説明

磁気記録媒体および磁気記録媒体の製造方法

【課題】イオン照射によって軟磁性層の磁気特性が損なわれない軟磁性層を備えた磁気記録媒体及びその製造方法を提供する。
【解決手段】磁気記録媒体Aは、基板1と、基板1上に設けられた軟磁性層2と、軟磁性層2上に設けられ、磁性部5aとイオン照射により非磁性化された非磁性部5bとを有した記録層5と、記録層5と軟磁性層2との間には、上記イオン照射に用いられるイオンよりも重い元素を含むイオン制御層4と、が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハードディスク装置等に用いられる磁気記録媒体とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ハードディスクなどの記憶装置を構成するための記録媒体として磁気記録媒体が知られている。コンピュータシステムにおける情報処理量の増大に伴い、磁気記録媒体の高密度化の要求が高まっている。高記録密度化を図るのに好ましい磁気記録媒体としては、たとえばディスクリートトラックメディア(DTM)やビットパターンドメディア(BPM)が知られている。
【0003】
図10には、DTMである従来の磁気記録媒体を断面図で示している。図10に示す磁気記録媒体Xは、基板91と、基板91上に積層された軟磁性層92と、軟磁性層92上に積層された中間層93と、中間層93上に積層された記録層94と、記録層94上に積層された保護層95とを備えている。軟磁性層92は、記録時等に稼働する磁気ヘッド(図示略)からの磁束を再び当該磁気ヘッドに還流させる磁路を磁気記録媒体X内に効率よく形成するための層である。この軟磁性層92は、高透磁率を有して大きな飽和磁化を有するとともに小さな保磁力を有するという磁気特性を備えている。中間層93は、Ruなどからなり、例えば12nmの厚みを有している。記録層94は、CoPtなどからなり、例えば10nmの厚みを有し、複数の磁性部94aと、複数の磁性部94aを互いに離間させる非磁性部94bとによって構成されている。非磁性部94bの形成は、例えば特許文献1に示されているようにイオンを照射することによって行うことができる。複数の磁性部94aは、非磁性部94bによって隔てられているので、高密度記録に適した状態となる。
【0004】
【特許文献1】特開2007−226862号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、磁気記録媒体Xでは、記録層94にイオンを照射する際に、イオンが中間層93を通り抜けて軟磁性層92にまで入り込み、軟磁性層92の磁気特性が損なわれることがあった。
【0006】
本発明は、このような事情のもとで考え出されたものであって、より好ましい磁気特性を有する軟磁性層を備えた磁気記録媒体およびその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の側面により提供される磁気記録媒体は、基板と、上記基板上に設けられた軟磁性層と、上記軟磁性層上に設けられ、磁性部とイオン照射により非磁性化された非磁性部とを有した記録層と、上記記録層と上記軟磁性層との間には、上記イオン照射に用いられるイオンよりも重い元素を含むイオン制御層と、が設けられていることを要件としている。
【0008】
好ましくは、上記記録層と上記イオン制御層との間あるいは上記軟磁性層と上記イオン制御層との間に中間層が設けられており、上記中間層の主成分となる元素は、上記イオン制御層の主成分となる元素よりも軽くなっている。
【0009】
好ましくは、上記イオン制御層は、第6周期の元素を主成分とする。
【0010】
本発明の第2の側面により提供される磁気記録媒体の製造方法は、基板上に軟磁性層を形成する工程と、上記軟磁性層上に所定の元素を主成分とするイオン制御層を形成する工程と、上記イオン制御層上に、磁性材料からなる磁性膜を形成する工程と、上記磁性膜の適所に、上記所定の元素よりも軽いイオンを用いてイオン照射を行って非磁性部を形成する工程と、を有することを要件としている。
【0011】
このような磁気記録媒体においては、イオン照射を行った際に、イオンが上記イオン制御層によって制止されるため、上記軟磁性層にイオンが入り込みにくくなっている。このため、上記軟磁性層は、その磁気特性が上記イオンによって変化せずに好ましい状態となる。
【0012】
本発明のその他の利点および特徴については、以下に行う発明の実施形態の説明から、より明らかとなるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の好ましい実施形態について、図面を参照しつつ具体的に説明する。
【0014】
図1および図2には、本発明に係る磁気記録媒体の一実施形態を示している。図1は、ディスク状の磁気記録媒体Aの平面図であり、図2は、図1のII-II線に沿う断面図である。
【0015】
磁気記録媒体Aは、基板1、軟磁性層2、中間層3、イオン制御層4、記録層5、および、保護層6を含む積層構造を有し、ビットパターンドメディア(BPM)として構成されたものである。
【0016】
基板1は、主に、磁気記録媒体Aの剛性を確保するための部位であり、例えば、アルミニウム合金、ガラス、または樹脂よりなる。
【0017】
軟磁性層2は、記録時等に稼働する磁気ヘッド(図示略)からの磁束を再び当該磁気ヘッドに還流させる磁路を磁気記録媒体A内に効率よく形成するための層である。この軟磁性層2は、高透磁率を有して大きな飽和磁化を有するとともに小さな保磁力を有するという磁気特性を備えている。このような磁気特性を備えた軟磁性層2を構成するための軟磁性材料としては、例えば、FeC、FeNi、FeCoB、FeCoSiC、およびFeCo−AlOなどのFeを主成分とした材料や、CoZrNb、CoZrTaなどのCoを主成分とした材料が挙げられる。この軟磁性層2の厚さは例えば20〜200nmである。
【0018】
中間層3は、所定の非磁性材料を主成分とし、軟磁性層2上に積層されている。上記非磁性材料としては、例えばRuが用いられる。この中間層3の厚さは、例えば8nmとされる。
【0019】
イオン制御層4は、比較的重い元素からなる非磁性材料を主成分とし、中間層3上に積層されている。上記のように比較的重く、かつ非磁性である元素としては、Ta,W,Re,Os,Ir,Pt,Auなどの第6周期元素が挙げられる。また、このイオン制御層4の厚さは、例えば4nmとされる。
【0020】
記録層5は、例えば、所定の磁性材料を主成分とし、イオン制御層4上に5〜35nmの厚みで積層されており、複数の磁性部5aおよび非磁性部5bを有する。上記所定の磁性材料としては、例えば、CoCrPt−SiO2、FePt、CoPd、SmCo、TbFeCoなどの垂直磁気異方性を有する材料を用いることができる。磁性部5aは、図1に示すように、互いに離間するように形成されている。非磁性部5bは、例えばArイオン照射によって非磁性化された部位であり、複数の磁性部5a同士の間に形成されている。
【0021】
保護層6は、例えばダイヤモンドライクカーボンを主成分とし、記録層5上に厚さ1〜5nmに積層されている。この保護層6によって、記録層5の磨耗や腐食が防止されている。
【0022】
このような磁気記録媒体Aの情報記録時には、保護層6に対して記録用の磁気ヘッド(図示略)が浮上配置され、当該磁気ヘッドによる記録磁界の印加によって、磁性部5aの磁化方向を適宜反転させ、一の磁性部5aに1ビットの記録を行う。このとき、情報記録進行中であって磁界が印加される磁性部5aと、これの隣りの磁性部5aとが、非磁性部5bにより分断されているため、当該隣りの磁性部5aの記録が消失ないし劣化するというクロスライト現象が抑制される。クロスライト現象が抑制される磁気記録媒体は、トラックの狭ピッチ化ないし高記録密度化を図るうえで好ましい。
【0023】
さらに、磁気記録媒体Aでは、非磁性部5bに照射されるArイオンは、イオン制御層4の主成分となる元素よりも軽いため、イオン制御層4を通り抜けにくくなっている。このため、磁気記録媒体Aでは、軟磁性層2にArイオンが入り込みにくくなっており、軟磁性層2の磁化特性を好ましい状態とすることができる。
【0024】
図3〜図7は磁気記録媒体Aの製造方法を表している。
【0025】
本方法においては、まず、図3に示すように、基板1上に、軟磁性層2、中間層3、イオン制御層4、および、磁性膜15を順次積層する。軟磁性層2の形成は、例えばスパッタリング法により、基板1上に上述の軟磁性材料を成膜することによって行うことができる。中間層3の形成は、例えばスパッタリング法により、軟磁性層2上に上述の非磁性材料を成膜することによって行うことができる。イオン制御層4の形成は、例えばスパッタリング法により、中間層3上に上述の比較的重い元素を成膜することによって行うことができる。磁性膜15は、例えば、全体にわたって垂直磁気異方性を有する垂直磁化膜である。磁性膜15の形成においては、例えばスパッタリング法により、記録層5に関して上述した磁性材料をイオン制御層4上に成膜する。なお、本製造工程において、基板1およびその上に積層された層構造からなる磁気記録媒体Aの素体を被加工体10と呼ぶ。
【0026】
本方法においては、次に、図4に示すように、磁性膜15上にレジスト層7を形成する。レジスト層7の形成は、例えばスピンコート法によって行うことができる。このレジスト層7は、厚さが30〜300nmである。
【0027】
本方法においては、次に、図5に示すように、レジスト層7を加工する。レジスト層7の加工は、例えば予め用意しておいたスタンパ8を用いたナノインプリントによって行われる。この加工によって、レジスト層7には磁性膜15を露出させる貫通部7aが形成される。
【0028】
本方法においては、次に、図6に示すように、レジスト層7の貫通部7aから露出する磁性膜15にイオン照射を行う。この際、市販のイオン注入器を用い、Arイオンを照射する。この工程において、イオンが照射された部分が、磁気記録媒体Aにおける非磁性部5bとなり、レジスト層7に覆われてイオンが照射されない部分は磁性部5aとなる。また、本工程において、磁性膜15は記録層5となる。
【0029】
本方法においては、次に、図7に示すように、レジスト層7を除去する。さらに、記録層5の上に保護層6を形成することにより、被加工体10は、図2に示す磁気記録媒体Aとなる。保護層6の形成は、CVD法を用いてダイヤモンドライクカーボンの薄膜を形成することによって行われる。あるいは、スパッタ法なども用いられる。
【0030】
上記の製造方法によると、イオン照射を行う際に、Arイオンが比較的重い元素からなるイオン制御層4によって遮断され、軟磁性層2に入り込みにくくなる。このため、軟磁性層2の磁気特性がイオンによって変化せず、好ましい磁気特性を有する軟磁性層2を得ることができる。
【0031】
図8および図9には、磁性膜にイオン照射を行った際の磁性膜の表面からの深さに沿うイオンの分布をシミュレーションした結果を示している。図8では、磁性膜15の表面からの深さが0〜20nmの領域におけるイオンの分布を示している。図9では、磁性膜15の表面からの深さが20〜40nmの領域におけるイオンの分布を示している。このシミュレーションでは、基板1上に厚さ20nmの軟磁性層2、厚さ8nmの中間層3、厚さ4nmのイオン制御層4、および、厚さ10nmの磁性膜15が積層された被加工体10に13KeVのArイオンを照射した場合を想定している。この被加工体10の中間層3には、Ruが用いられている。図8および図9では、イオン制御層4に、Ta,Os,Pt,Auを用いた場合をそれぞれ示している。さらに、図8および図9では、比較のためにイオン制御層4を設ける代わりに、12nmのRuからなる中間層93を備えた従来の場合についても示している。
【0032】
このシミュレーションは、イオン注入ソルバを用いている。具体的には、フリーソフトウエアであるSRIM/TRIM( HYPERLINK "http://www.srim.org/")を用いた。
【0033】
さらに、上記のシミュレーションの結果を元に、軟磁性層2に入り込むイオンの数を算出した。軟磁性層2は、図9において深さが22nmより深い領域に相当する。以下に示すイオン数は、従来の場合に軟磁性層92に入り込むイオン数を1とした場合の数値である。なお、Ruの比重は12.3であり、Arの比重は1.38である。
【0034】
イオン制御層4としてTaを用いた場合では、軟磁性層2中に入り込むArイオンの数は0.59となった。なお、Taの比重は16.6である。
【0035】
イオン制御層4としてOsを用いた場合では、軟磁性層2中に入り込むArイオンの数は0.48となった。なお、Osの比重は22.6である。
【0036】
イオン制御層4としてPtを用いた場合では、軟磁性層2中に入り込むArイオンの数は0.52となった。なお、Ptの比重は21.5である。
【0037】
イオン制御層4としてAuを用いた場合では、軟磁性層2中に入り込むArイオンの数は0.60となった。なお、Auの比重は19.3である。
【0038】
以上の結果から、より重い元素からなるイオン制御層4を設けることにより、軟磁性層2に入り込むイオンの数を減らすことが可能であることが一層明確となった。さらに、図9に示すように、従来の場合に比べてイオン制御層4を設けた場合は、Arイオンが軟磁性層2の深くにまで入り込みにくくなっている。
【0039】
イオン制御層4に用いる元素は、少なくともイオン照射に用いられるイオンよりも重い元素であれば、イオンの進行を妨げる効果があるが、上記のようにより重い元素を用いることでより大きな効果を得ることができる。上記の実施形態のように少なくとも従来の中間層よりも重い元素を用いることが好ましい。また、より重い元素を用いれば用いるほど、イオン制御層4の厚みを抑えることが可能となる。
【0040】
さらに、図8に示すように、イオン制御層4を設けている場合は、従来の場合に比べて磁性膜15表面からの深さが10nm以内(磁性膜15内)にイオンが残り易くなっている。このようにイオン制御層4を設けることによって、照射されるArイオンのうち磁性膜15内に残るArイオンの数を増加させることができるため、従来よりもイオン照射量を減らしてコストを削減することが可能となる。
【0041】
本発明の範囲は上記した実施形態に限定されるものではなく、各請求項に記載した事項の範囲内でのあらゆる変更は本発明の範囲に含まれる。たとえば、上記実施形態においては、イオン制御層が記録層と中間層との間にあるが、イオン制御層が中間層と軟磁性層との間にあっても構わない。
【0042】
なお、上記の実施形態ではイオン照射にArを用いているが、Ar以外にも例えばNeなどの比較的に軽い元素のイオンを用いることができる。また、比較的重いKrなどを用いた場合でも、第6周期の元素を主成分とするイオン制御層を用いることで本発明の効果を発揮できる。
【0043】
また、軟磁性層、中間層、イオン制御層、記録層、および、保護層の厚さは、磁気記録媒体Aのサイズに応じて適宜設定可能である。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明に係る磁気記録媒体の一例を示す平面図である。
【図2】図1のII-II線に沿う断面図である。
【図3】基板上に積層構造を設ける工程を示す断面図である。
【図4】レジスト層を設ける工程を示す断面図である。
【図5】レジスト層を加工する工程を示す断面図である。
【図6】イオン照射を行う工程を示す断面図である。
【図7】レジスト層を除去する工程を示す断面図である。
【図8】磁性膜にイオン照射を行った際のイオンの分布図である。
【図9】磁性膜にイオン照射を行った際のイオンの分布図である。
【図10】従来の磁気記録媒体の部分拡大断面図である。
【符号の説明】
【0045】
A 磁気記録媒体
1 基板
2 軟磁性層
3 中間層
4 イオン制御層
5 記録層
5a 磁性部
5b 非磁性部
6 保護層
7 レジスト層
8 スタンパ
10 被加工体
15 磁性膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
上記基板上に設けられた軟磁性層と、
上記軟磁性層上に設けられ、磁性部とイオン照射により非磁性化された非磁性部とを有した記録層と、
上記記録層と上記軟磁性層との間には、上記イオン照射に用いられるイオンよりも重い元素を含むイオン制御層と、
が設けられていることを特徴とする、磁気記録媒体。
【請求項2】
上記記録層と上記イオン制御層との間あるいは上記軟磁性層と上記イオン制御層との間に中間層が設けられており、上記中間層の主成分となる元素は、上記イオン制御層の主成分となる元素よりも軽い、請求項1に記載の磁気記録媒体。
【請求項3】
上記イオン制御層は、第6周期の元素を主成分とする、請求項1または2に記載の磁気記録媒体。
【請求項4】
基板上に軟磁性層を形成する工程と、
上記軟磁性層上に所定の元素を主成分とするイオン制御層を形成する工程と、
上記イオン制御層上に、磁性材料からなる磁性膜を形成する工程と、
上記磁性膜の適所に、上記所定の元素よりも軽いイオンを用いてイオン照射を行って非磁性部を形成する工程と、を有することを特徴とする、磁気記録媒体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−199674(P2009−199674A)
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−41141(P2008−41141)
【出願日】平成20年2月22日(2008.2.22)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】