磁気記録媒体およびその製造方法
【課題】磁気記録媒体における磁気記録面の摩擦係数の上昇を抑制する。
【解決手段】長尺状の非磁性支持体1の一主面上に、ウェット・オン・ドライ方式またはウェット・オン・ウェット方式により非磁性層2と磁性層3とが形成される。磁気記録媒体をウェット・オン・ドライ方式により作製した場合には、磁性層3に含まれる導電性粒子の直径を磁性層3の平均厚みの3倍以上5倍以下とする。磁気記録媒体をウェット・オン・ウェット方式により作製した場合には、磁性層3に含まれる導電性粒子の直径を磁性層3の平均厚みの1.3倍以上3倍以下とする。
【解決手段】長尺状の非磁性支持体1の一主面上に、ウェット・オン・ドライ方式またはウェット・オン・ウェット方式により非磁性層2と磁性層3とが形成される。磁気記録媒体をウェット・オン・ドライ方式により作製した場合には、磁性層3に含まれる導電性粒子の直径を磁性層3の平均厚みの3倍以上5倍以下とする。磁気記録媒体をウェット・オン・ウェット方式により作製した場合には、磁性層3に含まれる導電性粒子の直径を磁性層3の平均厚みの1.3倍以上3倍以下とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、磁気記録媒体およびその製造方法に関する。詳しくは、摩擦上昇を抑制できる磁気記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、磁気記録媒体としては、磁性粉末や結合剤を有機溶媒とともに分散した磁性塗料を、非磁性支持体上に塗布乾燥することで磁性層が形成される塗布型の磁気記録媒体が知られている。このような塗布型の磁気記録媒体は、バックアップ用データカートリッジなどのコンピュータ用記録媒体として利用されており、現在における磁気記録媒体の主流である。
【0003】
近年、磁気記録媒体では、記録密度を向上することが望まれている。この記録密度向上の技術としては、記録トラック幅の縮小化、線記録密度のアップ、および記録波長の短波長化などが挙げられる。
【0004】
このように、磁気記録媒体の記録密度を向上させる技術が、下記の特許文献1および2に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−220754号公報
【特許文献2】特開2004−348844号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、高記録密度化が進むほど信号エラーが発生しやすくなる。例えば、リニア方式の磁気記録システムでは、固定ヘッドを用いるために、磁気テープのリールからの巻き出し、巻き取り速度が速く、全トラックを記録するためにはトラック数を記録再生ヘッドで除した回数だけシャトルが必要となる。すなわち、シャトル回数が多いだけ巻き出し/巻き取りの数が多い。
【0007】
巻き出し/巻き取りの際には、磁気記録面と磁気ヘッドとが高速摺動するため、磁気テープ表面の平滑性が向上し、かつ塗膜に含まれる潤滑剤が減少して潤滑性が劣化してしまう。これにより、磁気ヘッドと磁気テープとの間に摩擦が生じるため、磁気ヘッドが磁気テープに貼り付き、テープ走行が不能になる状態に陥る確率が増加してしまう。
【0008】
このような信号エラーの発生を抑制するために有効な技術の1つとして、磁気記録媒体の磁気記録面における摩擦の低減化が挙げられる。
【0009】
したがって、この発明の目的は、磁気ヘッドなどの読み取り手段と磁気記録媒体との高速摺動により、潤滑性が劣化した場合にも、磁気記録面の摩擦係数の上昇を抑制することができる磁気記録媒体およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述の課題を解決するために、第1の発明は、両主面を有する非磁性支持体と、
非磁性支持体の一主面上に形成された、非磁性粉末、導電性粒子、および結合剤を含有する非磁性層と、
非磁性層上に形成された、磁性粉末、導電性粒子、および結合剤を含有する磁性層と
を備え、
非磁性層および磁性層は、ウェット・オン・ドライ方式により作製され、
磁性層に含まれる導電性粒子の導電点粒径が、磁性層の平均厚さの3倍以上5倍以下の範囲内である磁気記録媒体である。
【0011】
また、第2の発明は、両主面を有する非磁性支持体と、
非磁性支持体の一主面上に形成された、非磁性粉末、導電性粒子、および結合剤を含有する非磁性層と、
非磁性層上に形成された、磁性粉末、導電性粒子、および結合剤を含有する磁性層と
を備え、
非磁性層および磁性層は、ウェット・オン・ウェット方式により作製され、
磁性層に含まれる導電性粒子の導電点粒径が、磁性層の平均厚さの1.3倍以上3倍以下の範囲内である磁気記録媒体である。
【0012】
また、第3の発明は、非磁性支持体上に非磁性層形成用塗料を塗布し乾燥させることにより、非磁性層を形成する工程と、
非磁性層上に磁性層形成用塗料を塗布し乾燥させることにより、磁性層を形成する工程と
を備え、
磁性層の導電性粒子の導電点粒径が、磁性層の平均厚さの3倍以上5倍以下の範囲内である磁気記録媒体の製造方法である。
【0013】
また、第4の発明は、非磁性層形成用塗料、磁性層形成用塗料を非磁性支持体上に順次塗布する工程と、
非磁性層上に塗布された非磁性層形成用塗料、磁性層形成用塗料を乾燥し、非磁性支持体上に非磁性層、磁性層を形成する工程と
を備え、
磁性層の導電性粒子の導電点粒径が、磁性層の平均厚さの1.3倍以上3倍以下の範囲内である磁気記録媒体の製造方法である。
【0014】
また、第5の発明は、両主面を有する非磁性支持体と、
非磁性支持体の一主面上に形成された、非磁性粉末、導電性粒子、および結合剤を含有する非磁性層と、
非磁性層上に形成された、磁性粉末、導電性粒子、および結合剤を含有する磁性層と
を備え、
非磁性層および磁性層は、ウェット・オン・ドライ方式により作製され、
磁性層に含まれる導電性粒子の導電点粒径が、磁性層の平均厚さの5倍以下であり、
磁性層の一主面上に露出する導電性粒子が100μm2あたり14個以上である磁気記録媒体である。
【0015】
また、第6の発明は、両主面を有する非磁性支持体と、
非磁性支持体の一主面上に形成された、非磁性粉末、導電性粒子、および結合剤を含有する非磁性層と、
非磁性層上に形成された、磁性粉末、導電性粒子、および結合剤を含有する磁性層と
を備え、
非磁性層および磁性層は、ウェット・オン・ウェット方式により作製され、
磁性層に含まれる導電性粒子の導電点粒径が、磁性層の平均厚さの3倍以下であり、
磁性層の一主面上に露出する導電性粒子が100μm2あたり15個以上である磁気記録媒体である。
【0016】
また、第7の発明は、非磁性支持体上に非磁性層形成用塗料を塗布し乾燥させることにより、非磁性層を形成する工程と、
非磁性層上に磁性層形成用塗料を塗布し乾燥させることにより、磁性層を形成する工程と
を備え、
磁性層の導電性粒子の導電点粒径が、磁性層の平均厚さの5倍以下であり、
磁性層の一主面上に露出する導電性粒子が100μm2あたり14個以上である磁気記録媒体の製造方法である。
【0017】
また、第8の発明は、非磁性層形成用塗料、磁性層形成用塗料を非磁性支持体上に順次塗布する工程と、
非磁性層上に塗布された非磁性層形成用塗料、磁性層形成用塗料を乾燥し、非磁性支持体上に非磁性層、磁性層を形成する工程と
を備え、
磁性層の導電性粒子の導電点粒径が、磁性層の平均厚さの3倍以下であり、
磁性層の一主面上に露出する導電性粒子が100μm2あたり15個以上である磁気記録媒体の製造方法である。
【0018】
上述したように、第1および第3の発明では、非磁性支持体上に非磁性層形成用塗料を塗布し乾燥させることにより、非磁性層を形成し、非磁性層上に磁性層形成用塗料を塗布し乾燥させることにより、磁性層を形成するようにされ、磁性層の導電性粒子の導電点粒径が、磁性層の平均厚さの3倍以上5倍以下の範囲内であるようにしているため、磁気ヘッドなどの読み取り手段と磁気記録媒体の高速摺動による磁気記録面の摩擦上昇を抑制できる。
【0019】
また、第2および第4の発明では、非磁性層形成用塗料、磁性層形成用塗料を非磁性支持体上に順次塗布し、非磁性層上に塗布された非磁性層形成用塗料、磁性層形成用塗料を乾燥し、非磁性支持体上に非磁性層、磁性層を形成するようにされ、磁性層の導電性粒子の導電点粒径が、磁性層の平均厚さの1.3倍以上3倍以下の範囲内であるようにしているため、磁気ヘッドなどの読み取り手段と磁気記録媒体の高速摺動による磁気記録面の摩擦上昇を抑制できる。
【0020】
また、第5および第7の発明では、非磁性支持体上に非磁性層形成用塗料を塗布し乾燥させることにより、非磁性層を形成し、非磁性層上に磁性層形成用塗料を塗布し乾燥させることにより、磁性層を形成するようにされ、磁性層の導電性粒子の導電点粒径が、磁性層の平均厚さの5倍以下であり、磁性層の一主面上に露出する導電性粒子が100μm2あたり14個以上であるようにしているため、磁気ヘッドなどの読み取り手段と磁気記録媒体の高速摺動による磁気記録面の摩擦上昇を抑制できる。
【0021】
また、第6および第8の発明では、非磁性層形成用塗料、磁性層形成用塗料を非磁性支持体上に順次塗布し、非磁性層上に塗布された非磁性層形成用塗料、磁性層形成用塗料を乾燥し、非磁性支持体上に非磁性層、磁性層を形成するようにされ、磁性層の導電性粒子の導電点粒径が、磁性層の平均厚さの3倍以下であり、磁性層の一主面上に露出する導電性粒子が100μm2あたり15個以上であるようにしているため、磁気ヘッドなどの読み取り手段と磁気記録媒体の高速摺動による磁気記録面の摩擦上昇を抑制できる。
【発明の効果】
【0022】
この発明は、非磁性支持体上に、非磁性層および磁性層をウェット・オン・ドライ方式により形成し、磁性層の導電性粒子の導電点粒径が、磁性層の平均厚さの3倍以上5倍以下の範囲内であり、磁性層の一主面上に露出する導電性粒子が100μm2あたり14個以上であるようにしているため、磁気記録媒体の磁気記録面における摩擦の上昇を抑制することができるという効果がある。
【0023】
また、この発明は、非磁性支持体上に、非磁性層および磁性層をウェット・オン・ウェット方式により形成し、磁性層の導電性粒子の導電点粒径が、磁性層の平均厚さの1.3倍以上3倍以下の範囲内であり、磁性層の一主面上に露出する導電性粒子が100μm2あたり15個以上であるようにしているため、磁気記録媒体の磁気記録面における摩擦の上昇を抑制することができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】図1は、この発明の一実施形態による磁気記録媒体の一例の概略断面図を示す。
【図2】図2は、ウェット・オン・ドライ方式およびウェット・オン・ウェット方式により形成された磁気記録媒体の構成を示す概略断面図である。
【図3】図3は、球状シリカの粒径分布を示す略線図である。
【図4】図4Aは、導電性粒子としてカーボンブラックを用いてウェット・オン・ドライ方式により形成された磁気記録媒体の構成を示す概略断面図である。図4Bは、導電性粒子としてカーボンブラックを用いてウェット・オン・ウェット方式により形成された磁気記録媒体の構成を示す概略断面図である。
【図5】図5Aは、導電性粒子としてハイブリッドカーボンを用いてウェット・オン・ドライ方式により形成された磁気記録媒体の構成を示す概略断面図である。図5Bは、導電性粒子としてハイブリッドカーボンを用いてウェット・オン・ウェット方式により形成された磁気記録媒体の構成を示す概略断面図である。
【図6】図6は、ウェット・オン・ドライ塗布方式を用いた磁気記録媒体の製造工程の流れの一例を示すフローチャートである。
【図7】図7は、カーボンブラックの粒径分布を示す略線図である。
【図8】図8は、実施例1および実施例2における磁性層表面の導電点を示す略線図である。
【図9】図9は、実施例1および実施例2におけるカーボン粒子分布と平均導電点密度との関係を示す略線図である。
【図10】図10は、導電点個数と摩擦との関係について説明するための略線図である。
【図11】図11は、実施例9−1〜実施例9−4および比較例7−1における導電点個数と再生出力との関係を説明するための略線図である。
【図12】図12は、実施例10における最小導電点粒径とエラーレートとの関係について説明するための略線図である。
【図13】図13は、実施例11における最小導電点粒径とエラーレートとの関係について説明するための略線図である。
【図14】図14は、比較例8における最小導電点粒径とエラーレートとの関係について説明するための略線図である。
【図15】図15は、比較例9における最小導電点粒径とエラーレートとの関係について説明するための略線図である。
【図16】図16は、実施例12における最小導電点粒径とエラーレートとの関係について説明するための略線図である。
【図17】図17は、実施例13における最小導電点粒径とエラーレートとの関係について説明するための略線図である。
【図18】図18は、比較例10における最小導電点粒径とエラーレートとの関係について説明するための略線図である。
【図19】図19Aは、実施例14−1〜実施例14−3におけるシリカ体積割合と摩擦との関係について説明するための略線図である。図19Bは、実施例15−1〜実施例15−3におけるシリカ体積割合と摩擦との関係について説明するための略線図である。
【図20】図20Aは、実施例16−1〜実施例16−2および比較例11−1〜比較例11−3におけるシリカ粒径と摩擦との関係について説明するための略線図である。図20Bは、実施例17−1〜実施例17−2および比較例12−1〜比較例12−3におけるシリカ粒径と摩擦との関係について説明するための略線図である。
【図21】図21Aは、実施例14−1〜実施例14−3におけるシリカ体積割合とエラーレートとの関係について説明するための略線図である。図21Bは、実施例15−1〜実施例15−3におけるシリカ体積割合とエラーレートとの関係について説明するための略線図である。
【図22】図22Aは、実施例16−1〜実施例16−2および比較例11−1〜比較例11−3におけるシリカ粒径とエラーレートとの関係について説明するための略線図である。図22Bは、実施例17−1〜実施例17−2および比較例12−1〜比較例12−3におけるシリカ粒径とエラーレートとの関係について説明するための略線図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
[磁気記録媒体の構成]
この発明の一実施形態について図面を参照しながら説明する。図1に本発明の磁気記録媒体の一例の概略断面図を示す。磁気記録媒体は、長尺状の非磁性支持体1と、長尺状の非磁性支持体1の一主面上に形成された非磁性層2と、非磁性層2上に形成された磁性層3とを備える。磁気記録媒体が、必要に応じて、長尺状の非磁性支持体1の他主面上に形成されたバックコート層4をさらに備えるようにしてもよい。非磁性層2と磁性層3との界面は、塗布方式の違いにより異なったものとなる。この発明の一実施形態に係る磁気記録媒体は、リニア方式を適用した記録再生システムに用いて好適なものである。
【0026】
図2Aは、ウェット・オン・ドライ方式(塗布・乾燥工程)により形成された磁気記録媒体の構成を示す概略断面図である。図2Bは、ウェット・オン・ウェット方式(湿潤重層塗布方式)により形成された磁気記録媒体の構成を示す概略断面図である。図2Aに示すように、ウェット・オン・ドライ方式により形成された非磁性層2と磁性層3との界面は明瞭である。これに対して、ウェット・オン・ウェット方式により形成された非磁性層2と磁性層3との界面は、図2Bに示すように不明瞭である。
【0027】
(非磁性支持体)
非磁性支持体1について説明する。非磁性支持体1の材料としては、例えば、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステル類、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン類、セルローストリアセテート、セルロースダイアセテート、セルロースブチレートなどのセルロース誘導体、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデンなどのビニル系樹脂、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリアミドイミドなどのプラスチック、アルミニウム合金、チタン合金などの軽金属、アルミナガラスなどのセラミックなどが挙げられる。さらには、機械的強度を高めるために、酸化アルミ膜などのAlまたはCuの酸化物を含む薄膜を、ビニル系樹脂などを含む非磁性支持体1の主面のうち少なくとも一方に成膜したものもある。成膜法としては、例えば、蒸着法、化学気相成長法、スパッタリング法などを用いることができる。
【0028】
(磁性層)
次に、磁性層3について説明する。磁性層3は、磁性粉末、結合剤および導電性粒子3aを主成分とするものとし、その他潤滑剤、研磨剤、防錆剤などの添加剤を混合し、有機溶剤を用いて混練、分散させ、調製した磁性塗料を塗布することにより形成されるものである。
【0029】
磁性層3の平均厚さが、50nm以上75nm以下であることが好ましく、より好ましくは50nm以上70nm以下、さらに好ましくは50nm以上65nm以下である。磁性層3の平均厚さが50nm以上にすると、一定の厚みの磁性層3を形成することができる。一方、磁性層3の平均厚さを75nm以下にすると、記録密度を向上することができる。
【0030】
(磁性粉末)
磁性粉末は、適用するVTRフォーマット、データドライブフォーマットの記録再生特性に好適な磁気特性(保磁力、磁化量)を有するものを選択する。例えば、Fe系、およびFe−Co系の金属粉末、バリウムフェライト、炭化鉄、酸化鉄などが挙げられる。なお、副元素として、Co、Ni、Cr、Mn、Mg、Ca、Ba、Sr、Zn、Ti、Mo、Ag、Cu、Na、K、Li、Al、Si、Ge、Ga、Y、Nd、La、Ce、Zrなどの金属化合物が共存していても良い。
【0031】
(結合剤)
本発明の磁気記録媒体の磁性層3を構成する結合剤としては、ポリウレタン系樹脂や、塩化ビニル系樹脂などに架橋反応を付与した構造の樹脂が好ましい。しかしながら結合剤はこれらに限定することなく、目的とする磁気記録媒体に対して要求される物性などに応じて、その他、従来公知の他の樹脂を適宜配合してもよい。配合する樹脂としては、通常、塗布型の磁気記録媒体に用いられる樹脂であれば、特に限定されない。
【0032】
例えば、塩化ビニル、酢酸ビニル、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル−塩化ビニリデン共重合体、塩化ビニル−アクリロニトリル共重合体、アクリル酸エステル−アクリロニトリル共重合体、アクリル酸エステル−塩化ビニル−塩化ビニリデン共重合体、塩化ビニル−アクリロニトリル共重合体、アクリル酸エステル−アクリロニトリル共重合体、アクリル酸エステル−塩化ビニリデン共重合体、メタクリル酸エステル−塩化ビニリデン共重合体、メタクリル酸エステル−塩化ビニル共重合体、メタクリル酸エステル−エチレン共重合体、ポリ弗化ビニル、塩化ビニリデン−アルリロニトリル共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体、ポリアミド樹脂、ポリビニルブチラール、セルロース誘導体(セルロースアセテートブチレート、セルロースダイアセテート、セルローストリアセテート、セルロースプロピオネート、ニトロセルロース)、スチレンブタジエン共重合体、ポリエステル樹脂、アミノ樹脂、合成ゴムなどが挙げられる。
【0033】
また、熱硬化性樹脂、または反応型樹脂の例としては、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、アルキッド樹脂、シリコーン樹脂、ポリアミン樹脂、尿素ホルムアルデヒド樹脂などが挙げられる。
【0034】
また、上述した各結合剤には、磁性粉末の分散性を向上させる目的で、−SO3M、−OSO3M、−COOM、P=O(OM)2などの極性官能基が導入されていてもよい。ここで、式中Mは、水素原子、あるいはリチウム、カリウム、ナトリウムなどのアルカリ金属である。
【0035】
更に、極性官能基としては、−NR1R2、−NR1R2R3+X−の末端基を有する側鎖型のもの、>NR1R2+X−の主鎖型のものが挙げられる。ここで、式中R1、R2、R3は、水素原子、あるいは炭化水素基であり、X−は弗素、塩素、臭素、ヨウ素などのハロゲン元素イオンあるいは無機・有機イオンである。また、極性官能基としては、−OH、−SH、−CN、エポキシ基なども挙げられる。
【0036】
(導電性粒子)
導電性粒子3aとしては、炭素を主成分とする微粒子、例えば、カーボンブラックを用いることができる。カーボンブラックとしては、例えば、旭カーボン社の旭#15、#15HSなどを用いることができる。
【0037】
ここで、磁性層3に対して非磁性のカーボンブラックを多量に入れると再生出力が低下してしまう。また、粒径(直径)の大きいカーボンブラックを使用した場合には、粒子が磁気記録媒体表面の突起になり、磁気ヘッドと磁気記録媒体との間隙(以下、スペーシングと適宜称する)となり、再生出力と再生分解能が劣化してしまう。そのため、この発明の一実施形態では、粒径が磁性層3の厚さに対して所定の大きさである導電性粒子3aを入れ、磁気ヘッドと磁気記録媒体との間が適切なスペーシングとなるようにしている。
【0038】
ウェット・オン・ドライ方式により磁気記録媒体を作製する場合には、導電性粒子3aの導電点粒径(直径)が磁性層3の平均厚さの3倍以上5倍以下の範囲内であることが好ましい。3倍未満であると、導電性粒子3aにより導電点を形成することが困難となる傾向がある。一方、5倍を超えると、メディア表面から突出してスペーシングとなる傾向がある。
【0039】
また、ウェット・オン・ドライ方式により磁気記録媒体を作製する場合には、導電性粒子3aの最小導電点粒径(直径)が磁性層3の平均厚さの3倍以上5倍以下の範囲内であることが好ましい。3倍未満であると、導電性粒子3aにより導電点を形成することが困難となる傾向がある。一方、5倍を超えると、磁気ヘッドと磁気記録媒体との間のスペーシングが大きくなりすぎるため、再生出力の低下、およびエラーレートの悪化などの記録再生特性の低下を招く傾向がある。ウェット・オン・ドライ方式により磁気記録媒体を作製する場合には、導電性粒子3aの粒径は、好ましくは150nm以上375nm以下、より好ましくは150nm以上250nm以下、さらに好ましくは150nm以上200nm以下であり、磁性層3の平均厚さは、好ましくは50nm以上75nm以下、より好ましくは50nm以上70nm以下、さらに好ましくは50nm以上65nm以下である。
【0040】
また、ウェット・オン・ドライ方式により磁気記録媒体を作製する場合には、磁性層3の一主面上に露出する導電性粒子3aが、好ましくは100μm2あたり14個以上、より好ましくは100μm2あたり14個以上70個以下である。14個以上であると、走行回数の増加に伴う摩擦の上昇を抑制できるとともに、摩擦を低減することができる。70個以下であると、再生出力の低下を抑制することができる。
【0041】
ウェット・オン・ウェット方式により磁気記録媒体を作製する場合には、導電性粒子3aの導電点粒径(直径)が磁性層3の平均厚さの1.3倍以上3倍以下の範囲内であることが好ましい。1.3倍未満であると、導電性粒子3aにより導電点を形成することが困難となる傾向がある。一方、3倍を超えると、メディア表面から突出してスペーシングとなる傾向がある。
【0042】
また、ウェット・オン・ウェット方式により磁気記録媒体を作製する場合には、導電性粒子3aの最小導電点粒径(直径)が磁性層3の平均厚さの1.3倍以上3倍以下の範囲内であることが好ましい。1.3倍未満であると、導電性粒子3aにより導電点を形成することが困難となる傾向がある。一方、3倍を超えると、磁気ヘッドと磁気記録媒体との間のスペーシングが大きくなりすぎるため、再生出力の低下、およびエラーレートの悪化などの記録再生特性の低下を招く傾向がある。この場合、導電性粒子3aの粒径は、好ましくは65nm以上225nm以下、より好ましくは65nm以上165nm以下、さらに好ましくは65nm以上115nm以下である。
【0043】
また、ウェット・オン・ウェット方式により磁気記録媒体を作製する場合には、磁性層3の一主面上に露出する導電性粒子3aが、好ましくは100μm2あたり15個以上、より好ましくは100μm2あたり15個以上70個以下である。15個以上であると、走行回数の増加に伴う摩擦の上昇を抑制できるとともに、摩擦を低減することができる。70個以下であると、再生出力の低下を抑制することができる。
【0044】
このような、従来と比較して大きい最小導電点粒径の導電性粒子3aを磁性層3が含むことで、導電点に寄与しない導電性粒子3aの個数を低減し、磁性層中の非磁性成分を減少できるので、再生出力を向上させることができる。
【0045】
後述する図9A、図9Bに示したように、導電性粒子3aとしてカーボン粒子(カーボンブラック)を用いた場合には、導電点に寄与しないカーボン粒子が非常に多くなってしまう。理想的な導電性粒子3aは、全く粒径分布がなく、ウェット・オン・ドライ方式なら3倍程度の粒径で、ウェット・オン・ウェット方式なら1.3倍程度であることが好ましい。このような条件を満たす導電性粒子3aとして、粒子径分散の少ないシリカ粒子表面にカーボンを付着させたハイブリッドカーボンが好適である。ハイブリッドカーボンの材料となる球状シリカ粒径分布を図3に示す。この粒径分布は、具体的にはアドマテック社製アドマファイン(型番SO-E1)のものである。図3に示すように、球状シリカの粒径分布は、カーボンブラックに比べて非常に少ない。このような粒径分布を有する導電性粒子を用いることで、実効的な導電点となりうる粒子を多くすることが可能である。シリカ粒子表面に付着させる導電性粒子としては、例えば、中性のカーボンブラック、具体的には、粒径15nm程度のカーボンブラックを用いることができる。このようなカーボンブラックとしては、例えば、旭カーボン株式会社のSUNBLACKS905などを用いていることができる。これらをシリカ表面に吸着させるのだが、この際の吸着量は、シリカ体積が100nmの場合には40%の体積割合で均一に被着させることが好ましく、シリカ体積が200nmの場合には18%程度の体積割合となるように吸着させることが好ましい。粒径分散の少ないハイブリッドカーボンを用いることで導電に寄与しない粒子が減り、磁性膜中の非磁性成分が減るので再生出力を向上させることができる。ここでは、シリカ粒子を用いたが、シリカ粒子の代わりにセラミック粒子、または導電性を有するAu、Agなどの金属粒子をそのまま導電性粒子3aとして使うことも可能である。
【0046】
(潤滑剤)
磁性層3、および非磁性層2に含有させる潤滑剤としては、例えば、炭素数10〜24の一塩基性脂肪酸と、炭素数2〜12の1価〜6価アルコールのいずれかとのエステル、これらの混合エステル、またはジ脂肪酸エステル、トリ脂肪酸エステルを適宜用いることができる。潤滑剤の具体例としては、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、エライジン酸、ステアリン酸ブチル、ステアリン酸ペンチル、ステアリン酸ヘプチル、ステアリン酸オクチル、ステアリン酸イソオクチル、ミリスチン酸オクチルが挙げられる。
【0047】
(非磁性補強粒子)
磁性層3には、非磁性補強粒子として、酸化アルミニウム(α、β、γ)、酸化クロム、酸化珪素、ダイヤモンド、ガーネット、エメリー、窒化ホウ素、チタンカーバイト、炭化珪素、炭化チタン、酸化チタン(ルチル、アナターゼ)などを含有させてもよい。
【0048】
(非磁性層)
次に、非磁性層2について説明する。非磁性層2は、非磁性粉末と結合剤を主成分とするものとし、その他導電性粒子2a、潤滑剤などの各種添加剤を混合し、有機溶剤を用いて混練、分散させ、調製した下層非磁性層用塗料を塗布することにより形成されるものである。
【0049】
(非磁性粉末)
非磁性粉末としては、針状、球状、板状など、各種形状の微粒子を適宜使用することができる。
【0050】
(結合剤)
非磁性層2を構成する結合剤としては、上述した磁性層3において適用可能なものをいずれも使用することができる。また、非磁性層2においては、樹脂にポリイソシアネートを併用して、これを架橋硬化させるようにしてもよい。ポリイソシアネートとしては、トルエンジイソシアネート、およびこれらの付加体、アルキレンジイソシアネート、およびこれらの付加体などが挙げられる。
【0051】
(導電性粒子)
非磁性層2の導電性粒子2aとしては、上述した磁性層3の導電性粒子3aと同様に、例えば、カーボンブラックや、上述したハイブリッドカーボンを用いることができる。非磁性層2は、非磁性のため磁気記録媒体の読み出し出力には影響しないため、カーボンブラックを多量に混入させることができる。具体的には、例えば、平均粒径が30nm程度のカーボンブラックを多量に混入させることで、比較的容易に磁気記録媒体の磁性層形成面側の電気抵抗を2×105Ω/cm2程度まで低くすることができる。なお、電気抵抗が2×105Ω/cm2を超えると、電荷がたまりやすくなり、磁気ヘッドと磁気テープとが接触した際の摩擦が上昇し、磁気ヘッドに対する磁気テープの貼り付きが発生しやすくなってしまう。ここで、電気抵抗値は、以下のようにして測定した値である。電極間の距離が25.4mmの一対の平行電極上に、磁気記録媒体の磁気記録層側を接触させ、磁気記録媒体の両端に80gfの加重を加える。そして、この状態で電極間にDC100Vの電圧を印可し、超絶縁抵抗計により抵抗値を測定し、得られた抵抗値を電極間の磁気記録媒体の面積で除する。
【0052】
導電性粒子3aの最小導電点粒径と磁性層3と平均厚さとの関係について、図4および図5を参照して、より詳細に説明する。図4Aは、導電性粒子3aとしてカーボンブラックを用いてウェット・オン・ドライ方式により形成された磁気記録媒体の構成を示す概略断面図である。図4Bは、導電性粒子3aとしてカーボンブラックを用いてウェット・オン・ウェット方式により形成された磁気記録媒体の構成を示す概略断面図である。図5Aは、導電性粒子3aとしてハイブリッドカーボンを用いてウェット・オン・ドライ方式により形成された磁気記録媒体の構成を示す概略断面図である。図5Bは、導電性粒子3aとしてハイブリッドカーボンを用いてウェット・オン・ウェット方式により形成された磁気記録媒体の構成を示す概略断面図である。
【0053】
上述したように、ウェット・オン・ウェット方式により磁気記録媒体を作製する場合には、導電性粒子3aの最小導電点粒径(直径)を、磁性層3の平均厚さの1.3倍以上とすることが好ましい。このように磁性層3の平均厚さに対して最小導電点粒径が大きい導電性粒子3aを磁性層3に含有させる必要があるのは、以下の理由による。導電性粒子3aが導電点を形成するためには、導電性粒子3aが磁性層3の表面と非磁性層2との間の電気的なパスとして機能する必要がある。このためには、図4Aおよび図5Aに示すように、導電性粒子3aの一部が磁性層3の表面からの突出すると共に、導電性粒子3aの一部が磁性層3から非磁性層2に向けて突出し、この突出部が非磁性層2に含まれる導電性粒子2aと電気的に接続する必要がある。導電性粒子3aの最小導電点粒径(直径)が磁性層3の平均厚さの1.3倍以上であると、このような状態を導電性粒子2aが確保することができると考えられる。
【0054】
また、上述したように、ウェット・オン・ドライ方式により磁気記録媒体を作製する場合には、導電性粒子3aの最小導電点粒径(直径)を、磁性層3の平均厚さの3倍以上とすることが好ましい。上述したウェット・オン・ウェット方式の場合に比べて、磁性層3の平均厚さに対して最小導電点粒径が大きい導電性粒子3aを磁性層3に含有させる必要があるのは、以下の理由によるものと考えられる。図4Aおよび図5Aに示すように、ウェット・オン・ドライ方式により非磁性層2と磁性層3とを形成した場合には、非磁性層2には、磁性層3との界面近傍に導電性粒子2aが疎となる領域が形成されていると考えられる。電性粒子3aの最小導電点粒径(直径)を磁性層3の平均厚さの3倍以上にすると、上述した導電性粒子2aが疎となる領域から導電性粒子3aの一部を突出させ、この突出部を非磁性層2に含まれる導電性粒子2aと電気的に接続させることができると考えられる。
【0055】
[磁気記録媒体の製造方法]
次に、上述の構成を有する磁気記録媒体の製造方法の一例について説明する。まず、非磁性粉末、導電性粒子2aおよび結着剤を溶剤に混練、分散させることにより、非磁性層形成用塗料を調製した。次に、磁性粉末、導電性粒子3aおよび結着剤を溶剤に混練、分散させることにより、磁性層形成用塗料を調製した。磁性層形成用塗料および非磁性層形成用塗料を調製する際には、同様の溶剤、分散装置および混練装置を適用することができる。
【0056】
上述の塗料調製に用いられる溶剤としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン系溶媒、メタノール、エタノール、プロパノールなどのアルコール系溶媒、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸プロピル、乳酸エチル、エチレングリコールアセテートなどのエステル系溶媒、ジエチレングリコールジメチルエーテル、2−エトキシエタノール、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどのエーテル系溶媒、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素系溶媒、メチレンクロライド、エチレンクロライド、四塩化炭素、クロロホルム、クロロベンゼンなどのハロゲン化炭化水素系溶媒などが挙げられる。これらは単独で用いてもよく、適宜混合して用いてもよい。
【0057】
上述の塗料調製に用いられる混練装置としては、例えば、連続二軸混練機、多段階で希釈可能な連続二軸混練機、ニーダー、加圧ニーダー、ロールニーダーなどの、従来から公知の混練装置を用いることができるが、特にこれらの装置に限定されるものではない。また、上述の塗料調製に用いられる分散装置としては、例えば、ロールミル、ボールミル、横型サンドミル、縦型サンドミル、スパイクミル、ピンミル、タワーミル、DCP、ホモジナイザー、超音波分散機などの、従来から公知の分散装置を用いることができるが、特にこれらの装置に限定されるものではない。
【0058】
次に、上述したようにして調製した磁性層形成用塗料、および非磁性層形成用塗料を、非磁性支持体1上に重層塗布し、乾燥処理を行うことにより、磁性層3、非磁性層2が非磁性支持体1上に形成される。塗料の塗布方法としては、例えば、ウェット・オン・ドライ塗布方式(塗布・乾燥工程)、およびウェット・オン・ウェット塗布方式(湿潤重層塗布方式)のいずれの方法を用いることができる。
【0059】
次に、2つの方式のうちウェット・オン・ドライ方式を用いた磁気記録媒体の製造工程について、図6に示すフローチャートを参照して説明する。ウェット・オン・ドライ塗布方式では、非磁性支持体1を用意し(ステップS1)、非磁性層形成用塗料を非磁性支持体1の一主面上に塗布して乾燥させることにより、非磁性層2を形成する(ステップS2)。次に、この非磁性層2上に磁性層形成用塗料を塗布して乾燥させることにより、磁性層3を非磁性層2上に形成する(ステップS3)。次に、ステップS4でバックコート層形成用塗料を非磁性支持体1の他主面上に塗布して乾燥させることにより、バックコート層4を形成する。
【0060】
次に、ステップS5において、非磁性層2、磁性層3、およびバックコート層4が形成された非磁性支持体1を大径コアに巻き直し、硬化処理を行う(ステップS6)。ステップS7では、非磁性層2、磁性層3、およびバックコート層4が形成された非磁性支持体1に対してカレンダー処理を行い、ステップS8で所定の幅に裁断する。このようにして、ステップS9で所定の幅に裁断されたパンケーキを得ることができる。
【0061】
なお、ステップS4におけるバックコート層4を形成する工程は、ステップS7におけるカレンダー処理の後に行ってもよい。
【0062】
ウェット・オン・ウェット塗布方式(湿潤重層塗布方式)では、上述したステップS2およびS3の代わりに、非磁性層形成用塗料を非磁性支持体1の一主面上に塗布して塗膜を形成し、この湿潤状態にある塗膜上に磁性層形成用塗料を重ねて塗布して塗膜を形成した後、両塗膜を乾燥させることにより、磁気記録媒体を製造することができる。
【0063】
この発明の一実施形態では、上述したように、ウェット・オン・ドライ方式により磁気記録媒体を作製する場合には、磁性層3内の導電性粒子3aの粒径が磁性層3の厚さの3倍以上5倍以下の範囲内であることが好ましい。
【0064】
導電性粒子3aの粒径が磁性層3の厚さの5倍を超える場合、磁気ヘッドと磁気記録媒体との接触面積が減ることで摩擦を抑制することができる。しかしながら、この場合には、導電性粒子3aによる磁性層3の表面の突起が磁気記録媒体と磁気ヘッドとのスペーシングになり、再生出力が低下してしまうからである。
【0065】
一方、導電性粒子3aの粒径が磁性層3の厚さの3倍を下回る場合、スペーシングを低くして再生出力を高めることができる。しかしながら、この場合には、磁性層3内の導電性粒子3aが磁性層3の表面に露出しなくなってしまうからである。また、非磁性層2と磁性層3との間に結合剤が析出するため、非磁性層2と磁性層3内の導電性粒子3aとの電気的な接触を保つことができず、静電気破壊が発生してしまうからである。
【0066】
また、上述したように、ウェット・オン・ウェット方式により磁気記録媒体を作製する場合には、磁性層3内の導電性粒子3aの粒径が磁性層3の厚さの1.3倍以上3倍以下の範囲内であることが好ましい。
【0067】
このように、この発明の一実施形態では、磁性層3の厚さに応じて、導電性粒子3aの粒径を適切に選択することにより、磁性層3の表面に露出する導電性粒子3aによる突起の高さを適切にして、磁気ヘッドと磁気記録媒体との高速摺動による、磁気記録面の摩擦の上昇を抑制することができるとともに、再生出力を高めることができる。
【0068】
また、高密度記録化された磁気記録媒体を再生するためには、高感度の磁気ヘッド、例えば巨大磁気抵抗効果を用いた磁気ヘッドを採用する必要がある。一方で、このような磁気ヘッドを用いた場合、巨大磁気抵抗効果素子の静電気破壊が考えられる。
【0069】
既存のリニア方式においては、上述した磁気ヘッドの貼り付きや磁気ヘッドの静電気破壊が大きな問題となる。しかしながら、この発明の一実施形態のように、磁性層3の厚さに応じて導電性粒子3aの粒径を適切に選択することにより、非磁性層2と磁性層3内の導電性粒子3aとの電気的な接触を保つことができる。これにより、磁気記録媒体の抵抗値を低下させることができるため、磁気記録媒体の磁気記録面と磁気ヘッドとの摩擦による帯電効果よりも放電の効果が勝り、帯電が抑制されて磁気ヘッドの静電気破壊を減少させることができる。
【0070】
なお、ウェット・オン・ドライ方式を用いた場合の導電性粒子3aの粒径が、ウェット・オン・ウェット方式を用いた場合の粒径よりも大きいのは、上述したように非磁性層2における磁性層3との界面近傍に、導電性粒子2aが疎となる領域が形成されることにより、非磁性層2と磁性層3との電気的な接触を保つためであると推測される。
【実施例】
【0071】
以下、実施例によりこの発明を具体的に説明するが、この発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0072】
本発明の実施例について図面を参照しながら以下の順序で説明する。
1.実施例における各物理量の測定方法
2.最小導電点粒径についての検討
3.導電点個数と摩擦との関係についての検討
4.最小導電点粒径と再生出力との関係についての検討
5.最小導電点粒径とエラーレートとの関係について検討
6.ハイブリッドカーボンを用いた場合についての検討
【0073】
<1.実施例における各物理量の測定方法>
この実施例において、導電性粒子3aの粒径分布および平均粒径、ならびに磁性層3の平均厚さは以下のようにして測定したものである。
【0074】
(粒径分布および平均粒径)
導電性粒子3aの粒径分布および平均粒径は以下のように求めた。まず、導電性粒子3aとなるカーボンブラックを水溶液化し、ホモジナイザーで分散させた。次に、透過型電子顕微鏡(以下TEM)用の試料台(通称メッシュ)にサンプルを採取した。次に、TEMにサンプルをセットし、6万倍で観察した。この際、加速電圧は200Vに設定した。次に、数十枚の画像ファイルから、任意に300個以上の粒子サイズを計測し、その計測結果から、統計処理を行い、粒径分布および平均粒径を求めた。
【0075】
(非磁性層、および磁性層の平均厚さ)
非磁性層2、および磁性層3の平均厚さは、以下のようにして求めた。まず、磁気テープをその主面に対して垂直に切り出し、その断面をTEMにより6万倍で撮影した。次に、撮影したTEM写真から無作為に10点を選び出し、それらの各点において非磁性層、および磁性層の厚さを測定した。次に、これらの測定値を単純に平均(算術平均)して非磁性層2、および磁性層3の平均厚さを求めた。
【0076】
<2.最小導電点粒径についての検討>
(実施例1)
下記配合の第一組成物をエクストルーダで混練する。その後、ディスパーを備えた攪拌タンクに、第一組成物と、下記配合の第二組成物を加えて予備混合を行った。その後、さらにサンドミル混合を行い、フィルター処理を行い、磁性層形成用塗料を作製した。
【0077】
(第一組成物)
Fe−Co系金属磁性粉末A:100重量部
(長軸長0.1μm、Co/Fe=30atm%、比表面積=47m2/g、飽和磁化=150Am2/kg、保磁力=184kA/m)
塩化ビニル系樹脂A(シクロヘキサノン溶液30wt%):55.6重量部
(重合度300、Mn=10000、極性基としてOSO3K=0.07mmol/g、2級OH=0.3mmol/gを含有する。)
酸化アルミニウム粉末A:5重量部
(α−Al2O3、平均粒径0.2μm)
カーボンブラック:2重量部
(東海カーボン社製、商品名:シーストTA)
図7に、磁性層形成用塗料に含まれる60μm2あたりのカーボンブラックの粒径分布を示す。カーボンブラックとしては、図7に示すように粒径分布を有し、平均粒径が120nmのものを用いた。
【0078】
(第二組成物)
塩化ビニル系樹脂A:27.8重量部
(樹脂溶液:樹脂分30wt%、シクロヘキサノン70wt%)
n−ブチルステアレート:2重量部
メチルエチルケトン:121.3重量部
トルエン:121.3重量部
シクロヘキサノン:60.7重量部
【0079】
次に、下記配合の第三組成物をエクストルーダで混練する。その後、ディスパーを備えた攪拌タンクに、第三組成物と、下記配合の第四組成物を加えて予備混合を行った。その後、さらにサンドミル混合を行い、フィルター処理を行い、非磁性層形成用塗料を作製した。
【0080】
(第三組成物)
針状酸化鉄粉末:100重量部
(α−Fe2O3、平均長軸長0.15μm)
塩化ビニル系樹脂A:55.6重量部
(樹脂溶液:樹脂分30wt%、シクロヘキサノン70wt%)
カーボンブラック:10重量部
(平均粒径20nm)
【0081】
(第四組成物)
ポリウレタン系樹脂UR8200(東洋紡績製):18.5重量部
n−ブチルステアレート:2重量部
メチルエチルケトン:108.2重量部
トルエン:108.2重量部
シクロヘキサノン:18.5重量部
【0082】
次に、上述のようにして作製した磁性層形成用塗料、および非磁性層形成用塗料のそれぞれに、硬化剤として、ポリイソシアネート(商品名:コロネートL、日本ポリウレタン社製)を4重量部と、ミリスチン酸を2重量部添加した。
【0083】
次に、これらの塗料を用いて、非磁性支持体1であるポリエチレンナフタレートフィルム(PENフィルム)上に非磁性層2、および磁性層3をウェット・オン・ドライ方式により以下のようにして形成した。まず、非磁性支持体1である厚さ6.2μmのPENフィルム上に、非磁性層形成用塗料を塗布、乾燥させることにより、PENフィルム上に非磁性層2を形成した。次に、非磁性層2上に、磁性層形成用塗料を塗布、乾燥させることにより、非磁性層2上に磁性層3形成した。次に、非磁性層2、および磁性層3が形成されたPENフィルムに対してカレンダー処理を行い、磁性層表面を平滑化した。なお、カレンダー処理後の非磁性層2の平均厚さ1100nm、磁性層3の平均厚さは50nmであった。
【0084】
次に、バックコート層4として、磁性層3とは反対側の面に、下記の組成の塗料を膜厚0.6μmに塗布し乾燥処理を行った。
カーボンブラック(旭社製商品名 #80):100重量部
ポリエステルポリウレタン:100重量部
(日本ポリウレタン社製商品名 N−2304)
メチルエチルケトン:500重量部
トルエン:400重量部
シクロヘキサノン:100重量部
【0085】
次に、上述のようにして非磁性層2、磁性層3、およびバックコート層4が形成されたPENフィルムを1/2インチ(12.65mm)幅に裁断し、磁気テープを得た。
【0086】
(実施例2)
まず、磁性層3に含まれるカーボンブラックとして、粒径分布を有し、平均粒径56nmであるエボニックデグサ社のPrintex25を用いる以外は、実施例1と同様にして、非磁性層形成用塗料、および磁性層形成用塗料を作製した。
【0087】
次に、これらの塗料を用いて、非磁性層2、および磁性層3を非磁性支持体1上にウェット・オン・ウェット方式により以下のようにして形成した。まず、非磁性支持体1である厚さ6.2μmのポリエチレンナフタレートフィルム(PENフィルム)上に、非磁性層形成用塗料を塗布し、PENフィルム上に塗膜を形成した。次に、この塗膜上に、磁性層形成用塗料を塗布し、塗膜を形成した。次に、これの塗膜を乾燥させることにより、PENフィルム上に非磁性層2、および磁性層3を形成した。なお、カレンダー処理後において非磁性層の平均膜厚は、1100nm、磁性層膜の平均膜厚は70nmであった。これ以降の工程は実施例1と同様にしてサンプルを得た。
【0088】
(導電点密度)
まず、導電性原子間力顕微鏡(以下C−AFM)を用いて、実施例1、2の磁気テープの磁性層3を、以下の条件にて無作為に10箇所で観察した。その観察結果の一部を図8A、および図8Bに示す。
走査範囲:60×60μm
走査速度:1Hz
Scan Line:256
DCバイアス電圧:2V
使用カンチレバー:日本VEECO社製のMESP
【0089】
次に、観察した10箇所のC−AFM像毎に、導電点密度(単位面積100μm2あたりの導電点の個数)を求め、それらの10箇所の導電点密度を単純に加算平均し、平均導電点密度を算出した。その結果、実施例1の磁気テープでは、磁性層3の平均導電点密度は20個/100μm2であった。また、実施例2の磁気テープでは、磁性層3の平均導電点密度は35個/100μm2であった。
【0090】
図8A、および図8Bに示すように、C−AFMの測定結果では、カーボンが磁性層3の表面に露出している部分が白い点として観測される。この明細書中においては、これらの点を導電点(Conduction Point)と称する。導電点は、磁気テープ表面の電荷を非磁性層2へ逃がす役割を果たし、磁気ヘッドと磁気テープの高速摺動時に摩擦帯電による磁気テープの帯電を抑制する。また、導電点は、磁気ヘッドと磁気テープとの接触面積を減らす役割を果たし、両者の間の摩擦上昇を抑制する。なお、以下の実施例においても、平均導電点密度は上述のようにして求めたものである。
【0091】
(最小導電点粒径)
ウェット・オン・ドライ方式で作製した実施例1の磁気テープについて、最小導電点粒径を以下のようにして調べた。ここで、最小導電点粒径とは、磁性層3に含まれるカーボン粒子(導電性粒子3a)のうち、導電点に寄与する最小の導電点粒径を意味する。まず、図7のカーボン粒子分布を100μm2単位面積あたりの個数に直した。その粒径分布を図9Aに示す。次に、上述のようにして求めた平均導電点密度に基づき、導電点に寄与するカーボン粒子の粒子径を求めた。その結果を図9Aに示す。図9Aに示すように、導電点に寄与するカーボン粒子の粒子径は、150nm以上であることがわかった。
【0092】
実施例1では、上述したように、100μm2における平均導電点密度を調べた結果、平均導電点密度:20個/100μm2という結果が得られた。図9Aにおいて、磁性層3に含まれるカーボン粒子のうち、粒径が最も大きいカーボン粒子から所定の粒径までのカーボン粒子が、導電点に寄与していると仮定する。このように仮定すると、粒径が最も大きいカーボン粒子から数えて累積個数が20個となるカーボン粒子の粒径を求めれば、導電点に寄与するカーボン粒子の最小粒径を知ることができる。図9Aでは、このようにして求めたカーボン粒子の最小粒径は150nm以上となる。したがって、粒径150nm以上のサイズのカーボン粒子が、C−AFMで観察されていることになる。最小のカーボン粒子の粒径150nmは、磁性層3の厚さ50nmの3倍の値となっている。ウェット・オン・ドライ方式では、非磁性層2と磁性層3の界面が明瞭であるが、塗膜強度が硬く表面に結合剤の析出もあることから、磁性層厚さの3倍より大きいカーボン粒子が導電点に寄与している。
【0093】
ウェット・オン・ウェット方式で作製した実施例2の磁気テープについて、カーボン粒子分布と、平均導電点密度との関係を以下のようにして調べた。まず、カーボン粒子分布を100μm2単位面積あたりの個数に直した。その粒径分布を図9Bに示す。次に、上述のようにして求めた平均導電点密度35個/100μm2に基づき、導電点に寄与するカーボン粒子の粒子径を求めた。すなわち、磁性層3に含まれるカーボン粒子のうち、粒径が最も大きいカーボン粒子から数えて累積個数が35個となるカーボン粒子の粒径を求めた。その結果を図9Bに示す。図9Bに示すように、導電点に寄与するカーボン粒子の粒子径は、90nm以上であることがわかった。最小のカーボン粒子の粒径90nmは、磁性層3の厚さ70nmの1.3倍程度の値となっている。
【0094】
ウェット・オン・ウェット方式の場合、非磁性層2と磁性層3との界面が明瞭ではないために、実効導電点になりうるカーボンサイズが小さくなる。したがって、塗布方式に応じて最適なカーボンブラック粒径を選択することが好ましい。なお、以下の実施例においても、最小導電点粒径は上述のようにして求めたものである。
【0095】
<3.導電点個数と摩擦との関係についての検討>
(実施例3)
カーボンブラック量を磁性粉量100重量部に対して1.8重量部にする以外は実施例1と同様にして、ウェット・オン・ドライ方式により、磁性層3の平均厚さ50nm、最小導電点粒径150nm、導電点密度20個/100μm2の磁気テープを作製した。
【0096】
(実施例4)
カーボンブラック量を磁性粉量100重量部に対して1.6重量部にする以外は実施例1と同様にして、ウェット・オン・ドライ方式により、磁性層3の平均厚さ50nm、最小導電点粒径200nm、導電点密度14個/100μm2の磁気テープを作製した。
【0097】
(比較例1)
カーボンブラック量を磁性粉量100重量部に対して1.4重量部にする以外は実施例1と同様にして、ウェット・オン・ドライ方式により、磁性層3の平均厚さ50nm、最小導電点粒径300nm、導電点密度9個/100μm2の磁気テープを作製した。
【0098】
(比較例2)
カーボンブラック量を磁性粉量100重量部に対して1.2重量部にする以外は実施例1と同様にして、ウェット・オン・ドライ方式により、磁性層3の平均厚さ50nm、最小導電点粒径360nm、導電点密度2個/100μm2の磁気テープを作製した。
【0099】
(摩擦)
実施例3、4および比較例1、2の磁気テープを、リニアテープドライブのLTO(Linier Tape Open)Generation4のヘッドを用いて、テープスピード4m/secで高速走行させた場合の摩擦変化について調べた。磁気テープは全て2000回の走行を行った。その結果を図10に示す。
【0100】
図10から、磁気テープを200回走行させた時点付近から、導電点密度が低いテープ(比較例1、2)の摩擦の上昇度合いが大きくなるが、導電点密度が高いテープ(実施例3、4)の摩擦の上昇度合いが小さく、略一定の摩擦力を維持している。すなわち、導電点密度が高いテープ(実施例3、4)の方が、導電点密度が低いテープ(比較例1、2)よりも、走行回数の増加に伴う摩擦の上昇を抑制できる傾向にあることがわかる。また、磁気テープを2000回走行させた時点において、導電点密度が高いテープ(実施例3、4)の方が、導電点密度が低いテープ(比較例1、2)よりも摩擦を低減できる傾向にあることがわかる。したがって、ウェット・オン・ドライ方式で作製された磁気テープにおいては、導電点密度が14個/100μm2以上のときに、走行回数の増加に伴う摩擦の上昇を抑制できるとともに、摩擦を低減できる傾向にあることがわかる。
【0101】
<4.最小導電点粒径と再生出力との関係についての検討>
(実施例5−1)
カーボンブラック量を磁性粉量100重量部に対して1〜2重量部に適宜変化させる以外は実施例1と同様にして、ウェット・オン・ドライ方式により、磁性層3の平均厚さが50nm、最小導電点粒径が100nmである磁気テープを作製した。
【0102】
(実施例5−2)
最小導電点粒径が150nmである以外は実施例5−1と同様にして、ウェット・オン・ドライ方式により、磁性層3の平均厚さが50nmである磁気テープを作製した。
【0103】
(実施例5−3)
最小導電点粒径が200nmである以外は実施例5−1と同様にして、ウェット・オン・ドライ方式により、磁性層3の平均厚さが50nmである磁気テープを作製した。
【0104】
(実施例5−4)
最小導電点粒径が250nmである以外は実施例5−1と同様にして、ウェット・オン・ドライ方式により、磁性層3の平均厚さが50nmである磁気テープを作製した。
【0105】
(比較例3−1)
最小導電点粒径が300nmである以外は実施例5−1と同様にして、ウェット・オン・ドライ方式により、磁性層3の平均厚さが50nmである磁気テープを作製した。
【0106】
(比較例3−2)
最小導電点粒径が350nmである以外は実施例5−1と同様にして、ウェット・オン・ドライ方式により、磁性層3の平均厚さが50nmである磁気テープを作製した。
【0107】
(比較例3−3)
最小導電点粒径が360nmである以外は実施例5−1と同様にして、ウェット・オン・ドライ方式により、磁性層3の平均厚さが50nmである磁気テープを作製した。
【0108】
(実施例6−1)
カーボンブラック量を磁性粉量100重量部に対して1〜2重量部に適宜変化させる以外は実施例1と同様にして、ウェット・オン・ドライ方式により、磁性層3の平均厚さが70nm、最小導電点粒径が100nmである磁気テープを作製した。
【0109】
(実施例6−2)
最小導電点粒径が150nmである以外は実施例6−1と同様にして、ウェット・オン・ドライ方式により、磁性層3の平均厚さが70nmである磁気テープを作製した。
【0110】
(実施例6−3)
最小導電点粒径が200nmである以外は実施例6−1と同様にして、ウェット・オン・ドライ方式により、磁性層3の平均厚さが70nmである磁気テープを作製した。
【0111】
(実施例6−4)
最小導電点粒径が250nmである以外は実施例6−1と同様にして、ウェット・オン・ドライ方式により、磁性層3の平均厚さが70nmである磁気テープを作製した。
【0112】
(実施例6−5)
最小導電点粒径が300nmである以外は実施例6−1と同様にして、ウェット・オン・ドライ方式により、磁性層3の平均厚さが70nmである磁気テープを作製した。
【0113】
(実施例6−6)
最小導電点粒径が350nmである以外は実施例6−1と同様にして、ウェット・オン・ドライ方式により、磁性層3の平均厚さが70nmである磁気テープを作製した。
【0114】
(比較例4−1)
最小導電点粒径が360nmである以外は実施例6−1と同様にして、ウェット・オン・ドライ方式により、磁性層3の平均厚さが70nmである磁気テープを作製した。
【0115】
(実施例7−1)
カーボンブラック量を磁性粉量100重量部に対して1〜3重量部に適宜変化させる以外は実施例2と同様にして、ウェット・オン・ウェット方式により、磁性層3の平均厚さが50nm、最小導電カーボン粒径が90nmである磁気テープを作製した。
【0116】
(実施例7−2)
最小導電点粒径が120nmである以外は実施例7−1と同様にして、ウェット・オン・ウェット方式により、磁性層3の平均厚さが50nmである磁気テープを作製した。
【0117】
(実施例7−3)
最小導電点粒径が150nmである以外は実施例7−1と同様にして、ウェット・オン・ウェット方式により、磁性層3の平均厚さが50nmである磁気テープを作製した。
【0118】
(比較例5−1)
最小導電点粒径が210nmである以外は実施例7−1と同様にして、ウェット・オン・ウェット方式により、磁性層3の平均厚さが50nmである磁気テープを作製した。
【0119】
(比較例5−2)
最小導電点粒径が220nmである以外は実施例7−1と同様にして、ウェット・オン・ウェット方式により、磁性層3の平均厚さが50nmである磁気テープを作製した。
【0120】
(比較例5−3)
最小導電点粒径が250nmである以外は実施例7−1と同様にして、ウェット・オン・ウェット方式により、磁性層3の平均厚さが50nmである磁気テープを作製した。
【0121】
(実施例8−1)
カーボンブラック量を磁性粉量100重量部に対して1〜3重量部に適宜変化させる以外は実施例2と同様にして、ウェット・オン・ウェット方式により、磁性層3の平均厚さが70nm、最小導電カーボン粒径が90nmである磁気テープを作製した。
【0122】
(実施例8−2)
最小導電点粒径が120nmである以外は実施例8−1と同様にして、ウェット・オン・ウェット方式により、磁性層3の平均厚さが70nmである磁気テープを作製した。
【0123】
(実施例8−3)
最小導電点粒径が150nmである以外は実施例8−1と同様にして、ウェット・オン・ウェット方式により、磁性層3の平均厚さが70nmである磁気テープを作製した。
【0124】
(実施例8−4)
最小導電点粒径が210nmである以外は実施例8−1と同様にして、ウェット・オン・ウェット方式により、磁性層3の平均厚さが70nmである磁気テープを作製した。
【0125】
(比較例6−1)
最小導電点粒径が220nmである以外は実施例8−1と同様にして、ウェット・オン・ウェット方式により、磁性層3の平均厚さが70nmである磁気テープを作製した。
【0126】
(比較例6−2)
最小導電点粒径が250nmである以外は実施例8−1と同様にして、ウェット・オン・ウェット方式により、磁性層3の平均厚さが70nmである磁気テープを作製した。
【0127】
(再生出力)
上述のようにして作製した実施例5−1〜実施例8−4および比較例3−1〜比較例6−2の再生出力を以下のようにして評価した。テープ走行系は、Mountain EngineeringII社製のSmall Form Factorを用い、Hewlett Packard社製のLTO4 Urtrium 1840に搭載されている記録再生ヘッドを用いた。自社で設計した記録・再生アンプを用い、2T出力をデジタルオシロスコープで取得した。
【0128】
表1は、実施例5−1〜実施例6−6および比較例3−1〜比較例4−1の磁気テープの再生出力の評価結果を示す。なお、実施例5−1〜実施例6−6および比較例3−1〜比較例4−1の磁気テープはそれぞれ、ウェット・オン・ドライ方式により作製したサンプルである。
【表1】
【0129】
表2は、実施例7−1〜実施例8−4および比較例5−1〜比較例6−2の磁気テープの再生出力の評価結果を示す。なお、実施例7−1〜実施例8−4および比較例5−1〜比較例6−2の磁気テープはそれぞれ、ウェット・オン・ウェット方式により作製したサンプルである。
【表2】
【0130】
表1から以下のことがわかる。ウェット・オン・ドライ方式により、平均厚さ50nmの磁性層3を形成した実施例5−1〜実施例5−4および比較例3−1〜比較例3−3では、最小導電点粒径が250nmを超えると、再生出力は急激に減少することがわかる。すなわち、最小導電点粒径が磁性層3の平均厚さの5倍を超えると、再生出力は急激に減少することがわかる。また、ウェット・オン・ドライ方式により、平均厚さ70nmの磁性層3を形成した実施例6−1〜実施例6−6および比較例4−1では、最小導電点粒径が350nmを超えると、再生出力は急激に減少することがわかる。すなわち、最小導電点粒径が磁性層3の平均厚さの5倍を超えると、再生出力は急激に減少することがわかる。
【0131】
表2から以下のことがわかる。ウェット・オン・ウェット方式により、平均厚さ50nmの磁性層3を形成した実施例7−1〜実施例7−3および比較例5−1〜比較例5−3では、最小導電点粒径が150nmを超えると、再生出力は急激に減少することがわかる。すなわち、最小導電点粒径が磁性層3の平均厚さの3倍を超えると、再生出力は急激に減少することがわかる。また、ウェット・オン・ウェット方式により、平均厚さ70nmの磁性層3を形成した実施例8−1〜実施例8−4および比較例6−1〜比較例6−2では、最小導電点粒径が210nmを超えると、再生出力は急激に減少することがわかる。すなわち、最小導電点粒径が磁性層3の平均厚さの3倍を超えると、再生出力は急激に減少することがわかる。
【0132】
上述したように、最小導電点粒径が磁性層3の平均厚さの5倍、または3倍を超えると、再生出力が急激に減少するのは、カーボン粒子の一部が磁性層表面から突出して突起を形成し、磁気ヘッドと磁気記録媒体のスペーシングとなったためであると考えられる。
【0133】
以上の検討から、ウェット・オン・ドライ方式により磁気テープを作製する場合には、最小導電点粒径が磁性層3の平均厚さの5倍以下であることが好ましい。また、ウェット・オン・ウェット方式により磁気テープを作製する場合には、最小導電点粒径が磁性層3の平均厚さの3倍以下であることが好ましい。さらに、塗布方式、磁性層の厚さ、導電性粒子の粒径、および材料を選択することで、再生出力の減少を抑え高信頼性の磁気記録媒体を得ることができる。
【0134】
(実施例9−1)
カーボンブラック量を磁性粉量100重量部に対して1重量部添加し、ウェット・オン・ドライ方式により、磁性層3の平均厚さ50nm、導電点密度14個/100μm2とする以外は実施例1と同様にして磁気テープを作製した。
【0135】
(実施例9−2)
カーボンブラック量を磁性粉量100重量部に対して2重量部添加し、ウェット・オン・ドライ方式により、磁性層3の平均厚さ50nm、導電点密度30個/100μm2とする以外は実施例1と同様にして磁気テープを作製した。
【0136】
(実施例9−3)
カーボンブラック量を磁性粉量100重量部に対して3重量部添加し、ウェット・オン・ドライ方式により、磁性層3の平均厚さ50nm、導電点密度50個/100μm2とする以外は実施例1と同様にして磁気テープを作製した。
【0137】
(実施例9−4)
カーボンブラック量を磁性粉量100重量部に対して5重量部添加し、ウェット・オン・ドライ方式により、磁性層3の平均厚さ50nm、導電点密度70個/100μm2とする以外は実施例1と同様にして磁気テープを作製した。
【0138】
(比較例7−1)
カーボンブラック量を磁性粉量100重量部に対して5.5重量部添加し、ウェット・オン・ドライ方式により、磁性層3の平均厚さ50nm、導電点密度80個/100μm2とする以外は実施例1と同様にして磁気テープを作製した。
【0139】
(再生出力)
上述のようにして作製した実施例9−1〜実施例9−4および比較例7−1の再生出力を以下のようにして評価した。テープ走行系は、Mountain EngineeringII社製のSmall Form Factorを用い、Hewlett Packard社製のLTO4 Urtrium 1840に搭載されている記録再生ヘッドを用いた。自社で設計した記録・再生アンプを用い、2T出力をデジタルオシロスコープで取得した。その結果を表3および図11に示す。
【0140】
表3は、実施例9−1〜実施例9−4および比較例7−1の磁気テープの再生出力の評価結果を示す。
【表3】
【0141】
表3および図11から以下のことがわかる。
カーボン投入量を増加させるに従って、導電点個数が増加する傾向がある。
カーボン投入量が1〜5重量部の範囲内では、カーボン投入量の増加に伴って、再生出力が僅かに低下する傾向を示すのに対して、カーボン投入量が5重量部を超える範囲では、再生出力が急激に低下する傾向を示す。したがって、カーボン投入量は、再生出力の低下を抑制する観点からすると、磁性粉末100重量部に対して1〜5重量部の範囲内であることが好ましい。
導電点個数が14〜70個/100μm2の範囲内では、導電点個数の増加に伴って、再生出力が僅かに低下する傾向を示すのに対して、導電点個数が70個/100μm2を超える範囲では、再生出力が急激に低下する傾向を示す。したがって、導電点個数は、再生出力の低下を抑制する観点からすると、70個/100μm2以下であることが好ましい。
【0142】
<5.最小導電点粒径とエラーレートとの関係について検討>
(実施例10)
カーボンブラック量を磁性粉量100重量部に対して1〜2重量部に適宜変化させる以外は実施例1と同様にして、ウェット・オン・ドライ方式により、磁性層3の平均厚さ50nm、最小導電点粒径150nm、導電点密度20個/100μm2の磁気テープを作製した。
【0143】
(実施例11)
カーボンブラック量を磁性粉量100重量部に対して1〜2重量部に適宜変化させる以外は実施例1と同様にして、ウェット・オン・ドライ方式により、磁性層3の平均厚さ50nm、最小導電点粒径200nm、導電点密度14個/100μm2の磁気テープを作製した。
【0144】
(比較例8)
カーボンブラック量を磁性粉量100重量部に対して1〜2重量部に適宜変化させる以外は実施例1と同様にして、ウェット・オン・ドライ方式により、磁性層3の平均厚さ50nm、最小導電点粒径300nm、導電点密度9個/100μm2の磁気テープを作製した。
【0145】
(比較例9)
カーボンブラック量を磁性粉量100重量部に対して1〜2重量部に適宜変化させる以外は実施例1と同様にして、ウェット・オン・ドライ方式により、磁性層3の平均厚さ50nm、最小導電点粒径360nm、導電点密度2個/100μm2の磁気テープを作製した。
(実施例12)
カーボンブラック量を磁性粉量100重量部に対して1〜3重量部に適宜変化させる以外は実施例2と同様にして、ウェット・オン・ウェット方式により、磁性層3の平均厚さ70nm、最小導電点粒径90nm、導電点密度35個/100μm2の磁気テープを作製した。
【0146】
(実施例13)
カーボンブラック量を磁性粉量100重量部に対して1〜3重量部に適宜変化させる以外は実施例2と同様にして、ウェット・オン・ウェット方式により、磁性層3の平均厚さ70nm、最小導電点粒径120nm、導電点密度15個/100μm2の磁気テープを作製した。
【0147】
(比較例10)
カーボンブラック量を磁性粉量100重量部に対して1〜3重量部に適宜変化させる以外は実施例2と同様にして、ウェット・オン・ウェット方式により、磁性層3の平均厚さ70nm、最小導電点粒径220nm、導電点密度2個/100μm2の磁気テープを作製した。
【0148】
(エラーレート)
上述のようにして作製した実施例3〜6、および比較例8〜10のエラーレートを以下のようにして評価した。テープ走行系は、Mountain EngineeringII社製のSmall Form Factorを用い、Hewlett Packard社製のLTO4ドライブに搭載されている記録再生ヘッドを用いた。自社で設計した記録・再生アンプを用い、入力信号としてM系列のランダム信号を用いた。評価結果を図12〜図18に示す。
【0149】
図12Aに示すように、実施例10では、エラーレートが磁気テープに対する読み書きのサイクル数によらず略一定となった。実施例10では、最小導電点粒径が150nmのカーボン粒子が導電点に寄与している(図12B)。この最小導電点粒径150nmは、磁性層3の厚さの3倍の値となっている。
【0150】
図13Aに示すように、実施例11では、エラーレートが磁気テープに対する読み書きのサイクル数が増加するに従ってやや上昇するが、略一定となった。実施例11では、最小導電点粒径が200nmのカーボン粒子が導電点に寄与している(図13B)。この最小導電点粒径200nmは、磁性層3の厚さの4倍の値となっている。
【0151】
図14Aに示すように、比較例8では、エラーレートが磁気テープに対する読み書きのサイクル数が増加するに従って上昇した。比較例8では、最小導電点粒径が300nmのカーボン粒子が導電点に寄与している(図14B)。この最小導電点粒径300nmは、磁性層3の厚さの6倍の値となっている。
【0152】
図15Aに示すように、比較例9では、エラーレートが磁気テープに対する読み書きのサイクル数が増加するに従って上昇した。比較例9では、最小導電点粒径が360nmのカーボン粒子が導電点に寄与している(図15B)。この最小導電点粒径360nmは、磁性層3の厚さの7.2倍の値となっている。
【0153】
図12〜図15に示す結果から、ウェット・オン・ドライ方式により作製された磁気テープにおいては、最小導電点粒径が磁性層3の厚さの3倍以上5倍以下のときに、エラーレートを低減できる傾向にあることがわかる。
【0154】
また、図16Aに示すように、実施例12では、エラーレートが磁気テープに対する読み書きのサイクル数によらず略一定となった。実施例12では、最小導電点粒径が90nmのカーボン粒子が導電点に寄与している(図16B)。この最小導電点粒径90nmは、磁性層3の厚さの約1.3倍の値となっている。
【0155】
図17Aに示すように、実施例13では、エラーレートが磁気テープに対する読み書きのサイクル数が増加するに従ってやや上昇するが、略一定となった。実施例13では、最小導電点粒径が120nmのカーボン粒子が導電点に寄与している(図17B)。この最小導電点粒径120nmは、磁性層3の厚さの約1.7倍の値となっている。
【0156】
図18Aに示すように、比較例10では、エラーレートが磁気テープに対する読み書きのサイクル数が増加するに従って上昇した。比較例10では、最小導電点粒径が220nmのカーボン粒子が導電点に寄与している(図18B)。この最小導電点粒径220nmは、磁性層3の厚さの約3.1倍の値となっている。
【0157】
図16〜図18に示す結果から、ウェット・オン・ウェット方式により作製された磁気テープにおいては、最小導電点粒径が磁性層3の厚さの1.3倍以上3倍以下のときに、エラーレートを低減できる傾向にあることがわかる。また、ウェット・オン・ウェット方式により作製された磁気テープにおいては、導電点密度が15個/100μm2以上のときに、エラーレートを低減できる傾向にあることがわかる。
【0158】
<6.ハイブリッドカーボンを用いた場合についての検討>
導電性粒子3aとして、カーボンブラックの代わりに、シリカ粒子表面にカーボンを付着させたハイブリッドカーボンを用いた場合の、摩擦、再生出力およびエラーレートについて検討する。
【0159】
(実施例14−1〜実施例14−3)
ハイブリッドカーボンの体積に対するシリカ粒子の体積の割合を示すシリカ体積割合が18%、40%および80%であるハイブリッドカーボンを用意した。カーボンブラックの代わりにこのハイブリッドカーボンを用い、ハイブリッドカーボン量を磁性粉量100重量部に対して0.2〜1.6重量部に適宜変化させる以外は実施例1と同様にして、ウェット・オン・ドライ方式により、磁性層3の平均厚さが50nm、最小導電点粒径が211nm〜243nmである磁気テープを作製した。
【0160】
(実施例15−1〜実施例15−3)
カーボンブラックの代わりに体積割合が18%、40%および80%であるハイブリッドカーボンを用い、ハイブリッドカーボン量を磁性粉量100重量部に対して0.2〜1.6重量部に適宜変化させる以外は実施例2と同様にして、ウェット・オン・ウェット方式により、磁性層3の平均厚さが50nm、最小導電点粒径が106nm〜122nm、シリカ体積割合が18%〜80%の範囲の磁気テープを作製した。
【0161】
(実施例16−1〜実施例16−2、比較例11−1〜比較例11−3)
最小導電点粒径が95nm、112nm、150nm、250nmおよび260nmであるハイブリッドカーボンを用意した。カーボンブラックの代わりにこのハイブリッドカーボンを用い、ハイブリッドカーボン量を磁性粉量100重量部に対して0.2〜1.6重量部に適宜変化させる以外は実施例1と同様にして、ウェット・オン・ドライ方式により、磁性層3の平均厚さが50nm、シリカ体積割合が40%である磁気テープを作製した。
【0162】
(実施例17−1〜実施例17−2、比較例12−1〜比較例12−3)
カーボンブラックの代わりに最小導電点粒径が50nm、65nm、150nm、160nmおよび246nmであるハイブリッドカーボンを用い、ハイブリッドカーボン量を磁性粉量100重量部に対して0.2〜1.6重量部に適宜変化させる以外は実施例2と同様にして、ウェット・オン・ウェット方式により、磁性層3の平均厚さが50nm、シリカ体積割合が40%である磁気テープを作製した。
【0163】
(摩擦)
実施例14−1〜実施例17−2および比較例11−1〜比較例12−3の磁気テープを、リニアテープドライブのLTOGeneration4のヘッドを用いて、テープスピード4m/secで高速走行させた場合の摩擦変化について調べた。磁気テープは全て10000回の走行を行った。その結果を図19および図20に示す。
【0164】
図19Aから、磁気テープを走行させるに従って、ウェット・オン・ドライ方式においてシリカ体積割合が18%〜40%のテープ(実施例14−1〜実施例14−3)の摩擦の上昇度合いが小さく、略一定の摩擦力を維持している。
【0165】
図19Bから、磁気テープを走行させるに従って、ウェット・オン・ウェット方式においてシリカ体積割合が18%〜40%のテープ(実施例15−1〜実施例15−3)の摩擦の上昇度合いが小さく、略一定の摩擦力を維持している。
【0166】
図20Aから、磁気テープを走行させるに従って、最小導電点粒径が小さいテープ(比較例11−1〜比較例11−2)の摩擦の上昇度合いが大きくなるが、最小導電点粒径が大きいテープ(実施例16−1〜実施例16−2、比較例11−3)の摩擦の上昇度合いが小さく、略一定の摩擦力を維持している。すなわち、最小導電点粒径が大きいテープ(実施例16−1〜実施例16−2、比較例11−3)の方が、最小導電点粒径が小さいテープ(比較例11−1〜比較例11−2)よりも、走行回数の増加に伴う摩擦の上昇を抑制できる傾向にあることがわかる。また、磁気テープを10000回走行させた時点において、最小導電点粒径が大きいテープ(実施例16−1〜実施例16−2、比較例11−3)の方が、最小導電点粒径が小さいテープ(比較例11−1〜比較例11−2)よりも摩擦を低減できる傾向にあることがわかる。
【0167】
図20Bから、磁気テープを走行させるに従って、最小導電点粒径が小さいテープ(比較例12−1)の摩擦の上昇度合いが大きくなるが、最小導電点粒径が大きいテープ(実施例17−1〜実施例17−2、比較例12−2〜比較例12−3)の摩擦の上昇度合いが小さく、略一定の摩擦力を維持している。すなわち、最小導電点粒径が大きいテープ実施例17−1〜実施例17−2、比較例12−2〜比較例12−3)の方が、最小導電点粒径が小さいテープ(比較例12−1)よりも、走行回数の増加に伴う摩擦の上昇を抑制できる傾向にあることがわかる。また、磁気テープを10000回走行させた時点において、最小導電点粒径が大きいテープ実施例17−1〜実施例17−2、比較例12−2〜比較例12−3)の方が、最小導電点粒径が小さいテープ(比較例12−1)よりも摩擦を低減できる傾向にあることがわかる。
【0168】
(再生出力)
上述のようにして作製した実施例14−1〜実施例17−2および比較例11−1〜比較例12−3の再生出力を以下のようにして評価した。テープ走行系は、Mountain EngineeringII社製のSmall Form Factorを用い、Hewlett Packard社製のLTO4 Urtrium 1840に搭載されている記録再生ヘッドを用いた。自社で設計した記録・再生アンプを用い、2T出力をデジタルオシロスコープで取得した。
【0169】
表4は、実施例14−1〜実施例15−3の磁気テープの再生出力の評価結果を示す。なお、実施例14−1〜実施例14−3の磁気テープはそれぞれ、ウェット・オン・ドライ方式により作製したサンプルであり、実施例15−1〜実施例15−3の磁気テープはそれぞれ、ウェット・オン・ウェット方式により作製したサンプルである。
【表4】
【0170】
表5は、実施例16−1〜実施例17−2および比較例11−1〜比較例12−3の磁気テープの再生出力の評価結果を示す。なお、実施例16−1〜実施例16−2および比較例11−1〜比較例11−3の磁気テープはそれぞれ、ウェット・オン・ドライ方式により作製したサンプルであり、実施例17−1〜実施例17−2および比較例12−1〜比較例12−3の磁気テープはそれぞれ、ウェット・オン・ウェット方式により作製したサンプルである。
【表5】
【0171】
表4から以下のことがわかる。ウェット・オン・ドライ方式によって磁性層3を形成した実施例14−1〜実施例14−3では、シリカ体積割合が18%〜80%の場合に、適切な再生出力を得ることができる。また、ウェット・オン・ウェット方式によって磁性層3を形成した実施例15−1〜実施例15−3では、シリカ体積割合が18%〜80%の場合に、適切な再生出力を得ることができる。
【0172】
表5から以下のことがわかる。ウェット・オン・ドライ方式によって磁性層3を形成した実施例16−1〜実施例16−2および比較例11−1〜比較例11−3では、最小導電点粒径が250nmを超えると、再生出力は急激に減少することがわかる。すなわち、最小導電点粒径が磁性層3の平均厚さの5倍を超えると、再生出力は急激に減少することがわかる。また、ウェット・オン・ウェット方式によって磁性層3を形成した実施例17−1〜実施例17−2および比較例12−1〜比較例12−3では、最小導電点粒径が150nmを超えると、再生出力は急激に減少することがわかる。すなわち、最小導電点粒径が磁性層3の平均厚さの3倍を超えると、再生出力は急激に減少することがわかる。
【0173】
上述したように、最小導電点粒径が250nm、または150nm(磁性層3の平均厚さの5倍、または3倍)を超えると、再生出力が急激に減少するのは、カーボン粒子の一部が磁性層表面から突出して突起を形成し、磁気ヘッドと磁気記録媒体のスペーシングとなったためであると考えられる。
【0174】
以上の検討から、ウェット・オン・ドライ方式によりハイブリッドカーボンを用いて磁気テープを作製する場合には、シリカ体積割合が80%以下であることが好ましい。また、最小導電点粒径が250nm以下(磁性層3の平均厚さの5倍以下)であることが好ましい。
【0175】
また、ウェット・オン・ウェット方式によりハイブリッドカーボンを用いて磁気テープを作製する場合には、シリカ体積割合が80%以下であることが好ましい。また、最小導電点粒径が150nm以下(磁性層3の平均厚さの3倍以下)であることが好ましい。
【0176】
さらに、塗布方式、磁性層の厚さ、導電性粒子の粒径、および材料を選択することで、再生出力の減少を抑え高信頼性の磁気記録媒体を得ることができる。
【0177】
(エラーレート)
上述のようにして作製した実施例14−1〜実施例17−2および比較例11−1〜比較例12−3のエラーレートを以下のようにして評価した。テープ走行系は、Mountain EngineeringII社製のSmall Form Factorを用い、Hewlett Packard社製のLTO4ドライブに搭載されている記録再生ヘッドを用いた。自社で設計した記録・再生アンプを用い、入力信号としてM系列のランダム信号を用いた。評価結果を図21および図22に示す。
【0178】
図21Aに示すように、実施例14−1では、エラーレートが磁気テープに対する読み書きのサイクル数が増加するに従ってやや上昇するが、略一定となった。実施例14−2および実施例14−3では、エラーレートが磁気テープに対する読み書きのサイクル数によらず略一定となった。実施例14−1〜実施例14−3では、最小導電点粒径が211nm〜243nmのハイブリッドカーボンが導電点に寄与している。この最小導電点粒径243nmは、磁性層3の厚さの約4.9倍の値となっている。
【0179】
図21Bに示すように、実施例15−1〜実施例15−2では、エラーレートが磁気テープに対する読み書きのサイクル数が増加するに従ってやや上昇するが、略一定となった。実施例15−3では、エラーレートが磁気テープに対する読み書きのサイクル数によらず略一定となった。実施例15−1〜実施例15−3では、最小導電点粒径が106nm〜122nmのハイブリッドカーボンが導電点に寄与している。この最小導電点粒径122nmは、磁性層3の厚さの約2.4倍の値となっている。
【0180】
図22Aに示すように、実施例16−1では、エラーレートが磁気テープに対する読み書きのサイクル数によらず略一定となった。実施例16−1では、最小導電点粒径が150nmのハイブリッドカーボンが導電点に寄与している。この最小導電点粒径150nmは、磁性層3の厚さの3倍の値となっている。
【0181】
実施例16−2では、エラーレートが磁気テープに対する読み書きのサイクル数によらず略一定となった。実施例16−2では、最小導電点粒径が250nmのハイブリッドカーボンが導電点に寄与している。この最小導電点粒径250nmは、磁性層3の厚さの5倍の値となっている。
【0182】
比較例11−1では、エラーレートが磁気テープに対する読み書きのサイクル数が増加するに従ってやや上昇するが、略一定となった。比較例11−1では、最小導電点粒径が95nmのハイブリッドカーボンが導電点に寄与している。この最小導電点粒径95nmは、磁性層3の厚さの1.9倍の値となっている。
【0183】
比較例11−2では、エラーレートが磁気テープに対する読み書きのサイクル数が増加するに従ってやや上昇するが、略一定となった。比較例11−2では、最小導電点粒径が112nmのハイブリッドカーボンが導電点に寄与している。この最小導電点粒径112nmは、磁性層3の厚さの約2.2倍の値となっている。
【0184】
一方、比較例11−3では、エラーレートが磁気テープに対する読み書きのサイクル数によらず略一定であるが、サイクル初期の段階で6乗台となり、LTOのスペック外となった。比較例11−3では、最小導電点粒径が260nmのハイブリッドカーボンが導電点に寄与している。この最小導電点粒径260nmは、磁性層3の厚さの5.2倍の値となっている。
【0185】
図22Bに示すように、実施例17−1では、エラーレートが磁気テープに対する読み書きのサイクル数によらず略一定となった。実施例17−1では、最小導電点粒径が65nmのハイブリッドカーボンが導電点に寄与している。この最小導電点粒径65nmは、磁性層3の厚さの1.3倍の値となっている。
【0186】
実施例17−2では、エラーレートが磁気テープに対する読み書きのサイクル数によらず略一定となった。実施例17−2では、最小導電点粒径が150nmのハイブリッドカーボンが導電点に寄与している。この最小導電点粒径150nmは、磁性層3の厚さの3倍の値となっている。
【0187】
比較例12−1では、エラーレートが磁気テープに対する読み書きのサイクル数が増加するに従ってやや上昇するが、略一定となった。比較例12−1では、最小導電点粒径が50nmのハイブリッドカーボンが導電点に寄与している。この最小導電点粒径50nmは、磁性層3の厚さの1.0倍の値となっている。
【0188】
一方、比較例12−2では、エラーレートが磁気テープに対する読み書きのサイクル数によらず略一定であるが、サイクル初期の段階で6乗台となり、LTOのスペック外となった。比較例12−2では、最小導電点粒径が160nmのハイブリッドカーボンが導電点に寄与している。この最小導電点粒径160nmは、磁性層3の厚さの3.2倍の値となっている。
【0189】
また、比較例12−3では、エラーレートが磁気テープに対する読み書きのサイクル数が増加するに従ってやや上昇するが、サイクル初期の段階で6乗台となり、LTOのスペック外となった。比較例12−3では、最小導電点粒径が246nmのハイブリッドカーボンが導電点に寄与している。この最小導電点粒径246nmは、磁性層3の厚さの約4.9倍の値となっている。
【0190】
図21および図22に示す結果から、ウェット・オン・ドライ方式によりハイブリッドカーボンを用いて作製された磁気テープにおいては、シリカ体積割合が80%以下のときに、エラーレートを低減できる傾向にあることがわかる。また、最小導電点粒径が250nm以下(磁性層3の厚さの5倍以下)のときに、エラーレートを低減できる傾向にあることがわかる。
【0191】
また、ウェット・オン・ウェット方式によりハイブリッドカーボンを用いて作製された磁気テープにおいては、シリカ体積割合が80%以下のときに、エラーレートを低減できる傾向にあることがわかる。また、最小導電点粒径が150nm以下(磁性層3の厚さの3倍以下)のときに、エラーレートを低減できる傾向にあることがわかる。
【0192】
以上、この発明の一実施形態について具体的に説明したが、この発明は、上述の一実施形態に限定されるものではなく、この発明の技術的思想に基づく各種の変形が可能である。
【0193】
例えば、上述の一実施形態において挙げた構成、方法、形状、材料および数値などはあくまでも例に過ぎず、必要に応じてこれと異なる構成、方法、形状、材料および数値などを用いてもよい。
【0194】
また、上述の実施形態の各構成は、この発明の主旨を逸脱しない限り、互いに組み合わせることが可能である。
【符号の説明】
【0195】
1 非磁性支持体
2 非磁性層
2a 導電性粒子
3 磁性層
3a 導電性粒子
【技術分野】
【0001】
この発明は、磁気記録媒体およびその製造方法に関する。詳しくは、摩擦上昇を抑制できる磁気記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、磁気記録媒体としては、磁性粉末や結合剤を有機溶媒とともに分散した磁性塗料を、非磁性支持体上に塗布乾燥することで磁性層が形成される塗布型の磁気記録媒体が知られている。このような塗布型の磁気記録媒体は、バックアップ用データカートリッジなどのコンピュータ用記録媒体として利用されており、現在における磁気記録媒体の主流である。
【0003】
近年、磁気記録媒体では、記録密度を向上することが望まれている。この記録密度向上の技術としては、記録トラック幅の縮小化、線記録密度のアップ、および記録波長の短波長化などが挙げられる。
【0004】
このように、磁気記録媒体の記録密度を向上させる技術が、下記の特許文献1および2に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−220754号公報
【特許文献2】特開2004−348844号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、高記録密度化が進むほど信号エラーが発生しやすくなる。例えば、リニア方式の磁気記録システムでは、固定ヘッドを用いるために、磁気テープのリールからの巻き出し、巻き取り速度が速く、全トラックを記録するためにはトラック数を記録再生ヘッドで除した回数だけシャトルが必要となる。すなわち、シャトル回数が多いだけ巻き出し/巻き取りの数が多い。
【0007】
巻き出し/巻き取りの際には、磁気記録面と磁気ヘッドとが高速摺動するため、磁気テープ表面の平滑性が向上し、かつ塗膜に含まれる潤滑剤が減少して潤滑性が劣化してしまう。これにより、磁気ヘッドと磁気テープとの間に摩擦が生じるため、磁気ヘッドが磁気テープに貼り付き、テープ走行が不能になる状態に陥る確率が増加してしまう。
【0008】
このような信号エラーの発生を抑制するために有効な技術の1つとして、磁気記録媒体の磁気記録面における摩擦の低減化が挙げられる。
【0009】
したがって、この発明の目的は、磁気ヘッドなどの読み取り手段と磁気記録媒体との高速摺動により、潤滑性が劣化した場合にも、磁気記録面の摩擦係数の上昇を抑制することができる磁気記録媒体およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述の課題を解決するために、第1の発明は、両主面を有する非磁性支持体と、
非磁性支持体の一主面上に形成された、非磁性粉末、導電性粒子、および結合剤を含有する非磁性層と、
非磁性層上に形成された、磁性粉末、導電性粒子、および結合剤を含有する磁性層と
を備え、
非磁性層および磁性層は、ウェット・オン・ドライ方式により作製され、
磁性層に含まれる導電性粒子の導電点粒径が、磁性層の平均厚さの3倍以上5倍以下の範囲内である磁気記録媒体である。
【0011】
また、第2の発明は、両主面を有する非磁性支持体と、
非磁性支持体の一主面上に形成された、非磁性粉末、導電性粒子、および結合剤を含有する非磁性層と、
非磁性層上に形成された、磁性粉末、導電性粒子、および結合剤を含有する磁性層と
を備え、
非磁性層および磁性層は、ウェット・オン・ウェット方式により作製され、
磁性層に含まれる導電性粒子の導電点粒径が、磁性層の平均厚さの1.3倍以上3倍以下の範囲内である磁気記録媒体である。
【0012】
また、第3の発明は、非磁性支持体上に非磁性層形成用塗料を塗布し乾燥させることにより、非磁性層を形成する工程と、
非磁性層上に磁性層形成用塗料を塗布し乾燥させることにより、磁性層を形成する工程と
を備え、
磁性層の導電性粒子の導電点粒径が、磁性層の平均厚さの3倍以上5倍以下の範囲内である磁気記録媒体の製造方法である。
【0013】
また、第4の発明は、非磁性層形成用塗料、磁性層形成用塗料を非磁性支持体上に順次塗布する工程と、
非磁性層上に塗布された非磁性層形成用塗料、磁性層形成用塗料を乾燥し、非磁性支持体上に非磁性層、磁性層を形成する工程と
を備え、
磁性層の導電性粒子の導電点粒径が、磁性層の平均厚さの1.3倍以上3倍以下の範囲内である磁気記録媒体の製造方法である。
【0014】
また、第5の発明は、両主面を有する非磁性支持体と、
非磁性支持体の一主面上に形成された、非磁性粉末、導電性粒子、および結合剤を含有する非磁性層と、
非磁性層上に形成された、磁性粉末、導電性粒子、および結合剤を含有する磁性層と
を備え、
非磁性層および磁性層は、ウェット・オン・ドライ方式により作製され、
磁性層に含まれる導電性粒子の導電点粒径が、磁性層の平均厚さの5倍以下であり、
磁性層の一主面上に露出する導電性粒子が100μm2あたり14個以上である磁気記録媒体である。
【0015】
また、第6の発明は、両主面を有する非磁性支持体と、
非磁性支持体の一主面上に形成された、非磁性粉末、導電性粒子、および結合剤を含有する非磁性層と、
非磁性層上に形成された、磁性粉末、導電性粒子、および結合剤を含有する磁性層と
を備え、
非磁性層および磁性層は、ウェット・オン・ウェット方式により作製され、
磁性層に含まれる導電性粒子の導電点粒径が、磁性層の平均厚さの3倍以下であり、
磁性層の一主面上に露出する導電性粒子が100μm2あたり15個以上である磁気記録媒体である。
【0016】
また、第7の発明は、非磁性支持体上に非磁性層形成用塗料を塗布し乾燥させることにより、非磁性層を形成する工程と、
非磁性層上に磁性層形成用塗料を塗布し乾燥させることにより、磁性層を形成する工程と
を備え、
磁性層の導電性粒子の導電点粒径が、磁性層の平均厚さの5倍以下であり、
磁性層の一主面上に露出する導電性粒子が100μm2あたり14個以上である磁気記録媒体の製造方法である。
【0017】
また、第8の発明は、非磁性層形成用塗料、磁性層形成用塗料を非磁性支持体上に順次塗布する工程と、
非磁性層上に塗布された非磁性層形成用塗料、磁性層形成用塗料を乾燥し、非磁性支持体上に非磁性層、磁性層を形成する工程と
を備え、
磁性層の導電性粒子の導電点粒径が、磁性層の平均厚さの3倍以下であり、
磁性層の一主面上に露出する導電性粒子が100μm2あたり15個以上である磁気記録媒体の製造方法である。
【0018】
上述したように、第1および第3の発明では、非磁性支持体上に非磁性層形成用塗料を塗布し乾燥させることにより、非磁性層を形成し、非磁性層上に磁性層形成用塗料を塗布し乾燥させることにより、磁性層を形成するようにされ、磁性層の導電性粒子の導電点粒径が、磁性層の平均厚さの3倍以上5倍以下の範囲内であるようにしているため、磁気ヘッドなどの読み取り手段と磁気記録媒体の高速摺動による磁気記録面の摩擦上昇を抑制できる。
【0019】
また、第2および第4の発明では、非磁性層形成用塗料、磁性層形成用塗料を非磁性支持体上に順次塗布し、非磁性層上に塗布された非磁性層形成用塗料、磁性層形成用塗料を乾燥し、非磁性支持体上に非磁性層、磁性層を形成するようにされ、磁性層の導電性粒子の導電点粒径が、磁性層の平均厚さの1.3倍以上3倍以下の範囲内であるようにしているため、磁気ヘッドなどの読み取り手段と磁気記録媒体の高速摺動による磁気記録面の摩擦上昇を抑制できる。
【0020】
また、第5および第7の発明では、非磁性支持体上に非磁性層形成用塗料を塗布し乾燥させることにより、非磁性層を形成し、非磁性層上に磁性層形成用塗料を塗布し乾燥させることにより、磁性層を形成するようにされ、磁性層の導電性粒子の導電点粒径が、磁性層の平均厚さの5倍以下であり、磁性層の一主面上に露出する導電性粒子が100μm2あたり14個以上であるようにしているため、磁気ヘッドなどの読み取り手段と磁気記録媒体の高速摺動による磁気記録面の摩擦上昇を抑制できる。
【0021】
また、第6および第8の発明では、非磁性層形成用塗料、磁性層形成用塗料を非磁性支持体上に順次塗布し、非磁性層上に塗布された非磁性層形成用塗料、磁性層形成用塗料を乾燥し、非磁性支持体上に非磁性層、磁性層を形成するようにされ、磁性層の導電性粒子の導電点粒径が、磁性層の平均厚さの3倍以下であり、磁性層の一主面上に露出する導電性粒子が100μm2あたり15個以上であるようにしているため、磁気ヘッドなどの読み取り手段と磁気記録媒体の高速摺動による磁気記録面の摩擦上昇を抑制できる。
【発明の効果】
【0022】
この発明は、非磁性支持体上に、非磁性層および磁性層をウェット・オン・ドライ方式により形成し、磁性層の導電性粒子の導電点粒径が、磁性層の平均厚さの3倍以上5倍以下の範囲内であり、磁性層の一主面上に露出する導電性粒子が100μm2あたり14個以上であるようにしているため、磁気記録媒体の磁気記録面における摩擦の上昇を抑制することができるという効果がある。
【0023】
また、この発明は、非磁性支持体上に、非磁性層および磁性層をウェット・オン・ウェット方式により形成し、磁性層の導電性粒子の導電点粒径が、磁性層の平均厚さの1.3倍以上3倍以下の範囲内であり、磁性層の一主面上に露出する導電性粒子が100μm2あたり15個以上であるようにしているため、磁気記録媒体の磁気記録面における摩擦の上昇を抑制することができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】図1は、この発明の一実施形態による磁気記録媒体の一例の概略断面図を示す。
【図2】図2は、ウェット・オン・ドライ方式およびウェット・オン・ウェット方式により形成された磁気記録媒体の構成を示す概略断面図である。
【図3】図3は、球状シリカの粒径分布を示す略線図である。
【図4】図4Aは、導電性粒子としてカーボンブラックを用いてウェット・オン・ドライ方式により形成された磁気記録媒体の構成を示す概略断面図である。図4Bは、導電性粒子としてカーボンブラックを用いてウェット・オン・ウェット方式により形成された磁気記録媒体の構成を示す概略断面図である。
【図5】図5Aは、導電性粒子としてハイブリッドカーボンを用いてウェット・オン・ドライ方式により形成された磁気記録媒体の構成を示す概略断面図である。図5Bは、導電性粒子としてハイブリッドカーボンを用いてウェット・オン・ウェット方式により形成された磁気記録媒体の構成を示す概略断面図である。
【図6】図6は、ウェット・オン・ドライ塗布方式を用いた磁気記録媒体の製造工程の流れの一例を示すフローチャートである。
【図7】図7は、カーボンブラックの粒径分布を示す略線図である。
【図8】図8は、実施例1および実施例2における磁性層表面の導電点を示す略線図である。
【図9】図9は、実施例1および実施例2におけるカーボン粒子分布と平均導電点密度との関係を示す略線図である。
【図10】図10は、導電点個数と摩擦との関係について説明するための略線図である。
【図11】図11は、実施例9−1〜実施例9−4および比較例7−1における導電点個数と再生出力との関係を説明するための略線図である。
【図12】図12は、実施例10における最小導電点粒径とエラーレートとの関係について説明するための略線図である。
【図13】図13は、実施例11における最小導電点粒径とエラーレートとの関係について説明するための略線図である。
【図14】図14は、比較例8における最小導電点粒径とエラーレートとの関係について説明するための略線図である。
【図15】図15は、比較例9における最小導電点粒径とエラーレートとの関係について説明するための略線図である。
【図16】図16は、実施例12における最小導電点粒径とエラーレートとの関係について説明するための略線図である。
【図17】図17は、実施例13における最小導電点粒径とエラーレートとの関係について説明するための略線図である。
【図18】図18は、比較例10における最小導電点粒径とエラーレートとの関係について説明するための略線図である。
【図19】図19Aは、実施例14−1〜実施例14−3におけるシリカ体積割合と摩擦との関係について説明するための略線図である。図19Bは、実施例15−1〜実施例15−3におけるシリカ体積割合と摩擦との関係について説明するための略線図である。
【図20】図20Aは、実施例16−1〜実施例16−2および比較例11−1〜比較例11−3におけるシリカ粒径と摩擦との関係について説明するための略線図である。図20Bは、実施例17−1〜実施例17−2および比較例12−1〜比較例12−3におけるシリカ粒径と摩擦との関係について説明するための略線図である。
【図21】図21Aは、実施例14−1〜実施例14−3におけるシリカ体積割合とエラーレートとの関係について説明するための略線図である。図21Bは、実施例15−1〜実施例15−3におけるシリカ体積割合とエラーレートとの関係について説明するための略線図である。
【図22】図22Aは、実施例16−1〜実施例16−2および比較例11−1〜比較例11−3におけるシリカ粒径とエラーレートとの関係について説明するための略線図である。図22Bは、実施例17−1〜実施例17−2および比較例12−1〜比較例12−3におけるシリカ粒径とエラーレートとの関係について説明するための略線図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
[磁気記録媒体の構成]
この発明の一実施形態について図面を参照しながら説明する。図1に本発明の磁気記録媒体の一例の概略断面図を示す。磁気記録媒体は、長尺状の非磁性支持体1と、長尺状の非磁性支持体1の一主面上に形成された非磁性層2と、非磁性層2上に形成された磁性層3とを備える。磁気記録媒体が、必要に応じて、長尺状の非磁性支持体1の他主面上に形成されたバックコート層4をさらに備えるようにしてもよい。非磁性層2と磁性層3との界面は、塗布方式の違いにより異なったものとなる。この発明の一実施形態に係る磁気記録媒体は、リニア方式を適用した記録再生システムに用いて好適なものである。
【0026】
図2Aは、ウェット・オン・ドライ方式(塗布・乾燥工程)により形成された磁気記録媒体の構成を示す概略断面図である。図2Bは、ウェット・オン・ウェット方式(湿潤重層塗布方式)により形成された磁気記録媒体の構成を示す概略断面図である。図2Aに示すように、ウェット・オン・ドライ方式により形成された非磁性層2と磁性層3との界面は明瞭である。これに対して、ウェット・オン・ウェット方式により形成された非磁性層2と磁性層3との界面は、図2Bに示すように不明瞭である。
【0027】
(非磁性支持体)
非磁性支持体1について説明する。非磁性支持体1の材料としては、例えば、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステル類、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン類、セルローストリアセテート、セルロースダイアセテート、セルロースブチレートなどのセルロース誘導体、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデンなどのビニル系樹脂、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリアミドイミドなどのプラスチック、アルミニウム合金、チタン合金などの軽金属、アルミナガラスなどのセラミックなどが挙げられる。さらには、機械的強度を高めるために、酸化アルミ膜などのAlまたはCuの酸化物を含む薄膜を、ビニル系樹脂などを含む非磁性支持体1の主面のうち少なくとも一方に成膜したものもある。成膜法としては、例えば、蒸着法、化学気相成長法、スパッタリング法などを用いることができる。
【0028】
(磁性層)
次に、磁性層3について説明する。磁性層3は、磁性粉末、結合剤および導電性粒子3aを主成分とするものとし、その他潤滑剤、研磨剤、防錆剤などの添加剤を混合し、有機溶剤を用いて混練、分散させ、調製した磁性塗料を塗布することにより形成されるものである。
【0029】
磁性層3の平均厚さが、50nm以上75nm以下であることが好ましく、より好ましくは50nm以上70nm以下、さらに好ましくは50nm以上65nm以下である。磁性層3の平均厚さが50nm以上にすると、一定の厚みの磁性層3を形成することができる。一方、磁性層3の平均厚さを75nm以下にすると、記録密度を向上することができる。
【0030】
(磁性粉末)
磁性粉末は、適用するVTRフォーマット、データドライブフォーマットの記録再生特性に好適な磁気特性(保磁力、磁化量)を有するものを選択する。例えば、Fe系、およびFe−Co系の金属粉末、バリウムフェライト、炭化鉄、酸化鉄などが挙げられる。なお、副元素として、Co、Ni、Cr、Mn、Mg、Ca、Ba、Sr、Zn、Ti、Mo、Ag、Cu、Na、K、Li、Al、Si、Ge、Ga、Y、Nd、La、Ce、Zrなどの金属化合物が共存していても良い。
【0031】
(結合剤)
本発明の磁気記録媒体の磁性層3を構成する結合剤としては、ポリウレタン系樹脂や、塩化ビニル系樹脂などに架橋反応を付与した構造の樹脂が好ましい。しかしながら結合剤はこれらに限定することなく、目的とする磁気記録媒体に対して要求される物性などに応じて、その他、従来公知の他の樹脂を適宜配合してもよい。配合する樹脂としては、通常、塗布型の磁気記録媒体に用いられる樹脂であれば、特に限定されない。
【0032】
例えば、塩化ビニル、酢酸ビニル、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル−塩化ビニリデン共重合体、塩化ビニル−アクリロニトリル共重合体、アクリル酸エステル−アクリロニトリル共重合体、アクリル酸エステル−塩化ビニル−塩化ビニリデン共重合体、塩化ビニル−アクリロニトリル共重合体、アクリル酸エステル−アクリロニトリル共重合体、アクリル酸エステル−塩化ビニリデン共重合体、メタクリル酸エステル−塩化ビニリデン共重合体、メタクリル酸エステル−塩化ビニル共重合体、メタクリル酸エステル−エチレン共重合体、ポリ弗化ビニル、塩化ビニリデン−アルリロニトリル共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体、ポリアミド樹脂、ポリビニルブチラール、セルロース誘導体(セルロースアセテートブチレート、セルロースダイアセテート、セルローストリアセテート、セルロースプロピオネート、ニトロセルロース)、スチレンブタジエン共重合体、ポリエステル樹脂、アミノ樹脂、合成ゴムなどが挙げられる。
【0033】
また、熱硬化性樹脂、または反応型樹脂の例としては、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、アルキッド樹脂、シリコーン樹脂、ポリアミン樹脂、尿素ホルムアルデヒド樹脂などが挙げられる。
【0034】
また、上述した各結合剤には、磁性粉末の分散性を向上させる目的で、−SO3M、−OSO3M、−COOM、P=O(OM)2などの極性官能基が導入されていてもよい。ここで、式中Mは、水素原子、あるいはリチウム、カリウム、ナトリウムなどのアルカリ金属である。
【0035】
更に、極性官能基としては、−NR1R2、−NR1R2R3+X−の末端基を有する側鎖型のもの、>NR1R2+X−の主鎖型のものが挙げられる。ここで、式中R1、R2、R3は、水素原子、あるいは炭化水素基であり、X−は弗素、塩素、臭素、ヨウ素などのハロゲン元素イオンあるいは無機・有機イオンである。また、極性官能基としては、−OH、−SH、−CN、エポキシ基なども挙げられる。
【0036】
(導電性粒子)
導電性粒子3aとしては、炭素を主成分とする微粒子、例えば、カーボンブラックを用いることができる。カーボンブラックとしては、例えば、旭カーボン社の旭#15、#15HSなどを用いることができる。
【0037】
ここで、磁性層3に対して非磁性のカーボンブラックを多量に入れると再生出力が低下してしまう。また、粒径(直径)の大きいカーボンブラックを使用した場合には、粒子が磁気記録媒体表面の突起になり、磁気ヘッドと磁気記録媒体との間隙(以下、スペーシングと適宜称する)となり、再生出力と再生分解能が劣化してしまう。そのため、この発明の一実施形態では、粒径が磁性層3の厚さに対して所定の大きさである導電性粒子3aを入れ、磁気ヘッドと磁気記録媒体との間が適切なスペーシングとなるようにしている。
【0038】
ウェット・オン・ドライ方式により磁気記録媒体を作製する場合には、導電性粒子3aの導電点粒径(直径)が磁性層3の平均厚さの3倍以上5倍以下の範囲内であることが好ましい。3倍未満であると、導電性粒子3aにより導電点を形成することが困難となる傾向がある。一方、5倍を超えると、メディア表面から突出してスペーシングとなる傾向がある。
【0039】
また、ウェット・オン・ドライ方式により磁気記録媒体を作製する場合には、導電性粒子3aの最小導電点粒径(直径)が磁性層3の平均厚さの3倍以上5倍以下の範囲内であることが好ましい。3倍未満であると、導電性粒子3aにより導電点を形成することが困難となる傾向がある。一方、5倍を超えると、磁気ヘッドと磁気記録媒体との間のスペーシングが大きくなりすぎるため、再生出力の低下、およびエラーレートの悪化などの記録再生特性の低下を招く傾向がある。ウェット・オン・ドライ方式により磁気記録媒体を作製する場合には、導電性粒子3aの粒径は、好ましくは150nm以上375nm以下、より好ましくは150nm以上250nm以下、さらに好ましくは150nm以上200nm以下であり、磁性層3の平均厚さは、好ましくは50nm以上75nm以下、より好ましくは50nm以上70nm以下、さらに好ましくは50nm以上65nm以下である。
【0040】
また、ウェット・オン・ドライ方式により磁気記録媒体を作製する場合には、磁性層3の一主面上に露出する導電性粒子3aが、好ましくは100μm2あたり14個以上、より好ましくは100μm2あたり14個以上70個以下である。14個以上であると、走行回数の増加に伴う摩擦の上昇を抑制できるとともに、摩擦を低減することができる。70個以下であると、再生出力の低下を抑制することができる。
【0041】
ウェット・オン・ウェット方式により磁気記録媒体を作製する場合には、導電性粒子3aの導電点粒径(直径)が磁性層3の平均厚さの1.3倍以上3倍以下の範囲内であることが好ましい。1.3倍未満であると、導電性粒子3aにより導電点を形成することが困難となる傾向がある。一方、3倍を超えると、メディア表面から突出してスペーシングとなる傾向がある。
【0042】
また、ウェット・オン・ウェット方式により磁気記録媒体を作製する場合には、導電性粒子3aの最小導電点粒径(直径)が磁性層3の平均厚さの1.3倍以上3倍以下の範囲内であることが好ましい。1.3倍未満であると、導電性粒子3aにより導電点を形成することが困難となる傾向がある。一方、3倍を超えると、磁気ヘッドと磁気記録媒体との間のスペーシングが大きくなりすぎるため、再生出力の低下、およびエラーレートの悪化などの記録再生特性の低下を招く傾向がある。この場合、導電性粒子3aの粒径は、好ましくは65nm以上225nm以下、より好ましくは65nm以上165nm以下、さらに好ましくは65nm以上115nm以下である。
【0043】
また、ウェット・オン・ウェット方式により磁気記録媒体を作製する場合には、磁性層3の一主面上に露出する導電性粒子3aが、好ましくは100μm2あたり15個以上、より好ましくは100μm2あたり15個以上70個以下である。15個以上であると、走行回数の増加に伴う摩擦の上昇を抑制できるとともに、摩擦を低減することができる。70個以下であると、再生出力の低下を抑制することができる。
【0044】
このような、従来と比較して大きい最小導電点粒径の導電性粒子3aを磁性層3が含むことで、導電点に寄与しない導電性粒子3aの個数を低減し、磁性層中の非磁性成分を減少できるので、再生出力を向上させることができる。
【0045】
後述する図9A、図9Bに示したように、導電性粒子3aとしてカーボン粒子(カーボンブラック)を用いた場合には、導電点に寄与しないカーボン粒子が非常に多くなってしまう。理想的な導電性粒子3aは、全く粒径分布がなく、ウェット・オン・ドライ方式なら3倍程度の粒径で、ウェット・オン・ウェット方式なら1.3倍程度であることが好ましい。このような条件を満たす導電性粒子3aとして、粒子径分散の少ないシリカ粒子表面にカーボンを付着させたハイブリッドカーボンが好適である。ハイブリッドカーボンの材料となる球状シリカ粒径分布を図3に示す。この粒径分布は、具体的にはアドマテック社製アドマファイン(型番SO-E1)のものである。図3に示すように、球状シリカの粒径分布は、カーボンブラックに比べて非常に少ない。このような粒径分布を有する導電性粒子を用いることで、実効的な導電点となりうる粒子を多くすることが可能である。シリカ粒子表面に付着させる導電性粒子としては、例えば、中性のカーボンブラック、具体的には、粒径15nm程度のカーボンブラックを用いることができる。このようなカーボンブラックとしては、例えば、旭カーボン株式会社のSUNBLACKS905などを用いていることができる。これらをシリカ表面に吸着させるのだが、この際の吸着量は、シリカ体積が100nmの場合には40%の体積割合で均一に被着させることが好ましく、シリカ体積が200nmの場合には18%程度の体積割合となるように吸着させることが好ましい。粒径分散の少ないハイブリッドカーボンを用いることで導電に寄与しない粒子が減り、磁性膜中の非磁性成分が減るので再生出力を向上させることができる。ここでは、シリカ粒子を用いたが、シリカ粒子の代わりにセラミック粒子、または導電性を有するAu、Agなどの金属粒子をそのまま導電性粒子3aとして使うことも可能である。
【0046】
(潤滑剤)
磁性層3、および非磁性層2に含有させる潤滑剤としては、例えば、炭素数10〜24の一塩基性脂肪酸と、炭素数2〜12の1価〜6価アルコールのいずれかとのエステル、これらの混合エステル、またはジ脂肪酸エステル、トリ脂肪酸エステルを適宜用いることができる。潤滑剤の具体例としては、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、エライジン酸、ステアリン酸ブチル、ステアリン酸ペンチル、ステアリン酸ヘプチル、ステアリン酸オクチル、ステアリン酸イソオクチル、ミリスチン酸オクチルが挙げられる。
【0047】
(非磁性補強粒子)
磁性層3には、非磁性補強粒子として、酸化アルミニウム(α、β、γ)、酸化クロム、酸化珪素、ダイヤモンド、ガーネット、エメリー、窒化ホウ素、チタンカーバイト、炭化珪素、炭化チタン、酸化チタン(ルチル、アナターゼ)などを含有させてもよい。
【0048】
(非磁性層)
次に、非磁性層2について説明する。非磁性層2は、非磁性粉末と結合剤を主成分とするものとし、その他導電性粒子2a、潤滑剤などの各種添加剤を混合し、有機溶剤を用いて混練、分散させ、調製した下層非磁性層用塗料を塗布することにより形成されるものである。
【0049】
(非磁性粉末)
非磁性粉末としては、針状、球状、板状など、各種形状の微粒子を適宜使用することができる。
【0050】
(結合剤)
非磁性層2を構成する結合剤としては、上述した磁性層3において適用可能なものをいずれも使用することができる。また、非磁性層2においては、樹脂にポリイソシアネートを併用して、これを架橋硬化させるようにしてもよい。ポリイソシアネートとしては、トルエンジイソシアネート、およびこれらの付加体、アルキレンジイソシアネート、およびこれらの付加体などが挙げられる。
【0051】
(導電性粒子)
非磁性層2の導電性粒子2aとしては、上述した磁性層3の導電性粒子3aと同様に、例えば、カーボンブラックや、上述したハイブリッドカーボンを用いることができる。非磁性層2は、非磁性のため磁気記録媒体の読み出し出力には影響しないため、カーボンブラックを多量に混入させることができる。具体的には、例えば、平均粒径が30nm程度のカーボンブラックを多量に混入させることで、比較的容易に磁気記録媒体の磁性層形成面側の電気抵抗を2×105Ω/cm2程度まで低くすることができる。なお、電気抵抗が2×105Ω/cm2を超えると、電荷がたまりやすくなり、磁気ヘッドと磁気テープとが接触した際の摩擦が上昇し、磁気ヘッドに対する磁気テープの貼り付きが発生しやすくなってしまう。ここで、電気抵抗値は、以下のようにして測定した値である。電極間の距離が25.4mmの一対の平行電極上に、磁気記録媒体の磁気記録層側を接触させ、磁気記録媒体の両端に80gfの加重を加える。そして、この状態で電極間にDC100Vの電圧を印可し、超絶縁抵抗計により抵抗値を測定し、得られた抵抗値を電極間の磁気記録媒体の面積で除する。
【0052】
導電性粒子3aの最小導電点粒径と磁性層3と平均厚さとの関係について、図4および図5を参照して、より詳細に説明する。図4Aは、導電性粒子3aとしてカーボンブラックを用いてウェット・オン・ドライ方式により形成された磁気記録媒体の構成を示す概略断面図である。図4Bは、導電性粒子3aとしてカーボンブラックを用いてウェット・オン・ウェット方式により形成された磁気記録媒体の構成を示す概略断面図である。図5Aは、導電性粒子3aとしてハイブリッドカーボンを用いてウェット・オン・ドライ方式により形成された磁気記録媒体の構成を示す概略断面図である。図5Bは、導電性粒子3aとしてハイブリッドカーボンを用いてウェット・オン・ウェット方式により形成された磁気記録媒体の構成を示す概略断面図である。
【0053】
上述したように、ウェット・オン・ウェット方式により磁気記録媒体を作製する場合には、導電性粒子3aの最小導電点粒径(直径)を、磁性層3の平均厚さの1.3倍以上とすることが好ましい。このように磁性層3の平均厚さに対して最小導電点粒径が大きい導電性粒子3aを磁性層3に含有させる必要があるのは、以下の理由による。導電性粒子3aが導電点を形成するためには、導電性粒子3aが磁性層3の表面と非磁性層2との間の電気的なパスとして機能する必要がある。このためには、図4Aおよび図5Aに示すように、導電性粒子3aの一部が磁性層3の表面からの突出すると共に、導電性粒子3aの一部が磁性層3から非磁性層2に向けて突出し、この突出部が非磁性層2に含まれる導電性粒子2aと電気的に接続する必要がある。導電性粒子3aの最小導電点粒径(直径)が磁性層3の平均厚さの1.3倍以上であると、このような状態を導電性粒子2aが確保することができると考えられる。
【0054】
また、上述したように、ウェット・オン・ドライ方式により磁気記録媒体を作製する場合には、導電性粒子3aの最小導電点粒径(直径)を、磁性層3の平均厚さの3倍以上とすることが好ましい。上述したウェット・オン・ウェット方式の場合に比べて、磁性層3の平均厚さに対して最小導電点粒径が大きい導電性粒子3aを磁性層3に含有させる必要があるのは、以下の理由によるものと考えられる。図4Aおよび図5Aに示すように、ウェット・オン・ドライ方式により非磁性層2と磁性層3とを形成した場合には、非磁性層2には、磁性層3との界面近傍に導電性粒子2aが疎となる領域が形成されていると考えられる。電性粒子3aの最小導電点粒径(直径)を磁性層3の平均厚さの3倍以上にすると、上述した導電性粒子2aが疎となる領域から導電性粒子3aの一部を突出させ、この突出部を非磁性層2に含まれる導電性粒子2aと電気的に接続させることができると考えられる。
【0055】
[磁気記録媒体の製造方法]
次に、上述の構成を有する磁気記録媒体の製造方法の一例について説明する。まず、非磁性粉末、導電性粒子2aおよび結着剤を溶剤に混練、分散させることにより、非磁性層形成用塗料を調製した。次に、磁性粉末、導電性粒子3aおよび結着剤を溶剤に混練、分散させることにより、磁性層形成用塗料を調製した。磁性層形成用塗料および非磁性層形成用塗料を調製する際には、同様の溶剤、分散装置および混練装置を適用することができる。
【0056】
上述の塗料調製に用いられる溶剤としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン系溶媒、メタノール、エタノール、プロパノールなどのアルコール系溶媒、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸プロピル、乳酸エチル、エチレングリコールアセテートなどのエステル系溶媒、ジエチレングリコールジメチルエーテル、2−エトキシエタノール、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどのエーテル系溶媒、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素系溶媒、メチレンクロライド、エチレンクロライド、四塩化炭素、クロロホルム、クロロベンゼンなどのハロゲン化炭化水素系溶媒などが挙げられる。これらは単独で用いてもよく、適宜混合して用いてもよい。
【0057】
上述の塗料調製に用いられる混練装置としては、例えば、連続二軸混練機、多段階で希釈可能な連続二軸混練機、ニーダー、加圧ニーダー、ロールニーダーなどの、従来から公知の混練装置を用いることができるが、特にこれらの装置に限定されるものではない。また、上述の塗料調製に用いられる分散装置としては、例えば、ロールミル、ボールミル、横型サンドミル、縦型サンドミル、スパイクミル、ピンミル、タワーミル、DCP、ホモジナイザー、超音波分散機などの、従来から公知の分散装置を用いることができるが、特にこれらの装置に限定されるものではない。
【0058】
次に、上述したようにして調製した磁性層形成用塗料、および非磁性層形成用塗料を、非磁性支持体1上に重層塗布し、乾燥処理を行うことにより、磁性層3、非磁性層2が非磁性支持体1上に形成される。塗料の塗布方法としては、例えば、ウェット・オン・ドライ塗布方式(塗布・乾燥工程)、およびウェット・オン・ウェット塗布方式(湿潤重層塗布方式)のいずれの方法を用いることができる。
【0059】
次に、2つの方式のうちウェット・オン・ドライ方式を用いた磁気記録媒体の製造工程について、図6に示すフローチャートを参照して説明する。ウェット・オン・ドライ塗布方式では、非磁性支持体1を用意し(ステップS1)、非磁性層形成用塗料を非磁性支持体1の一主面上に塗布して乾燥させることにより、非磁性層2を形成する(ステップS2)。次に、この非磁性層2上に磁性層形成用塗料を塗布して乾燥させることにより、磁性層3を非磁性層2上に形成する(ステップS3)。次に、ステップS4でバックコート層形成用塗料を非磁性支持体1の他主面上に塗布して乾燥させることにより、バックコート層4を形成する。
【0060】
次に、ステップS5において、非磁性層2、磁性層3、およびバックコート層4が形成された非磁性支持体1を大径コアに巻き直し、硬化処理を行う(ステップS6)。ステップS7では、非磁性層2、磁性層3、およびバックコート層4が形成された非磁性支持体1に対してカレンダー処理を行い、ステップS8で所定の幅に裁断する。このようにして、ステップS9で所定の幅に裁断されたパンケーキを得ることができる。
【0061】
なお、ステップS4におけるバックコート層4を形成する工程は、ステップS7におけるカレンダー処理の後に行ってもよい。
【0062】
ウェット・オン・ウェット塗布方式(湿潤重層塗布方式)では、上述したステップS2およびS3の代わりに、非磁性層形成用塗料を非磁性支持体1の一主面上に塗布して塗膜を形成し、この湿潤状態にある塗膜上に磁性層形成用塗料を重ねて塗布して塗膜を形成した後、両塗膜を乾燥させることにより、磁気記録媒体を製造することができる。
【0063】
この発明の一実施形態では、上述したように、ウェット・オン・ドライ方式により磁気記録媒体を作製する場合には、磁性層3内の導電性粒子3aの粒径が磁性層3の厚さの3倍以上5倍以下の範囲内であることが好ましい。
【0064】
導電性粒子3aの粒径が磁性層3の厚さの5倍を超える場合、磁気ヘッドと磁気記録媒体との接触面積が減ることで摩擦を抑制することができる。しかしながら、この場合には、導電性粒子3aによる磁性層3の表面の突起が磁気記録媒体と磁気ヘッドとのスペーシングになり、再生出力が低下してしまうからである。
【0065】
一方、導電性粒子3aの粒径が磁性層3の厚さの3倍を下回る場合、スペーシングを低くして再生出力を高めることができる。しかしながら、この場合には、磁性層3内の導電性粒子3aが磁性層3の表面に露出しなくなってしまうからである。また、非磁性層2と磁性層3との間に結合剤が析出するため、非磁性層2と磁性層3内の導電性粒子3aとの電気的な接触を保つことができず、静電気破壊が発生してしまうからである。
【0066】
また、上述したように、ウェット・オン・ウェット方式により磁気記録媒体を作製する場合には、磁性層3内の導電性粒子3aの粒径が磁性層3の厚さの1.3倍以上3倍以下の範囲内であることが好ましい。
【0067】
このように、この発明の一実施形態では、磁性層3の厚さに応じて、導電性粒子3aの粒径を適切に選択することにより、磁性層3の表面に露出する導電性粒子3aによる突起の高さを適切にして、磁気ヘッドと磁気記録媒体との高速摺動による、磁気記録面の摩擦の上昇を抑制することができるとともに、再生出力を高めることができる。
【0068】
また、高密度記録化された磁気記録媒体を再生するためには、高感度の磁気ヘッド、例えば巨大磁気抵抗効果を用いた磁気ヘッドを採用する必要がある。一方で、このような磁気ヘッドを用いた場合、巨大磁気抵抗効果素子の静電気破壊が考えられる。
【0069】
既存のリニア方式においては、上述した磁気ヘッドの貼り付きや磁気ヘッドの静電気破壊が大きな問題となる。しかしながら、この発明の一実施形態のように、磁性層3の厚さに応じて導電性粒子3aの粒径を適切に選択することにより、非磁性層2と磁性層3内の導電性粒子3aとの電気的な接触を保つことができる。これにより、磁気記録媒体の抵抗値を低下させることができるため、磁気記録媒体の磁気記録面と磁気ヘッドとの摩擦による帯電効果よりも放電の効果が勝り、帯電が抑制されて磁気ヘッドの静電気破壊を減少させることができる。
【0070】
なお、ウェット・オン・ドライ方式を用いた場合の導電性粒子3aの粒径が、ウェット・オン・ウェット方式を用いた場合の粒径よりも大きいのは、上述したように非磁性層2における磁性層3との界面近傍に、導電性粒子2aが疎となる領域が形成されることにより、非磁性層2と磁性層3との電気的な接触を保つためであると推測される。
【実施例】
【0071】
以下、実施例によりこの発明を具体的に説明するが、この発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0072】
本発明の実施例について図面を参照しながら以下の順序で説明する。
1.実施例における各物理量の測定方法
2.最小導電点粒径についての検討
3.導電点個数と摩擦との関係についての検討
4.最小導電点粒径と再生出力との関係についての検討
5.最小導電点粒径とエラーレートとの関係について検討
6.ハイブリッドカーボンを用いた場合についての検討
【0073】
<1.実施例における各物理量の測定方法>
この実施例において、導電性粒子3aの粒径分布および平均粒径、ならびに磁性層3の平均厚さは以下のようにして測定したものである。
【0074】
(粒径分布および平均粒径)
導電性粒子3aの粒径分布および平均粒径は以下のように求めた。まず、導電性粒子3aとなるカーボンブラックを水溶液化し、ホモジナイザーで分散させた。次に、透過型電子顕微鏡(以下TEM)用の試料台(通称メッシュ)にサンプルを採取した。次に、TEMにサンプルをセットし、6万倍で観察した。この際、加速電圧は200Vに設定した。次に、数十枚の画像ファイルから、任意に300個以上の粒子サイズを計測し、その計測結果から、統計処理を行い、粒径分布および平均粒径を求めた。
【0075】
(非磁性層、および磁性層の平均厚さ)
非磁性層2、および磁性層3の平均厚さは、以下のようにして求めた。まず、磁気テープをその主面に対して垂直に切り出し、その断面をTEMにより6万倍で撮影した。次に、撮影したTEM写真から無作為に10点を選び出し、それらの各点において非磁性層、および磁性層の厚さを測定した。次に、これらの測定値を単純に平均(算術平均)して非磁性層2、および磁性層3の平均厚さを求めた。
【0076】
<2.最小導電点粒径についての検討>
(実施例1)
下記配合の第一組成物をエクストルーダで混練する。その後、ディスパーを備えた攪拌タンクに、第一組成物と、下記配合の第二組成物を加えて予備混合を行った。その後、さらにサンドミル混合を行い、フィルター処理を行い、磁性層形成用塗料を作製した。
【0077】
(第一組成物)
Fe−Co系金属磁性粉末A:100重量部
(長軸長0.1μm、Co/Fe=30atm%、比表面積=47m2/g、飽和磁化=150Am2/kg、保磁力=184kA/m)
塩化ビニル系樹脂A(シクロヘキサノン溶液30wt%):55.6重量部
(重合度300、Mn=10000、極性基としてOSO3K=0.07mmol/g、2級OH=0.3mmol/gを含有する。)
酸化アルミニウム粉末A:5重量部
(α−Al2O3、平均粒径0.2μm)
カーボンブラック:2重量部
(東海カーボン社製、商品名:シーストTA)
図7に、磁性層形成用塗料に含まれる60μm2あたりのカーボンブラックの粒径分布を示す。カーボンブラックとしては、図7に示すように粒径分布を有し、平均粒径が120nmのものを用いた。
【0078】
(第二組成物)
塩化ビニル系樹脂A:27.8重量部
(樹脂溶液:樹脂分30wt%、シクロヘキサノン70wt%)
n−ブチルステアレート:2重量部
メチルエチルケトン:121.3重量部
トルエン:121.3重量部
シクロヘキサノン:60.7重量部
【0079】
次に、下記配合の第三組成物をエクストルーダで混練する。その後、ディスパーを備えた攪拌タンクに、第三組成物と、下記配合の第四組成物を加えて予備混合を行った。その後、さらにサンドミル混合を行い、フィルター処理を行い、非磁性層形成用塗料を作製した。
【0080】
(第三組成物)
針状酸化鉄粉末:100重量部
(α−Fe2O3、平均長軸長0.15μm)
塩化ビニル系樹脂A:55.6重量部
(樹脂溶液:樹脂分30wt%、シクロヘキサノン70wt%)
カーボンブラック:10重量部
(平均粒径20nm)
【0081】
(第四組成物)
ポリウレタン系樹脂UR8200(東洋紡績製):18.5重量部
n−ブチルステアレート:2重量部
メチルエチルケトン:108.2重量部
トルエン:108.2重量部
シクロヘキサノン:18.5重量部
【0082】
次に、上述のようにして作製した磁性層形成用塗料、および非磁性層形成用塗料のそれぞれに、硬化剤として、ポリイソシアネート(商品名:コロネートL、日本ポリウレタン社製)を4重量部と、ミリスチン酸を2重量部添加した。
【0083】
次に、これらの塗料を用いて、非磁性支持体1であるポリエチレンナフタレートフィルム(PENフィルム)上に非磁性層2、および磁性層3をウェット・オン・ドライ方式により以下のようにして形成した。まず、非磁性支持体1である厚さ6.2μmのPENフィルム上に、非磁性層形成用塗料を塗布、乾燥させることにより、PENフィルム上に非磁性層2を形成した。次に、非磁性層2上に、磁性層形成用塗料を塗布、乾燥させることにより、非磁性層2上に磁性層3形成した。次に、非磁性層2、および磁性層3が形成されたPENフィルムに対してカレンダー処理を行い、磁性層表面を平滑化した。なお、カレンダー処理後の非磁性層2の平均厚さ1100nm、磁性層3の平均厚さは50nmであった。
【0084】
次に、バックコート層4として、磁性層3とは反対側の面に、下記の組成の塗料を膜厚0.6μmに塗布し乾燥処理を行った。
カーボンブラック(旭社製商品名 #80):100重量部
ポリエステルポリウレタン:100重量部
(日本ポリウレタン社製商品名 N−2304)
メチルエチルケトン:500重量部
トルエン:400重量部
シクロヘキサノン:100重量部
【0085】
次に、上述のようにして非磁性層2、磁性層3、およびバックコート層4が形成されたPENフィルムを1/2インチ(12.65mm)幅に裁断し、磁気テープを得た。
【0086】
(実施例2)
まず、磁性層3に含まれるカーボンブラックとして、粒径分布を有し、平均粒径56nmであるエボニックデグサ社のPrintex25を用いる以外は、実施例1と同様にして、非磁性層形成用塗料、および磁性層形成用塗料を作製した。
【0087】
次に、これらの塗料を用いて、非磁性層2、および磁性層3を非磁性支持体1上にウェット・オン・ウェット方式により以下のようにして形成した。まず、非磁性支持体1である厚さ6.2μmのポリエチレンナフタレートフィルム(PENフィルム)上に、非磁性層形成用塗料を塗布し、PENフィルム上に塗膜を形成した。次に、この塗膜上に、磁性層形成用塗料を塗布し、塗膜を形成した。次に、これの塗膜を乾燥させることにより、PENフィルム上に非磁性層2、および磁性層3を形成した。なお、カレンダー処理後において非磁性層の平均膜厚は、1100nm、磁性層膜の平均膜厚は70nmであった。これ以降の工程は実施例1と同様にしてサンプルを得た。
【0088】
(導電点密度)
まず、導電性原子間力顕微鏡(以下C−AFM)を用いて、実施例1、2の磁気テープの磁性層3を、以下の条件にて無作為に10箇所で観察した。その観察結果の一部を図8A、および図8Bに示す。
走査範囲:60×60μm
走査速度:1Hz
Scan Line:256
DCバイアス電圧:2V
使用カンチレバー:日本VEECO社製のMESP
【0089】
次に、観察した10箇所のC−AFM像毎に、導電点密度(単位面積100μm2あたりの導電点の個数)を求め、それらの10箇所の導電点密度を単純に加算平均し、平均導電点密度を算出した。その結果、実施例1の磁気テープでは、磁性層3の平均導電点密度は20個/100μm2であった。また、実施例2の磁気テープでは、磁性層3の平均導電点密度は35個/100μm2であった。
【0090】
図8A、および図8Bに示すように、C−AFMの測定結果では、カーボンが磁性層3の表面に露出している部分が白い点として観測される。この明細書中においては、これらの点を導電点(Conduction Point)と称する。導電点は、磁気テープ表面の電荷を非磁性層2へ逃がす役割を果たし、磁気ヘッドと磁気テープの高速摺動時に摩擦帯電による磁気テープの帯電を抑制する。また、導電点は、磁気ヘッドと磁気テープとの接触面積を減らす役割を果たし、両者の間の摩擦上昇を抑制する。なお、以下の実施例においても、平均導電点密度は上述のようにして求めたものである。
【0091】
(最小導電点粒径)
ウェット・オン・ドライ方式で作製した実施例1の磁気テープについて、最小導電点粒径を以下のようにして調べた。ここで、最小導電点粒径とは、磁性層3に含まれるカーボン粒子(導電性粒子3a)のうち、導電点に寄与する最小の導電点粒径を意味する。まず、図7のカーボン粒子分布を100μm2単位面積あたりの個数に直した。その粒径分布を図9Aに示す。次に、上述のようにして求めた平均導電点密度に基づき、導電点に寄与するカーボン粒子の粒子径を求めた。その結果を図9Aに示す。図9Aに示すように、導電点に寄与するカーボン粒子の粒子径は、150nm以上であることがわかった。
【0092】
実施例1では、上述したように、100μm2における平均導電点密度を調べた結果、平均導電点密度:20個/100μm2という結果が得られた。図9Aにおいて、磁性層3に含まれるカーボン粒子のうち、粒径が最も大きいカーボン粒子から所定の粒径までのカーボン粒子が、導電点に寄与していると仮定する。このように仮定すると、粒径が最も大きいカーボン粒子から数えて累積個数が20個となるカーボン粒子の粒径を求めれば、導電点に寄与するカーボン粒子の最小粒径を知ることができる。図9Aでは、このようにして求めたカーボン粒子の最小粒径は150nm以上となる。したがって、粒径150nm以上のサイズのカーボン粒子が、C−AFMで観察されていることになる。最小のカーボン粒子の粒径150nmは、磁性層3の厚さ50nmの3倍の値となっている。ウェット・オン・ドライ方式では、非磁性層2と磁性層3の界面が明瞭であるが、塗膜強度が硬く表面に結合剤の析出もあることから、磁性層厚さの3倍より大きいカーボン粒子が導電点に寄与している。
【0093】
ウェット・オン・ウェット方式で作製した実施例2の磁気テープについて、カーボン粒子分布と、平均導電点密度との関係を以下のようにして調べた。まず、カーボン粒子分布を100μm2単位面積あたりの個数に直した。その粒径分布を図9Bに示す。次に、上述のようにして求めた平均導電点密度35個/100μm2に基づき、導電点に寄与するカーボン粒子の粒子径を求めた。すなわち、磁性層3に含まれるカーボン粒子のうち、粒径が最も大きいカーボン粒子から数えて累積個数が35個となるカーボン粒子の粒径を求めた。その結果を図9Bに示す。図9Bに示すように、導電点に寄与するカーボン粒子の粒子径は、90nm以上であることがわかった。最小のカーボン粒子の粒径90nmは、磁性層3の厚さ70nmの1.3倍程度の値となっている。
【0094】
ウェット・オン・ウェット方式の場合、非磁性層2と磁性層3との界面が明瞭ではないために、実効導電点になりうるカーボンサイズが小さくなる。したがって、塗布方式に応じて最適なカーボンブラック粒径を選択することが好ましい。なお、以下の実施例においても、最小導電点粒径は上述のようにして求めたものである。
【0095】
<3.導電点個数と摩擦との関係についての検討>
(実施例3)
カーボンブラック量を磁性粉量100重量部に対して1.8重量部にする以外は実施例1と同様にして、ウェット・オン・ドライ方式により、磁性層3の平均厚さ50nm、最小導電点粒径150nm、導電点密度20個/100μm2の磁気テープを作製した。
【0096】
(実施例4)
カーボンブラック量を磁性粉量100重量部に対して1.6重量部にする以外は実施例1と同様にして、ウェット・オン・ドライ方式により、磁性層3の平均厚さ50nm、最小導電点粒径200nm、導電点密度14個/100μm2の磁気テープを作製した。
【0097】
(比較例1)
カーボンブラック量を磁性粉量100重量部に対して1.4重量部にする以外は実施例1と同様にして、ウェット・オン・ドライ方式により、磁性層3の平均厚さ50nm、最小導電点粒径300nm、導電点密度9個/100μm2の磁気テープを作製した。
【0098】
(比較例2)
カーボンブラック量を磁性粉量100重量部に対して1.2重量部にする以外は実施例1と同様にして、ウェット・オン・ドライ方式により、磁性層3の平均厚さ50nm、最小導電点粒径360nm、導電点密度2個/100μm2の磁気テープを作製した。
【0099】
(摩擦)
実施例3、4および比較例1、2の磁気テープを、リニアテープドライブのLTO(Linier Tape Open)Generation4のヘッドを用いて、テープスピード4m/secで高速走行させた場合の摩擦変化について調べた。磁気テープは全て2000回の走行を行った。その結果を図10に示す。
【0100】
図10から、磁気テープを200回走行させた時点付近から、導電点密度が低いテープ(比較例1、2)の摩擦の上昇度合いが大きくなるが、導電点密度が高いテープ(実施例3、4)の摩擦の上昇度合いが小さく、略一定の摩擦力を維持している。すなわち、導電点密度が高いテープ(実施例3、4)の方が、導電点密度が低いテープ(比較例1、2)よりも、走行回数の増加に伴う摩擦の上昇を抑制できる傾向にあることがわかる。また、磁気テープを2000回走行させた時点において、導電点密度が高いテープ(実施例3、4)の方が、導電点密度が低いテープ(比較例1、2)よりも摩擦を低減できる傾向にあることがわかる。したがって、ウェット・オン・ドライ方式で作製された磁気テープにおいては、導電点密度が14個/100μm2以上のときに、走行回数の増加に伴う摩擦の上昇を抑制できるとともに、摩擦を低減できる傾向にあることがわかる。
【0101】
<4.最小導電点粒径と再生出力との関係についての検討>
(実施例5−1)
カーボンブラック量を磁性粉量100重量部に対して1〜2重量部に適宜変化させる以外は実施例1と同様にして、ウェット・オン・ドライ方式により、磁性層3の平均厚さが50nm、最小導電点粒径が100nmである磁気テープを作製した。
【0102】
(実施例5−2)
最小導電点粒径が150nmである以外は実施例5−1と同様にして、ウェット・オン・ドライ方式により、磁性層3の平均厚さが50nmである磁気テープを作製した。
【0103】
(実施例5−3)
最小導電点粒径が200nmである以外は実施例5−1と同様にして、ウェット・オン・ドライ方式により、磁性層3の平均厚さが50nmである磁気テープを作製した。
【0104】
(実施例5−4)
最小導電点粒径が250nmである以外は実施例5−1と同様にして、ウェット・オン・ドライ方式により、磁性層3の平均厚さが50nmである磁気テープを作製した。
【0105】
(比較例3−1)
最小導電点粒径が300nmである以外は実施例5−1と同様にして、ウェット・オン・ドライ方式により、磁性層3の平均厚さが50nmである磁気テープを作製した。
【0106】
(比較例3−2)
最小導電点粒径が350nmである以外は実施例5−1と同様にして、ウェット・オン・ドライ方式により、磁性層3の平均厚さが50nmである磁気テープを作製した。
【0107】
(比較例3−3)
最小導電点粒径が360nmである以外は実施例5−1と同様にして、ウェット・オン・ドライ方式により、磁性層3の平均厚さが50nmである磁気テープを作製した。
【0108】
(実施例6−1)
カーボンブラック量を磁性粉量100重量部に対して1〜2重量部に適宜変化させる以外は実施例1と同様にして、ウェット・オン・ドライ方式により、磁性層3の平均厚さが70nm、最小導電点粒径が100nmである磁気テープを作製した。
【0109】
(実施例6−2)
最小導電点粒径が150nmである以外は実施例6−1と同様にして、ウェット・オン・ドライ方式により、磁性層3の平均厚さが70nmである磁気テープを作製した。
【0110】
(実施例6−3)
最小導電点粒径が200nmである以外は実施例6−1と同様にして、ウェット・オン・ドライ方式により、磁性層3の平均厚さが70nmである磁気テープを作製した。
【0111】
(実施例6−4)
最小導電点粒径が250nmである以外は実施例6−1と同様にして、ウェット・オン・ドライ方式により、磁性層3の平均厚さが70nmである磁気テープを作製した。
【0112】
(実施例6−5)
最小導電点粒径が300nmである以外は実施例6−1と同様にして、ウェット・オン・ドライ方式により、磁性層3の平均厚さが70nmである磁気テープを作製した。
【0113】
(実施例6−6)
最小導電点粒径が350nmである以外は実施例6−1と同様にして、ウェット・オン・ドライ方式により、磁性層3の平均厚さが70nmである磁気テープを作製した。
【0114】
(比較例4−1)
最小導電点粒径が360nmである以外は実施例6−1と同様にして、ウェット・オン・ドライ方式により、磁性層3の平均厚さが70nmである磁気テープを作製した。
【0115】
(実施例7−1)
カーボンブラック量を磁性粉量100重量部に対して1〜3重量部に適宜変化させる以外は実施例2と同様にして、ウェット・オン・ウェット方式により、磁性層3の平均厚さが50nm、最小導電カーボン粒径が90nmである磁気テープを作製した。
【0116】
(実施例7−2)
最小導電点粒径が120nmである以外は実施例7−1と同様にして、ウェット・オン・ウェット方式により、磁性層3の平均厚さが50nmである磁気テープを作製した。
【0117】
(実施例7−3)
最小導電点粒径が150nmである以外は実施例7−1と同様にして、ウェット・オン・ウェット方式により、磁性層3の平均厚さが50nmである磁気テープを作製した。
【0118】
(比較例5−1)
最小導電点粒径が210nmである以外は実施例7−1と同様にして、ウェット・オン・ウェット方式により、磁性層3の平均厚さが50nmである磁気テープを作製した。
【0119】
(比較例5−2)
最小導電点粒径が220nmである以外は実施例7−1と同様にして、ウェット・オン・ウェット方式により、磁性層3の平均厚さが50nmである磁気テープを作製した。
【0120】
(比較例5−3)
最小導電点粒径が250nmである以外は実施例7−1と同様にして、ウェット・オン・ウェット方式により、磁性層3の平均厚さが50nmである磁気テープを作製した。
【0121】
(実施例8−1)
カーボンブラック量を磁性粉量100重量部に対して1〜3重量部に適宜変化させる以外は実施例2と同様にして、ウェット・オン・ウェット方式により、磁性層3の平均厚さが70nm、最小導電カーボン粒径が90nmである磁気テープを作製した。
【0122】
(実施例8−2)
最小導電点粒径が120nmである以外は実施例8−1と同様にして、ウェット・オン・ウェット方式により、磁性層3の平均厚さが70nmである磁気テープを作製した。
【0123】
(実施例8−3)
最小導電点粒径が150nmである以外は実施例8−1と同様にして、ウェット・オン・ウェット方式により、磁性層3の平均厚さが70nmである磁気テープを作製した。
【0124】
(実施例8−4)
最小導電点粒径が210nmである以外は実施例8−1と同様にして、ウェット・オン・ウェット方式により、磁性層3の平均厚さが70nmである磁気テープを作製した。
【0125】
(比較例6−1)
最小導電点粒径が220nmである以外は実施例8−1と同様にして、ウェット・オン・ウェット方式により、磁性層3の平均厚さが70nmである磁気テープを作製した。
【0126】
(比較例6−2)
最小導電点粒径が250nmである以外は実施例8−1と同様にして、ウェット・オン・ウェット方式により、磁性層3の平均厚さが70nmである磁気テープを作製した。
【0127】
(再生出力)
上述のようにして作製した実施例5−1〜実施例8−4および比較例3−1〜比較例6−2の再生出力を以下のようにして評価した。テープ走行系は、Mountain EngineeringII社製のSmall Form Factorを用い、Hewlett Packard社製のLTO4 Urtrium 1840に搭載されている記録再生ヘッドを用いた。自社で設計した記録・再生アンプを用い、2T出力をデジタルオシロスコープで取得した。
【0128】
表1は、実施例5−1〜実施例6−6および比較例3−1〜比較例4−1の磁気テープの再生出力の評価結果を示す。なお、実施例5−1〜実施例6−6および比較例3−1〜比較例4−1の磁気テープはそれぞれ、ウェット・オン・ドライ方式により作製したサンプルである。
【表1】
【0129】
表2は、実施例7−1〜実施例8−4および比較例5−1〜比較例6−2の磁気テープの再生出力の評価結果を示す。なお、実施例7−1〜実施例8−4および比較例5−1〜比較例6−2の磁気テープはそれぞれ、ウェット・オン・ウェット方式により作製したサンプルである。
【表2】
【0130】
表1から以下のことがわかる。ウェット・オン・ドライ方式により、平均厚さ50nmの磁性層3を形成した実施例5−1〜実施例5−4および比較例3−1〜比較例3−3では、最小導電点粒径が250nmを超えると、再生出力は急激に減少することがわかる。すなわち、最小導電点粒径が磁性層3の平均厚さの5倍を超えると、再生出力は急激に減少することがわかる。また、ウェット・オン・ドライ方式により、平均厚さ70nmの磁性層3を形成した実施例6−1〜実施例6−6および比較例4−1では、最小導電点粒径が350nmを超えると、再生出力は急激に減少することがわかる。すなわち、最小導電点粒径が磁性層3の平均厚さの5倍を超えると、再生出力は急激に減少することがわかる。
【0131】
表2から以下のことがわかる。ウェット・オン・ウェット方式により、平均厚さ50nmの磁性層3を形成した実施例7−1〜実施例7−3および比較例5−1〜比較例5−3では、最小導電点粒径が150nmを超えると、再生出力は急激に減少することがわかる。すなわち、最小導電点粒径が磁性層3の平均厚さの3倍を超えると、再生出力は急激に減少することがわかる。また、ウェット・オン・ウェット方式により、平均厚さ70nmの磁性層3を形成した実施例8−1〜実施例8−4および比較例6−1〜比較例6−2では、最小導電点粒径が210nmを超えると、再生出力は急激に減少することがわかる。すなわち、最小導電点粒径が磁性層3の平均厚さの3倍を超えると、再生出力は急激に減少することがわかる。
【0132】
上述したように、最小導電点粒径が磁性層3の平均厚さの5倍、または3倍を超えると、再生出力が急激に減少するのは、カーボン粒子の一部が磁性層表面から突出して突起を形成し、磁気ヘッドと磁気記録媒体のスペーシングとなったためであると考えられる。
【0133】
以上の検討から、ウェット・オン・ドライ方式により磁気テープを作製する場合には、最小導電点粒径が磁性層3の平均厚さの5倍以下であることが好ましい。また、ウェット・オン・ウェット方式により磁気テープを作製する場合には、最小導電点粒径が磁性層3の平均厚さの3倍以下であることが好ましい。さらに、塗布方式、磁性層の厚さ、導電性粒子の粒径、および材料を選択することで、再生出力の減少を抑え高信頼性の磁気記録媒体を得ることができる。
【0134】
(実施例9−1)
カーボンブラック量を磁性粉量100重量部に対して1重量部添加し、ウェット・オン・ドライ方式により、磁性層3の平均厚さ50nm、導電点密度14個/100μm2とする以外は実施例1と同様にして磁気テープを作製した。
【0135】
(実施例9−2)
カーボンブラック量を磁性粉量100重量部に対して2重量部添加し、ウェット・オン・ドライ方式により、磁性層3の平均厚さ50nm、導電点密度30個/100μm2とする以外は実施例1と同様にして磁気テープを作製した。
【0136】
(実施例9−3)
カーボンブラック量を磁性粉量100重量部に対して3重量部添加し、ウェット・オン・ドライ方式により、磁性層3の平均厚さ50nm、導電点密度50個/100μm2とする以外は実施例1と同様にして磁気テープを作製した。
【0137】
(実施例9−4)
カーボンブラック量を磁性粉量100重量部に対して5重量部添加し、ウェット・オン・ドライ方式により、磁性層3の平均厚さ50nm、導電点密度70個/100μm2とする以外は実施例1と同様にして磁気テープを作製した。
【0138】
(比較例7−1)
カーボンブラック量を磁性粉量100重量部に対して5.5重量部添加し、ウェット・オン・ドライ方式により、磁性層3の平均厚さ50nm、導電点密度80個/100μm2とする以外は実施例1と同様にして磁気テープを作製した。
【0139】
(再生出力)
上述のようにして作製した実施例9−1〜実施例9−4および比較例7−1の再生出力を以下のようにして評価した。テープ走行系は、Mountain EngineeringII社製のSmall Form Factorを用い、Hewlett Packard社製のLTO4 Urtrium 1840に搭載されている記録再生ヘッドを用いた。自社で設計した記録・再生アンプを用い、2T出力をデジタルオシロスコープで取得した。その結果を表3および図11に示す。
【0140】
表3は、実施例9−1〜実施例9−4および比較例7−1の磁気テープの再生出力の評価結果を示す。
【表3】
【0141】
表3および図11から以下のことがわかる。
カーボン投入量を増加させるに従って、導電点個数が増加する傾向がある。
カーボン投入量が1〜5重量部の範囲内では、カーボン投入量の増加に伴って、再生出力が僅かに低下する傾向を示すのに対して、カーボン投入量が5重量部を超える範囲では、再生出力が急激に低下する傾向を示す。したがって、カーボン投入量は、再生出力の低下を抑制する観点からすると、磁性粉末100重量部に対して1〜5重量部の範囲内であることが好ましい。
導電点個数が14〜70個/100μm2の範囲内では、導電点個数の増加に伴って、再生出力が僅かに低下する傾向を示すのに対して、導電点個数が70個/100μm2を超える範囲では、再生出力が急激に低下する傾向を示す。したがって、導電点個数は、再生出力の低下を抑制する観点からすると、70個/100μm2以下であることが好ましい。
【0142】
<5.最小導電点粒径とエラーレートとの関係について検討>
(実施例10)
カーボンブラック量を磁性粉量100重量部に対して1〜2重量部に適宜変化させる以外は実施例1と同様にして、ウェット・オン・ドライ方式により、磁性層3の平均厚さ50nm、最小導電点粒径150nm、導電点密度20個/100μm2の磁気テープを作製した。
【0143】
(実施例11)
カーボンブラック量を磁性粉量100重量部に対して1〜2重量部に適宜変化させる以外は実施例1と同様にして、ウェット・オン・ドライ方式により、磁性層3の平均厚さ50nm、最小導電点粒径200nm、導電点密度14個/100μm2の磁気テープを作製した。
【0144】
(比較例8)
カーボンブラック量を磁性粉量100重量部に対して1〜2重量部に適宜変化させる以外は実施例1と同様にして、ウェット・オン・ドライ方式により、磁性層3の平均厚さ50nm、最小導電点粒径300nm、導電点密度9個/100μm2の磁気テープを作製した。
【0145】
(比較例9)
カーボンブラック量を磁性粉量100重量部に対して1〜2重量部に適宜変化させる以外は実施例1と同様にして、ウェット・オン・ドライ方式により、磁性層3の平均厚さ50nm、最小導電点粒径360nm、導電点密度2個/100μm2の磁気テープを作製した。
(実施例12)
カーボンブラック量を磁性粉量100重量部に対して1〜3重量部に適宜変化させる以外は実施例2と同様にして、ウェット・オン・ウェット方式により、磁性層3の平均厚さ70nm、最小導電点粒径90nm、導電点密度35個/100μm2の磁気テープを作製した。
【0146】
(実施例13)
カーボンブラック量を磁性粉量100重量部に対して1〜3重量部に適宜変化させる以外は実施例2と同様にして、ウェット・オン・ウェット方式により、磁性層3の平均厚さ70nm、最小導電点粒径120nm、導電点密度15個/100μm2の磁気テープを作製した。
【0147】
(比較例10)
カーボンブラック量を磁性粉量100重量部に対して1〜3重量部に適宜変化させる以外は実施例2と同様にして、ウェット・オン・ウェット方式により、磁性層3の平均厚さ70nm、最小導電点粒径220nm、導電点密度2個/100μm2の磁気テープを作製した。
【0148】
(エラーレート)
上述のようにして作製した実施例3〜6、および比較例8〜10のエラーレートを以下のようにして評価した。テープ走行系は、Mountain EngineeringII社製のSmall Form Factorを用い、Hewlett Packard社製のLTO4ドライブに搭載されている記録再生ヘッドを用いた。自社で設計した記録・再生アンプを用い、入力信号としてM系列のランダム信号を用いた。評価結果を図12〜図18に示す。
【0149】
図12Aに示すように、実施例10では、エラーレートが磁気テープに対する読み書きのサイクル数によらず略一定となった。実施例10では、最小導電点粒径が150nmのカーボン粒子が導電点に寄与している(図12B)。この最小導電点粒径150nmは、磁性層3の厚さの3倍の値となっている。
【0150】
図13Aに示すように、実施例11では、エラーレートが磁気テープに対する読み書きのサイクル数が増加するに従ってやや上昇するが、略一定となった。実施例11では、最小導電点粒径が200nmのカーボン粒子が導電点に寄与している(図13B)。この最小導電点粒径200nmは、磁性層3の厚さの4倍の値となっている。
【0151】
図14Aに示すように、比較例8では、エラーレートが磁気テープに対する読み書きのサイクル数が増加するに従って上昇した。比較例8では、最小導電点粒径が300nmのカーボン粒子が導電点に寄与している(図14B)。この最小導電点粒径300nmは、磁性層3の厚さの6倍の値となっている。
【0152】
図15Aに示すように、比較例9では、エラーレートが磁気テープに対する読み書きのサイクル数が増加するに従って上昇した。比較例9では、最小導電点粒径が360nmのカーボン粒子が導電点に寄与している(図15B)。この最小導電点粒径360nmは、磁性層3の厚さの7.2倍の値となっている。
【0153】
図12〜図15に示す結果から、ウェット・オン・ドライ方式により作製された磁気テープにおいては、最小導電点粒径が磁性層3の厚さの3倍以上5倍以下のときに、エラーレートを低減できる傾向にあることがわかる。
【0154】
また、図16Aに示すように、実施例12では、エラーレートが磁気テープに対する読み書きのサイクル数によらず略一定となった。実施例12では、最小導電点粒径が90nmのカーボン粒子が導電点に寄与している(図16B)。この最小導電点粒径90nmは、磁性層3の厚さの約1.3倍の値となっている。
【0155】
図17Aに示すように、実施例13では、エラーレートが磁気テープに対する読み書きのサイクル数が増加するに従ってやや上昇するが、略一定となった。実施例13では、最小導電点粒径が120nmのカーボン粒子が導電点に寄与している(図17B)。この最小導電点粒径120nmは、磁性層3の厚さの約1.7倍の値となっている。
【0156】
図18Aに示すように、比較例10では、エラーレートが磁気テープに対する読み書きのサイクル数が増加するに従って上昇した。比較例10では、最小導電点粒径が220nmのカーボン粒子が導電点に寄与している(図18B)。この最小導電点粒径220nmは、磁性層3の厚さの約3.1倍の値となっている。
【0157】
図16〜図18に示す結果から、ウェット・オン・ウェット方式により作製された磁気テープにおいては、最小導電点粒径が磁性層3の厚さの1.3倍以上3倍以下のときに、エラーレートを低減できる傾向にあることがわかる。また、ウェット・オン・ウェット方式により作製された磁気テープにおいては、導電点密度が15個/100μm2以上のときに、エラーレートを低減できる傾向にあることがわかる。
【0158】
<6.ハイブリッドカーボンを用いた場合についての検討>
導電性粒子3aとして、カーボンブラックの代わりに、シリカ粒子表面にカーボンを付着させたハイブリッドカーボンを用いた場合の、摩擦、再生出力およびエラーレートについて検討する。
【0159】
(実施例14−1〜実施例14−3)
ハイブリッドカーボンの体積に対するシリカ粒子の体積の割合を示すシリカ体積割合が18%、40%および80%であるハイブリッドカーボンを用意した。カーボンブラックの代わりにこのハイブリッドカーボンを用い、ハイブリッドカーボン量を磁性粉量100重量部に対して0.2〜1.6重量部に適宜変化させる以外は実施例1と同様にして、ウェット・オン・ドライ方式により、磁性層3の平均厚さが50nm、最小導電点粒径が211nm〜243nmである磁気テープを作製した。
【0160】
(実施例15−1〜実施例15−3)
カーボンブラックの代わりに体積割合が18%、40%および80%であるハイブリッドカーボンを用い、ハイブリッドカーボン量を磁性粉量100重量部に対して0.2〜1.6重量部に適宜変化させる以外は実施例2と同様にして、ウェット・オン・ウェット方式により、磁性層3の平均厚さが50nm、最小導電点粒径が106nm〜122nm、シリカ体積割合が18%〜80%の範囲の磁気テープを作製した。
【0161】
(実施例16−1〜実施例16−2、比較例11−1〜比較例11−3)
最小導電点粒径が95nm、112nm、150nm、250nmおよび260nmであるハイブリッドカーボンを用意した。カーボンブラックの代わりにこのハイブリッドカーボンを用い、ハイブリッドカーボン量を磁性粉量100重量部に対して0.2〜1.6重量部に適宜変化させる以外は実施例1と同様にして、ウェット・オン・ドライ方式により、磁性層3の平均厚さが50nm、シリカ体積割合が40%である磁気テープを作製した。
【0162】
(実施例17−1〜実施例17−2、比較例12−1〜比較例12−3)
カーボンブラックの代わりに最小導電点粒径が50nm、65nm、150nm、160nmおよび246nmであるハイブリッドカーボンを用い、ハイブリッドカーボン量を磁性粉量100重量部に対して0.2〜1.6重量部に適宜変化させる以外は実施例2と同様にして、ウェット・オン・ウェット方式により、磁性層3の平均厚さが50nm、シリカ体積割合が40%である磁気テープを作製した。
【0163】
(摩擦)
実施例14−1〜実施例17−2および比較例11−1〜比較例12−3の磁気テープを、リニアテープドライブのLTOGeneration4のヘッドを用いて、テープスピード4m/secで高速走行させた場合の摩擦変化について調べた。磁気テープは全て10000回の走行を行った。その結果を図19および図20に示す。
【0164】
図19Aから、磁気テープを走行させるに従って、ウェット・オン・ドライ方式においてシリカ体積割合が18%〜40%のテープ(実施例14−1〜実施例14−3)の摩擦の上昇度合いが小さく、略一定の摩擦力を維持している。
【0165】
図19Bから、磁気テープを走行させるに従って、ウェット・オン・ウェット方式においてシリカ体積割合が18%〜40%のテープ(実施例15−1〜実施例15−3)の摩擦の上昇度合いが小さく、略一定の摩擦力を維持している。
【0166】
図20Aから、磁気テープを走行させるに従って、最小導電点粒径が小さいテープ(比較例11−1〜比較例11−2)の摩擦の上昇度合いが大きくなるが、最小導電点粒径が大きいテープ(実施例16−1〜実施例16−2、比較例11−3)の摩擦の上昇度合いが小さく、略一定の摩擦力を維持している。すなわち、最小導電点粒径が大きいテープ(実施例16−1〜実施例16−2、比較例11−3)の方が、最小導電点粒径が小さいテープ(比較例11−1〜比較例11−2)よりも、走行回数の増加に伴う摩擦の上昇を抑制できる傾向にあることがわかる。また、磁気テープを10000回走行させた時点において、最小導電点粒径が大きいテープ(実施例16−1〜実施例16−2、比較例11−3)の方が、最小導電点粒径が小さいテープ(比較例11−1〜比較例11−2)よりも摩擦を低減できる傾向にあることがわかる。
【0167】
図20Bから、磁気テープを走行させるに従って、最小導電点粒径が小さいテープ(比較例12−1)の摩擦の上昇度合いが大きくなるが、最小導電点粒径が大きいテープ(実施例17−1〜実施例17−2、比較例12−2〜比較例12−3)の摩擦の上昇度合いが小さく、略一定の摩擦力を維持している。すなわち、最小導電点粒径が大きいテープ実施例17−1〜実施例17−2、比較例12−2〜比較例12−3)の方が、最小導電点粒径が小さいテープ(比較例12−1)よりも、走行回数の増加に伴う摩擦の上昇を抑制できる傾向にあることがわかる。また、磁気テープを10000回走行させた時点において、最小導電点粒径が大きいテープ実施例17−1〜実施例17−2、比較例12−2〜比較例12−3)の方が、最小導電点粒径が小さいテープ(比較例12−1)よりも摩擦を低減できる傾向にあることがわかる。
【0168】
(再生出力)
上述のようにして作製した実施例14−1〜実施例17−2および比較例11−1〜比較例12−3の再生出力を以下のようにして評価した。テープ走行系は、Mountain EngineeringII社製のSmall Form Factorを用い、Hewlett Packard社製のLTO4 Urtrium 1840に搭載されている記録再生ヘッドを用いた。自社で設計した記録・再生アンプを用い、2T出力をデジタルオシロスコープで取得した。
【0169】
表4は、実施例14−1〜実施例15−3の磁気テープの再生出力の評価結果を示す。なお、実施例14−1〜実施例14−3の磁気テープはそれぞれ、ウェット・オン・ドライ方式により作製したサンプルであり、実施例15−1〜実施例15−3の磁気テープはそれぞれ、ウェット・オン・ウェット方式により作製したサンプルである。
【表4】
【0170】
表5は、実施例16−1〜実施例17−2および比較例11−1〜比較例12−3の磁気テープの再生出力の評価結果を示す。なお、実施例16−1〜実施例16−2および比較例11−1〜比較例11−3の磁気テープはそれぞれ、ウェット・オン・ドライ方式により作製したサンプルであり、実施例17−1〜実施例17−2および比較例12−1〜比較例12−3の磁気テープはそれぞれ、ウェット・オン・ウェット方式により作製したサンプルである。
【表5】
【0171】
表4から以下のことがわかる。ウェット・オン・ドライ方式によって磁性層3を形成した実施例14−1〜実施例14−3では、シリカ体積割合が18%〜80%の場合に、適切な再生出力を得ることができる。また、ウェット・オン・ウェット方式によって磁性層3を形成した実施例15−1〜実施例15−3では、シリカ体積割合が18%〜80%の場合に、適切な再生出力を得ることができる。
【0172】
表5から以下のことがわかる。ウェット・オン・ドライ方式によって磁性層3を形成した実施例16−1〜実施例16−2および比較例11−1〜比較例11−3では、最小導電点粒径が250nmを超えると、再生出力は急激に減少することがわかる。すなわち、最小導電点粒径が磁性層3の平均厚さの5倍を超えると、再生出力は急激に減少することがわかる。また、ウェット・オン・ウェット方式によって磁性層3を形成した実施例17−1〜実施例17−2および比較例12−1〜比較例12−3では、最小導電点粒径が150nmを超えると、再生出力は急激に減少することがわかる。すなわち、最小導電点粒径が磁性層3の平均厚さの3倍を超えると、再生出力は急激に減少することがわかる。
【0173】
上述したように、最小導電点粒径が250nm、または150nm(磁性層3の平均厚さの5倍、または3倍)を超えると、再生出力が急激に減少するのは、カーボン粒子の一部が磁性層表面から突出して突起を形成し、磁気ヘッドと磁気記録媒体のスペーシングとなったためであると考えられる。
【0174】
以上の検討から、ウェット・オン・ドライ方式によりハイブリッドカーボンを用いて磁気テープを作製する場合には、シリカ体積割合が80%以下であることが好ましい。また、最小導電点粒径が250nm以下(磁性層3の平均厚さの5倍以下)であることが好ましい。
【0175】
また、ウェット・オン・ウェット方式によりハイブリッドカーボンを用いて磁気テープを作製する場合には、シリカ体積割合が80%以下であることが好ましい。また、最小導電点粒径が150nm以下(磁性層3の平均厚さの3倍以下)であることが好ましい。
【0176】
さらに、塗布方式、磁性層の厚さ、導電性粒子の粒径、および材料を選択することで、再生出力の減少を抑え高信頼性の磁気記録媒体を得ることができる。
【0177】
(エラーレート)
上述のようにして作製した実施例14−1〜実施例17−2および比較例11−1〜比較例12−3のエラーレートを以下のようにして評価した。テープ走行系は、Mountain EngineeringII社製のSmall Form Factorを用い、Hewlett Packard社製のLTO4ドライブに搭載されている記録再生ヘッドを用いた。自社で設計した記録・再生アンプを用い、入力信号としてM系列のランダム信号を用いた。評価結果を図21および図22に示す。
【0178】
図21Aに示すように、実施例14−1では、エラーレートが磁気テープに対する読み書きのサイクル数が増加するに従ってやや上昇するが、略一定となった。実施例14−2および実施例14−3では、エラーレートが磁気テープに対する読み書きのサイクル数によらず略一定となった。実施例14−1〜実施例14−3では、最小導電点粒径が211nm〜243nmのハイブリッドカーボンが導電点に寄与している。この最小導電点粒径243nmは、磁性層3の厚さの約4.9倍の値となっている。
【0179】
図21Bに示すように、実施例15−1〜実施例15−2では、エラーレートが磁気テープに対する読み書きのサイクル数が増加するに従ってやや上昇するが、略一定となった。実施例15−3では、エラーレートが磁気テープに対する読み書きのサイクル数によらず略一定となった。実施例15−1〜実施例15−3では、最小導電点粒径が106nm〜122nmのハイブリッドカーボンが導電点に寄与している。この最小導電点粒径122nmは、磁性層3の厚さの約2.4倍の値となっている。
【0180】
図22Aに示すように、実施例16−1では、エラーレートが磁気テープに対する読み書きのサイクル数によらず略一定となった。実施例16−1では、最小導電点粒径が150nmのハイブリッドカーボンが導電点に寄与している。この最小導電点粒径150nmは、磁性層3の厚さの3倍の値となっている。
【0181】
実施例16−2では、エラーレートが磁気テープに対する読み書きのサイクル数によらず略一定となった。実施例16−2では、最小導電点粒径が250nmのハイブリッドカーボンが導電点に寄与している。この最小導電点粒径250nmは、磁性層3の厚さの5倍の値となっている。
【0182】
比較例11−1では、エラーレートが磁気テープに対する読み書きのサイクル数が増加するに従ってやや上昇するが、略一定となった。比較例11−1では、最小導電点粒径が95nmのハイブリッドカーボンが導電点に寄与している。この最小導電点粒径95nmは、磁性層3の厚さの1.9倍の値となっている。
【0183】
比較例11−2では、エラーレートが磁気テープに対する読み書きのサイクル数が増加するに従ってやや上昇するが、略一定となった。比較例11−2では、最小導電点粒径が112nmのハイブリッドカーボンが導電点に寄与している。この最小導電点粒径112nmは、磁性層3の厚さの約2.2倍の値となっている。
【0184】
一方、比較例11−3では、エラーレートが磁気テープに対する読み書きのサイクル数によらず略一定であるが、サイクル初期の段階で6乗台となり、LTOのスペック外となった。比較例11−3では、最小導電点粒径が260nmのハイブリッドカーボンが導電点に寄与している。この最小導電点粒径260nmは、磁性層3の厚さの5.2倍の値となっている。
【0185】
図22Bに示すように、実施例17−1では、エラーレートが磁気テープに対する読み書きのサイクル数によらず略一定となった。実施例17−1では、最小導電点粒径が65nmのハイブリッドカーボンが導電点に寄与している。この最小導電点粒径65nmは、磁性層3の厚さの1.3倍の値となっている。
【0186】
実施例17−2では、エラーレートが磁気テープに対する読み書きのサイクル数によらず略一定となった。実施例17−2では、最小導電点粒径が150nmのハイブリッドカーボンが導電点に寄与している。この最小導電点粒径150nmは、磁性層3の厚さの3倍の値となっている。
【0187】
比較例12−1では、エラーレートが磁気テープに対する読み書きのサイクル数が増加するに従ってやや上昇するが、略一定となった。比較例12−1では、最小導電点粒径が50nmのハイブリッドカーボンが導電点に寄与している。この最小導電点粒径50nmは、磁性層3の厚さの1.0倍の値となっている。
【0188】
一方、比較例12−2では、エラーレートが磁気テープに対する読み書きのサイクル数によらず略一定であるが、サイクル初期の段階で6乗台となり、LTOのスペック外となった。比較例12−2では、最小導電点粒径が160nmのハイブリッドカーボンが導電点に寄与している。この最小導電点粒径160nmは、磁性層3の厚さの3.2倍の値となっている。
【0189】
また、比較例12−3では、エラーレートが磁気テープに対する読み書きのサイクル数が増加するに従ってやや上昇するが、サイクル初期の段階で6乗台となり、LTOのスペック外となった。比較例12−3では、最小導電点粒径が246nmのハイブリッドカーボンが導電点に寄与している。この最小導電点粒径246nmは、磁性層3の厚さの約4.9倍の値となっている。
【0190】
図21および図22に示す結果から、ウェット・オン・ドライ方式によりハイブリッドカーボンを用いて作製された磁気テープにおいては、シリカ体積割合が80%以下のときに、エラーレートを低減できる傾向にあることがわかる。また、最小導電点粒径が250nm以下(磁性層3の厚さの5倍以下)のときに、エラーレートを低減できる傾向にあることがわかる。
【0191】
また、ウェット・オン・ウェット方式によりハイブリッドカーボンを用いて作製された磁気テープにおいては、シリカ体積割合が80%以下のときに、エラーレートを低減できる傾向にあることがわかる。また、最小導電点粒径が150nm以下(磁性層3の厚さの3倍以下)のときに、エラーレートを低減できる傾向にあることがわかる。
【0192】
以上、この発明の一実施形態について具体的に説明したが、この発明は、上述の一実施形態に限定されるものではなく、この発明の技術的思想に基づく各種の変形が可能である。
【0193】
例えば、上述の一実施形態において挙げた構成、方法、形状、材料および数値などはあくまでも例に過ぎず、必要に応じてこれと異なる構成、方法、形状、材料および数値などを用いてもよい。
【0194】
また、上述の実施形態の各構成は、この発明の主旨を逸脱しない限り、互いに組み合わせることが可能である。
【符号の説明】
【0195】
1 非磁性支持体
2 非磁性層
2a 導電性粒子
3 磁性層
3a 導電性粒子
【特許請求の範囲】
【請求項1】
両主面を有する非磁性支持体と、
上記非磁性支持体の一主面上に形成された、非磁性粉末、導電性粒子、および結合剤を含有する非磁性層と、
上記非磁性層上に形成された、磁性粉末、導電性粒子、および結合剤を含有する磁性層と
を備え、
上記非磁性層および磁性層は、ウェット・オン・ドライ方式により作製され、
上記磁性層に含まれる導電性粒子の導電点粒径が、上記磁性層の平均厚さの3倍以上5倍以下の範囲内である磁気記録媒体。
【請求項2】
両主面を有する非磁性支持体と、
上記非磁性支持体の一主面上に形成された、非磁性粉末、導電性粒子、および結合剤を含有する非磁性層と、
上記非磁性層上に形成された、磁性粉末、導電性粒子、および結合剤を含有する磁性層と
を備え、
上記非磁性層および磁性層は、ウェット・オン・ウェット方式により作製され、
上記磁性層に含まれる導電性粒子の導電点粒径が、上記磁性層の平均厚さの1.3倍以上3倍以下の範囲内である磁気記録媒体。
【請求項3】
上記磁性層に含まれる導電性粒子の最小導電点粒径が、上記磁性層の平均厚さの3倍以上5倍以下の範囲である請求項1記載の磁気記録媒体。
【請求項4】
上記磁性層に含まれる導電性粒子の最小導電点粒径が、上記磁性層の平均厚さの1.3倍以上3倍以下の範囲内である請求項2記載の磁気記録媒体。
【請求項5】
導電点に寄与する上記導電性粒子の一部が、上記磁性層の表面、および上記磁性層と上記非磁性層との界面の両方から突出している請求項1または2に記載の磁気記録媒体。
【請求項6】
上記磁性層の導電性粒子は、
非導電性粒子と、
上記非導電性粒子の表面に被着されたカーボン粒子と
を備える請求項1または2に記載の磁気記録媒体。
【請求項7】
上記導電性粒子は、金属粒子である請求項1または2に記載の磁気記録媒体。
【請求項8】
磁性層形成面側の表面電気抵抗が、2×105Ω/cm2以下である請求項1または2に記載の磁気記録媒体。
【請求項9】
上記非磁性支持体の表面にAlまたはCuの酸化物を含む薄膜が形成される請求項1または2に記載の磁気記録媒体。
【請求項10】
リニア方式を適用した記録再生システムに用いられる請求項1または2に記載の磁気記録媒体。
【請求項11】
非磁性支持体上に非磁性層形成用塗料を塗布し乾燥させることにより、非磁性層を形成する工程と、
上記非磁性層上に磁性層形成用塗料を塗布し乾燥させることにより、磁性層を形成する工程と
を備え、
上記磁性層の導電性粒子の導電点粒径が、上記磁性層の平均厚さの3倍以上5倍以下の範囲内である磁気記録媒体の製造方法。
【請求項12】
非磁性層形成用塗料、磁性層形成用塗料を非磁性支持体上に順次塗布する工程と、
上記非磁性層上に塗布された非磁性層形成用塗料、磁性層形成用塗料を乾燥し、上記非磁性支持体上に非磁性層、磁性層を形成する工程と
を備え、
上記磁性層の導電性粒子の導電点粒径が、上記磁性層の平均厚さの1.3倍以上3倍以下の範囲内である磁気記録媒体の製造方法。
【請求項13】
両主面を有する非磁性支持体と、
上記非磁性支持体の一主面上に形成された、非磁性粉末、導電性粒子、および結合剤を含有する非磁性層と、
上記非磁性層上に形成された、磁性粉末、導電性粒子、および結合剤を含有する磁性層と
を備え、
上記非磁性層および磁性層は、ウェット・オン・ドライ方式により作製され、
上記磁性層に含まれる導電性粒子の導電点粒径が、上記磁性層の平均厚さの5倍以下であり、
上記磁性層の一主面上に露出する上記導電性粒子が100μm2あたり14個以上である磁気記録媒体。
【請求項14】
両主面を有する非磁性支持体と、
上記非磁性支持体の一主面上に形成された、非磁性粉末、導電性粒子、および結合剤を含有する非磁性層と、
上記非磁性層上に形成された、磁性粉末、導電性粒子、および結合剤を含有する磁性層と
を備え、
上記非磁性層および磁性層は、ウェット・オン・ウェット方式により作製され、
上記磁性層に含まれる導電性粒子の導電点粒径が、上記磁性層の平均厚さの3倍以下であり、
上記磁性層の一主面上に露出する上記導電性粒子が100μm2あたり15個以上である磁気記録媒体。
【請求項15】
非磁性支持体上に非磁性層形成用塗料を塗布し乾燥させることにより、非磁性層を形成する工程と、
上記非磁性層上に磁性層形成用塗料を塗布し乾燥させることにより、磁性層を形成する工程と
を備え、
上記磁性層の導電性粒子の導電点粒径が、上記磁性層の平均厚さの5倍以下であり、
上記磁性層の一主面上に露出する上記導電性粒子が100μm2あたり14個以上である磁気記録媒体の製造方法。
【請求項16】
非磁性層形成用塗料、磁性層形成用塗料を非磁性支持体上に順次塗布する工程と、
上記非磁性層上に塗布された非磁性層形成用塗料、磁性層形成用塗料を乾燥し、上記非磁性支持体上に非磁性層、磁性層を形成する工程と
を備え、
上記磁性層の導電性粒子の導電点粒径が、上記磁性層の平均厚さの3倍以下であり、
上記磁性層の一主面上に露出する上記導電性粒子が100μm2あたり15個以上である磁気記録媒体の製造方法。
【請求項1】
両主面を有する非磁性支持体と、
上記非磁性支持体の一主面上に形成された、非磁性粉末、導電性粒子、および結合剤を含有する非磁性層と、
上記非磁性層上に形成された、磁性粉末、導電性粒子、および結合剤を含有する磁性層と
を備え、
上記非磁性層および磁性層は、ウェット・オン・ドライ方式により作製され、
上記磁性層に含まれる導電性粒子の導電点粒径が、上記磁性層の平均厚さの3倍以上5倍以下の範囲内である磁気記録媒体。
【請求項2】
両主面を有する非磁性支持体と、
上記非磁性支持体の一主面上に形成された、非磁性粉末、導電性粒子、および結合剤を含有する非磁性層と、
上記非磁性層上に形成された、磁性粉末、導電性粒子、および結合剤を含有する磁性層と
を備え、
上記非磁性層および磁性層は、ウェット・オン・ウェット方式により作製され、
上記磁性層に含まれる導電性粒子の導電点粒径が、上記磁性層の平均厚さの1.3倍以上3倍以下の範囲内である磁気記録媒体。
【請求項3】
上記磁性層に含まれる導電性粒子の最小導電点粒径が、上記磁性層の平均厚さの3倍以上5倍以下の範囲である請求項1記載の磁気記録媒体。
【請求項4】
上記磁性層に含まれる導電性粒子の最小導電点粒径が、上記磁性層の平均厚さの1.3倍以上3倍以下の範囲内である請求項2記載の磁気記録媒体。
【請求項5】
導電点に寄与する上記導電性粒子の一部が、上記磁性層の表面、および上記磁性層と上記非磁性層との界面の両方から突出している請求項1または2に記載の磁気記録媒体。
【請求項6】
上記磁性層の導電性粒子は、
非導電性粒子と、
上記非導電性粒子の表面に被着されたカーボン粒子と
を備える請求項1または2に記載の磁気記録媒体。
【請求項7】
上記導電性粒子は、金属粒子である請求項1または2に記載の磁気記録媒体。
【請求項8】
磁性層形成面側の表面電気抵抗が、2×105Ω/cm2以下である請求項1または2に記載の磁気記録媒体。
【請求項9】
上記非磁性支持体の表面にAlまたはCuの酸化物を含む薄膜が形成される請求項1または2に記載の磁気記録媒体。
【請求項10】
リニア方式を適用した記録再生システムに用いられる請求項1または2に記載の磁気記録媒体。
【請求項11】
非磁性支持体上に非磁性層形成用塗料を塗布し乾燥させることにより、非磁性層を形成する工程と、
上記非磁性層上に磁性層形成用塗料を塗布し乾燥させることにより、磁性層を形成する工程と
を備え、
上記磁性層の導電性粒子の導電点粒径が、上記磁性層の平均厚さの3倍以上5倍以下の範囲内である磁気記録媒体の製造方法。
【請求項12】
非磁性層形成用塗料、磁性層形成用塗料を非磁性支持体上に順次塗布する工程と、
上記非磁性層上に塗布された非磁性層形成用塗料、磁性層形成用塗料を乾燥し、上記非磁性支持体上に非磁性層、磁性層を形成する工程と
を備え、
上記磁性層の導電性粒子の導電点粒径が、上記磁性層の平均厚さの1.3倍以上3倍以下の範囲内である磁気記録媒体の製造方法。
【請求項13】
両主面を有する非磁性支持体と、
上記非磁性支持体の一主面上に形成された、非磁性粉末、導電性粒子、および結合剤を含有する非磁性層と、
上記非磁性層上に形成された、磁性粉末、導電性粒子、および結合剤を含有する磁性層と
を備え、
上記非磁性層および磁性層は、ウェット・オン・ドライ方式により作製され、
上記磁性層に含まれる導電性粒子の導電点粒径が、上記磁性層の平均厚さの5倍以下であり、
上記磁性層の一主面上に露出する上記導電性粒子が100μm2あたり14個以上である磁気記録媒体。
【請求項14】
両主面を有する非磁性支持体と、
上記非磁性支持体の一主面上に形成された、非磁性粉末、導電性粒子、および結合剤を含有する非磁性層と、
上記非磁性層上に形成された、磁性粉末、導電性粒子、および結合剤を含有する磁性層と
を備え、
上記非磁性層および磁性層は、ウェット・オン・ウェット方式により作製され、
上記磁性層に含まれる導電性粒子の導電点粒径が、上記磁性層の平均厚さの3倍以下であり、
上記磁性層の一主面上に露出する上記導電性粒子が100μm2あたり15個以上である磁気記録媒体。
【請求項15】
非磁性支持体上に非磁性層形成用塗料を塗布し乾燥させることにより、非磁性層を形成する工程と、
上記非磁性層上に磁性層形成用塗料を塗布し乾燥させることにより、磁性層を形成する工程と
を備え、
上記磁性層の導電性粒子の導電点粒径が、上記磁性層の平均厚さの5倍以下であり、
上記磁性層の一主面上に露出する上記導電性粒子が100μm2あたり14個以上である磁気記録媒体の製造方法。
【請求項16】
非磁性層形成用塗料、磁性層形成用塗料を非磁性支持体上に順次塗布する工程と、
上記非磁性層上に塗布された非磁性層形成用塗料、磁性層形成用塗料を乾燥し、上記非磁性支持体上に非磁性層、磁性層を形成する工程と
を備え、
上記磁性層の導電性粒子の導電点粒径が、上記磁性層の平均厚さの3倍以下であり、
上記磁性層の一主面上に露出する上記導電性粒子が100μm2あたり15個以上である磁気記録媒体の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図9】
【図10】
【図11】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図8】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図9】
【図10】
【図11】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図8】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【公開番号】特開2011−28826(P2011−28826A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−89054(P2010−89054)
【出願日】平成22年4月7日(2010.4.7)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年4月7日(2010.4.7)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】
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