13mL(1.0mmol)加えて、撹拌しながら230℃で反応させた。
【0048】
30分の反応の後、溶液を室温まで放冷し、エタノール40mLを加えて遠心分離を行い、沈殿をヘキサンに分散させることにより、FePtナノパーティクルの分散液を得た。この条件で得られたFePtナノパーティクルの平均粒径は4.3nmであった。この平均粒径は透過電子顕微鏡で測定した。FePtの組成比は、Fe50原子%,Pt50原子%であった。原材料の混合比を変えることで、Feリッチまたは、Ptリッチのナノ粒子の作成が可能である。なお、この方法で作成したナノ粒子は、分散安定剤(オレイン酸、オレイルアミン)の疎水性基が外側に向いている状態になる。
【0049】
次に、本発明の磁気記録媒体の製造過程を説明する。本実施例では、外径65mm,内径20mmの熱酸化膜付きのSi基板を用いた。
【0050】
まず、Si基板上にTiをスパッタ法により、3nm成膜した。この層は、基板とその上方に形成する層との密着性を上げる役割を持つ。したがって、密着性機能を有する材料であれば、Ti以外の材料も使用できる。
【0051】
次に、軟磁性材料であるFeSiを100nmスパッタ法にて成膜した。次に、Ruを3nm成膜した。次に、カーボンを12nmスパッタ法により成膜した。このRu膜とカーボン膜とが本発明に係る中間層材料を形成することになる。すなわち、このカーボン膜は、本発明に係る「中間層の少なくとも最上部に設けられたカーボンからなる層」に該当する。
【0052】
ここで、形成したカーボン膜にリソグラフィープロセスにより、凹凸を形成した。まず、カーボン膜上に親水性のレジストをスピンコート法により形成した。露光を行った後、不要なレジストを有機溶媒で除去した。ここまでのプロセスにより、親水性のレジスト表面と、レジストがなく、カーボンが露出しているカーボン膜表面よりなるパターンが形成された。次に、プラズマエッチングにより、カーボンが露出しているカーボン膜部分を除去した。これにより、「中間層の上面における凹部」が設けられたことになる。
【0053】
その後レジストを除去した。このとき、厚さで1nm以下のレベルでレジスト残さが残るようにレジストを除去した。これにより、本発明に係る「中間層の上面における凸部」が設けられたことになる。この凸部の上面にはわずかに残ったレジストにより、親水性を有することになる。しかも、この凸部の上面以外には、レジストが残っていないため、凸部の上面のみを親水性にすることができる。
【0054】
このようにして、円板の半径方向に凹凸を繰り返すように設けられた、ドーナツ状の凹部と凸部とを作製した。凸部の幅は10nm、凹部の幅は30nm、凸部と凹部の高低差は16nmであった。
【0055】
次に、スピンコータを用い、上記FePtのナノ粒子を凹部に成膜した。このとき、スピンコート法の条件を最適化して、凸部の高さとナノ粒子を充填した部分の高さが一致するようにした。凸部上面は親水性の処理が施されているため、ナノ粒子の付着性が弱く、スピンコート法の条件を最適化することで、凹部のみにナノ粒子を充填することが可能であった。その後、アッシャーを用いて、わずかに残ったレジストを完全に除去した。
【0056】
次に、外部磁場を基板に対して垂直に印加しながら、真空中、500℃において、30分間の熱処理を行った。これにより、ナノ粒子の磁化容易軸が、外部磁場の印加方向である垂直方向に揃い、垂直配向性が付与された。
【0057】
その後、磁気記録媒体の保護膜機能を付与するために、カーボンを4nmスパッタ法により成膜し、ついで、潤滑剤をディップ法により成膜した。
【0058】
これまで説明したプロセスにより、中間層に互いに分離された磁気記録トラックを設けた磁気記録媒体が製造できた。本発明の分離トラック媒体のトラックピッチは、40nmであるため、635kTPI(Truck per inch)にもおよび、現状の媒体の10倍以上のトラック密度を実現した。
【0059】
なお、上記に開示した内容から、下記の付記に示した発明が導き出せる。
【0060】
(付記1)
軟磁性層とその上にある磁気記録層と当該磁気記録層の直下にある中間層とを有する円板状の磁気記録媒体であって、
当該磁気記録層が、当該磁気記録媒体の半径方向に複数ならんだ磁気記録トラックを有し、
当該中間層の上面において当該円板の半径方向に凹凸を繰り返すように設けられた凹部と凸部とにより、各磁気記録トラックが、当該円板の半径方向において互いに分離されている、
磁気記録媒体。
【0061】
(付記2)
前記中間層の上面において前記円板の周方向に設けられた凹部と凸部とにより、前記磁気記録トラックが前記円板の周方向にも分離されている部分を有する、付記1に記載の磁気記録媒体。
【0062】
(付記3)
前記凸部がカーボンよりなる、付記1または2に記載の磁気記録媒体。
【0063】
(付記4)
前記磁気記録層に用いられる磁性粒子の平均粒径が2〜15nmの範囲にある、付記1〜3のいずれかに記載の磁気記録媒体。
【0064】
(付記5)
前記磁性粒子の表面が、微粒子同士が自己組織的に引きつけ合うように表面処理されたものである、付記4に記載の磁気記録媒体。
【0065】
(付記6)
前記磁性粒子がFePtナノ粒子である、付記4または5に記載の磁気記録媒体。
【0066】
(付記7)
前記中間層が、1層以上の非磁性体材料で構成されたものである、付記1〜6のいずれかに記載の磁気記録媒体。
【0067】
(付記8)
軟磁性層とその上にある磁気記録層と当該磁気記録層の直下にある中間層とを有する円板状の磁気記録媒体の製造方法であって、
当該中間層の上面に、当該円板の半径方向に凹凸を繰り返す凹部と凸部とを設け、
当該凹部に磁性粒子を自己組織的に充填させる
ことを含む、磁気記録媒体の製造方法。
【0068】
(付記9)
前記中間層の上面において前記円板の周方向に凹部と凸部とを設けることを含む、付記8に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【0069】
(付記10)
前記凸部の上面を、前記磁性粒子と反発し合うように、親水性または疎水性に処理することを含む、付記8または9に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【0070】
(付記11)
前記凸部の上面を親水性に処理し、
前記凹部に充填されるときに、前記磁性粒子が分散安定剤に囲まれており、当該分散安定剤の疎水性基が外側に向いている状態であるようにする、
付記10に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【0071】
(付記12)
前記中間層の少なくとも最上部にカーボンからなる層を設け、
当該カーボン層上にレジストパターンを形成し、
エッチングにより、当該カーボン層をエッチングして、前記中間層の上面における凹部を設け、
その後当該レジストパターンを部分的に除去して、前記中間層の上面における凸部を設けることを含む、付記8〜11のいずれかに記載の磁気記録媒体の製造方法。
【0072】
(付記13)
前記磁性粒子の平均粒径が2〜15nmの範囲にある、付記8〜12のいずれかに記載の磁気記録媒体の製造方法。
【0073】
(付記14)
前記磁性粒子の表面が、微粒子同士が自己組織的に引きつけ合うように表面処理されたものである、付記8〜13のいずれかに記載の磁気記録媒体の製造方法。
【0074】
(付記15)
前記磁性粒子がFePtナノ粒子である、付記14に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【0075】
(付記16)
前記中間層が、1層以上の非磁性体材料で構成されたものである、付記8〜15のいずれかに記載の磁気記録媒体の製造方法。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】軟磁性層を非磁性部分で構造的に分断したディスクリートトラック媒体の一部を示す模式的斜視図である。
【図2】磁気記録層を非磁性部分で構造的に分断したディスクリートトラック媒体の一部を示す模式的斜視図である。
【図3】本発明に係るディスクリートトラック媒体の一部を示す模式的斜視図である。
【図4】円板状の磁気記録媒体の平面図(模式図)である。
【図5】図3について、Y方向から見た断面図である。
【図6】磁性粒子の周囲に分散安定剤が配置されている様子を示す模式図である。
【図7】本発明に係る磁気記録媒体の製造の手順の一例を示す、磁気記録媒体の模式的断面図である。
【図8】本発明に係る磁気記録媒体の製造の手順の一例を示す、磁気記録媒体の模式的断面図である。
【図9】本発明に係る磁気記録媒体の製造の手順の一例を示す、磁気記録媒体の模式的断面図である。
【図10】本発明に係る磁気記録媒体の製造の手順の一例を示す、磁気記録媒体の模式的断面図である。
【符号の説明】
【0077】
1 基板
2 軟磁性層
3 中間層
4 磁気記録層
5 非磁性部分
6 磁気記録トラック
7 境界部分
8 非磁性部分
9 凸部
10 凹部
11 凸部
61 磁性粒子
62 分散安定剤
63 疎水性基
64 親水性基
71 Ru層
72 カーボン層
73 レジスト層
74 磁性粒子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軟磁性層とその上にある磁気記録層と当該磁気記録層の直下にある中間層とを有する円板状の磁気記録媒体であって、
当該磁気記録層が、当該磁気記録媒体の半径方向に複数ならんだ磁気記録トラックを有し、
当該中間層の上面において当該円板の半径方向に凹凸を繰り返すように設けられた凹部と凸部とにより、各磁気記録トラックが、当該円板の半径方向において互いに分離されている、
磁気記録媒体。
【請求項2】
前記中間層の上面において前記円板の周方向に設けられた凹部と凸部とにより、前記磁気記録トラックが前記円板の周方向にも分離されている部分を有する、請求項1に記載の磁気記録媒体。
【請求項3】
前記凸部がカーボンよりなる、請求項1または2に記載の磁気記録媒体。
【請求項4】
前記磁気記録層に用いられる磁性粒子の平均粒径が2〜15nmの範囲にある、請求項1〜3のいずれかに記載の磁気記録媒体。
【請求項5】
前記磁性粒子の表面が、微粒子同士が自己組織的に引きつけ合うように表面処理されたものである、請求項4に記載の磁気記録媒体。
【請求項6】
前記磁性粒子がFePtナノ粒子である、請求項4または5に記載の磁気記録媒体。
【請求項7】
軟磁性層とその上にある磁気記録層と当該磁気記録層の直下にある中間層とを有する円板状の磁気記録媒体の製造方法であって、
当該中間層の上面に、当該円板の半径方向に凹凸を繰り返す凹部と凸部とを設け、
当該凹部に磁性粒子を自己組織的に充填させる
ことを含む、磁気記録媒体の製造方法。
【請求項8】
前記凸部の上面を、前記磁性粒子と反発し合うように、親水性または疎水性に処理することを含む、請求項7に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項9】
前記凸部の上面を親水性に処理し、
前記凹部に充填されるときに、前記磁性粒子が分散安定剤に囲まれており、当該分散安定剤の疎水性基が外側に向いている状態であるようにする、
請求項8に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項10】
前記中間層の少なくとも最上部にカーボンからなる層を設け、
当該カーボン層上にレジストパターンを形成し、
エッチングにより、当該カーボン層をエッチングして、前記中間層の上面における凹部を設け、
その後当該レジストパターンを部分的に除去して、前記中間層の上面における凸部を設けることを含む、請求項7〜9のいずれかに記載の磁気記録媒体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−220196(P2007−220196A)
【公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−39197(P2006−39197)
【出願日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】